説明

ファイバヒューズストッパ、光コネクタ、光伝送システム、及びファイバヒューズ停止方法

【課題】挿入損失が十分に低く、高次モード発生や機械的強度の低下の懸念などが小さく、低いコストで性能の歩留まりの良く作製が可能で、高い入力パワー時に発生したファイバヒューズを停止させるファイバヒューズストッパ、光コネクタ、光伝送システム、及びファイバヒューズ停止方法を提供する。
【解決手段】ファイバヒューズストッパ20は、PCF又はHAFを用い、PCFは、コア部21、空孔22、及びクラッド部23からなる。円状の空孔径と空孔間隔を一定に保った周期的な空孔構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数W(ワット)オーダの高パワーの光を光ファイバに入力、伝送したときに生じうるファイバヒューズ現象を停止もしくは抑制し、伝送装置や光ファイバ伝送路を保護するファイバヒューズストッパ、光コネクタ、光伝送システム、及びファイバヒューズ停止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、インターネットの進展などによって光ファイバ通信の伝送容量の拡大の要求は、日々強まっており、既にコア系の光ネットワークに布設された光ファイバに入力される光の全パワーは1Wに近づいてきており、将来的にはさらなる増大が予想される。一方、従来の光ファイバに、数Wオーダの光が入力している状況で、曲げ、切断、加熱などの何らかのきっかけが与えられると、ファイバのコアのガラス部分の加熱による溶融が発生し、これが高温のプラズマ状態となって、光源側に向かって伝搬していく現象(ファイバヒューズ現象)が生じることが知られている。
【0003】
図1は、ファイバヒューズ現象の概念図である。この現象の発生自体は確率的に起こるものであり、特定の条件下においても必ず発生するものではない。しかし、一度発生すると、その伝搬を停止させるには、
1.光源からの入力光のパワーを、ある閾値(ヒューズ伝搬閾値)よりも相対的に小さくする方法、
2.ヒューズが伝搬する前に伝送路自体を切断する方法、
があり、この二つの他に有効な方法は知られていない。発生したファイバヒューズを停止させないと、発生点から光源までの光ファイバ伝送路を破壊するだけに留まらず、光源(伝送装置)までも破壊してしまう。このため、ファイバヒューズ現象を防止、あるいは発生したヒューズを停止させる方法が強く求められるようになってきている。
【0004】
前記1の方法におけるヒューズの伝搬閾値は、従来の光ファイバでは、光ファイバの種類によって多少の幅があるが、SMF(1.3μm帯ゼロ分散ファイバ、ITU−T、G.652)における伝搬閾値は1.5W、DSF(分散シフトファイバ、ITU−T、G.653)では1.2W程度であると報告されている。従来の光ファイバでは、この伝搬閾値は、モードフィールド直径(MFD)と強い相関を持ち、両者はほぼ比例の関係にあることが知られている(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0005】
そこで、伝送路における対策として、従来、各種の光ファイバ型のヒューズストッパが提案されている。ヒューズストッパを用いる際は、入力光のパワーをストッパ部分の伝搬閾値以下に設定しておけば、仮にストッパ以外の部分でヒューズが発生したとしても、ストッパ部でヒューズが停止し、残った伝送路と光源部が保護できる。ヒューズストッパとしては、光伝送路の一部に伝搬閾値が特に高いファイバを小型の光部品(ヒューズストッパ)として挿入するものが提案されている。
【0006】
例えば、非特許文献1では、MFDの大きいマルチモードファイバ(GIF:グレッテッドインデックスファイバ)をSMFに融着接続したもので、2〜3W程度の入力パワー条件で、伝搬してきたファイバヒューズの停止を実現している。また、非特許文献2では、DSFの一部分を加熱し、コア径とMFDを拡大し、TEC(Thermally−diffused Expanded Core)ファイバ化する手法が提案されている。また、非特許文献3では、SMFの125μmφのクラッド部分をエッチングによって外径10〜30μmφ程度まで細くし、ヒューズ伝搬閾値を向上させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】藤田他、「GIファイバによるファイバヒューズの遮断」、2004年電子情報通信学会通信ソサイエテイ大会、B−10−5、2004
【非特許文献2】柳他、「ファイバ・ヒューズ遮断部品の開発」、信学技報、 OPE2004−178、2004
