説明

フットカバー及びその編成方法

【課題】フットカバーにおいて、使用前状態では丸みなどが生じずに履きやすいものとし、また着用状態では靴からのはみ出しを生じずにずり上がりやずり下がり等も防止できるものとし、更に包装状態及び使用前状態のいずれの状態でもスッキリとして平坦な外観が得られるようにする。
【解決手段】口ゴム部2と、その前半周部からつま先を包み込み土踏まずを下から覆う前部袋体3と、その後端から踵を包み込む後部袋体5とを有し、前部袋体3は、口ゴム部2の前半周部に対して編成を開始する位置でのシリンダ振り幅が180°以上となる半回転往復編みで編成された甲面覆い部11と、甲面覆い部11から半回転往復編みで編成されたつま先覆い部12と、つま先覆い部12に続き甲面覆い部11における左右両側縁の相互間を編み繋いで編成された足底覆い部13とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フットカバー及びその編成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6に示すように、ハイヒールやパンプスなど、足の甲側が多く露出するような靴100を履いたときでも、靴擦れや汗蒸れなどを防止したり冷えへの対策をしたりするために、靴下を履きたいという希望はある。このような希望を叶えるため、靴100からのはみ出しを可及的に抑えて外観が悪くならないようにしたフットカバー101と呼ばれる短い靴下が提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
このようなフットカバー101では、口ゴム部(履き口部分)102を前後方向に大きく開口させる必要がある。しかし、口ゴム部102を大きく開口させるには、つま先の甲側寸法Xを短く形成させる必要があった。また靴100を脱いだり履いたりするときや歩行時などに、つま先側がずり上がってくる現象(矢符Y参照)や、踵側が靴内へずり落ちる現象などを防止するため、つま先側では前方への緊締力Wを強くしたり、踵側では後方への膨らみZを深くしたりすることが要請されていた。
【0004】
ところで、フットカバー101には、着用状態のときだけでなく、包装状態のとき、及び包装から出した後の使用前状態(非使用時)のときを合わせた三つの状態のときに、それぞれの外形状に関して、異なった要請がされている。
すなわち、着用状態に関しては、前記したように靴100からはみ出さないこと(歩行時などにおけるつま先側のずり上がり及び踵側のずり下がりを含む)が重要とされている。
【0005】
これに対し、包装状態に関しては、着用時において靴100からのはみ出しが無いものであること、履きやすいものであること等を、看者(購入者)に対して容易に連想させ、商品価値をアピールできる形状であることが好ましいものとされる。そのうえで、見栄えがよいこと(スッキリした外観であること)が、殊に好ましいとされる。
また使用前状態に関しては、実際に履きやすいことが要求される。また洗濯を終えて干しているときやタンスの引き出しに収納したときの姿として、平坦になること(丸まることを原因として表裏方向に嵩張らないこと)が重要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−261079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この種のフットカバー101を靴下編機(丸編機)によって編成する場合、つま先部や踵部などで外膨れ方向のカーブを形成させるには、カーブの内側に、カーブ半径の中心から径方向外方へ延びるような小さなゴアラインが少なくとも1本、場合によってはY字状乃至放射状に複数本現れる。
このような小さなゴアラインは、フットカバー101の左右両脇部で前後方向に沿って現れる長いゴアラインから枝分かれするような外観を呈することから、「ヒゲ」等と呼称されることもあるが、本明細書では、以下「小ゴアライン」と言い、主たるゴアラインについては「大ゴアライン」と言って両者を区別することにする。
【0008】
このような小ゴアラインは、カーブの深みを大きくさせようとすればするほど、多数本が必要となるため、殊に脱げにくさを重視する踵部では、必然的に小ゴアラインの本数が多くなる傾向となる。
