説明

ビソプロロール経皮投与デバイス

【課題】貼付時、特に貼り換え時の皮膚刺激が低減され、治療又は予防に有効な量のビソプロロールを生体内へ持続的に投与可能な経皮投与デバイスを提供すること。
【解決手段】本発明のビソプロロール経皮投与デバイス10は、支持体1と、該支持体1の片面に積層された粘着剤層2とを備え、粘着剤層2にはビソプロロールを含み、皮膚貼付直後から24時間経過までにおける、ビソプロロール放出速度の最大値が30μg/cm/時間以下であり、かつ皮膚貼付直後から24時間経過までにおける、ビソプロロール放出速度が10μg/cm/時間以下であることを特徴とする。これにより、ビソプロロールによる皮膚刺激が抑制されるだけでなく、過度の降圧による徐脈、めまい等の副作用の可能性も排除され、十分な安全性が確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビソプロロールを皮膚面から体内に投与することのできるビソプロロール経皮投与デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
交感神経のβ受容体の高選択性拮抗薬(βブロッカー)であるビソプロロールは、本態性高血圧、狭心症、不整脈の改善に使用されており、そのフマル酸塩が錠剤として経口的に投与されている。一方、経口投与の場合、効果の持続性に欠けることや、投与後一時的に必要以上の血中濃度が認められ、副作用が起こりやすい等の欠点があり、これを改善するために経皮投与デバイスが望まれている。
【0003】
これまで、βブロッカーは経口剤が種々開発されてきているが、経口投与では胃腸粘膜を刺激するなどという副作用報告は見られなかった。しかし、皮膚を通した薬物投与経路では薬物特有の皮膚刺激が発生するという点で経皮吸収製剤用の薬物として選択することは実用上、非常に難しいものであった。βブロッカーであるビソプロロールも同様に経皮吸収製剤化により、薬物による皮膚刺激が発現する虞があった。
【0004】
ビソプロロール含有貼付剤は、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載されているが、血中濃度を安定的に保持することを主眼に検討されており、皮膚刺激について十分な検討が行なわれているとは言い難い。
また、このようなビソプロロール含有貼付剤は、十分な治療又は予防効果を得るために繰り返し貼付が望まれており、これらの文献では、24時間毎に剥離、貼付する繰り返し投与が想定されている。しかし、これらの貼付剤は、ヒト皮膚透過速度の最大値が30μg/cm/時間を超えるので、患者によってはビソプロロールによる強い皮膚刺激が発生する可能性が高い。このように、貼付時、特に剥離時の皮膚刺激が十分に低減され、治療又は予防有効量のビソプロロールを生体内へ持続的に投与可能な経皮投与デバイスは未だ知られていない。
【特許文献1】国際公開2005/011662号パンフレット
【特許文献2】国際公開2006/080199号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、貼付時、特に剥離時の皮膚刺激が低減され、治療又は予防に有効な量のビソプロロールを生体内へ持続的に投与可能な経皮投与デバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、ビソプロロールの皮膚刺激を抑制するための手段としてビソプロロールの皮膚透過速度の絶対量を制御することが有効であるとの知見を得た。そして、本発明者らは更に詳細に検討を行なったところ、皮膚貼付直後から24時間経過までのビソプロロール放出速度の最大値と、皮膚貼付後24時間経過時におけるビソプロロール放出速度とを特定範囲にすることで皮膚刺激を低減できるだけでなく、治療又は予防に有効な新たな効果が奏されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の特徴を有する。
(1)支持体の片面にビソプロロールを含有する粘着剤層を備えるビソプロロール経皮投与デバイスであって、皮膚貼付直後から24時間経過までの、ビソプロロール放出速度の最大値が30μg/cm/時間以下であり、かつ皮膚貼付後24時間経過時における、ビソプロロール放出速度が10μg/cm/時間以下である、ビソプロロール経皮投与デバイス。
(2)ビソプロロール放出速度の減少傾きの絶対値が1.25以下である、上記(1)記載のビソプロロール経皮投与デバイス。
(3)ビソプロロール放出速度の最大値が皮膚貼付直後から6時間経過までに得られる、上記(1)又は(2)記載のビソプロロール経皮投与デバイス。
(4)皮膚貼付直後から24時間経過までのビソプロロールの利用率が65重量%以上である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のビソプロロール経皮投与デバイス。
(5)皮膚貼付直後から12時間経過までのビソプロロール累積放出量が貼付後12時間から24時間経過までのビソプロロール累積放出量よりも多い、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のビソプロロール経皮投与デバイス。
【発明の効果】
【0008】
本発明のビソプロロール経皮投与デバイスは、皮膚貼付直後から24時間経過までの、ビソプロロール放出速度の最大値が30μg/cm/時間以下であるように作動するため、ビソプロロールによる皮膚刺激が抑制されるだけでなく、過度の降圧による徐脈、めまい等の副作用の可能性も排除され、十分な安全性が確保されている。
また、ビソプロロール経皮投与デバイスの剥離時、例えば、貼り換え時には、剥離に伴う物理的刺激と、薬物、すなわちビソプロロール自体の皮膚刺激とが組み合わさって強い皮膚刺激が発生する傾向にある。これは、ビソプロロール経皮投与デバイスの剥離時には、粘着剤層の接着力による物理的刺激と、ビソプロロール自体による化学的刺激との両者により皮膚刺激が発生するためと推測される。
これに対し、本発明の経皮投与デバイスでは、皮膚貼付後24時間経過時における、ビソプロロール放出速度が10μg/cm/時間以下であるように作動するため、剥離時のビソプロロール自体による皮膚刺激が生じ難い。また、粘着剤層中のビソプロロールが剥離時にはすでに十分放出され、粘着剤層中にビソプロロールはさほど残存していないため、粘着剤層の凝集性が改善され、剥離時における物理的皮膚刺激が小さい。
さらに、本発明のビソプロロール経皮投与デバイスでは、特に、該ビソプロロール放出速度の最大値を皮膚貼付直後から6時間経過するまでに得られるように作動させることが可能であり、その場合、剥離時にはビソプロロール放出速度が十分低下しているので、ビソプロロール自体の皮膚刺激が生じ難くなる。かくして、本発明の経皮投与デバイスによれば皮膚刺激が十分低減される。加えて、本発明の経皮投与デバイスは、即効性ある治療が可能になるばかりか、ビソプロロール血中濃度のピークがビソプロロール放出速度のピークよりも時間的に若干遅れることから、就寝前に貼付することで降圧効果が最も期待される起床時に降圧効果が最大限に発揮される。
