説明

フェノールを製造するための触媒の製造方法および該製造方法で得られる触媒ならびにフェノールの製造方法

【課題】本発明の目的は、ベンゼンからフェノールを効率よく製造するための触媒の製造方法と該触媒を用いたフェノールの製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、レニウムと、白金およびパラジウムから選択される少なくとも1種とが金属酸化物に担持されてなる触媒を製造する方法であって、メチルトリオキソレニウムを含有する溶液および金属酸化物を用いた含浸処理により、レニウムが担持された金属酸化物を得る工程を有することを特徴とする、ベンゼンを酸素で酸化することによりフェノールを製造するための触媒の製造方法である。また、本発明は、前記触媒を用いたフェノールの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンゼンを酸素で酸化することによりフェノールを製造するための触媒の製造方法および該製造方法で得られる触媒ならびにフェノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゼンを原料とするフェノールの工業的な製造方法は、ベンゼンとプロピレンとからクメンヒドロキシペルオキシドを経てフェノールを得る方法(クメン法)が専ら用いられている。この方法は、併産されるアセトンとの需給バランスの問題や、三段階プロセスであるために経済的に非効率である問題がある。他方、トルエンを酸化してフェノールにする方法(トルエン法)も行われていたが、トルエンの価格高騰により経済的に有利な方法ではなくなってきている。このような中で、副生物がなく、ベンゼンから直接フェノールが得られる方法が求められている。
【0003】
ベンゼンから直接フェノールを得る方法としては、酸化剤に分子状酸素を使用する方法のほかに、分子状酸素以外の酸化剤を使用する方法および酸化剤と還元剤とを化学量論的に併用する方法が知られている。
【0004】
酸化剤として分子状酸素を使用する方法は、以下のような触媒を用いる方法が提案されている。
(a)Pd(OAc)2/ヘテロポリ化合物触媒(100℃);ベンゼン転化率6%、フェノール選択率64%(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
(b)CuH/ZSM−5触媒(400℃);フェノール収率0.8%(例えば、特許文献1参照)。
(c)V4Mo8Z/SiO2触媒(550℃);ベンゼン転化率33.5%、フェノール選択率7.9%(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、分子状酸素による直接酸化では、ビフェニル等のベンゼン重合物やフェノールの逐次酸化物(カテコール、ピロガロール等)などが副生する。したがって、極端な低転化率の条件でなければフェノールの高い選択率は得られず、到底実用に供されるものではなかった。
【0007】
非特許文献2には、ゼオライト細孔中に固定化したレニウムからなる触媒およびアンモニアの共存下、ベンゼンを酸素と反応させることにより、高い選択率でフェノールを生成できることが報告されている。この触媒はH−ZSM−5に昇華性錯体であるメチルトリオキソレニウムを化学蒸着後、アンモニア処理することで得られる。前記反応は気相接触法により行われ、反応管に前記触媒を所定量充填後、不活性ガス流通下、所定の温度で活性化処理した後、ベンゼンおよび酸素をアンモニアと共に所定の比率で触媒層に流通させることにより行われる。しかしながら、触媒の製造において、化学蒸着法という特殊な方法が必要である上、該触媒を用いたフェノールの製造方法によっても、ベンゼンの転化率が低く、未だ充分ではなかった。
【0008】
本発明者らは、さらに、レニウムとH−ZSM−5等の金属酸化物とからなる触媒に白金等の第10族の金属を複合化させることにより、ベンゼン転化率を一層高めることができることをすでに見出している(特願2008−98460)。しかしながら、その触媒性能は工業的なフェノール製造の見地からは改善の余地が残されていた。
【0009】
また、特殊な酸化剤を使用する方法としては、高価な亜酸化窒素や過酸化水素を使用する方法が報告されている(例えば、非特許文献3、4参照)。しかしながら、これら特殊な酸化剤は、生成するフェノールに対して等モル量必要であり、汎用化学品として大量生産が期待されるフェノール製造法としては経済的に成り立たず、現在までに実用化に至っていない。
