説明

ピエゾ式噴霧器用薬液

【課題】 常温において、自然蒸散量が少なく、結晶の析出が生じにくいピエゾ式噴霧器用薬液を提供する。
【解決手段】 本発明のピエゾ式噴霧器用薬液は、有害生物防除剤を溶媒に溶解させてなるピエゾ式噴霧器用薬液であって、前記溶媒が、パラフィン系溶剤と、ジアルキレングリコールジアルキルエーテルおよびジアルキレングリコールアルキルエーテルアセテートから選ばれるグリコールエーテル系化合物の1種又は2種以上、とを含む混合溶液である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピエゾ式噴霧器を用いて有害生物防除剤を安定して揮散させることができるピエゾ式噴霧器用薬液に関する。
【背景技術】
【0002】
有害生物の防除に有効な薬剤には蒸気圧の低いものが多々ある。従来、これらを自然に揮散させて用いるだけでは所期の効果が充分には得られない。そのため、これらの有害生物防除剤を揮散させることにより害虫を防除する方法として、この有害生物防除剤の特性に鑑みて、有害生物防除剤を含有した薬液やマットを加熱して揮散させる方法、担体に保持された有害生物防除剤をファンの回転により発生する気流により揮散させる方法等が用いられている。
【0003】
他方、従来から、超音波発振機で発生させた超音波を振動子を介して吸液体に伝達し、吸液体に吸液された薬液を蒸散させるピエゾ式噴霧器が知られている。近年、このピエゾ式噴霧器を有害生物防除剤の揮散に利用する試みがなされているが、上述したように、有害生物防除剤の多くは蒸気圧が低いことから、充分な拡散性を得ることが難しく、そのため、ピエゾ式噴霧器により有害生物防除剤を揮散させる場合、送風機を併用するなどの工夫が必要であった。
【0004】
しかし、送風機の併用では、消費電力が多くなり電池だけで駆動させるには持続性に欠け、また噴霧器全体を小型化することが困難である、といった不都合を伴うことになる。そこで、送風機を用いることなく優れた拡散性が得られるように、薬液組成の改良等が要望されていた。これに応じて、本発明者らは、先に、有害生物防除剤の蒸気圧と該有害生物防除剤を溶解させる有機溶剤の沸点とを特定範囲に設定したピエゾ式噴霧器用薬液を見出した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−70349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載のピエゾ式噴霧器用薬液は、拡散性には優れるものの、容器に収容した薬液をピエゾ式噴霧器に装填した状態で噴霧器を駆動させずに放置しておくと、常温において薬液が自然蒸散して、振動子やその近辺で有害生物防除剤が固化してしまい、超音波発振機で発生させた超音波が振動子を介して吸液体に伝達されにくくなったり、薬液中で有害生物防除剤が結晶化してしまい、薬液中の有害生物防除剤濃度が変化し、薬液粘度が上昇するという現象が起こることがあった。このような現象が生じると、安定して有害生物防除剤を揮散させることができないことになる。
【0007】
そこで、本発明は、常温において、自然蒸散量が少なく、結晶の析出が生じにくいピエゾ式噴霧器用薬液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた。その結果、上述したピエゾ式噴霧器用薬液に特有の現象を抑制するには、有害生物防除剤を溶解させる溶媒を最適化することが重要であると考え、無数にある溶媒組成の中から、パラフィン系溶剤と、ジアルキレングリコールジアルキルエーテルおよびジアルキレングリコールアルキルエーテルアセテートから選ばれるグリコールエーテル系化合物の1種又は2種以上、とを含む混合溶液が最適であることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)有害生物防除剤を溶媒に溶解させてなるピエゾ式噴霧器用薬液であって、前記溶媒が、パラフィン系溶剤と、ジアルキレングリコールジアルキルエーテルおよびジアルキレングリコールアルキルエーテルアセテートから選ばれるグリコールエーテル系化合物の1種又は2種以上、とを含む混合溶液である、ことを特徴とするピエゾ式噴霧器用薬液。
(2)前記グリコールエーテル系化合物が、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、およびジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートのうちのいずれかである、前記(1)記載のピエゾ式噴霧器用薬液。
