説明

ビール風味飲料用風味改善剤

【課題】
ビ−ルまたはビール風味飲料に添加することにより、これらの飲料におけるビール本来のコク味、甘味、うま味などを改善、付与または増強し、さらに適度なロースト感を与え、すっきり感を増すことにより嗜好性が高められたビール風味飲料用風味改善剤を提供すること。
【解決手段】
焙煎穀物を、第1段目の工程として水蒸気蒸留法により香気を回収し、第2段目の工程として残渣を糖質分解酵素処理して酵素処理エキスを得、第3段目の工程として第2段目の工程で得られた酵素処理エキスと第1段目の工程で得られた回収香を混合することを特徴とするビール風味飲料用風味改善剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビール、発泡酒、または、いわゆる第三のビ−ルなどのビール風味飲料に添加して、そのコク味、甘味、うま味、ロースト感およびすっきり感などを改善するための香味改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールは爽快な炭酸感、切れの良い苦味などにより喉の渇きを癒すと共に、適度のアルコール濃度により酔いをもたらし、夏の暑い時期はもちろんのこと、冬の寒い時期においても飲酒の機会においては「とりあえず」とか「まず初めの一杯・・・」などの言い回しに表されるように、季節を問わず、世界中で愛飲されているアルコール飲料である。
【0003】
ビールの風味においてコク味、甘味、うま味などの呈味は非常に重要な要素であり、これらを改善、付与、または増強しようとする試みは古くから行われ、さまざまな方法が試みられてきている。一方、近年、日本においては、ビールよりも麦芽の使用比率を低く抑え、麦芽の一部を麦芽以外の穀物や澱粉質、タンパク質などの原料に代替し、ビールよりも価格が安いビール風味のアルコール飲料として、発泡酒、さらには、いわゆる第三のビールなどが開発され、その売上が急激に増加している。しかしながら、発泡酒や、いわゆる第三のビールはビールと比べ麦芽使用比率が低いため、麦芽に由来するコク味、甘味、うま味などの呈味がビールと比較してどうしても劣るものとなってしまう傾向があり、十分満足のいくものではないというのが一般的な評価のようである。したがって、ビールやビール風味飲料にコク味、甘味、うま味などを改善、付与、または増強するという課題はますます重要となってきていると考えられる。
【0004】
ビールやビール風味飲料に何らかの素材を添加してコク味、甘味、うま味などを付与する方法としては、例えば、ビール製造工程において副原料の全部あるいは一部に麦茶麦を使用することを特徴とする麦茶風味発泡酒の製造方法(特許文献1)、麦芽をエチルアルコール濃度が25重量%〜93重量%の水とエチルアルコールとの混合溶液で抽出して得られる抽出物からなる、ビール様飲料のモルト感およびボリューム感を付与・増強するために用いられる香味改善剤(特許文献2)、生の穀物を磨砕し、その後加熱した後プロテアーゼ処理を施し、さらにエキスを回収して得られたビール系飲料用風味賦与剤(特許文献3)などの提案がなされている。しかしながら、上記の方法は、焙煎穀物が持つ雑味をも同時に付与してしまい、ビール本来のコク味、甘味、うま味などを改善、付与するという点においては十分満足のいくものとはいいがたい。
【0005】
一方、穀物原料抽出液の製造において酵素処理による方法は従来より広く一般的に行われており、さまざまな方法が提案されている。穀物原料を酵素処理することにより、例えば多糖類や蛋白質などが分解され単糖、二糖、オリゴ糖、アミノ酸、ペプチドなどが生成し、甘味やコク味を増強することが可能であると考えられる。
【0006】
このような酵素処理による穀物抽出液の製造方法としては、例えば、米粉などを常圧で蒸煮した後、粉砕乳化しアミラーゼおよび中性プロテアーゼを作用させた乳状飲料の製造方法(特許文献4)、麦茶の香気増強エキスを製造する際、抽出液をアミラーゼまたはセルラーゼで処理する方法(特許文献5)、小麦、大麦、米、トウモロコシなどの澱粉質原料にグルコアミラーゼおよび酸性プロテアーゼを添加して澱粉を糖化する方法(特許文献6)、鳩麦に澱粉分解酵素、蛋白質分解酵素、麹菌、多糖類分解微生物などを反応させて鳩麦エキスを抽出する方法(特許文献7)、玄米にプロテアーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼおよびアミラーゼを加えて分解処理することで得られる玄米飲料(特許文献8)、焙煎したアマランサス種子をアミラーゼ、セルラーゼ及びペクチナーゼを用いて抽出する方法(特許文献9)、などが提案されている。
【0007】
しかしながら、これらの穀物原料の酵素処理技術はいずれも、不溶性固形分の可溶化、呈味の大幅な増強、収率の向上、抽出物の状態改良、沈殿の防止などが主な目的であり、すっきりとした甘味、コク味、うま味などの爽やかで微妙な風味の向上を目的としたものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−179117号公報
【特許文献2】特許第4214517号公報
【特許文献3】特開2008−43231号公報
【特許文献4】特開昭49−94870号公報
【特許文献5】特開平2−104265号公報
【特許文献6】特開昭59−179093号公報
【特許文献7】特開平7−274914号公報
【特許文献8】特開平5−137545号公報
