説明

ビルトイン型加熱調理器

【課題】吸排気構造に工夫を凝らして、吸排気ダクトのための高さを低くして加熱室の高さ寸法を確保するとともに、見栄えのよい前面外観を備えた引出し型のビルトイン型加熱調理器を提供する。
【解決手段】引出し型のビルトイン型加熱調理器において、加熱調理物の調理の際に発生する熱や蒸気を含んだ庫内空気を排出する排気部10は、加熱室3の側壁に形成された排気孔領域3bから調理器本体1の前壁1aの下辺部に連通する排気ダクト11を有している。排気ダクト11を通じた排気流は、調理器本体1の前壁1aの下辺部に設けられた排気開口部13から下方に向け庫外に排気される。従来のように、加熱室3の下側に吸排気ダクト構造を設ける必要がなく、その分、加熱室の高さを稼ぐことができる。また、排気開口部13は、閉じた状態の開閉ドア2aで覆われるのでルーバー部を要せずして外部から隠蔽され、外観デザインが向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的には加熱調理器に関し、特に、被加熱物が収容可能な引き出し体が調理器本体内から外へ引き出し可能に設けられるビルトイン型加熱調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子レンジ等の加熱調理器については、前面に開閉扉式のものが数多く提案されているが、そうした型式とは別型式の調理器として前面側への引き出し式の加熱調理器も提案されている。引き出し式の加熱調理器は、比較的大型の構造に適しているので、システムキッチンを構成する調理器の一つとして位置づけられている。また、近年、キッチンの大型化・システム化を反映して、調理器についても多様化・ユニット化が進み、クックトップ、引き出し式電子レンジ、電気オーブン等と組み合わされたビルトインに構成された調理機器が提案されている。
【0003】
本出願人は、加熱室を有する調理器本体と、調理器本体の加熱室内から外へ引き出すことができるように調理器本体1内で移動可能に配置される引出し体と、引出し体を調理器本体内で移動させるためのスライドレールから成るスライド機構とを備え、スライド機構を加熱室の外に設けた引出し式加熱調理器を提案している(特許文献1参照)。この引出し式加熱調理器によれば、加熱室の被加熱物載置部を開閉ドアとともに引き出し可能な構造にすることができ、高い耐熱性と難燃性を有する部品又は材料でスライド機構を構成する必要を無くして、マイクロ波による放電不良の発生を防止することを実現している。
【0004】
また、本出願人は、キャビネット内にビルトインされるビルトイン型キッチン機器として、吸気部及び排気部を前面下辺部に集約し、吸気及び排気の効率を改善し、電気部品の冷却及び庫内排気を効率よくし、設計及び配置の制約を緩和した引出し式加熱調理器を提供している(特許文献2)。
【0005】
この引出し型加熱調理器の吸排気システムの送風概念は、図9に示すように構成されている。また、図10には、従来のビルトイン型加熱調理器の奥部電気部品配置図が示されている。図10の(a)は右側面図であり、(b)は後面図である。調理器本体51の前面下部には、調理器本体51の全幅に渡って吸排気グリル用のルーバーが設けられており、そのうち前面吸排気グリルの左端部が吸気口63となっている。調理器本体51の加熱室53の下方に配置されている下辺部59は底面吸排気ダクト構造となっており、前面の吸気口63に対応して底面吸排気ダクトの左端部は吸気部60とされている。調理器本体51の後方部に設けられている電気部品室内の冷却ファン56が作動すると、前面の吸気口63部から吸気部60を経由して冷却空気F1が吸い込まれ(F2)、調理器本体1の加熱室53の奥壁面の後方の奥部室に至り、冷却ファン56によって更に調理器本体51の内部に吹き出される。
【0006】
