説明

ピックアップ装置用アクチュエータ

【課題】電磁駆動機構の周波数がサーボ帯域より高くなってレンズホルダが共振しても、レンズ収差を少なくしてピックアップ装置の品質向上を図ることができるピックアップ装置用アクチュエータを提供する。
【解決手段】対物レンズ6の外周縁部6Aが保持されたレンズホルダ4を電磁駆動機構で移動させるアクチュエータであって、対物レンズ6の外周縁部6Aとレンズホルダ4との間に接着剤層11を形成し、接着剤層11はレンズホルダ4が共振で撓んでも、その撓みを吸収するための十分な0.1mm以上の厚層である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対物レンズが保持されたレンズホルダを移動させるピックアップ装置用アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
CD(Compact Disc)やDVD(Digital Video Disc)等の光ディスクに情報を記録及び再生するためのディスクドライブ装置は光学式ピックアップ装置を備えて構成されている。
ピックアップ装置は、レーザダイオード等の光源から出射されるレーザ光を、所定の光学系部品により対物レンズへ導き、対物レンズにより光ディスクの情報記録面に照射する。
通常、対物レンズは光ディスクに対向するように配置されており、光源からのレーザ光は、光学系部品により光ディスクと平行な光路に沿って対物レンズの直下まで案内された後、対物レンズの直下に配置された立ち上げミラーにより垂直上方向に進路変更され、対物レンズに至る。
【0003】
ピックアップ装置は、光ディスクに正確に情報を記録及び再生するため、光ディスクの情報記録面と対物レンズとの距離を制御するフォーカス制御を行うとともに、光ディスクの情報トラックに対して対物レンズを追従制御するトラッキング制御を行う。
フォーカス制御及びトラッキング制御を行うために、対物レンズの略リング状外周縁部を全周にわたりレンズホルダで接着固定し、このレンズホルダを電磁駆動機構でフォーカス制御を行う方向とトラッキング制御を行う方向とに移動させるアクチュエータがピックアップ装置に備えられている従来例がある(特許文献1,2参照)。
電磁駆動機構として、レンズホルダに取り付けられるコイル基板と、このコイル基板に近接配置されたマグネットとを備え、マグネットが形成する磁界内でコイル基板に駆動電流を流すことにより、レンズホルダを光ディスクに対して前述の方向に移動させるものが考えられる。
【0004】
電磁駆動機構のコイル基板に駆動電流を流し、コイル基板で発生させる電磁波の周波数が所定のサーボ帯域(例えば、0〜5KHz)になると、電磁駆動機構が作動してコイル基板とともにレンズホルダが移動する。
このサーボ帯域でレンズホルダが共振するとアクチュエータが動かなくなる不具合が生じる虞れがあるため、レンズホルダ、コイル等の可動部分の共振周波数をサーボ帯域より高く設定する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−35312号公報
【特許文献2】特開平4−263128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光ディスクには、その成形精度に起因して表面に微小な凹凸が存在する。そのため、フォーカスサーボ制御をすると、光ディスクの面ぶれのみならず、フォーカスエラー信号は凹凸にも追従し、高い周波数も発生する。フォーカスエラー信号の周波数成分の一部がレンズホルダの共振周波数と一致すると、レンズホルダが共振することになり、その結果、レンズホルダが撓み、その力が対物レンズに伝わって光学的な収差が生じるという課題がある。
つまり、特許文献1,2で示される従来例における対物レンズは、その略リング状外周縁部の全周がレンズホルダに対して薄い接着層を介して強固に接着固定されているため、共振に伴うレンズホルダの撓みがそのまま対物レンズに伝達されることになり、レンズ収差が生じてピックアップ装置の品質を低下させてしまう虞れがある。
【0007】
ここで、光ディスクから情報を読み取る際に、装置として反応すれば良い周波数帯域はサーボ帯域であり、それ以上の帯域までピックアップ装置を反応させなくても十分に読み取りは可能である。
望むサーボ帯域である0〜5KHzをエラー信号として抜き取るローパスフィルタを設計することを考えられるが、急峻な帯域特性を有するフィルタを設計することは困難である。そのため、電磁駆動機構系の周波数は、0〜5KHzを通過させ、それより高い周波数ではなだらかに徐々に減衰する特性となる。このサーボ帯域を越えた周波数がレンズホルダの共振周波数に一致することもあり、この場合、前述のレンズホルダの撓みが発生する。
