説明

フィルムロールおよびその製造方法

【課題】巻きズレやブラックバンドの発生が抑制されたフィルムロールおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】幅手方向の両端にナーリング部を有するポリマーフィルム1が巻5芯の周囲に多層状に巻き取られてなるフィルムロールであって、該フィルムロールを幅手方向(TD)に対して垂直に二等分する断面において、ポリマーフィルム間に不活性ガスの層4を有し、該不活性ガス層の厚みdが平均で3.0〜5.0μmであるフィルムロール。幅手方向の両端にナーリング部を有するポリマーフィルムを巻芯の周囲に多層状に巻き取る工程において、巻き取られる直前のポリマーフィルムと巻芯の周囲に既に巻き取られた最外のポリマーフィルムとの間に不活性ガスを供給して該ポリマーフィルム間に不活性ガスを送り込むフィルムロールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリマーフィルムが巻芯の周囲に多層状に巻き取られてなるフィルムロールおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフィルムの連続生産後においては、製造されたポリマーフィルムを巻芯の周囲に多層状に巻き取ってフィルムロールを製造し、該フィルムロールを保存・保管するのが一般的である。そのようなフィルムロールにおいては、巻ズレの防止などを目的として、ポリマーフィルムの幅手方向の少なくとも一方の端部にナーリング部を形成することが知られている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、そのようなフィルムロールを保管した後、巻き解いてポリマーフィルムを使用する時、巻芯に比較的近いところでは、巻きによる圧力が比較的高かったため、フィルム同士が貼り着いてブラックバンドが形成されるという問題が生じていた。ブラックバンドとは、フィルム同士の貼着部が外観上、帯状に黒く見える現象である。ポリマーフィルムを光学フィルムのような要求性能の高い用途で使用する場合、ブラックバンドが形成されていた部分は当該要求性能を満たすものではなかった。特に、ポリマーフィルムに、バックコート層、ハードコート層、低屈折率層、高屈折率層等のコート層を設けた場合に、上記ブラックバンドの発生は顕著であった。
【特許文献1】特開2005−219272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、巻きズレやブラックバンドの発生が抑制されたフィルムロールおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、幅手方向の両端にナーリング部を有するポリマーフィルムが巻芯の周囲に多層状に巻き取られてなるフィルムロールであって、該フィルムロールを幅手方向に対して垂直に二等分する断面において、ポリマーフィルム間に不活性ガスの層を有し、該不活性ガス層の厚みdが平均で3.0〜5.0μmであることを特徴とするフィルムロールに関する。
【0006】
本発明はまた、幅手方向の両端にナーリング部を有するポリマーフィルムを巻芯の周囲に多層状に巻き取る工程において、巻き取られる直前のポリマーフィルムと巻芯の周囲に既に巻き取られた最外のポリマーフィルムとの間に不活性ガスを供給して該ポリマーフィルム間に不活性ガスを送り込むことを特徴とするフィルムロールの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ポリマーフィルムを巻芯の周囲に多層状に巻き取る工程において送り込まれた不活性ガスが、時間の経過によってもフィルムロールのフィルム間に有効に保持される。そのため、ブラックバンドの発生を有効に抑制できる。そのような本発明の効果は、ポリマーフィルムが光学フィルムである場合であっても、かつ/またはポリマーフィルムがコート層を有する場合であっても、有効に発揮され得る。
本発明によれば、フィルムロールにおける巻きズレを有効に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(フィルムロール)