【非特許文献3】E.M.Dianov.et.al.、「Destruction of silica fiber cladding by the fuse effect」、OPTICS LETTERS、29、16、1852−1854、2004
【非特許文献4】K.Nakajima.et.al.、「Single−Mode Hole−Assisted Fiber with Low Bending Loss Characteristics」、Proceedings of the 58th IWCS/IICIT、264−269、2009
【非特許文献5】濱田他、「ホーリーファイバの融着接続方法の検討」、信学技報、OFT2005−11、2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術には、以下に具体的に述べるような課題がある。
【0009】
非特許文献1では、ファイバヒューズストッパに関して、MFDの大きいGIFをSMFに融着接続したものを用い、2〜3W程度の入力パワー条件でファイバヒューズの停止を実現しているが、挿入損失を低減するためにはGIFを数100μmオーダで最適長に調節する必要があり、作製が容易ではないという課題がある。具体的には、最適長から500μm程度ずれると5dB程度余剰の損失が生じることになる。またコア径の大きく異なるSMFとGIFを接続するため、GIFの部分で高次のモードが発生する要因にもなり、高速信号の伝送時の伝送エラーを回避しなければならないという課題もある。
【0010】
また、非特許文献2に記載される、光ファイバの一部分を加熱してTEC(Thermally−diffused Expanded Core)ファイバ化する手法では、ストッパの小型部品化が可能であるが、単一モード条件を保ちながら、MFDを拡大する際の上限値があり(20〜30μm程度)、従ってヒューズ伝搬閾値を向上させるにも限界が生じるという課題がある。例えば、非特許文献2では、入力光パワーが2Wの条件での有効性の確認に留まっている。また、非特許文献2でもTECファイバを用いたヒューズストッパの検討結果が示されているが、入力光パワーが4W程度の条件での有効性の確認に留まっている。また、TEC化はコア部に含まれるドーパントを加熱拡散させて行うため、MFD特性、つまりはヒューズ伝搬閾値を再現性良く作製することは困難であり、コスト面でも不利である。
【0011】
また、非特許文献3に記載される、ファイバのクラッド部分をエッチングによって外径10〜30μmφ程度まで細くする方法では、MFDを初期状態の一定の値に保ちつつ、挿入損失を低くすることも可能であるが、硬質な石英ガラスをエッチングによって十分に細径化加工するには長時間が必要となりコスト面で不利である。また、細径化した部分では、ファイバの樹脂被覆も除去してしまうので、ガラス部分の細径化の影響に加えて、ガラス表面に傷が生じやすくなるため、機械的な強度の低下が課題となる。また、非特許文献3においても、入力光パワーが最大3Wの条件での有効性の確認に留まっている。
【0012】
以上のように、従来の方法では、4W付近、さらには4Wを大きく超えるような大入力パワー時にも有効であるヒューズストッパの実現は極めて困難である。さらには、挿入損失が十分に低く、高次モード発生や機械的強度の低下の懸念などが小さく、且つ低いコストで性能の歩留まりの良く作製が可能という条件をすべて満たすファイバヒューズストッパの実現は極めて困難であった。
【0013】
そこで、前記課題を解決するために、本発明は、挿入損失が十分に低く、高次モード発生や機械的強度の低下の懸念などが小さく、低いコストで性能の歩留まりの良く作製が可能で、高い入力パワー時に発生したファイバヒューズを停止させるファイバヒューズストッパ、光コネクタ、光伝送システム、及びファイバヒューズ停止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明に係るファイバヒューズストッパは、PCF又はHAFを用い、その断面中心から空孔までの最短距離を最適な範囲に設定することとした。
【0015】
具体的には、本発明に係るファイバヒューズストッパは、光伝送経路の一部が、断面中心から空孔までの最短距離Rが3.5μm以上11μm以下のフォトニック結晶ファイバ(PCF:Photonic Crystal Fiber)又は空孔アシスト光ファイバ(HAF:Hole Assisted Fiber)である。
【0016】