また更に、本発明のビソプロロール経皮投与デバイスでは、ビソプロロール放出速度の減少傾きの絶対値を1.25以下にすることでビソプロロール放出速度の減少が緩やかになり、ビソプロロール放出速度の大きな変動が抑制されるので、治療又は予防のための有効量を安定的に放出させることが可能になる。その結果、ビソプロロールの血中濃度を略一定に長時間にわたって持続させることができ、しかも変動に伴う皮膚刺激が軽減されるため、貼付時における皮膚刺激がより一層低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図示の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
【0010】
図1は、本発明のビソプロロール経皮投与デバイス(以下、単に「経皮投与デバイス」ともいう)の一実施形態を示す断面図である。本実施形態における経皮投与デバイス10は、支持体1と、該支持体1の片面に積層された粘着剤層2と、その表面に積層された剥離ライナー3とを備えるものである。
粘着剤層2にはビソプロロールが含有されており、皮膚貼付直後から24時間経過までの、ビソプロロール放出速度の最大値が30μg/cm/時間以下であり、かつ皮膚貼付後24時間経過時における、ビソプロロール放出速度が10μg/cm/時間以下であるよう作動するものである。
なお、ビソプロロール放出速度(μg/cm/時間)とは、粘着剤層の皮膚貼付面の単位面積当たりのビソプロロールの放出量を単位時間当たりに換算したものであって、ビソプロロール皮膚透過速度をマウス皮膚にてインビトロ系で測定し、皮膚透過速度計算ソフトでシミュレーションしたヒト皮膚透過速度を意味し、具体的には、本明細書の実施例の<試験方法>に記載される方法にて測定されるものをいう。
【0011】
ビソプロロールはすでに経口剤として市販されており、錠剤の場合、フマル酸ビソプロロールといった酸塩の形態で含有されている。本発明において、ビソプロロールとは、フリー体(遊離塩基)のビソプロロールだけでなく、薬学的に許容される塩も含むものである。よって、本発明においては、塩の形態でビソプロロールを粘着剤層に含有することができるが、塩形態のビソプロロールはフリー体よりも皮膚透過性が低いため、より一層皮膚透過性の高いフリー体のビソプロロールを粘着剤層に含有することが望ましい。
【0012】
本発明の経皮投与デバイスは、皮膚貼付直後から24時間経過までのビソプロロール放出速度の最大値が30μg/cm/時間以下であることを特徴とするが、30μg/cm/時間を超える場合、ビソプロロールによる皮膚刺激が発生する。かかる観点から、ビソプロロール放出速度の最大値は、好ましくは27.5μg/cm/時間以下、より好ましくは25μg/cm/時間以下、更に好ましくは22.5μg/cm/時間以下、最も好ましくは20μg/cm/時間以下とすることが望ましい。本発明では、皮膚貼付直後から24時間経過までのビソプロロール放出速度の最大値は小さければ小さいほど皮膚刺激低減効果が達成される。しかし、このような最大値があまりに小さいと、治療又は予防に有効な投与量を確保するために経皮投与デバイスの面積を極めて大きくする必要があるので、その結果、貼付時の患者のストレスが大きくなる可能性があり、また取り扱い性などの実用性が低下する虞がある。かかる観点から、ビソプロロール放出速度の最大値の下限は、好ましくは5μg/cm/時間、より好ましくは7.5μg/cm/時間とすることが可能である。
【0013】
ビソプロロール放出速度の最大値を、30μg/cm/時間以下とするための方法は特に限定されないが、例えば次のようにして達成される。粘着剤層にビソプロロールを、粘着剤層の全重量に基づいて、例えば0.5〜5重量%、好ましくは0.5〜4重量%、より好ましくは0.5〜3重量%含有させる。0.5重量%に満たないと、ビソプロロール放出速度の最大値が5μg/cm/時間を下回る虞がある。一方、5重量%を超えると、ビソプロロール放出速度の最大値が30μg/cm/時間を超える虞がある。
このように、薬物の、粘着剤層の全重量に対する割合を上記範囲内とすることで、所望の皮膚貼付直後から24時間経過までのビソプロロール放出速度の最大値が効率的に得られる。
【0014】
また、本発明の経皮投与デバイスは、皮膚貼付後24時間経過時における、ビソプロロール放出速度が10μg/cm/時間以下であるが、10μg/cm/時間を超える場合、剥離時におけるビソプロロールの皮膚刺激が残存する。かかる観点から、かかるビソプロロール放出速度の上限は、好ましくは8μg/cm/時間、より好ましくは6μg/cm/時間とすることが望ましい。本発明では、皮膚貼付後24時間経過時における、ビソプロロール放出速度は小さければ小さいほど、剥離時における皮膚刺激低減効果が達成される。しかし、このような放出速度があまりに小さいと、治療又は予防に有効な投与量を確保するために経皮投与デバイスの面積を極めて大きくする必要があるので、その結果、貼付時の患者のストレスが大きくなる可能性があり、また取り扱い性などの実用性が低下する虞がある。かかる観点から、かかるビソプロロールの放出速度の下限は、0μg/cm/時間であってもよいが、好ましくは1μg/cm/時間、より好ましくは2μg/cm/時間とすることが可能である。
【0015】
皮膚貼付後24時間経過時における、ビソプロロール放出速度を10μg/cm/時間以下とするための方法は特に限定されないが、例えば次のようにして達成される。粘着剤層にビソプロロールを、例えば0.1〜0.7mg/cm、好ましくは0.1〜0.6mg/cm、より好ましくは0.1〜0.5mg/cm含有させる。0.1mg/cmに満たない場合、粘着剤層のビソプロロールが24時間を待たずに皮膚へ移行してしまい、持続的な薬効を発現することが困難となる虞があり、0.7mg/cmを超える場合、皮膚貼付後24時間経過時における、ビソプロロール放出速度が10μg/cm/時間を越える虞がある。
このように、粘着剤層に含まれるビソプロロールの単位面積当たりの含有量を所定範囲内とすることで、効率的に、皮膚貼付後24時間経過時における、ビソプロロール放出速度を上記範囲内とすることが可能である。
【0016】
さらに、本発明の経皮投与デバイスは、ビソプロロール放出速度の減少傾きの絶対値が好ましくは1.25以下であるが、ビソプロロール放出速度の変動抑制の観点から、かかる減少傾きの絶対値を、より好ましくは1.1以下、より一層好ましくは1.0以下、更に好ましくは0.8以下、最も好ましくは0.7以下とすることが望ましい。かかる減少傾きの絶対値が1.25を超えると、治療又は予防のための有効量を安定的に放出させ難くなる傾向にあり、血中濃度の変動に伴う降圧による徐脈、めまい等の副作用の発現や、皮膚刺激が生じやすくなる。なお、かかる減少傾きの絶対値の下限は、治療又は予防に有効な量のビソプロロールを生体内へ持続的に投与する観点から、小さいほど好ましく、0が好ましい。もっとも、皮膚貼付後から24時間経過時における、ビソプロロール放出速度を10μg/cm/時間以下とする観点からは、かかる下限は好ましくは0.1、より好ましくは0.2、更に好ましくは0.3である。
