説明

ビニル芳香族と共役脂肪族ジエンとから成るコポリマーベースの水性ポリマー分散液、その製造方法、及びその使用

ビニル芳香族と共役脂肪族ジエンとから成るコポリマーベースの水性ポリマー分散液であって、その平均粒径が80〜150nmであり、かつ(a)少なくとも1つのビニル芳香族化合物19.9〜80質量部、(b)少なくとも1つの共役脂肪族ジエン19.9〜80質量部、(c)少なくとも1つのエチレン性不飽和酸0.1〜10質量部、及び(d)少なくとも1つの他のモノエチレン性不飽和モノマー0〜20質量部(この際にモノマー(a)、(b)、(c)、及び(d)の質量部の合計は常に100である)のラジカル開始性エマルション共重合により得られ、水性媒体中で、固有粘度ηiが0.07dl/g未満の少なくとも1つの分解されたデンプンの存在下で、ペルオキソ二硫酸塩、ペルオキソ硫酸塩、アゾ開始剤、有機過酸化物、有機ヒドロペルオキシド、及び過酸化水素から選択される開始剤が、使用されるモノマー全体に対して少なくとも0.9質量%用いられ、この際に開始剤の少なくとも30質量%が、分解されたデンプンとともに水性媒体中に装入あれ、そしてモノマー並びに残りの開始剤は重合条件下でこの装入物に供給される、水性ポリマー分散液である。固有粘度ηiが0.07dl/g未満の少なくとも1つの分解されたデンプンの存在下で、モノマー(a)、(b)、(c)、及び場合により(d)のエマルション共重合による当該分散液の製造方法(この際に開始剤の一部は、分解されたデンプンの水溶液と一緒に反応器内に装入され、そして残りの開始剤とモノマーは、ポリマー条件下で供給される)、及び結合剤、接着剤、繊維用のりとしての、又は被覆の製造のための、水性分散液の使用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニル芳香族と共役脂肪族ジエンとから成るコポリマーベースの水性ポリマー分散液、その製造方法、及び紙用塗工液のための結合剤、接着剤、繊維用のりとしての、及び被覆の製造のための、その使用に関する。
【0002】
EP-A 0 536 597より、少なくとも1つのデンプン分解性生成物(天然デンプン、又は化学的に変性されたデンプンを水相で加水分解することにより製造され、質量平均分子量Mwが2500〜25000のもの)の存在下で、不飽和モノマーのラジカルエマルション重合により得られる水性ポリマー分散液は、公知である。不飽和モノマーとしては例えば、
アクリル酸及び/又はメタクリル酸と、1〜12個のC原子を有するアルコール及び/又はスチレンとのエステル50〜100質量%、若しくは
スチレン及び/又はブタジエン70〜100質量%
を含むモノマー混合物が使用される。この出願の表3の記載から明らかなように、分散されたポリマー粒子の平均粒子直径は407、310、若しくは209nmである。このポリマー分散液は、結合剤、接着剤、繊維用のりとして、又は被覆の製造のために使用される。この分散液を結合剤として含む紙用塗工液は、速く動く機械上で適用する際には充分な走行性を示さない。
【0003】
WO 99/09251より、デンプン−コポリマー生成物、及びその製造方法は公知である。デンプン−コポリマー生成物は、デンプンと、少なくとも1つのラジカル重合可能なモノマーとの反応生成物であると理解されるべきである。当該生成物は、平均粒径が180nm未満である。このような生成物の水性分散液を製造するために、25℃の温度で固有粘度ηが0.07〜0.35dl/gの分解されたデンプンの水溶液若しくは分散液が使用される。重合温度に加熱された、分解されたデンプンの水溶液若しくは分散液に対して、まずモノマーの一部とラジカル開始剤の一部を添加し、そして重合開始後にモノマー及び開始剤のさらなる部分量を供給し、この際にモノマー全体の少なくとも75質量%が重合開始後の1時間以上後に添加される。当該分散液は被覆の製造のため、及び紙製品の結合剤として使用される。しかしながらこのような製品の結合力は、充分なものではない。
【0004】
WO03/091300より、使用されるモノマーに対して10〜40質量%の、モル質量Mnが500〜40000の少なくとも1つの分解されたデンプン、及び水溶性レドックス触媒の存在下での、(a)スチレン及び/又はメチルスチレン0.1〜99.9質量%、(b)1,3−ブタジエン、及び/又はイソプレン0.1〜99.9質量%、及び(c)他のエチレン性不飽和モノマー0〜40質量%(この際にモノマー(a)、(b)、及び(c)の質量部の合計は常に100である)のラジカル開始性共重合により得られる、水性ポリマー分散液は公知である。当該ポリマー分散液は、紙用のビーターサイズ剤及び表面サイズ剤として、紙、厚紙、及びボール紙のために使用される。結合力が悪いので、当該分散液は例えば、紙用塗工液中の結合剤としては、適していない。
【0005】
本発明は、分解されたデンプンの存在下で製造される、ビニル芳香族と共役脂肪族ジエンとから成るコポリマーベースの水性ポリマー分散液を利用可能にするという課題に基づき、この際に当該分散液は公知の生成物と比較してより高い結合力を有し、紙用塗工液中で使用する際に、速く動く機械上で良好な走行性を有するのが望ましい。水性ポリマー分散液はさらに、凝固物(Koagulat)をほとんど含まない。
【0006】
本発明によればこの課題は、ビニル芳香族と共役脂肪族ジエンとから成るコポリマーベースの水性ポリマー分散液により解決され、この際に当該分散液は平均粒径が80〜150nmであり、かつ
(a)少なくとも1つのビニル芳香族化合物19.9〜80質量部、
(b)少なくとも1つの共役脂肪族ジエン19.9〜80質量部、
(c)少なくとも1つのエチレン性不飽和酸0.1〜10質量部、及び
(d)少なくとも1つの他のモノエチレン性不飽和モノマー0〜20質量部
(この際にモノマー(a)、(b)、(c)、及び(d)の質量部の合計は常に100である)
のラジカル開始性エマルション共重合により得られ、
水性媒体中で、固有粘度ηiが0.07dl/g未満の少なくとも1つの分解されたデンプンの存在下で、ペルオキソ二硫酸塩、ペルオキソ硫酸塩、アゾ開始剤、有機過酸化物、有機ヒドロペルオキシド、及び過酸化水素から選択される開始剤が、使用されるモノマー全体に対して少なくとも0.9質量%用いられ、この際に開始剤の少なくとも30質量%が、分解されたデンプンと一緒に水性媒体中に装入され、そしてモノマー並びに残りの開始剤は重合条件下でこの装入物に供給される。
【0007】
好ましい水性ポリマー分散液は、ラジカル開始性エマルション共重合の際に、重合すべきポリマー全体の3〜10質量%を水性媒体中に装入し、及び/又はエマルション共重合の際に固有粘度ηiが0.02〜0.06dl/gの分解された天然デンプンを使用すると得られる。
【0008】
水性ポリマー分散液は例えば、エマルション重合の際に、