本発明に係るフィルムロールは、ポリマーフィルムが巻芯の周囲に多層状に巻き取られてなり、当該ポリマーフィルム間に不活性ガスの層を有するものである。
【0009】
本発明のフィルムロールは、詳しくは図1(A)に示すようにポリマーフィルム1が巻芯5の周囲に多層状に巻き取られてなるフィルムロール10であり、図1(B)に示すように、ポリマーフィルム1間に不活性ガスの層4を有するものである。図1(A)は本発明のフィルムロールの一例の概略見取り図である。図1(B)は、図1(A)においてフィルムロール10を幅手方向TDに対して垂直に二等分する断面50を示す概略図と、その要部拡大図とを示すものである。
【0010】
本発明において不活性ガス層4の厚みdは、フィルムロール10を幅手方向に対して垂直に二等分する断面50(以下、単に垂直二等分断面という)において、平均で3.0〜5.0μmであり、巻きズレとブラックバンドの発生をより一層有効に抑制する観点から好ましくは3.1〜4.8μm、より好ましくは3.2〜4.0μmである。当該厚みdが小さすぎると、ブラックバンドの発生を有効に抑制できない。当該厚みdが大きすぎると、巻きズレが起こる。不活性ガス層4の厚みdが決定されるフィルムロールの垂直二等分断面は、フィルムロールに巻きズレが生じている場合、当該フィルムロールにおいて最も内側のポリマーフィルム層を幅手方向に対して垂直に二等分する位置での断面であればよい。
【0011】
不活性ガス層4は、フィルムロールの製造時において巻き込まれた不活性ガスがフィルム間で保持されて形成される層である。
【0012】
不活性ガス層4の厚みdは、加速試験後における不活性ガス層の厚みであり、以下の方法によって測定された値を用いている。
まず、フィルムロールの加速試験を行った後、当該フィルムロールを立体的に寸法について解析し、フィルムロールの垂直二等分断面50の画像を、デジタルカメラ(SONY社製)によって得る。加速試験では、フィルムロールに対して、室温(23℃)〜65℃までの昇温を21℃/日の昇温速度で2日間行い、その後65℃に保ち7日間静置し、更に21℃/日の降温速度で2日間かけて室温に戻す。
【0013】
次いで、当該垂直断面画像において、不活性ガス層4の厚みを算出する。詳しくは、図2に示すように、巻芯5を含むフィルムロール10の総断面積S(斜線領域と格子領域との和)、および巻芯5の断面積S(格子領域)を測定し、「S−S」を算出することによって、フィルムの断面積と不活性ガス層の断面積との和Sを得る。得られたSを、フィルムロール10を構成するフィルムの巻き取り長Lで除することによって、フィルムの厚みと不活性ガス層の厚みとの和dを得る。dからフィルムの厚みdを減じることによって、不活性ガス層の厚みd(d)を得る。フィルムの厚みdは、フィルムロールの垂直二等分断面の画像上の任意の10点の実測値の平均値である。
【0014】
不活性ガス層4の厚みは上記したようにフィルムロールの垂直二等分断面50における厚みであるので、後述するポリマーフィルム1が幅手方向両端に有するナーリング部の高さによって影響を受けない。
【0015】
不活性ガス層4を形成する不活性ガスは、フィルムロールにおいてフィルム間の貼着を防止できれば特に制限されず、例えば、空気、窒素、ヘリウム、またはそれらの混合ガスが挙げられる。製造コストを低減する観点からは、空気が好ましい。
【0016】
フィルムロール10を構成するポリマーフィルム1の巻き取り長は特に制限されず、1900〜5200m、特に1900〜3900mであることが好ましい。巻き取り長が長いほど、ブラックバンドが発生し易いが、本発明においてはそのような比較的長い巻き取り長でフィルムロールを製造しても、ブラックバンドは有効に抑制されるためである。
【0017】
ポリマーフィルム1の幅手方向長さは通常、1330〜1960mmであり、特に1330〜1490mmであることが好ましい。幅手方向長さが長いほど、ブラックバンドが発生し易いが、本発明においてはそのような比較的幅広のフィルムロールを製造しても、ブラックバンドは有効に抑制されるためである。
【0018】
ポリマーフィルム1の厚みは特に制限されず、通常は30〜100μm、特に30〜80μmであり、好ましくは40〜80μmである。当該厚みは、幅手方向両端にあるナーリング部間の領域における厚みであり、本明細書中、前記厚みdを用いている。
