説明

ビームダンプ装置の冷却構造及びビームダンプ装置設置用建屋

【課題】簡単な構成でダンプターゲットを効率よく冷却することのできるビームダンプ装置の冷却構造を提供する。
【解決手段】ビームダンプ装置30を設置する建屋10の床11及び壁12の主筋11a同士及び主筋12a同士をそれぞれ結合用鋼線11b,12bにより互いに結合し、更に、床11のコンクリート内に、冷却フィン13を埋設するとともに、上記主筋11aと上記冷却フィン13とに、一端が床11から建屋10内に突出する連結用鉄筋11j,13jの他端側が溶接等により取付けられ、この連結用鉄筋11j,13jと、ダンプターゲット31を支持する純鉄の板32Pを積層した冷却部材32とをフレキシブル部材33に連結して、荷電粒子の衝突によりダンプターゲット31に発生する熱を放熱するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、加速器施設で使用されるビームダンプ装置に関するもので、特に、ダンプターゲットの冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
陽子や電子などを加速して高エネルギーの荷電粒子ビームを取出すリニアックやシンクロトロンなどのような加速器を備えた施設においては、加速された不要の粒子を消滅させるため、上記粒子をカーボンなどのダンプターゲットに衝突させて崩壊させるためのビームダンプ装置が用いられている(例えば、特許文献1参照)。ところで、高速の荷電粒子とダンプターゲットとの衝突時には、放射性物質の生成や熱の発生が伴うので、上記ダンプターゲット内は高温になる。したがって、吸収するビームのエネルギー量が大きい程大きなダンプターゲットを用いる必要がある。そこで、従来は、図2に示すように、ダンプターゲット51の周りを純鉄の板52Pを積層した冷却部材52で囲むとともに、上記ダンプターゲット51を設置する建屋50内を空調装置53で冷却して、粒子導入管20から照射される高速荷電粒子のビームとの衝突により発生する上記ダンプターゲット51の熱を、上記冷却部材52を介して空気中に放出し、上記ダンプターゲット51を冷却するようにしている。
一方、荷電粒子のエネルギーが比較的小さな場合には、ダンプターゲットを支持するハウジングに冷却通路を形成し、この冷却通路に冷却水を循環させて上記ターゲットを水冷する方法が行なわれている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平7−335398号公報
【特許文献2】特開平7−335397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記ダンプターゲット51を冷却部材52で囲んで空冷する方法では、熱放出が少ないため装置が大型化するだけでなく、空調温度をかなり低くしてやる必要があるので、空調費(ランニングコスト)が嵩んでしまっていた。
また、ダンプターゲットを水冷する方法は、荷電粒子のエネルギーが比較的小さな場合には問題はないが、荷電粒子が加速器施設で用いられるような高エネルギー粒子用のダンプターゲットでは、上記のように、放射性物質が生成されることから、冷却水が放射化されてしまうといった問題点があった。
【0004】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、簡単な構成でダンプターゲットを効率よく冷却することのできるビームダンプ装置の冷却構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の請求項1に記載の発明は、荷電粒子ビームが照射されるダンプターゲットと、このダンプターゲットを支持する純鉄のプレートを積層した冷却部材等の熱放出用支持部材とを備えたビームダンプ装置の冷却構造であって、上記熱放出用支持部材と、当該ビームダンプ装置を設置する建屋のコンクリート中の鉄筋とを金属または合金などの熱伝導性の高い材料から成る連結部材で連結して成ることを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のビームダンプ装置の冷却構造において、上記鉄筋同士を予め熱伝導性の高い材料から成る結合部材で結合したものである。
また、請求項3に記載の発明は、荷電粒子ビームが照射されるダンプターゲットと、このダンプターゲットを支持する純鉄のプレートを積層した冷却部材等の熱放出用支持部材とを備えたビームダンプ装置の冷却構造であって、当該ビームダンプ装置を設置する建屋のコンクリート中に予め埋設された冷却フィンと、この冷却フィンと上記熱放出用支持部材とを連結する、熱伝導性の高い材料から成る連結部材とを備えたものである。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3に記載のビームダンプ装置の冷却構造において、上記連結部材と上記コンクリートとの間に防水処理を施したものである。
【0006】
また、請求項5に記載の発明は、荷電粒子ビームが照射されるダンプターゲットと、このダンプターゲットを支持する純鉄のプレートを積層した冷却部材等の熱放出用支持部材とを備えたビームダンプ装置を設置するための建屋であって、一端が建屋のコンクリート中の鉄筋に連結され、他端が当該建屋内に突出する熱伝導性の高い材料から成る連結部材が上記コンクリート内に埋設されていることを特徴とするものである。