なお、本明細書においては、特に断りのない限り、薬液が放散されることを「蒸散」と称し、有効成分(有害生物防除剤)が放散されることを「揮散」と称する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、常温において、自然蒸散量が少なく、結晶の析出が生じにくいピエゾ式噴霧器用薬液を提供することができる。このような本発明の薬液は、容器に収容してピエゾ式噴霧器に装填した状態で噴霧器を駆動させずに放置しておいても、再び駆動させた際には、振動子やその近辺で有害生物防除剤が固化したり、薬液中で有害生物防除剤が結晶化したりすることがないため、有害生物防除剤を安定して揮散させることができる。したがって、本発明の薬液は、容器に収容した薬液のほぼ全てを最後まで無駄なく利用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の薬液を適用するのに適したピエゾ式噴霧器の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の薬液を適用するのに適したピエゾ式噴霧器の他の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のピエゾ式噴霧器用薬液(以下、単に「薬液」と称することもある)は、有害生物防除剤を特定の溶媒に溶解させてなるものである。ここで、有害生物防除剤は、少なくとも常温において溶解した状態であればよい。なお、本発明において、常温とは、約10〜40℃を意味するものとする。
本発明における前記有害生物防除剤としては、所期の効果を達成できるものであれば特に制限はなく、例えば、有害生物として害虫を防除対象とする場合には、例えば、シフェノトリン、ビフェントリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、エムペントリン、プロポクスル、メトキサジアゾン、アミドフルメト、ジノテフラン、ハイドロプレン、メトプレン、エトフェンプロックス等が挙げられ、有害生物としてカビ類や菌類を防除対象とする場合には、イソプロピルメチルフェノール、チオベンダゾール、ヒノキチオール、ローズマリーエキス等が挙げられる。これらの中でも、シフェノトリン、プロポクスル、メトキサジアゾン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、イソプロピルメチルフェノール、エトフェンプロックス等が、本発明の薬液としてピエゾ式噴霧器に適用した場合の揮散性が良好で、駆除効果に優れ、後述する特定の溶媒に対する溶解性が高く、結果として継続して安定した防除効果を発揮しうることから好ましい。なお、有害生物防除剤としては1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0013】
前記有害生物防除剤の含有量は、特に制限されないが、本発明の薬液中、通常1〜30質量%、好ましくは5〜25質量%の濃度であるのがよい。
【0014】
本発明における前記特定の溶媒は、パラフィン系溶剤と、ジアルキレングリコールジアルキルエーテルおよびジアルキレングリコールアルキルエーテルアセテートから選ばれるグリコールエーテル系化合物の1種又は2種以上、とを含む混合溶液である。
【0015】
前記パラフィン系溶剤としては、例えば、直鎖型のn−パラフィン、分岐型のイソパラフィン、環状のシクロパラフィンのいずれであってもよく、それらの混合物であってもよい。パラフィン系溶剤としては、特に、n−パラフィン、流動パラフィンが好ましい。なお、パラフィン系溶剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0016】
前記パラフィン系溶剤として用いることのできる市販品としては、例えば、新日本石油化学(株)製「NP−SH」、中央化成(株)製「チオテック」等が挙げられる。
【0017】
前記ジアルキレングリコールジアルキルエーテルとしては、例えば、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。また、前記ジアルキレングリコールアルキルエーテルアセテートとしては、例えば、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等が挙げられる。これらから選ばれるグリコールエーテル系化合物は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0018】