本発明において、ビソプロロール放出速度の減少傾きとは、ビソプロロール放出速度が最大値に達した後、24時間経過時までの当該速度の経時変化の度合いを示し、下式(1)により求められる値を意味する。
【0017】
ビソプロロールの放出速度の減少傾き(μg/cm・h)=(y−y)/(x−x) …(1)
:皮膚貼付後から24時間経過までにビソプロロール放出速度が最大値となる時間(h)
:24(h)
:皮膚貼付後から24時間経過までのビソプロロール放出速度の最大値(μg/cm/時間)
:皮膚貼付後24時間経過時における、ビソプロロール放出速度(μg/cm/時間)
【0018】
ビソプロロール放出速度の減少傾きを1.25以下とするための方法は特に限定されないが、例えば、ビソプロロールの、粘着剤層の全重量に対する割合を上記範囲内とし、かつ粘着剤層に含まれるビソプロロールの単位面積当たりの含有量を上記範囲内とする方法が挙げられる。このように、粘着剤層に含まれるビソプロロールの割合と、単位面積当たりの含有量とを所定範囲内とすることで、ビソプロロール放出速度の大きな変動が抑制され、その結果治療又は予防に有効な量のビソプロロールを生体内へ持続的に投与することができ、また貼付時における皮膚刺激がより一層低減される。
【0019】
粘着剤層を形成すべき粘着剤としては特に限定されず、例えば、アクリル系重合体からなるアクリル系粘着剤;スチレン−ジエン−スチレンブロック共重合体(例えばスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体など)、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ブチルゴム、ポリブタジエン等のゴム系粘着剤;シリコーンゴム、ジメチルシロキサンベース、ジフェニルシロキサンベース等のシリコーン系粘着剤;ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル系粘着剤;酢酸ビニル−エチレン共重合体等のビニルエステル系粘着剤;ジメチルテレフタレート、ジメチルイソフタレート、ジメチルフタレート等のカルボン酸成分と、エチレングリコール等の多価アルコール成分とからなるポリエステル系粘着剤等が挙げられる。皮膚接着性の観点から、疎水性粘着剤が好ましく、非含水系の粘着剤層が好ましい。
【0020】
透湿性や薬物溶解性の観点からはアクリル系粘着剤が好ましい。アクリル系粘着剤は、十分な皮膚接着性を粘着剤層に付与するために、粘着剤層の全重量に対して、好ましくは30〜75重量%、より好ましくは35〜70重量%、さらに好ましくは40〜65重量%含有させる。
アクリル系粘着剤としては、(メタ)アクリル酸C2〜18アルキルエステルを第1の単量体として含む重合体を主成分とするアクリル酸エステル系粘着剤が挙げられる。当該アクリル系重合体としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの単独重合体、或いはこれらの共重合体が挙げられる。ここで、(メタ)アクリル酸アルキルエステルにおけるアルキルとしては、C4〜12の直鎖又は分岐鎖状のアルキルが好ましく、このような(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸ブチルエステル、(メタ)アクリル酸t−ブチルエステル、(メタ)アクリル酸ペンチルエステル、(メタ)アクリル酸ヘキシルエステル、(メタ)アクリル酸ヘプチルエステル、(メタ)アクリル酸オクチルエステル、(メタ)アクリル酸イソオクチルエステル、(メタ)アクリル酸ノニルエステル、(メタ)アクリル酸イソノニルエステル、(メタ)アクリル酸デシルエステル、(メタ)アクリル酸ウンデシルエステル、(メタ)アクリル酸ドデシルエステル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルエステル等が挙げられる。
当該(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上の割合で重合される。
【0021】
また、アクリル系粘着剤は、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な第2の単量体を含有してもよく、このような単量体としては、架橋剤を用いる際の架橋点となりうる官能基を有する単量体が挙げられる。具体的には、カルボキシル基もスルホニル基も有しない単量体、例えばヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル)、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジアクリレート等;カルボキシル基を有する単量体、例えば(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸等が挙げられる。これらの第2の単量体は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
さらに、所望により、第2の単量体以外に第3の単量体を含有させてもよい。これらは、粘着剤層の凝集力調整やビソプロロールの溶解性や放出性の調整のために用いることができる。第3の単量体としては、例えば、酢酸ビニルやプロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等のビニルアミド類;(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有単量体;(メタ)アクリル酸メトキシエチルエステル(例えば、2−メトキシエチルアクリレート)、(メタ)アクリル酸エトキシエチルエステル等のアルコキシル基含有単量体;スチレン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ビニルモルホリン等のビニル系単量体;アクリルアマイド(例えば、メチロールアクリルアマイド)、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアマイド;メトキシノナエチレングリコールアクリレート;アクリロイルモルフォリン;フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの第3の単量体は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
このようなアクリル系粘着剤のうち、容易に皮膚接着力を調整できる観点から、例えば、第1の単量体(とりわけ2−エチルヘキシルアクリレート)と、第2の単量体(とりわけアクリル酸)と、第3の単量体(とりわけN−ビニル−2−ピロリドン)とを、40〜99.9:0.1〜10:0〜30程度の重量比で配合して共重合したものが好ましい。
【0022】
