ビーム制御装置、粒子線照射装置、およびこれらの制御方法
【課題】低コストで、線量の揺らぎが防止され設定量の線量が得られるビーム制御装置、粒子線照射装置、およびこれらの制御方法を提供する。
【解決手段】本発明のビーム制御装置は、シンクロトロン2を備え、シンクロトロン2からのベータトロン振動の共鳴を用いた粒子線ビームの取り出しを行うためのビーム制御装置1であって、シンクロトロン2内の粒子線ビームのセパラトリクス生成のための共鳴の次数に対応した多極電磁石6と、多極電磁石6の磁場強度を、生成したセパラトリクス面積を所望の大きさに保ちながら、高く制御することによって、前記粒子線ビームのビームスピルリップルを所定量以下に低減するビーム制御手段とを備えている。
【解決手段】本発明のビーム制御装置は、シンクロトロン2を備え、シンクロトロン2からのベータトロン振動の共鳴を用いた粒子線ビームの取り出しを行うためのビーム制御装置1であって、シンクロトロン2内の粒子線ビームのセパラトリクス生成のための共鳴の次数に対応した多極電磁石6と、多極電磁石6の磁場強度を、生成したセパラトリクス面積を所望の大きさに保ちながら、高く制御することによって、前記粒子線ビームのビームスピルリップルを所定量以下に低減するビーム制御手段とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速器科学に係り、より詳細には所望量の線量が得られるビーム制御装置、粒子線照射装置、およびこれらの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粒子線がん治療においては、シンクロトロン内に設置されているRF−KO電極に印加するRF−KO電圧を、調整することにより、シンクロトロンから取り出される出射ビーム強度を制御している(特許文献1)。
シンクロトロンにおける電磁石には、商用周波数に起因した周波数がその整流等の過程により電源リップルとして現れる。例えば、シンクロトロンから何周かする間に分けて取り出すビームの遅い取り出し(非特許文献1)によるビームスピルには、商用周波数と等しい50Hzまたは60Hzとその倍数の周波数リップルが現れる。
【0003】
シンクロトロンのリング内の電磁石の電源リップルによる磁場の揺れが、ベータトロン振動の共鳴の次数に対応した多極磁場の摂動により生成されるセパラトリクス面積の変化を引き起こす。そのため、セパラトリクス近傍に存在する粒子は、そのセパラトリクス面積の縮小によって共鳴領域に取り出される。
【0004】
図9は、従来の電源リップルによって位相空間上のセパラトリクス面積Sが大きく変動している様子を表す図である。ここで、X´とは、ビームの進行方向をYとしたときのdX/dYであり、ビーム進行方向に対する粒子の角度である。
図9に示すように、セパラトリクス面積Sの変化である面積増加ΔS1や、面積減少ΔS2が電源リップル周波数に応じて起こるため、結果として、シンクロトロンからの出射ビームにも電源リップル周波数成分が現れるのである。セパラトリクスsの近傍の斜線部に存在する粒子は、セパラトリクス面積Sの変化(面積増加ΔS1、面積減少ΔS2)によって共鳴領域に取り出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−198397号公報
【特許文献2】特開平8−203700号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】E. Wilson, “Non-Linearities and Resonances”, CERN 94-01 v 1 (1994) pp. 239.
【非特許文献2】Takuji Furukawa, et al., “Design study of a raster scanning system for movingtarget irradiation in heavy-ion radiotherapy”, Medical Physics 34 (2007) pp.1085-1097.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、粒子線治療のスキャニング照射(非特許文献2)などでは、一定の出射ビーム強度(照射線量率)が求められる。
そのため、大きなビームスピルリップルは線量制御外のスポット移動中での治療計画外超過線量付与を生むため可能な限り避けられるべきである。
そこで、特許文献2には、シンクロトロン内電磁石の電源リップルが原因であるビームスピルリップルを抑えるために、四極電磁石の電流パターンに電源リップルの影響を打ち消す効果がある高周波成分を、取り出し区間のみ重畳して摂動する方法が記載されている。
【0008】
具体的には、特許文献2は、シンクロトロンのリング内電磁石の電源リップルの影響を打ち消すように四極電磁石電源に摂動を加える。
しかし、この方法ではシステムとして複雑であり、また、僅かなリップルの周波数、位相のずれにも弱いという欠点がある。また、実用化するためには日々毎に、それら電流パターンの洞察が必要であるという問題もある。
本発明は上記実状に鑑み、低コストで、線量の揺らぎが防止され設定量の線量が得られるビーム制御装置、粒子線照射装置、およびこれらの制御方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく、第1の本発明に関わるビーム制御装置は、シンクロトロンを備え、前記シンクロトロンからのベータトロン振動の共鳴を用いた粒子線ビームの取り出しを行うためのビーム制御装置であって、前記シンクロトロン内の粒子線ビームのセパラトリクス生成のための共鳴の次数に対応した多極電磁石と、前記多極電磁石の磁場強度を、前記生成したセパラトリクス面積を所望の大きさに保ちながら、高く制御することによって、前記粒子線ビームのビームスピルリップルを所定量以下に低減するビーム制御手段とを備えている。
【0010】
第2の本発明に関わる粒子線照射装置は、第1の本発明のビーム制御装置を備えている。
【0011】
第3の本発明に関わるビーム制御装置の制御方法は、シンクロトロンと該シンクロトロン内の粒子線ビームを制御する機器の制御を担うビーム制御手段とを備え、前記シンクロトロンからのベータトロン振動の共鳴を用いた粒子線ビームの取り出しを行うためのビーム制御装置の制御方法であって、前記ビーム制御手段は、前記シンクロトロン内の粒子線ビームのセパラトリクス生成のための共鳴の次数に対応した多極電磁石の磁場強度を、セパラトリクス面積を所望の大きさに保ちながら、高く制御することによって、前記粒子線ビームのビームスピルリップルを所定量以下に低減している。
