説明

フィルタ装置

【課題】 濾材の加熱殺菌効果にむらがなく、加熱殺菌効果に優れたフィルタ装置を提供すること。
【解決手段】 本発明に係るフィルタ装置1は、空気が流入する上流側開口5及び上流側開口5から流入した空気が流出する下流側開口6を有するケーシング2と、ケーシング2に保持されて上流側開口5から下流側開口6に流れる空気を濾過する濾材3と、濾材3を加熱して殺菌する発熱体4とを備え、濾材3は波形を呈し、この波形の頂部に当たり上流側開口5又は下流側開口6に臨む稜線部8,9、及び、互いに隣接する稜線部同士を繋ぐ傾斜面部10を有し、発熱体4は平板状を呈し、濾材3に対して下流側開口6の側で、かつ、互いに隣接する傾斜面部10の間に配設され、それらの傾斜面部同士の接触を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中の塵埃を除去するためのフィルタ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、空気を濾材で濾過することによって空気中の塵埃や微生物を捕集して除去するフィルタ装置が提供され、医療施設や食品工場における業務用エアフィルタや、車載用や家庭用のエアコンや空気清浄機に用いられている。この種のフィルタ装置において、濾材上で細菌が増殖すると、カビ臭さのような悪臭の原因となり、また、濾材の空気が流入する側に付着した細菌が濾材の空気が流出する側まで増殖すると、細菌やカビの胞子が濾材から飛散して二次汚染が発生する可能性がある。特に、食品工場や製薬工場では高性能の濾材が交換されずに3〜4ヶ月連続して使用されることが多いので、濾材に細菌が繁殖しやすい。
【0003】
そこで、殺菌作用を有する酵素等の殺菌剤を濾材に共有結合やイオン結合によって定着させたものが提供されている。しかし、一般に殺菌剤は限られた種類の菌にしか効果がなく、殺菌効果は確実ではない。例えば、ペプチドグリカンを溶解する酵素であるリゾチームは、細胞壁の主成分がペプチドグリカンである枯草菌、ルテウス菌、表皮ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌、結核菌等のグラム陽性の細菌にしか殺菌効果を有さず、ペプチドグリカンを細胞壁の主成分としないグラム陰性菌やカビ等の真菌やウィルスに対しては有効な殺菌効果を有さない。
【0004】
また、紫外線を濾材に照射することにより、濾材を殺菌するフィルタ装置も提供されている。紫外線による殺菌であれば、殺菌剤と違い、細菌の種別に関わらず有効な殺菌効果を期待することができる。しかし、紫外線を用いる方法の場合、紫外線を放射するランプが必要となるからフィルタ装置が大型化する上に、濾材の表面付近の紫外線が届く範囲しか殺菌することができない。
【0005】
一方、濾材を加熱すれば、細菌の種別に関わらず、かつ、濾材の深い位置まで、有効な殺菌効果を得ることができる。濾材を加熱する方法としては、濾材に熱風を通す方法が考えられるが、この方法では、濾材を通過した空気が流出する空間の気温を上昇させやすい上に、熱の利用効率が低いという欠点がある。
【0006】
そこで、例えばニクロム線やカーボンヒータのように通電させて発熱する発熱体を濾材に近接配置するとともに、発熱体に通電して発熱させ濾材を加熱殺菌することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この構成を採用すれば、濾材を通過した空気が流出する空間の気温の上昇が抑えられ、熱の利用効率が向上する。しかし、従来は、濾材や発熱体の温度が上がり過ぎることを防ぐために、濾材や発熱体の温度を検出する熱電対のような温度センサを設け、この温度センサの出力に応じて発熱体への通電をオン・オフしたり、発熱体に加える電圧や流す電流を変化させて発熱体の発熱量を制御する必要があった。したがって、オン・オフ制御や通電量の変更に伴って電磁ノイズが発生する上に、消費電力の無駄が多かった。
【0007】
