説明

ピリジニウム塩誘導体、その製造方法及び液晶性材料

【課題】潤滑油用添加剤、コンデンサー材料、液晶ディスプレー等の電子材料或いは電池の電解質等の電気化学分野等で有用な新規なピリジニウム塩誘導体及びその工業的に有利な製造方法の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表されることを特徴とするピリジニウム塩誘導体。


{式中、Rはアルキル基、アルコキシ基、又は一般式CH2=CR2−Z−(2)(一般式(2)中のR2は水素原子又はメチル基を示し、Zは、−(CH−、−(CH−O−、−CO−O−(CH−、−CO−O−(CH−O−などを示す。Z中、mは、1〜30の整数である。)で表される不飽和結合を有する基を示す。一般式(1)のA及びAは酸素原子、硫黄原子又はCHを示す。XはSO、COO、及びPOの群から選ばれる陰イオンを示す。nは1〜10の整数を示す。}

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な1,3−ジオキサン環の基本構造を持つピリジニウム塩誘導体、その製造方法及び液晶性材料、更に言えば、コンデンサー材料、熱、電気光学効果を利用する液晶素子を初めとする液晶表示素子等の電子材料、電解質或いは潤滑油用添加剤として有用なピリジニウム塩誘導体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
潤滑油組成物の添加剤として液晶化合物を使用することは、従来から研究されている。例えば、特許文献1には、相対運動可能な機械コンポ−ネントのボデイの間に導入したサ−モトロピツク液晶体等を相転移させることにより、二つの固体ボデイ間に働く摩擦力を簡単に変える方法、特許文献2には、基油と液晶とからなる潤滑油組成物に、摩擦調整剤を添加した潤滑油組成物、特許文献3には、液晶化合物と弗素油を含有することを特徴とする潤滑油組成物、特許文献4には基油と有機モリブデン化合物と液晶化合物とを含有する潤滑油組成物等が開示されている。そして、特許文献1〜4には、潤滑油組成物に、液晶化合物を添加することにより、摩擦係数を低減することが出来る旨が記載されている。
【0003】
本発明者らは、先に分子長軸方向の電荷の偏りが大きく、電場などの外力による大きなトルクを持つ強誘電性を有する下記一般式(A)
【化1】

(式中、R、Rは同種又は異種の炭素数1〜22のアルキル基、B及びBは酸素原子又は硫黄原子を示す。Xはハロゲン原子を示す。)で表されるピリジニウム塩誘導体を提案した(特許文献5及び6参照)。
更に本発明者らは、該誘導体を潤滑油用添加剤として用いることも提案した(特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平2−503326号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平6−128582号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平7−82582号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2004−182855号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開平10−53585号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開平10−338691号公報(特許請求の範囲)
【特許文献7】特開2008−69318号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、更に潤滑油用添加剤、電子材料或いは電気化学の分野等で有用な液晶化合物について鋭意研究を重ねる中で、新規なピリジニウム塩誘導体を見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明の目的は、潤滑油用添加剤、コンデンサー材料、液晶ディスプレー等の電子材料或いは電池の電解質等の電気化学分野等で有用な新規なピリジニウム塩誘導体及びその工業的に有利な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記実情上を鑑みて、完成されたものであり、本発明が提供しようとする第1の発明は、下記一般式(1)で表されることを特徴とするピリジニウム塩誘導体である。
【化2】

{式中、Rはアルキル基、アルコキシ基、又は下記一般式(2)
【化3】

(一般式(2)中のRは水素原子又はメチル基を示し、Zは、−(CH−、−(CH−O−、−CO−O−(CH−、−CO−O−(CH−O−、−C−CH−O−又は−CO−を示す。Z中、mは、1〜30の整数である。)で表される不飽和結合を有する基を示す。A及びAは酸素原子、硫黄原子又はCHを示す。XはSO、COO及びPOの群から選ばれる陰イオンを示す。nは1〜10の整数を示す。}
【0008】
また、本発明が提供しようとする第2の発明は、下記一般式(3)
【化4】