【0012】
第4の本発明に関わる粒子線照射装置の制御方法は、第3の本発明のビーム制御装置の制御方法を行う粒子線照射装置の制御方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低コストで、線量の揺らぎが防止され設定量の線量が得られるビーム制御装置、粒子線照射装置、およびこれらの制御方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に関わる実施形態の粒子線照射装置におけるビーム制御装置のシンクロトロンと出射輸送ラインを示す図である。
【図2】本実施形態を実施する場合のブロック図である。
【図3】セパラトリクス面積がS1からS2に縮小することを示す図である。
【図4】線形ベータトロン振動数と共鳴条件n/3(nは3の倍数を除く自然数)との差の絶対値を一定にした場合のセパラトリクス生成用六極電磁石の六極磁場強度とセパラトリクス面積の変化の関係を示す図である。
【図5】セパラトリクス面積がS2からS3に拡大することを示す図である。
【図6】線形ベータトロン振動数と共鳴条件n/3(nは3の倍数を除く自然数)との差の絶対値を上昇させた場合のセパラトリクス生成用六極電磁石の六極磁場強度とセパラトリクス面積の変化の関係を示す図である。
【図7】べータトロン振動の三次共鳴による遅い取り出しの手順を示すフロー図である。
【図8】べータトロン振動の三次共鳴による遅い取り出しを実施したことによる効果を示す図である。
【図9】従来の電源リップルによって位相空間上のセパラトリクス面積が大きく変動している様子を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1に、実施形態の粒子線照射装置Rにおけるビーム制御装置1のシンクロトロン2と出射輸送ライン19を示す。実際の粒子線照射装置Rには、図1に示す機器に加え、シンクロトロン2への入射ラインやRF(Radio Frequancy)加速空洞などがあるが、図1では割愛している。
【0016】
<粒子線照射装置R>
粒子線照射装置Rは、炭素イオン等の粒子線をスキャニング照射等で対象の患部に所定線量照射する装置である。
粒子線照射装置Rは、シンクロトロン2内の粒子線のビームを制御するビーム制御装置1を備えている。
【0017】
<粒子線照射装置Rにおけるビーム制御装置1のシンクロトロン2>
ビーム制御装置1のシンクロトロン2は、加速高周波の周期を粒子回転周期に同期させることにより、炭素の原子核等の荷電粒子を高エネルギまで加速する環状の装置である。シンクロトロン2は「加速器」に相当する。
【0018】
シンクロトロン2は、主要構成機器として、シンクロトロン2内を進む粒子線のビームを周回軌道に保つための偏向電磁石3と、周回軌道上における粒子線のビームの広がりを収束させる収束用四極電磁石4と、当該ビームの広がりを発散させる発散用四極電磁石5と、ベータトロン振動の三次共鳴を励起し、位相空間上で安定周回領域と共鳴領域を分割・形成するセパラトリクス生成用六極電磁石6と、照射量をモニタするシンクロトロン2のリング内のビームプロファイルモニタ7および出射輸送ライン19のビームプロファイルモニタ8と、粒子線のビームを出射輸送ライン19に向けて出射するためのデフレクタ電極9を備えている。なお、セパラトリクスとは、安定周回領域と共鳴領域の間のことである。
【0019】
粒子線照射装置Rの制御は、図示しない制御手段によって行われる。粒子線照射装置Rの制御手段は、ビーム制御装置1の粒子線のビームを制御する機器の制御を担うビーム制御手段を有している。
制御手段、ビーム制御手段は、コンピュータ、回路等で構成される。
【0020】
<シンクロトロン2からの粒子線の取り出し>
図1に示すシンクロトロン2内の周回軌道を周回している多数の粒子は、水平方向(図1の紙面に平行方向:X軸方向)又は鉛直方向(図1の紙面に垂直方向:Z軸方向)に振動しながら周回している。この振動をベータトロン振動といい、ベータトロン振動は、収束用四極電磁石4、発散用四極電磁石5などにより制御することができる。なお、Y軸方向とは、シンクロトロン2内を粒子線のビームが進行する方向(シンクロトロン2内の周回の接線方向)とし、X軸方向は水平面におけるY軸方向に垂直な方向とする。
【0021】
これら粒子がRF加速空洞(図示せず)によって加速され最大エネルギに達した後、シンクロトロン2内で周回している多数の粒子の一部を、粒子線のビームにRF−KO電極(図示せず)でRF−KO電圧による電場を印加することにより、デフレクタ電極9を用いて、治療室(照射室)において照射対象に取り出した粒子線を照射する照射装置(図示せず)に続く出射輸送ライン19へ向けて出射する。
具体的には、シンクロトロン2内の粒子線のビームをシンクロトロン2外の照射装置に続く出射輸送ライン19に向けて取り出すため、シンクロトロン2内の中心付近に分布する粒子線のビームに、周回軌道に対し垂直かつ水平方向にRF−KO電極で挟んでRF−KO電圧による電場を印加し、粒子線のビームサイズを水平方向に広げる。この粒子の出射は、シンクロトロン2内の周回軌道を進む粒子のベータトロン振動の共鳴を利用して行われる。
【0022】
詳細には、RF−KO電極は、出射輸送ライン19への取り出し前のシンクロトロン2の周回軌道を加速されて進むビームに対して、周回軌道に垂直かつ水平方向(図1の紙面に平行方向)に、ベータトロン振動に共鳴する周波数変調および振幅変調されたRF−KO電圧による電場を印加し、周回軌道を進む粒子線のビームの幅を広げることにより、粒子線のビームの一部をデフレクタ電極9の2枚の電極の中に入れる。デフレクタ電極9の2枚の電極の中にビームが入ると、デフレクタ電極9内の電場によって、粒子線のビームは外側に蹴りだされ、出射輸送ライン19に向けて取り出されていく。
なお、RF−KO電圧がオフのときには、この粒子のビームサイズの増加が止まるために、粒子線のビームがデフレクタ電極9から取り出されなくなるので、照射を止めることが可能となる。
【0023】
ここで、図9に示すセパラトリクスsの面積であるセパラトリクス面積Sの変化を抑制する。そのため、セパラトリクス面積Sを保ちながら、シンクロトロン2を周回する振動であるベータトロン振動の三次共鳴による粒子線の遅い取り出しにおいてセパラトリクス生成に用いられる共鳴の次数に対応した多極電磁石のセパラトリクス生成用六極電磁石6の磁場強度を高くなるようにビーム制御手段で制御する。
【0024】
