説明

フィロメデューサハイポコンドリアリスの皮膚分泌物から単離されたフィロセプチンファミリーの新規カチオン性ペプチド

【課題】カエル皮膚分泌物から単離されたフィロセプチンと同じアミノ酸配列および少なくとも同じ抗微生物活性を有する抗微生物性ペプチドの提供。
【解決手段】広範囲の抗微生物活性を持つペプチドであり、次式:


(式中、Xaal、Xaa2、Xaa3、Xaa4およびXaa5は各々独立に、疎水性アミノ酸、親水性の塩基性アミノ酸、または親水性の中性アミノ酸、但し、(i)Xaal、Xaa2およびXaa3が疎水性アミノ酸である場合、Xaa4は親水性の塩基性アミノ酸、そしてXaa5は親水性の中性アミノ酸であり;(ii)Xaa2、Xaa3およびXaa5が疎水性アミノ酸である場合、Xaalは疎水性アミノ酸又は親水性の中性アミノ酸、そしてXaa4は親水性の塩基性アミノ酸又は親水性の中性アミノ酸である)に定義されるペプチドと同じ酸配列、機能的に均等な配列、または同じ抗微生物活性を有する抗生ペプチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広範なグラム陰性菌およびグラム陽性菌、真菌ならびに原生動物に対する活性を持つ抗生ペプチドに関する。本明細書に開示された抗生ペプチドを含有する医薬組成物は、ヒトおよび動物の予防的及び治療的処置においてそれらの免疫系を抑制または害する状態下に使用されることに有用である。本発明のペプチドをベースとする組成物は、植物病原体増殖を妨害することにも有用である。
【背景技術】
【0002】
細菌および真菌ならびに植物病原体が含まれる他の生物は、すべての生物と共生するが、この事実を除くと、病原的感染は、自己防御メカニズムの有効性のために頻繁には起こらない。ヒトまたは動物身体および植物を侵す微生物は、幾らかの防衛メカニズムによる攻撃を受ける。
【0003】
宿主防御が病原的侵襲に対する有効なバリアーを欠く場合、抗生物質が使用され、殺菌剤、一般的には抗微生物性物質として機能させる。しかしながら、重い副作用のために異なる抗生物質が継続的に要求されており、そして、変異体微生物の出現が、長期間使用された抗生物質への耐性をもたらす。この点に関し、新しい抗生物質を開発するための試みは、微生物の第2代謝産物をスクリーニングすることにより、キノローン(quinolone)
のような公知の抗生物質の類縁体を合成することにより、あるいは植物および動物の細胞間防御メカニズムにより誘導された蛋白質またはペプチドを単離することにより行われてきた。
【0004】
事実上、宿主防御には、メカニカルおよび化学的な要因が含まれる。動物および植物の感染に対する化学的防御の一つは、抗微生物活性を有するペプチドの産生である。天然の両親媒溶解性ペプチドは、免疫物質としての決定的な役割ではないにしても、重要な役割を果たしており、一定の動物において幾らかの防御機能を有する。これらペプチドの機能は、原核および他の非宿主細胞を、細胞膜を崩壊させて細胞溶解を促進させることにより破壊することである。これら天然のペプチドの共通的特徴には、全体にわたる塩基性荷電、小さなサイズ(23〜39アミノ酸残基)、および両親媒性α−へリックスを形成する能力が含まれる。
【0005】
抗菌性ペプチドの多数の異なるファミリーであって、それらのアミノ酸配列および2次構造により分類されたものは、昆虫(Steiner, H.; Hltmark, D.; Engstrom, A; Bennich, H. & Boman, H.G.,1991. Nature.292, 246-248)、植物(Cammue,B.P.; De Bolle, M.F.; Terras, F.R.; Proost, P.; Van Damme, J.; Rees, S.B.; Vanderleyeden, J. and Brockaert, W.F. 1992. J. Biol. Chem. 267. 2228-2233)、哺乳動物(Nicolas, P. & Mor, A. .1995. Annu. Rev. Imunol. 49: 277-304)、および微生物(Boman, H.G. 1995. Annu. Rev. Imunol. 13: 61-92)から単離されてきた。
【0006】
セクロピン(Ceropin)、昆虫から単離されたシステイン含有デフェンシン(defensin
)およびサペシン(sapecin)は、抗菌性ペプチドの例であり、その標的部位はグラム陽
性細菌の脂質膜である(Kuzuhara, T. et al. 1990. J. Biochem. 107: 514-518)。研究は、バムビクス モリ(Bambix mori)から単離されたセクロピンBが細菌種に対する生物活性を有することを示した(Kadono-Okuda, K. Taniai, K., Kato, Y. Kotani, E. & Yamakawa, M. 1995. J. Invertebr. Pathol. 65, 309-310)。さらに、このペプチドは、
ライスのトランスジェニック植物において細胞間へ転移する時、植物ペプチダーゼによる
分解から保護されており、キサントマナス オリザエ(Xanthomanas oryzae) pv. オリ
ザエ感染に対する増強された耐性を与えることが報告された(Sharma, A.; Sharma, R.; Imamura, M.; Yamakawa, M. & Machii, H. 2000. FEBS. 484: 7-11)。
【0007】
アタシン(Attacin)、サルコトキシン(sarcotoxin)、デフテリシン(deftericin)
、コレオプテリシン(coleoptericin)、アピダエシン(apidaecin)、およびアバエシン(abaecin)は、他の抗菌性ペプチドであり、それらの標的は脂質膜である。これらペプチドは、GおよびPドメインを保持しており、グラム陰性細菌の細胞分化への影響を有する。特に、アタシンは、外膜タンパク質の合成を阻害することにより標的の細菌の外膜を崩壊させると報告されている。
【0008】
昆虫の上記抗菌性ペプチド以外に、両性類からも幾つかの抗生ペプチドが単離されている。実に他の動物としての両生類は抗微生物性ペプチドに富み(Zasloff, M. 1987. Proc. Natl. Acad. Sci. 89:5449-5453)、それらの多くは、マガイニン(magainin)(Daba,