【特許文献9】特開平7−274831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ビ−ルまたはビール風味飲料に添加することにより、これらの飲料におけるビール本来のコク味、甘味、うま味などを改善、付与または増強し、さらに適度なロースト感を与え、すっきり感を増すことにより嗜好性が高められたビール風味飲料用風味改善剤を提供することを目的とする。さらには、ビール本来のコク味、甘味、うま味などが改善、付与、または増強された、また、適度なロースト感が付与され、すっきり感が増して嗜好性が高められたビールまたはビ−ル風味飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するためには焙煎穀物の抽出物を添加する方法が有効ではないかと考え、鋭意研究を行った。焙煎穀物類抽出物の製法としては、例えば、水蒸気蒸留、熱水抽出、エタノール抽出、酵素処理などがある。しかしながら、単に熱水抽出しただけでは、甘味、うま味などは得られず、水蒸気蒸留による回収香やエタノール抽出物は香りには寄与するが、呈味にはそれほど寄与しなかった。また、酵素処理を行ったエキスは甘味、うま味には寄与するが、雑味が生じたり、香りが少ないなど、それぞれ欠点が見られた。ところが、驚くべきことに、焙煎穀物を予め水蒸気蒸留して回収香を得た後、その残渣を糖質分解酵素で処理して酵素処理エキスを得、酵素処理エキスと先に得られた回収香を合わせたものをビール風味飲料に添加することにより、ビール本来のコク味、甘味、うま味など増強され、さらに適度なロースト感が付与されると共にすっきり感が増して、嗜好性が高められたビールまたはビ−ル風味飲料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
かくして、本発明は焙煎穀物を、第1段目の工程として水蒸気蒸留法により香気を回収し、第2段目の工程として残渣を糖質分解酵素処理して酵素処理エキスを得、第3段目の工程として第2段目の工程で得られた酵素処理エキスと第1段目の工程で得られた回収香を混合することを特徴とするビール風味飲料用風味改善剤の製造方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明は水蒸気蒸留が気−液向流接触抽出法によるものであることを特徴とする、前記のビール風味飲料用風味改善剤の製造方法を提供するものである。
【0013】
さらに、本発明では、糖質分解酵素がセルラーゼとグルコアミラーゼの組み合わせであることを特徴とする前記のビール風味飲料用風味改善剤の製造方法を提供するものである。
【0014】
さらにまた、本発明では、糖質分解酵素がα−アミラーゼ、β−アミラーゼおよびグルコアミラーゼから選ばれる1種以上からなるアミラーゼとプルラナーゼの組み合わせであることを特徴とする前記のビール風味飲料用風味改善剤の製造方法を提供するものである。
【0015】
さらにまた、本発明は前記のいずれかの製法により製造されたビール風味飲料用風味改善剤を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明でいう焙煎穀物類は特に限定されるものではなく、例えば焙煎大麦(麦茶)、焙煎麦芽、焙煎ハトムギ(ハトムギ茶)、焙煎米、焙煎玄米、焙煎発芽米、焙煎ソバの実(ソバ茶)、焙煎トウモロコシ、炒りごま、焙煎キヌア、焙煎アマランサス、焙煎キビ、焙煎ヒエ、焙煎アワ、焙煎大豆などを例示することができる。これらのうち、特に焙煎麦芽、焙煎大麦および焙煎米を好ましく例示することができる。
【0017】
これらの穀物の焙煎方法としては、特に限定されず、釜焙煎、熱風焙煎、砂焙煎、ドラム焙煎、遠赤外線焙煎などが例示できる。また、原料をそのまま焙煎する方法の他、原料を水に浸して、原料内部を水に浸潤させ、蒸した後、乾燥させてから焙煎する、いわゆるα化焙煎を例示することもできる。焙煎麦芽や焙煎発芽米は、公知の方法で作ることができるが、例えば麦または米を水に20℃以下で約40〜50時間浸漬し、適当量の水分を含ませ発芽させた後、温度50℃以下で乾燥した後、前述の方法で焙煎して得られる。
【0018】
本発明では、まず、第1段目の工程として、焙煎穀物原料を水蒸気蒸留法により香気を回収する点に特徴がある。この工程により回収香を得た後、その後の工程により処理して得られる酵素処理エキスに、回収香を添加することにより、本発明で得られた焙煎穀物エキスをビール風味飲料に添加したときのロースト感が付与されると共に、雑味が低減し、すっきり感が得られる。
【0019】
水蒸気蒸留の方法としては、焙煎穀物を適当な粒度に粉砕して水と混合しスラリーとして、それを気−液向流接触法により香気回収する方法、または、焙煎穀物をそのまま、あるいは、粉砕してからカラムなどの容器に充填し、カラムに水蒸気を送り込み、焙煎穀物を水蒸気と接触させ、接触後の水蒸気を凝縮させ回収する方法を採用することができる。
【0020】
気−液向流接触抽出法はそれ自体既知の各種の方法で実施することができ、例えば、特公平7−22646号公報に記載の装置を用いて抽出する方法を採用することができる。この装置を用いて香気を回収する手段を具体的に説明すると、回転円錐と固定円錐が交互に組み合わせられた構造を有する気−液向流接触抽出装置の回転円錐上に、液状またはペースト状の焙煎穀物原料を上部から流下させると共に、下部から蒸気を上昇させ、該原料に本来的に存在している香気成分を回収する方法を例示することができる。この気−液向流接触抽出装置の操作条件としては、該装置の処理能力、原料の種類および濃度、香気の強度その他によって任意に選択することができる。焙煎穀物スラリーにおける焙煎穀物と水の比率は、焙煎穀物スラリーが流動性をもつ状態となる量であればいかなる比率も採用することができるがおおよそ、焙煎穀物1重量部に対し水5倍量〜30倍量を例示することができる。水が、この範囲を下回る場合、流動性が出にくく、また、水がこの範囲をはずれて多い場合、得られる留出液の香気が弱くなる傾向がある。
【0021】
気−液向流接触抽出装置の操作条件の一例を示せば、下記のごとくである。
【0022】
原料供給速度:300〜700L/hr
蒸気流量:5〜50Kg/hr
蒸発量:3〜35Kg/hr
カラム底部温度:40〜100℃
カラム上部温度:40〜100℃
真空度:大気圧〜−100kPa(大気圧基準)