これにより、従来と同量の電源リップルと比較して、セパラトリクス面積Sの変化(図9の面積増加ΔS1、面積減少ΔS2)を小さくする。しかし、セパラトリクス生成用六極電磁石6の磁場強度を高くした場合、セパラトリクス面積Sが小さくなる。
そこで、セパラトリクス面積Sを所定の大きさに保つため、セパラトリクス生成用六極電磁石6の磁場強度の増加に合わせて、ビーム制御手段により、収束用四極電磁石4と発散用四極電磁石5とのうちの少なくとも何れかの励磁量を変更して線形成分でのベータトロン振動数をm次(mはセパラトリクスs(図3参照)が何角形かに相当)の共鳴条件n/m(nはmの倍数を除く自然数)から離し、安定領域のセパラトリクス面積Sが大きくなるようにしている。
【0025】
例えば、ビーム制御手段により、収束用四極電磁石4の励磁量を上げて線形成分でのベータトロン振動数をm次の共鳴条件n/mから離し、安定領域のセパラトリクス面積Sを大きくする。
このように、粒子線のビームのセパラトリクス面積Sの変化(図9の面積増加ΔS1、面積減少ΔS2)を抑えることにより、それまでセパラトリクス面積Sの縮小により共鳴領域に取り出されていた粒子数(図9の面積増加ΔS1、面積減少ΔS2における粒子数)を減らすことができ、結果として、電源リップルによるビームスピルリップルを低減することができる。
【0026】
<ビーム制御装置1のシンクロトロン2からの粒子線の遅い取り出しの作用(現象)>
図2では、べータトロン振動の三次共鳴による粒子線の遅い取り出しを例にとり、本実施形態を実施する場合のブロック図を示す。
図3は、セパラトリクスsのセパラトリクス面積SがS1からS2に縮小することを示す図である。ここで、X´とは、ビームの進行方向をYとしたときのdX/dYであり、ビーム進行方向に対する粒子の角度である。なお、後記の図5、図8も同様である。
図2の(1)で、シンクロトロン2内のセパラトリクス生成用六極電磁石6(図1参照)の磁場強度のみをビーム制御手段で上げると、図3に示すように、セパラトリクスsのセパラトリクス面積SがS1(図3の破線で示す)からS2(図3の実線で示す)に縮小してしまう。
【0027】
図4は、線形ベータトロン振動数を一定にした場合のセパラトリクス生成用六極電磁石6の六極磁場強度とセパラトリクス面積Sの変化の関係を示す図である。図4は、横軸にセパラトリクス生成用六極電磁石6の六極磁場強度をとり、縦軸にセパラトリクス面積S、線形ベータトロン振動数と共鳴条件n/3(nは3の倍数を除く自然数)との差の絶対値をとっている。
図4に示すように、線形ベータトロン振動数を一定にし、セパラトリクス生成用六極電磁石6の六極磁場強度をビーム制御手段により上げた場合、セパラトリクス面積Sが減少することが分る。
【0028】
そのため、図2の(2)で、シンクロトロン2のリング内にあるビームプロファイルモニタ7、または、出射輸送ライン19にあるビームプロファイルモニタ8のどちらかないしは両方を用いて線量を測定する。
そして、図2の(3)で、測定する線量が所定量となるセパラトリクス面積Sを保つように、収束用四極電磁石4と発散用四極電磁石5とのうちの少なくとも何れかの励磁量をビーム制御手段で変更して、線形ベータトロン振動数を共鳴条件n/3(nは3の倍数を除く自然数)から離すことにより、図5に示すように、セパラトリクス面積S2をセパラトリクス面積S3に拡大する。図5は、セパラトリクスsのセパラトリクス面積SがS2からS3に拡大することを示す図である。
【0029】
その後、図2の(4)で、線量の揺らぎを測定し、線量の揺らぎが所定量を超える場合、図2の(1)に移行する。
ビーム制御手段により、シンクロトロン2内の粒子線のビームの線量の揺らぎが所定量以内、かつ、セパラトリクス面積Sが所望の大きさになるまで、図2に示す制御が行われる。
図6は、線形ベータトロン振動数と共鳴条件n/3(nは3の倍数を除く自然数)との差の絶対値を上昇させた場合のセパラトリクス生成用六極電磁石6の六極磁場強度とセパラトリクス面積Sの変化の関係を示す図である。図6は、横軸にセパラトリクス生成用六極電磁石6の六極磁場強度をとり、縦軸にセパラトリクス面積S、は線形ベータトロン振動数と共鳴条件n/3(nは3の倍数を除く自然数)との差の絶対値をとっている。
【0030】
図6に示すように、線形ベータトロン振動数と共鳴条件n/3(nは3の倍数を除く自然数)との差の絶対値を上昇させた場合、セパラトリクス生成用六極電磁石6の六極磁場強度をビーム制御手段で上げても、セパラトリクス面積Sの大きさが維持されることが分かる。
上述の現象を定性的に説明する。
粒子線のビームのセパラトリクスsは、粒子線のビームがシンクロトロン2を周回する際の線形ベータトロン振動数と共鳴条件n/mとの差の絶対値が大きいほど、セパラトリクス面積S(図8参照)が大きくなる。また、摂動として用いられるセパラトリクス生成用六極電磁石6の多極磁場強度が大きいほど、セパラトリクス面積S(図8参照)が小さくなる。商用周波数(50Hzまたは60Hz)の電源リップルは、線形ベータトロン振動数とセパラトリクス生成用六極電磁石6の多極磁場強度を変化させてしまうので、セパラトリクス面積Sも変化してしまう。
【0031】
そこで、セパラトリクス面積Sを保ったまま、線形ベータトロン振動数と共鳴条件n/mとの差の絶対値(A)とセパラトリクス生成用六極電磁石6の多極磁場強度(B)とのどちらも大きくしている状態の方が、同じ量だけ電源リップルにより線形ベータトロン振動数と共鳴条件n/mとの差の絶対値(A)とセパラトリクス生成用六極電磁石6の多極磁場強度(B)が変化(変化分ΔA、ΔB)しても、ΔA/A、ΔB/B がそれぞれ小さくなるので電源リップルの影響を小さくできる。
【0032】
<べータトロン振動の三次共鳴による遅い取り出しの手順>
次に、べータトロン振動の三次共鳴による遅い取り出しの手順について、図7に従って説明する。図7は、べータトロン振動の三次共鳴による遅い取り出しの手順を示すフロー図である。
なお、以下のビーム制御装置1の制御は、前記したビーム制御手段によって行われる。また、以下のフローでは、粒子線のビームの揺らぎを所定量内にし、かつ、粒子線のビームのセパラトリクス面積Sを所定の大きさにする制御を説明する。
【0033】
まず、図7のS101で、所望の線量になるようにセパラトリクス生成用六極電磁石6の磁場強度を設定する。続いて、図1に示すシンクロトロン2のリング内にあるビームプロファイルモニタ7、または、出射輸送ライン19にあるビームプロファイルモニタ8のどちらかないしは両方を用いて線量を測定する(S102)。そして、測定した線量を基に、セパラトリクス面積Sを演算する(S103)。
【0034】