しかしながら、小ゴアラインは、設ける本数が多ければ多いほど編生地として丸みを帯びさせてしまう欠点があった。そのため、つま先部と踵部とに小ゴアラインを多く設けたり、或いは口ゴム部102の前後方向長さを長くする目的で大ゴアラインの中央部にも小ゴアラインを設けるようなことをすると、足底側がU字状に丸まって、つま先部と踵部とが口ゴム部側(上側)を凹形に湾曲させながら異常に接近するような形状となってしまう(前記した特許文献1などでもそのように図示されている)。
【0009】
このようになると、着用時(足に履くとき)には、いちいち、つま先部と踵部とを相反する方向へ引っ張ってフットカバー101の丸みを延ばすようにしながら履くことが必要になり、とても履きにくいということがあった。
また、このように、すぐに丸みを帯びてしまうようなフットカバー101では、洗濯後に干すときやタンスの引き出しに収納したりするときに、非常に見栄えの悪いものとなることも欠点の一つになっている。
【0010】
更に、小ゴアラインは、他の小ゴアラインや大ゴアラインから枝分かれする分岐点に小さな孔が形成されるという構造的で且つ宿命的な、好ましくない特徴がある。この小さな孔は、包装時にフットカバー101内へ挿入される型紙により引き延ばされて、より大きな、目立った孔となってしまう。そうでなくても、小ゴアラインが多く設けられることで、商品イメージとしてはスッキリ感が損なわれてしまうということがある。
【0011】
これらのことから、小ゴアラインはできることならば、減らしたいという要請があったが、前記したように小ゴアラインを減らすことはカーブに深みを与えられないことに繋がり、場合によっては緊締力を強化できないことにも繋がるものであった。それ故、ひいては、つま先側でのずり上がりや踵側でのずり落ちが発生しやすく、甚だしい場合には口ゴム部102を前後方向に大きく開口させる作用すらも不十分となって、靴100からのはみ出しさえ抑えられない等、種々の欠点を招来するといった具合に、二律背反した問題となっていた。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、使用前状態では丸みなどが生じずに履きやすいものとし、また着用状態では靴からのはみ出しを生じずにずり上がりやずり下がり等も防止できるものとし、更に包装状態及び使用前状態のいずれの状態でもスッキリとして平坦な外観が得られるようにしたフットカバーと、このフットカバーの編成方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じた。
即ち、本発明に係るフットカバーは、エンドレスの口ゴム部と、この口ゴム部の前半周部からつま先を足甲側から足裏側へと包み込んで土踏まずを下から覆うように編成された前部袋体と、この前部袋体の後部側から踵を包み込んで口ゴム部の後半周部との連結部を形成するように編成された後部袋体とを有している。
【0014】
そして、前記前部袋体は、口ゴム部の前半周部に対して編成を開始する位置でのシリンダ振り幅が180°以上となるようにして半回転往復編みを行うことにより編成された甲面覆い部と、この甲面覆い部から半回転往復編みを行うことにより編成されたつま先覆い部と、このつま先覆い部に続き前記甲面覆い部における左右両側縁の相互間を編み繋ぐように半回転往復編みを行うことにより甲面覆い部との接合間に大ゴアラインを生じさせて編成された足底覆い部とを有した構成である。
【0015】
ここにおいて「シリンダ振り幅」とは、靴下編機(丸編機)において、そのシリンダをおおよそ半回転づつ正回転と逆回転とに交互に切り替えながら編む編み方(以下「半回転往復編み」と言う)をさせるとき、実際に生地が編成される周方向領域を言うものとする。
なお、シリンダ振り幅を大きくしたり小さくしたりする方法には、基本的に、シリンダの回転角度を操作する方法と、編成動作する有効針(休止させない編成針)の本数(配置領域)を操作する方法との二通りの方法がある。
【0016】
シリンダの回転角度を操作する方法では、有効針の本数をシリンダの回転角度に一致させつつシリンダの回転角度を変化させるようにするので、「シリンダ振り幅が180°以上となる」ということは、シリンダを半回転又はそれより大きく回転させることを指すことになる。
これに対して有効針の本数を操作する方法では、シリンダの回転角度を一定にしつつ有効針の本数を増減させるようにするので、「シリンダ振り幅が180°以上となる」ということは、シリンダを180°以上の回転角度にさせながら、そのなかの180°領域又はそれより広い領域を有効針にさせることを指すことになる。
