説明

フィルムの製造方法

【課題】フィルムのコロナ処理において、裏ヌケさせずに、片面のみの効果を得る方法を提供する。
【解決手段】高周波の高電圧を印加する放電電極と、絶縁物で被覆し電気的に接地された接地電極とで構成され、放電電極先端近傍の両側に均等に接地電極を配置した電極を用いて、ストリーマ状のコロナ放電を発生させ、フィルムをこのストリーマコロナ放電領域を通過させることで、フィルム表面をコロナ処理することを特徴とするフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムの表面改質を目的にコロナ放電処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルム表面の改質技術の一つとして、フィルム表面にコロナ放電を照射することで接着力・印刷特性・防曇性といった表面特性を向上させることができることは周知であり、工業的に最も多く採用されている方法が、このコロナ放電処理である。フィルムの製造ラインでも例外ではない。通常、押出・製膜・延伸加工したフィルムを引取り機で引取った後、巻取り機でロール状に巻取るフィルム製造ラインでは、引取機にこのコロナ放電処理装置を設け、インラインで表面改質処理を行っている。
【0003】
フィルム表面を改質するために、コロナ放電電極と接地された対向処理ロールとの間に高電圧を印加して、実質的に大気圧でコロナ放電処理する方法は一般的によく知られている。(例えば特許文献1)
【0004】
図2は従来のコロナ放電処理装置の一例である。コロナ放電電極と対向して処理ロールが配置され、コロナ放電電極と処理ロール間に高周波の高電圧が印加され、コロナ放電を形成する。このコロナ放電電極と処理ロールの放電ギャップを処理ロールに沿って通過するフィルムの表面をコロナ処理する方法を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭62−4058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コロナ処理は本来処理を施したフィルムの片面のみに処理効果を得ることを目的とするものであるが、処理不要、或いは処理しては困るフィルムの裏面(非処理面)に弱いコロナ処理効果が発生する問題がある。この裏面が処理される現象を「裏ヌケ(または背面処理)」という。
【0007】
この裏ヌケが起きる理由は、フィルムと処理ロールの間に僅かに空気が介在することで、この空気がフィルムの厚み方向に掛かる電圧で電離現象が起き、処理不要な裏面が弱くコロナ処理されためである。この裏ヌケしたフィルムは、例えば、印刷やラミネートといったコンバーティング加工工程で期待される非処理面のスリップ性能の悪化による加工不良や非処理面の離型性の阻害といった後加工及び実用面の問題が起きる。
【0008】
主なプロセス要因としては、(1)フィルム引取り張力が弱い。(2)フィルムが処理ロール進入前にシワがある。(3)帯電により処理ロール上のシワが逃げない。(4)フィルムの面歪みによって処理ロールに密着しない。(5)表面摩擦抵抗が大きい。などが考えられる。このシワの部分が処理ロールから浮き上がるために、処理される必要のないフィルムの裏面がコロナ処理されるという不具合が生じる。特に広幅フィルム製造のインラインでは、避けがたい問題である。
【0009】
本発明は、上記課題を解決し、裏ヌケさせずに、コロナ処理を片面のみの効果を得る方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために、放電電極から処理ロール側にコロナ放電を起こさせない電極を用いて、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の通りのものである。
(1)高周波の高電圧を印加する放電電極と、絶縁物で被覆し電気的に接地された接地電極とで構成され、放電電極先端近傍の両側に均等に接地電極を配置した電極を用いて、ストリーマ状のコロナ放電を発生させ、フィルムをこのストリーマコロナ放電領域を通過させることで、フィルム表面をコロナ処理することを特徴とするフィルムの製造方法。
(2)前記放電電極と接地電極を交互に複数列設け、多段処理することを特徴とする(1)記載のフィルムの製造方法。
(3)前記フィルムが二軸延伸フィルムである(1)または(2)記載のフィルム製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、フィルムの裏面がコロナ処理される「裏ヌケ」が防止でき、コロナ処理した処理面のみに均一な処理効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の電極構成と放電状況を示す説明図である。
【図2】従来のコロナ処理装置の概略図である。
【図3】実施例に用いた電極と放電状況を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
本発明では、高周波の高電圧を印加してコロナ放電を発生する放電電極と、絶縁物で被覆し電気的に接地された接地電極とを、この放電電極先端近傍の両側に均等に接地電極を配置した電極を用いて、ストリーマ状のコロナ放電を発生させることが最も重要である。図1に示すように両電極の均等配置によって放電形態は、放電電極先端から火炎が噴き出すように払子状のコロナが形成される。払子コロナはストリーマが多数集まって成長したもので、高効率にコロナ処理効果が得られる。
【0016】
本発明では、この払子状のコロナが噴出しているストリーマコロナ放電領域にフィルムを通過させてストリーマコロナをフィルム表面に接触させることで、コロナ処理が施されるのである。接地電極とフィルムとのギャップは3〜10mmの範囲内であることが好ましい。
【0017】
