説明

フェライト、フェライト焼結体及び複合積層型電子部品

【課題】低温焼成が可能であると共に、高い比抵抗を得ることが可能なフェライトを提供する。
【解決手段】主成分として酸化鉄、酸化マンガン、及び酸化亜鉛を含有するフェライトであって、酸化鉄、酸化マンガン、酸化亜鉛及び酸化銅の含有量の合計に対し、酸化鉄の含有量はFe換算で45.0〜49.5mol%であり、酸化マンガンの含有量はMn換算で0.1〜2.0mol%であり、酸化亜鉛の含有量はZnO換算で47.0〜54.9mol%であり、酸化銅の含有量はCuO換算で2.0mol%以下であり、酸化ホウ素の含有量はB換算で0.02〜0.5質量%である、フェライト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフェライト、フェライト焼結体及び複合積層型電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ機器には、ノイズの発生防止、外部からのノイズの侵入防止のために、回路基板の入出力部や回路内に積層型バリスタ、インダクタ(フェライトチップ)及びコンデンサチップ等が組み込まれている。
【0003】
しかし、積層型バリスタ、インダクタ及びコンデンサチップ等の部品を回路基板に設けた場合、これらの部品が基板面積を多く占有してしまい、実装スペースが大きくなってしまう。また、部品点数が増えることによりコストアップしてしまう傾向がある。
【0004】
このような問題に対応するため、各素子チップを互いに接合させた状態で一体化焼結させた複合部品を作製して回路基板に設置することによって、部品点数を減らすとともに部品をコンパクトにして実装スペースを削減することが試みられている。
【0005】
ところで、インダクタの素地材料として、従来から磁性又は非磁性のZn系フェライトが用いられている(例えば、特許文献1参照)。非磁性のZn系フェライトを用いた場合、インダクタ構造は、いわゆる空芯コイルを有することとなる。このような空芯コイルを構成するインダクタは、芯体が非磁性であるためにコイルを多く巻く必要があるが、より高い周波数領域まで良好なインダクタ特性を示すという長所がある。
【0006】
また、Zn系フェライトとして、低温焼成(例えば900℃程度)を可能にするために、Cu−Zn系フェライトが提案されている。ところが、上述のような複合部品を作製する場合、Cu−Zn系フェライトを用いたインダクタと、バリスタとを一体化焼結すると、インダクタ素地となるCu−Zn系フェライトに含まれるCu成分がバリスタ側に拡散移行して、バリスタ特性が劣化しまう。このような現象を回避するために、Cuの含有量が低減されたZn系フェライトが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−306718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のようにZn系フェライトのCu含有量を低減すると、インダクタの素地材料の焼結密度を向上させるためにはフェライトの焼成温度を高くする必要がある。しかしながら、インダクタの導体部がAgやAg−Pd合金等の金属材料により形成されている場合には、焼成温度を高くすると、導体部が劣化してしまう傾向がある。そのため、Cu含有量を低減すると共に、低温焼成(例えば900℃程度)が可能なフェライトが求められている。
【0009】
一方で、インダクタの素地材料としては、比抵抗の大きなフェライトが求められている。これは、フェライトの比抵抗が小さいと、積層チップインダクタの製造工程において不具合が生じる場合があるためである。上述の特許文献1に記載のフェライトは、Fe成分及びMn成分を多く含むため、比抵抗が小さいと考えられる。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、低温焼成が可能であると共に、高い比抵抗を得ることが可能なフェライト、並びに、かかるフェライトからなるフェライト焼結体、及び、かかるフェライトからなる素体を有する複合積層型電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、主成分として酸化鉄、酸化マンガン、及び酸化亜鉛を含有するフェライトであって、酸化鉄、酸化マンガン、酸化亜鉛及び酸化銅の含有量の合計に対し、酸化鉄の含有量はFe換算で45.0〜49.5mol%であり、酸化マンガンの含有量はMn換算で0.1〜2.0mol%であり、酸化亜鉛の含有量はZnO換算で47.0〜54.9mol%であり、酸化銅の含有量はCuO換算で2.0mol%以下であり、酸化ホウ素の含有量はB換算で0.02〜0.5質量%である、フェライトを提供する。
