説明

フィルムの製造方法

【課題】スルホン酸基を有するポリアリーレンと有機溶媒とを含む組成物から流延法によってフィルムを得るに際し、得られるフィルムの剥離傷やスジなどの不良を低減させ、外観の優れたポリアリーレン系フィルムが得られるフィルム製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のフィルム製造方法は、スルホン酸基を含有するポリアリーレンと有機溶媒とを含む組成物を、基体に塗布して乾燥することにより塗膜を形成する工程(1)と、該塗膜中に残留する有機溶媒の含有量を低減させる工程(2)とを含み、該ポリアリーレンのスルホン酸当量が0.3meq/g以上であり、工程(2)で得られた塗膜100重量部中に残留する有機溶媒の含有量が0.5重量部以下であり、工程(2)で得られた塗膜と基体との間の剥離強度が、180度剥離試験における引っ張り速度0.7m/minの条件下で、0.05〜2N/幅25mmであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレン系フィルムの製造方法に関し、さらに詳しくは、一次電池用電解質、二次電池用電解質、燃料電池用高分子固体電解質、表示素子、各種センサー、信号伝達媒体、固体コンデンサー、イオン交換膜などに用いられるプロトン伝導膜として有用なポリアリーレン系フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スルホン化芳香族系ポリマーは、通常、フィルム状に成形され、燃料電池のプロトン伝導膜などとして用いられている。スルホン化芳香族系ポリマーを用いて伝導膜を成形する方法としては、たとえば、スルホン化芳香族系ポリマーを有機溶媒に溶解し、流延法によりフィルム化する方法などが挙げられる(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、スルホン化芳香族系ポリマーを、表面処理を実施した基体上に流延し、乾燥すると、基体上の表面処理剤との相互作用のため、基体からスルホン化芳香族系ポリマーからなるフィルムを剥離することが困難となる。このように基体からのフィルムの剥離が困難となると、フィルムの外観に異常をきたし、剥離傷やスジなどの不良が発生することがある。特に、スルホン酸当量が高く(たとえば、0.3meq/g以上)、プロトン伝導膜として有用な、スルホン酸基を有するポリアリーレンの場合、スルホン酸基と基体に施された表面処理剤との相互作用が生じやすく、前記剥離傷やスジなどが発生することがあった。
【0004】
ここで、プロトン伝導膜などの電気・電子材料に用いる場合において、フィルムに求められる重要な特性として、ガス燃料や液体燃料をフィルムの反対側に通過させないという燃料遮断性がある。上記剥離傷やスジなどを有するフィルムを、燃料電池用高分子固体電解質として長時間使用した場合、該剥離傷やスジなどが、ガス漏れや燃料漏れなどの起点になるなどの重大な問題となる。
【0005】
また、スルホン酸基を有するポリアリーレンの場合、流延のための有機溶媒が比較的高沸点であるため、乾燥温度は高温となる。高温の乾燥を行うと、基体が熱収縮してしまうため、フィルムにスジやしわ等のフィルム外観異常を発生させてしまう傾向にある。これらの外観異常も上記の様な重大な問題となる。
【0006】
スルホン化芳香族系ポリマーからなるフィルムをプロトン伝導膜などの電気・電子材料に用いる場合、フィルム表面には電極等をプレスするなどして転写する必要がある。ここで、流延法によって得られたフィルムにおいて、基体に触れていた面の表面粗さは、基体の表面粗さが転写して現れることになる。そのため、上記フィルム表面に電極等を転写する工程において、フィルムの表面粗さの程度が大きいと、電極が均一に転写できず、燃料電池用高分子固体電解質として、もはや使用できないものとなってしまう。
【特許文献1】特開2005−171027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、スルホン酸基を有するポリアリーレンと有機溶媒とを含む組成物から流延法によってフィルムを得るに際し、得られるフィルムの剥離傷やスジなどの不良を低減させ、外観の優れたポリアリーレン系フィルムが得られるフィルム製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、スルホン酸基を含有するポリアリーレンの流延法によるフィルム化において、表面処理をしていない基体上に流延し、塗膜中の溶媒残留量を低減することで外観の優れたフィルムが得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明に係るフィルム製造方法は、スルホン酸基を含有するポリアリーレンと有機溶媒とを含むポリアリーレン系組成物を、基体に塗布して乾燥することにより塗膜を形成する工程(1)と、該塗膜中に残留する有機溶媒の含有量を低減させる工程(2)とを含み、前記ポリアリーレンのスルホン酸当量が0.3meq/g以上であり、前記工程(2)で得られた塗膜100重量部中に残留する有機溶媒の含有量が0.5重量部以下であり、前記工程(2)で得られた塗膜と基体との間の剥離強度が、180度剥離試験における引っ張り速度0.7m/minの条件下で、0.05〜2N/幅25mmの範囲内であることを特徴とする。
【0010】
前記ポリアリーレンは、下記一般式(A)で表される構造単位と、下記一般式(B)で表される構造単位とを含むことが好ましい。
【0011】
【化1】

【0012】
式(A)中、Yは、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−
(CF2i−(iは1〜10の整数を示す。)または−C(CF32−を示し、Zは、独立に直接結合、−(CH2j−(jは1〜10の整数を示す。)、−C(CH32−、−O−または−S−を示し、Arは、−SO3H、−O(CH2pSO3Hまたは−O(CF2pSO3H(pは1〜12の整数を示す。)で表される置換基を有する芳香族基を示し
、mは0〜10の整数を示し、nは0〜10の整数を示し、kは1〜4の整数を示す。
【0013】
【化2】

【0014】
式(B)中、AおよびDは、それぞれ独立に直接結合、−CO−、−SO2−、−SO
−、−CONH−、−COO−、−(CF2i−(iは1〜10の整数を示す。)、−(CH2j−(jは1〜10の整数を示す。)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、
芳香族炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基を示す。)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−または−S−を示し、Bは独立に酸素原子または硫黄原子を示し