【0010】
一方、フェノールの製造方法において、還元剤を併用する方法としては、H2を併用する方法(例えば、特許文献3参照)、COを併用する方法(例えば、特許文献4参照)が知られている。しかしながら、逐次反応のためにフェノールの選択率が低い上、H2が大量の水として消費される問題、安全性上の問題(COの毒性やO2およびH2の混合物による爆発の危険性)などから実用化に至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−212112号公報
【特許文献2】特開2000−327612号公報
【特許文献3】特開平07−179383号公報
【特許文献4】特開昭62−292738号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】J. Mol. Catal. A: Chemical, 185, 285-290(2002)
【非特許文献2】Angew. Chem. Int. Ed., 45, 448-450 (2006)
【非特許文献3】Applied Catal. A:General, 244, 11-17 (2003)
【非特許文献4】Angew. Chem. Int. Ed., 42, 4937-4940 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、ベンゼンからフェノールを効率よく製造するため触媒の製造方法と該製造方法で得られる触媒ならびに該触媒を用いたフェノールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、レニウムと、白金およびパラジウムから選択される少なくとも1種とが金属酸化物に担持されてなる触媒を製造する際に、メチルトリオキソレニウムを含有する溶液および金属酸化物を用いた含浸処理により、レニウムが担持された金属酸化物を得る工程を有することにより、高ベンゼン転化率および高フェノール選択率でベンゼンからフェノールを効率よく製造するための触媒を得ることができることを見出し、本発明に到達した。
【0015】
即ち、本発明の、ベンゼンを酸素で酸化することによりフェノールを製造するための触媒の製造方法は、レニウムと、白金およびパラジウムから選択される少なくとも1種とが金属酸化物に担持されてなる触媒を製造する方法であって、メチルトリオキソレニウムを含有する溶液および金属酸化物を用いた含浸処理により、レニウムが担持された金属酸化物を得る工程を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の、ベンゼンを酸素で酸化することによりフェノールを製造するための触媒の製造方法は、メチルトリオキソレニウムを含有する溶液および金属酸化物を用いた含浸処理により、レニウムが担持された金属酸化物を得る工程を行い、続いて前記レニウムが担持された金属酸化物を乾燥する工程を行い、白金およびパラジウムから選択される少なくとも1種を、レニウムが担持された金属酸化物に担持する工程を行うことが好ましい。
【0017】
また、本発明の、ベンゼンを酸素で酸化することによりフェノールを製造するための触媒の製造方法は、白金およびパラジウムから選択される少なくとも1種を、金属酸化物に担持する工程を行い、続いてメチルトリオキソレニウムを含有する溶液および金属酸化物を用いた含浸処理により、レニウムが担持された金属酸化物を得る工程を行うことが好ましい。
【0018】
白金およびパラジウムから選択される少なくとも1種は白金であることが好ましい。
本発明の触媒は、上記製造方法で得られる、ベンゼンを酸素で酸化することによりフェノールを製造するための触媒である。
【0019】
本発明のフェノールの製造方法は、前記触媒の存在下で、ベンゼンを酸素で酸化する製造方法である。該製造方法は、アンモニアの存在下で行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ベンゼンからフェノールを、高選択的かつ高転化率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の、ベンゼンを酸素で酸化することによりフェノールを製造するための触媒の製造方法は、レニウムと、白金およびパラジウムから選択される少なくとも1種とが金属酸化物に担持されてなる触媒を製造する方法であって、メチルトリオキソレニウムを含有する溶液および金属酸化物を用いた含浸処理により、レニウムが担持された金属酸化物を得る工程を有することを特徴とする。
