説明

ビニル系化合物を含有する分離機能層を備える複合半透膜の製造方法

【課題】ビニル系化合物分離機能層を有する複合半透膜の脱塩性能を向上させるための方法を提供する。
【解決手段】下記A工程及びB工程を備える複合半透膜の製造方法。A:(a)〜(c)を微多孔性支持膜上に配置すること。(a)重合可能な二重結合を有する有機酸の金属塩及びアンモニウム塩から選択される少なくとも1種の化合物。(b)シリル化合物−Si(OR)mRn(式中、m及びnはm+n=3を満たし、mは1以上の整数であり、nは自然数であり、Rはアルキル基であり、Rはアルキル基又は水素原子である。)。(c)クラウンエーテル化合物−(−CHCHX−)q−(式中、qは4以上の整数であり、Xは酸素原子、窒素原子または硫黄原子である。)。B:支持膜上で、(c)の存在下、(a)と(b)とを重合させることにより、分離機能層を形成すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビニル系化合物を分離機能層に用いた複合半透膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水処理用分離膜として、分離機能層を多孔質膜上に被覆した複合半透膜が考案され、工業利用されている。複合半透膜では、分離機能層と微多孔性支持膜の各々に最適な素材を選択する事が可能であり、製膜技術も種々の方法を選択できる。現在工業利用されている複合半透膜の多くは多孔質膜上での界面重縮合を利用したものであり、分離機能層にはポリアミドが用いられている。これらの具体例としては、特許文献1、特許文献2などがある。
【0003】
ポリアミド系複合半透膜は、酢酸セルロース膜に代表される様な非対称膜よりも一般に高い脱塩性・水透過性を有する。しかしながら、ポリアミド系複合半透膜は主鎖にアミド結合を有するため、塩素などで洗浄処理することで脱塩性能や選択分離能が著しく劣化することが知られている。
【0004】
そのような点を省み、例えば特許文献3、特許文献4などでは、製膜技術の汎用性が高く、また原料の選択性の幅も広いビニル系化合物を重合した分離機能層の研究がなされている。
【0005】
ビニル系化合物を重合した分離機能層を用いた複合半透膜は、ポリアミド系複合半透膜に見られる様な塩素洗浄処理による性能劣化に対して、一般的に耐性を有するとされており、その脱塩性能・透水性についてもポリアミド系複合半透膜に匹敵するレベルが要求されている。該分離機能層の形成方法に関する研究は現在でも盛んである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第3,744,942号明細書
【特許文献2】米国特許第3,926,798号明細書
【特許文献3】特開2000−117077号公報
【特許文献4】特開2000−17002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明における課題は、ビニル系化合物を重合した分離機能層を有する複合半透膜の脱塩性能を向上させるための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、下記A工程及びB工程を備える複合半透膜の製造方法によって解決可能である。
【0009】
A:下記物質(a)〜(c)を微多孔性支持膜上に配置すること
(a)少なくとも1つの重合可能な二重結合を有する有機酸の金属塩及びアンモニウム塩からなる群より選択される、少なくとも1種の化合物
(b)下記一般式(1)で表される構造部位を有する化合物
【0010】
【化1】

【0011】
一般式(1)中、m及びnはm+n=3を満たし、mは1以上の整数であり、nは自然数であり、R1はアルキル基であり、R2はアルキル基又は水素原子である。
【0012】
(c)下記一般式(2)で表される構造部位を有する化合物
【0013】
【化2】

【0014】
一般式(2)中、qは4以上の整数であり、Xは酸素原子、窒素原子または硫黄原子である。
【0015】
B:前記微多孔性支持膜上で、前記物質(c)の存在下、前記物質(a)と物質(b)とを重合させることにより、分離機能層を形成すること
【発明の効果】
【0016】
本発明により、ビニル系化合物を重合した分離機能層を有する複合半透膜の脱塩性能を向上させるための方法を提供することが出来る。特に、ビニル系化合物を重合して分離機能層を形成する際、一般式(2)で表される構造部位を有する化合物を添加することにより重合反応を促進し、モノマーの残存を低減させ、脱塩率を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.製造方法