【0019】
ポリマーフィルム1は幅手方向両端にナーリング部を有するものであり、当該ナーリング部は、ポリマーフィルムの移動方向で連続的に凸部が形成されてなっている。ナーリング部における凸部のフィルム移動方向に対する垂直断面形状は、当該凸部がフィルム移動方向について連続的に形成されている限り特に制限されない。例えば、ナーリング部6は移動方向に対する垂直断面が、図3(A)に示すように、山形である凸部を移動方向について連続的に形成されてなってもよいし、図3(B)に示すように、四角形である凸部を移動方向について連続的に形成されてなってもよい。図3(A)〜図3(B)は、本発明の一実施形態におけるフィルムの幅手方向の一端の拡大断面図であり、移動方向に対して垂直な断面を示す。
【0020】
ポリマーフィルムがナーリング部を有さないか、または一端のみにナーリング部を有する場合、およびナーリング部の凸部がフィルム移動方向で間欠的に形成される場合、フィルムロールにおけるフィルム間での不活性ガスの保持が困難である。そのため、フィルムロールのいて不活性ガス層を有効に形成できず、上記不活性ガス層の厚みdを確保できない。
【0021】
ナーリング部(凸部)の高さhは、不活性ガス層の厚みdより大きい値であれば特に制限されず、通常は25〜35μmであり、好ましくは27〜32μmである。
ナーリング部の幅wは、巻きズレを抑制できる限り特に制限されず、通常は5〜20mmであり、好ましくは8〜15mmである。
【0022】
ナーリング部6は、図3(A)および図3(B)において、フィルムの上側の面のみに形成されているが、下側の面のみに形成されてもよいし、または両方の面に形成されてもよい。
【0023】
ナーリング部の形成方法としては特に制限されず、例えば、加熱したエンボスロールをフィルムの少なくとも両端部に押し当ててエンボスロール表面の形状を当該両端部に付与する方法、レーザー照射により両端部に付与する方法等が挙げられる。
【0024】
ナーリング部が形成されるポリマーフィルムは公知のポリマーからなるフィルムが使用可能である。特に、フィルムロールから巻き解かれたフィルムが光学フィルムとして使用される場合、ポリマーフィルムを構成するポリマーとしては、例えば、セルロース樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリイミド樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。好ましいポリマーフィルムはセルロース樹脂からなるフィルムである。
【0025】
セルロース樹脂は、セルロースエステルの構造を有するものであり、具体例として、例えば、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、及びセルロースフタレート等が挙げられる。これらの中で特に好ましいセルロース樹脂として、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートが挙げられる。セルロース樹脂は1種を単独で使用してもよいし、または2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0026】
ポリマーフィルムには紫外線吸収剤、可塑剤、無機金属酸化物等の添加剤が含有されていてもよい。
【0027】
ポリマーフィルムのガラス転移温度(以下、「Tg」という)は通常、150〜180℃であり、好ましくは155〜165℃である。
ポリマーフィルムのTgはポリマーフィルムに対してDSC8230(Rigaku社製)を適用することによって測定された値を用いている。
【0028】
ポリマーフィルムは公知のいかなる方法によって製造されてよく、例えば、いわゆる溶液流延法や溶融流延法等によって製造可能である。
【0029】
ポリマーフィルムは延伸処理されていてよく、例えば、搬送方向および幅手方向それぞれの方向で1.05〜1.5倍に延伸させたものを使用してもよい。
【0030】
ポリマーフィルムはコート層を有していてもよい。コート層を有すると、ブラックバンドが発生し易いが、本発明においてはコート層を有していても、ブラックバンドは有効に抑制されるためである。
【0031】
