説明

ビタミンK2の産生に有用な乳酸菌の変異体を得るための方法および食品の製造のための適用

本発明は、同一条件下で培養した出発乳酸菌株よりも少なくとも約1.2倍多くのビタミンK2を標準発酵条件下で産生する乳酸菌株の変異体の製造に関する。本発明はさらに、ビタミンK2で強化された発酵製品および/またはフレッシュな乳製品を含む食品の製造方法、ならびにこのようにして得られる食品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人における栄養摂取の質的および量的バランスならびに内容を改善するための栄養素、ビタミンおよび/または微量元素に富む食品の分野に関する。
【0002】
本発明は、より特には、ビタミンKで食物を強化する手段に関する。
【0003】
より正確には、本発明は同一条件下で培養した初期乳酸菌株よりも少なくとも約1.2倍多くの量のビタミンK2を標準発酵条件下で産生する乳酸菌株の変異体を得ることに関する。
【0004】
本発明はまた、ビタミンK2で強化された食品、特に、発酵製品および/またはフレッシュな乳製品を製造する方法、ならびにこのようにして得られる食品に関する。
【背景技術】
【0005】
ビタミンKは、2つの天然形態で存在する脂溶性ビタミンである:ビタミンK1(即ち、フィロキノン)およびビタミンK2(即ち、メナキノン)。
【0006】
ビタミンK1は植物によって合成される。それは、主として緑色野菜(葉野菜)および大豆油において見られる。ビタミンK1は、より直接、血液凝固プロセスに関与する。
【0007】
ビタミンK2に関して、ビタミンK2は腸内細菌叢の細菌によって産生される。ビタミンK2はまた、発酵手順後に特定の食物中に少量で現れる(チーズ、発酵大豆に基づく典型的なアジアの製品、例えば、日本の味噌および納豆など)。多くの細菌がビタミンK2を合成することができる。従って、腸内細菌叢の細菌、ならびに、特に、大腸菌種(Escherichia coli)、枯草菌種(Bacillus subtilis)およびバクテロイデス種(Bacteroides spp.)に加えて、乳酸菌の特定の種または亜種、例えば、ラクトコッカス・ラクティス種・ラクティス(Lactococcus lactis spp. lactis)、ラクトコッカス・ラクティス種・クレモリス(Lactococcus lactis spp. cremoris)、ロイコノストック・ラクティス(Leuconostoc lactis)、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)およびプロピオニバクテリウム種(Propionibacterium sp.)が言及され得る。これらの細菌によって合成されるビタミンK2の量は、一般的に、発酵乳1リットル当たり約29μgから約90μgまで異なる(Morishitaら、1999年)。重要であり、強調されるべきは、ビタミンK2産生は最もしばしば凍結乾燥細胞ペレットにおいて測定され、その測定結果は試験される株に応じて産生レベルが大きく異なり、3倍を超えて異なり得ることである。(Morishitaら、1999年;Parkerら、2003年)。生物活性の点で、ビタミンK2は、特に軟組織の石灰化に対するその作用について公知である。
【0008】
ビタミンKは、血液凝固のプロセスにおけるその必須の役割について最初は記載された。従って、ビタミンKの大きな欠乏は、凝固時間の異常な延長を伴って、出血、および斑状出血へ至る。長い間、ビタミンKの大きな欠乏は、成人においていくぶん稀であり、要求は、種々のバランスのとれた食事および腸内細菌による該ビタミンの内因性産生によって原則として十分に満たされ得ると考えられてきた。この点で、危険性のある人は、典型的に以下である:
− 出生時に腸がビタミンKを産生する細菌を有さない新生児;
− 肝機能、胆管機能または腸機能障害を有する人(肝疾患、嚢胞性線維症、大腸炎、赤痢など);および、
− 抗生物質を長期間摂取している人。
【0009】
より最近、ヒトの健康に対するビタミンKの効果は、血液凝固機構におけるその役割に限定されないことが発見された。実際に、1980年代以来、ビタミンKはまた、骨代謝におけるその役割について認識されている(Hartら、1984年;Hartら、1985年)。
【0010】
このビタミンは、骨形成の調節においてオステオカルシンの活性を調節する酵素反応における補因子である(Hauschka PVら、1989年;Ducy Pら、1996年)。その役割は、より正確には、骨形成のプロセスを調節する重要なタンパク質である、オステオカルシンのカルボキシル化を調節することである。ビタミンK欠乏の場合、この反応は起こらず、血中のカルボキシル化オステオカルシンに対する脱カルボキシル化オステオカルシンの比率が増加する(Vaananenら、1999年)。
【0011】
西洋諸国における人口統計学的発展は、変性疾患、特に骨粗鬆症の増加と結果として関連する、集団の漸進的な高齢化へ至っている。このため、骨粗鬆症は、現在、大きな公衆衛生問題として認識されている。
【0012】
1990年代に行われた人口統計学的概算は、特に高齢者の中での、今後50年間でこの疾患の発生率の相当な増加を予測することによって警鐘を鳴らした。従って、それまではめったに検査もされず管理も後まわしであったこの疾患を予防するために行動を起こすことが、急速に必要かつ緊急となった。
【0013】
骨粗鬆症の予防は最適な骨成長を通じて小児期に開始し、かつ、骨量を維持することによって一生にわたって継続しなければならないことが、現在、認識されている。栄養因子が健康な骨蓄積の発達および維持において重要な役割を果たすことが公知である。今まで、骨粗鬆症を予防するために予想または提案された栄養戦略は、本質的に2つの重要な因子、即ち、カルシウムおよびビタミンDに基づいた。しかし、現在、他の栄養因子が注目に値し得ることが公知である。
【0014】
骨形成におけるその主要な役割の結果として、ビタミンKは、ヒトにおいて生涯の骨の健康を保つ有望な手段として文献にますます記載されている。
【0015】
ヒトにおけるビタミンKの推奨食事摂取量(1.5μg/d/kg体重)は、凝固現象におけるその役割を考慮することによって確立された。現在、最近の研究は、骨代謝におけるビタミンKの活性も考慮すると、これらの食事推奨は最終的に少なく見積もられていると示唆している(Rondenら、1998年)。
【0016】
