説明

ピロキシカム:ベータシクロデキストリン包接化合物の製造方法

本発明は、パイロットまたは工業規模で適用可能な、噴霧−乾燥によるピロキシカムとβ−シクロデキストリンとの包接化合物の製造方法に関する。得られる生成物は最適な物理−化学的特徴並びに技術的および生物製薬学的性質を有しそしてそれは経口投与のための固体の製薬学的組成物の製造に適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイロットまたは工業規模で適用可能な、噴霧−乾燥によるピロキシカム(piroxicam)とβ−シクロデキストリンとの包接化合物(inclusion compound)の製造方法に関する。
【0002】
より特に、本発明は最適な物理−化学的特徴並びに経口投与のための固体の製薬学的組成物を製造するための技術的および生物製薬学的(biopharmaceutical)性質を付与された1:2.5ピロキシカム:β−シクロデキストリン包接化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
ピロキシカムは、慢性関節リウマチ、変形性関節症、筋肉骨格疾患における急性疼痛、手術後および外傷後疼痛並びに月経困難症において広く適用される非ステロイド性の抗−炎症薬品(NSAID)のある種類に属する化合物である。
【0004】
ピロキシカムは水中に微溶性(pH5、37℃において0.003%)でありそして低い表面湿潤性(水接触角度76°)およびその融点(198〜200℃)により示される高い結晶格子エネルギーを示す。
【0005】
ピロキシカム分子は良好な膜透過特性を示すため、その低い溶解度は胃腸流体内の遅い溶解速度の原因となり、それはまた遅い吸収および作用開始における遅延を生ずる。
【0006】
遅い溶解は薬品に関連する局部的副作用(例えば胃の刺激)も悪化させうる。
【0007】
ピロキシカムの取り扱いはその可能な互変異性体変換および多形のためにめんどうである。該分子は実際には2つの多形であるαおよびβで存在することができ、それらは同じ分子内構造EZE(I)を有するが、異なる分子内および分子間水素結合相互作用を有し、双性−イオン形態ZZZの水和物であるプソイド多形においては、その可能な共鳴形態の1種は式(II)により表示される。
【0008】
【化1】

【0009】
ピロキシカムの低い溶解度に関連する問題を克服するための有効な方法は、特許文献1で特許請求されているシクロデキストリンとの包接錯体の製造に基づく。以下で、錯体、包接錯体および包接化合物の用語は同義語として使用される。
【0010】
シクロデキストリン(CD)は、澱粉の酵素分解により得られるトールスのような(torus−like)巨大−環形状を有する天然の環式オリゴ糖類である。3種の主なシクロデキストリンは6(α)、7(β)または8(γ)(1→4)D−グルコピラノシド単位よりなる。それらの中で、βCDがピロキシカムを錯化するために最も有用であることがわかった。
【0011】
1対2.5の好ましいモル比でのβ−シクロデキストリンとの包接錯体から放出されるピロキシカムの水中可溶化動力学は、今までのところ、既知の結晶性形態のいずれかの技術的改変により得られる他のピロキシカムの中で最も速い。
【0012】
可溶化動力学に関しては、我々は粉末形態での包接錯体の水中分散後に溶解したピロキシカムの最高濃度に達する時間を意味する。
【0013】
分子式C15132.5C427035および3168.912の分子量を有する1:2.5ピロキシカム:β−シクロデキストリン包接錯体(以下においては1:2.5PβCD)はCHF1194とも称されていた。
【0014】
ピロキシカムのような1:2.5PβCD包接化合物は、抗−炎症、鎮痛および解熱性質を示す。鎮痛薬として、それは例えば歯痛、外傷後疼痛、頭痛および月経困難症の如き疾患の処置が指示される。それは経口方式で錠剤または粒剤、好ましくは錠剤の形態で投与される。
【0015】
臨床前および臨床研究は、1:2.5PβCD錠剤および粒剤からのピロキシカムの経口吸収がピロキシカムカプセル剤からのものより速く且つより有効であることを示した。
【0016】
特に、速度および最初の2時間以内の吸収度に関する活性成分のバイオアベイラビリティーが有意に増強される。
【0017】
