説明

フィトステロール組成物

【課題】本発明は、フィトステロール及びフィトスタノール、特に特定の脂肪酸組成を有するフィトステロール及びフィトスタノールの脂肪酸エステルを提供する。本発明は、更に、フィトステロール及びフィトスタノールエステルの調製のための方法並びにそれらの使用に関する。
【解決手段】脂肪酸成分が、7%未満の飽和脂肪酸と、50%超の多不飽和脂肪酸と、の混合物を含むことを特徴とするステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステル組成物。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
本発明は、フィトステロール及びフィトスタノールに、特に特定の脂肪酸組成のフィトステロール及び/又はフィトスタノールの脂肪酸エステルに関する。本発明は、更に、フィトステロール及び/又はフイトスタノールエステルの調製のための方法並びにそれらの使用に関する。
【0002】
1950年代から、動物及びヒトにおける多数の研究が報告されている。これは、植物ステロール(フィトステロール)が血清コレステロールレベルを大きく減少させることである。植物ステロールは、消化管からのコレステロールの吸収を減少させることにより血清コレステロールレベルを減少させる。このコレステロール吸収の減少がおこるメカニズムは十分に知られていない。
【0003】
フィトステロールはコレステロールに構造的に極めて類似した化合物の一群である。天然に最も頻繁に発生するフィトステロールはシトステロール、カンペステロール及びスチグマステロールである。全てのフィトステロール調製物においてシトステロールが主要成分である。ほとんどの臨床的及び非臨床的研究は、高い量のシトステロール及びいくらかのシトスタノールを含むいわゆるトールオイルステロールで行われている。科学文献において、このようなステロール混合物は、しばしばシトステロールと呼ばれる。植物油及び脂肪は我々の食事において植物ステロールの主要源である。植物油において、ステロールの主な部分は脂肪酸エステルとして存在する。
【0004】
初期の研究において、植物ステロールは可溶性の小さい結晶性の形態で、高い毎日の摂取量(1日当り20〜30gまで)で用いられていた。しかしながら、比較的少い投与量(1日当り数グラム)で至適条件下で投与した場合でさえ、植物ステロールは血清の全ての及びLDL−コレステロールレベルを減少させる。
近年、高コレステロール血症の植物ステロール処理は、シトステロールの十分に飽和した型であるシトスタノールの使用により改良されている。飽和フィトステロール、例えばシトスタノール及びカンペスタノールは少量で我々の食事中に存在する。フィンランドの食事中の全スタノールの毎日の摂取は30〜80mg/日と見積もられている。しかしながら、トールオイルステロール(松の木からのステロール)は10〜20%の植物スタノール(シトスタノール+カンペスタノール)を含む。フィトスタノールは、水素化によって対応する植物ステロール中の二重結合を除去することによっても生産することができる。
【0005】
シトスタノールは本質的に吸収されず、シトステロールより効率的に混合ミセルのコレステロール含有量を減少させ、これにより血清コレステロール低下効果を増強させる。Suganoら(Sugano M, Morioka H.及びIkeda I. (1977) J. Nutr. 107, 2011〜019)は、シトスタノールがラットにおいてシトステロールより高い低コレステロール活性を有していることを示した。ウサギで同様の結果が得られた(Ikeda I, Kawasaki A, Samazima K.及びSugano M. (1981), J. Nutr Sci. Vitaminol 27, 243〜251)、更に、シトスタノールは、シトステロールより大きいコレステロール摂食であるため大動脈アテロームの形成を抑制した。Beckerら(Becker M., Staab D及びvon Bergmann K. (1993) Journal of Pediatrics, 122, 292〜296)は、シトスタノールが激しい家族性高コレステロール血症の子供においてLDLコレステロールのレベルの上昇を減少させることにおいてシトステロールよりかなり有効であることを示した。
【0006】
食用油及び脂肪中の遊離ステロール、特に遊離スタノールの溶解度は極めて低い。例えば、水が存在するなら2%未満の遊離ステロールしか油及び脂肪中に溶かすことができない。この問題は、遊離ステロールを脂肪酸エステルでエステル化することにより克服することができる。植物ステロールのエステルは、ラットにおいてコレステロール吸収を減少させることにおいて対応する遊離ステロールに等しいことが示されている(Mattson F.H., Volpenheim R.H.及びErickson B.A., (1977), J. Nutr. 107, 1139〜46)が、Mattsonら(Mattson F.H., Grundy S.M.及びCrouse J.R. (1982), Am. J. Clin. Nutr. 35, 697〜700)は、遊離ステロールがヒトにおいてコレステロール吸収を減少させることにおいてより有効であることを見い出した。
【0007】
脂肪消化の間、食用脂肪、ステロール及び/又はスタノールエステルは、食用コレステロール及びそのエステルと一緒に、腸内油相(腸のエマルション内)に達し、そこから遊離スタノール及びステロールがコレステロールエステラーゼのような酵素により脂肪分解を介して放出される。その放出されたスタノール及び/又はステロールは、ミセルの溶解について食用及び胆汁コレステロールの両方と競合し、高い十分な濃度で混合ミセルの脂質コア脂肪材料中に存在する場合、コレステロールのミセル相濃度を低下させる。シトスタノールのような植物スタノールは、対応するシトスタノールよりミセル相コレステロールを低下させることにおいてより有効である。
【0008】
US特許3751569(Erickson B.A.)は、低コレステロール特性を有する透明なクッキング及びサラダオイルを記載する。その液体の中には、ステロール脂肪酸エステルの(遊離ステロール等量としての)0.5〜10重量%のグリセリドベースの油が混合される。クッキング及びサラダ油は、液体グリセリドベース油及び植物ステロールモノカルボン酸を相互溶媒に溶かし、その溶媒(ヘキサン又はジエチルエーテル)をエバポレートすることにより調製された。その脂肪酸成分は飽和モノカルボン酸C1-12又は24炭素原子までの不飽和脂肪酸として定義した。そのステロールエステルは、冷却温度で沈殿を防止するのに十分に少い量で添加される。トリオレイン中のフィトステロールの異なる脂肪酸エステルの溶解度も示され、これは、C14及びC16飽和脂肪酸フィトステロールエステルについて極めて低い溶解性を示す。この特許は、比較的小量でクッキング又はサラダ油に加えられたフィトステロールの特定の個々の脂肪酸エステルの使用を開示する。
【0009】