H., Pandian, S., Gosselin, J.F. Simard, R.E., Huang, J. and Lacroix, C. 1991. Appli. Environ. Microbiol. 57, 3450-3455)、ボムビニン(bombinin)(Gibson, B.W, Tang, D., Mandrell, R., Kelly, M. and Spindel, E.R. 1991. J. Biol. Chem. 266, 23103-23111)、ブフォニン(bufonin)(Park, C.B., Kim, M.S. and Kim, S.C. (1996) Biochem. Biophys. Res. Comm. 218, 408-413)、デルマセプチン(dermaseptin)(Batista, C.V.C., Silva, L.R., Sebben, A., Scaloni, A., Ferrara, L., Paiva, G.R., Olamendi-Portugal, T., Possani, L.D. and Bloch, CJr. 1999. Peptides 20, 679-686)、およびデフェンシン(Kagan, B.L.et al. 1990. "Anti-microbial defensin peptides form voltage-dependent ion-permeable channels in planar lipid bilayer membranes. Proc Natl Acad Sci. USA. 87(l):210-214)のような両親媒性α−へリックス構造ペプチドのグループに属する。これらペプチドの殆どは、腺及び消化管から単離された。
【0009】
これら分子のすべては、それらの生合成、活性のメカニズム、微生物に対する活性、臨床用途の可能性を明らかにするため、鋭意研究の対象とされてきた。
抗微生物ペプチドの重要なクラスは、マガイニンとして知られるものである。Zasloff
(1987)によると、少なくとも5つのペプチドをアフリカツメガエル(Xenopus laevis)の皮膚から単離し得る。それら天然ペプチドは、細菌、真菌および原生動物が含まれる広範な微生物に対して活性である。その広い範囲の抗微生物活性は、合成ペプチドにおいて及びそれら天然のペプチドの或る端部欠損した類縁体においても存在する。そのようなクラスの幅広い生物活性ポリペプチドは、US5,643,876号に記載されている。これらペプチ
ドは、約2500Da以下の分子量を有し、高い水溶性、両親媒性且つ非溶血性である。またそれらは、約25アミノ酸で構成される実質的に純粋で相同なペプチドのクラスとして定義されている。
【0010】
US5,424,395号には、マガイニンIIから誘導され、植物内で抗微生物活性を示す、23ア
ミノ酸を持つ合成ペプチドが開示されている。US5,912,231号は、生物活性を持つマガイ
ニンIまたはマガイニンIIペプチドを含んでなり、少なくとも1つの置換が一定のアミノ
酸残基について他のアミノ酸残基でなされてもよい化合物を提供している。それら得られたペプチドは置換類縁体として知られている。好ましいペプチドは、15位および/または23位の少なくとも1つのアミノ酸残基の欠失または置換により得られるものである。
【0011】
US5,424,395号には、マガイニンIおよびマガイニンIIから誘導され、抗微生物活性を有する合成ペプチドが記載されている。それらペプチドは、23アミノ酸残基を有し、植物病原体の増殖を阻害することに有用である。
【0012】
US5,912,230号には、天然のヒスタチン(histatin)と同じ抗カンジダまたは抗菌活性
を有するが、それよりもサイズが小さい実質的に純粋なペプチドに基づく発明が開示されている。これらのペプチドは、部分決定された天然のヒトヒスチジンに富む唾液タンパク質(ヒスタチンと呼ばれる)のアミノ酸配列を代表する。
【0013】
デフェンシンは、システインおよびアルギニンに富む約3〜4KDaの比較的小さなポリペ
プチドである。抗微生物ペプチドの一つのクラスとして、デフェンシンは、幾つかの細菌、真菌およびウイルスに対する活性を有する。それらデフェンシンは、生物活性に必須である、システイン結合により安定化した分子コンフォメーションを有すると考えられている。
【0014】
US5,861,378号およびUS5,610,139号には、カブトガニ(horseshoe crab)血球から単離され、デフェンシンと類似するアミノ酸配列を有し且つその5S画分中に強い抗微生物活性を示すペプチド、並びにそれらを使用した組成物と医薬品が開示されている。またそれらは、グラム陽性及びグラム陰性細菌および真菌に対する有意な生理学的活性を示す1又はそれを越えるペプチドをコードするDNAを提供する。またUS5,610,139号は、1又はそれを越えるβ−ラクトールまたはクロラムフェニコール抗生物質と組合せで言及されたペプチドを含有する抗微生物組成物を提供し、これら組成物S.オレウス(aureus)感染に対して相乗的な抗菌効果を発揮する。
【0015】
US5,766,624号には、哺乳類の微生物感染の治療のためにデフェンシンを使用する方法
が提案されており、US5,821,224号は、ウシ好中球から得られた、抗微生物活性を持つ38
〜42アミノ酸のβ−デフェンシンを提供する。
【0016】
カテプシンG(Cathepsin G)は、キモトリプシン様活性を持つ粒状タンパク質であり
、キモトリプシン様カチオン性タンパク質としても知られている。カテプシンGと相同で
ある幾つかのポリペプチドはデフェンシンと呼ばれる。US5,798,336号には、抗微生物活
性を持つ様々なペプチドが提供されており、前記ペプチドの配列は、カテプシンG内のア
ミノ酸配列と関連付けられている。それらペプチドの幾つかは、決まった微生物に対してより効果的であることから特異性を示してはいるが、大抵それらはグラム陰性およびグラム陽性細菌の両者に対して効果的であった。これらペプチドを含有する医薬組成物は、感染の予防処置に有用であるとされる。
【0017】