(式中、R、A及びAは前記と同義。)で表される化合物と、下記一般式(4)
【化5】

(式中、Yは−SO−、−CO−及び−P(O)(OH)―の群から選ばれる基を示し、nは前記と同義。)で表される化合物とを反応させることを特徴とする下記一般式(1)
【化6】

(式中、R、A、A、X及びnは前記と同義。)で表されるピリジニウム塩誘導体の製造方法である。
【0009】
また、本発明が提供する液晶性材料は、前記一般式(1)で表されるピリジニウム塩誘導体を有効成分とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のピリジニウム塩誘導体は、新規な化合物であり、また、結合する陰イオンとしてハロゲンイオンを含まないことから、金属の腐食等の問題も生じ難い。更に本発明のピリジニウム塩誘導体によれば、陰イオン基と陽イオンの結合はイオン結合だけでなく、共有結合でも結合していることから、対イオンは常に同一分子内に存在し分離しない。従来のイオン結合のみで結合しているものは、水などの誘電率の大きい溶媒では分離されてしまう。これに対して本発明のピリジニウム塩誘導体は、正、負の両イオンが分離できないので、電荷の移動によるイオンの分離が起こらないというこれまでにない特徴を持つ。
また、正負の両イオンの位置が決まっているので、安定した物性が得られる。
更に、本発明のピリジニウム塩誘導体は、分子内に大きな電荷の分離が存在し、対イオンは同一分子内で結合している状態で存在する。さらに液晶性を有するものは、スメクチック液晶分子間配列を形成するので、電荷の配列に秩序が存在し、極めて大きな誘電率を持つものと考えられる。
このような本発明の新規ピリジニウム塩誘導体は、潤滑油用添加剤、コンデンサー材料、液晶ディスプレー等の電子材料或いは電池の電解質等の電気化学分野での利用が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のピリジニウム塩誘導体は、下記一般式(1)で表される。
【化7】

一般式(1)の式中のRはアルキル基、アルコキシ基、又は下記一般式(2)
【化8】

で表される不飽和結合を有する基である。
【0012】
に係るアルキル基は、直鎖状又は分岐状のアルキル基である。そして、Rに係るアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜30、特に好ましくは7〜22である。Rに係るアルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。
【0013】
に係るアルコキシ基は、直鎖状又は分岐状のアルコキシ基である。そして、Rに係るアルコキシ基は、好ましくは下記一般式(5)
(2p+1)O− (5)
で表され、pが1〜30の整数であるアルコキシ基であり、特に好ましくはpが7〜22の整数であるアルコキシ基である。
【0014】
に係る前記一般式(2)中のRは、水素原子又はメチル基を示し、Zは−(CH−、−(CH−O−、−CO−O−(CH−、−CO−O−(CH−O−、−C−CH−O−又は−CO−を示す。Z中、mは、1〜30の整数であり、好ましくは1〜22の整数である。
【0015】
本発明において、前記一般式(1)の式中のRは、特に炭素数7〜22の直鎖状のアルキル基が好ましい。
【0016】
前記一般式(1)の式中のA又はAは酸素原子、硫黄原子又はCHを表し、AとAは異なっていても同一であってもよい。
本発明において、特にAとAは酸素原子であることが好ましい。
【0017】
前記一般式(1)の式中の、Xは、SO、COO、及びPOの群から選ばれる陰イオンを示し、この中、特にXはSOが好ましい。
【0018】
前記一般式(1)の式中のnは1〜10の整数、好ましくは3〜6の整数である。
【0019】
前記一般式(1)で表されるピリジニウム塩誘導体は、前記一般式(3)で表される化合物と前記一般式(4)で表される化合物とを反応させることにより工業的に有利に製造することができる。
【0020】
前記一般式(3)で表される化合物は、公知の化合物であり、例えば、式中のAとAが、酸素原子又は/及び硫黄原子である化合物は、下記反応スキーム(1)に従って、まず、マロン酸エステル(6)から化合物(8a)を得る。また、必要により更に反応を行って化合物(8a)を原料として化合物(8b)又は化合物(8c)を合成し、次いで、得られた化合物(8a)、化合物(8b)又は化合物(8c)と、ピリジン−4−アルデヒド(11)とを反応させることにより相当する化合物(3)を得ることができる(例えば、特開平10−53585号公報、特開平10−338691号公報、特開2000−86656号公報、「Liquid Crysたls」, 1999, Vol.26, No.10, 1425−1428参照。)。
参照。)
【化9】

