説明

ビームスプリッタ

【課題】 Ag層を用いた接合タイプのビームスプリッタにおいて、基材、接着剤からのAg膜への透湿を防ぎ、高温高湿環境下においても所望の透過率、反射率の特性を維持したまま、外観劣化を生じないビームスプリッタを得る。
【解決手段】 Ag層の両側にAg層に接する層としてAl膜を設けた接合タイプのビームスプリッタにおいて、Ag層に対して接着剤側に、SiO+Laの複合酸化物膜である吸湿層、Al層からなる透湿防止層からなる保護層を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラ、複写機、プロジェクタ、ディスプレイ等に用いられる、入射した光を分割するためのビームスプリッタに関するものであり、特には光学特性が良好なAg層を有する光半透膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プリズム式ビームスプリッタとしてプリズム同士の界面に光学特性の優れたAg層を含む光半透膜を設けたものが良く知られている。Ag層の両側に複数の誘電体膜からなる下引き層、上引き層を設けた光半透膜を用いることにより、可視域で光量損失、波長依存性の少ない、透過光と反射光の比が略1:1のビームスプリッタを容易に得ることが出来る。
【0003】
例として特開昭56−27106(特許文献1)が挙げられる。これは、ガラスプリズム/TiO/Al/Ag/Al/TiO/接着層/ガラスプリズム、の構成とすることにより、反射率・透過率が略等しく、しかもP偏光とS偏光との差が小さい特性を有した接合タイプのビームスプリッタを開示したものである。
【0004】
又、例として特開平06−331811(特許文献2)が挙げられる。これは、樹脂プリズム/SiO/WO/Ag/WO/SiO/接合部/樹脂プリズム、の構成とすることにより、所望の反射率・透過率光学特性を得るとともに、耐久性に優れた樹脂製ビームスプリッタを開示したものである。
【0005】
特許文献2に記載のビームスプリッタは、誘電体膜の蒸着時にWOやMoO等の蒸発温度の低い蒸着材料を用い、樹脂プリズムに接する第1層目にSiO膜を使用するものである。このように比較的低温で蒸着可能な蒸着材料を選ぶことにより、樹脂プリズム等の熱に弱い基材に対する成膜時に発生する熱によるダメージを低減し、樹脂プリズムの熱膨張によるクラックの発生、膜剥離等の問題を克服している。
【0006】
しかしながら、Agは70℃など低温の加熱で原子の移動・凝集が生じやすく、さらに高湿度の環境下ではイオンマイグレーション現象など顕著な原子の移動や凝集が生じるという化学的性質を持つことが知られている。このような化学的性質によりAg層はクモリなど、光学特性の低下を起こしやすい。
【0007】
したがって、Ag層を含む光半透膜でビームスプリッタを形成する場合、Ag層のクモリを防止するため、基板を無加熱(室温に近い温度)で光半透膜を成膜する必要が有る。そのために、通常、Ag層に重ねて設けられる層は、Ag層におけるAg原子の移動を抑制するような条件下で成膜する必要がある。
【0008】
上述のAlは基板を十分加熱している状況下では、充填率が100%に近く、十分に緻密な膜を形成することができるものの、基板温度を室温から±20℃程度の範囲(以下この温度範囲を、無加熱と呼ぶ場合がある)に抑えて成膜すると、充填率が低下しマイクロクラックなど局所的な欠陥が起こることがある。基板温度が十分高いと成膜粒子が基板上で再構成され、充填率の高い緻密な膜になりやすいが、基板温度が低いと再構成効果が薄れ、充填率が落ちる。その結果マイクロクラックなどの局所的な欠陥が起こりえる。
【0009】
したがって、無加熱で成膜されたAl層は、基板加熱下で成膜されたAl層と比べ密度の低い透湿防止性に劣る膜となり、Ag層に対する湿気に対する保護層としての透湿防止機能は充分ではない。
【0010】
特許文献1による構成の場合、基材としてガラスプリズムを用いるから上記問題が顕在化しないものの、基材として樹脂プリズムを用いると、樹脂特有の問題、即ち、高温高湿環境下で吸湿性を生じるという問題が有り、この吸湿性によりAg層に到達した水分がAg層を劣化させ、接合された光半透膜の光学特性を低下させる。
【0011】
