説明

フタル酸非含有シクロヘキサンポリカルボン酸エステルの調製方法及びそれにより調製した可塑剤

【課題】既知の工程を最適化し、そして単純化することにより、フタル酸塩非含有シクロヘキサンポリカルボン酸エステル可塑剤を調製する方法を改良すること。
【解決手段】効果的に反応時間を短くする利点を有する、特にフタル酸塩非含有シクロヘキサンポリカルボン酸エステルを含む一種の可塑剤を調製するための方法であって、反応器中に同時に一緒に添加されたシクロヘキサンポリカルボン酸又はその誘導体、モノ−アルコール並びにスズ及びチタニウムの金属触媒又は無機酸を、200〜250℃の高温で一段階のエステル化にかけることを含む方法、及びシクロヘキサンポリカルボン酸エステルの反応混合物は、フタル酸を含まず生物及び環境に対して危険を有さない可塑剤として適切に用いられる方法により得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適用の際に従来のフタル酸基可塑剤に優先して、可塑剤として適切に用いられる、シクロヘキサンポリカルボン酸エステル、特に任意のフタル酸を含有しないシクロヘキサンポリカルボン酸エステルの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可塑剤は、プラスチック、コーティング組成物、シーリング組成物及び添加剤において、多くの方法で広く用いられている。それらは、化学的に反応せずに、好ましくはそれらの溶媒及び膨張能力により、熱可塑性ポリマーと物理的に相互作用する。これは、熱可塑性範囲が元のポリマーに比べてより低い温度にシフトした均一系を形成し、その結果として、例えば形状及び弾力性を変化させる能力が増大し、硬度が減少する。
【0003】
可塑剤に対する適用の非常に広い分野を切り開くために、それらは多くの要求を満たす必要がある。
理想的な場合、それらは無臭、無色、耐光性、耐寒性及び耐熱性であるべきである。更に、それらは、耐水性であり、容易に燃えず、低い揮発性を有し、そして健康に対して有害でないことが期待される。更に、可塑剤の調製は単純であり、環境上の要求を満たすために、再利用できない副産物のような廃棄物及び汚染物質を含む汚水を生成せずに実施されるべきである。
【0004】
可塑剤アルコールを有するジカルボン酸及びポリカルボン酸エステル、すなわち約6〜12の炭素原子を有する非分岐又は分岐の第一級アルコールが最も重要な可塑剤であり、それらを個々の化合物として又は混合物として用いることができる。
このエステルの調製は、触媒として酸、好ましくは硫酸の存在下で、アルコール又は異なるアルコールの混合物と酸又は酸無水物を反応させることによる、古典的な方法により実施されてきた。アルコール成分は、通常過剰で用いられる。触媒として用いる酸の標的選択、穏やかな反応条件、及び複雑な精製手段により、不利な色及び臭気に対抗する試みがなされてきた。
【0005】
可塑剤として適切なエステルの調製における更なる開発は、金属含有エステル化触媒の使用を構成する。
適切な触媒は、例えばスズ、チタニウム及びジルコニウムであり、それらは微粉化した金属として用いられ、有利にはそれらの塩、酸化物又は溶解性有機化合物の形態で用いられる。
これらの触媒は、180℃超のエステル化温度でのみそれらの完全な活性を達成する高温触媒である。例としては、スズ粉末、酸化スズ(II)、テトライソプロピルオルトチタン酸塩又はテトラブチルオルトチタン酸塩などのチタン酸エステル、及びテトラブチルジルコニウムなどのジルコニウムエステルである。
アルキルチタン酸塩及びチタニウムキレート、すなわちポリアルコールのチタン酸塩は、特に工業的生成プロセスにおける重要性を達成した。
【0006】
更に、米国特許第6,310,235号は、チタニウム含有、ジルコニウム含有又はスズ含有触媒の存在下で、ジカルボン酸又はポリカルボン酸又はそれらの無水物をアルコールと反応させることによって、エステル可塑剤を調製するための方法を開示した。
それは、形成した任意の水を除去しながら、酸又は酸無水物とアルコールの混合物を120〜160℃で最初に反応させること、触媒の添加による反応を完了し約250℃まで温度を上昇させること、反応混合物をアルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物溶液を用いて中和すること、その後の過剰のアルコールを分離し、乾燥させ残った粗エステルをろ過することを含んで成る。エステル可塑剤を調製するための工程は、時間及びエネルギーの観点で高い費用を必要とする。
【0007】
米国特許第6,248,917号及び同第6,888,021号は、触媒含有微小孔を用いることにより、ベンゼンポリカルボン酸、又はそれらのジ−2−エチルヘキシルフタル酸塩及びジ−イソ−ノニルフタル酸塩から成る群から選択される誘導体を水素化することによって、エステル可塑剤を調製するための方法を開示する。