【0008】
本発明の目的は、電磁駆動機構の周波数がサーボ帯域より高くなってレンズホルダが共振しても、レンズ収差を少なくしてピックアップ装置の品質向上を図ることができるピックアップ装置用アクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1は、対物レンズの外周縁部が保持されたレンズホルダを電磁駆動機構で移動させるアクチュエータであって、前記対物レンズの外周縁部と前記レンズホルダとの間に接着剤層を形成し、当該接着剤層は、前記レンズホルダが共振で撓んでも、その撓みを吸収するための十分な0.1mm以上の厚層であることを特徴とするピックアップ装置用アクチュエータ。
【0010】
請求項2は、対物レンズの外周縁部が保持されたレンズホルダを電磁駆動機構で移動させるアクチュエータであって、前記対物レンズの外周縁部と前記レンズホルダとの間に接着剤層を形成し、この接着剤層は、前記レンズホルダが共振で撓んでも、その撓みを吸収するための十分な柔軟性を有しており、当該接着剤層を形成する接着剤のヤング率は926000g/cm以下であることを特徴とするピックアップ装置用アクチュエータ。
【0011】
請求項4は、対物レンズの外周縁部が保持されたレンズホルダを電磁駆動機構で移動させるアクチュエータであって、前記対物レンズの外周縁部と前記レンズホルダとの間に、前記対物レンズの外周縁部に当接するスペーサを形成し、前記外周縁部と前記レンズホルダとの間に、前記スペーサの高さ寸法と同じ層厚の接着剤層を形成し、この接着剤層は、その層厚によって決まる柔軟性を有しており、前記レンズホルダが共振で撓んでも、その撓みを吸収するのに十分な柔軟性を有していることを特徴とするピックアップ装置用アクチュエータ。
【0012】
本願に関連するピックアップ装置用アクチュエータは、対物レンズの外周縁部が保持されたレンズホルダを電磁駆動機構で移動させるアクチュエータであって、前記対物レンズの外周縁部と前記レンズホルダとの間に接着剤層を形成し、この接着剤層は、前記レンズホルダが共振で撓んでも、その撓みを吸収するのに十分な厚さ寸法を有することを特徴とする。
【0013】
異なるピックアップ装置用アクチュエータは、対物レンズの外周縁部が保持されたレンズホルダを電磁駆動機構で移動させるアクチュエータであって、前記対物レンズの外周縁部と前記レンズホルダとの間を所定の間隔をあけて配置し、この間隔に接着剤を設け、次式で求められる前記対物レンズの共振周波数fを、前記電磁駆動機構を駆動するために付与する所定サーボ帯域より高く、かつ、前記レンズホルダの共振周波数より低く設定する、
【0014】
【数1】

【0015】
kは接着剤のばね定数
mは対物レンズの質量
ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態のピックアップ装置用アクチュエータが適用されたピックアップ装置の全体を示す平面図である。
【図2】前記ピックアップ装置用アクチュエータの斜視図である。
【図3】レンズホルダの詳細な構成を示す斜視図である。
【図4】取付孔の周辺の構成を詳細に示すレンズホルダの要部斜視図である。
【図5】対物レンズがレンズホルダに取り付けられた状態を示す断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態を示すもので図5に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。ここで、各実施形態中、同一構成要素は同一符号を付して説明を省略若しくは簡略にする。
[第1実施形態]
〔ピックアップ装置の構造〕
図1は、第1実施形態のアクチュエータが適用されたピックアップ装置の全体を示す平面図であり、図2は、その斜視図である。
【0018】
図1及び図2において、ピックアップ装置は、ボディ1を備え、このボディ1には、アクチュエータベース2が固定されている。このアクチュエータベース2は4本(図中2本のみ示す)のサスペンションワイヤ3により合成樹脂製のレンズホルダ4をフォーカス方向F及びトラッキング方向Tに移動可能に支持している(図2参照)。
レンズホルダ4の側面にはコイル基板5A,5Bが取り付けられており、その上面には対物レンズ6が取り付けられている。
【0019】
レンズホルダ4に取り付けられた一対のコイル基板5A,5Bとそれぞれ対向するように、マグネット7A,7Bがボディ1に固定されている。