(a)スチレン、及び/又はメチルスチレン19.9〜80質量部、
(b)1,3−ブタジエン、及び/又はイソプレン19.9〜80質量部、
(c)少なくとも1つのエチレン性不飽和酸0.1〜10質量部、及び
(d)少なくとも1つの他のモノエチレン性不飽和モノマー0〜20質量部
(この際にモノマー(a)、(b)、(c)、及び(d)の質量部の合計は常に100である)からなるモノマー混合物を使用することにより得られる。考慮される水性ポリマー分散液は好ましくは、エマルション共重合の際に
(a)スチレン、及び/又はメチルスチレン25〜70質量部、
(b)1,3−ブタジエン、及び/又はイソプレン25〜70質量部、
(c)少なくとも1つのエチレン性不飽和酸0.1〜10質量部、及び
(d)少なくとも1つの他のモノエチレン性不飽和モノマー0〜20質量部
(この際にモノマー(a)、(b)、(c)、及び(d)の質量部の合計は常に100である)を使用すると、得られる。
【0009】
エマルション共重合の際に例えば、モノマー100質量部に対して分解されたデンプンを15〜60質量%使用する。
【0010】
群(a)のモノマーとして考慮されるのは、ビニル芳香族化合物であり、例えばスチレン、α−メチルスチレン、及び/又はビニルトルエンである。これらのモノマー群のうち、好適にはスチレンを使用する。重合の際に使用されるモノマー混合物全体の100質量部は例えば、群(a)のモノマーのうち少なくとも1つを19.9質量部〜80質量部、及び好適には25〜70質量部含む。
【0011】
群(b)のモノマーは例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、1,3−ジメチルブタジエン、及びシクロペンタジエンである。これらのモノマー群のうち、好適には1,3−ブタジエン、及び/又はイソプレンを使用する。エマルション重合の際に使用されるモノマー混合物全体の100質量部は例えば、群(b)のモノマーのうち少なくとも1つを19.9質量部〜80質量部、好適には25〜70質量部、及びとりわけ25〜60質量部含む。
【0012】
群(c)のモノマーは例えば、エチレン性不飽和カルボン酸、エチレン性不飽和スルホン酸、及びビニルホスホン酸である。エチレン性不飽和カルボン酸として好適には、分子中に3〜6個のC原子を有するα,β−モノエチレン性不飽和モノカルボン酸及びジカルボン酸を使用する。このために例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、及びビニル乳酸を使用する。エチレン性不飽和スルホン酸として適しているのは例えば、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、スルホプロピルアクリラート、及びスルホプロピルメタクリラートである。
【0013】
群(c)の酸基を含むモノマーは遊離酸の形で、並びにアルカリ溶液、又はアンモニア、又はアンモニウム塩基により部分的に若しくは完全に中和された形で、重合の際に使用することができる。好適には水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、又はアンモニアを中和剤として使用する。エマルション重合の際に使用されるモノマー混合物の100質量部は、群(c)のモノマーのうち少なくとも1つを例えば0.1〜10質量部、好適には0.1〜8質量部、及びたいてい1〜5質量部含む。
【0014】
群(d)のモノマーとして考慮されるのは、他のモノエチレン性不飽和化合物である。このための例は、エチレン性不飽和カルボン酸ニトリル、例えばとりわけアクリロニトリルとメタクリロニトリル、エチレン性不飽和カルボン酸アミド、例えばとりわけアクリルアミドとメタクリルアミド、C1〜C18不飽和カルボン酸のビニルエステル、好適には酢酸ビニル、並びにアクリル酸及びメタクリル酸と一価のC1〜C18アルコールとのエステル、例えばメチルアクリラート、メチルメタクリラート、エチルアクリラート、エチルメタクリラート、n−プロピルアクリラート、n−プロピルメタクリラート、イソプロピルアクリラート、イソプロピルメタクリラート、n−ブチルアクリラート、n−ブチルメタクリラート、イソブチルアクリラート、イソブチルメタクリラート、s−ブチルアクリラート、s−ブチルメタクリラート、t−ブチルアクリラート、t−ブチルメタクリラート、ペンチルアクリラート、ペンチルメタクリラート、2−エチルヘキシルアクリラート、2−エチルヘキシルメタクリラート、不飽和カルボン酸のアリルエステル、ビニルエーテル、ビニルケトン、エチレン性不飽和カルボン酸のジアルキルエステル、N−ビニルピロリドン、N−ビニルピロリジン、N−ビニルホルムアミド、N,N−ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアミノアルキルメタクリルアミド、N,N−ジアルキルアミノアルキルアクリラート、N,N−ジアルキルアミノアルキルメタクリラート、塩化ビニル、及び塩化ビニリデンである。これらの群のモノマーは、場合によりポリマー変性のために使用される。エマルション重合の際に使用されるモノマー混合物100質量部は、群(d)のモノマーのうち少なくとも1つを例えば0〜20質量部、たいてい0〜15質量部、及びとりわけ0〜10質量部含む。
【0015】
エマルション共重合の際に例えば、モノマー100質量部に対して15〜60質量部の分解されたデンプンを使用する。本発明により使用されるべき分解されたデンプンの製造に適している出発デンプンは、あらゆる天然デンプン、例えばトウモロコシ、小麦、燕麦、大麦、米、キビ、ジャガイモ、エンドウ豆、タピオカ、ソルガム、又はサゴから得られるデンプンである。このほかに興味深いのは、アミロペクチン含分が高い天然デンプン、例えば蝋質トウモロコシデンプン(Wachsmaisstaerke)、及び蝋質ジャガイモデンプン(Wachskartoffelstaerke)である。これらのデンプンのアミロペクチン含分は、90%超、大抵は95〜100%である。エーテル化又はエステル化によって化学的に変性されたデンプンもまた、本発明によるポリマー分散液の製造に使用することができる。このような生成物は公知であり、市販で手に入る。これらは例えば、天然デンプン又は分解された天然デンプンを、無機酸若しくは有機酸でエステル化することにより、これらの無水物又は塩化物が製造される。特に興味深いのは、ホスファート化された、及びアセチル化された分解されたデンプンである。デンプンをエーテル化するための慣用の方法は、アルカリ性水溶液中で有機ハロゲン化合物、エポキシド、又は硫酸塩を用いてデンプンを処理することである。公知のデンプンエーテルは、アルキルエーテル、ヒドロキシアルキルエーテル、カルボキシアルキルエーテル、及びアリルエーテルである。このほかに適しているのは、デンプンと2,3−エポキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドとの反応生成物である。特に好ましいのは、分解された天然デンプン、とりわけマルトデキストリンに分解された天然デンプンである。