以上を踏まえ、出願人等は、消費電力及び電磁ノイズの低減を可能とすべく、筒状に形成され空気が通過する装置本体と、装置本体に保持され装置本体を通過する空気を濾過する濾材と、濾材に近接配置され通電されて発熱し濾材を加熱殺菌する発熱体とを備え、発熱体が、絶縁材料からなる基材中に微細な導電体が分散されてなり自己温度制御機能を有するフィルタ装置を提案した(特許文献2参照)。このフィルタ装置によれば、発熱体に一定の電圧を加え続けるだけで温度が略一定に制御され、通電のオン・オフ制御や通電量の変更を行う必要がないから、発熱体としてニクロム線やカーボンヒータを用いる場合に比べ、消費電力及び電磁ノイズの低減が可能となる。また、通電のオン・オフ制御や通電量の変更を行う場合と異なり、制御の遅れによる過剰な温度上昇のおそれがないことにより、温度上昇をより速めることができるから、殺菌に必要な時間を短縮することができる。さらに、濾材や発熱体の温度を検出するための温度センサが不要となるという効果が得られる。
【0008】
ところが、特許文献2の図2及び図3に記載のフィルタ装置では、絶縁材料からなる基材中に微細な導電体が分散されている発熱体を波形に折曲加工したセパレータ上に配置しているため、発熱体も波形となりその抵抗にばらつきが生じ、加熱殺菌効果にむらが生じ得るという問題があった。また、同文献の図4に記載のフィルタ装置では、セパレータの代わりに波板形状の濾材上に、濾材の稜線方向(稜線に沿った方向)と直交する方向に長い帯状発熱体をその稜線方向に複数並べて設けているため、帯状発熱体と濾材との接触面積が小さく、帯状発熱体の近傍に加熱領域が限定され、所望の加熱殺菌効果が必ずしも得られないという問題があった。
【特許文献1】実開昭63−32648号公報
【特許文献2】特開2006−142262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みて為されたもので、濾材の加熱殺菌効果にむらがなく、加熱殺菌効果に優れたフィルタ装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、空気が流入する上流側開口及び該上流側開口から流入した空気が流出する下流側開口を有する装置本体と、該装置本体に保持されて前記上流側開口から前記下流側開口に流れる空気を濾過する濾材と、該濾材を加熱して殺菌する発熱体とを備え、前記濾材は波形を呈し、該波形の頂部に当たり前記上流側開口又は前記下流側開口に臨む稜線部、及び、互いに隣接する稜線部同士を繋ぐ傾斜面部を有し、前記発熱体は平板状を呈し、前記濾材に対して前記下流側開口の側で、かつ、互いに隣接する傾斜面部の間に配設され、該隣接する傾斜面部同士の接触を防止するフィルタ装置を特徴とする。
【0011】
請求項1に係る発明によれば、発熱体が平板状を呈し、濾材に対して下流側開口の側で、かつ、互いに隣接する傾斜面部の間に配設され、それらの傾斜面部同士の接触を防止するので、発熱体自体が傾斜面部の間に介在してそれらの接触を防止するセパレータの機能を果たし、折曲加工されたセパレータに合わせて折り曲げられるわけではない。よって、発熱体の抵抗のばらつきに起因する加熱殺菌効果のむらを防止して加熱殺菌効果を優れたものとすることができる。
【0012】
また、発熱体は濾材よりも空気流の下流側(下流側開口の側)に配設されているので、上流側開口から流入した空気に含まれる塵埃等により汚染されることや、濾材に入る空気流を阻害することを防止することができる。
【0013】
なお、発熱体をそれを挟む傾斜面部に略全面的に臨むような大きさ・形状とすることによって、加熱領域が傾斜面部の全面に及びやすくなるので加熱殺菌効果のむらが一層防止され、加熱殺菌効果をより優れたものとすることができる。
【0014】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のフィルタ装置において、前記発熱体は、絶縁材料からなる基材中に微細な導電体が分散されてなり自己温度制御機能を有することを特徴とする。
【0015】
請求項2に係る発明によれば、発熱体が自己温度制御機能を有するので、発熱体に一定の電圧を加え続けるだけで温度が略一定に制御され、通電のオン・オフ制御や通電量の変更を行う必要がなく、発熱体としてニクロム線やカーボンヒータを用いる場合に比べて消費電力及び電磁ノイズの低減が可能となる。
【0016】
また、通電のオン・オフ制御や通電量の変更を行う場合と異なり、制御の遅れによる過剰な温度上昇のおそれがないことにより、温度上昇をより速めることができるから、殺菌に必要な時間を短縮することができる。
【0017】
さらに、濾材や発熱体の温度を検出するための温度センサが不要となる。