また、本発明の経皮投与デバイスは、ビソプロロール放出速度の最大値が皮膚貼付直後から好ましくは6時間経過までに、より好ましくは5時間経過までに、さらに好ましくは4時間経過までに得られる。このための手段は特に限定されないが、粘着剤として、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能であり、且つカルボキシル基及びスルホニル基のいずれも含有しない単量体を前述の第2の単量体として含むアクリル系粘着剤、又はゴム系粘着剤を採用することが挙げられる。これらの粘着剤によりこのような放出プロファイルが得られるメカニズムは明らかではないが、これらの粘着剤とビソプロロールとの相互作用によるものと本発明者は推測している。かかるアクリル系粘着剤において、かかる共重合性単量体は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
そのようなカルボキシル基及びスルホニル基のいずれも含有しない第2の単量体としては、具体的には、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等)、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジアクリレートなどが挙げられる。このようなアクリル系粘着剤のうち、容易に皮膚接着力を調整できる観点から、例えば、第1の単量体(とりわけ2−エチルヘキシルアクリレート)と、第2の単量体(とりわけ2−メトキシエチルアクリレート)と、第3の単量体(とりわけ2−ヒドロキシエチルメタクリレート)とを、40〜90:0〜50:1〜20の重量比で配合して共重合させた粘着剤が好ましい。
所望により、これらのアクリル系粘着剤に、紫外線照射や電子線照射などの放射線照射による物理的架橋、三官能性イソシアネートなどのイソシアネート系化合物や有機過酸化物、有機金属塩、金属アルコラート、金属キレート化合物、多官能性化合物(多官能性外部架橋剤やジアクリレートやジメタクリレートなどの多官能性内部架橋用モノマー)などの各種架橋剤を用いた化学的架橋処理を施してもよい。
【0024】
ゴム系粘着剤は、ゴム系粘着剤を含む粘着剤層からの薬物放出性が特に高く、薬物放出の制御が容易で、また残存モノマーの可能性がなく薬物の安定性が高い点で有利である。ゴム系粘着剤の含有量は、粘着剤層の全重量に対して、好ましくは15〜60重量%、より好ましくは15〜55重量%である。
ゴム系粘着剤としては特に限定されないが、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ブチルゴム、及びスチレン−ジエン−スチレン共重合体から選ばれる少なくとも1種を主成分とするゴム系粘着剤が挙げられる。中でも、薬物安定性が高く、必要な接着力及び凝集力が両立できる観点から、ポリイソブチレンが好適に使用されるが、その場合、ポリイソブチレンを1種単独で含有してもよく、また分子量の異なる2種以上のポリイソブチレンを含有してもよい。
1種単独でポリイソブチレンを含有する場合、ポリイソブチレンの含有量は、粘着剤層の全重量に対して、好ましくは15〜60重量%、より好ましくは15〜55重量%である。ポリイソブチレンの含有量が15重量%未満であると、粘着剤層に必要な内部凝集力を付与し難くなる虞があり、他方、60重量%を超えると、粘着剤層の皮膚接着性やタックが低下する虞がある。
また、1種単独でポリイソブチレンを含有する場合、ポリイソブチレンの分子量は特に限定されないが、粘度平均分子量が好ましくは40,000〜5,500,000、より好ましくは45,000〜5,000,000である。粘度平均分子量が40,000未満であると、粘着剤層に必要な内部凝集力を付与し難くなる虞があり、他方、5,500,000を超えると、粘着剤層の皮膚接着性やタックが低下する虞がある。
【0025】
粘着剤層の適度な凝集力と、適度な柔軟性及び皮膚接着性とを容易に両立するためには、分子量の異なる2種以上のポリイソブチレンを含有することが好ましい。本明細書において「分子量の異なる2種以上のポリイソブチレン」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される分子量分布のピークを、2つ以上の独立した領域に有するポリイソブチレンをいう。なお、各ポリイソブチレンの分子量分布のピークは概して1つである。よって、「分子量が異なる2種以上のポリイソブチレン」には、例えば、粘度平均分子量が異なる2種以上のポリイソブチレンが含有されている。ポリイソブチレンとしては、例えば、第1のポリイソブチレンと、第1のポリイソブチレンよりも相対的に分子量の低い第2のポリイソブチレンとから構成されることが好ましい。第1のポリイソブチレンは粘着剤層に適度な凝集力を付与し、また第2のポリイソブチレンは粘着剤層に適度な柔軟性及び皮膚接着性を付与することができる。
【0026】
第1のポリイソブチレンと第2のポリイソブチレンとの分子量は特に限定されるものではないが、良好な接着性やビソプロロールの充分な放出性を得るためには、第1のポリイソブチレンの粘度平均分子量が好ましくは1,800,000〜5,500,000、より好ましくは2,000,000〜5,000,000であり、かつ第2のポリイソブチレンの粘度平均分子量が好ましくは40,000〜85,000、より好ましくは45,000〜65,000である。第1のポリイソブチレンの粘度平均分子量が1,800,000未満であると、粘着剤層に必要な内部凝集力を付与し難くなる虞があり、他方、5,500,000を超えると、粘着剤層の皮膚接着性やタックが低下する虞がある。また、第2のポリイソブチレンの粘度平均分子量が40,000未満であると、粘着剤層にベトツキ感が発現し、また皮膚面を汚染する虞があり、他方、85,000を超えると粘着剤層の皮膚接着性やタックが低下する虞がある。なお、第1及び第2のポリイソブチレンは、それぞれの分子量分布の範囲内で2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
なお、本明細書において、粘度平均分子量とは、シュタウディンガーインデックス(J)を20℃にてウベローデ粘度計のキャピラリーのフロータイムからSuhulz-Blaschke式により算出し、このJ値を用いて下式(2)により求められる値をいう。
【0028】
=ηSP/c(1+0.31ηSP)(cm/g) (Suhulz-Blaschke式) …(2)
ηSP=t/t−1
t :溶液のフロータイム (Hagenbach-Couette補正式による)
:溶媒のフロータイム (Hagenbach-Couette補正式による)
c :溶液の濃度(g/cm
=3.06×10−2Mv0.65
Mv:粘度平均分子量
【0029】
粘着剤層が分子量の異なる2種以上のポリイソブチレンで構成される場合、ポリイソブチレンの合計含有量は、粘着剤層の全重量に対して、好ましくは15〜60重量%、より好ましくは15〜55重量%である。ポリイソブチレンの合計含有量が15重量%未満であると、粘着剤層に必要な内部凝集力を付与し難くなる虞があり、他方、60重量%を超えると、粘着剤層の皮膚接着性やタックが低下する虞がある。