前記パラフィン系溶剤と前記グリコールエーテル系化合物との混合溶液において、両者の混合割合は、特に限定されないが、パラフィン系溶剤とグリコールエーテル系化合物との合計量に対して、グリコールエーテル系化合物が25質量%以上であることが好ましく、より好ましくは50質量%以上であるのがよい。混合溶液においてグリコールエーテル系化合物の占める割合が25質量%未満であると、常温における結晶析出の抑制効果が不充分になるおそれがあり、また、場合によっては、常温で両者を均一に混合させにくくなるおそれもある。
【0019】
さらに本発明の薬液には、発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じ、例えば、香料、消臭剤、色素、安定剤、揮散調整剤、防腐剤、酸化防止剤等の添加物を含有させることもできる。
【0020】
本発明の薬液は、吸液体(例えば、吸液芯)を備えた適当な容器に充填して、ピエゾ式噴霧器にセットして使用すればよい。これにより、超音波発振機で発生された超音波が振動子を介して吸液芯に伝達され、吸液芯に吸液された薬液を蒸散させることができる。
【0021】
本発明の薬液を蒸散させるためのピエゾ式噴霧器としては、所期の目的を達成することができるものであれば特に制限はなく、例えば、従来から知られている種々のピエゾ式噴霧器を採用することができる。
【0022】
以下、図面を用いて、本発明の薬液を適用するのに適したピエゾ式噴霧器の一実施形態を説明する。
図1に示すピエゾ式噴霧器は、薬液2を収容した容器1と、この容器1の上部開口から上部が突出し下部が容器1内の薬液2に浸漬された吸液芯3と、この吸液芯3の上端部に接触した超音波振動子5と、この振動子5に連結された超音波発振機7とを備えている。吸液芯3の上端部と振動子5との間には金属やセラミックなどからなる接合片6が配置され、これにより振動子5は吸液芯3に間接的に(接合片6を介して)接触している。8は電源としての電池である。また、吸液芯3は、容器1の上部開口にはめ込まれた中空円盤型の芯支持体4により支持されている。
【0023】
図1に示すピエゾ式噴霧器において、前記吸液芯3としては、表面張力の大きな材質、例えばフェルト、スポンジ、綿、多孔質材(例えば、炭素質微粉末を主体とし、これと結着剤との混合物からなる成形体)などで棒状に形成された芯材を使用することができる。これらのうち、炭素質微粉末を用いた成形体は、超音波印加時にのみ吸液機能を発揮し、無印加時は密栓的に機能するので好ましい。
【0024】
図1に示すピエゾ式噴霧器においては、薬液2を上記のような吸液芯3の上端部にまで十分に吸収させた状態で、発振機7より振動子5へ信号を送り、振動子5および接合片6を超音波振動させる。これにより、吸液芯3の上端部に対し、薬液2の表面張力以上で且つ粘度以上の超音波振動エネルギーを与え、薬液2を吸液芯3から微小な液滴として空気中に霧化して蒸散させることができる。なお、上記ピエゾ式噴霧器では、接合片6を配置せずに、振動子5が吸液芯3の上端部に直接接触していてもよい。
【0025】
本発明の薬液を適用するのに適したピエゾ式噴霧器は、上述した図1に示すピエゾ式噴霧器に限定されるものではなく、ほかにも、図2に示すようなピエゾ式噴霧器を用いることもできる。
図2に示すピエゾ式噴霧器は、薬液2を収容した容器1と、この容器1の上部開口から上部が突出し下部が容器1内の薬液2に浸漬された吸液芯3と、この吸液芯3の上端部に接触した超音波振動子10と、この振動子10を固定し容器1の上部開口にはめ込まれた蓋部11と、振動子10に連結された超音波発振機(不図示)とを備えている。
【0026】
図2に示すピエゾ式噴霧器においては、前記吸液芯3は、容器1の上部開口にはめ込まれた中空円盤型の芯支持体4により支持され、振動子10は、蓋部11の爪部12と固定部材13とで蓋部11に固定されている。この振動子10は、中心部に5〜10mmの径を有している。吸液芯3の上端部と振動子10との間には接合片15が配置され、これにより振動子10は吸液芯3に間接的に(接合片15を介して)接触している。接合片15としては、中心部に直径3〜20μmの孔を有するオリフィスプレートが用いられている。
【0027】
図2に示すピエゾ式噴霧器においては、前記蓋部11に噴霧口14が設けられており、薬液2を吸液芯3の上端部にまで十分に吸収させた状態で、発振機より振動子10へ信号を送り、振動子10を超音波振動させると、薬液2を噴霧口14から微小な液滴として空気中に霧化して蒸散させることができる。なお、振動子10として、中心部に所定の孔を有するものについて説明したが、これに代えて、全面に多数の孔を有するものを用いることもできる。
