説明

ピロリン酸塩の製造方法

【課題】純度の良いピロリン酸塩、特にピロリン酸メラミンを、高収率で効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】オルトリン酸メラミン等のオルトリン酸塩を、120〜350℃の温度条件下で焼成することを特徴とするピロリン酸メラミン等のピロリン酸塩の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はピロリン酸塩の製造方法に関し、特に、難燃剤として有用なピロリン酸メラミンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピロリン酸塩、特にピロリン酸メラミンは、縮合リン酸であるピロリン酸とメラミンが結合した化合物であり、塗料や合成樹脂等に添加する難燃剤として有用な物質であるため、従来から、種々の製造方法が提案されている。
【0003】
例えば、水溶液中でメラミンと塩酸を混合してメラミン塩酸塩とし、これにピロリン酸ナトリウムを加えてピロリン酸メラミンの沈殿を生成させ製造することが開示されている(特許文献1)。しかしこの方法では、高価なピロリン酸塩を原料として使用することや、ハロゲンを除去するための水洗工程や濾過工程が必要なことから経済的に問題があった。
【0004】
また、水溶液中で、ピロリン酸とメラミンを0〜60℃で反応させてピロリン酸メラミンを製造することも開示されている(特許文献2)。しかし、この場合も高価なピロリン酸を原料として使用することや、濾過工程が必要なことから経済的に問題があった。
【0005】
また、脱水縮合反応によってピロリン酸メラミン等のピロリン酸塩を製造する場合には、ピロリン酸塩だけではなく、トリリン酸塩等の過反応由来のポリリン酸塩が生成する場合があるため、ピロリン酸塩の純度が低くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭49−25675号公報
【特許文献2】米国特許第4,950,757号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は、純度の良いピロリン酸塩、特にピロリン酸メラミンを、高収率で効率的に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の目的を達成すべく鋭意検討した結果、オルトリン酸塩を焼成することによって容易に目的を達成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明は、オルトリン酸塩を、120〜350℃の温度条件下で焼成することを特徴とするピロリン酸塩の製造方法であり、特に、オルトリン酸メラミンを、120〜350℃の温度条件下で焼成することを特徴とするピロリン酸メラミンの製造方法である。

【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、高純度のピロリン酸塩を効率良く提供することができる。また本発明の製造方法によれば、過反応によるトリリン酸メラミンやポリリン酸メラミン等の副生成物が少ないので、高純度なピロリン酸メラミンを効率良く提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明について詳述する。
本発明の製造方法によって製造されるピロリン酸塩としては、ピロリン酸アンモニウム、ピロリン酸メラミン、ピロリン酸アセトグアナミン、ピロリン酸ベンゾグアナミン、ピロリン酸アクリルグアナミン、ピロリン酸2,4−ジアミノ−6−ノニル−1,3,5−トリアジン、ピロリン酸2,4−ジアミノ−6−ハイドロキシ−1,3,5−トリアジン、ピロリン酸2−アミノ−4,6−ジハイドロキシ−1,3,5−トリアジン、ピロリン酸2,4−ジアミノ−6−メトキシ−1,3,5−トリアジン、ピロリン酸2,4−ジアミノ−6−エトキシ−1,3,5−トリアジン、ピロリン酸2,4−ジアミノ−6−プロポキシ−1,3,5−トリアジン、ピロリン酸2,4−ジアミノ−6−イソプロポキシ−1,3,5−トリアジン、ピロリン酸2,4−ジアミノ−6−メルカプト−1,3,5−トリアジン、ピロリン酸2−アミノ−4,6−ジメルカプト−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。
【0012】
