説明

ビニルエステルの共重合単位を含有するフルオロエラストマー

式中RがC1〜C4のアルキル基である式CH2=CHOC(O)Rのビニルエステルとテトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)からなる群から選択される少なくとも1つのモノマーとの共重合単位を含むフルオロエラストマーが開示される。本エラストマーは、エチレンまたはプロピレンなどの炭化水素オレフィンの共重合単位をさらに含有してもよい。任意選択的に、本発明のフルオロエラストマーは、硬化部位モノマーの共重合単位または硬化部位モノマーを含有してもよい。フルオロエラストマー上のエステル側基は少なくとも部分的に鹸化されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニルエステルとテトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)からなる群から選択される少なくとも1つのフルオロモノマーとの共重合単位を含む弾性コポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロエチレン(TFE)と、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)と、硬化部位モノマーとのコポリマーを含むフルオロエラストマーは当該技術分野で公知である(米国特許公報(特許文献1)、米国特許公報(特許文献2))。かかるエラストマーは優れた耐化学薬品性および耐熱性を有する。
【0003】
エチレン(E)と、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)と、テトラフルオロエチレン(TFE)と、硬化部位モノマーとのコポリマーからできた耐塩基性フルオロエラストマーは当該技術分野で公知である(米国特許公報(特許文献3))。強塩基による攻撃に対して耐性があることに加えて、これらのフルオロエラストマーは、低温および高温の両方で良好なシーリング性を有し、オイル中で低い膨潤を示す。
【0004】
引張強度、伸び率、および圧縮永久歪みなどの物理的特性を十分に発現させるために、エラストマーは硬化、すなわち架橋されなければならない。フルオロエラストマーの場合、これは一般に、未硬化ポリマー(すなわちフルオロエラストマーゴム)を多官能性硬化剤と混合し、そして得られた混合物を加熱し、それによってポリマー主鎖または側鎖に沿って硬化剤と活性部位との化学反応を促進することによって行われる。これらの化学反応の結果として形成された鎖間結合は、3次元ネットワーク構造を有する架橋ポリマー組成物の形成をもたらす。フルオロエラストマー用の一般的に使用される架橋剤には、ポリヒドロキシ化合物またはジアミンなどの二官能性の求核反応剤が含まれる。あるいはまた、有機過酸化物と多官能性イソシアヌレートなどの不飽和架橋助剤とを含有する過酸化物硬化系が用いられてもよい。
【0005】
米国特許公報(特許文献4)は、50〜85重量パーセントのフッ化ビニリデンと、5〜37重量パーセントのテトラフルオロエチレンと、5〜50重量パーセントのビニルエステルとのコポリマーを開示している。このコポリマーはまた、任意選択的に、共重合したヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロプロペン、エチレン、プロピレンまたはアルキルビニルエーテルを含有してもよい。
【0006】
米国特許公報(特許文献5)は、ビニルエステルと、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびある種の官能化フルオロビニルエーテルなどのフルオロモノマーとの非晶質コポリマーを開示している。
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,789,489号明細書
【特許文献2】米国特許第4,214,060号明細書
【特許文献3】米国特許第4,694,045号明細書
【特許文献4】米国特許第3,449,305号明細書
【特許文献5】米国特許第5,851,593号明細書
【特許文献6】米国特許第5,674,959号明細書
【特許文献7】米国特許第5,717,036号明細書
【特許文献8】カナダ国特許第2,067,891号明細書
【特許文献9】欧州特許第0784064A1号明細書
【特許文献10】米国特許第4,982,009号明細書
【特許文献11】米国特許第4,138,426号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
