説明

ピリドビスイミダゾールフィブリルの製造方法及びシート

【課題】 ピリドビスイミダゾールフィブリルのミクロな太さの繊維(フィブリル)を簡便に得る方法を提供し、かつ得られたフィブリルを用いて、従来になく薄くて力学的性能に優れたピリドビスイミダゾールフィブリルシートを提供することである。
【解決手段】 ピリドビスイミダゾールフィブリルの溶剤溶液をピリドビスイミダゾールフィブリルの凝固剤中に混合攪拌させてピリドビスイミダゾールフィブリルのフィブリルを形成させることを特徴とするピリドビスイミダゾールフィブリルの製造方法であり、また、得られたピリドビスイミダゾールフィブリルフィブリルを抄造してなることを特徴とするピリドビスイミダゾールシートであり、さらに、ピリドビスイミダゾールフィブリルシートに樹脂を付与してなるピリドビスイミダゾールフィブリルシートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピリドビスイミダゾールのミクロなフィブリルの製造方法及びそのフィブリルを用いたピリドビスイミダゾールに関する。
【背景技術】
【0002】
剛直性ポリマーからなるシートとしては、例えば以下のように布帛(特許文献1)や不織布(特許文献2)が提案されている。
このようなシートは、力学物性は高いが、シートを構成する剛直高分子は、ノズルから押し出して延伸した繊維であるため、繊維径は細いものでも概ね10μm程度である。このため、シートの厚みは薄くても、せいぜい50μm程度であった。このため、従来になく薄くて強度が高いシートが求められていた。
【0003】
【特許文献1】特開平7−126972号公報
【特許文献2】特開平9−29899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
剛直高分子として、ピリドビスイミダゾールのミクロな太さの繊維(フィブリル)を簡便に得る方法を提供し、かつ得られたフィブリルを用いて、従来になく薄くて力学的性能に優れたピリドビスイミダゾールシートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の構成を採用する。すなわち、(1)ピリドビスイミダゾールの溶剤溶液をピリドビスイミダゾールの凝固剤中に混合攪拌させてピリドビスイミダゾールのフィブリルを形成させることを特徴とするピリドビスイミダゾールフィブリルの製造方法、(2)ピリドビスイミダゾールの溶剤がポリ燐酸及びメタンスルホン酸の少なくとも一方であり、ピリドビスイミダゾールの凝固剤が、ポリ燐酸及びメタンスルホン酸の少なくとも一方と相溶でピリドビスイミダゾールと非相溶の液体である(1)に記載のピリドビスイミダゾールフィブリルの製造方法、(3)(1)又は(2)に記載の製造方法より得られたピリドビスイミダゾールを抄造してなることを特徴とするシート、(4)(3)のピリドビスイミダゾールに樹脂を付与してなるピリドビスイミダゾールシート、である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の方法によれば、ピリドビスイミダゾールの通常の紡糸法では得ることができない細繊度のフィブリルを簡単な方法で容易に得ることができる。得られたフィブリルは、抄紙法でシートに抄紙することができ、得られた抄紙は、バインダー樹脂を付与することにより、従来になく薄くて形態安定性、力学特性にも優れたピリドビスイミダゾールシートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る繊維とは、ピリドビスイミダゾールよりなる繊維をいい、少なくとも50%は、ピリドビスイミダゾール‐2,6‐ジイル(2,5‐ジヒドロキシ‐p‐フェニレン)の繰り返し基からなり、一方、残りの基において、2,5‐ジヒドロキシ‐p‐フェニレンが置換されているか又は置換されていないアリーレンにより置き換えられており、及び/又はピリドビスイミダゾールが、ベンゾビスイミダゾール、ベンゾビスチアゾール、ベンゾビスオキサゾール、ピリドビスチアゾール及び/又はピリドビスオキサゾールにより置き換えられている。この場合に、繰り返し基の少なくとも75%がピリドビスイミダゾール‐2,6‐ジイル(2,5‐ジヒドロキシ‐p‐フェニレン)から作られるところのラダーポリマーが好ましく、一方、残りの基において、2,5‐ジヒドロキシ‐p‐フェニレンが置換されているか又は置換されていないアリーレンにより置き換えられており、及び/又はピリドビスイミダゾールが、ベンゾビスイミダゾール、ベンゾビスチアゾール、ベンゾビスオキサゾール、ピリドビスチアゾール及び/又はピリドビスオキサゾールにより置き換えられている。
2,5‐ジヒドロキシ‐p‐フェニレンの部分的置き換え(せいぜい50%まで)の場合に、アリーレンジカルボン酸、例えばイソフタル酸、テレフタル酸、2,5‐ピリジンジカルボン酸、2,6‐ナフタレンジカルボン酸、4,4´‐ジフェニルジカルボン酸、2,6‐キノリンジカルボン酸及び2,6‐ビス(4‐カルボキシフェニル)ピリドビスイミダゾールのカルボキシル基の除去後に残るところの化合物が好ましい。