本発明の製造方法の例について、以下に説明する。
【0018】
複合半透膜の製造方法は、上述したように、物質(a)〜(c)を微多孔性支持膜上に配置することである工程A、及び微多孔性支持膜上で、物質(c)の存在下、物質(a)と物質(b)とを重合させることにより、分離機能層を形成することである工程Bを備える。
【0019】
物質(a)について説明する。物質(a)は、少なくとも1つの重合可能な二重結合を有する有機酸の金属塩及びアンモニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である。このような化合物は、「単量体」と言い換えられてもよい。
【0020】
物質(a)における「重合可能な二重結合」としては、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基、アリル基、ビニル基、スチリル基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
有機酸の金属塩及びアンモニウム塩(以下、これらを有機酸塩と総称することがある)としては、例えば、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、o−スチレンスルホン酸、p−スチレンスルホン酸、m−スチレンスルホン酸、2−ビニル安息香酸、3−ビニル安息香酸、4−ビニル安息香酸、アクリル酸、メタクリル酸、2−アクリロイロキシエチルコハク酸、2−メタクリロイロキシエチルコハク酸、3,5−ジアクリルアミド安息香酸、ビニルホスホン酸、アリルホスホン酸、o−スチレンホスホン酸、p−スチレンホスホン酸、m−スチレンホスホン酸等の金属塩及びアンモニウム塩が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
有機酸の金属塩において、有機酸イオンと対を成す金属原子として、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、銅、カルシウム、バリウム、マグネシウム、水銀、銀、などが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、本発明の効果が得られる範囲で適宜選択可能であるとする。
【0023】
物質(a)としては、少なくとも一種の有機酸塩が含まれておればよい。すなわち、上述した有機酸塩のうちの単独の化合物が物質(a)として用いられてもよいし、複数の化合物が組み合わせられてもよい。
【0024】
物質(b)は、一般式(1)で表される構造部位を有していればよく、その他の構成は特に限定されない。例えば、化合物(b)は、一般式(1)で表される構造部位以外の構造部位を含むこともできる。物質(b)として、具体的には種々の市販のシランカップリング剤などが挙げられる。
【0025】
また、工程Aでは、物質(b)として1種の化合物のみが用いられてもよいし、複数の化合物が組み合わされて用いられてもよい。
【0026】
化合物(c)は、上述の一般式(2)で表される構造部位を有すればよく、その他の構成は特に限定されない。例えば、化合物(c)は、一般式(2)で表される構造部位以外の構造部位を含むこともできる。
【0027】
一般式(2)において、qは4以上であれば良く、qの上限は、10、8又は6等であってもよい。
【0028】
化合物(b)は、相間移動剤として機能することができる。この化合物は、有機酸塩中の陽イオンを捕捉することで、対を成す有機酸イオンの有機溶媒中での溶解性を向上させ、または有機相への移動を促進させる。これにより反応相中でのモノマーの溶解性が増大し、重合反応におけるモノマー消費が促進される。一般式(2)で表される構造部位を有する化合物の例としては、ポリエチレングリコール、12-クラウン-4、15-クラウン-5、18-クラウン-6、ジベンゾ-18-クラウン-6、ジアザ-18-クラウン-6などが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。また、使用する化合物は陽イオンの捕捉効果が得られる範囲で適宜選択すればよいが、最も好ましくは、捕捉対象の陽イオンのサイズに適合する環状構造部位を有する化合物を使用することである。例えば、ナトリウムイオンを捕捉させる場合、サイズ適合性では15-クラウン-5が最も好ましく、重合促進の効果を最大化させ得る。
【0029】
なお、一般式(2)で表される構造部位は、直鎖状構造または環状構造のいずれか又はその組み合わせであってもよい。また、本構造部位の末端構造は特に限定されない。