より速い吸収の結果として、1:2.5βCDからのピロキシカムの作用の開始は鎮痛剤として特に有効な生成物をより速く生成する。溶解速度そしてその結果としての1:2.5PβCD錠剤の投与後のピロキシカムの迅速な吸収に関する最良の性能を確実にするためには、粉末原料が水中分散後に最初の15分間以内に100ml当たり0.4g(0.4%w/v)と等しいかまたはそれより高い溶解したピロキシカムの濃度を生じ得なければならないことが観察された。
【0018】
シクロデキストリンの使用で得られる成功を収めた結果は、錯化によって安定な非晶質構造を得ることができる事実に基づいており、その理由は非晶質形態が比較的大きい表面積を有しそしてその格子エネルギーが結晶中よりはるかに低く、ピロキシカムの湿潤性および水溶解度が増加するためである。非晶質ピロキシカムは、それ自体、実際に、数時間内で結晶化する準安定形態である。さらに、ラマン研究により、β−シクロデキストリン包接化合物中のピロキシカムは水和物であるプソイド多形(pseudopolymorph)(II)のものと同様に脱局在化された正および負の電荷を有する双性−イオン構造を想定することを示した。この構造は静電および水素結合によるβ−シクロデキストリンとの化学的相互作用によって安定化される。双性−イオン構造の双極性特性がピロキシカムの可溶化動力学および即時溶解度を改良する。
【0019】
ピロキシカムの水中での可溶化動力学は1:2.5PβCD包接化合物中のピロキシカムにより推定される分子内構造にも依存し、関連する製造方法は双性−イオン形態でのピロキシカムの完全な転化を得られなければならない。
【0020】
さらに、製造方法が包接反応の完全性並びに生成物全体の完全な非晶質化を得ることができなければならない。
【0021】
他方で、非晶質活性物質は貯蔵中に残存水の存在による結晶化の危険性を招きうる。非晶質物質が例えば錠剤の如き固体の製薬学的調合物の形態に調合されると、該結晶化は例えば錠剤の膨潤または硬度損失の如き現象の原因となりうる。従って、残存水ができるだけ最低でありそして1:2.5PβCDの場合には5%w/wと等しいかもしくはそれより低い、好ましくは4%w/wと等しいかもしくはそれより低い非晶質物質を、製造方法が生ずることも非常に重要である。
【0022】
まとめると、粉末形態での1:2.5PβCD包接化合物の製造に適する製造方法は、i)2種の成分、すなわちピロキシカムおよびβ−シクロデキストリンの有意な分解がないこと、
ii)包接反応の完全性、
iii)完全な非晶質化、
iv)ピロキシカムの双性−イオン形態への完全な転化、
v)5%w/wと等しいかもしくはそれより低い、好ましくは4%w/wと等しいかもしくはそれより低い残存水の量
を生じ得なければならない。
【0023】
さらに、該方法は粉末の水中分散後に最初の15分間以内に100ml当たり0.4g(0.4%w/w)と等しいかもしくはそれより高い溶解したピロキシカムの濃度を生じ得る1:2.5PβCD包接化合物を与えなければならない。
【0024】
以上で報告されたように、1:2.5PβCDが経口投与用の固体の製薬学的調合物の製造のための、そして特に錠剤中で使用される時には格子特性はピロキシカム溶解速度に関して最適な性能を確実にするための最大重要事である。
【0025】
先行技術
シクロデキストリン包接錯体は、固体状態または半固体状態または液体状態での成分間の反応により製造することができる。
【0026】
固体状態方法では、2種の成分を場合によりスクリーニングして均一な粒子寸法としそして充分に混合し、その後にそれらを場合により加熱しながら高−エネルギーミルの中で粉砕し、スクリーニングしそして均質化する。
【0027】
半固体状態では、2種の成分を少量の適当な溶媒の存在下で混練し、そして生じる錯体をオーブン乾燥し、スクリーニングしそして均質化する。
【0028】
液体状態の錯体生成は、一般的に述べると、シクロデキストリンおよび薬品を適当な溶媒の中に溶解させそして引き続き固体状態の錯体を結晶化、蒸発、噴霧−乾燥または凍結−乾燥(凍結乾燥)により単離することにより行われる。
【0029】
特に、凍結−乾燥および噴霧−乾燥が工業規模で適用可能な方法である。
【0030】
凍結−乾燥は、昇華により、すなわちその共晶温度より低い生成物温度において、生成物から水を除去する方法である。
【0031】
特許文献2において、出願人は2種の成分であるピロキシカムおよびβ−シクロデキストリンを乾燥前に非常に高速で凍結工程にかける工業規模での凍結−乾燥による1:2.