また、請求項6に記載の発明は、ビームダンプ装置を設置するための建屋であって、冷却用フィンと、一端がこの冷却フィンに連結され、他端が当該建屋内に突出する熱伝導性の高い材料から成る連結部材とが上記コンクリート内に埋設されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、荷電粒子ビームが照射されるダンプターゲットを支持する熱放出用支持部材と、当該ビームダンプ装置を設置する建屋のコンクリート中の鉄筋とを金属または合金などの熱伝導性の高い材料から成る連結部材で連結し、高速荷電粒子のビームとの衝突により発生するダンプターゲットの熱を、上記熱放出用支持部材から上記連結部材を介して建屋のコンクリート中の鉄筋に伝導させて放出するようにしたので、簡単な構成でダンプターゲットを効率よく冷却できるだけでなく、空調温度を高めに設定できるので、ランニングコストの低減を図ることができる。このとき、上記鉄筋同士を予め熱伝導性の高い材料から成る結合部材で結合しておけば、熱の放出が更に容易となり、ダンプターゲットを更に効率よく冷却することができる。
また、当該ビームダンプ装置を設置する建屋のコンクリート中に冷却フィンを予め埋設しておき、この冷却フィンに上記ダンプターゲットからの熱を伝導させるようにしても同様の効果を得ることができる。
なお、上記連結部材は建屋内に突出するので、上記連結部材と上記コンクリートとの間に防水処理を施して、上記コンクリートを介して水が浸入するのを防止するようにしておけば、水の汚染を確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の最良の形態について、図面に基づき説明する。
図1は、本発明の最良の形態に係るビームダンプ装置の冷却構造を示す図で、同図において、10は本発明によるビームダンプ装置設置用建屋で、本例では、この建屋10の床11及び壁12を構成する鉄筋コンクリートの主筋11a,11a同士、及び、主筋12a,12a同士をそれぞれ結合用鋼線11b,12bにより互いに結合するとともに、床11のコンクリート内に、アルミニウムなどの熱伝導性の良好な金属から成る冷却フィン13を埋設している。そして、上記主筋11aと上記冷却フィン13には、それぞれ、一端が床11から建屋10内に突出する連結用鉄筋11j,13jの他端側が溶接等により取付けられている。
また、20は図示しない加速器で加速された不要な荷電粒子を上記建屋10内に導くための粒子導入管で、その内部の粒子通路20sは真空に保持されている。21は上記粒子導入管20の周囲に配設され、上記荷電粒子の軌道を上記粒子導入管20内に制限するための電磁石で,上記粒子導入管20内に導かれた高エネルギー荷電粒子は、上記電磁石21により上記粒子通路20sに沿って移動し、粒子導入管20の端部に設けられた人工ダイヤモンド等の薄膜から成るウインドー22からビームダンプ装置30に照射される。なお、符号23は、上記粒子導入管20の外周部に設けられた冷却通路で、上記荷電粒子の一部が上記粒子導入管20の内壁に衝突したときに発生する熱を、上記冷却通路23を循環する冷却水により吸収する。
【0009】
ビームダンプ装置30は、上記粒子導入管20のウインドー22から照射される荷電粒子の軌道上に設置されたダンプターゲット31と、このダンプターゲット31の周りに設けられ、上記ダンプターゲット31を支持する熱放出用支持部材である冷却部材32とを備えている。
上記ダンプターゲット31は、通常、純カーボン等の材料で構成されており、その中央部には、その断面形状が、上記ダンプターゲット31に衝突した荷電粒子がダンプターゲット31の外部に漏れないように設計された形状の凹部(反射部)31hが形成されている。また、上記冷却部材32は多数の純鉄の板32Pを積層したもので、本例では、この冷却部材32に複数個の連結用端子30jを設けるとともに、これらの連結用端子30jと上記主筋11a,12aにそれぞれ連結され、かつ、上記建屋10内に突出する連結用鉄筋11j,12j、及び、連結用端子30jと上記冷却フィン13に連結されている連結用鉄筋13jとを、鉄製または銅製のフレキシブル部材33によりそれぞれ連結するようにしている。
ここで、上記連結用鉄筋11j,12jと床11及び壁12のコンクリートとの間を防水処理しておくことが望ましい。これは、上記コンクリートから浸入してきた水が当該建屋10内に入らないようにするためで、侵入水があると、この侵入水は、ダンプターゲット31で発生した放射性物質により放射化される恐れがある。なお、この防水処理としては、例えば、連結用鉄筋11j,12j及び連結用鉄筋13jの周りを防水コンクリート11k、12kで固めたり、床11の表面に防止シートを敷設しその上に床材を貼るなどの公知の技術を用いることができる。
【0010】
ビームダンプ装置30の冷却構造を上記のようにすることにより、荷電粒子の衝突により発生し、上記ダンプターゲット31から上記冷却部材32に伝導された熱は、連結用端子30j、フレキシブル部材33、連結用鉄筋11j,12jを介して、建屋10の床11及び壁12を構成する鉄筋コンクリートの主筋11a,12aに伝導されて放熱されるとともに、連結用端子30j、フレキシブル部材33、連結用鉄筋13jを介して、上記鉄筋コンクリート内に埋設された冷却フィン13に伝導されて放熱される。したがって、上記ダンプターゲット31の熱を効率よく放熱することができるので、ビームダンプ装置30を小型化することができる。また、空調の設定温度を従来よりも高くできるので、ランニングコストの問題もなくなるだけでなく、冷却水を使用していないので、水の放射化の問題も発生しない。