飽和植物ステロールは、消化管からコレステロールの吸収を減少させることにおいてより有効であることが示されており、これにより全ての及び、LDL血清コレステロールレベルの減少を促進することが示されている。植物ステロールの植物スタノールへの飽和は、油及び脂肪中のそれらの溶解度を更に減少させる。米国特許5502045号(Miettinen ら)は、シトスタノールの脂肪酸エステルを生産するための方法及び高コレステロールレベルを低下させるための物質の使用を開示する。植物油、例えばナタネ油(LEAR)からの脂肪酸のシトスタノール混合物をエステル化することにより、脂肪溶解性エステルが得られた。通常用いる脂肪混合物の20%までを、低エルカ酸ナタネ油脂肪酸エステルに基づいてシトスタノール脂肪酸エステル混合物で交換することができることを示す例が供される。このような脂肪可溶性スタノールエステルのマーガリン及びスプレッドのような食品への組込みは、コレステロール吸収の最適な減少のための適切な毎日の量のスタノールを導入するための1つの方法を供する。
【0010】
いくつかの臨床研究において、これらの脂肪可溶性スタノールは消化管からのコレステロールの吸収を減少させることにおいて極めて有効であることが判明している。North Karelia スタノールの研究が、12ヶ月の大規模なランダム二重ブライド研究においてこれらの発見を確認するために行われた(Miettinen T.A. Puska P, Gylling H, Vanhanen H.及びVartiainen E. (1995) N. Engl. J. Med 333, 1308〜1312)。この研究の結果は、マーガリン内に投与される1.8〜2.6gの脂肪可溶性シトスタノールエステル(遊離スタノールとして計算)の毎日の摂取が全コレステロールを10%、LDD−コレステロールを14%、脂肪可溶性スタノールエステルを加えないマーガリンを有する対照グループと比べて減少させることを示す。
【0011】
市販の高PUFA植物油、例えばヒマワリ油、コーン油、ダイズ油、ベニバナ油、綿実油又はそれらの混合物に基づく脂肪酸とのスタノール脂肪酸エステルは、最適なコレステロール低下効果を得るためにスタノール及びステロールの適切な毎日の摂取のために十分に高い量でサラダ油、クッキングオイル、容易に注げるサラダドレッシング、ソース及びマヨネーズのような食物に組み込まれるように、植物油又はそれらの混合物に極めて高い組織化特性(texturizing properties)を示すであろう。この問題は、本発明により解決されよう。
【0012】
先行技術の別の問題は、血中コレステロールレベルへの最適な効果のためのステロール及び/又はスタノールの毎日の適切な量を通常の食物摂取により補給するのに十分に高い濃度で種々の食品に加えることができる形態で極めて高い含有量のフィトステロールの食品の生産である。これは、フィトステロール及びフィトスタノールの脂肪酸エステルを生産することにより先行技術において部分的に解決された。しかしながら、本発明によるステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステルを用いることにより、更により高い量のフィトステロール及びフィトスタノールでさえ、サラダ油、クッキングオイル、容易に注げるサラダドレッシング、ソース及びマヨネーズのような特定の植物油ベースの食品に上手く用いることができる。
【0013】
更に、本発明によるステロール及び/又はスタノールエステルは、マーガリン、低脂肪スプレッド、スプレッドできるチーズ、バター等のようなスプレッド型の製品に、慣用的なトリグリセリドハードストックを用い、このような製品の製造においてステロールエステル及び/又はスタノールエステルから得ることができる組織化特性を利用しないとの要求が存在する限り、上手く用いることができる。このような要求についての1つの理由は、本発明によるステロール及び/又はスタノールエステルの利用が技術的にそれほどの要求がなく、慣用的な生産技術でこのような製品を作り出すことをより簡単かつ容易にすることであり得る。
【0014】
ベニバナ油又はモノオレイン中に懸濁された遊離ステロール及びスタノールを有するカプセルが上昇したコレステロールレベルを低下させるための1つの手段として用いられている。例えばDenke (Denke (1995) Am. J. Clin. Natr, 61, 392〜396)は、コレステロール低下食事の部分として中程度の高コレステロール血症の男性にベニバナ油中に懸濁した4カプセル/食事の遊離スタノールを供した。そのシトスタノールの毎日の摂取量の全ては12カプセルで3000mgであった。そのシトスタノールカプセル管理は食事のみと比べてLDLコレステロールレベルを大きくは減少させなかった。
【0015】
植物油における遊離シトスタノールの低い溶解度のため、ベニバナ油中に懸濁された遊離シトスタノールを含むカプセルの使用は、シトスタノールが食物消化の脂肪相に効率よく分布されることを確実にしない。この問題は、本発明によるステロール及び/又はスタノールエステルに基づきカプセルを用いることによって克服することができる。なぜなら、これらのエステルは体温で液体であり、食物消化の脂肪相に容易に溶けるからである。更に、分散剤としてトリグリセリド脂肪又はモノオレインは必要とされず、ステロール及び/又はスタノールの毎日必要とされる最適な量を供給するために必要とされるカプセルの大きさ又は量を減少させることが可能である。
【0016】
本発明は、脂肪酸成分の50%超、有利には60%超、より好ましくは65%超が多不飽和脂肪酸(PUFA)を含み、7%未満、有利には5%未満が飽和脂肪酸(SAFA)を含むステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステル組成物が、基本的に組織化特性を示さず、これにより食品に用いることができるという発見に基づく。ここでこのような組織化効果は製品の質又は生産技術の理由のため要求されないか、又は極めて限られた程度でしか要求されない。
【0017】
本発明は、更に、低含有量の飽和脂肪酸及び高い含有量の不飽和脂肪酸(主にモノ不飽和)を有するナタネ油に基づくスタノール脂肪酸エステルが、全てのスタノール脂肪酸エステルが共結晶化しているDSC融解曲線(図1)を供するという事実に基づく。これにより、このスタノール脂肪酸エステルの混合物は、直接の結晶化手順の後、示差走査熱量測定(DSC)で測定すると1つの明瞭な溶融ピークで融解する。DSC融解曲線は、サンプル(約8mg)を10分、75℃で融解した後、サンプルを10℃/分で−50℃まで冷却し、ここで5分、維持することにより結晶化した後、得られる。融解曲線は、10℃/分で70℃に加熱することにより得られる。
【0018】
驚くことに、植物の高PUFA油に基づくスタノール脂肪酸エステルは、極めて異なる溶融DSC曲線(図2、ダイズ脂肪酸に基づくスタノールエステル)を示すことが見い出され、ここで多不飽和脂肪酸のスタノールエステルは、モノ不飽和及び飽和スタノール脂肪酸エステルと異なり明確な温度域で融解する(約−5℃〜約25℃の融解範囲)ようである。
【0019】
DSCにより測定して唯一の均一な融解ピークを示す低いエルシック(erucic)ナタネ油ベースのスタノール脂肪酸エステル混合物の挙動に基づいて、スタノール脂肪酸エステルの脂肪酸組成を飽和脂肪酸の含有量を著しく低下させるため、及びいくらか天然の高PUFA脂質植物油と比べて多不飽和脂肪酸の含有量を増加させるために変化させるなら、同様のPUFAスタノールエステルでの結晶化及び融解挙動を得ることができた。
【0020】