ビニルエステルは、他のフッ素化および非フッ素化モノマーの存在下でさえ、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)と意外なほどうまく共重合することが分かった。ビニルエステルの共重合単位は硬化部位を提供し、硬化特性および他の基材への接着性を向上させることができる。
【0009】
本発明の態様は、35〜75モルパーセントのテトラフルオロエチレンと、0〜40モルパーセントのパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)と、0〜40モルパーセントの、エチレンおよびプロピレンからなる群から選択される炭化水素オレフィンと、0〜5モルパーセントのフッ化ビニリデンと、0.25〜30モルパーセントの、式CH2=CHOC(O)R(式中RがC1〜C4のアルキル基である)を有するビニルエステルとの共重合単位を含み、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)のモルパーセントが0%である場合、前記フルオロエラストマーが少なくとも10モルパーセントのプロピレンを含有し、ここで、全共重合単位の合計が100モルパーセントであるフルオロエラストマーである。モル百分率は、フルオロエラストマー中の共重合モノマー単位の全モルを基準としている。
【0010】
本発明の別の態様は、0〜75モルパーセントのテトラフルオロエチレンと、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)と、式CH2=CHOC(O)R(式中RがC1〜C4のアルキル基である)を有するビニルエステルとの共重合単位を含み、ここで全共重合単位の合計が100モルパーセントであるフルオロエラストマーである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のフルオロエラストマーは、式CH2=CHOC(O)R(式中RがC1〜C4のアルキル基である)を有するビニルエステルの共重合単位を含む。本発明のフルオロエラストマーに用いられてもよいビニルエステルの具体的な例には、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルおよび酪酸ビニルが挙げられるが、それらに限定されない。
【0012】
本フルオロエラストマーは実質的にフッ化ビニリデンの共重合単位を含まない。「実質的に含まない」とは、5モルパーセント以下、好ましくは0モルパーセントのフッ化ビニリデン単位がフルオロエラストマー中に含有されていることを意味する。本発明のフルオロエラストマー中のフッ化ビニリデンのレベルを制限すると、フルオロエラストマーの耐化学薬品性(例えば耐塩基性)を向上させる。
【0013】
ビニルエステルの共重合単位上のエステル側基は、重合、その後の処理(例えば凝固および乾燥)中に、および加硫中に少なくとも部分的に鹸化されることがある。鹸化される場合、鹸化の程度は、これらの処理中に存在する酸または塩基の量によって調節され得る。エステル基を鹸化するための好ましい手段は、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラブチルアンモニウムなどの水性塩基とフルオロエラストマーとの反応による。本発明のフルオロエラストマーには、エステル側基が1)鹸化されていない、2)部分的に鹸化されているまたは3)完全に鹸化されているものが含まれる。
【0014】
本発明の一実施形態では、フルオロエラストマーは、35〜75モルパーセントのテトラフルオロエチレンと、0〜40モルパーセントのパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)と、0〜40モルパーセントの、エチレンおよびプロピレンからなる群から選択される炭化水素オレフィンと、0.25〜30モルパーセントの式CH2=CHOC(O)R(式中RがC1〜C4のアルキル基である)を有するビニルエステルとの共重合単位を含む。フルオロエラストマーがパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)の単位を含有しない、すなわち0モルパーセントの場合、フルオロエラストマーはプロピレンの少なくとも10(好ましくは少なくとも16)モルパーセント共重合単位を含有する。モル百分率は、フルオロエラストマー中の共重合モノマー単位の全モルを基準とする。すべての共重合単位の合計は100モルパーセントである。
【0015】
本発明の別の実施形態では、本フルオロエラストマーは、0〜75モルパーセントのテトラフルオロエチレンと、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)と、および式CH2=CHOC(O)R(式中RがC1〜C4のアルキル基である)を有するビニルエステルとの共重合単位を含む。
