説明

フィルター及びその製造方法

【課題】高い粒子捕捉性を有し、かつ、透過性に優れたフィルターおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】高分子量PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)未焼結粉末と液状潤滑剤のペースト押出によって得られる成形体を、縦方向に10倍〜40倍、横方向に20倍〜60倍の延伸倍率で延伸してフィルムとする工程と、前記延伸されたフィルムを焼結する工程と、を備えている製造方法としてフィルターを製造しており、該フィルターは、平均孔径が0.01〜0.20μm、かつ、IPA流量(sec)(A)とIPAバブルポイント(kPa)(B)の測定値で示される(A)/(B)の値が0.08以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルター及びその製造方法に関し、詳しくは、超微細粒子の捕捉率を高く保持しながら目詰まりが発生しにくく、しかも、流量透過性に優れ、精密濾過フィルターとして好適に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという)多孔質フィルターは、PTFE自体のもつ高い耐熱性、化学安定性、耐候性、不燃性、高強度、非粘着性、低摩擦係数等の特性に加えて、多孔質体のもつ可撓性、液体透過性、粒子捕捉性、低誘電率等の特性を有し、従来から液体・気体の精密濾過フィルター(メンブランフィルター)、電線被覆用材料、呼吸弁(エアベント)など広範な分野で使用されている。
【0003】
近年、PTFE多孔質フィルターはその高い化学安定性等の優れた特性により、特に半導体関連分野、液晶関連分野、及び食品・医療関連分野における薬液、ガス等の濾過フィルターとして多く使用されている。
このような分野では、さらなる技術革新や要求事項の高まりから、より高性能な精密濾過フィルターが要望されている。具体的には、半導体製造においては年々集積度が高まり、0.5μm以下の領域までフォトレジストが微細化されている。液晶製造においても同様に感光性材料による微細加工が施されるため、さらに小さな領域の微細粒子を確実に捕捉できる精密濾過フィルターが必要となってきている。これらの精密濾過フィルターは主にクリーンルームの外気処理用フィルター、薬液の濾過フィルターとして使用され、その性能は製品の歩留まりにも影響する。
また、食品・医療関連分野においては、近年の安全意識の高まりから、微小異物に対する濾過の完全性(絶対除去性)が強く要望されている。
【0004】
しかし、高い粒子捕捉性を確保しようと孔径の小さいフィルターとすると、透過性、すなわち薬液やエアーの処理速度の低下が生じ、製品の生産性が低下する。現在市販されている孔径0.02μmの微細孔を有するPTFE多孔質膜では、IPA流量が差圧0.95kg/cmで0.0005ml/cm/minとなり、ほとんど透過性が得られていない。
このように、従来の精密濾過フィルターでは、処理速度と粒子捕捉率とのバランスをとることは非常に困難である。
【0005】
前記した問題に対して、種々のPTFE多孔質体が提案されている。
例えば、特開2003−80590号公報(特許文献1)では、PTFEファインパウダー、或いはその押出成形品に対して、延伸加工前に放射線を照射することにより、同じ透過性でも、高い濾過性能を持つ多孔質体を提案している。
しかし、特許文献1の多孔質体は放射線を照射する工程が必須となるため費用がかかり高価となる問題がある。
【0006】
また、特開平7−316327号公報(特許文献2)には、粒子径0.109μmの粒子を90%以上の粒子除去率で除去可能で、気孔率が60〜90%、かつ、差圧1kg/cmで測定したIPA流量が0.6ml/cm/min以上のPTFE多孔質体が提供されている。
特許文献2のPTFE多孔質体は、高い粒子除去率を得ている点では優れているが、透過性においては未だ改善の余地がある。すなわち、IPA流量は0.6ml/cm/min以上としており、特許文献2の実施例のなかでIPA流量が最も良好なものでも、1.8ml/cm/minであるため、濾過には相当な時間を要する。