【0030】
工程Aにおいて、物質(a)〜(c)の微多孔性支持膜上への付与は、同時に行われてもよいし、別々に行われてもよいし、付与の順序は特に限定されるものではなく、変更可能である。例えば、「物質(a)〜(c)を微多孔性支持膜上に配置すること」とは、物質(a)〜(c)を含有する液体を微多孔性支持膜上に塗布すること、並びに、物質(a)、(b)及び(c)をそれぞれ単独で含有する溶液を微多孔性支持膜上に塗布することを包含する。具体的には、工程Aは、これらの液体を微多孔性支持膜に、スピンコーター、ワイヤーバー、フローコーター、ダイコーター、ロールコーター、スプレーなどの塗布装置を用いて付与すること、又は微多孔性支持膜を反応液に浸漬することを含んでいてもよい。
【0031】
塗布によって工程Aを実現する場合、塗布される液体に含まれる溶媒は、後述の工程Bの重合反応時の溶媒であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0032】
工程Aにおいて微多孔性支持膜上に配置される物質(a)〜(c)の量比は、後述の重合反応によって分離機能層が形成できる範囲で、変更可能である。
【0033】
微多孔性支持膜とは、分離機能層の支持膜として、複合半透膜に強度を与えるために用いられるものである。したがって、複数の孔を有する膜であれば特に限定されないが、好ましくは、略均一な孔あるいは片面からもう一方の面まで徐々に孔径が大きくなる孔を有し、かつ微多孔性支持膜の強度の問題から、膜の片側表面における孔径が100nm以下であるような構造の膜が好ましい。さらに、孔径としては1〜100nmの範囲内であるとより好ましい。孔径が1nmを下回ると、透過流束が低下する傾向にあるためである。また、微多孔性支持膜の厚みは、1μm〜5mmの範囲内にあると好ましく、10〜100μmの範囲内にあるとより好ましい。厚みが1μmを下回ると多孔性支持膜の強度が低下しやすく、5mmを超えると取り扱いにくくなるためである。
【0034】
微多孔性支持膜に用いられる素材としては特に限定されないが、例えばポリスルホン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンオキシドなどのホモポリマーあるいはコポリマーを単独であるいはブレンドして用いることができる。上記のうち、セルロース系ポリマーとしては、酢酸セルロース、硝酸セルロースなど、ビニル系ポリマーとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリルなどを用いると好ましい。中でも、ポリスルホン、ポリアミド、ポリエステル、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホンなどのホモポリマーやコポリマーが好ましい。さらに、これらの素材の中でも、化学的、機械的、熱的に安定性が高く、成型が容易であるポリスルホンを用いることが特に好ましい。
【0035】
微多孔性支持膜とは、いわゆる基材と、基材上に形成された支持層とを備えてもよい。基材は、例えば織布及び不織布等で形成されてもよく、支持層は、微多孔性支持膜に用いられる素材として上述した材料で形成されてもよい。
【0036】
次に、工程Bについて説明する。
【0037】
重合反応に用いられる溶媒としては、水、種々の汎用有機溶媒、あるいはそれらの混合溶媒などが挙げられ、特に限定されるものではないが、本発明の効果を最大化するため、種々の汎用有機溶媒、またはそれらと水との混合溶媒を用いることができる。
【0038】
なお、重合時における物質(a)〜(c)の量比は、物質(a)と物質(b)との重合反応によって分離機能を有する層が形成される範囲で変更可能である。
【0039】
重合方法としては熱処理、電磁波照射、電子線照射、放射線照射、プラズマ照射により行うことができる。ここで電磁波とは赤外線、紫外線、X線、γ線などを含む。重合方法はモノマーの構造、生産性、コストなどにより適宜最適な選択をすればよい。
【0040】
なお重合に用いられる電磁波としては、ハロゲンランプ、キセノンランプ、UVランプ、エキシマランプ、メタルハライドランプ、希ガス蛍光ランプ、水銀灯などから発生させることができるが、適宜最適化を行う必要がある。
【0041】
また、分離機能層形成の際に重合開始剤、重合促進剤等を添加することが反応促進の観点から好ましい。ここで、重合開始剤、重合促進剤とは特に限定されるものではなく、用いる化合物の構造、重合手法などに合わせて適宜選択されるものである。
【0042】