本発明によるコロナ処理方法では、原理的に対向電極として処理ロールは必要としない。ロールとロール間を走行中のロールに非接触のフィルムにコロナ処理することが可能であり、従来のコロナ処理装置のように処理ロール上を走行しているフィルムに対して、放電電極と接地電極を配置してコロナ処理することもできる。但しこのときは放電電極から処理ロール側にコロナ放電が起きないように、処理ロールに十分な絶縁仕様の配慮が必要である。
【0018】
通常のコロナ処理装置では、処理ロールにコロナ放電を安定持続する本質的な役割を持たせている。処理ロールに被覆される絶縁体(誘電体)は、コロナ放電に最適なインピーダンスと誘電率を持った電気特性に設計されている。しかしながら本発明では放電電極から処理ロール側には放電をさせてはいけない。そのため十分な絶縁仕様が必要なのである。絶縁体の材質としては、シリコンゴム、ハイパロンゴム、EPTゴムなどを用いることが好ましく、少なくとも処理ロール表面を10mm以上の厚さで被覆することが好ましい。
【0019】
その理由は、放電電極から処理ロール側に放電させないことで、仮に処理ロールからフィルムが浮き上がっていても、裏面の電離現象が起きないために裏ヌケしないで片面のみの処理ができるのである。
【0020】
本発明でいう放電電極には、先端が尖った電極を用いる。材質としては、ステンレスが好ましく、電極の形状は、針、ブレード、ナイフエッジ、ワイヤーなどが挙げられる。また接地電極は、金属製の電極の廻りを絶縁物で被覆したもので、被覆絶縁物としては、例えばシリコンゴムやテフロン(登録商標)樹脂などのスリーブ、ガラス管、或いは金属棒に直接セラミックを溶射被覆したものなどが挙げられる。
【0021】
更に、本発明ではフィルム表面を均一に処理するために、放電電極と接地電極を交互に複数列設けて多段処理することが好ましい。
【0022】
本発明でのコロナ処理は、フィルム製造ラインに設置するインライン処理と一旦ロール状に巻き取られたフィルムを再繰り出しして処理するオフライン処理のどちらでも実施可能であるが、工業的生産効率の観点からはインライン処理が好ましい。
【0023】
本発明は、押出・製膜した後に延伸加工する工程を伴う二軸延伸フィルム製造ラインにも適用できる。
【0024】
本発明のフィルムの引取り速度(処理速度)は設備能力の範囲内で任意の速度で処理を行うことができる。
【0025】
本発明において、放電量は、通常12〜280W/m/minである。
【0026】
本発明は、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリアリレート、ポリスルフォン、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートなど、ほとんど全てのプラスチックフィルムの製造に適用可能である。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0028】
実施例1
二軸延伸された巾1.5m厚さ10μmのナイロン6フィルムを速度100m/minで引取り、コロナ処理装置でフィルムの上片面にコロナ処理を施し、ロール状に巻取った。コロナ処理装置には図3に示すような、放電電極を8列配置したものを用いた。コロナ放電電極と接地電極のピッチは10mmの均等間隔にセットした。ロールとロール間を走行中のフィルムに対して放電ギャップ5mmでコロナ放電照射した。
放電量6000Wの電力を印加し40W/m/minで処理をした。得られたフィルムの非処理面のぬれ張力は38mN/mで裏ヌケは観察されなかった。処理面のぬれ張力は54mN/mで均一に処理されていた。
【0029】
実施例2
厚さ10mmのハイパロンゴムで絶縁被覆した処理ロールを用い、実施例1記載の電極を円弧状に配置した以外は実施例1と同じコロナ処理を行った。
得られたフィルムの非処理面のぬれ張力は38mN/mで裏ヌケは観察されなかった。処理面のぬれ張力は54mN/mで均一に処理されていた。
【0030】
比較例1
コロナ処理装置において、放電電極を春日電機製アルミ3型2山とし、対向電極として厚さ4mmのシリコンゴムを被覆した処理ロールを用いた以外は実施例1と同じにコロナ処理を行った。
放電量3600Wの電力を印加し24W/m/minで処理をした。得られたフィルムの裏面に不定形のスジ状裏ヌケが観察された。非処理面のぬれ張力も38〜44mN/mとムラが生じていた。
【0031】
[フィルムの評価]
(1)ぬれ張力(mN/m)
JIS K6768(プラスチック−フィルム及びシート−ぬれ張力試験方法)に従い測定した。
非処理面については、裏ヌケ評価として、ぬれ張力測定値のバラツキの評価と、同試験方法のぬれ試薬を200mm×200mmの範囲に塗布したときの裏ヌケ模様の目視観察とを行った。
【0032】
(2)放電量(W/m/min)
コロナ処理電力量(W)を電極巾(m)とフィルムの引取速度(m/min)で除して放電量(W/m/min)を計算した。
【符号の説明】
【0033】
1 放電電極
2、3 接地電極
4 ストリーマコロナ領域
5 高圧電源
6 処理ロール
7 フィルム通過ライン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波の高電圧を印加する放電電極と、絶縁物で被覆し電気的に接地された接地電極とで構成され、放電電極先端近傍の両側に均等に接地電極を配置した電極を用いて、ストリーマ状のコロナ放電を発生させ、フィルムをこのストリーマコロナ放電領域を通過させることで、フィルム表面をコロナ処理することを特徴とするフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記放電電極と接地電極を交互に複数列設け、多段処理することを特徴とする請求項1記載のフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記フィルムが二軸延伸フィルムである請求項1または2記載のフィルム製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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