説明

ビニルアルコール系重合体を含む水性組成物とこれを用いた接着剤

【課題】ビニルアルコール系重合体を含む水性組成物および接着剤であって、溶液としての粘度安定性、高速塗工性、初期接着性、および耐水性などの諸特性に優れるとともに、安全性が確保された水性組成物および接着剤を提供する。
【解決手段】ビニルアルコール単位の含有率X(モル%)およびエチレン単位の含有率Y(モル%)が、式「X+0.2Y>90」を満たすビニルアルコール系重合体(A)と、固形分1gあたりの末端アルデヒド基の含有量が1.2〜2.4(mmol)である、エチレン尿素およびグリオキサールの付加縮合物(B)とを含み、ビニルアルコール系重合体(A)と付加縮合物(B)との固形分重量比が、(A):(B)=99:1〜50:50の範囲である水性組成物とする。ただし、上記式において、X<99.9、0≦Y<10、である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニルアルコール系重合体を含む水性組成物と、これを用いた接着剤とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、接着剤、特に紙用接着剤、として、澱粉、カゼイン、ゼラチン、グアーガム、アラビアガム、アルギン酸ソーダなどの天然糊材;カルボキシメチルセルロース(CMC)、酸化澱粉、メチルセルロースなどの加工天然糊材;アクリルエマルジョン、ポリ酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン、SBR(スチレン−ブタジエンゴム)ラテックスなどの合成樹脂系エマルジョンやゴムラテックス;あるいは、ビニルアルコール系重合体(以下、単に「PVA」ともいう);を接着成分として含む接着剤が、単独で、あるいは2以上を組み合わせて用いられている。なお、PVAには、ビニルアルコール単位以外の構成単位、例えばエチレン単位、を有する変性ポリビニルアルコールが含まれる。
【0003】
しかし、天然糊材および加工天然糊材を接着成分とする接着剤には、十分な接着力が得られない、接着剤溶液の粘度安定性に欠ける、糊材の腐敗が生じやすい、長期にわたり一定の品質を確保することが難しい、などの欠点がある。合成樹脂系エマルジョンやラテックスを接着成分とする接着剤は、接着力には優れるものの、機械的な安定性に欠けたり、表面の皮張りが激しいなどの問題を抱えるものが多い。一方、PVAを接着成分とする接着剤(PVA系接着剤)は、安価でありながら優れた接着性を示し、板紙、段ボール、紙管、襖などの表具、および壁紙の接着などに幅広く用いられている。
【0004】
近年、これら接着剤を使用した製品のコストダウンおよび生産性の向上を目的として、接着剤の高速塗工性、初期接着性、および耐久性(例えば耐水性)などの諸特性の向上が求められている。PVA系接着剤では、例えば、PVAおよびホウ酸からなる接着剤とすることにより上記諸特性を向上できるが、現在、環境への配慮からホウ酸の使用が制限される状況にあり、その代替物が強く求められている。また例えば、PVAと、PVAの架橋剤となる尿素ホルムアルデヒド樹脂とを組み合わせることで、初期接着性および耐水性を改善しようとする試みが多数なされているが、当該接着剤は、その使用時に、上記架橋剤に由来するホルムアルデヒドが発生するという欠点を有する。ホルムアルデヒドは人体に対して有害であり、刺激臭(空気中に10ppm存在するだけで、その刺激臭に耐えられなくなる)や皮膚障害などの健康障害が誘発されないように、室内において所定の濃度以下となるように法規制がなされている。
【0005】
ホルムアルデヒドを分子構造内に含まない架橋剤として、環状尿素とグリオキサールとを反応させた樹脂が提案されている(例えば、特許文献1、2を参照)。文献1に開示の樹脂は、架橋性基であるアルデヒド基がその双方の末端に配置されている(文献1の第3頁左下欄参照)ために架橋性に優れており、当該樹脂を架橋剤として含む接着剤は、耐水性(例えば耐水接着性)に優れている。しかし、後述の実施例に示すように、その架橋性の高さから、当該樹脂を含む接着剤では、高速塗工性、および溶液としての粘度安定性の確保が難しい。また、このような樹脂の製造工程では環状尿素に対して過剰のグリオキサールを用いるため、得られた樹脂の溶液中にグリオキサールが多く残存している。グリオキサールは、ホルムアルデヒドほどの揮発性を有さないが、人体の皮膚や粘膜に対する刺激性を有するとともに、その変異原性が陽性であるため、安全性の観点からは、残存グリオキサールの量が少ない樹脂が望まれる。
【0006】
一方、文献2に開示の樹脂は、その製造工程におけるグリオキサール使用量が少ないために残存グリオキサールの量は少ないが、樹脂の末端の双方がアミド基である(文献2の第2頁右下欄参照)ため架橋剤としての反応性に乏しく、当該樹脂を含む接着剤は、特に耐水性(耐水接着性)に劣る。
【0007】
PVA系接着剤に関するその他の技術を、以下に例示する。
【0008】
特許文献3には、特定の金属塩を含有するPVA系接着剤が開示されている。当該接着剤では、高速塗工性および初期接着性を改善できるものの、溶液としての安定性に課題がある。特許文献4には、エチレン単位を全構成単位の1〜20モル%含有する変性ポリビニルアルコール、澱粉および糖類からなるPVA系接着剤が開示されている。当該接着剤では、従来よりも、接着力、耐水接着力および保存安定性が改善されているが、その高速塗工性、耐熱性、耐クリープ性は必ずしも十分であるとはいえない。特許文献5には、分子中に1,2−グリコール結合を1.8〜3.5モル%含有し、かつけん化度が90モル%以上のビニルアルコール系重合体と、無機充填剤とを必須成分とするPVA系接着剤が開示されている。当該接着剤では、従来よりも、粘度安定性、高速塗工性および初期接着性が格段に改善されているが、耐水性などの耐久性が十分ではないことがある。
【特許文献1】特開昭53−44567号公報
【特許文献2】特開昭59−64683号公報
【特許文献3】特開平4−239085号公報
【特許文献4】特開平11−21530号公報