特にポリマーフィルムが光学フィルムとして使用される場合、当該ポリマーフィルムに形成され得るコート層として、例えば、いわゆるバックコート層、ハードコート層、反射防止層、液晶層等が挙げられる。コート層はポリマーフィルムの一方の面または両方の面に形成されてよい。
【0032】
巻芯5は、図1(B)に示すように、円筒形状を有してもよいし、または円柱形状を有していてもよい。巻芯の外径は特に制限されず、通常は70〜310mmであり、好ましくは160〜260mmである。巻芯5を構成する材料はフィルムロールの分野で公知の材料が使用可能であり、例えば、紙、FRP、ゴムが挙げられる。
【0033】
(フィルムロールの製造方法)
上記した本発明のフィルムロールは以下の方法によって製造できる。すなわち、幅手方向の両端にナーリング部を有する前記ポリマーフィルムを巻芯の周囲に多層状に巻き取る工程において、巻き取られる直前のポリマーフィルムと巻芯の周囲に既に巻き取られた最外のポリマーフィルムとの間に不活性ガスを供給する。
【0034】
詳しくは、図4に示すように、幅手方向の両端にナーリング部を有する前記ポリマーフィルム1を巻芯5の周囲に多層状に巻き取る工程において、巻き取られる直前のポリマーフィルム1aと巻芯の周囲に既に巻き取られた最外のポリマーフィルム1bとの間に不活性ガス12を供給して該ポリマーフィルム間に不活性ガス12を送り込む。ポリマーフィルム1が一方の面にナーリング部を有する場合、ポリマーフィルム1は、フィルムロール10においてナーリング部形成面が巻芯5と対向するように巻き取られてもよいし、または外側を向くように巻き取られても良い。
【0035】
不活性ガス12はポリマーフィルムの巻き取り開始点13に向けて供給されることが好ましく、その際における不活性ガス12の供給方向と、巻き取られる直前のフィルム1aとがなす角度θは0〜45°、特に0〜30°が好適である。
【0036】
不活性ガス12は不活性ガス供給手段20により供給される。不活性ガス供給手段20は、不活性ガスを供給することができれば特に制限されず、例えば、複数の供給口を備えた不活性ガス供給管が使用可能である。
【0037】
不活性ガス供給管の一例を図5に示す。図5において、不活性ガス供給管は、一端または両端より管内に導入された不活性ガスを、軸方向Kに並列して1列で設けられた複数の供給口21より管外に供給するものであり、軸方向Kについて均一な風速での供給が可能である。不活性ガス供給管は、当該軸方向Kがフィルム1の幅手方向と平行になるように配置される。
【0038】
不活性ガス供給手段20は、巻き取られる直前のポリマーフィルム1aと巻芯5の周囲に既に巻き取られた最外のポリマーフィルム1bとの間に、不活性ガス12をフィルムの幅手方向において略均一に供給できれば、1つの供給口からなる供給ノズルをフィルム幅手方向に複数個並べて用いても良い。
【0039】
フィルムロール10における前記不活性ガス層の厚みdは、フィルムロール製造時における不活性ガス12の風速V、ガス供給管20から巻き取り開始点13までの距離L、フィルム1が巻芯5に巻き取られるまでの張力F、フィルム1の巻き取り速度を調整することによって制御できる。
【0040】
例えば、風速Vを大きくしたり、距離Lを短くしたり、張力Fを小さくすると、不活性ガス層の厚みdは大きくなる。また例えば、風速Vを小さくしたり、距離Lを長くしたり、張力Fを大きくすると、不活性ガス層の厚みdは小さくなる。
【0041】
不活性ガス12の風速Vは通常0.8〜5.5m/秒であり、好ましくは1.5〜5.0m/秒である。
風速Vは、不活性ガス供給手段20から噴出した直後の不活性ガスの初期風速であり、当該噴出直後の不活性ガスを風速計で測定することによって測定できる。
【0042】
不活性ガス供給手段20から巻き取り開始点13までの距離Lは通常、10〜340mmであり、好ましくは25〜300mmである。
【0043】
フィルム1が巻芯5に巻き取られるまでの張力Fは通常、130〜450N/mであり、好ましくは190〜400N/mである。
【0044】
不活性ガス供給手段20により供給される不活性ガス12はイオン発生処理されていることが好ましい。イオン発生処理された不活性ガスを供給することにより、フイルムが帯びている静電気を除電して、その帯電量を低くすることができる。その結果、静電気に起因する異物故障の発生を防止することができる。
