ピストン及びその製造方法
【課題】ピストン低温時にピストン頂面の温度が過度に低くなることを防止して、燃料の結露を抑えることができるとともに、ピストン高温時にピストン頂面の温度が過度に高くなることを防止して、オイル劣化やノッキングを抑えることができる低熱伝導率シートを備えたピストンであって、熱膨張率の違いにより低熱伝導率シートが破損等することがなく、しかもその製造が容易なピストンを提供する。
【解決手段】燃焼室2に面するピストン頂面1aを有するピストン本体10と、ピストン頂面1aに形成された耐熱性樹脂よりなる弾性接着剤層11と、弾性接着剤層11上に形成され、ピストン本体10よりも低い熱伝導率を有する低熱伝導率シート12と、を備えている。弾性接着剤層11はポリイミドよりなり、低熱伝導率シート12はチタンシートよりなる。
【解決手段】燃焼室2に面するピストン頂面1aを有するピストン本体10と、ピストン頂面1aに形成された耐熱性樹脂よりなる弾性接着剤層11と、弾性接着剤層11上に形成され、ピストン本体10よりも低い熱伝導率を有する低熱伝導率シート12と、を備えている。弾性接着剤層11はポリイミドよりなり、低熱伝導率シート12はチタンシートよりなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はピストン及びその製造方法に関し、詳しくは内燃機関の燃焼室に面する頂面における構造を改良したピストン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジン等の内燃機関の始動時や低負荷時において、燃焼室に面するピストン頂面の温度が低いと、燃焼室内の燃料が液体状態でピストン頂面に付着して未燃焼ガスになる場合があり、HCエミッションや燃費の悪化を招くことがある。
【0003】
一方、エンジン温度が高くなる高負荷時において、ピストン頂面の温度が過度に高くなると、エンジンオイルの劣化が進みやすく、また、燃焼室内の混合気が過熱されてノッキングが起こりやすくなる。さらには、燃焼室内の空気量が減少し、エンジンの出力低下を招くおそれがある。
【0004】
ここに、特許文献1には、燃焼室に面するピストン頂面等に、低い熱拡散率を有する低熱拡散率塗膜を形成したピストンが開示されている。この低熱拡散率塗膜は、チタニウム・アルミナイド、酸化ジルコニウムやステンレス鋼等の粉末塗膜材料をプラズマ中に注入しつつ塗布するプラズマスプレーにより、ピストン頂面に形成されたものである。
【0005】
このピストンでは、ピストン頂面に形成された低熱拡散率塗膜により、例えばピストンに貯蔵された熱が燃焼室内の混合気に放出されることを抑えることができる。このため、エンジン温度が高くなる高負荷時において、エンジンオイルの劣化を抑えたり、燃焼室内の混合気が過熱されることを抑えてノッキングの発生を防止したり、あるいは出力低下を抑えたりすることができる。
【0006】
また、特許文献2に開示されたピストンでは、ピストン頂面に凹部が形成され、この凹部が、セラミックス焼結体よりなる表面層と、この表面層の外周面側を囲繞する非金属無機多孔体(多孔質セラミックス成形体やセラミックスファイバー成形体等)よりなる断熱弾性層と、この断熱弾性層を鋳ぐるむピストン本体を形成する金属鋳造体とからなる三層構造とされている。
【特許文献1】特開平8−100659号公報
【特許文献2】特開平1−170745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載された従来のピストンでは、チタニウム・アルミナイドや酸化ジルコニウム等よりなる低熱拡散率塗膜とピストン母材との熱膨張率の差により、ピストン頂面に形成された低熱拡散率塗膜が破損したり、剥離したりするおそれがあった。
【0008】
また、プラズマスプレーによって低熱拡散率塗膜が形成された上記従来のピストンでは、プラズマ発生装置が必要であったり、あるいは所定厚さの塗膜を形成するための条件設定が面倒であったりするため、製造面での難しさがあった。
【0009】
一方、上記特許文献2に記載された従来のピストンでは、ピストン本体を鋳造する際に断熱弾性層を金属鋳造体で鋳ぐるむ必要があるため、その製造が面倒であり、またピストン本体に対する表面層や断熱弾性層の接合性についての信頼性が充分ではなかった。
【0010】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、ピストン低温時にピストン頂面の温度が過度に低くなることを防止して、燃料の結露を抑えることができるとともに、ピストン高温時にピストン頂面の温度が過度に高くなることを防止して、オイル劣化、ノッキングや内燃機関の出力低下を抑えることができる低熱伝導率シートを備えたピストンであって、熱膨張率の違いにより低熱伝導率シートが破損等することがなく、しかもその製造が容易なピストンを提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、ピストン本体に対する低熱伝導率シートの接合性についての信頼性を向上させることを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)請求項1に記載されたピストンは、燃焼室に面するピストン頂面を有するピストン本体と、前記ピストン頂面に形成された耐熱樹脂よりなる弾性接着剤層と、前記弾性接着剤層上に形成され、前記ピストン本体よりも低い熱伝導率を有し、該熱伝導率が5〜40W/m・Kの低熱伝導率シートと、を備えていることを特徴とする。
【0013】
請求項1に記載のピストンでは、燃焼室に面するピストン頂面に低熱伝導率シートが弾性接着剤層により接着されている。この低熱伝導率シートは40W/m・K以下の熱伝導率を有し断熱層として機能する。このため、エンジンの始動時(燃焼室内やピストンの温度が低いコールドスタート時)や低負荷時に、燃焼室からの熱により温度が上昇した低熱伝導率シートからピストン本体への熱伝導を抑えることができ、ピストン頂面のうち低熱伝導率シートの部分を速やかに昇温させることができる。したがって、エンジンの始動時や低負荷時に、ピストン頂面の温度が過渡に低いことにより燃焼室内の燃料が液体状態でピストン頂面に付着して未燃焼ガスになることを防止することができる。よって、請求項1に記載のピストンによると、HCエミッションや燃費の悪化を防ぐことが可能となる。
【0014】
一方、低熱伝導率シートは5W/m・K以上の熱伝導率を有する。このため、低熱伝導率シートが加熱されたとき、この低熱伝導率シートから弾性接着剤層を介してピストン本体に適度に放熱されるため、低熱伝導率シートの温度は過度に高くならない。したがって、エンジンの高負荷時に、エンジンオイルの劣化、ノッキングの発生及び出力低下を抑えることが可能となる。
【0015】
そして、請求項1に記載のピストンでは、低熱伝導率シートが弾性接着剤層により接着されており、低熱伝導率シートとピストン本体との間に弾性接着剤層が介在している。この弾性接着剤層は、弾性変形することにより、低熱伝導率シートとピストン本体との熱膨張率の違いによる両者の相対的な熱変形を吸収する。このため、熱膨張率の違いによりピストン本体に対して低熱伝導率シートが相対的に変形したとしても、低熱伝導率シートが破壊したり、剥離したりすることを抑えることが可能となる。
【0016】
しかも、請求項1に記載のピストンは、低熱伝導率シートを接着剤によりピストン本体に接着するという極めて簡単な方法により製造することができる。
【0017】
(2)請求項2に記載のピストンは、請求項1に記載のピストンにおいて、前記ピストン本体は前記ピストン頂面に設けられた凹部と該凹部の底面に設けられた突起部とを有し、前記突起部は該突起部の外周側面に設けられた係合凹部を有し、前記弾性接着剤層は前記突起部の頂面に形成された頂面部と前記外周側面に形成された側面部とを有し、前記低熱伝導率シートは前記弾性接着剤層の前記頂面部を覆う頂面被覆部と該弾性接着剤層の前記側面部を覆う側面被覆部とを有する有底筒状を呈していることに特徴がある。
【0018】
この構成によると、弾性接着剤層の頂面部が低熱伝導率シートの頂面被覆部により覆われるとともに、弾性接着剤層の側面部が低熱伝導率シートの側面被覆部により覆われているため、弾性接着剤層が燃焼室に露出することを良好に抑えることができる。このため、燃焼室の熱により弾性接着剤層が劣化したり、あるいは燃焼室内で燃焼する火炎により弾性接着剤層が燃えて炭化したりすることを良好に抑えることが可能となる。
【0019】
(3)請求項3に記載のピストンは、請求項2に記載のピストンにおいて、前記弾性接着剤層が前記係合凹部と係合する係合凸部を有していることに特徴がある。
【0020】
この構成によると、弾性接着剤層の係合凸部と突起部の係合凹部との機械的な係合により、ピストン本体から弾性接着剤層が剥離することを良好に抑えることが可能となる。
【0021】
(4)請求項4に記載のピストンは、請求項2〜3のいずれか一つに記載のピストンにおいて、前記低熱伝導率シートが、前記側面被覆部から内方に折り曲げられて前記係合凹部と係合する曲折係合部を有していることに特徴がある。
【0022】
この構成によると、低熱伝導率シートの曲折係合部とピストン本体の突起部の係合凹部とが機械的に係合するので、この機械的係合力によりピストン本体から低熱伝導率シートが剥離することを良好に抑えることができる。
【0023】
また、ピストン本体の凹部の底面に低熱伝導率シートを弾性接着剤層により接着した後、低熱伝導率シートの曲折係合部となる部分をかしめ等により内方に折り曲げて係合凹部と係合させるという簡単な手法により、ピストン本体と低熱伝導率シートとを機械的に係合させることができる。
【0024】
(5)請求項5記載のピストンは、請求項2〜4のいずれか一つに記載のピストンにおいて、前記ピストン本体と前記低熱伝導率シートとの間に前記弾性接着剤層が介在して該ピストン本体と該低熱伝導率シートとが離れていることに特徴がある。
【0025】
この構成によると、ピストン本体と前記低熱伝導率シートとの間に介在する弾性接着剤層の存在により、ピストン本体と低熱伝導率シートとが離れており、両者が非接触状態にある。このため、例えばエンジンの始動時に低熱伝導率シートからピストン本体への熱伝導を防止することができ、その結果低熱伝導率シートを速やかに昇温させることが可能となる。
【0026】
(6)請求項6に記載のピストンは、請求項1に記載のピストンにおいて、前記ピストン本体が前記ピストン頂面に設けられた凹部を有し、前記弾性接着剤層が前記凹部の底面に形成され、かつ前記ピストン本体及び前記低熱伝導率シートのうちの一方が他方に係合する係合部を有していることに特徴がある。
【0027】
この構成によると、ピストン本体及び低熱伝導率シートのうちの一方に設けられた係合部が他方と機械的に係合するので、この機械的係合力によりピストン本体から低熱伝導率シートが剥離することを良好に抑えることができる。
【0028】
(7)請求項7に記載のピストンは、請求項6に記載のピストンにおいて、前記係合部がかしめ加工により形成されたかしめ部よりなることに特徴がある。
【0029】
この構成によると、ピストン本体の凹部の底面に低熱伝導率シートを弾性接着剤層により接着した後、ピストン本体及び低熱伝導率シートのうちの一方をかしめ加工して他方と係合するかしめ部を該一方に形成するという簡単な手法により、ピストン本体と低熱伝導率シートとを機械的に係合させることができる。
【0030】
(8)請求項8に記載のピストンは、請求項6に記載のピストンにおいて、前記ピストン本体が前記凹部の内周側面に設けられた係合凹部を有し、かつ前記低熱伝導率シートが、外周端から外方に突出して前記係合凹部と係合する突出係合部を有していることに特徴がある。
【0031】