【0008】
ピリドビスイミダゾール‐2,6‐ジイル(2,5‐ジヒドロキシ‐p‐フェニレン)の構造単位は、[化1]で示される。
【0009】
【化1】

【0010】
ポリマーのドープを形成するための好適溶媒としては、クレゾールやそのポリマーを溶解し得る非酸化性の酸が含まれる。好適な酸溶媒の例としては、ポリ燐酸、メタンスルホン酸及び高濃度の硫酸或いはそれ等の混合物があげられる。更に適する溶媒は、ポリ燐酸及びメタンスルホン酸である。また最も適する溶媒は、ポリ燐酸である。
【0011】
ドープ中のポリマー濃度は好ましくは少なくとも約7質量%であり、より好ましくは少なくとも10質量%、特に好ましくは少なくとも14質量%である。最大濃度は、例えばポリマーの溶解性やドープ粘度といった実際上の取り扱い性により限定される。それらの限界要因のために、ポリマー濃度は通常では20質量%を越えることはない。
【0012】
本発明において、好適なポリマーまたはコポリマーとドープは公知の方法で合成される。(特表平8−509516)好適なモノマーは非酸化性で脱水性の酸溶液中、非酸化性雰囲気で高速撹拌及び高剪断条件のもと約60℃から230℃までの段階的または一定昇温速度で温度を上げることで反応させられる。
【0013】
このようにして得たピリドビスイミダゾールにせん断応力を加えつつ凝固剤と接触せしめてピリドビスイミダゾールフィブリルを生成させる。
ピリドビスイミダゾールフィブリルを生成させる方法の例としては、ピリドビスイミダゾールドープと凝固剤とを混合攪拌できる装置に入れ、両者を混合攪拌することにより、ピリドビスイミダゾールが粉砕されつつせん断応力が加えられ、ピリドビスイミダゾールポリマーが配向しながら凝固するため、一気にミクロなフィブリルを生成することができる。
【0014】
凝固剤としては、ポリ燐酸と相溶でありピリドビスイミダゾールと非相溶の液体であればいずれでもよい。例えば水、メタノール、エタノール、アセトン、エチレングリコール等である。混合する凝固剤のドープに対する割合は、ドープ1質量部に対して1から20質量部、好ましくは2から15質量部、さらに好ましくは3から10質量部に調整することがよい。凝固剤の割合が少なすぎると、フィブリルが粗大化する傾向がある。逆に凝固剤の割合が多すぎると、出来上がったミクロフィブリルを集めるのに困難が生じることがある。フィブリルの長さは、好ましくは、1000〜1μm、より好ましくは500〜10μmである。
【0015】
また、本発明におけるフィブリルの太さは0.01μm以上5μm以下、好ましくは0.05μm以上1μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上0.7μm以下である。
フィブリルの太さ、長さは、ドープと凝固剤との割合、攪拌速度などによって調整が可能である。あまり細かくしすぎるとフィブリル同士が絡まりあう力に不足が生じるため、強度が出ない。フィブリルが太すぎると反対に斑が出てくるため、シートにしたとき強度が出ないことがある。
【0016】
さらに、生成したフィブリルは、酸含有量が1.0質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以下になるように洗浄する。酸の抽出媒体として用いられる液体は特に限定はないが、ピリドビスイミダゾールに対して実質的に相溶性を有しない水、メタノ?ル、エタノール、アセトン、エチレングリコール等が好ましい。水酸化ナトリウム水溶液などで中和した後、水洗する方法が最も簡便である。
【0017】
得られたフィブリルは、水に分散させた状態で抄紙法によってシートに成形する。得られたシートは、必要に応じてバインダー樹脂をパディング法、含浸法、スプレー法などの公知の方法で付与させることで強度と形態安定性に優れたシートにすることができる。
【0018】
本発明で使用するバインダー樹脂は、ピリドビスイミダゾールの性質を損なわないものであれば限定されないが、ポリエステル、セルロースおよびその誘導体、ポリイミド、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレンなどの公知の樹脂を使用することができる。
【実施例】
【0019】
次の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0020】
・測定方法:
(極限粘度)
メタンスルホン酸を溶媒として、0.5g/lの濃度に調製したポリマー溶液の粘度をオストワルド粘度計を用いて25℃恒温槽中で測定した。
(フィブリル太さ、長さ)
フィブリルの長さ及び太さは日立製走査型電子顕微鏡(S4500)を用いて測定した。加速電圧は5kVであった。サンプルを試料台に載せた後、プラチナ蒸着をして観察資料とした。
【0021】
(引張、強度及び弾性率)