【0045】
イオン発生処理とは、不活性ガスにイオンを発生させる処理である。イオン発生処理の方法は、不活性ガスにイオンを発生させ、不活性ガスをイオン化できる限り、特に制限されず、例えば、複数の針型電極に高電圧を印加することで、電極周囲の不活性ガス(特に空気)をイオン化する方法が挙げられる。
【0046】
ポリマーフィルム1の巻き取り速度は、本発明の目的が達成される限り特に制限されず、通常は、5〜50m/minであり、好ましくは10〜30m/minである。
【0047】
(用途)
本発明のフィルムロールから巻き解かれたポリマーフィルムは、ブラックバンドの発生が十分に抑制されているので、光学フィルムとしての使用に適している。光学フィルムとして、例えば、視野角拡大フィルム、偏光板保護フィルム等が挙げられる。
【実施例】
【0048】
[実施例1]
長さ2600m、幅1.4m、膜厚80μmのセルロースエステルフィルムを以下に示す方法で作製した。次いで、透明長尺基材フィルムの一方の面における幅手方向両端に、以下に示す方法でナーリング部を設けた。次いで基材フィルムの他方の面に対して以下に示す方法でバックコート層を設けた。更に基材フィルムのナーリング部形成面に対して以下に示す方法でハードコート層を設けた後、反射防止層を設けた。これまでの工程はフィルムを巻き取ることなく、連続的に実施した。最後に、以下に示す方法で巻き取り工程を連続的に実施した。
【0049】
<セルロースエステルフィルムの作製>
セルローストリアセテート(アセチル基置換度2.9) 100質量部
トリフェニルホスフェイト 10質量部
ビフェニルジフェニルホスフェイト 2質量部
チヌビン326(チバスペシャルティケミカルズ(株)製) 0.5質量部
アエロジル R972V(日本アエロジル(株)製) 0.2質量部
メチレンクロライド 405質量部
エタノール 45質量部
以上の材料を密閉型の溶解釜に投入し、攪拌しながら70℃で完全に溶解し、冷却後、安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過してドープを得た。調製したドープをステンレスベルト上に流延した。ステンレスベルト上で、溶媒を蒸発させ、ステンレスベルト上からウェブを剥離した。剥離したウェブをテンター乾燥機に導入し、両端をクリップで把持して幅手方向に1.1倍延伸しながら80℃で乾燥させ、110℃、次いで125℃の各乾燥ゾーンを有するロール乾燥機内に配置された多数のロールを通して搬送させながら乾燥を行い、セルロースエステルフィルムを作製した。
【0050】
<ナーリング部の形成>
幅1.4mのセルロースエステルフィルムの一方の面における両端部に、加熱した所定のエンボスロールを押し当てて、ナーリング部を設けた。ナーリング部は、移動方向に対する垂直断面が図3(A)に示すような山形形状を有し、高さhが30.2μm、幅wが10mmであり、ポリマーフィルムの移動方向で連続的に形成されていた。
【0051】
<バックコート層の形成>
下記のバックコート層塗布組成物をフィルムの他方の面にウェット膜厚13μmとなるようにダイコートし、乾燥温度90℃にて乾燥させバックコート層を塗設した。
(バックコート層塗布組成物)
アセトン 30質量部
酢酸エチル 45質量部
イソプロピルアルコール 10質量部
ジアセチルセルロース 0.5質量部
超微粒子シリカ2%アセトン分散液(アエロジル200V) 0.2質量部
(日本アエロジル(株)製)
【0052】
<ハードコート層の形成>
フィルムのナーリング部形成面における両端のナーリング部間の領域に下記ハードコート層塗布組成物をダイコートし、80℃で5分間乾燥した後、160mJ/cm2の紫外線を照射し、下記反射防止層との乾燥膜厚の合計が5μmとなるようにハードコート層を設けた。
(ハードコート層塗布組成物)
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 70質量部
トリメチロールプロパントリアクリレート 30質量部
光反応開始剤 4質量部
(イルガキュア184(チバスペシャルティケミカルズ(株)製))
酢酸エチル 150質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 150質量部