ビタミンK要求が依然としてあまり理解されていないとしても、低摂取量は低骨量および成人における骨折の高い危険性と関連することは依然として事実である(Hartら、1985年;Knapenら、1989年;Szulcら、1993年;Boothら、2000年)。さらに、閉経期の女性における介入研究によって、ビタミンKはこの標的グループについて骨の減少を低下させたことが示された(Shirakiら、2000年;Braamら、2003年)。最後に、動物実験では、ビタミンKが特にビタミンDとの相乗的な組み合わせの場合、最大骨量において好都合な役割を果たすことを示唆している。しかし、ビタミンKと骨成長とを明確に関連付ける研究は、今まで動物においてしか行われていない。
【0017】
さらに、最近の研究によって、骨代謝に対する、特に骨量の構成および保持に対する、ビタミンKの効果を支持するさらなる議論が紹介された(Boothら、2000年;Shirakiら、2000年;Braamら、2003年;HiranoおよびIshi、2002年)。
【0018】
成人とは対照的に、小児における骨代謝に対するビタミンKの有利な効果に関して入手可能なデータはほとんどない。最大骨蓄積を構築し、かつ、将来の骨粗鬆症の危険性から成人を保護するためには、成長期の間、骨量を最適化することが必須であることのみが公知である。
【0019】
いずれにしても、食品中のビタミンK含有量を改善することは、個人が良好な骨構造を構築しかつ維持することを可能にするための特に興味深くかつ有望な手段であることが、現在入手可能な全てのデータの結果である。
【0020】
この文脈において、顕著な量のビタミンKを含有する工業製品が食品市場に既に存在する。乳酸菌を含有する特定の乳製品、例えば、本出願人によってフランスで販売されている「Petits Gervais aux Fruits」が特に言及され得る。それにもかかわらず、一方で、これらの製品のビタミンK含有量は、一般的に、使用される発酵素の種類に依存し、他方で、乳製品において従来使用されるラクトコッカス・ラクティス株は、大衆の必要量を適切に満たしたり、または潜在的なビタミンK欠乏を緩和する一助となるだけに十分な量のビタミンKを産生しないことは注意されるべきである。
【0021】
従って、小児、若者、成人および高齢者の、要求を満たしかつ必要ならば欠乏を補うことに寄与するに十分な量でビタミンKを含有する、食品、特に発酵製品および/またはフレッシュな乳製品についての必要性が当技術分野の水準において存在する。
【発明の概要】
【0022】
本発明は、同一条件下で培養した乳酸菌株によって産生されるビタミンK2よりも、少なくとも約1.2倍、より多い量のビタミンK2を標準発酵条件下で産生する乳酸菌の天然変異体を得るための方法であって、少なくとも以下の工程を含む方法である:
a)細胞のレドックス状態の修飾を誘導する選択培地において、標準発酵条件下で該乳酸菌株を培養する工程;および
b)同一条件下で培養した該乳酸菌株よりも少なくとも1.2倍より多くのビタミンK2を産生する場合、該変異体を選択する工程。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下において、用語「ビタミンK2」および「ビタミンK」は、ビタミンK2を示すために同様に使用される。
【0024】
従って、本発明は、それらが由来する株によって産生されるものよりも顕著に多い量のビタミンKを産生する乳酸菌株の新規の変異体を使用することにより、食品、特に発酵製品および/またはフレッシュな乳製品を製造することを提案することによって、この要求に答えようとする。
【0025】
さらに、研究の過程において、本発明者らは、従来の産生条件に関して非常に認知可能にビタミンKの産生を改善する乳酸菌を使用するための条件を発見した。従って、ビタミンK2で強化された食品、例えば、発酵製品および/またはフレッシュな乳製品を製造する目的で、有利には2006年10月4日付けのフランス特許出願番号06/08690の主題であるビタミンKの産生に特に好都合であると本発明者らによって同定された使用条件下で、本発明の主題であるビタミンK「過剰産生体(overproducer)」変異体が使用され得る。
【0026】
本明細書において用語「変異体」は以下を包含する:
− 天然変異体、即ち、淘汰圧によって参照乳酸菌株から自然に得られる;いかなる遺伝子操作も受けず、しかし、主に参照株からの突然変異および選択によって得られる、天然変異体;および
− 参照株へ適用された遺伝子操作によって、即ち定方向突然変異誘発技術によって、特にベクターを使用しての形質転換によって誘導された1つまたは複数の突然変異をそれらのゲノム中に含む突然変異体。
【0027】
ある国において(特に、ヨーロッパにおいて)、微生物、特に生存している微生物が混合されているヒトおよび/または動物の食用に意図された製品を開発する際は、食品製造業者により注意事項が守られるべきであることが、注意されるべきである。実際に、遺伝子組み換え生物(本明細書において、微生物)(GMOまたは突然変異体)は、消費者に恐れと不安を生じさせ得る。ある国においては、GMOが被るマイナスイメージにより、大衆がGMOを含有する食物を排斥する傾向がある。従って、消費者へ提供される食品中の含有量やこれらの製品が含有する成分の起源について、より透明性を消費者が要求する状況において、製造業者は、ほぼ排他的、またはさらに排他的に、GMOフリーの製品を提供するように動機付けられ得る。本発明の文脈において、従って、微生物を含有する加工食品は、天然株または天然株の変異体のみを使用することによって製造されることが、有利であり得る。
【0028】
第1局面によれば、本発明は、同一条件下で培養した乳酸菌株によって産生されるビタミンK2よりも、少なくとも約1.2倍、より多い量のビタミンK2を標準発酵条件下で産生する乳酸菌の天然変異体を得るための方法であって、少なくとも以下工程を含む方法に関する:
a)細胞のレドックス状態の修飾を誘導する選択培地において、標準発酵条件下で該乳酸菌株を培養する工程;および
b)同一条件下で培養した該乳酸菌株よりも少なくとも約1.2倍より多くのビタミンK2を産生する場合、該変異体を選択する工程。
【0029】