重合開始剤の例としては、ベンゾインエーテル、ジアルキルベンジルケタール、ジアルコキシアセトフェノン、アシルホスフィンオキシドもしくはビスアシルホスフィンオキシド、α−ジケトン(例えば、9,10−フェナントレンキノン)、ジアセチルキノン、フリルキノン、アニシルキノン、4,4’−ジクロロベンジルキノンおよび4,4’−ジアルコキシベンジルキノン、およびショウノウキノンが、光重合系の開始剤として好ましい。アゾ化合物(例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)もしくはアゾビス−(4−シアノバレリアン酸)、または過酸化物(例えば、過酸化ジベンゾイル、過酸化ジラウロイル、過オクタン酸tert−ブチル、過安息香酸tert−ブチルもしくはジ−(tert−ブチル)ペルオキシド)、さらに芳香族ジアゾニウム塩、ビススルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アルキルリチウム、クミルカリウム、ナトリウムナフタレン、ジスチリルジアニオンなどが使用できる。過酸化物およびα−ジケトンは、好ましくは芳香族アミンと組み合わせて使用される。また、レドックス系重合開始剤(酸化還元系重合開始剤)としては、例えば、酸化剤として用いられる過酸化物である過酸化ベンゾイルまたはショウノウキノンと、還元剤であるアミン(例えば、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチル−アミノ安息香酸エチルエステルまたは構造的に関連する系)との組み合わせが挙げられる。さらに、過酸化物を、還元剤としてのアスコルビン酸、バルビツレートまたはスルフィン酸と組み合わせて含有するレドックス系重合開始剤も適切である。
【0043】
重合促進剤の例としては、水素引き抜き型開始剤と共に用いるアミン、アルコール、エーテルなどの水素供与体や、二元系の開始剤で用いられる増感色素などが挙げられる。
【0044】
複合半透膜の製造方法は、言うまでもなく、工程A及びB以外の工程を備えることができる。このような工程として、物質(a)〜(c)以外の物質を微多孔性支持膜上に配置する工程、及び、工程B後にも重合せずに残った単量体を洗浄等によって除去する工程等が挙げられる。
【0045】
「物質(a)〜(c)以外の物質」としては、上述の重合開始剤及び重合促進剤等の物質、並びに、有機酸塩以外の化合物であって、少なくとも1つの重合可能な二重結合を有する化合物(以下、「物質(d)」と称する)が挙げられる。物質(d)も、「単量体」と言い換えられる。
【0046】
物質(d)は、有機酸であってもよいし、有機酸以外の化合物であってもよい。物質(d)に該当する有機酸については、物質(a)の化合物を構成する有機酸として説明した通りである。ただし、物質(d)が有機酸である場合、物質(d)として、物質(a)を構成する有機酸が用いられてもよいし、物質(a)を構成する有機酸とは異なる有機酸が用いられてもよい。また、有機酸以外の化合物としては、スチレン、メチルメタクリレート、及びビニルエーテル等、重合可能な少なくとも1つの二重結合を有する化合物であれば、適用可能である。なお、物質(d)として、単独の化合物が用いられてもよいし、複数の化合物が組み合わされて用いられてもよい。
【0047】
上述の物質(d)は、工程Bの実行時に物質(a)〜(c)と共存していてもよい。つまり、工程Bは、物質(c)に加えて物質(d)の存在下で、物質(a)と(b)とを重合させる工程であってもよい。物質(d)が存在する場合、工程Bにおいて物質(d)の重合も進行する。よって、この場合には、得られた分離機能層には物質(a)と(b)と(d)との共重合体が含まれ得る。
【0048】
なお、物質(a)〜(c)以外の物質は、工程Aと同時に微多孔性支持膜上に配置されてもよい。例えば、工程Aが液体の塗布によって実現される場合、その液体中にこれらの物質が添加されていてもよい。また、工程Aの前又は後で、微多孔性支持膜上の重合反応系にこれらの物質が添加されてもよい。
【0049】
分離機能層は、微多孔性支持膜の少なくとも片面に設けられればよく、微多孔性支持膜が基材及び支持層を備える場合には、支持層側の面に配置される。また、以上に説明した方法により、1つの複合半透膜に複数の分離機能層を設けても良い。
【0050】
2.複合半透膜
上述の製造方法により、以下の構成を有する複合半透膜を製造することができる。
【0051】
複合半透膜は、流体分離機能を有する分離機能層、及び分離機能層を支持するための微多孔性支持層等を備えることができる。
【0052】
流体分離機能とは、原流体を透過流体と濃縮流体とに分離することができる機能である。具体的には、分離機能層は、脱塩性能や透水性能などを有する。
