説明

ピボットアッシー軸受

【課題】ピボットアッシー軸受をスイングアームの取付孔に圧入する際の押込み力を低減することができ、ピボットアッシー軸受のスリーブの外周面からのパーティクルの生成を軽減することができるピボットアッシー軸受を提供する。
【解決手段】シャフトと、このシャフトに回転自在に支持されたスリーブ13とを備え、スリーブ13の外周面に、円周方向に沿って延在する複数の溝を軸方向に連続して設け、溝によりスリーブ13の外周面の面粗さを中心線平均粗さでRa0.5〜8μm、最大高さでRmax5〜30μmとした

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク駆動装置に使用されるピボットアッシー軸受に係り、特に、スイングアームの取付孔にピボットアッシー軸受を圧入する際の押込み力を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図5はコンピュータの記憶装置の一つであるハードディスク駆動装置Dを示す図である。この図に示すハードディスク駆動装置Dにおいては、ピボットアッシー軸受1によって揺動可能に支持されたスイングアーム3の先端にある磁気ヘッド4が、磁気ディスク5の上を移動することにより、情報を磁気ディスク5に記録し、また、記録した情報を磁気ディスク5から読み出す。ピボットアッシー軸受1は、通常、シャフトとシャフトを囲むスリーブの間に一対の玉軸受を配置した構造になっており、スイングアーム3の基部2に設けられた取付孔2aに嵌合させられている。
【0003】
しかしながら、ピボットアッシー軸受1を取付孔2aへ圧入する際には、製造公差に関連する問題が存在する。ピボットアッシー軸受1の最も外側のスリーブの寸法が製造公差の上限に近くかつ取付孔1aの寸法が製造公差の下限に近いような場合には、圧入代が大き過ぎてスリーブが変形したり、圧入の際に大きな押込み力が必要となる。さらに、スリーブの外周面や取付孔2aの内周面が削り取られて金属粉や削り屑が発生することがある。なお、このように発生した金属粉や削り屑を以下においてパーティクルと称する。パーティクルは、スリーブと取付孔2aとの間に介在して押込み力をさらに増大させ、ピボットアッシー軸受1の取付孔2aへの取付を円滑に行う妨げになる。またパーティクルは、取付孔2aから押し出されてスリーブの端面付近に残存し、ハードディスク駆動装置D内を汚染する。逆に、スリーブの寸法が製造公差の下限に近くかつ取付孔1aの寸法が製造公差の上限に近いような場合には、圧入代が不充分なためピボットアッシー軸受1が取付孔2aに対して位置ずれを起こす場合がある。このため、以上のような不都合を寸法調整のみで回避するためには、スリーブの外径と取付孔2aの内径との嵌め合い寸法を厳格に設定する必要がある。
【0004】
そこで、従来は、スイングアームの取付孔に製造公差を吸収するためのトレランスリングを挿入しておき、トレランスリングの内側にピボットアッシー軸受を圧入することが行われている(例えば特許文献1、特許文献2)。トレランスリングは、半径方向に突出する凸部が円周方向に連続して形成された金属製のもので、内側にピボットアッシー軸受が圧入されると半径方向に膨出し、凸部が取付孔の内周面に押し付けられて弾性変形する。この弾性変形により、スリーブと取付孔の製造公差が吸収されるとともに、凸部の弾性変形に対する反力で取付孔を押圧し、スリーブが取付孔に固定されるようになっている。したがって、スリーブと取付孔の嵌め合い寸法を厳格にしなくとも適正な嵌め合い状態が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2004−513309号公報
【特許文献2】特開2007−305268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ピボットアッシー軸受をトレランスリングに圧入する際も大きな押込み力を必要とするとともに、スリーブの外周面がトレランスリングに削り取られてパーティクルが発生することがある。したがって、トレランスリングを使用したとしても、上記したような不都合は依然として存在する。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ピボットアッシー軸受をスイングアームの取付孔に圧入する際の押込み力を低減することができ、ピボットアッシー軸受のスリーブの外周面からのパーティクルの生成を回避することができるピボットアッシー軸受を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のピボットアッシー軸受は、軸部と、この軸部に回転自在に支持された外周部材とを備え、外周部材の外周面に、円周方向に沿って延在する複数の溝を軸方向に連続して設け、溝により外周部材の外周面の面粗さを中心線平均粗さでRa0.5〜8μm、最大高さでRmax5〜30μmとしたことを特徴とする。
【0009】
