説明

フィルタ装置

【課題】信号伝送ケーブルの所定範囲のインピーダンスを周期的に変化させることによって、前記信号伝送ケーブルの所定範囲をフォトニックバンドギャップ特性を示し、所定の周波数の信号を遮断又は透過するフィルタとして機能させ、構造が簡単で、製造が容易で、製造コストが低く、耐久性が高くすることができるようにする。
【解決手段】複数の信号伝送路を備える信号伝送ケーブルを有するフィルタ装置10であって、前記信号伝送ケーブルは、他の部分とインピーダンスの相違する複数のインピーダンス変更部12を備え、該インピーダンス変更部12は、前記信号伝送ケーブルの軸方向に一定のピッチ13で周期的に配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロストリップラインを備えた二次元フォトニックバンドギャップ(Photonic Band Gap:PBG)構造体が研究されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
図2は従来の二次元フォトニックバンドギャップ構造体を示す図である。なお、図2(a)は二次元フォトニックバンドギャップ構造体の斜視図、図2(b)はSパラメータ(散乱パラメータ:Scattering parameter)の周波数特性を示す図である。
【0004】
図2(a)に示されるように、二次元フォトニックバンドギャップ構造体101は、誘電体から成る薄板状の基板102、該基板102の一面全体を覆うように形成された金属薄膜から成るグランド面104、及び、基板102の他面に形成された金属薄膜から成るマイクロストリップライン103を有する複合材である。そして、グランド面104には、エッチングによって形成された複数の半径rの穴105が所定の間隔aで周期的に配設されている。
【0005】
また、前記二次元フォトニックバンドギャップ構造体101は、図2(b)に示されるようなSパラメータの周波数特性を示す。図2(b)から明らかなように、前記二次元フォトニックバンドギャップ構造体101は、フォトニックバンドギャップ特性を示し、特定の周波数の信号を遮断する遮断フィルタや、特定の周波数の信号を透過させるバンドパスフィルタとして機能する。図2(b)において、実線は反射係数であるS11を示し、破線は伝達係数であるS21を示している。そして、Aで示される部分がバンドパスフィルタとして機能する部分である。
【0006】
なお、光導波路の分野においては、フォトニック結晶等を使用した二次元フォトニックバンドギャップ構造体の研究が広く行われている。
【非特許文献1】Vesna Radisic、Yongxi Qian、Roberto Coccioli、and Tatsuo Itoh “Novel 2−D Photonic Bandgap Structure for Microstrip Lines”、IEEE Microwave and Guided Wave Letters、Vol.8、No.2、February 1998、p69−71
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来の二次元フォトニックバンドギャップ構造体101においては、微細な寸法のマイクロストリップライン103等を作成する必要があるので、構造が複雑で、破損し易く、製造が困難であり、製造コストが高くなってしまう。
【0008】
本発明は、前記従来の問題点を解決して、信号伝送ケーブルの所定範囲のインピーダンスを周期的に変化させることによって、前記信号伝送ケーブルの所定範囲を所定の周波数の信号を遮断又は透過するフィルタとして機能させ、構造が簡単で、製造が容易で、製造コストが低く、耐久性が高いフィルタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのために、本発明のフィルタ装置においては、複数の信号伝送路を備える信号伝送ケーブルを有するフィルタ装置であって、前記信号伝送ケーブルは、他の部分とインピーダンスの相違する複数のインピーダンス変更部を備え、該インピーダンス変更部は、前記信号伝送ケーブルの軸方向に一定のピッチで周期的に配設されている。
【0010】
本発明の他のフィルタ装置においては、さらに、前記信号伝送ケーブルは、前記インピーダンス変更部が第1のピッチで配設された第1のインピーダンス変更領域と、前記インピーダンス変更部が第2のピッチで配設された第2のインピーダンス変更領域とを備える。
【0011】
本発明の更に他のフィルタ装置においては、さらに、前記第1のインピーダンス変更領域と第2のインピーダンス変更領域とは、前記信号伝送ケーブルの軸方向に並んで配設される。
【0012】
本発明の更に他のフィルタ装置においては、さらに、所定の周波数の信号を遮断する遮断フィルタとして使用される。
【0013】
