説明

ピックアップ対物レンズ及びピックアップ対物レンズの設計方法

【課題】レーザ光源の発振波長が急激に変化しても、レーザ光の収束位置を焦点深度内とすることができるピックアップ対物レンズ及びピックアップ対物レンズの設計方法を提供する。
【解決手段】光源11から出射された光束を集光するピックアップレンズ14を、ピックアップレンズ14は、少なくとも一方の面に、複数の輪帯段差を有し、複数の輪帯段差は、波長が変化した場合にピックアップレンズ14により収束されるレーザ光の収束位置が焦点深度内となるようにレーザ光に位相差を発生させる段差量を有するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブルーレイ又はHD−DVD等の光ディスク装置におけるピックアップ対物レンズ、当該ピックアップ対物レンズの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ディスク装置等のレーザ光源の発振波長は、温度変化や出力の変化によって変化する(モードホップ現象)。例えば、BD(ブルーレイディスク)及びHD−DVDに使用される青色レーザーダイオードの発振波長は、出力を大きく変化させることにより、1nm程度変化する。具体的には、波長408nmの青色レーザーダイオードの発振波長は、再生から記録への切り替えにおける出力の変化により、408nmから409nmに変化する。
【0003】
また、光ディスク装置のピックアップ対物レンズの屈折率は、レーザ光源の波長変化によって変化する。そのため、出力の変化によって、レーザ光がピックアップ対物レンズによって収束される位置(収束位置、焦点位置)が変化する。当該収束位置の変化を軸上色収差(以下、単に、色収差と称する。)という。
収束位置の変化量は、ピックアップ対物レンズの焦点距離及び硝材によって異なる。ガラス又はプラスティックにより形成され、焦点距離が1.76mm(設計波長=408nm)の非球面単レンズを、CD、DVD、HD−DVD、BDのピックアップ対物レンズで考えた場合、レーザ光源の波長変化1nm当たりの収束位置の変化量(μm/nm)は、図24に示す表のようになる。
【0004】
ここで、レーザ光が光ディスク等に収束する場合、焦点ずれを起こすと収束スポットの形状が変化する。そして、焦点ずれを起こした収束スポットのピーク値は、合焦点時のピーク値(即ち、焦点ずれを起こしていない場合のピーク値)に比べて低くなる。また、焦点ずれを起こしたスポット径(1/e径)は、合焦点時のスポット径(即ち、焦点ずれしない場合のスポット径)より大きくなる。焦点ずれの許容範囲(焦点深度)を、焦点ずれした時のピーク値が合焦点時のピーク値の95%以上となる範囲とした場合、焦点深度は、図25に示す表のようになる。
【0005】
このように、対物レンズのNA(開口数)が大きいほど、また、光源波長が短くなるほど、焦点深度は浅くなる。そのため、温度変化や出力の変化により、光源波長の発振波長が変化して、収束位置が焦点深度の範囲外にずれてしまう場合も発生する。さらに、出力の変化による波長変化は瞬時に生じるため、当該波長変化に伴う焦点ずれを他の方法により補正することは難しい。そのため、光ディスクに記録再生ができなくなる、フォーカス制御が外れてしまう等の問題が発生する。
【0006】
一方、BD及びHD−DVDに使用される青色レーザーダイオードの発振波長は、408nmを中心に±5nm程度ばらついている。
ガラス又はプラスティックにより形成され、焦点距離が1.76mm(設計波長=408nm)であるBD対物レンズに発振波長が異なるレーザ光を平行入射した場合に生じるrms波面収差を図26の表に示す。図26に示すように、発振波長が403nm、408nm、413nmの何れの場合であっても、rms波面収差はマレシャル限界を超えていない。しかし、レーザ光の発振波長が設計波長408nmからずれるほど、rms波面収差が大きくなる。
【0007】
従来、ピックアップ対物レンズの色収差補正方法として2つの方法がよく使用されている。1つ目は、コリメータレンズにより色収差を補正する方法である。2つ目は、対物レンズ自身で色収差を補正する方法である。
【0008】
コリメータレンズにより色収差補正を行う場合、コリメータレンズの片側の面に複数の輪帯段差を設ける。そして、当該輪帯段差による回折を利用して色収差を補正する。
【0009】
また、対物レンズ自身により色収差補正を行う場合、対物レンズの片側の面に複数の輪帯段差を設ける。そして、当該輪帯段差による回折を利用して色収差を補正する。
【0010】
また、特許文献1には、色収差を補正する色収差補正用光学素子が開示されている。この色収差補正用光学素子は、550nm以下の波長の光を発生する光源と、d線のアッベ数が95.0以下である材料から形成された対物レンズとの間の光路中に配置される。そして、この色収差補正用光学素子は、少なくとも1つの面上に複数の輪帯段差からなる回折構造を有する。そして、当該回折構造は、P<P<Pを満たす(P:光源が発生する光の波長λにおける色収差補正用光学素子のトータルの近軸パワー(mm−1)、P:波長λより10nm短い波長λにおける色収差補正用光学素子のトータルの近軸パワー(mm−1)、P:波長λより10nm長い波長λにおける色収差補正用光学素子のトータルの近軸パワー(mm−1))。
【特許文献1】特開2003−167190号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、コリメータレンズにより色収差補正を行う場合、1つの対物レンズに対して専用のコリメータレンズを設計しなくてはならない。そのため、対物レンズを変更する場合には、コリメータレンズも変更しなければならないという無駄が生じる。
【0012】
また、対物レンズ自身により色収差補正を行う場合、対物レンズに設ける輪帯段差の数が多くなる。そして、輪帯段差の数が多くなると、輪帯段差間の傾斜部分の面積が増える。そのため、不要光が多くなり、対物レンズの光利用効率が低下してしまう。
【0013】
また、上記特許文献1に記載の色収差補正用光学素子は、上述のような対物レンズの屈折率の波長・温度依存性を考慮して設計されていない。そのため、出力を変化させることにより、レーザ光源の波長が急激に変化した場合に、対物レンズによって収束されるレーザ光の収束位置が焦点深度内とならないという問題がある。
【0014】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、レーザ光源の発振波長が急激に変化しても、レーザ光の収束位置を焦点深度内とすることができるピックアップ対物レンズ及びピックアップ対物レンズの設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明にかかるピックアップ対物レンズは、レーザ光源から出射された光束を集光するピックアップ対物レンズであって、前記ピックアップ対物レンズは、少なくとも一方の面に、複数の輪帯段差を有し、前記複数の輪帯段差は、波長が変化した場合に前記ピックアップ対物レンズにより収束されるレーザ光の収束位置が焦点深度内となるようにレーザ光に位相差を発生させる段差量を有するものである。