この触媒(少なくとも50nmの平均孔直径を有する、支持体に適用される微小孔を含む)は、単独又は周期表の遷移グループI若しくはVIIから選択される他の金属と共に、周期表の遷移グループVIIIから選択される1つの金属を少なくとも含んでいる、活性金属触媒の一種である。
水素化は、純粋な水素を用いて、50〜250℃、20〜300バールの一定圧力において、ルテニウム触媒の存在下で実施された。エステル可塑剤を調製するための開示された工程から得られる水素化生成物は、プラスチック中の可塑剤として適切に用いられるが、エステル可塑剤を調製するための工程は、時間及び装置の観点で高い費用を必要とする。
【0008】
更に、ジ−2−エチルヘキシルフタル酸塩及びジ−イソ−ノニルフタル酸塩のような可塑剤の最も高い消費量は、報告によると環境衛生及びヒトの身体を深刻に損傷する環境ホルモンの問題をもたらす。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、できる限り多くの適用においてより適切に用いられる発明された工程から反応生成物が得られるようにするために、既知の工程を最適化し、そして単純化することにより、当該方法を改良することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、チタニウム含有、スズ含有又は無機酸触媒の存在下で、ポリカルボン酸又はそれらの無水物をアルコールと反応させることによりエステル可塑剤を調製するための工程を提供する。
【0011】
それは、形成した任意の水を除去しながら、酸又は酸無水物とアルコールの混合物を、一段階で200〜250℃の温度で反応させること、反応混合物を、アルカリ金属水酸化物を用いて中和し反応を完了させること、その後の過剰のアルコールを分離し、残った粗エステルをろ過することを含んで成る。
【0012】
本発明は、反応時間を減少させることができ、本発明の特に明らかな利点は、発明された工程から得られる反応生成物がフタル酸又は無水物を全く含まないことである。
【0013】
本発明の新規の工程は、工場において実施される際に、高い信頼性を有する。それは、例えば連続的に実施するのが容易であり、高純度で優れた色の特性を有する可塑剤を与える。
【0014】
この反応生成物は、フタル酸塩を全く含まず、シクロヘキサンポリカルボン酸エステルを含む可塑剤として調製する優れた加工可能性を有し、フタル酸塩を全く含まない可塑剤は、ヒトの身体及び環境に対して全く毒性ではなく、それは子供用玩具及び食品包装などの分野におけるプラスチックに関して、それらを広く利用することを可能にし、それによってフタル酸基可塑剤にとって代わり得ることを強調する価値もある。
【0015】
上記の観点において、本発明の目的は、現在存在する生成方法を改良すること、生成工程を単純化すること、及び前記反応から得られる生成物の適用の分野を拡大することである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
出発物質として本発明の工程に適した酸は、ポリカルボン酸及び誘導体である。
【0017】
このような化合物の例としては、シクロヘキサン1,2−ジカルボン酸若しくはその誘導体、シクロヘキサン5−メチル−1,2ジカルボン酸若しくはその誘導体、シクロヘキサン5−エチル−1,2ジカルボン酸若しくはその誘導体、シクロヘキサン1,3−ジカルボン酸、シクロヘキサン1,4−ジカルボン酸、シクロヘキサン1,2,3−トリカルボン酸、又はシクロヘキサン1,2,4−トリカルボン酸が挙げられる。
【0018】
使用するアルコールは、特に、分子中に4超の炭素原子を有する、直鎖又は分岐の飽和脂肪族化合物である。それらは、通常第一級ヒドロキシル基を含むが、第二級アルコールは酸の反応パートナーとして除外されない。このような化合物の例としては、ブチルアルコール、n−アミルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、n−オクチルアルコール、n−ノニルアルコール、n−デシルアルコール、n−ウンデシルアルコール、n−ドデシルアルコール、イソ−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブチルアルコール、イソアミルアルコール、tert−アミルアルコール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、イソ−ヘキサノール、2−エチルヘキシルアルコール、イソノニルアルコール、イソデシルアルコールなどが挙げられる。
【0019】
新規の工程で使用されるエステル化触媒は、金属触媒及び無機酸である。金属触媒としては、微粉化形態の金属又は好ましくは化合物として形成された、チタニウム含有触媒及びスズ含有触媒が挙げられる。適切な化合物は、酸化スズ(II)、シュウ酸スズ(II)、フェノール塩、アシレート及びチタニウムのキレート並びにチタニウムのエステル、例えばテトライソプロピルチタン酸塩、テトラブチルチタン酸塩である。使用する触媒の量は、広範囲に広がり得る。