又、特許文献2の場合、Ag層の両側に設けられるSiO、WO、MO等の下引き層、上引き層は、同様に透湿防止性に劣り、Ag層に対する保護としては充分ではない。接合後、高温高湿環境下では樹脂基材、水分を含む接着剤からの透湿により、Ag層に変色、クモリ、腐食、が発生し易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭56−27106号公報
【特許文献2】特開平06−331811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
Agは光学特性の優れた材料であるものの、湿気による光学面の外観の劣化など光学特性の低下が生じやすい。
【0014】
これら外観の劣化は、水分の存在下でのAgイオンのマイグレーションと推測され、膜の微小クラック、接合面の微小な付着物等をトリガーとする透湿や硫黄Sや塩素Clによる汚染によって更に加速される。
【0015】
本発明は、基材、接着剤からのAg層への透湿を防ぎ、高温高湿環境下においても所望の透過率、反射率の特性を維持したまま、外観劣化を抑えたビームスプリッタを得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の課題を解決する本発明のビームスプリッタは、
光半透膜を介して接合された少なくとも二つの光学素子からなるビームスプリッタであって、
第一の光学素子と、
前記第一の光学素子側から順に設けられた、Alからなる下引き層と、前記下引き層に接して設けられたAg層と、前記Ag層に接して設けられたAlからなる上引き層と、SiO+Laの複合酸化物膜と、Al層と、からなる光半透膜と、
接着層と、
第二の光学素子と、
を有するビームスプリッタである。
【0017】
ここで、SiO+Laの複合酸化物膜と、続いて設けられたAl層が重要で、
Al層は透湿防止層として、高温高湿環境下で基材、接着剤からの透湿を防止するための層であり、SiO+Laの複合酸化物膜が吸湿層として透湿防止層を透過してきた水分を吸湿する役割を担う。この吸湿層により水分のAg層への到達を更に防止することが出来る。
【0018】
このように、保護層は、透湿防止層として設けられたAl層と、吸湿層として設けられたSiO+Laの複合酸化物膜からなる。
【0019】
保護層は、透湿防止層と吸湿層の交互の組み合わせで形成される複数層であれば良く、水分を多分に含む接着剤を配する接着層に近い層が透湿防止層であることが重要である。
【0020】
Al膜は、低温(100℃以下)で蒸着形成される膜として、密度が高く表面が緻密なため透湿防止性に優れる。吸湿層としては、吸湿性を示す複数の材料の中で、SiOとLaの複合酸化物膜が、硫黄(S)、塩素(Cl)によるAg層の劣化を防止することから有効である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の構成とすることにより、基板、接着剤からのAg層への透湿を防ぎ、高温高湿環境下においても所望の透過率、反射率の特性を維持したまま、外観劣化を低減したビームスプリッタを得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のビームスプリッタの膜構成断面を示す模式図である。
【図2】膜材料の高温高湿環境後の吸湿性を示すグラフである。
【図3】実施例1の分光特性を示すグラフである。
【図4】実施例2の分光特性を示すグラフである。
【図5】実施例3の分光特性を示すグラフである。
【図6】比較例1の分光特性を示すグラフである。
【図7】比較例1の環境テスト後の分光特性を示すグラフである。
【図8】比較例3の環境テスト後の分光特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のビームスプリッタの膜構成断面の模式図を図1に示す。樹脂製のプリズム形状の第一の光学素子1に、真空蒸着法等の成膜法によりAg層を含む光半透膜3を設け、UV硬化樹脂等の接着層4により他方の樹脂製のプリズム2と接合し、ビームスプリッタを形成した。
【0024】
樹脂製の基材としては、アクリル、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン等を用いることが出来る。