このように高い粒子除去率と透過性を兼ね備えたフィルターを得るのは困難である。
【0007】
【特許文献1】特開2003−80590号公報
【特許文献2】特開平7−316327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、高い粒子捕捉性を有し、かつ、気体及び液体の透過性に優れたフィルターおよびその製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、高分子量PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)未焼結粉末と液状潤滑剤のペースト押出によって得られる成形体を、
縦方向に10倍〜40倍、横方向に20倍〜60倍の延伸倍率で2軸延伸して多孔質のフィルムとする工程と、
前記延伸された多孔質のフィルムを焼結する工程と、
を備えていることを特徴とするフィルターの製造方法を提供している。
【0010】
本発明者らは鋭意研究した結果、PTFE多孔質体からなるフィルターの製造方法において、従来よりも高分子量のPTFE未焼結粉末を用いると共に、成形体の縦横二軸方向の延伸倍率を高めることにより、微細孔を有しながらも、高い透過性を有する多孔質フィルターが得られることを見出した。
これは、高分子量のPTFE未焼結粉末を用いると、縦横二軸方向に従来よりも高い倍率の延伸を施しても、1つの空孔が過度に広がったり、フィルムが引き裂かれることを防止しながら、高度に繊維化が進行させ、PTFEの塊である結節も実質的になくなり、細い繊維を骨格とする微小な空孔が緻密に備えた多孔質フィルターを作製することができることに因る。よって、微小孔径を有しながらも高い気孔率および流量を得ることができ、処理流量の増大と高粒子捕捉率の両方を達成できる。
【0011】
前記高分子量のPTFE未焼結粉末としては、具体的には、数平均分子量が400万以上のものを用いることが好ましい。より好ましくは1200万以上である。これは現在市販されているPTFE未焼結粉末のうち、分子量のグレードが特に高いものである。
前記した数平均分子量は成形品の比重により求めたものであるが、PTFEの分子量は測定方法によりバラツキが大きく正確な測定が困難であるため、測定方法によっては前記した範囲とはならない場合もある。
数平均分子量の上限は、より高い方が好ましく、特に制限されない。
【0012】
本発明のフィルターの縦方向の延伸倍率は10倍〜40倍としており、好ましくは18倍〜25倍である。縦方向の延伸倍率が10倍未満であると微細孔を形成できず、一方、40倍を超えると繊維化できずに引き裂かれて、大きな孔が生じるおそれがあるからである。
また、横方向の延伸倍率は20倍〜60倍としており、好ましくは30倍〜38倍である。横方向の延伸倍率が20倍未満であると、樹脂の塊が残り、空孔の形状も丸くならず、十分な透過性が得られないため好ましくなく、逆に60倍を超えると繊維が引き裂かれて横方向に孔径が大きくなり過ぎるため好ましくない。
縦横の延伸比は、縦方向及び横方向の繊維長さが等しくなり、丸い孔形状とするためには、1:1〜1:2.7とするのが好ましく、1:2〜1:2.2とするのがより好ましい。
【0013】
また、延伸倍率は面積比で300倍以上とするのが好ましい。さらに好ましくは600倍以上、最も好ましくは800倍以上である。また、延伸倍率(面積比)の上限は2400倍以下とすることが好ましい。
延伸倍率が面積比で300倍未満であると高度に繊維化を進行させることができない。一方、2400倍を超えるとフィルムが薄くなり過ぎて強度が低下してしまう。
【0014】
次に本発明のフィルターの製造方法について詳述する。
第一の工程として、従来から知られているPTFE未焼結粉末のペースト押出法により成形体を製造する。
ペースト押出法では、通常、PTFE樹脂100質量部に対して液状潤滑剤を10〜40質量部、好ましくは16〜25質量部の割合で混合し、押出成形を行う。
【0015】
液状潤滑剤としては、従来からペースト押出法で用いられている各種潤滑剤を使用することができる。例えば、ソルベント・ナフサ、ホワイトオイルなどの石油系溶剤、ウンデカン等の炭化水素油、トルオール、キシロールなどの芳香族炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類、シリコーンオイル、フルオロクロロカーボンオイル、これらの溶剤にポリイソブチレン、ポリイソプレンなどのポリマーを溶かした溶液、これらの2つ以上の混合物、表面活性剤を含む水または水溶液などが挙げられる。
