説明

フェライト組成物、アンテナ素子用磁性部材およびアンテナ素子

【課題】高周波数帯(たとえば13.56MHz)において複素透磁率の実部μ’が高く、かつ虚部μ”が低いフェライト組成物と、該フェライト組成物で構成してあるアンテナ素子用磁性部材と、該部材を有するアンテナ素子とを、提供すること。
【解決手段】主成分が、酸化鉄をFe換算で46.0〜49.89モル%、酸化銅をCuO換算で2.3〜19.0モル%、酸化亜鉛をZnO換算で18.0〜25.0モル%を含有し、残部が酸化ニッケルで構成されており、主成分100モル%に対して、副成分として、リンをP換算で2〜63ppm、酸化ジルコニウムをZrO換算で43〜5980ppm、酸化コバルトをCoO換算で0.3〜2重量%含有することを特徴とするフェライト組成物。また、主成分中に、さらに酸化マンガンがMn換算で0.01〜2.1モル%を含有されてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランス、チョークコイル、インダクタおよびアンテナ素子用部材などの製造に好適なフェライト組成物と、該組成物から構成されるアンテナ素子用部材、該部材を有するアンテナ素子と、に関する。
【背景技術】
【0002】
RF−ID(Radio Frequency IDentification)は、ICカードやICタグと、リーダ/ライタとの間で、非接触での通信を行う技術である。このようなICカードやICタグは、ICチップおよびアンテナコイルを備えており、リーダ/ライタにもアンテナコイルが備えられている。
【0003】
ICカード等をリーダ/ライタに近づけることで、これらのアンテナコイルの間で生じる電磁誘導により磁束が発生する。この磁束をICカード等とリーダ/ライタとの間でやりとりすることにより、電力の供給およびICチップに書き込まれた情報のやりとりが可能となる。
【0004】
このとき、アンテナコイルの背面等に金属が配置されていると、発生した磁束により金属に渦電流が生じ、この渦電流が、発生した磁束とは逆向きの磁界を発生させてしまう。その結果、発生した磁束が弱まり、通信距離が短くなる、あるいは通信ができなくなるという問題がある。また、渦電流が生じることにより、熱的な損失も発生する。
【0005】
このような問題を解決するために、アンテナコイルと金属との間に透磁率の高い材料から構成される磁性体を配置することが提案されている。使用周波数帯が高周波(たとえば13.56MHz)であるRF−ID技術においては、透磁率μは、複素透磁率μ=μ’−jμ”として表現される(jは虚数単位)。複素透磁率の実部μ’は通常の透磁率成分を示しており、RF−ID技術においては、通信距離に関係する。また、複素透磁率の虚部μ”は損失を示しており、μ’とμ”との比をQ(=μ’/μ”)とすると、Qは損失係数の逆数となる。このQは、RF−ID技術において通信感度に関係する指標となる。
【0006】
一般的に、μ’を高くしようとすると、μ”も高くなることが知られている。そのため、通信距離を長くしつつ、良好な通信感度を得るには、μ’を高く維持し、かつμ”を小さくする(Qを大きくする)ことが求められていた。特に、μ’が大きいほど、波長短縮効果により共振周波数の変化や伝送電力の低下、波形の歪みを抑制できるという観点から、通信距離の向上が求められていた。
【0007】
たとえば、特許文献1では、高透磁率材料として、酸化アンチモンおよび酸化コバルトを含有するNiCuZn系フェライト材料を用いることが提案されている。
【0008】
しかしながら、上記の高透磁率材料は、複素透磁率の実部μ’が十分ではなく、通信距離が短くなってしまうという問題があった。さらに、Qが小さいため、損失により通信感度が低くなるという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−117944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、高周波数帯(たとえば13.56MHz)において複素透磁率の実部μ’が高く、かつ虚部μ”が低いフェライト組成物と、該フェライト組成物で構成してあるアンテナ素子用磁性部材と、該部材を有するアンテナ素子とを、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係るフェライト組成物は、
主成分が、酸化鉄をFe換算で46.0〜49.89モル%、酸化銅をCuO換算で2.3〜19.0モル%、酸化亜鉛をZnO換算で18.0〜25.0モル%を含有し、残部が酸化ニッケルで構成されており、
前記主成分100モル%に対して、副成分として、リンをP換算で2〜63ppm、酸化ジルコニウムをZrO換算で43〜5980ppm、酸化コバルトをCoO換算で0.3〜2重量%含有することを特徴とする。