【0012】
このようなフェライトは、低温焼成が可能であると共に、高い比抵抗を得ることが可能である。かかる効果が得られる理由としては、例えば次の要因が挙げられる。本発明のフェライトは、特定量の酸化ホウ素を含有しているため、低温焼成により十分に高い焼結密度を有する焼結体を得ることができる。また、所定量の酸化マンガンを含むことにより、比抵抗を高くすることが可能である。なお、効果が得られる理由は上述の要因に限定されるものではない。
【0013】
また、本発明のフェライト焼結体は、上記フェライトからなる。
【0014】
本発明のフェライト焼結体は、上記特徴を有するフェライトからなるため、低温焼成が可能であると共に、高い比抵抗を得ることが可能である。
【0015】
また、本発明の複合積層型電子部品は、インダクタ素体及び該インダクタ素体の内部に配置された電極を有するインダクタ素子部と、バリスタ素体及び該バリスタ素体の内部に配置された電極を有するバリスタ素子部と、が直接又は接合中間層を介して接合されており、インダクタ素体及び接合中間層の素体の少なくとも一方は、上記フェライトからなる。
【0016】
本発明の複合積層型電子部品は、インダクタ素体及び接合中間層の素体の少なくとも一方が上記特徴を有するフェライトからなるため、低温焼成が可能であると共に、高い比抵抗を得ることが可能である。また、酸化銅の含有量が十分に低減されていることにより、Cu成分のバリスタ素子部への拡散を十分に低減し、バリスタ特性を良好に維持することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、低温焼成が可能であると共に、高い比抵抗を得ることが可能であるフェライト、並びに、かかるフェライトからなるフェライト焼結体、及び、かかるフェライトからなる素体を有する複合積層型電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態のフェライト焼結体を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態のフェライトを用いた積層型フィルタをその一部を切り欠いて示す斜視図である。
【図3】図2に示す積層型フィルタの素体部分を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0020】
本実施形態のフェライトは、主成分として酸化鉄、酸化マンガン、及び酸化亜鉛を含有する。なお、主成分とはフェライトの主な結晶相となる成分である。また、本実施形態のフェライトは、任意成分として酸化銅を含有していてもよい。更に、本実施形態のフェライトは、上記主成分の他に、副成分として酸化ホウ素を含有する。
【0021】
酸化鉄の含有量は、酸化鉄、酸化マンガン、酸化亜鉛及び酸化銅の含有量の合計に対して、Fe換算で45.0〜49.5mol%であり、45.5〜49.5mol%であることが好ましく、45.5〜49.0mol%であることがより好ましく、46.0〜49.0mol%であることが更に好ましい。酸化鉄の含有量が49.5mol%を超えると、焼結体の焼結密度及び比抵抗が低下し、45.0mol%未満であると、焼結体の比抵抗が低下する。
【0022】
酸化マンガンの含有量は、酸化鉄、酸化マンガン、酸化亜鉛及び酸化銅の含有量の合計に対して、Mn換算で0.1〜2.0mol%であり、0.2〜2.0mol%であることが好ましく、0.5〜2.0mol%であることがより好ましく、0.8〜1.5mol%であることが更に好ましい。酸化マンガンの含有量が2.0mol%を超えると、焼結体の焼結密度及び比抵抗が低下し、0.1mol%未満であると、焼結体の比抵抗が低下する。
【0023】
酸化亜鉛の含有量は、酸化鉄、酸化マンガン、酸化亜鉛及び酸化銅の含有量の合計に対して、ZnO換算で47.0〜54.9mol%であり、47.0〜54.0mol%であることが好ましく、49.5〜54.0mol%であることがより好ましい。酸化亜鉛の含有量が54.9mol%を超えると、焼結体の比抵抗が低下し、47.0mol%未満であると、焼結体の焼結密度及び比抵抗が低下する。