続いて、測定した粒子線のビームの線量の電源リップル周波数成分等による揺らぎが所定量内、かつ、セパラトリクス面積Sが所定の大きさか否か判定する(S104)。
測定した粒子線のビームの線量の揺らぎが所定量内、かつ、セパラトリクス面積Sが所定の大きさの場合(S104でYes)、終了する。
測定した粒子線のビームの線量の揺らぎが所定量内、かつ、セパラトリクス面積Sが所定の大きさでない場合(S104でNo)、S105で、測定した粒子線のビームの線量の揺らぎ(図9のセパラトリクスsの面積増加ΔS1、面積減少ΔS2)が所定量内であるか否か判定する(S105)。
【0035】
測定した粒子線のビームの線量の揺らぎが所定量内でない場合(S105でNo)、セパラトリクス生成用六極電磁石6の磁場強度を増加させる。これにより、図3に示すように、セパラトリクスsのセパラトリクス面積SがS1からS2に縮小する(S106)。その後、S102に移行する。
【0036】
一方、S105で、測定した粒子線のビームの線量の揺らぎが所定量内であると判定された場合(S105でYes)、セパラトリクス面積Sが所定の大きさでないので、収束用四極電磁石4または発散用四極電磁石5のうちの少なくとも何れかの励磁量を変更してセパラトリクス面積Sが所定の大きさになるように調整する。例えば、セパラトリクス面積Sが所望の大きさより小さい場合、線形ベータトロン振動数を共鳴条件n/3(nは3の倍数を除く自然数)から離すことにより、図5に示すように、セパラトリクス面積S2をセパラトリクス面積S3に拡大する。その後、S102に移行する。
以上が、図7に示すべータトロン振動の三次共鳴による遅い取り出しの手順である。
【0037】
図8に、上述のべータトロン振動の三次共鳴による遅い取り出しを実施したことによる効果を示す。
図8に示すように、従来の図9に示す同量の電源リップル(図9のセパラトリクス面積Sの面積増加ΔS1、面積減少ΔS2に相当)に対して、セパラトリクス面積Sの変動量が小さくなる。そのため、セパラトリクス面積Sの変化によって共鳴領域に取り出される粒子が存在する領域(図9の破線で囲まれた領域ΔS1、ΔS2)を小さくできる。その結果、出射されるビームスピルリップルに現れる電源リップル周波数成分を抑えることができる。
【0038】
上記構成によれば、リング内電磁石の電源リップルによるビームヘの影響自体を、電源に摂動等を加えること無しに抑えられ、コストが低い。
また、粒子線治療のスキャニング照射などで求められるような、低リップルで一定の出射ビーム強度(照射線量率)が供給可能となる。さらに、日々の電流パターンの調整も不要であり、再現性が高く、実用的に非常に優れている。
【0039】
なお、前記実施形態では、ベータトロン振動の三次共鳴と六極電磁石を用いた粒子線の遅い取り出しを例示したが、ベータトロン振動の二次共鳴と八極電磁石、または、四次共鳴と八極電磁石など、共鳴の次数に対応していれば、別の多極電磁石との組み合わせでもよい。
【0040】
また、本発明は、RF−KO電極を用いた遅い取り出しに限るものでない。例えば、四重極電磁石励磁電流変更によるベータトロン振動数制御を用いたビーム強度制御装置(ビーム制御装置)、及びビームエネルギ変更によるベータトロン振動数制御手法を用いたビーム強度制御装置(ビーム制御装置)であってもよい。または、ビームエネルギを変化させることができる誘導加速装置または高周波加速装置などのビーム加速装置(ビーム制御装置)であってもよい。
【0041】
また、四重極電磁石励磁電流変更によるベータトロン振動数制御手法を用いたビーム強度制御装置(ビーム制御装置)において、四重極電磁石の電源を制御することで、励磁電流を変化させてもよい。四重極電磁石は、一般にシンクロトロン中に複数設けられているが、少なくともその一つを制御することでも効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 ビーム制御装置
2 シンクロトロン
4 収束用四極電磁石(収束用電磁石、機器)
5 発散用四極電磁石(発散用電磁石、機器)
6 セパラトリクス生成用六極電磁石(多極電磁石、機器)
R 粒子線照射装置
s セパラトリクス
S セパラトリクス面積
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速器科学に係り、より詳細には所望量の線量が得られるビーム制御装置、粒子線照射装置、およびこれらの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粒子線がん治療においては、シンクロトロン内に設置されているRF−KO電極に印加するRF−KO電圧を、調整することにより、シンクロトロンから取り出される出射ビーム強度を制御している(特許文献1)。
シンクロトロンにおける電磁石には、商用周波数に起因した周波数がその整流等の過程により電源リップルとして現れる。例えば、シンクロトロンから何周かする間に分けて取り出すビームの遅い取り出し(非特許文献1)によるビームスピルには、商用周波数と等しい50Hzまたは60Hzとその倍数の周波数リップルが現れる。
【0003】
シンクロトロンのリング内の電磁石の電源リップルによる磁場の揺れが、ベータトロン振動の共鳴の次数に対応した多極磁場の摂動により生成されるセパラトリクス面積の変化を引き起こす。そのため、セパラトリクス近傍に存在する粒子は、そのセパラトリクス面積の縮小によって共鳴領域に取り出される。
【0004】
図9は、従来の電源リップルによって位相空間上のセパラトリクス面積Sが大きく変動している様子を表す図である。ここで、X´とは、ビームの進行方向をYとしたときのdX/dYであり、ビーム進行方向に対する粒子の角度である。
図9に示すように、セパラトリクス面積Sの変化である面積増加ΔS1や、面積減少ΔS2が電源リップル周波数に応じて起こるため、結果として、シンクロトロンからの出射ビームにも電源リップル周波数成分が現れるのである。セパラトリクスsの近傍の斜線部に存在する粒子は、セパラトリクス面積Sの変化(面積増加ΔS1、面積減少ΔS2)によって共鳴領域に取り出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−198397号公報
【特許文献2】特開平8−203700号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】E. Wilson, “Non-Linearities and Resonances”, CERN 94-01 v 1 (1994) pp. 239.