ブフォホリン(buforin)と名付けられた別のタイプの抗微生物ペプチドは、アジアヒキガエル ブホ ブホ ガラグリザンス(Bufo bufo garagrizans)の胃組織から単離された。ヒストンH2Aから誘導された2つの分子、ブフォリンI及びブフォリンIIが同定され、それぞれ39アミノ酸及び21アミノ酸を持つ。これら分子は、異なる活性メカニズムを示し、ブフォリンIIはより強い抗微生物活性を持ち、細胞溶解させずに細菌を殺し、且つDNAおよびRNAについて高い親和力を示す。このことは、このペプチドの標的が核酸であり、細胞膜ではないことを示唆する(Park, C.B.; Yi, K.; Matsuzaki, K.; Kim, M.S..; Kim, S.C. 2000. PNAS. 97:8245-8250)。
【0018】
US5,877,274号は、バクトリシン(bactolysin)と呼ばれる新しいクラスのカチオン性ペプチドを提供し、これは、抗微生物活性を有し、且つリポ多糖体(LPS)で誘導される組織壊死因子(TNF)のレベルを有意に低下させる能力を有する。またこの文献では、治療的に有効量の該ペプチドを投与することにより細菌の増殖、内毒素血症または敗血症関連障害のいずれかを阻止する方法が提案されている。
【0019】
これら異なるペプチドタイプの各々は、配列と2次構造特徴により区別される。その配列に基づくだけでは、ペプチドの活性と形成されるであろう2次構造との両方を予想することは難しい(Hancock, R.E.W., and Chapple, D. S. 1999. Anti-microbial Agents and Chemotherapy. 43, 1317-1323)。
【0020】
ジスルフィド架橋を持たないそれらペプチドの殆どは、水中でランダムな構造を持ち、それらは、膜又は他の疎水性環境に結合するかあるいは自己会合した時に構造を形成する(Bello, L, Bello, H.R., and Granados, E. 1982. Biochemistry 21, 461-465; Falla,
T.L, Karunaratne, D.N., and Hancock, R.E.W. 1996. J. Biol. Chem. 271, 19298-19303)。例えば、セロピンおよびメリチン(mellitin)は、膜質環境において両親媒性アルファ−へリックスを要求するだけである。それらペプチドの2重カチオン性と疎水性の両方が、ペプチドと細菌膜のカチオン特性の部分との初期相互作用に重要であり、細菌外膜および細胞質膜との相互作用を促進するものであることが知られている(Hancock, R.E.W., Falla, T., and Brown, M.H. 1995. Adv. Microb. Physio. 37,135-175)。
【0021】
幾つかの仮説は、細胞溶解性ペプチドの活性のメカニズムについて示唆しており、それらの殆どは膜破壊に関与している。細胞溶解性ペプチドに誘導される膜ダメージがいかなるメカニズムであっても、両親媒性へリックス及び正電荷のような決められた2次コンフォメーションがそのペプチド誘発正溶解反応に加わるようになっている。
【0022】
膜結合は、ペプチド−膜の相互作用メカニズムの第1段階であり、それの決定基および駆動力についての知見は、そのメカニズム自体および原核生物特異性についての分子学的原因を理解するための前提条件である(Saberwal, G., and Nagaraj, R. 1994. Biochem.
Biophys. Acta 1197, 109-131)。正に荷電したペプチドは、負に荷電した膜に優先的に結合することが分かっており、それが原核生物特異性の主な理由である。その増強された親和性は、特異的脂質互作用ではなく、それらペプチドの負荷電膜表面への静電気的引力により引き起こされる(Westerhoff, H.V., Juretic, D., Hendler, R.W., and Zasloff,
M. (1989) Proc. NatL Acad. Sci. USA, 86,6597-6601)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】米国特許第5,643,876号明細書
【特許文献2】米国特許第5,424,395号明細書
【特許文献3】米国特許第5,912,230号明細書
【特許文献4】米国特許第5,861,378号明細書
【特許文献5】米国特許第5,610,139号明細書
【特許文献6】米国特許第5,798,336号明細書
【特許文献7】米国特許第5,877,274号明細書
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】Zasloff, M. 1987. Proc. Natl. Acad. Sci. 89:5449-5453
【非特許文献2】Daba, H., Pandian, S., Gosselin, J.F. Simard, R.E., Huang, J. and Lacroix, C. 1991. Appli. Environ. Microbiol. 57, 3450-3455
【非特許文献3】Gibson, B.W, Tang, D., Mandrell, R., Kelly, M. and Spindel, E.R. 1991. J. Biol. Chem. 266, 23103-23111
【非特許文献4】Park, C.B., Kim, M.S. and Kim, S.C. (1996) Biochem. Biophys. Res. Comm. 218, 408-413
【非特許文献5】Batista, C.V.C., Silva, L.R., Sebben, A., Scaloni, A., Ferrara, L., Paiva, G.R., Olamendi-Portugal, T., Possani, L.D. and Bloch, CJr. 1999. Peptides 20, 679-686
【非特許文献6】Kagan, B.L.et al. 1990. "Anti-microbial defensin peptides form voltage-dependent ion-permeable channels in planar lipid bilayer membranes. Proc Natl Acad Sci. USA. 87(l):210-214
【非特許文献7】Park, C.B.; Yi, K.; Matsuzaki, K.; Kim, M.S..; Kim, S.C. 2000. PNAS. 97:8245-8250
