説明

フィルムアンテナおよびその製造方法

【課題】複雑な形状の樹脂成形体や匡体に貼り付けて使用してもアンテナ導体パターンが断線しにくいフィルムアンテナおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のフィルムアンテナは、離型処理を施したキャリアフィルム11と、粘着層12と、ベースフィルム13と、ベースフィルム13の表面に設けられる導体パターン14と、一部に開口部15aを有するオーバーコート層15とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム状アンテナに関し、特に、移動体通信端末等の電子機器や車両等に搭載可能なフレキシブルなフィルムアンテナ、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、移動体通信端末をはじめとする通信機能を有する小型電子機器等においては、無線通信を行うためのデバイスとして小型アンテナが搭載されている。電子機器の小型化に伴って搭載される小型アンテナに対しても更なる小型化が要求され、様々な方法で小型化・薄型化されたアンテナが使用されている。
【0003】
小型アンテナとしては、従来、伸縮式のホイップアンテナ等が用いられていたが、近年では、通信周波数の高周波化も手伝って、電子機器等の匡体内部への内蔵化が進んでいる。このような小型内蔵アンデナとしては、例えば、樹脂成型体と折り曲げ板金を組み合わせた小型化アンテナや、薄型のフィルム状アンテナ等が用いられている。
【0004】
例えば、薄型のフィルム状アンテナの一例であるフレキシブルアンテナとして、フレキシブル基板上にスパイラル状またはジグザグ状に形成されたアンテナを、送信用アンテナと受信用アンテナとして別々に設けて電子機器の匡体内部に実装される技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、近年の電子機器においては様々なデザインが付与されており、デザイン性の観点等から、時には透明性を有する匡体や部品が求められることがある。
【0006】
例えば、透明性あるいは透視性を有する部品としての透明アンテナとして、透明又は略透明な合成樹脂製フィルムや板ガラス等のシート状基材の片面又は両面に、この基材の透視性を生かすべく、孔径400〜500μm、線幅80μm程度の多数の微細透孔が面積比で70〜75%程度の開口率を以て略均一に設けられたアンテナパターンをなす導電性薄層を積層して形成した透明アンテナが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05−007109号公報
【特許文献2】実開平03−039911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の特許文献1に開示されるフィルム状アンテナを、曲率の大きな形状又は複雑な形状の樹脂成形体や匡体に貼り付けて使用すると、フィルム上に形成したアンテナパターンとしての導体パターンが断線する場合がある。特に、微細透孔を有する導体パターンを用いるフィルム状アンテナを、曲率の大きな形状又は複雑な形状の樹脂成形体や匡体に貼り付けて使用すると、導体パターンが断線しやすいという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、複雑な形状の樹脂成形体や匡体に貼り付けて使用してもアンテナ導体パターンが断線しにくいフィルムアンテナ、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のフィルムアンテナは、離型処理を施したキャリアフィルムと、前記キャリアフィルムの上部に設けられる粘着層と、前記粘着層を下部表面に設けられるベースフィルムと、前記ベースフィルムの上部表面に設けられる導体パターンと、前記導体パターンを覆うとともに、一部に開口部を有するオーバーコート層と、を備えることを特徴とする。このキャリアフィルムは、フィルムアンテナとして匡体に貼り付けて使用する際に取り除かれる。
【0011】
本発明のフィルムアンテナによれば、オーバーコート層を導体パターン上に形成することによって、ベースフィルムの表面に設けられる導体パターンの引張応力を緩和する効果が得られ、導体パターンを断線しにくくすることができる。また、外的要因により傷がついたりすることが抑制され、パターン表面の酸化や腐食による導体パターンの抵抗値の上昇も抑制されることにより、アンテナ性能の劣化を低減することができるようになる。
【0012】