本発明の更に他のフィルタ装置においては、さらに、所定の周波数の信号を透過するバンドパスフィルタとして使用される。
【0014】
本発明の更に他のフィルタ装置においては、さらに、前記信号伝送ケーブルは、芯(しん)線及びシールド部材を備える同軸ケーブルである。
【0015】
本発明の更に他のフィルタ装置においては、さらに、前記インピーダンス変更部は、前記シールド部材の一部が削除されることによって形成される。
【0016】
本発明の更に他のフィルタ装置においては、さらに、前記インピーダンス変更部は、前記芯線とシールド部材とが接近させられることによって形成される。
【0017】
本発明の更に他のフィルタ装置においては、さらに、前記信号伝送ケーブルは、複数の芯線を備える多軸ケーブルである。
【0018】
本発明の更に他のフィルタ装置においては、さらに、前記インピーダンス変更部は、前記芯線同士が接近させられることによって形成される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、フィルタ装置は、信号伝送ケーブルの所定範囲のインピーダンスを周期的に変化させることによって、前記信号伝送ケーブルの所定範囲を所定の周波数の信号を遮断又は透過するフィルタとして機能させるようになっている。そのため、構造が簡単で、製造が容易で、製造コストが低く、耐久性を高くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図1は本発明の第1の実施の形態におけるフィルタ装置を示す図である。なお、図1(a)は斜視図、図1(b)は図1(a)におけるB−B矢視断面図、図1(c)は図1(a)におけるC−C矢視断面図である。
【0022】
図において、10は本実施の形態におけるフィルタ装置であって、信号伝送ケーブルとしての同軸ケーブル11を有する。そして、該同軸ケーブル11は、金属等の導電体から成る芯線15、該芯線15の周囲を覆う誘電体16、及び、該誘電体16の周囲を取囲むように配設され、金属等の導電体から成るシールド部材17を有する。なお、該シールド部材17の周囲は、樹脂等の被覆部材によって被覆されることが望ましいが、図1においては、説明の都合上、被覆部材が省略されている。また、本実施の形態において、フィルタ装置10及び同軸ケーブル11の各部の構成及び動作を説明するために使用される上、下、左、右、前、後等の方向を示す表現は、絶対的なものでなく相対的なものであって、フィルタ装置10及び同軸ケーブル11が図に示される姿勢である場合に適切であるが、フィルタ装置10及び同軸ケーブル11の姿勢が変化した場合には姿勢の変化に応じて変更して解釈されるべきものである。
【0023】
ここで、同軸ケーブル11には、インピーダンス変更部12が軸方向に一定のピッチ13で周期的に配設されている。本実施の形態において、前記インピーダンス変更部12は、同軸ケーブル11の両側面を削り、シールド部材17の一部を除去することによって形成されている。なお、前記インピーダンス変更部12の横断面は図1(c)に示され、インピーダンス変更部12以外の部分の同軸ケーブル11の横断面は図1(b)に示されている。同軸ケーブル11の両側面は、レーザ加工、カッター加工、エンドミル加工等の加工方法によって削ることができる。なお、前記同軸ケーブル11の片側の側面だけを削ることによってインピーダンス変更部12を形成することもできる。
【0024】
図1に示される例においては、インピーダンス変更部12のインピーダンスが他の部分よりも高くなっていることが分る。すなわち、本実施の形態においては、同軸ケーブル11にインピーダンスの高い部分を周期的に形成することによって、同軸ケーブル11が遮断フィルタとしての特性を備えるフィルタ装置10として機能するようになっている。この場合、同軸ケーブル11は特定の周波数の信号を遮断する。なお、遮断する周波数等の遮断フィルタとしての性質は、インピーダンス変更部12の数、寸法、ピッチ13等を変更することによって制御することができる。
【0025】
次に、前記フィルタ装置10の特性に関するシミュレーション結果について説明する。
【0026】
図3は本発明の第1の実施の形態におけるフィルタ装置のシミュレーション結果を示す第1の図、図4は本発明の第1の実施の形態におけるフィルタ装置のシミュレーション結果を示す第2の図である。なお、図3(a)及び図4(a)はシミュレーションに使用した同軸ケーブルの概念図、図3(b)及び図4(b)はシミュレートした減衰量の周波数特性を示す図であり、縦軸に減衰量〔dB〕を採り、横軸に周波数〔GHz〕を採ってある。
【0027】