冷却ファンからの吹き出し気流は、一方(気流F3)は、電気部品(マグネトロン54)を冷却した後、加熱室53の奥壁面に設けた開口部から加熱室53内に吹き出し(F5)、加熱室53内を通過した後、加熱室手前点部の開口部から、天面排気ダクト66に流れ込む(F6)。天面排気ダクト66は、加熱室天面外部を製品奥へ水平に展開し(第1部分66a)、加熱室天面が終了すると、右方に水平に屈曲展開し(第2部分66b)、加熱室右端付近で下方に屈曲垂直に展開し、右端の垂直ダクト67に流れ込む(F7〜F9)。この排気は、最終的に、底面吸排気ダクトの右端の排気ダクト61を経由して、前面吸排気グリルの右端の排気口64から外部に吹き出す(F10,F11)。冷却ファンからの他方の気流F4は、電気部品室内に配置されている電気部品(高圧トランス55)を冷却した後(F12)、底面吸排気ダクトのうち中央に設けられている排気ダクト62を経由して、前面吸排気グリルの中央の排気口65から外部に吹き出される(F13,F14)。
【0007】
熱い排気気流は加熱調理器の上部から排気するのが本来合理的であるが、そうすると、ユーザに向かって排気されることになるので、実用面では採用できない。また、調理器の下部からルーバーを経て排気するのも、ユーザの脛部分に熱い排気気流が吹き出すことになる。そこで、従来の提案による引出し型加熱調理器では、開閉ドアとは独立したルーバーを有する排気ダクトを備える構造が案出され、制限された高さの中で、吸気、排気用の独立したエリアが必要となっている。
【0008】
しかしながら、この形式の引出し型加熱調理器では、排気経路が長くなるのでダクト構造、特に加熱室内を通過するダクト構造が複雑になるとともに流路抵抗が大きくなり、その結果、高い送風能力を有する冷却ファンが必要となり、冷却ファンの製品コストや運転コストも上昇する。また、ビルトインについては、元来、セット全体高さに制限があるところであるが、下部ダクト及びルーバー部が嵩張り過ぎるため、独立した吸気および排気のエリアを確保する分だけ庫内高さを犠牲にしなければならないという問題がある。
【0009】
特許文献3は、通常カウンタートップの開放空間に設置される電子レンジを家具内の閉鎖空間にビルトイン設置する際に、電子レンジの上方、及び、下方に通風空間を設け、さらに、該通風空間の前面部に吸排気の開口部を設け、閉鎖空間への吸排気を行うビルトインキットを使用した設置において、前面下部からの排気を下方に誘導し、使用者の体に温風を吹き付けない加熱調理器用の付属パネルを記載している。
【0010】
このように、電子レンジの給気と排気が上下に分離されているのであれば、単に、排気気流を下方に偏向させることにより、使用者に吹き付けない目的を達成できる。しかしながら、前面下部の隣接した部位から吸気及び排気を行う場合、排気された暖気が吸気口から吸い込まれるショートキットの問題が発生する。そのため、単に、加熱調理機用の付属パネルの構成だけではなく、排気の送風速度の設定、さらには、吸気口及び排気口の配置に改善の必要がある。
【0011】
また、インテリアデザインの動向として、キッチン全体を統一されたインテリアデザインとすることに重点をおく使用者が増えている。引出し型加熱調理器である引出し型電子レンジの分野にあっても、価格競争にさらされるものでなく、高付加価値の要求される分野であり、使用者がデザイン性に求める期待に応えることと、性能及び構造面でも高度な期待に対して失望を与えることのない高度な仕様を要求されている。物理的構造条件でいえば、加熱調理器の加熱室形状は、使用者が愛好する食品や飲料の加熱調理がスムーズに可能であることが前提であり、加熱室の天井高さとしては、各種ファーストフード業者やコーヒーショップの提供する既成の容器、マグカップ類が余裕を持って収容できる高さが要求される。また、加熱室底面広さについては、日本国内であれば、スーパー、コンビニエンスストア、或いは専門業者の販売する弁当類を収容できることが前提であるが、米国では、少なくとも有力ピザハウスのピザ入りボックスを収容できることが必須である。
【0012】
このように、従来困難であった引出し型加熱調理器の戸棚(キャビネット)へのビルトイン設置を実現したことにより、本出願人はキッチン内で唯一の電子レンジとしての地位を勝ち取ったため、より高度な性能及び構造を実現するという新たな課題が与えられている。即ち、加熱室の寸法については、使用者の求める大きさを熟知し、最低限度として許容される加熱室寸法を確保することが設計上の重要課題である。また、ビルトインされるキッチン機器の場合、加熱調理器の設置高さは、通常、使用者の腰から膝までの間の高さであり、調理の際に発生する蒸気を含んだ暖気を排気する排気高さは、その設置状況に応じた排気高さというものがある。
【0013】