【0018】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載のフィルタ装置において、前記濾材に対して前記上流側開口の側で、かつ、互いに隣接する傾斜面部の間に配設され、該隣接する傾斜面部同士の接触を防止する接触防止手段を備えることを特徴とする。
【0019】
請求項3に係る発明によれば、濾材に対して上流側開口の側で、かつ、互いに隣接する傾斜面部の間に、それらの傾斜面部同士の接触を防止する接触防止手段が配設されているので、隣接する傾斜面部同士が空気流の上流側においても接触しなくなり(空気流の下流側における接触は既述のように発熱体により防止される。)、処理風量や捕集効率の低下を防止することができる。
【0020】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のフィルタ装置において、前記発熱体の一枚又は複数枚を一組として全発熱体が複数組に区分され、各組の発熱体は複数枚であれば直列配線されるとともに、各組が並列配線されていることを特徴とする。
【0021】
請求項4に係る発明によれば、発熱体の一枚又は複数枚を一組として全発熱体が複数組に区分され、各組の発熱体は複数枚であれば直列配線されるとともに、各組が並列配線されているので、直列配線又は並列配線として取り纏められた配線中に適宜抵抗を入れることによって、各発熱体の印加電圧を容易に調整することができる。
【0022】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のフィルタ装置において、全発熱体のうち少なくとも一部の隣接し合う発熱体が前記下流側開口の側にプラス端子及びマイナス端子を有し、前記プラス端子及び前記マイナス端子の位置関係が隣接する発熱体と逆向きになるように配設された上で直列配線されていることを特徴とする。
【0023】
請求項5に係る発明によれば、全発熱体のうち少なくとも一部の隣接し合う発熱体が前記下流側開口の側にプラス端子及びマイナス端子を有し、プラス端子及びマイナス端子の位置関係が隣接する発熱体と逆向きになるように配設された上で直列配線されているので、プラス端子及びマイナス端子の位置関係が隣接する発熱体と同じ向きである場合に比べて直列配線の配線長さ(一の発熱体のマイナス端子と隣接する他の発熱体のプラス端子とを結ぶ端子間配線の長さ、あるいは、直列配線を構成するすべての発熱体についてのその端子間配線の長さの総和)を短縮しやすく、濾材や発熱体で構成されるフィルタパックをコンパクトにすることも容易となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るフィルタ装置によれば、濾材の加熱殺菌効果にむらがなく、優れた加熱殺菌効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0026】
図1に示すように、本形態に係るフィルタ装置1は、ケーシング(フィルタフレーム)2と、濾材3と、発熱体4とを備える。
【0027】
ケーシング2は角筒形状を呈し、図1においては上下に二つの開口を有する。この二つの開口のうち同図下側にある開口は空気が流入する上流側開口5であり、同図上側にある開口は上流側開口5から流入した空気が流出する下流側開口6である。
【0028】
濾材3は、例えばシート状のガラス繊維を波形に加工してなり、シール材7を介してケーシング2の筒内に保持され上流側開口5と下流側開口6とを仕切ることによって、上流側開口5から下流側開口6に流れる空気を濾過してそれに含まれる塵埃や微生物等を捕集する。濾材3は、波形の頂部に相当して上流側開口5に臨む稜線部8と、波形の頂部に相当して下流側開口6に臨む稜線部9と、互いに隣接する稜線部同士を繋ぐ傾斜面部10とを有する。濾材3の空気流上流側(上流側開口5側)の面には、溶融樹脂を塗布して固化させてなる帯状のリボン11が、稜線部8に略直交する方向に延在するように複数形成され、隣接する傾斜面部10の空気流上流側の面同士が接触することを防止している。同様に、濾材3の空気流下流側(下流側開口5側)の面には、溶融樹脂を塗布して固化させてなる帯状のリボン12が、稜線部9に略直交する方向に延在するように複数形成され、傾斜面部10の空気流下流側の面が次述の発熱体4と接触することを防止している。なお、濾材3については、中性能(MEPA:Medium Efficiency Particulate Air filter)、高性能(HEPA:High Efficiency Particulate Air filter)、超高性能(ULPA:Ultra Low Penetration Air filter)等のフィルタメディアのうちから用途に応じて選択すればよい。