(式中、Rは前記と同義。A、Aは酸素原子又は/及び硫黄原子を示す。Rはアルキル基を示す。X’、X’’はハロゲン原子を示す。)
また、前記一般式(3)の式中のAとAが、CHである化合物は、下記反応スキーム(2)に従って、4−置換フェノール(12)をラネ−ニッケル、ラネ−コバルトなどの接触還元触媒の存在下に水素と反応させることにより相当する4−置換シクロヘキサノール(13)を合成し(例えば、特開昭58−164676号公報、特開平2−131405号公報、米国特許第3,322,619号公報参照)、引き続き得られた4−置換シクロヘキサノール(13)と、ピリジン−4−アルデヒド(11)とを反応させることにより相当する化合物(3)を得ることができる。
【化10】

(式中、Rは前記と同義。)
【0021】
もう一方の反応原料の前記一般式(4)の式中のYは−SO−、−CO−及び−P(O)(OH)―の群から選ばれる基を示し、これらの中、特にYは−SO−が好ましい。また、一般式(4)の式中のnは一般式(1)の式中のnに相当し、nは1〜10の整数、好ましくは3〜6の整数である。
前記一般式(4)の式中のYが−SO−又は−CO−の化合物は、市販品を用いることができる。また、一般式(4)の式中のYが−P(O)(OH)―でる化合物は、下記反応スキーム(3)に従って製造することができる(例えば、「Journal of the American Chemical Society」, Vol.87,No.2,253−260p,1965年参照)
【化11】