引出し型加熱調理器の正面から見たデザインにおいても、従来のものではルーバーが目
立っているのも有利とは言えず、簡素でありながらも高級感のあるものが要求されている。ルーバーは、前後方向の通風を行いつつ、背後の構造を使用者の視線から隠蔽する機能を果たすため、水平方向に延伸した複数のルーバー板(羽板)を有する機能部品であり、製造コストが嵩むともに、射出成型時のルーバー板の反りなどによる美観の低下が目立ちやすく、また、製品の実使用時には、吸気気流中の埃をルーバー板前端で捕集するが、ルーバー板の間隔が狭隘で清掃が困難であるなど、インテリアデザインとの調和性を特に重んじる引出し型加熱調理器において、外観に関する問題点を有しているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2005−221081号公報
【特許文献2】特開2006−22337号公報
【特許文献3】特開2002−228163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、引出し型のビルトイン型加熱調理器において、加熱調理物の調理の際に発生する熱や蒸気を含んだ庫内空気を外部に排気する排気構造を変更し、給排気構造として必要高さを可及的に低くする点で解決すべき課題がある。
この発明の目的は、排気構造に工夫を凝らして、排気ダクトのための高さを低くして加熱室の高さ寸法を確保するとともに、見栄えのよい前面外観を備えた引出し型加熱調理器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するため、この発明による引出し型加熱調理器は、キャビネット内にビルトインされ且つ内部に加熱調理物を収容可能な加熱室が形成されている調理器本体、前記加熱室の前方開口部を閉鎖可能な開閉ドア、及び前記加熱室に送り込まれ前記加熱調理物の調理の際に発生する熱や蒸気を含んだ庫内空気を排出する排気部を備え、前記排気部は、前記加熱室の側壁と前記調理器本体の前壁の下辺部とに接続する排気ダクトを有していることを特徴としている。
【0017】
本ビルトイン型加熱調理器によれば、加熱調理物の調理の際に発生する熱や蒸気を含んだ庫内空気を排出する排気部は、前記加熱室の側壁と前記調理器本体の前壁の下辺部とに連通する排気ダクトを備えた構造となっており、加熱室の側壁の外側に通された排気流れは、加熱室の側壁の外側に沿って流れて、調理器本体の前壁の下辺部に設けられた開口部から庫外に排気される。このように、加熱室の側壁の外側に、構成部品の間隙を利用して排気の流れる経路を構成したので、従来のように、加熱室の下側に排気ダクト構造を設ける必要がなくなった。
同様に、加熱室の側壁の外側に、構成部品の間隙を利用して吸気の流れる経路を構成したので、加熱室の下側に吸気ダクト構造を設ける必要がなくなった。
このように、加熱調理器本体の外寸及び加熱室の外形寸法を変更することなく、加熱室の側壁の外側に配設されている構成部品の形状及び配置の変更により、加熱室の側壁の外側に配設されている構成部品の間隙を利用して吸気及び排気の流れる経路を構成することから、不必要となった吸排気ダクトの厚みに相当する高さの分だけ、加熱室の高さを稼ぐことができる。
【0018】
本ビルトイン型加熱調理器において、前記加熱室の前記側壁は、当該側壁の前方且つ上方において、多数の排気孔が貫通形成された排気孔領域を備えており、前記排気ダクトは、前記排気孔領域の外側面側から前記側壁の外側面に沿って前記調理器本体の前壁の前記下辺部に延びている構造とすることができる。加熱室内の庫内空気は温度が高いので上方に集まる傾向がある。したがって、かかる庫内空気は、側壁の前方且つ上方に備わる排気孔領域において、貫通形成された多数の排気孔を通じて加熱室外に出て、加熱室の側壁を利用して設けられている排気ダクトを通じて下方に案内され、調理器本体の前壁の下辺部に到達する。
【0019】
また、本ビルトイン型加熱調理器において、前記調理器本体の前壁の前記下辺部には前記排気ダクトの排気開口部が設けられており、当該排気開口部は、前記開閉ドアが前記加熱室の前記前方開口部を閉鎖する状態にあるとき、前記開閉ドアによって前方から隠される構造とすることができる。このように、調理器本体の前壁の下辺部に設けられる排気ダクトの排気開口部は、加熱室の前方開口部を閉鎖する状態にある開閉ドアによって前方から隠されるので、前方からの外観では、従来、ルーバー等のそれと解る排気口が目に入らないことになり、外観がすっきりしたデザイン的にも優れたビルトイン型加熱調理器を得ることができる。