【0022】
本発明のベンゼンを酸素で酸化することによりフェノールを製造するための触媒の製造方法の好ましい態様としては、以下の二つの態様が挙げられる。
第一の好ましい態様のベンゼンを酸素で酸化することによりフェノールを製造するための触媒の製造方法としては、メチルトリオキソレニウムを含有する溶液および金属酸化物を用いた含浸処理により、レニウムが担持された金属酸化物を得る工程を行い、続いて前記レニウムが担持された金属酸化物を乾燥する工程を行い、白金およびパラジウムから選択される少なくとも1種を、レニウムが担持された金属酸化物に担持する工程を行うことを特徴とする。
【0023】
第二の好ましい態様のベンゼンを酸素で酸化することによりフェノールを製造するための触媒の製造方法としては、白金およびパラジウムから選択される少なくとも1種を、金属酸化物に担持する工程を行い、続いてメチルトリオキソレニウムを含有する溶液および金属酸化物を用いた含浸処理により、レニウムが担持された金属酸化物を得る工程を行うことを特徴とする。
【0024】
金属酸化物に担持される、白金およびパラジウムから選択される少なくとも1種は白金であると、レニウムと複合化して得られる触媒の活性が高くなる傾向がある。
従来、メチルトリオキソレニウムを用いた担持方法としては、メチルトリオキソレニウムの高い昇華性を活かして化学蒸着法(CVD法)が多用されている。
【0025】
本発明の触媒の製造方法では、メチルトリオキソレニウムを含有する溶液および金属酸化物を用いた含浸処理により、レニウムが担持された金属酸化物を得る工程を有する。該工程を工程(A)とも記す。該工程においては、メチルトリオキソレニウムを溶媒に溶解させて得られる、メチルトリオキソレニウムを含有する溶液および金属酸化物を用いた含浸処理により、レニウムを金属酸化物に担持して、レニウムが担持された金属酸化物を得る。
【0026】
メチルトリオキソレニウムを溶解させる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールや、エチルエーテルなどのエーテルを例示することができ、メチルトリオキソレニウムを溶解できるものであれば制限はない。このうち、エタノールを溶媒として用いると、レニウムを金属酸化物に高分散で担持できるため、高活性な触媒が得られる傾向がある。
【0027】
メチルトリオキソレニウムを含有する溶液および金属酸化物を用いた含浸処理の方法は、メチルトリオキソレニウムを含有する溶液を金属酸化物に浸み込ませることができれば、メチルトリオキソレニウムを含有する溶液に金属酸化物を加える方法で行ってもよく、金属酸化物にメチルトリオキソレニウムを含有する溶液を加える方法で行ってもよい。
【0028】
メチルトリオキソレニウムを含有する溶液および金属酸化物を用いた含浸処理の具体的な方法としては、従来公知の含浸法を用いることができ、ポアフィリング法、インシピエント・ウェットネス(incipient wetness)法、平衡吸着法、蒸発乾固法、噴霧乾燥法などを例示することができる。このうち、蒸発乾固法による含浸法は、用いるレニウムの全量を担持することができる点、操作が簡便である点で好ましい。
【0029】
また、前記金属酸化物は、触媒担体として知られるアルミノシリケートが適しており、ゼオライトがより好適である。前記ゼオライトの具体例としては、X型、Y型、L型、モルデナイト、フェリエライト、ベータ型、ZSM−5などが挙げられる。中でもZSM−5が好適である。
【0030】
前記ゼオライトのシリカ/アルミナ比(SiO2/Al23モル比)は、特に制限されないが、1〜200であることが好ましく、1〜100であることがより好ましく、1〜50であることが特に好ましい。
【0031】
前記ゼオライトのカチオン種は、特に制限されないが、アンモニウム(NH4+)型あるいはプロトン(H+)型ゼオライトを触媒製造の原料として用いると、好適な結果が得られる。
【0032】
前記金属酸化物に担持するレニウムの量は、特に限定はされないが、金属酸化物100wt%に対して、0.001〜20wt%であることが好ましく、0.01〜10wt%であることがさらに好ましい。
【0033】
前記金属酸化物に担持する、白金およびパラジウムから選択される少なくとも1種の量は、金属酸化物100wt%に対して、0.001〜20wt%であることが好ましく、0.01〜10wt%であることがさらに好ましい。
【0034】