【0017】
これらの説明から明かなように、前部袋体の甲面覆い部が、180°以上のシリンダ振り幅による半回転往復編みで編成されている(即ち、口ゴム部の周方向全長のうちその半周又はそれを超える範囲から甲面覆い部が設けられている)ということは、この甲面覆い部の口ゴム部に近い部分は、少なくとも口ゴム部の前後方向中央部まで及んでいるということである。
【0018】
そのためこのフットカバーを着用すると、前部袋体の甲面覆い部には、そのつま先側を口ゴム部の前後方向中央部へ向けて引き込むような緊締作用が強く現れることになる。なぜなら、この緊締作用は、口ゴム部に近ければ近いほど(上位側となればなるほど、また口ゴム部の前後方向中央部に近接するか又はそれより後方側となればなるほど)、編生地としてのコース方向(編成糸がループを形成している方向)で発生するからである。
【0019】
このように前部袋体の甲面覆い部において、口ゴム部に近い位置で強い緊締作用が生じると、着用時には、該当部分で皺やだぶつき等が起こるのを抑えて足の甲へのフィット性を高めることができることになる。その結果、口ゴム部はその開口形状として前後方向長さを大きく形成させることができるようになる。
従って、本発明に係るフットカバーでは、口ゴム部を前後方向に長く開口させる状態を保持でき、その着用状態として靴からのはみ出しを可及的に抑えることができるようになる。また、前部袋体、殊に甲面覆い部がずり上がるようになるのを防止できる。ここにおいて、前部袋体に小ゴアラインを数多く形成させる必要はなく、小ゴアラインの形成本数を可及的に減らすことが可能となっている。
【0020】
前部袋体を編成するに際し、口ゴム部の前半周部に対して編成を開始する位置でのシリンダ振り幅が180°以上でないと、前記作用効果は十分に得られないものである。
一方、本発明に係るフットカバーでは、口ゴム部、前部袋体、後部袋体をこの順番で編成するものであり、後部袋体を編成後に、口ゴム部の後半周部と後部袋体の連結部(編み終わり部分)とを縫合するものである。
【0021】
このようなことから、踵を包み込むための後部袋体として、小ゴアラインの形成本数を可及的に減らしたとしても、深みのある外膨れカーブを付与させることができる。そのため、着用状態において踵側のずり落ちを抑えることが可能となる利点に繋がっている。
前記したように、前部袋体及び後部袋体において小ゴアラインの形成本数を可及的に減らすことが可能であるため、使用前状態では丸みなどが生じずに履きやすいものとなる。また、包装状態及び使用前状態のいずれの状態でも、分岐位置での孔の発生や小ゴアラインの存在自体が原因となる外観の低下を防止できる利点がある。そのため、スッキリとして平坦な外観が得られるものである。
【0022】
口ゴム部の後半周部と後部袋体との連結部は、リンキングにより縫合するのが好適である。
リンキングは縫合ラインの隆起が小さく且つ目立ちにくいので、この点がロッソなどの他の縫合方法と異なっており、それ故に、リンキングによる縫合を行うことで履き心地が良好になり、外観的な違和感、低級感も払拭できる利点が得られるものとなる。
【0023】
前部袋体と後部袋体との前後間及び後部袋体と口ゴム部の後半周部との上下間に対し、全周回転編みを行うことにより編成されたエンドレス帯が設けられたものとすればよい。
このようなエンドレス帯を設けると、踵部での深みの調節や足底部の前後方向長さの調節が可能となる。なお、これら踵部の深みと足底部の前後方向長さとの間には、足の適合サイズとの間に密接な相関がある(踵部の深みを大きくする場合には同時に足底の前後方向長さも長くする必要がある、といった具合)ため、エンドレス帯を設けるか否か、或いはエンドレス帯の太さをどの程度にするかの操作は、至極、合理的な操作であると言える。
【0024】
この場合、エンドレス帯は、エンドレス形体を縮径させる方向で緊締力を生じる編生地として形成させるようにしてもよい。「緊締力を生じる編生地」は、例えば、編成糸として緊締力を生起し得るものを使用したり、編組織として緊締力を生起し得る構造にしたりすることで実現可能である。
このようにすると、フィット性を高めたり、場合によってはサポート効果やテーピング効果、ツボ刺激効果などを持たせたりすることができる。また当然に、踵側でのずり落ち防止効果を高めることにも繋がって好適である。