5PβCDの製造方法を記載している。
【0032】
例えばピロキシカムおよびβ−シクロデキストリンの如き潜在的に熱不安定性である分子はそれが加熱を想定しない場合には非常に簡便であるが、凍結−乾燥は大量の水を昇華により除去するための比較的長い段階を含む。
【0033】
噴霧−乾燥が水を生成物から除去する別の方法である。それは凍結−乾燥より速くしうるが、加熱を必要とするので、例えばピロキシカムおよびβ−シクロデキストリンの如き潜在的に熱不安定性である分子に適用する場合にはそれはある種の欠点を有しうる。
【0034】
基本的には、予備−加熱された溶液(好ましくは水溶液)を噴霧−乾燥器装置の乾燥室内へ噴霧することにより噴霧−乾燥が行われ、そこでは小滴が温度−調節された熱い気体流に当てられそして粉末粒子に転化される。粉末が乾燥室に放出されるにつれて、それは粉末/気体分離器、例えばサイクロンの中を通り、そこでそれはさらに乾燥されそして集められる。
【0035】
明確な特性を有する粉末を得るために調節できるパラメーターは、i)噴霧装置のタイプ、ii)乾燥室内で噴霧された物質を乾燥するために使用される入り口気体の温度(以下では入り口温度と称する)、iii)気体流速およびiv)供給溶液の流速(以下では供給流速と称する)である。粉末の最終的な水分含有量に影響する重要なパラメーターは、噴霧−乾燥室から出る乾燥気体の温度(以下では出口温度と称する)である。
【0036】
研究室規模での噴霧−乾燥によるピロキシカムとβ−シクロデキストリンとの包接錯体の製造は先行技術の数種の文献で述べられている。しかし、実験条件は開示されていないか、または開示された場合でも以上で説明された条件を満たす1:2.5PβCD包接化合物を製造するのに適してないことがわかった。
【0037】
特許文献1は、1:1〜1:10の間のモル比のピロキシカムおよびシクロデキストリン類の錯体は種々の方法で、すなわち、
a)2種の成分を含有する水溶液または有機/水溶液からの結晶化により、
b)水/アンモニア溶液の蒸発により、
c)水/アンモニア溶液の空気流中での凍結−乾燥または噴霧(噴霧乾燥)により、
製造することができることを一般的に開示している。
【0038】
全ての実施例は研究室規模(ミリグラム〜グラム)での1:2.5PβCDの製造に言及している。生成物を噴霧−乾燥により得るための条件は報告されていない。
【0039】
特許文献3は、両方とも粉末形態である2種の成分を一緒に混合し、次に粉砕室が蒸気で飽和されている高−エネルギーミルの中で共−粉砕することを特徴とするピロキシカムとβ−シクロデキストリンとの包接錯体を製造する方法を開示している。特許文献3の実施例2では、活性成分を特許請求された方法に従い製造された1:2.5PβCDを含有する錠剤の溶解速度が噴霧乾燥を包含する異なる方法により得られた同じ活性成分を含有する同様な製薬学的組成物のものおよび市販されているカプセル剤の形態のピロキシカム組成物と比較された。噴霧−乾燥により生成物を得るための条件は報告されていない。
【0040】
非特許文献1では、1:2.5PβCDに関する1種もしくは複数の製造方法を示す工程表が図示されている。噴霧−乾燥方法に関する限り、βCD水溶液が装置に加えられる前のその温度(65℃〜70℃)以外の条件は報告されていない。さらに、異なる方法で製造された錯体からのピロキシカムの可溶化曲線を取り扱う図7からわかるように、粉末の分散後に噴霧−乾燥により得られる1:2.5PβCDは最初の5分間以内に100m
lの水当たり約0.03g(0.03%w/v)だけの溶解したピロキシカムの最高濃度を生ずる。
【0041】
非特許文献2は、凍結−乾燥および噴霧−乾燥方法により得られた1:1PβCDの同定を報告している。凍結−乾燥または噴霧−乾燥に関する実験条件は報告されていない。この論文では、噴霧−乾燥された錯体を含有する硬質カプセル剤の溶解特徴は溶解速度における有意な増加を示すが凍結−乾燥された錯体を含有するものより低いことが一般的に述べられている。
【0042】
非特許文献3は、異なる方法で製造された1:2.5PβCD包接錯体の分析特徴に関する。これらの方法の中でとりわけ、包接錯体は噴霧−乾燥により製造されたが条件は報告されていない。
【0043】