【0053】
分離機能層は、上述の物質(a)及び(b)の少なくとも一方に由来する化合物を主成分として含有することができる。より具体的には、分離機能層は、物質(a)と(b)との重合生成物を主成分として含有することができる。物質(a)と(b)との重合生成物は、物質(a)又は(b)に由来する部分の他に、例えば物質(d)等の他の単量体に由来する部分を含んでもよい。つまり、分離機能層は、少なくとも物質(a)と(b)とに由来する部分を含む共重合体を主成分として含有することができる。
【0054】
なお、本明細書において、「物質Xが物質Yを主成分として含有する」とは、物質Xにおいて物質Yの占める割合が、70重量%以上、80重量%以上、又は90重量%以上であることを意味し、物質Xが物質Yのみからなる場合も含む。Yは複数種類の物質を含むこともできる。つまり、Yに該当する複数種類の化合物の合計量が、上述の割合を満たしていればよい。
【0055】
分離機能層の厚みは、0.01〜1μmの範囲内であってもよいし、0.1〜0.5μmの範囲内であってもよい。
【0056】
微多孔性支持層については、上述の微多孔性支持膜について説明した通りである。
【実施例】
【0057】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0058】
なお、以下の実施例において複合半透膜の排除率(Rej)は次式(3)で計算され、複合半透膜の透過速度(Flux)は次式(4)で計算されるものである。
【0059】
Rej(%)={(供給液の濃度−透過液の濃度)/供給液の濃度}×100 ・・・式(3)
Flux(m/m/日)=(一日の透過液量)/(膜面積) ・・・式(4)
<実験例1>
p−スチレンスルホン酸ナトリウム(2.0重量部)、p−メチルスチレン(1.3重量部)、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(0.16重量部)、15−クラウン−5(2.0重量部)、イソプロピルアルコール/水混合溶媒(94.54重量部)からなる塗液をアルミカップ上に載せ、紫外線を照射した。その後十分に乾燥させ、DMSO-d6に溶解させ、1H-NMR測定を行った。1H-NMRスペクトル測定の結果から、フェニル基のプロトンピークの面積強度を1とした場合のp−スチレンスルホン酸ナトリウムのβプロトンピークの面積強度は0.08であった。
【0060】
<実験例2>
p−スチレンスルホン酸ナトリウム(2.0重量部)、p−メチルスチレン(1.3重量部)、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(0.16重量部)、イソプロピルアルコール/水混合溶媒(96.54重量部)からなる塗液をアルミカップ上に載せ、紫外線を照射した。その後十分に乾燥させ、DMSO-d6に溶解させ、1H-NMR測定を行った。1H-NMRスペクトル測定の結果から、フェニル基のプロトンピークの面積強度を1とした場合のp−スチレンスルホン酸ナトリウムのβプロトンピークの面積強度は0.23であった。
【0061】
実験例1および実験例2の結果より、15−クラウン−5の添加により、重合後のp−スチレンスルホン酸ナトリウムの残存量が減少していることが分かる。15−クラウン−5を反応液中に添加することで、p−スチレンスルホン酸ナトリウムモノマーの反応が促進されたものと言える。
【0062】
<実施例1>
p−スチレンスルホン酸ナトリウム(2.0重量部)、スチリルエチルシリルグリシジルエーテル(1.3重量部)、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(0.16重量部)、15−クラウン−5(2.0重量部)、イソプロピルアルコール/水混合溶媒(94.54重量部)からなる塗液を、微多孔性支持膜上に所定量載せ、均一にひろげた後、紫外線を照射した。その後十分に乾燥させ、複合半透膜を得た。
【0063】
このようにして得られた複合半透膜を、イソプロピルアルコール水溶液に浸漬した後、pH6.5に調整した500ppm食塩水を供給液とし、0.75MPa、25℃の条件下で逆浸透テストを行った結果、脱塩率96%、透水量0.1(m/m/日)であった。
【0064】
<比較例1>
p−スチレンスルホン酸ナトリウム(2.0重量部)、スチリルエチルシリルグリシジルエーテル(1.3重量部)、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(0.16重量部)、イソプロピルアルコール/水混合溶媒(96.54重量部)からなる塗液を、微多孔性支持膜上に所定量載せ、均一にひろげた後、紫外線を照射した。その後十分に乾燥させ、複合半透膜を得た。