この構成によると、ピストン本体の凹部の底面に低熱伝導率シートを弾性接着剤層により接着させる際に、低熱伝導率シートの突出係合部をピストン本体の係合凹部に係合させるという簡単な手法により、ピストン本体と低熱伝導率シートとを機械的に係合させることができる。
【0032】
(9)請求項9に記載のピストンは、請求項1〜8のいずれか一つに記載のピストンにおいて、前記ピストン本体又は前記低熱伝導率シートが前記弾性接着剤層との間に空洞部を形成する空洞用凹部を有していることに特徴がある。
【0033】
この構成によると、ピストン本体又は前記低熱伝導率シートが前記弾性接着剤層との間に形成された空洞部が空気断熱層として機能する。このため、エンジンの始動時や低負荷時に、ピストン頂面のうち低熱伝導率シートの部分をより速やかに昇温させることができる。
【0034】
(10)請求項10に記載のピストンは、請求項1〜9のいずれ一つに記載のピストンにおいて、前記低熱伝導率シートがチタン、チタン系合金又はステンレス鋼(SUS)よりなることに特徴がある。
【0035】
(11)請求項11に記載のピストンは、請求項1〜10のいずれか一つに記載のピストンにおいて、前記弾性接着剤層の熱伝導率が前記低熱伝導率シートの熱伝導率よりも低いことに特徴がある。
【0036】
(12)請求項12に記載のピストンは、請求項11に記載のピストンにおいて、前記弾性接着剤層がポリイミド若しくはその変性体又はポリベンゾイミダゾール若しくはその変性体よりなることに特徴がある。
【0037】
(13)請求項13に記載のピストンは、請求項1〜12のいずれか一つに記載のピストンにおいて、前記低熱伝導率シートの厚さが0.1〜0.5mmであることに特徴がある。
【0038】
(14)請求項14に記載のピストンは、請求項1〜13のいずれか一つに記載のピストンにおいて、前記弾性接着剤層の厚さが0.01〜1.0mmであることに特徴がある。
【0039】
(15)請求項15に記載のピストンの製造方法は、燃焼室に面するピストン頂面を有するピストン本体と、該ピストン頂面に形成された耐熱樹脂よりなる弾性接着剤層と、該弾性接着剤層上に形成され、前記ピストン本体よりも低い熱伝導率を有し、該熱伝導率が5〜40W/m・Kの低熱伝導率シートと、を備えるピストンを製造する方法であって、前記ピストン本体に有機溶剤を含む弾性接着剤を塗布する塗布工程と、前記弾性接着剤を所定温度に加熱して前記有機溶剤を蒸発させるプリベイク工程と、プリベイクした前記弾性接着剤の上に前記低熱伝導率シートを配置する配置工程と、プリベイクした前記弾性接着剤を加熱して該弾性接着剤を重合、硬化させて前記弾性接着剤層を形成し、該弾性接着剤層により前記ピストン本体と前記低熱伝導率シートとを接合する接合工程とを備えることを特徴とする。
【0040】
このピストンの製造方法によると、弾性接着剤の塗布、弾性接着剤のプリベイク、低熱伝導率シートの配置及び弾性接着剤の加熱、硬化という極めて簡単な手法により請求項1に記載のピストンを製造することができる。
【発明の効果】
【0041】
したがって、本発明のピストンによれば、ピストン本体と低熱伝導率シートとの熱膨張率の違いにより、低熱伝導率シートが破壊したり、剥離したりすることを抑えることが可能となる。また、本発明のピストンは、低熱伝導率シートを接着剤により貼着し、必要に応じてかしめ加工等をするという極めて簡単な方法により製造することができる。
【0042】
さらに、ピストン本体と低熱伝導率シートとを機械的に係合させた場合は、ピストン本体に対する低熱伝導率シートの接合性についての信頼性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明の実施形態例について、図面を参照しつつ具体的に説明する。
(実施形態1)
図1の断面図に示される実施形態1の内燃機関用のピストン1は、エンジンのシリンダ(図示せず)内に往復動可能に配設されて用いられるものであり、シリンダとピストン頂面1aとにより区画形成される燃焼室2内に燃料を直接噴射する直噴式エンジンに用いられるものである。
【0044】
このピストン1は、燃焼室2に面するピストン頂面1aを有するピストン本体10と、ピストン頂面1aに形成された弾性接着剤層11と、この弾性接着剤層11上に形成された薄板状の低熱伝導率シート12とを備えている。
【0045】
ピストン本体10は、アルミニウム合金よりなり、鋳造により所定形状に形成されたものである。このピストン本体10のピストン頂面1aの中央部には、凹状に窪んだ凹部10aが設けられている。そして、この凹部10a内に弾性接着剤層11及び低熱伝導率シート12が配設されている。
【0046】
ピストン本体10の凹部10aは、低熱伝導率シート12の外形状に略対応する底面形状を有している。凹部10aの形状は、弾性接着剤層11及び低熱伝導率シート12を凹部10aの底面に配設させることのできる形状であれば特に限定されない。実施形態1では、低熱伝導率シート12は薄い円板状の金属シートよりなり、凹部10aの底面形状も低熱伝導率シート12の円形と略同等の直径を有する円形とされている。また、凹部10aの深さの値は、弾性接着剤層11及び低熱伝導率シート12の合計厚さの値よりも大きくされている。
【0047】
そして、凹部10aの底面全体に形成された弾性接着剤層11により、低熱伝導率シート12が凹部10aの底面に接着されている。また、凹部10aの開口周縁端には、求心方向に突出する環状突部10bが設けられている。環状突部10bは、低熱伝導率シート12の外周縁部の表面(図1に示す低熱伝導率シート12の上面)に当接して係合している。この係合部として機能する環状突部10bは、かしめ加工により形成されたかしめ部よりなる。すなわち、環状突部10bは、凹部10aの底面に低熱伝導率シート12を弾性接着剤層11により接着した後に、凹部10aの開口周縁端の全周を求心方向にかしめて塑性変形させることにより形成されたものである。なお、凹部10aの開口周縁端の複数箇所を周方向に間隔をおいてかしめることにより、環状突部10bの代わりに、複数個の突部を形成してもよい。
【0048】
ピストン頂面1a等のピストン本体10の形状は特に限定されず適宜設定可能である。また、ピストン本体10の材質もアルミニウム合金に限られない。
【0049】
弾性接着剤層11は耐熱性樹脂よりなる。弾性接着剤層11を構成する耐熱性樹脂としては、ピストン1の作動中に溶融又は分解せずに所定の接着力及び弾性力を発揮するものであれば特に限定されない。すなわち、ピストン1の作動中に所定の接着力を発揮することで、低熱伝導率シート12を凹部10aの底面に確実に接着させることができ、かつ、ピストン1の作動中に所定の弾性力を発揮することで、ピストン本体10と低熱伝導率シート12との熱膨張率の違いによる両者の相対的な熱変形を吸収しうるような耐熱性樹脂を弾性接着剤層11に用いることができる。
【0050】
また、弾性接着剤層11の厚さは0.01〜1.0mmであることが好ましく、0.3〜0.7mmであることがより好ましい。弾性接着剤層11が薄すぎると、ピストン本体10と低熱伝導率シート12との熱膨張率の違いによる両者の相対的な熱変形を有効に吸収し得ない。一方、弾性接着剤層11が厚すぎると、弾性接着剤層11が割れ易くなる。
【0051】
弾性接着剤層11を構成する耐熱性樹脂として、具体的には、合成樹脂の中でも特に優れた耐熱性を有するポリイミド又はその変性体を好適に用いることができる。ポリイミド又はその変性体は熱可塑性のものでも熱硬化性のものでもかまわないが、必要な耐熱性を確保する上では、熱硬化性のものが好ましい。弾性接着剤層11を構成する耐熱性樹脂として他の好ましい例としては、ポリベンゾイミダゾール(PBI)又はその変性体を挙げることができる。
【0052】
弾性接着剤層11の熱伝導率は低熱伝導率シート12の熱伝導率よりも低いことが好ましい。具体的には、弾性接着剤層11の熱伝導率は5W/m・K以下であることが好ましく、1W/m・K以下であることがより好ましい。弾性接着剤層11の熱伝導率が高すぎると、例えばエンジンの始動時に弾性接着剤層11を介して低熱伝導率シート12からピストン本体10へ熱が移動し易くなり、ピストン頂面1aの速やかな昇温を妨げる。
【0053】
低熱伝導率シート12は、ピストン本体10を構成する材料よりも熱伝導率が低く、かつ、ピストン1の作動中に溶融又は分解しない材料よりなる。熱伝導率シート12の熱伝導率は5〜40W/m・Kである。熱伝導率シート12の熱伝導率が5W/m・K未満になると、エンジンの高負荷時に、熱伝導率シート12が放熱しにくく、オイル劣化やノッキング現象が起こりやすくなる。一方、熱伝導率シート12の熱伝導率は40W/m・Kを超えると、熱伝導率シート12が放熱しやすく、未燃焼ガスが発生しやすくなる。
【0054】
低熱伝導率シート12を構成する材料としては、例えば金属であってもセラミックスであってもよいが、軽量化や高靭性化等を図る観点より、チタン、チタン系合金又はステンレス鋼(SUS)等の金属が好ましい。また、金属の中でも、特にチタン又はチタン系合金は熱伝導率が低く、また比重も小さいので好ましい。
【0055】
低熱伝導率シート12の厚さは0.1〜0.5mmであることが好ましい。低熱伝導率シート12が薄すぎると、断熱層としての機能を有効に発揮し得ない。一方、低熱伝導率シート12が厚すぎると、ピストン自体の高さが高くなるとともに重量が重くなり、燃費への悪影響が出てくる。
【0056】
ここに、実施形態1のピストン1では、低熱伝導率シート12が厚さ0.3mmのチタンシートよりなり、この低熱伝導率シート12の熱伝導率は21.9W/m・Kである。また、弾性接着剤層11は熱硬化性のポリイミドよりなる。そして、この弾性接着剤層11の厚さは0.05mmで、弾性接着剤層11の熱伝導率は0.2W/m・Kである。
【0057】
上記構成を有する実施形態1のピストン1は、例えば以下のようにして製造することができる。
【0058】
すなわち、図2に示されるように、まず鋳造により所定形状を有するピストン本体10を形成する(図2(a)参照)。そして、ピストン頂面1aに設けられた凹部10aの底面にポリイミド前駆体としての液体モノマー11aを所定厚さで塗布してから(図2(b)参照)、150℃以上の温度でプリベイクして有機溶剤を蒸発させた後、その上に所定形状の低熱伝導率シート12を配置する。そして、200℃以上の高温に加熱することで、ポリイミド前駆体としての液体モノマー11aを重合、硬化させて弾性接着剤層11とする。これにより、弾性接着剤層11により、低熱伝導率シート12を凹部10aの底面に接着させる(図2(c)参照)。最後に、凹部10aの開口周縁端をかしめ加工して、環状突部10bを形成する(図2(d)参照)。
【0059】
実施形態1のピストン1では、燃焼室2に面するピストン頂面1aに配設された低熱伝導率シート12及び弾性接着剤層11が断熱層として機能する。このため、ピストン温度が低いエンジンの始動時や低負荷時に、ピストン頂面1aのうち低熱伝導率シート12の部分を速やかに昇温させることができ、燃焼室2内の燃料が未燃焼ガスになることを防止することができる。したがって、HCエミッションや燃費の悪化を防ぐことが可能となる。
【0060】
一方、ピストン温度が高くなるエンジンの高負荷時においては、低熱伝導率シート12が適度に放熱するため、低熱伝導率シート12の温度が過度に高くならない。したがって、エンジンオイルの劣化やノッキングの発生を抑えることが可能となる。
【0061】
そして、実施形態1のピストン1では、低熱伝導率シート12とピストン本体10との間に弾性接着剤層11が介在している。この弾性接着剤層11は、弾性変形することにより、低熱伝導率シート12及びピストン本体10の相対的な熱変形を吸収する。このため、熱膨張率の違いによりピストン本体10に対して低熱伝導率シート12が相対的に変形したとしても、低熱伝導率シート12が破壊したり、剥離したりすることを抑えることが可能となる。