非特許文献4では、異なる方法により製造されたピロキシカムとβ−シクロデキストリンとの包接錯体の溶解性質の比較研究が報告されている。錯体は極端に厳密なCO、凍結−乾燥および噴霧−乾燥により製造された。生成物を噴霧−乾燥により得るための条件は報告されていない。溶液または可溶化動力学は噴霧−乾燥された物質に関してUSP XXIII N.2溶解装置中で500mlの溶液を用いてpH1.2およびpH6.8において測定された。最初の15分間以内に、0.03%および0.05%w/vに相当する100ml当たり約30mgおよび約50mgの非常に低量のピロキシカムが溶解した。
【0044】
非特許文献5では、4種のモル比(2:1、1:1、1:2および1:3)のピロキシカム:β−シクロデキストリンの包接化合物が噴霧−乾燥により研究室規模装置(ニロ・マイナー(Niro Minor)噴霧器)を用いて製造された。粉末混合物をジメチルホルムアミドおよび水の中に溶解させそして下記の条件:供給流速:600ml/h(すなわち0.6l/h)、入り口空気の温度:155℃、出口空気の温度:90℃、圧力:3気圧(約3バールに相当する)の下で噴霧−乾燥にかける。
【0045】
非特許文献6では、1:1PβCDは噴霧−乾燥により下記の条件:入り口温度:145±1℃、出口温度:75±1℃、乾燥(気体)流速:0.37m/min(すなわち約22kg/h)、噴霧空気圧力:1.0kg/cm(すなわち約1バール)、試料供給速度(供給流速):4.5ml/min(すなわち0.27l/h)の下で製造された。生成物は非晶質であることがわかった。USP XXIパドル溶解方法を用いて50r.p.m.の回転速度においてそして37℃の温度において行われた噴霧−乾燥された生成物を用いて製造された錠剤の溶解速度は物理的混合物および純粋な薬品のものより速かったが、図6(A)からわかるようにピロキシカムの量の約20%だけが30分後に放出された。
【0046】
非特許文献5および非特許文献6では、出口温度は90℃もしくはそれより低い。
【0047】
本出願の4頁(註:国際公開パンフレットの4頁)に報告されているように、例えば錠剤の如き製薬学的調合物の製造用に使用される1:2.5PβCD固体物質は5%w/wと等しいかもしくはそれより低い残存水を有してなければならない。
【0048】
出願人の発見によると、例えば上記の論文で報告されたような出口温度は該仕様に合致する生成物を得るためには低すぎる。
【0049】
従って、非特許文献5および非特許文献6の両方は残存水および可溶化動力学に関して以上で述べられた条件を満たす1:2.5PβCDを製造するために適していない条件を
開示している。
【0050】
非特許文献7は、1:2.5PβCD包接化合物の製造のための極端に厳密な二酸化炭素の適用を取り扱う。比較のために、1:2.5PβCDが研究室規模装置である「ニロ・モービル・マイナー(Niro mobile minor)TM噴霧−乾燥器」を用いて下記の条件:175℃の入り口温度、15ml/min(すなわち0.9l/h)の供給流速および0.2−0.3MPa(2−3バールに相当する)の噴霧圧力を適用することによっても製造された。
【0051】
表IIで、該噴霧−乾燥された1:2.5PβCDが4.4%の量の水を含むことがわかった。しかしながら、この論文はピロキシカムの所望する可溶化動力学を確実にしうる1:2.5PβCD錯体を得るための最も重要なパラメーターである気体流速および出口温度に関しては言及していない。
【特許文献1】欧州特許第153998号明細書
【特許文献2】国際公開第03/105906号パンフレット
【特許文献3】欧州特許第449167号明細書
【非特許文献1】Acerbi D et al, Drug Invest 1990, 2, Suppl. 4, 29−36
【非特許文献2】Pezoa R et al, Proceedings of the 6th International Conference on Pharmaceutical Technology, June, 2−4, 1992, Paris
【非特許文献3】Pavlova A V et al, Analyt Lab 1995, 4, 87−91
【非特許文献4】Van Hees T et al, Proceeding of the Ninth International Symposium on Cyclodextrins, Kluwer, 1999, 211−214
【非特許文献5】Kata M et al, Proceeding of the 10th International Cyclodextrin Symposium, Wacker, 2000, 629−623