【非特許文献8】Hancock, R.E.W., and Chapple, D. S. 1999. Anti-microbial Agents and Chemotherapy. 43, 1317-1323
【非特許文献9】Bello, L, Bello, H.R., and Granados, E. 1982. Biochemistry 21, 461-465
【非特許文献10】Falla, T.L, Karunaratne, D.N., and Hancock, R.E.W. 1996. J. Biol. Chem. 271, 19298-19303
【非特許文献11】Hancock, R.E.W., Falla, T., and Brown, M.H. 1995. Adv. Microb. Physio. 37,135-175
【非特許文献12】Saberwal, G., and Nagaraj, R. 1994. Biochem. Biophys. Acta 1197, 109-131
【非特許文献13】Westerhoff, H.V., Juretic, D., Hendler, R.W., and Zasloff, M. (1989) Proc. NatL Acad. Sci. USA, 86,6597-6601
【発明の概要】
【0025】
本発明は、フィロメデューサ ハイポコンドリアリス(phyllomedusa hypochondrialis)、つまりブラジルアマゾン川流域に生息するカエルの一種の皮膚から単離された新規なクラスの抗微生物性ペプチドを開示する。それはフィロセプチン(phylloseptin)と命名され、それの構造は他の公知のペプチドとのいかなる相同性も示さなかった。
【0026】
発明の要旨
本発明は、フィロメデューサ ハイポコンドリアリスの皮膚から単離されたフィロセプチンと同じアミノ酸配列および少なくとも同じ抗微生物活性を有する抗微生物性ペプチドに関する。それらペプチドは、他の公知のペプチドとはいかなる構造的相同性を有しなかった。その19残基の抗微生物性ペプチドはカチオン性であり、且つそれら1次構造に基づき、すべてのペプチドが両親媒性α−へリックスに適合することができる。質量分析計により分析されたペプチド質量は、1.9〜2.0 kDaであった。本発明の好ましいペプチドには、それらのアミノ酸配列が配列番号1、配列番号2および配列番号3により定義されるフィロセプチンI、フィロセプチンIIおよびフィロセプチンIIIと命名されたペプチドが含まれる。
【0027】
これらペプチドの両親媒特性は、それらを脂質膜と結合させて正常な膜機能を崩壊させることを可能にするそれらの生物活性を増強するものであろう。しかしながら、有意な溶血活性はこれらペプチドについて見つかっておらず、真核生物膜を越えた原核生物についての選択性が示唆される。
【0028】
本発明の第1の態様は、次式:
【0029】
【化1】

【0030】
(式中、Xaal、Xaa2、 Xaa3、Xaa4およびXaa5は各々独立に、疎水性アミノ酸、親水性の塩基性アミノ酸、または親水性の中性アミノ酸であるが、但し、(i)Xaal、Xaa2およびXaa3が疎水性アミノ酸である場合、Xaa4は親水性の塩基性アミノ酸、そしてXaa5は親水性の中性アミノ酸であり;(ii)Xaa2、Xaa3およびXaa5が疎水性アミノ酸である場合、Xaalは疎水性アミノ酸又は親水性の中性アミノ酸、そしてXaa4は親水性の塩基性アミノ酸又は親水性の中性アミノ酸である)に定義されるペプチドと同じアミノ酸配列および少なくとも同じ抗微生物活性を有し、広範囲の抗微生物活性を持つ抗生ペプチドに関する。
【0031】
第2の態様は、標的細胞、例えば、真菌、細菌、原生動物の増殖を阻害するための組成物であって、(a)請求項1に定義されたような少なくとも1つの抗生ペプチド、および(b)許容され得る薬学的キャリアを含んでなる組成物に向けられている。
【0032】
第3の態様は、植物病原体を妨害するため及び病原体から植物を保護するための組成物であって、(a)請求項1に定義されたような少なくとも1つの抗生ペプチド、および(b)農学的に許容され得るキャリアを含んでなる組成物に関する。
【0033】
本発明の更なる態様は、ヒト、獣医学、または医薬用途に適する治療用組成物であって、本発明に示された1つ又はそれを越えるペプチドおよび適正な薬理学的キャリアを含んでなる組成物を提供することである。
【0034】
本発明の好ましいペプチドには、それらのアミノ酸配列が配列番号1、配列番号2および配列番号3によりそれぞれ定義されるフィロセプチン-I(PS I)、フィロセプチン-II(PS II)およびフィロセプチン-III(PS III)と命名されたペプチドが含まれる。
配列番号1:
【0035】
【化2】

【0036】
配列番号2:
【0037】
【化3】

【0038】
配列番号3:
【0039】
【化4】

【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、フィロメデューサ ハイポコンドリアリスの皮膚分泌の粗製抽出物のクロマトグラフィー図(A)、および再クロマトグラフ処理後のそれらペプチド、フィロセプチンI(PS1)、フィロセプチンII(PS2)(B)を示す。
【図2】図2は、フィロセプチンの螺旋輪状プロットおよびそれらの両親媒性構造を示す。
【図3】図3は、シュードモナス オルギノサの無傷な形態学的構造のAFM像を示す。
【図4】図4は、ペプチドPS Iでの処置により膜変性が起こったP. オルギノサの1つの細胞を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
発明の詳細な記載
本発明の明確で完全な理解を目的として、下記の用語を定義する。
“抗微生物性”とは、細菌、真菌、原生動物またはそれらに類したもののような微生物の増殖または増加を阻害、予防または破壊するペプチドのことをいう。
【0042】
“抗菌性”とは、本発明のペプチドと接触した時に、細菌の正常な生物学的機能に対して有害な効果(その細菌の増殖または増加の死滅又は破壊および予防を含む)を生じるペプチドを意味するために使用される。
【0043】
“抗生”とは、本発明のペプチドを接触させた時に、非宿主、組織または生物体の正常な生物学的機能にとって不都合なペプチドを意味する。
“抗真菌性”とは、真菌の増殖または増加を阻害、予防または破壊するペプチドを意味する。
【0044】