【0024】
本実施形態のフェライトは、任意成分である酸化銅を全く含有していなくてもよい。フェライトが酸化銅を含有する場合、酸化銅の含有量は、酸化鉄、酸化マンガン、酸化亜鉛及び酸化銅の含有量の合計に対して、CuO換算で0を超えて2.0mol%以下の範囲である。酸化銅の含有量は、焼結体の焼結密度とESD耐量等のバリスタ特性とを高水準で両立させる観点から、酸化鉄、酸化マンガン、酸化亜鉛及び酸化銅の含有量の合計に対して、CuO換算で1.8mol%以下であることが好ましく、1.2mol%以下であることがより好ましく、0.8mol%以下であることが更に好ましい。酸化銅の含有量が2.0mol%を超えると、Cu成分が後述するバリスタ積層部に拡散してバリスタ特性を低下させる。
【0025】
酸化ホウ素の含有量は、酸化鉄、酸化マンガン、酸化亜鉛及び酸化銅の含有量の合計に対して、B換算で0.02〜0.5質量%であり、0.03〜0.5質量%であることが好ましく、0.08〜0.5質量%であることがより好ましく、0.08〜0.4質量%であることが更に好ましい。酸化ホウ素の含有量が0.02質量%未満の場合、焼結体の焼結密度及び比抵抗が低下し、0.5質量%を超える場合、焼結体の異常粒成長が発生しやすくなり、焼結体の比抵抗が低くなる。
【0026】
主成分である酸化鉄、酸化マンガン及び酸化亜鉛の含有量の合計は、フェライト全体に対して、95.0〜99.98質量%が好ましく、98.0〜99.98質量%であることがより好ましい。
【0027】
本実施形態のフェライトは、焼結されていない粉末や凝集物等の形態である組成物であってもよく、スラリーに含まれる固形分であってもよい。本実施形態のフェライトは、焼結性に優れているため、900℃程度の低温で焼成しても十分に高い焼結密度(焼結体の密度)を有するフェライト焼結体とすることができる。そのため、例えば低温で焼結させることが求められるAgを導体とする積層チップインダクタの非磁性体層として好適に用いることができる。
【0028】
図1は、本実施形態のフェライト焼結体を示す斜視図である。フェライト焼結体1は、上記フェライトを含む。
【0029】
本実施形態のフェライト焼結体の焼結密度は、4.8g/cm以上であることが好ましく、4.9g/cm以上であることがより好ましく、5.0g/cm以上であることが更に好ましい。焼結密度が4.8g/cm未満であると、焼結体の緻密性が不十分になるため、比抵抗が低くなり、製造工程で不具合が生じる傾向がある。
【0030】
本実施形態のフェライト焼結体の比抵抗は、1.0×10Ω・m以上であることが好ましく、5.0×10Ω・m以上であることがより好ましく、1.0×10Ω・m以上であることが更に好ましい。比抵抗が1.0×10Ω・m未満であると、積層チップインダクタの製造工程の一部である端子電極のメッキ工程において、メッキが伸び易く、積層チップインダクタの特性に不具合が生じる傾向がある。
【0031】
次に、フェライト焼結体の製造方法の一例について以下に説明する。
【0032】
このフェライト焼結体の製造方法は、フェライトの主成分となる酸化鉄、酸化マンガン、酸化亜鉛、酸化ホウ素を含有し、必要に応じて酸化銅を含有する酸化物混合粉末を調製する準備工程と、上記酸化物混合粉末を仮焼して仮焼体を得る仮焼工程と、得られた仮焼体を粉砕して成形し、焼成する焼成工程と、を有する。
【0033】
準備工程では、フェライトの主成分となる酸化鉄、酸化マンガン及び酸化亜鉛と、副成分となる酸化ホウ素の各粉末を用意する。酸化鉄、酸化マンガン、酸化亜鉛及び酸化銅の含有量の合計に対して、酸化鉄をFe換算で45.0〜49.5mol%、酸化マンガンをMn換算で0.1〜2.0mol%、及び酸化亜鉛をZnO換算で47.0〜54.9mol%、かつ、酸化ホウ素をB換算で0.02〜0.5質量%となるように秤量し、例えばボールミルで混合して酸化物混合粉末を調製する。この際、任意成分である酸化銅を2.0mol%以下の割合で混合してもよい。
【0034】