【0020】
また、本ビルトイン型加熱調理器において、前記排気ダクトの前記排気開口部は、左右幅方向の端部側に寄せて設けることができる。加熱室内の庫内空気の流れは一方の側壁に設けられている排気孔領域に向かう流れとなるので、排気ダクトの排気開口部はその排気方向側の幅方向端部だけに寄せて設けることができる。
【0021】
また、本ビルトイン型加熱調理器において、前記開閉ドアの内面には、前記排気ダクトの前記排気開口部に対応した領域において、ドアフレームの下端縁に開口する排気部を設けることができる。このような排気部を兼ねたドアフレームの採用によって、従来、調理器本体の前面下部に設けていた、水平方向にルーバー板を複数配置して、前後方向の通風を行いつつ内部を隠蔽する吸排気ルーバーを廃止することができ、コストダウンを図ることができる。
【0022】
更に、本引出し型のビルトイン型加熱調理器において、前記開閉ドアの内面には、前記排気ダクトの前記排気開口部の左右限界に対応して、当該排気ダクトの前記排気開口部からの排気流れをガイドする仕切り部を形成することができる。この仕切り部を形成することによって、該排気ダクトの排気開口部からの排気流は、仕切り部に沿って、好ましくは下方に向けて案内することができるので、使用者に熱い排気流が直接に当たるのを回避することができる。また、排気された暖気が仕切り部によって下方に向けて案内されるので、吸気口に吸い込まれるショートサーキットの問題を回避することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明による引出し型のビルトイン型加熱調理器によれば、加熱室の庫内空気を排気する吸気・排気ダクトを調理器本体内に組み込む構成としたので、従来、引出し型のビルトイン型調理器本体の底部に設けていた独立した吸気・排気構造が不要となり、部品点数の削減、コストの削減、ダクト構造のコンパクト化を図ることができる。また、従来の吸気・排気構造ではその弾性により垂直方向の衝撃が増幅されるために必要であった内部部品の搭載部の構造強化が不要となる。また、吸排気部をドア背面に隠蔽することにより、前方外観がスッキリしたものとなり、個別のデザイン、またキッチンの中でのインテリアデザイン的にも優れた環境を醸し出すことができる。当該吸気・排気構造が占拠していた高さを加熱室の庫内高さとして使用することが可能になるので、背高のマグカップをも庫内に入れることができる。また、排気ダクトの経路長が短くなるため、送風ファンモーターの小型化が可能となり、コストダウンを図ることができる。更に、庫内排気を庫内の壁を利用したダクトにて排出するため、排気(蒸気)が吸気エリア(冷たいエリア)の近傍を通過するとき、吸気によって急冷され、結露、滴下することを防止している。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は本発明によるビルトイン型加熱調理器の側面断面概略図である。
【図2】図2は図1に示すビルトイン型加熱調理器の開閉ドアを取り去った状態を示す調理器本体の正面図である。
【図3】図3は図1に示すビルトイン型加熱調理器の背面図である。
【図4】図4は図1に示すビルトイン型加熱調理器の底面図である。
【図5】図5は図1に示すビルトイン型加熱調理器の排気構造の概念図である。
【図6】図6は図1に示すビルトイン型加熱調理器の奥部電気部品配置図である。
【図7】図7は吸排気エアガイド部の気流概念図である。
【図8】図8は吸排気エアガイド部の断面図である。
【図9】図9は従来のビルトイン型加熱調理器の排気構造の概念図である。