【0065】
このようにして得られた複合半透膜を、イソプロピルアルコール水溶液に浸漬した後、pH6.5に調整した500ppm食塩水を供給液とし、0.75MPa、25℃の条件下で逆浸透テストを行った結果、脱塩率70%、透水量2(m/m/日)であった。
【0066】
実施例1および比較例1の結果より、15−クラウン−5を反応液中に添加することにより、脱塩率が向上したことが分かる。実施例1および比較例1の結果と併せ、15−クラウン−5の添加によりp−スチレンスルホン酸ナトリウムモノマーの反応が促進されることで残存量が低減され、脱塩性能が向上したと言え、本発明の効果を確認した。
【0067】
<実施例2>
p−スチレンスルホン酸カリウム(2.0重量部)、スチリルエチルシリルグリシジルエーテル(1.3重量部)、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(0.16重量部)、18−クラウン−6(2.0重量部)、イソプロピルアルコール/水混合溶媒(94.54重量部)からなる塗液を、微多孔性支持膜上に所定量載せ、均一にひろげた後、紫外線を照射した。その後十分に乾燥させ、複合半透膜を得た。
【0068】
このようにして得られた複合半透膜を、イソプロピルアルコール水溶液に浸漬した後、pH6.5に調整した500ppm食塩水を供給液とし、0.75MPa、25℃の条件下で逆浸透テストを行った結果、脱塩率94%、透水量0.13(m/m/日)であった。
【0069】
<比較例2>
p−スチレンスルホン酸カリウム(2.0重量部)、スチリルエチルシリルグリシジルエーテル(1.3重量部)、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(0.16重量部)、イソプロピルアルコール/水混合溶媒(96.54重量部)からなる塗液を、微多孔性支持膜上に所定量載せ、均一にひろげた後、紫外線を照射した。その後十分に乾燥させ、複合半透膜を得た。
【0070】
このようにして得られた複合半透膜を、イソプロピルアルコール水溶液に浸漬した後、pH6.5に調整した500ppm食塩水を供給液とし、0.75MPa、25℃の条件下で逆浸透テストを行った結果、脱塩率65%、透水量2.2(m/m/日)であった。
【0071】
実施例2および比較例2の結果より、18−クラウン−6を反応液中に添加することにより、脱塩率が向上したことが分かる。実施例1および比較例1の結果と同様に、18−クラウン−6の添加によりp−スチレンスルホン酸カリウムモノマーの反応が促進されることで残存量が低減され、脱塩性能が向上したと言え、本発明の効果を確認した。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記A工程及びB工程を備える複合半透膜の製造方法。
A:下記物質(a)〜(c)を微多孔性支持膜上に配置すること
(a)少なくとも1つの重合可能な二重結合を有する有機酸の金属塩及びアンモニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物
(b)下記一般式(1)で表される構造部位を有する化合物
【化1】

(一般式(1)中、m及びnはm+n=3を満たし、mは1以上の整数であり、nは自然数であり、R1はアルキル基であり、R2はアルキル基又は水素原子である。)
(c)下記一般式(2)で表される構造部位を有する化合物
【化2】

(一般式(2)中、qは4以上の整数であり、Xは酸素原子、窒素原子または硫黄原子である。)
B:前記微多孔性支持膜上で、前記物質(c)の存在下、前記物質(a)と物質(b)とを重合させることにより、分離機能層を形成すること
【請求項2】
前記工程Bは、少なくとも1つの重合可能な二重結合を有する化合物の存在下で、前記物質(a)と(b)とを重合させることを含む、
請求項1に記載の製造方法。

【公開番号】特開2013−22489(P2013−22489A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157551(P2011−157551)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 委託研究「省水型・環境調和型水循環プロジェクト/水循環要素技術研究開発/革新的膜分離技術の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】