まず、本発明の発明者は、長さ5〔m〕の図3(a)に示されるような同軸ケーブル11を使用してシミュレーションを行った。この場合、特性インピーダンスZ0が18〔mm〕の周期で50〔Ω〕を中心にして±10〔%〕変化するようにインピーダンス変更部12を形成した。すなわち、長さ18〔mm〕のインピーダンス変更部12をピッチ13が36〔mm〕となるように形成した。これにより、図3(a)に示されるように、同軸ケーブル11の特性インピーダンスZ0は、18〔mm〕毎に45〔Ω〕と55〔Ω〕とに交互に切替えられるように、軸方向に周期的に変化する。なお、図3(a)においてはインピーダンス変更部12の図示が省略されている。
【0028】
この場合、図3(a)に示されるような同軸ケーブル11を使用してシミュレーションを行った結果として、図3(b)に示されるような周波数特性を得ることができた。図3(b)において、21は減衰量が増加している遮断域を示している。そして、該遮断域21における減衰量のピークまでの変化量22は、同軸ケーブル11における特性インピーダンスZ0の変化のサイクル数に依存することが分った。すなわち、形成されたインピーダンス変更部12の数が増加するほど前記変化量22が増加することが分った。また、前記遮断域21の幅23は特性インピーダンスZ0の変化に依存することが分った。すなわち、インピーダンス変更部12におけるインピーダンスと他の部分におけるインピーダンスとの差が大きいほど前記幅23が増加することが分った。さらに、遮断域21の存在する周波数、すなわち、遮断域21における減衰量のピークに対応する周波数は、同軸ケーブル11における特性インピーダンスZ0の変化の周期に依存することが分った。すなわち、インピーダンス変更部12のピッチ13を増加するほど遮断域21の存在する周波数が高くなることが分った。
【0029】
次に、本発明の発明者は、長さ5〔m〕の図4(a)に示されるような同軸ケーブル11を使用してシミュレーションを行った。この場合、特性インピーダンスZ0が18〔mm〕の周期で50〔Ω〕を中心にして±1〔%〕変化するようにインピーダンス変更部12を形成した。すなわち、長さ18〔mm〕のインピーダンス変更部12をピッチ13が36〔mm〕となる様に形成した。これにより、図4(a)に示されるように、同軸ケーブル11の特性インピーダンスZ0は、18〔mm〕毎に49.5〔Ω〕と50.5〔Ω〕とに交互に切替えられるように、軸方向に周期的に変化する。なお、図4(a)においてはインピーダンス変更部12の図示が省略されている。
【0030】
この場合、図4(a)に示されるような同軸ケーブル11を使用してシミュレーションを行った結果として、図4(b)に示されるような周波数特性を得ることができた。図4(b)における遮断域21は、図3(b)における遮断域21と比較して微小であることが分る。このことから、インピーダンス変更部12におけるインピーダンスと他の部分におけるインピーダンスとの差が小さいと、十分な大きさの遮断域21を得ることができないことが分る。
【0031】
このように、本実施の形態においては、インピーダンス変更部12が軸方向に一定のピッチ13で周期的に形成された同軸ケーブル11をフィルタ装置10として使用する。この場合、該フィルタ装置10は、遮断域21によって所定の周波数の信号を遮断する遮断フィルタとして機能する。なお、前記インピーダンス変更部12は、同軸ケーブル11の側面を削ることによって形成されるので、容易に形成することができる。インピーダンスの調整は、外部導体としてのシールド部材17を削る面積を適宣選択する事によって可能となる。また、前記遮断域21の周波数、ピークまでの変化量22、幅23等の特性は、インピーダンス変更部12の数、インピーダンス変更部12におけるインピーダンスと他の部分におけるインピーダンスとの差、インピーダンス変更部12のピッチ13等を調整することによって、容易に制御することができ、所望の値とすることができる。そのため、構造が簡単で、製造が容易で、製造コストが低く、耐久性が高い遮断フィルタを得ることができる。
【0032】
また、前記フィルタ装置10は、高周波信号用のフィルタとして好適であり、例えば、インピーダンス変更部12が形成された同軸ケーブル11をアンテナに接続することによって、アンテナ用の遮断フィルタとして使用することができる。
【0033】
なお、前記同軸ケーブル11は、太ければ太いほど減衰量が減少するが、フィルタ装置10のサイズが大きくなってしまう。さらに、インピーダンス変更部12を形成する際の加工作業の容易性等を考慮すると、前記同軸ケーブル11は、外径が5〔mm〕程度のものであることが望ましい。
【0034】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
【0035】
図5は本発明の第2の実施の形態におけるフィルタ装置を示す図、図6は本発明の第2の実施の形態におけるフィルタ装置の周波数特性を示す図である。
【0036】