高PUFAステロール及び/又はスタノールエステルは、例えば高PUFA植物油又はそれらの混合物から得られる脂肪酸アルコールエステルの直接的エステル化によって米国特許5502045(Miettinen ら)に記載される方法により生産することができる。あるいは、直接的な、好ましくは触媒エステル化法又は酵素エステル化法、例えばEP−195311(Myojo ら)に概説されるものを用いることができる。
【0021】
本発明によるステロール及び/又はスタノールエステル混合物は、適切な脂肪酸組成を有する脂肪酸アルコールエステルの直接的エステル化によって米国特許5,502,045に記載される方法によって得ることもできる。
更に、スタノールエステルに基づく高PUFA植物油中のスタノールエステルのPUFA画分が明確な温度範囲で融解するという事実は、高PUFA植物油に基づくスタノールエステルを、脂肪酸部分における減少した量の飽和脂肪酸及び増加した量の多不飽和脂肪酸のスタノールエステルを得るために分画にかけることができる。
【0022】
乾燥、湿潤及び溶媒分画過程又はこれらの組合せを含む先行技術の全ての分画・過程を要求される組成を得るために用いることができることは当業者に明らかである。スタノールエステルの高い粘度のため、乾燥分画は要求される結果を達成するための最適なアプローチでない。例えば低エルカ酸ナタネ油に基づくスタノール脂肪酸エステルは、特定の温度において次の粘性値:48℃で728cP、100℃で80cPを示す。低いエルカ酸ナタネについての対応する値は49.3℃で48.3cP、100℃で8.4cPである。しかしながら、高い粘度の問題は、ステロールエステル及び/又はスタノールエステルの混合物並びに植物油又は植物油の混合物で分画ステップを行うことにより克服することができる。好ましくは、用いる植物油又は植物油混合物は最終食品中に要求されるものである。植物油はステロール及び/又はスタノールエステル植物油混合物の粘度を著しく減少させ、先行技術の市販の乾燥分画での分画を容易にする。
【0023】
別の可能性は、米国特許5502045(Miettinen ら)に記載される方法に従って高PUFAステロール及び/又はスタノールエステルのエステル化の後に得られる油相中に存在する過剰な高PUFAアルコールエステルを利用することである。この高PUFAアルコールエステルステロール及び/又はスタノールエステル混合物は、更に、分画ステップにかけてより高く融解するステロール及び/又はスタノールエステルを除去することができる。
【0024】
植物ステロール混合物の対応する植物スタノール混合物への飽和は、同じ脂肪酸組成の対応するステロール/スタノールエステルの融解特性に著しい差を引きおこす。例えば、低いエルカ酸ナタネ油脂肪酸の植物油ベースのステロールエステル及び対応するスタノール脂肪酸エステルは、NMR技術によって測定して異なる温度で次の量の固体脂肪含有量(全脂肪の%)を示した。
【0025】
10℃ 20℃ 30℃ 35℃ 40℃
ステロール 40.5 11.6 3.5 1.7 1.1
スタノール 82.3 70.2 34.9 9.4 5.2
これらのデータに基づくと、ステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステルのいずれの混合物も、対応する脂肪酸組成物のステロール及びスタノール脂肪酸エステルの中間範囲内の固体脂肪含有値を示すであろう。
【0026】
本発明は、更に、通常、高いPUFA脂肪酸組成に基づくステロール及び/又はスタノールエステルの含有量が最終製品の物理及び感覚特性を変えずに減少されなければならないであろう特定の食品、例えばサラダ及びクッキングオイル、容易に注げるサラダドレッシング、ソース及びマヨネーズに増加量の植物ステロール、植物スタノール又はそれらの混合物を組み込むことを可能にする。本発明は、製品の質に妥協することなく、このような特定の製品から最適なコレステロール削減効能のための毎日の適切な量を供することを容易にする。
【0027】
高PUFA及び低SAFA脂肪酸組成のステロールエステル、スタノールエステル又はそれらの混合物についての別の分野の潜在的な用途は、胃内で食物消化の脂肪相に迅速に溶ける体温で全体的に液体のステロール及び/又はスタノールエステルのカプセルである。本発明によるステロール及び/又はスタノールエステルの使用は、植物油又はモノオレインに懸濁した遊離ステロール及び/又はスタノールに基づくカプセルで先行技術の問題を克服するであろう。
【0028】
ステロール、スタノール又はそれらの混合物が消化性食物の脂肪相に効率よく溶けるなら、最適なコレステロール低下効果が達成されると信じられる。ステロール及びスタノールはコレステロール吸収に効率的な削減効果を有するように消化性食物の脂肪相に溶けることが必要とされる。更に、食用コレステロールは、毎日消化管に入る全コレステロール量の約1/3だけである。胆汁コレステロールは腸コレステロールの主なソースである。
【0029】
植物ステロール及びスタノールの使用から最適なコレステロール減少効果を有するために、それらは食物摂取が胆嚢の収縮を引きおこす限り消化管中に存在するはずである。それゆえ、通常の食品に組み込まれる脂肪可溶性ステロール及びスタノールエステルの使用はステロール及び/又はスタノールをデリバリーする最適な選択であるようである。
【0030】
しかしながら、植物ステロール及び/又はスタノールが豊富な食品が利用できない多くの場合がある。それゆえ、カプセル、例えばゼラチンカプセル又は錠剤の使用は、全ての時間で利用できるステロール/スタノール管理を行う食事において最適な毎日の投与量をデリバリーするための別の可能なアプローチであろう。本発明による脂肪酸組成を有するステロール又はスタノール脂肪酸エステルカプセルは、全体として、体温で溶解し、食物消化の脂肪相中に迅速に溶けるであろう。本発明によるステロール及び/又はスタノールエステルの効率的な溶解は、更なる溶解性脂質材料を用いることなく確実にされよう。なぜなら本発明によるステロール及び/又はスタノールエステルは、体温で液体であろうからである。更に、分散剤としてトリグリセリド脂肪又はモノオレインは必要とされず、毎日の必要とされる最適な量のステロール及び/又はスタノールを供給するために必要とされるカプセルの大きさ又は量を減少させることを可能にする。
【0031】
先行技術に開示されるものよりかなり高い植物ステロール含有量(ステロール等量)を有する透明なクッキング及びサラダ油は、好ましくは、本発明によるステロールエステルを用いることによって生産することができる。先行技術で開示される透明なクッキング及びサラダ油は、12未満の炭素原子を有する個々の飽和脂肪酸成分又は24までの炭素原子を有する個々の不飽和脂肪酸成分に基づくフィトステロールエステルに基づく。本発明によるステロール及び/又はスタノールエステル内に含まれる限られた量の飽和脂肪酸は主に、親の高PUFA植物油又は植物油混合物内に天然で含まれる飽和脂肪酸、即ち14超の炭素原子を有する飽和脂肪酸に基づく。本発明によるステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステルは、低脂肪製品において及び少量のみの脂肪含有食品を食べたい消費者のための製品において利用することができる。本発明によるスタノールエステルは、先行技術と比べていくらか増加した量で用いることもできる。それゆえ、本発明によるステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステルを用いることにより、コレステロールレベルの有効な低下のために必要とされる毎日の投与量は容易に達成することができる。