(式中、nは前記と同義。)
【0022】
前記一般式(3)で表される化合物と前記一般式(4)で表される化合物との反応は、溶媒中で行われる。
【0023】
使用できる溶媒としては、例えばアセトニトリル、プロピオニトリル、ブチルニトリル等のニトリル化合物、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール等を用いることができる。
【0024】
前記一般式(3)で表される化合物に対する前記一般式(4)で表されるスルトン化合物の添加割合は、モル比で0.90〜1.10、好ましくは0.95〜1.05である。反応温度は、10〜100℃、好ましくは50〜90℃で、反応時間は1〜60時間、好ましくは10〜50時間である。また、反応は窒素などの不活性雰囲気で行うことが好ましい。
【0025】
反応終了後は、常法により分離、必要により精製及び乾燥して一般式(1)で表されるピリジニウム塩誘導体を得る。
【0026】
次いで、本発明の液晶性材料について説明する。
本発明の液晶性材料は、前記一般式(1)で表されるピリジニウム塩誘導体を1種又は2種以上含有し、液晶性を示す材料である。
【0027】
本発明の前記一般式(1)で表されるピリジニウム塩誘導体において、全ての化合物が液晶性を示すとは限らないが、例えばnが3〜6の整数で、Rがアルキル基の場合は、炭素数7以上、アルコキシ基の場合は、前記一般式(5)の式中のpが7以上、前記一般式(2)で表される不飽和結合を有する基の式中のmが5以上のものは、液晶相としてスメクチック相を有する。
【0028】
本発明の液晶性材料における前記一般式(1)で表されるピリジニウム塩誘導体の含有量は、材料自体が液晶性を示す範囲であれば特に制限されるものではないが、例えば、該ピリジニウム塩誘導体が液晶性を示すものである場合は、多くの場合、液晶性材料中に30重量%以上、好ましくは50重量%以上、更に好ましくは90重量%以上含有させることが望ましい。
【0029】
また、前記一般式(1)で表されるピリジニウム塩誘導体の中、不飽和基を有するものは、そのホモ重合体、共重合体、架橋剤により架橋されている高分子量の化合物、或いはヒドロシリル基を有する高分子化合物に付加反応させて得られる高分子量の液晶性材料として用いることも出来る。
【0030】
また、前記一般式(1)で表されるピリジニウム塩誘導体のうち、液晶性を示さないものは、混合系の液晶性材料の1成分として使用してもよい。
【0031】
本発明の前記一般式(1)で表されるピリジニウム塩誘導体は、2種以上で混合して用いることにより、液晶を示す温度範囲を広く調整することができる。
【0032】
本発明の前記一般式(1)で表されるピリジニウム塩誘導体は、結合する陰イオンとしてハロゲンイオンを有していないため、金属の腐食等の問題も生じ難い。更に本発明のピリジニウム塩誘導体は、陰イオン基と陽イオンの結合はイオン結合だけでなく、共有結合でも結合していることから、従来のイオン結合のみで結合しているものに比べて、耐久性にも優れた化合物である。このような本発明の新規ピリジニウム塩誘導体は、潤滑油用添加剤、コンデンサー材料、液晶ディスプレー等の電子材料或いは電池の電解質等の電気化学分野での利用が期待できる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
{実施例1及び2}
<ジエチル−2−アルキルマロネイトの合成(第一工程)>
下記の反応式により、ジエチル−2−アルキルマロネイト(7a)を合成した。
【化12】

(式中、Rは、n−C1429(実施例1)又はn−C1633(実施例2)を示す。)
500ml三角フラスコに150mlのエタノールを入れ、金属ナトリウム(0.3mol)を溶解後、ジエチルマロン酸(6a)(0.3mol)を加え、冷却後、アルキルブロマイド(a)(0.3mol)を加えた。エチレングリコール浴中30℃で18時間還流した。溶媒を減圧除去後、ジエチルエーテル(300ml)を加え、分液漏斗中で、冷希塩酸300ml(塩酸:水=30ml:300ml)、続いて冷蒸留水100mlで洗浄した。エーテル層を得た後、水層をジエチルエーテル100mlを加えて再抽出した。分液によって得たジエチルエーテル溶液は無水硫酸ナトリウムで約1日脱水した。ろ過し、ジエチルエーテルを減圧除去後、残渣を減圧蒸留してジエチル−2−アルキルマロネイト(7a)を得た。
【0034】
<2−アルキル1,3−プロパンジオールの合成(第二工程)>
下記の反応式により、2−アルキル1,3−プロパンジオール(8a)を合成した。
【化13】

(式中、Rは、n−C1429(実施例1)又はn−C1633(実施例2)を示す。)
500mlの三つ口丸底フラスコに100mlのジエチルエーテルを入れ、リチウムアルミニウムハイドライドを(2倍量mol)入れ、そこに、氷冷しながら第一工程で得られたジエチル−2−アルキルマロネイト(7a)(0.23mol)をジエチルエーテル100mlに溶解させた溶液を、滴下漏斗でゆっくり滴下した。その後、エチレングリコール浴中で40℃で、4時間還流した。反応後、氷冷下で酢酸エチル(0.3mol)をジエチルエーテル100mlに溶解させた溶液を、滴下漏斗でゆっくりと滴下した。
次に飽和アンモニウム水溶液50mlを、滴下漏斗で一滴ずつゆっくりと加えた。その後フラスコをジエチルエーテルで満たし、室温(25℃)で3時間攪拌した。ろ過し、残渣を300mlのジエチルエーテルに溶かし24時間攪拌した。ジエチルエーテルに無水硫酸ナトリウムを加え、約1日脱水した後、ジエチルエーテルを減圧除去し、残渣として2−アルキル1,3−プロパンジオール(8a)を得た。
【0035】
<4−(5−アルキル−1,3−ジオキサ−2−イル)ピリジンの合成(第三工程)>
下記の反応により、4−(5−アルキル−1,3−ジオキサ−2−イル)ピリジン(3a)を合成した。
【化14】