また、酸化ホウ素源として、酸化ホウ素粉末の代わりに、酸化ホウ素を含有するホウ素系ガラスを用いてもよく、例えばホウケイ酸亜鉛ガラスが挙げられる。ホウ素系ガラスとしては、一般的に市販されているものを用いることができる。ホウ素系ガラスは、通常、Bのほかに、SiO、ZnO等を含有し、軟化点は550〜700℃であることが好ましい。酸化ホウ素源としてホウ素系ガラスを用いた場合も、低温焼成が可能であると共に、高い比抵抗を得ることが可能である。
【0035】
酸化物混合粉末に有機溶剤と有機バインダとを含む有機ビヒクルを混合して、非磁性体スラリーとして混合してもよい。このようにスラリー状、すなわち湿式で混合することによって、酸化物混合粉末を均一に混合することができる。
【0036】
仮焼工程では、準備工程で得られた酸化物混合粉末又はこれを含むスラリーを、例えば空気雰囲気中、600〜1000℃、1〜20時間の条件で仮焼する。その後、仮焼体をボールミル等で粉砕して、粉砕物を得る。仮焼温度が低過ぎる場合、又は仮焼時間が短過ぎる場合には、得られるフェライト焼結体の均一性が損なわれる傾向がある。一方、仮焼温度が高過ぎる場合、又は仮焼時間が長すぎる場合には、得られる仮焼体の凝集が進んで粉砕し難くなる傾向がある。
【0037】
焼成工程では、仮焼体の粉砕物を成形して成形体を作製し、該成形体を焼成して焼結体を得る。成形体には仮焼体の粉砕物に有機バインダ等の添加物を添加してもよい。成形体は、プレス成形等一般的な方法によって作製することができる。成形体の焼成は、焼成温度800〜940℃、焼成時間1〜10時間の条件で行うことができる。焼成温度が低すぎる場合、又は焼成時間が短過ぎる場合、高い焼結密度を有する焼結体が得られ難くなる傾向がある。一方、焼成温度が高すぎる場合、又は焼成時間が長すぎる場合、得られるフェライト焼結体の異常粒成長が発生して、機械的強度が損なわれる傾向がある。
【0038】
このようにして得られるフェライトからなるフェライト焼結体の組成は、通常、原料として用いた各酸化物の使用比率に一致する。上述のフェライト焼結体の製造方法によって、焼成工程における焼成温度を900℃程度の低温としても、高い焼結密度を有するフェライト焼結体を得ることができる。このようなフェライト焼結体は、十分に高い比抵抗を有している。そのためインダクタの非磁性体層として好適に用いることができる。また、バリスタ層のESD耐量を殆ど低下させないことから、インダクタとバリスタとの複合部品の材料として好適に用いられる。
【0039】
ところで、従来、主成分に対して酸化ホウ素を仮焼工程後に添加すると、焼成工程において酸化ホウ素が溶出する場合があった。しかしながら、上記フェライト焼結体の製造方法では、準備工程において酸化鉄、酸化マンガン、酸化亜鉛等と共に副成分である酸化ホウ素を混合しているため、酸化ホウ素の溶出を抑制することができる。したがって、焼成工程における酸化ホウ素の溶出が抑制され、焼結体における酸化ホウ素の含有量の変化を抑制することができる。更に、酸化ホウ素を主成分中に均一に分散させることが可能となり、仮焼工程において均一に焼成することができる。
【0040】
また、フェライト焼結体の製造方法は、以下のように酸化ホウ素を仮焼工程後に添加する方法であってもよい。すなわち、フェライトの主成分となる酸化鉄をFe換算で45〜49.5mol%、酸化マンガンをMn換算で0.1〜2mol%、酸化亜鉛をZnO換算で47〜54.9mol%含有し、酸化銅の含有量がCuO換算で2mol%以下である酸化物混合粉末を調製する準備工程と、上記酸化物混合粉末を仮焼して仮焼体を得る仮焼工程と、得られた仮焼体をボールミル等で粉砕して、酸化鉄、酸化マンガン、酸化亜鉛及び酸化銅の含有量の合計に対して酸化ホウ素をB換算で0.02〜0.5質量%添加する添加工程と、酸化ホウ素と仮焼体の粉砕物とを混合して得られた混合粉末を成形して焼成する焼成工程と、を有する製造方法であってもよい。
【0041】
次に、上述のフェライトを用いて作製されたインダクタと、バリスタとの複合部品である積層型フィルタの好適な実施形態について説明する。
【0042】
図2は、本実施形態のフェライトを用いた積層型フィルタをその一部を切り欠いて示す斜視図である。図3は、図2に示す積層型フィルタの素体部分を示す分解斜視図である。積層型フィルタ(複合積層型電子部品)100は、素体2と、入力端子電極3及び出力端子電極4と、一対のグランド端子電極5とを有する。素体2は、インダクタ積層部(インダクタ素子部)6と、バリスタ積層部(バリスタ素子部)7と、インダクタ積層部6及びバリスタ積層部7の間に介在する中間積層部(接合中間体)9とを有する。入力端子電極3及び出力端子電極4は、素体2の長手方向における両端部に配置されている。一対のグランド端子電極5は、素体2の長手方向における両側面にそれぞれ配置されている。
