説明

フコキサンチン強化モズクを用いる粉末状乾燥物の製造方法

【課題】 健康食品等やフコキサンチンの抽出原料に利用するのに十分な濃度のフコキサンチンを、安定な状態で含有する食品素材を簡単に得ることのできる技術を提供すること。
【解決手段】 少なくとも窒素およびリンを添加した培地中、光合成有効光量子束密度が450μmol・m−2・s−1以下の条件で培養して得られたモズク類を、凍結乾燥、スプレードライまたは送風乾燥により乾燥することを特徴とする高フコキサンチン含有粉末状乾燥物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フコキサンチンを高濃度で含む高フコキサンチン含有粉末状乾燥物の製造方法に関し、更に詳細には、簡単な手段で得ることができ、健康食品等やフコキサンチンの抽出原料として利用するのに十分な濃度のフコキサンチンを含有しながら安定性も有する高フコキサンチン含有粉末状乾燥物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
褐藻類に含まれるカロテノイド色素のフコキサンチンは、生活習慣病の改善効果や、癌、ウイルス性疾患の予防効果など、種々の健康機能が報告されており、日常でのその摂取が望まれている。
【0003】
しかしながら、褐藻中でのフコキサンチンの含有量は、例えば、最もその含有量が高いとされるワカメでさえ、乾燥ワカメ100g中、10〜30mg程度であり、フコキサンチンの推奨摂取量である0.5〜1mg/日を天然物で摂取するためには、継続的にかなりな量のワカメを食べ続けることが必要となり、実用的ではなかった。
【0004】
そこで、これに代えて海藻からフコキサンチンを抽出し、これを健康食品等に配合してフコキサンチンを摂取することが考えられ、例えば、褐藻類の盤状体もしくは糸状体からフコキサンチンを抽出する方法が報告されている(特許文献1)。しかし、現在、主に抽出法で得られる精製フコキサンチンは、その価格が、4500万円/kg程度と極めて高く、これを健康食品等に利用することは、コスト的に困難であった。また、抽出、精製したフコキサンチンは、熱や空気酸化により分解しやすく、何らかの安定化手段が必要であり、この点でも課題があった。
【0005】
更に、褐藻類の一種であるモズクを乾燥すること自体は、特許文献2に開示はされているが、この特許文献に記載の技術は、一旦乾燥、粉末化したモズクを、更に水溶液や濃縮液に加工後、これに含まれるフコイダンをダイエット用に使用するというものであり、粉体状態で使用するものでない。更にまた、この文献中では、モズク中に含まれているフコキサンチンについて全く言及がなく、当然のことながら乾燥粉末中でのフコキサチンの含量や、その安定性については示唆さえされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−35528
【特許文献2】特開2007−181411
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明は、健康食品等に利用するのに十分な濃度のフコキサンチンを、安定な状態で含有する食品素材を簡単に得ることのできる技術を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、特定の条件で培養したモズク類を原料とし、これを特定の乾燥方法で乾燥、粉末化することにより、単位重量当たりのフコキサンチン含量が多い実用的な食品素材が得られること、またこれに含まれるフコキサンチンは精製されたフコキサンチンよりも安定性が高いこと、さらに、培養したモズク類は、通常のオキナワモズクよりも加工性に優れ、より簡単な手段により乾燥、粉末化を行い得ることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、少なくとも窒素およびリンを添加した培地中、光合成有効光量子束密度が450μmol・m−2・s−1以下の条件で培養して得られたモズク類を、凍結乾燥、スプレードライまたは送風乾燥により乾燥することを特徴とする高フコキサンチン含有粉末状乾燥物の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、フコキサンチンを1g当たり900μg以上の高濃度で含有する高フコキサンチン含有粉末状乾燥物を簡単な手段により得ることができる。
【0011】