本実施の形態におけるフィルタ装置10は、図5に示されるように、第1のピッチ13aで形成された第1のインピーダンス変更部12aを備える第1のインピーダンス変更領域14a、及び、第2のピッチ13bで形成された第2のインピーダンス変更部12bを備える第2のインピーダンス変更領域14bを有する。この場合、第1のピッチ13aよりも第2のピッチ13bの方が大きくなっている。また、第1のインピーダンス変更部12aの軸方向の長さよりも第2のインピーダンス変更部12bの軸方向の長さの方が長くなっている。なお、第1のインピーダンス変更部12a及び第2のインピーダンス変更部12bの形状や形成方法は、前記第1の実施の形態におけるインピーダンス変更部12と基本的に同一である。さらに、同軸ケーブル11は、その他の点については、前記第1の実施の形態における同軸ケーブル11と基本的に同一の構造を有する。
【0037】
図5に示される例において、同軸ケーブル11は、第1のインピーダンス変更領域14aと第2のインピーダンス変更領域14bとの間の部分で曲げられて、全体として略U字状の形状となっている。これにより、フィルタ装置10全体の寸法を縮小してコンパクトにすることができる。なお、前記同軸ケーブル11は、途中で曲げることなく、一直線状の形状とすることもできるし、任意の箇所で曲げることによって、U字状以外の他の形状とすることもできる。
【0038】
そして、本実施の形態におけるフィルタ装置10の周波数特性には、図6に示されるように、第1の遮断域21a及び第2の遮断域21bが存在する。前記第1の遮断域21aは第1のインピーダンス変更領域14aによって得られたものであり、前記第1の遮断域21aの周波数、ピークまでの変化量22、幅23等の特性は、第1のインピーダンス変更部12aの数、第1のインピーダンス変更部12aにおけるインピーダンスと他の部分におけるインピーダンスとの差、第1のインピーダンス変更部12aの第1のピッチ13a等を調整することによって、所望の値とすることができる。また、前記第2の遮断域21bは第2のインピーダンス変更領域14bによって得られたものであり、前記第2の遮断域21bの周波数、ピークまでの変化量22、幅23等の特性は、第2のインピーダンス変更部12bの数、第2のインピーダンス変更部12bにおけるインピーダンスと他の部分におけるインピーダンスとの差、第2のインピーダンス変更部12bの第2のピッチ13b等を調整することによって、所望の値とすることができる。
【0039】
さらに、本実施の形態におけるフィルタ装置10の周波数特性には、第1の遮断域21aと第2の遮断域21bとの間において、減衰量が回復し、第1の遮断域21aと第2の遮断域21bとの間における周波数の信号を透過する透過域25が存在する。該透過域25は、特定の周波数の信号を透過させるバンドパスフィルタとして機能する領域である。そして、前記透過域25は、第1の遮断域21aと第2の遮断域21bとによって規定されるのであるから、第1及び第2のインピーダンス変更部12a及び12bの数、第1及び第2のインピーダンス変更部12a及び12bにおけるインピーダンスと他の部分におけるインピーダンスとの差、第1及び第2のピッチ13a及び13b等を調整することによって、所望の値とすることができる。図6に示される例において、フィルタ装置10は、5〔GHz〕前後の周波数帯の信号を透過させるバンドパスフィルタとして機能するようになっている。
【0040】
このように、本実施の形態においては、第1のインピーダンス変更領域14aと第2のインピーダンス変更領域14bとが軸方向に並んで形成された、すなわち、タンデムに形成された同軸ケーブル11をフィルタ装置10として使用する。この場合、該フィルタ装置10は、第1のインピーダンス変更領域14aによって得られる第1の遮断域21aと、第2のインピーダンス変更領域14bによって得られる第2の遮断域21bとの間における透過域25によって、所定の周波数の信号を透過させるバンドパスフィルタとして機能する。そして、透過させる信号の周波数は、第1及び第2のインピーダンス変更部12a及び12bの数、第1及び第2のインピーダンス変更部12a及び12bにおけるインピーダンスと他の部分におけるインピーダンスとの差、第1及び第2のピッチ13a及び13b等を調整することによって、容易に制御することができ、所望の値とすることができる。そのため、構造が簡単で、製造が容易で、製造コストが低く、耐久性が高いバンドパスフィルタを得ることができる。
【0041】
また、同軸ケーブル11を途中で曲げることによって略U字状の形状とすることによって、コンパクトなフィルタ装置10を得ることができる。さらに、前記第1の実施の形態と同様に、フィルタ装置10は、高周波信号用のフィルタとして好適であり、例えば、インピーダンス変更部12が形成された同軸ケーブル11をアンテナに接続することによって、アンテナ用のバンドパスフィルタとして使用することができる。
【0042】