一対のマグネット7A,7Bは、相互に対向する位置に固定されており、各マグネット7A,7Bの着磁パターンに従って、それらの間の空間に磁界が形成される。
コイル基板5A,5Bが側面に取り付けられたレンズホルダ4は、一対のマグネット7A,7Bにより形成される磁界内に配置される。そのため、コイル基板5A,5Bに形成されたフォーカスコイル及びトラッキングコイルに所定のサーボ帯域(例えば、0〜5KHz)の周波数となる駆動電流を通電すると、コイル内の電流と磁界とにより生じる力により、レンズホルダ4は対物レンズ6とともにフォーカス方向F及びトラッキング方向Tに移動する。
【0020】
ボディ1の端部にはレーザ光源8が取り付けられている。レーザ光源8から出射されたレーザ光は、ボディ1内に配置された光学系により構成される光路1Aを通って対物レンズ6の下方に至る。対物レンズ6の下方には立ち上げミラー(図示せず)が配置されており、レーザ光は立ち上げミラーにより上方へ進路変更されて対物レンズ6を下から上へと通過する。対物レンズ6の上方には図示しない光ディスクが配置され、対物レンズ6はレーザ光を光ディスクの情報記録面に集光する。
【0021】
〔アクチュエータの構造〕
第1実施形態では、一対のコイル基板5A,5B及び一対のマグネット7A,7Bを備えて対物レンズ6をフォーカス方向F及びトラッキング方向Tに移動させる所定の電磁駆動機構9が構成されている。この電磁駆動機構9と、アクチュエータベース2と、レンズホルダ4とを備えてアクチュエータ10が構成されている。
コイル基板5A,5Bは、それぞれプリント基板であり、その基板面上に図示しないトラッキングコイルとフォーカスコイルとがそれぞれ形成されている。コイル基板5A上には、対向配置されるコイル基板5Bとの導通のための図示しないランドが形成されている。
レンズホルダ4の側面に取り付けられた状態では、コイル基板5Aのフォーカスコイルとコイル基板5Bのフォーカスコイルとが相互にほぼ対向する。
【0022】
〔レンズホルダの構造〕
図3にはレンズホルダ4の詳細な構成が示されている。
図3において、レンズホルダ4には対物レンズ6を取り付けるための平面円形の取付孔4Aが形成されており、この取付孔4Aは、レンズホルダ4の重心よりも光路側にシフトして設けられている。
レンズホルダ4を支持する2本のサスペンションワイヤ3のレンズホルダ4への固定位置の中点は、レンズホルダ4の重心とほぼ一致する。
【0023】
レンズホルダ4にはストッパ部4B,4C,4Dが一体に設けられている。ストッパ部4B,4C,4Dは、フォーカス方向F及びトラッキング方向Tにおけるレンズホルダ4のストローク(可動範囲)を制限するものである。これにより、フォーカスサーボやトラッキングサーボが誤動作を生じた際、レンズホルダ4が移動してボディ1や他の部材に衝突して、レンズホルダ4自身や対物レンズ6等に損傷を生じることが防止される。
ストッパ部4Bはフォーカス方向のストッパとトラッキング方向のストッパの両方の機能を兼備している。
【0024】
図4には取付孔4Aの周辺の構成が詳細に示されている。
図4において、レンズホルダ4は取付孔4Aの周縁に対物レンズ6の外周縁部6A(図5参照)と対向するレンズ取付面4Eが略リング状に形成されており、このレンズ取付面4Eはレンズホルダ4の平面よりも所定寸法だけ低く形成されている。
レンズ取付面4Eにはスペーサとしての突起4Fが対物レンズ6の周方向に沿って互いに略等間隔に3カ所設けられている。この突起4Fはレンズホルダ4に一体に形成される短寸円柱状部材である。
【0025】
これらの突起4Fの取付孔4Aを挟んで対向する位置にそれぞれ対物レンズ6を係止するための係止用突起部4Gがレンズ取付面4Eの外周縁に形成されている。
突起4Fの近傍には接着剤をレンズ取付面4Eに導入するための案内部4Hがレンズホルダ4に一体形成されている。
この案内部4Hは接着剤射出ノズル(図示せず)が対向する位置に形成されており、接着剤射出ノズルから射出された接着剤が外周方向に飛び散らないように平面半円弧状の起立部を備えている。
係止用突起部4G及び案内部4Hは、それぞれ対物レンズ6をレンズ取付面4E上に案内するためのガイド面4Iが角部に形成されている。
【0026】
〔対物レンズの取付構造〕
図5には対物レンズ6がレンズホルダ4に取り付けられた状態が示されている。
図5において、対物レンズ6は、外周部に形成されたリング状の外周縁部6Aと、この外周縁部6Aの中心部に一体形成された凸状のレンズ本体6Bとを備えて構成されており、その材質は合成樹脂、ガラス等の適宜な材料からなる。
