説明

フィルムスピーカおよびその製造方法

【課題】 変換効率に優れるとともに、入力に対する応答のリニア性もよく、かつ音の歪が少ないフィルムスピーカを提供する。
【解決手段】 本発明のフィルムスピーカ10は、薄膜フィルム11にバイアス電極12と駆動電極13とが形成され、これらのバイアス電極12と駆動電極13とが空気層を介して互に平行に相対向するように薄膜フィルム11がつづら折りされて形成されている。そして、つづら折りされた薄膜フィルム11の山部および谷部は固定板15,16でそれぞれ固定されている。バイアス電極12には所定のバイアス電圧が付与されており、駆動電極13に付与されたオーディオ信号に応じた駆動電圧に基づく駆動電極13とバイアス電極12との間のクーロン力によりバイアス電極12と駆動電極13との間の空間部に存在する空気層が押し出されたり引き戻されることにより空気振動が生じて音波を発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気信号を音波に変換するスピーカに係り、特に、薄膜フィルムにバイアス電極と駆動電極とが形成され、これらのバイアス電極と駆動電極とが相対向するように折り畳まれて形成されて、これらの両電極間内に存在する空気層が押し出されたり、引き戻されることにより音波が発生されるフィルムスピーカおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気音響変換器となるスピーカとしては、従来より、コンデンサ型のものが知られている。このコンデンサ型スピーカは、板状をなす固定電極に近接させて薄膜状の振動膜を配置したもので、振動膜にバイアス電圧を印加した状態で固定電極に音声電圧を印加することにより、振動膜を振動させて音波として放射するようになっている。
ところで、コンデンサ型のスピーカは、一般的に発音の周波数帯域が狭く、普通以下のサイズのものは高音用として用いられるのが通常であった。また、低音域まで周波数帯域を拡げたものもあるが、そのようなスピーカはかなり大型になってしまうばかりでなく、大きな面積を有する振動膜を固定電極に対して一定の距離だけ離間して保持することはかなりの困難を伴った。さらに、振動膜の振動を外部に音波信号として放射するために、固定電極にパンチングメタルと呼ばれる多数の孔が形成された部品を用いなければならないため、製造コストが割高になっていた。
【0003】
そこで、大型化することなく周波数帯域の全域の周波数特性を向上させることができるスピーカとして、ハイル型と呼ばれるものが提案されるようになった。このハイル型スピーカは、例えば、特許文献1(特公昭55ー42555号公報)に開示されているように、1枚の振動板を蛇行するように折り曲げるとともにその両端部をケーシングに支持し、振動板の両側部に磁石を配置して構成されている。このようなハイル型スピーカにおいては、振動板を蛇行するように曲げているので、大型化することなく振動板の総面積を大きくすることができ、低音域までカバーすることができるという利点がある。
【0004】
しかしながら、上記のようなハイル型スピーカでは、振動板の両端部のみを支持してその間をフリーにしていることから、振動板の形状を所定の形状に保持するためにはその大きさに限界があった。このため、低音域を充分にカバーすることができなかった。また、振動板の両側部に磁石を配置しているため、磁石同士の距離が長くなり、振動板全体を振動させるような強い磁場を形成する必要があることから、かなり大型の磁石を使用しなければならないという問題もあった。
【0005】
そこで、特許文献2(特開平8−242498号公報)で開示されるようなスピーカも提案されるようになった。この特許文献2にて開示されたスピーカにあっては、板状の固定電極を互いに平行に離間するように複数配置して電極集合体を構成し、各固定電極同士の中間に、振動膜をその縁部に配置したスペーサを介して挟持する。また、この振動膜にバイアス電圧を印加するとともに、両端部に音声電圧を発生させる音声電圧発生手段の一方の端部と他方の端部とを固定電極に交互に接続する。そして、スペーサに、振動膜が固定電極側へ振れる際に、電極集合体の一側から空気が吐出されると同時に電極集合体の他側から空気が吸引される開口部を設けるようにしてスピーカを構成するようにしている。
【0006】
さらに、ピエゾフィルムを積層して作ったバイモルフによって、アコ−ディオンのヒダのくぼみを拡張させたり収縮させて、音波を放射するフィルムスピーカが特許文献3(特開2002−27592号公報)で提案されるようになった。
【特許文献1】特公昭55ー42555号公報
【特許文献2】特開平8−242498号公報
【特許文献3】特開2002−27592号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献2にて提案されたスピーカにおいては、振動膜(フィルム)とスペーサを順に積み上げていくため、工数がかかり、生産性が悪いという問題を生じた。また、出力アンプの信号端子の一方の端部と他方の端部とを多数の固定電極に交互に接続する必要があるため、生産性も悪いという問題も生じた。また、裏面に設置した固定電極からの駆動しか使わないので効率も十分ではないという問題も生じた。
【0008】
一方、上述した特許文献3にて提案されたフィルムスピーカにおいては、フィルムの駆動にピエゾフィルムを使うため、電圧と変形量のリニア性(線形性)が充分に良好なものでなく、音質は歪っぽいという問題を生じた。
そこで、本発明は上記の如き問題点を解消するためになされたものであって、構造が簡単・容易で、薄型で、変換効率に優れるとともに、入力に対する応答のリニア性(線形性)も良好で、音の歪が少なく、かつ製造が容易で、安価なフィルムスピーカおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明においては、薄膜フィルムにバイアス電極と駆動電極とが形成され、これらのバイアス電極と駆動電極とが空気層を介して互に平行に相対向するように薄膜フィルムが折り畳まれてフィルムスピーカが形成されている。そして、折り畳まれた薄膜フィルムの山部および谷部は固定されており、バイアス電極には所定のバイアス電圧が付与されているとともに、駆動電極に付与されたオーディオ信号に応じた駆動電圧に基づく当該駆動電極とバイアス電極との間のクーロン力によりバイアス電極と駆動電極との間の空間部に存在する空気層が押し出されたり引き戻されることにより空気振動が生じて音波を発生するようになされていることを特徴とする。
【0010】
このように、駆動電極に付与されたオーディオ信号に応じた駆動電圧に基づく駆動電極とバイアス電極との間のクーロン力により、バイアス電極と駆動電極との間の空間部に存在する空気層が押し出されたり引き戻されることにより空気振動が生じて音波を発生するようになされていると、構造が単純で、変換効率(オーディオ信号を音波に変換する効率)に優れるとともに、入力に対する応答のリニア性(線形性) もよくて、音の歪が少なく、かつ製造が容易で、安価なフィルムスピーカを得ることが可能となる。この場合、生産性を考慮すると、バイアス電極と駆動電極の両方が導電性膜からなるのが望ましい。また、駆動電極は薄膜フィルムの表裏面に形成された2層の導電性膜であるともに、当該2層の導電性膜は互いに逆極性となるように接続されていると、変換効率がさらに向上するので望ましい。
【0011】
また、バイアス電極は薄膜フィルムを挟むように2層の導電性膜で形成されているともに、当該2層の導電性膜は互いに極性が異なる電荷が付与されていると、薄膜フィルムは表面側と裏面側の両面から駆動されることとなる。これにより、さらに変換効率(オーディオ信号を音波に変換する効率)に優れるとともに、入力に対する応答のリニア性(線形性)もさらに向上し、音の歪がさらに少ないスピーカが得られるようになる。そして、変換効率が優れていると、高電圧を印加する必要がなくなるので、電力消費が低減した薄型のスピーカを得ることが可能となる。
【0012】
また、バイアス電極は、薄膜フィルムの表面に正または負の電荷が付与された単極エレクトレット、あるいは薄膜フィルムの表裏面で互に極性が異なる電荷を有するように分極された分極エレクトレットで構成されていると、薄膜フィルム上に直接電極を形成する必要がなくなるとともに、バイアス電圧を付与するための電力を供給することが必要でなくなるので、さらに省電力のスピーカを構成することが可能となる。この場合、駆動電極は薄膜フィルムの表裏面に形成された2層の導電性膜であるともに、当該2層の導電性膜は互いに逆極性となるように接続されていると変換効率がさらに向上するので望ましい。
【0013】
また、導電性膜は銅、アルミニウム、クロム、チタン、金、ニッケル、鉄から選択される金属またはそれらの合金から形成された薄膜、カーボン、ITO(Indium-Tin-Oxide)から選択される導電性無機材料から形成された薄膜、微細な金属粉末を分散させた導電性樹脂材料から形成された薄膜のいずれか1つから選択して用いるようにすればよい。また、導電性膜の表面は絶縁膜で被覆されていると、薄膜フィルムの振動によりバイアス電極と駆動電極とが接触して両電極が短絡する恐れを防止することができるので望ましい。
【0014】