【0016】
デンプンの分解は、酵素的に、酸化的に、又は酸若しくは塩基の作用により加水分解的に行うことができる。分解されたデンプンは、市販で手に入る。しかしながらまた、天然デンプンをまず水性媒体中で酵素的に分解し、そして酵素分解をこうして得られる分解されたデンプンの水溶液若しくは分散液中で停止させた後、本発明によるモノマーのエマルション重合を行うことができる。分解されたデンプンは例えば、固有粘度ηiが<0.07dl/g、好適には<0.05dl/gである。分解されたデンプンの固有粘度ηiはたいてい、0.02〜0.06dl/gの範囲にある。固有粘度ηiは、DIN EN1628に従って、23℃の温度で測定する。
【0017】
エマルション重合の際に使用される分解されたデンプンの量は、重合すべきモノマー100質量部に対して好適には20〜50質量部、とりわけ30〜45質量部である。
【0018】
本発明の目的はさらに、水性媒体中、分解されたデンプン及びラジカル形成性開始剤の存在下でのモノマーの共重合による、ビニル芳香族と共役脂肪族ジエンとから成るコポリマーベースの水性ポリマー分散液の製造方法であって、この際、ラジカル開始性エマルション共重合の際に、
(a)少なくとも1つのビニル芳香族化合物19.9〜80質量部、
(b)少なくとも1つの共役脂肪族ジエン19.9〜80質量部、
(c)少なくとも1つのエチレン性不飽和酸0.1〜10質量部、及び
(d)少なくとも1つの他のモノエチレン性不飽和モノマー0〜20質量部
(この際にモノマー(a)、(b)、(c)、及び(d)の質量部の合計は常に100である)
が使用され、固有粘度ηiが0.07dl/g未満の分解されたデンプンが使用され、かつ、ペルオキソ二硫酸塩、ペルオキソ硫酸塩、アゾ開始剤、有機過酸化物、有機ヒドロペルオキシド、及び過酸化水素から選択される開始剤が、使用されるモノマー全体に対して少なくとも0.9質量%使用され、この際に開始剤の少なくとも30質量%が分解されたデンプンと一緒に水性媒体中に装入され、かつモノマー並びに残りの開始剤は、重合条件下でこの装入物に供給される。
【0019】
本発明による方法の好ましい実施態様では、分解されたデンプンの水溶液若しくは分散液及び開始剤の少なくとも30質量%と一緒に、水性媒体中で重合させるべきモノマー全体の3〜10質量%を装入する。残りのモノマーと残りの開始剤は、重合条件下での重合の開始後、相互に別々に装入物に供給する。エマルション重合の際にはたいてい、固有粘度ηiが0.02〜0.06dl/gの分解された天然デンプンが使用される。重合条件とは、装入物中の反応混合物が、重合が進むために必要な温度に加熱されていること理解されるべきである。この温度は例えば、80〜130℃、好適には90〜120℃である。重合は好適には、圧力下、例えば15barの圧力下、たいていは2〜10barの圧力下で行う。
【0020】
好適には、エマルション共重合の際に、
(a)スチレン、及び/又はメチルスチレン19.9〜80質量部、
(b)1,3−ブタジエン、及び/又はイソプレン19.9〜80質量部、
(c)少なくとも1つのエチレン性不飽和酸0.1〜10質量部、及び
(d)少なくとも1つの他のモノエチレン性不飽和モノマー0〜20質量部
(この際にモノマー(a)、(b)、(c)、及び(d)の質量部の合計は常に100である)
を使用する。
【0021】
エマルション共重合の際に使用される混合物はたいてい、
(a)スチレン、及び/又はメチルスチレン25〜70質量部、
(b)1,3−ブタジエン、及び/又はイソプレン25〜70質量部、
(c)少なくとも1つのエチレン性不飽和酸0.1〜10質量部、及び
(d)少なくとも1つの他のモノエチレン性不飽和モノマー0〜20質量部
(この際にモノマー(a)、(b)、(c)、及び(d)の質量部の合計は常に100である)
を含む。
【0022】
エマルション共重合の際に、好適にはモノマー混合物の成分(c)として、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸、ビニルスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、ビニルホスホン酸、これらの酸のアルカリ金属塩若しくはアンモニウム塩、並びに前記酸及び/又は前記塩の混合物を使用する。しかしながらこれらの酸はまた、部分的に中和された形で使用することもできる。
【0023】
本発明による方法では、ペルオキソ二硫酸塩、ペルオキソ硫酸塩、アゾ開始剤、有機過酸化物、有機ヒドロペルオキシド、及び過酸化水素から成る群の開始剤のうち少なくとも1つを、重合すべきモノマー全体に対して少なくとも0.9質量%使用し、この際に開始剤の少なくとも30質量%を、水性媒体中の分解されたデンプンと一緒に装入し、そしてモノマー並びに残りの開始剤を重合条件下でこの装入物に供給する。好ましくは水溶性開始剤を使用し、その例は例えば過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ナトリウムペルオキソ二硫酸塩、カリウムペルオキソ二硫酸塩、及び/又はアンモニウムペルオキソ二硫酸塩である。
【0024】
さらなる適した開始剤の例は、ジベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルピバラート、t−ブチル−2−ペルエチルヘキサノアート、t−ジブチルペルオキシド、ジアミルペルオキシド、ジオクタノイルペルオキシド、ジデカノイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、ビス(o−トルイル)ペルオキシド、スクシニルペルオキシド、t−ブタルペルアセタート、t−ブチルペルマレイナート、t−ブチルペルイソブチラート、t−ブチルペルピバラート、t−ブチルペルオクトアート、t−ブチルペルベンゾアート、t−ブチルヒドロペルオキシド、過酸化水素、アゾ−ビス−イソブチロニトリル、2,2’−アゾ−ビス−(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチロアミジン)ジヒドロクロリド、及びアゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリドである。これらの開始剤は、重合すべきモノマーに対して、例えば最大2.0質量%で使用する。たいていは開始剤を、モノマーに対して1.0〜1.5質量%の量で使用する。
【0025】