「変異体」は、本発明の意味において、それらが由来する株よりも多くのビタミンK2を産生することができる乳酸菌株である。より正確には、本発明の変異体は、初期株よりも少なくとも約1.2倍多くのビタミンK2を産生することができる。好ましくは、本発明の変異体によって産生されるビタミンK2の量は、同一の標準発酵条件下で初期乳酸菌株を培養することによって得られるそれよりも少なくとも約1.5倍多い。この倍率は、少なくとも約1.7、より優先的には少なくとも約1.8、なおより優先的には少なくとも約1.9であることが、なおより好ましい。この倍率のなおより好ましい値は、少なくとも2、2.2、2.4、2.5、2.7、2.8、2.9および3である。
【0030】
「参照」または「初期」乳酸菌株は、本発明の変異体が得られる株である。これらの株は、天然であり得、またはそれら自体、変異体、即ち、天然変異体もしくは突然変異体でさえあり得る。
【0031】
本発明の範囲内において、「実験室条件」は、当業者に周知の完全に標準発酵条件である。従って、表現「実験室条件」および「標準発酵条件」は、本明細書において完全に同義である。好ましい「実験室条件」は、本発明の意味において、以下の通りである:前記株を、市販のM17培地(Difco(商標)M17)または等価の培地において前培養する。続いての培養のために、前記前培養物によって接種を1%で行う。インキュベーション温度は約30℃である。実験室条件は、一般的な知識に基づいて、型通りの実験の後に、当業者によって必要に応じて修飾され得る。培養培地は、乳酸菌株、特にラクトコッカス種株を培養するために好適な培地である。
【0032】
好ましい態様によれば、乳酸菌株は、ラクトコッカス属、ロイコノストック属、エンテロコッカス属(Enterococcus)およびプロピオニバクテリウム属より選択される。乳酸菌株は、特に、ラクトコッカス・ラクティス種、ロイコノストック・ラクティス種、ロイコノストック・シュードメセンテロイデス種(Leuconostoc pseudomesenteroides)、ロイコノストック・メセンテロイデス種、ロイコノストック・デキストラニカム種(Leuconostoc dextranicum)、エンテロコッカス・フェシウム種(Enterococcus faecium)、およびプロピオニバクテリウム種より選択される。
【0033】
好ましくは、下記において開発されるように、本発明の方法において、バシトラシンや過酸化物などの酸化剤を含有する培養培地より選択される選択培地が使用される。
【0034】
従って、使用される選択培地は、細胞レドックス状態の修飾を誘導し得る。有利には、下記表Iに列挙される遺伝子1〜27より選択される少なくとも1つの遺伝子発現を、それが由来する乳酸菌株と比較することによる、変異体における修飾に関係する。
【0035】
(表1)

【0036】
好ましくは、遺伝子1〜27の発現は、乳酸菌株に関する前記変異体において変化している。
【0037】
「遺伝子発現の変化」は、本明細書において、考慮される遺伝子発現が初期乳酸菌株において観察される遺伝子発現に関し、量的に変化していることを意味する:
− 発現が増加している、これは、好ましくは、1〜15より選択される少なくとも1つの遺伝子についてでありうる;
− または発現が減少している、これは、好ましくは、16〜27より選択される少なくとも1つの遺伝子についてでありうる。
【0038】
好ましくは、変異体は標準発酵条件下で以下の場合、工程b)より選択される:
− 発酵素CHN-12よりも少なくとも約1.5倍多く、好ましくは少なくとも約2倍多く、なおより好ましくは少なくとも約3倍多くビタミンK2を産生する場合;および/または
− モデル天然株MG1363よりも少なくとも約1.5倍多く、好ましくは少なくとも約2倍多く、なおより好ましくは少なくとも約3倍多く、有利には約10倍多くまでビタミンK2を産生する場合。
【0039】
有利には、変異体は、標準発酵条件下で、発酵乳100 g当たり少なくとも約5.5μgのビタミンK2を産生する場合、工程b)において選択される。
【0040】
変異体によって産生されるビタミンK2の量が、標準実験条件下で発酵乳100 g当たり少なくとも約5.5μgである場合、それはビタミンK2「過剰産生体」変異体と呼ばれ得る。特に、本発明の意味における変異体は標準発酵条件下で発酵乳100 g当たり少なくとも約5.7μg、なおより好ましくは少なくとも約5.9μg、さらにより好ましくは少なくとも約6.1μg、さらにより良くは、少なくとも約6.3μgのビタミンK2を産生する。より好ましくは、本発明の変異体は標準発酵条件下で発酵乳100 g当たり少なくとも約6.5μg、好ましくは少なくとも約7μg、さらに好ましくは少なくとも7.5μg、さらにより好ましくは少なくとも約8μg、なおより好ましくは8.5μg、さらになおより好ましくは少なくとも約9μg、さらにより良くは、少なくとも約9.5μg、なお良くは、少なくとも約10μgのビタミンK2を産生する。
【0041】
第2の局面において、本発明は上述のような方法によって得ることができる乳酸菌株の天然変異体、ならびに該変異体の生物学的に純粋な培養物および培養物のフラクションに関係し、該変異体は、同一条件下で培養した初期乳酸菌株によって産生されるビタミンK2よりも少なくとも約1.2倍、より多くの量のビタミンK2を標準発酵条件下で産生する。
【0042】
特に、本発明の変異体は、実験室条件(または標準発酵条件)下で、以下を産生する:
− CHR. Hansen A/S(Horsholm, DK)によって販売されるCHN-12発酵素よりも少なくとも約1.5倍多く、好ましくは少なくとも約2倍多く、なおより好ましくは少なくとも約3倍多くのビタミンK2;および/または
− 番号CBS 364.89でCBS(Baarn, NL)へ提出されたモデル天然株ラクトコッカス・ラクティス亜種・クレモリスMG1363よりも少なくとも約1.5倍多く、好ましくは少なくとも約2倍多く、なおより好ましくは少なくとも約3倍多く、有利には約10倍多くまでのビタミンK2。ラクトコッカス・ラクティス亜種・クレモリスのこのモデル株は、当業者に完全に周知である。それは、1983年にGassonによって初めて記載された(Gasson M.、1983年)。
【0043】
上記に与えられる「天然変異体」の定義と一致して、本発明の変異体は、好適な培養培地において淘汰圧によって得られた天然変異体である。
【0044】
淘汰圧によって得られるこのような天然変異体のいくつかの例を、本願に提供する。手短には(より詳細については、下記「実施例」パートを参照のこと)、天然変異体の好ましい例およびそれらを得るための方法は、以下である。
【0045】