なお、折り畳まれた薄膜フィルムの山部および谷部は円筒状あるいは角筒状に形成されていて、当該山部および谷部の頂部は固定板に固定されていると、当該山部と谷部との間に存在する薄膜フィルムの移動(振動)がスムーズになるので好ましい。また、折り畳まれた薄膜フィルムの山部および谷部に円柱状あるいは角柱状の曲げ治具を備えるようにしてもよい。また、薄膜フィルムは熱可塑性樹脂フィルムあるいは熱硬化性樹脂フィルムなどの樹脂フィルムから選択して用いるようにすればよい。
【0015】
上述のようなフィルムスピーカを作製するに際しては、薄膜フィルムにバイアス電極と駆動電極とを形成する電極形成工程と、バイアス電極と駆動電極とが形成された薄膜フィルムの表面側のバイアス電極と駆動電極との間、およびバイアス電極と駆動電極とが形成された薄膜フィルムの裏面側の駆動電極とバイアス電極との間に円柱状あるいは角柱状の曲げ治具を配置する治具配置工程と、薄膜フィルムの裏面側に配置された曲げ治具と、薄膜フィルムの表面側に配置された曲げ治具とを互に引張するようにして、当該バイアス電極と駆動電極とが空気層を介して互に平行に相対向するように折り畳む折り畳み工程と、折り畳まれた薄膜フィルムの山部および谷部の頂部に固定板を接着剤などで固定する固定工程とを備えるようにすればよい。これにより、一枚の薄膜フィルムを折り曲げて作製することが可能となるため、生産性効率が向上し、薄型で軽量のスピーカを作製することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、駆動電極に付与されたオーディオ信号に応じた駆動電圧に基づく当該駆動電極とバイアス電極との間のクーロン力によりバイアス電極と駆動電極との間の空間部に存在する空気層が押し出されたり引き戻されることにより空気振動が生じて音波を発生するようになされている。これにより、構造が簡単・容易で、薄型で、変換効率に優れるとともに、入力に対する応答のリニア性(線形性)も良好で、音の歪が少なく、かつ製造が容易で、安価なフィルムスピーカを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態を図1〜図13に基づいて説明するが、本発明はこの実施の形態に何ら限定されるものでなく、本発明の目的を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。なお、図1は本発明の実施例1のフィルムスピーカを模式的に示す断面図であり、図1(a)は非駆動状態を模式的に示す断面図であり、図1(b)は駆動状態で表面側の振動膜間に存在する空気層が押し出された状態を模式的に示す断面図であり、図1(c)は駆動状態で表面側の振動膜間に空気層が引き戻された状態を模式的に示す断面図である。
【0018】
また、図2〜図6は図1のフィルムスピーカの製造法を模式的に示す図であり、(a)は上面図であり、(b)はそのA−A断面を示す断面図であり、(c)(図5のみ)はその矢印Bから見た側面図である。また、図7は実施例1の変形例のフィルムスピーカを模式的に示す図であり、(a)は第1変形例を示す断面図であり、(b)は第2変形例を示す断面を示す断面図である。図8は図7の変形例のフィルムスピーカの製造法を模式的に示す図であり、(a)は上面図であり、(b)はそのA−A断面を示す断面図であり、(c)はその矢印Bから見た側面図である。
【0019】
図9は本発明の実施例2のフィルムスピーカを模式的に示す断面図であり、図9(a)は非駆動状態を模式的に示す断面図であり、図9(b)は駆動状態で表面側の振動膜間に存在する空気層が押し出された状態を模式的に示す断面図であり、図9(c)は駆動状態で表面側の振動膜間に空気層が引き戻された状態を模式的に示す断面図である。図10は本発明の実施例3のフィルムスピーカを模式的に示す断面図であり、図10(a)は非駆動状態を模式的に示す断面図であり、図10(b)は駆動状態で表側の振動膜間に存在する空気層が押し出された状態を模式的に示す断面図であり、図10(c)は駆動状態で表側の振動膜間に空気層が引き戻された状態を模式的に示す断面図である。
【0020】
図11は本発明の実施例4のフィルムスピーカを模式的に示す断面図であり、図11(a)は非駆動状態を模式的に示す断面図であり、図11(b)は駆動状態で表面側の振動膜間に存在する空気層が押し出された状態を模式的に示す断面図であり、図11(c)は駆動状態で表面側の振動膜間に空気層が引き戻された状態を模式的に示す断面図である。図12は本発明の実施例5のフィルムスピーカを模式的に示す断面図であり、図12(a)は非駆動状態を模式的に示す断面図であり、図12(b)は駆動状態で表面側の振動膜間に存在する空気層が押し出された状態を模式的に示す断面図であり、図12(c)は駆動状態で表面側の振動膜間に空気層が引き戻された状態を模式的に示す断面図である。図13は本発明の実施例6のフィルムスピーカを模式的に示す断面図であり、図13(a)は非駆動状態を模式的に示す断面図であり、図13(b)は駆動状態で表面側の振動膜間に存在する空気層が押し出された状態を模式的に示す断面図であり、図13(c)は駆動状態で表面側の振動膜間に空気層が引き戻された状態を模式的に示す断面図である。
【0021】
1.実施例1
実施例1のフィルムスピーカ10は、図1に示すように、樹脂フィルムからなり、かつこの樹脂フィルムが折り畳み方向に可撓性を有するようにつづら折りされた振動膜11と、このつづら折りされた振動膜11の山部A1,A2,A3・・・(あるいは谷部B1,B2,B3・・・)を形成する一方の側壁11aの表面上に形成された導電性薄膜電極パターンからなるバイアス電極12と、同じく振動膜11の山部A1,A2,A3・・・(あるいは谷部B1,B2,B3・・・)を形成する他方の側壁11bの表面上に形成され、かつバイアス電極12と相対向するように形成された導電性薄膜電極パターンからなる駆動電極13とから構成される。
この場合、複数のバイアス電極12は直列接続され、これに外部電源Vからバイアス電圧が付与されるようになされている。また、複数の駆動電極13も直列接続されていて、これにオーディオ信号(Vin)が印加されるようになされている。なお、複数のバイアス電極12および複数の駆動電極13はそれぞれ並列接続であってもよい。
【0022】
つづら折りされた振動膜11の表側折曲端部11cは表側固定枠15に接着剤などにより固定されているとともに、つづら折りされた振動膜11の裏側折曲端部11dは裏側固定枠16に接着剤などにより固定されている。そして、表側固定枠15および裏側固定枠16には、これらの内外で空気が流通できるような空気開口部(図示せず)が設けられている。なお、上述した「表側」とはフィルムスピーカ10が形成された場合の聴取側を意味し、「裏側」はこれの反対側を意味し、以下の記載においても同様である。そして、非駆動状態において、山部A1,A2,A3・・・を介して対向するバイアス電極12と駆動電極13との間の距離Xは、谷部B1,B2,B3・・・を介して対向する駆動電極13とバイアス電極12との間の距離Yよりも大きくなるように振動膜11はつづら折りされている。
【0023】
ここで、樹脂フィルムからなる振動膜11の材質としては、ポリイミド(カプトン〈登録商標〉)、ナイロン、ポリエステル(マイラー〈登録商標〉)などの熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂からなる樹脂フィルムが使用できる。なお、これらの樹脂フィルムの厚みは5〜500μmであるのが望ましい。これは、厚みが5μm未満であると剛性が低すぎて柔軟なために所定の形状を維持することができなく、かつ強度も低くて破れやすいためである。一方、厚みが500μmを越えるようになると、剛性が高すぎて剛直なために振動板としての変位を生じにくいためである。
【0024】
導電性薄膜電極パターンからなるバイアス電極12および駆動電極13は、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、金(Au)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)などの金属またはそれらの合金、カ−ボン、ITO(Indium-Tin-Oxide)などの導電性無機材料、微細な金属粒子を分散させた導電性樹脂などの材料が使用可能である。この場合、これらのバイアス電極12および駆動電極13は、樹脂フィルム上にスパッタリング、蒸着、メッキなどで全面に金属薄膜を形成した後、エッチングでパタ−ニングしたり、リソグラフで得たレジストパタ−ンの開口部に金属を選択的にメッキさせ、もしくは全面に金属膜を形成してレジストパタ−ンを除去する(リフトオフ法)などの薄膜プロセスを用いることができる。また、金属膜と振動板フィルムを積層接着した後、エッチングでパタ−ニングする方法や、印刷技術やインクジェットなどの方法で、導電材料をパタ−ンイングしつつコ−ティングする方法等の様々な方法により形成することが可能である。
【0025】