本発明によるポリマー分散液を調製するために例えば、混合装置を備えた加熱可能な反応器内に先述の分解されたデンプンの水溶液と、必要となる開始材料全体の少なくとも30質量%を装入する。装入物中の開始剤の量は、モノマーの重合に必要な量全体の最高90質量%、たいていは60質量%以下である。分解されたデンプンにより、モノマーの良好な分散と、産生する微粒子状ポリマーの安定化がもたらされる。エマルション重合の際に、分解されたデンプンのグラフトが少なくとも部分的に起こり、これによってデンプンは、産生するポリマー内にしっかりと組み込まれる。
【0026】
水性媒体中へのモノマーの分散を支持するために、通常分散剤として用いられる保護コロイド、及び/又は乳化剤を使用することができる。適切な保護コロイドの詳細な記載は、Houben-Weyl, Methoden der organischen Chemie, XIV/1巻, Makromolekulare Stoffe, Georg-Thieme-Verlag, Stuttgart, 1961年, 411〜420ページに見られる。乳化剤として考慮されるのは、モル質量Mwがたいていは2000未満の界面活性物質である一方、保護コロイドのモル質量Mwは最大50000である。
【0027】
適切な乳化剤は例えば、エトキシ化度3〜50のエトキシ化されたC8〜C36脂肪アルコール、エトキシ化度3〜50のエトキシ化されたモノ−、ジ−、及びトリ−C4〜C12アルキルフェノール、スルホコハク酸のジアルキルエステルのアルカリ金属塩、C8〜C12アルキルスルファートのアルカリ金属塩及びアンモニウム塩、C12〜C18アルキルスルホン酸のアルカリ金属塩及びアンモニウム塩、並びにC9〜C18アルキルアリールスルホン酸のアルカリ金属塩及びアンモニウム塩である。乳化剤及び/又は保護コロイドを助剤としてモノマー分散のために併用する場合、これにより使用される量は、モノマーに対して例えば0.1〜5質量%である。
【0028】
装入物はさらになお、ポリスチレンシード、すなわち粒子直径が20〜40nmの微粒子状ポリスチレンの水性分散液を含むことができる。
【0029】
ポリマーの特性を変性させるために、エマルション重合を場合により少なくとも1つの重合調節剤の存在下で行うことができる。重合調節剤の例は、結合された形で硫黄を含む有機化合物、例えばドデシルメルカプタン、チオジグリコール、エチルチオエタノール、n−ジブチルスルフィド、n−ジオクチルスルフィド、ジフェニルスルフィド、ジイソプロピルジスルフィド、2−メルカプトエタノール、1,3−メルカプトプロパノール、3−メルカプトプロパン−1,2−ジオール、1,4−メルカプトブタノール、チオグリコール酸、3−メルカプトプロピオン酸、メルカプトコハク酸、チオ酢酸、及びチオ尿素である。さらなる重合調節剤は、アルデヒド、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、及びプロピオンアルデヒド、有機酸、例えばギ酸、ギ酸ナトリウム、又はギ酸アンモニウム、アルコール、例えばとりわけイソプロパノール、並びにリン化合物、例えばナトリウムヒポホスフィットである。重合の際に調節剤を使用する場合、その都度使用される量は、重合の際に使用されるモノマーに対して例えば0.01〜5質量%、好適には0.1〜1質量%である。調節剤は好適には、モノマーと一緒に装入物に供給する。しかしながらこれらの調節剤は、部分的に又は完全に装入物に存在していてもよい。
【0030】
エマルション重合は、水性媒体中で行う。この際この媒体は例えば、完全な脱塩水であってよく、又は水及び水と混合可能な溶媒、例えばメタノール、エタノール、又はテトラヒドロフランから成る混合物であってもよい。モノマーを重合させるために、まず分解されたデンプンの水溶液を用意する。この溶液は場合により、保護コロイド及び/又は乳化剤を溶解された形で、並びに場合によりポリスチレンシードを含むことができる。装入物として利用される水溶液は好適には、モノマーの重合が行われるべき温度に、又は重合温度より例えば5〜20℃低い温度に加熱し、その後、必要となる開始剤量全体の少なくとも30質量%を装入物に加える。その都度所望の重合温度に達したらすぐに、又は重合温度に達した後1〜15分、好適には5〜15分という時間内に、モノマーの供給を始める。モノマーは例えば60分〜最大10時間以内、たいていは2〜4時間以内に反応器に連続的に圧送することができる。また、モノマーの段階的な添加も可能である。
【0031】
本発明による方法の好ましい実施態様では、重合すべきモノマー全体の3〜10質量%を、前述の成分と一緒に反応器に装入し、それから反応器内容物を重合温度に加熱し、この際に開始剤量の少なくとも30質量%を、好適には重合温度に達する直前に先述のように添加し、そしてそれから残りのモノマーを前述のように供給する。重合の終了後、場合によりさらなる開始剤を反応混合物に添加し、そして主重合の際の温度と同一の、より低い、又はより高い温度で後重合を行うことができる。重合反応を完全にするため、たいていの場合は、全モノマーの添加後に反応混合物をさらに例えば1〜3時間重合温度で撹拌すれば充分である。
【0032】
重合の際のpH値は例えば、1〜5であってよい。重合後にpH値は例えば、6〜7に調整することができる。ほとんど凝固物がない水性分散液が得られる。凝固物の量はppm範囲であり、例えば8〜25ppmである。
【0033】
分散された粒子の平均粒子直径が80〜150nmである、水性ポリマー分散液が得られる。ポリマー粒子の粒子直径は、動的光散乱法により0.005〜0.01質量%の水性ポリマー分散液を用いて、23℃でMalvern Instruments社(England)製のAutosizers IICにより測定した。この記載はその都度、ISO標準13321に従って測定された自己相関関数の累積評価(cumulant z−average)の平均直径に対するものである。
【0034】
1つの実施態様において本発明による水性ポリマー分散液の固体含分は、55質量%超、例えば少なくとも60質量%である。相応する高い固体含分は例えば、エマルション重合の際に使用される水の量、及び/又はモノマー量を相応して調整することによって得られる。
【0035】
1つの実施態様では、エマルション共重合を乳化剤無しで、及び/又はポリマーシードを使用せずに行う。
【0036】
本発明による水性ポリマー分散液は、結合剤、接着剤、繊維用のりとして、又は被覆の製造のために使用する。好ましくは、紙用塗工液中の結合剤として使用する。紙用塗工液は通常、水中に分散されている少なくとも1つの顔料、及び有機結合剤、例えばカルボキシ化されたスチレン−アクリラートコポリマー(Ludwigshaften在、BASF株式会社のAcronal(登録商標)S728)ベースのポリマー分散液を含む。無機顔料100質量部に対して、例えば5〜25質量部の無機結合剤を使用する。本発明による水性ポリマー分散液を結合剤として含む紙用塗工液で被覆される紙は、紙むけ耐性が非常に高い。本発明による分散液により、紙用塗工液に対して、最近の比較可能な公知ポリマー分散液よりも高い結合力が付与される(比較例1参照)。