第1の態様によれば、本発明の天然変異体は、バシトラシンを含有する培養培地において淘汰圧によって得られる。初期株に応じて、培地中のバシトラシンの濃度は、例えば、少なくとも約0.4 mg/L、好ましくは少なくとも約1 mg/L、さらにより好ましくは少なくとも約2 mg/L、なおより好ましくは少なくとも約3 mg/L、全ての中で最も好ましくは少なくとも約4 mg/Lであり得る。しかし、本発明の天然変異体を得るために使用されるバシトラシンの濃度は、最初に使用される乳酸菌株のバシトラシン耐性のレベルに応じて決定されることが当業者に明らかである。必要に応じて、当業者は初期株の特性に応じて選択される異なるいくつかの濃度で研究する。有利には、当業者は、バシトラシン濃度範囲で研究し得る。
【0046】
特に興味深い天然変異体は、2006年1月20日にCollection Nationale de Culture des Microorganismes[National Microorganism Culture Collection](CNCM, Institut Pasteur, 25, rue du Docteur Roux, 75724 Paris Cedex 15, France)へ提出した天然変異体I-3557と同一の生物学的特性を本質的に有する。
【0047】
表現「天然変異体I-3557と本質的に同一の生物学的特性を有する変異体A」によって、変異体Aがバシトラシンを含有する培地において淘汰圧によって選択された天然変異体であることが本明細書において意味される。しかし、変異体Aを得るために培地において使用されるバシトラシンの濃度は、本定義を満たすことについて決定的でない。代わりに決定的な条件は、変異体Aが実験室条件下で変異体I-3557とほぼ同じぐらいの量、好ましくは少なくとも同じぐらいの量のビタミンK2を産生することができることである。本発明の意味における天然変異体は、好ましくは天然変異体I-3557である。
【0048】
第2の態様において、本発明の天然変異体は少なくとも1つの酸化剤を含有する培養培地において淘汰圧によって得られる。例えば、酸化剤は、過酸化物、過塩素酸イオン、鉄イオン、メナジオン、パラコート、酸素、または任意の他の好適な酸化剤化合物より選択され得る。好ましくは、酸化剤は過酸化物である。バシトラシンと同様に、培地中の過酸化物濃度は、初期乳酸菌株に応じて決定される。例えば、以下の範囲内の過酸化物の1または複数の濃度が試験され得る:少なくとも約20、25、27、28.5 mg/L。さらに
、当業者は、通常の方法で実験的に試験される過酸化物について、好適な1または複数の濃度、あるいはさらに濃度範囲を決定する。
【0049】
有利には、本発明の天然変異体は、天然変異体I-3558(2006年1月20日にCNCMへ提出)と同一の生物学的特性を本質的に有する。上記で提供された表現「天然変異体I-3557と本質的に同一の生物学的特性を有する変異体A」の定義は、本明細書において準用して(バシトラシンの代わりに過酸化物;変異体I-3557の代わりに変異体I-3558)適用される。好ましくは、このような変異体は、天然変異体I-3558である。
【0050】
本発明の第3の局面は、同一条件下で培養した初期株よりも少なくとも約1.2倍多くのビタミンK2を、標準発酵条件下で産生する前述の説明に従う乳酸菌株の天然変異体を得るための特定の選択条件の使用に関する。
【0051】
これらは、特に以下である:
− バシトラシン耐性の使用;および/または
− 過酸化物などの酸化剤に対する耐性の使用。
【0052】
前述したように、前記天然変異体は有利には標準発酵条件下で発酵乳100 g当たり少なくとも約5.5μgのビタミンK2を産生することができる。
【0053】
本発明の第4の局面は、上述のような少なくとも1つの変異体を含む乳酸発酵素に関する。
【0054】
本発明の第5の局面によれば、本発明はビタミンK2強化食品の製造方法であって、少なくとも以下の工程を含む方法に関する:
a)食品の中間調製物中において、上述のような少なくとも1つの変異体および/または少なくとも1つの発酵素を使用する工程;ならびに
b)ビタミンK2強化食品を得る工程。
【0055】
または、食品のビタミンK2含有量を増加させるための方法は少なくとも以下の工程を含む:
a)食品の中間調製物中において、上述のような少なくとも1つの変異体および/または少なくとも1つの発酵素を使用する工程;ならびに
b)ビタミンK2強化食品を得る工程。
【0056】
前記変異体発酵および/または乳酸発酵は、適所において(食品製造現場において)前培養された細菌濃縮物を使用すること、または発酵素供給業者によって前培養され、次いで包装され、食品製造現場へ発送された細菌を使用することによって、特に実施され得る。供給業者は、新鮮なまたは凍結された状態で細菌を包装し得;または、細菌は、乾燥または凍結乾燥され得る。細菌は、全ての場合において、(任意の他の公知の乳酸発酵のように)全く従来の様式で乳製品マス(dairy mass)へ添加される。
【0057】
本発明の第6の局面は、上記に開示されるような方法によって得ることができるビタミンK2強化食品に関する。本発明は、ヒト用および/または動物用の食品、特にヒト用の食品に関する。有利には、このようなビタミンK2強化食品はそれを消費する人の骨の硬さを強化する。好ましくは、この人は小児である。
【0058】
好ましくは、本発明の意味における食品は発酵製品、フレッシュな発酵されたもしくは発酵されていない乳製品、発酵されたもしくは発酵されていない植物の汁(果物、野菜、穀物、大豆など)に基づく製品、ならびにそれらの組み合わせより選択される。より特に好ましくは、本発明の意味における食品は発酵製品および/またはフレッシュな乳製品である。
【0059】
本発明の文脈において、「フレッシュな乳製品」は、より特には、ヒトの食用のために用意された、フレッシュな発酵された乳製品、即ち、フレッシュな発酵された乳製食品を示す。本願は、特に、発酵乳およびヨーグルトに関する。または、前記フレッシュな発酵された乳製食品は、フロマージュ・ブラン(fromage blanc)またはプティ・スイス(petit-suisse)であり得る。
【0060】
用語「発酵乳」および「ヨーグルト」は、乳業におけるそれらの通常の意味、即ち、ヒトの食用に意図され、かつ、乳基質の乳酸発酵から生じる製品の意味を与えられる。これらの製品は、第2の成分、例えば、果物、野菜、砂糖などを含有し得る。例えば、1988年12月31日にJournal Officiel de la Republique Francaiseにおいて公開された、発酵乳およびヨーグルトに関する1988年12月30日付けのフランス法令88-1203を参照のこと。