本ファイバヒューズストッパは、PCFやHAFを用いており、非特許文献3のようにファイバのクラッド部分をエッチングで薄くする必要が無い。このため、本発明は、機械的強度の低下の懸念などが小さく、低いコストで性能の歩留まりの良く作製が可能なファイバヒューズストッパを提供することができる。また、本ファイバヒューズストッパを、伝搬する光の波長域において実効的な単一モードとなるように、且つモードフィールド径が接続する単一モード光ファイバのモードフィールド径となるように作成することで、挿入損失を十分に低くでき、高次モード発生も低減できる。
【0017】
本発明に係るファイバヒューズストッパは、前記PCF又は前記HAFの少なくとも一端に単一モード光ファイバが接続されていることを特徴とする。
【0018】
本発明に係るファイバヒューズストッパは、伝搬する光の波長領域において、前記PCF又は前記HAFのモードフィールド径と前記単一モード光ファイバのモードフィールド径とが略等しいことを特徴とする。
【0019】
本発明に係るファイバヒューズストッパは、前記PCF又は前記HAFの長さが0.5mm以上5mm以下であることを特徴とする。PCFやHAFにおいてファイバヒューズが侵入する距離は200μm程度である。このため、PCFやHAFの長さが前記範囲にあれば、10Wから20Wの入力でのファイバヒューズを十分に停止できる。
【0020】
本発明に係る光コネクタは、前記ファイバヒューズストッパを備える。PCFやHAFの長さが前記範囲にあれば、ファイバヒューズストッパを光コネクタ内に収めることができる。
【0021】
本発明に係る光伝送システムは、2つの光伝送装置間を接続する光ファイバ伝送路を備え、前記光ファイバ伝送路は、少なくとも1つの前記ファイバヒューズストッパと伝送路用光ファイバとが接続されていることを特徴とする。10Wを超える高い入力が可能な光伝送システムとすることができる。
【0022】
本発明に係る光伝送システムは、伝搬する光の波長領域において、前記伝送路用光ファイバが単一モードで光を伝搬し、前記ファイバヒューズストッパの前記PCF又は前記HAFのモードフィールド径と前記伝送路用光ファイバのモードフィールド径とが概略等しいことを特徴とする。ファイバヒューズストッパの挿入損失を十分に低くでき、高次モード発生も低減できる光伝送システムとすることができる。
【0023】
本発明に係るファイバヒューズ停止方法は、光ファイバ内のファイバヒューズ現象で生じたヒューズの伝搬を、前記光ファイバに接続したPCF又はHAFで停止する。PCFやHAFを用いており、非特許文献3のようにファイバのクラッド部分をエッチングで薄くする必要が無い。このため、本発明は、機械的強度の低下の懸念などが小さく、低いコストで性能の歩留まりの良く作製が可能なファイバヒューズ停止方法を提供することができる。
【0024】
本発明に係るファイバヒューズ停止方法は、前記光ファイバで単一モードとなる光の波長領域において、実効的な単一モード条件となる前記PCF又はHAFを使用することを特徴とする。ファイバヒューズストッパの挿入損失を十分に低くでき、高次モード発生も低減できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、挿入損失が十分に低く、高次モード発生や機械的強度の低下の懸念などが小さく、低いコストで性能の歩留まりの良く作製が可能で、高い入力パワー時に発生したファイバヒューズを停止させるファイバヒューズストッパ、光コネクタ、光伝送システム、及びファイバヒューズ停止方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ファイバヒューズ現象の概念図を示す図である。
【図2】本発明で用いるPCFの断面図の一例を示す図である。
【図3】本発明で用いるHAFの断面図の一例を示す図である。
【図4】本発明で用いるHAFのファイバヒューズの伝搬閾値の測定評価系の一例を示す図である。
【図5】本発明で用いるファイバヒューズストッパの光伝送路内での使用の一例を示す図である。
【図6】本発明で用いるファイバヒューズストッパの全体構造の例を示す図である。
【図7】本発明で用いるファイバヒューズストッパの通信局内での適用の一例を示す図である。
【図8】本発明で用いるファイバヒューズストッパを光コード化した際の断面構造の一例を示す図である。
【図9】本発明で用いるファイバヒューズストッパの曲げ損失特性の一例を示す図である。
【図10】本発明で用いるファイバヒューズストッパを光ファイバコネクタに適用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0028】
