説明

フィルタエレメントの製造方法

【課題】製造工程を簡素化して製造コストを低減することができるとともに、フィルタエレメントを透過する流体の圧力損失を抑制することができるフィルタエレメントの製造方法を提供する。
【解決手段】第1繊維14よりなる第1濾材層12の表面に対し、第2繊維16よりなる第2濾材層13を積層する。前記第1濾材層12の隙間g1及び第2濾材層13の隙間g2に接着剤15を含浸させ、第1繊維14と第2繊維16の接触部を接着剤15により接着して第1濾材層12と第2濾材層13を接合する。前記第1繊維14の隙間g1に対し、前記第2不織繊維16と同じ不織繊維を進入させて各繊維の接触部を接着剤15により接着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車のエンジン用エアフィルタ等のフィルタエレメントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のフィルタエレメントとして、特許文献1には、例えば金属ワイヤ織布又はセルロースベースのフィルタペーパよりなる支持層の表面に対し、メルトブロー法によって製造されたメルトブロー・フリース(濾材層)を積層接着した2層構造のものが提案されている。前記支持層は濾材層を安定して支持するためのものであり、該支持層の濾過作用は濾材層に比べて無視できる程度となっている。
【特許文献1】特表2001−523562号公報( 段落番号0005及び0006参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上記従来のフィルタエレメントは、支持層及び濾材層を別工程で製造した後に、両層を接着剤により接着する方法を採っているので、両層の接着のみを行う接着工程が必要で、製造工程が増加して煩雑になり、製造コストを低減することができないという問題があった。
【0004】
又、上記従来のフィルタエレメントは、支持層と濾材層とが両層を接着するためだけに用いられて濾過には不要な接着剤により接着されているので、この接着剤により濾材層の隙間(フィルタの目)の一部が塞がれて、濾過されるエアの通過抵抗が大きくなり、高い圧力損失が生じるという問題があった。このため、フィルタエレメントが自動車のエンジンのエアフィルタにおいて使用される場合にはエンジンの吸気抵抗が高くなり、燃焼効率が低下するという問題が発生する。
【0005】
本発明は、上記従来の問題点を解消して、製造工程を簡素化して製造コストを低減することができるとともに、通過流体の圧力損失を低減することができるフィルタエレメントの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、液体に第1繊維が分散されたスラリーを抄造することにより第1濾材層を形成する第1工程と、前記第1濾材層の上面に第2繊維よりなる第2濾材層を形成する第2工程と、上記第2工程と同時に、又は該第2工程の後に、湿潤状態の第1濾材層及び第2濾材層のうち少なくとも第1濾材層に含まれる水分を除去する第3工程と、上記第3工程の後に、前記両濾材層に接着剤を含浸させて、第1繊維相互の接触部及び第1繊維と第2繊維の接触部を接着剤により接着する第4工程と、上記第4工程の後に、前記第1濾材層及び第2濾材層を乾燥させる第5工程とを含むことを要旨とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記水分を除去する工程は、第2濾材層から第1濾材層に向かう吸引気流を発生させることにより行われることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1において、前記水分を除去する工程は、第1濾材層を加熱乾燥させることにより行われることを要旨とする。
【0008】
(作用)
請求項1に記載の発明は、第1濾材層の隙間に含まれる水分を除去する工程の後に、前記両濾材層に接着剤を含浸させて、第1繊維相互の接触部及び第1繊維と第2繊維の接触部を接着剤により接着するようにした。このため、第1濾材層と第2濾材層に接着剤を含浸させる工程で、第1濾材層と第2濾材層を接合することができ、両層を接着するためだけの専用の接着工程を省略して、製造工程を簡素化でき、製造コストを低減することができる。又、第1濾材層と第2濾材層を接着するためだけに用いられる接着剤が存在しないので、両層の接合界面付近の隙間、つまりフィルタの目が小さくなることはなく、通過流体の圧力損失を抑制することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフィルタエレメントの製造方法は、製造工程を簡素化して製造コストを低減することができるとともに、製造されたフィルタエレメントを透過する流体の圧力損失を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面にしたがって説明する。