【特許文献5】特開2001−164219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これらの問題を鑑み本発明は、ビニルアルコール系重合体を含む水性組成物および当該組成物を含む接着剤であって、水性組成物としての粘度安定性、高速塗工性、初期接着性、ならびに、当該組成物を塗布した後に形成される膜の耐水性(特に耐水接着性)、などの諸特性に優れるとともに、安全性が確保された水性組成物および接着剤を提供することを目的とする。
【0010】
なお、本明細書では、水性組成物または接着剤を塗布した後に形成される膜(接着剤を塗布した場合、この膜は接着層であるともいえる)の耐水性を、単に「水性組成物の耐水性」、「接着剤の耐水性」ともいう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討の結果、粘度安定性、高速塗工性、初期接着性、および耐水性など、PVAと架橋剤とを含む水性組成物の諸特性について、PVAおよび架橋剤のいずれか一方の構成により一義的に決定されるのではなく、両者の構成の相乗効果により高いレベルでバランスよく向上できることを見出した。
【0012】
本発明の水性組成物は、ビニルアルコール単位の含有率X(モル%)およびエチレン単位の含有率Y(モル%)が、以下の式(1)を満たすビニルアルコール系重合体(A)と、固形分1gあたりの末端アルデヒド基の含有量が1.2〜2.4(mmol)である、エチレン尿素およびグリオキサールの付加縮合物(B)とを含み、ビニルアルコール系重合体(A)と付加縮合物(B)との固形分重量比が、(A):(B)=99:1〜50:50の範囲である。
X+0.2Y>90 (1)
ただし、上記式(1)において、X<99.9、0≦Y<10、である。
【0013】
本発明の接着剤は、上記本発明の水性組成物を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ビニルアルコール単位の含有率X、およびエチレン単位の含有率Yを特定の範囲としたPVA(A)と、末端アルデヒド基の含有量が特定の範囲にある、エチレン尿素およびグリオキサールの付加縮合物(B)とを含むことにより、粘度安定性、高速塗工性、初期接着性、および耐水性などの諸特性に優れるとともに、安全性が確保された水性組成物を提供できる。
【0015】
本発明の水性組成物は、単独で、あるいは他の添加剤を加えて、接着剤、特に紙用接着剤、として好適に用いることができる。即ち、本発明によれば、粘度安定性、高速塗工性、初期接着性、および耐水性などの諸特性に優れるとともに、安全性が確保された接着剤を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[PVA(A)]
PVA(A)は、以下の式(1)を満たすポリビニルアルコール系重合体である限り、特に限定されない。
X+0.2Y>90 (1)
ただし上記式(1)において、Xは、PVA(A)におけるビニルアルコール単位の含有率(モル%)であり、Yは、PVA(A)におけるエチレン単位の含有率(モル%)である。XおよびYは、それぞれ、式X<99.9、および0≦Y<10を満たす数値である。
【0017】
PVA(A)におけるビニルアルコール単位の含有率Xは、99.9モル%よりも小さいことが必要であり、99.8モル%よりも小さいことが好ましく、99.6モル%よりも小さいことがより好ましい。含有率Xが99.9モル%以上の場合、水性組成物および接着剤としての粘度安定性が低下する。
【0018】
PVA(A)におけるエチレン単位の含有率Yは0モル%を超えていてもよく(例えば、0<Y<10であってもよく)、この場合、含有率XおよびYの具体的な数値、ならびに付加縮合物(B)の構成によっては、粘度安定性に優れるとともに、初期接着性および耐水性をさらに向上させた水性組成物および接着剤とすることができる。
【0019】
PVA(A)におけるエチレン単位の含有率Yは、2〜8モル%が好ましく、2〜7.5モル%がより好ましく、3〜6モル%がさらに好ましい。含有率Yが10モル%以上の場合、PVA(A)の水溶性が低下して水性組成物の形成が困難となったり、水性組成物および接着剤としての粘度安定性が低下したりする。
【0020】
上記諸特性をさらにバランスよく向上させた水性組成物および接着剤を形成できる観点からは、PVA(A)が、上記含有率XおよびYに関して、以下の式(2)を満たすことが好ましい。
X+0.2Y>98.5 (2)
ただし、上記式(2)において、XおよびYは、それぞれ、式X<99.9、および0≦Y<10を満たす数値である。
【0021】
PVA(A)は、通常、酢酸ビニルに代表されるビニルエステル系単量体を、単独で、あるいはエチレンとともに、公知の重合方法(塊状重合、メタノールなどを溶媒とする溶液重合、乳化重合、懸濁重合など)で重合した後、形成された重合体を各種のけん化方法(アルカリけん化、酸けん化、アルコリシスなど)によりけん化して、得ることができる。ビニルエステル系単量体として、上記酢酸ビニル以外にも、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどの各種の単量体を用いることができる。
【0022】
以下、PVA(A)が、上記式(1)を満たすポリビニルアルコール系重合体であるとして、そのとりうる特徴またはバリエーションの例を具体的に示す。
【0023】
PVA(A)の重合度は特に限定されないが、通常、100〜8000程度であり、300〜5000程度が好ましく、500〜4000程度が特に好ましい。PVAの重合度が100未満の場合、水性組成物および接着剤としての初期接着性および耐水性が低下する。一方、PVAの重合度が8000を超えると、当該PVAの工業的な生産が困難となるほか、水性組成物および接着剤としての粘度が過度に増大して、その高速塗工性および初期接着性が著しく低下することがある。
【0024】