そして、得られた高フコキサンチン含有粉末状乾燥物は、フコキサンチンを安定に保持できるものであり、健康食品や化粧料などの原料やフコキサンチンの抽出原料として有利に利用できるものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の高フコキサンチン含有粉末状乾燥物の製造に当たっては、原料として、褐藻類であるモズク類を使用する。モズク類としては、ナガマツモ科(Chordaceae)のオキナワモズク(Cladosiphon okamuranus)、イシモズク(Sphaerotrichia divaricata)、モズク科(Spermatochnaceae)のイトモズク(Nemacystus decipiens)等が例示でき、この中でもオキナワモズク、イトモズクが好適に用いられ、特にオキナワモズクが培養の容易性やフコキサンチン含量の観点から好ましい。本発明では、これらのモズク類の藻体を特定条件で培養したものを利用する。このモズク類の培養方法は、特開2009−72132号公報に開示されており、具体的には以下のように行う。
【0013】
培養に供するモズク類の藻体としては、天然由来の藻体または養殖で得られた藻体のいずれも使用することができる。なお、本明細書において藻体とは、肉眼で確認可能な程度まで生育したモズク類の胞子体または配偶体をいう。
【0014】
このモズク類の藻体を、少なくとも窒素およびリンを添加した培地において、光合成有効光量子束密度が450μmol・m−2・s−1以下の条件で培養する。なお、本明細書に記載の光合成有効光量子束密度はいずれも球面光量計で測定された値である。
【0015】
上記モズク類の藻体が培養される、少なくとも窒素およびリンを添加した培地は、モズク類が生育できるものであれば特に限定されないが、例えば、滅菌されていてもよい海水または人工海水に、窒素およびリンを添加したものが好ましい。また、前記培地に含まれる窒素およびリンの量としては、培地1Lに対して、窒素が100〜5000μmol、好ましくは500〜3000μmolおよびリンが0.1〜200μmol、好ましくは0.1〜100μmolとなる量である。
【0016】
上記培地を用いたモズク類の藻体の培養は、光合成有効光量子束密度(PPFD)が450μmol・m−2・s−1以下の条件で行えばよい。光合成有効光量子束密度以外の条件(明暗周期、培養温度、培養期間等)については従来のモズク類の培養等の条件を用いることができる。より具体的な培養条件としては、光合成有効光量子束密度を450μmol・m−2・s−1以下、好ましくは2〜250μmol・m−2・s−1、より好ましくは5〜58μmol・m−2・s−1、明暗周期を12時間、培養温度を約20〜30℃、培養期間を1日〜1ヶ月程度で行えばよい。
【0017】
本発明で用いる培養方法の好ましい一態様を示せば次の通りである。モズク類の藻体20gを、滅菌海水1Lに窒素を1500〜5000μmolおよびリンを0.1〜200μmol添加した、水温23℃程度の培地において、光合成有効光量子束密度を5〜450μmol・m−2・s−1とし、明暗周期を12時間とし、5日間程度培養する。
【0018】
上記培地で培養されて得られるモズク類は、フコキサンチンの含有量が高くなっており、藻体の湿重量1gあたりフコキサンチンを80〜700μg含有するものを得ることができる。また、フコキサンチンの他にも機能性成分であるフコステロールやタンパク質も増加し、藻体の湿重量1gあたり、フコステロールを50〜500μgおよびタンパク質を6〜60mg含有するものを得ることができる。
【0019】
以上のように培養して得られたモズク類(以下、「培養モズク類」ということがある)は、水切りを行い、必要に応じ凍結する。
【0020】
このように前処理した培養モズク類について、凍結乾燥、スプレードライまたは送風乾燥により乾燥を行う。
【0021】
凍結乾燥(フリーズドライ)は、上記の培養モズク類を、マイナス10℃ないしマイナス80℃程度、好ましくマイナス30℃程度の温度または液体窒素で急速に凍結し、さらに、20Pa以下の減圧下で水分を昇華させることにより行われる。この凍結乾燥に使用される装置としては、公知の凍結乾燥装置を利用することができる。
【0022】
この凍結乾燥は、培養モズク類の藻体から水分がほぼ除去された状態(水分含量として、15%以下程度)になるまで行われる。乾燥に要する時間は、藻体の量やその置き方によっても相違するが、15ないし120時間程度行うことが好ましい。
【0023】
以上のようにして凍結乾燥により乾燥された培養モズク類は、乾燥前の藻体が矮小化していることから乾燥後は粉末が凝集した状態になる。本発明の高フコキサンチン含有粉末状乾燥物は、粒子が個々に分離した粉末の形態の他、このように粉末が凝集した形態も包含する。この凍結乾燥後の粉末が凝集した形態の乾燥物は、非常にもろく、さらにこれを粉砕して粉末としてもよい。粉砕に当たっては、公知の粉砕装置、例えば、ミル、ブレンダー、微粒粉砕機等が利用される。また、粉砕の程度は、高フコキサンチン含有粉末の使用用途に応じて決めれば良いが、一般には、その平均粒径として、300ないし30μmが好ましく100ないし50μm程度であることがより好ましい。本発明で用いる培養モズク類の凍結乾燥物は、通常のモズク類と比べてもろいため、ミルやブレンダー等の簡易な粉砕機により処理することが可能であり、また軽くたたくなど小さい衝撃を加えることでも容易に粉砕することができる。