【0032】
本発明による組成物は、食物製品中の脂肪酸組成がより低い含有量の飽和脂肪酸及びより高い含有量の不飽和脂肪酸に変換されるので、栄養の観点から明らかに明確に有効性を有する。ステロール及び/又はスタノール部分が吸収できないという事実に基づくと、吸収できる脂肪の量は食品において減少する。なぜならステロール及び/又はスタノールエステルは等量の通常のトリグリセリド脂肪について置きかわるからである。
【0033】
請求項1又は2に定義されるスタノール脂肪酸エステルの使用は本発明を実施する好ましい方法である。最も好ましく用いられるスタノールはシトスタノール及び任意にカンペスタノールを含む。
高PUFA植物油との用語は、本明細書において、50%超の多不飽和脂肪酸及び少くとも7%の飽和脂肪酸の脂肪酸組成を含む植物油又は植物油混合物を意味する。典型的な高PUFA油には、ヒマワリ油、コーン油、ダイズ油、ベニバナ油、綿実油又はそれらの混合物がある。脂肪酸組成物中の飽和脂肪酸の量は約7.5〜49%、より典型的には約8〜25%、最も典型的には約10〜20%である。
【0034】
フィトステロールとの用語は、本明細書において、4−デスメチルステロール、4−モノメチルステロール、及び4,4−ジメチルステロール(トリテルペンアルコール)又はそれらの混合物を意味する。フィトスタノールとの用語は、本明細書において、4−デスメチルスタノール、4−モノメチルスタノール及び4,4−ジメチルスタノール、好ましくは対応するフィトステロールの水素化により得られるものを意味する。典型的な4−デスメチルステロールは、シトステロール、カンペステロール、スチグマステロール、ブラシカステロール、22−デヒドロブラシカステロール、Δ5−アベナステロールである。典型的な4,4−ジメチルステロールはシクロアルタノール、24−メチレンシクロアルタノール及びシクロブラノールである。典型的なフィトスタノールはシトスタノール、カンペスタノール及びそれらの24−エピマー、シクロアルタノール及びトリテルペンアルコール(シクロアルテノール、24−メチレンシクロアルタノール及びシクロブラノール)の飽和により得られる飽和型である。フィトステロール及びフィトスタノールとの用語は、本明細書において、4−デスメチルステロール及びスタノール、4−モノメチルステロール及びスタノール、4,4−ジメチルステロール及びスタノールの全ての可能な天然の混和物並びに天然の混和物の混合物を更に意味する。フィトステロール及びフィトスタノールとの用語は、本明細書においていずれかの個々の4−デスメチルステロール、4−モノメチルステロールもしくは4,4−ジメチルステロール又はそれらの対応する飽和型を意味する。
【0035】
植物ステロール及び植物スタノールとの用語は、本明細書において、フィトステロール各々のフィトスタノールと同義で用いる。ステロール及びスタノールは、フィトステロール各々のフィトスタノールをも意味する。
多飽和脂肪酸は、本明細書において、2又はそれ超の二重結合を含む脂肪酸として定義される。有利には、二重結合はシスコンフィグレーションを有するべきであるか、1又は複数の二重結合がトランスコンフィグレーションであってもよい。多くの市販の植物油は、脱臭過程における終りの異性化により、トランスコンフィグレーションの1又は複数の二重結合を含む多不飽和脂肪酸の%レベルを含む。更に、二重結合は、いわゆる中断された又はコンジュゲートしたメチレンであり得る。典型的な植物油由来多不飽和脂肪酸はリノール酸、リノレン酸及びγ−リノレン酸であるが、魚油からの多不飽和脂肪酸、例えばエイコサペンタン酸及びドコサヘキサン酸を利用することができる。
【0036】
飽和脂肪酸との用語は、いずれの二重結合も有さない4〜24炭素原子の脂肪酸を意味し、これにより直鎖及び分枝鎖脂肪酸の両方を含む。
高PUFAステロール及び/又はスタノールエステルとの用語は、高PUFA植物油から有利には脂肪酸と共に生産されるステロール及び/又はスタノールエステルを意味するが、魚油由来多不飽和脂肪酸又は植物及び魚油由来多不飽和脂肪酸の混合物を用いることができる。
【0037】
ステロールエステル、スタノールエステル又はそれらの混合物は、好ましくは、本発明による特定の脂肪酸組成物と共に脂肪酸アルコールエステルを用いて米国特許5502045(Miettinen ら)に概説される方法によって生産することができる。脂肪酸アルコールエステルは、高PUFA液体植物油又は高PUFA油の混合物から得られるアルコール脂肪酸エステルの溶媒分画又は界面活性剤分画のような当該技術分野で知られたいずれかの方法により生産することができる。脂肪酸アルコールエステルの対応する混合物は、減圧下での蒸留過程によっても得ることができる。このような蒸留手順は、有利には、16又はそれ未満の炭素原子を有する飽和脂肪酸を除去するために用いることができる。所定の脂肪酸組成を有する脂肪酸アルコールエステルは、例えば米国特許5670348(William ら)により概説される削減された量の飽和脂肪酸の植物油又は油混合物のアルコール分解によっても得ることができる。
【0038】
ステロール及び/又はスタノールエステルは、前記組成の遊離脂肪酸又は脂肪酸混合物とステロール及び/又はスタノールとの間の直接の、好ましくは触媒によるエステル化によって生産することもできる。更に、ステロール及び/又はスタノールエステルは、例えばEP−195311に概説されるような酵素的エステル化によっても生産することができる。
【0039】
更に、多不飽和脂肪酸の混合物は、所定の組成のステロール及び/又はスタノールエステルを得るために用いることができる。
所定の脂肪酸組成のスタノールエステル及び/又はステロールエステルは、商業的に適用される分画過程、例えば乾燥、界面活性剤、並びに例えば米国特許5502045に概説されるトランスエステル化過程に基づく方法により例えば植物油又は油混合物から得られる高PUFA脂肪酸のエステル化、いずれかの好ましくは触媒エステル化過程により得られるスタノール及び/又はステロール脂肪酸エステルの湿潤型分画、又は例えばEP195311に概説される酵素エステル化過程の使用により更に得ることができる。特に、溶媒からの分画は、要求されるステロール及び/又はスタノールエステル組成物を調製するために用いることができる。酵素エステル化過程、例えばEP195311に概説される方法を用いる場合、分画は、好ましくは、酵素及び可能な水相を除去した後にエステル化過程に用いる反応溶媒中で直接、行うことができる。
【0040】