【0029】
発熱体4は平板状を呈し、濾材3に近接配置されて発熱により濾材3を加熱して殺菌する。詳細には、発熱体4は、濾材3に対して空気流下流側で、かつ、互いに隣接する傾斜面部10の間に位置するように、ケーシング2の筒内に架設されている。ここでは発熱体4はすべての傾斜面部10同士の間に配設され、隣接する傾斜面部10の空気流下流側の面同士が接触することを防止している。
【0030】
また、発熱体4は、図2に示すように、矩形状の金属板13で導電体14を覆って構成され、その空気流下流側にはプラス端子15及びマイナス端子16が設けられている。各発熱体4は、プラス端子15及びマイナス端子16の位置関係が隣接する発熱体4と逆向きになるように配設された上で直列配線され、濾材3とともにフィルタパック17を構成する。すなわち、便宜上、発熱体4を図1の左から順に発熱体4a,4b,4c,4dとし、それぞれのプラス端子を15a,15b,15c,15d、マイナス端子を16a,16b,16c,16dとすると、発熱体4aについては同図においてプラス端子15aがマイナス端子16aよりも奥側にあり、発熱体4bについてはプラス端子15bがマイナス端子16bよりも手前側にあり、発熱体4cについてはプラス端子15cがマイナス端子16cよりも奥側にあり、発熱体4dについてはプラス端子15dがマイナス端子16dよりも手前側にある。そして、プラス端子15aとマイナス端子16bとが配線18aにより結線され、プラス端子15bとマイナス端子16cとが配線18bにより結線され、プラス端子15cとマイナス端子16dとが配線18cにより結線されている。プラス端子15d及びマイナス端子16aは、配線18d及び配線18eにより制御部19に結線され、この制御部19を介して商用電源に接続されている。
【0031】
制御部19は商用電源からの電力を発熱体4の導電体14に制御して供給し、発熱体4を加熱させる。制御部19については周知の技術で実現可能であるので詳細な説明は省略するが、制御部19には発熱体4による濾材3の殺菌を開始させるためのスイッチが設けられていてもよく、このとき、制御部19は、そのスイッチが操作されたときから所定時間にわたり一定電圧を発熱体4に印加してそれを発熱させる(例えば濾材3の温度を160〜170℃ に2時間又は180〜190℃に30分間保つ。)。スイッチを操作するタイミングは、例えばフィルタ装置1を手術室に使用する場合には手術前及び手術後とすればよい。あるいは、そのようなスイッチを設ける代わりに、制御部19が所定のタイミングで自動的に殺菌を行うようにしてもよい。この際、制御部19が殺菌を行うタイミングは、ケーシング2の下流側における気温の上昇を防ぐために、ケーシング2の中を空気が流れていないときが望ましい。例えばフィルタ装置1を空調装置に用いる場合には、空調の停止後に制御部19が自動的に殺菌を行うようにすればよい。
【0032】
本形態に係るフィルタ装置1では、発熱体4が平板状を呈し、濾材3に対して空気流下流側で、かつ、互いに隣接する傾斜面部10の間に配設され、それらの傾斜面部同士の接触を防止するので、発熱体自体が傾斜面部の間に介在してそれらの接触を防止するセパレータの機能を果たし、折曲加工されたセパレータに合わせて折り曲げられるわけではない。よって、発熱体の抵抗のばらつきに起因する加熱殺菌効果のむらを防止して加熱殺菌効果を優れたものとすることができる。ここでは、特に、発熱体4がそれを挟む傾斜面部10に略全面的に臨むような大きさ・形状とされており、加熱領域が傾斜面部10の全面に及びやすくなるので加熱殺菌効果のむらが一層防止され、加熱殺菌効果がより優れたものとなっている。
【0033】
また、発熱体4は濾材3よりも空気流下流側に配設されているので、上流側開口5から流入した空気に含まれる塵埃等により汚染されることや、濾材3に入る空気流を阻害することを防止することができる。