【0016】
モノマーとしての使用に好適なパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)には、式
CF2=CFO(Rf'O)n(Rf''O)mf (I)
(式中、Rf'およびRf''は、2〜6個の炭素原子の異なる線状または分岐のパーフルオロアルキレン基であり、mおよびnは独立して0〜10であり、そしてRfは1〜6個の炭素原子のパーフルオロアルキル基である)
を有するものが含まれる。
【0017】
好ましいクラスのパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)には、式
CF2=CFO(CF2CFXO)nf (II)
(式中、XはFまたはCF3であり、nは0〜5であり、そしてRfは1〜6個の炭素原子のパーフルオロアルキル基である)
の組成物を含む。
【0018】
最も好ましいクラスのパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)には、nが0または1であり、そしてRfが1〜3個の炭素原子を含有するそれらのエーテルが含まれる。かかる過フッ素化エーテルの例には、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)が挙げられる。他の有用なモノマーには、式
CF2=CFO[(CF2mCF2CFZO]nf (III)
(式中、Rfは、1〜6個の炭素原子を有するパーフルオロアルキル基であり、m=0または1、n=0〜5、そしてZ=FまたはCF3である)
の化合物が含まれる。
【0019】
このクラスの好ましいメンバーは、式中RfがC37であり、m=0、そしてn=1であるものである。
【0020】
追加のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)モノマーには、式
CF2=CFO[(CF2CF{CF3}O)n(CF2CF2CF2O)m(CF2p]Cx2x+1 (IV)
(式中、mおよびnは独立して=0〜10、p=0〜3、そしてx=1〜5である)
の化合物が含まれる。
【0021】
このクラスの好ましいメンバーには、式中n=0〜1、m=0〜1、そしてx=1である化合物が含まれる。
【0022】
有用なパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)の追加の例には、
CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF2O)mn2n+1 (V)
(式中、n=1〜5、m=1〜3、そして式中、好ましくは、n=1である)
が挙げられる。
【0023】
本発明のフルオロエラストマーは、任意選択的に、1つまたは複数の硬化部位モノマーの0.05〜10モルパーセント共重合単位をさらに含んでもよい。好適な硬化部位モノマーの例には、i)臭素含有オレフィン、ii)ヨウ素含有オレフィン、iii)臭素含有ビニルエーテル、iv)ヨウ素含有ビニルエーテル、v)ニトリル基を有するフッ素含有オレフィン、vi)ニトリル基を有するフッ素含有ビニルエーテル、vii)1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(2−HPFP)、viii)パーフルオロ(2−フェノキシプロピルビニル)エーテル、ix)3,3,3−トリフルオロプロペン−1、x)トリフルオロエチレン、xi)1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピレン、xii)1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロピレン、xiii)2,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよびxiv)非共役ジエンが挙げられるが、それらに限定されない。
【0024】
臭素化硬化部位モノマーは、他のハロゲン、好ましくはフッ素を含有してもよい。臭素化オレフィン硬化部位モノマーの例は、CF2=CFOCF2CF2CF2OCF2CF2Br、ブロモトリフルオロエチレン、4−ブロモ−3,3,4,4−テトラフルオロブテン−1(BTFB)、ならびに臭化ビニル,1−ブロモ−2,2−ジフルオロエチレン、臭化パーフルオロアリル、4−ブロモ−1,1,2−トリフルオロブテン−1、4−ブロモ−1,1,3,3,4,4−ヘキサフルオロブテン、4−ブロモ−3−クロロ−1,1,3,4,4−ペンタフルオロブテン、6−ブロモ−5,5,6,6−テトラフルオロヘキセン、4−ブロモパーフルオロブテン−1および臭化3,3−ジフルオロアリルなどの他のものである。本発明で有用な臭素化ビニルエーテル硬化部位モノマーには、2−ブロモ−パーフルオロエチルパーフルオロビニルエーテルおよびCF2BrCF2O−CF=CF2などのクラスCF2Br−Rf−O−CF=CF2(Rfはパーフルオロアルキレン基である)のフッ素化化合物、ならびにCH3OCF=CFBrまたはCF3CH2OCF=CFBrなどのグラスROCF=CFBrまたはROCBr=CF2(式中、Rは低級アルキル基またはフルオロアルキル基である)のフルオロビニルエーテルが含まれる。