この他にも、米国特許6450419号明細書に記載されているようなピエゾ式噴霧器を用いることもできる。
【0028】
また、本発明の薬液を適用するのに適したピエゾ式噴霧器は、好ましくは以下(1)〜(6)の条件の1つ以上を備えたものがよく、より好ましくは全てを備えた噴霧器であるのがよい。
(1)送風機を用いない。
(2)超音波発振機の周波数が50〜300kHzである。
(3)1回当たり、5m秒〜1秒間の駆動と、0.5〜180秒の停止とが交互に行われる間欠蒸散ができる。
(4)1回の駆動により蒸散される薬液量が0.01〜1μLである。
(5)1回の駆動における消費電力が0.3〜10Wである。
(6) アルカリ電池(LR20(単1)、LR14(単2)、LR6(単3)、LR3(単4)、LR1(単5))またはマンガン電池(R20P(単1)、R14P(単2)、R6P(単3)、R3P(単4)、R1P(単5))により駆動することができる。
【0029】
本発明の薬液を蒸散させる際のピエゾ式噴霧器の駆動条件としては、特に制限はなく、その目的等に応じて適宜設定すればよい。例えば、ピエゾ式噴霧器の駆動は、連続的に駆動してもよいし、間欠的に駆動してもよい。なお、間欠的に駆動させる場合には、1回の噴霧から次回の噴霧までの間の時間も蒸散時間として扱うものとする。
【0030】
以上のような本発明の薬液は、常温において、自然蒸散量が少なく、結晶の析出が生じにくいものであり、容器に収容して上記ピエゾ式噴霧器に装填した状態で噴霧器を駆動させずに放置しておいても、再び駆動させた際には安定して蒸散させることができ、有効成分(有害生物防除剤)を所期の揮散量で安定して揮散させうるものである。なお、前記有害生物防除剤の単位時間当たりの揮散量は、対象生物や用いる有害生物防除剤の種類、曝露時間等に応じて適宜設定すればよい。例えば、蚊、ハエ等の衛生害虫を対象とした場合、通常、0.1〜50.0mg/時間が好ましく、より好ましくは0.2〜10.0mg/時間であるのがよい。
【0031】
本発明の薬液をピエゾ式噴霧器にて蒸散させる有害生物防除方法は、例えば、蚊、ハエ、ゴキブリ等の衛生害虫、ユスリカ、チョウバエ、ゲジ、アリ、クモ等の不快害虫、黒カビ、青カビ等のカビ類、大腸菌、ブドウ球菌等の菌類などの有害生物に有効である。
【実施例】
【0032】
以下に実施例において本発明を具体的に説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
(実施例1〜3および比較例1〜11)
有害生物防除剤であるエトフェンプロックスを表1に示す溶媒に、エトフェンプロックス/溶媒=20質量%/80質量%の割合で、室温(25℃)にて溶解させて、薬液を調製した。詳しくは、表1に示す溶媒のうち、実施例1〜3および比較例1〜4の溶媒は、いずれも、パラフィン系溶剤とグリコールエーテル系化合物とを1:1(質量比)で混合してなるものである。また、使用したパラフィン系溶剤のうち、n−パラフィンとしては新日本石油化学(株)製「NP−SH」を用い、流動パラフィンとしては、中央化成(株)製「チオテック」を用いた。
【0034】
上記で得られた各薬液の安定性について、下記の結晶の析出試験により、結晶が析出し易い条件(低温条件または種晶添加)における有害生物防除剤の結晶の析出の状態について調べることにより評価した。結果を表1に示す。
〔結晶の析出試験〕
得られた薬液を円柱形のガラスサンプル瓶(φ10mm、長さ50mm)に分取し、(A)5℃の低温条件下で12時間静置したときの結晶の析出状況と、(B)種結晶として薬液100gに対して5mgのエトフェンプロックスを添加した後、5℃の低温条件下で12時間静置したときの結晶の析出状況とを、それぞれ目視にて確認し、(A)、(B)それぞれについて以下の基準で評価した。
【0035】
(A)の条件の場合;○:結晶の析出なし
×:結晶の析出あり
(B)の条件の場合;◎:結晶の析出はなく、添加した種結晶も溶解している
○:添加した種結晶は成長していない
△:添加した種結晶に成長が認められる
×:添加した種結晶の成長とともに、薬液中の結晶も析
出している
【0036】
なお、表中では下記の略号を使用した。下記に*を付したものは、ジアルキレングリコールジアルキルエーテルおよびジアルキレングリコールアルキルエーテルアセテートのいずれかに該当する化合物である。
・DMFDG(*):ジプロピレングリコールジメチルエーテル
・DPMA(*):ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート
・BDGAC(*):ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート
・TPM:トリプロピレングリコールメチルエーテル
・DPNB:ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル
・TPNB:トリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル
・BDG:ジエチレングリコールモノブチルエーテル
・PGDA:プロピレングリコールジアセテート
【0037】
【表1】

【0038】
表1から、パラフィン系溶剤とジアルキレングリコールジアルキルエーテルまたはジアルキレングリコールアルキルエーテルアセテートとの混合溶媒を用いた実施例1〜3の薬液は、低温条件下の(A)でも、さらに種結晶を添加した(B)でも、優れた結晶の析出抑制効果を発揮し、有害生物防除剤を安定して溶解させておくことができることが明らかである。
これに対して、パラフィン系溶剤とジアルキレングリコールモノアルキルエーテル(ジアルキレングリコールジアルキルエーテルおよびジアルキレングリコールアルキルエーテルアセテートに該当しないもの)との混合溶媒を用いた比較例1〜4の薬液や、パラフィン系溶剤を単独で溶媒とした比較例5、6の薬液や、上記ジアルキレングリコールモノアルキルエーテルを単独で溶媒とした比較例7〜9の薬液は、(B)の条件では充分に結晶の析出を抑制することはできず、明らかに実施例の薬液に比べ結晶の析出抑制効果に劣ることが分る。
なお、アルキレングリコールジアセテートを単独で溶媒とした比較例10の薬液や、ジアルキレングリコールアルキルエーテルアセテートを単独で溶媒とした比較例11の薬液については、実施例の薬液と同等の結晶の析出抑制効果を有していた。
【0039】
(実施例4〜6および比較例12〜14)
次に、良好な結晶の析出抑制効果を有していた実施例1〜3および比較例10、11の薬液と同じ溶媒を用いて、薬液の自然蒸散量を調べるべく、d,d−T−シフェノトリン(有害生物防除剤)/エトフェンプロックス(有害生物防除剤)/ジブチルヒドロキシトルエン(酸化防止剤)/表2に示す溶媒=3質量%/20質量%/0.2質量%/残部(質量%)の組成で薬液を調製した。実施例4〜6の溶媒は、実施例1〜3と同様、パラフィン系溶剤とグリコールエーテル系化合物とを1:1(質量比)で混合してなるものであり、使用したn−パラフィンは新日本石油化学(株)製「NP−SH」である。
なお、比較例13には、上述したものとは別のアルキレングリコールジアセテートとして1,3−ブチレングリコールジアセテート(表中では「1,3−BDGA」の略号で示す)を単独で溶媒とした薬液の例を挙げた。
【0040】
上記で得られた薬液2gを円柱形(φ10mm、長さ50mm)のガラスサンプル瓶に入れ、その中に、ピエゾ式噴霧器に用いられる吸液芯であるポリエステル繊維芯(φ6.7mm、長さ60mm)を挿入した。このとき、ポリエステル繊維芯は、下端から約20mmまでが薬液に浸され、上端から約10mmまでがサンプル瓶の口から突出する状態とした。この状態で、40℃に設定した雰囲気下で12時間放置し、放置前後の質量変化から自然蒸散した薬液の総質量を求め、その値を放置時間(12時間)で除することにより、単位時間あたりの自然蒸散量(mg/H)を算出した。結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
表2から、パラフィン系溶剤とジアルキレングリコールジアルキルエーテルまたはジアルキレングリコールアルキルエーテルアセテートとの混合溶媒を用いた実施例4〜6の薬液の自然蒸散量は、いずれも抑制され少量であるのに対し、アルキレングリコールジアセテートを単独で溶媒とした比較例12、13の薬液や、ジアルキレングリコールアルキルエーテルアセテートを単独で溶媒とした比較例14の薬液の自然蒸散量は、実施例4〜6の薬液よりも3倍以上も多く、明らかに抑制効果に劣ることが分る。
【0043】
次に、良好な結晶の析出抑制効果を有し、自然蒸散量も少ない上記実施例4〜6の薬液を、ピエゾ式噴霧器にて蒸散させたときの蒸散量を下記の蒸散試験により調べた。結果を表3に示す。
【0044】
〔蒸散試験〕