なお、導電性薄膜電極パターンからなるバイアス電極12および駆動電極13の表面は、図示しない絶縁膜(例えば、ポリイミド、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン等)14(図4参照)でコーティングするのが望ましい。これは、バイアス電極12と駆動電極13とが直接接触するショートの発生を防止するためである。この場合、配線との接続部となる部位には絶縁膜14で被覆されないように、これらの部位の絶縁膜14を除去しておく必要がある。
【0026】
上述のように構成されたフィルムスピーカ10において、例えば、図1(a)に示すように、外部電源(直流電源)Vからバイアス電極12にプラス(+)の電圧が印加されているものとする。そして、駆動電極13にオーディオ信号(Vin)が印加されて、例えば、図1(b)に示すように、駆動電極13にマイナス(−)の電圧が付与されると、山部A1,A2,A3・・・を介して対向するバイアス電極12と駆動電極13との間の距離Xは、谷部B1,B2,B3・・・を介して対向する駆動電極13とバイアス電極12との間の距離Yよりも大きくなるように振動膜11はつづら折りされているので、谷部B1,B2,B3・・・を介して対向する駆動電極13とバイアス電極12との間でオーディオ信号に応じて互に引き寄せられるようなクーロン力が作用することとなる。これにより、谷部B1,B2,B3・・・内に存在する空気層が外部(図1(b)の白抜き矢印方向)に押し出されることとなる。
【0027】
一方、駆動電極13にオーディオ信号(Vin)が印加されて、例えば、図1(c)に示すように、駆動電極13にプラス(+)の電圧が付与されると、谷部B1,B2,B3・・・を介して対向する駆動電極13とバイアス電極12との間でオーディオ信号に応じて互に反発されるようなクーロン力が作用することとなる。これにより、外部から谷部B1,B2,B3・・・内(図1(c)の白抜き矢印方向)に空気層が吸引されることとなる。そして、駆動電極13に交流電圧からなるオーディオ信号(Vin)が繰り返して印加されると、バイアス電極12と駆動電極13との間に存在する空気層の押し出しと引き戻しが繰り返されて、音波の波面が形成されることとなる。
【0028】
このようなバイアス電極12と駆動電極13のわずかな変位が、鞴のように、各バイアス電極12と駆動電極13との間に存在する大量の空気層の出入りを生むこととなって、大音量の空気振動が生み出されることとなる。これにより、大音量のスピーカを得ることが可能となる。
【0029】
ついで、上述のような構成となる実施例1のフィルムスピーカ10の製造方法を図2〜図6に基づいて、以下に詳細に説明する。まず、図2に示すように、厚みが5〜500μmのポリイミド(カプトン)、ナイロン、ポリエステル(マイラー)などの樹脂フィルムからなる振動膜11を用意する。ついで、図3に示すように、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、金(Au)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)などの金属あるいはそれらの合金からなる金属薄膜をスパッタリング、蒸着、メッキなどの薄膜プロセスで作製した後、エッチングでパタ−ニングしてバイアス電極12および駆動電極13を作製する。
【0030】
この場合、上述した金属以外に、カ−ボン、ITO(Indium-Tin-Oxide)などの導電性無機材料、微細な金属粒子を分散させた導電性樹脂などの材料を用いるようにしてもよい。また、薄膜プロセス(スパッタリング、蒸着、メッキなど)で作製した金属薄膜をエッチングでパタ−ニングすることに代えて、リソグラフでレジストをパタ−ニングした後、金属をパタ−ンメッキしたり、リフトオフで金属をパタ−ン蒸着する方法や、金属膜と振動板フィルムを積層接着した後、エッチングでパタ−ニングする方法や、印刷技術やインクジェットなどの方法で、導電材料をパタ−ンイングしつつコ−ティングする方法等の他の方法を用いるようにしてもよい。
【0031】
ついで、図4に示すように、これらの全面に絶縁材料(例えば、ポリイミド、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン等)を塗布して、バイアス電極12および駆動電極13の表面を絶縁膜14でコーティングする。この場合、配線との接続部となる部位には絶縁膜14で被覆されないように、これらの部位の絶縁膜14は除去するようにする。ついで、図5に示すように、振動膜11の表裏面のバイアス電極12と駆動電極13の間に交互に円柱状の曲げ治具17,18を配置する。この場合、山部A1,A2,A3・・・を形成するためにバイアス電極12と駆動電極13の間の裏面に配置される曲げ治具17の直径は、谷部B1,B2,B3・・・を形成するためにバイアス電極12と駆動電極13の間の表面に配置される曲げ治具18の直径よりも大きく形成されている。
【0032】
ついで、バイアス電極12と駆動電極13の間の裏面に配置された曲げ治具17を上方に引張するとともに、バイアス電極12と駆動電極13の間の表面に配置された曲げ治具18を下方に引張して、バイアス電極12と駆動電極13が互に相対向するように振動膜11をつづら折りにする。これにより、山部A1,A2,A3・・・を介して対向するバイアス電極12と駆動電極13との間の距離Xは、谷部B1,B2,B3・・・を介して対向する駆動電極13とバイアス電極12との間の距離Yよりも大きくなることとなる。
【0033】
ついで、図6に示すように、バイアス電極12と駆動電極13が互に相対向するようにつづら折りされた振動膜11の上端部に表側固定枠15を配置するとともに、下端部に裏側固定枠16を配置した。この後、振動膜11の表側折曲端部11cを表側固定枠15に接着剤などで固着するとともに、振動膜11の裏側折曲端部11dを裏側固定枠16に接着剤などで固着した。この場合、曲げ治具17,18を取り外すようにしてもよいし、曲げ治具17,18を取り外すことなく、そのまま残すようにしてもよい。
【0034】
(変形例)
上述した実施例1においては、バイアス電極12と駆動電極13が互に相対向するように振動膜11をつづら折りにするに際して、振動膜11の表裏面に交互に円柱状の曲げ治具17,18を配置して断面が略半円形の曲げ部が形成されるようにした。ところが、曲げ部の形状は半円形に限られることなく、種々の変形例が考えられる。例えば、図7(a)は上述した実施例1の第1変形例のフィルムスピーカを示しており、この図7(a)に示すフィルムスピーカ20においては、バイアス電極22と駆動電極23が互に相対向するように振動膜21の上端部および下端部が矩形状に折り曲げられてつづら折りにされている。この場合も、非駆動状態において、山部A1,A2,A3・・・を介して対向するバイアス電極22と駆動電極23との間の距離Xは、谷部B1,B2,B3・・・を介して対向する駆動電極23とバイアス電極22との間の距離Yよりも大きくなるように振動膜21はつづら折りされている。
【0035】
このような第1変形例のフィルムスピーカ20を形成するに際しては、図8に示すように、振動膜21の表裏面のバイアス電極22と駆動電極23の間に交互に角柱状の曲げ治具27,28を配置する。ついで、バイアス電極22と駆動電極23の間の裏面に配置された曲げ治具27を上方に引張するとともに、バイアス電極22と駆動電極23の間の表面に配置された曲げ治具28を下方に引張して、バイアス電極22と駆動電極23が互に相対向するように振動膜21をつづら折りにする。
【0036】
なお、この場合も、山部A1,A2,A3・・・を形成するためにバイアス電極22と駆動電極23の間の裏面に配置される曲げ治具27の幅(X)は、谷部B1,B2,B3・・・を形成するためにバイアス電極22と駆動電極23の間の表面に配置される曲げ治具18の幅(Y)よりも大きく形成されている必要がある。これにより、谷部B1,B2,B3・・・を介して対向する駆動電極23とバイアス電極22との間の幅(Y)は、山部A1,A2,A3・・・を介して対向するバイアス電極22と駆動電極23との幅(Y)よりも短く形成されることとなる。
【0037】
ついで、バイアス電極22と駆動電極23が互に相対向するようにつづら折りされた振動膜21の上端部に表側固定枠25を配置するとともに、下端部に裏側固定枠26を配置した。この後、振動膜21の表側折曲端部21cを表側固定枠25に接着剤などで固着するとともに、振動膜21の裏側折曲端部21dを裏側固定枠26に接着剤などで固着した。この場合、曲げ治具27,28を取り外すようにしてもよいし、図7(b)の実施例1の第2変形例に示すように、曲げ治具27,28を取り外すことなく、そのまま残すようにしてもよい。
【0038】
2.実施例2
実施例2のフィルムスピーカ30は、図9に示すように、樹脂フィルムからなり、かつこの樹脂フィルムが折り畳み方向に可撓性を有するようにつづら折りされた振動膜31と、このつづら折りされた振動膜31の山部A1,A2,A3・・・(あるいは谷部B1,B2,B3・・・)を形成する一方の側壁31aの表面上に形成された導電性薄膜電極パターンからなるバイアス電極32と、同じく振動膜31の山部A1,A2,A3・・・(あるいは谷部B1,B2,B3・・・)を形成する他方の側壁31bの表面上および裏面上に形成されかつバイアス電極32と相対向するように形成された導電性薄膜電極パターンからなる駆動電極33(第1駆動電極33a,第2駆動電極33b)とから構成される。
【0039】
この場合、複数のバイアス電極32は直列接続され、これに外部電源Vからバイアス電圧が付与されるようになされている。また、複数の第1駆動電極33a同士、第2駆動電極33b同士もそれぞれ直列接続(この場合、第1駆動電極33aと第2駆動電極33bとは互に逆極性となるように接続されている)されていて、これらにオーディオ信号(Vin)が印加されるようになされている。なお、複数のバイアス電極32および第1駆動電極33a同士、第2駆動電極33b同士はそれぞれ並列接続であってもよい。
【0040】
そして、つづら折りされた振動膜31の表側折曲端部31cは表側固定枠35に接着剤などにより固定されているとともに、つづら折りされた振動膜31の裏側折曲端部31dは裏側固定枠36に接着剤などにより固定されている。なお、樹脂フィルムからなる振動膜31の材質は上述した実施例1と同様であり、その厚みも上述した実施例1と同様に5〜500μmとなるようになされている。また、バイアス電極32も上述した実施例1と同様の材質、同様の製法により形成されている。また、第1駆動電極33a、第2駆動電極33bも上述した実施例1と同様の材質、同様の製法により形成されており、例えば、上述のように樹脂フィルムの両面に形成してもよい。
【0041】
上述のように構成されたフィルムスピーカ30において、例えば、図9(a)に示すように、外部電源(直流電源)Vからバイアス電極32にプラス(+)の電圧が印加されているものとする。そして、オーディオ信号(Vin)が印加されて、例えば、図9(b)に示すように、第1駆動電極33aにマイナス(−)の電圧が付与されるとともに第2駆動電極33bにプラス(+)の電圧が付与されると、表側に向けて突出する山部A1,A2,A3・・・を介して対向するバイアス電極32と第2駆動電極33bとの間でオーディオ信号に応じて互に反発されるようなクーロン力が作用する。一方、裏側に向けて凹む谷部B1,B2,B3・・・を介して対向する第1駆動電極33aとバイアス電極32との間でオーディオ信号に応じて互に引き寄せられるようなクーロン力が作用することとなる。これにより、裏側に向けて凹む谷部B1,B2,B3・・・内に存在する空気層が外部(図9(b)の白抜き矢印方向)に押し出されることとなる。
【0042】
一方、オーディオ信号(Vin)が印加されて、例えば、図9(c)に示すように、第1駆動電極33aにプラス(+)の電圧が付与されるとともに第2駆動電極33bにマイナス(−)の電圧が付与されると、表側に向けて突出する山部A1,A2,A3・・・を介して対向するバイアス電極32と第2駆動電極33bとの間でオーディオ信号に応じて互に引き寄せられるようなクーロン力が作用する。一方、裏側に向けて凹む谷部B1,B2,B3・・・を介して対向する第1駆動電極33aとバイアス電極32との間でオーディオ信号に応じて互に反発するようなクーロン力が作用することとなる。これにより、外部から裏側に向けて凹む谷部B1,B2,B3・・・内(図9(c)の白抜き矢印方向)に空気層が吸引されることとなる。そして、駆動電極33(33a,33b)に交流電圧からなるオーディオ信号(Vin)が繰り返して印加されると、裏側に向けて凹む谷部B1,B2,B3・・・内に存在する空気層の押し出しと引き戻しが繰り返されて、音波の波面が形成されることとなる。
【0043】
このようなバイアス電極32と駆動電極33(33a,33b)のわずかな変位が、鞴のように、各バイアス電極32と駆動電極33(33a,33b)との間に存在する大量の空気層の出入りを生むこととなって、大音量の空気振動が生み出されることとなる。これにより、大音量のスピーカを得ることが可能となる。この場合、駆動電極33は第1駆動電極33aと第2駆動電極33bとから構成されているので、実施例1よりもさらに変換効率(オーディオ信号を音波に変換する効率)に優れるとともに、入力に対する応答のリニア性(線形性)もさらに向上し、音の歪がさらに少ないスピーカが得られるようになる。
【0044】
3.実施例3
実施例3のフィルムスピーカ40は、図10に示すように、樹脂フィルムからなり、かつこの樹脂フィルムが折り畳み方向に可撓性を有するようにつづら折りされた振動膜41と、このつづら折りされた振動膜41の山部A1,A2,A3・・・(あるいは谷部B1,B2,B3・・・)を形成する一方の側壁41aの表面上および裏面上に形成された導電性薄膜電極パターンからなる第1バイアス電極42a、第2バイアス電極42bと、同じく振動膜41の山部A1,A2,A3・・・(あるいは谷部B1,B2,B3・・・)を形成する他方の側壁41bの表面上に形成されかつバイアス電極42a,42bと相対向するように形成された導電性薄膜電極パターンからなる駆動電極43とから構成される。ここで、第1バイアス電極42aは側壁41aの表面上に一方の極性となるように形成されており、第2バイアス電極42bは側壁41aの裏面上に他方の極性となるように形成されている。
【0045】
この場合、複数の第1バイアス電極42a同士は直列接続され、これに第1外部電源V1からバイアス電圧が付与されるようになされているとともに、複数の第2バイアス電極42b同士は直列接続され、これに第2外部電源V2からバイアス電圧が付与されるようになされている。また、複数の駆動電極43も直列接続されていて、これにオーディオ信号(Vin)が印加されるようになされている。なお、複数の第1バイアス電極42a同士、複数の第2バイアス電極42b同士および複数の駆動電極43はそれぞれ並列接続であってもよい。
【0046】
そして、つづら折りされた振動膜41の表側折曲端部41cは表側固定枠45に接着剤などにより固定されているとともに、つづら折りされた振動膜41の裏側折曲端部41dは裏側固定枠46に接着剤などにより固定されている。なお、樹脂フィルムからなる振動膜41の材質は上述した実施例1と同様であり、その厚みも上述した実施例1と同様に5〜500μmとなるようになされている。また、第1バイアス電極42aおよび第2バイアス電極42bも上述した実施例1と同様の材質、同様の製法により形成されており、例えば、樹脂フィルム41の両面に形成してもよい。また、駆動電極43も上述した実施例1と同様の材質、同様の製法により形成されている。
【0047】
上述のように構成されたフィルムスピーカ40において、例えば、図10(a)に示すように、第1外部電源(直流電源)V1から第1バイアス電極42aにプラス(+)の電圧が印加され、第2外部電源(直流電源)V2から第2バイアス電極42bにマイナス(−)の電圧が印加されているものとする。そして、駆動電極43にオーディオ信号(Vin)が印加されて、例えば、図10(b)に示すように、駆動電極43がマイナス(−)の電圧が付与されると、表側に向けて突出する山部A1,A2,A3・・・を介して対向する第2バイアス電極42bと駆動電極43との間でオーディオ信号に応じて互に反発されるようなクーロン力が作用する。一方、裏側に向けて凹む谷部B1,B2,B3・・・を介して対向する駆動電極43と第1バイアス電極42aとの間でオーディオ信号に応じて互に引き寄せられるようなクーロン力が作用することとなる。これにより、裏側に向けて凹む谷部B1,B2,B3・・・内に存在する空気層が外部(図10(b)の白抜き矢印方向)に押し出されることとなる。
【0048】
また、駆動電極43にオーディオ信号(Vin)が印加されて、例えば、図10(c)に示すように、駆動電極43がプラス(+)の電圧が付与されると、表側に向けて突出する山部A1,A2,A3・・・を介して対向する第2バイアス電極42bと駆動電極43との間でオーディオ信号に応じて互に引き寄せられるようなクーロン力が作用する。一方、裏側に向けて凹む谷部B1,B2,B3・・・を介して対向する駆動電極43と第1バイアス電極42aとの間でオーディオ信号に応じて互に反発するようなクーロン力が作用することとなる。これにより、外部から裏側に向けて凹む谷部B1,B2,B3・・・内(図10(c)の白抜き矢印方向)に空気層が吸引されることとなる。そして、駆動電極43に交流電圧からなるオーディオ信号(Vin)が繰り返して印加されると、裏側に向けて凹む谷部B1,B2,B3・・・内に存在する空気層の押し出しと引き戻しが繰り返されて、音波の波面が形成されることとなる。
【0049】
このようなバイアス電極42(第1バイアス電極42a、第2バイアス電極42b)と駆動電極43とのわずかな変位が、鞴のように、各バイアス電極42(第1バイアス電極42a、第2バイアス電極42b)と駆動電極43との間に存在する大量の空気層の出入りを生むこととなって、大音量の空気振動が生み出されることとなる。これにより、大音量のスピーカを得ることが可能となる。この場合、バイアス電極42は第1バイアス電極42aと第2バイアス電極42bとから構成されているので、実施例1よりもさらに変換効率(オーディオ信号を音波に変換する効率)に優れるとともに、入力に対する応答のリニア性(線形性)もさらに向上し、音の歪がさらに少ないスピーカが得られるようになる。
【0050】
4.実施例4
実施例4のフィルムスピーカ50は、図11に示すように、樹脂フィルムからなり、かつこの樹脂フィルムが折り畳み方向に可撓性を有するようにつづら折りされた振動膜51と、このつづら折りされた振動膜51の山部A1,A2,A3・・・(あるいは谷部B1,B2,B3・・・)を形成する一方の側壁51aの表面上に形成された単極エレクトレットからなるバイアス電極52と、同じく振動膜51の山部A1,A2,A3・・・(あるいは谷部B1,B2,B3・・・)を形成する他方の側壁51bの表面上に形成されかつバイアス電極52と相対向するように形成された導電性薄膜電極パターンからなる駆動電極53とから構成される。この場合、複数の駆動電極53は直列接続されていて、これにオーディオ信号(Vin)が印加されるようになされているが、複数の駆動電極53はそれぞれ並列接続であってもよい。
【0051】
つづら折りされた振動膜51の表側折曲端部51cは表側固定枠55に接着剤などにより固定されているとともに、つづら折りされた振動膜51の裏側折曲端部51dは裏側固定枠56に接着剤などにより固定されている。そして、非駆動状態において、山部A1,A2,A3・・・を介して対向するバイアス電極52と駆動電極53との間の距離Xは、谷部B1,B2,B3・・・を介して対向する駆動電極53とバイアス電極52との間の距離Yよりも大きくなるように振動膜51はつづら折りされている。
【0052】
なお、樹脂フィルムからなる振動膜51の材質は上述した実施例1と同様であり、その厚みも上述した実施例1と同様に5〜500μmとなるようになされている。また、駆動電極53も上述した実施例1と同様の材質、同様の製法により形成されている。また、単極エレクトレットからなるバイアス電極52は、上述した樹脂フィルム51にコロナ放電されたイオンを打ち込むことにより正または負に帯電させて形成したものである。
【0053】
上述のように構成されたフィルムスピーカ50において、例えば、図11(a)に示すように、振動膜51に単極エレクトレットを形成する際に、プラス(+)の電荷を持つようにバイアス電極52が形成されているものとする。そして、駆動電極53にオーディオ信号(Vin)が印加されて、例えば、図11(b)に示すように、駆動電極53にマイナス(−)の電圧が付与されると、山部A1,A2,A3・・・を介して対向するバイアス電極52と駆動電極53との間の距離Xは、谷部B1,B2,B3・・・を介して対向する駆動電極53とバイアス電極52との間の距離Yよりも大きくなるように振動膜51はつづら折りされているので、谷部B1,B2,B3・・・を介して対向する駆動電極53とバイアス電極52との間でオーディオ信号に応じて互に引き寄せられるようなクーロン力が作用することとなる。
【0054】
これにより、谷部B1,B2,B3・・・内に存在する空気層が外部(図11(b)の白抜き矢印方向)に押し出されることとなる。一方、駆動電極53にオーディオ信号(Vin)が印加されて、例えば、図11(c)に示すように、駆動電極53にプラス(+)の電圧が付与されると、谷部B1,B2,B3・・・を介して対向する駆動電極53とバイアス電極52との間でオーディオ信号に応じて互に反発されるようなクーロン力が作用することとなる。これにより、外部から谷部B1,B2,B3・・・内(図11(c)の白抜き矢印方向)に空気層が吸引されることとなる。そして、駆動電極53に交流電圧からなるオーディオ信号(Vin)が繰り返して印加されると、バイアス電極52と駆動電極53との間に存在する空気層の押し出しと引き戻しが繰り返されて、音波の波面が形成されることとなる。
【0055】
このようなバイアス電極52と駆動電極53のわずかな変位が、鞴のように、各バイアス電極52と駆動電極53との間に存在する大量の空気層の出入りを生むこととなって、大音量の空気振動が生み出されることとなる。これにより、大音量のスピーカを得ることが可能となる。なお、バイアス電極52は単極エレクトレットで構成されているので、薄膜フィルム上に直接電極を形成する必要がなくなるとともに、バイアス電圧を付与するための電力を供給することが必要でなくなるので、さらに省電力のスピーカを構成することが可能となる。
【0056】
5.実施例5
実施例5のフィルムスピーカ60は、図12に示すように、樹脂フィルムからなり、かつこの樹脂フィルムが折り畳み方向に可撓性を有するようにつづら折りされた振動膜61と、このつづら折りされた振動膜61の山部A1,A2,A3・・・(あるいは谷部B1,B2,B3・・・)を形成する一方の側壁61aの表面上に形成された単極エレクトレットからなるバイアス電極62と、同じく振動膜61の山部A1,A2,A3・・・(あるいは谷部B1,B2,B3・・・)を形成する他方の側壁61bの表面上および裏面上に形成されかつバイアス電極62と相対向するように形成された導電性薄膜電極パターンからなる第1駆動電極63aおよび第2駆動電極63bとから構成される。
この場合、複数の第1駆動電極63a同士、第2駆動電極63b同士はそれぞれ直列接続(この場合、第1駆動電極63aと第2駆動電極63bとは互に逆極性となるように接続されている)されていて、これらにオーディオ信号(Vin)が印加されるようになされている。なお、複数の第1駆動電極63a同士および第2駆動電極63b同士はそれぞれ並列接続であってもよい。
【0057】
そして、つづら折りされた振動膜61の表側折曲端部61cは表側固定枠65に接着剤などにより固定されているとともに、つづら折りされた振動膜61の裏側折曲端部61dは裏側固定枠66に接着剤などにより固定されている。なお、樹脂フィルムからなる振動膜61の材質は上述した実施例1と同様であり、その厚みも上述した実施例1と同様に5〜500μmとなるようになされている。また、第1駆動電極63aおよび第2駆動電極63bも上述した実施例1と同様の材質、同様の製法により形成されており、例えば、樹脂フィルム61の両面に形成してもよい。また、単極エレクトレットからなるバイアス電極62は、上述した樹脂フィルム61にコロナ放電されたイオンを打ち込むことにより正または負に帯電させて形成されたものである。
【0058】
上述のように構成されたフィルムスピーカ60において、例えば、図12(a)に示すように、振動膜61に単極エレクトレットを形成する際に、プラス(+)の電荷を持つようにバイアス電極62が形成されているものとする。そして、オーディオ信号(Vin)が印加されて、例えば、図12(b)に示すように、第1駆動電極63aにマイナス(−)の電圧が付与されるとともに第2駆動電極63bにプラス(+)の電圧が付与されると、表側に向けて突出する山部A1,A2,A3・・・を介して対向するバイアス電極62と第2駆動電極63bとの間でオーディオ信号に応じて互に反発するようなクーロン力が作用する。一方、裏側に向けて凹む谷部B1,B2,B3・・・を介して対向する第1駆動電極63aとバイアス電極62との間でオーディオ信号(Vin)に応じて互に引き寄せられるようなクーロン力が作用することとなる。これにより、裏側に向けて凹む谷部B1,B2,B3・・・内に存在する空気層が外部(図12(b)の白抜き矢印方向)に押し出されることとなる。
【0059】
一方、駆動電極63にオーディオ信号(Vin)が印加されて、例えば、図12(c)に示すように、第1駆動電極63aにプラス(+)の電圧が付与されるとともに第2駆動電極63bにマイナス(−)の電圧が付与されると、表側に向けて突出する山部A1,A2,A3・・・を介して対向するバイアス電極62と第2駆動電極63bとの間でオーディオ信号(Vin)に応じて互に引き寄せられるようなクーロン力が作用する。一方、裏側に向けて凹む谷部B1,B2,B3・・・を介して対向する第1駆動電極63aとバイアス電極62との間でオーディオ信号(Vin)に応じて互に反発するようなクーロン力が作用することとなる。これにより、外部から裏側に向けて凹む谷部B1,B2,B3・・・内(図12(c)の白抜き矢印方向)に空気層が吸引されることとなる。そして、駆動電極63(63a,63b)に交流電圧からなるオーディオ信号(Vin)が繰り返して印加されると、裏側に向けて凹む谷部B1,B2,B3・・・内に存在する空気層の押し出しと引き戻しが繰り返されて、音波の波面が形成されることとなる。
【0060】
このようなバイアス電極62と第1駆動電極63aのわずかな変位およびバイアス電極62と第2駆動電極63bのわずかな変位が、鞴のように、各バイアス電極62と各駆動電極63a,63bとの間に存在する大量の空気層の出入りを生むこととなって、大音量の空気振動が生み出されることとなる。これにより、大音量のスピーカを得ることが可能となる。この場合、駆動電極は第1駆動電極63aと第2駆動電極63bとから構成されているので、実施例1よりもさらに変換効率(オーディオ信号を音波に変換する効率)に優れるとともに、入力に対する応答のリニア性(線形性)もさらに向上し、音の歪がさらに少ないスピーカが得られるようになる。なお、バイアス電極62は単極エレクトレットで構成されているので、薄膜フィルム上に直接電極を形成する必要がなくなるとともに、バイアス電圧を付与するための電力を供給することが必要でなくなるので、さらに省電力のスピーカを構成することが可能となる。
【0061】
6.実施例6
本実施例6のフィルムスピーカ70は、図13に示すように、樹脂フィルムからなり、かつこの樹脂フィルムが折り畳み方向に可撓性を有するようにつづら折りされた振動膜71と、このつづら折りされた振動膜71の山部A1,A2,A3・・・(あるいは谷部B1,B2,B3・・・)を形成する一方の側壁71aの表面上に形成された分極エレクトレット膜からなるバイアス電極72と、同じく振動膜71の山部A1,A2,A3・・・(あるいは谷部B1,B2,B3・・・)を形成する他方の側壁71bの表面上に形成されかつバイアス電極72と相対向するように形成された導電性薄膜電極パターンからなる駆動電極73とから構成される。この場合、複数の駆動電極73は直列接続されていて、これにオーディオ信号(Vin)が印加されるようになされているが、複数の駆動電極73はそれぞれ並列接続であってもよい。
【0062】
そして、つづら折りされた振動膜71の表側折曲端部71cは表側固定枠75に接着剤などにより固定されているとともに、つづら折りされた振動膜71の裏側折曲端部71dは裏側固定枠76に接着剤などにより固定されている。なお、樹脂フィルムからなる振動膜71の材質は上述した実施例1と同様であり、その厚みも上述した実施例1と同様に5〜500μmとなるようになされている。また、駆動電極73も上述した実施例1と同様の材質、同様の製法により形成されている。
【0063】
また、バイアス電極72は分極エレクトレット膜からなり、具体的には、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、4フッ化エチレン−6フッ化ポリプロピレン(FEP)などの高分子フィルム71を、例えばコロナ放電処理することにより、当該フィルム71の表裏面に互に極性が異なる電荷が形成されるような分極処理が施されたものである。この場合、図13に示すように、当該フィルム71の表面72aにプラス(+)の電荷が形成され、当該フィルム71の裏面72bにマイナス(−)の電荷が形成されているものとする。
【0064】
上述のように構成された実施例6のフィルムスピーカ70において、駆動電極73にオーディオ信号(Vin)が印加されて、例えば、図13(b)に示すように、駆動電極73にマイナス(−)の電圧が付与されると、表側に向けて突出する山部A1,A2,A3・・・を介して対向するバイアス電極72bと駆動電極73との間でオーディオ信号(Vin)に応じて互に反発するようなクーロン力が作用する。一方、裏側に向けて凹む谷部B1,B2,B3・・・を介して対向する駆動電極73とバイアス電極72aとの間でオーディオ信号(Vin)に応じて互に引き寄せられるようなクーロン力が作用することとなる。これにより、裏側に向けて凹む谷部B1,B2,B3・・・内に存在する空気層が外部(図13(b)の白抜き矢印方向)に押し出されることとなる。
【0065】
また、駆動電極73にオーディオ信号(Vin)が印加されて、例えば、図13(c)に示すように、駆動電極73にプラス(+)の電圧が付与されると、表側に向けて突出する山部A1,A2,A3・・・を介して対向するバイアス電極72bと駆動電極73との間でオーディオ信号(Vin)に応じて互に引き寄せられるようなクーロン力が作用する。一方、裏側に向けて凹む谷部B1,B2,B3・・・を介して対向する駆動電極73とバイアス電極72aとの間でオーディオ信号(Vin)に応じて互に反発するようなクーロン力が作用することとなる。これにより、外部から裏側に向けて凹む谷部B1,B2,B3・・・内(図13(c)の白抜き矢印方向)に空気層が吸引されることとなる。そして、駆動電極73に交流電圧からなるオーディオ信号(Vin)が繰り返して印加されると、裏側に向けて凹む谷部B1,B2,B3・・・内に存在する空気層の押し出しと引き戻しが繰り返されて、音波の波面が形成されることとなる。
【0066】
このようなバイアス電極72と駆動電極73のわずかな変位が、鞴のように、各バイアス電極72と駆動電極73との間に存在する大量の空気層の出入りを生むこととなって、大音量の空気振動が生み出されることとなる。これにより、大音量のスピーカを得ることが可能となる。この場合、バイアス電極72は分極エレクトレットから構成されているので、実施例1よりもさらに変換効率(オーディオ信号を音波に変換する効率)に優れるとともに、入力に対する応答のリニア性(線形性)もさらに向上し、音の歪がさらに少ないスピーカが得られるようになる。また、バイアス電極72は分極エレクトレットで構成されているので、薄膜フィルム上に直接電極を形成する必要がなくなるとともに、バイアス電圧を付与するための電力を供給することが必要でなくなるので、さらに省電力のスピーカを構成することが可能となる。
【0067】
7.スピーカアレイ
(1)1ユニットによるスピーカアレイ
上述した各実施例のフィルムスピーカにおいては、各駆動電極を直列接続して構成される1ユニットのフィルムスピーカとする例について説明したが、本発明のフィルムスピーカにおいては、各駆動電極の個々に同一位相あるいは異なる位相のオーディオ信号を入力させるようにして1ユニットによるスピーカアレイを形成することが可能である。そこで、上述した実施例1のフィルムスピーカ10の各駆動電極の個々に同一位相あるいは異なる位相のオーディオ信号を入力させるようにして1ユニットによるスピーカアレイを形成する例について、以下に説明する。
【0068】
(第1例)
図14(a)に示すように、各駆動電極A,B,C,D,Eに個々にオーディオ信号(Vin)を付与するように接続して1ユニットによるスピーカアレイ10aを形成する。そして、これらの各駆動電極A,B,C,D,Eに同位相の信号を付与すると、スピーカアレイ10aの各駆動電極A,B,C,D,Eに平行なビーム状の音波が放音されることとなる。これにより、図14(a)の点線で示すような音波の波面が形成され、リスナー(L)は、リスナー(L)の真正面に音源があるかのように聞こえる。
【0069】
(第2例)
図14(b)に示すように、各駆動電極A,B,C,D,Eに個々にオーディオ信号(Vin)を付与するように接続して1ユニットによるスピーカアレイ10bを形成する。そして、これらの各駆動電極A,B,C,D,Eに駆動電極Aから駆動電極Eに向かうほど位相が進んだ信号を付与すると、スピーカアレイ10aの駆動電極Aから駆動電極Eに向かうほど位相が進んだビーム状の音波が放音されることとなる。これにより、図14(b)の点線で示すように傾斜した音波の波面が形成され、リスナー(L)はスピーカアレイ10bの駆動電極E側に音源があるように聞こえる。
【0070】
(第3例)
図15(a)に示すように、各駆動電極A,B,C,D,Eに個々にオーディオ信号(Vin)を付与するように接続して1ユニットによるスピーカアレイ10cを形成する。そして、これらの各駆動電極A,B,C,D,Eに駆動電極Cから駆動電極Aおよび駆動電極Cから駆動電極Eに向かうほど位相が遅れた信号を付与すると、スピーカアレイ10cの駆動電極Cから駆動電極Aおよび駆動電極Cから駆動電極Eに向かうほど位相が遅れたビーム状の音波が放音されることとなる。これにより、図15(a)の点線で示すようにP点を中心とした球状の波面が形成され、リスナー(L)はスピーカアレイ10cの後ろのP点に音源があるかのような奥行きのある音に聞こえる。
【0071】
(第4例)
図15(b)に示すように、各駆動電極A,B,C,D,Eに個々にオーディオ信号(Vin)を付与するように接続して1ユニットによるスピーカアレイ10dを形成する。そして、これらの各駆動電極A,B,C,D,Eに駆動電極Cから駆動電極Aおよび駆動電極Cから駆動電極Eに向かうほど位相が進んだ信号を付与すると、スピーカアレイ10dの駆動電極Cから駆動電極Aおよび駆動電極Cから駆動電極Eに向かうほど位相が進んだビーム状の音波が放音されることとなる。これにより、図15(b)の点線で示すような球状の音波の波面が形成され、特定のリスナー(L)のみに音をフォーカスして聞かせ、他のリスナーには聞かせないという使い方ができるようになる。
【0072】
(第5例)
図16(a)に示すように、各駆動電極A,B,C,D,Eに個々にオーディオ信号(Vin)を付与するように接続して1ユニットによるスピーカアレイ10eを形成する。そして、これらの各駆動電極A,B,C,D,Eに位相が異なるオーディオ信号を付与して、図16(b)の点線で示すような球状の波面が形成されるようにすると、リスナー(L)はスピーカアレイ10eの後ろのP点に音源があるかのような奥行きのある音に聞こえる。
【0073】
(第6例)
図16(b)に示すように、各駆動電極A,C,Eに個々にP群のオーディオ信号(Vin−p)を付与するように接続するとともに、各駆動電極B,Dに個々にQ群のオーディオ信号(Vin−q)を付与するように接続して1ユニットによるスピーカアレイ10fを形成する。そして、これらの各駆動電極A,C,Eに位相が異なるP群のオーディオ信号(Vin−p)を付与して、図16(b)の点線で示すような球状の波面が形成されるようにし、これらの各駆動電極B,Dに位相が異なるQ群のオーディオ信号(Vin−q)を付与して、図16(b)の一点鎖線で示すような球状の波面が形成されるようにすると、リスナー(L)はスピーカアレイ10fの後ろのP点およびQ点の異なった位置に音源があるかのような立体的な音場が形成されて聞こえる。
【0074】