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、第1及び第2の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1及び第2の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
【0043】
図7は本発明の第3の実施の形態におけるフィルタ装置を示す図である。
【0044】
本実施の形態におけるフィルタ装置10は、図7に示されるように、同軸ケーブル11が筐(きょう)体31内に収容されている。なお、該筐体31は、通常、蓋(ふた)によって閉鎖された状態で使用されるが、図7においては、筐体31の内部の同軸ケーブル11を説明する都合上、蓋が省略されている。この場合、前記同軸ケーブル11は、渦巻き状又は螺(ら)旋状となるように全体が巻かれた状態で筐体31内に収容されている。これにより、ある程度の長さを有する同軸ケーブル11であっても、サイズの小さな筐体31内に収容することが可能となり、フィルタ装置10を小型化することができる。なお、渦巻き状又は螺旋状の同軸ケーブル11の巻き数は任意に設定することができる。
【0045】
また、図7に示される例において、同軸ケーブル11の両端は筐体31の位置側面に取付けられ、同軸コネクタ32が接続されている。該同軸コネクタ32によって、フィルタ装置10にアンテナ、他の信号伝送線等を容易に接続することができる。
【0046】
他の点の構造及び効果については、前記第1及び第2の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。なお、図7に示される例における同軸ケーブル11は、前記第2の実施の形態と同様に、第1のインピーダンス変更部12a及び第2のインピーダンス変更部12bを備えるものであるが、前記第1の実施の形態と同様に、一種類のインピーダンス変更部12だけを備えるものであってもよい。
【0047】
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。なお、第1〜第3の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1〜第3の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
【0048】
図8は本発明の第4の実施の形態におけるフィルタ装置を示す図である。なお、図8(a)は斜視図、図8(b)は図8(a)におけるD−D矢視断面図、図8(c)は図8(a)におけるE−E矢視断面図である。
【0049】
本実施の形態においては、図8に示されるように、インピーダンス変更部12は、同軸ケーブル11にかしめ部材としてのクリンプ(crimp)片34を取付けることによって形成されるようになっている。ここで、該クリンプ片34は、金属から成る概略半円筒形状の部材であり、同軸ケーブル11の外周にかしめ固定され、同軸ケーブル11の軸方向に一定のピッチ13で周期的に取付けられる。そのため、インピーダンス変更部12の横断面は、図8(c)に示されるように、クリンプ片34によって扁(へん)平に変形させられ、シールド部材17が芯線15に接近させられることによって、インピーダンスが他の部分より高くなる。なお、前記クリンプ片34の形状は、必ずしも図8に示されるような概略半円筒形状である必要はなく、シールド部材17を芯線15に接近させることができるような形状であれば、いかなる形状であってもよい。
【0050】
この場合、インピーダンス変更部12におけるインピーダンスと他の部分におけるインピーダンスとの差は、クリンプ片34のかしめ量を調整して同軸ケーブル11の変形量を調整することによって制御することができる。また、インピーダンス変更部12の軸方向の長さはクリンプ片34の長さを調整することによって制御することができ、さらに、ピッチ13は、クリンプ片34の取付けピッチを変更することによって制御することができる。
【0051】
このように、本実施の形態においては、クリンプ片34を同軸ケーブル11の外周にかしめ固定することによってインピーダンス変更部12を形成するようになっているので、レーザ加工、カッター加工、エンドミル加工等の加工方法によって同軸ケーブル11の側面を削る必要がない。そのため、同軸ケーブル11にインピーダンス変更部12を容易に形成することができ、フィルタ装置10をより低い製造コストで得ることができる。
【0052】
なお、本実施の形態におけるフィルタ装置10は、前記第1の実施の形態と同様に、遮断フィルタとして使用することができるだけでなく、インピーダンス変更部12のピッチ13が相違する二種類のインピーダンス変更領域を設けることによって、前記第2の実施の形態と同様に、バンドパスフィルタとしても使用することができる。さらに、前記第2及び第3の実施の形態と同様に、同軸ケーブル11を途中で曲げることによって略U字状の形状としたり、渦巻き状又は螺旋状の形状とすることもでき、更に、同軸ケーブル11を筐体31内に収容することもできる。また、他の点の構造及び効果については、前記第1〜第3の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0053】