【0062】
しかも、実施形態1のピストン1は、低熱伝導率シート12を接着剤により接着するという極めて簡単な方法により製造することができる。
【0063】
また、実施形態1のピストン1では、断熱層として機能する低熱伝導率シート12がチタンシートよりなるため、例えば塗膜により断熱層を形成する場合と比較して、低熱伝導率シート12の耐久性を確保するのに有利となり、また低熱伝導率シート12において均一厚さを確保するのも容易となる。さらに、チタンは金属の中でも特に熱伝導率が低く、また比重も小さい。このため、低熱伝導率シート12が断熱効果を有効に発揮する。また、低熱伝導率シート12をピストン頂面1aに配設することによるピストン1の重量増加を抑えることができる。
【0064】
さらに、実施形態1のピストン1では、弾性接着剤層11の熱伝導率が低熱伝導率シート12の熱伝導率よりもかなり低くされている。このため、弾性接着剤層11における断熱効果は、低熱伝導率シート12の断熱効果よりもかなり大きい。このように断熱効果が大きい弾性接着剤層11が低熱伝導率シート12とピストン本体10との間に介在すると、低熱伝導率シート12からピストン本体10への熱移動を弾性接着剤層11により効果的に防止することができる。したがって、エンジンの始動時に、低熱伝導率シート12をより速やかに昇温させることができ、未燃焼ガスの発生をより効果的に防止することが可能となる。
【0065】
加えて、実施形態1のピストン1では、ピストン本体10の環状突部10bが低熱伝導率シート12の外周縁部に機械的に係合しているので、この機械的係合力によりピストン本体10から低熱伝導率シート12が剥離することを良好に抑えることができる。
【0066】
また、実施形態1のピストン1では、弾性接着剤層11が低熱伝導率シート12により完全に覆われているため、弾性接着剤層11が燃焼室の熱により劣化することを良好に抑えることができ、また燃焼室2内で燃焼する火炎が接触することで弾性接着剤層11が燃えて炭化することを確実に防止することができる。
【0067】
(実施形態2)
図3及び図4に示される実施形態2のピストン1は、前記実施形態1のピストン1において、係合部として、かしめ部よりなる環状突部10bをピストン本体10に形成する代わりに、突出係合部121を低熱伝導率シート12に設け、かつピストン本体10の凹部10aに突出係合部121と係合可能な係合凹部101を形成したものである。
【0068】
すなわち、実施形態2のピストン1では、ピストン本体10の凹部10aの内周側面に環状の係合凹部101が設けられている。なお、この係合凹部101は、低熱伝導率シート12の突出係合部121と係合しうるように設定されていれば環状である必要はない。
【0069】
また、実施形態2のピストン1では、低熱伝導率シート12が、低熱伝導率シート12の外周端から遠心方向に突出する4個の突出係合部121を有している。4個の突出係合部121は、低熱伝導率シート12の周方向において等間隔に配設されている。
【0070】
ここに、実施形態2のピストン1では、低熱伝導率シート12のうち4個の突出係合部121のみがピストン本体10と接触し、かつ低熱伝導率シート12が弾性接着剤層11を完全に覆うように、凹部10a、弾性接着剤層11及び低熱伝導率シート12の形状や大きさが設定されている。
【0071】
その他の構成は、前記実施形態1と同様である。
【0072】
上記構成を有する実施形態2のピストン1は、例えば以下のようにして製造することができる。
【0073】
すなわち、鋳造により所定形状に形成されたピストン本体10の凹部10aの底面全体にポリイミド前駆体としての液体モノマーを所定厚さで塗布してから、150℃以上の温度でプリベイクして有機溶剤を蒸発させた後、その上に所定形状の低熱伝導率シート12を配置する。このとき、低熱伝導率シート12の突出係合部121をピストン本体10の係合凹部101に係合させる。そして、200℃以上の高温に加熱することで、ポリイミド前駆体としての液体モノマーを重合、硬化させて弾性接着剤層11とする。
【0074】
したがって、実施形態2のピストン1では、ピストン本体10の凹部10aの底面に低熱伝導率シート12を弾性接着剤層11により接着させる際に、低熱伝導率シート12の突出係合部121をピストン本体10の係合凹部101に係合させるという簡単な手法により、ピストン本体10と低熱伝導率シート12とを機械的に係合させることができる。
【0075】
また、実施形態2のピストン1では、低熱伝導率シート12のうち4個の突出係合部121のみがピストン本体10と接触しているので、例えばエンジンの始動時に低熱伝導率シート12からピストン本体10への熱伝導を良好に抑えることができ、その結果低熱伝導率シート12を速やかに昇温させることが可能となる。
【0076】
その他の作用効果は、前記実施形態1と同様である。
【0077】
(実施形態3)
図5及び図6に示される実施形態3のピストン1は、前記実施形態1のピストン1において、ピストン本体10の凹部10aの底面形状や弾性接着剤層11及び低熱伝導率シート12の形状を変更したものである。
【0078】
すなわち、実施形態3のピストン1では、凹部10aの底面に突起部3が設けられている。突起部3は、T字状の断面形状を有し、凹部10aの底面に一体に立設された円柱状首部31と、円柱状首部31の先端に連設された円盤状頭部32とからなる。円柱状首部31の外径は円盤状頭部32の外径よりも小さく設定されており、これにより突起部3の外周側面に環状の係合凹部3aが設けられている。
【0079】
また、実施形態3のピストン1では、弾性接着剤層11が、突起部3の頂面(円盤状頭部32の頂面)に形成された頂面部111と、環状の係合凹部3aを含む突起部3の外周側面(円柱状首部31の外周側面及び円盤状頭部32の外周側面)に形成された側面部112とを有している。側面部112は、円柱状首部31の外周側面、すなわち突起部3の係合凹部3a内に形成された第1側面部112aと、円盤状頭部32の外周側面に形成された第2側面部112bとからなる。側面部112の第1側面部112aは、突起部3の環状の係合凹部3aと係合する環状の係合凸部を構成する。また、突起部3の外表面全体に弾性接着剤層11が形成されており、突起部3の全体が弾性接着剤層11により包囲されている。
【0080】
さらに、実施形態3のピストン1では、低熱伝導率シート12が、弾性接着剤層11の頂面部111を覆う頂面被覆部122と、弾性接着剤層11の側面部112を覆う側面被覆部123とを有する有底筒状を呈している。なお、低熱伝導率シート12の側面被覆部123は、弾性接着剤層11の側面部112のうち第1側面部112aの大部分と第2側面部112bの全体とを覆っている。すなわち、低熱伝導率シート12の側面被覆部123は、弾性接着剤層11の側面部112の全体を覆っておらず、低熱伝導率シート12の側面被覆部123の先端(有底筒状の開口端)と凹部10aの底面との間には間隙がある。したがって、低熱伝導率シート12とピストン本体10とは離れており接触していない。
【0081】
その他の構成は、前記実施形態1と同様である。
【0082】
上記構成を有する実施形態3のピストン1は、例えば以下のようにして製造することができる。
【0083】
すなわち、鋳造により所定形状に形成されたピストン本体10の凹部10aの底面の所定部及び突起部3の外表面全体にポリイミド前駆体としての液体モノマーを所定厚さで塗布してから、150℃以上の温度でプリベイクして有機溶剤を蒸発させた後、その上に所定形状の低熱伝導率シート12を被せる。そして、200℃以上の高温に加熱することで、ポリイミド前駆体としての液体モノマーを重合、硬化させて弾性接着剤層11とする。
【0084】
実施形態3のピストン1では、ピストン本体10の凹部10aに設けられた突起部3の係合凹部3a内に弾性接着剤層11の側面部112の第1側面部(係合凸部)112aが形成されているので、突起部3の係合凹部3aと弾性接着剤層11の第1側面部(係合凸部)112aとが機械的に係合している。したがって、ピストン本体10から弾性接着剤層11が剥離することを良好に抑えることができる。
【0085】
また、実施形態3のピストン1では、弾性接着剤層11の頂面部111が低熱伝導率シート12の頂面被覆部122により完全に覆われるとともに、弾性接着剤層11の側面部112のほぼ全体が低熱伝導率シート12の側面被覆部123により覆われているため、弾性接着剤層11が燃焼室2に露出することを良好に抑えることができる。このため、燃焼室2の熱により弾性接着剤層11が劣化したり、あるいは燃焼室2内で燃焼する火炎により弾性接着剤層11が燃えて炭化したりすることを良好に抑えることが可能となる。
【0086】
さらに、実施形態3のピストン1では、低熱伝導率シート12とピストン本体10とが離れており接触していないので、例えばエンジンの始動時に低熱伝導率シート12から直接ピストン本体10に熱伝導することがなく、その結果低熱伝導率シート12をより速やかに昇温させることが可能となる。
【0087】
その他の作用効果は前記実施形態1と同様である。
【0088】
(実施形態4)
図7及び図8に示される実施形態4のピストン1は、前記実施形態3のピストン1において、弾性接着剤層11及び低熱伝導率シート12の形状を変更したものである。
【0089】
すなわち、実施形態4のピストン1では、弾性接着剤層11の側面部112の第1側面部(係合凸部)112aが、円柱状首部31の外周側面の一部、すなわち突起部3の係合凹部3a内の一部に形成されている。具体的には、円柱状首部31の外周側面のうち円盤状頭部32側の外周側面のみに弾性接着剤層11の側面部112の第1側面部(係合凸部)112aが形成されている。このため、突起部3の係合凹部3a内のうち凹部10aの底面側には弾性接着剤層11の側面部112の第1側面部(係合凸部)112aが形成されておらず、第1側面部(係合凸部)112aと凹部10aの底面との間には隙間が形成されている。
【0090】
また、実施形態4のピストン1では、低熱伝導率シート12が、側面被覆部123の先端(有底筒状の開口端)から内方に折り曲げられて係合凹部3aと係合する4個の曲折係合部123aを有している。曲折係合部123aは弾性接着剤層11の第1側面部(係合凸部)112aを介在させて係合凹部3aと係合している。4個の曲折係合部123aは、低熱伝導率シート12の周方向において等間隔に配設されている。なお、低熱伝導率シート12の側面被覆部123は、側面部112の外周側面の全体を覆っているが、弾性接着剤層11の第1側面部(係合凸部)112aの下面(第1側面部112aのうち凹部10aの底面側の面)は、4個の曲折係合部123aのみによって部分的に覆われている。また、低熱伝導率シート12の側面被覆部123の先端(有底筒状の開口端)や曲折係合部123aと凹部10aの底面との間には間隙があり、低熱伝導率シート12とピストン本体10とは接触していない。
【0091】
その他の構成は、前記実施形態3と同様である。
【0092】
上記構成を有する実施形態4のピストン1は、例えば以下のようにして製造することができる。
【0093】
すなわち、鋳造により所定形状に形成されたピストン本体10の凹部10aに設けられた突起部3の所定箇所にポリイミド前駆体としての液体モノマーを所定厚さで塗布してから、150℃以上の温度でプリベイクして有機溶剤を蒸発させる。そして、図8に示されるように、かしめによる折り曲げ加工により4個の曲折係合部123aとなる4個の小片部123bが側面被覆部122の先端(有底筒状の開口端)から直状に伸びて設けられた所定形状の低熱伝導率シート12を突起部3の上に被せる。そして、200℃以上の高温に加熱することで、ポリイミド前駆体としての液体モノマーを重合、硬化させて弾性接着剤層11とする。最後に、低熱伝導率シート1の4個の小片部123bをかしめにより内方に折り曲げ加工してかしめ部よりなる曲折係合部123aとして、突起部3の係合凹部3aに係合させる。