【0016】
本発明においては、ピックアップ対物レンズの少なくとも一方の面に複数の輪帯段差が設けられ、複数の輪帯段差は、波長が変化した場合にピックアップ対物レンズにより収束されるレーザ光の収束位置が焦点深度内となるような位相差を発生させる段差量を有する。これにより、レーザ光の波長が変化した場合、当該輪帯を透過したレーザ光に収束位置が焦点深度内となるような位相差が発生する。そして、当該位相差により、波長変化に伴う収束位置のずれが低減される。そのため、当該レーザ光はピックアップ対物レンズにより焦点深度内に収束される。従って、レーザ光源の発振波長が急激に変化しても、レーザ光の収束位置を焦点深度内とすることができる。
【0017】
また、前記複数の輪帯段差は、通常時における透過光の位相が輪帯相互に波長単位で異なる段差であって、波長が変化した場合に前記ピックアップ対物レンズにより収束されるレーザ光の収束位置が焦点深度内となるようにレーザ光に位相差を発生させる段差量を有することが好ましい。
これにより、波長が急激に変化した場合に、レーザ光の収束位置が焦点深度内となるような位相差がレーザ光に発生する。そのため、ピックアップ対物レンズにより収束されるレーザ光の収束位置を焦点深度内とすることができる。
【0018】
さらに、前記複数の輪帯段差は、波長が変化した場合に前記ピックアップ対物レンズにおいて発生する収差を低減するような段差量を有することが好ましい。
これにより、レーザ光の波長が変化した場合、当該輪帯を透過したレーザ光にピックアップ対物レンズにおいて発生する収差を低減する位相差が発生する。そして、当該位相差により、波長変化に伴ってピックアップ対物レンズにおいて発生する収差が低減される。従って、レーザ光の波長の変化に応じて発生する収差を低減することができる。
【0019】
また、隣り合う前記輪帯段差において、一の輪帯段差における前記ピックアップ対物レンズの厚さは、前記一の輪帯段差の内側の他の輪帯段差における前記ピックアップ対物レンズの厚さより、段差位置近傍にて厚いことが好ましい。
【0020】
また、本発明にかかるピックアップ対物レンズは、BD及び/又はHD−DVD用の記録再生装置に使用される。
これにより、例えば、本発明にかかるピックアップ対物レンズをBDとHD−DVD兼用の記録再生装置に取り付ければ、1つのピックアップ対物レンズでBDとHD−DVDの両方の収差を補正することができる。
【0021】
また、本発明にかかる他のピックアップ対物レンズは、波長λの光束を厚さt1の透明基板を有する第1の光記録媒体の情報記録面上に集光させ、且つ、波長λの光束を厚さt2(t1<t2)の透明基板を有する第2の光記録媒体の情報記録面上に集光させるピックアップ対物レンズであって、少なくとも前記ピックアップ対物レンズの一面は、透過する光束を第1の光記録媒体の情報記録面上に集光させるための第1の光記録媒体用領域と、透過する光束を第2の光記録媒体の情報記録面上に集光させるための第2の光記録媒体用領域に分割され、前記第1の光記録媒体用領域は、複数の輪帯段差を有し、前記複数の輪帯段差は、波長が変化した場合に前記ピックアップ対物レンズにより収束されるレーザ光の収束位置が焦点深度内となるようにレーザ光に位相差を発生させる段差量を有するものである。
【0022】
本発明においては、基板厚さの異なる2種類の光記録媒体の記録・再生を行う光ピックアップ装置においても使用することができる。
【0023】
また、前記複数の輪帯段差は、通常時における透過光の位相が輪帯相互に波長単位で異なる段差であって、波長が変化した場合に前記ピックアップ対物レンズにより収束されるレーザ光の収束位置が焦点深度内となるようにレーザ光に位相差を発生させる段差量を有することが好ましい。
【0024】
さらに、前記複数の輪帯段差は、波長が変化した場合に前記ピックアップ対物レンズにおいて発生する収差を低減するような段差量を有することが好ましい。
【0025】
本発明にかかるピックアップ対物レンズの設計方法は、ピックアップ対物レンズの設計方法であって、前記ピックアップ対物レンズの少なくとも一方の表面に複数の輪帯段差を形成し、前記複数の輪帯段差は、波長が変化した場合に前記ピックアップ対物レンズにより収束される前記レーザ光の収束位置が焦点深度内となるようにレーザ光に位相差を発生させる段差量を有するものである。
【0026】
また、前記複数の輪帯段差は、通常時における透過光の位相が輪帯相互に波長単位で異なる段差であって、波長が変化した場合に前記ピックアップ対物レンズにより収束されるレーザ光の収束位置が焦点深度内となるようにレーザ光に位相差を発生させる段差量を有することが好ましい。
【0027】
さらに、前記複数の輪帯段差は、波長が変化した場合に前記ピックアップ対物レンズにおいて発生する収差を低減するような段差量を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、レーザ光源の発振波長が急激に変化しても、レーザ光の収束位置を焦点深度内とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。図1は、本発明の実施の形態にかかる光ピックアップ装置1の一例を示したものである。光ピックアップ装置1は、光源11(レーザ光源)、ビームスプリッタ12、コリメータレンズ13、ピックアップレンズ14(ピックアップ対物レンズ)、検出系16等を備えている。
【0030】
光源11は、HD−DVD、及びBD用に用いられる青色レーザーダイオード等を備えている。
【0031】
光源11から出射されたレーザ光の光路上にビームスプリッタ12が設けられている。
【0032】
ビームスプリッタ12より出射したレーザ光の光路上にコリメータレンズ13が設けられている。コリメータレンズ13は、光源11から出射されたレーザ光を発散光から略平行光に変換する。
【0033】
コリメータレンズ13を透過したレーザ光の光路上にピックアップレンズ14が設けられている。
【0034】
ピックアップレンズ14は、入射された光を光ディスク15の情報記録面に回折限界近くまで集光させる機能を有する。ピックアップレンズ14は、さらに、光ディスク15の情報記録面で反射されたレーザ光を検出系16に導く機能も有する。
また、ピックアップレンズ14は、少なくとも一方の面に複数の輪帯段差を有する。換言すれば、ピックアップレンズ14の少なくとも一方の面には、ピックアップレンズ14の中心(光軸)を同心とする複数の輪帯が形成されている。また、ピックアップレンズ14は、プラスティック素材から形成されている。
【0035】
後述するように、ピックアップレンズ14に形成された複数の輪帯段差の光軸OA(後述)方向における位置は、通常時(レーザ光の波長が変化していない場合)に透過したレーザ光の位相が隣接する輪帯相互に波長単位で異なるように設定されている。