【0043】
インダクタ積層部6は、複数のインダクタ層10a〜10iが順次積層されて形成されたインダクタ素体10、及びインダクタ素体10の内部に配置された導体パターン(電極)16を有する。バリスタ積層部7は、複数のバリスタ層11a〜11dが順次積層されて形成されたバリスタ素体11、及びバリスタ素体11の内部に配置された電極17を有する。中間積層部9は、中間層8が複数積層されて形成されている。
【0044】
インダクタ層10a〜10iは、上述のフェライト焼結体からなる。このフェライト焼結体は、通常のZn系フェライトよりも、酸化銅の含有量が十分に低減されているため、インダクタ積層部6からバリスタ積層部7へのCu成分の拡散を十分に抑制することができる。そのため、上述のフェライト焼結体は、インダクタをバリスタと複合化しても、ESD耐量等のバリスタ特性を十分良好に維持することができる。
【0045】
インダクタ層10b〜10i上のそれぞれには、所望形状の導体パターン16a〜16hが形成されている。具体的には、インダクタ層10d、10f、10h上にはそれぞれ、コイルの略3/4ターン相当の略C字状の導体パターン16c、16e、16gが形成され、インダクタ層10c、10e、10g上にはコイルの略3/4ターン相当の略U字状の導体パターン16b、16d、16fが形成されている。また、インダクタ層10b、10i上には入力端子電極3及び出力端子電極4とそれぞれ接続する導体パターン(引出電極)16a、16hが形成されている。更に、インダクタ層10b〜10hをそれぞれ貫通し、これらインダクタ層10b〜10hのそれぞれに接する導体パターン間を電気的に接続するビア導体26a〜26gが形成されている。これにより、導体パターン(引出電極)16a、16hと、導体パターン16b〜16gと、ビア導体26a〜26gとが電気的に接続された略4.5ターンのらせん状のコイル(導体部)が形成される。
【0046】
バリスタ層11a〜11dは、例えば、ZnOを主成分とするセラミックス材料からなる。このセラミックス材料中には、添加成分としてPr、Bi、Co、Al等を含んでいてもよい。Prに加えてCoを含むと、優れたバリスタ特性を有するものとなるほか、高い誘電率(ε)を有するものとなる。また、Alを更に含むと低抵抗となる。また、必要に応じて他の添加物、例えば、Cr等の元素が含まれていてもよい。
【0047】
バリスタ積層部7のバリスタ層11b上には、グランド端子電極5と電気的に接続された略矩形状のグランド電極17aが形成されている。また、バリスタ層11c上には、出力端子電極4と電気的に接続された略矩形状のホット電極17bが形成されている。グランド電極17aとホット電極17bとは、互いに対向しており、積層方向から見たときにバリスタ層11bを介して一部が重なり合い、バリスタ機能を発現する構成をなしている。
【0048】
グランド電極17a及びホット電極17bに用いる導電材料には、バリスタ層11a〜11dとなるセラミックス材料と同時焼成できる金属材料を用いる。すなわち、積層型フィルタ(もしくは積層型フィルタに用いるバリスタ)の焼成温度は通常800℃〜9400℃程度であるため、その温度で融解しない金属材料を用いる。例えば、AgやAg−Pd合金を好適に使用することができる。
【0049】
中間層8は、電気絶縁性を有する絶縁材料からなり、例えば、上述のフェライト焼結体や、ZnO及びFeを主成分とした焼結体からなる。このような材料からなる中間積層部9をインダクタ積層部6とバリスタ積層部7との間に設けることによって、これらの間におけるクロストークを抑制することができ、その結果、インダクタ積層部6がバリスタ積層部7から受ける影響、及びバリスタ積層部7がインダクタ積層部6から受ける影響を緩和することができる。
【0050】
上述の積層構造を有する積層型フィルタ100は、バリスタ電圧を越える高い電圧のノイズが入力側に印加された際に、バリスタ効果によって急激に流れた電流がノイズとなって通過するのを阻止することができる。
【0051】