エステル化前に、反応混合物に基づいて、0.4〜6重量%の大量の触媒を用いることができる。しかし、それは、反応中の間触媒は添加しない。
【0020】
化学量論のアルコール及び酸を用いてエステル化を実施することができるが、特に反応の水を除去するのに添加溶剤を用いる場合、できる限り完全に酸の変化を達成するために、1モルのポリカルボン酸又は酸無水物当たり0.1〜0.8モルの化学量論的に過剰なアルコールを用いることが好ましい。
【0021】
本発明により、200〜250℃の温度で上記の触媒の存在下において、1.0モルのシクロヘキサンシクロカルボン酸又は誘導体を、4〜12の炭素原子を有する2.2〜3.8モルのアルコールと反応させることにより得られるエステル生成物を処理することを特徴とする、高温且つ一段階でエステル化を実施する。
反応時間は、反応条件、例えば、反応物又は反応温度に従い、通常は5〜8時間である。反応圧力は5〜760ミリバールであり、形成した水はアルコールとの共沸により反応系から取り除かれる。反応温度が共沸点、すなわち大気圧下で90〜180℃の範囲である場合に限られる。
【0022】
エステル化の経過及び完了は、この場合水の形成及び酸価により観察することができ、1mgKOH/g未満の酸価の際に、反応が完了する。反応混合物はジエステルまたはポリエステルを介して要求される反応のみならず、特に、部分的にエステル化されたジカルボン酸またはポリカルボン酸、過度のアルコール及び触媒からも構成される。
【0023】
粗エステル可塑剤をワークアップするために、反応器からの生成物を最初にアルカリ金属水酸化物により中和する。溶液に基づいて、5〜20重量%、好ましくは9〜16重量%の水酸化物を含む水溶液として、ここではアルカリ試薬を用いる。
用いる中和剤の量は、粗生成物中の酸要素、遊離酸及びモノエステルの比率に依存する。この比率は、(ASTM−D1045に従って)酸価の形成において決定される。
本発明に従って、アルカリ試薬を過剰に添加し、それは存在するH+イオンを化学量論的に中和するために必要な量の4〜5倍に相当する。
水酸化物は、特定の濃度を有する水溶液として、規定された過剰量で用いるために選択され(その中で、水酸化ナトリウムが好ましく選択される)、反応混合物の酸構成要素を結晶(すなわち、非常に容易にろ過できる形態)で沈殿することを確実にする。同時に、触媒は大部分が分解され、同様に容易にろ過される生成物を形成する。
粗エステルのアルカリ処理は、特定の温度の維持に関連しない。それは、反応混合物を前もって冷却せずに、エステル化段階直後に有利に実施される。
【0024】
過剰のアルカリ金属水酸化物は、反応生成物と比較して少量ではあるが、エステルと反応し、結晶形態で得られ、容易にろ過することができる炭酸塩を形成する。
【0025】
上記の中和中に、反応生成物の酸価が0.08mgKOH/g未満である場合、遊離アルコールは反応混合物から分離される。
蒸気蒸留はこの段階に有用であることが見出され、粗生成物中に蒸気を通過させることにより単純な形態で実施することができる。
蒸気の利点は、触媒の最後の残留物が破壊され、都合よくろ過可能な加水分解生成物へと変換されることである。
この目的に関して、触媒の下流の生成物の除去を助けるために、高い表面積の吸着剤、例えば活性炭を蒸留の前に反応混合物に添加することが有利であり得る。
【0026】
遊離アルコールの除去は、エステルの乾燥後に行う。
この段階の特に単純で効果的な実施態様において、乾燥は、不活性ガスを生成物に通すことにより達成される。次いで、粗エステルはそれを固体(すなわち、カルボン酸の塩(恐らく、部分的にエステル化された)、触媒の加水分解生成物及び吸着剤)から解放するためにろ過する。
ろ過は、室温又は最大で室温の温度で、従来のろ過装置において実施する。
ろ過は、セルロース、珪藻土又は木粉などの慣用のフィルターを用いることができる。
【0027】
得られる混合物は、99.8%以上の純度及び、10APHAの優れた色を有し、フタル酸塩を含まないシクロヘキサンポリカルボン酸エステルであり、このシクロヘキサンポリカルボン酸エステルは可塑剤のために適切に用いることができる。
【0028】
本発明の工程は、エステルを調製するのに必要な反応時間及びエネルギーを劇的に減少させ、工業的規模で経済的に実施することができる。
【0029】
発明された工程から得られる可塑剤は、例えばDOP又はDINPが有する、フタル酸塩可塑剤としての同様の優れた性質及び加工可能性を有する。特に、発明された工程から得られる可塑剤は、全くフタル酸塩を含まず、健康及び安全、例えば食品の包装、フィルム、玩具、ウォーターベッド、ベビーカー、ボトルキャップ、医学的応用、布被覆、履き物、花のバッグ、ホイル、敷布などの高い要求に対して必要な全ての観点において適用可能である。
【0030】
本発明の工程は、いくつかの実施例により以下で説明する。