また、本発明のフィルムアンテナは、前記粘着層として可視光を透過する透明な粘着剤を用い、ベースフィルムとして可視光を透過する透明な合成樹脂製フィルムを用いるとともに、前記導体パターンとして前記ベースフィルムの透視性を妨げないための線幅が10〜50μmで線間ピッチが100〜500μmの格子状パターンからなる導体パターン層を用い、さらに、前記オーバーコート層として可視光を透過する透明な合成樹脂製オーバーコート層を備えることを特徴とするものである。
【0013】
このようなフィルムアンテナによれば、透明性あるいは透視性を有する材料を使用してフィルムアンテナを構成することによって、部品としての透明アンテナを実現可能とするとともに、前記オーバーコート層を導体パターン上に形成することによって、ベースフィルムの表面に設けられる導体パターンの引張応力を緩和して線幅が細い場合でも、導体パターンを断線しにくくすることが可能となる。また、外的要因により傷がついたりすることが抑制され、パターン表面の酸化や腐食による導体パターンの抵抗値の上昇も抑制されることにより、アンテナにおける損失を低減することが可能となる。
【0014】
また、本発明のフィルムアンテナは、前記オーバーコート層の開口部に設けられる金メッキ部をさらに備えることを特徴とする。
【0015】
このようなフィルムアンテナによれば、オーバーコート層を導体パターン上に形成することによって、ベースフィルムの表面に設けられる導体パターンの引張応力を緩和して導体パターンを断線しにくくすることができる。また、外的要因により傷がついたりすることが抑制され、パターン表面の酸化や腐食による導体パターンの抵抗値の上昇も抑制されることにより、アンテナにおける損失を低減することが可能となる。さらに、オーバーコート層の開口部にのみ金メッキを施すことによって、露出した金属表面の酸化を抑制して部品としてのフィルムアンテナと、これを搭載する電子機器側からの信号を伝送する伝送路との接続が良好になる。
【0016】
また、本発明のフィルムアンテナは、離型処理を施したキャリアフィルムと、粘着層と、ベースフィルムと、前記ベースフィルムの表面に設けられる導体パターンと、一部に開口部を有するオーバーコート層と、を備えるように形成し、前記粘着層と、前記ベースフィルムと、前記導体パターンと、前記オーバーコート層の積層体を、前記キャリアフィルムを残して所望の形状に打ち抜いてアンテナ部品とした後、前記アンテナ部品以外のベースフィルムのみを先に除去し、アンテナ部品として使用する直前に、前記キャリアフィルムを除去して、フィルムアンテナとして使用することを特徴とするものである。
【0017】
このようなフィルムアンテナによれば、アンテナ部品として使用する直前に前記キャリアフィルムを除去してフィルムアンテナとして使用することにより、アンテナを部品として取り扱う際の作業性を高めることができ、フィルムアンテナを搭載すべく電子機器への組み立て作業時間を低減することが可能となる。
【0018】
また、本発明のフィルムアンテナにおいては、前記ベースフィルムの厚さは16μm以上75μm以下であることが好ましい。
【0019】
このようなフィルムアンテナによれば、前記ベースフィルムの厚さを16μm以上75μm以下とすることによって、フィルムアンテナ部品としてのハンドリング性を保ちつつ、ベースフィルムの表面に設けられる導体パターンの引張応力を緩和する効果が得られ、導体パターンを断線しにくくすることができる。
【0020】
また、本発明のフィルムアンテナにおいては、前記キャリアフィルムの厚さは75μm以上200μm以下であることが好ましい。
【0021】
このようなフィルムアンテナによれば、前記キャリアフィルムの厚さを75μm以上200μm以下とすることによって、ハンドリング性を保ちつつ、ベースフィルムを所望のアンテナ形状に打ち抜きを行う際にキャリアフィルムの貫通打ち抜きを避ける効果が得られ、アンテナを部品として取り扱う際の作業性を高めることができ、電子機器の組み立て作業時間を低減することが可能となる。
【0022】
本発明によるフィルムアンテナの製造方法は、75μm以下の厚さのベースフィルム上に導体層を貼合する工程と、前記ベースフィルム下側に粘着剤を塗布して粘着層を形成し、さらに75μm以上のキャリアフィルムを貼り付ける工程と、前記導体層を加工して導体パターンを形成する工程と、前記導体パターンの上部に、一部に開口部を有するオーバーコート層を形成する工程と、を含むことを特徴とする。特に、本発明によるフィルムアンテナは、ロール・ツー・ロール法による製造方法に適した構造を有している。
【0023】