次に、上述した積層型フィルタ100の製造方法について説明する。
【0052】
上述のフェライト焼結体の製造方法における準備工程と同様にして、所定の割合で配合された酸化物混合粉末を含有する非磁性体スラリーを調製する。そして、ドクターブレード法等によりPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上に非磁性体スラリーを塗布し、例えば厚さ20μm程度のインダクタグリーンシートを形成する。
【0053】
続いて、インダクタグリーンシートの所望の位置、すなわち上述したようなビア導体26a〜26gが形成される予定の位置にスルーホールを形成する。スルーホールはレーザ加工機等により形成することができる。
【0054】
続いて、スクリーン印刷法等によりインダクタグリーンシート上に導電パターン16a〜16hを形成する。また、インダクタグリーンシートに形成されたスルーホールに導電ペーストを充填してビア導体26a〜26gを形成する。導体パターン16a〜16h及びビア導体26a〜26gの印刷等に用いる導電ペーストは、AgやAg−Pd合金粉末を主成分として含んでいるものを用いることができる。
【0055】
続いて、焼成後にバリスタ層11a〜11dとなるバリスタ原料粉末と、有機溶剤と有機バインダとを含む有機ビヒクルとを混合したバリスタスラリーを調製する。バリスタ原料粉末は、一体焼成した後に所定組成のバリスタとなれば、その形態は特に限定するものではない。主成分であるZnOに添加物として各種金属化合物、例えばBi、Pr11、CoO、Cr及びAlを所定量含む混合粉末を用いることができる。また、所定組成のバリスタセラミックスを予め仮焼きして粉砕したバリスタ粉末を用いてもよい。
【0056】
続いて、ドクターブレード法等によりPETフィルム上にバリスタスラリーを塗布し、例えば、厚さ30μm程度のバリスタグリーンシートを形成する。
【0057】
続いて、スクリーン印刷法等によりバリスタグリーンシート上に導電ペーストを用いてグランド電極17a及びホット電極17bを形成する。導電ペーストは、AgやAg−Pd合金粉末を主成分として含んでいるものを用いることができる。
【0058】
更に、中間層8となる中間材グリーンシートを用意する。中間材グリーンシートは、上述のフェライト焼結体の製造方法における準備工程と同様にして、所定の割合で配合された酸化物混合粉末を含有する非磁性体スラリーや、ZnO及びFeを主成分とした混合粉を原料としたスラリーをドクターブレード法によってフィルム上に塗布することによって形成される。なお、焼成後の中間積層部9の厚さが十分なものとなるように、中間材グリーンシートの積層枚数を適宜調整する。
【0059】
続いて、導体部が形成されていないインダクタグリーンシートと、所定形状の導体部が形成されたインダクタグリーンシートと、中間材グリーンシートと、グランド電極17a又はホット電極17bが形成されたバリスタグリーンシートと、電極が形成されていないバリスタグリーンシートとを図3に示すように順次積層し、プレスした後に所定形状に切断して、素体2のグリーン積層体を得る。その後、グリーン積層体を所定の条件(例えば、大気中で800〜940℃、2時間)で焼成を行い素体2が得られる。素体2は、インダクタ積層部6とバリスタ積層部7との界面付近において、インダクタ積層部6からバリスタ積層部7へのCu成分の拡散はほとんどないので、良好なバリスタ特性が得られる。
【0060】
続いて、素体2の長手方向における端部及び長手方向における両側面中央に導電ペーストを塗布し、所定の条件(例えば、大気中で650〜800℃)で熱処理を行って端子電極を焼き付ける。導電ペーストは、Agを主成分とする粉末を含むものを用いることができる。その後、端子電極表面にめっきを施し、入力端子電極3、出力端子電極4及びグランド端子電極5が形成された積層型フィルタ100を得ることができる。なお、めっきは電解めっきが好ましく、その材料は、例えばNi/Sn、Cu/Ni/Sn、Ni/Pd/Au、Ni/Pd/Ag、Ni/Ag等を用いることができる。
【0061】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【0062】