【0061】
“Codex Alimentarius”も参照され得る(FAOおよびWHOのCodex Alimentarius Commissionによって作成され、FAOの情報部によって公開され、http://www.codexalimentarius.netでオンライン入手可能;より特には、Codex Alimentariusの第12巻“Codex Standards for milk and milk products”および規格“CODEX STAN A-11(a)-1975”を参照のこと)。
【0062】
従って、表現「発酵乳」は、低温殺菌と少なくとも等価の処理を受け、次いで各製品について1または複数の特徴的な種に属する微生物が接種された、乳基質から製造された乳製品について、本願において用いられる。「発酵乳」は、使用される乳基質の構成要素を除去するいかなる処理をも受けておらず、特に、凝乳(coagulum)を脱水させていない。「発酵乳」の凝固は、使用される微生物の活性に起因するもの以外の手段によって得られてはいけない。
【0063】
用語「ヨーグルト」は、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)およびストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)という名称の特定の好熱性乳酸菌の発育によって、局所的かつ確立した使用に従って、得られる発酵乳について用いられ、これらは、乳部分1グラム当たり少なくとも細菌1000万個の量で、最終製品中に生存していなければならない。
【0064】
ある国においては、規則によって、ヨーグルトの製造における他の乳酸菌の添加、特に、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)および/またはラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)および/またはラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)の株の追加の使用が認可されている。これらの追加の乳酸菌株は、最終製品に対して種々の特性を与える、例えば、腸内細菌叢のバランスを改善するか、または免疫系を調節するように意図される。
【0065】
実際には、従って、表現「発酵乳」は、一般的に、ヨーグルト以外の発酵乳を示すために使用されている。国によって、発酵乳製品は、「ケフィア(Kefir)」、「クミス(Kumis)」、「ラッシー(Lassi)」、「ダヒ(Dahi)」、「レーベン(Leben)」、「フィルミョルク(Filmjolk)」、「ヴィリ(Villi)」または「アシドフィルスミルク(Acidophilus milk)」などの種々の名称を有し得る。
【0066】
発酵乳の場合、発酵乳基質中に含有される遊離の乳酸の量は、消費者への販売時に、100 g当たり0.6 g未満であってはならず、乳部分に関するタンパク質の含有量は、普通のミルクのタンパク質含有量未満ではないべきである。
【0067】
最後に、名称「フロマージュ・ブラン」または「プティ・スイス」は、本願において、乳酸菌のみによって発酵された(かつ、乳酸発酵以外の発酵無し)、熟成されておらず、塩が添加されていないチーズについて用意される。フロマージュ・ブランの乾燥固体における含有量は、完全な脱水後、それらの脂肪含有量がフロマージュ・ブラン100 g当たり20 gよりも高いかまたは多くとも20 gかどうかによって、フロマージュ・ブラン100 g当たり15 gまたは10 gへ低下され得る。フロマージュ・ブラン乾燥固体含有量は、13%〜20%で含まれる。プティ・スイスの乾燥固体含量は、プティ・スイス100 g当たり23 g以上である。それは、一般的に、25%〜30%で含まれる。フロマージュ・ブランおよびプティ・スイスは、本発明の技術分野において伝統的に使用される、名称「フレッシュチーズ」に一般的に分類される。
【0068】
第7の局面において、本発明は、ビタミンK2強化食品を製造するための上述の少なくとも1つの変異体および/または少なくとも1つの発酵素の使用に関する。
【0069】
有利には、このようなビタミンK2強化食品はそれを消費する人の骨の硬さを強化する。好ましくは、この人は小児である。
【0070】
本発明は上記の単一の説明によって限定されないことは明らかである。本発明の他の態様および利点は、純粋に例示のために提供される下記の実施例を読むと明らかとなる。
【0071】
実施例
前置きとして、下記の天然変異体を得るためのプロトコルは、任意の初期乳酸菌株に適用可能であることが注意されるべきである。実用的な理由のために、初期株に応じて、当業者は本発明者らによって開発された特定の実験条件を変更するように誘導され得る。いずれにしても当業者が下記手順に対して導入し得る変更は小さく進歩性を含まない簡単な型通りの操作のみを必要とする。
【0072】
I - バシトラシン耐性の天然変異体の獲得および使用
バシトラシンまたは過酸化物などの薬剤への曝露が、これらの薬剤に対してより高い耐性を有する細菌株の選択を可能にすることが公知であるが、バシトラシンまたは過酸化物耐性と細菌ビタミンK2産生レベルとの間の関連は、文献において確立されていない。
【0073】
本発明者らの研究の範囲内において、本発明者らは全く予想外にも、細菌がビタミンK2産生増加を伴って、バシトラシンまたは過酸化物などの特定の薬剤に対する耐性に関する独特な機構を進化させることができることを発見した。本発明者らは、選択薬剤としてバシトラシンまたは過酸化物を使用することによって、ビタミンK2を過剰に産生することができる乳酸菌(特に、ラクトコッカス・ラクティス)の天然変異体を得る目的のためにこの発見を利用することを構想した。
【0074】
I-1バシトラシン耐性の変異体を得るためのプロトコル
前培養物を、5 g/lラクトース(本明細書以下において、M17 Lac培地)およびヘミン(20 μl/ml)(本明細書以下において、M17 Lac+ヘミン培地)を添加した従来の市販のM17培養培地(M17倍地、Difco(商標))2 mlの存在下でラクトコッカス・ラクティスの天然株の結晶から作製する。インキュベーションを30℃で撹拌しながら行った。