また、ポリイソブチレンが分子量の異なる2種のポリイソブチレンで構成される場合、第1のポリイソブチレン(a)と、第2のポリイソブチレン(b)の配合割合(a:b)は、重量比で好ましくは1:0.1〜1:3、より好ましくは1:0.1〜1:2.5、更に好ましくは1:0.3〜1:2である。これら2種のポリイソブチレンのうち、第2のポリイソブチレン(b)の配合割合が上記上限を超えると、粘着剤層の内部凝集力の低下が大きくなる虞があり、他方、下限未満であると、粘着剤層の皮膚接着力の低下が大きくなる虞がある。
【0030】
ゴム系粘着剤を粘着剤層に使用する場合、タッキファイヤーは、経皮投与デバイスの分野で公知のものを適宜選択して用いればよい。タッキファイヤーとしては、例えば、石油系樹脂(例えば、芳香族系石油樹脂、脂肪族系石油樹脂)、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、クマロンインデン樹脂、スチレン系樹脂(例えば、スチレン樹脂、α−メチルスチレン樹脂)、水添石油樹脂(例えば、脂環族飽和炭化水素樹脂)等が挙げられる。中でも、脂環族飽和炭化水素樹脂が薬物の保存安定性が良好になるため好適である。
タッキファイヤーは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができ、2種以上を組み合わせて使用する場合には、例えば、樹脂の種類や軟化点の異なる樹脂を組み合わせてもよい。
タッキファイヤーの含有量は、粘着剤層の全重量に対して、好ましくは15〜55重量%、より好ましくは20〜50重量%である。タッキファイヤーの含有量が15重量%未満であるとタック及び凝集力が乏しい場合があり、他方55重量%を超えると粘着剤層が固くなり、皮膚接着性が低下する傾向にある。
【0031】
また、本発明の経皮投与デバイスは、該経皮投与デバイス中に含まれるビソプロロールが皮膚貼付直後から24時間経過までに、好ましくは65重量%以上、より好ましくは70重量%以上、更に好ましくは75重量%以上、最も好ましくは80重量%以上利用される。なお、最も理想的に利用された場合は100重量%となる。なお、皮膚貼付直後から24時間経過までのビソプロロールの利用率とは、下式(3)により求められる値をいう。
【0032】
ビソプロロールの利用率(重量%)=p/q×100 …(3)
p:皮膚貼付直後から24時間経過までのビソプロロールの累積放出量(μg/cm
q:皮膚貼付直前の粘着剤層中のビソプロロールの重量(μg/cm
【0033】
このように、剥離時までに経皮投与デバイスに含まれるビソプロロールの大部分が放出されるので薬物の利用率が高く、剥離時には液状のビソプロロールが製剤中にほとんどなくなっているため、粘着剤層の凝集力が向上し剥離時の物理刺激を抑える効果がある。すなわち、経皮投与デバイス中に含まれるビソプロロールが皮膚貼付直後から24時間経過するまでに、65重量%以上利用される態様の本発明の経皮投与デバイスは、薬物すなわちビソプロロールによる皮膚刺激だけでなく、剥離操作に起因する物理刺激も低減されているので、一層効果的に剥離時の皮膚刺激を抑制することができるのである。
【0034】
経皮投与デバイス中に含まれるビソプロロールを、皮膚貼付直後から24時間経過までに65重量%以上利用させるための手段は特に限定されないが、例えば、粘着剤として前述のようなカルボキシル基およびスルホニル基のいずれも含有しないアクリル系粘着剤、またはゴム系粘着剤を採用し、かつ後述の有機液状成分を粘着剤層中に含有させることが挙げられる。
また、本発明の経皮投与デバイスは、皮膚貼付直後から12時間経過までのビソプロロールの単位面積当たりの累積放出量が、貼付後12時間から24時間経過までの累積放出量よりも大きいことが好ましい。単位面積当たりにおける、ビソプロロールの累積放出量は、ヒト皮膚を透過したビソプロロールの絶対量の総和であることから、皮膚刺激に強く関連するため、皮膚貼付直後から12時間経過までのビソプロロールの累積放出量は、貼付後12時間から24時間経過までの累積放出量の1.2〜5倍がより好ましく、1.5〜4倍がより好ましい。
【0035】
このような累積放出量を得るには、粘着剤層からの薬物放出挙動が経時的に低下するように厳密にコントロールする必要がある。かかる目的達成のための方法は特に限定されないが、粘着剤層のビソプロロールの拡散性を制御することが挙げられ、そのための手法として、有機液状成分を粘着剤層に添加することが挙げられる。
すなわち、適当な量の有機液状成分を粘着剤層に添加すると、ビソプロロールの粘着剤層における拡散性が向上することにより、貼付開始後、短時間で粘着剤中のビソプロロール濃度を低下させることができる。その結果、前述の累積放出量と利用率が達成されるのである。
【0036】
有機液状成分としては、薬物であるビソプロロール以外に添加される液状の有機成分であって、粘着剤層の他の構成成分(例えば、粘着剤、タッキファイヤー)と相溶可能なものであれば特に限定されるものではない。有機液状成分としては、ビソプロロールの吸収促進及びビソプロロールの粘着剤層への溶解性向上に大きく寄与する点から、脂肪酸アルキルエステル、長鎖アルコールが好適に使用される。有機液状成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
脂肪酸アルキルエステルとしては、例えば、C12〜16、好ましくはC12〜14の高級脂肪酸と、C1〜4の低級1価アルコールとからなる脂肪酸アルキルエステルが挙げられる。高級脂肪酸としては、好ましくはラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)であり、更に好ましくはミリスチン酸である。1価アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられ、好ましくはイソプロピルアルコールである。したがって、最も好ましい脂肪酸アルキルエステルはミリスチン酸イソプロピルであり、該化合物を用いることでビソプロロールの吸収促進、溶解性向上及び薬物利用率を高水準で達成することができる。
【0038】
また、長鎖アルコールとしては、C12〜28、好ましくはC12〜24の飽和又は不飽和のアルコールが挙げられる。長鎖アルコールとしては、保存安定性の面から飽和アルコールが好適に使用される。また、長鎖アルコールとしては、直鎖状又は分岐状のアルコールが挙げられ、これらは混合して使用することができる。直鎖アルコールとしては、1−ドデカノール、1−テトラデカノール、1−ヘキサデカノール、ステアリルアルコール等が挙げられ、中でも1−ドデカノールがポリイソブチレンとの相溶性や、ビソプロロールの安定性に優れる点で好ましい。また、ポリイソブチレンとの相溶性が得難い場合には、C16〜28、好ましくはC18〜24の分岐アルコールを用いることができる。具体的には、2−ヘキシルデカノール、イソステアリルアルコール、2−オクチルドデカノール、2−デシルテトラデカノール等が挙げられ、中でも2−オクチルドデカノールがポリイソブチレンとの相溶性に優れるとともに、ビソプロロールの溶解性を向上させることができる点で好ましい。