【0037】
本発明による水性ポリマー分散液はさらに、のりとして使用することができる。当該分散液は、織物繊維用のり、及びまた無機繊維、とりわけガラス繊維用のりに適している。その良好な接着性により、さらに接着剤として、及び被覆の製造のために使用することができる。
【0038】
実施例
パーセントの記載は特に記載のない限り、常に質量パーセントである。
【0039】
固体含分は、定義された量のその都度の水性コポリマー分散液(約5g)が140℃にて乾燥棚中で一定の質量になるまで乾燥させることによって測定した。それぞれ、2回の別個の測定を実施した。実施例の中で記載された値は、これらの2つの測定結果の平均値である。
【0040】
ガラス転移温度の測定は、Mettler−Toledo Int.Inc.社のTA8000シリーズ、DSC820装置を用いてDIN 53765に従って行った。
【0041】
分散液中の凝固物の量は、直径が>45μmの粒子に対するものである。その量は、できあがった分散液を、細孔直径がわかっているふるいで濾過することにより測定した。
【0042】
ポリマー粒子の平均粒子直径は、動的光散乱法により、0.005〜0.01質量%の水性ポリマー分散液について23℃でMalvern Instruments社(England)のAutosizer IICを用いて算出した。測定された自己相関関数の累積評価(cumulant z−average)の平均直径を示す(ISO規格−13321)。
【0043】
固有粘度ηiは、DIN EN1628に従って、23℃の温度で測定した。
【0044】
実施例では、次の出発物質を使用した:
乳化剤A:アリールスルホナート(Cognis社のDisponil(登録商標)LDPS20)
分解されたデンプンA:市販の67%の水性マルトデキストリン、固有粘度ηiは0.052dl/g。
【0045】
実施例1
MIG撹拌機、及び3つの計量供給装置を備え付けられた6Lの加圧反応器に、室温で、及び窒素雰囲気下で脱イオン水710g、33質量%の水性ポリスチレンシード41g(粒径30nm)、乳化剤A 16質量部、及び分解されたデンプンA 806gを装入した。引き続き反応器内容物を撹拌下(180回転/分)で90℃に加熱した。85℃の温度に達したらすぐに、7質量%の過硫酸ナトリウム溶液129gを添加した。10分後に同時に開始する形で、供給物1A及び供給物1Bの全量を360分以内に、かつ供給物2を390分以内に連続的に一様な流量で計量供給した。計量供給時間全体にわたって、供給物1A及び供給物1Bの流量を反応器中に取り込む少し前に均質化した。これに引き続いて、反応器内容物をさらに2時間、90℃で後反応させた。その後、反応器内容物を室温に冷却し、15質量%の水性NaOHを用いてpH値を6.5に調整し、そして圧力容器を大気圧に放圧した。形成された凝固物を、分散液から篩(メッシュ幅 100マイクロメートル)を介した濾過によって分離除去した。
【0046】
供給物1A
以下から成る均質な混合物:
脱イオン水 664g
15質量%のナトリウムドデシルスルファート水溶液 12g
アクリル酸 72g
イタコン酸 9g
供給物1B
以下から成る均質な混合物:
スチレン 1026g
第三級ドデシルメルカプタン 21g
ブタジエン 793g
供給物2
3.5質量%の過硫酸ナトリウム水溶液 360g。
【0047】
得られる水性分散液(D1)は、水性分散液の全質量に対して固体含分が52質量%であり、そして凝固物を23ppm含んでいた。ポリマーのガラス転移温度は10℃、そして粒径は141nmと測定された。
【0048】
実施例2
MIG攪拌機及び3つの計量供給装置が備え付けられた6Lの加圧反応器中に、室温下、及び窒素雰囲気下で、脱イオン水712g、及び33質量%の水性ポリスチレンシード41g(粒径30nm、16質量部の乳化剤、Cognis社のDisponil(登録商標)LDPS20)、及び67質量%のマルトデキストリン(Roclys C1967S、Roquette)806g、及びそれぞれ5質量%の供給物1A及び1Bを装入した。引き続き、反応器内容物を、攪拌下(180回転/分)で90℃に加熱し、そして85℃に達した際に、7質量%の過硫酸ナトリウム水溶液128gを添加した。10分後に同時に開始する形で、供給物1A及び供給物1Bの全量を360分以内に、かつ供給物2を390分以内に連続的に一様な流量で計量供給した。計量供給時間全体にわたって、供給物1A及び供給物1Bの流量を反応器中に取り込む少し前に均質化した。それに続けて、反応器内容物をなお90℃で2時間、後反応させた。その後、反応器内容物を室温に冷却し、15質量%の水性NaOHを用いてpH値を6.5に調整し、そして圧力容器を大気圧に放圧した。
【0049】
供給物1A
以下から成る均質な混合物:
脱イオン水 664g
15質量%のナトリウムドデシルスルファート水溶液 12g
アクリル酸 72g
イタコン酸 9g
供給物1B
以下から成る均質な混合物:
スチレン 1026g
第三級ドデシルメルカプタン 22g
ブタジエン 793g
供給物2
3.5質量%の過硫酸ナトリウム水溶液 360g。
【0050】
得られる水性分散液(D2)は、水性分散液の全質量に対して固体含分が51質量%であり、そして凝固物を13ppm含んでいた。ガラス転移温度は11℃、そして粒径は126nmと測定された。
【0051】
実施例3
MIG攪拌機及び3つの計量供給装置が備え付けられた6Lの加圧反応器中に、室温下、及び窒素雰囲気下で、脱イオン水712g、分解されたデンプンA 806g、及びそれぞれ5質量%の供給物1A及び1Bを装入した。引き続き、反応器内容物を、攪拌下(180回転/分)で90℃に加熱し、そして85℃に達した際に、7質量%の過硫酸ナトリウム水溶液129gを添加した。10分後に同時に開始する形で、供給物1A及び供給物1Bの全量を360分以内に、かつ供給物2を390分以内に連続的に一様な流量で計量供給した。計量供給時間全体にわたって、供給物1A及び供給物1Bの流量を反応器中に取り込む少し前に均質化した。これに引き続いて、反応器内容物をさらに2時間、90℃で後反応させた。その後、反応器内容物を室温に冷却し、15質量%の水性NaOHを用いてpH値を6.5に調整し、そして圧力容器を大気圧に放圧した。
【0052】
供給物1A
以下から成る均質な混合物:
脱イオン水 671g
15質量%のナトリウムドデシルスルファート水溶液 12g
アクリル酸 72g
イタコン酸 9g
供給物1B
以下から成る均質な混合物:
スチレン 1026g
第三級ドデシルメルカプタン 21g