【0024】
一方、スプレードライで乾燥するにあたっては、水切りした培養モズク類をそのまま、あるいは凍結されたものを解凍した後、懸濁液の状態にしてスプレードライに供する。懸濁液の調製は、例えば、培養モズク類の藻体を、2〜100倍容の水に懸濁し、これを目開き100〜1000μm程度のふるいを用いて裏ごしし、さらに必要に応じ水で希釈して、適当な粘性および粒径となるように行えばよい。スプレードライは、入口温度120〜200℃、出口温度50〜100℃、好ましくは入口温度120〜170℃、出口温度50〜80℃で行われる。乾燥に要する時間は、懸濁液の濃度や量によって相違する。スプレードライに用いる装置としては、公知のスプレードライヤーを利用できる。
【0025】
以上のようにしてスプレードライにより乾燥されたモズク類は、通常300ないし30μm、好ましくは200ないし30μm程度に粉末化されるため、これをそのまま高フコキサンチン含有粉末状乾燥物とすることができるが、必要に応じ、さらに上記凍結乾燥の場合と同様にして粉砕処理を行ってもよい。
【0026】
公知の乾燥法の中でも、スプレードライは低コストで行うことができ、また、乾燥と粉末化が同時に行われ工程を簡略化できる点で優れた方法であるが、通常のモズク類は形状が大きいためにノズルを通過させることができず、細切しても粘性が高いためスプレードライ法を適用することは困難であった。これに対し、本発明では、粘性が低く矮小化した培養モズク類を用い、スプレードライに適用し得る物性の懸濁液に調製することを可能としている。
【0027】
送風乾燥は、通常80℃以下、好ましくは60℃以下、より好ましくは、40℃以下の温度条件下、通気状態で水分を除去することにより行われる。この方法による乾燥も、乾燥温度が高いほど乾燥に要する時間は短くなるが、フコキサンチンの分解も考慮し、なるべく低い温度を設定する必要がある。この送風乾燥に使用される装置も、公知の送風乾燥装置を利用することができる。送風乾燥も、培養モズク類から水分がほぼ除去された状態になるまで行われる。乾燥に要する時間は、藻体の量や置き方によっても相違するが、8ないし24時間程度行うことが好ましい。送風乾燥によって得られる乾燥物は強固であるため、粉末化するには上記した微粒粉砕機等の粉砕装置等を用いて粉砕する必要がある。
【0028】
以上のようにして得られた、モズク類から調製された高フコキサンチン含有粉末状乾燥物は、そのフコキサンチン含量が900〜2500μg/g粉体となり、十分に健康食品や化粧品に利用できる濃度となる。さらに、このように高濃度のフコキサンチンを含有していることに加え、藻体にくらべて、保存時にスペースを要せず長期保存が可能であり、抽出溶媒の量を減らすことができるため、フコキサンチンの抽出原料としても好適に利用可能である。
【0029】
そして、上記したように本発明の高フコキサンチン含有粉体は、有機溶媒等を利用せず、かつ藻体成分が残存しているため、フコキサンチン自体が安定に保たれるので、利用しやすく、実用的なものである。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0031】
製 造 例 1
オキナワモズクの培養:
沖縄県国頭郡恩納村から採取したオキナワモズク藻体20kg(湿重量)を滅菌海水の入った1tタンクに入れ、以下の条件で5日間培養を行い冷凍処理した。培養後のフコキサンチン量を下記方法により測定したところ、608.7μg/g藻体であった。
【0032】
(培養条件)
培養温度:28.6℃
明暗周期:13時間
照度(光合成有効光量子束密度(球面光量子計):PPFD):
30μmol・m−2・s−1
施肥量:
窒素濃度:3000μmol/L
リン濃度:100μmol/L
【0033】
(フコキサンチン定量分析方法)
培養オキナワモズク3.0gをメタノール30mL中にてミルサーで粉砕した。これを、18時間静置した。次いで遠心分離(3500rpm,5分間)により、抽出液を分離した。残渣の入った沈殿管に、更にメタノール12mLを添加後、混和し、再度遠心分離した(3500rpm,5分間)。