好ましい実施形態において、要求されるステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステルを含む植物油は、脂肪酸のためのソースとして高PUFA植物油又は高PUFA植物油の混合物を用いることによりエステル化過程、例えば米国特許5502045に開示されるものにより得られるステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステルの15〜50重量%(好ましくは15〜25%)を溶かすことにより得ることができる。このように得られたステロール及び/又はスタノールエステル植物油混合物は、加熱されて混合され、ステロール及び/又はスタノールエステルを全体を溶かした後、先行技術の慣用的なウインタライジング又はいずれかの分画法が行われる。例えば、ウインタライジング/バッチ乾燥分画法は、用いるステロールエステル及び/又はスタノールエステルの型に依存して5〜20℃で行うことができる。次に、ステロール又はスタノールエステルの固体部分は、例えば真空ろ過により除去され、本発明による要求される脂肪酸組成のステロールエステル、スタノールエステル又はそれらの混合物を含む液体部分は通常の脱臭にかけられ、その後、クッキング又はサラダ油として用いるための最終製品の製造又は瓶詰めに用いられる。ウインタライジング又はバッチ乾燥分画法に加えていずれの型の分画法も、より高い融点のステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステルも、即ち飽和脂肪酸に基づくステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステルも結晶化させて除去するために利用することができる。
【0041】
他の好ましい実施形態において、所定の脂肪酸組成を有するスタノールエステル及び/又はステロールエステルは、米国特許5502045(Miettinen ら)に開示される直接的エステル化の後に得られる高PUFAステロール及び/又はスタノールエステルの脂肪酸メチルエステルの過剰量を利用することにより更に得ることができる。乾燥ステップの後、ステロール及び/又はスタノールエステル脂肪酸アルコールエステル混合物は、生産されるステロール及び/又はスタノールの組成に依存して10〜25℃に冷却され、より高い融点の組成物は4〜6時間で結晶化する。任意に、更なる脂肪酸アルコールエステルを加えて分画過程が容易にされる。いずれの脂肪酸アルコールエステルも用いることができるが、高PUFAアルコールエステルの使用が好ましい。ろ過の後、透明な油相は、好ましくは脱臭されて過剰な脂肪酸アルコールエステルが除去され、味のないステロール及び/又はスタノールエステルが得られる。
【0042】
このように得られたステロール及び/又はスタノールエステルは、好ましくは、油混合物に混合させた後、最終的な食品の生産に用いるための脂肪混合物の最終的な脱臭ステップを行うことができる。あるいは、ステロール及び/又はスタノールエステルはそれ自体、脱臭し、例えばカプセルの生産において、それ自体、用いることができる。更に、本発明による脱臭されたステロール及び/又はスタノールエステルは、植物油又は植物油混合物に溶かして、例えばサラダ油又はクッキングオイルとして用いることができ、又は特定の食物の生産、特に低脂肪食品、サラダドレッシング、マヨネーズ、ソース又はいずれかの脂肪含有食品の生産に用いることができる。これらの製品は、製品の質又は生産技術の理由のため組織化特性が限られた又は全くないステロール及び/又はスタノールエステルが要求されるものである。別の実施形態において、手順を容易にするために分画前に混合物に油を加えることができる。
【0043】
要求されるステロールエステル、スタノールエステル又はそれらの混合物を含む植物油は、GB特許1405346(Baltesら)に記載されるのと同様の方法において油混合物中でエステル化を行うことにより更に生産することができる。得られた全体がエステル交換された油は次の分画ステップ、例えばウインタライジングステップにかけられて、ステロールエステル、スタノールエステル又はそれらの混合物の要求される量を含む植物油が得られる。あるいは、高い含有量のステロール及び/又はスタノールエステル(20〜90重量%ステロール及び/又はスタノールエステル)を有するエステル化植物油ステロール及び/又はスタノールエステルストック混合物は同じアプローチにより生産することができる。得られたトリグリセリドステロール及び/又はスタノールエステル混合物は、次に、最終製品に用いるべき非エステル化植物油又は植物油混合物と共に要求される含有量のステロールエステル、スタノールエステル又はそれらの混合物を得るために必要とされる割合で混合され、その後、飽和脂肪酸を有する主に高い融点ステロール及び/又はスタノールエステルを除去するためのウインタリゼーション又は分画法にかけられる。更に、その分画法は、過剰な脂肪酸アルコールエステルを利用する、エステル化ステップの後に行うことができる。任意に更なる脂肪酸アルコールエステルを加えて分画過程を容易にされる。
【0044】
更に、本発明によるステロール及び/又はスタノールエステル組成物は、“脂肪酸出発材料”、例えば脂肪酸、脂肪酸アルコールエステル又は例えば微生物、酵素もしくは油生産植物の新しい交配の利用を含む方法により得られる油を利用して生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】ナタネ脂肪酸に基づくスタノールエステルについてのDSC融解曲線。
【図2】ダイズ脂肪酸に基づくスタノールエステルについてのDSC融解曲線。
【図3】ダイズ脂肪酸に基づくスタノールエステルについてのDSC融解曲線:64.8%PUFA及び7.5%SAFAの脂肪酸組成に分画したスタノールエステルを図2のDSC曲線と比較する。
【図4】ダイズ脂肪酸に基づくスタノールエステルについてのDSC融解曲線:69%PUFA及び5.8%SAFAの脂肪酸組成に分画したスタノールエステルを図2のDSC曲線と比較する。 以下の例は本発明をより詳細に開示するために供する。
【0046】
実施例1
ダイズ油脂肪酸に基づくスタノール脂肪酸エステルの調製
スタノール脂肪酸エステルを、パイロットスケールで生産した、6kgの植物スタノール(組成:90%シトスタノール、8%カンペスタノール、1.5%シトステロール+微量の他の不飽和ステロール、商業用トールオイルステロール混合物(Kaukaus Oy)の水素化により得たもの)を真空下で60℃で6時間、乾燥させて水分を除去した。その乾燥したスタノールを8.6kgのダイズ油メチルエステル混合物と混合し、110〜120℃で乾燥させた。その乾燥混合物の温度を90〜95℃に下げて、ナトリウムエチレート触媒(21g)を加えた。その温度を110℃に上げて、反応を真空(10〜20mmHg)下で行った。転化を、迅速HPLC分析によりモニターした。98%超の転換が達成されたら、温度を100℃に下げて30重量%の水又は酸性化水を加えて触媒を破壊した。水相を除去し、油相を水で再び洗った。油相を110℃で乾燥させ、その乾燥材料を110℃で20分、1重量%の漂白補助剤(Tonsil Optimum FF, Suedchemie, Germany)を用いて漂白した。ろ過により漂白補助剤を除去した後、標準的なパイロットスケール脱臭(バッチデオドライザー、能力9kg)を行って過剰なダイズ油メチルエステルを除去し、味のないスタノールエステル製品を得た。
【0047】
実施例2
ダイズ脂肪酸に基づくトールオイルベースのステロール脂肪酸エステルの調製
ダイズ油由来脂肪酸に基づくステロールエステル脂肪酸エステルを、実施例1に概説されるのと同じ手順により調製した。但し、スタノールを等量の商業用トールオイルステロール混合物のかわりに交換した(Kaukas Oy)。
