説明

フィスペミフェン製剤

本発明は、化学式(I)で表される治療効果のある化合物:
【化1】


または、幾何異性体、立体異性体、異性体の混合物、医薬的に認容される塩、それらのエステル、またはそれらの代謝産物を含み、医薬的に許容される担体と組み合わせた、液体または半固体状の経口製剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性成分として、フィスペミフェン(fispemifene)またはそれに密接に関連する化合物を含む液体または半固体状の経口製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景を説明するために本明細書に用いられる刊行物及び他の材料、及び、特に、実施に関するさらなる詳細を提供するための事例に関しては、参照することにより本願に援用する。
【0003】
女性の更年期症状の治療へのエストロゲンの利用がますます高まっている。エストロゲンは、アルツハイマー病の予防(Henderson, 1997)及びLDL−コレステロール値の低下にも有益であることが示され、したがって、心循環器疾患を予防する(Grodstein及びStampfer, 1998)。しかしながら、エストロゲンの使用により、子宮癌及び乳癌の発癌の危険性が増加する(Lobo, 1995)。エストロゲンの利点を有するが、発癌の危険性がない、新しい治療法が必要とされている。
【0004】
選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERMs)は、これらの要望の実現を目的として開発されている(Macgregor及びJordan, 1998)。選択的エストロゲン受容体モジュレーターは、エストロゲン様特性および抗エストロゲン特性の両方を有している(Kauffman及びBryant, 1995)。その効能は、骨内でエストロゲン様効果を示し、子宮及び肝臓で部分的にエストロゲン様作用を示し、かつ、乳癌には純然たる抗エストロゲン効果を有するタモキシフェン及びトレミフェンの場合のように、組織特異的であろう。ラロキシフェン及びドロロキシフェンは、抗エストロゲン特性の優位性以外は、タモキシフェン及びトレミフェンに似ている。公開された情報によれば、多くのSERMsが年配の女性に重要な効果を有している。すなわち、総コレステロール及びLDLコレステロールを低減し、それによって循環器疾患の危険性を低下させ、また、骨粗鬆症を予防し、閉経後の女性の乳癌の増殖を阻害する。
【0005】
特許文献1及び2には、組織特異的エストロゲンであって、更年期障害、骨粗鬆症、アルツハイマー病及び/または循環器疾患を治療する女性に、発癌の危険性なしに使用できるSERMsの新規な群が記載されている。特定の化合物は、エストロゲンの有害な事象(女性化乳房、性欲減退など)を起こさずに、骨粗鬆症、循環器疾患およびアルツハイマー病を防ぐ目的で、男性に与えることができる。その特許に記載されている化合物のうち、化合物(Z)-2-{2-[4-(4-クロロ-1,2-ジフェニルブテ-1-ニル)フェノキシ]エトキシ}エタノール(一般名、フィスペミフェンとしても知られている)が、特に、男性の障害の治療、とりわけ、男性の骨粗鬆症の予防に対する有用性を示唆する、非常に興味深いホルモン特性を示している。公開された特許出願である特許文献3には、男性の排尿筋尿道括約筋協調不全、無菌性前立腺炎、ストレス性前立腺炎、三角炎、精巣痛などの下部尿路症状、及び男性または女性の間質性膀胱炎の治療及び予防へのフィスペミフェンの使用が示唆されている。
【0006】
フィスペミフェンは、化学式(I)の化合物のZ異性体である。
【化1】

【0007】
フィスペミフェンは、水に難溶性である。
【特許文献1】米国特許第6,576,645号明細書
【特許文献2】米国特許第6,875,775号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2004/0248989号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】

本発明の目的は、活性成分として化学式(I)の化合物または異性体、特に、フィスペミフェン、もしくは、異性体の混合物、それらの塩、エステル、または代謝産物を含む、改良された製剤であって、活性成分の溶解及び吸収が実質的に向上する製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】

従って、本発明は、化学式(I)で表される治療効果のある化合物:


【化2】

【0010】


または、幾何異性体、立体異性体、異性体の混合物、医薬的に認容される塩、それらのエステル、またはそれらの代謝産物を含み、医薬的に許容される担体と組み合わせた、液体または半固体状の経口製剤に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
「液体製剤」という用語は、本明細書では、特に、溶液、液体に固体粒子を分散させた懸濁液、またはそれらの組合せ、もしくは液体に液滴を分散させたエマルジョン、またはシロップ剤のことをいう。「液体」は、親水性または親油性であってよく、親油性であることが好ましい。
【0012】
「半固体状の製剤」という用語は、特に、ゲル及びペーストのことをいう。
【0013】
好ましい実施形態に従った液体製剤は、適切な担体などに化合物Iまたはその異性体、塩、エステル、もしくは代謝産物を溶解させた溶液であり、この担体は、単一担体または数種の担体の混合物であってよい。化学式Iの化合物は、水に難溶性である。したがって、担体は、1種類以上の親油性の成分を含むことが好ましいであろう。バイオアベイラビリティを向上させるため、鉱物油などの消化の悪い脂質の代わりに、トリグリセリド、ジグリセリド、脂肪酸、リン脂質などの消化しやすい脂質の使用が好ましい(Porter及びCharman, 2001)。有用な担体または成分の特殊な群として、コラン誘導体がある。米国特許第4,117,121号明細書には、コレステロール濃度を低減し、胆汁の流れを向上させるのに有用なコラン誘導体群について開示されている。担体として特に好ましい群は、液体脂(油)、特に、コーン油、ココナツ油などの植物油である。しかしながら、バイオアベイラビリティを向上させる成分及び担体は、上記に限定されない。
【0014】
別の好ましい実施の形態に従った液体製剤は、液体に化合物Iの固体微粒子を分散させた懸濁液である。液体は、親油性または親水性の液体、または数種の液体の混合液であってよい。この液体に、成分を溶解させて含めることもできる。分散させた薬剤化合物の粒径を小さくすることによって、消化及び薬剤の放出に利用できる表面積が増大する。薬剤成分の少なくとも90%が150μm未満の粒径を有し、薬剤成分の50%が25μm未満の粒径を有することが好ましい。薬剤成分の90%が50μm未満の粒径を有し、薬剤成分の50%が15μm未満の粒径を有することが特に好ましい。
【0015】
第3の好ましい実施形態に従った液体製剤は、エマルジョンである。化合物Iの水への溶解度は非常に小さいため、エマルジョンは、親水相に親油相(例えば、親油性の液体中に化合物Iを入れた溶液及び/または懸濁液)を分散させることが好ましい(水中油型エマルジョン)。エマルジョンには、安定剤(界面活性剤)、乳化剤および増粘剤などのさらなる成分を含めてもよい。特に好ましい実施形態に従ったエマルジョンは、マイクロエマルジョンまたはナノエマルジョンである。マイクロ及びナノエマルジョンは、従来のエマルジョンとは対照的に、等方性で、透明であり、熱力学的に安定である。分散された液滴の平均的な大きさは、典型的には、約10000nm以下のマイクロエマルジョン、または100nm以下のナノエマルジョンである。
【0016】
第4の好ましい実施の形態に従った液体製剤は、シロップ剤である。
【0017】
半固体状の経口製剤の典型例は、ゲルおよびペーストである。ゲルは、ゼラチンなどの膠化剤または多糖類を、化合物Iを含んだ溶液、懸濁液、またはエマルジョンに加えることによって調製する。1つの好ましい実施の形態に従ったゲルは、欧州特許第760651号明細書に従ったマイクロエマルジョンに膠化剤を加えることにより調製する。
【0018】
溶液、エマルジョン及び懸濁液などの液体製剤は、多くの用量を大きい瓶に詰めることができるが、カプセルなどの単一投与形態に小分けされた製剤であることが好ましい。こういったカプセル製剤は、ソフトゲルカプセルと呼ばれる。ソフトゼラチンカプセル(またはソフトゲルカプセル)は、ゼラチンシェルなどのワンピースの外殻(one-piece outer shell)の内部の液体または半固体状の基剤で構成される。薬剤化合物自体は、カプセルに充填される基剤中、溶液、懸濁液またはエマルジョンのいずれかの中に含まれて差し支えない。充填基剤の特性は、親水性(例えばポリエチレングリコール)または親油性(トリグリセリド植物油など)であってよい。
【0019】
充填基剤を用いた製剤は、近年、飛躍的に進歩している。例としては、カプセル内にあらかじめ濃縮物(preconcentrates)として被包された、マイクロエマルジョンまたはナノエマルジョンの薬剤が挙げられる。これは、充填基剤が濃縮されたマイクロまたはナノエマルジョンであるということ、すなわち、疎水性の薬剤を含んだ親油性の液体、少量の親水性の液体、および界面活性剤の組合せであることを意味している。経口投与後、マイクロエマルジョンは胃腸液で希釈されるであろう。あるいは、基剤は、成分のみ、すなわち、薬剤、脂質または脂質混合物、および1種類以上の界面活性剤のみを含んでいて差し支えない。成分は、投与により、胃腸液内で自然にマイクロエマルジョン(またはナノエマルジョン)を生成する。
【0020】
ソフトゲルカプセルは、例えば、ゼラチン、水、および可塑剤で構成される。それは、透明でも不透明でもよく、必要に応じて着色および着香(flavoured)することができる。完成品の水分活性が低いことから、防腐剤は不要である。ソフトゲルを、腸溶性の抵抗材料、または、遅延放出性の抵抗材料でコーティングすることもできる。事実上、いずれの形のソフトゲルも調製しうるが、経口投与には、通常、楕円形または長楕円形が選択される。
【0021】
「代謝産物」という用語は、いずれのフィスペミフェン代謝産物も包含するように理解されるべきである。1つの重要な代謝産物は、オスペミフェン(ospemifene)または(デアミノヒドロキシ)トレミフェン(toremifene)であり、これは、次の構造式を有する。
【化3】