また、ピックアップレンズ14に形成された複数の輪帯段差は、波長が変化した場合にピックアップレンズ14により収束されるレーザ光の収束位置が焦点深度内となるようにレーザ光に位相差を発生させる段差量を有する。同時に、当該段差量は、波長が変化した場合にピックアップレンズ14において発生する収差を低減するように設定されている。具体的には、隣り合う輪帯段差において、一の輪帯段差におけるピックアップレンズ14の厚さが、当該一の輪帯段差の内側の他の輪帯段差におけるピックアップレンズ14の厚さより、段差位置近傍にて厚くなるように輪帯段差が形成されている。即ち、ピックアップレンズ14の輪帯段差のある面の形状が中心から外側に向かうにつれて鋸状になるように輪帯段差が形成されている。
【0036】
光源11の発振波長は、光源11の出力の変化により1nm程度変化する。例えば、光源11の発振波長は、再生から記録への切り替えにおける出力の変化により、408nmから409nmに変化する。出力の変化によって光源11の発振波長が変化すると、ピックアップレンズ14の屈折率も変化する。そして、ピックアップレンズ14により収束される光源11のレーザ光の収束位置も変化する。しかし、レーザ光がピックアップレンズ14に設けられた複数の輪帯を透過することにより、レーザ光に収束位置が焦点深度内となるような位相差が発生する。そのため、光源11の発振波長が変化しても、ピックアップレンズ14により収束されるレーザ光の収束位置は焦点深度内となる。
【0037】
フォーカスサーボ時、及びトラッキングサーボ時には、ピックアップレンズ14が図示されないアクチュエータにより動作する。
【0038】
なお、本実施の形態では、HD−DVD用、BD用の光ディスク15の透明基板はポリカーボネイトとし、HD−DVD用、BD用の光ディスク15の透明基板厚は、それぞれ0.6mm、0.0875mmとした。
【0039】
次に、光源11から出射されたレーザ光が光ディスク15の情報記録面で反射され検出系16に検出されるまでの挙動について説明する。光源11から出射されたレーザ光はビームスプリッタ12を透過してコリメータレンズ13に入射する。
【0040】
コリメータレンズ13は、光源11から出射されたレーザ光を発散光から略平行光に変換する。
【0041】
コリメータレンズ13を透過したレーザ光はピックアップレンズ14に入射される。ここで、本実施の形態においては、レーザ光の波長が変化した場合、このピックアップレンズ14に設けられた複数の輪帯は、ピックアップレンズ14により収束されるレーザ光の収束位置が焦点深度内となるようにレーザ光の位相を補正する。そして、ピックアップレンズ14は、補正後のレーザ光を光ディスク15の情報記録面に回折限界近くまで集光させる。光ディスク15の情報記録面で反射されたレーザ光は、ピックアップレンズ14を介して検出系16に入射し、検出される。検出系16は、当該レーザ光を検出し、光電変換することによって、フォーカスサーボ信号、トラックサーボ信号、再生信号などを生成する。
【0042】
次に、本発明の実施の形態にかかる光ピックアップ装置1において用いられるピックアップレンズ14について詳細に説明する。図2は、本実施の形態にかかる光ピックアップ装置1におけるピックアップレンズ14を示す図であり、図2(a)は、通常時におけるレーザ光の波面(位相)を示し、図2(b)は、レーザ光の波長が短くなった場合におけるレーザ光の波面(位相)を示し、図2(c)は、レーザ光の波長が長くなった場合におけるレーザ光の波面(位相)を示している。本実施形態では、ピックアップレンズ14の光源11側の面に、上述した複数の輪帯段差を設ける。そして、ピックアップレンズ14の輪帯段差の光軸OA(後述)方向における位置は、通常時において透過したレーザ光の位相が隣接する輪帯相互に波長単位で異なるように設定されている。また、ピックアップレンズ14の輪帯段差は、波長が変化した場合にピックアップレンズ14により収束されるレーザ光の収束位置が焦点深度内となるようにレーザ光に位相差を発生させる段差量を有する。
【0043】
すなわち、通常時にレーザ光がピックアップレンズ14に入射する場合、各輪帯段差を透過したレーザ光の位相は相互に波長の整数倍だけ異なる。従って、図2(a)に示されるように、通常時には、異なる輪帯段差を透過したレーザ光には位相差が発生しない。そのため、ピックアップレンズ14に入射したレーザ光は、同一位相のまま、出射する。従って、通常時において、ピックアップレンズ14により収束されるレーザ光の収束位置は輪帯段差が形成されていない場合と略同じ位置となる。本実施形態において、レーザ光が最良の状態で収束するように所望する位置は、光ディスク15(図示せず)の情報記録面である。すなわち、レーザ光は、合焦点時に、光ディスク15の情報記録面に良好に集光する。
【0044】
他方、図2(b)、(c)に示されるように、出力の変化等により波長が変化し、波長が変化したレーザ光がピックアップレンズ14に入射する場合、各輪帯段差を透過したレーザ光の位相の違いは波長の整数倍とならない。従って、図2(b)、(c)に示されるように、波長が変化した場合には、異なる輪帯段差を透過したレーザ光に位相差が発生する。そして、本発明においては、当該位相差は、ピックアップレンズ14により収束されるレーザ光の収束位置が焦点深度内となるように調節する大きさとなっている。そのため、波長が変化した場合、従来ではピックアップレンズ14により収束されるレーザ光の収束位置が変化してしまうが、本発明においては、ピックアップレンズ14の各輪帯を透過したレーザ光の位相差により、波長変化に伴うレーザ光の収束位置の変化が抑制される。そして、ピックアップレンズ14より出射したレーザ光は、光ディスク15の情報記録面に良好に集光する。
【0045】
また、ピックアップレンズ14の輪帯段差は、レーザ光の波長が変化した場合にピックアップレンズ14で発生する収差を低減する段差量を有する。
また、実際には、光源11の発振波長は408nmを中心に±5nm程度ばらついている。図3(a)に光源11の波長が403nmである場合に輪帯が形成されていないピックアップレンズにおいて発生するrms波面収差を示し、図4(a)に光源11の波長が413nmである場合に輪帯が形成されていないピックアップレンズにおいて発生するrms波面収差を示す。また、図3(b)に光源11の波長が403nmである場合にピックアップレンズ14において発生するrms波面収差を示し、図4(b)に光源11の波長が413nmである場合にピックアップレンズ14において発生するrms波面収差を示す。なお、図3、図4において、縦軸はrms波面収差の大きさを表し、横軸はピックアップレンズの径方向における位置を表す。
【0046】
図3(a)、図4(a)に示すように、光源11の発振波長が403nm、413nmである場合、輪帯が形成されていないピックアップレンズでは、rms波面収差は非常に大きくなる。