外周縁部6Aは突起4Fの先端部に当接されており、この突起4Fと当接されていない外周縁部6Aの部分とレンズ取付面4Eとの間には接着剤層11が突起4Fの高さ寸法Dと同じ厚さで形成されている。本実施形態では、接着剤層11の厚み寸法(突起4Fの高さ寸法D)はレンズホルダ4が共振で撓んでも、その撓みを吸収するのに十分な厚さ寸法であり、具体的には100μm程度である。なお、接着剤層11の厚み寸法は100μm以上であってもよい。
この接着剤層11は紫外線で硬化するUV接着剤からなり、電子部品の接着等で利用される種々のものを選択できる。種々の接着剤のうち、本実施形態では、柔軟性のある接着剤が好ましい。
【0027】
〔対物レンズの取付方法〕
予め射出成形で形成されたレンズホルダ4の突起4Fの上に対物レンズ6を載置し、案内部4Hに向けて接着剤を塗布する。
すると、接着剤は対物レンズ6の外周縁部6Aとレンズ取付面4Eとの間を埋める。これにより、接着剤で対物レンズ6の外周縁部6Aとレンズ取付面4Eとの間が接着固定される。
なお、この手順とは異なり、レンズ取付面4Eの上に接着剤を塗布し、その上から対物レンズ6を載置する方法を採用してもよい。
【0028】
〔第1実施形態の効果〕
(1)第1実施形態によれば、対物レンズ6の外周縁部6Aが保持されたレンズホルダ4を電磁駆動機構9で移動させるアクチュエータ10であって、対物レンズ6の外周縁部6Aとレンズホルダ4との間に接着剤層11を形成し、この接着剤層11は、レンズホルダ4が共振で撓んでも、その撓みを吸収するのに十分な厚さ寸法を有する構成としたので、電磁駆動機構9が作動する周波数がサーボ帯域より高くなってレンズホルダ4が共振しても、接着剤層11が緩衝機能を有するので、レンズホルダ4の撓みが対物レンズ6に伝達されることが少なくなる。つまり、接着剤層11は、その厚み寸法に比例して大きな弾性機能を有することになるので、レンズホルダ4が撓んでも、その撓みを接着剤層11で吸収することで、撓みが対物レンズ6に伝達されることが少なくなる。そのため、対物レンズ6の変位が少ないので、レンズ収差が少なくなり、ピックアップ装置の品質向上を図ることができる。
【0029】
(2)対物レンズ6の外周縁部6Aとレンズホルダ4との間に対物レンズ6の外周縁部6Aに当接するスペーサを設けたので、このスペーサによって、接着剤層11の必要な厚み寸法を簡単に確保することがきる。そのため、ピックアップ装置用アクチュエータの製造が容易となる。
(3)接着剤層11は対物レンズ6の外周縁部6Aとレンズホルダ4との間に接着剤を充填して形成されるので、対物レンズ6の全周に渡って接着剤層11を容易に形成することができる。
【0030】
(4)スペーサはレンズホルダ4に一体に形成された突起4Fとしたので、スペーサを容易に成形することができ、アクチュエータ10の構造を簡易なものにできる。
(5)突起4Fは対物レンズ6の周方向に沿って互いに略等間隔に3カ所設けられているので、突起4Fの上に対物レンズ6を載置した際に設置姿勢が安定する。そのため、対物レンズ6のレンズホルダ4に対する位置決めが容易となり、この点からも、ピックアップ装置の品質向上を図ることができる。
【0031】
(6)対物レンズ6を係止するための係止用突起部4Gがレンズ取付面4Eの外周縁に形成されているので、対物レンズ6の装着に際して、対物レンズ6がレンズ取付面4Eからずれることを防止できる。
(7)接着剤をレンズ取付面4Eに導入するための案内部4Hがレンズホルダ4に形成されているので、接着剤を充填するに際して、接着剤が飛び散ることを防止できる。
(8)これらの係止用突起部4G及び案内部4Hは、それぞれ対物レンズ6をレンズ取付面4E上に案内するためのガイド面4Iが角部に形成されているので、対物レンズ6を装着する際に、対物レンズ6をレンズ取付面4Eに円滑に案内することができる。
【0032】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を図6に基づいて説明する。第2実施形態は対物レンズ6の取付構造が第1実施形態とは異なるもので、他の構造は第1実施形態と同じである。
第2実施形態では、ピックアップ装置及びアクチュエータの構造は図1及び図2で示される第1実施形態と同じであり、レンズホルダ4は突起4Fがない他は第1実施形態と同じである。
【0033】
図6は図5に対応する図であり、この図6において、第2実施形態では、対物レンズ6の外周縁部6Aとレンズ取付面4Eとを所定の間隔Tをあけて配置し、この間隔Tに接着剤層11が形成されている。