【0012】
あるいは、本発明に係るフェライト組成物は、
主成分が、酸化鉄をFe換算で46.0〜49.89モル%、酸化銅をCuO換算で2.3〜19.0モル%、酸化亜鉛をZnO換算で18.0〜25.0モル%、酸化マンガンをMn換算で0.01〜2.1モル%を含有し、残部が酸化ニッケルで構成されており、
前記主成分100モル%に対して、副成分として、リンをP換算で2〜63ppm、酸化ジルコニウムをZrO換算で43〜5980ppm、酸化コバルトをCoO換算で0.3〜2重量%含有することを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、主成分を構成する酸化物の含有量を上記の範囲とし、さらに副成分としてリン、酸化ジルコニウムおよび酸化コバルトを上記の範囲で含有させることにより、複素透磁率μの実部μ’を高く維持しつつ、虚部μ”を低減できるフェライト組成物が得られる。
【0014】
したがって、本発明に係るフェライト組成物をアンテナ素子用磁性部材に適用することで、高周波数帯において長い通信距離を確保しつつ、その感度を向上させることができる。特に、μ’が大きいほど、波長短縮効果により共振周波数の変化や伝送電力の低下、波形の歪みを抑制できるという観点から、通信距離の向上が望まれているが、本発明によれば大幅な向上が可能である。
【0015】
このような効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、リン、酸化ジルコニウムおよび酸化コバルトを共存させることで得られる複合的な効果において、さらに酸化コバルトの含有量を特定の範囲とすることで、複合的な効果がさらに顕著なものになると考えられる。
【0016】
主成分中に酸化マンガンが含有される場合には、好ましくは、前記酸化鉄および前記酸化マンガンの合計含有量が、Fe換算およびMn換算で、49.9モル%以下である。
【0017】
前記酸化鉄および前記酸化マンガンの合計含有量を上記の範囲とすることで、上述した効果をさらに高めることができる。
【0018】
本発明に係るアンテナ素子用磁性部材は、上記のいずれかに記載のフェライト組成物から構成されている。
【0019】
本発明に係るアンテナ素子は、上記のアンテナ素子用磁性部材を有する。
【0020】
なお、本発明に係るフェライト組成物は、上記のように、アンテナ素子用磁性部材として好適であるが、たとえばコイル部品、トランス部品、磁気ヘッド部品にも好適に使用される。コイル部品としては、インダクタやチョークコイル等が挙げられ、トランス部品としては、スイッチング用、インバータ用等の電源トランス等が挙げられる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、複素透磁率の実部(μ’)を高くしつつ、虚部(μ”)を低減できるフェライト組成物が得られる。このフェライト組成物は、アンテナ素子用磁性部材およびこれを有するアンテナ素子に好適に使用され、長い通信距離および良好な通信感度を実現することができる。特に通信距離の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係るアンテナ素子の概略分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0024】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るアンテナ素子1は、ケース、シールド基板等の金属10と、ループ形状のアンテナコイル14との間に、本発明の一実施形態に係るアンテナ素子用磁性部材12が挟まれた構成を有している。なお、図1では、外部との接続端子、通信処理回路、保護部材等の図示を省略している。
【0025】
本実施形態に係るアンテナ素子用磁性部材12は、本実施形態に係るフェライト組成物から構成されている。本実施形態に係るフェライト組成物は、Ni−Cu−Zn系フェライトであり、主成分として、酸化鉄、酸化銅、酸化亜鉛および酸化ニッケルを含有している。また、必要に応じて酸化マンガンを含有してもよい。
【0026】
主成分100モル%中、酸化鉄の含有量は、Fe換算で、46.0〜49.89モル%、好ましくは46.5〜49.5モル%、より好ましくは47.0〜49.0モル%である。酸化鉄の含有量が少なすぎると、複素透磁率の実部μ’が低下し、その結果、Q(=μ’/μ”)が小さくなる傾向にある。多すぎると、複素透磁率の虚部μ”が大きくなり、その結果、Qが小さくなる傾向にある。
【0027】