一方、図3(b)、図4(b)に示すように、光源11の発振波長が403nm、413nmであっても、輪帯が形成されているピックアップレンズ14では、rms波面収差を小さく抑えることが出来る。具体的には、図3(b)、図4(b)に示すように、ピックアップレンズ14に形成された輪帯段差によって各輪帯を透過したレーザ光に位相差が発生する。そして、当該位相差が、波長変動によりピックアップレンズ14において発生する収差を低減する。これにより、レーザ光11の発振波長が408nmを中心に±5nm程度ばらついていても、ピックアップレンズ14において発生する収差は低減される。従って、ピックアップレンズ14より出射したレーザ光は、光ディスク15の情報記録面に良好に集光する。
【0047】
このように構成された本実施の形態にかかるピックアップレンズ14によれば、ピックアップレンズ14の少なくとも一方の面に複数の輪帯段差が設けられ、複数の輪帯段差は、波長が変化した場合にピックアップレンズ14により収束されるレーザ光の収束位置が焦点深度内となるような位相差を発生させる段差量を有する。これにより、レーザ光の波長が変化した場合、当該輪帯を透過したレーザ光に収束位置が焦点深度内となるような位相差が発生する。そして、当該位相差により、波長変化に伴う収束位置のずれが低減される。そのため、当該レーザ光はピックアップレンズ14により焦点深度内に収束される。従って、レーザ光源の発振波長が急激に変化しても、レーザ光の収束位置を焦点深度内とすることができる。
【0048】
具体的には、複数の輪帯段差は、通常時における透過光の位相が輪帯相互に波長単位で異なる段差であって、波長が変化した場合にピックアップレンズ14により収束されるレーザ光の収束位置が焦点深度内となるようにレーザ光に位相差を発生させる段差量を有する。
これにより、波長が急激に変化した場合に、レーザ光の収束位置が焦点深度内となるような位相差がレーザ光に発生する。そのため、ピックアップレンズ14により収束されるレーザ光の収束位置を焦点深度内とすることができる。
【0049】
さらに、複数の輪帯段差は、波長が変化した場合にピックアップレンズ14において発生する収差を低減するような段差量を有する。
これにより、レーザ光の波長が変化した場合、当該輪帯を透過したレーザ光にピックアップレンズ14において発生する収差を低減する位相差が発生する。そして、当該位相差により、波長変化に伴ってピックアップレンズ14において発生する収差が低減される。従って、レーザ光の波長の変化に応じて発生する収差を低減することができる。
【0050】
また、さらに、隣り合う輪帯段差において、一の輪帯段差におけるピックアップレンズ14の厚さは、当該一の輪帯段差の内側の他の輪帯段差におけるピックアップレンズ14の厚さより、段差位置近傍にて厚いことが好ましい。
【0051】
また、本発明にかかるピックアップレンズ14は、BD及びHD−DVD用の光ピックアップ装置1に使用される。
これにより、例えば、本発明にかかるピックアップレンズ14をBDとHD−DVD兼用の光ピックアップ装置に取り付ければ、1つのピックアップレンズ14でBDとHD−DVDの両方の収差を補正することができる。
【0052】
なお、本実施の形態において、ピックアップレンズ14は、プラスティック素材からなるとしたが、ガラス素材により形成されてもよい。
【実施例1】
【0053】
次に、本発明の実施例1について、本発明範囲から外れる比較例1と比較して説明する。実施例1としては、図5に示すように、ピックアップレンズ14の光源11(図示せず)側の面に複数の輪帯段差を設けた。図14に示す表に、本実施例1にかかるピックアップレンズ14の輪帯番号、輪帯位置(光軸OA(後述)に垂直な方向における輪帯が形成される位置)、及び軸上段差量を示す。図6に、本発明にかかるピックアップレンズ14の側面図を示す。ここで、軸上段差量とは、図6において、各輪帯の面形状を仮想的に光軸OA側へと延長した場合に、当該面形状がレンズ光軸と仮想的に交差する交点X1と、第1輪帯の面形状が光軸OAに交差する交点X2との距離B1を表している。なお、各輪帯の曲率、円錐係数、非球面係数がそれぞれ異なっているため、各輪帯の面形状は微妙に異なっている。そのため、距離B1と、各輪帯の段差B2とは、一致するとは限らない。そのため、各輪帯の面形状がレンズ光軸と仮想的に交差する交点X1と、第1輪帯の面形状が光軸OAに交差する交点X2との距離B1を用いて、各輪帯間の段差量を表す。軸上段差量が正の値となる場合は、当該仮想的な交点X1がピックアップレンズ14の光ディスク15側にあることを意味する。また、軸上段差量が負の値となる場合は、当該仮想的な交点X1がピックアップレンズ14の光源11側にあることを意味する。図14に示すように、隣り合う輪帯段差において、一の輪帯段差における軸上段差量が、当該一の輪帯段差の内側の他の輪帯段差における軸上段差量より小さい負の値となるように、輪帯段差が形成されている。具体的には、輪帯段差は、軸上段差量がレンズの中心から外縁部に向かうにつれて、0.006229mmずつ小さな負の値となるように、形成されている。換言すれば、輪帯段差は、当該仮想的な交点X1がピックアップレンズ14の光源11側に0.006229mmずつ移動するように、形成されている。また、輪帯段差の数は15である。そして、当該輪帯段差の光軸OA方向における位置は、光源11の波長が変化しなかった場合に、隣り合う輪帯段差を透過したレーザ光の位相が波長単位で異なるように設計されている。
【0054】
また、図15、図16、図17に示す表に、本実施例1にかかる光学系のデータを示す。図15において、対物レンズR1面とは、ピックアップレンズ14の光源11側の面である。また、対物レンズR2面とは、ピックアップレンズ14の光ディスク15側の面である。図15に示すように、ピックアップレンズ14としてプラスティック製レンズを使用した。また、図16に示す係数の値は、ピックアップレンズ14の面形状を規定する数式(1)、数式(2)で用いられる係数の値である。また、図17に示す係数の値は、ピックアップレンズ14の面形状を規定する数式(2)で用いられる係数の値である。なお、図16において、面番号2(即ち、ピックアップレンズ14の光源11側の面)の係数の値は、ピックアップレンズ14の第1輪帯(ピックアップレンズ14の中心から1つ目の輪帯)の面形状を規定するものである。また、図16において、面番号3(即ち、ピックアップレンズ14の光ディスク15側の面)の係数の値は、ピックアップレンズ14の光ディスク15側の面全体の面形状を規定するものである。また、図17に示す係数の値は、ピックアップレンズ14の第2輪帯〜第15輪帯のそれぞれの面形状を規定するものである。
【0055】
図7を用いて、数式(1)、数式(2)を説明する。図7は、ピックアップレンズの一例を示す側面図である。