【0075】
前記前培養物を使用し、バシトラシン(4μg/ml)を補充したM17 Lac+ヘミン2 mlに接種した。接種の程度は1%であった。次いで、培養物を撹拌しながら30℃で48時間インキュベートした。
【0076】
次いで、この懸濁液100 μlをM17 Lac寒天上に置いた。バシトラシン2.5 mgを含ませたペーパーディスクを、皿の中央に置いた。前記寒天を30℃で48時間インキュベートした。ペーパーディスク付近のクローンを、M17 Lac+ヘミン2 ml中のバシトラシン(4μg/ml)の存在下で培養した。インキュベーションを、撹拌しながら30℃で24時間続けた。
【0077】
30℃で48時間インキュベーションした後、細胞をバシトラシン(2μg/ml)の存在下でM17 Lac寒天上において単離した。単離したクローンをM17 Lac+ヘミンにおいて培養し、次いで撹拌しながら30℃で24時間インキュベートした。この懸濁液を凍結ストックを開発するために使用した。
【0078】
これらの実験によって、本発明者らは、2006年1月20日にCNCMへ提出した天然変異体ラクトコッカス・ラクティス亜種・クレモリスI-3557を選択することができた。
【0079】
I-2「バシトラシン」変異体を含む乳製品例を作製するためのプロトコル
前培養を、2 mlのM17 Lac中の前記株の結晶から行った。
【0080】
前培養物を使用し、1%で、50 mlのUHT全乳に接種し、これを30℃で24時間インキュベートした。
【0081】
下記表IIに、バシトラシン耐性変異体および対応の野生型株についての、μg当量MK-4/プロダクト100 gで表されるビタミンK2アッセイの結果を与える。
【0082】
(表2)

【0083】
前記バシトラシン耐性変異体は、初期野生型株と比べて3倍ビタミンKを過剰に産生する。
【0084】
II - 過酸化物耐性の天然変異体の獲得および使用
ラクトコッカス・ラクティスの呼吸がかなり最近発見された(Duwatら、2001年)。L.ラクティスの株(IL1403)のゲノムの配列決定によって、有気呼吸に必要な機能をコードする遺伝子の存在が確認された(Bolotinら、2001年)。実際に、L.ラクティスは、メナキノン合成およびシトクロムDの生物発生に必要なタンパク質をコードするmenおよびcytABCDオペロンを有する。この種はまた、ヘム合成の最終工程に関与する3つの遺伝子(鉄をヘムと結合させるためのポルフィリンの酸化に必要とされる、hemH、hemKおよびhemN)を有するが、このプロセスの第1工程に関与する遺伝子を有さない。しかし、L.ラクティスは、プロトポルフィリノーゲンの存在下で酸化的リン酸化を行うことができる。
【0085】
L.ラクティスは、培養培地中の酸素およびヘムの存在下で呼吸し得ることも示された。この呼吸によって、細胞はより大きなバイオマスに達することが可能となり、観察される最終pHは、通常得られるものよりも高い。酸素および/またはヘムの存在下での培養によって、発酵の最初の約6または7時間の間、同等の増殖曲線を得ることが可能となる。その後、グルコース消費は酸素およびヘムの存在下での培養の場合減少し、従って乳酸産生は低下する。これは培養の遅くに起こる代謝シフトを説明している。従って、L.ラクティスの呼吸は、指数増殖期の終わりごろに起こる(Duwatら、2001年)。
【0086】
L.ラクティスの呼吸の役割はまだ公知ではなく、このタイプの発酵代謝におけるビタミンK2の役割も公知ではない。本発明者らは、さらに、試験条件(培地中にヘム無し、培地の十分な酸素化を可能にする撹拌無し)下で呼吸が誘導されなかった一方で、ビタミンK2がL.ラクティス株によって産生されたことを観察した。
【0087】
細胞質中において、タンパク質は細胞外タンパク質とは異なり、ほとんどジスルフィド架橋を有さない。ジスルフィド架橋の数を制限することを可能にする広範囲の酵素システムが存在する。S-S結合は、酵素、チオレドキシンによってSH官能基へ還元される。この酵素は、チオレドキシンレダクターゼによって再生される。Vidoら(2005年)は、遺伝子操作によってL.ラクティス突然変異体trxB1を作製した。trxB1遺伝子は、チオレドキシンレダクターゼをコードする。この突然変異体により合成されたタンパク質の二次元電気泳動研究によって、突然変異体はビタミンK2合成経路の特定の酵素、即ち、MenBおよびMenD酵素を過剰に産生することが示された。
【0088】
これらのデータを考慮し、個人的に観察した後、本発明者らは、L.ラクティスによるビタミンK2の産生を改善するための可能性のある手段の1つが呼吸を誘導することであり得ると考えた。別の手段は、酸化ストレスに応答するようにビタミンK2を動員しようとすることであり得る。
【0089】
従って、本発明者らは、酸化ストレスに耐性である天然変異体を得ようとした。得られた天然変異体はMenオペロンの過剰発現を示さないことに注意することが重要である。
【0090】
II-1酸化ストレス耐性の変異体を得るためのプロトコル
過酸化物を、使用可能な酸化剤の例として選択した。当然ながら、他の酸化剤、例えば、過塩素酸イオン、鉄イオン、メナジオン、パラコート、酸素、または任意の他の好適な酸化剤化合物も同様の条件下で使用することができた。
【0091】
M17 Lac培地における前培養後、初期天然株を、高い濃度の過酸化物(例えば、少なくとも20〜少なくとも約25、27および28.5 mg/Lの範囲)を含有する培地に移植した。培養物を30℃でインキュベートした。24時間後、濃度範囲の最初のチューブが増殖を示さなかったので、それらをさらに24時間インキュベートした。次いで、クローンを、寒天培地においてストリーキングすることによって単離した。クローンを、27 mg/Lの過酸化物濃度について選択した。本発明者らは、28.5 mg/Lの過酸化物濃度を超えては、増殖しなかったことに注目した。
【0092】
これらの実験によって、本発明者らは、2006年1月20日にCNCMへ提出した天然変異体ラクトコッカス・ラクティス亜種・クレモリスI-3558を選択することができた。
【0093】
II-2 「過酸化物」変異体を含む乳製品例を製造するためのプロトコル
選択したクローンを、24時間全乳中において増殖させた。次いで、最終のビタミンKアッセイのためにサンプルを採り、-80℃で凍結した。
【0094】