例えば、インダクタ積層部6及び中間積層部9の両方が本実施形態のフェライトを含んでいてもよく、インダクタ積層部6及び中間積層部9の一方のみが本実施形態のフェライトを含んでいてもよい。また、積層型フィルタ100は、中間積層部9を有さず、インダクタ積層部6とバリスタ積層部7とが直接接合されていてもよい。この場合においても、インダクタ素体の酸化銅の含有量が十分に低減されていることにより、インダクタ積層部6からバリスタ積層部7へのCu成分の拡散が十分に抑制されるため、良好なバリスタ特性を得ることができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0064】
(製造例1〜28)
原料粉末として、市販のFe粉末、ZnO粉末、MnO粉末又はMn粉末、及び、CuO粉末を表1,2に示す組成となるように秤量し、Fe粉末、ZnO粉末、MnO粉末又はMn粉末、及び、CuO粉末の含有量の合計に対して、B粉末を表1,2に示す質量割合となるように秤量した。これらの原料粉末を鋼鉄製のボールミルを用いて40時間湿式混合した後、乾燥することにより酸化物混合粉末を得た。得られた酸化物混合粉末を、700℃、10時間の条件で仮焼した。得られた仮焼体を鋼鉄製のボールミルにて36時間混合粉砕して、仮焼粉末を調製した。
【0065】
次いで、調製した仮焼粉末に、バインダとしてポリビニルアルコール水溶液を添加して造粒して顆粒を得た。こうして得られた顆粒をプレス成形して、成形密度3.10g/cmのディスク形状(外径:12mm、厚さ2mm)の成形体を作製した。
【0066】
製造例1〜28の成形体を大気中、焼成温度900℃で2時間焼成して、フェライトからなるディスク形状のフェライト焼結体を得た。製造例1〜28のフェライト焼結体は、それぞれ、表1,2に示すように、所定組成の主成分と副成分とを含有する。
【0067】
<フェライト焼結密度の評価>
ディスク形状の各フェライト焼結体の質量と、外径及び厚さの測定値より求めたフェライト焼結体の体積とから、フェライト焼結密度を求めた。結果は表1,2に示す通りであった。
【0068】
<比抵抗の評価>
ディスク形状の各フェライト焼結体の厚さ方向の抵抗Rを、測定電圧を10Vに設定して、高抵抗計(アドバンテスト製、商品名:R8340)を用いて測定した。抵抗Rの測定値から比抵抗ρ(ρ=R×焼結体の円形部分面積/焼結体の厚さ)を算出した。結果は表1,2に示す通りであった。
【0069】
<バリスタのESD耐量評価>
製造例23〜28のフェライト焼結体を備える積層型フィルタを以下の通りにして作製し、ESD耐量評価を行った。まず、原料粉末として、市販のFe粉末、ZnO粉末、MnO粉末又はMn粉末、及び、CuO粉末を表2に示す組成となるように秤量し、Fe粉末、ZnO粉末、MnO粉末又はMn粉末、及び、CuO粉末の含有量の合計に対して、B粉末を表2に示す質量割合となるように秤量した。これら原料粉末と有機ビヒクルとを混合して非磁性体スラリーを調製した。
【0070】
この非磁性体スラリーをドクターブレード法によりPETフィルム上に塗布し厚み20μmのインダクタグリーンシートを作製した。その後、インダクタグリーンシート上の所定の位置にレーザ加工機によりスルーホールを形成し、Agを主成分とする導電ペーストを用いてスクリーン印刷法により所定形状の導体パターンとスルーホール中にビア導体とを形成し、導体部が形成されたインダクタグリーンシートを作製した。
【0071】
続いて、所定量のZnO、Bi、Pr11、CoO、Cr及びAlを混合したバリスタ原料粉末と有機ビヒクルとを混合してバリスタスラリーを調製した。
【0072】
このバリスタスラリーをドクターブレード法により、PETフィルム上に塗布し厚み30μmのバリスタグリーンシートを作製した。その後、バリスタグリーンシート上にAgを主成分とする導電ペーストを用いてスクリーン印刷法により所定のパターンの電極を形成し、電極が形成されたバリスタグリーンシートを形成した。
【0073】
続いて、導体部が形成されていないインダクタグリーンシート、導体部が形成されたインダクタグリーンシート、電極が形成されたバリスタグリーンシート及び電極が形成されていないバリスタシートを準備し、図3に示す順序で積層して積層型フィルタ用グリーン積層体を作製した。この積層型フィルタ用グリーン積層体を、焼成後に長さ2.0mm、幅1.2mm、厚み1.0mmの直方体になるように切断して、大気中で900℃、2時間焼成して積層型フィルタ用素体を作製した。その後、積層型フィルタ用素体の端部に銀を主成分とする導電ペーストを塗布し、大気中で650〜800℃、1時間焼成して端子電極を焼付けし、更に端子電極にNi/Sn(Ni、Snの順に)電気めっきを施して、ESD耐量試験用のサンプル(積層型フィルタ)を作製した。