【0025】
好適なヨウ化硬化部位モノマーには、式:CHR=CH−Z−CH2CHR−I(式中、Rは−Hまたは−CH3であり、Zは線状もしくは分岐の、任意選択的に1つまたは複数のエーテル酸素原子を含有するC1〜C18の(パー)フルオロアルキレン基、または米国特許公報(特許文献6)に開示されているような(パー)フルオロポリオキシアルキレン基である)のヨウ化オレフィンが含まれる。有用なヨウ化硬化部位モノマーの他の例は、米国特許公報(特許文献7)に開示されているように、式:I(CH2CF2CF2nOCF=CF2およびICH2CF2O[CF(CF3)CF2O]nCF=CF2など(式中、n=1〜3である)の不飽和エーテルである。加えて、ヨードエチレン、4−ヨード−3,3,4,4−テトラフルオロブテン−1(ITFB)、3−クロロ−4−ヨード−3,4,4−トリフルオロブテン、2−ヨード−1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(ビニルオキシ)エタン、2−ヨード−1−(パーフルオロビニルオキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエチレン、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−ヨード−1−(パーフルオロビニルオキシ)プロパン、2−ヨードエチルビニルエーテル、3,3,4,5,5,5−ヘキサフルオロ−4−ヨードペンテン、およびヨードトリフルオロエチレンをはじめとする好適なヨウ化硬化部位モノマーが米国特許公報(特許文献3)に開示されている。ヨウ化アリルおよび2−ヨード−パーフルオロエチルパーフルオロビニルエーテルもまた有用な硬化部位モノマーである。
【0026】
有用なニトリル含有硬化部位モノマーには、下に示される式
CF2=CF−O(CF2n−CN (VI)
(式中、n=2〜12、好ましくは2〜6である)
CF2=CF−O[CF2−CF(CF3)−O]n−CF2−CF(CF3)−CN (VII)
(式中、n=0〜4、好ましくは0〜2である)
CF2=CF−[OCF2CF(CF3)]x−O−(CF2n−CN (VIII)
(式中、x=1〜2、そしてn=1〜4である)、および
CF2=CF−O−(CF2n−O−CF(CF3)CN (IX)
(式中、n=2〜4である)
を有するものが含まれる。
【0027】
式(VIII)を有するものが好ましい。特に好ましい硬化部位モノマーは、ニトリル基とトリフルオロビニルエーテル基とを有する過フッ素化ポリエーテルである。最も好ましい硬化部位モノマーは、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CN (X)
すなわちパーフルオロ(8−シアノ−5−メチル−3,6−ジオキサ−1−オクテン)または8−CNVEである。
【0028】
非共役ジエン硬化部位モノマーの例には、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン、3,3,4,4−テトラフルオロ−1,5−ヘキサジエン、ならびに(特許文献8)および(特許文献9)に開示されているものなどの他のものが挙げられるが、それらに限定されない。好適なトリエンは8−メチル−4−エチリデン−1,7−オクタジエンである。
【0029】
上に挙げた硬化部位モノマーのうち、フルオロエラストマーが過酸化物で硬化させられる状況に好ましい化合物には、4−ブロモ−3,3,4,4−テトラフルオロブテン−1(BTFB)、4−ヨード−3,3,4,4−テトラフルオロブテン−1(ITFB)、ヨウ化アリル、ブロモトリフルオロエチレンおよび8−CNVEが含まれる。フルオロエラストマーがポリオールで硬化させられるとき、2−HPFPまたはパーフルオロ(2−フェノキシプロピルビニル)エーテルが好ましい硬化部位モノマーである。フルオロエラストマーがテトラアミン、尿素などのアンモニア発生化合物、ビス(アミノフェノール)またはビス(チオアミノフェノール)で硬化させられるとき、8−CNVEが好ましい硬化部位モノマーである。