【図10】図10は従来のビルトイン型加熱調理器の奥部電気部品配置図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明によるビルトイン型加熱調理器の一実施例を説明する。図1〜図4に示すように、キャビネット内にビルトインされる調理器本体1には、内部に加熱調理物を収容可能な加熱室3が形成されている。加熱調理物は、加熱室3に対して出入りされる引出し体2の載置部に置かれる。引出し体2は、加熱室3の前方開口部3aを閉鎖可能な開閉ドア2aと一体的に構成されている。したがって、引出し体2を加熱室3内に収納した収納位置では、開閉ドア2aは、加熱室3の前方開口部3aを閉鎖して、加熱調理時に発生されるマイクロ波が加熱室の外に漏れるのを防止している。引出し体2は、加熱室3の外側に配置されたスライド機構(図示せず)によって調理器本体1に対してスライド案内されており、電動モーター等の駆動手段によって自動開閉、或いは手動開閉をアシストする動作が可能である。
【0026】
図5に、ビルトイン型加熱調理器の排気構造の概念図が示されている。また、図6にはビルトイン型加熱調理器の奥部電気部品配置が示されている。図9に示す従来の排気構造に関して同等の部品には同じ符号を付すことで再度の説明を省略する。ファンモーター56を駆動することで外部から吸い込んだ空気を加熱室3へ送り込む概念図である。加熱室3の後板に形成されている開口から奥部に流入した空気は、高圧トランス55や回路基板を冷却してファンモーター56に吸い込まれる。ファンモーター56から送り出された空気は、一部がマグネトロン54を冷却した後、加熱室3内へ流れ込み、その後、加熱室排気ダクト11を通って外部へと排気される。もう一つの流れは、天面排気ダクトを流れて、加熱室3の上部(天板とその上部)を冷却して、ドア上部の隙間からルーバーを通じて排気される。残りの流れは、電気部品、加熱室3の下部を冷却後、ドアガイド部から排気される。
【0027】
加熱室3内の庫内空気は加熱調理物の調理の際に発生する熱や蒸気を含むことになるので、この庫内空気を排出する排気部10が調理器本体1内に設けられている。庫内空気の排出は、調理器本体1に設けられた吸気部を通じて送風ファン9によって吸い込んだ外気を加熱室3に送り込むことによって加熱室3内の庫内圧力を高め、それによって庫内空気を押し出すことで行われる。排気部10は、加熱室3の側壁3aと調理器本体1の前壁1aの下辺部12とに接続する排気ダクト11を有している。
【0028】
庫内空気を排出する排気ダクト11は、加熱室3の側壁3aを利用して形成されたダクトであって、調理器本体1の前壁(前面板)1aの下辺部12に連通している。加熱室3の側壁(側面板)3aは、側壁3aの前方且つ上方において、多数の排気孔が貫通形成された排気孔領域3bを備えている。排気ダクト11は、排気孔領域3bの加熱室3の外側面側を覆って横方に延びる第1ダクト部分11aと、側壁3aの外側面に沿って調理器本体1の前壁1aの下辺部12へと下方に延びる第2ダクト部分11bとから構成されている。
【0029】
加熱室3内の庫内空気は温度が高いので上方に集まる傾向がある。したがって、かかる庫内空気は、側壁3aの前方且つ上方に備わる排気孔領域3bにおいて、貫通形成された多数の排気孔を通じて加熱室3から排気ダクト11の第1ダクト部分11aに出て、そこから排気流は、第2ダクト部分11bを下り、調理器本体1の前壁1aの下辺部12に設けられた排気開口部13から調理器本体1外に排気される。したがって、従来のように、加熱室3の下側にダクト厚みを有する吸排気ダクト構造を設ける必要がなくなったので、その分、加熱室3の高さを稼ぐことができる。
【0030】
調理器本体1の前壁1aの下辺部12には排気ダクト11の排気開口部13が設けられており、排気開口部13は、開閉ドア2aが加熱室3の前方開口部3aを閉鎖する状態にあるとき、開閉ドア2aによって前方から見えないように隠される。このように、排気ダクト11の排気開口部13は、開閉ドア2aを閉じたときには当該開閉ドア2aによって前方から隠されるので、前方から見ただけでは、従来設けられていたようなそれと解る排気口が目に入らないことになり、外観がすっきりしたデザイン的にも優れたビルトイン型加熱調理器となる。なお、開閉ドア2aを閉じたとき、排気開口部13は隠れるだけであって、閉鎖される訳ではないので、排気流それ自体が妨げられることはない。
【0031】
排気ダクト11の排気開口部13は、調理器本体1の前壁1aの下辺部12において、左右幅方向の端部側に寄せて設けられている。加熱室3内の庫内空気の流れは一方の側壁3aに設けられている排気孔領域3bに向かう流れとなるので、排気ダクト11の排気開口部13は排気孔領域3bが設けられる側の幅方向端部だけに寄せて設けることで十分である。