まず、ピックアップレンズの光出射面R2(対物レンズR2面)の面形状について説明する。図7において、光線の高さをh、対物レンズ1の光出射面R2の頂点をe、頂点eと接する接面上における光線高さhの点をc、この点cから光軸OAに平行な方向での光出射面R2上の点をdとすると、任意の光線高さhに対する点c,d間の距離Z
【数1】

で表されるように、光出射面R2の面形状が形成される。
そして、数式(1)と図16に示す面番号3の係数の値とにより、ピックアップレンズ14の光ディスク15側の面全体の面形状が規定される。
【0056】
なお、数式(1)に、上記係数C,K,A4,A6,A8,A10の値を代入して任意の光線高さh(≠0)に対する距離Zを求め、その値が負の値となった場合は、点dが、光出射面R2の光軸OAが通る面頂点eよりも出射面側(図7での左側)に位置することを示している。距離Zが正の値である場合には、点dが頂点eよりも右側に位置することを示している。
【0057】
次に、ピックアップレンズの光入射面R1(対物レンズR1面)の面形状について説明する。図7において、対物レンズ1の光入射面R1の頂点をf、頂点fと接する接面上における光線高さhの点をa、この点aから光軸OAに平行な方向での光入射面R1上の点をbとすると、任意の光線高さhに対する点a,b間の距離Z
【数2】

で表されるように、光入射面R1の面形状が形成される。
【0058】
なお、ピックアップレンズ14の第1輪帯、第2輪帯、・・・、第15輪帯の面形状を規定する場合、数式(2)の係数hには、それぞれ、図14の表に示す第1輪帯、第2輪帯、・・・、第15輪帯の輪帯位置の値を代入する。また、ピックアップレンズ14の第1輪帯、第2輪帯、・・・、第15輪帯の面形状を規定する場合、数式(2)の係数Bは、それぞれ、図14の表に示す第1輪帯、第2輪帯、・・・、第15輪帯の軸上段差量の値を代入する。そして、数式(2)と、図16に示す面番号2の係数の値及び図17に示す係数の値とにより、ピックアップレンズ14の第1輪帯〜第15輪帯の面形状が規定される。
【0059】
これに対し、輪帯段差を有しないピックアップレンズを比較例1とする。図8(a)に、比較例1において光源11の波長が403nmから404nmに変化した場合のrms波面収差を示し、図8(b)に、比較例1において光源11の波長が408nmから409nmに変化した場合のrms波面収差を示し、図8(c)に、比較例1において光源11の波長が413nmから414nmに変化した場合のrms波面収差を示す。縦軸のスケールは0.5λである。
図8に示すように、輪帯段差を有しないピックアップレンズの場合、光源11の波長が403nmから404nm、408nmから409nm、413nmから414nmに変化すると、光ディスク15の情報記録面に形成された光スポットのrms波面収差は、それぞれ、113.3mλ、106.4mλ、110.8mλとなる。
また、光源11の波長が403nm、413nmである場合、輪帯段差を有しないピックアップレンズでは、レーザ光の収束位置の合焦点位置(光ディスク15の情報記録面)からのずれ量は、それぞれ、−1.634μm、+1.570μmとなる。
また、光源11の波長が403nm、408nm、413nmである場合、輪帯段差を有しないピックアップレンズでは、収束位置でのrms波面収差は、それぞれ、35.3mλ、2.0mλ、35.4mλとなる。
【0060】
一方、図9(a)に、実施例1において光源11の波長が403nmから404nmに変化した場合のrms波面収差を示し、図9(b)に、実施例1において光源11の波長が408nmから409nmに変化した場合のrms波面収差を示し、図9(c)に、実施例1において光源11の波長が413nmから414nmに変化した場合のrms波面収差を示す。縦軸のスケールは0.2λである。
図9に示すように、複数の輪帯段差を有するピックアップレンズ14の場合、光源11の波長が403nmから404nm、408nmから409nm、413nmから414nmに変化すると、光ディスク15の情報記録面に形成された光スポットのrms波面収差は、それぞれ、29.7mλ、12.3mλ、38.5mλとなる。
また、光源11の波長が403nm、413nmである場合、複数の輪帯段差を有するピックアップレンズ14では、レーザ光の収束位置の合焦点位置(光ディスク15の情報記録面)からのずれ量は、それぞれ、−0.206μm、+0.139μmとなる。
また、光源11の波長が403nm、408nm、413nmである場合、ピックアップレンズ14では、収束位置でのrms波面収差は、それぞれ、32.5mλ、1.3mλ、31.7mλとなる。
【0061】
合焦点位置(光ディスク15の情報記録面)から収束位置がずれた場合(即ち、焦点ずれした場合)、光スポットの収束位置でのレーザ光のピーク値は、合焦点位置でのピーク値(即ち、焦点ずれしない場合のピーク値)に比べて低くなる。換言すると、レーザ光の収束位置が光ディスク15の情報記録面からずれた場合(焦点ずれした場合)、光ディスク15の情報記録面に形成された光スポットのピーク値は、レーザ光の収束位置が光ディスク15の情報記録面となった場合(焦点ずれしない場合)における光ディスク15の情報記録面に形成された光スポットのピーク値に比べて低くなる。焦点ずれの許容範囲(焦点深度)を、焦点ずれした時のピーク値が合焦点時のピーク値の95%以上となる範囲とした場合、焦点深度は、HD−DVDの場合0.21μmであり、BDの場合0.11μmである。
【0062】
比較例1にかかる輪帯段差を有しないピックアップレンズにおいては、図8に示すように、光源11の波長が1nm変化することにより、ピックアップレンズにおいて発生する収差が大きくなり、マレシャル限界を超えてしまう。
また、比較例1において、光源11の波長が403nm、413nmである場合、波長が1nm変化することにより、収束位置は焦点深度外となってしまう。
これに対して、実施例1にかかる複数の輪帯段差を有するピックアップレンズ14においては、図9に示すように、光源11の波長が1nm変化しても、ピックアップレンズ14において発生する収差は、マレシャル限界を超えない。
また、実施例1において、光源11の波長が403nm、413nmである場合、波長が1nm変化しても、収束位置は焦点深度内となる。即ち、ピックアップレンズ14に設けられた輪帯段差により、光源11の波長にばらつきがあっても、レーザ光の収束位置が焦点深度内になっている。
【0063】
上述の実施例1によれば、従来、回折を利用してピックアップレンズの収差補正する場合に比べて、ピックアップレンズ14に形成する輪帯段差の数をより少なくすることができる。例えば、本発明のピックアップレンズ14に設けられる輪帯段差の数は、15輪帯(段差=8次)である。一方、従来の回折を利用して収差補正を行う場合、例えば、ピックアップレンズに設けられる輪帯段差の数は、30輪帯(8次)である。そして、輪帯段差の数が少なくなると、輪帯段差間の傾斜部分の面積が減る。そのため、不要光が少なくなり、ピックアップレンズ14の光利用効率を向上することができる。