【0025】
前部袋体の足底覆い部は、コース数の増加にしたがってシリンダ振り幅を徐々に拡大させるように半回転往復編みを行って編成するようにしてもよい。
このようにすることで、使用前状態として、土踏まず部分を直線状に見せかけることができるものであり、外観性に優れたものとなる。
前記前部袋体には、大ゴアラインが唯一のゴアラインとして生じているものとすることもできる。
【0026】
このようにすると、前部袋体に小ゴアラインが全く存在しなくなるので、「丸みなどの発生防止による履きやすさの効果」をはじめ、「分岐孔や小ゴアライン自体による外観の低下防止の効果」、「スッキリとして平坦な外観が得られる効果」等々が、より一層強く得られるものとなる。
一方、本発明に係るフットカバーの編成方法では、シリンダの全周回転によりエンドレスの口ゴム部を編成し、この口ゴム部の前半周部に対し振り幅が180°以上となるようにしてシリンダを半回転往復させつつつま先を足甲側から足裏側へと包み込み土踏まずへ及ぶ前部袋体を編成し、この前部袋体の編成後にシリンダの半回転往復を行って踵を包み込み更に口ゴム部の後半周部との連結部を形成するように後部袋体を編成する。
【0027】
なお、前部袋体の編成後、後部袋体を編成開始する前にシリンダの全周回転を行って前部袋体と後部袋体との前後間及び後部袋体と口ゴム部の後半周部との上下間にエンドレス帯を編成することもできる。
このようにすることで、本発明に係るフットカバーを編成することが可能になり、所期の目的を達成することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るフットカバーは、使用前状態では丸みなどが生じずに履きやすく、また着用状態では靴からのはみ出しを生じずにずり上がりやずり下がり等も防止できるものとなり、更に包装状態及び使用前状態のいずれの状態でもスッキリとして平坦な外観が得られるものであって、また本発明に係るフットカバーの編成方法によりこのフットカバーを編成することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るフットカバーの一実施形態を使用前状態にして示した側面図である。
【図2】本発明に係るフットカバーの一実施形態を着用状態にして示した側面図である。
【図3】本発明に係るフットカバーの一実施形態を包装状態にして示した側面図である。
【図4】本発明に係るフットカバーの一実施形態を編成する手順にしたがって分解して示した仮想上の側面図である。
【図5】本発明に係るフットカバーの一実施形態を示した展開図である。
【図6】パンプスなどの靴を履いたときのフットカバーの使用例を示した斜視図である。
【図7】フットカバーの比較例を使用前状態にして示した側面図である。
【図8】フットカバーの比較例を着用状態にして示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1乃至図5は、本発明に係るフットカバー1の一実施形態を示したものであって、そのうち図1はフットカバー1の使用前状態(非使用時)であり、図2は着用状態(足に履いたとき)である。また図3は包装状態(型紙Tを入れて整形させたとき)の一例である。但し、型紙Tの形状は適宜変更可能なものであり、この図3は包装状態を一義的なものとして限定したものではない。なお、包装材自体は省略してある。
【0031】
このフットカバー1は、履き口を形成するためのエンドレスの口ゴム部2と、この口ゴム部2の前半周部からつま先を足甲側から足裏側へと包み込んで土踏まずを下から覆うように編成された前部袋体3と、この前部袋体3の後端から踵を包み込んで口ゴム部2の後半周部との連結部4を形成するように編成された後部袋体5とを有している。
本実施形態では、前部袋体3と後部袋体5との前後間及び後部袋体5の連結部4と口ゴム部2の後半周部との上下間に、エンドレス帯6が設けられたものとしてある。また、口ゴム部2の後半周部に対し、エンドレス帯6を介して後部袋体5の連結部4を連結する部分は、リンキング(かがり縫い)により縫合されたものとしてある。
【0032】
なお、エンドレス帯6は必須不可欠なものではなく、場合によっては省略することもできる。言うまでもなく、エンドレス帯6を省略する場合には、口ゴム部2の後半周部と後部袋体5の連結部4とが直接的に連結されることになる。