(実施形態1)
本実施形態は、本発明に係るファイバヒューズストッパに用いられるPCF又はHAFの断面内の構造の例と光伝送路内での使用例に関するものである。
【0029】
図2は、本実施形態のファイバヒューズストッパ20に用いるPCFの断面の一例である。PCFは、コア部21、空孔22、及びクラッド部23から成る。クラッド部23は、複数の空孔22で形成される。PCFは、典型的には、円状の空孔径dと空孔間隔Λをほぼ一定に保った周期的な空孔構造を用いれば良い。また、PCFはこの構造に限定されるものではない。PCFの材料は、例えば、純石英ガラスを用いることができる。また、光ファイバの材料は純石英ガラスに限定されるものではなく、局所的もしくは全体に各種のドーパントを添加しても良い。また断面中心から空孔22までの最短距離Rは、断面中心からそれぞれの空孔22への内接円を描いたとき、これらの内接円の半径の最小値と定義される。
【0030】
図3は、本実施形態のファイバヒューズストッパ20に用いるHAFの断面図の一例である。HAFは、コア部31、クラッド部32、及び空孔33から成る。コア部31とクラッド部32の比屈折率差Δは典型的には0.3〜0.4%程度の値とし、コア半径aは典型的には3.5〜5μm程度の値とすれば良い。なお、比屈折率差Δ及びコア半径aはこれらに限定されるものではない。HAFの材料は、例えば、相対的に屈折率の高いコア部31にはゲルマニウムなどのドーパントを微量添加した石英ガラス、相対的に屈折率の低いクラッド部32には純石英ガラスを用いることができる。空孔33の直径dは典型的には2〜10μm程度の値とすれば良く、空孔33の個数は典型的には1〜20程度の値とすれば良い。なお、空孔33の直径d及び個数はこれらに限定されるものではない。断面中心から空孔33までの最短距離Rは、断面中心からそれぞれの空孔33への内接円を描いたとき、これらの内接円の半径の最小値と定義される。空孔直径dが大きいほどファイバヒューズ伝搬を停止させる働きが強くなるので、Rが大きい場合にはdも大きくすることが好ましい。また空孔33の断面内の位置はクラッド部32の領域に限定されず、空孔33の全体または一部がコア部31の領域に含まれても良い。
【0031】
図4は、PCF又はHAFの伝搬閾値を測定評価する系の一例を示す。PCF又はHAF41と商用の単一モード光ファイバ42を融着接続し(接続点43)、単一モード光ファイバ42の終端でファイバヒューズを発生させ、接続点43を通過して、ファイバヒューズがPCF又はHAF41を伝搬するか否かを確認評価した。評価において、光源44の波長は光通信の代表的な使用波長である1500nm付近とし、出力パワーは、使用した光源性能の限界の約13.5Wに設定した。
【0032】
すなわち、接続点43を越えてPCF又はHAF41で停止した場合は当該のPCF又はHAF41のファイバヒューズ伝搬閾値Pthは13.5W以上と判断できる。またこの場合、接続点43からPCF又はHAF41ヒューズが停止した位置までの距離を侵入長として測定評価した。ファイバヒューズが停止しない場合は、ファイバヒューズ伝搬中に光源44の出力パワーを徐々に低下させ、ファイバヒューズの伝搬がPCF又はHAF41で停止した際にその地点に到着した光パワーを当該のPCF又はHAF41のファイバヒューズ伝搬閾値Pthとして決定した。
【0033】
図4の測定評価系を用いて具体的なファイバヒューズストッパのファイバヒューズ伝搬閾値Pthを測定した。測定に用いたファイバヒューズストッパは、断面内構造におけるRの値が5.0μmで、空孔数は60(図2参照)の純石英製のPCFである。この測定評価では単一モード光ファイバ42をDSFとした。測定結果は、ファイバヒューズ伝搬閾値Pthが13.5W以上であった。
【0034】
また、HAFのファイバヒューズストッパについても測定評価を行った。測定に用いたファイバヒューズストッパは、断面内構造におけるRの値が4.8μmで、空孔数は6(図3参照)のHAFである。この測定評価では単一モード光ファイバ42をDSFとした。測定結果は、ファイバヒューズ伝搬閾値Pthが13.5W以上であった。
【0035】
測定に用いたファイバヒューズストッパが、断面内構造におけるRの値が8.5μmで、空孔数は6(図3参照)のHAFの場合も測定した。この測定評価では、単一モード光ファイバ42をSMFとした。測定結果は、ファイバヒューズ伝搬閾値Pthが13.5W以上であった。
【0036】