ブタジエン 693g
供給物2
3.5質量%の過硫酸ナトリウム水溶液 360g
【0053】
得られる水性分散液(D3)は、水性分散液の全質量に対して固体含分が52質量%であり、そして凝固物を21ppm含んでいた。ガラス転移温度は10℃、そして粒径は127nmと測定された。
【0054】
実施例4
MIG攪拌機及び3つの計量供給装置が備え付けられた6Lの加圧反応器中に、室温下、及び窒素雰囲気下で、脱イオン水710g、及び33質量%の水性ポリスチレンシード42g(粒径30nm、16質量部の乳化剤、Cognis社のDisponil(登録商標)LDPS 20)、及び67質量%のマルトデキストリン(Roclys C1967S、Roquette)806gを装入した。引き続き、反応器内容物を、攪拌下(180回転/分)で90℃に加熱し、そして85℃に達した際に、7質量%の過硫酸ナトリウム水溶液77gを添加した。10分後に同時に開始する形で、供給物1A及び供給物1Bの全量を360分以内に、かつ供給物2を390分以内に連続的に一様な流量で計量供給した。計量供給時間全体にわたって、供給物1A及び供給物1Bの流量を反応器中に取り込む少し前に均質化した。それに続けて、反応器内容物をなお90℃で2時間、後反応させた。その後、反応器内容物を室温に冷却し、15質量%のNaOHを用いてpH値を6.5に調整し、そして圧力容器を大気圧に放圧した。
【0055】
供給物1A
以下から成る均質な混合物:
脱イオン水 710g
15質量%のナトリウムドデシルスルファート水溶液 12g
アクリル酸 72g
イタコン酸 9g
供給物1B
以下から成る均質な混合物:
スチレン 1026g
第三級ドデシルメルカプタン 22g
ブタジエン 693g
供給物2
3.5質量%の過硫酸ナトリウム水溶液 360g
【0056】
得られる水性分散液(D4)は、水性分散液の全質量に対して固体含分が50質量%であり、そして凝固物を10ppm含んでいた。ガラス転移温度は9℃、そして粒径は145nmと測定された。
【0057】
実施例5
MIG攪拌機及び3つの計量供給装置が備え付けられた6Lの加圧反応器中に、室温下、及び窒素雰囲気下で、脱イオン水643g、分解されたデンプンA 537g、及びそれぞれ5質量%の供給物1A及び1Bを装入した。引き続き、反応器内容物を、攪拌下(180回転/分)で90℃に加熱し、そして85℃に達した際に、7質量%の過硫酸ナトリウム水溶液129gを添加した。
【0058】
10分後に同時に開始する形で、供給物1A及び供給物1Bの残量(それぞれ95%)を360分以内に、かつ供給物2を390分以内に連続的に一様な流量で計量供給した。計量供給時間全体にわたって、供給物1A及び供給物1Bの流量を反応器中に取り込む少し前に均質化した。これに引き続いて、反応器内容物をさらに2時間、90℃で後反応させた。その後、反応器内容物を室温に冷却し、15質量%の水性NaOHを用いてpH値を6.5に調整し、そして圧力容器を大気圧に放圧した。
【0059】
供給物1A
以下から成る均質な混合物:
脱イオン水 642g
15質量%のナトリウムドデシルスルファート水溶液 12g
アクリル酸 72g
イタコン酸 9g
供給物1B
以下から成る均質な混合物:
スチレン 1026g
第三級ドデシルメルカプタン 22g
ブタジエン 693g
供給物2
3.5質量%の過硫酸ナトリウム水溶液 360g。
【0060】
得られる水性分散液(D5)は、水性分散液の全質量に対して固体含分が51質量%であり、そして凝固物を8ppm含んでいた。ガラス転移温度は10℃、そして粒径は137nmと測定された。
【0061】
WO−A−99/09251の実施例6と同様の比較例1
分解されたデンプンB:ヒドロキシエチルデンプン、WO 99/09251の記載に従い分解されたもの、固体含分:38.2質量%。
【0062】
重合
MIG攪拌機及び3つの計量供給装置が備え付けられた6Lの加圧反応器中に、室温下、及び窒素雰囲気下で、分解されたデンプンB 2030gを装入した。引き続き、反応器内容物を撹拌下(180回転/分)90℃に加熱した。約90℃の温度に達したら、3.5質量%の過硫酸ナトリウム水溶液5gを添加した。5分後に同時に開始する形で、供給物1及び供給物2を480分以内に連続的に一様な流量で計量供給した。計量供給時間全体にわたって、流量を反応器中に取り込む少し前に均質化した。これに引き続いて、反応器内容物をさらに1時間、90℃で後反応させた。その後、反応器内容物を室温に冷却し、15質量%の水性NaOHを用いてpH値を6.2に調整し、そして圧力容器を大気圧に放圧した。
【0063】
供給物1
以下から成る均質な混合物:
スチレン 484g
ブタジエン 342g
供給物2
3.5質量%の過硫酸ナトリウム水溶液 170g。
【0064】
得られる水性分散液(VD1)は、水性分散液の全質量に対して固体含分が49質量%であり、そして凝固物を500ppm含んでいた。ガラス転移温度は8℃、そして粒径は138nmと測定された。
【0065】
実施例6
MIG攪拌機及び3つの計量供給装置が備え付けられた6Lの加圧反応器中に、室温下、及び窒素雰囲気下で、脱イオン水564g、及び分解されたデンプンA 895gを装入した。引き続き、反応器内容物を、攪拌下(180回転/分)で90℃に加熱し、そして85℃に達した際に、7質量%の過硫酸ナトリウム水溶液143gを添加した。この後に同時に開始する形で、供給物1A及び供給物1Bの全量を360分以内に、かつ供給物2を390分以内に連続的に一様な流量で計量供給した。計量供給時間全体にわたって、供給物1A及び供給物1Bの流量を反応器中に取り込む少し前に均質化した。それに続けて、反応器内容物をなお90℃で2時間、後反応させた。その後、反応器内容物を室温に冷却し、15質量%のNaOHを用いてpH値を6.5に調整し、そして圧力容器を大気圧に放圧した。
【0066】
供給物1A
以下から成る均質な混合物:
脱イオン水 450g
15質量%のナトリウムドデシルスルファート水溶液 8g
アクリル酸 60g
イタコン酸 20g
供給物1B
以下から成る均質な混合物:
スチレン 1140g
第三級ドデシルメルカプタン 24g
ブタジエン 780g
供給物2
7質量%の過硫酸ナトリウム水溶液 142g
【0067】
得られる水性分散液(D6)は、水性分散液の全質量に対して固体含分が60質量%であり、そして凝固物を18ppm含んでいた。ガラス転移温度は6℃、そして粒径は140nmと測定された。
【0068】
実施例7