この溶液部を先の抽出液と混和、撹拌し、このうち10mLをナスフラスコに分注し、濃縮した。この濃縮物を、メタノール3mLに溶解し、ワコーゲル(Wakogel)50C18 300mgを充填したカラムに供した。メタノール4mLによりフコキサンチンを溶出させ、これを10mLに定容した。この一部をポアー・サイズ0.45μmのメンブレンにてろ過した後、HPLC*に供し、フコキサンチンを定量した(試験は3回ずつ行ない、結果はその平均で示した)。
* HPLC分析条件
カ ラ ム: COSMOSIL 5C18−AR−II 4.6×150mm
溶 媒: 90% メタノール→100% メタノール
流 量: 0.4mL/min
測定波長: 440nm
【0034】
実 施 例 1
高フコキサンチン含有粉末の調製(1):
製造例1で得られた冷凍培養オキナワモズクを解凍後、水切りした。その14.5gを、凍結乾燥機(EYELA社製)を用いて−30℃、20Pa以下、24時間の減圧の条件で凍結乾燥を行った(収量1.6g)。これを乳鉢で63μm以下に粉砕しオキナワモズク乾燥粉末を得た。
【0035】
実 施 例 2
高フコキサンチン含有粉末の調製(2):
製造例1で得られた冷凍オキナワモズクを解凍後、水切りした。その3.0gを、凍結乾燥機(EYELA社製)を用いて−30℃、20Pa以下、17時間の減圧の条件で凍結乾燥を行った(収量0.3g)。これを乳鉢で軽く1分間擦りオキナワモズク乾燥粉末を得た。
【0036】
実 施 例 3
高フコキサンチン含有粉末の調製(3):
乳鉢で擦る時間を5秒間とした以外は実施例2と同様にしてオキナワモズク乾燥粉末を得た。
【0037】
実 施 例 4
高フコキサンチン含有粉末の調製(4):
製造例1で得られた冷凍オキナワモズクを解凍し、未洗浄のままその100gを水1Lに懸濁させた。この懸濁液を直径500μmのふるいを用いて裏ごしした。こうして得られた懸濁液を水で10倍希釈し、噴霧用サンプルとした。スプレードライヤー(ヤマト科学社製)を使用し、熱風入口温度170℃、出口温度75℃に設定し、約20g分を3時間かけてオキナワモズク乾燥粉末を得た(収量927mg)。この乾燥粉末は、平均粒径が50μmであった。
【0038】
実 施 例 5
高フコキサンチン含有粉末の調製(5):
水で5倍に希釈した以外は実施例4と同様にして噴霧用サンプルを調製した。スプレードライヤーを熱風入口温度170℃、出口温度70℃に設定しオキナワモズク乾燥粉末を得た。
【0039】
実 施 例 6
高フコキサンチン含有粉末の調製(6):
スプレードライヤーを熱風入口温度150℃、出口温度68℃に設定した以外は実施例5と同様にしてオキナワモズク乾燥粉末を得た。
【0040】
実 施 例 7
高フコキサンチン含有粉末の調製(7)
製造例1で得られた冷凍オキナワモズクを解凍後、水切りした。その20gを送風乾燥機(EYELA社製)により40℃で24時間送風乾燥した。
【0041】
これらの乾燥させたオキナワモズクは、乳鉢で63μm以下になるまで粉砕し、オキナワモズク乾燥粉末を得た。
【0042】
実 施 例 8
高フコキサンチン含有粉末の調製(8)
乾燥条件を60℃、16時間とした以外は実施例7と同様にしてオキナワモズク乾燥粉末を得た。
【0043】
実 施 例 9
高フコキサンチン含有粉末の調製(9)
乾燥条件を80℃、8時間とした以外は実施例7と同様にしてオキナワモズク乾燥粉末を得た。
【0044】
参 考 例 1
沖縄県うるま市勝連で採取したオキナワモズクの冷凍品を解凍後、水道水で洗浄、ざるに移し、水切りした。その1483.4gを、凍結乾燥機(EYELA社製)を用いて−30℃、20Pa以下、112時間の減圧の条件で凍結乾燥を行った。乾燥後の収量は76.1gであった。微粒粉砕機[増幸産業(株)MKCA10−15J]を用い、その平均粒径が50μmになるまで粉砕し、オキナワモズク乾燥粉末を得た。
【0045】
試 験 例 1
実施例1〜9および参考例1で得られた粉末のフコキサンチン(以下、「Fx」とする)含有量を下記分析方法で分析した。ただし、実施例6のみオキナワモズク乾燥粉末を100mgとした。また、実施例2と3のみ振とう機による1時間撹拌の代わりに18時間静置して抽出した。
【0046】
上記のオキナワモズク乾燥粉末を、褐色沈殿管に180mg取った。これに、メタノール30mLを加え、振とう機により1時間撹拌した。次いで遠心分離(3500rpm,5分間)により、抽出液を分離した。残渣の入った沈殿管に、更にメタノール12mLを添加後、混和し、再度遠心分離した(3500rpm,5分間)。
【0047】
この溶液部を先の抽出液と混和、撹拌し、このうち10mLをナスフラスコに分注し、濃縮した。この濃縮物を、メタノール3mLに溶解し、ワコーゲル(Wakogel)50C18 300mgを充填したカラムに供した。メタノール4mLによりFxを溶出させ、これを10mLに定容した。この一部をポアー・サイズ0.45μmのメンブレンにてろ過した後、HPLC*に供し、Fxを定量した(試験は3回ずつ行ない、結果はその平均で示した)。この結果を表1に示す。