【実施例2】
【0064】
次に、本発明の実施例2について、本発明範囲から外れる比較例2と比較して説明する。実施例2にかかるピックアップレンズ17は、プラスティック製のBD/HD−DVD互換レンズである。そして、ピックアップレンズ17の光源11(図示せず)側の面に複数の輪帯段差を設けた。ピックアップレンズ17を図10に示す。
【0065】
実施例2にかかるピックアップレンズ17の光源11側の面は、透過する光束をBD(第1の光記録媒体)の情報記録面上に集光するためのBD領域(第1の光記録媒体用領域)と、透過する光束をHD−DVD(第2の光記録媒体)の情報記録面上に集光するためのHD領域(第2の光記録媒体用領域)に分割されている。BD領域とHD領域は、ピックアップレンズ17において交互に配置されている。図10では、BD領域を透過する光線のみを表示している。
【0066】
また、実施例2にかかるピックアップレンズ17は収差補正機能を持つ。具体的には、ピックアップレンズ17は、BD領域に複数の輪帯段差を有する。図18に示す表に、本実施例2にかかるピックアップレンズ17の輪帯番号、輪帯位置、及び軸上段差量を示す。なお、図18に示す軸上段差量は、各輪帯の面形状を仮想的に光軸OA側へと延長した場合に当該面形状が光軸OAと仮想的に交差する交点X1の位置の変化量の値である。図18に示すように、隣り合う輪帯段差において、一の輪帯段差における軸上段差量が、当該一の輪帯段差の内側の他の輪帯段差における軸上段差量より小さい負の値となるように、輪帯段差が形成されている。具体的には、輪帯段差は、軸上段差量がレンズの中心から外縁部へ向かうにつれて小さな負の値となるように、形成されている。換言すれば、輪帯段差は、当該仮想的な交点X1がピックアップレンズ14の光源11側に移動するように、形成されている。また、輪帯段差の数は19である。そして、当該輪帯段差の光軸OA方向における位置は、光源11の波長が変化しなかった場合に、隣り合う輪帯段差を透過したレーザ光の位相が波長単位で異なるように設計されている。また、ピックアップレンズ17のHD領域は、凸レンズ面となるような曲率半径を有する。そのため、実施例2にかかるピックアップレンズ17の光源11側の面は、全体として、略凸レンズ面となるような形状となっている。
【0067】
また、図19、図20、図21に示す表に、本実施例2のBD領域における光学系のデータを示す。図19において、対物レンズR1面とは、ピックアップレンズ17の光源11側の面である。また、対物レンズR2面とは、ピックアップレンズ17の光ディスク15側の面である。また、図20に示す係数の値は、ピックアップレンズ17の面形状を規定する数式(1)、数式(2)で用いられる係数の値である。また、図21に示す係数の値は、ピックアップレンズ17の面形状を規定する数式(2)で用いられる係数の値である。なお、図20において、面番号2(即ち、ピックアップレンズ17の光源11側の面)の係数の値は、ピックアップレンズ17のBD領域における第1輪帯(ピックアップレンズ17の中心から1つ目の輪帯)の面形状を規定するものである。また、図20において、面番号3(即ち、ピックアップレンズ17の光ディスク15側の面)の係数の値は、ピックアップレンズ17の光ディスク15側の面全体の面形状を規定するものである。また、図21に示す係数の値は、ピックアップレンズ17のBD領域における第2輪帯〜第19輪帯のそれぞれの面形状を規定するものである。
【0068】
そして、数式(1)と図20に示す面番号3の係数の値とにより、ピックアップレンズ17の光ディスク15側の面全体の面形状が規定される。
また、ピックアップレンズ17の第1輪帯、第2輪帯、・・・、第19輪帯の面形状を規定する場合、数式(2)の係数hには、それぞれ、図18の表に示す第1輪帯、第2輪帯、・・・、第19輪帯の輪帯位置の値を代入する。また、ピックアップレンズ17の第1輪帯、第2輪帯、・・・、第19輪帯の面形状を規定する場合、数式(2)の係数Bには、それぞれ、図18の表に示す第1輪帯、第2輪帯、・・・、第19輪帯の軸上段差量の値を代入する。そして、数式(2)と、図20に示す面番号2の係数の値及び図21に示す係数の値とにより、ピックアップレンズ17の第1輪帯〜第19輪帯の面形状が規定される。
【0069】
また、図22、図23に示す表に本実施例のHD領域における光学系のデータを示す。図22において、対物レンズR1面とは、ピックアップレンズ17の光源11側の面である。また、対物レンズR2面とは、ピックアップレンズ17の光ディスク15側の面である。また、図23に示す係数の値は、ピックアップレンズ17の面形状を規定する数式(1)、数式(2)で用いられる係数の値である。なお、図23において、面番号2(即ち、ピックアップレンズ17の光源11側の面)の係数の値は、ピックアップレンズ17のHD領域の面形状を規定するものである。また、図23において、面番号3(即ち、ピックアップレンズ17の光ディスク15側の面)の係数の値は、ピックアップレンズ17の光ディスク15側の面全体の面形状を規定するものである。
また、ピックアップレンズ17のHD領域の面形状を規定する場合、数式(2)において、係数Bには、「0」の値が代入される。これは、本実施形態において、HD領域には、輪帯段差が形成されないためである。
そして、数式(1)と図23に示す面番号3の係数の値とにより、ピックアップレンズ17の光ディスク15側の面全体の面形状が規定される。また、数式(2)と図23に示す面番号2の係数とにより、ピックアップレンズ17のHD領域の面形状が規定される。
【0070】
これに対し、比較例2にかかるピックアップレンズ18は、輪帯段差を有しないBD/HD−DVD互換レンズである。なお、ピックアップレンズ18は、実施例2にかかるピックアップレンズ17と同一のプラスティック素材により形成した。ピックアップレンズ18を図11に示す。
【0071】
比較例2にかかるピックアップレンズ18の光源11側の面は、実施例2と同様に、BD領域とHD領域とに分割されている。BD領域とHD領域は、ピックアップレンズ18において交互に配置されている。図11では、BD領域を透過する光線のみを表示している。また、比較例2にかかるピックアップレンズ18は位相補正機能を持たない。即ち、実施例2にかかるピックアップレンズ17と異なり、ピックアップレンズ18のBD領域では、輪帯間で輪帯段差を透過したレーザ光の位相は同じである。ピックアップレンズ18のBD領域及びHD領域は、各々別の凸レンズ面となるような面形状を有する。具体的には、ピックアップレンズ18のBD領域は、図20に示す表の面番号2の係数の値と数式(2)とにより規定される面形状を有する。また、ピックアップレンズ18のHD領域は、図23に示す表の面番号2の係数の値と数式(2)とにより規定される面形状を有する。なお、ピックアップレンズ18のBD領域及びHD領域の面形状を規定する場合、数式(2)において、軸上段差量であるBには、「0」の値が代入される。これは、ピックアップレンズ18のBD領域及びHD領域で、それぞれ輪帯間の面形状の位置は変化していないためである。また、ピックアップレンズ18のディスク15側の面は、図20又は図23に示す表の面番号3の係数の値と数式(1)とにより規定される面形状を有する。そして、ピックアップレンズ18のBD領域とHD領域とが異なる非球面形状を有することにより、BDに対してもHD−DVDに対してもそれぞれの光束は適切な位置に集光する。