本発明の製造方法によれば、ベースフィルム上に導体層を貼合する際に必ずしもプリアニール工程を要しなくなるため、フィルムアンテナの低コスト化を図ることができるようになる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、複雑な形状の樹脂成形体や匡体に貼り付けて使用しても導体パターンが断線しにくいフィルムアンテナや透視性を有するフィルム状アンテナを提供することが可能となる。また、導体パターン表面が外気に触れるのを避けることによって、表面酸化を抑制し導体パターンの抵抗値の上昇を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の各実施形態に係るフィルムアンテナの適用例を示す図である。
【図2】(a)は、本発明の第1及び第2実施形態に係るフィルムアンテナの断面構造を示す断面図であり、(b)は、本発明の第1及び第2実施形態に係るフィルムアンテナの概略を示す透視上面図である。
【図3】(a)は、本発明の第3実施形態に係るフィルムアンテナの断面構造を示す断面図であり、(b)は、本発明の第3実施形態に係るフィルムアンテナの概略を示す透視上面図である。
【図4】(a)は、本発明の第4実施形態に係るフィルムアンテナの断面構造を示す断面図であり、(b)は、本発明の第4実施形態に係るフィルムアンテナの概略を示す透視上面図である。
【図5】(a),(b),(c)は、本発明の第1乃至第4実施形態に係るフィルムアンテナにおける導体パターン例を示す図である。
【図6】(A)乃至(H)は、本発明の第1乃至第4実施形態に係るフィルムアンテナの製造方法を説明する図である。
【図7】本発明による一実施例のフィルムアンテナにおけるベースフィルム(PET基材)の厚さと導体パターンの破断率の関係を示す図である。
【図8】本発明による一実施例のフィルムアンテナにおけるキャリアフィルムの厚さと導体パターンの収縮率(パターン収縮率)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係るフィルムアンテナの実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
まず、本発明に係るフィルムアンテナは、複雑な形状の樹脂成形体や匡体に貼り付けて使用しても導体パターンが断線しにくいように工夫を講じたものであり、例えば、図1に示すように、曲率が大きいか、又は複雑な形状を有する任意の匡体1の表面に貼り付けて使用することを意図しており、例えば、匡体1側のGNDに対して、フィルムアンテナの導体パターン14を覆うように保護するオーバーコート層15の一部に設けられた開口部15aを介して導体パターン14に給電することで、フィルムアンテナを構成する。
【0028】
(第1実施形態)
図2(a)は、本発明の第1実施形態に係るフィルムアンテナの断面構造を示す断面図であり、(b)は、本発明の第1実施形態に係るフィルムアンテナの概略を示す透視上面図である。
【0029】
図2(a),(b)に示すように、フィルムアンテナ10は、離型処理を施したキャリアフィルム11と、粘着層12と、ベースフィルム13と、ベースフィルム13の表面に設けられる導体パターン14と、一部に開口部15aを有するオーバーコート層15とを備えている。
【0030】
このキャリアフィルム11は、アンテナとして匡体に貼り付けて使用する際に取り除かれる。
【0031】
キャリアフィルム11は、片面あるいは両面に離型処理としての表面コートを施したフレキシブルな樹脂製フィルムあるいは紙からなる。樹脂製フィルムとしては、フレキシブルであれば特に制限されるものではないが、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、PI(ポリイミド)等の樹脂からなるフィルムが挙げられる。
【0032】
粘着層12は、樹脂成形体や電子機器等の匡体にフィルムアンテナ10を貼り付けた際に剥離しないだけの粘着強度があればよく、任意の粘着剤を用いることができる。キャリアフィルム11またはベースフィルム13に、溶剤で希釈した粘着剤をロールコート、グラピアコート、カップコート等、任意の既存の方法で塗布してもよいし、基材レスの両面粘着テープを用いてもよい。
【0033】
ベースフィルム13は、フレキシブルな樹脂製フィルムからなる。樹脂製フィルムとしては、フレキシブルであれば特に制限されるものではないが、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーポネート)、PI(ポリイミド)等の樹脂からなるフィルムが挙げられる。
【0034】
導体パターン14は、薄い金属箔や金属膜からなり、その金属としては、銅、銀、ニッケル、アルミ等の任意の金属が挙げられるが、アンテナ素子として機能させる観点から、銅、銀等の導電率の高い材料を用いることが好ましい。
【0035】