カラムによる水蒸気蒸留法は、原料に水蒸気を通気し、水蒸気に伴われて留出してくる香気成分を水蒸気とともに凝縮させる方法であり、加圧水蒸気蒸留、常圧水蒸気蒸留、減圧水蒸気蒸留のいずれかの蒸留手段を採用することができる。具体的には、例えば、焙煎穀物原料を仕込んだ水蒸気蒸留釜の底部から水蒸気を吹き込み、上部の留出側に接続した冷却器で留出蒸気を冷却することにより、凝縮物として揮発性香気成分を含有する留出液を捕集することができる。必要に応じて、この香気捕集装置の先に冷媒を用いたコールドトラップを接続することにより、より低沸点の揮発性香気成分をも確実に捕集することができる。また、水蒸気蒸留の際に、窒素ガスなどの不活性ガス及び/又はビタミンCなどの抗酸化剤の存在下で蒸留することにより香気成分の加熱による劣化を効果的に防止することができるので好適である。また、水蒸気蒸留する際に焙煎穀物に対焙煎穀物50質量%〜200質量%程度の水にてあらかじめ湿潤させてから水蒸気蒸留を行うことにより、香気の質の改善を図ることが可能である。また、留出液の採取量としては使用した焙煎穀物の重量を基準として10質量%〜400質量%を採用することができる。
【0023】
上記香気留出液は、上述した方法で得られる留出液そのものでも使用することができるが、該留出液を任意の濃縮手段を用いて香気濃縮物の形態とすることもできる。かかる濃縮手段としては、例えば、該留出液を合成吸着剤に吸着せしめ、次いでエタノールで脱着することにより得ることができる。合成吸着剤としては、特に限定されないが、例えば、スチレンとジビニルベンゼンの共重合体、エチルビニルベンゼンとジビニルベンゼン共重合体、2,6−ジフェニル−9−フェニルオキサイドの重合体、メタアクリル酸とジオールの重縮合ポリマー及びシリカゲル表面のシラノール基の反応性を利用して、これに例えば、アルコール類、アミン類、シラン類などを化学結合させた化学結合型シリカゲル(修飾シリカゲル)などを例示することができる。かかる合成吸着剤の好ましい例としては、その表面積が、例えば、約300m/g以上、より好ましくは約500m/g以上及び細孔分布が好ましくは約10Å〜約500Åである多孔性重合樹脂を例示することができる。この条件に該当する多孔性重合樹脂としては、例えば、HP樹脂(三菱化学社製);SP樹脂(三菱化学社製);XAD−4(ローム・ハース社製)などがあり、市場で容易に入手することができる。また、メタアクリル酸エステル系樹脂も、例えば、XAD−7およびXAD−8(ローム・ハース社製)などの商品として入手することができる。また、上述の留出液を合成吸着剤に吸着させる処理手段としては、バッチ方式あるいはカラム方式のいずれも採用できるが、作業性の点からカラム方式を好ましく採用することができる。カラム方式で吸着させる方法としては、例えば、上記のような合成吸着剤を充填したカラムに、容量を基準として、該吸着剤の10倍〜1000倍の回収香をSV=1〜100の流速で通液することにより、香気成分を吸着させることができる。次いで、該吸着剤を水洗した後、50質量%〜95質量%のエタノール溶液をSV=0.1〜10の流速で通液し、該吸着剤に吸着されている香気成分を溶出させることにより水溶性の香気濃縮物とすることができる。
【0024】
引き続き、第2段目の工程として、前記水蒸気蒸留残渣を糖質分解酵素処理して酵素処理エキスを得る。水蒸気蒸留法として気−液向流接触抽出法により香気を回収した場合は、残渣がすでに抽出液を含むスラリー状となっているため、酵素処理に適当な温度まで冷却してそのまま酵素を添加する。また、カラム水蒸気蒸留の残渣であればカラム内に酵素処理に必要な量の水として残渣原料1質量部あたり1質量部〜100質量部の水を加え、攪拌または静置条件により、酵素反応を行うことができる。
【0025】
次いで、水と焙煎穀物の混合物に糖質分解酵素を添加し、酵素処理を行う。本発明では糖質分解酵素処理を焙煎穀物原料自体を含んだ系で行うため、焙煎穀物原料の組織が分解し、呈味成分が多量に生成し、コク味、甘味、うま味などの呈味の強い抽出液を得ることができる。この糖質分解酵素処理に使用することのできる糖質分解酵素としては特に制限はなく、糖質分解酵素であればいずれの酵素も使用することができ、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、キシラナーゼ、ペクチナーゼ、アラバナーゼ、デキストラナーゼ、グルカナーゼ、マンナナーゼ、α−ガラクトシダーゼなどを例示することができる。これらのうち、特に好ましいものとしてグルコアミラーゼとセルラーゼの組み合わせ、および、アミラーゼ(α−アミラーゼ、β−アミラーゼおよびグルコアミラーゼから選ばれる1種以上)とプルラナーゼの組み合わせを挙げることができる。グルコアミラーゼとセルラーゼの組み合わせでは、理由は明かではないが、他の糖質分解酵素の組み合わせから予想されるよりも甘味が強く生成するため特に好ましい。また、焙煎した穀物は澱粉が加熱変性していると考えられ、通常のアミラーゼだけでは分解しにくいが、アミラーゼ(α−アミラーゼ、β−アミラーゼおよびグルコアミラーゼから選ばれる1種以上)とプルラナーゼの組み合わせを用いると、良好に分解が進み、多量のグルコースが発生し、好ましい。これらの組み合わせにおいては、特にコク味、甘味、うま味などの呈味の強い抽出液を得ることができるため、本発明品をビール風味飲料に添加したときの風味改善効果が大きい。
【0026】
アミラーゼはグリコシド結合を加水分解することでデンプン中のアミロースやアミロペクチンを、グルコース、マルトースおよびオリゴ糖に変換する酵素である。アミラーゼにはα−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼがある。
【0027】
α−アミラーゼはデンプンやグリコーゲンのα−1,4結合を不規則に切断し、多糖ないしオリゴ糖を生み出す酵素である。β−アミラーゼはデンプンやグリコーゲンを麦芽糖に分解する酵素である。グルコアミラーゼは糖鎖の非還元末端のα−1,4結合を分解してブドウ糖を産生する酵素である。
