説明

フェライトボンド磁石用樹脂複合材料及びボンド磁石成型品。

【課題】フェライトと熱可塑性樹脂からなるフェライトボンド磁石用樹脂複合材料を使用して金属部品をインサート成型するような場合に、クラックが発生することが問題となる。また、成型に際してフェライトボンド磁石用樹脂複合材料を長時間乾燥すると、MFRが低下するという課題がある。さらに、ボンド磁石成型品を水にしんせきした際に、材料の吸水による寸応変化や強度低下が問題となる。
【解決手段】フェライトボンド磁石用樹脂複合材料に使用されるフェライトを、リン酸化合物で表面処理することによって上記課題が改善される。
なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボンド磁石用樹脂複合材料、及びそれを用いて製造されるボンド磁石成型品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年最終製品の小型化にともなう磁石の小型化の要求に対応するために、その原材料となるボンド磁石樹脂複合材料の磁気特性の向上が求められている。一般的にフェライトボンド磁石用樹脂複合材料においては、フェライトを高充填化することで磁気特性を向上させることが可能であるが、フェライトの充填率が高くなれば、樹脂組成物中のバインダ含有量が相対的に低下し、樹脂複合材料組成物の加工時の流動性や成型品強度が低下する問題がある。
【0003】
また、ファンモーター等へ使用されるボンド磁石により製造されるロータは、樹脂複合材料と金属シャフトや金属コア材などの金属部材をインサート成型する場合が多くある。このような場合、樹脂複合材料と金属部材は線膨張係数が大きく異なるために、インサート成型品の環境温度が大きく変化する場合には、それらの線膨張係数の差により、樹脂複合材料と金属部材の間の界面にひずみが発生し、クラック発生に至る場合があるという問題があった。特にフェライト充填率が高い場合、たとえば88重量%以上のような場合には、樹脂複合材料の機械強度が低充填率の樹脂複合材料に比べて、クラックの発生問題もいっそう深刻となる。
【0004】
さらに、エアコンファンモーター用のボンドマグネットの材料にはストロンチウムフェライトとポリアミド12からなる樹脂複合材料が一般的に使用され、要求される磁気特性16kJ/m3以上である。この磁気特性を実現するために必要なストロンチウムフェライト充填率は90重量%以上であり、この用途においてはクラックの問題に関しても深刻であり、対策が強く求められている。
【0005】
これらに対しては、温度変化で発生するひずみを吸収するのに十分な柔軟性を持つ樹脂複合材料の開発が行われており、バインダ成分に着目した技術が開示されている。たとえば、曲げたわみ、ひずみについて特許文献1に公開されている。
しかし、フェライトの表面処理は一般的なカップリング処理を行う点しか開示されておらず、クラック発生を防止することに対する表面処理の有効性については何ら示されていない。
【0006】
射出成型ボンド磁石は、焼結磁石や圧縮成型磁石に比較して複雑な形状に対応ができるという特徴がある。その特徴をさらに引き出すために材料流動性を向上させることは、重要な技術課題であり、そのためにフェライトボンド磁石用樹脂組成物に使用されるフェライトの表面処理についてもの様々な検討がなされている。たとえば、フェライトの表面を炭酸で処理する技術が特許文献2に開示されている。この中で開示されている炭酸処理の目的は、フェライトの製造後に大気中の炭酸ガスが時間をかけて吸着して安定化させる、いわゆるエージング工程について時間をかけて行う代わりに、炭酸ガスをフェライト表面へ強制的に接触させることで、より効率的に安定化させることである。したがって、フェライト表面を他の種類の酸、例えばリン酸化合物などによって処理することとは、全く別の技術思想であり、炭酸の変わりに他の酸を採用することによって、樹脂複合材料を乾燥したときに起こる流動性低下現象の改善効果や、成型品の機械強度向上や耐水性向上などの効果は予想することは困難である。
【0007】