、R1〜R16は、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部もしくは全部
がハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基またはニトリル基を示し、sおよびtは、それぞれ0〜4の整数を示し、rは0または1以上の整数を示す。
【0015】
前記基体はポリエチレンテレフタレートであること、また、前記基体の表面の中心線平均粗さが0.02μm以下であること、さらに、前記基体の熱収縮率が、基体の巻出し方向で0.9%以下であり、かつ、基体の幅方向で0.2%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、剥離傷やスジなどの不良が低減し、外観の優れたポリアリーレン系フィルムを得ることができる。したがって、本発明から得られるポリアリーレン系フィルム(プロトン伝導膜)を、一次電池用電解質、二次電池用電解質、燃料電池用高分子固体電解質、表示素子、各種センサー、信号伝達媒体、固体コンデンサー、イオン交換膜などの伝導膜として用いれば、広い温度範囲にわたって高いプロントン伝導性を発現するとともに、フィルム特性を損なうことなく長時間使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係るフィルム製造方法について詳細に説明する。
本発明に係るフィルム製造方法は、スルホン酸基を有するポリアリーレン(以下「スルホン化ポリアリーレン」ともいう。)と有機溶媒とを含むポリアリーレン系組成物を基体に塗布して乾燥することにより塗膜を形成する工程(1)と、該塗膜中に残留する有機溶媒の含有量を低減させる工程(2)とを含む。
【0018】
〔スルホン化ポリアリーレン〕
本発明で用いられるスルホン化ポリアリーレンは、特に限定されないが、下記一般式(A)で表されるスルホン酸基を有する構造単位(以下、「スルホン酸ユニット」または「構造単位(A)」ともいう。)と、下記一般式(B)で表されるスルホン酸基を有さない構造単位(以下、「疎水性ユニット」または「構造単位(B)」ともいう。)とを含む、下記一般式(C)で表される重合体であることが好ましい。
【0019】
<スルホン酸ユニット>
【0020】
【化3】

【0021】
上記式(A)中、Yは、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−
、−(CF2i−(iは1〜10の整数を示す。)または−C(CF32−を示す。これらの中では、−CO−および−SO2−が好ましい。
【0022】
Zは、独立に直接結合、−(CH2j−(jは1〜10の整数を示す。)、−C(CH32−、−O−または−S−を示す。これらの中では、直接結合および−O−が好ましい。
【0023】
Arは、−SO3H、−O(CH2pSO3Hまたは−O(CF2pSO3H(pは1〜
12の整数を示す。)で表される置換基を有する芳香族基を示す。芳香族基としては、たとえば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基などが挙げられる。これらの中では、フェニル基およびナフチル基が好ましい。また、Arは、−SO3H、
−O(CH2pSO3Hまたは−O(CF2pSO3Hで表される置換基を少なくとも1個有していることが必要であり、ナフチル基である場合には2個以上有することが好ましい。
【0024】
mは0〜10、好ましくは0〜2の整数であり、nは0〜10、好ましくは0〜2の整数であり、kは1〜4の整数を示す。
上記構造単位(A)の好ましい構造としては、上記式(A)において、
(1)m=0、n=0であり、Yが−CO−であり、Arが置換基として−SO3Hを有
するフェニル基である構造、
(2)m=1、n=0であり、Yが−CO−であり、Zが−O−であり、Arが置換基として−SO3Hを有するフェニル基である構造、
(3)m=1、n=1、k=1であり、Yが−CO−であり、Zが−O−であり、Arが置換基として−SO3Hを有するフェニル基である構造、
(4)m=1、n=0であり、Yが−CO−であり、Arが置換基として2個の−SO3
Hを有するナフチル基である構造、
(5)m=1、n=0であり、Yが−CO−であり、Zが−O−であり、Arが置換基として−O(CH24SO3Hを有するフェニル基である構造
などを挙げることができる。
【0025】
<疎水性ユニット>
【0026】
【化4】

【0027】
上記式(B)中、AおよびDは、それぞれ独立に直接結合、−CO−、−SO2−、−
SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2i−(iは1〜10の整数を示す。)、−(CH2j−(jは1〜10の整数を示す。)、−CR’2−、シクロヘキシリデン基
、フルオレニリデン基、−O−または−S−を示す。これらの中では、直接結合、−CO−、−SO2−、−CR’2−、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基および−O−が好ましい。なお、R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基を示し、たとえば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、プロピル基、オクチル基、デシル基、オクタデシル基、フェニル基、トリフルオロメチル基などが挙げられる。
【0028】
Bは独立に酸素原子または硫黄原子を示し、酸素原子が好ましい。
1〜R16は、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部もしくは全部
がハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基またはニトリル基を示す。
【0029】
上記R1〜R16におけるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチ
ル基、アミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基などが挙げられる。ハロゲン化アルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基などが挙げられる。アリル基としては、プロペニル基などが挙げられる。アリール基としては、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基などが挙げられる。
【0030】
sおよびtは、それぞれ0〜4の整数を示す。rは0または1以上の整数を示し、上限は通常100、好ましくは1〜80である。