口ゴム部2は、ゴム糸を使用し、またゴム編みをするなどしてエンドレスを縮径させる方向で緊締力が生じるように編成された部分である。
【0033】
本実施形態では、口ゴム部2の直下部に対し、口ゴム部2のエンドレス形体に沿わせるようにして編み込み部10を設けてある。この編み込み部10は、靴下編機(丸編機)による編成作業上、口ゴム部2から前部袋体3へ編組織を移行させるために必要とされるが、フットカバー1としての構成自体に必要とされるものではない。そのため、外観性などの観点からは可及的に細くさせるのが好ましく、本実施形態では2コースだけに抑えてある。
【0034】
前部袋体3は、甲面覆い部11と、つま先覆い部12と、足底覆い部13とを有している。
甲面覆い部11は、図2に示すように着用時につま先の足甲側(上面)を覆う部分に相当する。この甲面覆い部11は、口ゴム部2(編み込み部10)の前半周部に対し、シリンダ振り幅が180°以上となるようにして編成を開始し、以後、半回転往復編みを行うことにより編成してある。
【0035】
すなわち、口ゴム部2の周方向全長のうち、その半周又はそれを超える範囲から甲面覆い部11が設けられている。そのため、甲面覆い部11の口ゴム部2に近い部分は、少なくとも口ゴム部2の前後方向中央部まで及んでいることになる。
つま先覆い部12は、図2に示すように着用時につま先の先端側(前面)を覆う部分に相当する。このつま先覆い部12を編成するには、甲面覆い部11からシリンダ振り幅を適宜調整しつつ半回転往復編みを行うようにする(図5参照)。シリンダ振り幅の調整に際して、当該シリンダ振り幅の拡大及び縮小を交互に行うようにした場合には、つま先の左右両脇に小ゴアライン17,18,19などが生じるようになる。
【0036】
図2に示すように、小ゴアライン17は、着用時にはつま先の根本(親指及び小指の付け根の左右両外側あたり)から足爪の先端へ向けて斜め上方へカーブカーブするように引き延ばされる。また小ゴアライン18は、つま先の根本からつま先の先端下面(親指及び小指の腹面あたり)へ向けて斜め下方へカーブするように引き延ばされる。
更に小ゴアライン19は、つま先の根本まわり(親指及び小指の付け根の下面)を通って足裏側へ巻き込むように引き延ばされる。これらの総合作用として、小ゴアライン17,18の相互間となる領域が、ちょうど、つま先(足指の並び)を左右両側から中央へ向けて包み込むような引張作用を生じることになる。
【0037】
また、斜め上方へ延びる小ゴアライン17は、甲面覆い部11にできる凸湾曲面とつま先覆い部12にできる凸曲面とを区画して、それぞれの引張作用を釣り合わせる境界線(見切り線)となり、斜め下方へ延びる小ゴアライン18は、つま先覆い部12にできる凸曲面と足底覆い部13にできる凸湾曲面とを区画して、それぞれの引張作用を釣り合わせる境界線(見切り線)となるような作用をも奏する。
【0038】
更に小ゴアライン19については、つま先覆い部12から足底覆い部13への繋ぎ部分で余分な弛みが生じるのを防止しつつ、足指の曲がりに柔軟に追従させるような適度な引張作用を生じることになる。
なお、これら小ゴアライン17,18,19については、その配置や指向の向き、長さ、形成本数などが限定されるものではない。目立たない範囲であれば形成本数を増やしてもよいし、目立つようなら減らしてもよい(殊に図示したなかで最も後位置となる小ゴアライン19等は省略してもよい)。場合によっては皆無にすることも可能である。
【0039】
足底覆い部13は、図2に示すように着用時につま先の足裏側(下面)を覆う部分に相当する。この足底覆い部13を編成するには、つま先覆い部12に続き、甲面覆い部11における左右両側縁の相互間を編み繋ぐように、半回転往復編みを行う(図5参照)。
このとき、コース数が増加するにしたがって(足裏の後方となるほど)、シリンダ振り幅を徐々に拡大させるようにする。これにより、使用前状態(図1参照)として、土踏まず部分を直線状に見せかけることができる。
【0040】
このようにして足底覆い部13を編成することで前部袋体3が形成されることになり、これによって前部袋体3には、甲面覆い部11と足底覆い部13との接合間に大ゴアライン20が生じることになる。