測定に用いたファイバヒューズストッパが、断面内構造におけるRの値が10.1μmで、空孔数は6(図3参照)のHAFの場合も測定した。この測定評価では、単一モード光ファイバ42をSMFとした。測定結果は、ファイバヒューズ伝搬閾値Pthが13.5W以上であった。
【0037】
上記の評価において、接続点43からファイバヒューズストッパ41へファイバヒューズが侵入した長さは、最大でも200μm程度である。これは、数mmの長さがあれば10数Wを入力した状態でのファイバヒューズを十分に抑圧できることを意味する。それゆえ、ファイバヒューズストッパを非常に短くできるため、図10のように現在光ファイバの接続に利用されている光コネクタ110のフェルール部に埋め込んだファイバヒューズストッパが作製可能である。
【0038】
図5は、ファイバヒューズストッパを備える光ファイバ伝送路の一例である。光ファイバ伝送路は2つの光伝送装置間を接続する。図5では、光伝送装置として光源53と受光器54を示している。ファイバヒューズストッパ20は、PCF又はHAFである。伝送用光ファイバ52は、ファイバヒューズストッパ20よりもヒューズ伝搬閾値が低い。伝送用光ファイバ52の間にファイバヒューズストッパ20を挿入して、光源53の出力光パワーをファイバヒューズストッパ20のヒューズ伝搬閾値以下にあらかじめ設定しておく。このように設定すれば、仮にファイバヒューズが伝送用光ファイバ52中の受光器54近傍の地点で発生した場合、発生したファイバヒューズをファイバヒューズストッパ20で停止させることができる。ファイバヒューズストッパ20は光源53に近い位置に設置することが望ましい。光源53を確実に保護することができる。また、必要に応じて、複数個のファイバヒューズストッパ20を複数個所に用いても良いし、光伝送路全てをファイバヒューズストッパ20で構成してもよい。
【0039】
つまり、4W付近、もしくはそれを大きく超えるような大パワーの光を従来の商用光ファイバなどによる光伝送路に入力する場合、本実施形態のファイバヒューズストッパ20を伝送路途中の適切な位置に挿入することで、仮にファイバヒューズが発生してもファイバヒューズストッパ20がこれを停止でき、伝送路及び伝送装置を保護することができる。また、本実施形態のファイバヒューズストッパ自体を光ファイバ伝送路として使用すること、すなわち光ファイバ伝送路全てをPCF又はHAFで形成することで、ファイバヒューズの発生自体を防ぐことができる。
【0040】
(実施形態2)
本実施形態は、本発明のファイバヒューズストッパの全体構造と光学的性能に関するものである。
【0041】
図6は、本実施形態のファイバヒューズストッパ20の全体構造である。図6(a)は、PCF又はHAF41の終端に光ファイバコネクタ62が付与されている構造の一例である。光ファイバコネクタ62は、各種の通信用光コネクタを用いれば良く、例えば通信局内の収容架に汎用に使われるMUコネクタなどを用いれば良い。図6(b)のように、光ファイバコネクタ62は、PCF又はHAF41の両端に付与してもよい。
【0042】
ファイバヒューズストッパを通信局内の架間などに用いる場合は、図6(b)の構造が好適となる。一方、コネクタの着脱による端面の汚れの可能性などを避けたい場合は、図6(a)の構造、もしくは、両端にコネクタを付与していない構造(不図示)が好適となる。この場合は、コネクタのない端面と光ファイバ伝送路とは融着で接続すれば良い。
【0043】
PCF又はHAF41の両側の端面は空孔が開いているため、使用環境によっては、樹脂などを充填して空孔をふさぐか、加熱処理によって溶融封止しても良い。
【0044】
図6(c)及び図6(d)は、PCF又はHAF41の片端側または両端側に使用される光の波長域において実効的な単一モード条件を満たす単一モード光ファイバ63が融着接続されているファイバヒューズストッパの構造の一例である。図には記載していないが、図6(a)や図6(b)のように、さらに片側または両側にコネクタ付けをしても良い。
【0045】
光ファイバ伝送路内に使用するという観点から、ファイバヒューズストッパは、挿入(接続)損失が小さく、使用光源波長において単一モードであることが望ましい。ファイバヒューズストッパ内の接続損失を低減するためには、単一モード光ファイバ63のモードフィールド径とPCF又はHAF41のモードフィールド径を概略一致させることが有効となる。また、光ファイバ伝送路にファイバヒューズストッパを挿入する場合、光ファイバ伝送路として用いられる商用の単一モードファイバ(SMFやDSFなど)のモードフィールド径とPCF又はHAF41のモードフィールド径を概略一致させることが有効となる。