最初に、図1に基づいて、フィルタエレメント11の構造を説明する。このフィルタエレメント11は、第1濾材層12と、その第1濾材層12の上面に積層接着された第2濾材層13とにより構成されている。前記第1濾材層12はパルプよりなる繊維径が10〜40μm、繊維長が1〜4mmの無数の第1繊維14を複雑に交絡させるとともに、各第1繊維14の相互の接触部は接着剤15により接着され、全体として厚さt1が0.4〜0.6mmの不織布シート状に形成されている。各第1繊維14の間にはエアを通過させる無数の隙間(目)g1が形成され、第1濾材層12はその空隙率が85%となっている。
【0011】
前記第2濾材層13は例えばポリエチレンテレフタレート(PET)よりなる繊維径が1〜10μmの多数の第2繊維16を複雑に交絡させるとともに、各第2繊維16は相互の接触部16aが融着により一体化されており、全体として厚さt2が0.05〜0.15mmの不織布シート状に形成されている。各第2繊維16の間にはエアを通過させる無数の隙間(目)g2が形成され、第2濾材層13はその空隙率が95%となっている。
【0012】
そして、前記第2濾材層13側の表層部の隙間g1に対し、前記第2繊維16の一部が進入され、該第2繊維16は接着剤15により第1繊維14と接着されている。このため、第1繊維14と第2繊維16との混合により前記表層部の隙間g1の空隙率が80%と小さくなっている。
【0013】
上記フィルタエレメント11は、エアクリーナのケース(図示略)の内部において、第2濾材層13がエア流路の上流側に位置し、第1濾材層12が下流側に位置するように収容される。そして、濾過されるエアが図1の矢印で示すようにフィルタエレメント11を透過する際に、第2濾材層13の前記隙間(目)g2によりエアに含まれる比較的大きい塵埃が捕捉される。又、第1濾材層12の隙間(目)g1によってエアに含まれる微細な塵埃が捕捉される。
【0014】
ここで、前記第1濾材層12の第1繊維14の単位面積当りの重量、つまり目付は、50〜200g/mに設定され、第2濾材層13の第2繊維16の目付は、2.5〜20g/mに設定されている。
【0015】
次に、図2〜図6に基づいて、上記のように構成されたフィルタエレメント11の製造方法について説明する。
図6に示すように、複数のプーリ21には、抄造用の網よりなる無端状のコンベアベルト22が装着され、図示しない駆動機構により矢印方向に所定の速度で周回されるようになっている。前記コンベアベルト22の上側の往行部22aの上流側には、該往行部22aの上面に湿潤状態の第1濾材層12を形成するための第1濾材層形成装置(抄造機)23が装着されている。この第1濾材層形成装置23の容器24内には、液体としての水と第1繊維(パルプ)14を混合して攪拌したスラリー25が貯留されており、該容器24からポンプ26によりスラリー25が供給口27に供給され、該供給口27からスラリー25が前記ベルト22の往行部22aの上面に供給される。この第1工程としての抄造工程により、図2に示すようにベルトの往行部22aの上面に無数の第1繊維14よりなる湿潤状態の第1濾材層12が形成される。
【0016】
図6に示すように、前記第1濾材層形成装置23の下流側には、メルトブローン装置31が装着されている。このメルトブローン装置31は溶融したポリエチレンテレフタレート(熱可塑性樹脂)を紡糸ノズル32から紡糸して、該ノズル32の出口に高温・高圧の空気流を吹き出して紡糸繊維を延伸するようになっている。そして、この延伸された第2繊維16が図3に示すように前記往行部22a上の第1濾材層12の上面で薄く積層するようにランダムに交絡され、不織布シート状の第2濾材層13が形成される。この第2工程により形成された第2濾材層13の第2繊維16の無数の接触部16aは半溶融状態の繊維自体の融着力により融着されて接続されている。
【0017】