【0022】
他の重要なフィスペミフェン代謝産物は、以下の構造式を有するオスペミフェン代謝産物である4−ヒドロキシオスペミフェン:
【化4】

【0023】
およびそれに類似する3−ヒドロキシオスペミフェンである。代謝産物のさらなる例は、Kangas(1990)が9ページに記載するトレミフェン代謝産物:4−ヒドロキシ(デアミノヒドロキシ)トレミフェン(TORE VI)、4,4’−ジヒドロキシ(デアミノヒドロキシ)トレミフェン(TORE VII)、デアミノカルボキシトレミフェン(TORE XVIII);4−ヒドロキシ(デアミノカルボキシ)トレミフェン(TORE VIII)、およびトレミフェンモノフェノール(TORE XIII)であり;特に、TORE VIおよびTORE XVIIIが挙げられる。
【0024】
化合物(I)は、Z異性体、すなわち、フィスペミフェンが好ましい。
【0025】
本発明に従った改良製剤は、フィスペミフェンのいずれの用途にも有用であり、特に、骨粗鬆症、循環器疾患、アルツハイマー病、下部尿路症状の治療または予防、男性の前立腺癌の治療および予防に有用である。
【0026】
本発明に従った薬剤中の化合物(I)の所要の投薬量は、治療または予防される特定の病状、疾患の重症度、および用いられる個別の担体によって変化しうる。フィスペミフェンの最適な臨床用量は、一日あたり5mgより多く300mg未満であると予想される。特に好ましい日用量は、20〜200mgの範囲であることが示唆されている。本発明の方法に従ってアベイラビリティが向上することから、同一の治療効果が、先の評価よりも少ない用量で達成可能であると予測することができる。
【0027】
本発明は、以下の限定されない実施例において、さらに詳細に説明されよう。
【実施例】
【0028】
2種類の賦形剤を用いたフィスペミフェンの投与後のサルにおけるフィスペミフェンの血清濃度
2頭のメスのカニクイザル(#05084及び#06170)におけるフィスペミフェンの曝露についての試験的研究を行った。フィスペミフェンを、2種類の賦形剤、すなわち、水またはコーン油に0.5%カルボキシメチルセルロース(CMC)を含ませたものに500mg/kgの単回経口服用によって投与した。血液試料を、投与後、0,1,2,4,6,8,12,16および24時間の時点でそれぞれ採取した。LC−MS/MSを用いてフィスペミフェンの濃度を測定した。
【0029】
結果
フィスペミフェンは、薬剤投与後に採取した血清試料のすべてにおいて定量化可能であった。2頭のメスのサルについての時間に対するそれぞれの血清フィスペミフェン濃度を図1及び2に示す。血清フィスペミフェン濃度は、水溶液に比べて、コーン油を賦形剤とした0.5CMCでは、10倍を超える高さであった。この実験は、油などの親油性の液体が、フィスペミフェンの溶解及び/または懸濁に優れた担体であることを示している。
【0030】
当然ながら、本発明の方法は、様々な実施の形態に取り込むことが可能であって、本明細書に記載されているのはほんの一例にすぎないことが理解されよう。他の形態が、本発明の精神から離れることなく存在することは、当業者にとって明白であろう。したがって、説明された実施の形態は実例であって、制限されるものとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】メスのカニクイザル(#05084)における2種類の賦形剤を用いた500mg/kgのフィスペミフェンの単回投与後の時間に対するフィスペミフェンの血清濃度。
【図2】メスのカニクイザル(#06170)における2種類の賦形剤を用いた500mg/kgのフィスペミフェンの単回投与後の時間に対するフィスペミフェンの血清濃度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(I)で表される治療効果のある化合物:
【化1】

または、幾何異性体、立体異性体、異性体の混合物、医薬的に認容される塩、それらのエステル、またはそれらの代謝産物を含み、医薬的に許容される担体と組み合わせた、液体または半固体状の経口製剤。
【請求項2】
化合物(I)がフィスペミフェンであることを特徴とする請求項1記載の製剤。
【請求項3】
前記製剤が、溶液、懸濁液及び溶液と懸濁液の組合せからなる群より選択されることを特徴とする請求項1記載の製剤。
【請求項4】
前記治療効果のある化合物が、油中に溶解及び/または懸濁されることを特徴とする請求項1記載の製剤。
【請求項5】
前記製剤がエマルジョンであることを特徴とする請求項1記載の製剤。
【請求項6】
前記エマルジョンがマイクロエマルジョンまたはナノエマルジョンであることを特徴とする請求項5記載の製剤。
【請求項7】
前記製剤がシロップ剤であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記製剤がゲルであることを特徴とする請求項1記載の製剤。
【請求項9】
前記製剤がペーストであることを特徴とする請求項1記載の製剤。
【請求項10】
前記製剤が単回投与形態に小分けされることを特徴とする請求項1記載の製剤。
【請求項11】
前記投与形態が、ソフトカプセルで被包された製剤であることを特徴とする請求項10記載の製剤。
【請求項12】
前記担体が胆汁流量の促進剤を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−514944(P2009−514944A)
【公表日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−539541(P2008−539541)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際出願番号】PCT/IB2006/004240
【国際公開番号】WO2007/099410
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(506277524)ホルモス メディカル リミテッド (9)
【氏名又は名称原語表記】HORMOS MEDICAL LTD.
【Fターム(参考)】