【0039】
有機液状成分として、脂肪酸アルキルエステルを単独で用いても前述した効果が充分に得られるが、脂肪酸アルキルエステル及び長鎖アルコールを組み合わせて用いると、ビソプロロールの透過性及び溶解性、更には粘着剤層の皮膚接着性が一層向上する点で好ましい。脂肪酸アルキルエステル(c)と長鎖アルコール(d)の配合割合(c:d)は、重量比(c:d)で好ましくは1:0〜1:0.5、より好ましくは1:0〜1:0.4、更に好ましくは1:0.05〜1:0.4である。これら2種の有機液状成分中、長鎖アルコール(d)の配合割合が上記上限を超えると、脂肪酸アルキルエステル(c)の割合が相対的に減少するため、高レベルで吸収促進を持続させることが困難になる虞がある。
【0040】
上記のように、有機液状成分は透過促進剤として有効に作用する場合が多く、その際には有機液状成分の含有量を増量することにより、皮膚透過性が向上する。すなわち、粘着剤層に有機液状成分を多量に含有することで、皮膚透過性がより高く、また皮膚透過性を制御し易い組成となるため、経皮投与デバイスとして理想的な粘着剤の組成といえる。また、粘着剤層に有機液状成分を含有させることで、粘着剤層に適度な柔軟性及び皮膚接着性を付与することができる。
【0041】
有機液状成分の含有量は、粘着剤層の全重量に対して好ましくは20〜40重量%、より好ましくは25〜38重量%である。有機液状成分の含有量が20重量%未満であると、粘着剤層より薬物の滲み出し(ブリード)が生じる場合もある。その結果、接着性が低下し、また充分な皮膚透過性を得ることが困難になる虞がある。また、有機液状成分の含有量が40重量%を超えると、粘着剤層の凝集力が大きく低下する場合もあり、凝集破壊が生じる虞がある。
【0042】
本発明の経皮投与デバイスは、上記以外の成分を適宜加えても良い。
例えば、粘着剤層中での薬物の溶解性を更に高め、より良好な皮膚低刺激性を得るためには、必要に応じて粘着剤層中に上記以外の液状の有機成分からなる溶解助剤を配合することができる。溶解助剤は、粘着剤との相溶性に優れており、薬物を充分に溶解し、粘着剤層からビソプロロールが滲み出す(ブリード)虞が少なく、粘着特性や薬物放出性に悪影響を及ぼさないものであればよい。具体的には、オレイン酸、ミリスチン酸、カプリン酸等の脂肪酸、アジピン酸、セバシン酸等のジカルボン酸等の有機酸と、エタノールや2−プロパノール等のアルコール類とのエステル類;グリセリン、プロピレングリコール等の多価アルコールやそれらのジ、トリエステル類;多価アルコールと、トリアセチン等の有機酸とのエステル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等のポリエーテル類;その他クロタミトン等が挙げられる。
【0043】
また、凝集力を向上させるためには、所望により、粘着剤層に適当な充填剤を含有させることができる。このような充填剤としては特に限定されないが、シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化鉄、水酸化アルミニウム、タルク、カオリン、ベントナイト、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の無機微粒子、乳糖、カーボンブラック、ポリビニルピロリドン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリアミド、セルロース類、アクリル樹脂等の有機微粒子、更にはポリエステル、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリアミド、セルロース類、アクリル樹脂、ガラス等の繊維が挙げられる。
【0044】
さらに、皮膚接着力やタック、柔軟性を向上させる場合には、所望により、粘着剤層に適当な軟化剤を含有させることで、粘着剤層に適度な皮膚接着力やタックを付与することができる。このような軟化剤としては特に限定されないが、液状ポリブテンや液状ポリイソプレンなどの液状ゴムや、有機液状成分の中でも、流動パラフィン、スクワラン、スクワレンなどの液状炭化水素等が挙げられる。さらに、所望によりカバーテープなどを本発明の経皮投与デバイスの一部や全面を覆うように貼付して皮膚接着性を補強し、皮膚への密着性を補ってもよい。
【0045】
本発明の中でも、粘着剤層に第1のポリイソブチレンを用いる場合、多量の有機液状成分を含有することが可能になり、その結果有機液状成分による薬物の吸収促進効果と溶解性向上効果とを充分に得ることができる。これにより、凝集力の低下を抑制し、糊残り等のない経皮投与デバイスとすることが可能になる。さらに、タッキファイヤーにおいても、前述した軟化点の温度範囲の中でより高いものを用いることで凝集力の向上だけでなく、皮膚接着性の向上も同時に達成することが可能になる。なお、粘着剤層の厚みは、通常30〜300μm、好ましくは60〜250μmである。
【0046】
支持体としては特に限定されるものではないが、実質的に薬物等に対して不透過性を有するもの、即ち粘着剤層の活性成分であるビソプロロールや添加剤等が支持体中を通って背面から失われて含有量の低下を引き起こさないものが好ましい。支持体としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、アイオノマー樹脂、金属箔等の単独フィルム又はこれらの積層フィルム等を用いることができる。これらのうち、支持体と粘着剤層との接着性(投錨性)を良好とするために、支持体を上記材質からなる無孔のプラスチックフィルムと、多孔質フィルムとの積層フィルムとすることが好ましい。この場合、粘着剤層は多孔質フィルム側に形成することが望ましい。
【0047】
このような多孔質フィルムとしては、粘着剤層との投錨性が向上するものが採用されるが、具体的には紙、織布、不織布、編布、機械的に穿孔処理を施したシート等が挙げられる。これらのうち、取り扱い性等の観点から、特に紙、織布、不織布が好ましい。多孔質フィルムは、投錨性向上、経皮投与デバイス全体の柔軟性及び貼付操作性等の点から、厚み10〜200μmの範囲のものが採用される。プラスタータイプや粘着テープタイプのような薄手の経皮投与デバイスの場合、10〜100μmの範囲のものが採用される。
【0048】
また、多孔質フィルムとして織布や不織布を用いる場合、目付量を好ましくは5〜30g/m、より好ましくは6〜15g/mとするのがよい。最も好適な支持体としては、厚さ1.5〜6μmのポリエステルフィルム(好ましくは、ポリエチレンテレフタレートフィルム)と、目付量6〜15g/mのポリエステル(好ましくは、ポリエチレンテレフタレート)製不織布との積層フィルムが挙げられる。
【0049】