主成分100モル%中、酸化銅の含有量は、CuO換算で、2.3〜19.0モル%、好ましくは2.6〜18.7モル%、より好ましくは3.0〜18.0モル%である。酸化銅の含有量が少なすぎると、複素透磁率の虚部μ”が大きくなり、その結果、Qが小さくなる傾向にある。多すぎると、複素透磁率の実部μ’は大きくなるものの、虚部μ”が急激に悪化するため、結果として、Qが小さくなる傾向にある。
【0028】
主成分100モル%中、酸化亜鉛の含有量は、ZnO換算で、18.0〜25.0モル%、好ましくは18.5〜24.5モル%、より好ましくは19.0〜24.0モル%である。酸化亜鉛の含有量が少なすぎると、複素透磁率の実部μ’が小さくなる傾向にある。多すぎると、複素透磁率の虚部μ”が大きくなり、その結果、Qが小さくなる傾向にある。
【0029】
主成分の残部は、酸化ニッケルのみから構成されていてもよいし、酸化ニッケルと酸化マンガンとから構成されていてもよい。
【0030】
主成分の残部に、酸化マンガンが含有される場合には、主成分100モル%中、酸化マンガンの含有量は、Mn換算で、好ましくは0.01〜2.1モル%、より好ましくは0.03〜2.0モル%、さらに好ましくは0.05〜1.90モル%である。酸化マンガンの含有量が多すぎると、複素透磁率の実部μ’が低下し、その結果、Qが小さくなる傾向にある。
【0031】
通常、マンガンは、酸化鉄中に酸化マンガンの形態で不可避的不純物として含有されているが、上記の範囲内であれば、酸化マンガンを含有させてもよい。
【0032】
また、主成分中に酸化マンガンが含有されている場合には、酸化鉄および酸化マンガンの合計含有量(Fe+Mn)が、Fe換算およびMn換算で、49.9モル%以下であることが好ましく、49.6モル%以下であることがより好ましい。酸化鉄および酸化マンガンの合計含有量の上限を上記の範囲とすることで、良好な特性を得ることができる。
【0033】
本実施形態に係るフェライト組成物は、上記の主成分に加え、副成分として、リン、酸化ジルコニウムおよび酸化コバルトを含有している。
【0034】
リンの含有量は、主成分100モル%に対して、P換算で、2〜63ppm、好ましくは3〜60ppm、より好ましくは5〜55ppmである。リンの含有量が少なすぎても多すぎても、透磁率の虚部μ”が大きくなり、その結果、Qが小さくなる傾向にある。
【0035】
酸化ジルコニウムの含有量は、主成分100モル%に対して、ZrO換算で、43〜5980ppm、好ましくは50〜5800ppm、より好ましくは60〜5000ppmである。酸化ジルコニウムの含有量が少なすぎても多すぎても、複素透磁率の虚部μ”が大きくなり、その結果、Qが小さくなる傾向にある。
【0036】
酸化コバルトの含有量は、主成分100モル%に対して、CoO換算で、0.3〜2重量%、好ましくは0.5〜1.5重量%、より好ましくは0.52〜0.70重量%、特に好ましくは0.52〜0.68重量%である。酸化コバルトの含有量が少なすぎると、複素透磁率の実部μ’は大きくなるものの、虚部μ”が急激に悪化するため、結果として、Qが小さくなる傾向にある。多すぎると、実部μ’が小さくなり、しかも虚部μ”が大きくなるため、結果として、Qが小さくなる傾向にある。
【0037】
本実施形態に係るフェライト組成物においては、主成分の組成範囲を上記の範囲に制御されていることに加え、副成分として、上記のリン、酸化ジルコニウムおよび酸化コバルトが特定量含有されている。特に酸化コバルトの含有量を制御することで、複素透磁率の実部μ’を大きくし、虚部をμ”を小さくする効果が顕著に得られる。その結果、μ’が大きく、しかもQが小さいフェライト組成物を得ることができる。このようなフェライト組成物をアンテナ素子用磁性部材に適用することで、通信距離を長くしつつ、通信感度を良好にすることができる。
【0038】
なお、リン、酸化ジルコニウムまたは酸化コバルトが単独で含有されている場合には上記の効果は十分に得られない。また、リン、酸化ジルコニウムまたは酸化コバルトのうち、2種しか含有されていない場合も同様である。すなわち、上記の効果は、リン、酸化ジルコニウムおよび酸化コバルトの3種が含有され、さらに酸化コバルトの含有量が本発明の範囲内に制御された場合に初めて得られる複合的な効果である。
【0039】
また、本実施形態に係るフェライト組成物には、マンガン以外の不可避的不純物元素の酸化物が含まれ得る。
【0040】
具体的には、B、C、Si、S、Cl、As、Se、Br、Te、Iや、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Ga、Ge、Sr、Cd、In、Sn、Sb、Ba、Pb、Bi等の典型金属元素や、Sc、Ti、V、Cr、Y、Nb、Mo、Pd、Ag、Hf、Ta等の遷移金属元素が挙げられる。
【0041】
次に、本実施形態に係るフェライト組成物から構成されるアンテナ素子用磁性部材の製造方法の一例を説明する。
【0042】