シリコン化合物 0.4質量部
(BYK−307(ビックケミージャパン社製))
ハードコート層の鉛筆硬度を測定したところ3Hの硬度を示し、耐擦り傷性効果を示した。
【0053】
<反射防止層の形成>
前記ハードコート層上に反射防止層を形成した。詳しくはハードコート層の上に、下記中屈折率層用塗布液をバーコーターを用いて塗布し、60℃で乾燥の後、紫外線を照射して塗布層を硬化させ、中屈折率層(屈折率1.72)を形成した。その上に、下記高屈折率層用塗布液をバーコーターを用いて塗布し、60℃で乾燥の後、紫外線を照射して塗布層を硬化させ、高屈折率層(屈折率1.9)を形成した。更にその上に、下記低屈折率層用塗布液をバーコーターを用いて塗布し、60℃で乾燥の後、紫外線を照射して塗布層を硬化して低屈折率層(屈折率1.45)を形成した。その結果、上記3層からなる反射防止層を形成した。
【0054】
(中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層の形成)
(二酸化チタン分散物の調製)
二酸化チタン(1次粒子質量平均粒径:50nm、屈折率:2.70)30質量部、アニオン性ジアクリレートモノマー(PM21、日本化薬(株)製)4.5質量部、カチオン性メタクリレートモノマー(DMAEA、興人(株)製)0.3質量部及びメチルエチルケトン65.2質量部を、サンドグラインダーにより分散し、二酸化チタン分散物を調製した。
【0055】
(中屈折率層用塗布液の調製)
シクロヘキサノン151.9g及びメチルエチルケトン37.0gに、光重合開始剤(イルガキュア907、チバガイギー社製)0.14g及び光増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製)0.04gを溶解した。更に、上記の二酸化チタン分散物6.1g及びジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(DPHA、日本化薬(株)製)2.4gを加え、室温で30分間攪拌した後、孔径0.4μmのポリプロピレン製フィルターで濾過して、中屈折率層用塗布液を調製した。この塗布液をセルロースエステルフィルムに塗布乾燥し紫外線硬化後の屈折率を測定したところ、屈折率1.72、乾燥膜厚85nmの中屈折率層が得られた。
【0056】
(高屈折率層用塗布液の調製)
シクロヘキサノン1152.8g及びメチルエチルケトン37.2gに、光重合開始剤(イルガキュア907、チバガイギー社製)0.06g及び光増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製)0.02gを溶解した。更に、上記の二酸化チタン分散物及びジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(DPHA、日本化薬(株)製)の二酸化チタン分散物の比率を増加させ、高屈折率層の屈折率となるように量を調節して、室温で30分間攪拌した後、孔径0.4μmのポリプロピレン製フィルターで濾過して、高屈折率層用塗布液を調製した。この塗布液を、セルロースエステルフィルムに塗布、乾燥し紫外線硬化後の屈折率を測定したところ、屈折率1.9、乾燥膜厚68nmの高屈折率層が得られた。
【0057】
(低屈折率層用塗布液の調製)
平均粒径15nmのシリカ微粒子のメタノール分散液(メタノールシリカゾル、日産化学(株)製)200gにシランカップリング剤(KBM−503、信越シリコーン(株)製)3g及び0.1mol/L塩酸2gを加え、室温で5時間攪拌した後、3日間室温で放置して、シランカップリング処理したシリカ微粒子の分散物を調製した。分散物35.04gに、イソプロピルアルコール58.35g及びジアセトンアルコール39.34gを加えた。また、光重合開始剤(イルガキュア907、チバガイギー社製)1.02g及び光増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製)0.51gを772.85gのイソプロピルアルコールに溶解した溶液を加え、更に、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(DPHA、日本化薬(株)製)25.6gを加えて溶解した。得られた溶液67.23gを、上記分散液、イソプロピルアルコール及びジアセトンアルコールの混合液に添加した。混合物を20分間室温で攪拌し、孔径0.4μmのポリプロピレン製フィルターで濾過して、低屈折率層用塗布液を調製した。この塗布液をセルロースエステルフィルムに塗布、乾燥し紫外線硬化後の屈折率を測定したところ、屈折率は1.45、乾燥膜厚100nmであった。