エンドレス帯6は、エンドレスのリング形体を呈するようになったもので、その約半周が、前部袋体3と後部袋体5との前後間に挟まるように配置され、また残り約半周が、後部袋体5の連結部4と口ゴム部2の後半周部との上下間に挟まれるように配置される。このエンドレス帯6を編成するには、シリンダの全周回転編みを行うようにする(図4及び図5参照)。
【0041】
このエンドレス帯6のコース数を多く編めば、帯幅が広くなり、前部袋体3と後部袋体5との間をそれだけ離反させることができる。すなわち、フットカバー1として、踵部の深みが大きくなり、同時に足底の前後方向長さも長くなる。
反対に、エンドレス帯6のコース数を少なく編めば、帯幅が狭くなり、前部袋体3と後部袋体5との間をそれだけ接近させることができる。またエンドレス帯6を編成しなければ、前部袋体3と後部袋体5とを直接連結させることができる。すなわち、フットカバー1として、踵部の深みが浅くなり、同時に足底の前後方向長さも短くなる。
【0042】
このようにエンドレス帯6の編成の程度により、フットカバー1としての踵部での深みの調節や足底部の前後方向長さの調節が可能となる。
後部袋体5を編成するには、エンドレス帯6からシリンダ振り幅の拡大及び縮小を交互に行う半回転往復編みを行うようにする(図5参照)。これに伴い、踵の左右両脇には小ゴアライン25が生じるようになる。
【0043】
なお、本実施形態では前部袋体3と後部袋体5との間にエンドレス帯6が設けられたものを示しているため、後部袋体5に生じる小ゴアライン25は、見かけ上、大ゴアライン20とは別個独立した配置となっている(即ち、大ゴアライン20から分岐したものではない)。しかし、エンドレス帯6を設けない場合であれば、大ゴアライン20と接続される場合も想定される。そのため、この小ゴアライン25については、本明細書において「小ゴアライン」として分類したものである。
【0044】
この小ゴアライン25は、図2に示すように、着用時には踵の前方(土踏まず後部の左右両外側あたり)から踵の膨らみに沿ってその下部へ潜り込むように引き延ばされる。そのため、この小ゴアライン25から後部袋体5の後縁に形成される連結部4までの間の領域が、ちょうど踵を包み込んで吊り上げるような引張作用を生じることになる。
なお、この小ゴアライン25についても、その配置や指向の向き、長さ、形成本数などが限定されるものではない。目立たない範囲であれば形成本数を増やしてもよいし、目立つようなら減らしても、また場合によっては皆無にしてもよい。
【0045】
このようなフットカバー1を編成するには次のようにする。すなわち、まず靴下編機におけるシリンダの全周回転により、エンドレスの口ゴム部2及び編み込み部10を編成する(図4及び図5の上部に示すリング部分の編成)。
次に、この口ゴム部2(編み込み部10)の前半周部に対し、振り幅が180°以上となるようにしてシリンダを半回転往復させつつ、つま先を足甲側から足裏側へと包み込み、更に土踏まずへ及ぶように前部袋体3を編成する(図4及び図5のA〜Jの部分)。
【0046】
この前部袋体3の編成中、シリンダの振り幅を交互に拡大させたり縮小させたりすることで、甲面覆い部11、つま先覆い部12、足底覆い部13のそれぞれに小ゴアライン17(図4及び図5のB−C−D)、小ゴアライン18(図4及び図5のD−E−F)及び小ゴアライン19(図4及び図5のG−H−I)を生じさせる。
この前部袋体3において、足底覆い部13を編成する場合は、前記したように甲面覆い部11における左右両側縁の相互間を編み繋ぐようにするので、甲面覆い部11と足底覆い部13との接合間に大ゴアライン20が生じることになる(図4及び図5のI−J)。
【0047】
次に、前部袋体3の編み終わり位置から口ゴム部2の後半周部にわたる領域を含め、これらを編成開始位置としてシリンダの全周回転を行ってエンドレス帯6を編成する(図5のJ−K)。エンドレス帯6のコース数(帯幅)は、編成しようとするフットカバー1のサイズに合わせて適宜調節する。
エンドレス帯6の編成後は、再びシリンダの半回転往復を行うことで、踵を包み込み、且つ口ゴム部2の後半周部との連結部4を形成させるようにして、後部袋体5を編成する。この後部袋体5の編成中、シリンダの振り幅を拡大させたり縮小させたりすることで、小ゴアライン25(図4及び図5のK−L−M)を生じさせる。
【0048】
次に、編成完了後の編生地を靴下編機から取り外し、後部袋体5の連結部4とエンドレス帯6の約半周分(エンドレス帯6を設けなかった場合は口ゴム部2の後半周部)とを、リンキングマシン又は手作業によりリンキングで縫合する。これにより本発明に係るフットカバー1を完成させることができる。