一方、希土類系ボンド磁石用樹脂複合材料に使用される希土類系金属磁性粉の表面処理方法として、リン酸化合物を採用することが提案されている。たとえば特許文献3には、希土類系磁性粉末、フェライト 磁性粉末、及び樹脂 バインダーからなる希土類ハイブリッド磁石用組成物において、使用される希土類系磁性粉末が燐酸 塩系化合物、シラン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、及びチタネート系カップリング剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の表面処理剤で表面処理されていることを特徴とする希土類ハイブリッド磁石用組成物について開示されている。しかし、処理される対象は希土類系磁性粉末のみであり、これは希土類系磁性粉末が金属であることに由来する課題の解決が目的であり、リン酸処理は希土類磁性粉末などの金属フィラーを樹脂複合材料にする際に特別に有効な処理であると考えられる。一方、フェライトなど金属酸化物においては、金属系に比較して化学的に非常に安定であるためにそのような課題は発生しにくいと考えられる。たとえ希土類磁性粉末とフェライト磁性粉末両方使用するハイブリッド磁石用組成物の原料としてフェライト磁性粉末が使用される場合でさえ、フェライト磁性粉末に対しては燐酸化合物による表面処理がなされていない。従って、これらの文献で開示されている技術をフェライトなど金属酸化物磁性粉末の表面処理へ応用しようとする動機が見当たらない。
【0008】
さらに、リン酸処理を施した希土類磁性粉を使用した樹脂複合材料組成物を乾燥した時に流動性が低下するという課題について全く記載がなく、さらにリン酸処理によって樹脂組成物の乾燥後の流動性低下を防ぐ効果については、それを示唆する内容も見られない。
【特許文献1】特開2004−10830
【特許文献2】特開2001−160506
【特許文献3】特開2002-110410
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高い磁気特性を得るためにフェライトを高密度に配合しても、機械強度に優れ、高い材料流動性を示し、さらに乾燥しても流動性の低下が小さいボンド磁石用樹脂複合材料を提供することである。また、吸湿による強度、寸法の変化が小さいといった耐水性の高いボンド磁石を提供することを目的とする。さらに、金属部品と一体成型してもクラックが発生しにくいボンド磁石用樹脂複合材料を提供するものである。
【0010】
一般的にボンド磁石用樹脂材料は、保管中に空気中の水分を吸収してしまうために、その使用に際して80〜120℃程度で1〜3時間程度の予備乾燥が行われる。しかし、特にフェライトボンド磁石用複合材料では乾燥時間を長くしすぎたり、乾燥を繰り返したり、乾燥温度を必要以上に高く設定するなどの操作によって樹脂複合材料を過乾燥状態にすると、樹脂複合材料の流動性が低下してしまい、材料加工性が著しく損なわれるといった品質上の問題があった。
【0011】
また、成型品が直接水に接触する様な用途に使用される場合には、成型品が水を含んで膨潤し、寸法が大きく変化してしまうという問題があった。また、膨潤によって成型品の機械強度が著しく低下するという問題もあった。例えば、ポンプ用で使用されるリング形状のボンド磁石用複合材料において圧環強度が大幅に低下してしまう。
【0012】
また、大型の射出成型機により成型を行う場合には、成型機内での材料滞留時間が長くなる。滞留することで材料の熱劣化が起こり、熱劣化により成型品の引張強度やひずみなどの機械的物性が著しく低下し、成型品にクラックが発生するという問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために、使用されるフェライトへの表面処理方法を広範に調査した結果、使用されるフェライトをリン酸化合物で表面処理することによって、得られたフェライトボンド磁石用樹脂組成物の流動性が著しく向上し、さらにその樹脂複合材料を射出成型して得られたフェライトボンド磁石の機械強度、耐水性、成型時の滞留による熱劣化が著しく向上することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明の構成に関して詳しく説明する。
【0015】
本発明においてフェライトの表面処理に使用されるリン酸化合物は、添加する際にはリン酸塩の形で添加しても良く、表面処理の過程でリン酸化合物イオンが溶液中で解離して実質的に酸として反応するものであればよい。たとえばリン酸、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素ナトリウムなどが挙げられる。
【0016】
リン酸化合物添加量に関しては、曲げ強度のたわみ量が大きくかつ、MFRが高いため、フェライト100重量部に対して0.05〜3.0重量部が好ましい。リン酸化合物の添加量が0.02質量部以下であると、処理なしの場合と効果がほとんど変わらないため好ましくない。また、添加量5.0重量部以上であると、成型品の機械強度が低下し、MFRが著しく低くなってしまうため好ましくない。