下記表IIIは、初期株によって産生された量と比較しての、過酸化物耐性変異体によって産生されたビタミンK2の量を示す(μg当量MK-4/発酵乳100 gで表される量)。
【0095】
(表3)

【0096】
上記表IIIが示すように、前記変異体は、対応の野生型株の約2倍多くのビタミンK2を産生する。
【0097】
III -天然変異体I-3557およびI-3558の遺伝子型キャラクタリゼーション
III-1-材料および方法
前記株をM17ラクトース培地において30℃で一晩培養した。市販の全乳に、1%前培養物の量でこれらの株の各々を接種した。接種したミルクを12 mLチューブ中に配置した。チューブを液体窒素へ投入することによって、発酵を所望の生理学的状態、指数増殖期または減速期において停止させた。次いで、使用するまでチューブを-80℃で保存した。前述の実験によって、ビタミンKは本質的に減速期に産生されることが示された(データは示さず)。
【0098】
トータルRNAの抽出
全てのサンプルを同様に試験した。
【0099】
RNAの分解を防ぐために、これらのサンプルをRNA保護剤(Qiagen - ref 76506)の存在下で解凍した。これらのサンプルからの細胞を遠心分離によって回収した。
【0100】
次いで、各々のサンプルの細胞RNAを、Trizol(登録商標)(Invitrogen - ref 15596-026)の存在下で、ビーズ(Biospec Products - ref 11079101z、ジルコニア/シリカビーズ直径0.1 mm)を含むMixer Mill MM 300細胞破壊器(Qiagen)によって単離した。次いで、RNAの濃度および純度比(230/260および260/280 nm)を、ND-1000 Nanodrop(登録商標)分光光度計(Nanodrop Technologies)での分光測光法によって測定した。RNA品質(RIN, 比16/23 S)もまた、2100 Bioanalyzer - エキスパートソフトウェア, バージョンB,02.05 (Agilent Technologies)およびRNA 6000 Series II Nano Kits(Agilent Technologies - ref 5067-1511)によって測定した。
【0101】
mRNAの標識化およびDNAチップ上でのハイブリダイゼーション
DNAチップ上へスポットされたPCR産物の合成について使用されたものと同一の特定のリバースプライマーを使用してmRNAの逆転写によって標的を合成した。これらの直接的マーカーは、CyScribe first strand cDNA labeling System dCTP/purification CyScribe GFX kit(Amersham - ref RPN6202X)およびヌクレオチドへ結合された蛍光分子Cy3-dCTP/Cy5-dCTP(Perkin Elmer - ref NEL576/NEL577)によりEurogentec社によって作製された。
【0102】
ラクトコッカス・ラクティス・クレモリスMG1363株(NCBIにおいて入手可能な配列)の、PCR産物へのDNAチップ上の標識化標的のハイブリダイゼーションは、これらのDNAチップ自体を製造および販売しているEurogentec社によって行われた。この会社は、従来のハイブリダイゼーションおよび洗浄プロトコルを使用する(Eurogentecハイブリダイゼーションバッファー−ref AR-HYB-01、Advalytix Slidebooster SB800ステーション - Implenにおいて42℃で一晩インキュベーション、周囲温度で撹拌しながら5分間0.2X SSC/0.1% SDSバッファー中においてハイブリダイズされたDNAチップの洗浄、次いで、時折撹拌しながら周囲温度で5分間0.2X SSCバッファー中においてリンス、次いで5分間1000 rpmでの遠心分離によるDNAチップの乾燥)。
【0103】
ハイブリダイゼーションデータは、Axon 4100AスキャナーおよびGenePix Pro 5.1ソフトウェア(Axon Instruments)によりEurogentec社によって得られた。次いで、ハイブリダイズされたDNAスキャンが、Eurogentec社によって本発明者らへ送られた。
【0104】
データ処理
ハイブリダイズされたDNAチップをスキャンすることからのデジタル結果が、GenePix Pro 6.0ソフトウェアにより本発明者らによって得られた。
【0105】
これらの予備デジタル結果を、Gif sur Yvette (91)のCNRSのTranscriptomique GODMAPプラットフォームによって開発されたMANGOソフトウェアの統計処理によってフォローし、顕著な発現比を得;遺伝子に対応する各スポットをDNAチップ上において複製し、ヌクレオチドへ結合された蛍光分子を組み込むことに固有のバイアスを制限するためのラベルスワップ(ダイスワップ)を含む、各生物学的実験を3回再現し、従って、比較のために6個のスライドを提示した。
【0106】
示差発現比(differential expression ratio)を、発現比の値(rが2.00以上およびrが2.00以下)において、および平均バックグラウンドノイズに関して、調節されたp値(<0.01)などの再現性基準に基づいて選択した。
【0107】
III-2-結果
2つの変異体が、特定の遺伝子の発現に関して同様の結果を有した。関連する遺伝子の大部分が、細胞のレドックス状態、特にFe-Sクラスターに関して、関係した。この文脈において、メチオニンおよびシステイン代謝が、鉄輸送が修飾されるように、修飾される。酸化ストレス防御機構に関与するいくつかの酵素の発現が、修飾された:チオレドキシンH、チオレドキシンB1、NADHデヒドロゲナーゼ、NADHデヒドロゲナーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼなど。
【0108】
指数期において、L.ラクティスの呼吸に関与する特定の酵素が過剰発現される:フマル酸レダクターゼ(frdC)およびシトクロムオキシダーゼ(cydD)。同様に、プリン塩基代謝が修飾されるようである。
【0109】
下記表IVは、特定の遺伝子の発現比を提供し、減速期における変異体と野生型株との比較を確立する。
【0110】
(表4)

【0111】
下記表Vは、指数増殖期における野生型株との比較による変異体における遺伝子の発現比を提供する。
【0112】
(表5)

【0113】
参考文献