【0048】
実施例3
ヒマワリ油から得られた脂肪酸を有する植物油ベースのステロール脂肪酸エステルの調製
ヒマワリ油由来の脂肪酸のステロール脂肪酸エステル混合物を研究室スケールで調製した。295gの植物油ベースのステロール(ADM:組成:48.3%シトステロール、26.4%カンペステロール、15.2%スチグマステロール、2.4%ブラシカステロール、2.7%シトスタノール、0.9%カンペスタノール及び4.1%の他の成分)を、機械撹拌器を備えた1Lガラス反応器中424gヒマワリメチルエステル中で加熱して真空を用いることにより溶解した。その混合物を、130℃及び5mmHg未満の真空で乾燥させた。その乾燥混合物の温度を97℃に減らして、3.6gのナトリウムエチレートを加えた。その反応を5mmHg未満の最後の真空下で130℃で行った。4時間後、温度を99℃に減らし、油状混合物を30重量%の水で2回、洗った。その油相を除去し、真空(5mmHg未満)で112℃で乾燥させ、その後、油相を2重量%の漂白補助剤(Trisyl Silica)を用いて、真空(5mmHg未満)下で110℃で40分、漂白した。ろ過により漂白補助剤を除去した後(6μm)、ヒマワリ油由来の脂肪酸のステロールエステルを、0.1mmHgの真空で130〜140℃でのメチルエステル煮沸で190〜195℃の油浴で加熱することにより、過剰な脂肪酸メチルエステルを蒸留して除去することにより得た。
【0049】
実施例4
溶媒分画での、減少量の飽和脂肪酸及び増加量の多不飽和脂肪酸を有するスタノール脂肪酸エステルの調製
実施例1に概説される手順により得られたスタノールエステル10gを200mL遠心管内の90mL n−ヘキサンに溶かした。その混合物を19時間、10℃に維持し、その後、その混合物を温度をプログラム可能な遠心器内で遠心した。ヘキサン相を除去し、ヘキサンをエバポレートした。得られたスタノールエステルは、64.8%の多不飽和脂肪酸(出発スタノールエステル混合物中の58.4と比較)及び7.5%の飽和脂肪酸(出発スタノールエステル中の16.7と比較)を含んだ。結晶化の後に得られたDSC融解曲線を図3に示す。
【0050】
他の実験において、10%スタノールエステルヘキサン混合物を19時間、5℃で結晶化した。ヘキサンのエバポレーションの後、ヘキサン相から得られたスタノールエステルは、69%の多不飽和脂肪酸及び5.8%の飽和脂肪酸を含んだ。結晶化の後に得られたDSC融解曲線及び出発スタノールエステルについての曲線を図4に示す。
【0051】
実施例5
スタノールエステル及び植物油の混合物からのダイズスタノールエステルの分画
スタノールエステルの粘度は高く直接の結晶化法の使用を限定するので、粘度を減少させることができる方法を開発した。この方法は、分画ステップを行う前に、植物油又は植物油混合物中にスタノールエステルを溶かすことに基づく。植物油又は植物油混合物は最終食品中の要求される油に基づいて選択する。
【0052】
実施例1に概説される手順により生産した25重量%スタノール脂肪酸エステルを75重量%のヒマワリ油に溶かした。その混合物を約70℃に加熱してスタノール脂肪酸エステルを溶解した。次にその混合物を冷却し、5時間、9℃に維持した。得られた固相をろ過して除き、約21重量%のスタノールエステルに相当する12.6重量%のスタノール当量の透明なヒマワリ油を得た。そのヒマワリ油スタノールエステル混合物は48時間、6℃で透明であり続けた。得られたヒマワリ油中のスタノール脂肪酸エステルをその脂肪酸組成について分析し、67.9%の多不飽和脂肪酸及び3.5%の飽和脂肪酸を含むことが見い出された。本発明により規定されるステロール及び/又はスタノールエステル組成物を得るために分画を行うためにいずれの商業的乾燥分画法も用いることができることは明らかである。乾燥分画は、ステロール及び/又はスタノールエステルを、植物油又は植物油混合物と混合することにより粘度を減少させることによりより便利に行われる。異なる方法及び異なるステロール及び/又はスタノールエステルについて、要求されるステロール及び/又はスタノール組成を得るために特定の処理条件を見い出すことができる。
【0053】
実施例6
過剰な高PUFA油脂肪酸アルコールエステルを利用する、エステル化ステップの後に、直接的な分画法を行うことにより減少量の飽和脂肪酸及び増加量の多不飽和脂肪酸のスタノール脂肪酸エステルの調製
ダイズ油ベースのスタノール脂肪酸エステルを、実施例1に従って生産した。但し、得られたスタノールエステルダイズ油脂肪酸メチルエステル混合物を、乾燥ステップの後、直接、分画法にかけた。その温度を、5時間、20℃に下げ、その硬い画分を真空ろ過の使用によりろ過して除いた。過剰なダイズ脂肪酸メチルエステルを、最終的な脱臭過程の間に除去し、味のないスタノールエステルを得た。
【0054】
実施例7
後の分画過程を伴う可溶化媒体としての植物油を伴うスタノール脂肪酸の調製
スタノール脂肪酸エステルをパイロットスケールにおいて生産した。3kgの植物スタノール(組成:90%シトスタノール、8%カンペスタノール、1.5%シトステロール、商業用トールオイルステロール混合物(Kaukas Oy)の水素化により得られる)を6時間、60℃で真空下で乾燥させて水分を除去した。乾燥スタノールを3kgのダイズ油及び4.3kgのダイズ油メチルエステル混合物と混合し、110〜120℃で乾燥させた。その乾燥混合物の温度を90〜95℃に下げて、ナトリウムエチレート触媒(21g)を加えた。その温度を110℃に上げて、反応を真空下で行った。転化を、迅速HPLC分析によりモニターした。遊離スタノールのスタノールエステルへの98%超の転化が達成された後、温度を100℃に下げ、30重量%の水又は酸性化水を加えて触媒を破壊した。その水相を除去して油相を水で再び洗った。その油相を110℃で乾燥させてその乾燥材料を1重量%の漂白補助剤(Tonsil Optimum FF, Suedchemie, Germany)を用いて、20分、110℃で漂白した。ろ過により漂白剤を除去した後、過剰なダイズ油脂肪酸メチルエステルを除去し、エステル交換された油スタノールエステル混合物を標準的パイロットスケール脱臭(バッチデオドライザー、能力9kg)でかるく脱臭した。次に得られた混合物の40重量%を60重量%のヒマワリ油と混合し、実施例4に従う分画ステップを行った。得られた液体画分を脱臭して12.2重量%のスタノール等量の植物油スタノールエステルを得た。
【0055】
実施例8
減少量の飽和脂肪酸及び増加量の多不飽和脂肪酸を有するスタノール脂肪酸エステルの直接の調製
ダイズ油脂肪酸メチルエステルを、主にパルミチン酸成分の量を減少させるために182℃及び10mmHgで分画蒸留にかけた。得られた脂肪酸メチルエステルは、67.2%の多不飽和脂肪酸及び4.8%の飽和脂肪酸を含んだ。スタノール脂肪酸を300gの水素化植物油スタノール(組成:シトスタノール67.3%、カンペスタノール(+24−メチルコレステロール)30.3%、シトステロール1.5%、カンペステロール0.8%及び他成分0.4%)、及び322gの蒸留したダイズ脂肪酸メチルエステルを用いて研究室スケールで生産した。反応は機械撹拌器を備えた1.5リッターガラス反応器内で行った。用いた条件は実施例1と同じであった。研究室スケールでは脱臭装置は利用できないので、得られたスタノールエステルは十分に精製されなかった。しかしながら、スタノールエステルの脂肪酸組成は、エステル化反応に用いたダイズ脂肪酸メチルエステルの脂肪酸組成に等しかった。