【0094】
実施形態4のピストン1では、低熱伝導率シート12の4個の曲折係合部123aとピストン本体10の突起部3の係合凹部3aとが機械的に係合するので、この機械的係合力によりピストン本体10から低熱伝導率シート12が剥離することを良好に抑えることができる。
【0095】
また、実施形態4のピストン1では、ピストン本体10の凹部10aの突起部3に低熱伝導率シート12を弾性接着剤層11により接着した後、低熱伝導率シート12の曲折係合部123aとなる部分(小片部123b)をかしめにより内方に折り曲げて突起部3の係合凹部3aと係合させるという簡単な手法により、ピストン本体10と低熱伝導率シート12とを機械的に係合させることができる。
【0096】
その他の作用効果は前記実施形態3と同様である。
【0097】
(実施形態5)
図9に示される実施形態5のピストン1は、前記実施形態4のピストン1において、弾性接着剤層11の形状を変更したものである。
【0098】
すなわち、実施形態5のピストン1では、円柱状首部31の外周側面(突起部3の係合凹部3a内)には弾性接着剤層11が形成されておらず、弾性接着剤層11の側面部112は突起部3の円盤状頭部32の外周側面に形成された第2側面部112bのみからなる。 また、実施形態5のピストン1では、低熱伝導率シート12の4個の曲折係合部123aが、突起部3の円盤状頭部32の下面(凹部10の底面側の面)に当接している。すなわち、低熱伝導率シート12の4個の曲折係合部123aは、弾性接着剤層11を介在させることなく直接、突起部3の係合凹部3aに係合している。
【0099】
その他の構成は、前記実施形態4と同様である。
【0100】
したがって、実施形態5のピストン1では、低熱伝導率シート12のうち4個の曲折係合部123aのみがピストン本体10の突起部3と接触しているので、例えばエンジンの始動時に低熱伝導率シート12からピストン本体10への熱伝導を良好に抑えることができ、その結果低熱伝導率シート12を速やかに昇温させることが可能となる。
【0101】
なお、実施形態5のピストン1では、低熱伝導率シート12の曲折係合部123aとピストン本体10の突起部3とが接触しているので、この接触部を介して低熱伝導率シート12からピストン本体10に熱伝導する。
【0102】
その他の作用効果は前記実施形態4と同様である。
【0103】
(実施形態6)
図10に示される実施形態6のピストン1は、前記実施形態1のピストン1において、凹部10a及び低熱伝導率シート12の形状を変更したものである。
【0104】
すなわち、実施形態6のピストン1では、ピストン本体10の凹部10aの底面に凹段部10cが設けられている。凹段部10cは、低熱伝導率シート12の外形状に対応する底面形状を有する。そして、凹段部10cの底面に弾性接着剤層11により低熱伝導率シート12が接着されている。
【0105】
また、低熱伝導率シート12の下面には複数の空洞用凹部12aが形成されている。これにより、低熱伝導率シート12と弾性接着剤層11との間に複数の空洞部4が形成されている。
【0106】
その他の構成は、前記実施形態1と同様である。
【0107】
したがって、実施形態6のピストン1では、低熱伝導率シート12と弾性接着剤層11との間に形成された複数の空洞部4が空気断熱層として機能する。このため、エンジンの始動時や低負荷時に、低熱伝導率シート12をより速やかに昇温させることができ、未燃焼ガスの発生をより効果的に防止することが可能となる。
【0108】
また、実施形態6のピストン1では、実施形態1のピストン1と比べて、複数の空洞部4の合計投影面積分だけ、低熱伝導率シート12と弾性接着剤層11との接触面積が減少する。このため、低熱伝導率シート12をより速やかに昇温させる効果を助長することができ、未燃焼ガスの発生をより効果的に防止することが可能となる。
【0109】
その他の作用効果は前記実施形態1と同様である。
【0110】
(実施形態7)
図11に示される実施形態7のピストン1は、前記実施形態5のピストン1において、突起部3の形状を変更したものである。
【0111】
すなわち、実施形態7のピストン1では、ピストン本体10の突起部3の頂面に複数の空洞用凹部10dが形成されている。これにより、ピストン本体10と弾性接着剤層11との間に複数の空洞部4が形成されている。
【0112】
その他の構成は、前記実施形態5と同様である。
【0113】
したがって、実施形態7のピストン1では、ピストン本体10と弾性接着剤層11との間に形成された複数の空洞部4が空気断熱層として機能する。このため、エンジンの始動時や低負荷時に、低熱伝導率シート12をより速やかに昇温させることができ、未燃焼ガスの発生をより効果的に防止することが可能となる。
【0114】
また、実施形態7のピストン1では、実施形態5のピストン1と比べて、複数の空洞部4の合計投影面積分だけ、ピストン本体10と低熱伝導率シート12との接触面積が減少する。このため、低熱伝導率シート12をより速やかに昇温させる効果を助長することができ、未燃焼ガスの発生をより効果的に防止することが可能となる。
【0115】
その他の作用効果は前記実施形態1と同様である。
【0116】
(その他の実施形態)
前述した実施形態1〜7において、弾性接着剤層11内に気泡や微小な中空ガラス体を混入させることもできる。これにより、弾性接着剤層11における断熱効果をより増大させることができる。したがって、例えばエンジンの始動時に低熱伝導率シート12をより速やかに昇温させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】実施形態1に係るピストンの構成を示す断面図である。
【図2】実施形態1に係るピストンの製造工程を説明する断面図であって、(a)は鋳造により形成したピストン本体を示し、(b)はピストン本体の凹部にポリイミド前駆体としての液体モノマーを塗布した状態を示し、(c)はポリイミド前駆体としての液体モノマー11aを加熱、硬化させて弾性接着剤層により、チタンシートよりなる低熱伝導率シートを凹部に接着させた状態を示し、(d)は凹部の開口周縁端をかしめ加工して、環状突部を形成した状態を示す。
【図3】実施形態2に係るピストンの構成を示す断面図である。
【図4】実施形態2に係るピストンにおける低熱伝導率シートを示す斜視図である。
【図5】実施形態3に係るピストンの構成を示す断面図である。
【図6】実施形態3に係るピストンの製造工程を説明する断面図であって、(a)は鋳造により形成したピストン本体を示し、(b)はピストン本体の凹部の突起部にポリイミド前駆体としての液体モノマーを塗布した後であって、低熱伝導率シートを突起部に被せる前の状態を示す。
【図7】実施形態4に係るピストンの構成を示す断面図である。
【図8】実施形態4に係るピストンにおける低熱伝導率シートであって、曲折係合部を折り曲げる前の状態を示す斜視図である。
【図9】実施形態5に係るピストンの構成を示す断面図である。
【図10】実施形態6に係るピストンの構成を示す断面図である。
【図11】実施形態7に係るピストンの構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0118】
1…ピストン 1a…頂面
2…燃焼室 10…ピストン本体
11…弾性接着剤層 12…低熱伝導率シート
10a…凹部 3…突起部
3a…係合凹部 111…頂面部
112…側面部 112a…第1側面部(係合凸部)
121…突出係合部 122…頂面被覆部
123…側面被覆部 123a…曲折係合部
4…空洞部 10d、12a…空洞用凹部
【技術分野】
【0001】
本発明はピストン及びその製造方法に関し、詳しくは内燃機関の燃焼室に面する頂面における構造を改良したピストン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジン等の内燃機関の始動時や低負荷時において、燃焼室に面するピストン頂面の温度が低いと、燃焼室内の燃料が液体状態でピストン頂面に付着して未燃焼ガスになる場合があり、HCエミッションや燃費の悪化を招くことがある。
【0003】
一方、エンジン温度が高くなる高負荷時において、ピストン頂面の温度が過度に高くなると、エンジンオイルの劣化が進みやすく、また、燃焼室内の混合気が過熱されてノッキングが起こりやすくなる。さらには、燃焼室内の空気量が減少し、エンジンの出力低下を招くおそれがある。
【0004】
ここに、特許文献1には、燃焼室に面するピストン頂面等に、低い熱拡散率を有する低熱拡散率塗膜を形成したピストンが開示されている。この低熱拡散率塗膜は、チタニウム・アルミナイド、酸化ジルコニウムやステンレス鋼等の粉末塗膜材料をプラズマ中に注入しつつ塗布するプラズマスプレーにより、ピストン頂面に形成されたものである。
【0005】
このピストンでは、ピストン頂面に形成された低熱拡散率塗膜により、例えばピストンに貯蔵された熱が燃焼室内の混合気に放出されることを抑えることができる。このため、エンジン温度が高くなる高負荷時において、エンジンオイルの劣化を抑えたり、燃焼室内の混合気が過熱されることを抑えてノッキングの発生を防止したり、あるいは出力低下を抑えたりすることができる。
【0006】
また、特許文献2に開示されたピストンでは、ピストン頂面に凹部が形成され、この凹部が、セラミックス焼結体よりなる表面層と、この表面層の外周面側を囲繞する非金属無機多孔体(多孔質セラミックス成形体やセラミックスファイバー成形体等)よりなる断熱弾性層と、この断熱弾性層を鋳ぐるむピストン本体を形成する金属鋳造体とからなる三層構造とされている。
【特許文献1】特開平8−100659号公報
【特許文献2】特開平1−170745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載された従来のピストンでは、チタニウム・アルミナイドや酸化ジルコニウム等よりなる低熱拡散率塗膜とピストン母材との熱膨張率の差により、ピストン頂面に形成された低熱拡散率塗膜が破損したり、剥離したりするおそれがあった。
【0008】
また、プラズマスプレーによって低熱拡散率塗膜が形成された上記従来のピストンでは、プラズマ発生装置が必要であったり、あるいは所定厚さの塗膜を形成するための条件設定が面倒であったりするため、製造面での難しさがあった。
【0009】
一方、上記特許文献2に記載された従来のピストンでは、ピストン本体を鋳造する際に断熱弾性層を金属鋳造体で鋳ぐるむ必要があるため、その製造が面倒であり、またピストン本体に対する表面層や断熱弾性層の接合性についての信頼性が充分ではなかった。
【0010】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、ピストン低温時にピストン頂面の温度が過度に低くなることを防止して、燃料の結露を抑えることができるとともに、ピストン高温時にピストン頂面の温度が過度に高くなることを防止して、オイル劣化、ノッキングや内燃機関の出力低下を抑えることができる低熱伝導率シートを備えたピストンであって、熱膨張率の違いにより低熱伝導率シートが破損等することがなく、しかもその製造が容易なピストンを提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、ピストン本体に対する低熱伝導率シートの接合性についての信頼性を向上させることを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)請求項1に記載されたピストンは、燃焼室に面するピストン頂面を有するピストン本体と、前記ピストン頂面に形成された耐熱樹脂よりなる弾性接着剤層と、前記弾性接着剤層上に形成され、前記ピストン本体よりも低い熱伝導率を有し、該熱伝導率が5〜40W/m・Kの低熱伝導率シートと、を備えていることを特徴とする。