上記構造単位(B)の好ましい構造としては、上記式(B)において、
(1)s=1、t=1であり、Aが−CR’2−、シクロヘキシリデン基またはフルオレ
ニリデン基であり、Bが酸素原子であり、Dが−CO−または−SO2−であり、R1〜R16が水素原子またはフッ素原子である構造、
(2)s=1、t=0であり、Bが酸素原子であり、Dが−CO−または−SO2−であ
り、R1〜R16が水素原子またはフッ素原子である構造、
(3)s=0、t=1であり、Aが−CR’2−、シクロヘキシリデン基またはフルオレ
ニリデン基であり、Bが酸素原子であり、R1〜R16が水素原子、フッ素原子またはニト
リル基である構造
などが挙げられる。
【0031】
<ポリマー構造>
【0032】
【化5】

【0033】
上記式(C)中、A、B、D、Y、Z、Ar、k、m、n、r、s、tおよびR1〜R16は、上記式(A)および(B)中で定義した通りであり、xおよびyは、x+y=10
0モル%とした場合のモル比を示す。
【0034】
本発明で特に好ましく用いられるスルホン化ポリアリーレンは、上記構造単位(A)、すなわちxのユニットを0.5〜100モル%、好ましくは10〜99.999モル%の割合で含有し、上記構造単位(B)、すなわちyのユニットを99.5〜0モル%、好ましくは90〜0.001モル%の割合で含有している。
【0035】
<ポリマーの製造方法>
上記スルホン化ポリアリーレンの製造方法としては、たとえば、下記に示すA法、B法
およびC法が挙げられる。
【0036】
(A法)たとえば、特開2004−137444号公報に記載の方法で、上記構造単位(A)となりうるスルホン酸エステル基を有するモノマーと、上記構造単位(B)となりうるモノマーまたはオリゴマーとを共重合させ、スルホン酸エステル基を有するポリアリーレンを製造し、このスルホン酸エステル基を脱エステル化してスルホン酸基に変換する方法。
【0037】
(B法)たとえば、特開2001−342241号公報に記載の方法で、上記式(A)で表される骨格を有するが、スルホン酸基およびスルホン酸エステル基を有しないモノマーと、上記構造単位(B)となりうるモノマーまたはオリゴマーとを共重合させ、得られた共重合体をスルホン化剤を用いてスルホン化する方法。
【0038】
(C法)上記式(A)中のArが、−O(CH2pSO3Hまたは−O(CF2pSO3Hで表される置換基を有する芳香族基である場合には、たとえば、特開2005−60625号公報に記載の方法で、上記構造単位(A)となりうる前駆体のモノマーと、上記構造単位(B)となりうるモノマーまたはオリゴマーとを共重合させ、次いで、アルキルスルホン酸またはフッ素置換されたアルキルスルホン酸を導入する方法。
【0039】
上記A法で用いることができる、上記構造単位(A)となりうるスルホン酸エステル基を有するモノマーとしては、たとえば、特開2004−137444号公報、特開2004−345997号公報、特開2004−346163号公報に記載されているスルホン酸エステル類を挙げることができる。
【0040】
上記B法で用いることができる、上記構造単位(A)となりうるスルホン酸基およびスルホン酸エステル基を有しないモノマーとしては、たとえば、特開2001−342241号公報、特開2002−293889号公報に記載されているジハロゲン化物を挙げることができる。
【0041】
上記C法で用いることができる、上記構造単位(A)となりうる前駆体のモノマーとしては、たとえば、特開2005−36125号公報に記載されているジハロゲン化物を挙げることができる。
【0042】
また、いずれの方法においても用いられる、上記構造単位(B)となりうるモノマーまたはオリゴマーとしては、
r=0の場合、たとえば、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンズアニリド、2,2−ビス(4−クロロフェニル)ジフルオロメタン、2,2−ビス(4−クロロフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、4−クロロ安息香酸−4−クロロフェニルエステル、ビス(4−クロロフェニル)スルホキシド、ビス(4−クロロフェニル)スルホン、2,6−ジクロロベンゾニトリルなどが挙げられる。これらの化合物において、塩素原子が臭素原子またはヨウ素原子に置き換わった化合物なども用いることができる。
【0043】
r=1の場合、たとえば、特開2003−113136号公報に記載の化合物を挙げることができる。
r≧2の場合、たとえば、特開2004−137444号公報、特開2004−244517号公報、特開2004−346164号公報、特開2005−112985号公報、特願2004−211739号、特願2004−211740号などに記載の化合物を挙げることができる。
【0044】
スルホン酸基を有するポリアリーレンを得るためには、まず、上記構造単位(A)となりうるモノマーと、上記構造単位(B)となりうるモノマーまたはオリゴマーとを、触媒の存在下で共重合させ、前駆体のポリアリーレンを得ることが必要である。この共重合を行う際に用いられる触媒は、遷移金属化合物を含む触媒系であり、この触媒系は、(i)遷移金属塩および配位子となる化合物、または、配位子が配位された遷移金属錯体(銅塩を含む)と、(ii)還元剤とを必須成分とし、さらに、重合速度を上げるために「塩」を添加してもよい。これらの触媒成分の具体例、各成分の使用割合、反応溶媒、濃度、温度、時間等の重合条件は、たとえば、特開2001−342241号公報に記載されている条件等を採用することができる。
【0045】
本発明で用いられるスルホン化ポリアリーレンは、上記のようにして得られた前駆体のポリアリーレンを、スルホン酸基を有するポリアリーレンに変換することにより得ることができる。この方法としては、下記の3通りの方法がある。
【0046】
(a法)上記A法で得られた、前駆体のスルホン酸エステル基を有するポリアリーレンを、特開2004−137444号公報に記載の方法で脱エステル化する方法。
(b法)上記B法で得られた前駆体のポリアリーレンを、特開2001−342241号公報に記載の方法でスルホン化する方法。
【0047】
(c法)上記C法で得られた前駆体のポリアリーレンに、特開2005−60625号公報に記載の方法で、アルキルスルホン酸基を導入する方法。
上記のような方法により製造される、上記式(C)で表されるスルホン化ポリアリーレンのスルホン酸当量は、通常、0.3meq/g以上、好ましくは0.5〜5meq/g、さらに好ましくは0.8〜3meq/gである。スルホン酸当量が上記範囲よりも低いと、プロトン伝導度が低くなり発電性能が低下する傾向にある。一方、スルホン酸当量が上記範囲を超えると、耐水性が大幅に低下してしまうことがあるため好ましくない。
【0048】