【0046】
HAFのモードフィールド径をSMFと同等に保ちつつ、通信波長域で単一モード条件を満たすHAF構造の設計方法が、非特許文献4に詳細に示されている。
【0047】
PCFのモードフィールド径に関しては次の通りである。図2の周期的な空孔構造を持ち、d/Λの値が0.42以下の構造の純石英製PCFは、すべての波長で単一モード条件を満たしている。そして、このPCFのモードフィールド径の値は、例えばこのd/Λの値が0.42以下の構造条件下でdとΛの値を調整することで、容易に調整することができる。PCFは、SMFやDSFなどの従来ファイバと比較するとモードフィールド径の波長依存性が小さいため、PCFのモードフィールド径を従来ファイバで使用する波長域の最短波長、最長波長、または使用波長域の平均波長のモードフィールド径に一致させることで使用波長域での接続損失を低減させることができる。
【0048】
SMFとの接続損失に関しては、融着条件を適切に設定することで、HAF−SMFの融着接続で0.1dB以下、PCF−SMFの接続で0.2dB程度の値が実現できることが非特許文献5に示されている。従って、図6(c)及び図(d)の構造のファイバヒューズストッパは、低い挿入損失(0.5dB程度もしくはそれ以下)で単一モード条件を実現することができる。
【0049】
(実施形態3)
本実施形態は、本発明のファイバヒューズストッパの通信局内での適用に関するものである。
【0050】
図7は、本実施形態のファイバヒューズストッパを通信局内で適用する一例を説明する図である。図7の光通信システムは、光源を含む伝送装置71、光ファイバコード(72、73、74)、光ファイバケーブル75、通信局内の光ファイバ心線の局内側収容架76、通信局内の光ファイバ心線の伝送路側収容架77である。ユーザ宅にも伝送装置がある(不図示)。光ファイバコード(72、73、74)及び光ファイバケーブル75で光ファイバ伝送を構成する。
【0051】
伝送装置71を確実に防護するという観点からは、ファイバヒューズストッパは伝送装置71に近い、ユーザビルや宅内、通信局内に用いることが望ましい。図7の構成において、ファイバヒューズストッパは、光ファイバコード(72、73、74)のうちの一部もしくはすべてに用いることができる。
【0052】
特に、収容架76と収容架77とをつなぐ光ファイバコード73は、多数の収容心線が輻輳し、移転や切り替えに伴う心線の保守作業が生じ、曲げや衝撃などが加わる可能性がある。HAFは曲げ損失や衝撃による損失が小さい。このため、光ファイバコード73には、光コード加工して十分な機械的強度を保持した状態のHAFを用いることが好適である。
【0053】
図8は、断面内構造におけるRの値が8.2μmで空孔数は6、ファイバヒューズ伝搬閾値Pthが13.5W以上のHAFを光コード化した際の断面構造である。81はHAF、82は紫外線硬化樹脂被覆、83は抗張力繊維、84は光コード外被である。HAF81は、コードとして用いる数m程度の長さ条件で通信波長帯における単一モード条件を満たし、かつ、モードフィールド径がSMFと同等である。このため、HAF81は、高速信号の伝送時も伝送エラー発生を抑えることができる。また、HAF81は、両端にMUコネクタを付けた場合、SMF伝送路への挿入損失が0.5dB程度と十分に小さい。
【0054】
図9は、図8の構造のファイバヒューズストッパの曲げ損失特性の一例である。比較のために、SMF(ファイバヒューズ伝搬閾値1.5W程度)による同様な構造の光コードの特性も図中に示した。HAFによるファイバヒューズストッパの曲げ損失は波長1650nm、曲げ半径5mmの条件下で0.1dB/turn以下であり、この値はSMFと比べて十分に小さい。従って、図8の構造のHAFを用いたファイバヒューズストッパは、10Wを超える大入力パワーでの高速信号伝送が可能であり、挿入損失を十分小さくでき、且つ曲げ損失の懸念のない保守作業を可能とできる。
【0055】
(実施形態4)
本実施例は、本発明のファイバヒューズストッパのSC、FC、MUなどの光コネクタへの適用に関するものである。
【0056】
実施形態1から3で説明したファイバヒューズストッパのPCF又はHAFはファイバヒューズの侵入長が長くても数百μmである。このため、数mm程度の長さのHAF又はPCFを光コネクタの内部に設置すれば、光コネクタでファイバヒューズを停止させることができる。
【0057】
