説明

ビタミンCの微生物産生

本発明は、ケトグロニシゲニウム(Ketogulonicigenium)属に属する微生物を使用する、例えば、L−ソルボソンのような基質からビタミンCを産生する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、L−アスコルビン酸(ビタミンC)の微生物産生に関する。
【0002】
ヒトの極めて重要かつ独立な栄養因子の1つであるビタミンCは、技術的に確立された方法として周知であるいわゆる「ライヒシュタイン(Reichstein)法」によって商業的に産生されている。しかし、この方法は、多くの複雑な工程を含んでなり、全収量のいずれの改善も達成が困難である。従って、工程数の減少および/または全収量の改善を考慮する多くの提案が存在する。
【0003】
本発明は、ケトグロニシゲニウム(Ketogulonicigenium)属に属する微生物を使用して、培地において基質をビタミンCに変換することを含んでなる、ビタミンCを産生する方法を提供する。
【0004】
基質のビタミンCへの変化とは、ビタミンCを生じる基質の変換がケトグロニシゲニウム(Ketogulonicigenium)属に属する微生物によって実施され、即ち、基質が直接ビタミンCに変換され得ることを意味する。前記微生物は、上記の規定されるような基質からのそのような変化を可能にする、例えば、微生物と基質とを直接接触させる条件下で培養される。微生物は、例えば、休止細胞、アセトン処理細胞、凍結乾燥細胞、固定化された細胞などの形態で、基質に直接作用させるために使用することができる。微生物のためのインキュベーション技術に関する方法として公知の任意の手段自体は、通気の使用、好ましくは、撹拌型液内発酵槽を介して適応することができる。反応を行うための好適な細胞濃度は、1mlあたり約10mg〜約700mgの湿細胞、より好ましくは、1mlあたり約30mg〜約500mgの湿細胞の範囲である。
【0005】
本明細書において使用される培地は、ビタミンCを産生する任意の適切な培地であり得る。典型的に、培地は、例えば、塩、基質、および所定のpHを含んでなる水性培地である。
【0006】
例えば、D−ソルビトール、L−ソルボース、L−ソルボソン、L−グロースまたはL−グロノ−γ−ラクトンのような炭素源を基質として使用することができる。好ましくは、基質は、D−ソルビトール、L−ソルボースまたはL−ソルボソンから選択され、より好ましくは、L−ソルボソンである。
【0007】
ケトグロニシゲニウム(Ketogulonicigenium)属に属する適切な微生物は、例えば、ケトグロニシゲニウム・ロバスタム(Ketogulonicigenium robustum)、ケトグロニシゲニウム・ブルガレ(Ketogulonicigenium vulgare)または本発明について基質のビタミンCへの変換が可能であるそれらの変異体から選択され得る。本発明の一態様では、ケトグロニシゲニウム(Ketogulonicigenium)属に属する微生物は、ケトグロニシゲニウム・ロバスタム(Ketogulonicigenium robustum)、ケトグロニシゲニウム・ブルガレ(Ketogulonicigenium vulgare)またはそれらの変異体から選択され、ケトグロニシゲニウム・ブルガレ(Ketogulonicigenium vulgare)DSM4025またはその変異体は含まない。
【0008】
一実施形態では、本発明は、反応混合物においてケトグロニシゲニウム・ロバスタム(Ketogulonicigenium robustum)、ケトグロニシゲニウム・ブルガレ(Ketogulonicigenium vulgare)またはそれらの変異体から選択される微生物とL−ソルボソンとを接触させ、反応混合物からビタミンCを単離および精製することを含んでなる、L−ソルボソンからのビタミンCを産生する方法を提供する。
【0009】
微生物「ケトグロニシゲニウム・ロバスタム(Ketogulonicigenium robustum)」および「ケトグロニシゲニウム・ブルガレ(Ketogulonicigenium vulgare)」はまた、the International Code of Nomenclature of Prokaryotesによって規定されるような同じ生理学的特性を有するそのような種のシノニムまたはバソニムを含むことが理解される。
【0010】
本明細書において使用する上記の微生物の「変異体」とは、本発明の方法によって提供されるような、例えば、L−ソルボソンのような基質のビタミンCへの変換が可能であるそれらのゲノム配列において改変される微生物を指す。変異体は、例えば、化学およびUV変異誘発、続いて、所望される表現型のスクリーニングまたは選択、微生物のゲノムにおける遺伝子の無傷な(intact)相応物を置き換えるために使用される組換え技術、一重および二重交差組換え、および他の周知の技術によるインビトロでの機能不全遺伝子の構築を含む任意の簡便な手段によって得ることができる。サンブルック(Sambrook)ら、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual」、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989年)、ならびにハーウッド(Harwood)およびカッティング(Cutting)、「Molecular Biology Methods For Bacillus」、John Wiley and Sons(1990年)、27〜74頁を参照のこと。適切な変異原として、紫外線、X線、ガンマ線およびナイトロジェンマスタードまたはN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアジニンのような化学変異原が挙げられるが、それらに限定されない。さらに、変異体は、目的のために当業者に周知である任意の方法自体において、自発変異によって生じるクローンを単離することによって、得ることができる。