【非特許文献6】Lin S−Y et al, Int J Pharm 1989, 56. 249−259
【非特許文献7】Van Hees T et al Pharm Res 1999, 16, 1864−1870
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0052】
先行技術に鑑みると、
i)2種の成分、すなわちピロキシカムおよびβ−シクロデキストリン、の有意な分解がないこと、
ii)包接反応の完全性、
iii)完全な非晶質化、
iv)ピロキシカムの双性−イオン形態への完全な転化、
v)5%w/wと等しいかもしくはそれより低い、好ましくは4%w/wと等しいかもしくはそれより低い残存水の量
をもたらしうる、パイロットまたは工業規模で適用可能な、噴霧−乾燥による1:2.5PβCDの包接化合物の製造方法を提供することが非常に有利であろう。
【0053】
さらに、粉末の水中分散後に最初の15分間以内に100ml当たり0.4g(0.4%w/w)と等しいかもしくはそれより高い溶解したピロキシカムの濃度を生じうる1:2.5PβCD包接化合物を生成する噴霧−乾燥方法を提供することがさらに有利であろう。
【課題を解決するための手段】
【0054】
発明の目的
本発明は、下記の段階:
i.ピロキシカムおよびβ−シクロデキストリンを1対2.5モル比で熱水中に水酸化アンモニウムの存在下で溶解させ、
ii.生じる水溶液を噴霧−乾燥器の乾燥室内に噴霧装置を通して供給して小滴を形成せしめ、
iii.予備−加熱された乾燥気体流を乾燥室内に導入して粉末粒子を形成せしめ、
iv.粉末粒子をさらに乾燥しそして湿った気体から分離すること
を含んでなる、1:2.5 ピロキシカム:β−シクロデキストリン(1:2.5PβCD)包接化合物の製造方法であって、段階iii)において入り口乾燥気体の温度(入り口温度)が165℃ないし200℃の間に含まれそして出口乾燥気体の温度(出口温度)が105℃ないし130℃の間に含まれることを特徴とする方法に関する。
【0055】
前記の条件を満たす1:2.5PβCD包接化合物を得るためには、乾燥室内の入り口および出口温度の両方を厳密に調節する必要があることを、我々は見出した。
【0056】
特に、200℃より高い入り口温度を適用することにより1:2.5PβCD粉末の水中分散後に最初の15分間以内に100ml当たり0.4gと等しいかもしくはそれより高い溶解したピロキシカムの濃度を得るのが不可能であることを、我々は見出した。他方で、出口温度が105℃より低い場合には5%(w/w)より低い水の残存量を得るのが不可能であることも、我々は見出した。従って、入り口温度は少なくとも165℃の値に設定すべきであり、そして例えば供給水溶液の流速および気体流速の如き他のパラメーターの適切な調節後に乾燥室内の出口温度は105℃の臨界値と等しいかもしくはそれより高くすべきである。
【0057】
本発明の温度範囲内で操作することにより、ピロキシカムは化学的に安定なままでありそして1:2.5PβCDの有意な分解が観察されなかった。
【0058】
本発明は、また、活性成分として上記方法で得られうる1:2.5PβCD包接化合物を含有する製薬学的組成物にも関する。
【0059】
発明の詳細な記述
噴霧−乾燥によりパイロットまたは工業規模で1:2.5PβCD包接化合物を製造するための本発明の方法の特徴は以下の詳細な記述からさらに明らかになるであろう。
【0060】
パイロットまたは工業規模に関しては、我々は少なくとも10kgの、好ましくは10kg〜300kgのバッチの製造を意味する。
【0061】
商業的供給業者により最近供給されている広範囲の寸法および構造の噴霧−乾燥器装置を使用することができる。図1における図面は典型的な噴霧−乾燥装置の図式的表示を示す。
【0062】
第一段階で、1:2.5モル比のピロキシカムおよびβ−シクロデキストリン並びに水酸化アンモニウムを60℃より高い、好ましくは70℃より高い、より好ましくは70℃〜80℃の間の温度にされた水を含有するタンクに加え、次に溶解まで混合する。有利には、水中のピロキシカムの濃度は約2%w/vでありそして水中のβ−シクロデキストリ
ンの濃度は約17%w/vであろう。有利には濃縮された水酸化アンモニウムを、好ましくは28〜30%w/wの濃度でそしてピロキシカムに関して1:1比w/wで加える。
【0063】