【0030】
あるいはまたは硬化部位モノマーの共重合単位に加えて、臭素またはヨウ素硬化部位が、重合中にヨウ化メチレンまたは1,4−ジヨードパーフルオロブタンなどのヨウ化または臭化連鎖移動剤を用いてフルオロエラストマーポリマー鎖端上へ任意選択的に導入されてもよい。
【0031】
本発明のフルオロエラストマーは、任意選択的に、アルコールまたはカルボン酸基などの官能基を含有する共重合フルオロビニルエーテルをさらに含んでもよい。かかる官能性ビニルエーテルの例には、CF2=CF(OCF2CF(CF3))np(CF2mA(式中、Aは−CH2OHまたは−COOHであり、p=0または1、m=0〜10、そしてn=1〜20であり、ただしm=0のとき、p=0であり、そしてn>0のとき、p=1である)が挙げられるが、それらに限定されない。好ましい官能性フルオロビニルエーテルには、米国特許公報(特許文献10)に開示されているようなCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CH2OH(EVE−OH)、米国特許公報(特許文献11)に開示されているCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2COOH(EVE−COOH);CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2F(PSEPVE)、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2COOR(EVE)(式中、Rはアルキル基、好ましくはメチルである)、およびCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CH2O−P(O)(OR12(EVE−P)(式中、R1は水素、ナトリウムまたはカリウムイオンである)が含まれる。
【0032】
本発明のフルオロエラストマーの具体的な例には、i)TFE/PMVE/VAc、ii)PMVE/VAc、iii)TFE/P/VAc/TFP、およびiv)TFE/PMVE/E/VAc(ここで、「TFE」はテトラフルオロエチレンであり、「PMVE」はパーフルオロ(メチルビニルエーテル)であり、「VAc」は酢酸ビニルであり、「TFP」は3,3,3−トリフルオロプロペン−1であり、「P」はプロピレンであり、「E」はエチレンである)の共重合単位が挙げられるが、それらに限定されない。
【0033】
本発明のフルオロエラストマーは一般に、フリーラジカル乳化または懸濁重合によって製造される。好ましくは、重合は当該技術分野で周知の連続、バッチ式、またはセミバッチ式乳化法で実施される。生じたフルオロエラストマーラテックスは通常、電解質の添加によって凝固させられる。沈澱したポリマーは水で洗浄され、次に、例えば、空気オーブン中で乾燥させられて実質的に乾燥したフルオロエラストマーゴムを生成する。
【0034】
セミバッチ式乳化重合法では、所望の組成のガス状モノマー混合物(初期のモノマー装入物)は、水溶液を含有する反応器中へ導入される。一般に、水溶液のpHは塩基(例えば苛性)または緩衝剤(例えばリン酸塩)で、製造中のフルオロエラストマーのタイプに依存して、1〜8(好ましくは3〜7)に調節される。加えて、初期の水溶液は、フルオロエラストマーラテックス粒子形成を促進し、こうして重合プロセスを加速させるために、界面活性剤および/または前に製造されたフルオロエラストマー種ポリマーなどの核形成剤を含有してもよい。
【0035】
初期の装入物に含有されるモノマー混合物の量は、0.5〜10MPaの反応器圧力をもたらすように設定される。
【0036】
モノマー混合物は水性媒体中に分散され、そして、任意選択的に、連鎖移動剤がまた、反応混合物が典型的には機械撹拌によってかき混ぜられながら、この時点で加えられてもよい。
【0037】
セミバッチ式反応混合物の温度は25℃〜130℃、好ましくは50℃〜100℃の範囲に維持される。重合は、開始剤が熱分解するか、還元剤と反応するかのいずれかを経て、生じたラジカルが分散されたモノマーと反応するときに開始する。
【0038】
ガス状の主要モノマーと硬化部位モノマーとの追加量(追加フィード)は、調節された温度で一定の反応器圧力を維持するために、重合の間中調節された速度で加えられる。重合圧力は0.5〜10MPa、好ましくは1〜6.2MPaの範囲に調節される。
【0039】
2〜30時間の範囲の重合時間がこのセミバッチ式重合法では典型的に用いられる。
【0040】
好適な連続乳化重合法は以下のようにセミバッチ法とは異なる。連続法では、ガス状モノマーと水溶性モノマーなどの他の原料、連鎖移動剤、緩衝剤、塩基、重合開始剤、界面活性剤などの溶液とが一定の速度で別個の流れで反応器にフィードされる。連続法反応混合物の温度は、25℃〜130℃、好ましくは80℃〜120℃の範囲に維持される。