【0025】
光半透膜3は電子銃蒸発源、蒸着等を用いて無加熱(=基板温度が室温から±20℃の範囲)で形成される。基板側より順次、比較的高い屈折率を有する膜としてTiO膜5(可視光に対し屈折率約.2.2)、中間的な屈折率を有する膜としてAl膜6(可視光に対し屈折率約1.6)からなる下引き層、Ag層よりなる反射層7、Al膜8、TiO膜9よりなる上引き層、更に吸湿性を示すSiO+Laの複合酸化物膜10と緻密な膜質により透湿防止性を示すAl膜よりなる保護層11を設ける。
【0026】
下引き層、上引き層の膜厚は所望の透過率、反射率を得るために適宜決めることが出来る。又、所望の透過率、反射率に応じて下引き層、上引き層の層数を適宜決めることが出来る。
【0027】
比較的高い屈折率を有する膜としてはTiO、Nb2O5、Ta2O5、ZrO、La等の材料、又はこれらの混合物から選択することが出来る。中間的な屈折率を有する膜としてAl膜が好適である。
【0028】
吸湿性を示す膜としては、SiO、スピネル、MgO、ZnO、CaO、SrO、BaO、Y2O、La、Sm2Oからなる少なくとも一つの材料を含むことが好ましく、SiO+Laの複合酸化物膜が好適である。LaのSiOに対する比率としては、Laが5〜30wt%が好ましい。5wt%より小さい場合は硫黄(S)、塩素(Cl)によるAg層の劣化を防止する効果が少なく、30wt%より大きい場合は、接合後に高温高湿環境下でクラック、膜浮き等が発生し易くなる。又、膜厚(幾何学的膜厚、d)は20〜80nmが好ましい。20nmより小さい場合は吸湿によるAg層の劣化を防止する効果が少なく、80nmより大きい場合は所望の分光特性を得るのが難しくなり、密着不良が発生し易くなる。
【0029】
透湿防止膜としてはAl膜が好適である。その膜厚(d)は20〜100nmが好ましい。20nmより小さい場合は透湿防止によるAg層の劣化を防止する効果が少なく、100nmより大きい場合は所望の分光特性を得るのが難しくなり、接合後、高温高湿環境下でクラックを発生し易い。
【0030】
又、透湿防止層としては膜密度が高いことが好ましく、成膜方法として、イオンプレーティング、イオンビームアシストを付加してもよく、スパッタ法を用いることも出来る。吸湿層としてはHO分子をとりこみやすい膜密度が低い膜であることが好ましく、通常の蒸着法で形成することが出来る。
【0031】
接着剤は、シリコン系、エポキシ系、ウレタン系、アクリル系、オレフィン系接着剤等を用い、粘着硬化、2液硬化、紫外線硬化等により接合することが出来る。
【0032】
Ag層の膜厚は特に限定されないが、良好な光半透膜を得るためには1nm〜50nm程度に設けると良い。
【0033】
本発明で用いる膜材料の高温高湿環境後の吸湿性を図2に示す。図2の棒グラフは各材料に対応しており、縦軸の左に付した数字は成膜時の真空度、横軸は成膜後の真空中での光学膜厚を100%としたときの、大気開放後(真/大気)、及び60℃90%100H後(大気/100H)の光学膜厚の増分(Δnd%)を示す。図2において、光学膜厚の増分は水分の吸湿の影響を示す。例えば、真空度5×10−3Paの室温で成膜されたSiO+La膜(LaのSiOに対する比率10wt%)は、真空から大気開放された時に約7%の光学膜厚の変化を示し、60℃90%100Hの高温高湿環境後は更に約5%の光学膜厚の変化を生じる。これはAl膜の高温高湿環境後の挙動と好対照であり、SiO+La膜の吸湿性、Al膜の非吸湿性を示すものである。ただし無加熱成膜したAl膜の表面に生じるマイクロクラックなど、局所的な欠陥がAl膜に生じた場合は、欠陥のあるポイントから透湿が起こりえる。無加熱成膜されたAl膜が有する、局所的な透湿が起こるものの吸湿性が低いという性質を活用し、SiO+La複合酸化膜とAl膜とをAg層側から順に互いに隣接して設け、保護層とすることで透湿を防止する。
【0034】
尚、TiO膜はその中間に位置付けられる。
【0035】
ビームスプリッタの湿気に対する光学特性の信頼性をさらに高めるために、接着剤側に接する保護層を透湿防止層/吸湿層/透湿防止層の3層以上としたり、又、接着剤側だけでなく基材側にも保護層を設けたりすると、さらにAg層に対する透湿防止効果が高まり有効である。本発明に特徴的な光半透膜を有するビームスプリッタは樹脂プリズムを採用するにあたり特に有効であるが、ガラスプリズムを用いてももちろん良い。