第二段階で、熱い溶液を流体ポンプ(図1中の1)を用いて噴霧装置(2)を通して噴霧−乾燥器の乾燥室(7)内に充填する。
【0064】
本発明の実施例では、圧力噴霧装置が使用されそして、105℃〜130℃の間に含まれる出口温度を得るためには、従って噴霧−乾燥器の工程パラメーターが調節された。
【0065】
圧力噴霧装置は1個もしくは複数のノズルから構成されることができ、そこを通してポンプにより溶液を強制加入させて小滴に破壊する。1個のノズルから構成される圧力噴霧装置が使用される時には、有利にはノズルの圧力は10〜350バールの間、好ましくは20〜200バールの間であろう。典型的には、ノズルは0.5〜0.7mmの入り口直径を有するであろう。
【0066】
噴霧方法に関しては、例えば回転(遠心)噴霧装置または他の適当な装置のような別の種類の噴霧装置を使用することができる。従って当業者は種々の工程条件およびパラメーターを応用することとなろう。
【0067】
回転(遠心)噴霧装置は、例えば、一般的には15000〜25000r.p.m.の間に含まれる高速で回転する放射状または曲がった板を有する回転ディスク組み立て品である。溶液は中心近くに分配されそして2つの板の間に拡がり、そしてそれがディスクから小滴の形態で放出される前に高い線状速度に加速される。
【0068】
乾燥室内で、小滴は熱い気体流と出会いそしてそれらが依然として乾燥気体中に懸濁されたままそれらの水分を非常に急速に放出する。噴霧された溶液を乾燥するために使用される気体に関しては特別な限定はなされないが、空気、窒素気体または不活性気体、好ましくは空気、より好ましくは7000p.p.m.と等しいかもしくはそれより低い残存水分含有量を有するもの、を使用することが有利である。気体は電気的に加熱され(5)そして適当な分配器(6)を通して導入される。
【0069】
加熱された気体流は小滴と同方向流であってもよいが、逆方向流、交差方向流、または他の流パターンを使用することもできよう。
【0070】
有利には、噴霧−乾燥器の乾燥室内の入り口温度は165℃〜200℃の間、より有利には170℃〜200℃の間、好ましくは175℃〜195℃の間、より好ましくは178℃〜182℃の間で変動するであろう。
【0071】
乾燥室内の出口温度は105℃〜130℃の間、好ましくは110℃〜120℃の間、さらにより好ましくは112℃〜115℃の間に含まれるであろう。
【0072】
約10kgの量の包接錯体を製造するためには、本発明の噴霧−乾燥方法は少なくとも12kg/h(約12l/h)の供給流速を適用することにより行われる。より高い量のためには、供給流速は12kg/h〜200トン/hの間、好ましくは12kg/h〜300kg/hの間に含まれるであろう。
【0073】
有利には、乾燥気体の流速は少なくとも80Kg/h、好ましくは100Kg/h、より好ましくは300Kg/h、さらにより好ましくは少なくとも600kg/hである。
【0074】
より高い量のためには、気体流速は600kg/h〜30トン/hの間に含まれるであ
ろう。
【0075】
本発明により示された入り口および出口温度が規定されたら、他の工程パラメーターはバッチの寸法に基づき当業者により適切に且つ互いに調節されるであろう。
【0076】
以下の実施例において、約10kgの1:2.5PβCDのバッチに関しては、112℃〜115℃の適当な出口温度を得るために178℃〜182℃の間の入り口温度、21バールの圧力を有する0.5mmのノズル、12kg/h(約12l/h)の供給流および600kg/hの空気流速が使用される。
【0077】
有利には、入り口および出口温度の差異は45℃〜95℃の間、好ましくは65℃〜75℃の間に含まれる。
【0078】
粉末が乾燥されそしてサイクロン(8)の中で遠心作用により湿った気体から分離される。遠心作用は、粉末粒子および気体の混合物がサイクロンに入る時の気体速度における大きな増加により引き起こされる。密な粉末粒子がサイクロンの壁に向かって押されそして生成物がサイクロンの下で容器(9)上で例えば回転弁の如き廃棄装置を通して集められる。湿った気体の比較的軽い粒子はアスピレーター(10)により排気管を通して吸引除去される。
【0079】
或いは、フィルター媒体、例えば膜媒体(バッグフィルター)、浸漬させた金属繊維フィルターなどを使用することにより、分離を行うこともできる。
【0080】