混合物よりも単一成分の方が均一混合することができるため、好ましい。
【0016】
ペースト押出による成形は、PTFEの焼結温度すなわち327℃以下、通常は室温付近で行われる。ペースト押出に先立って、通常、予備成形を行う。予備成形は、前記混合物を例えば10〜500kPa程度の圧力で圧縮成形して、ブロック、ロッド、チューブ、シート状としている。
予備成形で得られる成形体をペースト押出機により押出し、またはカレンダーロールなどにより圧延し、あるいは押出した後、圧延するなどして延伸処理し得る形状の成形体を製造する。
【0017】
次に成形体から液状潤滑剤を除去する。液状潤滑剤は焼結する前に除去すればよく、延伸後に除去してもよいが、延伸前に除去しておくことが好ましい。
液状潤滑剤の除去は、加熱、抽出または溶解などにより行っており、加熱により行うことが好ましい。加熱する場合の加熱温度は、通常、200〜330℃とするのが好ましい。また、シリコーンオイルやフルオロカーボンなどの比較的沸点が高い液状潤滑剤を使用する場合には、抽出により除去するのが好ましい。
【0018】
なお、液状潤滑剤の他に目的に応じて、他の物質を含ませることもできる。
例えば、着色のための顔料、耐磨耗性の改良、低温流れの防止や気孔の生成を容易にする等のためにカーボンブラック、グラファイト、シリカ粉、ガラス粉、ガラス繊維、けい酸塩類や炭酸塩類などの無機充填剤、金属粉、金属酸化物粉、金属硫化物粉などを添加することができる。また、多孔質構造の生成を助けるために、加熱、抽出、溶解等により除去または分解される物質、例えば塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、他のブラスチック、ゴム等を粉末または溶液の状態で配合することもできる。
【0019】
次に、このようにして得られたペースト押出による成形体を縦方向(搬送方向)に10倍〜40倍、横方向(圧延ロールの軸方向)に20倍〜60倍の高倍率で延伸してフィルムとする。
延伸は、通常の方法により、シートを機械的に引き伸ばして行うことができる。例えば、一つのロールから他のロールに巻き取る際に、巻き取り速度を送り速度よりも大きくしたりして延伸させたり、相対する二辺をつかんで、その間隔を広げるように引き伸ばしたりして行なうことができる。縦方向と横方向の延伸は、それぞれ一軸ずつ延伸する逐次二軸延伸としてもよいし、同時二軸延伸としてもよい。
また、前記範囲の延伸倍率を達成するために、縦方向と横方向の延伸はそれぞれ1段の延伸により行ってもよいし、2段以上の延伸により行ってもよい。例えば、縦方向の延伸を2段で行ったのち、横方向の延伸を2段で行う等である。
【0020】
延伸は、融点以下のできるだけ高温で行うのが好ましい。好ましくは室温(もしくは20℃)〜300℃、さらに好ましくは250℃〜280℃である。
低い温度で延伸を行うと、比較的孔径が大きく、気孔率が高い多孔質膜を生じ易く、高い温度で延伸を行うと、孔径の小さい緻密な多孔質膜を生じ易い。
これらの条件を組合わせることにより、孔径や気孔率をコントロールすることができるが、本発明では孔径の小さい緻密な多孔質膜とするため、比較的高い延伸温度とすることが好ましい。
延伸は、20〜70℃の低温で1段延伸した後、さらに前記のような高温条件下で2段目の延伸を行ってもよい。
【0021】
さらに、延伸後のフィルムの収縮を防止するために熱固定を行うことが好ましい。
本発明では、特に延伸倍率を高めているので多孔質構造を消失させないため、熱固定は重要である。前記横方向の延伸を行った直後に行なうことが好ましく、2段以上の延伸を行う場合には各段の延伸後に行うことが好ましい。
熱固定は、通常、延伸フィルムの両端を固定するなど緊張下に保って、雰囲気温度200〜500℃で0.1〜20分間保持することにより行う。
【0022】
次いで、延伸フィルムを焼結する。焼結は、PTFEの転移点である327℃以上の焼結温度とし、数分から数十分程度、場合によってはそれ以上の時間加熱することによって行う。通常は、350〜500℃に保った炉中で加熱するのが適当である。