【0034】
さらに、発熱体4のすべてが空気流の下流側にプラス端子15及びマイナス端子16を有し、プラス端子15及びマイナス端子16の位置関係が隣接する発熱体4と逆向きになるように配設された上で直列配線されているので、プラス端子及びマイナス端子の位置関係が隣接する発熱体と同じ向きである場合に比べて直列配線の配線長さ(配線18a,18b,18cの個々の長さやそれらの総和)を短縮しやすく、濾材3や発熱体4で構成されるフィルタパック17をコンパクトにすることも容易となる。
【実施例】
【0035】
つぎに、本発明のより具体的な実施例を対照のための比較例とともに説明する。
(実施例)
ケーシング2はアルミニウム製とし、このケーシング2には後述の発熱体4の電源配線を挿通させる挿通穴を形成した。この挿通穴と電源配線との隙間はシリコーンで埋める。
【0036】
濾材3は耐熱(180℃)HEPAフィルタに用いられるガラス繊維(目付:68〜78g/m2、厚さ:0.33〜0.43mm)を折り幅90mmで波形に折り加工してつくり(波形の山(頂点、稜線部)のピッチは約4mm、山の数は30)、リボン11,12は耐熱性のシリコーン(GE東芝シリコーン株式会社製:TSE3791−W、白色)を上記ガラス繊維の両面に塗布して硬化させてつくった。リボン11,12のいずれについても塗布間隔は25mmで、リボン高さは約1mmとした。
【0037】
発熱体4は粘着剤をコーティングした矩形状のアルミニウム箔(金属板13)で導電体14を挟んでつくり、厚さ0.4mmの平板状とした。発熱体4は濾材3のすべての山に対応して空気流下流側に配設し、計30枚設けた(この発熱体4の枚数は模式的な図1におけるものとは異なる。)。
【0038】
発熱体4の電源配線については、隣接し合う発熱体4の10枚を一組として全発熱体4を三組に区分し、各組を構成する発熱体4をプラス端子15及びマイナス端子16の位置関係が交互となるように(隣接する発熱体4と逆向きとなるように)配設し、各組を構成する発熱体4を直列配線するとともに(図1参照)三組を並列配線し、各組に100V電源を印加可能とした。このように発熱体の数が多い場合等には、発熱体の一枚又は複数枚を一組として全発熱体が複数組に区分され、各組の発熱体は複数枚であれば直列配線されるとともに、各組が並列配線されるようにしてもよい。これにより、直列配線又は並列配線として取り纏められた配線中に適宜抵抗を入れることによって、各発熱体の印加電圧を容易に調整することができる。例えば本実施例では発熱体1枚当たりの印加電圧を8Vに設定しようとしたときに、各組の直列配線に9Ωの抵抗をそれぞれ組み込むことによって容易に調整することができた。なお、配線には耐熱性を考慮して軟銅線がガラス繊維又はフッ素樹脂で被覆されてなる耐熱電線を使用し、発熱体4の電源部分には配線との接合部に熱収縮チューブを取り付けて配線の抜け防止や脱落防止を施した。
【0039】
濾材3と電源配線した発熱体4とによりフィルタパック17を構成し、これを耐熱性のシリコーン樹脂をシール材7として介在させた上でケーシング2に収納し(発熱体4の電源配線をケーシング2の挿通穴に挿通させることは上述のとおりである。)、150mm×150mm×150mmのフィルタ装置1を製作した。
(比較例1)
リボンを形成せず、発熱体として上記実施例における平板状の発熱体を通常のHEPAフィルタのセパレータと同様に山高が約2.3mmとなるように波付折曲加工して使用した(特許文献2の図1、図3参照)ほかは、上記実施例と同様にフィルタ装置を製作した。
(比較例2)
リボンを形成せず、帯状の発熱体を濾材に貼着したほかは、上記実施例と同様にフィルタ装置を製作した。
【0040】
これらの実施例及び比較例1,2で得られたフィルタ装置につき抵抗のばらつき等を調べたところ、表1に示すような結果を得た。
【0041】
【表1】

【0042】
表1において、「抵抗ばらつき」はフィルタ装置(フィルタパック)の組立前後において発熱体の抵抗値が変わらないかどうかをテスタで計測して評価したもので、抵抗値が変わらない状態を「○」、大きく変わる(増える)状態を「×」とした。「加熱殺菌効果」は発熱体に通電し、所定の温度まで加熱した状態において温度分布を計測し、その温度分布にばらつきが少なく温度むらのない状態かどうかを評価したもので、温度分布にばらつきが少なく均一で良好である状態を「○」、温度分布にばらつきがあり温度むらがある状態を「×」とした。