【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一条件下で培養した乳酸菌株によって産生されるビタミンK2よりも、少なくとも約1.2倍、より多い量のビタミンK2を標準発酵条件下で産生する乳酸菌の天然変異体を得るための方法であって、少なくとも以下の工程を含む方法:
a)細胞のレドックス状態の修飾を誘導する選択培地において、標準発酵条件下で該乳酸菌株を培養する工程;および
b)同一条件下で培養した該乳酸菌株よりも少なくとも1.2倍より多くのビタミンK2を産生する場合、該変異体を選択する工程。
【請求項2】
乳酸菌株が、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、エンテロコッカス属(Enterococcus)およびプロピオニバクテリウム属(Propionibacterium)より選択されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
乳酸菌株が、ラクトコッカス・ラクティス種(Lactococcus lactis)、ロイコノストック・ラクティス種(Leuconostoc lactis)、ロイコノストック・シュードメセンテロイデス種(Leuconostoc pseudomesenteroides)、ロイコノストック・メセンテロイデス種(Leuconostoc mesenteroides)、ロイコノストック・デキストラニカム種(Leuconostoc dextranicum)、エンテロコッカス・フェシウム種(Enterococcus faecium)、およびプロピオニバクテリウム種(Propionibacterium sp)より選択されることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
選択培地が、バシトラシンまたは過酸化物などの酸化剤を含有する培養培地より選択されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
以下の遺伝子1〜27より選択される少なくとも1つの遺伝子の発現が、前記乳酸菌株に関する前記変異体において修飾されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。

【請求項6】
遺伝子1〜27の発現が、前記乳酸菌株に関する前記変異体において修飾されていることを特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項7】
遺伝子1〜15より選択される少なくとも1つの遺伝子の発現が、前記乳酸菌株に関する前記変異体において増加していることを特徴とする、請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
遺伝子16〜27より選択される少なくとも1つの遺伝子の発現が、前記乳酸菌株に関する前記変異体において減少していることを特徴とする、請求項5〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の方法によって得ることができる、同一条件下で培養した乳酸菌株によって産生されるビタミンK2よりも少なくとも約1.2倍より多い量のビタミンK2を標準発酵条件下で産生する乳酸菌株の天然変異体、ならびに該変異体の生物学的に純粋な培養物および培養物フラクション。
【請求項10】
2006年1月20日にCollection Nationale de Culture des Microorganismes(CNCM, Institut Pasteur, 25, rue du Docteur Roux, 75724 Paris Cedex 15, France)へ提出した天然変異体I-3557であることを特徴とする、請求項9記載の天然変異体。
【請求項11】
2006年1月20日にCollection Nationale de Culture des Microorganismes(CNCM, Institut Pasteur, 25, rue du Docteur Roux, 75724 Paris Cedex 15, France)へ提出した天然変異体I-3558であることを特徴とする、請求項9記載の天然変異体。
【請求項12】
同一条件下で培養した乳酸菌株によって産生されるビタミンK2よりも、少なくとも約1.2倍、より多い量のビタミンK2を標準発酵条件下で産生する乳酸菌株の天然変異体を得るためのバシトラシン耐性の使用。
【請求項13】
同一条件下で培養した乳酸菌株によって産生されるビタミンK2よりも、少なくとも約1.2倍、より多い量のビタミンK2を標準発酵条件下で産生する乳酸菌株の天然変異体を得るための過酸化物などの酸化剤に対する耐性の使用。
【請求項14】
請求項9〜11のいずれか1項記載の少なくとも1つの変異体を含む乳酸発酵素。
【請求項15】
ビタミンK2強化食品の製造方法であって、少なくとも以下の工程を含む、方法:
a)食品の中間調製物中において、請求項9〜11のいずれか1項記載の少なくとも1つの変異体、および/または請求項14記載の発酵素を使用する工程;ならびに
b)ビタミンK2強化食品を得る工程。
【請求項16】
請求項15記載の方法によって得ることができるビタミンK2強化食品。
【請求項17】
発酵製品および/またはフレッシュな乳製品であることを特徴とする、請求項16記載の食品。
【請求項18】
ビタミンK2強化食品を製造するための、請求項9〜11のいずれか1項記載の少なくとも1つの変異体、および/または請求項14記載の少なくとも1つの発酵素の使用。
【請求項19】
ビタミンK2強化食品が消費者の骨を強化することを特徴とする、請求項18記載の使用。

【公表番号】特表2010−505407(P2010−505407A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−530895(P2009−530895)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際出願番号】PCT/EP2007/060572
【国際公開番号】WO2008/040793
【国際公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(500223925)
【氏名又は名称原語表記】COMPAGNIE GERVAIS DANONE
【Fターム(参考)】