金属酸化物の形状は特に制限は無く、球状、円柱状、リング状、多孔柱状、押し出し状、破砕状いずれでもよく、またその粒子の大きさも、0.01mm〜100mmの範囲のもので反応器の大きさに応じ選定すればよい。
【0035】
前記第一の好ましい態様のベンゼンを酸素で酸化することによりフェノールを製造するための触媒の製造方法としては、前記工程(A)を行った後に、続いて前記レニウムが担持された金属酸化物を乾燥する工程を行う。該工程を工程(B)とも記す。工程(B)においては、前記レニウムが担持された金属酸化物を乾燥し、メチルトリオキソレニウムを溶解させた溶媒を蒸発させて除去する。
【0036】
乾燥温度は、メチルトリオキソレニウムの分解温度(およそ300℃)よりも低い温度であればよく、150℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましい。また、乾燥する工程は、通常、空気中、常圧下で行われるが、メチルトリオキソレニウムを分解したり昇華させたりせずに溶媒を蒸発させることができる条件であれば、ヘリウム、窒素などの不活性ガス中で行ったり、減圧下で行ってもよい。
【0037】
前記第一の好ましい態様のベンゼンを酸素で酸化することによりフェノールを製造するための触媒の製造方法としては、工程(B)を行った後に、白金およびパラジウムから選択される少なくとも1種を、レニウムが担持された金属酸化物に担持する工程を行う。該工程を工程(C)とも記す。工程(C)により、レニウムと白金およびパラジウムから選択される少なくとも1種とが担持された金属酸化物を得ることができる。
【0038】
白金およびパラジウムから選択される少なくとも1種を、レニウムが担持された金属酸化物に担持する方法としては、従来公知のいずれの方法も用いることができ、ポアフィリング法、インシピエント・ウェットネス(incipient wetness)法、平衡吸着法、蒸発乾固法、噴霧乾燥法などの含浸法や、物理混合法、沈殿法、混錬法、沈着法、イオン交換法、および化学蒸着法等を例示することができる。このうち、蒸発乾固法による含浸法やイオン交換法は、操作が簡便でかつ均一な金属分散性が得られ好適である。
【0039】
白金およびパラジウムから選択される少なくとも1種を、レニウムが担持された金属酸化物に担持する際に用いる白金源およびパラジウム源は以下のとおりである。
前記白金源としては、白金単体であってもよく、白金化合物であってもよい。
【0040】
前記白金化合物としては、本発明の目的を阻害しなければ特に制限がなく、例えば、塩化白金、塩化白金酸、塩化白金酸水和物、臭化白金、酸化白金、白金アセチルアセトネート、ジアンミン白金硝酸塩、ジニトロジアンミン白金、ジアンミン白金ジクロリド、ジアンミンテトラクロロ白金、テトラアンミンジクロロ白金、ジクロロテトラアンミン白金、テトラアンミン白金ジクロライド、テトラアンミン白金硝酸塩、水酸化テトラアンミン白金、テトラアンミン白金酸テトラクロロ白金、テトラクロロ白金酸、テトラクロロ白金酸アンモニウム、テトラクロロ白金酸カリウム、ヘキサヒドロキソ白金酸、ヘキサクロロ白金酸、ヘキサクロロ白金酸アンモニウム、ヘキサクロロ白金酸ナトリウム、ヘキサクロロ白金酸カリウム、ヘキサブロモ白金酸等を挙げることができる。
【0041】
前記パラジウム源としては、パラジウム単体であってもよく、パラジウム化合物であってもよい。
前記パラジウム化合物としては、本発明の目的を阻害しなければ特に制限がなく、例えば、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、酢酸パラジウム、酸化パラジウム、水酸化パラジウム、ジニトロジアンミンパラジウム、ジアンミンパラジウム硝酸塩、ジアンミンジクロロパラジウム、テトラアンミンパラジウムジクロライド、テトラアンミンパラジウム硝酸塩、テトラアンミンパラジウム酢酸塩、テトラアンミンパラジウムジブロミド、アンモニウムテトラクロロパラジウム、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、テトラクロロパラジウム酸カリウム、アンモニウムヘキサクロロパラジウム、ヘキサクロロパラジウム酸カリウム、パラジウムアセチルアセトナート、水素化パラジウム、酸化パラジウム等を挙げることができる。
【0042】