図6に示すように、前記メルトブローン装置31の下流側には、吸引装置35が装着されている。この吸引装置35は吸引エアをガイドするエアガイド36と吸引ポンプ37により構成されている。そして、第1濾材層12及び第2濾材層13を載せた前記ベルトの往行部22aがエアガイド36を通過する間に、図4に矢印で示すように前記第2濾材層13から第1濾材層12及び前記往行部(網)22aを透過する気流を発生させる。この気流により第1濾材層12に含浸されていた水分が下方に吸引除去される。前記気流により水分を吸引除去する第3工程において、図4に示すように、第1濾材層12の上層部の第1繊維14の隙間g1内に第2濾材層13の第2繊維16の一部が気流により引き込まれる。
【0018】
次いで、図6に示すように、前記吸引装置35の下流側のプーリ21によって、コンベアベルト22の上面からフィルタエレメント11が分離され、このフィルタエレメント11は接着剤含浸装置41の上下一対の含浸ローラ42,43の間に供給される。そして、第4工程において、前記両含浸ローラ42,43には例えばフェノール樹脂等の熱硬化性の接着剤15が含浸され、図5に示すように含浸ローラ42,43によって第1濾材層12の隙間g1及び第2濾材層13の隙間g2に前記接着剤15が含浸される。含浸された接着剤15は第1繊維14相互の接触部及び第1繊維14と第2繊維16の接触部に付着され、前記接触部は接着剤15によって接着される。
【0019】
次の第5工程において、接着剤15が含浸されたフィルタエレメント11は、図6に示すように乾燥装置45に供給される。この乾燥装置45によりフィルタエレメント11が加熱されて乾燥され、接着剤15が乾燥硬化されて、第1濾材層12の第1繊維14及び第2濾材層13の第2繊維16が図1に示すように不織布シート状に形成され、フィルタエレメント11の製造が完了する。なお、このフィルタエレメント11はロール46に巻き取られた後、使用目的に応じて所定の寸法に裁断されて例えばエアフィルタのフィルタエレメントとして用いられる。
【0020】
上記実施形態のフィルタエレメントの製造方法によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、前記第1濾材層12の各第1繊維14相互の接触部を前記接着剤15により接着する工程と同時に、第1濾材層12の第1繊維14と、第2濾材層13の第2繊維16の接触部が前記接着剤15により接着されて、第1濾材層12と第2濾材層13が接着される。このため、第1濾材層12と第2濾材層13をそれぞれ別々に製造した後、両層を専用の接着工程により接着する必要がなく、製造工程を簡素化することができる。
【0021】
(2)上記実施形態では、第1濾材層12と第2濾材層13を接着するためだけに用いられる余剰接着剤が存在しないので、両層12,13の接合界面付近の隙間、つまりフィルタの目が小さくなることはなく、フィルタを透過するエアの圧力損失を抑制することができる。このため、自動車のエンジンのエアフィルタの場合には吸気抵抗が低くなり、燃焼効率を向上することができる。
【0022】
(3)上記実施形態では、吸引装置35により第1濾材層12の隙間g1内の水分を吸引除去する工程において、第1濾材層12の第2濾材層13側の表層部の隙間g1に、図4に示すように第2濾材層13の第2繊維16の一部の繊維16を引き込むようにした。このため、第1濾材層12と第2濾材層13の結合強度を向上することができるとともに、前記第1濾材層12の表層部の単位体積当りの繊維の密度が多くなって、この表層部におけるエア中の塵埃の捕捉量を増加することができる。
【0023】
(4)上記実施形態では、厚さt1が厚く、空隙率の小さい第1濾材層12と、厚さt2が薄く、かつ空隙率の大きい第2濾材層13とによりフィルタエレメント11が構成されている。このため、第2濾材層13により濾過されるエアに含まれる比較的大きい塵埃が捕捉され、微細な塵埃が第1濾材層12により捕捉され、フィルタエレメント11全体として塵埃の選別捕捉を効果的に行うことができる。
【0024】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・前記メルトブローン装置31による第2濾材層13の形成方法に代えて、エレクトロスピニング法により濾材層13を形成するようにしてもよい。この手法は高分子溶液に高電圧を印加することによって溶液を第1濾材層12の上面にスプレーして、該第1濾材層12の上面に極細の無数の繊維を薄く積層して不織布シート状の第2濾材層13を形成するものである。上記繊維径は50〜500nmに設定される。
【0025】