PVA(A)は、本発明の効果が損なわれない範囲で、上記ビニルエステル系単量体およびエチレンと共重合可能な単量体由来の構成単位を含んでいてもよい。このような単量体としては、例えば、プロピレン、1−ブテン、イソブテンなどのオレフィン類;アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシルなどのメタクリル酸エステル類;メチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニル類;酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル化合物;フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメット酸、無水イタコン酸などのカルボキシル基含有化合物、およびそのエステル類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのスルホン酸基含有化合物;ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンアクリレート、ジアセトンメタクリレートなどのジアセトン基含有化合物;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン化合物;酢酸イソプロペニル、3−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、3−メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドなど、が挙げられる。これらの単量体に由来する構成単位によるPVA(A)の変性量は、本発明の効果が損なわれない限り特に限定されないが、通常は、PVA(A)の全構成単位に対して5モル%以下である。
【0025】
PVA(A)は、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸、ドデシルメルカプタンなどのチオール化合物存在下で、上記の重合およびけん化を行って得た末端変性PVAであってもよい。
【0026】
PVA(A)は、本発明の効果が損なわれない限り、ビニルエステル系単量体を単独で、あるいはエチレンとともに重合して得た重合体をけん化した後、後反応により変性させて得た変性PVAであってもよい。このような変性PVAとしては、例えば、ブチルアルデヒドなどのアルデヒドにより変性させた各種のアセタール化PVA、ジケテンなどによりアセトアセチル基を導入したアセトアセチル基変性PVAなどが挙げられる。PVA(A)を変性PVAとする場合、水性組成物および接着剤としての耐水性を向上できることから、アセトアセチル基変性PVA、即ちアセトアセチル基を有する構成単位を含むPVA、とすることが好ましい。
【0027】
アセトアセチル基変性PVAにおける変性量、即ち当該PVAにおけるアセトアセチル基を有する構成単位の含有率、は、一般に8モル%以下が好ましく、7モル%以下がより好ましい。変性量が過大になると、水性組成物および接着剤としての粘度安定性が低下することがある。
【0028】
[付加縮合物(B)]
エチレン尿素およびグリオキサールの付加縮合物(B)は、その固形分1gあたりの末端アルデヒド基の含有量が1.2〜2.4(mmol:ミリモル)である。なお、これ以降、固形分1gあたりの末端アルデヒド基の含有量の単位を、(mmol/g−固形分)と表記する。
【0029】
付加縮合物(B)は、各種の製造方法により得ることができるが、例えば、エチレン尿素とグリオキサールとを、モル比にして、エチレン尿素:グリオキサール=1:0.9〜1.2の範囲で混合し、反応系のpHを調整した後、所定の温度で付加縮合反応を進めることにより、得ることができる。
【0030】
付加縮合物(B)を得る際のエチレン尿素およびグリオキサールの混合比は、エチレン尿素1モルに対してグリオキサール0.9〜1モルが好ましい。
【0031】
エチレン尿素およびグリオキサールの混合比が、エチレン尿素1モルに対してグリオキサール1.2モルを超えると、双方の末端がアルデヒド基である付加縮合物の割合が高くなって、水性組成物および接着剤としての高速塗工性および粘度安定性が低下する。また、付加縮合物における残存グリオキサール量が増加することで、水性組成物および接着剤としての安全性が低下する。
【0032】
一方、エチレン尿素およびグリオキサールの混合比が、エチレン尿素1モルに対してグリオキサール0.9モル未満になると、付加縮合物における残存グリオキサール量が低下することで水性組成物および接着剤としての安全性を向上できるが、双方の末端がアミド基である付加縮合物の割合が高くなって、水性組成物および接着剤としての硬化速度および耐水性が低下する。
【0033】
これに対して上述したように、エチレン尿素1モルに対するグリオキサールの混合量を0.9〜1.2モルとすることで、付加縮合物における残存グリオキサール量を、水性組成物および接着剤としての安全性に問題がない程度に低減できるとともに、得られた付加縮合物(B)と上記PVA(A)とを組み合わせることにより、諸特性に優れる水性組成物および接着剤を実現できる。
【0034】
付加縮合物(B)における末端アルデヒド基の含有量は、実施例に示すように、特開昭59−163497号公報に記載の方法により評価できる。付加縮合物(B)における末端アルデヒド基の含有量は、1.5〜2.2(mmol/g−固形分)が好ましい。
【0035】
付加縮合物(B)における残存グリオキサール量は、通常、付加縮合物(B)の固形分濃度が40重量%である溶液中において、0.3重量%以下である。
【0036】
なお、既存化学物質変異原性試験データ集(日本化学物質情報・安全センター発行、1996年)に記載のグリオキサール単体の変異原性データから判断すると、付加縮合物(B)における残存グリオキサール量を上記範囲とすることにより、残存グリオキサールによる変異原性は陰性になると判断できる。
【0037】
エチレン尿素とグリオキサールとを付加縮合させる反応系の諸条件は特に限定されないが、例えば、系の温度(反応温度)は、40〜70℃が好ましい。反応温度が40℃未満になると、両者の反応速度が過度に遅くなって、得られた付加縮合物におけるグリオキサールの残留量が増加する。一方、反応温度が70℃を超えると、得られた付加縮合物の着色が増大するとともに、その安定性が低下する。
【0038】
また例えば、付加縮合を行う反応系のpHは、4〜7が好ましい。当該系のpHが4未満になると、付加縮合の反応が過度に進んで、得られた付加縮合物の安定性が低下する。一方、当該系のpHが7を超えると、得られた付加縮合物の着色が増大するとともに、その安定性が低下する。付加縮合を行う系のpHは、pH調整剤により調整できる。pH調整剤は特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウムなどを用いることができる。