焼結を行うことにより、延伸フィルムの引張強度が急激に高くなり、PTFE多孔質体の単体膜でフィルター化できる強度を付与することができる。これは、繊維化した延伸成形体の繊維が溶融し合って、繊維径が太くなると共に均一化され、高強度化すると同時に、熱収縮及び溶剤収縮が防止されるためである。
【0023】
このようにして得られた本発明のフィルターは厚みを20μm以下としていることが好ましい。さらに好ましくは15μm以下である。
本発明では、二軸方向に高延伸倍率で延伸しているため、薄いフィルターを得ることができる。
【0024】
さらに、本発明の第二の発明として、高分子量PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)未焼結粉末と液状潤滑剤を含む組成物で成形されたフィルターであって、
平均孔径が0.01〜0.20μm、かつ、
IPA流量(sec)(A)とIPAバブルポイント(kPa)(B)の測定値で示される(A)/(B)の値が0.08以下であることを特徴とするフィルターを提供している。
【0025】
第二の発明のフィルターは、前記特性を有していれば前述した製造方法により製造されたものに限定されないが、前記した製造方法によるものであることが好ましい。
【0026】
第二の発明のフィルターは、平均孔径を0.01〜0.20μmとしている。該範囲の平均孔径とすると、高い粒子捕捉性を確保することができる。
さらに高い粒子捕捉性とするため、平均孔径は、0.01〜0.05μmとするのが好ましく、0.01〜0.03μmとするのが最も好ましい。
平均孔径は、細孔直径分布測定装置(米国Porus Materials社製 多孔質材料自動細孔径分布測定システム)により測定している。
【0027】
さらに、IPA流量(sec)とIPAバブルポイント(kPa)(B)の測定値で示される(A)/(B)の値が0.08以下としている。より好ましくは0.06以下である。
前記(A)/(B)の値は、孔径が小さく、かつ、透過性の優れているフィルターの評価方法として用いることができる。すなわち、孔径が小さくなる程IPAバブルポイントは大きくなり、透過性が良好である程IPA流量は小さくなるため、(A)/(B)の値が小さい程優れたフィルターあるといえる。
よって、(A)/(B)の値を0.08以下とすれば、微細孔を有し、かつ、透過性に優れたフィルターとすることができる。
【0028】
前記IPA流量(sec)は10以下であることが好ましい。さらに好ましくは8以下である。IPA流量が10を超えると、孔径が大きく、粒子捕捉性が悪くなるため好ましくない。
IPA流量は、100mlのイソプロピルアルコール(IPA)がフィルター1cmを通過するのに要する時間としており、差圧を70cmHg(0.0931MPa)としている。
【0029】
前記IPAバブルポイント(kPa)は100以上であることが好ましい。さらに好ましくは120以上である。IPAバブルポイントが100未満であると、孔径が大きく、粒子捕捉性が悪くなるため好ましくない。
【0030】
さらに、空孔を囲む骨格の最大幅は2μm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、0.8μm以下である。これは、最大幅が2μmを超えるとフィルターの表面積が小さくなるため、十分な透過性を得ることができないからである。
空孔を囲む骨格の最大幅は、走査電子顕微鏡写真による3000〜5000倍の観察、および画像処理ソフトにより算出して行っている。
【0031】
気孔率は80%以上95%以下であることが好ましい。さらに好ましくは、85%以上90%以下である。本発明のフィルターのように孔径が小さい場合、気孔率が80%未満であると流量が低下しやすく、95%を超えると強度が低下するおそれがあるからである。
気孔率は、ASTM−D−792に記載の方法で測定している。この数値が高い程透過性に優れていることを示す。
【0032】
空気流量(ガレー秒)は5秒以下であることが好ましい。さらに好ましくは、2秒以下である。空気流量が5秒を超えると濾過速度が低下するため好ましくない。
