説明

ピルガーロールオイルの簡易的評価方法

【課題】 鋼管製造工程におけるピルガーの潤滑油として使用されているピルガーロールオイル性状の簡易的評価方法を提供する。
【解決手段】 鋼管製造工程における鋼管内面局部腐食を防止する方法において、鋼管内面局部腐食の起因となるピルガーロールオイルの性状を簡易的に評価し、オイルの性状管理を行うピルガーロールオイルの簡易的評価方法。また、上記のピルガーロールオイルの性状を簡易的に評価するに当たり、油こし紙を用いて濾過するに際し、オイルの濾過時間で粘性を、濾過後の残渣物でオイル内に含まれる鉄分を測定するピルガーロールオイルの簡易的評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管製造工程におけるピルガーの潤滑油として使用されているピルガーロールオイル性状の簡易的評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼管製造工程において、内径が概ね径25mm以下の小径管での鋼管内面に局部的な錆が発生することがあり、これを起点として腐食が進行して錆びの下には孔食が形成され客先で問題となっている。特に、コールドピルガーによる製造工程としては、冷間圧延した後に、脱脂、焼鈍、矯正して切断・端部処理した後酸洗を行うものである。その場合、鋼管製造工程において、小径管に見られる内面錆の発生メカニズムを解明した結果は、次の通りである。
【0003】
上記、内面錆の発生機構としては、(1)小径管はピルガーロールオイルが残存しやすい。(2)小径管は熱処理で管内雰囲気が置換されにくく、残存のピルガーロールオイルが酸欠状態で燃焼するため内面に残渣物が発生する。(3)夏場の湿潤環境下で、この残渣物によって電池が形成され、急激な腐食を起こす。(4)夏場は気温が高くピルガーロールオイルが劣化しやすく、脱脂が不充分になりやすい。このような要因で内面腐食(内面錆と孔食)が発生している。これら鋼管内面局部腐食の防止には、いかに冷間圧延後、焼鈍前に鋼管内面に供給されたピルガーロールオイルを除去できるかである。
【0004】
そこで、例えば特開2000−167607号公報(特許文献1)に開示されているように、マンドレル先端にかぎ付きボルトにリンクさせたスプリングを有する溝付き掻き取りゴムを配設したコールドピルガーミル製品内面油を除去する装置が提案されている。
【特許文献1】特開2000−167607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ピルガーロールオイルがタール状になってしまい粘性が高くなると管内にへばりついて残存し、十分に除去できず内面腐食につながると言う問題があった。しかも、従来では発生していなかった外径概ね30〜40mm、内径25mm以下の肉厚サイズのものでも、鋼管内面のエアブローおよび保管傾斜角度を十分満たしていても、内面腐食発生を抑制できないものが一部発生してきた。その原因はやはり、外径も大きく肉厚も厚いためコールドピルガー圧伸時の加工発熱の絶対量が大きく、内面に供給されたピルガーロールオイルが加工発熱によって粘性の高いタール状に変質し、エアブローや保管傾斜角度では流れ落ちず、内面にへばりついており、脱脂でも残存のピルガーロールオイルを除去できず、やはり前述の発生メカニズムによって内面腐食につながることが分かった。
【0006】
一方、従来よりピルガーロールオイルの管理は1回/月、オイル製造元で性状分析を行い、その結果に基づき管理を行っている。その分析結果が出るまでに約3週間程度かかるため、結果がでて新油追加と判断するころには、さらにオイルの劣化(オイルのタール化)状況が進み内面腐食(内面錆と孔食)に影響を及ぼしかねないオイル性状になっている危険性がある。しかも、一旦劣化したオイルが循環し始めると、エアブローやクレードルの傾きでは落ちにくい、さらなる粘性の高いタール状オイルへと変質し、循環効果を失うレベルに達すると炭化まで引き起こし、内面腐食に対する悪影響の一途を辿ることとなる。そのためにもオイルの性状管理が必要となり、劣化したオイルが循環する前に手を打つ必要がある。
【0007】