【0039】
付加縮合物(B)は上記反応により水溶液として得られるが、当該水溶液における固形分濃度が10〜60重量%となるようにエチレン尿素とグリオキサールとを付加縮合させることが好ましい。当該濃度が60重量%を超えると、得られた水溶液の粘度が高くなって、他の物質との混合性が低下するとともに、その安定性も低下する。一方、当該濃度が10重量%未満では、水性組成物および接着剤としたときの接着性が低下する。固形分濃度が15〜50重量%となるように、両者を付加縮合させることが好ましい。
【0040】
付加縮合物(B)は、例えば、エチレン尿素とグリオキサールとを、モル比にして、エチレン尿素:グリオキサール=1:0.9〜1の範囲で混合し、付加縮合を行う系のpHをpH調整剤により4〜7に調整した後、40〜60℃で反応を進めることにより、得てもよい。
【0041】
[水性組成物]
本発明の水性組成物は、上述したPVA(A)および付加縮合物(B)を、固形分重量比にして、(A):(B)=99:1〜50:50の範囲で含む。水性組成物および接着剤としての上記諸特性をより向上できる観点からは、当該重量比は、(A):(B)=98:2〜60:40の範囲であることが好ましく、(A):(B)=97:3〜65:35であることがより好ましい。上記固形分重量比にして、(A):(B)=99:1よりも付加縮合物(B)が少ない場合、付加縮合物(B)による架橋剤としての効果が不十分となって、水性組成物および接着剤としての耐水性が十分に得られない。一方、上記固形分重量比にして、(A):(B)=50:50よりも付加縮合物(B)が多い場合、水性組成物および接着剤としての粘度安定性および初期接着性が低下する。
【0042】
本発明の水性組成物は、必要に応じて、各種の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、カオリナイト、ハロイナイト、パイロフェライト、セリサイトなどのクレー類;重質、形質または表面処理された炭酸カルシウム;水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、石膏、タルク、酸化チタンなどの無機充填剤を用いてもよく、澱粉、酸化澱粉、小麦粉、木粉などの有機充填剤を用いてもよい。特に、各種のクレー類および澱粉類を、添加剤として好適に用いることができる。
【0043】
添加剤として上記充填剤を含む水性組成物は、一般に、固形分濃度の増加によってその乾燥速度が速くなることから、初期接着性が向上する傾向を示す。また、形成される接着層が硬くなることから、接着強度および接着力が向上する傾向を示す。
【0044】
本発明の水性組成物がこれらの充填剤(C)を含む場合、本発明の水性組成物における充填剤(C)の含有量は、PVA(A)100重量部に対して、通常、300重量部以下であり、好ましくは250重量部以下、より好ましくは200重量部以下である。充填剤(C)の当該含有量が300重量部を超えると、水性組成物および接着剤としての流動性が低下したり、充填剤(C)が沈降したり、接着強度の低下が引き起こされたりすることがある。
【0045】
本発明の水性組成物は、また例えば、添加剤として、ポリリン酸ソーダ、ヘキサメタリン酸ソーダなどのリン酸化合物の金属塩、あるいは水ガラスなどの無機物の分散剤;ポリアクリル酸およびその塩、アルギン酸ソーダ、α−オレフィン−無水マレイン酸共重合体などのアニオン性高分子化合物とその金属塩;高級アルコールのエチレンオキサイド付加物、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合体などのノニオン性界面活性剤;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸ソーダ、ポリエチレンオキサイド;各種の消泡剤、防腐剤、防かび剤、着色顔料、消臭剤、香料など;を、本発明の効果が得られる範囲で含んでいてもよい。また、本発明の水性組成物は、アクリル樹脂エマルジョン、ポリ酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン、SBRラテックスなどの、各種の合成樹脂系エマルジョン、ゴムラテックスを、本発明の効果が得られる範囲で含んでいてもよい。
【0046】
本発明の水性組成物は酸触媒を含んでいてもよく、この場合、付加縮合物(B)の架橋能を向上でき、接着剤として使用したときの接着速度を向上できる。酸触媒としては特に限定されないが、例えば、p−トルエンスルホン酸、塩酸、リン酸、蓚酸、クエン酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、硝酸、硫酸、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、ホウフッ化亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、塩化マグネシウムなどが挙げられる。
【0047】
本発明の水性組成物は、PVA(A)および付加縮合物(B)、ならびに、必要に応じて充填剤(C)などの添加物を用い、公知の製造方法により形成できる。例えば、PVA(A)、あるいは、PVA(A)に充填剤(C)などの添加物を予め混合したものを攪拌しながら水に投入してPVA(A)の水溶液を調製した後、調製した当該水溶液に付加縮合物(B)を加えて水性組成物としてもよい。PVA(A)の水溶液は、PVA(A)、ならびに、必要に応じて充填剤(C)などの添加剤を、逐次、攪拌しながら水に投入して調製してもよい。PVA(A)の水への投入によりスラリー液が形成されるが、形成されたスラリー液は、ジェットクッカーや調整槽において蒸気を直接吹き込んで加熱したり、ジャケットにより間接的に加熱したりして、PVA(A)を加熱溶解して、水溶液とすることができる。スラリー液の加熱方法は特に限定されない。本発明の水性組成物の形成は、連続で行ってもバッチで行ってもよい。
【0048】
本発明の水性組成物の粘度は、当該組成物の用途および必要な特性によって任意に調整できる。例えば、接着剤として、特に高速塗工性を意図した場合、接着対象物の貼り合わせ温度における当該組成物の粘度が、B型粘度にして100〜8000mPa・sとなるように調整してもよい。水性組成物の粘度の調整方法は、公知の方法に従えばよい。
【0049】