第2実施形態では、数2の式で求められる対物レンズ6の共振周波数fを、電磁駆動機構9を駆動するために付与する所定サーボ帯域の周波数(0〜5KHz)より高く、かつ、レンズホルダ4の共振周波数(例えば、15KHz)より低く設定する。一般的に、物と物の伝達係数は、その両者の共振周波数でゲインが最大となり、その共振周波数を超えた周波数ではゲインは徐々に低下していく。そのため、レンズホルダ4の共振周波数付近では対物レンズ6の共振周波数を越えており、ゲインが小さくなっており、レンズホルダ4の共振の影響を小さくすることができる。
ここで、レンズホルダ4の共振周波数とは、レンズホルダ4自体のみならず、レンズホルダ4の回りの部材を含めた可動部分の共振周波数である。さらに、対物レンズ6の共振周波数fはレンズホルダ4に対する共振周波数であり、この共振周波数fは接着剤層11の強度や接着面積等に起因して決定される。
【0034】
【数2】

【0035】
ここで、kは接着剤のばね定数であり、mは対物レンズ6の質量である。
接着剤層11の断面積をA、荷重をF、縮み量(変位)をxとすると、接着剤層11の厚みがTであるため、接着剤のヤング率Eは数3の式で求められる。
【0036】
【数3】

【0037】
また、フックの法則により、荷重Fは縮み量(変位)xとばね定数kとの間で数4の式で示される関係にある。
【0038】
【数4】

【0039】
数3で示される式と数4で示される式とから、ばね定数kは数5の式に展開される。
【0040】
【数5】

【0041】
数5の式を数2の式に当てはめると、数6の式となる。
【0042】
【数6】

【0043】
ここで、図6で示される通り、接着剤層11の外周径であって対物レンズ6の外周縁と一致する寸法をL1とし、接着剤層11の内周径寸法をL2とすると、数7の式で断面積Aが求められる。
【0044】
【数7】

【0045】
また、接着剤層11の厚み寸法T及び対物レンズ6の質量mは求められるものであり、接着剤のヤング率は接着剤の材料によって一義的に決定されるため、本実施形態では共振周波数fを求めることができる。
例えば、接着剤として協立化学産業社製のワードロック8801(商品名)を使用すると、この接着剤のヤング率は926000g/cm2である。
合成樹脂製の対物レンズ6の質量mを0.1gとし、接着剤層11の厚みTを0.01cmとし、L1を0.6cm、L2を0.4cmとして、接着面積を適切に設定すれば、共振周波数fは約12kHzとなる。
【0046】
〔第2実施形態の効果〕
第2実施形態によれば、第1実施形態の(6)〜(8)と同様の作用効果を奏することができる他に、次の作用効果を奏することができる。
(9)対物レンズ6の外周縁部6Aが保持されたレンズホルダ4を電磁駆動機構9で移動させるアクチュエータ10であって、対物レンズ6の外周縁部6Aとレンズホルダ4との間を所定の間隔をあけて配置し、この間隔に接着剤を設けて接着剤層11を形成し、数1の次式で求められる対物レンズ6の共振周波数fを、フォーカシング制御用として電磁駆動機構9を駆動するために付与する所定サーボ帯域の周波数0〜5kHzより高く、かつ、レンズホルダ4の共振周波数15kHzより低い12kHzに設定したので、電磁駆動機構9の周波数がサーボ帯域より高くなってレンズホルダ4の共振周波数15KHzとなっても、この共振周波数は対物レンズ6の共振周波数12KHzより高いため、ゲインが低く共振の影響を小さくすることができる。そのため、レンズ収差が少なくなり、ピックアップ装置の品質向上を図ることができる。
【0047】
〔実施形態の変形〕
なお、本発明は、上述した一実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲で以下に示される変形をも含むものである。
例えば、前記各実施形態では、対物レンズ6を係止するための係止用突起部4Gをレンズ取付面4Eの外周縁に形成し、さらに、案内部4Hをレンズホルダ4に形成したが、本発明では、係止用突起部4Gや案内部4Hを省略し、レンズホルダ4の上面を平面に形成してもよい。
【0048】
また、電磁駆動機構9の構成は前記各実施形態に限定されるものではなく、例えば、コイル基板5A,5Bをプリント基板で形成するものではなく、螺旋状のコイルから形成するものでもよい。
さらに、前記各実施形態において、接着剤層11を対物レンズ6の外周縁部6Aとレンズホルダ4との間に接着剤を充填して対物レンズ6の全周に渡って形成したが、本発明では一部のみ形成するものでもよい。例えば、第1実施形態において、突起4F近傍のみに接着剤層11を形成するものでもよい。