導体パターン14のパターン形成方法としては、薄い金属箔をベースフィルム13に貼り付けた後、露光・現像・エッチングによりアンテナ導体パターンを形成する方法や、感光剤をベースフィルム13に塗布して、露光・現像した後、金属をメッキしてアンテナ導体パターンを形成する方法等、既存のパターン形成方法を用いることができる。
【0036】
一部に開口部15aを有するオーバーコート層15は、熱硬化性樹脂あるいは光硬化性樹脂からなる。熱硬化性樹脂としては、フレキシブルであれば特に制限されるものではなく、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。光硬化性樹脂としては、フレキシブルであれば特に制限されるものではなく、モノマー、オリゴマー、光重合開始剤から構成される組成物であり、各種添加剤として、安定剤、フィラー、顔料等を含んでいてもよい。
【0037】
ここで、開口部15aは、電子機器におけるRF信号を伝送するための伝送線路と電気的な接続をとるために、導体パターン14の一部が露出するように設けたものである。
【0038】
本実施形態のフィルムアンテナ10によれば、オーバーコート層15を導体パターン14上に形成することによって、ベースフィルム13の表面に設けられる導体パターン14の引張応力を緩和する効果が得られ、導体パターン14を断線しにくくすることが可能となる。また、外的要因により傷がついたりすることが抑制され、パターン表面の酸化や腐食による導体パターンの抵抗値の上昇も抑制されることにより、アンテナにおける損失を低減することが可能となる。また、詳細に後述するが、キャリアフィルム11とベースフィルム13が、所定の厚さとなるように規定することで、フィルムアンテナ10の製造時及び使用時における導体パターン14の断線防止効果をより高めることができる。
【0039】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係るフィルムアンテナについても、図2を参照して説明する。尚、同様な構成要素には同一の参照番号を付して説明する。
【0040】
第2実施形態に係るフィルムアンテナでは、粘着層12として可視光を透過する透明な粘着剤が用いられ、ベースフィルム13として可視光を透過する透明な合成樹脂製フィルムが用いられ、導体パターン14として所定の線幅wで所定の線間ピッチpの格子状パターンからなる導体パターンが用いられ、さらに、オーバーコート層15として可視光を透過する透明な合成樹脂製膜が用いられる。格子状パターンには、幾つかの種類が想定され、例えば図5(a)に示す正方形、図5(b)に示す円形、図5(c)に示すハニカム形の格子パターンとすることができる。導体パターン14として略透視性機能を持たせるためには、線幅wを10〜50μmとし、線間ピッチpを100〜500μmとした格子状パターンとするのが好適である。
【0041】
第2実施形態においても、キャリアフィルム11は、第1実施形態と同じ材料とすることができる。
【0042】
粘着剤12は、可視光を透過する透明な粘着剤であって、電子機器等の樹脂成形体や匡体にフィルムアンテナ10を貼り付けた際に剥離しないだけの粘着強度があればよく、任意の透明粘着剤を用いることができる。キャリアフィルム11またはベースフィルム13に、溶剤で希釈した透明粘着剤をロールコート、グラビアコート、カップコート等、任意の既存の方法で塗布してもよいし、基材レスの透明両面粘着テープを用いてもよい。
【0043】
ベースフィルム13は、フレキシブルで可視光を透過する透明な樹脂製フィルムからなる。樹脂製フィルムとしては、フレキシブルで透明であれば特に制限されるものではないが、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、透明ポリイミド等の樹脂からなるフィルムが挙げられる。
【0044】
導体パターン14は、ベースフィルム13の透視性を妨げないための格子状パターンの薄い金属箔や金属膜からなり、その金属としては、銅、銀、ニッケル、アルミ等任意の金属が挙げられる。透視性を妨げないための透明な導電性材料としてITO(酸化インジウム錫)等の導電性酸化物を例示することができるが、フレキシブルなアンテナ素子として機能させる観点から、やや材料の抵抗値が高い上にフィルムの曲げによりクラックが生じて更に高抵抗化しやすいような透明導電性酸化物よりも、銅、銀等の導電率の高い金属材料を用いた格子パターンの方が好ましい。更には、可視光透過率と電波の波長とのバランスの観点から、線幅wが10〜50μmで線間ピッチpが100〜500μmの正方形やハニカム形状の格子パターンがより好ましい(図5参照)。
【0045】