【0043】
濾材の加熱殺菌効果を高めるという本発明の第一義的な課題との関係は上記二項目ほど濃密ではないが、表1では併せて「濾材へのストレス」と「配線を傷つけるリスク」についての評価を示す。「濾材へのストレス」はフィルタ装置(フィルタパック)の製作時に発熱体を取り付けることで濾材へのストレスがかかるかどうかを評価したもので、ストレスがかからない状態を「○」、若干ストレスがかかる状態を「△」、ストレスがかかる状態を「×」とした。「配線を傷つけるリスク」はフィルタ装置(フィルタパック)の製作時に発熱体の加工の有無により配線を傷つけるリスクがあるかどうかを評価し、リスクがない状態を「○」、リスクがある状態を「×」とした。
【0044】
「総合評価」は、全項目が○か、△が一つでその他が○であれば「○」、一つでも×があれば「×」とした。
【0045】
表1のとおり、実施例は、平板状の発熱体を加工する必要がないため発熱体の抵抗値は変動することなく良好で「抵抗ばらつき」に優れ、発熱体が濾材の傾斜面部に面しており、温度分布においてばらつきが少なく「加熱殺菌効果」に優れ、濾材にはリボンを塗布形成するだけであるため「濾材へのストレス」に優れ、発熱体を加工する必要がないため「配線を傷つけるリスク」に優れる。
【0046】
これに対し、比較例1は、発熱体が濾材の傾斜面部に面しており、温度分布においてばらつきが少なく「加熱殺菌効果」に優れ、濾材自体への加工を行わないので「濾材へのストレス」に優れるものの、発熱体を波形に折曲加工しており、折曲加工後の発熱体の抵抗値が増える場合があるため「抵抗ばらつき」にやや問題があり、発熱体を折曲加工するため「配線を傷つけるリスク」にも問題がある。
【0047】
また、比較例2は、帯状の発熱体を加工する必要がないため発熱体の抵抗値は変動することなく良好で「抵抗ばらつき」に優れ、「配線を傷つけるリスク」に優れるものの、帯状発熱体を濾材に貼着することにより濾材のデッドスペースが発生するため「濾材へのストレス」にやや問題があり、帯状発熱体と濾材との接触面積が小さく、帯状発熱体の近傍に加熱領域が限定されているため「加熱殺菌効果」はやや問題がある。
(実施例の殺菌能力に関する試験結果)
以下では上記実施例に係るフィルタ装置の殺菌能力に関する詳細な試験結果を追記しておく。
【0048】
まず、加熱温度特性をみるために、フィルタ装置を空気流上流側を下、空気流下流側を上として縦方向に設置し、通風していない状態で発熱体に電圧を印加して、濾材の各点の温度変化をT熱電対(JIS1級)とサーモグラフィーカメラの二種類の計測器を用いて測定した。熱電対では、電圧印加時からの時間に対する温度変化と、濾材の奥行方向(山が連なる方向)に対する温度勾配とを求め(熱電対による測温箇所は図3に示す。)、サーモグラフィーカメラでは、濾材の傾斜面部における温度むらを確認した。
【0049】
電圧印加時からの時間に対する温度変化では、図3のすべての測定点において、概ね加熱開始後45〜60分で最大値近傍まで上昇し、以後は加熱し続けても大きな温度変化は現れなかった(図4)。また、各測定点での最大値は、空気流上流側の稜線部付近を除いて、乾熱滅菌法で必要とされる最低温度の160℃を上回ることが確認された(図5)。一方、濾材の傾斜面部における温度分布は、発熱体の印加電圧によらず全体的にむらがみられない良好なものであった(図6)。
【0050】
続いて、乾熱滅菌性能をみるために、フィルタ装置の濾材表面に指標菌を付着させ、発熱体による加熱処理前後に濾材表面から指標菌を採取・培養した。
【0051】
濾材表面に指標菌を散布するには、フィルタ装置を図示を略すダクト装置の途中に設置し、このフィルタ装置よりも空気流下流側に設置された送風機によりフィルタ装置に通風した状態とする。そして、この状態を維持したまま、滅菌精製水中に指標菌を注入してなる被検菌液を、ダクト装置の入口に設置したネブライザーにより噴霧することによって、フィルタ装置を通風している空気中にエアロゾルとして散布する。このエアロゾル化した被検菌液が、フィルタ装置を通過する際に濾材表面に捕集されることによって、濾材表面に指標菌が散布される。
【0052】