【非特許文献2】Takuji Furukawa, et al., “Design study of a raster scanning system for movingtarget irradiation in heavy-ion radiotherapy”, Medical Physics 34 (2007) pp.1085-1097.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、粒子線治療のスキャニング照射(非特許文献2)などでは、一定の出射ビーム強度(照射線量率)が求められる。
そのため、大きなビームスピルリップルは線量制御外のスポット移動中での治療計画外超過線量付与を生むため可能な限り避けられるべきである。
そこで、特許文献2には、シンクロトロン内電磁石の電源リップルが原因であるビームスピルリップルを抑えるために、四極電磁石の電流パターンに電源リップルの影響を打ち消す効果がある高周波成分を、取り出し区間のみ重畳して摂動する方法が記載されている。
【0008】
具体的には、特許文献2は、シンクロトロンのリング内電磁石の電源リップルの影響を打ち消すように四極電磁石電源に摂動を加える。
しかし、この方法ではシステムとして複雑であり、また、僅かなリップルの周波数、位相のずれにも弱いという欠点がある。また、実用化するためには日々毎に、それら電流パターンの洞察が必要であるという問題もある。
本発明は上記実状に鑑み、低コストで、線量の揺らぎが防止され設定量の線量が得られるビーム制御装置、粒子線照射装置、およびこれらの制御方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく、第1の本発明に関わるビーム制御装置は、シンクロトロンを備え、前記シンクロトロンからのベータトロン振動の共鳴を用いた粒子線ビームの取り出しを行うためのビーム制御装置であって、前記シンクロトロン内の粒子線ビームのセパラトリクス生成のための共鳴の次数に対応した多極電磁石と、前記多極電磁石の磁場強度を、前記生成したセパラトリクス面積を所望の大きさに保ちながら、高く制御することによって、前記粒子線ビームのビームスピルリップルを所定量以下に低減するビーム制御手段とを備えている。
【0010】
第2の本発明に関わる粒子線照射装置は、第1の本発明のビーム制御装置を備えている。
【0011】
第3の本発明に関わるビーム制御装置の制御方法は、シンクロトロンと該シンクロトロン内の粒子線ビームを制御する機器の制御を担うビーム制御手段とを備え、前記シンクロトロンからのベータトロン振動の共鳴を用いた粒子線ビームの取り出しを行うためのビーム制御装置の制御方法であって、前記ビーム制御手段は、前記シンクロトロン内の粒子線ビームのセパラトリクス生成のための共鳴の次数に対応した多極電磁石の磁場強度を、セパラトリクス面積を所望の大きさに保ちながら、高く制御することによって、前記粒子線ビームのビームスピルリップルを所定量以下に低減している。
【0012】
第4の本発明に関わる粒子線照射装置の制御方法は、第3の本発明のビーム制御装置の制御方法を行う粒子線照射装置の制御方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低コストで、線量の揺らぎが防止され設定量の線量が得られるビーム制御装置、粒子線照射装置、およびこれらの制御方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に関わる実施形態の粒子線照射装置におけるビーム制御装置のシンクロトロンと出射輸送ラインを示す図である。
【図2】本実施形態を実施する場合のブロック図である。
【図3】セパラトリクス面積がS1からS2に縮小することを示す図である。
【図4】線形ベータトロン振動数と共鳴条件n/3(nは3の倍数を除く自然数)との差の絶対値を一定にした場合のセパラトリクス生成用六極電磁石の六極磁場強度とセパラトリクス面積の変化の関係を示す図である。
【図5】セパラトリクス面積がS2からS3に拡大することを示す図である。
【図6】線形ベータトロン振動数と共鳴条件n/3(nは3の倍数を除く自然数)との差の絶対値を上昇させた場合のセパラトリクス生成用六極電磁石の六極磁場強度とセパラトリクス面積の変化の関係を示す図である。
【図7】べータトロン振動の三次共鳴による遅い取り出しの手順を示すフロー図である。
【図8】べータトロン振動の三次共鳴による遅い取り出しを実施したことによる効果を示す図である。
【図9】従来の電源リップルによって位相空間上のセパラトリクス面積が大きく変動している様子を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1に、実施形態の粒子線照射装置Rにおけるビーム制御装置1のシンクロトロン2と出射輸送ライン19を示す。実際の粒子線照射装置Rには、図1に示す機器に加え、シンクロトロン2への入射ラインやRF(Radio Frequancy)加速空洞などがあるが、図1では割愛している。
【0016】
<粒子線照射装置R>
粒子線照射装置Rは、炭素イオン等の粒子線をスキャニング照射等で対象の患部に所定線量照射する装置である。
粒子線照射装置Rは、シンクロトロン2内の粒子線のビームを制御するビーム制御装置1を備えている。
【0017】
<粒子線照射装置Rにおけるビーム制御装置1のシンクロトロン2>
ビーム制御装置1のシンクロトロン2は、加速高周波の周期を粒子回転周期に同期させることにより、炭素の原子核等の荷電粒子を高エネルギまで加速する環状の装置である。シンクロトロン2は「加速器」に相当する。
【0018】
シンクロトロン2は、主要構成機器として、シンクロトロン2内を進む粒子線のビームを周回軌道に保つための偏向電磁石3と、周回軌道上における粒子線のビームの広がりを収束させる収束用四極電磁石4と、当該ビームの広がりを発散させる発散用四極電磁石5と、ベータトロン振動の三次共鳴を励起し、位相空間上で安定周回領域と共鳴領域を分割・形成するセパラトリクス生成用六極電磁石6と、照射量をモニタするシンクロトロン2のリング内のビームプロファイルモニタ7および出射輸送ライン19のビームプロファイルモニタ8と、粒子線のビームを出射輸送ライン19に向けて出射するためのデフレクタ電極9を備えている。なお、セパラトリクスとは、安定周回領域と共鳴領域の間のことである。
【0019】