【0072】
なお、実施例2及び比較例2にかかるBD/HD−DVD互換レンズでは、入射光の光束分割を行っているため、超解像現象が起こり、スポット径が小さくなりすぎる。そのため、BDにおける通常のNA(開口数)は0.85であるが、実施例2及び比較例2では、NAを約0.79に補正している。
【0073】
図12(a)に、比較例2において光源11の波長が403nmから404nmに変化した場合のrms波面収差を示し、図12(b)に、比較例2において光源11の波長が408nmから409nmに変化した場合のrms波面収差を示し、図12(c)に、比較例2において光源11の波長が413nmから414nmに変化した場合のrms波面収差を示す。縦軸のスケールは0.5λである。
図12に示すように、比較例2にかかるピックアップレンズ18を用いた場合では、光源11の波長が403nmから404nm、408nmから409nm、413nmから414nmに変化すると、光ディスク15の情報記録面に形成された光スポットのrms波面収差は、それぞれ、95.6mλ、91.1mλ、91.5mλとなる。
また、光源11の波長が403nm、413nmである場合、比較例2のピックアップレンズ18を用いると、レーザ光の収束位置の合焦点位置(光ディスク15の情報記録面)からのずれ量は、それぞれ、−1.577μm、+1.516μmとなる。
また、光源11の波長が403nm、408nm、413nmである場合、比較例2のピックアップレンズ18を用いると、収束位置でのrms波面収差は、それぞれ、20.4mλ、1.8mλ、21.9mλとなる。
【0074】
一方、図13(a)に、実施例2において光源11の波長が403nmから404nmに変化した場合のrms波面収差を示し、図13(b)に、実施例2において光源11の波長が408nmから409nmに変化した場合のrms波面収差を示し、図13(c)に、実施例2において光源11の波長が413nmから414nmに変化した場合のrms波面収差を示す。縦軸のスケールは0.1λである。
図13に示すように、実施例2にかかるピックアップレンズ17を用いる場合、光源11の波長が403nmから404nm、408nmから409nm、413nmから414nmに変化すると、光ディスク15の情報記録面に形成された光スポットのrms波面収差は、それぞれ、18.8mλ、4.7mλ、27.4mλとなる。
また、光源11の波長が403nm、413nmである場合、実施例2のピックアップレンズ17を用いると、レーザ光の収束位置の合焦点位置(光ディスク15の情報記録面)からのずれ量は、それぞれ、−0.044μm、+0.019μmとなる。
また、光源11の波長が403nm、408nm、413nmである場合、実施例2のピックアップレンズ17を用いると、収束位置でのrms波面収差は、それぞれ、23.5mλ、1.0mλ、22.9mλとなる。
【0075】
比較例2においては、図12に示すように、光源11の波長が1nm変化することにより、ピックアップレンズ18において発生する収差が大きくなり、マレシャル限界を超えてしまう。
また、比較例2において、光源11の波長が403nm、413nmである場合、収束位置は焦点深度外となってしまう。
これに対して、実施例2においては、図13に示すように、光源11の波長が1nm変化しても、ピックアップレンズ17において発生する収差は、マレシャル限界を超えない。
また、実施例2において、光源11の波長が403nm、413nmであっても、収束位置は焦点深度内となっている。即ち、ピックアップレンズ17に形成された輪帯段差による収差補正機能により、光源11の波長にばらつきがあっても、レーザ光の収束位置が焦点深度内になっている。
【0076】
なお、実施例1、2においては、プラスティック製のピックアップレンズを使用したが、ガラス製のピックアップレンズを使用しても同様の作用効果が得られる。
また、実施例2においては、ピックアップレンズ17のBD領域にのみ収差補正機能を設けたが、HD領域にも同様に適宜収差を補正する機能を設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の実施の形態にかかる光ピックアップ装置の一例を示したものである。
【図2】通常時において本実施形態にかかるピックアップレンズを透過するレーザ光の波面(位相)を示す図(図2(a))であり、レーザ光の波長が短くなった場合において本実施形態にかかるピックアップレンズを透過するレーザ光の波面(位相)を示す図(図2(b))、レーザ光の波長が長くなった場合において本実施形態にかかるピックアップレンズを透過するレーザ光の波面(位相)を示す図(図2(c))である。
【図3】光源の波長が403nmであり、輪帯段差を有しないピックアップレンズにおいて発生するrms波面収差を示す図(図3(a))、光源の波長が403nmであり、輪帯段差を有するピックアップレンズにおいて発生するrms波面収差を示す図(図3(b))である。
【図4】光源の波長が413nmであり、輪帯段差を有しないピックアップレンズにおいて発生するrms波面収差を示す図(図4(a))、光源の波長が413nmであり、輪帯段差を有するピックアップレンズにおいて発生するrms波面収差を示す図(図4(b))である。
【図5】本発明の実施例1にかかるピックアップレンズを示す図である。
【図6】本発明にかかるピックアップレンズのレンズ面形状の一例を示す側面図である。
【図7】ピックアップレンズのレンズ面形状の一例を示す側面図である。
【図8】比較例1において光源の波長が403nmから404nmに変化した場合にピックアップレンズにおいて発生するrms波面収差を示す図(図8(a))、比較例1において光源の波長が408nmから409nmに変化した場合にピックアップレンズにおいて発生するrms波面収差を示す図(図8(b))、比較例1において光源の波長が413nmから414nmに変化した場合にピックアップレンズにおいて発生するrms波面収差を示す図(図8(c))である。
【図9】実施例1において光源の波長が403nmから404nmに変化した場合にピックアップレンズにおいて発生するrms波面収差を示す図(図9(a))、実施例1において光源の波長が408nmから409nmに変化した場合にピックアップレンズにおいて発生するrms波面収差を示す図(図9(b))、実施例1において光源の波長が413nmから414nmに変化した場合にピックアップレンズにおいて発生するrms波面収差を示す図(図9(c))である。