また、ピルガーロールオイルには摩耗粉および素管のスケール粉等による鉄粉を含んでいる。ピルガーロールオイル内の鉄粉濃度が高くなると圧伸の加工熱で鉄を触媒にオイル内で重合反応が起こり、高分子化が促進され、粘度の高いタール状オイルへと変質する。鉄粉をはじめ油に含まれる不純物およびオイル粘度を測定することを目的とし、また、現場で頻度よく測定できる簡易評価方法が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述のような問題を解消するために発明者らは鋭意開発を進めた結果、「油こし紙」を用いピルガーロールオイルの濾過を試み、濾過できることを確認し、濾紙の代用としてロートに敷いて濾過が可能となり、濾過時間にてオイルの粘性度合いを確認し、また、濾過後の残渣物でオイル内に含まれる残渣物(鉄分等)の度合いを確認した。これにより頻度良く継続的に測定することが可能となり、オイル劣化の進行状況を把握でき、予防処理を可能にしたピルガーロールオイルの簡易的評価方法を提供するものである。
【0009】
その発明の要旨とするところは、
(1)鋼管製造工程における鋼管内面局部腐食を防止する方法において、鋼管内面局部腐食の起因となるピルガーロールオイルの性状を簡易的に評価し、オイルの性状管理を行うことを特徴とするピルガーロールオイルの簡易的評価方法。
(2)前記(1)に記載のピルガーロールオイルの性状を簡易的に評価するに当たり、油こし紙によるオイルの濾過時間で粘性を、濾過後の残渣物でオイル内に含まれる鉄分を測定することを特徴とするピルガーロールオイルの簡易的評価方法。
【0010】
(3)前記(1)および前記(2)に記載のピルガーロールオイルの性状を簡易的に評価するに当たり、油こし紙を折って漏斗に挿入し、該油こし紙に所定量のオイルを投入してオイルの濾過時間を測定してオイルの粘性を測定すると共に、濾過後の残渣物でオイル内に含まれる鉄分を測定することを特徴とするピルガーロールオイルの簡易的評価方法にある。
【発明の効果】
【0011】
以上述べたように、本発明により頻度良く継続的に測定することが可能となり、オイル劣化の進行状況を把握でき、オイル性状に対しての予防処理が可能となり、劣化したオイルの使用を続けることを防ぎ、その結果、内面腐食発生の抑制を図ることが出来、工業的に極めて優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
鋼管製造工程におけるピルガーの潤滑油として使用されているピルガーロールオイル性状は使用に伴いオイルの劣化は進んで行くもので、その劣化したオイルには冷間圧延でのロールでの摩耗粉および素管のスケール粉等による鉄粉を含んでいる。このオイル内の鉄粉濃度が高くなると圧伸の加工熱で鉄を触媒にオイル内で重合反応が起こり、高分子化が促進され、粘度の高いタール状オイルへと変質する。この鉄粉をはじめ油に含まれる不純物およびオイル粘度を測定してオイルの劣化状況を把握する必要がある。
【0013】
しかし、ピルガーロールオイルを濾過して測定するに当たり、大きなポイントはオイルが濾過できるかどうかにある。長年の課題として過去にも何度か濾過に対する試みがなされて来たが目的を達成するまでに至らなかった。一般に分析用に使用される濾紙でメッシュの一番粗いものを試みるが目詰まりを起こし一滴もオイルは落ちず測定不能な状態となる。そのため本来オイルの濾過には、前処理として酸での分解によりサラサラにしてから行うのがオイルメーカーの世界では常識とされていた。
【0014】
本発明は、上述のような前処理なしにそのまま濾過が可能な方法を見出し、簡易評価できる方法を確立させたことにある。しかも、現場で測定できる程度の簡易的な方法で頻度よくオイルの性状を確認することでピルガーロールオイルの劣化状況をタイムリーに把握でき、新油の追加時期を判定することが可能となり、その結果、内面腐食発生の抑制を図ることが出来るものである。
【0015】
すなわち、鋼管内面局部腐食の起因となるピルガーロールオイルの性状を簡易的に評価し、オイルの性状管理を行うピルガーロールオイルの簡易的評価方法であり、そのピルガーロールオイルの性状を簡易的に評価する方法として、「油こし紙」を用いて濾過することにある。この「油こし紙」を用いピルガーロールオイルの濾過を試みたところ、濾過できることを確認し、さらに濾紙の代用としてロートに敷いて濾過を試みた結果、濾過が可能と判定して、「油こし紙」を濾過に使用したものである。上記の「油こし紙」を使用することでオイルの性状をタイムリーに簡易評価することが可能となった。
【実施例】
【0016】
以下、本発明について実施例によって具体的に説明する。
先ず、オイルセンターからピルガー機種に供給しているセンター出側配管から常に500mlを採取し濾過を実施した。濾過を実施するに当たり、表1に示すように、常に300mlのオイルの濾過時間を測定、500mlが濾過した時間を濾過完了とすることで、オイルの粘性度合いを確認する。一方、濾過後の残渣物でオイル内に含まれる鉄分等の度合いを測定してピルガーロールオイルの性状を簡易的に評価し、頻度よく継続的に測定していくことでオイル劣化の進行状況が把握するものである。表1に示す濾過時間を分で測定した結果と濾過した残渣物量とでオイル性状を総合的に評価した。