粒子線照射装置Rの制御は、図示しない制御手段によって行われる。粒子線照射装置Rの制御手段は、ビーム制御装置1の粒子線のビームを制御する機器の制御を担うビーム制御手段を有している。
制御手段、ビーム制御手段は、コンピュータ、回路等で構成される。
【0020】
<シンクロトロン2からの粒子線の取り出し>
図1に示すシンクロトロン2内の周回軌道を周回している多数の粒子は、水平方向(図1の紙面に平行方向:X軸方向)又は鉛直方向(図1の紙面に垂直方向:Z軸方向)に振動しながら周回している。この振動をベータトロン振動といい、ベータトロン振動は、収束用四極電磁石4、発散用四極電磁石5などにより制御することができる。なお、Y軸方向とは、シンクロトロン2内を粒子線のビームが進行する方向(シンクロトロン2内の周回の接線方向)とし、X軸方向は水平面におけるY軸方向に垂直な方向とする。
【0021】
これら粒子がRF加速空洞(図示せず)によって加速され最大エネルギに達した後、シンクロトロン2内で周回している多数の粒子の一部を、粒子線のビームにRF−KO電極(図示せず)でRF−KO電圧による電場を印加することにより、デフレクタ電極9を用いて、治療室(照射室)において照射対象に取り出した粒子線を照射する照射装置(図示せず)に続く出射輸送ライン19へ向けて出射する。
具体的には、シンクロトロン2内の粒子線のビームをシンクロトロン2外の照射装置に続く出射輸送ライン19に向けて取り出すため、シンクロトロン2内の中心付近に分布する粒子線のビームに、周回軌道に対し垂直かつ水平方向にRF−KO電極で挟んでRF−KO電圧による電場を印加し、粒子線のビームサイズを水平方向に広げる。この粒子の出射は、シンクロトロン2内の周回軌道を進む粒子のベータトロン振動の共鳴を利用して行われる。
【0022】
詳細には、RF−KO電極は、出射輸送ライン19への取り出し前のシンクロトロン2の周回軌道を加速されて進むビームに対して、周回軌道に垂直かつ水平方向(図1の紙面に平行方向)に、ベータトロン振動に共鳴する周波数変調および振幅変調されたRF−KO電圧による電場を印加し、周回軌道を進む粒子線のビームの幅を広げることにより、粒子線のビームの一部をデフレクタ電極9の2枚の電極の中に入れる。デフレクタ電極9の2枚の電極の中にビームが入ると、デフレクタ電極9内の電場によって、粒子線のビームは外側に蹴りだされ、出射輸送ライン19に向けて取り出されていく。
なお、RF−KO電圧がオフのときには、この粒子のビームサイズの増加が止まるために、粒子線のビームがデフレクタ電極9から取り出されなくなるので、照射を止めることが可能となる。
【0023】
ここで、図9に示すセパラトリクスsの面積であるセパラトリクス面積Sの変化を抑制する。そのため、セパラトリクス面積Sを保ちながら、シンクロトロン2を周回する振動であるベータトロン振動の三次共鳴による粒子線の遅い取り出しにおいてセパラトリクス生成に用いられる共鳴の次数に対応した多極電磁石のセパラトリクス生成用六極電磁石6の磁場強度を高くなるようにビーム制御手段で制御する。
【0024】
これにより、従来と同量の電源リップルと比較して、セパラトリクス面積Sの変化(図9の面積増加ΔS1、面積減少ΔS2)を小さくする。しかし、セパラトリクス生成用六極電磁石6の磁場強度を高くした場合、セパラトリクス面積Sが小さくなる。
そこで、セパラトリクス面積Sを所定の大きさに保つため、セパラトリクス生成用六極電磁石6の磁場強度の増加に合わせて、ビーム制御手段により、収束用四極電磁石4と発散用四極電磁石5とのうちの少なくとも何れかの励磁量を変更して線形成分でのベータトロン振動数をm次(mはセパラトリクスs(図3参照)が何角形かに相当)の共鳴条件n/m(nはmの倍数を除く自然数)から離し、安定領域のセパラトリクス面積Sが大きくなるようにしている。
【0025】
例えば、ビーム制御手段により、収束用四極電磁石4の励磁量を上げて線形成分でのベータトロン振動数をm次の共鳴条件n/mから離し、安定領域のセパラトリクス面積Sを大きくする。
このように、粒子線のビームのセパラトリクス面積Sの変化(図9の面積増加ΔS1、面積減少ΔS2)を抑えることにより、それまでセパラトリクス面積Sの縮小により共鳴領域に取り出されていた粒子数(図9の面積増加ΔS1、面積減少ΔS2における粒子数)を減らすことができ、結果として、電源リップルによるビームスピルリップルを低減することができる。
【0026】
<ビーム制御装置1のシンクロトロン2からの粒子線の遅い取り出しの作用(現象)>
図2では、べータトロン振動の三次共鳴による粒子線の遅い取り出しを例にとり、本実施形態を実施する場合のブロック図を示す。
図3は、セパラトリクスsのセパラトリクス面積SがS1からS2に縮小することを示す図である。ここで、X´とは、ビームの進行方向をYとしたときのdX/dYであり、ビーム進行方向に対する粒子の角度である。なお、後記の図5、図8も同様である。
図2の(1)で、シンクロトロン2内のセパラトリクス生成用六極電磁石6(図1参照)の磁場強度のみをビーム制御手段で上げると、図3に示すように、セパラトリクスsのセパラトリクス面積SがS1(図3の破線で示す)からS2(図3の実線で示す)に縮小してしまう。
【0027】
図4は、線形ベータトロン振動数を一定にした場合のセパラトリクス生成用六極電磁石6の六極磁場強度とセパラトリクス面積Sの変化の関係を示す図である。図4は、横軸にセパラトリクス生成用六極電磁石6の六極磁場強度をとり、縦軸にセパラトリクス面積S、線形ベータトロン振動数と共鳴条件n/3(nは3の倍数を除く自然数)との差の絶対値をとっている。
図4に示すように、線形ベータトロン振動数を一定にし、セパラトリクス生成用六極電磁石6の六極磁場強度をビーム制御手段により上げた場合、セパラトリクス面積Sが減少することが分る。
【0028】
そのため、図2の(2)で、シンクロトロン2のリング内にあるビームプロファイルモニタ7、または、出射輸送ライン19にあるビームプロファイルモニタ8のどちらかないしは両方を用いて線量を測定する。
そして、図2の(3)で、測定する線量が所定量となるセパラトリクス面積Sを保つように、収束用四極電磁石4と発散用四極電磁石5とのうちの少なくとも何れかの励磁量をビーム制御手段で変更して、線形ベータトロン振動数を共鳴条件n/3(nは3の倍数を除く自然数)から離すことにより、図5に示すように、セパラトリクス面積S2をセパラトリクス面積S3に拡大する。図5は、セパラトリクスsのセパラトリクス面積SがS2からS3に拡大することを示す図である。