しかし、ここに示す全ての実施例は、単なる例示であり、本発明の特許請求の範囲を制限するものではない。
【0031】
[実施例]
以下の実施態様の実施例及び比較例のエステル化反応により得られる反応混合物は、ASTM−D1045(GC(ガスクロマトグラフィー)によるその純度、及びPt−CoユニットのColorによるその色)によりその酸価(mgKOH/g)を測定される。
【実施例1】
【0032】
1000mlの四つ口反応器に、154gのヘキサヒドロフタル酸無水物(HHPA)、370gのイソノニルアルコール(INA)、2.6gのテトライソプロピルチタン酸塩(TIPT)触媒を添加した。
エステル化は、250℃、5〜760ミリバールの圧力で、5時間、不活性ガスを用いて実施し、反応中に形成された水は反応系から除去した。
【0033】
エステル化の完了は酸価により観察することができ、酸価が1.0mgKOH/g以下に減少する場合、その後酸価が0.08mgKOH/g以下に減少するまで水酸化ナトリウムを用いて中和する。
中和後、INAの残りが300ppm以下に減少するまで、蒸気蒸留により反応混合物から遊離INAを分離する。
遊離INAの除去は、エステルの乾燥及びろ過の後に行う。シクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソノニルエステルの得られた反応混合物が、この工程により得られた。
【0034】
シクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソノニルエステルの分析は表1に示され、10APHAの色、0.05mgKOH/gの酸価及び99.8%の純度を有する。
得られた混合物は、可塑剤として用いることができる。
【実施例2】
【0035】
1000mlの四つ口反応器に、154gのヘキサヒドロフタル酸無水物(HHPA)、370gの2−エチルヘキシルアルコール(2−EH)、2.6gのテトライソプロピルチタン酸塩(TIPT)触媒を添加した。
エステル化は、200℃、5〜760ミリバールの圧力で、7時間、不活性ガスを用いて実施し、反応中に形成された水は反応系から除去した。
【0036】
エステル化の完了は酸価により観察することができ、酸価が1.0mgKOH/g以下に減少する場合、その後酸価が0.08mgKOH/g以下に減少するまで水酸化ナトリウムを用いて中和する。
中和後、2−EHの残りが300ppm以下に減少するまで、蒸気蒸留により反応混合物から遊離INAを分離する。
遊離2−EHの除去は、エステルの乾燥及びろ過の後に行う。
シクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジ(2−エチルヘキシル)エステルの得られた反応混合物が、この工程により得られた。
【0037】
分析は表1に示され、10APHAの色、0.07mgKOH/gの酸価及び99.6%の純度を有する。得られた混合物は、可塑剤として用いることができる。
【実施例3】
【0038】
1000mlの四つ口反応器に、146.3gのヘキサヒドロフタル酸無水物(HHPA)、7.7gの5−メチル−1,2−ヘキサヒドロフタル酸無水物(MHHPA)、370gのイソノニルアルコール(INA)、2.6gのテトライソプロピルチタン酸塩(TIPT)触媒を添加した。
エステル化は、250℃、5〜760ミリバールの圧力で、8時間、不活性ガスを用いて実施し、反応中に形成された水は反応系から除去した。
【0039】
エステル化の完了は酸価により観察することができ、酸価が1.0mgKOH/g以下に減少する場合、その後酸価が0.08mgKOH/g以下に減少するまで水酸化ナトリウムを用いて中和する。
中和後、INAの残りが300ppm以下に減少するまで、蒸気蒸留により反応混合物から遊離INAを分離する。
遊離INAの除去は、エステルの乾燥及びろ過後に行う。
【0040】
シクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソノニルエステル及び5−メチル−シクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソノニルエステルの得られた反応混合物が、この工程により得られた。
【0041】
分析は表1に示され、10APHAの色、0.06mgKOH/gの酸価及び99.5%の純度を有する。得られた混合物は、可塑剤として用いることができる。
【0042】
[比較例1]
1000mlの四つ口反応器に、154gのヘキサヒドロフタル酸無水物(HHPA)、370gのイソノニルアルコール(INA)、2.6gのパラ−トルエンスルホン酸(PTSA)触媒を添加した。
エステル化は、230℃、5〜760ミリバールの圧力で、5時間、不活性ガスを用いて実施し、反応中に形成された水は反応系から除去した。
【0043】