本発明の水性組成物は、室温程度の穏やかな乾燥条件において形成された層(接着剤として用いた場合には接着層)においても十分な耐水性を発現するが、熱処理(接着剤として用いた場合には、接着時または接着後の熱処理)により、さらに耐水性を向上できる。
【0050】
上述したように、本発明の水性組成物は、粘度安定性、高速塗工性、初期接着性、および耐水性などの諸特性に優れる他、安全性にも優れる。このため、本発明の水性組成物は、従来、PVA系接着剤を使用していた公知の用途の接着剤として好適に使用できる。これらの用途としては、例えば、板紙、段ボール、紙管、襖などの表具、壁紙などの接着に用いられる紙用接着剤があるが、本発明の水性組成物の用途は、これらの用途に限定されない。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。本実施例における、「部」および「%」は、特に記載がない限り、重量基準である。
【0052】
[エチレン尿素およびグリオキサールの付加縮合物の合成]
−合成例1−
還流冷却器、温度計および攪拌装置を設置した4口フラスコに、エチレン尿素86部を仕込み、水129部および濃度40%のグリオキサール溶液130.5部(モル比にして「エチレン尿素:グリオキサール=1:0.9」に相当)を加え、pH調整剤として濃度10%の水酸化ナトリウム溶液を用いて系のpHを7に調整した後、エチレン尿素およびグリオキサールを60℃で10時間反応させた。反応終了後、35℃で16時間熟成させ、その後、系の温度を30℃以下まで冷却するとともに、濃度20%の硫酸溶液により、系のpHを6に調整した。このようにして、エチレン尿素およびグリオキサールの付加縮合物を含む淡黄色の透明な溶液を得た。なお、当該溶液における上記付加縮合物の固形分濃度は40%であった。
【0053】
上記のようにして得た付加縮合物の平均分子量、付加縮合物における末端アルデヒド基の含有量、および、上記溶液中の残存グリオキサール量を、以下に示す方法により評価したところ、平均分子量(重量平均分子量)が約720、末端アルデヒド基の含有量が1.81(mmol/g−固形分)、残存グリオキサール量が0.1重量%であった。なお、これらの値の評価方法は、以降の合成例においても同様である。
【0054】
<付加縮合物の平均分子量の評価>
付加縮合物の平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析法により求めた。分析の条件は以下のとおりである。
【0055】
標準物質:ポリエチレングリコール、分析装置:LC−6A(島津製作所社製)、カラム:HSPgel AQ2.5(Waters社製)、カラムサイズ:6.0×150mm、カラム温度:20℃、検出器:RID−6A(島津製作所社製)、分離液:蒸留水(和光純薬工業社製)、流量:0.3ml/分、注入試料濃度:0.4mg/mL、試料注入量:5μL。
【0056】
<溶液の残存グリオキサール量の評価>
上記溶液の残存グリオキサール量は、高速液体クロマトグラフィー法により求めた。分析の条件は以下のとおりである。
【0057】
分析装置:LC−6A(島津製作所社製)、カラム:Shim−pack CLC−ODS(島津製作所社製)、カラムサイズ:6.0×150mm、カラム温度:40℃、検出器:RID−6A(島津製作所社製)、分離液:蒸留水(和光純薬工業社製)、流量:0.3ml/分、注入試料濃度:4.0mg/mL:試料注入量:5μL。
【0058】
<付加縮合物における末端アルデヒド基の含有量の評価>
分析化学便覧(日本分析化学会編、改訂第三版、第314頁)を参考に、酸性亜硫酸ナトリウム法により、上記溶液中に存在する全アルデヒド基の量(重量%)を求め、求めた全アルデヒド基の量から、上述のように求めた残存グリオキサール量をアルデヒド基に換算した量(重量%)を差し引いた。差し引き後の値を、付加縮合物の固形分濃度(重量%)およびアルデヒド基の分子量(Mw=29)で除して、付加縮合物における末端アルデヒド基の含有量(mmol/g−固形分)とした。
【0059】
酸性亜硫酸ナトリウム法(直接法)の具体的な手順を以下に示す。試料1gと、濃度0.3Mの亜硫酸ナトリウム(NaHSO3)水溶液5mLと、水5mLとを混合し、得られた混合液を密封した状態で1時間放置する。次に、混合液にデンプン指示薬0.5mLを加え、速やかに0.1NのI2液で滴定して、滴定に要したI2液の液量A(mL)から、以下の式により、上記溶液中に存在する全アルデヒド基の量(重量%)を求めることができる。
全アルデヒド基の量(重量%)=(A×0.1×29)/(2×1000)×100(%)
【0060】
−合成例2−
濃度40%のグリオキサール溶液を174部用いた以外は(モル比にして「エチレン尿素:グリオキサール=1:1.2」に相当)、合成例1と同様にして、エチレン尿素とグリオキサールとの付加縮合物を含む淡黄色の透明な溶液を得た。なお、当該溶液における付加縮合物の固形分濃度は40%であった。
【0061】
上記のようにして得た付加縮合物の平均分子量、付加縮合物における末端アルデヒド基の含有量、および、上記溶液中の残存グリオキサール量を評価したところ、平均分子量(重量平均分子量)が約820、末端アルデヒド基の含有量が2.16(mmol/g−固形分)、残存グリオキサール量が0.3重量%であった。
【0062】
−合成例3−
濃度40%のグリオキサール溶液を188.5部用いた以外は(モル比にして「エチレン尿素:グリオキサール=1:1.3」に相当)、合成例1と同様にして、エチレン尿素とグリオキサールとの付加縮合物を含む淡黄色の透明な溶液を得た。なお、当該溶液における付加縮合物の固形分濃度は40%であった。
【0063】
上記のようにして得た付加縮合物の平均分子量、付加縮合物における末端アルデヒド基の含有量、および、上記溶液中の残存グリオキサール量を評価したところ、平均分子量(重量平均分子量)が約880、末端アルデヒド基の含有量が2.41(mmol/g−固形分)、残存グリオキサール量が0.5重量%であった。
【0064】
−合成例4−