【0032】
図7に示すように、開閉ドア2aの内面には、排気ダクト11の排気開口部13に対応した領域において、ドアフレームの下端縁に加熱室方向及びドア下方に略90度の角度を持って開口し、通過する気流の方向を相互に屈曲させるエアガイド(吸排気)部15を設けることができる。このようにドア下部をエアガイド部15と兼ねさせたドアフレームの採用によって、従来、調理器本体の前面下部に設けていた吸排気ルーバー(外観にも現れていた)を廃止することができ、コストダウンを図ることができるとともに、吸排気部を使用者の目から隠蔽し、ドア前面だけが使用者の目に触れるよう外観デザインを向上させることができた。
【0033】
開閉ドア2aの内面には、排気ダクト11の排気開口部13の左右限界に対応して、排気ダクト11の排気開口部13からの排気流れをガイドする仕切り部16が形成されている。仕切り部16は、例えば、開閉ドア2aの内面部品としての樹脂製品の成形時に一体的に成形することができる。仕切り部16を形成することによって開閉ドア2a下部の一部は庫外側の排気エアガイド(排気部15b;図6参照)として機能し、排気ダクト11の排気開口部13から排気される気流は、仕切り部16に沿って、好ましくは開閉ドア2aの前面下から下方に向けて吹き下ろすように案内される。排気部15bから吹き下ろされる排気流は、風速によって床面付近に届いた後、風速が失われて水平方向に拡散するので、使用者の腰から膝にかけて熱い排気流が直接に当たるのを回避することができる。
【0034】
エアガイド部15の左右端部は、前記のように排気開口部13と連携した排気エアガイド(排気部15b)であるが、エアガイド部15の中央部は、調理器本体1に設けられた吸気部と連携した吸気ガイド(吸気部15a)である。このような構成とすることにより、吸気ガイドからドア下部近傍の高度の比較的室温に近い空気を吸入するので、床面付近に届いた後拡散される排気流が直接吸い込まれてショートサーキットを起こすことが防止されている。即ち、排気は、送風ファンによって調理器本体1内から開閉ドア2aへ送り出され、排気部15bで下方に偏向された後、流速を持った排気気流として下方への指向性を有して流れるものと想定される。このようにして流下する排気気流は、外気と温度が異なることから密度の異なる気体であり、かつ、下方への指向性を有しているので、外気と容易に混ざり合うことがなく一連の気流として床面に至る。これに対して、吸気には、速度にかかわらず、そのような指向性は存在しないので、排気開口部13近傍の外気が吸入される。このように、吸排気の気流が同一形状の吸排気部15を通過するが、吸排気の流路は非対称であり、吸排気が、流体力学的に弁別されていることから、排気がそのまま吸気される吸排気部15でのショートサーキット現象が大幅に低減される。
【0035】
図8は、排気部15bの加熱調理の断面図である。排気開口部13の上部から流出した排気は、排気部15bの曲面に衝突して下方に偏向されるが、排気開口部13の下部から流出した排気は、排気開口部13の下方に生じる負圧部に吸引され、渦流となり流速が失われる可能性がある。この場合、排気気流のうち、渦流となった部分が排気開口部13の下方に滞留し吸気部から吸引されるためショートサーキットが発生し、加熱調理器の冷却効果が低下する。このような過流が発生する可能性がある場合は、排気開口部13の下方に正の曲率を有する曲面の気流ガイドであるコアンダーガイド17を設け、コアンダー効果によって排気開口部13の下部から流出した排気を下方に偏向させることにより、渦流の発生を防止でき、吸気と排気の流体力学的な弁別が改善されるので、更に好ましい。
【0036】
このような構造とすることによって、加熱室3の下側にダクト厚みを有する吸排気ダクト構造を設ける必要がなくなったため、本発明によるビルトイン型加熱調理器は、内部の加熱室等の構造体が、直接ないしは剛性の高い締結手段によって底面板に締結される構造となった。これは、工場での製造、梱包後、ビルトイン設置されるまでの製品搬送状態でのビルトイン型加熱調理器の機械的強度を高める改善効果を奏している。
【0037】