【0036】
(実施例1)
基板として、アモルファスポリオレフィン樹脂プリズム(ZEONEX E48R)を用い、基板側から順にTiO膜、Al膜の2層からなる下引き層、Ag層、Al膜、TiO膜の2層からなる上引き層、SiO+La膜(LaのSiOに対する比率10wt%)、Al膜の2層からなる保護層を無加熱蒸着法(蒸着法)により設けた。この光半透膜を成膜したプリズムと他方のアモルファスポリオレフィン樹脂プリズムとを紫外線硬化型アクリル系接着剤により接合し、ビームスプリッタを形成した。各成膜時の真空度は、TiO膜は1×10−2Pa(酸素導入)、Al膜は5×10−3Pa(酸素導入)、Ag層は1×10−3Pa以下、SiO+La膜は5×10−3Pa(酸素導入)とした。保護層のAl膜は透湿防止層、SiO+La膜は吸湿層の役割を果たす。Ag層に接するAl膜も透湿防止層として有効である。
【0037】
膜構成を表1に、分光特性を図3に示す。Ag層に接するAl膜の幾何学的厚さは、透湿防止効果、分光特性の観点から30nmとした。図3の特性図の左縦軸は、透過率(%)、反射率(%)を示し、右縦軸は光量損失(%)を示す。横軸は波長(nm)を示す。グラフのT45、R45、および図中実線で下方に描かれたA45は、それぞれ光半透膜への入射角が45°のときの透過率、反射率測定値、及び光量損失(ロス)である。以下で説明する他の分光特性のグラフも同様である。
【0038】
特性としては、可視域(400〜700nm)における透過率、反射率の比が略等しく波長依存性の少ない良好なものである。又、光量損失(平均3%以下)の少ないビームスプリッタであった。
【0039】
次に、このビームスプリッタを60℃、90%の高温高湿下に1000H(時間)放置し環境テストを行った。結果は、特性変動、外観異常が見られず良好であった。環境テストの結果を他の例とともに表8に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
(実施例2)
実施例1と同様の成膜条件にて、下引き層、Ag層、上引き層を設け、更にAl膜、SiO+La膜(LaのSiOに対する比率10wt%)、Al膜の3層からなる保護層を無加熱蒸着法により設け、ビームスプリッタを形成した。
【0042】
膜構成を表2、このときの分光特性を図4に示す。特性としては、実施例1と同様、可視域(400〜700nm)における透過率、反射率の比が略等しく波長依存性の少ない良好なものである。又、光量損失(平均3%以下)の少ないビームスプリッタであった。
【0043】
次に、このビームスプリッタを60℃、90%の高温高湿下に1000H(時間)放置し環境テストを行った。結果は、特性変動、外観異常が見られず良好であった。環境テストの結果を他の例とともに表8に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
(実施例3)
実施例1と同様の成膜条件にて、プリズム側からAl膜、SiO+La膜(LaのSiOに対する比率10wt%)の保護層を設けてから、下引き層、Ag層、上引き層を設け、更にSiO+La膜(LaのSiOに対する比率10wt%)、Al膜の2層からなる保護層を無加熱蒸着法により設け、ビームスプリッタを形成した。
【0046】
膜構成を表3、このときの分光特性を図5に示す。特性としては、実施例1と同様、可視域(400〜700nm)における透過率、反射率の比が略等しく波長依存性の少ない良好なものである。又、光量損失(平均3%以下)の少ないビームスプリッタであった。
【0047】
次に、このビームスプリッタを60℃、90%の高温高湿下に1000H(時間)放置し環境テストを行った。結果は、特性変動、外観異常が見られず良好であった。環境テストの結果を他の例とともに表8に示す。
【0048】
【表3】

【0049】
(比較例1)
実施例1と同様にして、下引き層、Ag層、上引き層を無加熱蒸着法により設け、ビームスプリッタを形成した。但し、保護層を設けなかった。
【0050】