空気流量(ガレー秒)は、ASTM−D−726に記載の方法で測定しており、差圧13.16mmH0(129Pa)で、試料1平方インチ(6.45cm)を100mlの空気が流れるのに要する時間である。
【0033】
さらに、粒子径が0.05μmである粒子の粒子捕捉率が90%以上とすることが好ましい。さらに95%以上であることが好ましく、99%以上であることが最も好ましい。これは粒子捕捉率が90%未満であると濾過の完全性に乏しく、本発明の目的を達するフィルターとはならないからである。
粒子捕捉率は、次の方法により測定している。
フィルターを直径47mmの円形に打ち抜き、ホルダーにセットし、粒子径0.05μmのポリスチレンラテックス均質粒子(ダウ・ケミカル社製)を1.4×1010個/cmの割合で含有する水溶液を調製し、その32cmをセットしたフィルムにより、41.2kPaの圧力で濾過を行い、濾過前の水溶液と濾液の吸光度を測定し、その比により求めている。吸光度は、紫外可視分光光度計(島津製作所製UV−160)を用い、波長310nmで測定している(測定精度1/100)。
【0034】
このように本発明のフィルターは、微細孔径を有するため、高い粒子捕捉率を有するにもかかわらず、液体および気体に対する透過性に優れている。
【発明の効果】
【0035】
前述したように、本発明によれば、高分子量PTFE未焼結粉末と液状潤滑剤のペースト押出によって得られる成形体を、縦方向に10倍〜40倍、横方向に20倍〜60倍の高延伸倍率で延伸しているので、結節が実質的に存在しない緻密で細い繊維を骨格とするフィルターを作製することができる。その結果、高い表面積を確保できるので、微細孔を有するにもかかわらず気孔率及び流量の高いフィルターを製造することができる。
【0036】
本発明のフィルターは、微細孔を有することにより粒子捕捉性が高いにもかかわらず、透過性にも優れるので、特に濾過の完全性と処理速度が要求される半導体、液晶分野および食品・医療分野の製造工程で使用する気体用、液体用の精密濾過フィルターとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明の実施形態のフィルターの製造方法を詳述する。
初めに、第一の工程として、PTFE未焼結粉末(ファインポリマー)100質量部に対して、液状潤滑剤を16〜25質量部の割合で配合し、混合している。
PTFE未焼結粉末としては、数平均分子量1500万以上の高分子量のものを用いている。
液状潤滑剤としては、ソルベント・ナフサ、ホワイトオイルなどの石油系溶剤を用いている。
【0038】
次いで、得られた混合物を圧縮成形機により圧縮成形し、ブロック状の成形体とし(予備成形)、該ブロック状の成形体を、室温から50℃の温度で、速度20mm/minで、シート状に押出成形している。
さらに、得られたシート状成形体をカレンダーロールなどにより圧延し、厚さ300μmのフィルム状成形体としている。
【0039】
次の工程として、液状潤滑剤を前記シート状成形物から除去するため、ロール温度130〜220℃の加熱ロールに通して、フィルム状成形体を乾燥している。
【0040】
次に、このようにして得られたペースト押出による成形体を縦方向に延伸している。
本実施形態においては、縦延伸は送りロールの速度よりも巻き取りロールの速度を大きくして、その周速差により引き伸ばしている。縦延伸は2段延伸で行っており、1段目の延伸倍率を3〜6倍、2段目の延伸倍率を4〜6倍とし、縦方向全体で15倍〜30倍の延伸倍率で延伸している。縦延伸時のロール温度は250〜280℃としている。
【0041】
次に、横方向に延伸している。横延伸は、縦延伸されたフィルムの相対する二辺をつかんで、その間隔を広げるように引き伸ばしている。横延伸も2段延伸で行っており、1段目の延伸倍率を5〜10倍、2段目の延伸倍率を6〜8倍とし、横方向全体で30倍〜60倍延伸している。
横延伸は炉の内部で行っており、1段目は50℃の低温雰囲気下で、2段目は220〜240℃の高温雰囲気下で行っている。各段の延伸後にはフィルムが収縮するのを防止するため、各段の延伸後に230〜300℃で0.25〜1分間保持して、熱固定を行っている。
【0042】