本発明の方法により得られうる非晶質1:2.5PβCD包接化合物中でピロキシカムは完全に双性−イオン形態で存在しておりそしてそれはそのラマンスペクトル、X線粉末回折パターン並びにPCT出願番号国際公開第03/105906号パンフレットに報告されている粉末および熱性能により同定することができる。
【0081】
粉末を単にカップ中に充填することにより得られるFT−ラマンスペクトルは1650−1000cm−1(精度1cm−1)範囲内で下記の主要ピークを示す:
1613cm−1(sh),1593(s),1578(sh),1561(w),1525(br),1519(br),1464(m),1436(m),1394(s),1331(brm)/1306(sh),1280(w),1260(w),1234(w),1217(vw),1186(w),1158(m),1119(m),1083(w),1053(w),1036(w),992(w),947(brw)。
【0082】
凡例:sh=肩、s=強い、m=中程度、w=弱い、vw=非常に弱い、br=広い、brm=広い中程度、brw=広い弱い。
【0083】
本発明の方法により得られうる1:2.5PβCD中の残存水の量は、カール−フィッシャー方法により測定することができそしてそれは5%w/wと等しいかもしくはそれより低く、好ましくは4%w/wと等しいかもしくはそれより低くすべきである。1:2.5PβCDは水を吸収する傾向があるため、測定は生成物が得られたら直ちにそしていずれの場合にも水分進入からの保護後に行わなければならない。
【0084】
1:2.5PβCDからのピロキシカムの可溶化動力学は下記の実施例2で報告される分散粉末方法に従い測定されるであろう。
【0085】
有利には、最初の15分間以内の溶解したピロキシカムの濃度は0.4%w/vと等しいかもしくはそれより高い、好ましくは0.5%w/vと等しいかもしくはそれより高い
であろう。
【0086】
本発明の方法で得られうる1:2.5PβCDを有利に使用して、経口投与用の鎮痛、抗−炎症および抗−リウマチ活性を有する製薬学的組成物を、好ましくは経口投与用の錠剤、沸騰錠剤またはサシェ剤の形態で、より好ましくは錠剤の形態で製造することができる。
【0087】
有利には、経口投与用の錠剤は単位服用量当たり50mg〜200mgの間の、好ましくは95.6mgまたは191.2mg(それぞれ、10および20mgのピロキシカムに相当する)の1:2.5PβCD錯体を、適当な賦形剤、例えばラクトース、クロスポビドン、ナトリウム澱粉グリコレート、シリカ、澱粉およびステアリン酸マグネシウムとの混合物として含有する。
【実施例】
【0088】
以下の実施例は本発明をさらによく説明するものである。
実施例1−噴霧−乾燥による1:2.5 PβCDの製造
約50リットルの水をタンクに注入しそして73℃−75℃の温度まで加熱した。
【0089】
8.6kg(7.57モル)のβ−シクロデキストリン、1kg(3.02モル)のピロキシカムおよび1kgの28%水酸化アンモニウムを連続的に加え、そして混合物を30分間にわたり撹拌した。溶液を55μmフィルターを用いて濾過しそして噴霧乾燥器であるニロ(Niro)の中に充填した。下記の工程パラメーターが使用された:ノズル直径:0.5mm;ノズル圧力:21バール;空気流速:600kg/h;供給流速:12kg/h(約12l/h);入り口温度:182℃;出口温度:113℃。
【0090】
自由流動性粉末形態の1:2.5 PβCD生成物をサイクロンの下で回転弁を通して集めた。
【0091】
生じた生成物はそれぞれ図2および3に報告された熱曲線およびラマンスペクトルを示し、それらは1:2.5 PβCDに典型的なものであり、ここでは完全な包接錯体反応が起きておりそしてピロキシカムが双性イオン形態で存在している。粉末X線分析は非晶質生成物に典型的な拡散した回折パターンを示す。HPLC分析後に、有意な量のピロキシカムの分解生成物は検出されなかった。
【0092】
水の残量はカール・フィッシャー方法により測定して3.8%w/wであった。
実施例2−実施例1で製造された1:2.5 PβCDの可溶化動力学
可溶化動力学は分散粉末方法に従い測定された。
【0093】
溶解試験装置ソタックス(Sotax)A76の中に250mlの水を導入しそして温度を37℃±0.5℃に設定した。次に、約2gのピロキシカムに相当する20gの実施例1で得られたPβCDを加えそして生じた分散液を125r.p.m.における撹拌下に保った。15分後に、溶液のアリコートを除去しそして濾過した。UV分光法により測定した溶解したピロキシカムの濃度は100ml当たり0.5g、すなわち0.5%w/wであることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1は典型的な噴霧−乾燥装置の図式的表示を示す。