膜構成を表4、このときの分光特性を図6に示す。特性としては、実施例1と同様、可視域(400〜700nm)における透過率、反射率の比が略等しく波長依存性の少ない良好なものである。又、光量損失(平均3%以下)の少ないビームスプリッタであった。
次に、このビームスプリッタを60℃、90%の高温高湿下に1000H(時間)放置し環境テストを行った。結果は、特性変動、外観異常が発生し不適であった。テスト後の分光特性を図7に示す。樹脂プリズム、接着剤からの透湿によると思われるAg層の劣化が生じ、反射率、透過率の特性が悪化した。又、図7の実線に示されるように光量損失が平均7%となり増加した。外観異常は、薄茶色の変色、クモリ、少数の数十ミクロン程度の白ポチであった。環境テストの結果を他の例とともに表8に示す。
【0051】
【表4】

【0052】
(比較例2)
実施例1と同様にして、下引き層、Ag層、上引き層、SiO+La膜(LaのSiOに対する比率10wt%)の1層からなる保護層を無加熱蒸着法により設け、ビームスプリッタを形成した。膜構成を表5に示す(分光特性の図については、図6と大差ないので省略する)。
【0053】
特性としては、実施例1と同様、可視域(400〜700nm)における透過率、反射率の比が略等しく波長依存性の少ない良好なものである。又、光量損失(平均3%以下)の少ないビームスプリッタであった。
【0054】
次に、このビームスプリッタを60℃、90%の高温高湿下に1000H(時間)放置し環境テストを行った。結果は、特性変動、外観異常が発生し不適であった(テスト後の分光特性は、図7と大差ないので省略する)。比較例1との結果から、SiO+La膜は樹脂プリズム、接着剤からの透湿防止には寄与しておらず、比較例1と同様のAg層の劣化を生じたものと推測される。環境テストの結果を他の例とともに表8に示す。
【0055】
【表5】

【0056】
(比較例3)
実施例1と同様にして、下引き層、Ag層、上引き層、Al膜の1層からなる保護層を無加熱蒸着法により設け、ビームスプリッタを形成した。膜構成を表6に示す(分光特性の図については、図6と大差ないので省略する)。
【0057】
特性としては、実施例1と同様、可視域(400〜700nm)における透過率、反射率の比が略等しく波長依存性の少ない良好なものである。又、光量損失(平均3%以下)の少ないビームスプリッタであった。
【0058】
次に、このビームスプリッタを60℃、90%の高温高湿下に1000H(時間)放置し環境テストを行った。結果は、特性変動、外観異常が発生し不適であった。テスト後の分光特性を図8に示す。反射率、透過率の変化は目立たないが、光量損失が平均5%となり増加した。Ag層にはクラック、膜浮き等の欠陥は認められないものの、接着剤側に斑点状の変色、及び数十ミクロン程度の白ポチ(腐食)が少数発生した。
【0059】
本例においては、実施例1の2層からなる保護層を透湿防止層のAl膜単層に置き換えた構成であるが、Al膜単層の膜厚が比較的厚いにもかかわらず、透湿防止層だけではAg層の劣化を防止するには不十分であることを示している。接着剤に接するAl膜が均一ではなく、ミクロ的に微細な欠陥(基板に依存する膜成長の場所的な密度変化、吸湿熱膨張によるマイクロクラック等)が有った場合、局所的に透湿が起こり斑点状の変色が発生するものと推測される。又、局所的な透湿により白ポチが発生したものと推測される。実施例1においては、吸湿層による水分の吸収が局所的な透湿を緩和したためAg層の劣化を遅らせたものと思われる。又、吸湿層中のLaがS、Cl等の汚染によるAg層の劣化を抑制したものと思われる。環境テストの結果を他の例とともに表8に示す。
【0060】
上記比較例2、比較例3、及び上記の各実施例により保護層としては、SiO+La膜もしくはAl層のみでは透湿防止効果は期待できず、SiO+La膜とAl層とが共に必要であることがわかる。
【0061】
【表6】

【0062】
(比較例4)
実施例1と同様にして、下引き層、Ag層、上引き層、SiO膜、Al膜の2層からなる保護層を無加熱蒸着法により設け、ビームスプリッタを形成した。SiO+La膜(LaのSiOに対する比率10wt%)に換えてSiO膜を用いた構成である。膜構成を表7に示す(分光特性の図については、図3と大差ないので省略する)。