【0048】
* HPLC分析条件
カ ラ ム: COSMOSIL 5C18−AR−II 4.6×150mm
溶 媒: 90% メタノール→100% メタノール
流 量: 0.4mL/min
測定波長: 440nm
【0049】
【表1】

【0050】
コントロールとして用いた通常のオキナワモズクの凍結乾燥粉末に比べ、実施例の低照度・高施肥量で培養したモズクでは、凍結乾燥またはスプレードライによってコントロールの4.5倍近いフコキサンチンを含む粉末を得ることができた。
【0051】
また、参考例1の凍結乾燥したオキナワモズクは、ある程度堅固であるため粉末化するためには、微粒粉砕機等を用いる必要があるが、実施例の低照度・高施肥量で培養したオキナワモズクは、凍結乾燥した状態ですでにもろく容易に粉砕できるため、ミルやブレンダー等の簡易な粉砕機により処理することが可能であり、また軽くたたくなど小さい衝撃を加えることでも容易に粉砕することが可能である。
【0052】
また、凍結乾燥はモズクに熱がかからない為、フコキサンチンの熱による分解がないという利点があるが比較的コストが高い。一方、スプレードライは、より低コストであるとともに、乾燥と粉末化を同時に行えるため工程の簡略化が可能な乾燥法であるが、参考例1のような通常のオキナワモズクではノズルを通過できず、細切しても粘性が高くスプレードライ法を適用することはできない。しかしながら、低照度・高施肥量で培養したオキナワモズクは、矮小化し、かつ、より粘性が低いためスプレードライへの適用が可能であり、さらに、スプレードライは熱がかかる方法であるにも関わらず、凍結乾燥と同程度のフコキサンチン含量を保つことが明らかとなった。
【0053】
さらに送風乾燥による乾燥物は比較的強固なため、粉末化するには微粒粉砕機等を用いる必要があるが、フコキサンチン含量の高い粉末が得られ、特に40〜60℃の温度条件では、熱がかかる方法であるにも関わらず、凍結乾燥と同程度のフコキサンチン含量を保つことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、簡単な手段でフコキサンチンを高濃度で含有する高フコキサンチン含有粉末状乾燥物を得ることができる。
【0055】
そして、得られた高フコキサンチン含有粉末状乾燥物は、フコキサンチンを安定に保持できるものであり、健康食品や化粧料などの分野におけるフコキサンチン原料あるいはフコキサンチンを抽出するための原料として有利に利用できる。

以 上


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも窒素およびリンを添加した培地中、光合成有効光量子束密度が450μmol・m−2・s−1以下の条件で培養して得られたモズク類を、凍結乾燥、スプレードライまたは送風乾燥により乾燥することを特徴とする高フコキサンチン含有粉末状乾燥物の製造方法。
【請求項2】
凍結乾燥が、マイナス10℃ないしマイナス80℃の温度、20Pa以下の減圧下で行われるものである請求項1記載の高フコキサンチン含有粉末状乾燥物の製造方法。
【請求項3】
スプレードライが、入口温度120〜200℃、出口温度50〜100℃で行われるものである請求項1記載の高フコキサンチン含有粉末状乾燥物の製造方法。
【請求項4】
送風乾燥が、80℃以下の温度条件下、通気状態で行われるものである請求項1記載の高フコキサンチン含有粉末乾燥物の製造方法。
【請求項5】
平均粒径が、300ないし30μmである請求項1ないし4の何れかの項記載の高フコキサンチン含有粉末状乾燥物の製造方法。
【請求項6】
フコキサンチンの含量が、900μg/g以上である請求項1ないし5の何れかの項記載の高フコキサンチン含有粉末状乾燥物の製造方法。
【請求項7】
培地が、1L当たり窒素を100〜5000μmolおよびリンを0.1〜200μmol含有する海水または人工海水である請求項1ないし6の何れかの項記載の高フコキサンチン含有粉末状乾燥物の製造方法。

【公開番号】特開2011−93810(P2011−93810A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246314(P2009−246314)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度文部科学省地域科学技術振興事業委託事業「マリンバイオ産業創出事業」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(509298067)財団法人 沖縄科学技術振興センター (2)
【Fターム(参考)】