従来、外周部材の外周面は平滑である程スイングアームの取付孔に対する摩擦抵抗が少なく有利であると考えられていた。そのため、外周部材の外周面は、切削加工の際に工具によって形成されるツールマークが視認できない程度(指で触って凹凸が感じられない程度)に仕上げるか、あるいは、切削加工の後に研削による仕上げが行われていた。ちなみに、従来では外周部材の外周面はRa0.05〜0.15μm、Rmax0.5〜2.0μmの面粗さに仕上げられていた。
【0010】
本発明では、外周部材の外周面に溝を設けることにより、外周部材の外周面の面粗さを中心線平均粗さでRa0.5〜8μm、最大高さでRmax5〜30μmとしている。このように、外周部材の外周面に微細な凹凸を設けることにより、外周部材の外周面とスイングアームの取付孔との接触面積が減少し、両者の間の摩擦抵抗が低減される。したがって、ピボットアッシー軸受を取付孔に圧入する際の押し込み力が低減される。また、外周部材と取付孔との摩擦抵抗が低減されることに伴い、両者の間で生じるかじり付きが軽減され、外周部材の外周面からのパーティクルの生成が軽減される。さらに、外周部材の外周面が削り取られてパーティクルが発生しても、パーティクルは溝に収容され、パーティクルが外周部材と取付孔との間に噛み込んだり取付孔から放出されて汚染源となるといった不都合が回避される。
【0011】
以上の作用は、ピボットアッシー軸受の外周部材をスイングアームの取付孔に直接圧入する場合に限らず、取付孔にトレランスリングを挿入しておき、トレランスリングの内側に外周部材を圧入する場合も同様に得ることができる。
【0012】
ここで、溝の深さは、0.01〜0.03mmであることが望ましい。また、溝の軸方向の幅は、0.05〜0.15mmであることが望ましい。さらに、溝どうしの間隔は、0.1〜0.2mmであることが望ましい。このような溝の大きさとすることにより、生成したパーティクルの収容能力を確実に確保することができる。
【0013】
溝は、前記外周部材の外周面を環状に一周する形態とすることができ、あるいは、軸方向へ向け螺旋状をなす形態とすることができる。また、溝は、外周部材の外周面の全面に亘って設けることができ、あるいは、外周部材の両端部を残した中間部に設けることができる。さらに、外周部材の外周面を環状に一周する溝よりも深さおよび幅の寸法が大きい逃げ部を設けることができる。この逃げ部は、パーティクルの収容空間として機能するとともに、取付孔との接触面積を減らして圧入時の押込み力をさらに低減させる。
【0014】
溝は旋削加工により形成することができ、切削工具の送り量と切込み量を適宜設定することにより、切削工具のツールマークによって所望の溝を形成することができる。この場合、溝の断面形状は略円弧状となり、溝どうしの境界に尖った部分が形成される。そこで、その尖った部分を除去して平坦部を形成すると好適である。これにより、圧入時の押込み力がさらに低減されるとともに、パーティクルがさらに生じ難くなる。平坦部を形成するには、例えばセンタレス研削(研磨)を行うことができる。なお、溝は転造で形成することもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のピボットアッシー軸受では、スイングアームの取付孔に圧入する際の押込み力が低減され、外周部材が取付孔に削られて生じるパーティクルの発生が軽減される。したがって、ピボットアッシー軸受のスイングアームへの取付を円滑に行うことができ、パーティクルによるハードディスク駆動装置内の汚染を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ピボットアッシー軸受とスイングアームを示す斜視図である。
【図2】ピボットアッシー軸受の断面図である。
【図3】(A)〜(D)はピボットアッシー軸受のスリーブを示す側面図である。
【図4】溝の形状を示すスリーブの表面部の断面図である。
【図5】一般的なハードディスク駆動装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1(A)に本発明の実施形態のピボットアッシー軸受10と、このピボットアッシー軸受10が取り付けられる金属製のスイングアーム20を示す。スイングアーム20の基部21には、上下方向へ貫通する取付孔22が形成され、基部21から一対のアーム部23が伸びている。アーム部23の先端部には、ハードディスク駆動装置において情報を読み書きする磁気ヘッドが取り付けられる。また、基部21には、アーム部23と反対側へ伸びる支持部24が設けられ、支持部24が、ハードディスク駆動装置に設けられた駆動機構により駆動されることでスイングアーム20は揺動する。
【0018】