上記スルホン酸当量は、たとえば、上記構造単位(A)となりうる前駆体のモノマーおよび上記構造単位(B)となりうるモノマーまたはオリゴマーの種類、使用割合、組み合わせを変えることにより、調整することができる。
【0049】
このようにして得られるスルホン酸基を有するポリアリーレンの分子量は、ゲルパーミエションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量で、1万〜100万、好ましくは2万〜80万である。
【0050】
〔有機溶媒〕
本発明で用いられる有機溶媒としては、たとえば、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、エタノール、プロパノール、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、トルエン、キシレン、メチルアミルケトン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、2−ヒドロキシプロピオン酸エチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2−ヒドロキシ−2−メチルブタン酸メ
チル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、クロロホルム、塩化メチレンなどを挙げることができる。これらの中では、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド、エチルカルビトール、メチルカルビトールが好ましい。上記有機溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0051】
〔ポリアリーレン系組成物〕
本発明で用いられるポリアリーレン系組成物は、上記スルホン化ポリアリーレンと有機溶媒とを含み、該組成物中における固形分濃度、すなわちスルホン化ポリアリーレンの含有量は、組成物全体に対して、通常、3〜40重量%、好ましくは5〜35重量%である。固形分濃度が上記範囲よりも低いと、充分な厚さの塗膜が得られないことがあり、一方、上記範囲を超えると、充分に流延せず、均一な塗膜が得られないことがある。
【0052】
また、本発明に用いられる組成物の室温での粘度は、通常、1〜1,000,000mPa・s、好ましくは10〜100,000mPa・s、より好ましくは100〜80,000mPa・s、特に好ましくは1000〜60,000mPa・sである。粘度が上記範囲よりも低いと、塗工時に膜とすることができず、一方、上記範囲を超えると、充分に流延せず、均一な塗膜が得られないことがある。
【0053】
なお、本発明に用いられる組成物は、上記スルホン化ポリアリーレンおよび有機溶媒を主成分とするが、必要に応じて添加剤、たとえば、レベリング剤、シランカップリング剤などを添加してもよい。
【0054】
レベリング剤としては、一般的に使用されているレベリング剤であれば特に限定されず、たとえば、フッ素系ノニオン界面活性剤、特殊アクリル樹脂系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤などを使用することができる。
【0055】
〔フィルム製造方法〕
本発明のフィルム製造方法は、上記ポリアリーレン系組成物を基体に塗布して乾燥することにより塗膜を形成する工程(1)を含む。
【0056】
上記ポリアリーレン系組成物を基体に塗布する方法としては特に限定されず、たとえば、ダイス、コーター、スプレー、ハケ、ロールスピンコート、ディッピング、スクリーンなどの手段を用いて塗布することができる。なお、塗布の繰り返しによりフィルムの厚みや表面平滑性などを制御してもよい。
【0057】
本発明で用いられる基体としては、乾燥時の加熱により容易に変形しないものであれば特に限定されず、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、ナイロン6フィルム、ナイロン6,6フィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルムなどが挙げられる。これらの中では、高温下で熱収縮が少ないことから、PETフィルムおよびPENフィルムが好ましく、傷が少ないことなどからPETフィルムがより好ましい。
【0058】
本発明では、基体上の表面処理剤との相互作用を防ぐことから、上記基体は表面処理されていないことが好ましい。ただし、フィルムのすべり性を得るために、フィルム中に粒子、たとえば、シリカ粒子やアルミナ粒子などを添加することは、本発明でいう表面処理には含まれない。
【0059】
本発明で好適に用いられる基体の表面粗さとしては、表面の中心線平均粗さが0.02μm以下、好ましくは0.005〜0.015μmである。表面の中心線平均粗さが上記範囲を越えると電極の転写が均一に行われず、燃料電池用固体高分子電解質としての寿命が著しく低下してしまう。
【0060】
本発明で好適に用いられる基体の熱収縮率は、JIS C 2318に準じて行われる150℃×30分の試験条件において、基体の巻出し方向で0.9%以下、基体の幅方向で0.2%以下であり、好ましくは、基体の巻出し方向で0.7%以下、基体の幅方向で0.2%以下である。基体の熱収縮率が、基体の巻出し方向および幅方向において上記範囲を超えると、乾燥時に起きる基体の熱収縮により、流延されたフィルムにしわ等が発生してしまう。このような外観異常は、プロトン伝導膜などの電気・電子材料に使用する場合、燃料漏れの起点になるなど重大な問題となる。
【0061】
また、上記基体の厚みは、通常、25〜250μm、好ましくは50〜200μmである。基体の厚みが上記範囲を下回ると、基体の剛性が不十分となり、均一なプロトン伝導膜が得られないことがあり、一方、上記範囲を超えると、乾燥時の熱伝導が悪く十分な乾燥ができないことがある。
【0062】
上記基体上に塗布した組成物の乾燥は、一般的に用いられる方法、たとえば、多数のローラーを介して乾燥炉中を通過させる方法等により行うことができる。しかしながら、この乾燥工程において、溶媒の蒸発に伴い気泡が発生すると、フィルムの特性が著しく低下することがある。このようなフィルム特性の低下を防止するために、乾燥工程を2段以上の複数工程とし、各工程での温度あるいは風量を制御することが好ましい。各工程は、たとえば、30〜200℃、好ましくは50〜180℃で、10〜180分、好ましくは15〜60分間の条件で乾燥すればよい。
【0063】
上記乾燥工程後におけるフィルム中の固形分濃度は、好ましくは50〜90重量%、より好ましくは60〜90重量%である。
本発明のフィルム製造方法は、上記工程(1)で形成された塗膜中に残留する有機溶媒の含有量を低減させる工程(2)を含む。
【0064】