エステル化の完了は酸価により観察することができ、酸価が3.0mgKOH/g以下に減少する場合、その後酸価が0.08mgKOH/g以下に減少するまで水酸化ナトリウムを用いて中和する。
中和後、INAの残りが300ppm以下に減少するまで、蒸気蒸留により反応混合物から遊離INAを分離する。
遊離INAの除去は、エステルの乾燥及びろ過の後に行う。
シクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソノニルエステルの得られた反応混合物が、この方法により得られた。
【0044】
シクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソノニルエステルの分析は表1に示され、150APHAの色、0.08mgKOH/gの酸価及び99.5%の純度を有する。
得られた混合物は、可塑剤として用いることができる。
【0045】
[比較例2]
1000mlの四つ口反応器に、154gのヘキサヒドロフタル酸無水物(HHPA)、370gのイソノニルアルコール(INA)、2.6gのスズオクトエート(octoate)触媒を添加した。
エステル化は、230℃、5〜760ミリバールの圧力で、7時間、不活性ガスを用いて実施し、反応中に形成された水は反応系から除去した。
【0046】
エステル化の完了は酸価により観察することができ、酸価が1.0mgKOH/g以下に減少する場合、その後酸価が0.08mgKOH/g以下に減少するまで水酸化ナトリウムを用いて中和する。
中和後、INAの残りが300ppm以下に減少するまで、蒸気蒸留により反応混合物から遊離INAを分離する。
遊離INAの除去は、エステル乾燥及びろ過の後に行う。
シクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソノニルエステルの得られた反応混合物が、この方法により得られた。
【0047】
シクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソノニルエステルの分析は表1に示され、40APHAの色、0.07mgKOH/gの酸価及び99.6%の純度を有する。
得られた混合物は、可塑剤として用いることができる。
【0048】
[表1]

【0049】
表1から、実施例1のTIPI触媒の存在下でのエステル化により得られる反応生成物が、比較例1及び比較例2のものより優れた色、酸価及び純度を有し、実施例2及び3も、比較例1及び比較例2のものより優れた色を有していることが示される。
【0050】
[比較例3]
エステル化は二段階において実施された。
第一段階においては、触媒を全く添加せずに、ジカルボン酸のモノエステルを形成した。
【0051】
1000mlの四つ口反応器に、154gのヘキサヒドロフタル酸無水物、370gのイソノニルアルコールを添加し、160℃の温度で反応を実施した。
この場合におけるエステル化の経過及び完了は、水の形成により観察することができる。
【0052】
第二段階において、ジカルボン酸のエステル化を完了させ、それは、2.6gのTIPT触媒の存在下で、第一段階で用いた温度を超える温度及び最大で250℃において、5〜760ミリバールの圧力で11時間実施し、形成した水は反応系から除去した。
【0053】
エステル化の完了は酸価により観察することができ、酸価が1.0mgKOH/g以下に減少する場合、その後酸価が0.08mgKOH/g以下に減少するまで水酸化ナトリウムを用いて中和する。
中和後、INAの残りが300ppm以下に減少するまで、蒸気蒸留により反応混合物から遊離INAを分離する。
遊離INAの除去は、エステルの乾燥及びろ過の後に行う。
シクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソノニルエステルの得られた反応混合物が、この工程により得られた。
【0054】
比較例3と実施例1の間の差を、表2に示す。
【0055】
[表2]

【0056】
表2から、2つの異なる生成工程から得られるエステル化生成物の相違を明らかに比較することができることが示され、実施例1の高温の一段階のエステル化により得られる反応生成物が、比較例3の二段階の工程により得られる反応生成物のものより優れた純度、酸価及び色を有することが示され得る。
【0057】
更に、実施例1の一段階の方法による反応時間はたった5時間であり、比較例3のものより6時間も短い。
【0058】
比較例3に関して、生成方法が二段階の反応を含んでおり、触媒が第二段階で添加され、生成方法がより長い反応時間を必要とするので、反応生成物の質は本発明の実施例1のものと比べて悪い。
【0059】
従って、本発明の一段階の高温でのエステル化工程による反応生成物は、効果的に生成時間を短くし、生成エネルギーを節約し、生成費用を削減し、高い質の反応生成物を得ることができる。
【0060】
[比較例4]