【0013】
請求項1に記載のピストンでは、燃焼室に面するピストン頂面に低熱伝導率シートが弾性接着剤層により接着されている。この低熱伝導率シートは40W/m・K以下の熱伝導率を有し断熱層として機能する。このため、エンジンの始動時(燃焼室内やピストンの温度が低いコールドスタート時)や低負荷時に、燃焼室からの熱により温度が上昇した低熱伝導率シートからピストン本体への熱伝導を抑えることができ、ピストン頂面のうち低熱伝導率シートの部分を速やかに昇温させることができる。したがって、エンジンの始動時や低負荷時に、ピストン頂面の温度が過渡に低いことにより燃焼室内の燃料が液体状態でピストン頂面に付着して未燃焼ガスになることを防止することができる。よって、請求項1に記載のピストンによると、HCエミッションや燃費の悪化を防ぐことが可能となる。
【0014】
一方、低熱伝導率シートは5W/m・K以上の熱伝導率を有する。このため、低熱伝導率シートが加熱されたとき、この低熱伝導率シートから弾性接着剤層を介してピストン本体に適度に放熱されるため、低熱伝導率シートの温度は過度に高くならない。したがって、エンジンの高負荷時に、エンジンオイルの劣化、ノッキングの発生及び出力低下を抑えることが可能となる。
【0015】
そして、請求項1に記載のピストンでは、低熱伝導率シートが弾性接着剤層により接着されており、低熱伝導率シートとピストン本体との間に弾性接着剤層が介在している。この弾性接着剤層は、弾性変形することにより、低熱伝導率シートとピストン本体との熱膨張率の違いによる両者の相対的な熱変形を吸収する。このため、熱膨張率の違いによりピストン本体に対して低熱伝導率シートが相対的に変形したとしても、低熱伝導率シートが破壊したり、剥離したりすることを抑えることが可能となる。
【0016】
しかも、請求項1に記載のピストンは、低熱伝導率シートを接着剤によりピストン本体に接着するという極めて簡単な方法により製造することができる。
【0017】
(2)請求項2に記載のピストンは、請求項1に記載のピストンにおいて、前記ピストン本体は前記ピストン頂面に設けられた凹部と該凹部の底面に設けられた突起部とを有し、前記突起部は該突起部の外周側面に設けられた係合凹部を有し、前記弾性接着剤層は前記突起部の頂面に形成された頂面部と前記外周側面に形成された側面部とを有し、前記低熱伝導率シートは前記弾性接着剤層の前記頂面部を覆う頂面被覆部と該弾性接着剤層の前記側面部を覆う側面被覆部とを有する有底筒状を呈していることに特徴がある。
【0018】
この構成によると、弾性接着剤層の頂面部が低熱伝導率シートの頂面被覆部により覆われるとともに、弾性接着剤層の側面部が低熱伝導率シートの側面被覆部により覆われているため、弾性接着剤層が燃焼室に露出することを良好に抑えることができる。このため、燃焼室の熱により弾性接着剤層が劣化したり、あるいは燃焼室内で燃焼する火炎により弾性接着剤層が燃えて炭化したりすることを良好に抑えることが可能となる。
【0019】
(3)請求項3に記載のピストンは、請求項2に記載のピストンにおいて、前記弾性接着剤層が前記係合凹部と係合する係合凸部を有していることに特徴がある。
【0020】
この構成によると、弾性接着剤層の係合凸部と突起部の係合凹部との機械的な係合により、ピストン本体から弾性接着剤層が剥離することを良好に抑えることが可能となる。
【0021】
(4)請求項4に記載のピストンは、請求項2〜3のいずれか一つに記載のピストンにおいて、前記低熱伝導率シートが、前記側面被覆部から内方に折り曲げられて前記係合凹部と係合する曲折係合部を有していることに特徴がある。
【0022】
この構成によると、低熱伝導率シートの曲折係合部とピストン本体の突起部の係合凹部とが機械的に係合するので、この機械的係合力によりピストン本体から低熱伝導率シートが剥離することを良好に抑えることができる。
【0023】
また、ピストン本体の凹部の底面に低熱伝導率シートを弾性接着剤層により接着した後、低熱伝導率シートの曲折係合部となる部分をかしめ等により内方に折り曲げて係合凹部と係合させるという簡単な手法により、ピストン本体と低熱伝導率シートとを機械的に係合させることができる。
【0024】
(5)請求項5記載のピストンは、請求項2〜4のいずれか一つに記載のピストンにおいて、前記ピストン本体と前記低熱伝導率シートとの間に前記弾性接着剤層が介在して該ピストン本体と該低熱伝導率シートとが離れていることに特徴がある。
【0025】
この構成によると、ピストン本体と前記低熱伝導率シートとの間に介在する弾性接着剤層の存在により、ピストン本体と低熱伝導率シートとが離れており、両者が非接触状態にある。このため、例えばエンジンの始動時に低熱伝導率シートからピストン本体への熱伝導を防止することができ、その結果低熱伝導率シートを速やかに昇温させることが可能となる。
【0026】
(6)請求項6に記載のピストンは、請求項1に記載のピストンにおいて、前記ピストン本体が前記ピストン頂面に設けられた凹部を有し、前記弾性接着剤層が前記凹部の底面に形成され、かつ前記ピストン本体及び前記低熱伝導率シートのうちの一方が他方に係合する係合部を有していることに特徴がある。
【0027】
この構成によると、ピストン本体及び低熱伝導率シートのうちの一方に設けられた係合部が他方と機械的に係合するので、この機械的係合力によりピストン本体から低熱伝導率シートが剥離することを良好に抑えることができる。
【0028】
(7)請求項7に記載のピストンは、請求項6に記載のピストンにおいて、前記係合部がかしめ加工により形成されたかしめ部よりなることに特徴がある。
【0029】
この構成によると、ピストン本体の凹部の底面に低熱伝導率シートを弾性接着剤層により接着した後、ピストン本体及び低熱伝導率シートのうちの一方をかしめ加工して他方と係合するかしめ部を該一方に形成するという簡単な手法により、ピストン本体と低熱伝導率シートとを機械的に係合させることができる。
【0030】
(8)請求項8に記載のピストンは、請求項6に記載のピストンにおいて、前記ピストン本体が前記凹部の内周側面に設けられた係合凹部を有し、かつ前記低熱伝導率シートが、外周端から外方に突出して前記係合凹部と係合する突出係合部を有していることに特徴がある。
【0031】
この構成によると、ピストン本体の凹部の底面に低熱伝導率シートを弾性接着剤層により接着させる際に、低熱伝導率シートの突出係合部をピストン本体の係合凹部に係合させるという簡単な手法により、ピストン本体と低熱伝導率シートとを機械的に係合させることができる。
【0032】
(9)請求項9に記載のピストンは、請求項1〜8のいずれか一つに記載のピストンにおいて、前記ピストン本体又は前記低熱伝導率シートが前記弾性接着剤層との間に空洞部を形成する空洞用凹部を有していることに特徴がある。
【0033】
この構成によると、ピストン本体又は前記低熱伝導率シートが前記弾性接着剤層との間に形成された空洞部が空気断熱層として機能する。このため、エンジンの始動時や低負荷時に、ピストン頂面のうち低熱伝導率シートの部分をより速やかに昇温させることができる。
【0034】
(10)請求項10に記載のピストンは、請求項1〜9のいずれ一つに記載のピストンにおいて、前記低熱伝導率シートがチタン、チタン系合金又はステンレス鋼(SUS)よりなることに特徴がある。
【0035】
(11)請求項11に記載のピストンは、請求項1〜10のいずれか一つに記載のピストンにおいて、前記弾性接着剤層の熱伝導率が前記低熱伝導率シートの熱伝導率よりも低いことに特徴がある。
【0036】
(12)請求項12に記載のピストンは、請求項11に記載のピストンにおいて、前記弾性接着剤層がポリイミド若しくはその変性体又はポリベンゾイミダゾール若しくはその変性体よりなることに特徴がある。
【0037】
(13)請求項13に記載のピストンは、請求項1〜12のいずれか一つに記載のピストンにおいて、前記低熱伝導率シートの厚さが0.1〜0.5mmであることに特徴がある。
【0038】
(14)請求項14に記載のピストンは、請求項1〜13のいずれか一つに記載のピストンにおいて、前記弾性接着剤層の厚さが0.01〜1.0mmであることに特徴がある。
【0039】
(15)請求項15に記載のピストンの製造方法は、燃焼室に面するピストン頂面を有するピストン本体と、該ピストン頂面に形成された耐熱樹脂よりなる弾性接着剤層と、該弾性接着剤層上に形成され、前記ピストン本体よりも低い熱伝導率を有し、該熱伝導率が5〜40W/m・Kの低熱伝導率シートと、を備えるピストンを製造する方法であって、前記ピストン本体に有機溶剤を含む弾性接着剤を塗布する塗布工程と、前記弾性接着剤を所定温度に加熱して前記有機溶剤を蒸発させるプリベイク工程と、プリベイクした前記弾性接着剤の上に前記低熱伝導率シートを配置する配置工程と、プリベイクした前記弾性接着剤を加熱して該弾性接着剤を重合、硬化させて前記弾性接着剤層を形成し、該弾性接着剤層により前記ピストン本体と前記低熱伝導率シートとを接合する接合工程とを備えることを特徴とする。
【0040】
このピストンの製造方法によると、弾性接着剤の塗布、弾性接着剤のプリベイク、低熱伝導率シートの配置及び弾性接着剤の加熱、硬化という極めて簡単な手法により請求項1に記載のピストンを製造することができる。
【発明の効果】
【0041】
したがって、本発明のピストンによれば、ピストン本体と低熱伝導率シートとの熱膨張率の違いにより、低熱伝導率シートが破壊したり、剥離したりすることを抑えることが可能となる。また、本発明のピストンは、低熱伝導率シートを接着剤により貼着し、必要に応じてかしめ加工等をするという極めて簡単な方法により製造することができる。
【0042】
さらに、ピストン本体と低熱伝導率シートとを機械的に係合させた場合は、ピストン本体に対する低熱伝導率シートの接合性についての信頼性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明の実施形態例について、図面を参照しつつ具体的に説明する。
(実施形態1)
図1の断面図に示される実施形態1の内燃機関用のピストン1は、エンジンのシリンダ(図示せず)内に往復動可能に配設されて用いられるものであり、シリンダとピストン頂面1aとにより区画形成される燃焼室2内に燃料を直接噴射する直噴式エンジンに用いられるものである。
【0044】
このピストン1は、燃焼室2に面するピストン頂面1aを有するピストン本体10と、ピストン頂面1aに形成された弾性接着剤層11と、この弾性接着剤層11上に形成された薄板状の低熱伝導率シート12とを備えている。
【0045】
ピストン本体10は、アルミニウム合金よりなり、鋳造により所定形状に形成されたものである。このピストン本体10のピストン頂面1aの中央部には、凹状に窪んだ凹部10aが設けられている。そして、この凹部10a内に弾性接着剤層11及び低熱伝導率シート12が配設されている。
【0046】
ピストン本体10の凹部10aは、低熱伝導率シート12の外形状に略対応する底面形状を有している。凹部10aの形状は、弾性接着剤層11及び低熱伝導率シート12を凹部10aの底面に配設させることのできる形状であれば特に限定されない。実施形態1では、低熱伝導率シート12は薄い円板状の金属シートよりなり、凹部10aの底面形状も低熱伝導率シート12の円形と略同等の直径を有する円形とされている。また、凹部10aの深さの値は、弾性接着剤層11及び低熱伝導率シート12の合計厚さの値よりも大きくされている。
【0047】