【0029】
その後、図2の(4)で、線量の揺らぎを測定し、線量の揺らぎが所定量を超える場合、図2の(1)に移行する。
ビーム制御手段により、シンクロトロン2内の粒子線のビームの線量の揺らぎが所定量以内、かつ、セパラトリクス面積Sが所望の大きさになるまで、図2に示す制御が行われる。
図6は、線形ベータトロン振動数と共鳴条件n/3(nは3の倍数を除く自然数)との差の絶対値を上昇させた場合のセパラトリクス生成用六極電磁石6の六極磁場強度とセパラトリクス面積Sの変化の関係を示す図である。図6は、横軸にセパラトリクス生成用六極電磁石6の六極磁場強度をとり、縦軸にセパラトリクス面積S、は線形ベータトロン振動数と共鳴条件n/3(nは3の倍数を除く自然数)との差の絶対値をとっている。
【0030】
図6に示すように、線形ベータトロン振動数と共鳴条件n/3(nは3の倍数を除く自然数)との差の絶対値を上昇させた場合、セパラトリクス生成用六極電磁石6の六極磁場強度をビーム制御手段で上げても、セパラトリクス面積Sの大きさが維持されることが分かる。
上述の現象を定性的に説明する。
粒子線のビームのセパラトリクスsは、粒子線のビームがシンクロトロン2を周回する際の線形ベータトロン振動数と共鳴条件n/mとの差の絶対値が大きいほど、セパラトリクス面積S(図8参照)が大きくなる。また、摂動として用いられるセパラトリクス生成用六極電磁石6の多極磁場強度が大きいほど、セパラトリクス面積S(図8参照)が小さくなる。商用周波数(50Hzまたは60Hz)の電源リップルは、線形ベータトロン振動数とセパラトリクス生成用六極電磁石6の多極磁場強度を変化させてしまうので、セパラトリクス面積Sも変化してしまう。
【0031】
そこで、セパラトリクス面積Sを保ったまま、線形ベータトロン振動数と共鳴条件n/mとの差の絶対値(A)とセパラトリクス生成用六極電磁石6の多極磁場強度(B)とのどちらも大きくしている状態の方が、同じ量だけ電源リップルにより線形ベータトロン振動数と共鳴条件n/mとの差の絶対値(A)とセパラトリクス生成用六極電磁石6の多極磁場強度(B)が変化(変化分ΔA、ΔB)しても、ΔA/A、ΔB/B がそれぞれ小さくなるので電源リップルの影響を小さくできる。
【0032】
<べータトロン振動の三次共鳴による遅い取り出しの手順>
次に、べータトロン振動の三次共鳴による遅い取り出しの手順について、図7に従って説明する。図7は、べータトロン振動の三次共鳴による遅い取り出しの手順を示すフロー図である。
なお、以下のビーム制御装置1の制御は、前記したビーム制御手段によって行われる。また、以下のフローでは、粒子線のビームの揺らぎを所定量内にし、かつ、粒子線のビームのセパラトリクス面積Sを所定の大きさにする制御を説明する。
【0033】
まず、図7のS101で、所望の線量になるようにセパラトリクス生成用六極電磁石6の磁場強度を設定する。続いて、図1に示すシンクロトロン2のリング内にあるビームプロファイルモニタ7、または、出射輸送ライン19にあるビームプロファイルモニタ8のどちらかないしは両方を用いて線量を測定する(S102)。そして、測定した線量を基に、セパラトリクス面積Sを演算する(S103)。
【0034】
続いて、測定した粒子線のビームの線量の電源リップル周波数成分等による揺らぎが所定量内、かつ、セパラトリクス面積Sが所定の大きさか否か判定する(S104)。
測定した粒子線のビームの線量の揺らぎが所定量内、かつ、セパラトリクス面積Sが所定の大きさの場合(S104でYes)、終了する。
測定した粒子線のビームの線量の揺らぎが所定量内、かつ、セパラトリクス面積Sが所定の大きさでない場合(S104でNo)、S105で、測定した粒子線のビームの線量の揺らぎ(図9のセパラトリクスsの面積増加ΔS1、面積減少ΔS2)が所定量内であるか否か判定する(S105)。
【0035】
測定した粒子線のビームの線量の揺らぎが所定量内でない場合(S105でNo)、セパラトリクス生成用六極電磁石6の磁場強度を増加させる。これにより、図3に示すように、セパラトリクスsのセパラトリクス面積SがS1からS2に縮小する(S106)。その後、S102に移行する。
【0036】
一方、S105で、測定した粒子線のビームの線量の揺らぎが所定量内であると判定された場合(S105でYes)、セパラトリクス面積Sが所定の大きさでないので、収束用四極電磁石4または発散用四極電磁石5のうちの少なくとも何れかの励磁量を変更してセパラトリクス面積Sが所定の大きさになるように調整する。例えば、セパラトリクス面積Sが所望の大きさより小さい場合、線形ベータトロン振動数を共鳴条件n/3(nは3の倍数を除く自然数)から離すことにより、図5に示すように、セパラトリクス面積S2をセパラトリクス面積S3に拡大する。その後、S102に移行する。
以上が、図7に示すべータトロン振動の三次共鳴による遅い取り出しの手順である。
【0037】
図8に、上述のべータトロン振動の三次共鳴による遅い取り出しを実施したことによる効果を示す。
図8に示すように、従来の図9に示す同量の電源リップル(図9のセパラトリクス面積Sの面積増加ΔS1、面積減少ΔS2に相当)に対して、セパラトリクス面積Sの変動量が小さくなる。そのため、セパラトリクス面積Sの変化によって共鳴領域に取り出される粒子が存在する領域(図9の破線で囲まれた領域ΔS1、ΔS2)を小さくできる。その結果、出射されるビームスピルリップルに現れる電源リップル周波数成分を抑えることができる。
【0038】
上記構成によれば、リング内電磁石の電源リップルによるビームヘの影響自体を、電源に摂動等を加えること無しに抑えられ、コストが低い。
また、粒子線治療のスキャニング照射などで求められるような、低リップルで一定の出射ビーム強度(照射線量率)が供給可能となる。さらに、日々の電流パターンの調整も不要であり、再現性が高く、実用的に非常に優れている。
【0039】
なお、前記実施形態では、ベータトロン振動の三次共鳴と六極電磁石を用いた粒子線の遅い取り出しを例示したが、ベータトロン振動の二次共鳴と八極電磁石、または、四次共鳴と八極電磁石など、共鳴の次数に対応していれば、別の多極電磁石との組み合わせでもよい。
【0040】
また、本発明は、RF−KO電極を用いた遅い取り出しに限るものでない。例えば、四重極電磁石励磁電流変更によるベータトロン振動数制御を用いたビーム強度制御装置(ビーム制御装置)、及びビームエネルギ変更によるベータトロン振動数制御手法を用いたビーム強度制御装置(ビーム制御装置)であってもよい。または、ビームエネルギを変化させることができる誘導加速装置または高周波加速装置などのビーム加速装置(ビーム制御装置)であってもよい。