【0041】
これより、本発明を、すべての部が特に明記されない限り重量による、以下の実施形態によって例示する。
【実施例】
【0042】
(試験方法)
ムーニー(Mooney)粘度、ML(1+10)は、1分の予熱時間および10分のローター操作時間を用いて121℃で大きい(L)ローターを使ってASTM(米国材料試験協会)D1646に従って測定した。
【0043】
19F−NMRは、7.5μsの90°パルス、150KHzのスペクトル幅および10秒のリサイクル遅れ(dl)を用いて、クワッド・プローブ(Quad Probe)付きブルッカー(Bruker)DRX400分光計(SN Z8400/0026)で、特に明記しない限り、室温で実行させた。計16スキャンを得た。
【0044】
1H−NMRは、19F−NMRと同じ分光計および同じプローブで室温にて実行させた。11.2μsの90°パルス、10KHzのスペクトル幅および30秒のリサイクル遅れ(dl)を用いた。計16スキャンを得た。
【0045】
gは、10℃/分の加熱速度、および窒素雰囲気を用いてTA機器(TA Instruments)2920でのDSCによって測定した。
【0046】
(実施例1)
1リットルのステンレス反応器に脱イオン水(450mL)、パーフルオロノナン酸のアンモニウム塩(界面活性剤、3.0g)、リン酸二ナトリウム七水和物(2.0g)および過硫酸アンモニウム(0.4g)を、酢酸ビニル(VAc)モノマー(5.0g)と一緒に装入した。反応器を密閉し、数回冷却排気した(すなわち室温より低い温度冷却し、次に酸素を除去するために排気した)。テトラフルオロエチレン(TFE)(45g)とパーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)(40g)とを次に反応器中へ移した。重合を開始させ、900rpmのかき混ぜ速度で70℃で8時間進行させた。生じたポリマーラテックスを飽和硫酸マグネシウム溶液で凝固させた。沈澱したポリマーを濾過によって集めた。ポリマーを温水で十分に洗浄し、次に80℃の真空オーブン中で乾燥させた。29.4グラムの白色ポリマーを得た。このポリマーは、DSCによって測定した際に+0.2℃でのTgを有した。ポリマーの組成は、ヘキサフルオロベンゼン溶媒中70℃で1Hおよび19F−NMRによって測定した際にTFE/PMVE/VAc=60.0/32.0/8.0(モル%)であった。
【0047】
(実施例2)
1リットル反応器に脱イオン水(550mL)、パーフルオロノナン酸のアンモニウム塩(界面活性剤、3.0g)、リン酸二ナトリウム七水和物(2.0g)および過硫酸アンモニウム(0.4g)を、酢酸ビニル(VAc)モノマー(10.8g)と一緒に装入した。反応器を密閉し、数回冷却排気した。PMVE(62.3g)を次に反応器中へ移した。重合を開始させ、70℃で8時間進行させた。生じたポリマーラテックスを飽和硫酸マグネシウム溶液で凝固させた。沈澱したポリマーを濾過によって集めた。ポリマーを温水で十分に洗浄し、次に80℃で真空(150mmHg)で乾燥させた。19.1グラムの白色ポリマーを得た。このポリマーは、DSCによって測定した際に23℃でのTgを有した。ポリマーの組成は、ヘキサフルオロベンゼン溶媒中周囲温度で1Hおよび19F−NMRによって測定した際にPMVE/VAc=31.7/68.3(モル%)であった。
【0048】
(実施例3)
本発明のポリマーを、十分に撹拌される反応容器中60℃で実施される、セミバッチ式乳化重合法によって製造した。33リットルの水平かき混ぜ反応器に23リットルの脱イオン脱酸素水、フォラファック(Forafac)1033D界面活性剤の115g活性原料、および13.5gイソプロパノールを装入した。反応器を60℃に加熱し、次に96重量%テトラフルオロエチレン(TFE)と、2重量%プロピレン(P)と、2重量%3,3,3−トリフルオロプロペン−1(TFP)との混合物で2.07MPaに加圧した。10重量%過硫酸アンモニウム開始剤水溶液の812mLアリコートを次に加えた。79.8重量%TFE、16.0重量%P、および4.3重量%TFPのガスモノマー混合物を反応器に供給して重合の間中2.07MPaの圧力を維持した。開始剤溶液を反応期間の終わりまで15mL/時で連続的にフィードした。80gのガスモノマー混合物をフィードした後、酢酸ビニル(VAc)フィードを、計451gのVAcをフィードしてしまうまで6gのVAc対94gのガスモノマー混合物の比で別個に開始した。計7533gガスモノマー混合物を反応器に供給した後、モノマー添加を止め、反応器から残留モノマーを一掃した。全反応時間は13時間であった。