そして、凹部10aの底面全体に形成された弾性接着剤層11により、低熱伝導率シート12が凹部10aの底面に接着されている。また、凹部10aの開口周縁端には、求心方向に突出する環状突部10bが設けられている。環状突部10bは、低熱伝導率シート12の外周縁部の表面(図1に示す低熱伝導率シート12の上面)に当接して係合している。この係合部として機能する環状突部10bは、かしめ加工により形成されたかしめ部よりなる。すなわち、環状突部10bは、凹部10aの底面に低熱伝導率シート12を弾性接着剤層11により接着した後に、凹部10aの開口周縁端の全周を求心方向にかしめて塑性変形させることにより形成されたものである。なお、凹部10aの開口周縁端の複数箇所を周方向に間隔をおいてかしめることにより、環状突部10bの代わりに、複数個の突部を形成してもよい。
【0048】
ピストン頂面1a等のピストン本体10の形状は特に限定されず適宜設定可能である。また、ピストン本体10の材質もアルミニウム合金に限られない。
【0049】
弾性接着剤層11は耐熱性樹脂よりなる。弾性接着剤層11を構成する耐熱性樹脂としては、ピストン1の作動中に溶融又は分解せずに所定の接着力及び弾性力を発揮するものであれば特に限定されない。すなわち、ピストン1の作動中に所定の接着力を発揮することで、低熱伝導率シート12を凹部10aの底面に確実に接着させることができ、かつ、ピストン1の作動中に所定の弾性力を発揮することで、ピストン本体10と低熱伝導率シート12との熱膨張率の違いによる両者の相対的な熱変形を吸収しうるような耐熱性樹脂を弾性接着剤層11に用いることができる。
【0050】
また、弾性接着剤層11の厚さは0.01〜1.0mmであることが好ましく、0.3〜0.7mmであることがより好ましい。弾性接着剤層11が薄すぎると、ピストン本体10と低熱伝導率シート12との熱膨張率の違いによる両者の相対的な熱変形を有効に吸収し得ない。一方、弾性接着剤層11が厚すぎると、弾性接着剤層11が割れ易くなる。
【0051】
弾性接着剤層11を構成する耐熱性樹脂として、具体的には、合成樹脂の中でも特に優れた耐熱性を有するポリイミド又はその変性体を好適に用いることができる。ポリイミド又はその変性体は熱可塑性のものでも熱硬化性のものでもかまわないが、必要な耐熱性を確保する上では、熱硬化性のものが好ましい。弾性接着剤層11を構成する耐熱性樹脂として他の好ましい例としては、ポリベンゾイミダゾール(PBI)又はその変性体を挙げることができる。
【0052】
弾性接着剤層11の熱伝導率は低熱伝導率シート12の熱伝導率よりも低いことが好ましい。具体的には、弾性接着剤層11の熱伝導率は5W/m・K以下であることが好ましく、1W/m・K以下であることがより好ましい。弾性接着剤層11の熱伝導率が高すぎると、例えばエンジンの始動時に弾性接着剤層11を介して低熱伝導率シート12からピストン本体10へ熱が移動し易くなり、ピストン頂面1aの速やかな昇温を妨げる。
【0053】
低熱伝導率シート12は、ピストン本体10を構成する材料よりも熱伝導率が低く、かつ、ピストン1の作動中に溶融又は分解しない材料よりなる。熱伝導率シート12の熱伝導率は5〜40W/m・Kである。熱伝導率シート12の熱伝導率が5W/m・K未満になると、エンジンの高負荷時に、熱伝導率シート12が放熱しにくく、オイル劣化やノッキング現象が起こりやすくなる。一方、熱伝導率シート12の熱伝導率は40W/m・Kを超えると、熱伝導率シート12が放熱しやすく、未燃焼ガスが発生しやすくなる。
【0054】
低熱伝導率シート12を構成する材料としては、例えば金属であってもセラミックスであってもよいが、軽量化や高靭性化等を図る観点より、チタン、チタン系合金又はステンレス鋼(SUS)等の金属が好ましい。また、金属の中でも、特にチタン又はチタン系合金は熱伝導率が低く、また比重も小さいので好ましい。
【0055】
低熱伝導率シート12の厚さは0.1〜0.5mmであることが好ましい。低熱伝導率シート12が薄すぎると、断熱層としての機能を有効に発揮し得ない。一方、低熱伝導率シート12が厚すぎると、ピストン自体の高さが高くなるとともに重量が重くなり、燃費への悪影響が出てくる。
【0056】
ここに、実施形態1のピストン1では、低熱伝導率シート12が厚さ0.3mmのチタンシートよりなり、この低熱伝導率シート12の熱伝導率は21.9W/m・Kである。また、弾性接着剤層11は熱硬化性のポリイミドよりなる。そして、この弾性接着剤層11の厚さは0.05mmで、弾性接着剤層11の熱伝導率は0.2W/m・Kである。
【0057】
上記構成を有する実施形態1のピストン1は、例えば以下のようにして製造することができる。
【0058】
すなわち、図2に示されるように、まず鋳造により所定形状を有するピストン本体10を形成する(図2(a)参照)。そして、ピストン頂面1aに設けられた凹部10aの底面にポリイミド前駆体としての液体モノマー11aを所定厚さで塗布してから(図2(b)参照)、150℃以上の温度でプリベイクして有機溶剤を蒸発させた後、その上に所定形状の低熱伝導率シート12を配置する。そして、200℃以上の高温に加熱することで、ポリイミド前駆体としての液体モノマー11aを重合、硬化させて弾性接着剤層11とする。これにより、弾性接着剤層11により、低熱伝導率シート12を凹部10aの底面に接着させる(図2(c)参照)。最後に、凹部10aの開口周縁端をかしめ加工して、環状突部10bを形成する(図2(d)参照)。
【0059】
実施形態1のピストン1では、燃焼室2に面するピストン頂面1aに配設された低熱伝導率シート12及び弾性接着剤層11が断熱層として機能する。このため、ピストン温度が低いエンジンの始動時や低負荷時に、ピストン頂面1aのうち低熱伝導率シート12の部分を速やかに昇温させることができ、燃焼室2内の燃料が未燃焼ガスになることを防止することができる。したがって、HCエミッションや燃費の悪化を防ぐことが可能となる。
【0060】
一方、ピストン温度が高くなるエンジンの高負荷時においては、低熱伝導率シート12が適度に放熱するため、低熱伝導率シート12の温度が過度に高くならない。したがって、エンジンオイルの劣化やノッキングの発生を抑えることが可能となる。
【0061】
そして、実施形態1のピストン1では、低熱伝導率シート12とピストン本体10との間に弾性接着剤層11が介在している。この弾性接着剤層11は、弾性変形することにより、低熱伝導率シート12及びピストン本体10の相対的な熱変形を吸収する。このため、熱膨張率の違いによりピストン本体10に対して低熱伝導率シート12が相対的に変形したとしても、低熱伝導率シート12が破壊したり、剥離したりすることを抑えることが可能となる。
【0062】
しかも、実施形態1のピストン1は、低熱伝導率シート12を接着剤により接着するという極めて簡単な方法により製造することができる。
【0063】
また、実施形態1のピストン1では、断熱層として機能する低熱伝導率シート12がチタンシートよりなるため、例えば塗膜により断熱層を形成する場合と比較して、低熱伝導率シート12の耐久性を確保するのに有利となり、また低熱伝導率シート12において均一厚さを確保するのも容易となる。さらに、チタンは金属の中でも特に熱伝導率が低く、また比重も小さい。このため、低熱伝導率シート12が断熱効果を有効に発揮する。また、低熱伝導率シート12をピストン頂面1aに配設することによるピストン1の重量増加を抑えることができる。
【0064】
さらに、実施形態1のピストン1では、弾性接着剤層11の熱伝導率が低熱伝導率シート12の熱伝導率よりもかなり低くされている。このため、弾性接着剤層11における断熱効果は、低熱伝導率シート12の断熱効果よりもかなり大きい。このように断熱効果が大きい弾性接着剤層11が低熱伝導率シート12とピストン本体10との間に介在すると、低熱伝導率シート12からピストン本体10への熱移動を弾性接着剤層11により効果的に防止することができる。したがって、エンジンの始動時に、低熱伝導率シート12をより速やかに昇温させることができ、未燃焼ガスの発生をより効果的に防止することが可能となる。
【0065】
加えて、実施形態1のピストン1では、ピストン本体10の環状突部10bが低熱伝導率シート12の外周縁部に機械的に係合しているので、この機械的係合力によりピストン本体10から低熱伝導率シート12が剥離することを良好に抑えることができる。
【0066】
また、実施形態1のピストン1では、弾性接着剤層11が低熱伝導率シート12により完全に覆われているため、弾性接着剤層11が燃焼室の熱により劣化することを良好に抑えることができ、また燃焼室2内で燃焼する火炎が接触することで弾性接着剤層11が燃えて炭化することを確実に防止することができる。
【0067】
(実施形態2)
図3及び図4に示される実施形態2のピストン1は、前記実施形態1のピストン1において、係合部として、かしめ部よりなる環状突部10bをピストン本体10に形成する代わりに、突出係合部121を低熱伝導率シート12に設け、かつピストン本体10の凹部10aに突出係合部121と係合可能な係合凹部101を形成したものである。
【0068】
すなわち、実施形態2のピストン1では、ピストン本体10の凹部10aの内周側面に環状の係合凹部101が設けられている。なお、この係合凹部101は、低熱伝導率シート12の突出係合部121と係合しうるように設定されていれば環状である必要はない。
【0069】
また、実施形態2のピストン1では、低熱伝導率シート12が、低熱伝導率シート12の外周端から遠心方向に突出する4個の突出係合部121を有している。4個の突出係合部121は、低熱伝導率シート12の周方向において等間隔に配設されている。
【0070】
ここに、実施形態2のピストン1では、低熱伝導率シート12のうち4個の突出係合部121のみがピストン本体10と接触し、かつ低熱伝導率シート12が弾性接着剤層11を完全に覆うように、凹部10a、弾性接着剤層11及び低熱伝導率シート12の形状や大きさが設定されている。
【0071】
その他の構成は、前記実施形態1と同様である。
【0072】
上記構成を有する実施形態2のピストン1は、例えば以下のようにして製造することができる。
【0073】
すなわち、鋳造により所定形状に形成されたピストン本体10の凹部10aの底面全体にポリイミド前駆体としての液体モノマーを所定厚さで塗布してから、150℃以上の温度でプリベイクして有機溶剤を蒸発させた後、その上に所定形状の低熱伝導率シート12を配置する。このとき、低熱伝導率シート12の突出係合部121をピストン本体10の係合凹部101に係合させる。そして、200℃以上の高温に加熱することで、ポリイミド前駆体としての液体モノマーを重合、硬化させて弾性接着剤層11とする。
【0074】
したがって、実施形態2のピストン1では、ピストン本体10の凹部10aの底面に低熱伝導率シート12を弾性接着剤層11により接着させる際に、低熱伝導率シート12の突出係合部121をピストン本体10の係合凹部101に係合させるという簡単な手法により、ピストン本体10と低熱伝導率シート12とを機械的に係合させることができる。
【0075】
また、実施形態2のピストン1では、低熱伝導率シート12のうち4個の突出係合部121のみがピストン本体10と接触しているので、例えばエンジンの始動時に低熱伝導率シート12からピストン本体10への熱伝導を良好に抑えることができ、その結果低熱伝導率シート12を速やかに昇温させることが可能となる。
【0076】
その他の作用効果は、前記実施形態1と同様である。
【0077】
(実施形態3)
図5及び図6に示される実施形態3のピストン1は、前記実施形態1のピストン1において、ピストン本体10の凹部10aの底面形状や弾性接着剤層11及び低熱伝導率シート12の形状を変更したものである。
【0078】