“抗寄生性”とは、寄生体の増殖または増加を阻害、予防または破壊するペプチドのことをいう。
医薬組成物の“抗感染的有効量”とは、本発明のペプチドに感受性のある感染の確立、増大、拡がりを阻止または予防するのに有効である医薬組成物のあらゆる量を意味する。
【0045】
“植物病原体”とは、植物に傷害および/または疾病を引き起こすことができる生物体を包含するもので、真菌、原核生物(細菌およびマイコプラズマ)、線虫、原生動物、およびそれらに類したものが含まれる。
【0046】
南アメリカのカエル、フィロメデューサの皮膚は、ペプチド分子の優れた供給源である(Bevins, C.L., Zasloff M. 1990. Annu. Rev. Biochem. 59, 295-414; Batista et al., 1999参照)。フィロメデューサ ハイポコンドリアリス(Anura, Hylidae)は、ブラジルのアマゾン流域に元来生息する樹上生活のカエルである。
【0047】
本発明は、フィロセプチンと名付けた新規なクラスの生物学的に活性なペプチドに関する。特に、この発明は、フィロメデューサ ハイポコンドリアリスの成体の皮膚から単離された、フィロセプチン-I(PS I)、フィロセプチン-II(PS II)およびフィロセプチン-III(PS III)と名付けられた3つの新規なペプチドを提供する。
【0048】
PS I、PS IIおよびPS IIIを同定し、特性付けるために、P. ハイポコンドリアリスからの皮膚分泌物全部の凍結乾燥した粗製抽出物の画分によりペプチドが単離された。そのような抽出物の成分を単離するために使用される技法は当業者に良く知られており、本発明の重要な特徴ではない。具体的に説明すると、PS I、PS IIおよびPS IIIの単離は、HPLCシステムにおいてセミプレパラティブVydac逆相クロマトグラフィーカラム、C18、10μ(10×250mm)への粗製抽出物の適用(各時点で5-mg等分)により行われた。ペプチドは、2重直線的勾配、0.1%TFA(トリフルオ酢酸)を含有する初期的に0%〜80%アセトニトリルを70分間、次いで80%〜100%の同じ溶剤を20分間使用して精製された。その実験は216 nmでモニターされ、分画が手作業で集められて凍結乾燥された。単離された分画はVydac 218 TP 54, C18, 5μ(0.46×25 cm)を使用することにより、0.1%TFAにおいてアセトニトリルの最適化勾配で60分かけて再クロマトグラフ化され、それらの精製物が質量分析計(MALDI/TOF)によりモニターされた。
【0049】
図1は、粗製抽出物のクロマトグラフィー図(A)、および再クロマトグラフ処理後のペプチド、フィロセプチンI(PS I)、フィロセプチンII(PS IIUI)(B)を示す。
それらの両親媒性構造を示すフィロセプチンの螺旋輪状プロットは図2に示される。このコンフォメーションにおいて、それら残基の疎水性値のペプチドバックボーンに沿った3.6残基/周期での周期的な変化は、α−へリックスを特徴付ける(Schiffer, M. and Edmunson, A.B. 1967 “Use of helical wheels to represent the structures of proteins and to identify segments with helical potential”. Biophys J. 7(2): 121-35)。
【0050】
本発明のカチオン性分子は溶液中で構造化しておらず、それらは、初期に細菌表面へそれらの表面上の負荷電種(リン脂質頭部)で静電気的相互作用により引きつけられる得る。そしてそれらは、疎水性部分を膜内へ脂質鎖と接触させて挿入し、他方、親水性部分上の極性又は荷電性残基をリン脂質のアニオン性頭部基および外部環境と接触させておくことにより、その膜表面で両親媒性α−へリックス構造をとる。こうして、それらは膜の外部リーフレット上にその表面に平行なそれらの軸で蓄積し、脱フォーメーションおよび細分化を引き起こす。
【0051】
本発明の抗生ペプチド配列は、その完全なペプチド鎖又はそれの特定部分(例えば、N-末端、C-末端、又は内部の螺旋領域)においてα-D-および/又はα-L-のいずれのアミノ酸残基により構成されていてもよい。
【0052】
19残基の抗微生物性ペプチドはカチオン性であり、それらの1次構造に基づき、3つのすべてのペプチドが両親媒性α−へリックスに適合することができる。質量分析計により分析されたペプチド質量は1.9〜2.0 kDaであった。
【0053】
これらペプチドは、広範囲のグラム陰性およびグラム陽性細菌および真菌に対して有効な活性を示した。しかし、有意な溶血活性はこれらのペプチドについて見つかっておらず、真核生物膜を越える原核生物についての選択性が示唆される。
【0054】
本明細書において使用される単離されたという用語は、例えば、タンパク質、脂質、核酸から実質的に遊離したペプチドを示す。当業者は、本発明のペプチドと同じ抗微生物活性を持つペプチドを達成するために類似の置換を行うことができる。
【0055】
本発明のペプチドは、公知の技術により生成されることができ、実質的に純粋な形態で得ることができる。例えば、それらペプチドは、手作業で合成されてもよいし、自動ペプチド合成装置上で合成されてもよい。ペプチドを遺伝子工学的技術により生成することもできる。特定のアミノ酸をコードするコドンは当業者に知られており、したがって、ペプチドをコードするDNAは、適切な技術により構築することができ、そのようなDNAを適切な発現媒体(例えば、プラスミドまたはファージ)内へクローニングして、ペプチドの発現に適した系へトランスフェクトすることができる。
【0056】
上述したように、本発明のペプチドは、グラム陽性およびグラム陰性細菌;真菌;原生動物;および動物(ヒトが含まれる)及び植物に有害な他の寄生体が含まれる複数の微生物に対して広範囲で強力な抗生活性を有する。
【0057】
動物予防的および治療的処置に関しては、本発明のペプチドは、宿主における創傷の治癒を促進するか又は刺激することに使用することができる。その創傷治癒は幾つかの側面に関与しており、限定はされないが、それには創傷の収縮の増加、結合組織の沈着の増加が含まれ、例えば、創傷内へのコラーゲンの沈着の増加、および創傷の引張強さの増強により明らかとなる通りである。要するに、本発明のペプチドは、免疫系が抑制されるか又は傷つけられた状態により引き起こされる創傷治癒の阻害を後退させるように働く。それらの創傷治癒活性には、外部火傷の治療および皮膚および火傷感染の治療及び/又は予防が含まれる。特に、それらペプチドは、P. オルギノサおよびS. オレウスのようなグラム陽性および/またはグラム陰性細菌により引き起こされる皮膚感染を治療することに使用することができる。