図10は、本実施形態のファイバヒューズストッパを内蔵する光コネクタ110を説明する図である。既存の光ファイバ101は従来のSMF又はDSFである。光コネクタ110は、PCF又はHAF41を光ファイバ101の間に設置する。光コネクタ110は光ファイバ101の間にHAF又はPCF41を設置するが、この構造に限定されない。HAF又はPCF41がフェルール先端または後段に配置されていても良く、フェルール部全体がPCF又はHAF41であってもよい。
【0058】
さらに、実施形態2で説明したようにPCF又はHAF41の両側の端面は空孔が開いているため、使用環境によっては樹脂などを充填して空孔をふさぐか、加熱処理によって溶融封止しても良い。また、SC、FCなどのコネクタ形状には依存せず、フェルール先端はAPC(Angled Physical Contact)を含めて従来の研磨方法を適用することが可能である。
【0059】
実施形態1から4では、現在光通信で主に使用されている波長1500nm近傍でのファイバヒューズを停止することで説明した。さらに短波長帯、例えば、1000nm帯や可視域などの波長域用のファイバヒューズストッパは、短波長化に伴いMFDが減少するためRの値を1500nm帯の場合よりも小さく設定するとよい。
【符号の説明】
【0060】
10:光ファイバ
20:ファイバヒューズストッパ
21:コア部
22:空孔
23:クラッド部
31:コア部
32:クラッド部
33:空孔
41:PCF又はHAF(ファイバヒューズストッパ)
42:単一モード光ファイバ
43:接続点
44:光源
51:ヒューズストッパ
52:伝送用光ファイバ
53:光源
54:受光器
62:光ファイバコネクタ
63:単一モード光ファイバ
71:伝送装置
72、73、74:光ファイバコード
75:光ファイバ伝送路又は光ファイバケーブル
76、77:収容架
81:HAF
82:紫外線硬化樹脂被覆
83:抗張力繊維
84:光コード外被
101:光ファイバ
110:光コネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光伝送経路の一部が、断面中心から空孔までの最短距離Rが3.5μm以上11μm以下のフォトニック結晶ファイバ(PCF:Photonic Crystal Fiber)又は空孔アシスト光ファイバ(HAF:Hole Assisted Fiber)であるファイバヒューズストッパ。
【請求項2】
前記PCF又は前記HAFの少なくとも一端に単一モード光ファイバが接続されていることを特徴とする請求項1に記載のファイバヒューズストッパ。
【請求項3】
伝搬する光の波長領域において、前記PCF又は前記HAFのモードフィールド径と前記単一モード光ファイバのモードフィールド径とが略等しいことを特徴とする請求項2に記載のファイバヒューズストッパ。
【請求項4】
前記PCF又は前記HAFの長さが0.5mm以上5mm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のファイバヒューズストッパ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のファイバヒューズストッパを備える光コネクタ。
【請求項6】
2つの光伝送装置間を接続する光ファイバ伝送路を備え、
前記光ファイバ伝送路は、
請求項1から4のいずれかに記載の少なくとも1つのファイバヒューズストッパと伝送路用光ファイバとが接続されていることを特徴とする光伝送システム。
【請求項7】
伝搬する光の波長領域において、前記伝送路用光ファイバが単一モードで光を伝搬し、
前記ファイバヒューズストッパの前記PCF又は前記HAFのモードフィールド径と前記伝送路用光ファイバのモードフィールド径とが略等しいことを特徴とする請求項6に記載の光伝送システム。
【請求項8】
光ファイバ内のファイバヒューズ現象で生じたヒューズの伝搬を、前記光ファイバに接続したPCF又はHAFで停止するファイバヒューズ停止方法。
【請求項9】
前記光ファイバで単一モードとなる光の波長領域において、
実効的な単一モード条件となる前記PCF又は前記HAFを使用することを特徴とする請求項8に記載のファイバヒューズ停止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−163802(P2012−163802A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24677(P2011−24677)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】