【0049】
ポリマーAは、硫酸アルミニウム水溶液の添加によって凝固させ、次に濾過した上記フルオロエラストマーラテックスの一部から製造した。フルオロエラストマーを脱イオン水で洗浄し、60℃で2日間乾燥させた。
【0050】
ポリマーBは、NaOHで10のpHに上げ、次にpH10で24時間室温で老化させた上記ラテックスの別の部分から製造した。老化ラテックスのpHを、硫酸アルミニウム水溶液の添加によって老化ラテックスを凝固させる前に硫酸で5未満に下げた。濾過したフルオロエラストマーを次に脱イオン水で洗浄し、60℃で2日間乾燥させた。
【0051】
ポリマーAおよびポリマーBの両方とも、示差走査熱量測定法(加熱モード、10℃/分、転移の変曲点)によって測定した際に2.4℃のガラス転移温度と、周囲温度でヘキサフルオロベンゼン溶媒中の1Hおよび19F−NMRによって分析した際にTFE/P/VAc/TFP=63.0/30.4/5.0/1.6(モル%)の組成と、ムーニー粘度、ML−10(121℃)、51とを有した。ポリマーB上のビニルエステル側基は、ポリマーA(鹸化されていない)の赤外カルボニル吸収領域とポリマーBの赤外カルボニル吸収領域を比較することによって測定した際に、約15%、部分的に鹸化されていた。
【0052】
(実施例4)
本発明のポリマーを、十分に撹拌される反応容器中60℃で実施される、セミバッチ式乳化重合法によって製造した。33リットルの水平かき混ぜ反応器に23リットルの脱イオン脱酸素水、およびフォラファック1033Dの115gの活性原料を装入した。反応器を60℃に加熱し、次に96重量%TFEと、2重量%プロピレン(P)と、2重量%3,3,3−トリフルオロプロペン−1(TFP)との混合物で2.07MPaに加圧した。10重量%過硫酸アンモニウム開始剤水溶液の812mLアリコートを次に加えた。79.8重量%TFE、16.7重量%P、および4.2重量%TFPのガスモノマー混合物を反応器に供給して重合の間中2.07MPaの圧力を維持した。開始剤溶液を反応期間の終わりまで15mL/時で連続的にフィードした。80gのガスモノマー混合物をフィードした後、VAcフィードを、計307gのVAcをフィードしてしまうまで4gのVAc対96gのガスモノマー混合物の比で別個に開始した。計7680gガスモノマー混合物を反応器に供給した後、モノマー添加を止め、反応器から残留モノマーを一掃した。全反応時間は12時間であった。生じたフルオロエラストマーラテックスを硫酸アルミニウム水溶液の添加によって凝固させ、濾過したフルオロエラストマーを脱イオン水で洗浄した。ポリマー小片を60℃で2日間乾燥させた。生成物は、示差走査熱量測定法(加熱モード、10℃/分、転移の変曲点)によって測定した際に6.9℃のガラス転移温度と、周囲温度でヘキサフルオロベンゼン溶媒中の1Hおよび19F−NMRによって分析した際にTFE/P/VAc/TFP=63.3/31.8/3.2/1.7(モル%)の組成と、ムーニー粘度、ML−10(121℃)、94とを有した。
【0053】
(実施例5)
本発明のポリマーを、十分に撹拌される反応容器中80℃で実施される、セミバッチ式乳化重合法によって製造した。2リットル反応器に1200gの脱イオン脱酸素水、32gパーフルオロオクタン酸アンモニウム、および6gリン酸二ナトリウム七水和物を装入した。反応器を80℃に加熱し、次に30重量%TFEと70重量%PMVEとの混合物で2.07MPaに加圧した。0.2重量%過硫酸アンモニウム開始剤水溶液の14.8mLアリコートを次に加えた。7.7重量%エチレン(E)と、45.4重量%TFEと、46.9重量%PMVEとのガスモノマー混合物を反応器に供給して重合の間中2.07MPaの圧力を維持した。開始剤溶液を反応期間の終わりまで5.0mL/時で連続的にフィードした。4gのガスモノマー混合物をフィードした後、VAcフィードを、計12.4gのVAcをフィードしてしまうまで3gのVAc対97gのガスモノマー混合物の比で別個に開始した。計417gガスモノマー混合物を反応器に供給した後、モノマー添加を止め、反応器から残留モノマーを一掃した。全反応時間は10時間であった。生じたフルオロエラストマーラテックスを硫酸アルミニウム水溶液の添加によって凝固させ、濾過したフルオロエラストマーを脱イオン水で洗浄した。ポリマー小片を60℃で2日間乾燥させた。生成物は、示差走査熱量測定法(加熱モード、10℃/分、転移の変曲点)によって測定した際に−11.1℃のガラス転移温度と、周囲温度でヘキサフルオロベンゼン溶媒中の1Hおよび19F−NMRによって分析した際にTFE/PMVE/E/VAc=46.7/27.3/25.2/0.8(モル%)の組成とを有した。