第二の好ましい態様のベンゼンを酸素で酸化することによりフェノールを製造するための触媒の製造方法としては、白金およびパラジウムから選択される少なくとも1種を、金属酸化物に担持する工程を行う。該工程を工程(C’)とも記す。工程(C’)は、前記工程(C)におけるレニウムが担持された金属酸化物を、金属酸化物に置き換える以外は、前述の工程(C)と同様に行うことができる。
【0043】
第二の好ましい態様のベンゼンを酸素で酸化することによりフェノールを製造するための触媒の製造方法としては、工程(C’)を行い、続いて前記工程(A)を行う。なお、第二の好ましい態様のベンゼンを酸素で酸化することによりフェノールを製造するための触媒の製造方法における、工程(A)としては、金属酸化物として、前記工程(C’)で得られる白金およびパラジウムから選択される少なくとも1種が担持された金属酸化物を用いる。
【0044】
このため、第二の好ましい態様のベンゼンを酸素で酸化することによりフェノールを製造するための触媒の製造方法における、工程(A)で得られるレニウムが担持された金属酸化物は、レニウムと白金およびパラジウムから選択される少なくとも1種とが金属酸化物に担持されている。
【0045】
なお、第二の好ましい態様のベンゼンを酸素で酸化することによりフェノールを製造するための触媒の製造方法においては、工程(C’)と工程(A)との間に、白金およびパラジウムから選択される少なくとも1種が担持された金属酸化物を、乾燥あるいは焼成してもよい。白金およびパラジウムから選択される少なくとも1種が担持された金属酸化物を乾燥あるいは焼成する条件は特に制限されない。
【0046】
また、第二の好ましい態様のベンゼンを酸素で酸化することによりフェノールを製造するための触媒の製造方法においては、工程(A)の後に、レニウムと白金およびパラジウムから選択される少なくとも1種とが担持された金属酸化物を、公知の方法により乾燥してもよい。乾燥温度は、メチルトリオキソレニウムが分解したり昇華したりしないことが肝要であり、上述の工程(B)と同様、例えば、空気中、常圧下であれば、150℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましい。
【0047】
本発明の触媒は、ベンゼンを酸素で酸化することによりフェノールを製造するための触媒であり、前記ベンゼンを酸素で酸化することによりフェノールを製造するための触媒の製造方法で得られる触媒である。本発明の触媒を用いると、高ベンゼン転化率および高フェノール選択率で、ベンゼンからフェノールを効率よく製造することができる。
【0048】
本発明のフェノールの製造方法は、前記触媒の存在下で、ベンゼンを酸素で酸化する。該方法により、従来よりも高ベンゼン転化率および高フェノール選択率で、ベンゼンからフェノールを効率よく製造することができる。
【0049】
本発明のフェノールの製造方法においては、当該触媒は、前処理して用いることが好ましい。前処理の具体的な方法としては、例えば、前記触媒を酸素雰囲気下、300〜500℃の温度で0.5〜2時間処理する方法、前記触媒を酸素雰囲気下、300〜500℃の温度で0.5〜2時間処理し、引き続き、アンモニア雰囲気下、200〜500℃の温度で0.5〜2時間処理する方法などを挙げることができる。このうち、前記触媒を酸素雰囲気下、300〜500℃の温度で0.5〜2時間処理し、引き続き、アンモニア雰囲気下、200〜500℃の温度で0.5〜2時間処理する方法が好適に用いられる。アンモニア雰囲気下での処理においては、純アンモニアを用いてもよく、不活性ガスで希釈したアンモニアを用いてもよい。アンモニア雰囲気下での処理温度は、より好ましくは250〜350℃、特に好ましくは260〜300℃である。
【0050】
本発明のフェノールの製造方法は、前記触媒の存在下、ベンゼンに酸素を直接付加させる酸化反応により行われる。前記酸化反応は、気相接触法で実施されることが好ましい。また、酸素としては特に制限はないが、分子状酸素であることが好ましい。反応器は特に制限されず、固定床、流動床での実施が可能である。
【0051】
前記酸化反応の反応温度は50〜700℃であり、好ましくは100〜600℃である。前記酸化反応の反応圧力は0.01〜100MPaであり、好ましくは0.05〜10MPaである。
【0052】
前記酸化反応における触媒の使用割合は、特に限定されないが、例えば、反応を固定床流通装置により行う場合、ベンゼンの時間あたりの供給量(ガスとしての体積)を触媒の重量で割った値、即ちGHSVで示すと、好ましくは0.01〜500,000 ml− ベンゼン/g−cat/h、より好ましくは0.1〜300,000ml− ベンゼン/g−cat/hである。