【0017】
【表1】

表1に示すように、No.1〜9が「油こし紙」を用いた本発明例と比較例であり、No.10、12は一般的な濾紙で目の細かいもの、No.11、13は一般的な濾紙で目の粗いものを比較例とした。
【0018】
表1に示すNo.1のオイルは新油状態であり、No.2〜6はオイルの使用日数の異なる状態を示す。また、No.7はNo.5に対し、新油を追加した直後の状態であり、No.8はNo.7の状態から数日たった状態、No.9は遠心分離機やマグネットセパレーター性状改善装置にかかる前のオイルであり、通常の供給オイルではなく、「性状が悪い状態である」と分かっているオイルで同様の評価を行った一例である。比較例No.10、11はNo.2と同じオイル状態(濾過方法の違い)であり、No.12、13はNo.3と同じオイル状態(濾過方法の違い)である。
【0019】
比較例No.10〜No.13は、一般的な濾紙を使用したもので、目の粗い濾紙を使用しても目詰まりを起こし1時間経過しても一滴もオイルは落ちず測定不能と判定した。ピルガーロールオイルは一般的な濾紙では濾過ができないのは前述した通りです。従って、本発明例の「油こし紙」を用いたピルガーロールオイルでの濾過し評価する方法を見出し、濾過時間および残渣物量から総合的にオイル性状について評価を行った。
【0020】
比較例No.5のオイルNo5の状態では濾過時間が15分、残渣物が0.9g含有することから、総合的にオイル性状はやや不良(追加時期が追ってきている)と判定した。比較例No.6は濾過時間が20分、残渣物が1.1g含有することから、総合的にオイル性状は不良と判定した。また、比較例No.9は濾過時間が25分、残渣物が1.2g含有することから、総合的にオイル性状は不良と判定した。このやや不良、不良と判断した時は新オイルの追加、交換を行う。やや不良の状態に新油を追加することでNo.7のように鉄粉濃度が薄められ濾過時間も短縮され、残渣物も減少し、オイル性状が追加により改善となっている。
【0021】
図1は、新油投入前後での簡易評価結果を示す図である。この図に示すように、新油投入直前の前回投入90日後の濾過結果であり、目視により鉄粉等の残渣物がはっきりと現れていることが分かる。これに対し、新油投入1日後、および4日後にはいずれも鉄粉等の残渣物の存在が薄くなり、殆ど鉄粉等の残渣物のないことが分かる。これからも、変化点前後での有無差を確認することが出来、簡易的かつ大まかな定量的評価をすることが可能となった。
【0022】
以上のように、本発明による簡易評価方法にてオイル管理を行うことで、内面腐食への発展するのをオイル性状に対しての予防処置を行うことができ、劣化したオイルを使用し続けることを防止することが可能となり、その結果、内面腐食の発生を抑えることが出来る極めて優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】新油投入前後での簡易評価結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管製造工程における鋼管内面局部腐食を防止する方法において、鋼管内面局部腐食の起因となるピルガーロールオイルの性状を簡易的に評価し、オイルの性状管理を行うことを特徴とするピルガーロールオイルの簡易的評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載のピルガーロールオイルの性状を簡易的に評価するに当たり、油こし紙によるオイルの濾過時間で粘性を、濾過後の残渣物でオイル内に含まれる鉄分を測定することを特徴とするピルガーロールオイルの簡易的評価方法。
【請求項3】
請求項1および請求項2に記載のピルガーロールオイルの性状を簡易的に評価するに当たり、油こし紙を折って漏斗に挿入し、該油こし紙に所定量のオイルを投入してオイルの濾過時間を測定してオイルの粘性を測定すると共に、濾過後の残渣物でオイル内に含まれる鉄分を測定することを特徴とするピルガーロールオイルの簡易的評価方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−101393(P2009−101393A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276249(P2007−276249)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】