合成例1で用いたものと同様の4口フラスコに、エチレン尿素86部を仕込み、水129部および濃度40%のグリオキサール溶液111.7部(モル比にして「エチレン尿素:グリオキサール=1:0.77」に相当)を加え、pH調整剤として濃度10%の水酸化ナトリウム溶液を用いて系のpHを7.5に調整した後、55℃で1時間攪拌した。次に、pH調整剤として濃度20%の硫酸を用いて系のpHを6.5とした後、エチレン尿素とグリオキサールとを55℃で1時間半反応させた。反応終了後、系の温度を30℃以下まで冷却するとともに、濃度25%の水酸化ナトリウム溶液を用いて系のpHを7とし、固形分濃度が40%となるように水を加えて、エチレン尿素およびグリオキサールの付加縮合物を含む淡黄色の透明な溶液を得た。
【0065】
上記のようにして得た付加縮合物の平均分子量、付加縮合物における末端アルデヒド基の含有量、および、上記溶液中の残存グリオキサール量を評価したところ、平均分子量(重量平均分子量)が約650、末端アルデヒド基の含有量が0.78(mmol/g−固形分)であり、残存グリオキサール量は検出されなかった。
【0066】
−合成例5−
濃度40%のグリオキサール溶液を116.0部用いた以外は(モル比にして「エチレン尿素:グリオキサール=1:0.8」に相当)、合成例4と同様にして、エチレン尿素とグリオキサールとの付加縮合物を含む淡黄色の透明な溶液を得た。なお、当該溶液における付加縮合物の固形分濃度は40%であった。
【0067】
上記のようにして得た付加縮合物の平均分子量、付加縮合物における末端アルデヒド基の含有量、および、上記溶液中の残存グリオキサール量を評価したところ、平均分子量(重量平均分子量)が約700、末端アルデヒド基の含有量が1.21(mmol/g−固形分)であり、残存グリオキサール量は検出されなかった。
【0068】
−合成例6−
濃度40%のグリオキサール溶液を181.3部用いた以外は(モル比にして「エチレン尿素:グリオキサール=1:1.25」に相当)、合成例1と同様にして、エチレン尿素とグリオキサールとの付加縮合物を含む淡黄色の透明な溶液を得た。なお、当該溶液における付加縮合物の固形分濃度は40%であった。
【0069】
上記のようにして得た付加縮合物の平均分子量、付加縮合物における末端アルデヒド基の含有量、および、上記溶液中の残存グリオキサール量を評価したところ、平均分子量(重量平均分子量)が約840、末端アルデヒド基の含有量が2.24(mmol/g−固形分)、残存グリオキサール量が0.4重量%であった。
【0070】
合成例1〜6の末端アルデヒド基の含有量、および、残存グリオキサール量を、エチレン尿素とグリオキサールとの混合比と併せて、以下の表1にまとめて示す。
【0071】
【表1】

【0072】
[PVAの合成]
−合成例A−
撹拌機、窒素の導入口、および重合開始剤の添加口を備えた内容積250Lの反応槽に、酢酸ビニルモノマー70.0kg、およびメタノール30.0kgを仕込み、槽内を60℃に昇温した後、30分間の窒素バブリングにより、反応系を窒素置換した。次に、反応槽内の酢酸ビニルモノマーとメタノールとの混合物に、重合開始剤としてAIBN(2,2’−アゾビスイゾブチロニトリル)10gを添加して、酢酸ビニルモノマーの重合を開始した。重合中は槽内の温度を60℃に維持した。
【0073】
およそ4時間後に重合率が30%となったところで反応系を冷却して、重合反応を停止させた。次に、反応槽を開放し、槽内の窒素バブリングを行った。次に、反応槽を減圧して、反応系内に残留した未反応の酢酸ビニルモノマーを除去し、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を得た。
【0074】
得られた溶液にメタノールを加え、当該溶液におけるポリ酢酸ビニルの濃度が30%となるように調整した後、調整後の当該溶液333g(ポリ酢酸ビニルが100g含まれる)に、51.1gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムのメタノール溶液:濃度10%)を加えて(ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比は0.11)、ポリ酢酸ビニルのけん化を行った。
【0075】
アルカリ溶液の添加後、約1分で溶液全体がゲル化したため、形成したゲルを反応槽から取り出して粉砕機により粉砕し、60℃で1時間放置してけん化をさらに進行させた後、濾別して得た白色固体をメタノール1000gに投入し、室温で3時間放置して洗浄した。次に、濾別および当該濾別により得た白色固体をメタノールに投入する洗浄操作を3回繰り返した後、遠心分離により得られた白色固体を、70℃に保持した乾燥機中に2日間放置して乾燥させ、PVA(合成例A)を得た。合成例Aの重合度、およびビニルアルコール単位の含有率X(モル%)を、JIS K6726に基づいて評価したところ、重合度は1740、含有率Xは98.8モル%であった。重合度、含有率Xの評価方法は、以降の合成例においても同様とした。なお、合成例Aにおけるエチレン単位の含有率Yは0モル%である。
【0076】
−合成例B〜D−
ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液に加えるアルカリ溶液の量を変化させることで、けん化の条件を制御して、合成例Aとはビニルアルコール単位の含有率Xが異なる3種類のPVAを得た(合成例B〜D)。合成例B〜Dの重合度、および含有率Xを以下の表2に示す。合成例B〜Dにおけるエチレン単位の含有率Yは0モル%である。
【0077】
−合成例E−
撹拌機、窒素の導入口、エチレンの導入口、重合開始剤の添加口、およびディレー溶液の添加口を備えた内容積250Lの加圧反応槽に、酢酸ビニルモノマー106.1kg、およびメタノール43.9kgを仕込み、槽内を60℃に昇温した後、30分間の窒素バブリングにより、反応系内を窒素置換した。次に、反応槽内の圧力が1.4kg/cmとなるようにエチレンガスを槽内に導入した後、反応槽内の酢酸ビニルモノマーとメタノールとの混合物に重合開始剤としてAMV(2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル))のメタノール溶液(濃度2.8g/L、窒素バブリングによる窒素置換済み)53mLを添加して、酢酸ビニルモノマーとエチレンとの共重合を開始した。重合中は、槽内の温度を60℃に、また、エチレンの導入により槽内の圧力を5.9kg/cmに、維持するとともに、重合開始剤として上記AMV溶液を、168mL/時間のレートで槽内に連続的に供給した。