基体とフィルムとの間の剥離強度(剥離接着強さ)は、スルホン化ポリアリーレンの性質、基体の表面処理の有無および塗膜中の残留溶媒量などにより決定される。したがって、フィルムを安定した形状で剥離するためには、さらにフィルムの固形分濃度を上げる、すなわちフィルム(塗膜)中の残留溶媒量を減らす必要がある。塗膜100重量部中の残留溶媒量は0.5重量部以下が好ましい。0.5重量部を超えると、フィルムと基体との密着性が強くなり、剥離させる際に剥離傷やすじが生じる可能性がある。
【0065】
残留溶媒量を低減する方法としては、塗膜を湿式処理して乾燥する方法が挙げられる。上記工程(1)で得られた塗膜を、基体上に積層された状態のまま、たとえば、水、アルコール類、エーテル類、アセトンなどの媒体に浸漬させた後、乾燥することにより、湿式処理後の塗膜100重量部中の残留溶媒量を0.5重量部以下にまで低減することができる。前記媒体は、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよく、また、2種以上の媒体に浸漬させてもよい。
【0066】
基体上に形成された塗膜を液媒体に浸漬させる際には、湿式処理前の塗膜1重量部に対し、媒体が10重量部以上、好ましくは30重量部以上の接触比となるようにすることがよい。得られるフィルム(塗膜)の残留溶媒量をできるだけ少なくするためには、できるだけ大きな接触比を維持することが好ましい。また、浸漬に使用する媒体を交換したり、
オーバーフローさせたりして、常に媒体中の有機溶媒濃度を一定濃度以下に維持しておくことも、得られるフィルムの残留溶媒量の低減に有効である。また、フィルム中に残留する有機溶媒量の面内分布を小さく抑えるためには、媒体中の有機溶媒濃度を撹拌等によって均質化させることが好ましい。
【0067】
フィルムを浸漬する際の媒体の温度は、通常、5〜80℃の範囲である。媒体温度が高すぎると、乾燥後に得られるフィルムの表面状態が荒れる懸念がある。残留溶媒量の低減効率および取り扱い性などを考慮すれば、10〜60℃の範囲が好ましい。なお、フィルムの液媒体中への浸漬時間や浸漬回数は、塗膜100重量部中の残留溶媒量が0.5重量部以下になるように、適宜選択することができる。
【0068】
上記湿式処理後の乾燥は、一般的に用いられている方法で行うことができる。
上記湿式処理により、塗膜100重量部中の残留溶媒量が0.5重量部以下にまで低減された塗膜と、上記基体との間の剥離強度は、JIS−K6854−2に規定される180度剥離試験に準じて、引張り速度0.7m/minの条件下で測定した場合、0.05〜2N/幅25mm、好ましくは0.1〜1N/幅25mmの範囲内であることが望ましい。剥離強度が上記範囲を下回ると、密着力が弱すぎて乾燥中に剥離が進行してしまうことがあり、一方、上記範囲を超えると、密着力が強すぎて、剥離傷やスジ等の不良が発生してしまうことがある。
【0069】
本発明の製造方法により得られるフィルムの厚さは、通常、0.1〜1,000μm、好ましくは1〜800μm、より好ましくは5〜500μm、特に好ましくは10〜300μmである。フィルムの厚みが上記範囲を下回ると、実質的にハンドリングが困難となり、一方、上記範囲を超えると、プロトン伝導性が低下することがある。
【0070】
本発明の製造方法により得られるフィルムの厚み分布は、厚みの平均値に対して、通常±30%以内、好ましくは±20%以内、より好ましくは±15%以内、特に好ましくは±10%以内である。かかる厚み制御を実施することにより、フィルムの局部的な劣化を防ぐことができる。
【0071】
本発明の方法により得られるフィルム(プロトン伝導膜)は、長時間使用した場合においてもフィルムとしての燃料遮断性を損なうことなく、広い温度範囲にわたって高いプロントン伝導性を有する。したがって、本発明により得られるフィルムは、たとえば、一次電池用電解質、二次電池用電解質、燃料電池用高分子固体電解質、表示素子、各種センサー、信号伝達媒体、固体コンデンサー、イオン交換膜などに用いられるプロトン伝導膜として好適に利用することができる。
【0072】
[実施例]
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、各種物性は以下のようにして求めた。
【0073】
1.分子量
スルホン酸基を有しないポリアリーレンの分子量は、溶剤としてテトラヒドロフラン(THF)を用い、GPCによってポリスチレン換算の分子量を求めた。スルホン酸基を有するポリアリーレンの分子量は、臭化リチウムと燐酸を添加したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶離液として用い、GPCによってポリスチレン換算の分子量を求めた。
【0074】
2.スルホン酸当量
得られたスルホン酸基を有する重合体の水洗水が中性になるまで充分に洗浄し、フリー
に残存している酸を除去して乾燥後、所定量を秤量し、THF/水の混合溶剤に溶解したフェノールフタレインを指示薬とし、NaOHの標準液を用いて滴定を行い、中和点からスルホン酸当量を求めた。
【0075】
3.外観検査
得られたフィルムをCLASS10000のクリーンルーム内において基体から剥離し、目視で外観検査を行い不良部分を検出し、顕微鏡で観察することにより内容の分類を行った。分類項目はすじ、傷、異物、異常なしである。
【0076】
4.表面粗さ
基体の表面粗さは(株)小坂研究所製の非接触二次元三次元微細形状測定機「ET−30K」と、表面粗さ解析装置「サーフコーダ AY−31」とを使用して測定を行った。
【0077】
5.熱収縮率
JIS C 2318に準じて150℃×30分の条件での収縮率を求めた。
<合成例1>
(1)ポリアリーレンの合成
撹拌羽根、温度計および窒素導入管を取り付けた1000mLの3口フラスコに、3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル90.3g(225mmol)、2,5−ジクロロベンゾフェノン69.1g(275mmol)、4−クロロベンゾフェノン1.08g(5mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド9.81g(15mmol)、よう化ナトリウム2.25g(15mmol)、トリフェニルホスフィン52.5g(200mmol)および亜鉛78.4g(1200mmol)を加えた。フラスコ内を2時間真空乾燥した後、乾燥窒素置換し、脱水したジメチルアセトアミド(DMAc)373mLを加え、重合を開始した。反応温度が90℃を超えないように制御しながら、3時間重合を続けた後、DMAc1400mLを加えて重合溶液を希釈し、不溶部をろ過した。ろ液を10Lのメタノールに注いで重合体を凝固させた。沈殿した重合体を回収して真空乾燥し、目的のポリアリーレン120gを得た。GPCで求めた生成物の数平均分子量(Mn)は39,000、重量平均分子量(Mw)は153,000であった。