【0058】
また、本発明のペプチドは、P. オルギノサ、S. オレウスおよびN. ゴノロエア(gonorrhoeae)のような細菌、P. ブラジリエニス(braziliensis)、C. アルビカンス(albicans)およびA. フミガタス(fumigatus)のような真菌、A. カステラニ(castellani)のような寄生体、または原生動物により引き起こされ得る眼の感染に関する予防的および治療的特性を有する。
【0059】
本発明のペプチドまたはそれらの類縁体は、フィラー、無毒な緩衝剤または生理食塩水のような無毒な薬学的キャリアまたは賦形剤と組合せて投与することができる。そのような医薬組成物は局所的にも全身的にも使用することができ、液体、固体、半固体、注射可能な溶液、錠剤、軟膏、ローション、ペースト、カプセルまたはそれらに類したようなあらゆる適した形態であることができる。また、本発明のペプチド組成物は、補助剤、プロテアーゼ阻害剤、または適合性薬物と組合せて使用することができ、そのような組合せは、原生動物およびそれに類したものを含む病原性微生物ならびに寄生体により引き起こされる感染をコントロールするのに望ましい或いは有利であるとみられる。
【0060】
用途に依存して、本発明に従う組成物は、1つ又はそれを越える本発明のペプチドを抗微生物的な有効量、および/また抗真菌的な有効量、および/または抗寄生的な有効量、および/または抗生的な有効量で含有するであろう。
【0061】
本発明に開示されるペプチドは、抗微生物活性を有する他のペプチドを含有する組成物中に使用することができる。これらのペプチドの例は、Park, C.B. et al. “Structure- activity analysis of buforin II, a histone H2A-derived antimicrobial peptide: The proline hinge is responsible for the cell-penetrating ability of buforin II” PNAS. 97(15), pp. 8245-8250. 2000に言及されているもの、およびUS特許第5424395号、US特許第5912230号、US特許第5861378号、US特許第5610139号、US特許第5821224号、及びUS特許第5877274号に記載されているものである。
【0062】
投与形態については、本発明のペプチド組成物は、それらペプチドの標的細胞への直接的適用により投与することができるし、全身性投与を介して間接的に適用してもよい。
医薬組成物を動物へ投与する方法には、静脈内、動脈内、眼球内、腹膜内、筋肉内、鼻腔内、膣内、皮下、直腸、および局所的投与が含まれる。特定の医薬組成物のために選択される投与の様式は、当業者に良く知られているか十分に当業者の視野内にある数々の要因に依存し、過度の実験を要せずに決定されるであろう。これらには、処置対象、その年齢、大きさおよび総合的状態;投与される活性物質;および疾患、障害または処置される状態が含まれるが、これらに限定されない。
【0063】
典型的には、本明細書に提供されている医薬組成物の抗感染的な有効性は、その組成物が投与される動物の体重のkg当たり約0.1mgから約1000,0mgの1つ又はそれを越える本発明のペプチドを含有する量である。この範囲内で特定の動物に与えられる医薬組成物の量または用量は、当業者に良く知られている数々の要因に依存するであろう。特定の疾患、障害または示された状態のために投与される医薬組成物の特定量は、当業者に良く知られている方法、例えば、用量範囲試験により決定することができる。
【0064】
局所用組成物に使用される場合、それらペプチドは、概して少なくとも0.1 wt%の量で存在する。そのような医薬品において、2.0 wt%を越える量が一般的である。
筋肉内、静脈内、腹腔内ように全身性投与される組成物を使用する場合、本発明のペプチドは、少なくとも約5μg/mlの血清レベルのペプチドを達成する量で存在する。殆どの場合、その血清レベルは、500μg/mlを越える必要はない。そのような血清レベルは、1〜約100mg/kgの用量で全身性投与されるようにペプチドを組成物中に組込むことにより達成することができる。
【0065】
他の態様では、本発明のペプチドは、植物病原体を妨害するためおよび植物病原体から植物を保護するために有用である。外用において、それらペプチドは、約1〜約100μgの量の1つ又はそれを越える本発明のペプチドを含有する組成物を与えるダストとして適用されるために、溶液または懸濁液中に希釈されてもよいし、固体希釈物と混合してもよい。一般的な適用方法を特定の穀物および病原体に適合させるための詳しい方法は、Methods for evaluating pesticides for control of plant pathogens. Hickey, K.D., Ed., The American Phytopathological Society (St. Paul, Minn), 1986に開示されている。本発明のこの側面に従って特に有用であると予期される適用の方法には、植物全体またはそれらの一部分の断続的な水性及び非水性スプレー、種子コーティング、および灌漑システム中への含有(例えば、グリーンハウス、ミストベンチ)が含まれる。その製剤に添加することができる補助剤には、溶解を助けるための物質、湿潤剤および安定化剤、または微細封止カプセル化体を作るであろう物質が含まれる。
【0066】
本発明は、下記の通り実施例に関して更に説明されるが、それらよって本発明の範囲は限定されない。
【実施例】
【0067】
実施例1:ペプチド精製