第2実施形態における導体パターン14のパターン形成方法としては、第1実施形態に示したパターン形成方法と同じ形成方法とすることができる。
【0046】
一部に開口部15aを有するオーバーコート層15は、可視光を透過する透明な熱硬化性樹脂あるいは光硬化性樹脂からなる。熱硬化性樹脂あるいは光硬化性樹脂としては、フレキシブルで可視光を透過する透明な材料であれば特に制限されるものではなく、第1実施形態に示した材料と同じ材料を用いることができる。
【0047】
本実施形態のフィルムアンテナによれば、透明性あるいは透視性を有する材料を使用してフィルムアンテナを構成することによって、部品としての透明アンテナを実現可能とするとともに、オーバーコート層15を導体パターン14上に形成することによって、ベースフィルム13の表面に設けられる導体パターン14の引張応力を緩和して透視性確保のために線幅wが細くなって断線しやすくなったアンテナ導体パターンを破断しにくくすることが可能となり、また、外的要因により傷がついたりすることが抑制され、パターン表面の酸化や腐食による導体パターン14の抵抗値の上昇も抑制されることにより、アンテナにおける損失を低減することが可能となる。
【0048】
(第3実施形態)
図3(a)は、本発明の第3実施形態に係るフィルムアンテナの断面構造を示す断面図であり、図3(b)は、本発明の第3実施形態に係るフィルムアンテナの概略を示す透視上面図である。尚、同様な構成要素には同一の参照番号を付して説明する。
【0049】
図3(a),(b)に示すように、第3実施形態に係るフィルムアンテナ30は、離型処理を施したキャリアフィルム11と、粘着層12と、ベースフィルム13と、ベースフィルム13の表面に設けられる導体パターン14と、一部に開口部15aを有するオーバーコート層15と、オーバーコート層15の開口部15aに設けられる金メッキ部36と、を備えている。
【0050】
開口部15aは、電子機器におけるRF信号を伝送するための伝送線路と電気的な接統をとるために、導体パターン14の一部が露出するように設けたものであるが、表面が空気に触れる状態となるため、場合によっては導体の酸化により接続不良を起こすことがある。
【0051】
そこで、この開口部15aの部分のみに、電解メッキによって金メッキ部36を形成するようにした。このような手法を採ることにより、高価な材料である金の使用量を最低限に抑制し、低コストに伝送線路と電気的な接続不良を回避することが可能となる。
【0052】
本実施形態のフィルムアンテナ30によれば、オーバーコート層を導体パターン上に形成することによって、ベースフィルムの表面に設けられる導体パターンの引張応力を緩和してアンテナ導体パターンを断線しにくくすることができる。また、外的要因により傷がついたりすることが抑制され、パターン表面の酸化や腐食による導体パターンの抵抗値の上昇も抑制されることにより、アンテナにおける損失を低減することが可能となる。更に、オーバーコート層の開口部にのみ金メッキを施すことによって、露出した金属表面の酸化を抑制して部品としてのフィルムアンテナを搭載する通信機器等との接続を良好にすることが可能となる。
【0053】
(第4実施形態)
図4(a)は、本発明の第4実施形態に係るフィルムアンテナの断面構造を示す断面図であり、図4(b)は、本発明の第4実施形態に係るフィルムアンテナの概略を示す透視上面図である。尚、同様な構成要素には同一の参照番号を付して説明する。
【0054】
図4(a),(b)に示すように、第4実施形態に係るフィルムアンテナ40は、離型処理を施したキャリアフィルム41と、粘着層12と、ベースフィルム13と、ベースフィルム13の表面に設けられる導体パターン14と、一部に開口部15aを有するオーバーコート層15と、を備えている。
【0055】
このフィルムアンテナ40は、粘着層12と、ベースフィルム13と、導体パターン14と、オーバーコート層15からなる積層体を、キャリアフィルム41を残して所望の形状に打ち抜いてアンテナ部品40bとして形成され、このアンテナ部品40bよりも縦横ともに広い領域を有するキャリアフィルム41が設けられている。例えば、図4(b)では、キャリアフィルム41の縦長さD2は、このアンテナ部品40bの縦長さD1よりも長いことを示しており、キャリアフィルム41の横長さもアンテナ部品40bの横長さよりも長くなるようにした。
【0056】
ここで、キャリアフィルム41は、第1実施形態に示した材料および形成方法と同じ材料および同じ形成方法を用いることができる。
【0057】