このように縦方向、横方向の二軸に延伸されたフィルム状成形物は、面積比で300倍以上に延伸されている。縦横の延伸比は、1:2〜1:2.2としている。
【0043】
次いで、得られた延伸フィルムを焼結している。焼結は、350〜370℃に保った炉中で15〜25分加熱することにより行っている。
焼結を行うことにより、延伸成形体の引張強度が急激に高くなり、PTFEフィルターの単体膜に強度を付与することができる。
【0044】
このようにして得られたフィルターは、平均孔径が0.01〜0.03μm、IPA流量(sec)が8以下、IPAバブルポイント(kPa)が100以上となり、IPA流量(sec)(A)とIPAバブルポイント(kPa)(B)の測定値で示される(A)/(B)の値が0.08以下となる。
このように、孔径が小さく、高い粒子捕捉性を有するにもかかわらず、透過性に優れたフィルターとなっている。
【0045】
さらに、前記フィルターは、空孔を囲む骨格の最大幅が2μm以下、気孔率が80%以上95%以下、空気流量(ガレー秒)が2秒以下、粒子径が0.05μmである粒子の粒子捕捉率が90%以上となる。このように実質上結節がなく、繊維の直径は細く緻密であり、粒子捕捉率が高いにも関わらず、気孔率および空気流量が良好であり、透過性が高い。
【0046】
以下、本発明のフィルターの実施例および比較例について述べるが、本発明の効果は実施例にのみ限定して解釈されるべきではない。
【0047】
(実施例)
PTFEファインパウダー(デュポン社製 PTFE 601A)100質量部に対し、液状潤滑剤(出光石油社製 スーパーゾルFP−25、(成分:ナフサ))18質量部の割合で配合・混合し、成形機に入れて圧縮成形し、ブロック状成形物を得た。
次に該ブロック状成形物を連続的にシート状に押出したのち、圧延ローラに通し、さらに液状潤滑剤を除去するために加熱ロール(130〜220℃)に通してロールに巻き取り、300μmのシートを得た。
次にロール温度250℃〜280℃で縦方向(流れ方向)に5倍延伸したのち、同温度条件でさらに5倍延伸した。すなわち、縦延伸は2段で25倍の延伸倍率とした。
縦延伸後のフィルムの幅方向の両端をチャックで掴み、流れ方向とは垂直な方向に50℃の雰囲気下で5倍延伸を行ったのち、そのまま240℃で0.25〜1分間保持して熱固定を行った。続いて150℃の雰囲気下で7倍延伸を行ったのち、そのまま240℃で0.25〜1分間保持して熱固定を行った。すなわち、2段で35倍の延伸倍率で横延伸を行った。
このように延伸されたシートを360℃の加熱炉を通過させて20分間焼結し、実施例のフィルターを得た。
【0048】
(比較例)
PTFEファインパウダー(旭硝子社製 CD123 品番、分子量1200万)100質量部に対し、液状潤滑剤(出光石油社製 スーパーゾルFP−25、(成分:ナフサ))18質量部の割合で配合し、混合後、成形機に入れて圧縮成形し、ブロック状成形物を得た。
次にこのブロック状成形物を連続的にシート状に押出したのち、圧延ローラに通したのち、加熱ロール(130〜220℃)を通してロールに巻き取り、液状潤滑剤を除去した300μmのシートを得た。
次にロール温度250℃〜280℃で縦方向(流れ方向)に6倍延伸した。
次いで、フィルムの幅方向の両端をチャックで掴み、流れ方向とは垂直な方向に150℃の雰囲気下で4倍延伸を行った。
このシートを360℃の加熱炉を通過させて20分間焼結し、比較例のフィルターを得た。
【0049】
得られた実施例および比較例の多孔質シートの各種特性を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
なお、表1に記載の物性は前述した方法と同様の方法で測定した。すなわち、
(1)平均孔径(μm);細孔直径分布測定装置(米国Porus Materials社製 多孔質材料自動細孔径分布測定システム)により測定した。
(2)IPAバブルポイント(kPa);イソプロピルアルコール(IPA)を用いて、ASTM−F−316に記載の方法で測定した。
(3)IPA流量(sec);100mlのイソプロピルアルコール(IPA)がフィルター1cmを通過するのに要する時間を測定した。差圧は、70cmHgとした。
(4)空孔を囲む骨格の最大幅;走査電子顕微鏡写真による観察、および画像処理ソフトにより算出した。