すなわち、実施形態3のピストン1では、凹部10aの底面に突起部3が設けられている。突起部3は、T字状の断面形状を有し、凹部10aの底面に一体に立設された円柱状首部31と、円柱状首部31の先端に連設された円盤状頭部32とからなる。円柱状首部31の外径は円盤状頭部32の外径よりも小さく設定されており、これにより突起部3の外周側面に環状の係合凹部3aが設けられている。
【0079】
また、実施形態3のピストン1では、弾性接着剤層11が、突起部3の頂面(円盤状頭部32の頂面)に形成された頂面部111と、環状の係合凹部3aを含む突起部3の外周側面(円柱状首部31の外周側面及び円盤状頭部32の外周側面)に形成された側面部112とを有している。側面部112は、円柱状首部31の外周側面、すなわち突起部3の係合凹部3a内に形成された第1側面部112aと、円盤状頭部32の外周側面に形成された第2側面部112bとからなる。側面部112の第1側面部112aは、突起部3の環状の係合凹部3aと係合する環状の係合凸部を構成する。また、突起部3の外表面全体に弾性接着剤層11が形成されており、突起部3の全体が弾性接着剤層11により包囲されている。
【0080】
さらに、実施形態3のピストン1では、低熱伝導率シート12が、弾性接着剤層11の頂面部111を覆う頂面被覆部122と、弾性接着剤層11の側面部112を覆う側面被覆部123とを有する有底筒状を呈している。なお、低熱伝導率シート12の側面被覆部123は、弾性接着剤層11の側面部112のうち第1側面部112aの大部分と第2側面部112bの全体とを覆っている。すなわち、低熱伝導率シート12の側面被覆部123は、弾性接着剤層11の側面部112の全体を覆っておらず、低熱伝導率シート12の側面被覆部123の先端(有底筒状の開口端)と凹部10aの底面との間には間隙がある。したがって、低熱伝導率シート12とピストン本体10とは離れており接触していない。
【0081】
その他の構成は、前記実施形態1と同様である。
【0082】
上記構成を有する実施形態3のピストン1は、例えば以下のようにして製造することができる。
【0083】
すなわち、鋳造により所定形状に形成されたピストン本体10の凹部10aの底面の所定部及び突起部3の外表面全体にポリイミド前駆体としての液体モノマーを所定厚さで塗布してから、150℃以上の温度でプリベイクして有機溶剤を蒸発させた後、その上に所定形状の低熱伝導率シート12を被せる。そして、200℃以上の高温に加熱することで、ポリイミド前駆体としての液体モノマーを重合、硬化させて弾性接着剤層11とする。
【0084】
実施形態3のピストン1では、ピストン本体10の凹部10aに設けられた突起部3の係合凹部3a内に弾性接着剤層11の側面部112の第1側面部(係合凸部)112aが形成されているので、突起部3の係合凹部3aと弾性接着剤層11の第1側面部(係合凸部)112aとが機械的に係合している。したがって、ピストン本体10から弾性接着剤層11が剥離することを良好に抑えることができる。
【0085】
また、実施形態3のピストン1では、弾性接着剤層11の頂面部111が低熱伝導率シート12の頂面被覆部122により完全に覆われるとともに、弾性接着剤層11の側面部112のほぼ全体が低熱伝導率シート12の側面被覆部123により覆われているため、弾性接着剤層11が燃焼室2に露出することを良好に抑えることができる。このため、燃焼室2の熱により弾性接着剤層11が劣化したり、あるいは燃焼室2内で燃焼する火炎により弾性接着剤層11が燃えて炭化したりすることを良好に抑えることが可能となる。
【0086】
さらに、実施形態3のピストン1では、低熱伝導率シート12とピストン本体10とが離れており接触していないので、例えばエンジンの始動時に低熱伝導率シート12から直接ピストン本体10に熱伝導することがなく、その結果低熱伝導率シート12をより速やかに昇温させることが可能となる。
【0087】
その他の作用効果は前記実施形態1と同様である。
【0088】
(実施形態4)
図7及び図8に示される実施形態4のピストン1は、前記実施形態3のピストン1において、弾性接着剤層11及び低熱伝導率シート12の形状を変更したものである。
【0089】
すなわち、実施形態4のピストン1では、弾性接着剤層11の側面部112の第1側面部(係合凸部)112aが、円柱状首部31の外周側面の一部、すなわち突起部3の係合凹部3a内の一部に形成されている。具体的には、円柱状首部31の外周側面のうち円盤状頭部32側の外周側面のみに弾性接着剤層11の側面部112の第1側面部(係合凸部)112aが形成されている。このため、突起部3の係合凹部3a内のうち凹部10aの底面側には弾性接着剤層11の側面部112の第1側面部(係合凸部)112aが形成されておらず、第1側面部(係合凸部)112aと凹部10aの底面との間には隙間が形成されている。
【0090】
また、実施形態4のピストン1では、低熱伝導率シート12が、側面被覆部123の先端(有底筒状の開口端)から内方に折り曲げられて係合凹部3aと係合する4個の曲折係合部123aを有している。曲折係合部123aは弾性接着剤層11の第1側面部(係合凸部)112aを介在させて係合凹部3aと係合している。4個の曲折係合部123aは、低熱伝導率シート12の周方向において等間隔に配設されている。なお、低熱伝導率シート12の側面被覆部123は、側面部112の外周側面の全体を覆っているが、弾性接着剤層11の第1側面部(係合凸部)112aの下面(第1側面部112aのうち凹部10aの底面側の面)は、4個の曲折係合部123aのみによって部分的に覆われている。また、低熱伝導率シート12の側面被覆部123の先端(有底筒状の開口端)や曲折係合部123aと凹部10aの底面との間には間隙があり、低熱伝導率シート12とピストン本体10とは接触していない。
【0091】
その他の構成は、前記実施形態3と同様である。
【0092】
上記構成を有する実施形態4のピストン1は、例えば以下のようにして製造することができる。
【0093】
すなわち、鋳造により所定形状に形成されたピストン本体10の凹部10aに設けられた突起部3の所定箇所にポリイミド前駆体としての液体モノマーを所定厚さで塗布してから、150℃以上の温度でプリベイクして有機溶剤を蒸発させる。そして、図8に示されるように、かしめによる折り曲げ加工により4個の曲折係合部123aとなる4個の小片部123bが側面被覆部122の先端(有底筒状の開口端)から直状に伸びて設けられた所定形状の低熱伝導率シート12を突起部3の上に被せる。そして、200℃以上の高温に加熱することで、ポリイミド前駆体としての液体モノマーを重合、硬化させて弾性接着剤層11とする。最後に、低熱伝導率シート1の4個の小片部123bをかしめにより内方に折り曲げ加工してかしめ部よりなる曲折係合部123aとして、突起部3の係合凹部3aに係合させる。
【0094】
実施形態4のピストン1では、低熱伝導率シート12の4個の曲折係合部123aとピストン本体10の突起部3の係合凹部3aとが機械的に係合するので、この機械的係合力によりピストン本体10から低熱伝導率シート12が剥離することを良好に抑えることができる。
【0095】
また、実施形態4のピストン1では、ピストン本体10の凹部10aの突起部3に低熱伝導率シート12を弾性接着剤層11により接着した後、低熱伝導率シート12の曲折係合部123aとなる部分(小片部123b)をかしめにより内方に折り曲げて突起部3の係合凹部3aと係合させるという簡単な手法により、ピストン本体10と低熱伝導率シート12とを機械的に係合させることができる。
【0096】
その他の作用効果は前記実施形態3と同様である。
【0097】
(実施形態5)
図9に示される実施形態5のピストン1は、前記実施形態4のピストン1において、弾性接着剤層11の形状を変更したものである。
【0098】
すなわち、実施形態5のピストン1では、円柱状首部31の外周側面(突起部3の係合凹部3a内)には弾性接着剤層11が形成されておらず、弾性接着剤層11の側面部112は突起部3の円盤状頭部32の外周側面に形成された第2側面部112bのみからなる。 また、実施形態5のピストン1では、低熱伝導率シート12の4個の曲折係合部123aが、突起部3の円盤状頭部32の下面(凹部10の底面側の面)に当接している。すなわち、低熱伝導率シート12の4個の曲折係合部123aは、弾性接着剤層11を介在させることなく直接、突起部3の係合凹部3aに係合している。
【0099】
その他の構成は、前記実施形態4と同様である。
【0100】
したがって、実施形態5のピストン1では、低熱伝導率シート12のうち4個の曲折係合部123aのみがピストン本体10の突起部3と接触しているので、例えばエンジンの始動時に低熱伝導率シート12からピストン本体10への熱伝導を良好に抑えることができ、その結果低熱伝導率シート12を速やかに昇温させることが可能となる。
【0101】
なお、実施形態5のピストン1では、低熱伝導率シート12の曲折係合部123aとピストン本体10の突起部3とが接触しているので、この接触部を介して低熱伝導率シート12からピストン本体10に熱伝導する。
【0102】
その他の作用効果は前記実施形態4と同様である。
【0103】
(実施形態6)
図10に示される実施形態6のピストン1は、前記実施形態1のピストン1において、凹部10a及び低熱伝導率シート12の形状を変更したものである。
【0104】
すなわち、実施形態6のピストン1では、ピストン本体10の凹部10aの底面に凹段部10cが設けられている。凹段部10cは、低熱伝導率シート12の外形状に対応する底面形状を有する。そして、凹段部10cの底面に弾性接着剤層11により低熱伝導率シート12が接着されている。
【0105】
また、低熱伝導率シート12の下面には複数の空洞用凹部12aが形成されている。これにより、低熱伝導率シート12と弾性接着剤層11との間に複数の空洞部4が形成されている。
【0106】
その他の構成は、前記実施形態1と同様である。
【0107】
したがって、実施形態6のピストン1では、低熱伝導率シート12と弾性接着剤層11との間に形成された複数の空洞部4が空気断熱層として機能する。このため、エンジンの始動時や低負荷時に、低熱伝導率シート12をより速やかに昇温させることができ、未燃焼ガスの発生をより効果的に防止することが可能となる。
【0108】
また、実施形態6のピストン1では、実施形態1のピストン1と比べて、複数の空洞部4の合計投影面積分だけ、低熱伝導率シート12と弾性接着剤層11との接触面積が減少する。このため、低熱伝導率シート12をより速やかに昇温させる効果を助長することができ、未燃焼ガスの発生をより効果的に防止することが可能となる。
【0109】
その他の作用効果は前記実施形態1と同様である。
【0110】
(実施形態7)
図11に示される実施形態7のピストン1は、前記実施形態5のピストン1において、突起部3の形状を変更したものである。
【0111】
すなわち、実施形態7のピストン1では、ピストン本体10の突起部3の頂面に複数の空洞用凹部10dが形成されている。これにより、ピストン本体10と弾性接着剤層11との間に複数の空洞部4が形成されている。
【0112】
その他の構成は、前記実施形態5と同様である。
【0113】
したがって、実施形態7のピストン1では、ピストン本体10と弾性接着剤層11との間に形成された複数の空洞部4が空気断熱層として機能する。このため、エンジンの始動時や低負荷時に、低熱伝導率シート12をより速やかに昇温させることができ、未燃焼ガスの発生をより効果的に防止することが可能となる。
【0114】
また、実施形態7のピストン1では、実施形態5のピストン1と比べて、複数の空洞部4の合計投影面積分だけ、ピストン本体10と低熱伝導率シート12との接触面積が減少する。このため、低熱伝導率シート12をより速やかに昇温させる効果を助長することができ、未燃焼ガスの発生をより効果的に防止することが可能となる。