【0078】
およそ4時間後に重合率が20%となったところで反応系を冷却して、重合反応を停止させた。次に、反応槽を開放して槽内からエチレンを除去した後、窒素バブリングによる反応系内の脱エチレンを行った。次に、反応槽を減圧して、反応系内に残留した未反応の酢酸ビニルモノマーを除去し、構成単位としてエチレン単位を含むポリ酢酸ビニル(エチレン変性ポリ酢酸ビニル)のメタノール溶液を得た。
【0079】
得られた溶液にメタノールを加え、当該溶液における上記ポリ酢酸ビニルの濃度が30%となるように調整した後、調整後の当該溶液333g(上記ポリ酢酸ビニルが100g含まれる)に、51.1gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムのメタノール溶液:濃度10%)を加えて(酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比は0.11)、エチレン変性ポリ酢酸ビニルのけん化を行った。
【0080】
アルカリ溶液の添加後、約1分で溶液全体がゲル化したため、形成したゲルを反応槽から取り出して粉砕機により粉砕し、60℃で1時間放置してけん化をさらに進行させた後、濾別して得た白色固体をメタノール1000gに投入し、室温で3時間放置して洗浄した。次に、濾別および当該濾別により得た白色固体をメタノールに投入する洗浄操作を3回繰り返した後、遠心分離により得られた白色固体を、70℃に保持した乾燥機中に2日間放置して乾燥させ、エチレン変性PVA(合成例E)を得た。合成例Eの重合度、ビニルアルコール単位の含有率X(モル%)、およびエチレン単位の含有率Y(モル%)を評価したところ、重合度は1500、含有率Xは98.8モル%、含有率Yは3.0モル%であった。含有率Yは、けん化前のビニルエステル重合体(ポリ酢酸ビニル)のH−NMR(プロトン核磁気共鳴)を測定し、測定したプロファイルにおける、ビニルエステル単位の主鎖に存在するメチン由来のピーク面積と、ビニルエステル単位およびエチレン単位の主鎖に存在するメチレン由来のピーク面積との比から求めた。含有率Yの評価方法は、以降の合成例においても同様とした。
【0081】
−合成例F〜J−
エチレン変性ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液に加えるアルカリ溶液の量を変化させることで、けん化の条件を制御して、合成例Eとはビニルアルコール単位の含有率Xが異なる2種類のPVAを得た(合成例F、G)。合成例F、Gにおける重合度、含有率Xおよび含有率Yを、以下の表2に示す。
【0082】
また、エチレン存在下における酢酸ビニルモノマーの重合条件を変化させることで、合成例Eとは、重合度、含有率Xおよび含有率Yが異なる3種類のPVAを得た(合成例H、I、J)。合成例H〜Jにおける重合度、含有率Xおよび含有率Yを、以下の表2に示す。
【0083】
−合成例K−
酢酸ナトリウムを0.3%含有するPVA粉末(重合度1200、けん化度99.4%、平均粒径100メッシュ)を準備し、当該粉末100gをニーダーに仕込んだ後、酢酸60gを投入して全体を膨潤させた。次に、回転速度20rpmで全体を撹拌しながら60℃に昇温した後、ジケテン25gおよび酢酸2gの混合溶液を4時間かけてニーダー内に滴下し、当該滴下後さらに30分間攪拌して、PVA粉末のアセトアセチル化を行った。
【0084】
攪拌終了後、ニーダーの内容物をメタノール500gにより洗浄した後、洗浄後の内容物を70℃で6時間乾燥させて、酢酸ナトリウムを0.05%、酢酸を0.1%含む(アルカリ金属の酢酸塩/酢酸の重量比0.5)、アセトアセチル変性PVA(合成例K)を得た。合成例Kの重合度、ビニルアルコールの含有率X(モル%)、およびアセトアセチル化度を評価したところ、重合度は1200、含有率Xは93.4モル%、アセトアセチル化度は6.0モル%であった。なお、合成例Kのアセトアセチル化度は、アセトアセチル変性PVAのH−NMR(プロトン核磁気共鳴)を測定し、測定したプロファイルにおける、ビニルアルコールの主鎖に存在するメチレン由来のピーク面積と、アセトアセチル基に存在するメチル由来のピーク面積との比から求めた。
【0085】
【表2】

【0086】
[水性組成物の作製]
−実施例1−
PVAとして合成例Aを95℃の熱水に溶解させて、濃度13%のPVA水溶液を調製した。この水溶液に、付加縮合物として合成例1を、固形分重量比にしてPVA:付加縮合物=80:20となるように混合して、水性組成物(実施例1)を得た。得られた水性組成物の粘度安定性、高速塗工性、初期接着性および耐水接着性を、以下の方法により評価した。評価結果を以下の表3に示す。なお、水性組成物の上記諸特性の評価は、以降の各実施例、比較例に対しても同様に行った。
【0087】
[粘度安定性]
得られた水性組成物を温度5℃で3日間放置し、放置後の粘度をB型粘度計で測定して、当該粘度の初期粘度に対する比を増粘倍率(=放置後の粘度/初期粘度)として求めた。測定温度は5℃、測定時のB型粘度計の内筒の回転速度は60rpmとした。水性組成物の粘度安定性は、求めた増粘倍率の値、および当該組成物のゲル化の有無に基づき、以下に示す3段階で評価した。なお、初期粘度とは、上記のようにして得た水性組成物を室温から5℃に冷却した時点での粘度であり、水性組成物の冷却は氷水浴により行った。
−粘度安定性の判定基準−
○(良):増粘倍率が3.0倍未満であった
△(可):増粘倍率が3.0倍以上であったが、溶液のゲル化には至らなかった(溶液が流動性を保持していた)
×(不可):溶液がゲル化した。
【0088】
[高速塗工性]
得られた水性組成物をスプレッダーロールに供給し、クラフト紙に対して、塗工雰囲気の温度を30℃に保った上で、100m/分のスピードで30分間の塗工テストを行い、その状況を観察した。水性組成物の高速塗工性は、観察した状況を以下の基準により判定して3段階で評価した。
−高速塗工性の判定基準−
○(良):問題なく塗工可能であった
△(可):水性組成物のジャンピング現象(ロールからの飛び散り)が僅かに観察され、ロールの表面にもスジが発生したが、塗工可能なレベルであった
×(不可):水性組成物のジャンピング現象が激しく、ロールの表面も乱れており、最終的にはガムアップなどにより塗工の継続が困難となった。
【0089】