(5)気孔率(%);ASTM−D−792に記載の方法で測定した。
(6)空気流量(ガレー秒);ASTM−D−726に記載の方法で測定した。差圧13.16mmH0(129Pa)で、試料1平方インチ(6.45cm)を100mlの空気が流れるのに要する時間とした。
(7)粒子捕捉率(%);実施例または比較例のフィルムを直径47mmの円形に打ち抜き、ホルダーにセットしておき、粒子径0.05μmのポリスチレンラテックス均質粒子(ダウ・ケミカル社製)を1.4×1010個/cmの割合で含有する水溶液を調製し、その32cmをセットしたフィルムにより、41.2kPaの圧力で濾過を行った。
粒子捕捉率は、紫外可視分光光度計(島津製作所製 UV−160)を用い、波長310nmで濾過前の水溶液と濾液の吸光度を測定し、その割合で求めた。測定精度は1/100であった。
(8)フィルム厚(μm);フィルムを1枚の厚さをダイアルゲージ(アンビル径 φ10mm)を用いて測定した。
【0052】
さらに、実施例と比較例のフィルターの走査電子顕微鏡写真を撮影した。実施例のフィルターの走査電子顕微鏡写真(1000倍、3000倍)を図1に、比較例のフィルターの走査電子顕微鏡写真(3000倍)を図2に示す。
【0053】
実施例のフィルター(図1)は、比較例のフィルター(図2)のような塊状の部分(結節)は見当たらず、細い繊維のみから形成され、孔径も小さく、かつ、孔径の大きさのばらつきも小さかった。そのうえ、比較例のフィルターと比べ、繊維部分に対する空孔の比率も高かった。
また、表1に示す各特性の測定結果から、実施例のフィルターは、比較例のフィルターとIPAバブルポイントはほぼ同一であるが、気孔率が26%高くなり、IPA流量が5分の1、空気流量が約10分の1となり、気体および液体の透過性に極めて優れていた。すなわち、本発明のフィルターは、微細孔を有するにもかかわらず、優れた透過性を有していた。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例で得られた本発明のフィルターの走査電子顕微鏡写真である((A)は1000倍、(B)は3000倍)。
【図2】比較例で得られた従来のフィルターの走査電子顕微鏡写真(3000倍)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子量PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)未焼結粉末と液状潤滑剤のペースト押出によって得られる成形体を、
縦方向に10倍〜40倍、横方向に20倍〜60倍の延伸倍率で2軸延伸して多孔質のフィルムとする工程と、
前記延伸された多孔質のフィルムを焼結する工程と、
を備えていることを特徴とするフィルターの製造方法。
【請求項2】
前記延伸倍率は面積比で300倍以上としている請求項1に記載のフィルターの製造方法。
【請求項3】
高分子量PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)未焼結粉末と液状潤滑剤を含む組成物で成形されたフィルターであって、
平均孔径が0.01〜0.20μm、かつ、
IPA流量(sec)(A)とIPAバブルポイント(kPa)(B)の測定値で示される(A)/(B)の値が0.08以下であることを特徴とするフィルター。
【請求項4】
空孔を囲む骨格の最大幅が2μm以下、
気孔率が80%以上95%以下、
空気流量(ガレー秒)が5秒以下、
粒子径0.05μmである粒子の粒子捕捉率が90%以上、
である請求項3に記載のフィルター。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の製造方法により製造された請求項3または請求項4に記載のフィルター。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−119662(P2008−119662A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−309613(P2006−309613)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】