カエル皮膚分泌物(粗製抽出物)は、ブラジルのアマゾン流域で捕獲されたフィロメデューサ ハイポコンドリアリスの成体標本から得られた。カエル分泌物は、P.ハイポコンドリアリスの皮膚顆粒腺の適度な電気的刺激により得られ、蒸留水中に粗製抽出物として採りたてのものが集められた。その抽出物は、ろ紙を通じて重力でろ過され、凍らして凍結乾燥させた(Centrivap Concentrador LABCONCO)。ペプチド分離は、HPCLシステムにおける粗製抽出物のセミプレパラティブVydac逆相クロマトグラフカラムC18, 10μ(10×250 mm)への適用(各時点で5-mg等分)により行われた。ペプチドは、2重直線勾配、0.1%TFA(トリフルオ酢酸)を含有する初期的に0%〜80%アセトニトリルを70分間、次いで80%〜100%の同じ溶剤を20分間使用することにより精製された。その実験は216 nmでモニターされ、分画が手作業で集められて凍結乾燥された。単離された分画はVydac 218 TP 54, C18, 5μ(0.46×25 cm)を使用することにより、0.1%TFAにおいてアセトニトリルの最適化勾配で60分かけて再クロマトグラフ化され、それらの精製物が質量分析計(MALDI/TOF)によりモニターされた。
【0068】
RP-HLPC精製後の.ハイポコンドリアリスの皮膚分泌物全体に対応するクロマトグラフプロファイルは、図1Aに示される。ピーク1〜7は本発明に含まれない他の生物活性分子に対応する。PS I(フィロセプチンI)はそのプロファイル上に直接示されており、そし
て、アスタリスク(*)でマークされた成分がPS IIおよびPS IIIの混合物に対応し、これらは挿入図1B上に示されるように別個に分離された。
【0069】
実施例2:分子量決定およびN末端アミノ酸配列決定
それら抗微生物性ペプチドの分子質量は、MALDI-TOF(Matrix-Assisted Laser Desorption / Ionization - Time Of Flight)質量分析計により決定された。個々のペプチドはVoyager DE-STR MALDI-TOF質量分析計(PerSeptive Biosysterns)内で質量分析された。蒸留水中に溶解させた約5 pmolの凍結乾燥ペプチドをα-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸の飽和溶液と混合した。その実験は、モノアイソトープ分析(resolution)のためのリフレクターモード下で行われた。データはGRAMS V. 4.30(Galactic software)を使用して処理された。すべてのスペクトルは、Sequazyme PerSeptive Biosystems分子質量標準を使用してクローズ内部検量線で得られた。
【0070】
アミノ酸配列決定は、PPSQ-23プロテイン ペプチド シークエンサーSHIMADZU上で自動化エドマン分解法により行われ、配列間のペア化および複数配列アライメントはCLUSTAL V マルチプル シークエンス アライメント ソフトウエアを使用することにより決定された。
【0071】
【表1】

【0072】
実施例3:溶血アッセイ
25歳の健康男性からのヒト赤血球(血液型O)を各実験前に採りたてのものを用意した。溶血活性はAboudy et al(Aboudy, Y., Mendelson, E., Shalit, L, Bessalle, R., Fridikin, M. 1994. Int. J. Peptide Protein Res. 43, 573-582)に記載されるように(若干変更して)アッセイした。採れたばかりの赤血球(方法論に関してはGibson, B. W., Tang, D., Mandrell, R., Kelly, M. and Spindel, E. R. 1991. J. Biol. Chem 266, 23103-23111.21を参照されたい)の3ミリリットルを等張リン酸緩衝化生理食塩水(PBS),pH 7.4で上清の色が透明に変わるまで洗浄した。次いで、洗浄した赤血球を同じ緩衝液中に20 mlの最終容量まで希釈した。試料(10μl)を含有する細胞懸濁液(190μl)の等分をPBS中に段階的に希釈し、37℃で30分間インキュベートし、次いで、4000×gで5分間遠心分離した;100μlの上清をとり、1.0 mlまでPBSで希釈し、567 nmでモニターした。0.2% Triton X-100で処理した細胞懸濁液と比較したその相対的な光学濃度を%溶血性として定義した。
【0073】
フィロセプチンI及びIIの溶血活性は、異なる濃度で試験された。それらの結果を表2
に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
実施例4:抗微生物アッセイ
微生物;大腸菌(エシェリシア コリ)ATTC 25922、シュードモナス オロギノサATTC
27853、スタフィロコッカス オレウス(Staphylococus aureus)ATTC 25923およびエンテロコッカス ファエカリス(Enterococcus faecalis)ATTC 29212およびP. オロギノサのブラジル株を抗微生物アッセイのために使用した。
【0076】
それら微生物を37℃で静止培地内で培養した。細菌はトリプシン ソイ ブロス(TSB)
内で増殖した。バイオアッセイは、Bulet et al (Bulet, P., Dimarcq, J. L., Hetru, C., Lagueux, M., Charlet, M., Hegy, G., VanDorsselaer, A. and Hoffimann, J. A. 1993. J. Bial. Chem. 268, 14893-14897により記載されるようにして、液体増殖阻害アッセイローン(liquid growth inhibition assay lawn)により行われた。フィロセプチンIの分子を滅菌した蒸留脱イオン水中に溶解し、TSB(OXIOD England)ブロス中に8倍希釈した。様々な濃度のPS I溶液を最大128μg/mlにして試験した。初期接種物は約1×105コロニー形成ユニット(CFU)/ml、検出限界は102 CFU/mlであった。最終容量は250μl(水中の25μlのペプチドテスト、TBS中の25μlの接種物および200μlのTSBブロス)である。最少阻止濃度(MIC)は、すべての微生物を37℃で静止培地中で増殖させた20時間後に濁度(595 nmでのOD)について測定された。増殖が起こらなかったペプチドの最少濃度をMICとして定義した。
【0077】
幾つかのグラム陽性およびグラム陰性細菌に対する単離されたフィロセプチンIの最少