(式中、Rは、n−C1429(実施例1)又はn−C1633(実施例2)を示す。)
反応装置として、ディーン−スターク−トラップ(Dean−Stark−Trap)を用いた。100ml三角フラスコに、ベンゼン60ml及び第二工程で得られた2−アルキル1、3−プロパンジオール(8a)(0.03mol)を入れ、更に、ピリジン−4−アルデヒド(11)(等mol数)を溶解した。次いで、p−トルエンスルホン酸を10g加え、pH1以下にする。pHを確認後、三角フラスコに、ディーン−スタークートラップを取り付け、シリコーン浴中で135℃〜140℃で5時間還流した。冷却後、ジエチルエーテル(300ml)に溶解し、炭酸ナトリウム水溶液(30g/300ml)で洗浄し、水溶液が塩基性であることを確かめた後、蒸留水(100ml)で洗浄し、ジエチルエーテル層を得た。その後、ジエチルエーテル層を無水硫酸ナトリウムで約1日脱水した。ろ過し、ジエチルエーテルを減圧除去し残渣を得た。シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーで、初めにヘキサン300mlを流し、次いで、ベンゼン300mlを流して分離した。目的物はベンゼン溶媒中に溶出した。これを溶媒除去した後、特級ヘキサンで3〜4回再結晶して精製し、4−(5−アルキル−1,3−ジオキサ−2−イル)ピリジン(3a)を得た。
【0036】
<ピリジニウム塩誘導体の合成(第四工程)>
下記の反応により、ピリジニウム塩誘導体(1a)を合成した。
【化15】

(式中、Rは、n−C1429(実施例1)又はn−C1633(実施例2)を示す。)
第三工程により得られた4−(5−アルキル−1,3−ジオキサ−2−イル)ピリジン(3a)(Rがn−C1429(実施例1)では、0.00270mol、n−C1633(実施例2)では、0.00257mol)をアセトニトリル10mlに溶解した。これに1,4―ブタンスルトン(4a)(関東化学社製)を4−(5−アルキル−1,3−ジオキサ−2−イル)ピリジン(3a)と等モル数、アセトニトリル10mlに溶解したものを滴下した。滴下後、70℃で窒素雰囲気下で2日間攪拌して反応を終了した。反応終了後、アセトニトリルを減圧除去後、ジエチルエーテルを加え室温下(25℃)で1日攪拌し、デカンテーションにより沈殿物を得た。次いで、沈殿物からエーテルを減圧除去し、ピリジニウム塩誘導体(1a)を得た。
得られたピリジニウム塩誘導体(1a)のH−NMR及びIR分析結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
{実施例3及び4}
実施例1及び実施例2と同様に第一工程〜第三工程を実施し、次いで第四工程において、実施例1及び実施例2の1,3−ブタンスルトン(4a)を1,3−プロパンスルトン(4b)(関東化学社製)に代えた以外は、実施例1及び2と同様にしてピリジニウム塩誘導体(1b)を得た。
【化16】