粘着層12と、ベースフィルム13と、導体パターン14と、オーバーコート層15からなる積層体(アンテナ部品40b)を、キャリアフィルム41を残して所望の形状に打ち抜いて形成する方法としては、第1実施形態と同様にフィルムアンテナを形成した後、彫刻刃、ピナクル刃、トムソン刃等の打ち抜き型を用いてキャリアフィルム41の半分程度の厚さまでハーフカットした後、アンテナ部品40b以外の積層体部分(不要部分)を除去することで実現することができる。
【0058】
例えば、ロール・ツー・ロールの製法で、第4実施形態に係るフィルムアンテナ40を製造する場合には、例えばロール状に巻いた長さ数百m,幅1mほどの大きなベースフィルム(PET)13に導体パターン14、オーバーコート層15及びキャリアフィルム11を形成した後、再びロールに巻き取ることができ、さらに、キャリアフィルム41を残してアンテナ部品40bを打ち抜いて多数個形成することで、製造のハンドリング性の向上、これに伴うフィルムアンテナ40のコストダウンが可能となる。
【0059】
また、例えば、本実施形態においては、アンテナ部品40b以外の積層体部分(不要部分)を除去する方法を例示したが、これに限られるものではなく、積層体の不要部分を除去せずに残して、アンテナ部品40bとして使用する直前にキャリアフィルム41および積層体の不要部分を除去してフィルムアンテナ40bとして使用してもよい。
【0060】
以下、第1乃至第4実施形態に係るフィルムアンテナの製造方法に関して、図6を参照して、ロール・ツー・ロールの製法の具体例を説明する。
【0061】
まず、工程(A)にて、ベースフィルム13(PET)上に導体パターン14を形成するための導体層(銅箔)を貼合する。ベースフィルム13の厚さは、フィルムアンテナを使用する際のハンドリングを考慮して、所定の厚さのものを利用する(詳細は後述する)。また、この貼合工程で、後の工程における導体層(銅箔)の熱的変形を抑制するためにプリアニール処理を施すことが可能であるが、プリアニール処理の温度制御や工程時間の点で製造コストが増大しうる。そこで、第1乃至第4実施形態に係るフィルムアンテナでは、所定の厚さ以上のキャリアフィルム11を貼り付けることで、このプリアニール処理を必ずしも要しないようにしている。
【0062】
工程(B)にて、ベースフィルム13(PET)下側に粘着剤を塗布して粘着層12を形成し、さらに所定の厚さ以上のキャリアフィルム11を貼り付ける(詳細は、後述する)。
【0063】
次に、工程(C)にて、導体層を加工して導体パターン14を形成する。導体パターン14の形成は、露光・現像・エッチングによりアンテナ導体パターンを形成する方法や、工程(A)の銅箔貼合を行わずに、感光剤をベースフィルム13に塗布して、露光・現像した後、金属をメッキしてアンテナ導体パターンを形成する方法等、既存のパターン形成方法を用いることができる。
【0064】
次に、工程(D)にて、導体パターン14の上部に、透明カバー層として、一部に開口部15aを有するオーバーコート層15を形成する。
【0065】
次に、必要に応じて行う工程(E)にて、所望のサイズのロール幅を規定するために、スリットによる切断を行う。
【0066】
次に、工程(F)にて、一部に開口部15aに、部分金メッキ処理を施して、金メッキ層36を形成する。
【0067】
次に、工程(G)にて、彫刻刃、ピナクル刃、トムソン刃等の打ち抜き型を用いてキャリアフィルム11の半分程度の厚さまでハーフカットを行う(キャリアフィルム41として残存する)。ここまでの工程により、第1乃至第3実施形態に係るフィルムアンテナを製造することができる。
【0068】
次に、工程(H)にて、アンテナ部品40b以外の積層体部分(不要部分)を除去する。ここまでの工程により、第4実施形態に係るフィルムアンテナを製造することができる。
【0069】
上記のように、第1乃至第4実施形態に係るフィルムアンテナは、その製造時及び使用時において、アンテナ導体パターンの破断防止に適した構造及び製法を有している。
【0070】
なお、これら第1乃至第4実施形態のフィルムアンテナにおいては、ベースフィルム13の厚さは16μm以上75μm以下であることが好ましい。
【0071】
例えば、ベースフィルム13の厚さを15μm以下とすると、フィルムアンテナを使用する際(キャリアフィルムを除去してアンテナ部品として使用する際)、ハンドリングが悪くなり、電子機器を組み立てる際の作業性が悪くなってしまう。また、ベースフィルム13の厚さが75μmを超える厚さとすると、導体パターン14における引張応力が増加し、導体パターン14のクラックが発生しやすくなってしまう。
【0072】
このように、ベースフィルムの厚さを16μm以上75μm以下とすることによって、フィルムアンテナの使用時のハンドリング性を保ちつつ、ベースフィルムの表面に設けられる導体パターンの引張応力を緩和する効果が得られ、アンテナ導体パターンを断線しにくくすることができる。