【図2】図2は実施例1で得られた生成物の熱曲線を示す。
【図3】図3は実施例1で得られた生成物のラマンスペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の段階:
i.ピロキシカム(piroxicam)およびβ−シクロデキストリンを1対2.5モル比で熱水中に水酸化アンモニウムの存在下で溶解させ、
ii.生じる水溶液を噴霧−乾燥器の乾燥室内に噴霧装置を通して供給して小滴を形成せしめ、
iii.乾燥気体流を乾燥室内に導入して粉末粒子を形成せしめ、
iv.粉末粒子をさらに乾燥しそして湿った気体から分離すること
を含んでなる、1:2.5 ピロキシカム:β−シクロデキストリン包接化合物の製造方法であって、段階iii)において、入り口乾燥気体の温度(入り口温度)が165℃ないし200℃の間に含まれそして出口乾燥気体の温度(出口温度)が105℃ないし130℃の間に含まれることを特徴とする方法。
【請求項2】
段階ii)の溶液の供給流速が少なくとも12kg/hである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
乾燥気体の流速が少なくとも600kg/hである請求項1および2に記載の方法。
【請求項4】
入り口温度が175℃ないし195℃の間に含まれることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
入り口温度が178℃ないし182℃の間に含まれることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
出口温度が110℃ないし120℃の間に含まれることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
出口温度が112℃ないし115℃の間に含まれることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
噴霧装置が回転(遠心)噴霧器であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
噴霧装置が圧力噴霧器であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
段階iv)における粉末粒子の分離がサイクロン中で遠心作用により行われる請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
5%w/wと等しいかもしくはそれより低い水含有量によりそしてとりわけ1650〜1000cm−1(精度±1cm−1)範囲における下記の特徴的FT−ラマンスペクトルピーク:
1613cm−1(sh),1593(s),1578(sh),1561(w),1525(br),1519(br),1464(m),1436(m),1394(s),1331(brm)/1306(sh),1280(w),1260(w),1234(w),1217(vw),1186(w),1158(m),1119(m),1083(w),1053(w),1036(w),992(w),947(brw)
を有することを特徴とする、請求項1〜10の方法により得られうる1:2.5 ピロキシカム:β−シクロデキストリン包接化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−508332(P2008−508332A)
【公表日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−524228(P2007−524228)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【国際出願番号】PCT/EP2005/008105
【国際公開番号】WO2006/013039
【国際公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(591095465)キエシ・フアルマチエウテイチ・ソチエタ・ペル・アチオニ (12)
【Fターム(参考)】