【0017】
リン酸化合物によるフェライトの表面処理方法に関しては特に限定はなく、例えばミキサーや万能混合機等で十分攪拌するなど、公知の表面処理方法を適宜選択すればよい。できるだけフェライト表面にリン酸化合物が均一に分散するように処理される方法が好ましく、リン酸化合物を水、アルコールなどに溶解、希釈、分散させて使用する方法が挙げられる。また、リン酸化合物を希釈、分散等をせずにそのまま添加してもよい。また、フェライトとリン酸化合物の反応を促進させるために、処理工程で加熱しても良い。必要であればリン酸化合物を添加した後に希釈等の目的で添加した水、アルコール等を除去しても良い。
【0018】
本発明で用いられるフェライトには特に限定はなく、磁気特性の点でストロンチウムフェライト、バリウムフェライト、ランタンコバルト系フェライトなど磁気特性の高いフェライトが好ましい。これらのフェライトは単体で用いることも、2種類以上を組み合わせても良い。
【0019】
本発明においてフェライトの充填率には特に限定はなく、樹脂複合材料組成物を乾燥した時の流動性低下抑制効果、耐熱性向上効果、耐水性向上効果が見られる。
【0020】
ただし、充填率が88重量%以下の場合には、特に何ら処理を施していない従来のフェライトボンド磁石用樹脂複合材料においても十分に機械強度が高いために、成型品の機械強度が問題になりにくいという事情から、本発明における曲げたわみ量が大きくなる効果が見られにくくなる。従って、曲げたたわみ量向上効果に注目すると、フェライト充填率は88重量%以上が好ましい。さらに、エアコンファンモーター用のボンドマグネットの材料にはストロンチウムフェライトとポリアミド12からなる樹脂複合材料が一般的に使用され、その磁気特性16kJ/m3以上であるため、これに相当するストロンチウムフェライト充填率は90重量%以上であるため、この領域で強度が上がることは品質上の好ましい。
【0021】
本発明においては、必要に応じてリン酸化合物で処理したフェライトにさらに表面処理を行っても良い。流動性向上などの目的で各種カップリング剤が選択できる。たとえばアミノシラン系、エポキシシラン系、メルカプトシラン系やチタネート系、アルミネート系など使用でき、使用するカップリング剤は、樹脂や添加物やリン酸化合物の種類とのの組み合わせにより適宜選択すればよい。
【0022】
リン酸化合物処理と他の表面処理を併用する場合には、リン酸化合物による表面処理を先に行うことが好ましく、リン酸化合物処理に引き続き、連続してカップリング処理を行っても良い。また、リン酸化合物で処理したあとにカップリング処理を行う場合には、リン酸化合物処理後に乾燥を行ってからカップリング処理を行っても良い。
【0023】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は特に限定されるものではなく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル、PPS、LCP等が例示される。特にポリアミド6、ポリアミド12、脂肪酸アミド、熱可塑性エラストマー、PPS及びこれらの共重合体等が流動性、機械強度などの点で好ましい。これらの熱可塑性樹脂は単体で用いることも、2種類以上を併用することもできる。
【0024】
特にポリアミド、または熱可塑性エラストマーとポリアミドの組み合わせた物は、金属部品と一体成型されたボンド磁石に使用される場合が多く、たわみ量の向上効果が実用上有利となるため好ましい。ファンモーター等に使用されるフェライトボンド磁石に使用される樹脂はポリアミド12が最も一般的であり、ファンモーター等に使用されるフェライトボンド磁石のクラック発生問題を解決できるという実用上の理由から、ポリアミド12を使用したものがさらに好ましい。
【0025】
本発明においては必要に応じて、各種添加剤を用いても良い。たとえば、目的に応じて滑剤や酸化防止剤、可塑剤等を添加することができる。例えば、滑剤としては脂肪酸系、ワックスなどが挙げられ、可塑剤としてはステアリルアルコール等の高級脂肪族アルコール系滑剤、ステアリン酸等の高級脂肪酸系滑剤、エチレンビスステアリン酸アマイド等の脂肪酸アマイド系などが挙げられる。酸化防止剤としては、ヒンダートフェノール系、アミン系等の酸化防止剤が挙げられる。これらは単体で用いることも、2種類以上を併用することもできる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は上述した構成により、以下に記載する効果を奏するものである。