【0053】
前記酸化反応における酸素の使用割合は、ベンゼン1モル当たり0.01〜50モルであり、好ましくは0.1〜10モルである。
本発明のフェノールの製造方法は、アンモニアの存在下で行うことが好ましい。この場合、アンモニアの使用割合はベンゼン1モル当たり0.001〜200モルであり、好ましくは0.01〜100モルである。
【0054】
前記酸化反応において、ベンゼン、酸素およびアンモニアからなる反応ガスは、そのままの混合ガスとして用いてもよく、さらに、窒素、ヘリウム、アルゴンガス等の不活性ガスで希釈して用いてもよい。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
[実施例1]
NH4−ZSM−5(3.0g、SiO2/Al23=30)およびメチルトリオキソレニウム(CH3ReO3)(0.201g)のエタノール溶液(0.20mol/L)を用いて含浸処理し、得られた固体を80℃で6時間乾燥した。乾燥して得られた固体および[NH34Pt(NO32 (0.119g)の水溶液(0.77mol/L)を用いて含浸処理し、得られた固体を80℃で6時間乾燥し、レニウムおよび白金を含む触媒A(5wt%Re−2wt%Pt)を得た。
【0057】
触媒A(1.0g)を反応器に充填し、酸素流通下、500℃、2時間、続いて、NH3/He混合ガス(NH3=25%)流通下、280℃、2時間、前処理を行った。
ベンゼン/酸素/アンモニア=1.0/2.0/5.5(モル比)の混合ガスをGHSV=72ml−ベンゼン/g−cat/hで流通させ、0.1MPa、260℃で反応を行った。反応ガスはサンプリングしてガスクロマトグラフにより分析した。ベンゼン転化率38%、選択率96%でフェノールが生成していた。
【0058】
[比較例1]
NH4−ZSM−5(3.0g、SiO2/Al23=30)およびNH4ReO4(0.216g)の水溶液(0.28mol/L)を用いて含浸処理し、得られた固体を80℃で6時間乾燥した。乾燥して得られた固体および[NH34Pt(NO32 (0.119g)の水溶液(0.77mol/L)を用いて含浸処理し、得られた固体を80℃で6時間乾燥し、レニウムおよび白金を含む触媒a(5wt%Re−2wt%Pt)を得た。
触媒Aの代わりに触媒aを用いた以外は、実施例1と同様にして反応を行った。ベンゼン転化率2%、選択率79%でフェノールが生成していた。
【0059】
[実施例2]
NH4−ZSM−5の代わりにH−ZSM−5(SiO2/Al23=30)を用いた以外は実施例1と同様にして、レニウムおよび白金を含む触媒B(5wt%Re−2wt%Pt)を得た。
触媒Aの代わりに触媒Bを用いた以外は実施例1と同様にして反応を行った。ベンゼン転化率34%、選択率93%でフェノールが生成していた。
【0060】
[実施例3]
NH4−ZSM−5(3.0g、SiO2/Al23=30)およびメチルトリオキソレニウム(CH3ReO3)(0.201g)のエタノール溶液(0.20mol/L)を用いて含浸処理し、得られた固体を80℃で6時間乾燥した。乾燥して得られた固体を、[NH34Pt(NO32 (0.149g)を含む水溶液(0.077mol/L)に加え、80℃で12時間攪拌してイオン交換し、ろ過、水洗した。その後、80℃で6時間乾燥し、レニウムおよび白金を含む触媒C(5wt%Re−2.5wt%Pt)を得た。
触媒Aの代わりに触媒Cを用いた以外は実施例1と同様にして反応を行った。ベンゼン転化率18%、選択率77%でフェノールが生成していた。
【0061】
[実施例4]
NH4−ZSM−5(3.0g、SiO2/Al23=30)を、[NH34Pt(NO32 (0.119g)を含む水溶液(0.077mol/L)に加え、80℃で12時間攪拌してイオン交換した。その後、ろ過、水洗し、80℃で6時間乾燥した。乾燥して得られた固体およびメチルトリオキソレニウム(CH3ReO3)(0.201g)のエタノール溶液(0.20mol/L)を用いて含浸処理し、得られた固体を80℃で6時間乾燥して、レニウムおよび白金を含む触媒D(5wt%Re−2wt%Pt)を得た。
【0062】
触媒D(1.0g)を反応器に充填し、酸素流通下、500℃、2時間、続いて、NH3/He混合ガス(NH3=25%)流通下、280℃、2時間、前処理を行った。