【0058】
<巻き取り工程>
ナーリング部および各層の形成が完了したフィルム1を、図4に示すように、巻芯5の周囲に多層状に巻き取った。このとき、巻き取られる直前のフィルム1aと巻芯5の周囲に既に巻き取られた最外のフィルム1bとの間において、不活性ガス供給管20により、圧縮空気12をフィルムの巻き取り開始点3に向けて供給して、フィルム間に空気を送り込んだ。圧縮空気12の風速Vは0.8m/秒であり、圧縮空気12の供給方向と、巻き取られる直前のフィルム1とがなす角度θは15°であり、不活性ガス供給管20から巻き取り開始点13までの距離Lは200mmであった。フィルム1が巻芯5に巻き取られるまでの張力Fは400N/mであった。フィルム1は、ナーリング部形成面がロールの外側を向くように巻き取った。巻芯5は外径167mmで、FRP製の円筒形状を有するものを使用した。
【0059】
不活性ガス供給管20の概略見取り図を図5に示す。不活性ガス供給管20は、一端より管内に導入された圧縮空気を、軸方向Kに並列して1列で設けられた複数の供給口21より管外に供給するものであり、軸方向Kについて均一な風速での供給が可能である。不活性ガス供給管20は、開口径1.0mmの円形供給口2を250個有し、供給口1つ当たりの開口面積sが0.79mm、ピッチpが7.0mm、軸方向長さが1750mm、管の内径が12mmであった。不活性ガス供給管20は、当該軸方向Kがフィルム1の幅手方向と平行になるように配置された。圧縮空気はコロナ放電によりイオン発生処理されたものを不活性ガス供給管20内に導入した。
【0060】
<評価>
得られたフィルムロールを、巻きズレおよびブラックバンドについて評価した。
【0061】
(巻きズレ)
フィルムロールの巻きズレを測定した。例えば、図6に示すように巻きズレが生じた場合、フィルムロール10の巻きズレxを測定した。
○:xは1mm未満であった;
△:xは1mm以上、3mm未満であり、実用上問題がなかった;
×:xは3mm以上であり、実用上問題があった。
【0062】
(ブラックバンド)
得られたフィルムロールを、長期保管の加速試験に供した。詳しくはフィルムロールを、室温(23℃)〜65℃までの昇温を21℃/日の昇温速度で2日間行い、その後65℃に保ち7日間静置し、更に21℃/日の降温速度で2日間かけて室温に戻した。
加速試験したフィルムロールを巻き解いて、巻芯から約300mのフィルムを目視観察した。
○:変形なし;
△:若干変形あったものの、実用上問題がなかった;
×:変形あり、実用上問題があった。
【0063】
(巻き込み空気層の厚み)
得られたフィルムロールに対して、上記ブラックバンドの評価時における加速試験と同様の加速試験を行った。
加速試験したフィルムロールにおける巻き込み空気層の厚みdを前記した方法により測定した。
【0064】
[実施例2〜10/比較例1〜4]
ナーリング部の高さhを所定の値に調整したこと、巻き取り工程において、圧縮空気12の風速V、ガス供給管20から巻き取り開始点13までの距離L、フィルム1が巻芯5に巻き取られるまでの張力をそれぞれ所定の値に調整したこと以外、実施例1と同様の方法によりフィルムロールを製造し、評価を行った。
比較例1においてナーリング部は形成しなかった。
比較例2においてナーリング部はフィルムの幅手方向の一端のみに形成した。
【0065】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】(A)は本発明のフィルムロールの一例の概略見取り図であり、(B)は、(A)においてフィルムロールを幅手方向TDに対して垂直に二等分する断面の概略図と、その要部拡大図とを示す。
【図2】不活性ガス層の厚みの測定方法を説明するための概略断面図であり、フィルムロールを垂直に二等分する断面の概略図を示す。