まず、出発原料(主成分の原料および副成分の原料)を、所定の組成比となるように秤量して混合し、原料混合物を得る。混合する方法としては、たとえば、ボールミルを用いて行う湿式混合や、乾式ミキサーを用いて行う乾式混合が挙げられる。なお、平均粒径が0.1〜3μmの出発原料を用いることが好ましい。
【0043】
主成分の原料としては、酸化鉄(α−Fe )、酸化銅(CuO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニッケル(NiO)、必要に応じて酸化マンガン(Mn)、あるいは複合酸化物などを用いることができる。さらに、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物等を用いることができる。焼成により上記した酸化物になるものとしては、たとえば、金属単体、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、有機金属化合物等が挙げられる。
【0044】
副成分の原料としては、リン(P)、酸化ジルコニウム(ZrO)および酸化コバルト(Co)を用いることができる。リンについては、リン酸(HPO)の形態で用いることが好ましい。酸化ジルコニウムおよび酸化コバルトについては、主成分の原料の場合と同様とすればよい。
【0045】
なお、酸化コバルトの一形態であるCoは、保管や取り扱いが容易であることや、空気中でも価数が安定していることから、酸化コバルトの原料として好ましい。
【0046】
次に、原料混合物の仮焼きを行い、仮焼き材料を得る。仮焼きは、原料の熱分解、成分の均質化、フェライトの生成、焼結による超微粉の消失と適度の粒子サイズへの粒成長を起こさせ、原料混合物を後工程に適した形態に変換するために行われる。こうした仮焼きは、好ましくは800〜1100℃の温度で、通常1〜3時間程度行う。仮焼きは、大気(空気)中で行ってもよく、大気中よりも酸素分圧が高い雰囲気や純酸素雰囲気で行っても良い。なお、主成分の原料と副成分の原料との混合は、仮焼きの前に行なってもよく、仮焼き後に行なってもよい。
【0047】
次に、仮焼き材料の粉砕を行い、粉砕材料を得る。粉砕は、仮焼き材料の凝集をくずして適度の焼結性を有する粉体とするために行われる。仮焼き材料が大きい塊を形成しているときには、粗粉砕を行ってからボールミルやアトライターなどを用いて湿式粉砕を行う。湿式粉砕は、粉砕材料の平均粒径が、好ましくは1〜2μm程度となるまで行う。
【0048】
得られた粉砕材料を用いて、本実施形態に係るアンテナ素子用磁性部材を製造する。該部材を製造する方法については制限されないが、以下では、シート法を用いる。
【0049】
まず、得られた粉砕材料を、溶媒やバインダ等の添加剤とともにスラリー化し、ペーストを作製する。そして、このペーストを用いてグリーンシートを形成する。次いで、形成されたグリーンシートを所定の形状に加工し、脱バインダ工程、焼成工程を経て、本実施形態に係るアンテナ素子用磁性部材が得られる。焼成は、好ましくは900〜1300℃の温度で、通常2〜5時間程度行う。また、焼成は、大気(空気)中で行ってもよく、大気中よりも酸素分圧が高い雰囲気で行っても良い。このようにして得られるアンテナ素子用磁性部材は本実施形態に係るフェライト組成物から構成されている。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0051】
たとえば、上述した実施形態では、アンテナ素子用磁性部材をシート法により製造したが、たとえば乾式成形や押出成形等の公知の方法により製造してもよい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0053】
まず、主成分の原料として、Fe、NiO、CuO、ZnO、Mnを準備した。副成分の原料として、HPO、ZrOおよびCoを準備した。
【0054】
次に、準備した主成分および副成分の原料の粉末を秤量した後、ボールミルで5時間湿式混合して原料混合物を得た。
【0055】
次に、得られた原料混合物を、空気中において800℃で2時間仮焼して仮焼き材料とした後、ボールミルで20時間湿式粉砕して粉砕材料を得た。
【0056】
次に、この粉砕材料を乾燥した後、該粉砕材料100重量%に、バインダとしてのポリビニルアルコールを1.0重量%添加して造粒し、20メッシュの篩で整粒して顆粒とした。この顆粒を、100kPaの圧力で加圧成形して、トロイダル形状(寸法=外径18mm×内径10mm×高さ5mm)の成形体を得た。
【0057】