【0074】
得られたサンプルを用いて次のとおりESD耐量試験を行った。ESD耐量試験では、IEC(International Electrotechnical Commission)の規格IEC61000−4−2に定められている静電気放電イミュニティ試験(レベル4,接触放電,試験電圧:8kV,放電回数:10回)に基づいて測定を行った。ESD耐量が8kV以上である場合に、ESD耐量が十分であると判断して「A」と判定し、ESD耐量が8kV未満である場合には「B」と判定した。判断基準を8kV以上とした理由は、8kV以上であればIEC61000−4−2のレベル4を満たすからである。
【0075】
また、上述の静電気放電イミュニティ試験を行う前のバリスタ電圧(V)と後のバリスタ電圧(V)をそれぞれ測定し、その変化幅(ΔV1mA(%)=(V−V)/V×100)を求めた。バリスタ電圧の測定は、ソース−メジャーユニット(KEITHLEY社製、型番:KEITHLEY 2000)を用いて行い、サンプルの外部端子に印加する電圧を徐々に大きくし、サンプルに1mAの電流が流れた時点の電圧の値を測定した。ESD耐量試験の結果は表2に示すとおりであった。
【0076】
(製造例29〜35)
粉末の代わりにホウケイ酸亜鉛ガラスを用いたこと以外は、上記製造例1〜28と同様にしてフェライト焼結体を作製した。なお、ホウ素系ガラスは、上記Fe粉末、ZnO粉末、MnO粉末又はMn粉末、及び、CuO粉末の含有量の合計に対する質量割合が、B換算で表3に示す質量割合となるように添加した。そして、上記製造例1〜28と同様に焼結密度及び比抵抗の評価を行った。結果は表3に示す通りであった。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【0080】
表1〜3の結果より、本発明のフェライトは、低温焼成が可能であるため焼結密度を十分に高くすることが可能であり、比抵抗を高水準の値にすることができた。また、バリスタと複合化した場合に、バリスタのESD耐量を良好に維持できることが確認できた。
【符号の説明】
【0081】
1…フェライト焼結体、6…インダクタ積層部(インダクタ素子部)、7…バリスタ積層部(バリスタ素子部)、9…中間積層部(接合中間体)、10…インダクタ素体、11…バリスタ素体、16,16a〜16h…導体パターン(電極)、17,17a,17b…電極、100…積層型フィルタ(複合積層型電子部品)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分として酸化鉄、酸化マンガン、及び酸化亜鉛を含有するフェライトであって、
前記酸化鉄、前記酸化マンガン、前記酸化亜鉛及び酸化銅の含有量の合計に対し、
前記酸化鉄の含有量はFe換算で45.0〜49.5mol%であり、
前記酸化マンガンの含有量はMn換算で0.1〜2.0mol%であり、
前記酸化亜鉛の含有量はZnO換算で47.0〜54.9mol%であり、
前記酸化銅の含有量はCuO換算で2.0mol%以下であり、
酸化ホウ素の含有量はB換算で0.02〜0.5質量%である、フェライト。
【請求項2】
請求項1に記載のフェライトからなる、フェライト焼結体。
【請求項3】
インダクタ素体及び該インダクタ素体の内部に配置された電極を有するインダクタ素子部と、バリスタ素体及び該バリスタ素体の内部に配置された電極を有するバリスタ素子部と、が直接又は接合中間層を介して接合されており、
前記インダクタ素体及び前記接合中間層の素体の少なくとも一方は、請求項1に記載のフェライトからなる、複合積層型電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−228982(P2010−228982A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79150(P2009−79150)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】