【図10】本発明の実施例2にかかるピックアップレンズを示す図である。
【図11】比較例2にかかるピックアップレンズを示す図である。
【図12】比較例2において光源の波長が403nmから404nmに変化した場合にピックアップレンズにおいて発生するrms波面収差を示す図(図12(a))、比較例2において光源の波長が408nmから409nmに変化した場合にピックアップレンズにおいて発生するrms波面収差を示す図(図12(b))、比較例2において光源の波長が413nmから414nmに変化した場合にピックアップレンズにおいて発生するrms波面収差を示す図(図12(c))である。
【図13】実施例2において光源の波長が403nmから404nmに変化した場合にピックアップレンズにおいて発生するrms波面収差を示す図(図13(a))、実施例2において光源の波長が408nmから409nmに変化した場合にピックアップレンズにおいて発生するrms波面収差を示す図(図13(b))、実施例2において光源の波長が413nmから414nmに変化した場合にピックアップレンズにおいて発生するrms波面収差を示す図(図13(c))である。
【図14】本発明の実施例1にかかるピックアップレンズの輪帯番号、輪帯位置、及び軸上段差量を示す表である。
【図15】本発明の実施例1にかかる光学系のデータを示す表である。
【図16】本発明の実施例1にかかる光学系のデータを示す表である。
【図17】本発明の実施例1にかかる光学系のデータを示す表である。
【図18】本発明の実施例2にかかるピックアップレンズの輪帯番号、輪帯位置、及び軸上段差量を示す表である。
【図19】本発明の実施例2のBD領域における光学系のデータを示す表である。
【図20】本発明の実施例2のBD領域における光学系のデータを示す表である。
【図21】本発明の実施例2のBD領域における光学系のデータを示す表である。
【図22】本発明の実施例2のHD領域における光学系のデータを示す表である。
【図23】本発明の実施例2のHD領域における光学系のデータを示す表である。
【図24】ガラス製非球面単レンズをピックアップ対物レンズとした場合におけるレーザ光源の波長変化1nm当たりの収束位置の変化量(μm/nm)を示す表である。
【図25】焦点ずれの許容範囲を、焦点ずれした時のピーク値が合焦点時のピーク値の95%以上となる範囲とした場合における焦点深度を示す表である。
【図26】ガラス材により形成され、焦点距離が1.76mm(設計波長=408nm)である対物レンズに発振波長が異なるレーザ光を平行入射した場合に生じるrms波面収差を示す表である。
【符号の説明】
【0078】
11 光源(レーザ光源)
14、17 ピックアップレンズ(ピックアップ対物レンズ)
15 光ディスク(光記録媒体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源から出射された光束を集光するピックアップ対物レンズであって、
前記ピックアップ対物レンズは、少なくとも一方の面に、複数の輪帯段差を有し、
前記複数の輪帯段差は、波長が変化した場合に前記ピックアップ対物レンズにより収束されるレーザ光の収束位置が焦点深度内となるようにレーザ光に位相差を発生させる段差量を有する、ピックアップ対物レンズ。
【請求項2】
前記複数の輪帯段差は、通常時における透過光の位相が輪帯相互に波長単位で異なる段差であって、波長が変化した場合に前記ピックアップ対物レンズにより収束されるレーザ光の収束位置が焦点深度内となるようにレーザ光に位相差を発生させる段差量を有する請求項1に記載のピックアップ対物レンズ。
【請求項3】
前記複数の輪帯段差は、波長が変化した場合に前記ピックアップ対物レンズにおいて発生する収差を低減するような段差量を有する請求項1又は2に記載のピックアップ対物レンズ。
【請求項4】
隣り合う前記輪帯段差において、一の輪帯段差における前記ピックアップ対物レンズの厚さは、前記一の輪帯段差の内側の他の輪帯段差における前記ピックアップ対物レンズの厚さより、段差位置近傍にて厚いことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のピックアップ対物レンズ。
【請求項5】
BD及び/又はHD−DVD用の記録再生装置に使用される請求項1乃至4の何れか一項に記載のピックアップ対物レンズ。
【請求項6】
波長λの光束を厚さt1の透明基板を有する第1の光記録媒体の情報記録面上に集光させ、且つ、波長λの光束を厚さt2(t1<t2)の透明基板を有する第2の光記録媒体の情報記録面上に集光させるピックアップ対物レンズであって、
少なくとも前記ピックアップ対物レンズの一面は、透過する光束を第1の光記録媒体の情報記録面上に集光させるための第1の光記録媒体用領域と、透過する光束を第2の光記録媒体の情報記録面上に集光させるための第2の光記録媒体用領域に分割され、
前記第1の光記録媒体用領域は、複数の輪帯段差を有し、
前記複数の輪帯段差は、波長が変化した場合に前記ピックアップ対物レンズにより収束されるレーザ光の収束位置が焦点深度内となるようにレーザ光に位相差を発生させる段差量を有するピックアップ対物レンズ。
【請求項7】
前記複数の輪帯段差は、通常時における透過光の位相が輪帯相互に波長単位で異なる段差であって、波長が変化した場合に前記ピックアップ対物レンズにより収束されるレーザ光の収束位置が焦点深度内となるようにレーザ光に位相差を発生させる段差量を有する請求項6に記載のピックアップ対物レンズ。
【請求項8】
前記複数の輪帯段差は、波長が変化した場合に前記ピックアップ対物レンズにおいて発生する収差を低減するような段差量を有する請求項6又は7に記載のピックアップ対物レンズ。
【請求項9】
レーザ光源から出射された光束を集光するピックアップ対物レンズの設計方法であって、
前記ピックアップ対物レンズの少なくとも一方の表面に複数の輪帯段差を形成し、
前記複数の輪帯段差は、波長が変化した場合に前記ピックアップ対物レンズにより収束される前記レーザ光の収束位置が焦点深度内となるようにレーザ光に位相差を発生させる段差量を有するピックアップ対物レンズの設計方法。
【請求項10】
前記複数の輪帯段差は、通常時における透過光の位相が輪帯相互に波長単位で異なる段差であって、波長が変化した場合に前記ピックアップ対物レンズにより収束される前記レーザ光の収束位置が焦点深度内となるようにレーザ光に位相差を発生させる段差量を有する請求項9に記載のピックアップ対物レンズの設計方法。
【請求項11】
前記複数の輪帯段差は、波長が変化した場合に前記ピックアップ対物レンズにおいて発生する収差を低減するような段差量を有する請求項9又は10に記載のピックアップ対物レンズの設計方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate