説明

ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼの熱安定性変異体

本発明は、122位および124位の少なくとも1つにおいて、アミノ酸リジンが存在し、ここでこれらの位置がA.カルコアセチカスのs-GDH野生型配列(配列番号2)由来の公知のアミノ酸位置に対応することを特徴とするPQQ依存性s-GDHの変異体タンパク質に関し、かかる変異体s-GDHをコードする遺伝子、および特に試料中のグルコース濃度を決定するための、これらのsGDH変異体の種々の応用も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、122位および124位の少なくとも1つにおいてアミノ酸リジンが存在し、ここでこれらの位置が、A.カルコアセチカス(A.calcoaceticus)s−GDH野生型配列(配列番号2)由来の公知のアミノ酸位置に対応することを特徴とするPQQ依存性s−GDHの変異体タンパク質に関し、本発明はまた、かかる変異体s−GDHをコードする遺伝子および特に試料中のグルコースの濃度を決定するためのこれらのs−GDH変異体の異なる応用を開示する。
【0002】
(発明の分野)
臨床的診断および糖尿病の管理において、血液グルコース濃度の決定は極めて重要である。世界的におよそ1億5000万の人々が慢性疾患の真性糖尿病に罹患しており、WHOによると数字は2025年までに2倍になり得る。糖尿病は容易に診断および処置されるが、首尾よい長期間の管理には迅速にかつ正確に血液グルコース濃度を知らせる低コストの診断手段が必要とされる。PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(EC 1.1.5.2)は、グルコースがグルコノラクトンに酸化される反応を触媒する。従って、この種類の酵素は血糖の測定に用いられる。これらの手段の一つは、もともとアシネトバクター・カルコアセチカス(Acinetobacter calcoaceticus)に由来するピロロキノリンキノン含有酵素である可溶性グルコースデヒドロゲナーゼ(s-GlucDOR、EC 1.1.5.2)に基づく診断用ストリップ(strip)である。
【0003】
キノプロテインはアルコール、アミンおよびアルドースを、それらの対応するラクトン、アルデヒドおよびアルドン酸(aldolic acid)に酸化する補因子としてキノンを用いる(Duine, J. A.,「The Biology of Acinetobacter」のEnergy generation and the glucose dehydrogenase pathway in Acinetobacter (1991) 295-312, New York, Plenum Press; Duine, J. A., Eur. J. Biochem. 200 (1991) 271-284; Davidson, V. L., 「Principles and applications of quinoproteins」の本全体(1993), New York, Marcel Dekker; Anthony, C., Biochem. J. 320 (1996) 697-711; Anthony, C. およびGhosh, M., Current Science 72 (1997) 716-727; Anthony, C., Biochem. Soc. Trans. 26 (1998) 413-417; Anthony, C. およびGhosh, M., Prog. Biophys. Mol. Biol. 69 (1998) 1-21)。キノプロテインの中で、非共有結合的に結合された補因子2,7,9-トリカルボキシ-1H-ピロロ[2,3-f]キノリン-4,5-ジオン(PQQ)を含むこれらのものは、最大のサブグループを構成する(Duine 1991、上述)。これまでに公知の、全ての細菌性キノングルコースデヒドロゲナーゼは、補因子としてPQQを有するこのサブグループに属する(AnthonyおよびGhosh 1997上述; Goodwin, P.M.およびAnthony, C., Adv. Microbiol. Physiol. 40 (1998) 1-80; Anthony, C., Adv. in Phot. and Resp. 15 (2004) 203-225)。
【0004】
2種類のPQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(EC 1.1.5.2)が細菌において特徴付けられている:一つは膜結合型(m-GDH)であり、もう一つは可溶型(s-GDH)である。両方の型は、有意な配列相同性を全く共有しない(Cleton-Jansen, A. M.,ら, Mol. Gen. Genet. 217 (1989) 430-436; Cleton-Jansen, A. M.,ら, Antonie Van Leeuwenhoek 56 (1989) 73-79; Oubrie, A.,ら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 96 (1999) 11787-11791)。また、それらはその速度論および免疫学的特性の両方に関しても異なる(Matsushita, K.,ら, Bioscience Biotechnol. Biochem. 59 (1995) 1548-1555)。m-GDHはグラム陰性菌に広く存在しているが、s-GDHはA.カルコアセチカス(Duine, J.A., 1991a; Cleton-Jansen, A.M.ら, J. Bacteriol. 170 (1988) 2121-2125; MatsushitaおよびAdachi, 1993)およびA.バウマニ(baumannii)(JP 11243949)のようなアシネトバクター株のペリプラズム空間(periplasmatic space)においてのみ見出されている。
【0005】
配列のデータベースを調査することにより、完全長のA.カルコアセチカス s-GDHに相同な二つの配列が、大腸菌(E.coli)K-12およびシアノバクテリア(Synechocystis)種で同定された。さらに、A.カルコアセチカス s-GDHに相同な二つの不完全配列が緑膿菌(P. aeruginosa)および 百日咳菌(Bordetella pertussis)(Oubrieら、 1999 a, b, c)ならびにエンテロバクター・インターメディウム(Enterobacter intermedium) (Kim, C.H. ら, Current Microbiol. 47 (2003) 457-461)それぞれのゲノムにおいても見つかった。これら四つのまだ特徴付けられてないタンパク質の推定アミノ酸配列は、A.カルコアセチカス s-GDHに密接に関連し、推定活性部位中の多くの残基は、絶対的に保存される。これらの相同タンパク質は、同様の構造を有し、同様のPQQ依存性反応を触媒する可能性がある(Oubrieら, 1999 a, b, c; Oubrie A., Biochim. Biophys. Acta 1647 (2003) 143-151; Reddy, S.,および Bruice, T.C., J. Am. Chem. Soc. 126 (2004) 2431-2438; Yamada, M.ら, Biochim. Biophys. Acta 1647 (2003) 185-192)。
【0006】
細菌性 s-GDHおよびm-GDHは、全く異なる配列および全く異なる基質特異性を有することが見出されている。例えば、A.カルコアセチカスは、二つの異なるPQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼを含んでおり、一つはインビボで活性であるm-GDHと呼ばれるもので、もう一つはインビトロでのみ活性を示し得る、s-GDHと呼ばれるものである。Cleton-Jansenら, 1988; 1989 a, bにより二つのGDH酵素をコードする遺伝子がクローン化され、これらのGDH遺伝子の両方のDNA配列が決定された。m-GDHと s-GDHの間に明らかな相同性はなく、m-GDHおよび s-GDHが完全に異なる二つの分子を示している事実が確証される。(Laurinavicius, V.,ら, Biologija (2003) 31-34)。
【0007】
A.カルコアセチカス由来のs-GDHの遺伝子は、大腸菌中でクローニングされた。細胞内で産生された後、s-GDHは、細胞膜を通してペリプラズム空間にトランスロケートされる(Duine, J. A., 「The Biology of Acinetobacter」のEnergy generation and the glucose dehydrogenase pathway in Acinetobacter (1991) 295-312, New York, Plenum Press; Matsushita, K. および Adachi, O., 「Principles and applications of Quinoproteins」のBacterial quinoproteins glucose dehydrogenase and alcohol dehydrogenase (1993) 47-63, New York, Marcel Dekker)。A.カルコアセチカス 由来の天然のs-GDHのように、大腸菌中で発現された組換えs-GDHは、単量体当り一つのPQQ分子および三つのカルシウムイオンを伴ったホモ二量体である(Dokter, P.ら, Biochem. J. 239 (1986) 163-167; Dokter, P.ら, FEMS Microbiol. Lett. 43 (1987) 195-200; Dokter, P.ら, Biochem. J. 254 (1988) 131- 138; Olsthoorn, A. J.および Duine, J. A., Arch. Biochem. Biophys. 336 (1996) 42-48; Oubrie, A.,ら, J. Mol. Biol. 289 (1999) 319-333, Oubrie, A.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 96 (1999) 11787-11791; Oubrie, A.,ら, Embo J. 18 (1999) 5187- 5194)。s-GDHは、広い範囲の単糖および二糖を、さらにアルドン酸に加水分解される対応するケトンに酸化し、また、PMS(フェナジンメトスルフェート)、DCPIP(2,6-ジクロロ-フェノールインドフェノール)、WB(Wurster 青)ならびにユビキノンQ1およびユビキノンQ2等の短鎖ユビキノン(Matsushita, K.ら, Biochem. 28 (1989) 6276-6280; Matsushita, K.,ら, Antonie Van Leeuwenhoek 56 (1989) 63-72)、N-メチルフェナゾニウムメチルスルフェート等のいくつかの人工電子受容体(Olsthoorn, A. J. およびDuine, J. A., Arch. Biochem. Biophys. 336 (1996) 42-48; Olsthoorn, A. J.および Duine, J. A., Biochem. 37 (1998) 13854-13861)、ならびに電子導電性ポリマー(Ye, L.,ら, Anal. Chem. 65 (1993) 238-241)に電子を供与し得る。s-GDHのグルコースに対する高い比活性(Olsthoorn, A. J.および Duine, J. A., (1996) 上述)およびその広域な人工電子受容体特異性を考慮すると、該酵素は分析的な応用について、特に診断的応用のグルコース決定に関する(バイオ-)センサーまたは試験ストリップに使用されることについてよく適合している(Kaufmann, N.ら, 「Glucotrend」のDevelopment and evaluation of a new system for determining glucose from fresh capillary blood and heparinized blood (1997) 1-16, Boehringer Mannheim GmbH; Malinauskas, A.; ら, Sensors and Actuators, B: Chemical 1OO (2004) 395-402)。
【0008】
グルコース酸化は少なくとも三つの全く別個の群の酵素、すなわちNAD/P依存性グルコースデヒドロゲナーゼ、フラビンタンパク質グルコースオキシダーゼ、またはキノプロテインGDHにより触媒され得る(Duine, J.A., Biosens. Bioelectronics 10 (1995) 17-23)。還元されたs-GDHの少しゆっくりとした自己酸化が観察され、これにより酸素はs-GDHに対する非常に弱い電子受容体であることが示される(Olsthoornおよび Duine, 1996)。s-GDHは、還元されたキノンからPMS、DCPIP、WBならびにQ1およびQ2等の短鎖ユビキノンのようなメディエータへと効率的に電子を供与し得るが、直接酸素へは効率的に電子を供与し得ない。
【0009】
例えば糖尿病患者由来の血液、血清および尿中のグルコースレベルをモニタリングするための伝統的な試験ストリップおよびセンサーは、グルコースオキシダーゼを使用する。該酵素の性能は酸素濃度に依存する。空気中、異なる酸素濃度を有する異なる高度でのグルコース測定は、偽の結果を生じ得る。PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼの主な利点は、これらの酸素非依存性である。この重要な特徴は、例えば、膜結合型GDHのいくつかの特徴が調査されたUS 6,103,509において議論される。
【0010】
該分野への重要な貢献は、s-GDHを適切なメディエータと共に使用することである。s-GDHに基づくアッセイ法および試験ストリップ装置は、US 5,484,708に詳細に開示される。本特許もまた、グルコースの測定のためのアッセイの構成およびs-GDHベースの試験ストリップの作成について詳述された情報を包含する。そこに、および引用された文書中で記載された方法は、参照によって本明細書に包含される。
【0011】
該分野に関連し、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を伴った酵素について、種々の応用の形態における特定の情報を包含する他の特許または出願は、US 5,997,817; US 6,057,120; EP 0 620 283; および JP 11-243949-Aである。
【0012】
s-GDHおよび反応が起こった際に色の変化を生じるインジケータ(Kaufmann,ら. 1997,上述)を用いる市販の系は、Roche Diagnostics GmbHにより配給されるGlucotrend(登録商標)系である。
【0013】
PQQ依存性GDHの使用に関する利点を上記で議論したが、グルコースの決定において短所も考慮されなければならない。該酵素は、m-GDHと比べるとかなり広い基質領域を有する。つまり、s-GDHはグルコースだけでなく、マルトース、ガラクトース、ラクトース、マンノース、キシロースおよびリボースを含むいくつかの他の糖も酸化する(Dokterら. 1986 a; Oubrie A., Biochim. Biophys. Acta 1647 (2003) 143-151)。ある場合に、グルコース以外の糖に対する反応性は、血中グルコースレベルの決定の精度を損ない得る。イコデキストリン(グルコースポリマー)による治療を受け、腹膜透析中の特定の患者において、体液中、例えば血中に、高レベルの他の糖、特にマルトースが含有され得る(Wens, R. ら, Perit. Dial. Int. 18 (1998)603-609)。
【0014】
従って、例えば糖尿病患者、特に腎臓合併症を患う患者、および特に透析中の患者から採取した臨床試料は、有意なレベルの他の糖、特にマルトースを含み得る。かかる危険な状態の患者から採取した試料中のグルコース決定はマルトースにより損なわれ得る(Frampton, J. E.; および Plosker, G. L., Drugs 63 (2003) 2079-2105)。
【0015】
基質特異性を変化させた、改変したPQQ依存性s-GDHを作製する試みについて、文献にほとんど報告がない。Igarashi, S.,ら, Biochem. Biophys. Res. Commun. 264 (1999) 820-824は、Glu277位に点変異を導入することが変化した基質特異性プロフィールを有する変異体を生じることを報告する。
【0016】
Sode、EP 1 176 202は、s-GDH内の特定のアミノ酸置換により、グルコースに対する親和性が改善された変異体s-GDHが生じることを報告する。EP 1 167 519において、同一の著者は安定性が改善された変異体s-GDHについて報告する。さらに、JP2004173538において、同一の著者は、グルコースに対する親和性が改善された他のs-GDH変異体について報告する。
【0017】
Kratzsch, P. ら, WO 02/34919は、他の糖基質と比較した際に、特にマルトースと比較した際に、s-GDHのグルコースに対する特異性がs-GDHの特定の位置のアミノ酸置換によって改善され得ることを報告する。アミノ酸348位での置換は、中心的であり決定的である。例えば、野生型s−GDHに存在するトレオニンの代わりにグリシンを348位に含む変異体s−GDHは、例えば、基質マルトースと比較した場合、基質グルコースに対して非常に改善された選択性を有する。
【0018】
しかし、確かにいくつかのグルコース特異性に対する改善が報告されてきているが、かかる改善は、しばしばs−GDHの減少した安定性を相並んで伴うようである。例えば、348位にアミノ酸置換を含むs−GDH変異体の改善された特異性が安定性の犠牲、特に熱安定性の犠牲を払っていることが明らかになってきている。しかし、安定性は、産生の間の例および例えば、グルコース試験ストリップの長期保存に対して決定的である。
【0019】
従って、合理的な熱安定性または合理的な熱安定性および基質としてのグルコースに対する改善された特異性の両方を特徴とする、s−GDHの変異体形態に対する大きな需要および臨床的必要が存在する。
【0020】
野生型酵素または特異性が改善されたが安定性が阻害された変異体と比較した場合、有意に改善された熱安定性を有する、s−GDHの新しい変異体またはバリアントを提供することは、本発明の課題であった。
【0021】
野生型s−GDHの熱安定性およびグルコースに対する改善された特異性について設計されたs−GDH変異体、例えば348位で変異されたs−GDHの熱安定性を有意に改善することならびに上記問題を少なくとも部分的に克服することが可能であることが見出された。
【0022】
熱安定性は、本明細書中以下に詳細に記載され、添付の特許請求の範囲に記載されるような本発明に従う変異体s−GDHを提供することによって有意に改善される。s−GDHの新しい形態の改善された熱安定性のために、種々の分野の応用におけるグルコース決定についての有意な技術的進歩が可能である。
【0023】
本発明に従う改善されたs-GDH変異体は、特に試験ストリップ装置またはバイオセンサーによる生物試料中のグルコースの特異的な検出または測定のための大きな利点を伴って、用いられ得る。
【0024】
(発明の概要)
本発明は、122位および124位の少なくとも1つにおいてアミノ酸リジンが存在し、ここでこれらの位置が、A.カルコアセチカスs−GDH野生型配列(配列番号2)由来の公知のアミノ酸位置に対応することを特徴とするPQQ依存性s−GDHの変異体タンパク質に関する。
【0025】
本発明に従うs−GDHの変異体タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列ならびにかかるポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターおよび該発現ベクターを含む宿主細胞はまた、本発明の好ましい態様を示す。
【0026】
本発明はさらに、特に試験ストリップ装置によるまたはバイオセンサーを用いるグルコースの測定のための方法における、本発明に従う変異体の使用に関する。
【0027】
以下の実施例、参考文献、配列表および図面は本発明の理解を補助するために提供され、その真の範囲は添付の特許請求の範囲に記載される。改変は、本発明の精神を逸脱することなく、記載の手順においてなされ得ることが理解されよう。
【0028】
(発明の詳細な説明)
第1の態様において、本発明は、122位および124位の少なくとも1つにおいてアミノ酸リジンが存在し、ここでこれらの位置が、A.カルコアセチカスs−GDH野生型配列(配列番号2)由来の公知のアミノ酸位置に対応することを特徴とするPQQ依存性s−GDHの変異体タンパク質に関する。
【0029】
上記で議論されるように、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有する二つの完全に異なるキノプロテイン酵素型(膜結合型および可溶型)は、共にEC 1.1.5.2の下に分類される。これら2つの型は、互いに関連がないように思われる。
【0030】
本発明の目的に関して、GDHの可溶型形態(s-GDH)のみが意味のあるものであり、その改善されたバリアントが本明細書中、以下で議論される。
【0031】
可溶性のPQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼの野生型DNA配列は、アシネトバクター株より単離され得ることが、当該分野で公知である。アシネトバクター・カルコアセチカス型LMD 79.41株より単離されることが最も好ましい。この野生型s-GDH(成熟型タンパク質)のポリペプチド配列は配列番号2にDNA配列は配列番号1にそれぞれ与えられる。アシネトバクターの他のLMD株も野生型s-GDHの供給源として使用され得る。かかる配列はA.カルコアセチカスから得られた配列と整列され、配列比較され得る。例えば大腸菌K-12について記載される(Oubrie, A.ら, J. MoI. Biol. 289 (1999) 319-333)ように他の細菌株のDNAライブラリーをスクリーニングすること、およびかかるゲノム中のs-GDHに関連のある配列を同定することも実現可能であるように思われる。かかる配列および依然未同定の相同配列は、改善された熱安定性を有するs-GDHバリアントを作製するために使用され得る。
【0032】
アシネトバクター・カルコアセチカス型LMD 79.41株より単離されたs-GDHの野生型配列である配列番号2由来の公知であるアミノ酸位置を参照することで、本発明の功績が非常に詳細に記載される。配列番号2の位置に対応する異なるs-GDH単離物のアミノ酸位置は、適切な配列比較により容易に同定される。
【0033】
好ましくは、GCG Packageバージョン10.2のPileUpプログラム(Genetics Computer Group, Inc.)を用いて、s-GDH配列と配列番号2の野生型配列とのマルチプルアライメントおよび比較が実施される。PileUpは、Feng, D. F.および Doolittle, R. F., J. Mol Evol. 25 (1987) 351-360のプログレッシブアライメント法を簡略化したものを用いて、マルチプル配列アライメントを作成し、同一、類似または異なるアミノ酸残基についてのスコアリングマトリクスが結果的に規定される。このプロセスは、最も類似した二つの配列のペアワイズアライメントで開始され、整列された二つの配列のクラスターを作成する。次いで、このクラスターは次の最も関連のある配列、または整列された配列のクラスターと整列され得る。二つの配列クラスターは、二つの個々の配列のペアワイズアライメントの単純な拡張により整列され得る。最終的なアライメントは、全配列が最終的なペアワイズアライメントに含まれるまで、だんだん類似しない配列およびクラスターを含む一連のプログレッシブペアワイズアライメントにより達成される。この方法で、配列番号2のA.カルコアセチカス s-GDHについての所定の位置に対応する場合に、他の相同なs-GDH分子内のアミノ酸位置が容易に同定される。これは、本明細書中に定められたアミノ酸位置が、配列番号2のアミノ酸位置または別の相同なs-GDH分子内の位置に対応する位置として理解されるためである。
【0034】
本発明の意味における用語「変異体」または「バリアント」は、対応する野生型配列と比較される場合、配列番号2の122位または124位に対応する位置に少なくとも1つのアミノ酸置換を示すs−GDHタンパク質に関し、ここで野生型に存在するアミノ酸はリジンで置換される。本発明のs−GDH変異体が配列番号2のs−GDHから50アミノ酸を超えて異ならない場合、例えば、全部でせいぜい50アミノ酸置換を示す場合、s−GDH変異体は、他の置換および/または欠失および/または挿入を含み得る。
【0035】
上記されるように、グルコース特異性の改善は、たいてい減少した安定性の犠牲のもとに可能であるようである。当業者は、安定性が保管温度および/または保管時間それぞれのような異なる側面に関連し得ることを理解する。短期間温度ストレスモデルは、安定性を評価するためにしばしば使用される。本発明に従う安定性は、かかる短期間ストレスモデルにおいて評価され、熱安定性といわれる。熱安定性は、試料のストレスを受けないs−GDH酵素活性およびストレスを受けたs−GDH酵素活性を測定することによって決定される。ストレスを受けない試料の活性を100%に設定することによって、ストレス処理後の残存活性は、%で計算され得る。改善された基質特異性を有するs−GDHの変異体について、30分間の65℃が選択された。これらの条件を使用して、野生型酵素は、その元の活性の約80%が残るが、グルコースに対して改善された特異性を有する変異体のほとんどは、この短期間ストレスモデルを実施した後これらの最初の酵素活性の10%以下しか有さない。
【0036】
s−GDHの2つの位置、すなわち122位および124位が熱安定性の点で有意な改善を達成するためにどちらかといえば決定的であるようであることが見出された。20の天然に存在するアミノ酸の1つ、アミノ酸リジンによる置換のみが熱安定性に対して顕著な効果を有することも見出された。122位および/または124位でのリジンによる置換は、野生型s−GDH酵素の熱安定性を改善する。野生型酵素はとにかくどちらかといえば安定であるが、熱安定性は、122位および/または124位のリジンによってさらに改善される。重要な関連は、これらの置換が、減少した熱安定性を犠牲とするがグルコース特異性を改善するために以前に作製された変異体の熱安定性に対しても顕著な効果を有することが見出されたという事実である。
【0037】
好ましい態様において、本発明に従うs−GDH変異体は、122位にリジンを含み、該位置は、A.カルコアセチカス野生型s−GDH由来の公知の122位に対応する(配列番号2)。
【0038】
別の好ましい態様において、本発明に従うs−GDH変異体は、124位にリジンを含み、該位置は、A.カルコアセチカス野生型s−GDH由来の公知の124位に対応する(配列番号2)。
【0039】
なお別の好ましい態様において、本発明に従うs−GDH変異体は、122位および124位にリジンを含み、該位置は、それぞれA.カルコアセチカス野生型s−GDH由来の公知の122位および124位に対応する(配列番号2)。
【0040】
上記されるように、グルコースに対して改善された特異性を有するs−GDH変異体の熱安定性、例えばWO02/34919に開示された変異体の熱安定性が改善され得ることは重大である。これは122位および/または124位で天然に存在するアミノ酸をリジンで置換することによって達成され得ることが見いだされ、示される。従って、非常に好ましい態様において、本発明は、122位および/または124位にリジンを含み、特にマルトースと比較した場合、グルコースに対する改善された特異性を導く1つ以上の他の改変をさらに含むs−GDH変異体に関する。
【0041】
本発明に従った好ましい変異体は、A.カルコアセチカスから単離されたs−GDH野生型酵素に対して、少なくとも一つの他の選択された糖基質と比較した際に、グルコースに対して少なくとも2倍の改善された基質特異性を有し、同時に野生型酵素に対して測定された場合に少なくとも20%の熱安定性である熱安定性を有するということによって特徴付けられる。
【0042】
基質特異性または交差反応性を計算するための1つの簡単な方法は、基質としてグルコースを用いて測定された活性を100%に設定して、他の選択された糖で測定された活性をグルコースの値と比較することである。時々、重複にならないために、一方でグルコースについて、他方で他の選択された糖基質について特別に言及せずに、単に用語特異性を使用する。
【0043】
当業者は、十分に規定されたアッセイ条件を用いて、調査される基質分子の等モル濃度で、酵素活性の比較が最も良くなされることを理解する。そうでなければ、濃度の差の補正を行わなければならない。
【0044】
標準化され十分に規定されたアッセイ条件が、基質特異性(の改善)を評価するために選択される必要がある。基質としてグルコースに対する、ならびに他の選択された糖基質に対するs-GDHの酵素活性は、実施例の部に記載されるように測定される。
【0045】
グルコースまたは選択される種々の糖、好ましくはマルトースに対するこれらの酵素活性の測定に基づいて、交差反応性(およびその改善)が評価される。
【0046】
選択された糖に対するs-GDH(交差)反応性のパーセントは、
交差反応性[%]=(選択された糖の活性/グルコースの活性)×100%
で計算される。
【0047】
上述の式に従い、野生型s-GDHのマルトースに対する(交差)反応性は、約105%と決定された(実施例7参照)。
【0048】
(改善された)特異性は以下の式:


に従って計算される。
【0049】
野生型酵素と比較した場合、基質としてマルトースを用いることによってマルトースに対するグルコースの特異性(マルトース/グルコース)において、少なくとも10倍の改善を有するs-GDH形態は、基質としてグルコースを用いて測定した場合に多くて10.5%の活性を有する。または、例えば変異体s-GDHが、マルトースに対して20%の交差反応性(上述のように決定され、計算された)を有する場合、従って、野生型s-GDHと比較した際にこの変異体は5.25倍の改善された基質特異性(マルトース/グルコース)を有する。
【0050】
用語、基質に対する「比活性」は、当該分野において周知であり、好ましくはタンパク質の量当りの酵素活性を述べるために使用される。基質としてグルコースまたは他の糖を使用してGDH分子の比活性を決定するために、当該分野には種々の方法が知られている(Igarashi, S.,ら, (1991)上述)。かかる測定に利用可能な好ましい方法は、実施例8に詳細に記載される。
【0051】
多くの異なる糖分子を選択すること、および任意のかかる選択された糖分子と比較してs-GDHのグルコース特異性を調査することは可能であるが、かかる比較のために臨床的に関係のある糖分子を選択することが好ましい。好ましい選択された糖は、マンノース、アロース、ガラクトース、キシロース、およびマルトースからなる群から選択される。好ましくは、マルトースまたはガラクトースが選択され、ガラクトースまたはマルトースと比較した際に、グルコースに対する改善された基質特異性について変異体s-GDHが試験される。さらに好ましい態様において、選択される糖はマルトースである。
【0052】
好ましい態様において、本発明に従うPQQ依存性s−GDHの変異体タンパク質は、122位および/または124位にリジンを含み、16位、22位、65位、76位、116位、120位、127位、143位、168位、169位、171位、177位、224位、227位、230位、231位、245位、246位、255位、277位、287位、294位、295位、299位、302位、305位、307位、308位、317位、321位、323位、341位、348位、349位、354位、355位、364位、378位、422位、425位、428位および438位からなる群から選択される1つ以上の位置に1つ以上のアミノ酸置換をさらに含む。上記位置のほとんどは、他の選択された糖と比較した場合、特に基質マルトースと比較した場合、グルコースに対するs−GDHの特異性に影響することが以前に示された。WO02/34919の完全な開示は、参照によって本明細書中に含まれる。
【0053】
WO 02/34919に記載されるように、A.カルコアセチカスから単離された野生型配列に対応するs-GDH配列の348位におけるアミノ酸の置換は、s-GDHのグルコース特異性を有意に改善するために使用され得る。特に好ましい態様において、本発明は、122位および/または124位にリジンおよび348位にアミノ酸置換を含むs−GDH変異体に関する。好ましくは348位の残基トレオニンは、アラニン、グリシンおよびセリンからなる群から選択されるアミノ酸残基で置換される。より好ましい態様において、グリシンは、348位のトレオニンを置換するために使用される。用語T348Gは、当業者に公知であり、348位のトレオニンがグリシンによって置換されることを示す。
【0054】
さらに好ましい態様において、122位および/または124位にリジンを含むバリアントs−GDHは、428位のアミノ酸残基アスパラギンがロイシン、プロリンおよびバリンからなる群から選択されるアミノ酸残基で置換されることによって特徴付けられる。428位のより好ましい置換は、プロリンによる。
【0055】
本発明に従う122位および/または124位にリジンを含む好ましいs−GDHバリアントの1つの群は、348位のアミノ酸残基トレオニンおよび428位のアミノ酸アスパラギンが両方置換されていることによってさらに特徴付けられ、ここで好ましい置換は、上記に概略されたものである。
【0056】
本発明に従う122位および/または124位にリジンを含む変異体は、A.カルコアセチカス由来の公知のs−GDH野生型配列(配列番号2)の169位、171位、245位、341位および/または349位に対応するアミノ酸位置に1つ以上のアミノ酸置換を含むように任意にさらに改変され得る。
【0057】
A.カルコアセチカス由来の公知であるs-GDH野生型配列(配列番号2)の169位に対応するアミノ酸が、本発明のバリアントにおいて置換される場合、天然に生じるアミノ酸ロイシンがフェニルアラニン、チロシンまたはトリプトファンに置換されることが好ましい。169位におけるより好ましい置換は、フェニルアラニンによる。
【0058】
A.カルコアセチカス由来の公知のs-GDH野生型配列(配列番号2)の171位に対応するアミノ酸が、本発明のバリアントにおいて置換される場合、天然に生じるアミノ酸チロシンがアラニン、メチオニン、グリシンからなる群から選択されるアミノ酸によって置換されることが好ましい。171位におけるより好ましい置換は、グリシンによる。
【0059】
A.カルコアセチカス由来の公知のs-GDH野生型配列(配列番号2)の245位に対応するアミノ酸が、本発明のバリアントにおいて置換される場合、天然に生じるアミノ酸グルタミン酸がアスパラギン酸、アスパラギンまたはグルタミンによって置換されることが好ましい。245位におけるより好ましい置換は、アスパラギン酸による。
【0060】
A.カルコアセチカス由来の公知のs-GDH野生型配列(配列番号2)の341位に対応するアミノ酸が、本発明のバリアントにおいて置換される場合、天然に生じるアミノ酸メチオニンがバリン、アラニン、ロイシンまたはイソロイシンによって置換されることが好ましい。341位におけるより好ましい置換は、バリンによる。
【0061】
A.カルコアセチカス由来の公知のs-GDH野生型配列(配列番号2)の349位に対応するアミノ酸が、本発明のバリアントにおいて置換される場合、天然に生じるアミノ酸バリンがアラニンまたはグリシンによって置換されることが好ましい。349位におけるより好ましい置換は、アラニンによる。
【0062】
428位と429位との間のアミノ酸の挿入によってs−GDHバリアントの基質特異性をさらに改善することが可能であることもまた見出された。第428アミノ酸と第429アミノ酸との間にアミノ酸挿入を含むかかる変異体はまた、改善された安定性および改善された特異性の両方を示す変異体を作製するための好ましい開始物質を示す。好ましい態様において、本発明は、s−GDHの122位および/または124位にリジンならびに428位と429位との間にアミノ酸挿入を含む変異体s−GDHに関する。
【0063】
さらに好ましい態様において、本発明に従ったs-GDH変異体は、122位および/または124位にリジンを有することに加えて、アミノ酸残基428と429との間の挿入を持ち、A.カルコアセチカス由来の公知のs-GDH野生型配列(配列番号2)のアミノ酸位置に対応する171位、245位、341位、348位および349位からなる群から選択される、少なくとも2つのアミノ酸置換を含む。
【0064】