【0011】
好適な実施形態では、本発明の方法ために使用されるような微生物は、K.ロバスタム(K.robustum)NRRL B−21627、K.ブルガレ(K.vulgare)NRRL B−30035、K.ブルガレ(K.vulgare)NRRL B−30036、K.ブルガレ(K.vulgare)NRRL B−30037Nおよびそれらのそれぞれの変異体よりなる群から選択される。
【0012】
K.ロバスタム(K.robustum)NRRL B−21627については、米国特許第5,834,231号明細書に記載されている。K.ブルガレ(K.vulgare)NRRL B−30035、K.ブルガレ(K.vulgare)NRRL B−30036およびK.ブルガレ(K.vulgare)NRRL B−30037N株については、米国特許第6,316,231B1号明細書に記載されている。これらの株は、Agricultural Research Culture Collection(NRRL)、1815N.University Street、Peoria、イリノイ州61604、米国から公的に利用可能である。
【0013】
一実施形態では、本発明は、反応混合物においてケトグロニシゲニウム(Ketogulonicigenium)属に属する微生物とL−ソルボソンとを接触させ、反応混合物からビタミンCを単離および精製することを含んでなる、ビタミンCを産生する方法を提供する。
【0014】
本明細書において使用される「反応混合物において微生物とL−ソルボソンとを接触させること」は、L−ソルボソンを含有する培地における微生物の培養を含む。微生物は、例えば、休止細胞、アセトン処理細胞、凍結乾燥細胞、固定化された細胞などの形態で、基質、例えば、L−ソルボソンに直接作用させるために使用することができる。微生物のためのインキュベーション技術関する方法として公知の任意の手段自体は、通気の使用、好ましくは、撹拌型液内発酵槽を介して適応することができる。反応を行うための好適な細胞濃度は、1mlあたり約10mg〜約700mgの湿細胞、より好ましくは、1mlあたり約30mg〜約500mgの湿細胞の範囲である。
【0015】
適切な「反応混合物」は、水または微生物の培養の分野において公知の任意の栄養培地であり得る。そのような栄養培地は、微生物によって利用され得る炭素源、窒素源および他の無機塩を含む。微生物のより良好な増殖のために一般的に使用される多様な栄養物質は、培地に適切に含まれ得る。
【0016】
同化可能な炭素源としてのそのような栄養素の例として、グリセロール、D−マンニトール、エリトリトール、リビトール、キシリトール、アラビトール、イノシトール、ズルシトール、D−リボース、D−フルクトース、D−グルコースおよびスクロースが挙げられるが、これらに限定されない。有機物質のような消化可能な窒素源の例として、ペプトン、酵母抽出物、パン酵母、尿素、アミノ酸およびコーンスティープリカーが挙げられるが、これらに限定されない。多様な無機物質を、窒素源、例えば、硝酸塩およびアンモニウム塩として使用することができる。さらに、培養培地は、通常、無機塩、例えば、硫酸マグネシウム、リン酸カリウムおよび炭酸カルシウムを含有する。
【0017】
本発明の微生物の培養は、約4.0〜約9.0のpHで行うことができ、ここで、約5.0〜約8.0のpHが好適に維持され得る。培養期間は、使用すべきpH、温度および栄養培地に依存して変動し、好ましくは、約1〜5日間、最も好ましくは約1〜3日間である。本発明の方法を行うための好適な温度は、約13〜約36℃、より好ましくは、約18〜約33℃の温度である。
【0018】
一実施形態では、本発明の方法は、約4.0〜約9.0のpHおよび約13〜約36℃の温度で行われる。好ましくは、約5.0〜約8.0のpHおよび約18〜約33℃の温度が、本方法を行うために使用される。
【0019】
例えば、L−ソルボソンのような基質の濃度は反応条件によって変動し得るが、反応は、約2〜約120mg/mlの基質濃度、より好ましくは、約4〜約100mg/mlの濃度で好適に行われる。一実施形態では、本発明の方法は、約2〜約120mg/mlのL−ソルボソン濃度、より好ましくは、約4〜約100mg/mlの濃度で行われる。
【0020】
このようにして反応混合物において産生され、蓄積されたビタミンCは、産物の特性を適切に利用した任意の従来の方法自体によって分離および精製することができ、それは、遊離酸またはナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウムなどの塩として分離することができる。
【0021】
具体的には、分離は、次の工程:塩の形成、産物と溶媒間の溶解度、吸収および分配係数のような周囲の不純物との間の特性の差異を使用すること、例えば、イオン交換樹脂に対する吸着の任意の適切な組み合わせまたは反復によって実施することができる。これらの手順のいずれかは、単独または組み合わせで、産物を単離するための簡便な手段を構成する。このようにして得られた産物は、従来の様式、例えば、再結晶またはクロマトグラフィーでさらに精製することができる。
【0022】
本発明に従えば、それは、例えば、L−ソルボソンのような基質からのビタミンCの産生を目的とした一工程の経路をもたらすため、工程の数を減少することに関する改善は極めて重要である。
【0023】
以下の実施例では、本発明の目的をさらに詳細に例示する。
【0024】
実施例1:休止細胞系によるL−ソルボソンからのビタミンCの産生