【0028】
市販のグルコアミラーゼとしては、例えば、グルク(登録商標)SG、グルクザイム(登録商標)AF6、グルクザイム(登録商標)NL4.2、酒造用グルコアミラーゼ「アマノ」SD(以上、天野エンザイム社製);GODO−ANGH(合同酒精社製);コクラーゼ(登録商標)G2、コクラーゼ(登録商標)M(以上、三菱化学フーズ社製);オプチデックスL(ジェネンコア協和社製);スミチーム(登録商標)、スミチーム(登録商標)SG(以上、新日本化学工業社製);グルコチーム(登録商標)#20000(ナガセケムテックス社製);AMG、サンスーパー(以上、ノボザイムズジャパン社製);グルターゼAN(エイチビィアイ社製);ユニアーゼ(登録商標)K、ユニアーゼ(登録商標)2K、ユニアーゼ(登録商標)30、ユニアーゼ(登録商標)60F(以上、ヤクルト薬品工業社製);マグナックス(登録商標)JW−201(洛東化成工業社製);グリンドアミル(登録商標)AG(ダニスコジャパン社製)などが挙げられる。グルコアミラーゼの使用量は焙煎穀物原料に対し0.01質量%〜1質量%、好ましくは0.1質量%〜0.5質量%の範囲内を例示することができる。
【0029】
セルラーゼはβ−1,4−グルカン(例えば、セルロース)のグリコシド結合を加水分解する酵素である。セルロースはD−グルコースがβ−1,4結合で分枝無くつながった多糖類の一種でグルコースの数はおよそ5,000個程度と言われている。植物の細胞壁の主要な構成成分で、親水性は強いが水に不溶である。セルラーゼにはセルロースを分子内部から切断するエンドグルカナーゼと、糖鎖の還元末端と非還元末端のいずれかから分解し、セロビオースを遊離するエキソグルカナーゼ(セロビオヒドロラーゼ)がある。また、市販のセルラーゼ類には、βーグルコシダーゼが混在し、グルコースを遊離するものも多い。本発明で用いることのできるセルラーゼとしては、セルロースを分解する活性を有するものであれば特に制限はなく任意のものを使用することができ、市販品のセルラーゼ製剤としては例えば、セルラーゼT「アマノ」、セルラーゼA「アマノ」(以上天野エンザイム社製);ドリセラーゼ(登録商標)KSM、マルチフェクト(登録商標)A40、セルラーゼGC220(以上ジェネンコア協和社製);セルラーゼGODO−TCL、セルラーゼGODO TCD−H、ベッセレックス(登録商標)、セルラーゼGODO−ACD(以上、合同酒精社製);Cellulase(東洋紡績社製);セルライザー(登録商標)、セルラーゼXL−522(以上ナガセケムテックス社製);セルソフト(登録商標)、デニマックス(登録商標)(以上ノボザイムズ社製);セルロシン(登録商標)AC40、セルロシン(登録商標)AL、セルロシン(登録商標)T2(以上エイチビィアイ社製);セルラーゼ“オノズカ”3S、セルラーゼY−NC(以上ヤクルト薬品工業社製);スミチーム(登録商標)AC、スミチーム(登録商標)C(以上新日本化学工業社製);エンチロンCM、エンチロンMCH、バイオヒット(洛東化成工業社製)などが挙げられる。酵素使用量は植物原料に対し0.01質量%〜1質量%、好ましくは0.1質量%〜0.5質量%の範囲内を例示することができる。
【0030】
セルラーゼとグルコアミラーゼを併用する場合の両者の比率としては1:10〜10:1の範囲、好ましくは1:5〜5:1の範囲内を例示することができる。
【0031】
もう一方の好ましい、酵素の組み合わせに使用するプルラナーゼはα−1,6−グルコシド結合の加水分解を行う酵素である。α−アミラーゼ、βアミラーゼおよびグルコアミラーゼがアミロース及びアミロペクチン中の糖鎖のα−1,4結合を切断するのに対して、プルラナーゼはアミロペクチン中の糖鎖のα−1,6結合を切断する酵素として知られており、別名「枝きり酵素」とも呼ばれている。
【0032】
市販のプルラナーゼ製剤としては、GODO−FIA(合同酒精社製);プルラナーゼ「アマノ」3(天野エンザイム社製);クライスターゼ(登録商標)PLF、クライスターゼ(登録商標)PL45(以上、大和化成社製);オプチマックスL−100、オプチマックス4060VHP、プロモザイム、プロモザイムD2(以上、ジェネンコア協和社製);デキストロザイム DX(ノボザイムズジャパン社製)などが挙げられる。
【0033】
市販のα−アミラーゼ製剤としては、ビオザイム(登録商標)F1OSD、アミラーゼ S「アマノ」35G、ビオザイム(登録商標)A、ビオザイム(登録商標)L(以上アマノエンザイム社製);コクラーゼ(登録商標)(三菱化学フーズ社製);スミチーム(登録商標)L(新日本化学工業社製);クライスターゼ(登録商標)L1、クライスターゼ(登録商標)P8、クライスターゼ(登録商標)SD80、コクゲンSD−A、コクゲンL、クライスターゼ(登録商標)T10S(以上、大和化成社製);ビオテックスL#3000、ビオテックスTS、スピターゼHS、スピターゼCP−40FG、スピターゼXP−404(以上、ナガセケムテックス社製);グリンドアミル(登録商標)A(ダニスコジャパン社製);BAN、ファンガミル(登録商標)、ターマミル(登録商標)、ノバミル(登録商標)、マルトゲナーゼ(登録商標)、リコザイムスープラ、ステインザイム(登録商標)、アクアザイム、サーモザイム(登録商標)、デュラミル(登録商標)(以上、ノボザイムズジャパン社製);フクタミラーゼ(登録商標)30、フクタミラーゼ(登録商標)50、フクタミラーゼ(登録商標)10L、液化酵素6T、液化酵素、リクィファーゼL45(以上、エイチビーアイ社製);VERON AX、VERON GX、VERON M4、VERON ELS(以上、樋口商会社製);ユニアーゼ(登録商標)BM−8(ヤクルト薬品工業社製);ラタターゼ、ラタターゼRCS、SVA、マグナックスJW−121、スミチーム(登録商標)A−10、スミチーム(登録商標)AS(以上、新日本化学工業社製);ソフターゲン(登録商標)・3H(タイショウテクノス社製);スペザイム(登録商標)AA、スペザイム(登録商標)FRED、ピュラスターOxAm、ピュラスターST(以上、ジェネンコア協和社製);ベイクザイム(登録商標)P500(日本シイベルヘグナー社製)などが挙げられる。