一方、濾材表面から指標菌を採取するには、ダクト装置からフィルタ装置を分離し、空気流上流側の濾材表面の所定部位(この部位については後述する。)を滅菌綿棒にて拭き取り、濾材表面に付着した菌を綿棒で採取する。この際、菌の綿棒での採取を容易とするため、綿棒の綿球部分は予め培地凝固水で湿らせてから採取作業を行う。綿棒は採取部位一箇所ごとに一本ずつ取り替え、採取部位では綿棒を数回回転させて濾材表面の付着菌を採取する。この濾材表面の付着菌の採取は、乾熱滅菌処理前の状態である指標菌を濾材表面に散布した直後と、加熱処理終了30分後(濾材表面温度が室温近くまで下がる時間経過後)に行えばよい。
【0053】
以上の方法に従って、指標菌には弱毒結核菌(真空凍結乾燥BCGワクチン)を用い、被検菌への加熱時間を加熱開始(発熱体への電圧印加開始)から2時間とし(その間は連続かつ一定の電圧を発熱体に印加した。)、指標菌の散布・採取を行った。なお、濾材表面において付着菌を採取する部位は、濾材表面をX軸、Y軸及びZ軸方向にそれぞれ三分割して得る27個の領域について、それぞれ代表点を一つ定めることにより決定した。また、加熱処理前後の採取部位は、加熱前の採取による付着菌数の減少を考慮し、空気流上流側の稜線部を挟んで略対称となる部位とした(図7参照)。
【0054】
滅菌綿棒により採取した付着菌は、綿棒の綿球部分を培地(1%小川培地)に直接塗り広げることで培地に接種させ、その培地を所定温度に維持して4週間培養した。培養開始後は雑菌汚染の有無を毎日確認し、雑菌汚染がない状態のまま4週間培養した後に発生したコロニー数を計測したところ、表2に示すような結果を得た。
【0055】
【表2】

【0056】
表2のとおり、加熱処理前の濾材から採取した付着菌を培養すると、ごく一部の部位から採取した場合を除いて多数のコロニーが発生したが、加熱処理後の濾材から採取・培養した場合は、すべての部位についてコロニーは検出されなかった。
【0057】
加熱処理前の発生コロニー数は部位によってばらつきがみられるが、これはネブライザーから発生した被検菌液のエアロゾルが、均一に濾材表面へ散布されなかったためと考えられる。
【0058】
しかし、加熱処理前の発生コロニー数が+++(500以上)の部位であっても、加熱処理後にはコロニーが検出されなかったことから、本フィルタ装置は乾熱滅菌法における殺菌能力を十分に有しているということができる。
【0059】
なお、本発明は以上説明した形態に限られるものではなく、例えば発熱体は絶縁材料からなる基材中に微細な導電体が分散されて構成されていてもかまわない。絶縁材料としては例えばフッ素樹脂、シリコン樹脂、ポリイミド樹脂などの合成樹脂のポリマーが用いられ、微細な導電体としては例えばカーボン粒子が用いられる。このように構成された発熱体では、所定の温度よりも低い温度では導電体が鎖状に連なっており電気抵抗が低いが、所定の温度に達すると、基材を構成するポリマーの結晶部分の溶融や基材の熱膨張といった要因によって導電体の連鎖が分断され、急激に電気抵抗が上昇する。その後、温度が上記所定の温度に対して低くなると再び導電体が連なることにより電気抵抗が低下する。このように、ある程度温度が高くなったとき急激に電気抵抗が上昇する特性はPTC(Positive Temperature Coefficient:正温度係数)特性と呼ばれる。そして、PTC特性を有する発熱体は、一定の電圧が加わって通電された場合、温度が上記所定の温度に対して低いときには電流が流れて発熱し、温度が上記所定の温度まで上昇すると電流が減少して発熱量が低下することにより、結果として温度が上記所定の温度程度に保たれるという自己温度制御機能を有する。
【0060】
このように発熱体が自己温度制御機能を有すれば、発熱体に一定の電圧を加え続けるだけで温度が略一定に制御され、通電のオン・オフ制御や通電量の変更を行う必要がなく、発熱体としてニクロム線やカーボンヒータを用いる場合に比べて消費電力及び電磁ノイズの低減が可能となる。さらに、通電のオン・オフ制御や通電量の変更を行う場合と異なり、制御の遅れによる過剰な温度上昇のおそれがないことにより、温度上昇をより速めることができるから、殺菌に必要な時間を短縮することができるほか、濾材や発熱体の温度を検出するための温度センサが不要となる。
【0061】