【0063】
特性としては、実施例1と同様、可視域(400〜700nm)における透過率、反射率の比が略等しく波長依存性の少ない良好なものである。又、光量損失(平均3%以下)の少ないビームスプリッタであった。
【0064】
次に、このビームスプリッタを60℃、90%の高温高湿下に1000H(時間)放置し環境テストを行った。結果は、特性変動は無いものの、外観的には実施例に劣るものであった。クラック、浮き等の欠陥、斑点状の変色は認められないものの、数十ミクロン以下の白ポチ(腐食)が極少数発生した。これは、ビームスプリッタ形成時に取り込まれたS、Cl等の汚染によるものであり、汚染物によるAg層の劣化が、透湿による劣化よりも反応が早いためと推測される。
【0065】
環境テストの結果を他の例とともに表8に示す。表8において判定の△、〇は実用上問題が無いことを示す。
【0066】
【表7】

【0067】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0068】
Ag層を含む樹脂製ビームスプリッタを光学部品として用いる光学製品に適用できる。
【符号の説明】
【0069】
1 第一の光学素子である成膜側樹脂プリズム
2 第二の光学素子である接合側樹脂プリズム
3 光半透膜
4 接着剤
5、6 下引き層
7 Ag層である反射層
8、9 上引き層
10 SiO+Laの複合酸化物膜からなる吸湿層
11 Al層からなる透湿防止層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光半透膜を介して接合された少なくとも二つの光学素子からなるビームスプリッタであって、
第一の光学素子と、
前記第一の光学素子側から順に設けられた、Alからなる下引き層と、前記下引き層に接して設けられたAgからなる反射層と、前記反射層に接して設けられたAlからなる上引き層と、SiO+Laの複合酸化物膜と、Al層と、からなる光半透膜と、
接着層と、
第二の光学素子と、
を有するビームスプリッタ。
【請求項2】
第一および第二の光学素子が、樹脂性の基材からなることを特徴とする請求項1記載のビームスプリッタ。
【請求項3】
前記上引き層と前記SiO+Laの複合酸化物膜との間にAl層をさらに有することを特徴とする請求項1または2に記載のビームスプリッタ。
【請求項4】
前記第一の光学素子と前記下引き層との間に、第一の光学素子側から順にAl層とSiO+Laの複合酸化物膜をさらに設けたことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載のビームスプリッタ。
【請求項5】
前記下引き層および前記上引き層は、前記Agからなる反射層に接するAl層および、そのAl層に接するTiO層からなることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載のビームスプリッタ。
【請求項6】
前記複合酸化物膜の、LaのSiOに対する比率は、Laが5〜30wt%であることを特徴とする特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載のビームスプリッタ。
【請求項7】
前記光半透膜は、幾何学的膜厚で、
20nm〜38nmのAlからなる下引き層と、
1nm〜50nmの前記下引き層に接して設けられたAgからなる反射層と、
20nm〜38nmの前記反射層に接して設けられたAlからなる上引き層と、
20nm〜80nmのSiO+Laの複合酸化物膜と、
20nm〜100nm Al層と、
からなることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項記載のビームスプリッタ。
【請求項8】
波長400nm〜750nmの光に対して光損失量が平均3%以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載のビームスプリッタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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