スイングアーム20の取付孔22にはトレランスリング30を挿入し、トレランスリング30の内側にピボットアッシー軸受10が圧入される。トレランスリング30は、リング部31と、リング部31から軸方向へ伸びる押圧部32とからなる金属製のものである。押圧部32は、複数の矩形片33からなり、円周方向の一カ所に矩形片33のない箇所が設けられている。各矩形片33には、半径方向へ突出する凸部(図示略)が設けられ、ピボットアッシー軸受10が圧入されるとトレランスリング30が膨出し、凸部が取付孔22の内周面に押し付けられることでピボットアッシー軸受10が取付孔22に固定される。
【0019】
次に、ピボットアッシー軸受10は、シャフト(軸部)12を備えている。シャフト12は、上部と下部の一対の玉軸受11により回転自在な状態で保持されている。すなわち、各玉軸受11は、内輪11b(11d)と外輪11a(11f)との間に転動体11c(11e)を保持している。そして内輪11bおよび11dは、シャフト12の外周に固定され、外輪11aおよび11fは、金属製の筒状体であるスリーブ(外周部材)13の内側に固定されている。また、内輪11b(11d)と外輪11a(11f)との隙間、転動体11c(11e)の周囲には、潤滑用のグリース、潤滑油等の潤滑剤が封入されている。
【0020】
シャフト12には、下端側(図の下側)と上端側(図の上側)があり、ハードディスク駆動装置のベースに設けられた支持部に固定されるシャフト12の下端側には、スリーブ13の内径よりも小さい外径寸法を有するフランジ12aが形成されている。フランジ12aの外径寸法は、内輪11dを当接させて予圧をかけられる寸法であればよいが、大きすぎると材料が無駄になるので、内輪11dの外径寸法と同じか、好ましくはわずかに大きいくらいが望ましい。
【0021】
スリーブ13の内周面には、上部と下部の一対の玉軸受11を軸方向に離間して位置決めするため、外輪11aおよび11fの端面が当接するスペーサ14が設けられている。なお、スリーブ13とスペーサ14は、図2のように一体成形されたものに限定されず、スリーブ13とスペーサ14が別々の部品であってもよい。
【0022】
図3(A)に示すように、スリーブ13の外周面には複数の溝15が軸方向に連続して形成されている。これにより、スリーブ13の外周面の面粗さは、中心線平均粗さでRa0.5〜8μm、最大高さでRmax5〜30μmとされている。また、溝15の深さは、0.01〜0.03mm、溝15の軸方向の幅は、0.1〜0.15mm、溝15どうしの間隔は、0.1〜0.15mmとされている。溝15は、図3(A)に示すように、スリーブ13の外周面を環状に一周する形態とされている。なお、図3(A)に示す態様において溝15を軸方向へ向け、図3(D)に示すような螺旋状をなす形態とすることもできる。また、図示は省略するが、スリーブ13の両端面の縁部には、0.2〜0.4mm程度の面取り(凸曲面または斜面)が形成されている。
【0023】
図4は溝15の詳細を示す断面図である。溝15は転造や旋削加工によって形成されている。溝15の断面形状は略円弧状をなし、溝15どうしの境界に尖った部分16が形成されている。尖った部分16は、切削加工や研削加工により除去し、平坦部17を形成してもよい。
【0024】
上記構成のピボットアッシー軸受10にあっては、スリーブ13の外周面に溝15を形成することで微細な凹凸が設けられている。これにより、スリーブ13の外周面とスイングアーム20の取付孔22との接触面積が減少し、両者の間の摩擦抵抗が低減される。したがって、ピボットアッシー軸受10を取付孔22に圧入する際の押し込み力が低減される。また、スリーブ13と取付孔22との摩擦抵抗が低減されることに伴い、両者の間で生じるかじり付きが軽減され、スリーブ13の外周面からのパーティクルの生成が軽減される。さらに、スリーブ13の外周面が削り取られてパーティクルが発生しても、パーティクルは溝15に収容され、パーティクルがスリーブ13と取付孔22との間に噛み込んだり取付孔22から放出されて汚染源となるといった不都合が回避される。
【0025】
したがって、上記構成のピボットアッシー軸受10では、ピボットアッシー軸受のスイングアームへの取付を円滑に行うことができ、パーティクルによるハードディスク駆動装置内の汚染を未然に防止することができる。なお、以上の作用、効果は、スイングアーム20の取付孔にトレランスリング30を挿入しておき、トレランスリング30の内側にスリーブ13を圧入する場合も同様に得ることができる。
【0026】
図3(B),(C)は上記実施形態の変更例を示す図である。図3(B)に示す変形例は、スリーブ13の両端部を残した中間部に螺旋状の溝15を形成したものである。また、図3(C)に示す変更例は、スリーブ13の外周面に、溝15よりも深さおよび幅の寸法が大きく外周面を環状に一周する逃げ部18を設けたものである。逃げ部18は、パーティクルの収容空間として機能するとともに、取付孔22との接触面積を減らして圧入時の押込み力をさらに低減させる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。
[実施例1]