あるいは、傾斜面部同士の間隔、又は、傾斜面部と発熱体との間隔はリボン以外の態様で保持してもよく、必要に応じて発熱体を濾材の空気流上流側に設置してもよく(但し、発熱体が気流の抵抗となる問題や、濾材に捕集される前の塵埃等が発熱体に付着する問題はあるので、工夫が必要となる。)、より確実な殺菌効果を期待して殺菌用の紫外線ランプを設置したり濾材に殺菌剤を保持させたりしてもかまわない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は加熱殺菌式のフィルタ装置に広範に適用することができ、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】発明を実施するための最良の形態に係るフィルタ装置を模式的に示す説明図
【図2】図1のフィルタ装置に用いられる発熱体の構成例を示す説明図
【図3】濾材表面の温度の測定点を示す説明図
【図4】図3の各測定点における加熱時間の経過に伴う温度変化を示す説明図
【図5】図3の各測定点における加熱開始後60分経過時の温度を発熱体1枚当たりの印加電圧ごとに示す説明図
【図6】(a)は発熱体1枚当たりの印加電圧が9Vであるときの傾斜面部の温度分布を示すサーモグラフィー、(b)は発熱体1枚当たりの印加電圧が8Vであるときの傾斜面部の温度分布を示すサーモグラフィー、(c)は発熱体1枚当たりの印加電圧が7Vであるときの傾斜面部の温度分布を示すサーモグラフィー
【図7】濾材表面の付着菌の採取部位を示す説明図
【符号の説明】
【0064】
1 フィルタ装置
2 ケーシング(装置本体)
3 濾材
4 発熱体
5 上流側開口
6 下流側開口
8,9 稜線部
10 傾斜面部
11 リボン(接触防止手段)
15 プラス端子
16 マイナス端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気が流入する上流側開口及び該上流側開口から流入した空気が流出する下流側開口を有する装置本体と、該装置本体に保持されて前記上流側開口から前記下流側開口に流れる空気を濾過する濾材と、該濾材を加熱して殺菌する発熱体とを備え、
前記濾材は波形を呈し、該波形の頂部に当たり前記上流側開口又は前記下流側開口に臨む稜線部、及び、互いに隣接する稜線部同士を繋ぐ傾斜面部を有し、
前記発熱体は平板状を呈し、前記濾材に対して前記下流側開口の側で、かつ、互いに隣接する傾斜面部の間に配設され、該隣接する傾斜面部同士の接触を防止することを特徴とするフィルタ装置。
【請求項2】
前記発熱体は、絶縁材料からなる基材中に微細な導電体が分散されてなり自己温度制御機能を有することを特徴とする請求項1に記載のフィルタ装置。
【請求項3】
前記濾材に対して前記上流側開口の側で、かつ、互いに隣接する傾斜面部の間に配設され、該隣接する傾斜面部同士の接触を防止する接触防止手段を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のフィルタ装置。
【請求項4】
前記発熱体の一枚又は複数枚を一組として全発熱体が複数組に区分され、各組の発熱体は複数枚であれば直列配線されるとともに、各組が並列配線されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のフィルタ装置。
【請求項5】
全発熱体のうち少なくとも一部の隣接し合う発熱体が前記下流側開口の側にプラス端子及びマイナス端子を有し、前記プラス端子及び前記マイナス端子の位置関係が隣接する発熱体と逆向きになるように配設された上で直列配線されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のフィルタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−90217(P2009−90217A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263637(P2007−263637)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年4月12日 社団法人 日本空気清浄協会発行の「第25回空気清浄とコンタミネーションコントロール研究大会予稿集」に発表
【出願人】(000150567)株式会社朝日工業社 (29)
【出願人】(000232760)日本無機株式会社 (104)
【Fターム(参考)】