なお、上述のように位相をずらしたオーディオ信号を各駆動電極A,B,C,D,Eに付与するようにするには、例えば、特開2005−197896号公報に開示されているようなスピーカアレイシステム100を用いればよい。具体的には、図17に示すように、指向性制御装置102から与えられる遅延制御情報に従い、各スピーカアレイ10a(10b,10c,10d,10e,10f)の各駆動電極A,B,C,D,Eに供給するオーディオ信号の各々に遅延処理を施す遅延回路101を備えるようにする。この場合、指向性制御装置102は、所望する位置に焦点が形成されるように、上記各オーディオ信号に与えるべき遅延量を求め、求めた各遅延量をあらわす遅延制御情報を生成して遅延回路101に供給する。
【0075】
具体的には、焦点からスピーカアレイ10a(10b,10c,10d,10e,10f)までの距離差を補償するように、スピーカアレイ10a(10b,10c,10d,10e,10f)の空間座標と焦点の空間座標とに基づき上記各遅延量を算出する。そして、重み付け手段103を、スピーカアレイ10a(10b,10c,10d,10e,10f)の各駆動電極A,B,C,D,Eと同数の乗算器103−a,103−b・・・103−eによって構成し、遅延回路101から供給される遅延処理後のオーディオ信号の各々に窓関数係数やゲイン係数等の重み係数による重みを付加する。
【0076】
増幅手段104は、スピーカアレイ10a(10b,10c,10d,10e,10f)の各駆動電極A,B,C,D,Eと同数のアンプ104−a,104−b・・・104−eによって構成し、重み付け手段103によって所定の重みが付加された各オーディオ信号を増幅する。これにより、増幅手段104によって増幅されたオーディオ信号は、スピーカアレイ10a(10b,10c,10d,10e,10f)の各駆動電極A,B,C,D,Eに入力され、音波として出力される。各スピーカアレイ10a(10b,10c,10d,10e,10f)から出力された音波は、空間上の任意の点(焦点)において同位相となり、該焦点方向の音圧が局所的に高くなる効率の良い指向性(以下、狭指向性)が実現される。このように、遅延アレイ方式を用いたスピーカアレイシステム100によれば、狭指向性を実現することができるとともに、遅延量の変更のみで指向方向を任意に変更等することができる。
【0077】
(2)1ユニットの複数個を1列になるように接続したスピーカアレイ
上述した各実施例においては、1枚の樹脂フィルムからなる振動板を用いて1ユニットのフィルムスピーカを作製する例について説明した。ところが、1枚の樹脂フィルムからなる振動板を用いて複数ユニットのスピーカ(マルチスピーカ)を作製することが可能である。ついで、マルチスピーカの構成の一例を図18に基づいて説明する。図18に示すマルチスピーカ80においては、1枚の樹脂フィルム81に多数のバイアス電極82と駆動電極83とが形成されている。また、所定の個数(この場合は8個)のバイアス電極82がタ−ミナルxに接続されるように結線され、所定の個数(この場合は8個)の駆動電極83がタ−ミナルyに接続されるように結線されて、ユニットA1〜A7が形成されている。そして、これらのバイアス電極82と駆動電極83とが互に平行に相対向するように折目線(図18に示す点線)で交互に折り曲げられている。
【0078】
この場合、1枚の樹脂フィルム81に多数のバイアス電極82と駆動電極83とを形成するに際しては、エッチング法、パタ−ニング法、印刷法などを適用して作製するようにすればよい。また、バイアス電極82を結線するに際しては、ユニットA1〜A7毎に結線するようにしてもよいし、あるいは樹脂フィルム81上の1箇所で全部結線して、ひとつの端子にまとめるようにしてもよい。さらに、まとまってひとつの動きをするユニットに対しては、ユニットごとに異なった信号で制御できるようにするのが望ましい。
なお、このようなマルチスピーカの製造方法においては、1枚の樹脂フィルムに多数のバイアス電極82と駆動電極83とからなるユニットA1〜A7を形成すること以外は、上述した実施例1の製造方法とほぼ同様であるので、その製造方法についての説明は省略する。
【0079】
(3)1ユニットの複数個を複数列になるように接続したスピーカアレイ
また、図19に示すマルチスピーカ90においては、1枚の樹脂フィルム91に多数のバイアス電極92と駆動電極93とが形成されている。この場合、所定の個数(この場合は8個)のバイアス電極92がタ−ミナルxに接続されるように結線され、所定の個数(この場合は8個)の駆動電極93がタ−ミナルyに接続されるように結線されて、ユニットA1〜A6,B1〜B6,C1〜C6が形成されている。そして、これらのバイアス電極92と駆動電極93とが互に平行に相対向するように折目線(図19に示す点線)で交互に折り曲げられている。
【0080】
ここで、1枚の樹脂フィルム91に多数のバイアス電極92と駆動電極93とを形成するに際しては、エッチング法、パタ−ニング法、印刷法などを適用して作製するようにすればよい。また、バイアス電極92を結線するに際しては、ユニットA1〜A6,B1〜B6,C1〜C6毎に結線するようにしてもよいし、あるいは樹脂フィルム91上の1箇所で全部結線して、ひとつの端子にまとめるようにしてもよい。さらに、まとまってひとつの動きをするユニットに対しては、ユニットごとに異なった信号で制御できるようにするのが望ましい。
なお、このようなマルチスピーカの製造方法においては、1枚の樹脂フィルムに多数のバイアス電極92と駆動電極93とからなるユニットA1〜A6,B1〜B6,C1〜C6を形成すること以外は、上述した実施例1の製造方法とほぼ同様であるので、その製造方法についての説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0081】
なお、上述した実施の形態においては、薄膜フィルムにバイアス電極と駆動電極とを形成し、これらのバイアス電極と駆動電極とが空気層を介して互に平行に相対向するように薄膜フィルムがつづら折り状に折り畳み、つづら折り状に折り畳まれた薄膜フィルムの山部および谷部を板状の固定板で固定して平面状のフィルムスピーカを形成する例について説明した。ところが、本発明のフィルムスピーカは平面状のみに限ることなく種々の形状に形成することが可能である。例えば、円筒状、凹面状、球面状などの種々の曲面を有するフィルムスピーカを形成することが可能である。この場合、バイアス電極と駆動電極とが空気層を介して互に相対向するように薄膜フィルムがつづら折り状に折り畳み、つづら折り状に折り畳まれた薄膜フィルムの山部および谷部を、円筒状、凹面状、球面状などの自由な曲面を有する板、枠、梁などで固定するようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の実施例1のフィルムスピーカを模式的に示す断面図であり、図1(a)は非駆動状態を模式的に示す断面図であり、図1(b)は駆動状態で表面側の振動膜間に存在する空気層が押し出された状態を模式的に示す断面図であり、図1(c)は駆動状態で表面側の振動膜間に空気層が引き戻された状態を模式的に示す断面図である。
【図2】図1のフィルムスピーカの製造法の一工程を模式的に示す図であり、図2(a)は上面図であり、図2(b)はそのA−A断面を示す断面図であり、図2(c)はそのB−B断面を示す断面図である。
【図3】図1のフィルムスピーカの製造法の一工程を模式的に示す図であり、図3(a)は上面図であり、図3(b)はそのA−A断面を示す断面図であり、図3(c)はそのB−B断面を示す断面図である。
【図4】図1のフィルムスピーカの製造法の一工程を模式的に示す図であり、図4(a)は上面図であり、図4(b)はそのA−A断面を示す断面図であり、図4(c)はそのB−B断面を示す断面図である。
【図5】図1のフィルムスピーカの製造法の一工程を模式的に示す図であり、図5(a)は上面図であり、図5(b)はそのA−A断面を示す断面図であり、図5(c)はそのB−B断面を示す断面図である。
【図6】図1のフィルムスピーカの製造法の一工程を模式的に示す図であり、図6(a)は上面図であり、図6(b)はそのA−A断面を示す断面図であり、図6(c)はそのB−B断面を示す断面図である。
【図7】実施例1の変形例のフィルムスピーカを模式的に示す断面図である。
【図8】図7の変形例のフィルムスピーカの製造法を模式的に示す図であり、図8(a)は上面図であり、図8(b)はそのA−A断面を示す断面図であり、図8(c)はそのB−B断面を示す断面図である。
【図9】本発明の実施例2のフィルムスピーカを模式的に示す断面図であり、図9(a)は非駆動状態を模式的に示す断面図であり、図9(b)は駆動状態で表面側の振動膜間に存在する空気層が押し出された状態を模式的に示す断面図であり、図9(c)は駆動状態で表面側の振動膜間に空気層が引き戻された状態を模式的に示す断面図である。
【図10】本発明の実施例3のフィルムスピーカを模式的に示す断面図であり、図10(a)は非駆動状態を模式的に示す断面図であり、図10(b)は駆動状態で表側の振動膜間に存在する空気層が押し出された状態を模式的に示す断面図であり、図10(c)は駆動状態で表側の振動膜間に空気層が引き戻された状態を模式的に示す断面図である。