【0027】
フェライト充填率に関係なく、乾燥しても流動性の低下が小さい樹脂複合材料が得られるものである。また、フェライトを88重量%以上に高充填化しても、流動性の高い樹脂複合材料が得られる。また、その樹脂複合材料により成型した成型品は、曲げたわみ量が大きく、高い耐水性、耐熱性を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明について、実施例を用いてさらに詳細に説明してゆく。
1.フェライトの弱酸による表面処理
処理するストロンチウムフェライト100重量部に対して5重量部のイソプロピルアルコールに希釈された弱酸を表1、表2、表3、表4に示された弱酸処理欄に示された重量比で計量し、100重量部のストロンチウムフェライトへ添加して、万能混合機で攪拌した。引き続き弱酸で処理されたストロンチウムフェライトへ、同量の水で希釈したアミノシランカップリング剤溶液を2重量部添加し、これらの混合物を100℃まで攪拌しながら加熱して、表面処理済フェライトを得た。
比較例の場合の表面処理は本発明と同様の方法で、弱酸処理を行わず表面処理を実施して表面処理済フェライトを得た。
【0029】
2.樹脂複合材料の製造
比較例1,2,3,4,5,8,9,10,11,12、実施例1,2,3,4,7,8,9,10,11,12については表面処理済フェライト90重量部に対して、ポリアミド12を10重量部計量して添加した。
比較例6,7、実施例5,6については表面処理済みフェライト85重量部に対してポリアミド12を15重量部計量して添加した。どの樹脂複合材料も万能混合機で均一に攪拌し、得られた混合物は2軸押出機を使用して混練を行い、フェライトボンド磁石用樹脂複合材料を得た。押出機の設定温度は250℃とした。
【0030】
3.樹脂複合材料の流動性評価
ボンド磁石用樹脂複合材料の流動性の評価はメルトインデクサーASTM D−1238によりMFRを測定した。測定条件は温度270℃、荷重10kgで行った。ボンド磁石用樹脂複合材料を過乾燥した場合の流動性評の低下度合いを評価するために、熱風乾燥機内温度120℃で2時間保持した後のMFRを前記条件でMFRを測定し、乾燥MFRとした。
【0031】
4.樹脂複合材料の機械強度評価
前記工程により得られたボンド磁石用樹脂複合材料をJSW製のJ50ME2成型機を用いて、シリンダー温度280℃、ノズル温度270℃、金型温度80℃で磁場中で射出成型して、機械強度の評価試験片(長さ760mm、幅12.7mm、厚み3.3mm)を作製した。
機械強度の評価は試験機 AGS−H(島津製作所)で曲げ強度と曲げたわみ量を測定した。測定条件は、温度23℃、ヘッドスピード5mm/minで行った。評価結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
比較例1は弱酸添加無し,比較例2,3は弱酸にそれぞれ酢酸、希塩酸を用いて同様な処理を行った。酢酸、希塩酸を弱酸として用いて処理を行うとたわみ量、MFRともに低下し、効果がないと言える。
【0034】
実施例1,2,3,4、比較例4,5は弱酸にオルトリン酸を用いて同様な処理を行った。添加量が0.02重量部では比較例1とほとんど差がなく、効果が見られない。また、比較例5より添加量が5.0重量部ではたわみ量が1.3mmと大きく低下し、MFRについても非常に低い値であったことから、基礎的な物性を満足できず好ましくない。添加量は0.05重量部〜3.0重量部が好ましいと言える。また添加量0.30重量部〜1.0重量部ではたわみ量:20〜30%、MFR:30〜50%高い結果となり、特に好ましい。このことから、オルトリン酸を添加することにより、酢酸、希塩酸と比べ大きな効果が得られると言える。
【0035】
比較例1は乾燥時のMFR低下率が約40%であるのに対し、実施例1〜4では約15%程度の低下率となっている。このことから、本発明により射出用複合材料を乾燥した状態においても、材料流動性の低下を抑制する効果が認められた。
【0036】
5.樹脂複合材料の膨潤評価
蒸留水にフェライトボンド磁石用複合材料で射出成型して作製した成型体をビーカーに入れ、これをガラス製デシケーター内で100℃、24時間保持した。