【0034】
またβ−アミラーゼ製剤としてはオプチマルトBBA(ジェネンコア協和社製);β−アミラーゼ#1500、β−アミラーゼL、β−アミラーゼ#1500S(以上、ナガセケムテックス社製);ハイマルトシン(登録商標)G 、ハイマルトシン(登録商標)GL(以上、エイチビィアイ社製);ユニアーゼ(登録商標)L(ヤクルト薬品工業社製);GODO−GBA(合同清酒社製)などが挙げられる。
【0035】
さらにまた、α−アミラーゼ活性、β−アミラーゼ活性、グルコアミラーゼ活性の全てを含むアミラーゼ複合酵素製剤なども使用することができる。
【0036】
アミラーゼの使用量は焙煎穀物原料に対し0.01質量%〜1質量%、好ましくは0.1質量%〜0.5質量%の範囲内を例示することができる。
【0037】
本発明では、さらに前記糖質分解酵素の他に、甘味やコク味の増強につながり、かつ、雑味や嫌みを生成させない範囲で他の酵素を併用することも可能である。これらの酵素としては例えば、プロテアーゼ、リパーゼ、タンナーゼ、クロロゲン酸エステラーゼなどを例示することができる。本発明では、特にプロテアーゼを作用させることで、より効果的に抽出液の甘味、コク味を増強することができる場合もある。プロテアーゼは、特に、蛋白質の多い穀物類などを分解する場合に有効である。
【0038】
使用可能なプロテアーゼとしては、例えば、プロテアーゼA、プロテアーゼM、プロテアーゼP、ウマミザイム、ペプチダーゼR、ニューラーゼ(登録商標)A、ニューラーゼ(登録商標)F(以上、天野エンザイム社製の麹菌由来プロテアーゼ);スミチーム(登録商標)AP、スミチーム(登録商標)LP、スミチーム(登録商標)MP、スミチーム(登録商標)FP、スミチーム(登録商標)LPL(以上、新日本化学工業社製の麹菌由来プロテアーゼ);プロチン(登録商標)FN(大和化成社製の麹菌由来プロテアーゼ);デナプシン2P、デナチーム(登録商標)AP、XP−415(以上、ナガセケムテックス社製の麹菌由来プロテアーゼ);オリエンターゼ(登録商標)20A、オリエンターゼ(登録商標)ONS、テトラーゼ(登録商標)S(以上、エイチビィアイ社製の麹菌由来プロテアーゼ);モルシン(登録商標)F、PD酵素、IP酵素、AO−プロテアーゼ(以上、キッコーマン社製の麹菌由来プロテアーゼ);サカナーゼ(科研ファルマ社製の麹菌由来プロテアーゼ);パンチダーゼ(登録商標)YP−SS、パンチダーゼ(登録商標)NP−2、パンチダーゼ(登録商標)P(以上、ヤクルト薬品工業社製の麹菌由来プロテアーゼ);フレーバザイム(登録商標)(ノボザイムズジャパン社製の麹菌由来プロテアーゼ);コクラーゼ(登録商標)SS、コクラーゼ(登録商標)P(以上、三共ライフテック社製の麹菌由来プロテアーゼ);VERON PS、COROLASE PN−L(以上、ABエンザイム社製の麹菌由来プロテアーゼ);プロテアーゼN、プロテアーゼNL、プロテアーゼS、プロレザー(登録商標)FG−F(以上、アマノエンザイム社製の細菌由来プロテアーゼ);プロチンP、デスキン、デピレイス、プロチンA、サモアーゼ(登録商標)(以上、大和化成社製の細菌由来プロテアーゼ);ビオプラーゼ(登録商標)XL−416F、ビオプラーゼ(登録商標)SP−4FG、ビオプラーゼ(登録商標)SP−15FG(以上、ナガセケムテックス社製の細菌由来プロテアーゼ);オリエンターゼ(登録商標)90N、ヌクレイシン(登録商標)、オリエンターゼ(登録商標)10NL、オリエンターゼ(登録商標)22BF(以上、エイチビィアイ社製の細菌由来プロテアーゼ);アロアーゼ(登録商標)AP−10(ヤクルト薬品工業社製の細菌由来プロテアーゼ);プロタメックス(登録商標)、ニュートラーゼ(登録商標)、アルカラーゼ(登録商標)(以上、ノボザイムズ社製の細菌由来プロテアーゼ);COROLASE N、COROLASE 7089、VERON W、VERON P(以上、ABエンザイム社製の細菌由来プロテアーゼ);エンチロンNBS(洛東化成工業社製の細菌由来プロテアーゼ);アルカリプロテアーゼGL440、ピュラフェクト(登録商標)4000L、プロテアーゼ899、プロテックス6L(以上、ジェネコン協和社製の細菌由来プロテアーゼ);アクチナーゼ(登録商標)AS、アクチナーゼ(登録商標)AF(以上、科研ファルマ社製の放線菌由来プロテアーゼ);タシナーゼ(登録商標)(ジェネンコア協和社製の放線菌由来プロテアーゼ);パパインW−40(アマノエンザイム社製の植物由来プロテアーゼ);食品用精製パパイン(ナガセケムテックス社製の植物由来プロテアーゼ);その他動物由来のペプシン、トリプシンなどを挙げることができる。これらのプロテアーゼの使用量は、力価などにより異なり一概には言えないが、通常、焙煎穀物原料の重量を基準として0.01U/g〜100U/gの範囲内を例示することができる。
【0039】