MIG攪拌機及び3つの計量供給装置が備え付けられた6Lの加圧反応器中に、室温下、及び窒素雰囲気下で、脱イオン水643g、及び分解されたデンプンA 761gを装入した。引き続き、反応器内容物を、攪拌下(180回転/分)で90℃に加熱し、そして85℃に達した際に、7質量%の過硫酸ナトリウム水溶液122gを添加した。この後に同時に開始する形で、供給物1A及び供給物1Bの全量を360分以内に、かつ供給物2を390分以内に連続的に一様な流量で計量供給した。計量供給時間全体にわたって、供給物1A及び供給物1Bの流量を反応器中に取り込む少し前に均質化した。それに続けて、反応器内容物をなお90℃で2時間、後反応させた。その後、反応器内容物を室温に冷却し、15質量%のNaOHを用いてpH値を6.5に調整し、そして圧力容器を大気圧に放圧した。
【0069】
供給物1A
以下から成る均質な混合物:
脱イオン水 976g
アクリル酸 51g
イタコン酸 17g
供給物1B
以下から成る均質な混合物:
スチレン 969g
第三級ドデシルメルカプタン 15g
ブタジエン 663g
供給物2
7質量%の過硫酸ナトリウム水溶液 122g。
【0070】
得られる水性分散液(D7)は、水性分散液の全質量に対して固体含分が50質量%であり、そして凝固物を7ppm含んでいた。ガラス転移温度は7℃、そして粒径は138nmと測定された。
【0071】
実施例1から7、及び比較例1に従って製造された水性ポリマー分散液を、紙用塗工液のための結合剤として使用した。
【0072】
紙用塗工液の調製
塗工カラーの準備
塗工カラーの準備は、撹拌装置(Deliteur)内で行い、その中に個々の成分を順次供給した。顔料は事前に分散された形(スラリー)で添加した。
【0073】
他の成分は顔料に従って添加し、この際その順序は、記載されている塗工カラー処方の順序に相応する。
【0074】
目的固体含分の調整は、水の添加により行う。
【0075】
パイロット装置での塗布
先に記載された塗工カラーを、BASF社のパイロット装置で塗布されていない木質不含の原紙に塗布した。以下の試験パラメータを選択した。
【0076】
塗工カラー処方:
微粒子状カーボネート 70質量部
微粒子状粘土 30質量部
塗工カラー結合剤 10質量部
レオロジー調整剤(CMC)0.5質量部。
【0077】
塗工カラーデータ:
固体含分66%
低剪断粘度(Brookfield RVT,Spindel 4、100回転/分)、1200〜1500mPas
高剪断粘度(Thermo−Haake RS 600)、表参照。
【0078】
塗布法:ブレード塗布法
ブレードの印圧測定は、mmでの印圧距離による。表参照。
【0079】
原紙木質不含 70g/m2
塗布量:両面にそれぞれ10g/m2
乾燥:熱風、及びIR照射を用いて、残留水分4.5%にする。
【0080】
被覆された紙を引き続きカレンダー成形し(90℃、300m/分、ライン圧200kn/m)、そして以下の枚葉オフセット印刷試験のために適切な印刷機フォーマットに切断した。
【0081】
紙むけ粒子数の測定(粒子/cm2
4色の枚葉オフセット印刷機で、特別な試験印刷構成を用いて紙に印刷した(KCL紙むけ印刷試験)。この際に、紙のオフセット強度のための基準として、紙の表面からむけて出てきた、及びゴムブランケット上に堆積した粒子の数を考慮した。これらの粒子は、視覚的に確認する。粒子の数が少なければ少ない印刷された紙片を有するほど、紙はオフセット印刷に適している。
【0082】
オフセット試験(ラボ試験)
試験すべき紙から、大きさが240×46mmの試料を縦方向に切り取った。インクローラに、印刷インクの相応量を加え、そして1分間回したままにした。その後、印刷用ディスク(Druckscheibe)を使用して、30秒着色した。
【0083】
印刷速度は、1m/秒であった。紙片を印刷試料担体上に、印刷された紙片とともに再度出発箇所に入れた。一定の時間後に、印刷用ディスクを交換せずに印刷機通過を再度開始した。この通過を複数回繰り返した。
【0084】
各通過の後、紙片の印刷面の紙むけを視覚的によく観察した。表には、紙むけが初めて起こるまでの通過の回数が記載されている。紙むけが起こるまでの通過の回数が多ければ多いほど、それだけオフセット印刷に対する紙の適性がより良好である。紙用塗工液の粘度の測定は、高剪断で行う。
【0085】
紙用塗工液の粘度は、Haake粘度計で、100000/秒の剪断勾配、23℃の温度で測定した。粘度の記載は、mPa・sである。
【0086】
表には、高剪断での紙用塗工液の粘度、パイロット機器のブレード圧が印圧距離(mm)で、及び結合力が記載されており、これらはオフセット通過回数、及び紙むけ粒子/cm2の数により特徴付けられている。
【0087】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル芳香族と共役脂肪族ジエンとから成るコポリマーベースの水性ポリマー分散液において、その平均粒径が80〜150nmであり、かつ
(a)少なくとも1つのビニル芳香族化合物19.9〜80質量部、
(b)少なくとも1つの共役脂肪族ジエン19.9〜80質量部、
(c)少なくとも1つのエチレン性不飽和酸0.1〜10質量部、及び
(d)少なくとも1つの他のモノエチレン性不飽和モノマー0〜20質量部
(この際にモノマー(a)、(b)、(c)、及び(d)の質量部の合計は常に100である)
のラジカル開始性エマルション共重合により得られ、
水性媒体中で、固有粘度ηiが0.07dl/g未満の少なくとも1つの分解されたデンプンの存在下で、ペルオキソ二硫酸塩、ペルオキソ硫酸塩、アゾ開始剤、有機過酸化物、有機ヒドロペルオキシド、及び過酸化水素から選択される開始剤が、使用されるモノマー全体に対して少なくとも0.9質量%用いられ、この際に開始剤の少なくとも30質量%が、分解されたデンプンと一緒に水性媒体中に装入され、そしてモノマー並びに残りの開始剤は重合条件下でこの装入物に供給される、水性ポリマー分散液。
【請求項2】
ラジカル開始性エマルション共重合によって得られ、この際に重合すべきモノマー全体の3〜10質量%が水性媒体中に装入されることを特徴とする、請求項1に記載の水性ポリマー分散液。
【請求項3】
エマルション共重合の際に、固有粘度ηiが0.02〜0.06dl/gの分解された天然デンプンが使用されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の水性ポリマー分散液。
【請求項4】
エマルション共重合の際に、
(a)スチレン、及び/又はメチルスチレン19.9〜80質量部、
(b)1,3−ブタジエン、及び/又はイソプレン19.9〜80質量部、
(c)少なくとも1つのエチレン性不飽和酸0.1〜10質量部、及び
(d)少なくとも1つの他のモノエチレン性不飽和モノマー0〜20質量部
(この際にモノマー(a)、(b)、(c)、及び(d)の質量部の合計は常に100である)
が使用されることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の水性ポリマー分散液。
【請求項5】
エマルション共重合の際に、