(式中、Rは、n−C1429(実施例3)又はn−C1633(実施例4)を示す。)
得られたピリジニウム塩誘導体(1b)のH−NMR及びIR分析結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
{実施例5及び6}
実施例1及び実施例2の第一工程において、アルキルブロマイド(8a)(0.3mol)をn−C1021Br(0.3mol;実施例5)又はn−C1225Br(0.3mol;実施例6)とした以外は、実施例1及び実施例2と同様に第一工程〜第四工程を実施しピリジニウム塩誘導体(1a)を得た。
得られたピリジニウム塩誘導体(1a)のH−NMR及びIR分析結果を表3に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
{実施例7及び8}
実施例5及び実施例6と同様に第一工程〜第三工程を実施し、次いで第四工程において、実施例5及び実施例6の1,3−ブタンスルトン(4a)を1,3−プロパンスルトン(4b)に代えた以外は、実施例5及び6と同様にしてピリジニウム塩誘導体(1b)を得た。
得られたピリジニウム塩誘導体(1b)のH−NMR及びIR分析結果を表4に示す。
【0043】
【表4】

【0044】
実施例1〜8で得られたピリジニウム塩誘導体の相転移温度の測定結果を表5に示す。
【0045】
【表5】

注)C;結晶、SmA;スメクチックA相、dec;熱分解
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のピリジニウム塩誘導体は、新規な化合物であり、また、結合する陰イオンとしてハロゲンイオンを含まないことから、例えば、潤滑油用添加剤として用いた場合に、金属の腐食等の問題も生じ難い。更に本発明のピリジニウム塩誘導体は、陰イオン基と陽イオンの結合はイオン結合だけでなく、共有結合でも結合していることから、対イオンは常に同一分子内に存在し分離しない。従来のイオン結合のみで結合しているものは、水などの誘電率の大きい溶媒では分離されてしまうのに対して、本発明のピリジニウム塩誘導体は、正、負の両イオンが分離できないので、電荷の移動によるイオンの分離が起こらないというこれまでにない特徴を持つ。
また、正負の両イオンが決まっているので、安定した物性が得られる。
更に、本発明のピリジニウム塩誘導体は、分子内に大きな電荷の分離が存在し、対イオンは同一分子内で結合している状態で存在する。さらに液晶性を有するものは、スメクチック液晶分子間配列を形成するので、電荷の配列に秩序が存在し、極めて大きな誘電率を持つものと考えられる。
このような本発明の新規ピリジニウム塩誘導体は、潤滑油用添加剤、コンデンサー材料、液晶ディスプレー等の電子材料或いは電池の電解質等の電気化学分野での利用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とするピリジニウム塩誘導体。
【化1】

{式中、Rはアルキル基、アルコキシ基、又は下記一般式(2)
【化2】

(一般式(2)中のRは水素原子又はメチル基を示し、Zは、−(CH−、−(CH−O−、−CO−O−(CH−、−CO−O−(CH−O−、−C−CH−O−又は−CO−を示す。Z中、mは、1〜30の整数である。)で表される不飽和結合を有する基を示す。A及びAは酸素原子、硫黄原子又はCHを示す。XはSO、COO、及びPOの群から選ばれる陰イオンを示す。nは1〜10の整数を示す。}
【請求項2】
一般式(1)において、Rは炭素数7〜22のアルキル基であることを特徴とする請求項1記載のピリジニウム塩誘導体。
【請求項3】
一般式(1)において、Rは炭素数7〜22のアルキル基、A及びAは酸素原子、XはSOであることを特徴とする請求項1記載のピリジニウム塩誘導体。
【請求項4】
下記一般式(3)
【化3】

(式中、R、A及びAは前記と同義。)で表される化合物と、下記一般式(4)
【化4】

(式中、Yは−SO−、−CO−及び−P(O)(OH)―の群から選ばれる基を示し、nは前記と同義。)で表される化合物とを反応させることを特徴とする下記一般式(1)
【化5】

(式中、R、A、A、X及びnは前記と同義。)で表されるピリジニウム塩誘導体の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至3記載のピリジニウム塩誘導体を有効成分とすることを特徴とする液晶性材料。

【公開番号】特開2011−37769(P2011−37769A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186745(P2009−186745)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【Fターム(参考)】