図2に示すピエゾ式噴霧器(吸液芯:φ6.7mm×長さ60mmのポリエステル繊維芯、圧電素子:外径φ16mm×内孔径φ8.8mm×厚み0.6mm、振動板:ニッケル製、φ15.3mm×厚み0.05mm)に、薬液40mLを容器に入れて収容し、下記の駆動条件で連続通電させた。そして、通電開始時の薬液を収容した容器の質量と、12時間通電後の薬液を収容した容器の質量とを測定し、その質量減少量(mg)を通電時間(12時間)で除することにより、単位時間当たりの蒸散量(mg/H)を求めた。
<ピエゾ式噴霧器の駆動条件>
・超音波発振機の周波数:207〜218kHzの範囲で素子に最適な共振周波数に調整
・駆動条件:10m秒間駆動し、1秒間停止する間欠駆動
・電源:安定化電源1.5V(別途回路制御にACアダプター電源5.0V))
【0045】
【表3】

【0046】
表3から、パラフィン系溶剤とジアルキレングリコールジアルキルエーテルまたはジアルキレングリコールアルキルエーテルアセテートとの混合溶媒を用いた実施例4〜6の薬液は、ピエゾ式噴霧器によって充分な薬液を効率よく蒸散させうるものであることが分る。
【0047】
(実施例7〜8)
実施例1において、溶媒におけるパラフィン系溶剤とグリコールエーテル系化合物との混合割合(質量比)を、表4に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、パラフィン系溶剤とグリコールエーテル系化合物との比率が異なる薬液を調製した。
(実施例9〜11)
実施例2において、溶媒におけるパラフィン系溶剤とグリコールエーテル系化合物との混合割合(質量比)を、表4に示すように変更したこと以外は、実施例2と同様にして、パラフィン系溶剤とグリコールエーテル系化合物との比率が異なる薬液を調製した。
(実施例12〜14)
実施例3において、溶媒におけるパラフィン系溶剤とグリコールエーテル系化合物との混合割合(質量比)を、表4に示すように変更したこと以外は、実施例3と同様にして、パラフィン系溶剤とグリコールエーテル系化合物との比率が異なる薬液を調製した。
【0048】
まず、実施例7〜14で得られた各薬液を用い、実施例1〜3と同様の結晶の析出試験を(A)の条件で行った。その結果、表4に示すように、いずれも優れた結晶の析出抑制効果を発揮することが分かった。
次に、上記各薬液のうち、実施例7〜10、12、13の薬液を用い、実施例1〜3と同様の結晶の析出試験を(B)の条件で行った。その結果、表4に示すように、グリコールエーテル系化合物の種類に拘わらず、いずれの場合も、グリコールエーテル系化合物の割合が多いほど、結晶の析出抑制効果は高くなることが分かった。
【0049】
【表4】

【0050】
以上、本発明の一実施形態について示したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更や改良したものにも適用できることは言うまでもない。例えばピエゾ式噴霧器については、本発明が実施可能であるかぎり任意であり、図1、図2に示すピエゾ式噴霧器や他の構造を有するピエゾ式噴霧器に用いても、同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0051】
1 容器
2 薬液
3 吸液芯
4 芯支持体
5、10 超音波振動子
6 接合片
7 超音波発振機
8 電池
11 蓋部
12 爪部
13 固定部材
14 噴霧口
15 接合片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有害生物防除剤を溶媒に溶解させてなるピエゾ式噴霧器用薬液であって、
前記溶媒が、パラフィン系溶剤と、ジアルキレングリコールジアルキルエーテルおよびジアルキレングリコールアルキルエーテルアセテートから選ばれるグリコールエーテル系化合物の1種又は2種以上、とを含む混合溶液である、ことを特徴とするピエゾ式噴霧器用薬液。
【請求項2】
前記グリコールエーテル系化合物が、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、およびジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートのうちのいずれかである、請求項1記載のピエゾ式噴霧器用薬液。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−57608(P2011−57608A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208525(P2009−208525)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000100539)アース製薬株式会社 (191)
【Fターム(参考)】