酵素処理の条件としては、使用した酵素に応じた通常の酵素処理条件を採用することができる。例えば、前記の加熱処理および冷却工程をへたスラリーに、前記の必要な酵素を所定量添加し、pH3〜6で攪拌または静置条件により酵素反応を行うことができる。本発明では、特に雑味の発生を避けるためには、静置反応を好ましく例示することができる。前記酵素の反応の最適なpHは3〜6の範囲に含まれるものが多いが、通常植物原料のスラリーまたは抽出液のpHはこの範囲に入るため、重炭酸Na(重曹)やアスコルビン酸によるpH調整は特に必要ない。しかしながら、酵素反応中の酸化劣化防止のため、アスコルビン酸またはアスコルビン酸ナトリウムをスラリー全量に対し、10ppm〜500ppm程度添加しても良い。酵素反応の温度としては、先の冷却温度と同様、酵素の至適温度で反応させる必要はなく、やや低めで反応させることが好ましい場合もあり、20℃〜70℃が好ましく、さらには25℃〜60℃が好ましく、特に30℃〜50℃を好ましい範囲として挙げることができる。また、反応時間としては5分〜24時間、好ましくは1時間〜20時間、より好ましくは4時間〜18時間反応させることが好ましい。本発明では抽出液の雑味発生を抑えるため、酵素反応の温度をやや低めとすることが好ましく、反応時間として比較的長時間を要する場合がある。また、反応の進行の確認方法としてはグルコースの生成量をHPLC分析などにより確認しながら反応時間を決定したり、酵素の追加添加などを行う方法も有効である。
【0040】
酵素処理終了後、加熱により酵素失活し、固液分離、濾過して、または、固液分離し、加熱により酵素失活、濾過して酵素処理抽出液を得ることができる。
【0041】
引き続き、酵素処理抽出液は、必要に応じて濃縮を行っても良い。濃縮方法としては、例えば、減圧濃縮、逆浸透膜(RO膜)濃縮、凍結濃縮など適宜な濃縮手段を採用して濃縮することにより、酵素処理抽出液の濃縮物を得ることができる。濃縮の程度は特に制限されないが、一般には、Bx3°〜Bx80°、好ましくはBx8°〜Bx60°、より好ましくはBx10°〜Bx50°の範囲内が好適である。
【0042】
引き続き、第3段目の工程として、第2段目の工程で得られた酵素処理液と第1段目の工程で得られた回収香を混合して本発明品であるビール風味飲料用風味改善剤を得る。この際の混合の割合は、第1段目の工程で得られた回収香と第2段目の工程で得られた酵素処理液は本発明品が添加されるビール風味飲料の風味や、目標とする風味に合わせ任意の割合を選択することができるが、通常第1段目の工程で得られた回収香と第2段目の工程で得られた酵素処理液の比率として、1:10〜10:1、好ましくは1:5〜5:1、より好ましくは1:3〜3:1の割合を挙げることができる。第1段目の工程で得られた回収香が10:1を超えて多いと甘味が不足し、第2段目で得られた酵素処理エキスが1:10を越えて多いとロースト感、すっきり感が不足する。また、コク味や旨味は両者のバランスが適当なときに良好となる傾向がある。
【0043】
第3段目の工程で得られた混合液はこのまま本発明品としても良いが、さらに、沈殿除去、濾過、殺菌などの工程を行い密閉容器に充填して流通可能な状態としてもよい。
【0044】
本発明品は、ビール、発泡酒、または、いわゆる第三のビ−ルなどのビール風味飲料に0.01質量%〜1質量%程度の範囲で添加することにより、これらの飲料のコク味、甘味、うま味を増し、ロースト感およびすっきり感などを改善することができる。ビール風味飲料への添加の工程は、ビール風味飲料製造におけるどの工程であっても良いが、ビール風味飲料の酵母発酵の後である、貯蔵工程、濾過工程の直前、充填の直前などの工程で添加することにより、本発明品の風味が活かされると考えられる。
以下に実施例、比較例および参考例をあげて本発明を詳しく説明する。
【実施例】
【0045】
実施例1
市販の焙煎麦芽(L値39)40Kgをフェザーミル(スクリーン1mm)にて粉砕し、水360Kgを加えスラリー状態とし、気−液向流接触抽出法により下記条件にて回収フレーバー16Kg(対焙煎麦芽40%)を得た(回収香(a)とする)。
【0046】
装置:SCC Model1000(フレーバーテック社製)
処理条件
原料供給速度:700L/Hr
蒸気重量:55Kg/Hr
ストリップレート:約4%
カラム底部温度:100℃
カラム上部温度:100℃
真空度:大気圧
残渣スラリー400Kg(焙煎麦芽40Kg相当)を45℃まで冷却し、そのうち4Kgを(焙煎麦芽400g相当)を均一に採取し、スミチーム(新日本化学社製のグルコアミラーゼ)8gおよびセルラーゼT「アマノ」(天野エンザイム社製のセルラーゼ)8gを添加し、45℃で30分間攪拌し、酵素を良く混合した後、同温度にて16時間静置反応した。反応時間経過後、直ちに固液分離し、90℃にて1分間加熱し酵素を失活させ、20℃まで冷却した後、ケイソウ土をプレコートしたヌッチェを用いて濾過を行い、清澄な濾液3720g(Bx8.7°、pH4.7)を得た。濾液をロータリーエバポレータを用いて減圧濃縮し、Bx25°の濃縮液を得た。濃縮液を20℃に冷却後、遠心分離(3000回転、5分)により沈殿物を除去した後、90℃にて1分間加熱殺菌し、20℃まで冷却し、Bx25°の麦芽エキス(1288g)を得た(酵素処理エキス(b)とする)。
【0047】
引き続き、回収香(a)160gと酵素処理エキス(b)1120gを混合し(混合の割合は回収香(a)を全量使用し、回収香(a)1質量部に対し、酵素処理エキス(b)をBx換算で計算した固形分として1.75質量部添加した。)イオン交換水にてBx20°に調整した後、90℃にて1分間加熱し、30℃に冷却し、容器に充填し、Bx20°の麦芽エキス(本発明品1)1400gを得た(対焙煎麦芽収率350%)。
【0048】
参考例1
実施例1における回収香(a)16gに水124gを加えて全体を140gとした(参考品1、対焙煎麦芽収率350%)。
【0049】
比較例1
実施例1で用いたのと同じ市販の焙煎麦芽(L値39)をフェザーミル(スクリーン1mm)にて粉砕し、粉砕物400gに水360Kgを加えスラリー状態とし、100℃にて30分間攪拌した。次いで、45℃まで冷却し、スミチーム(新日本化学社製のグルコアミラーゼ)8gおよびセルラーゼT「アマノ」(天野エンザイム社製のセルラーゼ)8gを添加し、45℃で30分間攪拌し、酵素を良く混合した後、同温度にて16時間静置反応した。反応時間経過後、直ちに固液分離し、90℃にて1分間加熱し酵素を失活させ、20℃まで冷却した後、ケイソウ土をプレコートしたヌッチェを用いて濾過を行い、清澄な濾液3720g(Bx8.7°、pH4.7)を得た。濾液をロータリーエバポレータを用いて減圧濃縮し、Bx25°の濃縮液を得た。濃縮液を20℃に冷却後、遠心分離(3000回転、5分)により沈殿物を除去した後、90℃にて1分間加熱殺菌し、20℃まで冷却し、Bx25°の麦芽エキス(1288g)を得た。イオン交換水にてBx20°に調整した後、90℃にて1分間加熱し、30℃に冷却し、容器に充填し、Bx20°の麦芽エキス(比較品1)1610gを得た(対焙煎麦芽収率402.5%)。