阻止濃度(MIC)は、Park et al (Park, C. B., Kim, M. S., and Kim, S. C. 1996. 218
Biochem. Biophys. Res. Commun. 408-413)に記載されるようにして決定された。増殖の目に見える抑制を示した抗微生物ペプチドの最少濃度をMICとして定義した。すなわち、
その最少阻止濃度は、培地内での20時間インキュベーション後の100 %の微生物増殖阻害
を生じるペプチド濃度として定義した。それらの結果を表3に示す。
【0078】
【表3】

【0079】
実施例5:原子間力顕微鏡によるペプチド誘発膜変性の測定
この実験に使用された原子間力顕微鏡(AFM)は、TopoMetrix 2000 Explorer(TopoMetrix, Santa Clara, Calif., U.S.A)であり、接触様式および大気下で操作された。50ミクロン角の最大走査域を持つ圧電性ハイブリッドチューブスキャナーを使用した。集積ピラミッド型チップを持つ標準的200ミクロンV形Si3N4カンチレバーを使用した。チップの標本表面への接触力についての見かけのスプリング定数は0.00 nAに設定した。ライン走査速度は20μm/sに設定した。シュードモナス オルギノサATTC 27853を本実験に使用した。その株を栄養ブロス内で37℃で約12時間培養した。その細菌を集めて150 mM KCl / 20 mM MgCl2 / 10 mM Tris-HCl, pH 7.8に懸濁した。その細菌の懸濁液中の濃度を濁度による約4×108細菌/mlに調整した。その細菌懸濁液を割りたてのマイカ上に置き、空気乾
燥させた。そのマイカを標本ホルダー上に2面接着テープで固定し、次いで、AFM観察のためにスキャナーの頂部上に据え付けた。
【0080】
AFMは、材料(Lacava, B. M, Azevedo, R. B, Silva, L. P, Lacava, Z. G. M, Skeff Neto, K, Buske, N., Bakuzis, A. F, and Morais, P. C. 2000. Applied Physics Letter 77 (12): 1876-1878)および細菌表面特性を同定するための有用なツールであると考えられる生物試料を研究するために広く使用されている。またAFMは、決められた生理学的条件下で操作し、トポグラフ表面を検出することにも使用されている(Braga, P. C, and Ricci, D. 1998. Anti-microbial Agents and Chemotherapy 42 (1):18-22)。
【0081】
P. オルギノサの細胞膜への効果がAFM下で試験された。図4は無傷な細菌の撮像を示し、図5にはペプチドにより処置されたP. オルギノサの1つの細胞が示される。ペプチド
は細菌に添加され、抗微生物アッセイと同じ条件下で4時間インキュベートされた。その
MICで、P. オルギノサの表面上に溝が進展し、細菌増殖の阻害は細菌膜の破壊と関与しているはずであることが示された。
(配列表)
【0082】
【表4】

【0083】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
広範囲の抗微生物活性を持つ抗生ペプチドであって、次式:
【化1】

(式中、Xaal、Xaa2、 Xaa3、Xaa4およびXaa5は各々独立に、疎水性アミノ酸、親水性の塩基性アミノ酸、または親水性の中性アミノ酸であるが、但し、(i)Xaal、Xaa2およびXaa3が疎水性アミノ酸である場合、Xaa4は親水性の塩基性アミノ酸、そしてXaa5は親水性の中性アミノ酸であり;(ii)Xaa2、Xaa3およびXaa5が疎水性アミノ酸である場合、Xaalは疎水性アミノ酸又は親水性の中性アミノ酸、そしてXaa4は親水性の塩基性アミノ酸又は親水性の中性アミノ酸である)に定義されるペプチドと同じアミノ酸配列または機能的に均等な配列および少なくとも同じ抗微生物活性を有する抗生ペプチド。
【請求項2】
前記疎水性アミノ酸Xaa1、Xaa2およびXaa3がそれぞれAla、IleおよびAlaであり;親水
性の塩基性アミノ酸Xaa4がLysであり;親水性の中性アミノ酸Xaa5がAsnである、請求項1による抗生ペプチド。
【請求項3】
前記疎水性アミノ酸Xaa2、Xaa3およびXaa5がそれぞれLeu、ValおよびPheであり;Xaa1
がThrであり;Xaa4がHisである、請求項1による抗生ペプチド。
【請求項4】
前記疎水性アミノ酸Xaa2、Xaa3およびXaa5がそれぞれLeu、AlaおよびGlyであり;疎水
性アミノ酸Xaa1がAlaであり;親水性の中性アミノ酸Xaa4がAsnである、請求項1による抗生ペプチド。
【請求項5】
前記完全なポリペプチド鎖またはそれの特定部分が、α-D-およびα-L-アミノ酸残基の双方を含んでなる、請求項1による抗生ペプチド配列。
【請求項6】
前記完全なポリペプチド鎖またはそれの特定部分が、α-D-またはα-L-アミノ酸残基のいずれかを含んでなる、請求項1による抗生ペプチド配列。
【請求項7】
標的細胞の増殖を阻害するための組成物であって、(a)請求項1に規定される少なくと
も1つの抗生ペプチド、(b)場合により、抗微生物活性を有する1つ又はそれを越えるペ
プチド、および(c)許容される薬学的キャリアを含んでなる組成物。
【請求項8】
ヒト、獣医学または医薬の用途に適した、請求項7による組成物。
【請求項9】
植物病原体を妨害するためおよび植物を病原体から保護するための組成物であって、(a)請求項1に規定される少なくとも1つの抗生ペプチド、および(b)農学的に許容されるキャリアを含んでなる組成物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−185039(P2009−185039A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82410(P2009−82410)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【分割の表示】特願2003−515550(P2003−515550)の分割
【原出願日】平成14年7月26日(2002.7.26)
【出願人】(504034998)
【出願人】(504033614)フンダシオ・ユニバーシダッド・デ・ブラジリア−ユー・エヌ・ビー (1)
【Fターム(参考)】