【0073】
また、これら第1乃至第4実施形態のフィルムアンテナにおいては、キャリアフィルム11の厚さは75μm以上200μm以下であることが好ましい。
【0074】
例えば、キャリアフィルム11の厚さを75μm未満とすると、ロール・ツー・ロールでの製造におけるハンドリング性の低下や、ベースフィルムを所望のアンテナ形状に打ち抜くハーフカットの際にキャリアフィルムの貫通打ち抜きが起こりやすくなってしまう。また、キャリアフィルム11が200μmを超える厚さとすると、ロール・ツー・ロールでの製造において導体パターン14の形成のための導体層の引張応力が増加し、導体パターン14のクラックが製造時に発生しやすくなってしまう。
【0075】
このように、キャリアフィルムの厚さを75μm以上200μm以下とすることによって、ロール・ツー・ロールでの製造におけるハンドリング性を保ちつつ、ベースフィルムを所望のアンテナ形状に打ち抜きを行う際にキャリアフィルムの貫通打ち抜きを避ける効果が得られ、アンテナを部品として取り扱う際の作業性を高くすることができ、電子機器の組み立て作業時間を低減することが可能となる。
【0076】
ベースフィルム13の厚さ及びキャリアフィルム11の厚さについて、特定の条件下での効果について確認した実施例を以下に説明する。
【0077】
(ベースフィルムの厚さ)
図7は、本発明による一実施例のフィルムアンテナにおけるベースフィルム(PET基材)の厚さと導体パターンの破断率の関係を示す図である。
<前提条件>
・オーバーコート層:10μm厚
・銅体層(銅箔):10μm厚、10μm幅線10本
・粘着層:30μm厚
・ベースフィルム(PET基材)の厚さ:12〜125μmに可変
<結果>
図7は、ベースフィルム(PET基材)の厚さ12,25,50,75,100,125μmのそれぞれについて、10μm厚、10μm幅線10本を曲率1の部品に巻きつけたときの破断数をプロットした図である。図7から、ベースフィルム(PET基材)の厚さと、導体パターンの破断率には一定の関係が有ることが分かり、特に、量産効率を鑑みて75μm厚以下のベースフィルム(PET基材)とするのが好適であり、50μm厚以下のベースフィルム(PET基材)とするのがより望ましい。
【0078】
(キャリアフィルムの厚さ)
図8は、本発明による一実施例のフィルムアンテナにおけるキャリアフィルムの厚さと導体パターンの収縮率(パターン収縮率)の関係を示す図である。
<前提条件>
・オーバーコート層:10μm厚
・銅体層(銅箔):10μm厚、10μm幅線10本
・粘着層:30μm厚
・ベースフィルム(PET基材)の厚さ:25μm厚
・加工プロセス条件:150℃、30〜60秒
・キャリアフィルムの厚さ:25〜200μmに可変
<結果>
図8は、キャリアフィルムの厚さ25,50,75,100,125,150,175,200μmのそれぞれについて、加工プロセス条件(150℃、30〜60秒)となる乾燥炉5mに5m/minで流した場合の銅箔パターンの寸法変化からパターン収縮率をプロットした図である。図8から、キャリアフィルムの厚さと、導体パターンの収縮率には一定の関係が有ることが分かり、特に、使用限界(剥離限界)の収縮率を1.2%とすると、75μm厚以上のキャリアフィルムとするのが好適である。
【0079】
以上、本発明について、第1乃至第4実施形態を例に説明した。本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、例えば、様々な導体パターンに対して適用することができる。
【0080】
また、キャリアフィルムおよびベースフィルムにおける好ましい厚さの範囲について述べたが、これらの範囲に限られるものではなく、製造工程やアンテナ部品として使用する状況によってはこの範囲以外で使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、複雑な形状の樹脂成形体や匡体に貼り付けて使用してもアンテナ導体パターンが断線しにくいフィルムアンテナおよび透視性を有する透明フィルム状アンテナ、並びにその製造方法を提供することが可能となり、特に、小型軽量の電子機器やデザイン性に富んだ電子機器の作製に貢献することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 匡体
10,30,40 フィルムアンテナ
11,41 キャリアフィルム
12 粘着層
13 ベースフィルム
14 導体パターン
15 オーバーコート層
36 金メッキ部
15a 開口部
40b アンテナ部品



【特許請求の範囲】
【請求項1】
離型処理を施したキャリアフィルムと、