【0011】
このように、本最良の形態によれば、ビームダンプ装置30を設置する建屋10の床11及び壁12の主筋11a同士及び主筋12a同士をそれぞれ結合用鋼線11b,12bにより互いに結合し、更に、床11のコンクリート内に、冷却フィン13を埋設するとともに、上記主筋11aと上記冷却フィン13とに、一端が床11から建屋10内に突出する連結用鉄筋11j,13jの他端側が溶接等により取付けられ、この連結用鉄筋11j,13jと、ダンプターゲット31を支持する純鉄の板32Pを積層した冷却部材32とをフレキシブル部材33に連結して、荷電粒子の衝突によりダンプターゲット31に発生する熱を放熱するようにしたので、簡単な構成で、ダンプターゲットを効率よく冷却することができる。したがって、装置を小型化できるとともに、ランニングコストを低減することができる。
【0012】
なお、上記最良の形態では、ダンプターゲット31に発生する熱を床11及び壁12の主筋11a,12a、及び、床11のコンクリート内に埋設された冷却フィン13に放熱したが、更に、天井14も上記床11と同様の構成にして、天井14の主筋14aにも上記熱を伝導させて放熱してもよい。また、ダンプターゲット31の発熱量によっては、床11の主筋11a、壁の主筋12a、あるいは、上記冷却フィン13のみを用いてダンプターゲット31から冷却部材32に伝導される熱の放熱を行ってもよい。
また、上記例では、加速器で加速された不要な荷電粒子を消滅させるために用いられるビームダンプ装置30について説明したが、本発明は、荷電粒子ビームの強度測定などの予備実験に用いられるビームダンプ装置などのような、他の用途のビームダンプ装置にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0013】
このように、本発明によれば、簡単な構成でダンプターゲットを効率よく冷却できるので、小型で冷却効率の高いビームダンプ装置を提供することができるとともに、ランニングコストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の最良の形態に係るビームダンプ装置の冷却構造を示す図である。
【図2】従来のビームダンプ装置の冷却構造を示す図である。
【符号の説明】
【0015】
10 ビームダンプ装置設置用建屋、11 床、11a 主筋、11b 結合用鋼線、11j 連結用鉄筋、11k 防水コンクリート、12 壁、12a 主筋、
12b 結合用鋼線、12j 連結用鉄筋、12k 防水コンクリート、
13 冷却フィン、13j 連結用鉄筋、20 粒子導入管、20s 粒子通路、
21 電磁石、22 ウインドー、23 冷却通路、30 ビームダンプ装置、
30j 連結用端子、31 ダンプターゲット、31h 凹部、32 冷却部材、
32P 純鉄の板、33 フレキシブル部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームが照射されるダンプターゲットと、このダンプターゲットを支持する純鉄のプレートを積層した冷却部材等の熱放出用支持部材とを備えたビームダンプ装置の冷却構造であって、上記熱放出用支持部材と、当該ビームダンプ装置を設置する建屋のコンクリート中の鉄筋とを金属または合金などの熱伝導性の高い材料から成る連結部材で連結して成ることを特徴とするビームダンプ装置の冷却構造。
【請求項2】
上記鉄筋同士を予め熱伝導性の高い材料から成る結合部材で結合したことを特徴とする請求項1に記載のビームダンプ装置の冷却構造。
【請求項3】
荷電粒子ビームが照射されるダンプターゲットと、このダンプターゲットを支持する純鉄のプレートを積層した冷却部材等の熱放出用支持部材とを備えたビームダンプ装置の冷却構造であって、当該ビームダンプ装置を設置する建屋のコンクリート中に予め埋設された冷却フィンと、この冷却フィンと上記熱放出用支持部材とを連結する、熱伝導性の高い材料から成る連結部材とを備えたことを特徴とするビームダンプ装置の冷却構造。
【請求項4】
上記連結部材と上記コンクリートとの間に防水処理を施したことを特徴とする請求項1〜請求項3に記載のビームダンプ装置の冷却構造。
【請求項5】
荷電粒子ビームが照射されるダンプターゲットと、このダンプターゲットを支持する純鉄のプレートを積層した冷却部材等の熱放出用支持部材とを備えたビームダンプ装置を設置するための建屋であって、一端が建屋のコンクリート中の鉄筋に連結され、他端が当該建屋内に突出する熱伝導性の高い材料から成る連結部材が上記コンクリート内に埋設されていることを特徴とするビームダンプ装置設置用建屋。
【請求項6】
荷電粒子ビームが照射されるダンプターゲットと、このダンプターゲットを支持する純鉄のプレートを積層した冷却部材等の熱放出用支持部材とを備えたビームダンプ装置を設置するための建屋であって、冷却用フィンと、一端がこの冷却フィンに連結され、他端が当該建屋内に突出する熱伝導性の高い材料から成る連結部材とが上記コンクリート内に埋設されていることを特徴とするビームダンプ装置設置用建屋。

【図1】
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【図2】
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