・予め製造された帯状の第2濾材層13を、湿潤状態の第1濾材層12の表面に積層させた後に、第1濾材層12と第2濾材層13を吸引装置35へ送るようにしてもよい。この場合にも第1濾材層12と第2濾材層13を接着するための専用の接着工程と、そのための接着剤とが不要になり、製造工程を簡素化することができるとともに、フィルタエレメント11を透過する流体の圧力損失を低減することができる。
【0026】
・前記メルトブローン装置31による第2濾材層13の形成工程と同時に吸引装置35により第1濾材層12の水分を吸引除去を行うようにしてもよい。
・湿潤状態の第1濾材層12の上面に対し、該第1濾材層12と同様に抄造された湿潤状態の第2濾材層13を積層し、両層12,13から水分を吸引除去するように構成してもよい。
【0027】
・前記吸引装置35を省略し、湿潤状態の第1濾材層12の水分を加熱装置を用いて加熱除去するようにしてもよい。この実施形態の場合には、第1濾材層12の隙間g1内への第2濾材層13の第2繊維16と同じ繊維が引き込まれることはないが、前述したように第1濾材層12と第2濾材層13を接着するだけの専用の接着工程と、そのための接着剤とが不要になり、製造工程を簡素化することができるとともに、透過流体の圧力損失を低減することができる。
【0028】
・第1濾材層12を製造するパルプ以外の例えば桑の葉等の各種の植物の有機繊維を用いてもよく、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂繊維を用いてもよい。
・第1濾材層12の第1繊維14としてマーセル化した繊維を用いてもよい。
【0029】
・本発明を自動車のエアフィルタに用いられるフィルタエレメント以外に例えば空調装置等のフィルタエレメントに具体化してもよい。
(技術的思想)
前述した実施形態から把握される請求項以外の技術的思想について説明する。
【0030】
(1)請求項1又は2において、前記第2濾材層を形成する工程は、メルトブローン法により行われることを特徴とするフィルタエレメントの製造方法。
(2)請求項1又は2において、前記第2濾材層を形成する工程は、エレクトロスピニング法により行われることを特徴とするフィルタエレメントの製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明を自動車のエアフィルタに用いられるフィルタエレメントに具体化した一実施形態を示す略体説明図。
【図2】第1濾材層の製造工程の説明図。
【図3】第2濾材層の製造工程の説明図。
【図4】水分を吸引除去する工程の説明図。
【図5】第1濾材層と第2濾材層の接着工程の説明図。
【図6】フィルタエレメントの製造装置を示す略体構成図。
【符号の説明】
【0032】
g1,g2…隙間、11…フィルタエレメント、12…第1濾材層、13…第2濾材層、14…第1繊維、15…接着剤、16…第2繊維、16a…接触部、35…吸引装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体に第1繊維が分散されたスラリーを抄造することにより第1濾材層を形成する第1工程と、
前記第1濾材層の上面に第2繊維よりなる第2濾材層を形成する第2工程と、
上記第2工程と同時に、又は該第2工程の後に、湿潤状態の第1濾材層及び第2濾材層のうち少なくとも第1濾材層に含まれる水分を除去する第3工程と、
上記第3工程の後に、前記両濾材層に接着剤を含浸させて、第1繊維相互の接触部及び第1繊維と第2繊維の接触部を接着剤により接着する第4工程と、
上記第4工程の後に、前記第1濾材層及び第2濾材層を乾燥させる第5工程と
を含むことを特徴とするフィルタエレメントの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記水分を除去する工程は、第2濾材層から第1濾材層に向かう吸引気流を発生させることにより行われることを特徴とするフィルタエレメントの製造方法。
【請求項3】
請求項1において、前記水分を除去する工程は、第1濾材層を加熱乾燥させることにより行われることを特徴とするフィルタエレメントの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−260623(P2007−260623A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91989(P2006−91989)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】