前記キャリアフィルムの上部に設けられる粘着層と、
前記粘着層を下部表面に設けられるベースフィルムと、
前記ベースフィルムの上部表面に設けられる導体パターンと、
前記導体パターンを覆うとともに、一部に開口部を有するオーバーコート層と、
を備えることを特徴とするフィルムアンテナ。
【請求項2】
前記粘着層は、可視光を透過する粘着剤からなり、
前記ベースフィルムは、可視光を透過する合成樹脂製フィルムからなり、
前記導体パターンは、線幅が10〜50μmであり、線間ピッチが100〜500μmの格子状パターンからなり、
前記オーバーコート層は、可視光を透過する合成樹脂製層からなることを特徴とする、請求項1に記載のフィルムアンテナ。
【請求項3】
前記オーバーコート層の開口部に設けられる金メッキ部をさらに備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載のフィルムアンテナ。
【請求項4】
前記粘着層と、前記ベースフィルムと、前記導体パターンと、前記オーバーコート層からなる積層体が、前記キャリアフィルムを残して所定の形状に打ち抜かれたアンテナ部品として構成されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のフィルムアンテナ。
【請求項5】
ロール・ツー・ロール法によって形成されるフィルムアンテナであって、
離型処理を施したキャリアフィルムと、
前記キャリアフィルムの上部に設けられる粘着層と、
前記粘着層を下部表面に設けられるベースフィルムと、
前記ベースフィルムの上部表面に設けられる導体パターンと、
前記導体パターンを覆うとともに、一部に開口部を有するオーバーコート層と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のフィルムアンテナ。
【請求項6】
前記ベースフィルムの厚さは16μm以上75μm以下であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のフィルムアンテナ。
【請求項7】
前記キャリアフィルムの厚さは、75μm以上200μm以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のフィルムアンテナ。
【請求項8】
75μm以下の厚さのベースフィルム上に導体層を貼合する工程と、
前記ベースフィルム下側に粘着剤を塗布して粘着層を形成し、さらに75μm以上のキャリアフィルムを貼り付ける工程と、
前記導体層を加工して導体パターンを形成する工程と、
前記導体パターンの上部に、一部に開口部を有するオーバーコート層を形成する工程と、
を含むことを特徴とするフィルムアンテナの製造方法。
【請求項9】
前記粘着層と、前記ベースフィルムと、前記導体パターンと、前記オーバーコート層からなる積層体を、前記キャリアフィルムを残して所定の形状に打ち抜いてアンテナ部品として形成する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項8に記載のフィルムアンテナの製造方法。
【請求項10】
前記粘着層と、前記ベースフィルムと、前記導体パターンと、前記オーバーコート層からなる積層体を、前記キャリアフィルムを残して所定の形状に打ち抜いてアンテナ部品として形成する工程と、所定の形状に打ち抜いた後にアンテナ部品以外の積層体部分(不要部分)を除去する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項8又は9に記載のフィルムアンテナの製造方法。
【請求項11】
ロール・ツー・ロール法によるフィルムアンテナの製造方法であって、
75μm以下の厚さのベースフィルム上に導体層を貼合する工程と、
前記ベースフィルム下側に粘着剤を塗布して粘着層を形成し、さらに75μm以上のキャリアフィルムを貼り付ける工程と、
前記導体層を加工して導体パターンを形成する工程と、
前記導体パターンの上部に、一部に開口部を有するオーバーコート層を形成する工程と、
を含むことを特徴とする請求項8乃至10のいずれか一項に記載のフィルムアンテナの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−34167(P2012−34167A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171533(P2010−171533)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ピナクル
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】