【0050】
比較例2
実施例1で用いたのと同じ市販の焙煎麦芽(L値39)をフェザーミル(スクリーン1mm)にて粉砕し、粉砕物40gを300mLフラスコに仕込み、水200gを加え、攪拌しつつ温浴上で90℃で2時間加温した。25℃まで冷却した後、原料麦芽を濾過除去して135gの麦芽エキス(比較品2、対焙煎麦芽収率337.5%)を得た。
【0051】
比較例3
実施例1で用いたのと同じ市販の焙煎麦芽(L値39)をフェザーミル(スクリーン1mm)にて粉砕し、粉砕物40gを300mLフラスコに仕込み、エチルアルコール75%(W/W)水溶液200gを加え、攪拌しつつ温浴上で70℃で2時間加温した。25℃まで冷却した後、原料麦芽を濾過除去して142gの麦芽エキス(比較品3、対焙煎麦芽収率355%)を得た。
【0052】
実施例2
市販の第三のビールに、得られた麦芽エキスを0.05%添加し、それぞれの飲料を、10名の良く訓練されたパネラーにより、官能評価を行い評点をつけた(評価基準;−5:非常に悪い、−2:やや悪い、0:変化無し、+2:良い、+5:非常に良い)。その平均点および平均的な風味評価結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示したとおり、本発明品1の焙煎麦芽エキスを添加した第三のビールは無添加のものと比べ、評価の点数が高く、また、甘味、コク味、旨味が付与・増強され、適度なロースト感が付与され、苦味のきれが良好となったという評価であり、極めて大きな風味改善効果があった。一方、本発明の回収香部分のみである参考品1を添加したもの、焙煎麦芽を回収香採取工程を行わずに本発明品と同じ酵素処理して得た比較品1を添加したものはそれぞれ、無添加と比べ、やや甘味、コク味、旨味が付与・増強されるが、本発明品1ほど増強されてはいないという評価であった。したがって、本発明品1における甘味、コク味、旨味の付与・増強効果は、水蒸気蒸留回収香と糖質酵素分解処理エキスの両方を併用することにより、相乗的に効果が現れるものと考えられる。
【0055】
また、焙煎麦芽を水のみで抽出した比較品2を添加したものは、かえって好ましくない苦味が出てしまい、無添加品よりも劣る風味となってしまった。
【0056】
さらにまた、焙煎麦芽をエチルアルコール水溶液で抽出した比較品3を添加したものは、無添加と比べ、やや甘味、コク味、旨味が付与・増強されるが、本発明品1ほど増強さてはおらず、苦味のきれはわずかに改善されている程度であり、本発明品1添加品と比べると、その改善効果は大きいとはいえないものであった。
【0057】
実施例3(酵素の検討)
実施例1において、スミチーム(新日本化学社製のグルコアミラーゼ)8gおよびセルラーゼT「アマノ」(天野エンザイム社製のセルラーゼ)8gに替えて、表2に示す酵素を用いる以外は実施例1と全く同様の操作を行い、本発明品2〜15および比較品4を得た。
【0058】
【表2】

【0059】
実施例4
市販の第三のビールに、実施例3で得られた麦芽エキスを0.05%添加し、それぞれの飲料を、10名の良く訓練されたパネラーにより、官能評価を行い評点をつけた(評価基準;−5:非常に悪い、−2:やや悪い、0:変化無し、+2:良い、+5:非常に良い)。その平均点および平均的な風味評価結果を表3に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
表3に示したとおり、本発明品のいずれの焙煎麦芽エキスを添加した第三のビールも無添加のものと比べ、評価の点数が高く、また、甘味、コク味、旨味が付与・増強され、適度なロースト感が付与され、苦味のきれが良好となったという評価であり、極めて大きな風味改善効果があった。酵素の種類としては、いずれの糖質分解酵素を使用した本発明品を添加した場合も無添加と比べ、やや甘味、コク味、旨味が付与・増強されるが、前記表1に示したセルラーゼとグルコアミラーゼの組み合わせである本発明品1、およびグルコアミラーゼ、α−アミラーゼまたはβ−アミラーゼとプルラナーゼの組み合わせである本発明品12、本発明品13または本発明品14を添加したものの評価が高く良好であった。また、セルラーゼとグルコアミラーゼに加え、プロテアーゼを使用した本発明品11を添加したものは本発明品1よりも評点が高かった。
【0062】
一方、プロテアーゼを単独で作用させた比較品4を添加したものは、香りはマイルドになったが、苦味のきれが悪く、苦味が強く感じられ、無添加品よりも劣る風味となってしまった。
【0063】
実施例5
焙煎大麦(6条大麦、砂焙煎、L値39)40Kgをフェザーミル(スクリーン1mm)にて粉砕し、水360Kgを加えスラリー状態とし、気−液向流接触抽出法により下記条件にて回収フレーバー16Kg(対焙煎大麦40%)を得た。
【0064】
装置:SCC Model1000(フレーバーテック社製)
処理条件
原料供給速度:700L/Hr
蒸気重量:55Kg/Hr
ストリップレート:約4%
カラム底部温度:100℃
カラム上部温度:100℃
真空度:大気圧