スリーブの外周面に切削加工を施して螺旋状の溝を形成し、外周面の表面粗さをRa2.0μm、Rmax12μmとした。このスリーブを用いてピボットアッシー軸受を組み立て、スイングアームの取付孔に圧入したところ、押込み力は19.87kgfでパーティクルの発生は認められなかった。
【0028】
[実施例2]
実施例1と同じ外径のスリーブの外周面に切削加工を施して螺旋状の溝を形成し、外周面の表面粗さをRa6.0μm、Rmax22μmとした。このスリーブを用いてピボットアッシー軸受を組み立て、スイングアームの取付孔に圧入したところ、押込み力は52.93kgfでパーティクルの発生は認められなかった。
【0029】
[比較例1]
外周面の面粗さがRa0.1μm、Rmax1.3μmで実施例1と同じ外径のスリーブを用いてピボットアッシー軸受を組み立て、スイングアームの取付孔に圧入したところ、押込み力は57.63kgfでパーティクルの発生が認められた。
【0030】
[比較例2]
比較例1において外径を5μm小さくしたスリーブを用いてピボットアッシー軸受を組み立て、スイングアームの取付孔に圧入したところ、押込み力は58.30kgfでパーティクルの発生が認められた。
【0031】
[比較例3]
比較例1において両端面に隣接する溝を形成したスリーブを用いてピボットアッシー軸受を組み立て、スイングアームの取付孔に圧入したところ、押込み力は57.73kgfでパーティクルの発生が認められた。
【0032】
以上のように、本発明の実施例1,2では外径を5μm小さくした比較例2よりも押込み力が小さく、しかもパーティクルが発生しなかった。このことから、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、ピボットアッシー軸受を利用したハードディスク駆動装置を始めとする各種の製品に利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
10…ピボットアッシー軸受、
11…玉軸受、
11a、11f…軸受外輪、
11b、11d…軸受内輪、
11c、11e…転動体、
12…シャフト(軸部)、
12a…フランジ部、
13…スリーブ(外周部材)、
14…スペーサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部と、この軸部に回転自在に支持された外周部材とを備え、前記外周部材の外周面に、円周方向に沿って延在する複数の溝を軸方向に連続して設け、
前記溝により前記外周部材の外周面の面粗さを中心線平均粗さでRa0.5〜8μm、最大高さでRmax5〜30μmとしたことを特徴とするピボットアッシー軸受。
【請求項2】
前記溝の深さは、0.01〜0.03mmであることを特徴とする請求項1に記載のピボットアッシー軸受。
【請求項3】
前記溝の軸方向の幅は、0.05〜0.15mmであることを特徴とする請求項1または2に記載のピボットアッシー軸受。
【請求項4】
前記溝どうしの間隔は、0.1〜0.2mmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のピボットアッシー軸受。
【請求項5】
前記溝は、前記外周部材の外周面を環状に一周することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のピボットアッシー軸受。
【請求項6】
前記溝は、軸方向へ向け螺旋状をなすことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のピボットアッシー軸受。
【請求項7】
前記溝は、前記外周部材の外周面の全面に亘って設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のピボットアッシー軸受。
【請求項8】
前記溝は、前記外周部材の両端部を残した中間部に設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のピボットアッシー軸受。
【請求項9】
前記溝よりも深さおよび幅の寸法が大きい前記外周部材の外周面を環状に一周する逃げ部を設けたことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のピボットアッシー軸受。
【請求項10】
前記溝は旋削加工で形成したツールマークであることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載のピボットアッシー軸受。
【請求項11】
隣接する前記溝どうしの交差部に平坦部が形成されていることを特徴とする請求項10に記載のピボットアッシー軸受。
【請求項12】
前記溝は転造で形成されたことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のピボットアッシー軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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