加工可能性の物理的特性をDOP及びDINPの可塑剤と比較するために、可塑剤として実施例1に記載した上記の工程により得られる、シクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソノニルエステルを用いる。
【0061】
加工可能性試験は、それぞれの場合において、100gのPVC粉末(DP=1000)、1.5gのカルシウム−亜鉛液体安定剤及び40gのシクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソノニルエステル、DOP及びDINPを別々に測定することにより実施する。
試験結果を表3に示す。
【0062】
[表3]

注記:「+」のサインがより多いと、より優れた質を意味する。
【0063】
試験結果は、実施例1に記載の工程により得られたシクロヘキサンポリカルボン酸ジイソノニルエステルの可塑剤が、初期の色、熱耐性、ブルーミング、移行性、透明度、揮発性及び可塑化効率において、DOP及びDINP可塑剤のものと等しい加工可能性を有していることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器中に同時に添加された、チタニウム含有触媒、スズ含有触媒又は無機酸の存在下でモノ−アルコールと反応させた、シクロヘキサンポリカルボン酸又はその誘導体を、200〜250℃の温度、5〜760ミリバールの圧力で、5〜8時間の第一段階のエステル化反応にかけ、フタル酸非含有可塑生成物を得ることと、
存在するH+イオンを中和するのに必要な化学量論的な量の4〜5倍に対応する過剰量において添加したアルカリ試薬を有する条件下で、反応混合物に基づいて5〜20重量%のアルカリ金属水酸化物溶液を用いて反応混合物を中和することと、
中和後に、反応生成物から遊離のアルコールを分離することと、
遊離のアルコールを除去した後に、反応生成物を乾燥、ろ過し、シクロヘキサンポリカルボン酸エステルの可塑剤を得ることと、を含むことから成る、
フタル酸塩非含有シクロヘキサンポリカルボン酸エステル可塑剤を調製するための方法。
【請求項2】
シクロヘキサンポリカルボン酸及びその誘導体が、シクロヘキサン1,2−ジカルボン酸若しくはその誘導体、シクロヘキサン5−メチル−1,2ジカルボン酸若しくはその誘導体、シクロヘキサン5−エチル−1,2ジカルボン酸若しくはその誘導体、シクロヘキサン1,3−ジカルボン酸、シクロヘキサン1,4−ジカルボン酸、シクロヘキサン1,2,3−トリカルボン酸、及びシクロヘキサン1,2,4−トリカルボン酸を含み、モノ−アルコールが、4〜12の炭素原子を有する、非分岐又は分岐の第一級モノ−アルコールを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
シクロヘキサンジカルボン酸又はその誘導体の量は、反応物質の総量に基づいて30〜45重量%を採用する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
モノ−アルコールの量は、反応物質の総量に基づいて40〜80重量%を採用する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
使用する触媒が、硫酸、ホウ酸、リン酸、ペルオキソ塩素酸及びp−トルエンスルホン酸を含む無機酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
触媒は金属を含有し、スズオクトエート(octoate)、テトライソプロピルチタン酸塩(TIPT)及びテトライソブチルチタン酸塩(TIBP)の群の少なくとも1つから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
触媒の量は、反応物質の総量に基づいて0.4〜6重量%を採用する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
反応物質がアルカリ金属の水酸化物の溶液により中和され、溶液の濃度が溶液に基づいて9〜16重量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
反応中に形成された反応の水がアルコールとの共沸により反応混合物から除去され、触媒がエステル化反応の完了後に蒸気及び活性炭により除去される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
可塑剤の組成物が、フタル酸塩を全く含まないシクロヘキサンポリカルボン酸エステルである、請求項1に記載の方法から得られる可塑剤。

【公開番号】特開2008−239582(P2008−239582A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85877(P2007−85877)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(599011296)南亜塑膠工業股▲ふん▼有限公司 (10)
【Fターム(参考)】