次に、本発明の第5の実施の形態について説明する。なお、第1〜第4の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1〜第4の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
【0054】
図9は本発明の第5の実施の形態におけるフィルタ装置を示す図である。なお、図9(a)は斜視図、図9(b)は図9(a)におけるF−F矢視断面図、図9(c)は図9(a)におけるG−G矢視断面図である。
【0055】
本実施の形態におけるフィルタ装置10は、図9に示されるように、信号伝送ケーブルとしての多軸ケーブルである二軸ケーブル41を有する。そして、該二軸ケーブル41は、金属等の導電体から成る第1の芯線42a、該第1の芯線42aの周囲を覆う第1の誘電体43a、金属等の導電体から成る第2の芯線42b、該第2の芯線42bの周囲を覆う第2の誘電体43b、並びに、第1の誘電体43a及び第2の誘電体43bの周囲を取囲んで被覆する樹脂等から成る被覆部材44を有する。さらに、前記被覆部材44の周囲を覆う金属等の導電体から成る図示されないシールド部材を有する。
【0056】
そして、インピーダンス変更部12は、二軸ケーブル41にかしめ部材としてのクリンプ片45を取付けることによって形成されるようになっている。ここで、クリンプ片45は、金属から成る概略半楕(だ)円筒形状の部材であり、二軸ケーブル41の外周にかしめ固定され、二軸ケーブル41の軸方向に一定のピッチ13で周期的に取付けられる。この場合、クリンプ片45は、二軸ケーブル41の幅を狭めて、第1の芯線42aと第2の芯線42bとを接近させるように二軸ケーブル41を変形させる。そのため、インピーダンス変更部12の横断面は、図9(c)に示されるように、クリンプ片45によって変形させられ、第1の芯線42aと第2の芯線42bとが相互に接近させられることによって、インピーダンスが他の部分より高くなる。なお、前記クリンプ片45の形状は、必ずしも図9に示されるような概略半楕円筒形状である必要はなく、第1の芯線42aと第2の芯線42bとを相互に接近させることができるような形状であれば、いかなる形状であってもよい。
【0057】
この場合、インピーダンス変更部12におけるインピーダンスと他の部分におけるインピーダンスとの差は、クリンプ片45のかしめ量を調整して二軸ケーブル41の変形量を調整することによって制御することができる。また、インピーダンス変更部12の軸方向の長さはクリンプ片45の長さを調整することによって制御することができ、さらに、ピッチ13は、クリンプ片45の取付けピッチを変更することによって制御することができる。
【0058】
このように、本実施の形態においては、クリンプ片45を二軸ケーブル41の外周にかしめ固定することによってインピーダンス変更部12を形成するようになっているので、二軸ケーブル41にインピーダンス変更部12を容易に形成することができ、二軸ケーブル41を使用したフィルタ装置10を容易に得ることができる。なお、本実施の形態においては、多軸ケーブルとして二軸ケーブル41を使用した例についてのみ説明したが、芯線が三本以上、すなわち、三軸以上のケーブルを使用することもできる。この場合、クリンプ片45としては、三本以上の芯線同士を相互に接近させることができるような形状のものを使用する。
【0059】
また、本実施の形態におけるフィルタ装置10は、前記第1の実施の形態と同様に、遮断フィルタとして使用することができるだけでなく、インピーダンス変更部12のピッチ13が相違する二種類のインピーダンス変更領域を設けることによって、前記第2の実施の形態と同様に、バンドパスフィルタとしても使用することができる。さらに、前記第2及び第3の実施の形態における同軸ケーブル11と同様に、二軸ケーブル41を途中で曲げることによって略U字状の形状としたり、渦巻き状又は螺旋状の形状とすることもでき、更に、二軸ケーブル41を筐体31内に収容することもできる。また、他の点の構造及び効果については、前記第1〜第4の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0060】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1の実施の形態におけるフィルタ装置を示す図である。