【0056】
本発明で特定される脂肪酸組成物のステロール及び/又はスタノールエステルは、先行技術のいずれかの方法により生産される特定の脂肪酸組成物で、脂肪酸アルコールエステルでのエステル化によっても得ることができることは当業者に明らかである。更に、本発明によるステロール及び/又はスタノールエステルは、いずれかのエステル化法、例えば直接的、好ましくは触媒エステル化、トランスエステル化又は酵素容易化エステル化を介して得ることができることが明らかである。ステロール及びスタノールのいずれの混合物も本発明によるステロール及び/又はスタノール脂肪酸組成物の調製に利用することができることも明らかである。
【0057】
実施例4〜7は、高PUFAステロール及び/又はスタノールエステルが、より高い融点のステロールエステル及びスタノールエステルを除去するよう処理して本発明によるステロール及び/又はスタノール組成物を得ることができることを明らかに示す。高PUFAステロール及び/又はスタノールエステルは、いずれかの高PUFA植物油、例えばダイズ油、ヒマワリ油、コーン油、ベニバナ油、綿実油又はそれらの混合物から脂肪酸に基づいて生産することができる。それほど多不飽和脂肪酸量を含まない(50%未満)油又は脂肪混合物は、本発明によるステロール及び/又はスタノールエステル組成物中に含まれるべき脂肪酸部分のための出発材料として用いることもできることは当業者に明らかである。
【0058】
市販のステロール又はそれらの対応するスタノールのいずれのステロール又はスタノール組成物又は混合物も、本発明によるステロール及び/又はスタノールエステル混合物を得るための出発材料として用いることができることは当業者に明らかである。更に、4−デスメチルステロール、4−モノメチルステロール及び4,4−ジメチルステロール(トリテルペンアルコール)を含む植物ステロールのいずれの天然の混合物も、又はそれらの対応する飽和ステロール(スタノール)又はステロール及びスタノールの混合物も、本発明によるステロール及びスタノールエステルの調製のための出発材料として用いることができることが当業者に明らかである。このような植物ステロール及びトリテルペンアルコールの可能なソースは、コメヌカ油又はコメヌカ油から得られるオリザノール、シアバターから得られるステロール、又はあまに油である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸成分が、7%未満の飽和脂肪酸と、50%超の多不飽和脂肪酸と、の混合物を含むことを特徴とするステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステル組成物。
【請求項2】
前記脂肪酸成分の5%未満が飽和脂肪酸を含むことを特徴とする請求項1に記載のステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステル組成物。
【請求項3】
前記脂肪酸成分の60%超、好ましくは65%超が、多不飽和脂肪酸を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステル組成物。
【請求項4】
前記脂肪酸成分が多不飽和脂肪酸の混合物であることを特徴とする請求項1に記載のステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステル組成物。
【請求項5】
前記脂肪酸成分が、4〜24の炭素原子を含む脂肪酸を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一に記載のステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステル組成物。
【請求項6】
スタノール部分が、シトスタノール及び任意にカンペスタノールを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一に記載のステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステル組成物。
【請求項7】
ステロール及び/又はスタノールのいずれかの混合物を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一に記載のステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステル組成物。
【請求項8】
食品におけるステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステル組成物の使用であって、脂肪酸成分の7%未満が飽和脂肪酸を含み、50%超が多不飽和脂肪酸を含むことを特徴とする使用。
【請求項9】
食用油又は脂肪混合物における請求項8に記載の使用であって、脂肪酸成分の7%未満が飽和脂肪酸を含み、50%超が多不飽和脂肪酸を含むことを特徴とする使用。
【請求項10】
前記食品が低脂肪製品であることを特徴とする請求項8に記載の使用。
【請求項11】
前記食品がサラダ油、クッキングオイル、容易に注げるサラダドレッシング、ソース、マヨネーズ、スプレッド又はバターであることを特徴とする請求項8〜10のいずれか一に記載の使用。
【請求項12】
消化管からのコレステロールの吸収を低下させるために用いるカプセル内の活性成分としてのステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステル組成物の使用であって、脂肪酸成分の7%未満が飽和脂肪酸を含み、50%超が多不飽和脂肪酸を含むことを特徴とする使用。
【請求項13】
前記組成物がスタノール脂肪酸エステル組成物を含むことを特徴とする請求項8〜12のいずれか一に記載の使用。
【請求項14】
前記組成物が請求項2に記載の組成物であることを特徴とする請求項8〜12のいずれか一に記載の使用。
【請求項15】
ステロール及びスタノールのいずれかの混合物を用いることを特徴とする請求項8〜12のいずれか一に記載の使用。
【請求項16】
ステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステル組成物を含む高いステロール及び/又はスタノール成分の食用油又は脂肪混合物であって、脂肪酸成分の7%未満が飽和脂肪酸を含み、50%超が多不飽和脂肪酸、並びに植物油、油混合物又は脂肪混合物を含むことを特徴とする食用油又は脂肪混合物。
【請求項17】
脂肪酸成分の7%未満が飽和脂肪酸を含み、50%超が多不飽和脂肪酸を含むステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステル組成物を調製するための方法であって、該組成物の脂肪酸混合物を、遊離ステロール及び/又はスタノールで、直接好ましくは触媒エステル化もしくは酵素的エステル化によりエステル化し、又は前記組成物の脂肪酸混合物のアルコールエステルを、遊離ステロール及び/又はスタノールで、エステル交換触媒の存在下でエステル化することを含む方法。
【請求項18】