ベンゼン/酸素/アンモニア=1.0/2.0/5.5(モル比)の混合ガスをGHSV=72ml−ベンゼン/g−cat/hで流通させ、0.1MPa、260℃で反応を行った。反応ガスはサンプリングしてガスクロマトグラフにより分析した。ベンゼン転化率26%、選択率94%でフェノールが生成していた。
【0063】
[実施例5〜9]
[NH34Pt(NO32 を含む水溶液およびメチルトリオキソレニウム(CH3ReO3)のエタノール溶液の使用量を変えることによって、担持させるレニウムおよび白金の量を変えた以外は、実施例4と同様にして、表1に示す触媒E、F、G、H、Jを得た。これらの触媒を用い、実施例1と同様にして反応を行った。結果を合わせて表1に示した。
【0064】
【表1】

[実施例10〜12]
NH3/He混合ガス(NH3=25%)を流通させる温度を、表2に示す温度に変えた以外は、実施例4と同様にして反応を行った。結果を合わせて表2に示した。
【0065】
【表2】

[実施例13]
NH3/He混合ガスのNH3濃度を、25%から50%に変えた以外は実施例4と同様にして反応を行った。ベンゼン転化率20%、選択率94%でフェノールが生成していた。
【0066】
[実施例14]
NH3/He混合ガスによる前処理時間を、2時間から1時間に変えた以外は実施例4と同様にして反応を行った。ベンゼン転化率20%、選択率93%でフェノールが生成していた。
【0067】
[実施例15]
NH3/He混合ガスによる前処理を行わなかった以外は実施例4と同様にして反応を行った。ベンゼン転化率28%、選択率95%でフェノールが生成していた。
【0068】
[実施例16]
[NH34Pt(NO32 に変えて[NH34Pd(NO32 を用いた以外は実施例1と同様にして、レニウムおよびパラジウムを含む触媒K(5wt%Re−2wt%Pd)を得た。
触媒Aの代わりに触媒K(1.0g)を用いた以外は実施例1と同様にして反応を行った。ベンゼン転化率13%、選択率85%でフェノールが生成していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レニウムと、白金およびパラジウムから選択される少なくとも1種とが金属酸化物に担持されてなる触媒を製造する方法であって、
メチルトリオキソレニウムを含有する溶液および金属酸化物を用いた含浸処理により、レニウムが担持された金属酸化物を得る工程を有することを特徴とする、ベンゼンを酸素で酸化することによりフェノールを製造するための触媒の製造方法。
【請求項2】
メチルトリオキソレニウムを含有する溶液および金属酸化物を用いた含浸処理により、レニウムが担持された金属酸化物を得る工程を行い、続いて前記レニウムが担持された金属酸化物を乾燥する工程を行い、白金およびパラジウムから選択される少なくとも1種を、レニウムが担持された金属酸化物に担持する工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の、ベンゼンを酸素で酸化することによりフェノールを製造するための触媒の製造方法。
【請求項3】
白金およびパラジウムから選択される少なくとも1種を、金属酸化物に担持する工程を行い、続いてメチルトリオキソレニウムを含有する溶液および金属酸化物を用いた含浸処理により、レニウムが担持された金属酸化物を得る工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の、ベンゼンを酸素で酸化することによりフェノールを製造するための触媒の製造方法。
【請求項4】
白金およびパラジウムから選択される少なくとも1種が白金であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の、ベンゼンを酸素で酸化することによりフェノールを製造するための触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の、ベンゼンを酸素で酸化することによりフェノールを製造するための触媒の製造方法で得られる触媒。
【請求項6】
請求項5に記載の触媒の存在下で、ベンゼンを酸素で酸化する、フェノールの製造方法。
【請求項7】
アンモニアの存在下で行うことを特徴とする、請求項6に記載のフェノールの製造方法。

【公開番号】特開2010−207688(P2010−207688A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55354(P2009−55354)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】