さらに例を挙げると、ピロリン酸N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノメタン、ピロリン酸エチレンジアミン、ピロリン酸N,N’−ジメチルエチレンジアミン、ピロリン酸N,N’−ジエチルエチレンジアミン、ピロリン酸N,N−ジメチルエチレンジアミン、ピロリン酸N,N−ジエチルエチレンジアミン、ピロリン酸N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、ピロリン酸1,2−プロパンジアミン、ピロリン酸1,3−プロパンジアミン、ピロリン酸テトラメチレンジアミン、ピロリン酸ペンタメチレンジアミン、ピロリン酸ヘキサメチレンジアミン、ピロリン酸1、7−ジアミノへプタン、ピロリン酸1,8−ジアミノオクタン、ピロリン酸1,9ージアミノノナン、ピロリン酸1,10−ジアミノデカン、ピロリン酸ピペラジン、ピロリン酸trans−2,5−ジメチルピペラジン、ピロリン酸1,4−ビス(2−アミノエチル)ピペラジン、ピロリン酸1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン等が挙げられる。
特に好ましいピロリン酸塩としては、高純度なピロリン酸塩を効率良く得られることから、ピロリン酸メラミンが挙げられる。
【0013】
本発明で使用する、ピロリン酸塩の原料となるオルトリン酸塩の例としては、既に例示したピロリン酸塩に対応するオルトリン酸塩が挙げられる。このオルトリン酸塩としては、正塩を使用してもよいし、酸性塩を使用してもよく、それらの混合物を使用してもよい。また対応する塩基を過剰に含んでいてもよい。
【0014】
本発明の特に好ましい実施態様は、高純度なピロリン酸塩を効率良く得られるという観点から、オルトリン酸メラミンを原料とするピロリン酸メラミンの製造である。この場合、原料のオルトリン酸メラミンは、オルトリン酸1モルに対して、メラミン1モルが結合したオルトリン酸一メラミンであることが好ましい。
【0015】
本発明のピロリン酸塩の製造方法は、オルトリン酸塩を焼成することにより、脱水縮合反応を進行させてピロリン酸塩化するものである。この場合のオルトリン酸塩の焼成は、固相状態で焼成することが好ましい。因みに、水分を含んでいても焼成可能であり、水性のスラリー状態でも焼成可能である。
【0016】
本発明におけるオルトリン酸塩の焼成温度は120〜350℃であり、得られるピロリン酸塩の純度と生産効率の観点から、150℃〜300℃であることが好ましく、160〜280℃であることがより好ましい。120℃より低いとピロリン酸化の反応が十分に進まず、350℃を超えると、トリリン酸塩やそれ以上に脱水縮合反応の進んだポリリン酸塩が生成するため好ましくない。
また、焼成時間は特に限定されることはなく、温度条件によって、オルトリン酸塩からピロリン酸塩への脱水縮合反応が完了するまで、適宜焼成すればよい。
【0017】
また原料のオルトリン酸塩は、焼成する前に、粉砕や微細化を行ってもよい。粉砕装置や微細化装置としては、ボールミル、ロッドミル、ハンマーミル、アトリションミル、ミクロンミル、コロイドミル、ジェットミル、シングルトラックジェットミル、カウンタージェットミル、ピンディスクミル、ジェットオーマイザー、イノマイザー等が挙げられる。
【0018】
本発明の製造方法に使用される焼成装置としては、加熱混錬装置や、温風乾燥装置、焼成炉等を用いることができ、例えば、押出し機、ヘンシェルミキサー、フラッシュミキサー、パドルミキサー、バンバリーミキサー、リボンミキサー、粉砕混合機、SCプロセッサ、プラストミル、KRCニーダー、真空ニーダー、加圧ニーダー、焼成炉、バッチ焼成炉、プッシャー炉、メッシュベルト炉、流動焼成炉、ダブルシャフト方式連続焼成炉、遠赤外線加熱炉、遠赤外線コンベア炉、マイクロ波焼成炉、るつぼ炉、熱風乾燥機、流動層乾燥機、振動乾燥機、振動流動層乾燥機、攪拌乾燥機、気流乾燥機、通気乾燥機、棚式乾燥機、ドライマイスター、ドラムドライヤー、エアドライヤー、マイクロウェーブドライヤー、スプレードライヤー、ディスクドライヤー、コニカルドライヤー、パドルドライヤー、ホッパードライヤー、ロータリードライヤー、ロータリーキルン、ローラーハースキルン、トンネルキルン、シャトルキルン、等が挙げられる。
【0019】
本発明の製造方法においては、過反応を抑制することができるため、トリリン酸塩や、それ以上に脱水縮合反応が進んだポリリン酸塩等の過反応物の生成が少ない。また、焼成装置の内壁に、生成物、特に粘着性のある過反応物が付着することも少ない。したがって、本発明は、合成樹脂用難燃剤として好適な高純度のピロリン酸塩を得るのに好適である。
【0020】
以下本発明を実施例及び比較例により、更に具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、下記、実施例1〜10で得られたピロリン酸メラミンの純度は、下記分析方法によって分析した結果の数値である。
【0021】
<純度の測定方法>
(株)センシュー科学製のHPLC装置(ポンプ;SSC−3150,RI検出器;ERC−7515A)、日本分光製カラムオーブン(CO−965)、及びショーデックス製のOH
pakカラム(SB−802.5 HQ)を用い、ピロリン酸メラミンの純度の測定を行った。
【実施例1】
【0022】
オルトリン酸一メラミンの入ったステンレス製バットを熱風乾燥機中に入れ、時々撹拌・加熱しながら、200〜260℃で焼成してピロリン酸メラミンの白色粉末を得た。得られたピロリン酸メラミンの純度は96.5%であった。
【実施例2】
【0023】
オルトリン酸一メラミンをオイルジャケット付きのニーダーを使用して加熱・撹拌し、200〜250℃で焼成してピロリン酸メラミンの白色粉末を得た。得られたピロリン酸メラミンの純度は98.2%であった。
【実施例3】
【0024】
オルトリン酸一メラミンを、熱媒を通したヘンシェルミキサー(三井鉱山製、FM150J/T)を用いて加熱・撹拌し、170〜250℃で焼成してピロリン酸メラミンの白色粉末を得た。得られたピロリン酸メラミンの純度は97.1%であった。
【実施例4】
【0025】
オルトリン酸一メラミンを、流動層乾燥機((株)大川原製作所製)を用いて加熱・撹拌し、230〜260℃で焼成してピロリン酸メラミンの白色粉末を得た。得られたピロリン酸メラミンの純度は96.8%であった。
【実施例5】
【0026】
オルトリン酸一メラミンを、ロータリーキルン((株)栗本鐵工所製)を用いて加熱・撹拌し、200〜260℃で焼成してピロリン酸メラミンの白色粉末を得た。得られたピロリン酸メラミンの純度は97.5%であった。
【実施例6】
【0027】
オルトリン酸一メラミンを、パドルドライヤー((株)奈良機械製作所製)を用いて加熱・撹拌し、200〜260℃で焼成してピロリン酸メラミンの白色粉末を得た。得られたピロリン酸メラミンの純度は97.3%であった。
【実施例7】
【0028】
オルトリン酸一メラミンを、押出し機(日本製鋼所製、TEX44αII−52.5BW)を用いて加熱・撹拌し、200〜260℃で焼成してピロリン酸メラミンの白色粉末を得た。得られたピロリン酸メラミンの純度は98.1%であった。
【実施例8】
【0029】
オルトリン酸一メラミンを、振動乾燥機(中央加工機(株)製)を用いて加熱・撹拌し、200〜260℃で焼成してピロリン酸メラミンの白色粉末を得た。得られたピロリン酸メラミンの純度は96.8%であった。
【実施例9】
【0030】
オルトリン酸一メラミンを、遠赤外線コンベア炉を用いて加熱し、220〜230℃で焼成してピロリン酸メラミンの白色粉末を得た。得られたピロリン酸メラミンの純度は96.1%であった。
【実施例10】
【0031】
オルトリン酸一メラミンをマイクロ波焼成炉中に入れ、時々撹拌しながら加熱し、200〜280℃で焼成してピロリン酸メラミンの白色粉末を得た。得られたピロリン酸メラミンの純度は97.5%であった。
【0032】
比較例1
オルトリン酸一メラミンの入ったステンレス製バットを熱風乾燥機中に入れ、時々撹拌しながら加熱し、90〜100℃で焼成したが、ピロリン酸メラミンの生成は見られなかった。
【0033】
比較例2
オルトリン酸一メラミンの入ったステンレス製バットを熱風乾燥機中に入れ、時々撹拌しながら加熱し、380〜400℃で焼成して白色粉末を得た。得られた白色粉末を分析したところ、ピロリン酸メラミンの純度は65.1%と低く、トリリン酸塩のみならず、それ以上に脱水縮合反応の進んだポリリン酸塩の生成が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の製造方法によれば、過反応を抑制することができるため、トリリン酸塩や、それ以上に脱水縮合反応が進んだポリリン酸塩等の過反応物の生成が少なくなるだけでなく、焼成装置の内壁に、生成物、特に粘着性のある過反応物があまり付着せず、合成樹脂用難燃剤として好適な高純度のピロリン酸塩を容易に得ることができるので、本発明は産業上極めて有意義である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルトリン酸塩を、120〜350℃の温度条件下で焼成することを特徴とするピロリン酸塩の製造方法。
【請求項2】
オルトリン酸メラミンを、120〜350℃の温度条件下で焼成することを特徴とするピロリン酸メラミンの製造方法。

【公開番号】特開2011−16833(P2011−16833A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2010−202106(P2010−202106)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】