次に、これら各成形体を、空気中において、850〜1250℃で2時間焼成して、焼結体としてのトロイダルコアサンプルを得た。得られたサンプルについて、蛍光X線分析を行い、フェライト組成物の組成を測定した。なお、Coについては、Coの含有量としてではなく、CoOの含有量として測定した。結果を表1〜3に示す。また、リン(P)の含有量は吸光光度法により測定した。さらにサンプルに対し以下の特性評価を行った。
【0058】
複素透磁率
得られたトロイダル形状のコアを、インピーダンスアナライザ(アジレント 4294A)を使用して、複素透磁率の実部μ’および虚部μ”を算出し、さらにμ’およびμ”からQを算出した。測定条件としては、測定周波数13.56MHz、測定温度25℃、測定レベル500mVとした。
【0059】
本実施例では、μ’は70以上であることが好ましく、150以上であることがさらに好ましい。また、Qは60以上であることが好ましく、90以上であることがさらに好ましい。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
表1より、副成分であるP、ZrOおよびCoOの3種が含有され、かつ含有量が本発明の範囲内である場合(実施例1〜18)、μ’を高く維持したままで、良好なQが得られる傾向にあることが確認された。これに対し、P、ZrOおよびCoOのうち、いずれか2種しか含有されていない場合(比較例1、3、4、6、7、9および10)、あるいはP、ZrOおよびCoOの3種が含有されているが、そのうち1種の含有量が本発明の範囲外となっている場合(比較例2、5、8および11)には、μ”が悪化するのに伴いQが悪化する傾向が確認された。
【0064】
また、表2より、CuOおよびZnOの含有量が本発明の範囲外となる場合(比較例12〜15)には、μ”が悪化するのに伴いQが悪化する傾向が確認された。
【0065】
さらに、表3より、FeおよびMnの含有量が本発明の範囲外である場合(比較例16〜20)には、μ”が悪化するのに伴いQが悪化していることが確認された。
【0066】
また、P、ZrOまたはCoOのうち、1種しか含有されていない場合(比較例21〜23)には、μ”が悪化するのに伴いQが悪化していることが確認された。P、ZrOおよびCoOのいずれもが含有されていない場合(比較例24および25)にもμ”が悪化するのに伴いQが悪化していることが確認された。
【0067】
以上より、本発明に係るフェライト組成物を、アンテナ素子用磁性部材に適用することで、通信距離を向上させつつ、良好な通信感度を実現できるアンテナ素子が得られることが確認できた。このようなアンテナ素子は、たとえばRF−ID技術におけるICカードやICタグ等に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0068】
1… アンテナ素子
10… 金属
12… アンテナ素子用磁性部材
14… アンテナコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分が、酸化鉄をFe換算で46.0〜49.89モル%、酸化銅をCuO換算で2.3〜19.0モル%、酸化亜鉛をZnO換算で18.0〜25.0モル%を含有し、残部が酸化ニッケルで構成されており、
前記主成分100モル%に対して、副成分として、リンをP換算で2〜63ppm、酸化ジルコニウムをZrO換算で43〜5980ppm、酸化コバルトをCoO換算で0.3〜2重量%含有することを特徴とするフェライト組成物。
【請求項2】
主成分が、酸化鉄をFe換算で46.0〜49.89モル%、酸化銅をCuO換算で2.3〜19.0モル%、酸化亜鉛をZnO換算で18.0〜25.0モル%、酸化マンガンをMn換算で0.01〜2.1モル%を含有し、残部が酸化ニッケルで構成されており、
前記主成分100モル%に対して、副成分として、リンをP換算で2〜63ppm、酸化ジルコニウムをZrO換算で43〜5980ppm、酸化コバルトをCoO換算で0.3〜2重量%含有することを特徴とするフェライト組成物。
【請求項3】
前記酸化鉄および前記酸化マンガンの合計含有量が、Fe換算およびMn換算で、49.9モル%以下である請求項2に記載のフェライト組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のフェライト組成物から構成されるアンテナ素子用磁性部材。
【請求項5】
請求項4に記載のアンテナ素子用磁性部材を有するアンテナ素子。

【図1】
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【公開番号】特開2011−97524(P2011−97524A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252165(P2009−252165)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】