(a)スチレン、及び/又はメチルスチレン25〜70質量部、
(b)1,3−ブタジエン、及び/又はイソプレン25〜70質量部、
(c)少なくとも1つのエチレン性不飽和酸0.1〜10質量部、及び
(d)少なくとも1つの他のモノエチレン性不飽和モノマー0〜20質量部
(この際にモノマー(a)、(b)、(c)、及び(d)の質量部の合計は常に100である)
が使用されることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の水性ポリマー分散液。
【請求項6】
エマルション共重合の際に、モノマー100質量部に対して15〜60質量部の、分解されたデンプンが使用されることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の水性ポリマー分散液。
【請求項7】
固体含分が55質量%より多いことを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の水性ポリマー分散液。
【請求項8】
前記エマルション共重合を乳化剤無しで、及び/又はポリマーシードを使用せずに行うことを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の水性ポリマー分散液。
【請求項9】
水性媒体中、分解されたデンプン及びラジカル形成性開始剤の存在下でのモノマーの共重合による、ビニル芳香族と共役脂肪族ジエンとから成るコポリマーベースの水性ポリマー分散液の製造方法において、ラジカル開始性エマルション共重合の際に、
(a)少なくとも1つのビニル芳香族化合物19.9〜80質量部、
(b)少なくとも1つの共役脂肪族ジエン19.9〜80質量部、
(c)少なくとも1つのエチレン性不飽和酸0.1〜10質量部、及び
(d)少なくとも1つの他のモノエチレン性不飽和モノマー0〜20質量部
(この際にモノマー(a)、(b)、(c)、及び(d)の質量部の合計は常に100である)
が使用され、固有粘度ηiが0.07dl/g未満の分解されたデンプンが使用され、かつペルオキソ二硫酸塩、ペルオキソ硫酸塩、アゾ開始剤、有機過酸化物、有機ヒドロペルオキシド、及び過酸化水素から選択される開始剤が、使用されるモノマー全体に対して少なくとも0.9質量%使用され、この際に開始剤の少なくとも30質量%が分解されたデンプンと一緒に水性媒体中に装入され、そしてモノマー並びに残りの開始剤は、重合条件下でこの装入物に供給されることを特徴とする、水性ポリマー分散液の製造方法。
【請求項10】
重合すべきモノマー全体の3〜10質量%が水性媒体中に装入される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
エマルション共重合の際に、固有粘度ηiが0.02〜0.06dl/gの分解された天然デンプンが使用されることを特徴とする、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
エマルション共重合の際に、
(a)スチレン、及び/又はメチルスチレン19.9〜80質量部、
(b)1,3−ブタジエン、及び/又はイソプレン19.9〜80質量部、
(c)少なくとも1つのエチレン性不飽和酸0.1〜10質量部、及び
(d)少なくとも1つの他のモノエチレン性不飽和モノマー0〜20質量部
(この際にモノマー(a)、(b)、(c)、及び(d)の質量部の合計は常に100である)
が使用されることを特徴とする、請求項9から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
エマルション共重合の際に、
(a)スチレン、及び/又はメチルスチレン25〜70質量部、
(b)1,3−ブタジエン、及び/又はイソプレン25〜70質量部、
(c)少なくとも1つのエチレン性不飽和酸0.1〜10質量部、及び
(d)少なくとも1つの他のモノエチレン性不飽和モノマー0〜20質量部
(この際にモノマー(a)、(b)、(c)、及び(d)の質量部の合計は常に100である)
が使用されることを特徴とする、請求項9から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
エマルション共重合の際にモノマー混合物の成分(c)として、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸、ビニルスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、ビニルホスホン酸、これらの酸のアルカリ金属塩若しくはアンモニウム塩、並びに前記酸及び/又は前記塩の混合物が使用されることを特徴とする、請求項9から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
エマルション共重合の際に、モノマー100質量部に対して15〜60質量部の分解されたデンプンが使用されることを特徴とする、請求項9から14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
開始剤として、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ナトリウムペルオキソ二硫酸塩、カリウムペルオキソ二硫酸塩、及び/又はアンモニウムペルオキソ二硫酸塩が使用されることを特徴とする、請求項9から15までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
エマルション共重合を乳化剤無しで、及び/又はポリマーシードを使用せずに行うことを特徴とする、請求項9から16までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
結合剤、接着剤、繊維用のりとして、又は被覆の製造のための、請求項1から8までのいずれか1項に記載の水性ポリマー分散液の使用。
【請求項19】
紙用塗工液中の結合剤としての、請求項18に記載の水性ポリマー分散液の使用。
【請求項20】
水中に分散されている少なくとも1つの顔料、及び結合剤として請求項1から8までのいずれか1項に記載の水性ポリマー分散液を含む、紙用塗工液。

【公表番号】特表2010−540761(P2010−540761A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−528373(P2010−528373)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【国際出願番号】PCT/EP2008/063353
【国際公開番号】WO2009/047233
【国際公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】