【図3】(A)〜(B)は、本発明において使用される一実施形態におけるフィルムの幅手方向一端の拡大断面図であり、フィルム移動方向に対する垂直断面図を示す。
【図4】本発明に係るフィルムロールの製造方法を説明するための、フィルム幅手方向に対する垂直断面図である。
【図5】不活性ガス供給管の一例を示す概略見取り図である。
【図6】巻きズレの評価方法を説明するためのフィルムロールの概略見取り図である。
【符号の説明】
【0067】
1:ポリマーフィルム、1a:巻き取られる直前のポリマーフィルム、1b:巻芯の周囲に既に巻き取られた最外のポリマーフィルム、4:不活性ガス層、5:巻芯、6:ナーリング部、10:フィルムロール、12:不活性ガス、13:巻き取り開始点、20:不活性ガス供給手段、21:供給口、50:フィルムロールを幅手方向に対して垂直に二等分する断面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅手方向の両端にナーリング部を有するポリマーフィルムが巻芯の周囲に多層状に巻き取られてなるフィルムロールであって、該フィルムロールを幅手方向に対して垂直に二等分する断面において、ポリマーフィルム間に不活性ガスの層を有し、該不活性ガス層の厚みdが平均で3.0〜5.0μmであることを特徴とするフィルムロール。
【請求項2】
不活性ガスが空気、窒素、ヘリウム、またはそれらの混合ガスである請求項1に記載のフィルムロール。
【請求項3】
ポリマーフィルムがセルロース樹脂を含有する光学フィルムである請求項1または2に記載のフィルムロール。
【請求項4】
ポリマーフィルムがコート層を有する請求項1〜3のいずれかに記載のフィルムロール。
【請求項5】
ポリマーフィルムが幅手方向両端に有するナーリング部が、ポリマーフィルムの移動方向で連続的に形成されている請求項1〜4のいずれかに記載のフィルムロール。
【請求項6】
ポリマーフィルムの巻き取り長が1900〜5200mであり、幅手方向長さが1330〜1490mmであり、厚みが30〜100μmである請求項1〜5のいずれかに記載のフィルムロール。
【請求項7】
幅手方向の両端にナーリング部を有するポリマーフィルムを巻芯の周囲に多層状に巻き取る工程において、巻き取られる直前のポリマーフィルムと巻芯の周囲に既に巻き取られた最外のポリマーフィルムとの間に不活性ガスを供給して該ポリマーフィルム間に不活性ガスを送り込むことを特徴とするフィルムロールの製造方法。
【請求項8】
不活性ガスが不活性ガス供給手段により供給され、
不活性ガスの風速Vが0.8〜5.5m/秒であり、
不活性ガス供給手段からポリマーフィルムの巻き取り開始点までの距離Lが10〜340mmであり、
ポリマーフィルムが巻芯に巻き取られるまでの張力Fが130〜450N/mである請求項7に記載のフィルムロールの製造方法。
【請求項9】
不活性ガスが空気、窒素、ヘリウム、またはそれらの混合ガスである請求項7または8に記載のフィルムロールの製造方法。
【請求項10】
不活性ガスがイオン発生処理されている請求項7〜9のいずれかに記載のフィルムロールの製造方法。
【請求項11】
ポリマーフィルムがセルロース樹脂を含有する光学フィルムである請求項7〜10のいずれかに記載のフィルムロールの製造方法。
【請求項12】
ポリマーフィルムがコート層を有する請求項7〜11のいずれかに記載のフィルムロールの製造方法。
【請求項13】
ポリマーフィルムが幅手方向両端に有するナーリング部が、ポリマーフィルムの移動方向で連続的に形成されている請求項7〜12のいずれかに記載のフィルムロールの製造方法。
【請求項14】
ポリマーフィルムの巻き取り長が1900〜5200mであり、幅手方向長さが1330〜1490mmであり、厚みが30〜100μmである請求項7〜13のいずれかに記載のフィルムロールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−126326(P2010−126326A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304264(P2008−304264)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】