【0049】
また、第1実施形態では、対物レンズ6の外周縁部6Aとレンズホルダ4との間に対物レンズ6の外周縁部6Aに当接するスペーサを設けたが、本発明では、スペーサを省略してもよい。つまり、第1実施形態では、スペーサとしての突起4Fをなくし、レンズホルダ4に対して対物レンズ6を完全に非接触としてもよい。この場合、製造時には対物レンズ6を治具等によりレンズホルダ4から浮かせた状態で接着剤により固定すればよい。
【0050】
さらに、第1実施形態では、スペーサをレンズホルダ4に一体に形成された突起4Fとしたが、本発明では、スペーサをレンズホルダ4とは別体に設けられた部材であってもよく、対物レンズ6の外周縁部6Aに一体に形成された突起でもよい。
仮に、スペーサをレンズホルダ4に一体に形成された突起4Fとしても、その数は3個に限定されるものではなく、1個、2個、4個以上の複数個であってもよい。さらに、突起4Fを複数とした場合、これらの突起4F同士は略等間隔に配置するものに限定されず、所定箇所に集中するものでもよい。
その上、突起4Fを短寸円柱状に形成したが、四角柱状や三角柱状等の多角柱状に形成してもよく、円錐状や角錐状に形成してもよい。
【0051】
また、第1実施形態では、対物レンズ6の外周縁部6Aとレンズホルダ4との接着剤層11を介して互いに固定する構成としたが、本発明では、対物レンズ6の外周縁部6Aとレンズホルダ4とが厳密な意味での固定関係にある必要はなく、互いに接着されていればよい。
さらに、第1実施形態と第2実施形態とを組み合わせたものでもよい。つまり、第2実施形態において、スペーサとしての突起を設けるものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は光学式ピックアップ装置を備えたディスクドライブ装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
4…レンズホルダ、4A…取付孔、4E…レンズ取付面、4F…突起(スペーサ)、6…対物レンズ、6A…外周縁部、6B…レンズ本体、9…電磁駆動機構、10…ピックアップ装置用アクチュエータ、11…接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズの外周縁部が保持されたレンズホルダを電磁駆動機構で移動させるアクチュエータであって、
前記対物レンズの外周縁部と前記レンズホルダとの間に接着剤層を形成し、当該接着剤層は、前記レンズホルダが共振で撓んでも、その撓みを吸収するための十分な0.1mm以上の厚層であること
を特徴とするピックアップ装置用アクチュエータ。
【請求項2】
対物レンズの外周縁部が保持されたレンズホルダを電磁駆動機構で移動させるアクチュエータであって、
前記対物レンズの外周縁部と前記レンズホルダとの間に接着剤層を形成し、この接着剤層は、前記レンズホルダが共振で撓んでも、その撓みを吸収するための十分な柔軟性を有しており、当該接着剤層を形成する接着剤のヤング率は926000g/cm以下であること
を特徴とするピックアップ装置用アクチュエータ。
【請求項3】
請求項2に記載のピックアップ装置用アクチュエータにおいて、
前記接着剤層はUV硬化型接着剤により形成したこと
を特徴とするピックアップ装置用アクチュエータ。
【請求項4】
対物レンズの外周縁部が保持されたレンズホルダを電磁駆動機構で移動させるアクチュエータであって、
前記対物レンズの外周縁部と前記レンズホルダとの間に、前記対物レンズの外周縁部に当接するスペーサを形成し、
前記外周縁部と前記レンズホルダとの間に、前記スぺーサの高さ寸法と同じ層厚の接着剤層を形成し、この接着剤層は、その層厚によって決まる柔軟性を有しており、前記レンズホルダが共振で撓んでも、その撓みを吸収するのに十分な柔軟性を有していること
を特徴とするピックアップ装置用アクチュエータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−104780(P2009−104780A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26610(P2009−26610)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【分割の表示】特願2002−326147(P2002−326147)の分割
【原出願日】平成14年11月8日(2002.11.8)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】