なおさらに好ましい態様において、本発明に従ったs-GDH変異体は、122位および/または124位にリジンを有することに加えて、アミノ酸残基428と429との間の挿入を持ち、A.カルコアセチカス由来の公知のs-GDH野生型配列(配列番号2)のアミノ酸位置に対応する171位、245位、341位、348位および349位からなる群から選択される、少なくとも3つのアミノ酸置換を含む。
【0065】
当業者が理解するように、アミノ酸置換、例えば、有意な程度までにはs−GDHの特性に影響しないサイレント変異を引き受けることは可能である。しかし、本発明に従うバリアントは、配列番号2に比較した場合、50以下のアミノ酸交換を有する。好ましくは、バリアントは、20以下のアミノ酸置換を含み、より好ましくは、10以下のアミノ酸置換のみが存在する。
【0066】
本発明に従ういくつかの特異的なs−GDHバリアントは、実施例の部に与えられる。低いグルコース干渉および許容され得る熱安定性を有するs−GDHバリアントは、以下の位置:
65位+122位+124位+171位+245位+341位+348位+426位+428位+430位+436位、
65位+122位+124位+171位+245位+341位+348位+426位+428位+430位および
122位+124位+171位+245位+246位+341位+348位+425位+428位
それぞれに置換を有する変異体を含む。これらの3つのバリアントは、本発明のさらに好ましい態様を示す。
【0067】
アミノ酸配列分析により、一方でA.カルコアセチカスおよびもう一方でA.バウマニ由来の野生型s-GDHに見られる配列モチーフ(motives)は、本発明において同定されかつ示されたような、熱安定性を改善することに主に関連する122位および124位のあたりで非常に保存されていると思われることが明らかとなった。
【0068】
アスパラギン(N)またはセリン(S)のいずれかがリジンによって置換される、アミノ酸配列TYNKSTD(配列番号3)を含むPQQ依存性s-GDHのバリアントは、本発明の好ましい態様を示す。配列番号3はA.カルコアセチカス野生型s-GDHの120位−126位、またはA.バウマニ野生型s-GDHの120位−126位に対応するが、122位(=Xaa1)もしくは124位(=Xaa2)のいずれかまたはこれらの両方にリジンを含み、従って、天然に存在するアミノ酸アスパラギンまたは/およびセリン(A.カルコアセチカス)それぞれを置換する。
【0069】
変異体タンパク質を作るための多くの可能性が当該分野に公知である。変異体s−GDHの122位および/または124位のリジンの決定的な重要性を開示する本発明の重要な発見に基づいて、当業者は今日、これらおよび他の好ましい改変を持つs-GDHのさらに適切なバリアントを容易に作製し得る。かかるバリアントは、例えばランダム突然変異誘発(Leung, D. W.,ら, Technique 1 (1989) 11-15)および/または部位特異的変異誘発(Hill, D. E.,ら, Methods Enzymol. 155 (1987) 558-568)として公知の方法により得ることができる。所望の特性を有するタンパク質を作製する代替的な方法は、少なくとも二つの異なる供給源由来の配列エレメントを含むキメラ(chimaeric)構築物を提供することか、または適切なs-GDH遺伝子を完全に合成することである。当該分野に公知のかかる手法は、開示された決定的に重要な、例えば配列番号2の122位および/または124位のリジンと組み合わせて、例えばさらなるアミノ酸置換を含むs−GDHの変異体またはバリアントを提供するために、本発明中に開示された情報と組み合わせて使用され得る。
【0070】
本発明に従ったs-GDHバリアントは、例えばアシネトバクター・カルコアセチカス型LMD 79.41株から単離されたs-GDH遺伝子から開始することならびに相同配列から開始することにより作製され得る。本願文脈中の用語「相同な」は、配列番号2と比較した際に少なくとも90%の同一性を有するs-GDHアミノ酸配列を含むことを意味する。言い換えれば、PileUpプログラムを用いた適切なアライメント後に、かかる相同なs-GDHのアミノ酸の少なくとも90%が配列番号2に記載されるアミノ酸と同一である。
【0071】
DNAおよびアミノ酸の配列のバリエーションは、天然に存在するかまたは当該分野に公知の方法を用いて意図的に導入され得ることが理解されよう。これらのバリエーションは、配列番号2と比較した際に前記配列中の一つ以上のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入、逆位または付加のために、全配列中で10%までのアミノ酸相違を生じ得る。かかるアミノ酸置換は、例えば含まれる残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性および/または両親媒性における類似性に基づいてなされ得る。例えば、負に帯電したアミノ酸としてはアスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられ;正に帯電したアミノ酸としてはリジンおよびアルギニンが挙げられ;同様の親水性値を有する非荷電極性ヘッドグループまたは非極性ヘッドグループを有するアミノ酸としては以下、ロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、フェニルアラニンおよびチロシンが挙げられる。他の企図されるバリエーションとしては、前述のポリペプチドの塩およびエステル、ならびに前述ポリペプチドの前駆体、例えばメチオニン、リーダー配列として用いられるN-ホルミルメチオニン等のN末端置換を有する前駆体が挙げられる。かかるバリエーションは、本発明の範囲および精神を必ずしも逸脱することなく作製され得る。
【0072】
当該分野の情勢において公知の手法に従って、または実施例の部に与えられる手法に従うと、上述の任意のs-GDH変異体をコードするポリヌクレオチド配列を得ることは可能である。従って、本発明は、上述の本発明に従うs-GDH変異体タンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチド配列も含む。
【0073】
本発明は、宿主細胞中で発現を指向し得るプロモーター配列に作動可能に連結された本発明に従う核酸配列を含む発現ベクターをさらに包含する。
【0074】
本発明は、宿主細胞中で発現を指向し得るプロモーター配列に作動可能に連結された本発明に従う核酸配列を含む発現ベクターをさらに包含する。好ましいベクターは、図2および3に示されるpACSGDHのようなプラスミドである。
【0075】
本発明に有用な発現ベクターは、典型的には、複製の起点、選択のための抗生物質耐性、発現のためのプロモーターおよびs−GDH遺伝子バリアントの全部または一部を含む。発現ベクターはまた、シグナル配列(よりよい折り畳み、ペリプラズムへの輸送または分泌のための)、発現のよりよい調節のための誘発因子、またはクローニングのための切断部位などの、当該分野に公知の他のDNA配列を含み得る。
【0076】
選択された発現ベクターの特徴は、使用されるべき宿主細胞に適合性でなければならない。例えば、大腸菌細胞系でクローニングする場合、発現ベクターは、大腸菌細胞のゲノムから単離されたプロモーター(例えば、lacまたはtrp)を含むべきである。ColE1プラスミド複製起点のような適切な複製の起点が使用され得る。適切なプロモーターとしては、例えば、lacおよびtrpが挙げられる。発現ベクターが抗生物質耐性遺伝子のような選択マーカーをコードする配列を含むこともまた好ましい。選択可能なマーカーとして、アンピシリン耐性またはカナマイシン耐性が都合よく使用され得る。これらの物質の全ては、当該分野において公知であり、市販される。
【0077】
所望されるコード配列および調節配列を含む適切な発現ベクターは、当該分野で公知の標準的な組換えDNA技術を使用して構築され得、これらの多くは、Sambrookら、“Molecular Cloning:A Laboratory Manual” (1989) Cold Spring Harbor, NY, Cold Spring Harbour Laboratory Pressに記載される。
【0078】
本発明はさらに、変異体s−GDHの全てまたは一部をコードするDNA配列を含む発現ベクターを含む宿主細胞に関する。好ましくは、宿主細胞は、実施例2〜8に示される1つ以上の変異を有する変異体s−GDHをコードするDNA配列の1つの全てまたは一部を含む発現ベクターを含む。適切な宿主細胞としては、例えば、Promega (2800 Woods Hollow Road, Madison, WI, USA)から入手可能な大腸菌HB101(ATCC33694)、Stratagene (11011 North Torrey Pine Road, La Jolla, CA, USA)から入手可能なXL1-Blue MRF’などが挙げられる。
【0079】
発現ベクターは、当該分野で公知の種々の方法によって宿主細胞に導入され得る。例えば、発現ベクターでの宿主細胞の形質転換は、ポリエチレングリコール媒介プロトプラスト形質転換法によって実施され得る(Sambrookら、1989 前記)。しかし、宿主細胞に発現ベクターを導入するための他の方法、例えばエレクトロポレーション、微粒子銃注入(bolistic injection)またはプロトプラスト融合がまた使用され得る。
【0080】
一旦s−GDHバリアントを含む発現ベクターが適切な宿主細胞に導入されると、宿主細胞は、所望されるs−GDHバリアントの発現を可能にする条件下で培養され得る。変異体s−GDHの全てまたは一部をコードするDNA配列を有する所望の発現ベクターを含む宿主細胞は、すなわち抗生物質選択によって容易に同定され得る。s−GDHバリアントの発現は、s−GDH mRNA転写物の産生を測定すること、遺伝子産物を免疫学的に検出することまたは遺伝子産物の酵素活性を検出することのような異なる方法によって同定され得る。好ましくは、酵素アッセイが適用される。
【0081】
本発明はまた、s-GDH変異体の産生およびスクリーニングを教示する。ランダム突然変異誘発および飽和突然変異誘発は、当該分野で公知のように実施される。バリアントは、熱安定性についてスクリーニングされる(熱ストレス処理後の残存活性に比べて熱ストレス処理のない活性)。選択されるアッセイ条件は、例えば、単一のアミノ酸置換によって引き起こされる期待される小さな増大が測定され得るということを確実にするように適合される。適切な変異体の選択またはスクリーニングの1つの好ましい様式は、実施例3に与えられる。開始酵素(変異体または野生型)と比較した場合、任意の変化または改善が明らかに検出され得る。
【0082】
もちろん、全ての発現ベクターおよびDNA調節配列が、本発明のDNA配列を発現するように等しく良好には機能しないことが理解されるべきである。全ての宿主細胞もまた同じ発現系と共に等しく良好には機能しない。しかしながら、当業者は、過度の実験をせずに本明細書中に提供される手引きを使用して、発現ベクター、DNA調節配列、および宿主細胞の間で適切な選択をする。
【0083】
本発明はまた、本発明の変異体s-GDHの産生に適切な条件下で本発明の宿主細胞を培養する工程を包含する、本発明のs-GDHバリアントを産生するためのプロセスに関する。細菌宿主細胞について、典型的な培養条件は、炭素および窒素源、適切な抗生物質ならびに誘導剤(使用される発現ベクターに依存して)を含む液体培地である。典型的な適切な抗生物質としては、アンピシリン、カナマイシン(canamycin)、クロラムフェニコール、テトラサイクリン等が挙げられる。典型的な誘導剤としては、IPTG、グルコース、ラクトース等が挙げられる。
【0084】
本発明のポリペプチドは、変異体s-GDHをコードするDNA配列を発現する宿主細胞中での産生によって得られるのが好ましい。本発明のポリペプチドはまた、変異体s-GDHをコードするDNA配列でコードされるmRNAのインビトロ翻訳で得られ得る。例えば、DNA配列は、上記のように合成され、適切な発現ベクターに挿入され得、次にインビトロ転写/翻訳系において使用され得る。
【0085】
無細胞ペプチド合成系において発現を促進し得るプロモーター配列に作動可能に連結される、規定され上記されるとおりの単離されたポリヌクレオチドを含む発現ベクターは、本発明の別の好ましい態様を示す。
【0086】
次いで、例えば、上記されるような手順によって産生されるポリペプチドが、単離され、種々の常套的なタンパク質精製技術を使用して精製され得る。例えば、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーおよび親和性クロマトグラフィーのようなクロマトグラフィー手順が使用され得る。
【0087】
本発明の改善されたs-GDHバリアントの主要な応用の1つは、糖尿病患者における血液-グルコースレベルをモニターする試験ストリップにおける使用についてである。PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼの酸素に対する無反応性は、上記のように、グルコースオキシダーゼに対して大きな利点である。次に、例えば、分析されるべき試料中に存在し得るマルトース、ガラクトース、および/または他の関連する糖に起因する干渉は、改善された熱安定性およびグルコースに対する改善された特異性の両方を有する新規なs-GDHバリアントを用いて有意に減少され得る。もちろん、多くの種類の試料が調査され得る。血清、血漿、腸液または尿のような体液が、かかる試料のための好ましい供給源である。
【0088】
本発明はまた、本発明に従うs-GDH変異体を用いて試料中のグルコースを検出、決定または測定する方法を含む。試料中のグルコースの検出のための改善された方法が、該グルコースの検出、決定または測定がセンサーまたは試験ストリップ装置を用いて実施されることを特徴とすることは特に好ましい。
【0089】
本発明に従うs-GDH変異体および測定に必要な他の試薬を含む、試料中のグルコースを検出または測定するための装置もまた、本発明の範囲内である。
【0090】
本発明の改善された熱安定性を有するs-GDHバリアントはまた、試料または反応器中のグルコースのオンラインモニターのためのバイオセンサー(D’Costa,E.J.,ら, Biosensors 2 (1986)71-87; Laurinavicius, V.,ら, Analytical Letters 32 (1999) 299-316; Laurinavicius, V.,ら, Monatshefte fuer Chemie 130 (1999) 1269-1281; Malinauskas, A.ら, Sensors and Actuators, B: Chemical 100 (2004) 395-402)における大きな利点に対して用いられ得る。この目的のために、s-GDHバリアントは、例えば、グルコース濃度のより正確な決定のために酸化還元伝導性エポキシネットワークを含むオスミウム複合体を用いて酸素無反応ガラス性電極をコートする(Yeら, 1993上掲)ために使用され得る。
【0091】
以下の実施例において、全ての試薬、制限酵素、および他の物質は、他の市販供給源が特定されていない限り、Roche Diagnostics Germanyから入手し、製造業者によって与えられる指示書に従って使用された。DNAの精製、特徴付けおよびクローニングのために使用される操作および方法は、当該分野で周知であり(Ausubel, F.,ら, in 「Current protocols in molecular biology」(1994), Wiley)、当業者によって必要に応じて適合され得る。
【0092】
以下の実施例は、本発明をさらに例示する。これらの実施例は、本発明の範囲を限定することを意図されないが、本発明のさらなる理解を提供する。
【0093】
実施例1
野生型A.カルコアセチカス可溶性PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼの大腸菌でのクローニングおよび発現
s-GDH遺伝子を、標準の手順に従ってアシネトバクターカルコアセチカス LMD 79.41株から単離した。野生型s-GDH遺伝子を、調節可能な発現のためのmglプロモーターを含むプラスミドにサブクローニングした(参照、特許出願 WO 88/09373)。新しい構築物をpACSGDHと呼んだ(図2および3を参照)。組換えプラスミドを大腸菌群から選択した宿主生物体に導入した。次にこれらの生物体を適切な条件下で培養し、s-GDH活性を示すコロニーを選択した。
【0094】
プラスミドpACSGDHを製造業者のプロトコルに従ってQIAGEN Plasmid Maxi Kit(Qiagen)を用いて、上記記載のクローンの200ml一晩培養物から単離した。プラスミドを1mlの再蒸留水(bi-distilled water)中に再懸濁した。プラスミドの濃度を、Beckman DU 7400 Photometerを使用して測定した。
【0095】
収量は600μgであった。次にプラスミドの質をアガロースゲル電気泳動で決定した。
【0096】
実施例2
突然変異誘発性PCR
s-GDH遺伝子におけるランダム変異を起こすために、突然変異誘発性PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を実施した。pACSGDHプラスミドおよび変異した酵素をコードするDNA配列(突然変異誘発性PCR由来のPCR産物)を制限酵素SphIおよびEco RIを用いて消化した。産物をゲル精製した。消化されたDNA配列をライゲートし、ライゲーション反応混合物のアリコートをコンピテント性の大腸菌細胞を形質転換するために使用した。続いて、形質転換体をアンピシリンを含むLB−プレート上で選択した。
【0097】
個々のコロニーを選択し、アンピシリンを含むLB-培地で一晩増殖し、スクリーニングに供した(実施例3を参照)。
【0098】
突然変異誘発性PCR反応混合物
40 ng pACSGDH
1×buffer MgCl2なし(Roche Diagnostics GmbH, Cat.1699 105)
dCTP, dTTP 1mM
dATP, dGTP 0.2mM (Roche Diagnostics GmbH, Cat. 1969 064)


7 mM MgCl2
0.6 mM MnCl2
5 U Taq DNA ポリメラーゼ (Roche Diagnostics GmbH, Cat. 1146 165)
Gene Amp PCR System 2400 (Perkin Elmer), 30サイクル:95℃,1分,45℃2分,72℃2分
【0099】
−製造業者のプロトコルに従ったRoche Diagnostics GmbH(Cat. 1 732 676)からのHigh Pure PCR Product Purification Kitを用いたPCR産物の精製
【0100】
−1×buffer H(Roche Diagnostics GmbH, Cat.1 417 991)中の25U SphI(Roche Diagnostics GmbH, Cat.606 120)を用いたPCR断片の37℃で一晩の消化;25U EcoRI(Roche Diagnostics GmbH, Cat.703 737)の添加および3.5時間のさらなる消化
【0101】
−50μg pACSGDHの1×buffer H中の180U SphIおよび180U EcoRIでの37℃で4時間の消化
【0102】
−アガロースゲル(0.8%)を用いた、消化されたpACSGDHおよび消化された断片のゲル電気泳動
【0103】
−製造業者のプロトコルに従ったQIAquick Gel Extraction Kit(Qiagen,Cat.28706)を用いたDNA分子の抽出
【0104】
−Beckman DU 7400 Photometerを用いた、断片および消化されたベクターの濃度決定
【0105】
−アガロースゲル電気泳動による精製産物の質の決定
【0106】
−20μl体積中の1U T4-DNA-リガーゼ(Roche Diagnostics GmbH, Cat.481 220)を用いた、100 ngの消化されたベクターの140 ng のmPCR断片との16℃で一晩のライゲーション
【0107】
−BioRad E.coli Pulser (BioRad)を用いた、0.2cmキュベット中2.5KVでのエレクトロコンピテント性XL1F-細胞(Stratagene)の1μlライゲーション反応物でのエレクトロポレーション
【0108】
−37℃で1時間1ml LB中で増殖した後、細菌をLB-アンピシリン寒天プレート(100μg/ml アンピシリン)上に播種し、37℃で一晩増殖した。
【0109】
−以下のスクリーニング方法に供された50%の発現クローンが、酵素活性s-GDHを産生した
【0110】
実施例3
熱安定性についてのスクリーニング
上記記載の寒天プレート上の変異体コロニーを200μl LB-アンピシリン-培地/ウェルを含むマイクロタイタープレート(MTP)に選び取り、37℃で一晩インキュベートした。これらのプレートをマスタープレートと呼ぶ。
【0111】
各マスタープレートから、5μl試料/ウェルを細胞破壊のために5μl/ウェルのB(B=細菌タンパク質抽出試薬; Pierce No. 78248)を含むMTPに移し、s-GDHの活性化のために1ウェルあたり240μlの0.0556mMピロロキノリンキノン(PQQ);50 mM Hepes; 15 mM CaCl2 pH7.0を添加した。ホロ酵素の形成を完了するために、MTPを25℃で2時間および10℃で一晩インキュベートした。このプレートを作業プレートと呼ぶ。
【0112】
作業プレートから、2×10μl試料/穴を2つの空のMTPに移した。1つのMTPを短時間の温度ストレスに供した(70℃/インキュベーターで30分)。室温に冷却された後、ストレスがかかったMTPおよび未処理のMTPを30mMグルコースを含む90μlのメディエータ溶液で試験した(実施例8を参照)。
【0113】
dE/分を計算し、ストレスを加えていない試料からの値を100%活性に設定した。温度ストレスを加えたMTPで得られた値を、未処理の値と比較し、パーセント活性を計算した((例えば:調節されたdE/分/未処理dE)×100)。これはパーセント残存活性で示される(バリアント)酵素の熱安定性と等価である。インキュベーションの間にMTP中の熱分布の変動に起因する結果のずれを補正するために、野生型酵素を各プレートの専用の穴に参照として添加した。
【0114】
以下の変異体が同定された。
【表1】

【0115】
残存活性の変動性は、MTPのウェル中の不均一な熱分布、および加熱中のホロ酵素からアポ酵素および補酵素への崩壊、および熱ストレス後のホロ酵素への自発性再構築に起因する。それにも関わらず、変異体Aは一貫して野生型酵素よりも残存酵素活性のより高い値を示した。
【0116】
実施例4
s-GDH変異体Aをコードする遺伝子の配列決定
野生型よりもより高い熱安定性を有する、s-GDH変異体Aに対する遺伝子を含むプラスミドを単離し(High Pure Plasmid Isolation Kit, Roche Diagnostics GmbH,No.1754785)、ABI Prism Dye Terminator Sequencing KitならびにABI 3/73および3/77シークエンサー(Amersham Pharmacia Biotech)を用いて配列決定した。
【0117】
以下のプライマーを使用した。

【0118】
結果
実施例3の表にすでに列挙した変異体Aのアミノ酸交換を見出した。
【0119】
実施例5
飽和突然変異誘発によって得られたs-GDH変異体
変異体Aにおける両方または単一のみのアミノ酸交換が熱安定性の改善の原因であるかどうかを見るために飽和突然変異誘発を実施した。さらに、該方法は、見出される効果が同定される位置の他のアミノ酸交換で増強され得るかどうかを見ることを可能にする。QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit (Stratagene, Cat. 200518)を使用して、野生型s-GDHタンパク質の122位および202位の野生型アミノ酸のそれぞれを首尾よく置換した。
【0120】
突然変異誘発のために使用された5’-プライマーおよび3’-プライマーは、互いに相補的であり、中心位置にNNNを含んだ。所望の位置(122または202のそれぞれ)に存在するこれらの3つのランダム合成ヌクレオチドは、鋳型のセンスDNA鎖およびアンチセンスDNA鎖と同一である各末端の12〜16ヌクレオチドと隣接された。従って、コドンの代わりに、プライマーは、全ての可能性のあるコドンをコードするオリゴヌクレオチドであるNNNを含んだ。
【0121】
各122位および202位のそれぞれについて、1つのPCR反応を実施した。
【0122】
PCR反応物およびDpnI-制限エンドヌクレアーゼ消化を説明書に従って実施した。
【0123】
その後、1μlの各反応物をXL1F-細胞のエレクトロポレーションのために使用した。細胞を増殖し、クローンのs-GDH活性を上記記載のように決定した。
【0124】
20全ての可能なアミノ酸置換がこの評価でカバーされるという統計的な見込みを増大させるために、200クローンを各位置についてスクリーニングした(実施例3を参照)。
【0125】
以下のプライマーを使用した。



【0126】
結果
202位のアミノ酸交換によって熱安定性は変化しなかった。122位の揺らぎのみが、増強された熱安定性を有するクローンを産生した。最も良い交換は、N122Kであった。
【0127】
実施例6
マルトースと比較された場合のグルコースに対する高い基質特異性および増強された熱安定性を有する変異体の産生
WO 02/34919において、s-GDHの異なる位置でのいくつかのアミノ酸交換が、例えば、マルトースと比較された場合、グルコースに対する基質特異性を増強することが同定および示された。他の位置、例えば、169位、171位、245位、341位および/または349位のアミノ酸置換とアミノ酸交換T348Gの組み合わせによって、基質特異性をさらに増強した。見出されたアミノ酸交換N122Kを導入することで熱安定性を改善するために、これらの記載された変異体のいくつかを選択した。点変異を、以下のプライマーを用いて達成した。
【0128】

【0129】
実施例3に記載されるように、熱安定性について同じスクリーニングを適用し、インキュベーション温度のみを30分間の70℃から65℃に減少した。
【0130】
結果
【表2】

【0131】
全ての変異体型について、さらなるアミノ酸交換N122Kが基質特異性に影響を与えずに選択されたストレスモデルにおいて熱安定性の増強を生成したということが明確に見られ得た。
【0132】
実施例7
高い基質特異性およびさらなる増強された熱安定性を有する変異体の産生
ランダム位置のmPCRおよび飽和突然変異誘発を用いて、例えば、WO 02/34919に記載されるような増強された基質特異性についてスクリーニングする一方で、スクリーニングのパラメーターの範囲を上記記載のように熱安定性について拡張した。
【0133】
アミノ酸交換Y171G+E245D+M341V+T348G+N428Pを有する、マルトース(2%)と比較してグルコースに対する高い基質特異性を有する変異体E/0で開始し、新しいアミノ酸交換S124Kを見出した。
【0134】
次に、この新しい交換を、以下のプライマーを用いて実施例6のN122Kを含むすでに改善された変異体に適用した。


結果
【表3】

【0135】
上記の結果は、N122K位およびS124K位についてのアミノ酸交換が変異体の熱安定性へのさらなる正の効果を持つことを示す。
【0136】
実施例8
野生型またはバリアントs-GDHの精製およびそれぞれの酵素活性の分析
大腸菌細胞を増殖し(LB-Amp.37℃)、回収し、pH7.0リン酸カリウムバッファ中に再懸濁した。細胞破砕をフレンチプレス通過(700〜900bar)によって実施した。遠心分離の後、上清を10 mMリン酸カリウムバッファpH7.0で平衡化したS-セファロース(Amersham Pharmacia Biotec)カラムにかけた。洗浄後、s-GDHを塩勾配0〜1MのNaClを使用して溶出した。s-GDH活性を示す画分をプールし、リン酸カリウムバッファpH7.0に対して透析し、再平衡化されたS-セファロースカラム上でリクロマトした。活性画分をプールし、Superdex(登録商標)200 カラム(Amersham)を用いてゲル濾過に供した。活性画分をプールし、CaCl2(3mM 終濃度)の添加後、-20℃で保存した。
【0137】
精製された野生型およびバリアントs-GDHそれぞれの酵素アッセイおよびタンパク質決定
タンパク質決定をPierceからのタンパク質アッセイ試薬no.23225を使用して実施した(BSAを用いた較正曲線,30分.37℃)。
【0138】
s-GDH試料を0.0556 mMピロロキノリンキノン(PQQ);50 mM Hepes;15 mM CaCl2 pH7.0を用いて1mgタンパク質/mlに希釈し、再構成または活性化のために25℃で30分間インキュベートした。
【0139】
活性化の後、試料を50 mM Hepes; 15 mM CaCl2pH7.0で約0,02 U/mlに希釈し、50μlの各希釈試料をメディエータとしての0.315 mg/mlの(4-(ジメチルホスフィニルメチル)-2-メチル-ピラゾロ-[1.5a]-イミダゾール-3-イル)-(4-ニトロソフェニル)-アミン(米国特許5,484,708を参照)および30 mM 糖)を含む1000μlの0.2 Mクエン酸バッファ溶液(pH5.8;25℃)に添加した。
【0140】
620nmの吸光度を25℃で最初の5分間モニターする。
【0141】
1ユニット酵素活性は、上記のアッセイ条件下で1mMolメディエータ/分の転化に相当する。
【0142】
計算:活性=(全体積×dE/分 [U/ml]):(ε×試料体積×1)
(ε=吸光係数;ε620nm=30[1×mmol-1×cm-1])
【0143】
アッセイをグルコースおよびマルトース(Merck,Germany)それぞれを用いて実施した。
【0144】
結果

【0145】
実施例9
アミノ酸交換N122KおよびS124Kのありなしで精製された変異体の相対的温度安定性
野生型、変異体C/0および変異体C/2の精製されたs-GDH試料(実施例8)を、産生温度ストレス条件および/または輸送温度ストレス条件に似ている代替的な温度ストレスモデルに供した。s-GDHを活性化するために、1 mgの酵素タンパク質/20 mMリン酸カリウムpH7.0; 0.016 mg PQQ/mlの溶液を作製した。室温で30分間インキュベーションの後、グルコースに対する初期活性を決定し(実施例8を参照)、試料を48℃の温浴中でインキュベートした。30分の温度ストレスの後、残存活性を測定し、パーセントで計算した(初期活性と比較して)。
【0146】
結果

【0147】
N122K位およびS124K位についてのアミノ酸交換の影響ならびに得られた温度安定性の改善が、これらの代替的な温度ストレス条件下でも、明確に見られ得る。
【0148】
実施例10
マルトースの存在下または非存在下でグルコースの決定
野生型s-GDHならびにs-GDHのバリアントB/2、C/2およびD/2のそれぞれを、マルトースの存在下または非存在下でグルコース決定に応用し得る。参照試料は50 mgグルコース/dlを含む。「試験」試料は、50 mgグルコース/dlおよび100または200 mg/dlマルトースのそれぞれを含む。同じ量のs-GDH活性(例えば、5 U/ml;実施例8で決定されるような活性)を有する酵素溶液を各アッセイのために使用する。
【0149】
キュベット中で
1 mlの0.315 mg (4-(ジメチルホスフィニルメチル)-2-メチル-ピラゾロ-[1.5a]-イミダゾール-3-イル)-(4-ニトロソフェニル)-アミンml/0.2 M クエン酸 pH 5.8
0.033 mlの参照または試験試料
を混合する。
【0150】
キュベットに0.050 mlのs-GDH酵素溶液(グルコースの転化に対して過剰のs-GDHである)を添加することによって、アッセイを開始する。620nmの吸収の変化をモニターする。2〜5分後、定常値を観察し、dE/5分を計算する。野生型s-GDHを用いて参照試料を測定することで得られる値を100%に設定する。他の値をこの参照値と比較し、%で計算する。
【0151】
本発明に従うs-GDHの新規でより安定なバリアントを用いる場合、明確により少ないマルトースの干渉が試験試料中に検出される。
【0152】



【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】図1は、配列相同性に従って整列されたA.カルコアセチカスPQQ依存性s-GDH(上)およびA.バウマニ s-GDH(下)のタンパク質配列である。
【図2】図2は、可溶性PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼの野生型または変異型DNA配列のそれぞれを含む、実施例1で言及されるpACSGDHベクターの図解である。
【図3.a】図3.aは、可溶性PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼの野生型DNA配列を含む、実施例1で言及されるpACSGDHベクターのヌクレオチド(DNA)配列(配列番号16)である。
【図3.b】図3.bは、可溶性PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼの野生型DNA配列を含む、実施例1で言及されるpACSGDHベクターのヌクレオチド(DNA)配列(配列番号16)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
122位および124位の少なくとも1つにおいて、アミノ酸リジンが存在し、ここでこれらの位置がA.カルコアセチカスのs-GDH野生型配列(配列番号2)由来の公知のアミノ酸位置に対応することを特徴とする、PQQ依存性s-GDHの変異体タンパク質。
【請求項2】
122位のアミノ酸がリジンである、請求項1記載の変異体。
【請求項3】
124位のアミノ酸がリジンである、請求項1記載の変異体。
【請求項4】
アミノ酸リジンが122位および124位の両方に存在する、請求項1記載の変異体。
【請求項5】
16位、22位、65位、76位、116位、120位、127位、143位、168位、169位、171位、177位、224位、227位、230位、231位、245位、246位、255位、277位、287位、294位、295位、299位、302位、305位、307位、308位、317位、321位、323位、341位、348位、349位、354位、355位、364位、378位、422位、425位、428位および438位からなる群より選択される1つ以上の位置に1つまたは複数のアミノ酸置換をさらに含む、請求項1〜4いずれか記載の変異体。
【請求項6】
該1つ以上のさらなるアミノ酸置換が348位の置換である、請求項5記載の変異体。
【請求項7】
該1つ以上のさらなるアミノ酸置換が428位の置換である、請求項5記載の変異体。
【請求項8】
該1つ以上のさらなるアミノ酸置換が348位および428位の両方の置換である、請求項5記載の変異体。
【請求項9】
348位のトレオニンがアラニン、グリシンまたはセリンで置換される、請求項6記載の変異体。
【請求項10】
請求項1〜9いずれか記載のs-GDH変異体タンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチド。
【請求項11】
宿主細胞においてポリヌクレオチドの発現を促進し得るプロモーター配列に作動可能に連結される、請求項10記載の単離されたポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項12】
請求項11記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項13】
酵素バリアントの産生に適切な条件下で請求項12記載の宿主細胞を培養する工程を含む、s-GDHバリアントを産生するプロセス。
【請求項14】
請求項1〜9いずれか記載のs-GDH変異体を用いて、試料中のグルコースを検出、決定または測定する方法であって、改善が変異体と試料を接触させる工程を含む、方法。
【請求項15】
該グルコースの検出、決定または測定がセンサーまたは試験ストリップ装置を用いて実施されることをさらに特徴とする、請求項14記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜9いずれか記載のs-GDH変異体および測定に必要な他の試薬を含む試料中のグルコースを検出または測定するための装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−515400(P2008−515400A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−533967(P2007−533967)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【国際出願番号】PCT/EP2005/011077
【国際公開番号】WO2006/040172
【国際公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】