[初期接着性]
水性組成物の初期接着性として、初期接着試験機(日本たばこ産業社製、ASM−1)を用いて以下の条件により接着試験を行い、初期接着力(kg)を評価した。
【0090】
クラフト紙/クラフト紙接着、塗布速度0.5m/秒、せん断速度300mm/秒、オープンタイム1秒、圧着時間2秒、養生時間20秒、接着面積1mm×25mm×8ヶ所(合計2cm)、接着雰囲気20℃65%RH。
【0091】
[耐水接着性]
得られた水性組成物を片面に塗布したクラフト紙を2枚準備し(塗布量50g/m)、この2枚のクラフト紙の塗布面同士を貼り合わせた後、全体をゴムのハンドローラーで軽く押圧して、20℃65%RHの雰囲気下で1日乾燥させた。その後、上記クラフト紙を20℃の水中に3日間浸漬させ、浸漬後のクラフト紙の状況を観察した。水性組成物の耐水接着性は、観察した状況を以下の基準により判定して5段階で評価した。
−耐水接着性の判定基準−
5:面積にして100%のクラフト紙が破壊(材破)された
4:面積にしてクラフト紙の80%以上が材破された
3:面積にしてクラフト紙の50%以上が材破された
2:クラフト紙の材破が認められるが、材破は面積にして50%以下であった
1:自然剥離した(材破なし)。
【0092】
−実施例2〜13、比較例1〜13−
合成例1〜4、合成例A〜Jとして形成した、表1、2に示すPVAおよび付加縮合物を用い、実施例1と同様に、両者を以下の表3に示す比率で混合して、水性組成物(実施例2〜8、比較例1〜7)を得た。得られた水性組成物の上記諸特性を、実施例1と同様に評価した。評価結果を以下の表3に示す。
【0093】
【表3】

【0094】
−実施例14〜18−
PVAとして合成例Aを95℃の熱水に溶解させて、濃度10%のPVA水溶液を調製した。この水溶液に、付加縮合物として合成例1を、固形分重量比にしてPVA:付加縮合物=80:20となるように混合し、さらに、以下の表4に示す充填剤を混合して水性組成物(実施例14〜18)を得た。得られた水性組成物の諸特性を、実施例1と同様に評価した。評価結果を以下の表4に示す。なお、充填剤における括弧内の数値は、PVA100部に対する充填剤の重量部である。
【0095】
【表4】

【0096】
表3、4に示すように、本発明の水性組成物である実施例1〜18において、その粘度安定性、高速塗工性、初期接着性および耐水接着性の諸特性を、高いレベルでバランスよく発現させることができた。
【0097】
また、実施例1〜18のなかでも、「X+0.2Y」の値が98.5を超える実施例において、高い初期接着性および/または耐水接着性を実現でき、特に耐水接着性は、PVAがエチレン単位を含む実施例7および10、ならびに、PVAがアセトアセチル変性PVAである実施例12、13において顕著に向上できた。
【0098】
これに対して、比較例1、2ではPVAと付加縮合物との混合比が、比較例3、4、7、8、12、13では付加縮合物における末端アルデヒド基の含有量が、比較例5、9、10では「X+0.2Y」の値が、比較例6ではビニルアルコール単位の含有率Xが、比較例11ではエチレン単位の含有率Yが、本発明で規定する範囲から外れ、上記諸特性をバランスよく発現させることができなかった。
【0099】
特許文献1(特開昭53−44567号公報)における好ましい条件で形成した付加縮合物(合成例3)を用いた比較例3、7、12では、当該付加縮合物における末端アルデヒド基の含有量が高く、架橋性が過度に大きいためか、水性組成物としての溶液安定性および高速塗工性が低下した。また、合成例3における残存グリオキサール量は0.3重量%を超えていた。
【0100】
一方、特許文献2(特開昭59−64683)における好ましい条件で形成した付加縮合物(合成例4)を用いた比較例4、8、13では、当該付加縮合物における末端アルデヒド基の含有量が低く、架橋性に乏しいためか、水性組成物としての耐水接着性が大きく低下した。
【産業上の利用可能性】
【0101】
上述したように本発明の水性組成物は、粘度安定性、高速塗工性、初期接着性および耐水接着性に優れ、さらに安全性にも優れることから、従来、PVA系接着剤を使用していた公知の用途の接着剤として好適に使用できる。特に、板紙、段ボール、紙管、襖などの表具、壁紙などの接着に用いられる紙用接着剤、ならびに、PVAフィルム、トリアセテートフィルムなどのフィルムの接着に用いられるフィルム用接着剤としての用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルアルコール単位の含有率X(モル%)およびエチレン単位の含有率Y(モル%)が、以下の式(1)を満たすビニルアルコール系重合体(A)と、
固形分1gあたりの末端アルデヒド基の含有量が1.2〜2.4(mmol)である、エチレン尿素およびグリオキサールの付加縮合物(B)と、を含み、
ビニルアルコール系重合体(A)と付加縮合物(B)との固形分重量比が、(A):(B)=99:1〜50:50の範囲である水性組成物。
X+0.2Y>90 (1)
ただし、上記式(1)において、X<99.9、0≦Y<10、である。
【請求項2】
ビニルアルコール系重合体(A)が、前記含有率XおよびYに関して以下の式(2)を満たす請求項1に記載の水性組成物。
X+0.2Y>98.5 (2)
ただし、上記式(2)において、X<99.9、0≦Y<10、である。
【請求項3】
ビニルアルコール系重合体(A)が、アセトアセチル基を有する構成単位を含む請求項1に記載の水性組成物。
【請求項4】
充填剤(C)を、ビニルアルコール系重合体(A)100重量部に対して300重量部以下の範囲でさらに含む請求項1に記載の水性組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の水性組成物を含む接着剤。

【公開番号】特開2009−84316(P2009−84316A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252551(P2007−252551)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000177014)三木理研工業株式会社 (20)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】