【0054】
(実施例6)
本発明のポリマーを、十分に撹拌される反応容器中80℃で実施される、セミバッチ式乳化重合法によって製造した。2リットル反応器に1200gの脱イオン脱酸素水、32gパーフルオロオクタン酸アンモニウム、および6gリン酸二ナトリウム七水和物を装入した。反応器を80℃に加熱し、次に30重量%TFEと70重量%PMVEとの混合物で2.07MPaに加圧した。0.2重量%過硫酸アンモニウム開始剤水溶液の14.8mLアリコートを次に加えた。51.3重量%TFEと、48.7重量%PMVEとのガスモノマー混合物を反応器に供給して重合の間中2.07MPaの圧力を維持した。開始剤溶液を反応期間の終わりまで5.0mL/時で連続的にフィードした。4gのガスモノマー混合物をフィードした後、VAcフィードを、計26.8gのVAcをフィードしてしまうまで6.5gのVAc対93.5gのガスモノマー混合物の比で別個に開始した。計417gガスモノマー混合物を反応器に供給した後、モノマー添加を止め、反応器から残留モノマーを一掃した。全反応時間は18時間であった。生じたフルオロエラストマーラテックスを硫酸アルミニウム水溶液の添加によって凝固させ、濾過したフルオロエラストマーを脱イオン水で洗浄した。ポリマー小片を60℃で2日間乾燥させた。生成物は、示差走査熱量測定法(加熱モード、10℃/分、転移の変曲点)によって測定した際に−4.8℃のガラス転移温度と、周囲温度でヘキサフルオロベンゼン溶媒中の1Hおよび19F−NMRによって分析した際にTFE/PMVE/VAc=62.9/34.0/3.1(モル%)の組成とを有した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
35〜75モルパーセントのテトラフルオロエチレンと、0〜40モルパーセントのパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)と、0〜40モルパーセントの、エチレンおよびプロピレンからなる群から選択される炭化水素オレフィンと、0〜5モルパーセントのフッ化ビニリデンと、0.25〜30モルパーセントの、式CH2=CHOC(O)R(式中RがC1〜C4のアルキル基である)を有するビニルエステルとの共重合単位を含み、ただし、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)のモルパーセントが0%である場合、前記フルオロエラストマーが少なくとも10モルパーセントのプロピレンを含有し、ここで、全共重合単位の合計が100モルパーセントであることを特徴とするフルオロエラストマー。
【請求項2】
硬化部位モノマーの共重合単位をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のフルオロエラストマー。
【請求項3】
官能化フルオロビニルエーテルの共重合単位をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のフルオロエラストマー。
【請求項4】
エステル側基が少なくとも部分的に鹸化されていることを特徴とする請求項1に記載のフルオロエラストマー。
【請求項5】
0〜75モルパーセントのテトラフルオロエチレンと、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)と、式CH2=CHOC(O)R(式中RがC1〜C4のアルキル基である)を有するビニルエステルとの共重合単位を含み、ここで、全共重合単位の合計が100モルパーセントであることを特徴とするフルオロエラストマー。
【請求項6】
硬化部位モノマーの共重合単位をさらに含むことを特徴とする請求項5に記載のフルオロエラストマー。
【請求項7】
官能化フルオロビニルエーテルの共重合単位をさらに含むことを特徴とする請求項5に記載のフルオロエラストマー。
【請求項8】
エステル側基が少なくとも部分的に鹸化されていることを特徴とする請求項5に記載のフルオロエラストマー。

【公表番号】特表2009−513796(P2009−513796A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−538020(P2008−538020)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【国際出願番号】PCT/US2006/042075
【国際公開番号】WO2007/053464
【国際公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(597035953)デュポン パフォーマンス エラストマーズ エルエルシー (44)
【Fターム(参考)】