残渣スラリー400Kg(焙煎大麦40Kg相当)を45℃まで冷却し、そのうち4Kgを(焙煎麦芽400g相当)を均一に採取し、スミチーム(新日本化学社製のグルコアミラーゼ)8gおよびセルラーゼT「アマノ」(天野エンザイム社製のセルラーゼ)8gを添加し、45℃で30分間攪拌し、酵素を良く混合した後、同温度にて16時間静置反応した。反応時間経過後、直ちに固液分離し、90℃にて1分間加熱し酵素を失活させ、20℃まで冷却した後、ケイソウ土をプレコートしたヌッチェを用いて濾過を行い、清澄な濾液3730g(Bx9.0°、pH5.0)を得た。濾液をロータリーエバポレータを用いて減圧濃縮し、Bx25°の濃縮液を得た。濃縮液を20℃に冷却後、遠心分離(3000回転、5分)により沈殿物を除去した後、90℃にて1分間加熱殺菌し、20℃まで冷却し、Bx25°の酵素処理エキス(1329g)を得た。
【0065】
引き続き、回収香160gと酵素処理エキス1120gを混合し(混合の割合は回収香を全量使用し、回収香1質量部に対し、酵素処理エキスをBx換算で計算した固形分として1.75質量部添加した。)イオン交換水にてBx20°に調整した後、90℃にて1分間加熱し、30℃に冷却し、容器に充填し、Bx20°の焙煎大麦エキス(本発明品17)1400gを得た(対焙煎大麦収率350%)。
【0066】
実施例6
焙煎米(α化砂焙煎米、L値60)40Kgをフェザーミル(スクリーン1mm)にて粉砕し、水360Kgを加えスラリー状態とし、気−液向流接触抽出法により下記条件にて回収フレーバー16Kg(対焙煎米40%)を得た。
【0067】
装置:SCC Model1000(フレーバーテック社製)
処理条件
原料供給速度:700L/Hr
蒸気重量:55Kg/Hr
ストリップレート:約4%
カラム底部温度:100℃
カラム上部温度:100℃
真空度:大気圧
残渣スラリー400Kg(焙煎米40Kg相当)を45℃まで冷却し、そのうち4Kgを(焙煎麦芽400g相当)を均一に採取し、スミチーム(新日本化学社製のグルコアミラーゼ)8gおよびセルラーゼT「アマノ」(天野エンザイム社製のセルラーゼ)8gを添加し、45℃で30分間攪拌し、酵素を良く混合した後、同温度にて16時間静置反応した。反応時間経過後、直ちに固液分離し、90℃にて1分間加熱し酵素を失活させ、20℃まで冷却した後、ケイソウ土をプレコートしたヌッチェを用いて濾過を行い、清澄な濾液3745g(Bx9.8°、pH5.2)を得た。濾液をロータリーエバポレータを用いて減圧濃縮し、Bx25°の濃縮液を得た。濃縮液を20℃に冷却後、遠心分離(3000回転、5分)により沈殿物を除去した後、90℃にて1分間加熱殺菌し、20℃まで冷却し、Bx25°の酵素処理エキス(1461g)を得た。
【0068】
引き続き、回収香160gと酵素処理エキス1120gを混合し(混合の割合は回収香を全量使用し、回収香1質量部に対し、酵素処理エキスをBx換算で計算した固形分として1.75質量部添加した。)イオン交換水にてBx20°に調整した後、90℃にて1分間加熱し、30℃に冷却し、容器に充填し、Bx20°の焙煎米エキス(本発明品18)1400gを得た(対焙煎米収率350%)。
【0069】
実施例7
市販の第三のビールに、実施例5および実施例6で得られた麦芽エキスを0.05%添加し、それぞれの飲料を、10名の良く訓練されたパネラーにより、官能評価を行い評点をつけた(評価基準;−5:非常に悪い、−2:やや悪い、0:変化無し、+2:良い、+5:非常に良い)。その平均点および平均的な風味評価結果を表4に示す。
【0070】
【表4】

【0071】
表4に示したとおり、焙煎大麦を原料とした本発明品17、焙煎米を原料とした本発明品18のいずれを添加した第三のビールも無添加のものと比べ、評価の点数が高く、また、甘味、コク味、旨味が付与・増強され、適度なロースト感が付与され、苦味のきれが良好となったという評価であり、大きな風味改善効果があった。
【0072】
実施例8(糖の分析)
本発明品1、本発明品15および本発明品16について糖の分析を行った。
結果を表5に示す。
測定方法:HPLC法
【0073】
【表5】

【0074】
表5の結果より、本発明品1、15および16のいずれも固形分(Bxの測定値で20°)中、グルコースが大部分を占めていることが判明した。また、風味の特に良好であったグルコアミラーゼとセルラーゼの組み合わせである本発明品1はスクロースが比較的多く含まれており、これが甘味に寄与している可能性が示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙煎穀物を、第1段目の工程として水蒸気蒸留法により香気を回収し、第2段目の工程として残渣を糖質分解酵素処理して酵素処理エキスを得、第3段目の工程として第2段目の工程で得られた酵素処理エキスと第1段目の工程で得られた回収香を混合することを特徴とするビール風味飲料用風味改善剤の製造方法。
【請求項2】
水蒸気蒸留が気−液向流接触抽出法によるものであることを特徴とする、請求項1に記載のビール風味飲料用風味改善剤の製造方法。
【請求項3】
糖質分解酵素がセルラーゼとグルコアミラーゼの組み合わせであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のビール風味飲料用風味改善剤の製造方法。
【請求項4】
糖質分解酵素がα−アミラーゼ、β−アミラーゼおよびグルコアミラーゼから選ばれる1種以上からなるアミラーゼとプルラナーゼの組み合わせであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のビール風味飲料用風味改善剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の製法により製造されたビール風味飲料用風味改善剤。

【公開番号】特開2010−252643(P2010−252643A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103643(P2009−103643)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000214537)長谷川香料株式会社 (176)
【Fターム(参考)】