テスト用成型体は前記工程により得られたボンド磁石用樹脂複合材料をJSW製のJ50ME2成型機を用いて、シリンダー温度280℃、ノズル温度270℃、金型温度80℃で磁場中で射出成型したリング形状成型体(外径:23.45mm、内径:190mm、高さ:8.10mm)を使用した。また、比較として大気中で保持した場合のテストも実施した。圧環強度の評価は試験機 AGS−H(島津製作所)で測定した。測定条件は、温度23℃、ヘッドスピード5mm/minで行った。評価結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
比較例6、実施例5より、大気中に24hr保持した時の成型寸法変化はどちらも同じである。しかし、実施例6は比較例7に比べ重量変化が約1/2倍であり、比較例5は吸湿による膨潤を抑制できていることが分かる。この両サンプルの圧環強度最大試験力はほとんど同じであり、本発明によって耐水性の向上が確認できたと言える。
【0039】
実施例6は比較例7に比べ寸法、重量変化が小さく圧環強度最大試験力も低下が大きい。このことから、本発明により、膨潤を防ぎ、圧環強度の低下を抑制できると言える。
【0040】
6.樹脂複合材料の熱滞留評価
滞留試験は前記工程により得られたボンド磁石用樹脂複合材料をJSW製のJ50ME2成型機を用いて材料を計量した後、一定時間保持してから射出成型を行い、その保持時間を変更し(30、300、600、900sec)得られた成型品の強度を比較した。成型はシリンダー温度280℃、ノズル温度270℃、金型温度80℃で磁場中で射出成型し、引張強度の評価試験片(長さ127mm、幅13mm、厚み3.2mm)を作製した。引張強度の評価は試験機 AGS−H(島津製作所)で測定した。測定条件は、温度23℃、ヘッドスピード5mm/minで行った。評価結果を表3に示す。表3において引張強度の低下率は滞留時間が30secを基準として算出した。
【0041】
【表3】

【0042】
表3より、比較例8では滞留時間900secで23.1%の引張強度低下に対し、実施例7では8.3%の低下にとどまっている。このことから本発明により、フェライトボンド磁石用樹脂組成物は成型機内で滞留した場合でも、得られた成型品の強度低下が少なくなっていたことがわかる。比較例8では滞留時間900secの場合に、引っ張り成型での成型品の変位量が基準条件の30secの場合に比べて41.4%の低下に対し、実施例7では33.6%の低下にとどまっている。このことからも本発明により、フェライトボンド磁石用樹脂組成物は成型機内で滞留した場合のボンド磁石用樹脂複合材料の熱劣化が少なくなっていると言える。以上の結果より、本発明により、樹脂の熱劣化を防ぎ、耐熱性を向上させると言える。
【0043】
7.複合材料の耐クラック評価
金属部材との一体成型品を10個用意し、ヒートショック試験を行った。金属部材は直径30mm、高さ15mmの円筒形珪素鋼板を用い、直径53mm、高さ24mmの樹脂複合材料にインサート成型した。ヒートショック試験条件は−40℃および120℃で各30分間保持する工程を1サイクルとして100サイクル行った。ヒートショック試験後、成型品を目視観察によりクラック発生の有無を確認した。表7のクラック数はクラック発生の見られた成型品の数を表している。
【0044】
【表4】

【0045】
弱酸処理剤としてオルトリン酸を添加している実施例10,11,12においてクラックの発生は確認できなかった。このことから、本発明により金属部材との一体成型をした際の耐クラック性が向上すると言える。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、フェライトボンド磁石用樹脂複合材料の高特性化による小型化や、金属部材との一体成型による工数削減などが可能であるため、産業上の利用可能性を有する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライトと熱可塑性樹脂からなるフェライトボンド磁石用樹脂複合材料において、該フェライトが、フェライト100重量部に対して0.05〜3.0質量部のリン酸化合物で表面処理されたフェライトであることを特徴とするフェライトボンド磁石用樹脂複合材料。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂がポリアミド12である請求項1記載の射出成型用樹脂複合材料。
【請求項3】
前記請求項1または2記載の射出成型用樹脂複合材料からなることを特徴としたボンド磁石成型品。