【0078】
(2)スルホン化ポリアリーレンの合成
撹拌羽根、温度計および窒素導入管を取り付けた300mLの3口フラスコに、(1)で得られたポリアリーレン120g、DMAc970mLおよび臭化リチウム29.3g(338mmol)を加え、120℃で7時間撹拌した。得られた反応溶液を5Lのアセトンに注いで重合体を凝固させた。得られた固体を蒸留水/濃塩酸混合溶液(3.0L/0.37L)で2度処理した後、蒸留水でpHが中性になるまで洗浄した。70℃で12時間乾燥することにより、目的のスルホン化ポリアリーレン100gを得た。このポリマーのスルホン酸当量は2.0meq/gであった。また、重量平均分子量(Mw)は、116,000であった。
【0079】
<合成例2>
(1)疎水性ユニットの合成
攪拌機、温度計、Dean-stark管、窒素導入管および冷却管を取り付けた1Lの三口フラスコに、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン20.2g(60.2mmol)、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン18.1g(51.6mmol)、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン29.6g(103mmol)および炭酸カリウム20.1g(145mmol)をはかりとった。フラスコ内を窒素置換後、スルホラン170mLおよびトルエン85mLを加えて攪拌し、オイルバスを用いて反応液を150℃で加熱還流させた。反応によって生
成する水はDean-stark管にトラップした。3時間後、水の生成がほとんど認められなくなったところで、トルエンをDean-stark管から系外に除去した。徐々に反応温度を200℃に上げ、5時間攪拌を続けた後、4,4’−ジクロロベンゾフェノン10.8g(43mmol)を加え、さらに8時間反応させた。
【0080】
得られた反応液を放冷後、トルエン100mLを加えて希釈した。反応液に不溶の無機塩をろ過し、ろ液をメタノール2Lに注いで生成物を沈殿させた。沈殿した生成物をろ過、乾燥後、テトラヒドロフラン250mLに溶解し、これをメタノール2Lに注いで再沈殿させた。沈殿した白色粉末をろ過、乾燥することにより、目的の疎水性ユニット56.5gを得た。GPCで測定した数平均分子量(Mn)は7,800であった。得られた化合物は、下記式(i)で表されるオリゴマーであることを確認した。下記式(i)中、aとbの比(a:b)は54:46であった。
【0081】
【化6】

【0082】
(2)スルホン化ポリアリーレンの合成
攪拌機、温度計および窒素導入管を取り付けた1Lのフラスコに、3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル119g(296mmol)、(1)で得られた分子量(Mn)7,800の疎水性ユニット30.4g(3.9mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド5.89g(9.0mmol)、ヨウ化ナトリウム1.35g(9.0mmol)、トリフェニルホスフィン31.5g(120mmol)および亜鉛47.1g(720mmol)をはかりとり、乾燥窒素置換した。ここにN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)350mLを加え、反応温度を80℃に保持しながら、3時間攪拌を続けた後、DMAc700mLを加えて希釈し、不溶物をろ過した。
【0083】
得られた反応溶液を、攪拌機、温度計および窒素導入管を取り付けた2Lのフラスコに入れ、115℃に加熱攪拌し、臭化リチウム56.6g(651mmol)を加えた。7時間攪拌後、アセトン5Lに注いで生成物を沈殿させた。次いで、1N塩酸、純水の順に洗浄後、乾燥して目的の重合体103gを得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は260,000であった。得られた重合体は、下記式(ii)で表されるスルホン化ポリアリーレンと推定される。このポリマーのスルホン酸当量は2.3meq/gであった。
【0084】
【化7】

【0085】
<合成例3>
(1)疎水性ユニットの合成
攪拌機、温度計、Dean-stark管、窒素導入管および冷却管を取り付けた1Lの三口フラスコに、2,6−ジクロロベンゾニトリル44.5g(259mmol)、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン102.0g(291mmol)および炭酸カリウム52.3g(379mmol)をはかりとった。窒素置換後、スルホラン366mLおよびトルエン183mLを加えて攪拌し、オイルバスを用いて反応液を150℃で加熱還流させた。反応によって生成する水はDean-stark管にトラップした。3時間後、水の生成がほとんど認められなくなったところで、トルエンをDean-stark管から系外に除去した。徐々に反応温度を200℃に上げ、3時間攪拌を続けた後、2,6−ジクロロベンゾニトリル16.7g(97mmol)を加え、さらに5時間反応させた。
【0086】
得られた反応液を放冷後、トルエン100mLを加えて希釈した。反応液に不溶の無機塩を濾過し、濾液をメタノール2Lに注いで生成物を沈殿させた。沈殿した生成物を濾過、乾燥後、テトラヒドロフラン250mLに溶解し、これをメタノール2Lに注いで再沈殿させた。沈殿した白色粉末を濾過、乾燥し、目的の疎水性ユニット118gを得た。GPCで測定した数平均分子量(Mn)は7,300であった。得られた化合物は、下記式(iii)で表されるオリゴマーであることを確認した。
【0087】
【化8】

【0088】
(2)スルホン化ポリアリーレンの合成
攪拌機、温度計および窒素導入管を取り付けた1Lの三口フラスコに、3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル207.5g(517mmol)、(1)で得られたMn7,300の疎水性ユニット57.5g(7.88mmol)、
ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド10.3g(15.8mmol)、ヨウ化ナトリウム2.36g(15.8mmol)、トリフェニルホスフィン55.1g(210mmol)および亜鉛82.4g(1260mmol)をはかりとり、乾燥窒素置換した。ここにN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)720mLを加え、反応温度を80℃に保持しながら3時間攪拌を続けた後、DMAc1360mLを加えて希釈し、不溶物を濾過した。
【0089】