K.ロバスタム(K.robustum)NRRL B−21627ならびにK.ブルガレ(K.vulgare)NRRL B−30035、NRRL B−30036およびNRRL B−30037N株を、Triptic Soy Agar(ディフコ ベクトン・ディッキンソン株式会社(Difco,Becton,Dickinson and Company)、Sparks、メリーランド州、米国)上、30℃で3日間、培養した。細胞をプレートから回収し、1mlの50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁し、同緩衝液で2回洗浄した。細胞懸濁液の600nmでの光学密度は、NRRL B−21627、NRRL B−30035、NRRL B−30036およびNRRL B−30037についてそれぞれ12.2、12.5、16.2および11.2であった。これらの数は、それぞれ、1mlあたり31.7、32.5、42.1および29.1mgの湿細胞重量に対応する。
【0025】
反応混合物(試験管中5ml)は、0.9mlの細胞懸濁液および50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)中0.1mlの50mg/ml L−ソルボソンを含有した。反応は、細胞懸濁液の添加によって開始した。反応混合物を、往復振盪機上で30℃および180rpm、3時間、インキュベートした。反応後、反応混合物を、8,000×gで10分間、遠心分離し、上清を得た。上清中のビタミンC含有量をHPLCで測定した:
カラム:YMC−Pack PolyamineII(150×4.6mm内径)、YMC 社(Co.Ltd)、京都、日本、
溶出:50mM NHPO/アセトニトリル=30/70
流速:1ml/分
検出:250nmでのUV吸収
【0026】
上記HPLC条件下でのビタミンCの保持時間は7.7分間であった。このHPLC分析により、すべての試験した株による反応産物がビタミンCであることを確認した。
【0027】
表1は、NRRL B−21627、NRRL B−30035、NRRL B−30036およびNRRL B−30037N株によって産生されたビタミンCの量を示す。
【0028】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケトグロニシゲニウム(Ketogulonicigenium)属に属する微生物を使用して、培地において基質をビタミンCに変換することを含んでなる、ビタミンCを産生する方法。
【請求項2】
前記基質は、D−ソルビトール、L−ソルボース、L−ソルボソン、L−グロースおよびL−グロノ−γ−ラクトンよりなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応混合物においてケトグロニシゲニウム(Ketogulonicigenium)属に属する微生物と基質とを接触させ、前記反応混合物からビタミンCを単離および精製することを含んでなる、ビタミンCを産生する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
反応混合物においてケトグロニシゲニウム(Ketogulonicigenium)属に属する微生物とL−ソルボソンとを接触させ、前記反応混合物からビタミンCを単離および精製することを含んでなる、L−ソルボソンからビタミンCを産生する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記微生物は、ケトグロニシゲニウム・ロバスタム(Ketogulonicigenium robustum)、ケトグロニシゲニウム・ブルガレ(Ketogulonicigenium vulgare)またはそれらの変異体から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記微生物は、ケトグロニシゲニウム・ロバスタム(Ketogulonicigenium robustum)NRRL B−21627、ケトグロニシゲニウム・ブルガレ(Ketogulonicigenium vulgare)NRRL B−30035、ケトグロニシゲニウム・ブルガレ(Ketogulonicigenium vulgare)NRRL B−30036およびケトグロニシゲニウム・ブルガレ(Ketogulonicigenium vulgare)NRRL B−30037よりなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、約4.0〜約9.0のpHおよび約13〜約36℃の温度で行われる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記方法は、約5.0〜約8.0のpHおよび約18〜約33℃の温度で行われる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、約2〜約120mg/mlのL−ソルボソン濃度で行われる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法は、約4〜約100mg/mlのL−ソルボソン濃度で行われる、請求項9に記載の方法。

【公表番号】特表2007−519406(P2007−519406A)
【公表日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−550061(P2006−550061)
【出願日】平成17年1月22日(2005.1.22)
【国際出願番号】PCT/EP2005/000622
【国際公開番号】WO2005/075658
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】