【図11】本発明の実施例4のフィルムスピーカを模式的に示す断面図であり、図11(a)は非駆動状態を模式的に示す断面図であり、図11(b)は駆動状態で表面側の振動膜間に存在する空気層が押し出された状態を模式的に示す断面図であり、図11(c)は駆動状態で表面側の振動膜間に空気層が引き戻された状態を模式的に示す断面図である。
【図12】本発明の実施例5のフィルムスピーカを模式的に示す断面図であり、図12(a)は非駆動状態を模式的に示す断面図であり、図12(b)は駆動状態で表面側の振動膜間に存在する空気層が押し出された状態を模式的に示す断面図であり、図12(c)は駆動状態で表面側の振動膜間に空気層が引き戻された状態を模式的に示す断面図である。
【図13】本発明の実施例6のフィルムスピーカを模式的に示す断面図であり、図13(a)は非駆動状態を模式的に示す断面図であり、図13(b)は駆動状態で表面側の振動膜間に存在する空気層が押し出された状態を模式的に示す断面図であり、図13(c)は駆動状態で表面側の振動膜間に空気層が引き戻された状態を模式的に示す断面図である。
【図14】1ユニットによるスピーカアレイを形成して放音させる例を模式的に示す図であり、図14(a)は第1例を示し、図14(b)は第2例を示す。
【図15】1ユニットによるスピーカアレイを形成して放音させる例を模式的に示す図であり、図15(a)は第3例を示し、図15(b)は第4例を示す。
【図16】1ユニットによるスピーカアレイを形成して放音させる例を模式的に示す図であり、図16(a)は第5例を示し、図16(b)は第6例を示す。
【図17】遅延アレイ方式を用いたスピーカアレイシステムを説明するブロック図である。
【図18】1ユニットの複数個を1列になるように接続したスピーカアレイおよびその放音例を模式的に示す図である。
【図19】1ユニットの複数個を複数列になるように接続したスピーカアレイおよびその放音例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0083】
10…フィルムスピーカ、11…振動膜(樹脂フィルム)、11a…振動膜の一方の側壁、11b…振動膜の他方の側壁、11c…表側折曲端部、11d…裏側折曲端部、12…バイアス電極、13…駆動電極、14…絶縁膜、15…表側固定枠、16…裏側固定枠、17…曲げ治具、18…曲げ治具、20…フィルムスピーカ、21…振動膜、21c…表側折曲端部、21d…裏側折曲端部、22…バイアス電極、23…駆動電極、25…表側固定枠、26…裏側固定枠、27…曲げ治具、28…曲げ治具、30…フィルムスピーカ、31…振動膜(樹脂フィルム)、31a…振動膜の一方の側壁、31b…振動膜の他方の側壁、31c…表側折曲端部、31d…裏側折曲端部、32…バイアス電極、33a…第1駆動電極、33b…第2駆動電極、35…表側固定枠、36…裏側固定枠、40…フィルムスピーカ、41…振動膜(樹脂フィルム)、41c…表側折曲端部、41d…裏側折曲端部、42a…第1バイアス電極、42b…第2バイアス電極、43…駆動電極、45…表側固定枠、46…裏側固定枠、50…フィルムスピーカ、51…振動膜(樹脂フィルム)、51c…表側折曲端部、51d…裏側折曲端部、52…バイアス電極(単極エレクトレット)、53…駆動電極、55…表側固定枠、56…裏側固定枠、60…フィルムスピーカ、61…振動膜(樹脂フィルム)、61c…表側折曲端部、61d…裏側折曲端部、62…バイアス電極(単極エレクトレット)、63a…第1駆動電極、63b…第2駆動電極、65…表側固定枠、66…裏側固定枠、70…フィルムスピーカ、71…振動膜(樹脂フィルム)、71c…表側折曲端部、71d…裏側折曲端部、72…バイアス電極(分極エレクトレット)、73…駆動電極、75…表側固定枠、76…裏側固定枠、80…1ユニットの複数個を1列になるように接続したスピーカアレイ、81…樹脂フィルム、82…バイアス電極、83…駆動電極、90…1ユニットの複数個を複数列になるように接続したスピーカアレイ、91…樹脂フィルム、92…バイアス電極、93…駆動電極、A1,A2,A3…山部、B1,B2,B3…谷部、10a,10b,10c,10d,10e,10f…スピーカアレイ、100…スピーカアレイシステム、101…遅延回路、102…指向性制御装置、103…重み付け手段、104…増幅手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜フィルムにバイアス電極と駆動電極とが形成され、これらのバイアス電極と駆動電極とが空気層を介して互に平行に相対向するように前記薄膜フィルムが折り畳まれて形成されたフィルムスピーカであって、
前記折り畳まれた薄膜フィルムの山部および谷部は固定されており、
前記バイアス電極には所定のバイアス電圧が付与されているとともに、前記駆動電極に付与されたオーディオ信号に応じた駆動電圧に基づく当該駆動電極と前記バイアス電極との間のクーロン力により前記バイアス電極と前記駆動電極との間の空間部に存在する空気層が押し出されたり引き戻されることにより空気振動が生じて音波を発生するようになされていることを特徴とするフィルムスピーカ。
【請求項2】
前記バイアス電極と前記駆動電極の両方が導電性膜からなることを特徴とする請求項1に記載のフィルムスピーカ。
【請求項3】
前記駆動電極は前記薄膜フィルムの表裏面に形成された2層の導電性膜であるともに、当該2層の導電性膜は互いに逆極性となるように接続されていることを特徴とする請求項2に記載のフィルムスピーカ。
【請求項4】
前記バイアス電極は前記薄膜フィルムを挟むように2層の導電性膜で形成されているとともに、当該2層の導電性膜は互いに極性が異なる電荷が付与されていることを特徴とする請求項2に記載のフィルムスピーカ。
【請求項5】
前記駆動電極は導電性膜であり、前記バイアス電極は分極エレクトレットであることを特徴とする請求項1に記載のフィルムスピーカ。
【請求項6】
前記駆動電極は導電性膜であり、前記バイアス電極は単極エレクトレットであることを特徴とする請求項1に記載のフィルムスピーカ。
【請求項7】
前記駆動電極は前記薄膜フィルムの表裏面に形成された2層の導電性膜であるともに、当該2層の導電性膜は互いに逆極性となるように接続されていることを特徴とする請求項6に記載のフィルムスピーカ。
【請求項8】
前記導電性膜は銅、アルミニウム、クロム、チタン、金、ニッケル、鉄から選択される金属またはそれらの合金から形成された薄膜、カーボン、ITO(Indium-Tin-Oxide)から選択される導電性無機材料から形成された薄膜、微細な金属粉末を分散させた導電性樹脂材料から形成された薄膜のいずれか1つであることを特徴とする請求項2から請求項7のいずれかに記載のフィルムスピーカ。
【請求項9】
前記導電性膜の表面は絶縁膜で被覆されていることを特徴とする請求項2から請求項8のいずれかに記載のフィルムスピーカ。
【請求項10】
前記折り畳まれた薄膜フィルムの山部および谷部は円筒状あるいは角筒状に形成されていて、当該山部および谷部の頂部は固定板に固定されていることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載のフィルムスピーカ。
【請求項11】
前記折り畳まれた薄膜フィルムの山部および谷部に円柱状あるいは角柱状の曲げ治具を備えるようにしたことを特徴とする請求項1から請求項10のいずれかに記載のフィルムスピーカ。
【請求項12】
前記薄膜フィルムは熱可塑性樹脂フィルムあるいは熱硬化性樹脂フィルムからなることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれかに記載のフィルムスピーカ。
【請求項13】
バイアス電極と駆動電極とが形成された薄膜フィルムの前記バイアス電極と前記駆動電極とが空気層を介して互に平行に相対向するように前記薄膜フィルムを折り畳むことにより形成するフィルムスピーカの製造方法であって、
前記薄膜フィルムに前記バイアス電極と前記駆動電極とを形成する電極形成工程と、
前記バイアス電極と前記駆動電極とが形成された前記薄膜フィルムの表面側の前記バイアス電極と前記駆動電極との間、および前記バイアス電極と前記駆動電極とが形成された前記薄膜フィルムの裏面側の前記駆動電極と前記バイアス電極との間に円柱状あるいは角柱状の曲げ治具を配置する治具配置工程と、
前記薄膜フィルムの裏面側に配置された前記曲げ治具と、前記薄膜フィルムの表面側に配置された前記曲げ治具とを互に引張するようにして、前記バイアス電極と前記駆動電極とが空気層を介して互に平行に相対向するように折り畳む折り畳み工程と、
前記折り畳まれた薄膜フィルムの山部および谷部の頂部に固定板を固定する固定工程とを備えたことを特徴とするフィルムスピーカの製造方法。
【請求項14】
前記固定工程の後に前記曲げ治具を取り除く曲げ治具除去工程を備えるようにしたことを特徴とする請求項13に記載のフィルムスピーカの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2007−274393(P2007−274393A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98281(P2006−98281)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】