得られた反応溶液を、攪拌機、温度計および窒素導入管を取り付けた2Lの三口フラスコに入れ、115℃に加熱攪拌し、臭化リチウム98.8g(1140mmol)を加えた。7時間攪拌後、アセトン5Lに注いで生成物を沈殿させた。次いで、1N塩酸、純水の順で洗浄後、乾燥して目的の重合体223gを得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は142,000であった。得られた重合体は、下記式(iv)で表されるスルホン化ポリマーと推定される。このポリマーのスルホン酸当量は2.4meq/gであった。
【0090】
【化9】

【0091】
〔実施例1〕
合成例1で得られたスルホン化ポリアリーレン130gを、メタノール348gおよびNMP522gの混合溶媒に溶解させ、濃度13重量%(室温での溶液粘度は5,600mPa・s)の組成物を調製した。この組成物を、井上金属工業製INVEXラボコーターを用いて、表面処理のされていないPETフィルム(帝人デュポン(株)製「テトロンHSL−125」、厚さ123μm、幅430mm)に塗布した。なお、この基体(PETフィルム)の表面の中心線平均粗さは0.013μmであり、熱収縮率は、基体の巻出し方向で0.5%、幅方向で0.1%であった。
【0092】
上記組成物を塗布したPETフィルムを、予備乾燥として80℃で乾燥後、さらに140℃で乾燥して塗膜(フィルム)を形成した。塗膜100重量部中の残留溶媒量を400MHz 1H−NMRを用いて測定したところ、30重量部であった。なお、残留溶媒であるNMPの割合は、約2.18ppm付近に出現するNMPのプロトンの吸収から算出した。
【0093】
次いで、塗膜が形成されたPETフィルムを、24℃の純水中に16分間浸漬することにより、湿式処理した。湿式処理後の塗膜100重量部中の残留溶媒量を、上記と同様にして測定したところ、0.35重量部であった。また、湿式処理後、基体上に形成された塗膜と該基体との剥離強度を、JIS−K6854−2に規定される180度剥離試験を準用して、引っ張り速度0.7m/minの条件下で測定したところ、0.49N/幅25mmであった。また、湿式処理後のフィルムを300mm間隔で切断し、枚様のフィルムを50枚得て、外観検査を行った。結果を表1に示す。
【0094】
上記基体(PETフィルム)から剥離したフィルムの基体接触面に、電極を150℃で熱プレスして転写することにより、電極接合フィルムを得た。得られた電極接合フィルムを水中に1時間浸漬して電極の接合性を確認したところ、剥離は確認されなかった。
【0095】
〔実施例2〕
合成例2で得られたスルホン化ポリアリーレン130gを、メタノール348gおよびNMP522gの混合溶媒に溶解させ、濃度13重量%(室温での溶液粘度は7,000mPa・s)の組成物を調製した。この組成物を、井上金属工業製INVEXラボコーターを用いて、表面処理のされていないPETフィルム(帝人デュポン(株)製「テトロンHSL−125」、厚さ125μm)に塗布した。なお、この基体(PETフィルム)の表面の中心線平均粗さは0.013μmであり、熱収縮率は、基体の巻出し方向で0.5%、幅方向で0.1%であった。
【0096】
上記組成物を塗布したPETフィルムを、予備乾燥として80℃で乾燥後、さらに140℃で乾燥して塗膜を形成した。塗膜100重量部中の残留溶媒量を実施例1と同様にして測定したところ、31重量部であった。
【0097】
次いで、塗膜が形成されたPETフィルムを、24℃の純水中に16分間浸漬することにより、湿式処理した。湿式処理後の塗膜100重量部中の残留溶媒量を実施例1と同様にして測定したところ、0.32重量部であった。また、湿式処理後、基体上に形成された塗膜と該基体との剥離強度を、実施例1と同様にして測定したところ、0.38N/幅
25mmであった。また、湿式処理後のフィルムを用いて、実施例1と同様にして外観検査を行った。結果を表1に示す。
【0098】
上記基体(PETフィルム)から剥離したフィルムの基体接触面に、電極を150℃で熱プレスして転写することにより、電極接合フィルムを得た。得られた電極接合フィルムを水中に1時間浸漬して電極の接合性を確認したところ、剥離は確認されなかった。
【0099】
〔実施例3〕
合成例3で得られたスルホン化ポリアリーレン130gを、メタノール348gおよびNMP522gの混合溶媒に溶解させ、濃度13重量%(室温での溶液粘度は6,200mPa・s)の組成物を調製した。この組成物を、井上金属工業製INVEXラボコーターを用いて、表面処理のされていないPETフィルム(帝人デュポン(株)製「テトロンHSL−125」、厚さ125μm)に塗布した。なお、この基体(PETフィルム)の表面の中心線平均粗さは0.013μmであり、熱収縮率は、基体の巻出し方向で0.5%、幅方向で0.1%であった。
【0100】
上記組成物を塗布したPETフィルムを、予備乾燥として80℃で乾燥後、さらに140℃で乾燥して塗膜を形成した。塗膜100重量部中の残留溶媒量を実施例1と同様にして測定したところ、31重量部であった。
【0101】
次いで、塗膜が形成されたPETフィルムを、24℃の純水中に16分間浸漬することにより、湿式処理した。湿式処理後の塗膜100重量部中の残留溶媒量を実施例1と同様にして測定したところ、0.33重量部であった。また、湿式処理後、基体上に形成された塗膜と該基体との剥離強度を、実施例1と同様にして測定したところ、0.32N/幅
25mmであった。また、湿式処理後のフィルムを用いて、実施例1と同様にして外観検査を行った。結果を表1に示す。
【0102】
上記基体(PETフィルム)から剥離したフィルムの基体接触面に、電極を150℃で
熱プレスして転写することにより、電極接合フィルムを得た。得られた電極接合フィルムを水中に1時間浸漬して電極の接合性を確認したところ、剥離は確認されなかった。
【0103】
〔比較例1〕
合成例2で得られたスルホン化ポリアリーレン130gを、メタノール348gおよびNMP522gの混合溶媒に溶解させ、濃度13重量%(室温での溶液粘度は7,000mPa・s)の組成物を調製した。この組成物を、井上金属工業製INVEXラボコーターを用いて、多目的易接着の表面処理がされたPETフィルム(東レ(株)製「ルミラーU−94」、厚さ125μm)に塗布した。
【0104】
上記組成物を塗布したPETフィルムを、予備乾燥として80℃で乾燥後、さらに140℃で乾燥して塗膜を形成した。塗膜100重量部中の残留溶媒量を実施例1と同様にして測定したところ、42重量部であった。
【0105】
次いで、塗膜が形成されたPETフィルムを、24℃の純水中に16分間浸漬することにより、湿式処理した。湿式処理後の塗膜100重量部中の残留溶媒量を実施例1と同様にして測定したところ、0.33重量部であった。また、湿式処理後、基体上に形成された塗膜と該基体との剥離強度を、実施例1と同様にして測定したところ、3N/幅25m