脂肪酸成分の7%未満が飽和脂肪酸を含み、50%超が多不飽和脂肪酸を含むステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステル組成物を調製するための方法であって、高PUFAステロール及び/又はスタノールを、分画過程、例えば溶媒分画、乾燥分画又は界面活性剤分画にかけることを特徴とする方法。
【請求項19】
前記高PUFAステロール及び/又はスタノールエステルが、直接好ましくは触媒エステル化もしくは酵素的エステル化により高多不飽和脂肪酸混合物を遊離ステロール及び/又はスタノールでエステル化することにより、又は高多不飽和脂肪酸混合物のアルコールエステルを、遊離ステロール及び/又はスタノールで、エステル交換触媒の存在下でエステル化することにより生産されることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記多不飽和脂肪酸が、高多不飽和植物油又は高多不飽和植物油混合物から得られることを特徴とする請求項17〜19のいずれか一に記載の方法。
【請求項21】
前記多不飽和脂肪酸が魚油又は1もしくは複数の植物油と魚油との混合物から得られることを特徴とする請求項17〜19のいずれか一に記載の方法。
【請求項22】
脂肪酸成分の7%未満が飽和脂肪酸を含み、50%超が多不飽和脂肪酸を含む、液体植物油並びにステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステル組成物を含む高ステロール及び/又はスタノール成分の食用油又は脂肪混合物を調製するための方法であって、ステロール及び/又はスタノールエステルを高PUFAステロール及び/又はスタノールエステル並びに植物油又は油混合物から分画してより高い融点のステロール及び/又はスタノールエステルを除去することを特徴とする方法。
【請求項23】
脂肪酸成分の7%未満が飽和脂肪酸を含み、50%超が多不飽和脂肪酸を含むステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステル組成物を調製するための方法であって、
a)ステロール及び/又はスタノールを、過剰な量の高PUFAアルコールエステルで、エステル交換触媒の存在下でエステル化し、そして
b)高PUFAアルコールエステル中のステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステルを分画して前記エステル組成物を得ること
を含む方法。
【請求項24】
前記分画が、エステル化の後、脂肪酸アルコールエステル、好ましくはエステル化に用いたのと同じ高PUFAアルコールエステルを加えることにより容易にされることを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
分画手順の前に、ステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステル並びに高PUFAアルコールエステル混合物を洗浄し、乾燥させ、そして任意に漂白する更なるステップを含む請求項23又は24に記載の方法。
【請求項26】
未反応の高PUFAアルコールエステルを、前記分画された混合物から、好ましくは脱臭により除去する更なるステップを含む請求項23〜25のいずれか一に記載の方法。
【請求項27】
脂肪酸成分の7%未満が飽和脂肪酸を含み、50%超が多不飽和脂肪酸を含むステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステル組成物を含む高ステロール及び/又はスタノール成分を食用油又は脂肪混合物を調製するための方法であって、
a)ステロール及び/又はスタノールを、過剰な量の高PUFAアルコールエステルで、エステル交換触媒の存在下でエステル化し、
b)高PUFAアルコールエステル中のステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステルを分画して前記脂肪酸エステル組成物を得て、そして
c)該ステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステルを、植物油又は脂肪混合物と混合すること
を含む方法。
【請求項28】
前記ステップc)が、ステップb)の前に行われることを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記分画手順の前に、ステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステル並びに高PUFAアルコールエステル混合物を洗浄し、乾燥させ、そして任意に漂白する更なるステップを含む請求項27又は28に記載の方法。
【請求項30】
未反応の高PUFAアルコールエステルを、前記分画した混合物から、好ましくは脱臭により除去する更なるステップを含む請求項27〜29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
ステップcの後に、前記混合物を脱臭する更なるステップを含む請求項27〜30のいずれか一に記載の方法。
【請求項32】
脂肪酸成分の7%未満が飽和脂肪酸を含み、50%超が多不飽和脂肪酸を含むステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステル組成物を含む高ステロール及び/又はスタノール成分の食用油又は脂肪混合物を調製するための方法であって、
a)ステロール及び/又はスタノール並びに食用油を、過剰な量の高PUFAアルコールエステルで、エステル交換触媒の存在下でエステル交換し、そして
b)前記ステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステルを分画して前記組成物を得ること
を含む方法。
【請求項33】
前記分画手順の前に、洗浄し、乾燥させ、そして任意に漂白及び/又は脱臭して、エステル交換された油並びにステロール及び/又はスタノール脂肪酸エステルの精製され、漂白され及び脱臭された混合物を得ることを含む更なるステップを含む請求項32に記載の方法。
【請求項34】
ステップaの後又は精製ステップの後に、食用油又は脂肪を前記混合物に加えることを特徴とする請求項32又は33に記載の方法。
【請求項35】
前記食用油又は脂肪混合物を脱臭することを含む更なる最後のステップを伴う請求項32〜34のいずれか一に記載の方法。
【請求項36】
請求項1又は2に記載の組成物が、スタノール脂肪酸エステル組成物を含むことを特徴とする請求項17〜35のいずれか一に記載の方法。
【請求項37】
前記組成物が請求項2に記載の組成物であることを特徴とする請求項17〜35のいずれか一に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−17468(P2012−17468A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−207475(P2011−207475)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【分割の表示】特願2000−546604(P2000−546604)の分割
【原出願日】平成11年5月6日(1999.5.6)
【出願人】(508291892)ライシオ ニュートリション リミティド (1)
【Fターム(参考)】