【図2】従来の二次元フォトニックバンドギャップ構造体を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態におけるフィルタ装置のシミュレーション結果を示す第1の図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態におけるフィルタ装置のシミュレーション結果を示す第2の図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態におけるフィルタ装置を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態におけるフィルタ装置の周波数特性を示す図である。
【図7】本発明の第3の実施の形態におけるフィルタ装置を示す図である。
【図8】本発明の第4の実施の形態におけるフィルタ装置を示す図である。
【図9】本発明の第5の実施の形態におけるフィルタ装置を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
10 フィルタ装置
11 同軸ケーブル
12 インピーダンス変更部
12a 第1のインピーダンス変更部
12b 第2のインピーダンス変更部
13 ピッチ
13a 第1のピッチ
13b 第2のピッチ
14a 第1のインピーダンス変更領域
14b 第2のインピーダンス変更領域
15 芯線
16 誘電体
17 シールド部材
21 遮断域
21a 第1の遮断域
21b 第2の遮断域
22 変化量
23 幅
25 透過域
31 筐体
32 同軸コネクタ
34、45 クリンプ片
41 二軸ケーブル
42a 第1の芯線
42b 第2の芯線
43a 第1の誘電体
43b 第2の誘電体
44 被覆部材
101 二次元フォトニックバンドギャップ構造体
102 基板
103 マイクロストリップライン
104 グランド面
105 穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)複数の信号伝送路を備える信号伝送ケーブル(11、41)を有するフィルタ装置(10)であって、
(b)前記信号伝送ケーブル(11、41)は、他の部分とインピーダンスの相違する複数のインピーダンス変更部(12)を備え、
(c)該インピーダンス変更部(12)は、前記信号伝送ケーブル(11、41)の軸方向に一定のピッチ(13)で周期的に配設されていること特徴とするフィルタ装置(10)。
【請求項2】
前記信号伝送ケーブル(11、41)は、前記インピーダンス変更部(12a)が第1のピッチ(13a)で配設された第1のインピーダンス変更領域(14a)と、前記インピーダンス変更部(12b)が第2のピッチ(13b)で配設された第2のインピーダンス変更領域(14b)とを備える請求項1に記載のフィルタ装置(10)。
【請求項3】
前記第1のインピーダンス変更領域(14a)と第2のインピーダンス変更領域(14b)とは、前記信号伝送ケーブル(11、41)の軸方向に並んで配設される請求項2に記載のフィルタ装置(10)。
【請求項4】
所定の周波数の信号を遮断する遮断フィルタとして使用される請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルタ装置(10)。
【請求項5】
所定の周波数の信号を透過するバンドパスフィルタとして使用される請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルタ装置(10)。
【請求項6】
前記信号伝送ケーブル(11)は、芯線(15)及びシールド部材(17)を備える同軸ケーブル(11)である請求項1〜5のいずれか1項に記載のフィルタ装置(10)。
【請求項7】
前記インピーダンス変更部(12)は、前記シールド部材(17)の一部が削除されることによって形成される請求項6に記載のフィルタ装置(10)。
【請求項8】
前記インピーダンス変更部(12)は、前記芯線(15)とシールド部材(17)とが接近させられることによって形成される請求項7に記載のフィルタ装置(10)。
【請求項9】
前記信号伝送ケーブル(41)は、複数の芯線(42)を備える多軸ケーブル(41)である請求項1〜5のいずれか1項に記載のフィルタ装置(10)。
【請求項10】
前記インピーダンス変更部(12)は、前記芯線(42)同士が接近させられることによって形成される請求項9に記載のフィルタ装置(10)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−295792(P2006−295792A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−116923(P2005−116923)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(591043064)モレックス インコーポレーテッド (441)
【氏名又は名称原語表記】MOLEX INCORPORATED
【Fターム(参考)】