mであった。また、湿式処理後のフィルムを用いて、実施例1と同様にして外観検査を行った。結果を表1に示す。
【0106】
〔比較例2〕
合成例2で得られたスルホン化ポリアリーレン130gを、メタノール348gおよびNMP522gの混合溶媒に溶解させ、濃度13重量%(室温での溶液粘度は7,000mPa・s)の組成物を調製した。この組成物を、井上金属工業製INVEXラボコーターを用いて、表面処理のされていないPETフィルム(帝人デュポン(株)製「テトロンHSL−125」、厚さ125μm)に塗布した。
【0107】
上記組成物を塗布したPETフィルムを、予備乾燥として80℃で乾燥後、さらに140℃で乾燥して塗膜を形成した。塗膜100重量部中の残留溶媒量を実施例1と同様にして測定したところ、31重量部であった。
【0108】
次いで、塗膜が形成されたPETフィルムを、24℃の純水中に5分間浸漬することにより、湿式処理した。湿式処理後の残留溶媒量を実施例1と同様にして測定したところ、18重量部であった。また、湿式処理後、基体上に形成された塗膜と該基体との剥離強度を、実施例1と同様にして測定したところ、3.4N/幅25mmであった。また、湿式
処理後のフィルムを用いて、実施例1と同様にして外観検査を行った。結果を表1に示す。
【0109】
〔比較例3〕
合成例2で得られたスルホン化ポリアリーレン130gを、メタノール348gおよびNMP522gの混合溶媒に溶解させ、濃度13重量%(室温での溶液粘度は7,000mPa・s)の組成物を調製した。この組成物を、井上金属工業製INVEXラボコーターを用いて、表面処理のされていないPETフィルム(帝人デュポン(株)製「テトロンS−125」、厚さ125μm)に塗布した。なお、この基体の表面の中心線平均粗さは0.025μmであり、熱収縮率は、基体の巻出し方向で1.0%、幅方向で0.25%であった。
【0110】
上記組成物を塗布したPETフィルムを、予備乾燥として80℃で乾燥後、さらに140℃で乾燥して塗膜を形成した。塗膜100重量部中の残留溶媒量を実施例1と同様にし
て測定したところ、31重量部であった。
【0111】
次いで、塗膜が形成されたPETフィルムを、24℃の純水中に16分間浸漬することにより、湿式処理した。湿式処理後の塗膜100重量部中の残留溶媒量を実施例1と同様にして測定したところ、0.33重量部であった。また、湿式処理後、基体上に形成された塗膜と該基体との剥離強度を、実施例1と同様にして測定したところ、0.37N/幅
25mmであった。また、湿式処理後のフィルムを用いて、実施例1と同様にして外観検査を行った。結果を表1に示す。
【0112】
上記基体(PETフィルム)から剥離したフィルムの基体接触面に、電極を150℃で熱プレスして転写することにより、電極接合フィルムを得た。得られた電極接合フィルムを水中に1時間浸漬して電極の接合性を確認したところ、電極の一部が剥離してフィルムが露出している部分が確認された。
【0113】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基を含有するポリアリーレンと有機溶媒とを含むポリアリーレン系組成物を、基体に塗布して乾燥することにより塗膜を形成する工程(1)と、該塗膜中に残留する有機溶媒の含有量を低減させる工程(2)とを含み、
前記ポリアリーレンのスルホン酸当量が0.3meq/g以上であり、
前記工程(2)で得られた塗膜100重量部中に残留する有機溶媒の含有量が0.5重量部以下であり、
前記工程(2)で得られた塗膜と基体との間の剥離強度が、180度剥離試験における引っ張り速度0.7m/minの条件下で、0.05〜2N/幅25mmの範囲内であることを特徴とするフィルム製造方法。
【請求項2】
前記ポリアリーレンが、下記一般式(A)で表される構造単位と、下記一般式(B)で表される構造単位とを含むことを特徴とする請求項1に記載のフィルム製造方法。
【化1】

[式(A)中、Yは、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−
(CF2i−(iは1〜10の整数を示す。)または−C(CF32−を示し、
Zは、独立に直接結合、−(CH2j−(jは1〜10の整数を示す。)、−C(CH3
2−、−O−または−S−を示し、
Arは、−SO3H、−O(CH2pSO3Hまたは−O(CF2pSO3H(pは1〜1
2の整数を示す。)で表される置換基を有する芳香族基を示し、
mは0〜10の整数を示し、nは0〜10の整数を示し、kは1〜4の整数を示す。]
【化2】

[式(B)中、AおよびDは、それぞれ独立に直接結合、−CO−、−SO2−、−SO
−、−CONH−、−COO−、−(CF2i−(iは1〜10の整数を示す。)、−(CH2j−(jは1〜10の整数を示す。)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、
芳香族炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基を示す。)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−または−S−を示し、
Bは独立に酸素原子または硫黄原子を示し、
1〜R16は、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部もしくは全部が
ハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基またはニトリル基を示し、
sおよびtは、それぞれ0〜4の整数を示し、rは0または1以上の整数を示す。]
【請求項3】
前記基体がポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1に記載のフィ
ルム製造方法。
【請求項4】
前記基体の表面の中心線平均粗さが0.02μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のフィルム製造方法。
【請求項5】
前記基体の熱収縮率が、基体の巻出し方向で0.9%以下であり、かつ、基体の幅方向で0.2%以下であることを特徴とする請求項1に記載のフィルム製造方法。
【請求項6】
前記工程(2)が、工程(1)で得られた塗膜を湿式処理して乾燥することにより行われることを特徴とする請求項1に記載のフィルム製造方法。

【公開番号】特開2007−91855(P2007−91855A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−282051(P2005−282051)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】