本発明の経皮投与デバイスは、使用時まで粘着剤層の粘着面を保護するために、粘着面に剥離ライナーを積層することが望ましい。剥離ライナーとしては、剥離処理され、充分に軽い剥離力を確保できれば特に限定されるものではないが、例えば、粘着剤層との接触面にシリコーン樹脂、フッ素樹脂等を塗布することによって剥離処理が施された、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート等のフィルム、上質紙、グラシン紙等の紙、又は上質紙若しくはグラシン紙等とポリオレフィンとのラミネートフィルム等が用いられる。剥離ライナーの厚みは、好ましくは10〜200μm、より好ましくは25〜100μmである。
【0050】
剥離ライナーとしては、バリアー性、価格等の点から、ポリエステル(特に、ポリエチレンテレフタレート)樹脂からなるものが好ましい。さらに、この場合、取り扱い性の点から、25〜100μm程度の厚みを有するものが好ましい。
本発明の経皮投与デバイスの形状としては特に限定されず、例えば、テープ状、シート状を含む。
本発明の経皮投与デバイスは、例えば、粘着剤、ビソプロロール、必要によりタッキファイヤー、有機液状成分を含む粘着剤組成物をトルエン等の適当な溶媒に溶解し、得られた溶液を剥離ライナー上に塗布、乾燥して粘着剤層を形成し、そして粘着剤層上に支持体を積層することで製造することができる。また、例えば、上記粘着剤溶液を支持体に直接塗布、乾燥して支持体上に粘着剤層を形成することで製造することができる。なお、粘着剤層を形成する際に粘着剤組成物の溶液を一度に厚く塗布すると均一に乾燥することが困難な場合があるため、粘着剤層の厚みを充分なものにするために、2度以上に分けて塗工してもよい。
【0051】
本発明の経皮投与デバイスは、使用前まで包装体で密封して保存又は運搬することが好ましい。包装方法としては、例えば、1枚の経皮投与デバイス、あるいは数枚重ねた経皮投与デバイスを包装材料に包装し、その周辺をヒートシールして密封する方法が挙げられる。この包装材料は、例えば、シート状又はフィルム状のものが挙げられ特に限定されるものではないが、包装の容易さや気密性の観点からヒートシール可能なものが望ましい。具体的には、ポリエチレン、アイオノマー樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル系共重合体、ポリビニルアルコール系共重合体等のヒートシール性を有するプラスチックシートを用いた包装材料が適している。特に、経皮投与デバイスに含有される活性成分であるビソプロロールの外気による汚染や酸化分解を防止するためには、ポリエステルフィルムや金属箔等のガス不透過性フィルムを積層したものを用いることが好ましい。また、この包装材料としては、厚さ10〜200μmのものが用いられる。上記包装材料の最内層にバリアー性の高いポリアクリロニトリル系共重合体を用いたものがより好ましい。さらに、経皮投与デバイスの側面からの粘着成分の流れ出し等が起こった場合、包装体からの取り出し等の取り扱い性の悪化が懸念されるため、包装材料にエンボス加工を施したり、前述のライナー部分を経皮投与デバイスより若干大きくするドライエッジ加工、接触面積が小さくなるように加工したブリスター成型等の包装形態を工夫することが好ましい。
本発明の経皮投与デバイスは、使用直前に上記包装体を破る等して取り出し、剥離ライナーを剥がして露出した粘着面を皮膚面に貼付して使用することができる。
【0052】
本発明の経皮投与デバイスの用法は、患者の年齢、体重、症状等により異なる。
本発明では、経皮投与デバイスの面積は、上記したビソプロロールのヒト皮膚透過速度の最大値を採用しつつ有効量のビソプロロールの投与を達成するために考慮することができる。経皮投与デバイスの面積は、好ましくは15〜50cm、より好ましくは18〜48cm、更に好ましくは20〜45cmである。15cmより小さいと、皮膚刺激を抑制しつつビソプロロールの有効量を投与することが困難となる虞があり、50cmより大きいと貼付操作が困難となり、また貼付時に患者にストレスを与える虞がある。薬効を強く必要とする場合には2枚以上を同時に貼付することも可能である。
投与頻度としては特に限定されないが、好ましくは皮膚に1日〜2日で1回程度であり、ヒトの生活サイクルに合わせて血圧をコントロールすることが可能であるので1日1回貼付がより好ましい。
【0053】
本発明はまた、支持体の片面にビソプロロールを含有する粘着剤層を備えるビソプロロール経皮投与デバイスの作動方法であって、皮膚貼付直後から24時間経過までの、ビソプロロール放出速度の最大値を30μg/cm/時間以下とし、かつ皮膚貼付後24時間経過時における、ビソプロロール放出速度を10μg/cm/時間以下とする、作動方法にも関する。本方法にも、前述のデバイスについての技術的手段を当てはめることができる。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。なお、実施例等で使用する略称は以下のとおりである。
【0055】
BSP:ビソプロロール
PIB1:ポリイソブチレン 粘度平均分子量4,000,000
PIB2:ポリイソブチレン 粘度平均分子量55,000
TF1:タッキファイヤー 水添テルペン系樹脂 軟化点150℃
TF2:タッキファイヤー 脂環族飽和炭化水素樹脂 軟化点125℃
IPM:ミリスチン酸イソプロピル
ODO:2−オクチルドデカノール
【0056】
(実施例1〜2)
表1に記載の配合割合にしたがって粘着剤組成物の粘稠トルエン溶液を調製し、得られた溶液をシリコーン剥離処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)製ライナー(厚さ75μm)上に、乾燥後の厚みが80μmとなるように塗布し、これを熱風循環式乾燥機中で100℃、5分間乾燥して粘着剤層を形成した。この粘着剤層を、厚さ12μmのPETフィルム、または厚さ2μmのPETフィルムと12g/mのPET不織布との積層フィルムの不織布側に貼り合わせ、シート状の積層体を得た。この積層体のPET製ライナーを剥離し、露出した粘着剤面に、さらに上記と同様の組成、厚みの粘着剤層を数層積層して表1記載の厚みを有する粘着剤層を備える経皮投与デバイスを得た。なお、表1に記載の各成分の配合量は、粘着剤組成物の全重量基準の割合(重量%)である。
【0057】
(実施例3及び比較例1〜3)
不活性ガス雰囲気下、2−エチルヘキシルアクリレート70重量部、2−メトキシエチルアクリレート20重量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート10重量部及びアゾビスブチロニトリル0.2重量部を酢酸エチル中、60℃にて溶液重合させてアクリル粘着剤の溶液を調製した。表1に記載の配合割合にしたがって、このアクリル粘着剤、ミリスチン酸イソプロピル及びビソプロロールを容器中で均一になるように混合撹拌を行い、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート0.6重量%(対粘着剤固形分)を添加し、酢酸エチルで粘度調整した。得られた溶液をシリコーン剥離処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)製ライナー(厚さ75μm)上に、乾燥後の厚みが表1記載となるように塗布し、これを熱風循環式乾燥機中で100℃、5分間乾燥して粘着剤層を形成した。この粘着剤層を、厚さ12μmのPETフィルム、または厚さ2μmのPETフィルムと12g/mのPET不織布との積層フィルムの不織布側に貼り合わせた後、70℃で48時間加温処理してシート状の経皮投与デバイスを得た。