抄紙の力学物性は、気温25℃、相対湿度50%の雰囲気で、オリエンテック社製テンシロンを用いて測定した。試料は幅10mmの短冊状とし、支間長40mm、引っ張り速度20mm/secで測定した応力歪み曲線から算出した。
【0022】
(抄紙の厚み)
抄紙の厚みはマイクロメーターを用いて測定した。
【0023】
(実施例1)
特表平8−509516号公報に示される方法によって得られた30℃のメタンスルホン酸溶液で測定した固有粘度が14.2dl/gのピリドビスイミダゾール‐2,6‐ジイル(2,5‐ジヒドロキシ‐p‐フェニレン)14.0(重量)%と五酸化リン含有率84.12%のポリ燐酸からなる紡糸ドープ1部に対して、水3部を加え、東芝製ミル&ミキサー(EJC−M1)にいれ、ミキサーモードにて3分間づつ10回繰り返し運転をして、ドープの粉砕と凝固を実施した。砕いたピリドビスイミダゾールはフィブリル状を呈した。これをビーカーに移し、蒸留水で3回以上水を交換しながら水洗した後、1Nの水酸化ナトリウム水溶液に20分間浸した。さらに蒸留水を用いて水を替えながら5回以上洗浄した。
得られた繊維の一部を取り出し乾燥させたものをサンプル台に乗せ、走査電子顕微鏡観察をしたところ、太さ(直径)0.07〜0.5μm、長さ20〜100μmのフィブリルが生成していた。
次に、得られたフィブリルを水中に分散させ、金網を敷いたバットの上に、フィブリルが均一な厚みになるよう流し込んだ。バットの水を切った後、金網をフィブリルとともにバットから取り出し、80℃のオーブン中に2時間放置し乾燥させた。注意深くフィブリルが積もってできた抄紙を金網から破れないように取り外した。抄紙の厚みは42μmであった。
【0024】
(実施例2)
実施例1の方法に従って作成したピリドビスイミダゾール‐2,6‐ジイル(2,5‐ジヒドロキシ‐p‐フェニレン)のフィブリルからなる抄紙をニトロセルロース(ナカライテスク株式会社)の10質量%アセトン溶液に浸した後、抄紙の周りに付着した余分な溶液をふき取った後自然乾燥させた。さらに、温度150℃に調整したプレス機で1Maの圧力を1分間かけた。フィブリルは相互に固着し、厚さ25μmの均質なシートが得られた。力学物性を測定した結果、強度0.92GPa,弾性率14GPaであった。これを用いて振動版を作成し、スピーカーに組み込んで試聴したところ、音響板の役割を果たすことがわかった。
【0025】
(実施例3)
実施例1と同じ方法でフィブリルを調整したものを、バイロナールMD−1200(東洋紡績社製ポリエステル系バインダー樹脂)の10質量%水溶液に分散させた後、金網を広げたバット上に広げること以外は実施例1に記載した方法に従い、ピリドビスイミダゾールからなる抄紙を得た。さらに、温度150℃に調整したプレス機にかけ、1MPaの圧力を1分間かけた結果、厚さ20μmのシートが得られた。強度は0.68GPa、弾性率は9.7GPaであった。実施例2と同様にスピーカーを作成して試聴したところ音響板の役割を果たすことがわかった。
【0026】
(比較例1)
従来の剛直製繊維として、太さ12μm、カット長5mmの東洋紡績社製ザイロンASチョップをフィブリルの代用品として選び、実施例3と同じ方法で抄紙を作成した。得られたシートの強度は0.043GPa、弾性率0.74GPaであった。スピーカーに組み込んで試聴したところ、音が歪んで聞き苦しかった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明で得られたピリドビスイミダゾールフィブリルは、従来になく薄くて形態安定性、力学特性にも優れたピリドビスイミダゾール‐2,6‐ジイル(2,5‐ジヒドロキシ‐p‐フェニレン)フィブリルシートを提供することが可能であり、さらに、このシートは、耐熱性材や防護材、音響用振動板などに利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピリドビスイミダゾールの溶剤溶液をピリドビスイミダゾールの凝固剤中に混合攪拌させてピリドビスイミダゾールのフィブリルを形成させることを特徴とするピリドビスイミダゾールフィブリルの製造方法。
【請求項2】
ピリドビスイミダゾールの溶剤がポリ燐酸及びメタンスルホン酸の少なくとも一方であり、ピリドビスイミダゾールの凝固剤が、ポリ燐酸及びメタンスルホン酸の少なくとも一方と相溶でピリドビスイミダゾールと非相溶の液体である請求項1に記載のピリドビスイミダゾールフィブリルの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法より得られたピリドビスイミダゾールを抄造してなることを特徴とするシート。
【請求項4】
請求項3のピリドビスイミダゾールに樹脂を付与してなるピリドビスイミダゾールシート。

【公開番号】特開2009−46781(P2009−46781A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214653(P2007−214653)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】