【0041】
また、四重極電磁石励磁電流変更によるベータトロン振動数制御手法を用いたビーム強度制御装置(ビーム制御装置)において、四重極電磁石の電源を制御することで、励磁電流を変化させてもよい。四重極電磁石は、一般にシンクロトロン中に複数設けられているが、少なくともその一つを制御することでも効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 ビーム制御装置
2 シンクロトロン
4 収束用四極電磁石(収束用電磁石、機器)
5 発散用四極電磁石(発散用電磁石、機器)
6 セパラトリクス生成用六極電磁石(多極電磁石、機器)
R 粒子線照射装置
s セパラトリクス
S セパラトリクス面積
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンクロトロンを備え、前記シンクロトロンからのベータトロン振動の共鳴を用いた粒子線ビームの取り出しを行うためのビーム制御装置であって、
前記シンクロトロン内の粒子線ビームのセパラトリクス生成のための共鳴の次数に対応した多極電磁石と、
前記多極電磁石の磁場強度を、前記生成したセパラトリクス面積を所望の大きさに保ちながら、高く制御することによって、前記粒子線ビームのビームスピルリップルを所定量以下に低減するビーム制御手段とを
備えること特徴とするビーム制御装置。
【請求項2】
前記シンクロトロンは、前記粒子線ビームを収束させる収束用四極電磁石と前記粒子線ビームを発散させる発散用四極電磁石とを備え、
前記ビーム制御手段は、前記セパラトリクス面積を、前記収束用四極電磁石と前記発散用四極電磁石とのうちの少なくとも何れかの励磁量を変更して線形ベータトロン振動数を共鳴条件から離すことにより、前記所望の大きさに保つ
こと特徴とする請求項1記載のビーム制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のビーム制御装置を備える粒子線照射装置。
【請求項4】
シンクロトロンと該シンクロトロン内の粒子線ビームを制御する機器の制御を担うビーム制御手段とを備え、前記シンクロトロンからのベータトロン振動の共鳴を用いた粒子線ビームの取り出しを行うためのビーム制御装置の制御方法であって、
前記ビーム制御手段は、前記シンクロトロン内の粒子線ビームのセパラトリクス生成のための共鳴の次数に対応した多極電磁石の磁場強度を、セパラトリクス面積を所望の大きさに保ちながら、高く制御することによって、前記粒子線ビームのビームスピルリップルを所定量以下に低減する
こと特徴とするビーム制御装置の制御方法。
【請求項5】
前記シンクロトロンは、前記粒子線ビームを収束させる収束用四極電磁石と前記粒子線ビームを発散させる発散用四極電磁石とを備え、
前記ビーム制御手段は、前記セパラトリクス面積を、前記収束用四極電磁石と前記発散用四極電磁石とのうちの少なくとも何れかの励磁量を変更して線形ベータトロン振動数を共鳴条件から離すことにより、前記所望の大きさに保つ
こと特徴とする請求項4記載のビーム制御装置の制御方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5記載のビーム制御装置の制御方法を行う粒子線照射装置の制御方法。
【請求項1】
シンクロトロンを備え、前記シンクロトロンからのベータトロン振動の共鳴を用いた粒子線ビームの取り出しを行うためのビーム制御装置であって、
前記シンクロトロン内の粒子線ビームのセパラトリクス生成のための共鳴の次数に対応した多極電磁石と、
前記多極電磁石の磁場強度を、前記生成したセパラトリクス面積を所望の大きさに保ちながら、高く制御することによって、前記粒子線ビームのビームスピルリップルを所定量以下に低減するビーム制御手段とを
備えること特徴とするビーム制御装置。
【請求項2】
前記シンクロトロンは、前記粒子線ビームを収束させる収束用四極電磁石と前記粒子線ビームを発散させる発散用四極電磁石とを備え、
前記ビーム制御手段は、前記セパラトリクス面積を、前記収束用四極電磁石と前記発散用四極電磁石とのうちの少なくとも何れかの励磁量を変更して線形ベータトロン振動数を共鳴条件から離すことにより、前記所望の大きさに保つ
こと特徴とする請求項1記載のビーム制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のビーム制御装置を備える粒子線照射装置。
【請求項4】
シンクロトロンと該シンクロトロン内の粒子線ビームを制御する機器の制御を担うビーム制御手段とを備え、前記シンクロトロンからのベータトロン振動の共鳴を用いた粒子線ビームの取り出しを行うためのビーム制御装置の制御方法であって、
前記ビーム制御手段は、前記シンクロトロン内の粒子線ビームのセパラトリクス生成のための共鳴の次数に対応した多極電磁石の磁場強度を、セパラトリクス面積を所望の大きさに保ちながら、高く制御することによって、前記粒子線ビームのビームスピルリップルを所定量以下に低減する
こと特徴とするビーム制御装置の制御方法。
【請求項5】
前記シンクロトロンは、前記粒子線ビームを収束させる収束用四極電磁石と前記粒子線ビームを発散させる発散用四極電磁石とを備え、
前記ビーム制御手段は、前記セパラトリクス面積を、前記収束用四極電磁石と前記発散用四極電磁石とのうちの少なくとも何れかの励磁量を変更して線形ベータトロン振動数を共鳴条件から離すことにより、前記所望の大きさに保つ
こと特徴とする請求項4記載のビーム制御装置の制御方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5記載のビーム制御装置の制御方法を行う粒子線照射装置の制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2011−233475(P2011−233475A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105386(P2010−105386)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【Fターム(参考)】
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