【0058】
【表1】

【0059】
各実施例及び比較例で得られた経皮投与デバイス(支持体:厚さ2μmのPETフィルムと12g/mのPET不織布との積層フィルム)を用いて、ヘアレスマウス背部摘出皮膚透過性について試験を行い、ヒト皮膚のビソプロロールの透過性について計算した。算出結果を表2に示すとともに、図2に各実施例及び比較例で得たビソプロロール経皮投与デバイスのビソプロロール放出速度(ヒト皮膚透過速度)を示し、図3にビソプロロールの累積放出量(ヒト皮膚累積透過量)を示す。
【0060】
<試験方法>
直径16mmφの円形状に切断した上記経皮投与デバイスを、ヘアレスマウス背部摘出皮膚(インタクト皮膚)の角質層面に貼り付け、フランツの拡散セルに真皮層側を装着し、レセプター液に32℃のリン酸緩衝化生理食塩液(pH7.4)を用いて試験した。一定時間ごとにレセプター液をサンプリングし、サンプリング液中のビソプロロール量をHPLC法にて定量した。同様の試験をヘアレスマウス背部摘出皮膚の角質層をセロハンテープにて剥離した皮膚(ストリップ皮膚)について実施した。さらに各実施例及び比較例について、32℃における水中溶出試験を実施し、経皮投与デバイスからのビソプロロールの溶出量により、ヒグチの式に従って、粘着剤層中でのビソプロロールの拡散係数を算出した。以上の試験結果及び以下のパラメーターをもとに経皮吸収予測システム(SKIN-CAD TM Professional Edition ver. 5.0.1、(株)イーハイブ・コミュニケーション)にてヒト皮膚の透過性について算出した。
【0061】
<パラメーター>
ヘアレスマウス背部皮膚の角質層の厚み:10μm
ヘアレスマウス背部皮膚の全厚み:実測値
ヒト皮膚の角質層の厚み:20μm
ヒト皮膚の全厚み:500μm
【0062】
【表2】

【0063】
実施例においては、ビソプロロール放出速度が最大値に達した後、当該放出速度が緩やかに減少するのに対し、比較例1及び2では当該放出速度が急激に減少することが分かった。一方、比較例3では、当該放出速度が最大値に達した後、緩やかに減少したが、24時間値が高いものとなった(図2参照)。このように、実施例ではビソプロロール放出速度の大きな変動が抑制されてビソプロロールの血中濃度が安定化することから、治療又は予防に有効な量のビソプロロールを持続的に生体内へ投与するのに有効である。
また、実施例において、皮膚貼付直後から12時間経過までのビソプロロール累積放出量が貼付後12時間から24時間経過までのビソプロロール累積放出量よりも多かった。さらに、いずれの実施例においても、ビソプロロールの利用率が65%以上と高いことが分かった。
【0064】
各実施例及び比較例で得られた経皮投与デバイス(支持体:厚さ12μmのPETフィルム)を用いて、ウサギ皮膚刺激試験(n=3)を実施した。サンプルサイズ16mmφにて、各実施例及び比較例に対応するプラセボテープを実施例及び比較例と同様に作製し、これを各実施例及び比較例の経皮投与デバイスと隣接させて貼付した。以下の評価点をもとに健常皮膚について24時間貼付し、貼付中の発赤の時間変化をプラセボテープと比較しながら評価した。試験結果の平均値を表3に示した。
【0065】
<評価点>
0:プラセボテープと同等であった
1:プラセボテープと比較し、僅かな発赤であった
2:プラセボテープと比較し、軽い発赤であった
3:プラセボテープと比較し、はっきりとした発赤であった
4:プラセボテープと比較し、中程度の発赤であった
5:プラセボテープと比較し、強度の発赤であった
【0066】
【表3】

【0067】
実施例及び比較例のいずれの経皮投与デバイスも貼付初期から発赤が見られたが、実施例では貼付後9時間経過以降消失しており、貼付初期とほとんど同程度であった。比較例は貼付後24時間経過しても発赤が見られた。
以上により、本実施例の経皮投与デバイスは、皮膚貼付後24時間経過時までに、すみやかに皮膚刺激性が低くなっている傾向がみられた。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明のビソプロロール経皮投与デバイスの一実施形態を示す断面図である。
【図2】実施例及び比較例で得たビソプロロール経皮投与デバイスのビソプロロール放出速度(ヒト皮膚透過速度)を示す図である。
【図3】実施例及び比較例で得たビソプロロール経皮投与デバイスのビソプロロール累積放出量(ヒト皮膚累積透過量)を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
1…支持体、2…粘着剤層、3…剥離ライナー、10…ビソプロロール経皮投与デバイス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の片面にビソプロロールを含有する粘着剤層を備えるビソプロロール経皮投与デバイスであって、
皮膚貼付直後から24時間経過までの、ビソプロロール放出速度の最大値が30μg/cm/時間以下であり、かつ
皮膚貼付後24時間経過時における、ビソプロロール放出速度が10μg/cm/時間以下である、
ビソプロロール経皮投与デバイス。
【請求項2】
ビソプロロール放出速度の減少傾きの絶対値が1.25以下である、請求項1記載のビソプロロール経皮投与デバイス。
【請求項3】
ビソプロロール放出速度の最大値が皮膚貼付直後から6時間経過までに得られる、請求項1又は2記載のビソプロロール経皮投与デバイス。
【請求項4】
皮膚貼付直後から24時間経過までのビソプロロールの利用率が65重量%以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のビソプロロール経皮投与デバイス。
【請求項5】
皮膚貼付直後から12時間経過までのビソプロロール累積放出量が貼付後12時間から24時間経過までのビソプロロール累積放出量よりも多い、請求項1〜4のいずれか一項に記載のビソプロロール経皮投与デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−247899(P2008−247899A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57691(P2008−57691)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(000109831)トーアエイヨー株式会社 (25)
【Fターム(参考)】