すなわち、トラック等の搬送手段で輸送中にトラック荷台上から路面に落下することを想定して、梱包状態で落下試験を行い、内部に破損が生じないことが、製品設計規格となっているが、従来の加熱室3の下側にダクト厚みを有する吸排気ダクト構造を設けた加熱調理器は、落下の際に、衝撃により吸排気ダクト構造が変形する可能性があり、実使用時の応力を大きく上回る応力に耐える構造とする必要が生じるため、コストの上昇とともに、製品重量の増加を伴っていた。
【0038】
また、落下試験時に吸排気ダクト構造に加わる応力が、吸排気ダクトを構成する鋼板の弾性限界内であって、一旦変形した後反発力によって原型に復元することにより塑性変形を免れるとしても、反発復元時には、通常の加熱調理器の落下試験時の応力と逆方向に応力が発生する。このことから、吸排気ダクト構造に近接した部分の設計においては、このような逆方向の応力をも考慮する必要があり、例えば、高圧トランスのような重量部品の搭載方法、搭載位置に対して、制約を受けていた。これに対して、本発明の実施例の構造では、内部の加熱室等の構造体が、直接ないしは剛性の高い締結手段によって底面板に締結される構造であり、前記した反発復元時の逆方向応力を考慮する必要がなくなったため、関係部分のコストダウンが可能となった。
【0039】
このように、本発明の実施例による構造では、従来のビルトイン方加熱調理器において、加熱室の下側にダクト厚みを有する吸排気ダクト構造を設けることが原因となって発生していた設計上の課題を解決し、製品コストの低減、重量の低減の効果に加えて、内部に搭載する重量部品の搭載方法、搭載位置の改善が可能となることによる間接的な設計改善効果があわせて実現された。
【符号の説明】
【0040】
1 調理器本体 1a 前壁
2 引出し体 2a 開閉ドア
3 加熱室 3a 前方開口部
3b 排気孔領域
9 送風ファン 10 排気部
11 排気ダクト 11a 第1ダクト部分
11b 第2ダクト部分 12 下辺部
13 開口部 15 吸排気部
15a 吸気部 15b 排気部
16 仕切り部 17 コアンダーガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビネット内にビルトインされ且つ内部に加熱調理物を収容可能な加熱室が形成されている調理器本体、前記加熱室の前方開口部を閉鎖可能な開閉ドア、及び前記加熱室に送り込まれ前記加熱調理物の調理の際に発生する熱や蒸気を含んだ庫内空気を排出する排気部を備え、
前記排気部は、前記加熱室の側壁と前記調理器本体の前壁の下辺部とに接続する排気ダクトを有していることを特徴とするビルトイン型加熱調理器。
【請求項2】
前記加熱室の前記側壁は、当該側壁の前方且つ上方において、多数の排気孔が貫通形成された排気孔領域を備えており、
前記排気ダクトは、前記排気孔領域の外側面側から前記側壁の外側面に沿って前記調理器本体の前壁の前記下辺部に延びていることを特徴とする請求項1記載のビルトイン型加熱調理器。
【請求項3】
前記調理器本体の前壁の前記下辺部には前記排気ダクトの排気開口部が設けられており、当該排気開口部は、前記開閉ドアが前記加熱室の前記前方開口部を閉鎖する状態にあるとき、前記開閉ドアによって前方から隠されることを特徴とする請求項1又は2記載のビルトイン型加熱調理器。
【請求項4】
前記排気ダクトの前記排気開口部は、左右幅方向の端部側に寄せて設けられていることを特徴とする請求項3記載のビルトイン型加熱調理器。
【請求項5】
前記開閉ドアの内面には、前記排気ダクトの前記排気開口部に対応した領域において、ドアフレームの下端縁に開口する排気部が設けられていることを特徴とする請求項3又は4記載のビルトイン型加熱調理器。
【請求項6】
前記開閉ドアの内面には、前記排気ダクトの前記排気開口部の左右限界に対応して、当該排気ダクトの前記排気開口部からの排気流れをガイドする仕切り部が形成されていることを特徴とする請求項4記載のビルトイン型加熱調理器。
【請求項7】
前記開閉ドアの内面には、前記排気部に隣接して、前記調理器本体の前壁の前記下辺部に通じる吸気部が設けられていることを特徴とする請求項5又は6に記載のビルトイン型加熱調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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