【0115】
その他の作用効果は前記実施形態1と同様である。
【0116】
(その他の実施形態)
前述した実施形態1〜7において、弾性接着剤層11内に気泡や微小な中空ガラス体を混入させることもできる。これにより、弾性接着剤層11における断熱効果をより増大させることができる。したがって、例えばエンジンの始動時に低熱伝導率シート12をより速やかに昇温させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】実施形態1に係るピストンの構成を示す断面図である。
【図2】実施形態1に係るピストンの製造工程を説明する断面図であって、(a)は鋳造により形成したピストン本体を示し、(b)はピストン本体の凹部にポリイミド前駆体としての液体モノマーを塗布した状態を示し、(c)はポリイミド前駆体としての液体モノマー11aを加熱、硬化させて弾性接着剤層により、チタンシートよりなる低熱伝導率シートを凹部に接着させた状態を示し、(d)は凹部の開口周縁端をかしめ加工して、環状突部を形成した状態を示す。
【図3】実施形態2に係るピストンの構成を示す断面図である。
【図4】実施形態2に係るピストンにおける低熱伝導率シートを示す斜視図である。
【図5】実施形態3に係るピストンの構成を示す断面図である。
【図6】実施形態3に係るピストンの製造工程を説明する断面図であって、(a)は鋳造により形成したピストン本体を示し、(b)はピストン本体の凹部の突起部にポリイミド前駆体としての液体モノマーを塗布した後であって、低熱伝導率シートを突起部に被せる前の状態を示す。
【図7】実施形態4に係るピストンの構成を示す断面図である。
【図8】実施形態4に係るピストンにおける低熱伝導率シートであって、曲折係合部を折り曲げる前の状態を示す斜視図である。
【図9】実施形態5に係るピストンの構成を示す断面図である。
【図10】実施形態6に係るピストンの構成を示す断面図である。
【図11】実施形態7に係るピストンの構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0118】
1…ピストン 1a…頂面
2…燃焼室 10…ピストン本体
11…弾性接着剤層 12…低熱伝導率シート
10a…凹部 3…突起部
3a…係合凹部 111…頂面部
112…側面部 112a…第1側面部(係合凸部)
121…突出係合部 122…頂面被覆部
123…側面被覆部 123a…曲折係合部
4…空洞部 10d、12a…空洞用凹部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室に面するピストン頂面を有するピストン本体と、
前記ピストン頂面に形成された耐熱樹脂よりなる弾性接着剤層と、
前記弾性接着剤層上に形成され、前記ピストン本体よりも低い熱伝導率を有し、該熱伝導率が5〜40W/m・Kの低熱伝導率シートと、を備えていることを特徴とするピストン。
【請求項2】
前記ピストン本体は前記ピストン頂面に設けられた凹部と該凹部の底面に設けられた突起部とを有し、
前記突起部は該突起部の外周側面に設けられた係合凹部を有し、
前記弾性接着剤層は前記突起部の頂面に形成された頂面部と前記外周側面に形成された側面部とを有し、
前記低熱伝導率シートは前記弾性接着剤層の前記頂面部を覆う頂面被覆部と該弾性接着剤層の前記側面部を覆う側面被覆部とを有する有底筒状を呈している請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
前記弾性接着剤層は前記係合凹部と係合する係合凸部を有している請求項2に記載のピストン。
【請求項4】
前記低熱伝導率シートは、前記側面被覆部の先端から内方に折り曲げられて前記係合凹部と係合する曲折係合部を有している請求項2〜3のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項5】
前記ピストン本体と前記低熱伝導率シートとの間には前記弾性接着剤層が介在して該ピストン本体と該低熱伝導率シートとが離れている請求項2〜4のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項6】
前記ピストン本体は前記ピストン頂面に設けられた凹部を有し、
前記弾性接着剤層は前記凹部の底面に形成され、
前記ピストン本体及び前記低熱伝導率シートのうちの一方は他方に係合する係合部を有している請求項1に記載のピストン。
【請求項7】
前記係合部はかしめ加工により形成されたかしめ部よりなる請求項6に記載のピストン。
【請求項8】
前記ピストン本体は前記凹部の内周側面に設けられた係合凹部を有し、
前記低熱伝導率シートは、該低熱伝導率シートの外周端から外方に突出して前記係合凹部と係合する突出係合部を有している請求項6に記載のピストン。
【請求項9】
前記ピストン本体又は前記低熱伝導率シートは前記弾性接着剤層との間に空洞部を形成する空洞用凹部を有していることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項10】
前記低熱伝導率シートがチタン、チタン系合金又はステンレス鋼よりなる請求項1〜9のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項11】
前記弾性接着剤層の熱伝導率は前記低熱伝導率シートの熱伝導率よりも低い請求項1〜10のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項12】
前記弾性接着剤層がポリイミド若しくはその変性体又はポリベンゾイミダゾール若しくはその変性体よりなる請求項11に記載のピストン。
【請求項13】
前記低熱伝導率シートの厚さが0.1〜0.5mmである請求項1〜12のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項14】
前記弾性接着剤層の厚さが0.01〜1.0mmである請求項1〜13のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項15】
燃焼室に面するピストン頂面を有するピストン本体と、該ピストン頂面に形成された耐熱樹脂よりなる弾性接着剤層と、該弾性接着剤層上に形成され、前記ピストン本体よりも低い熱伝導率を有し、該熱伝導率が5〜40W/m・Kの低熱伝導率シートと、を備えるピストンを製造する方法であって、
前記ピストン本体に有機溶剤を含む弾性接着剤を塗布する塗布工程と、
前記弾性接着剤を所定温度に加熱して前記有機溶剤を蒸発させるプリベイク工程と、
プリベイクした前記弾性接着剤の上に前記低熱伝導率シートを配置する配置工程と、
プリベイクした前記弾性接着剤を加熱して該弾性接着剤を重合、硬化させて前記弾性接着剤層を形成し、該弾性接着剤層により前記ピストン本体と前記低熱伝導率シートとを接合する接合工程とを備えることを特徴とするピストンの製造方法。
【請求項1】
燃焼室に面するピストン頂面を有するピストン本体と、
前記ピストン頂面に形成された耐熱樹脂よりなる弾性接着剤層と、
前記弾性接着剤層上に形成され、前記ピストン本体よりも低い熱伝導率を有し、該熱伝導率が5〜40W/m・Kの低熱伝導率シートと、を備えていることを特徴とするピストン。
【請求項2】
前記ピストン本体は前記ピストン頂面に設けられた凹部と該凹部の底面に設けられた突起部とを有し、
前記突起部は該突起部の外周側面に設けられた係合凹部を有し、
前記弾性接着剤層は前記突起部の頂面に形成された頂面部と前記外周側面に形成された側面部とを有し、
前記低熱伝導率シートは前記弾性接着剤層の前記頂面部を覆う頂面被覆部と該弾性接着剤層の前記側面部を覆う側面被覆部とを有する有底筒状を呈している請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
前記弾性接着剤層は前記係合凹部と係合する係合凸部を有している請求項2に記載のピストン。
【請求項4】
前記低熱伝導率シートは、前記側面被覆部の先端から内方に折り曲げられて前記係合凹部と係合する曲折係合部を有している請求項2〜3のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項5】
前記ピストン本体と前記低熱伝導率シートとの間には前記弾性接着剤層が介在して該ピストン本体と該低熱伝導率シートとが離れている請求項2〜4のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項6】
前記ピストン本体は前記ピストン頂面に設けられた凹部を有し、
前記弾性接着剤層は前記凹部の底面に形成され、
前記ピストン本体及び前記低熱伝導率シートのうちの一方は他方に係合する係合部を有している請求項1に記載のピストン。
【請求項7】
前記係合部はかしめ加工により形成されたかしめ部よりなる請求項6に記載のピストン。
【請求項8】
前記ピストン本体は前記凹部の内周側面に設けられた係合凹部を有し、
前記低熱伝導率シートは、該低熱伝導率シートの外周端から外方に突出して前記係合凹部と係合する突出係合部を有している請求項6に記載のピストン。
【請求項9】
前記ピストン本体又は前記低熱伝導率シートは前記弾性接着剤層との間に空洞部を形成する空洞用凹部を有していることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項10】
前記低熱伝導率シートがチタン、チタン系合金又はステンレス鋼よりなる請求項1〜9のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項11】
前記弾性接着剤層の熱伝導率は前記低熱伝導率シートの熱伝導率よりも低い請求項1〜10のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項12】
前記弾性接着剤層がポリイミド若しくはその変性体又はポリベンゾイミダゾール若しくはその変性体よりなる請求項11に記載のピストン。
【請求項13】
前記低熱伝導率シートの厚さが0.1〜0.5mmである請求項1〜12のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項14】
前記弾性接着剤層の厚さが0.01〜1.0mmである請求項1〜13のいずれか一つに記載のピストン。
【請求項15】
燃焼室に面するピストン頂面を有するピストン本体と、該ピストン頂面に形成された耐熱樹脂よりなる弾性接着剤層と、該弾性接着剤層上に形成され、前記ピストン本体よりも低い熱伝導率を有し、該熱伝導率が5〜40W/m・Kの低熱伝導率シートと、を備えるピストンを製造する方法であって、
前記ピストン本体に有機溶剤を含む弾性接着剤を塗布する塗布工程と、
前記弾性接着剤を所定温度に加熱して前記有機溶剤を蒸発させるプリベイク工程と、
プリベイクした前記弾性接着剤の上に前記低熱伝導率シートを配置する配置工程と、
プリベイクした前記弾性接着剤を加熱して該弾性接着剤を重合、硬化させて前記弾性接着剤層を形成し、該弾性接着剤層により前記ピストン本体と前記低熱伝導率シートとを接合する接合工程とを備えることを特徴とするピストンの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−267599(P2008−267599A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80619(P2008−80619)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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