以上説明したところから明かなように、本発明に係るフットカバー1は、前部袋体3の甲面覆い部11が、180°以上のシリンダ振り幅による半回転往復編みで編成されており、これによって口ゴム部2の周方向全長のうち、その半周又はそれを超える範囲から甲面覆い部11が設けられたものとなっている。
【0049】
そのため、甲面覆い部11の口ゴム部2に近い部分は、少なくとも口ゴム部2の前後方向中央部まで及んでいる。従って、図2に示すように、このフットカバー1を着用すると、前部袋体3の甲面覆い部11で、つま先側を口ゴム部2の前後方向中央部へ向けて引き込むような緊締作用Pが強く現れることになる。
なぜなら、この緊締作用Pは、口ゴム部2に近ければ近いほど(上位側となればなるほど、また口ゴム部2の前後方向中央部に近接するか又はそれより後方側となればなるほど)、編生地としてのコース方向(編成糸がループを形成している方向)で発生するからである(なお、図4参照)。
【0050】
図7及び図8は、比較例のフットカバー(以下、「比較カバー」と言う)120を示したもので、前部袋体121の甲面覆い部122は、180°に満たないシリンダ振り幅による半回転往復編みで編成されている。すなわち、口ゴム部123の周方向全長のうち、その半周に満たない範囲のみで甲面覆い部122が設けられている。
更に言えば、甲面覆い部122の口ゴム部123に近い部分は、口ゴム部2の前部にしか面していないため、図8に示すようにこの比較カバー120を着用しても、甲面覆い部122と足底覆い部124とが引き合うような緊締作用Qしか生じないのである。
【0051】
結果として、つま先側を口ゴム部123の前後方向中央部へ向けて引き込むような緊締作用Pは殆ど得られないことが明かである。このことは、この比較カバー120においては口ゴム部123を前後方向に長い開口形状のものとして形成できないことの一要因でもあり、靴を履いたときに甲面覆い部122が靴から顕著にはみ出して、見栄えの悪いものとなる原因になっていた。
【0052】
このように、本発明に係るフットカバー1では、前部袋体3の甲面覆い部11において口ゴム部2に近い位置で強い緊締作用Pが得られるので、この緊締作用Pが得られる該当部分で皺やだぶつき等が起こらないようになる。
これにより足の甲へのフィット性が高められ、その結果、口ゴム部2は、その開口形状として前後方向長さを大きく形成させることができるようになる。それ故、着用状態として靴からのはみ出しを可及的に抑えることができ、前部袋体3、殊に甲面覆い部11がずり上がるようになるのを防止できる。
【0053】
また、本発明に係るフットカバー1では、前部袋体3に生じる小ゴアライン17〜19や後部袋体5に生じる小ゴアライン25の形成本数を可及的に減らすことができるので、使用前状態(図1参照)では丸みなどが生じずに履きやすいものとなり、包装状態(図3参照)及び使用前状態のいずれの状態でも、分岐位置での孔の発生や小ゴアライン17〜19,25の存在自体が原因となる外観の低下を防止できる利点がある。そのため、スッキリとして平坦な外観が得られるものである。
〔その他〕
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施の形態に応じて適宜変更可能である。
【0054】
例えば、エンドレス帯6は、エンドレス形体を縮径させる方向で緊締力を生じる編生地として形成させるようにしてもよい。
ここにおいて「緊締力」とは、前部袋体3や後部袋体5が着用に必要な程度に有した緊締力(引っ張り作用)に比べて更に強く(積極的に)生じさせるものを原則として言う。また例外的には、前部袋体3や後部袋体5が着用に必要な程度に有した伸縮性を局部的に抑制させる作用(延びないようにする作用)を言うものとする。
【0055】
このような緊締力のうち、強い引っ張り作用を生じさせるための編生地としては、例えば、ポリエステル繊維やナイロン繊維等のマルチフィラメント合成繊維等を、芯とする弾性糸にカバーリングした糸、或いはFTY、SCY、DCYや、綿等の短繊維で被覆されたCSY、非弾性糸と弾性糸とを撚糸したものなど、各種の被覆弾性糸を裏目に使うようなプレーティング(添え糸編み)を行うことで実現できる。
【0056】
その他、編成糸として緊締力を生起し得る編成糸を使用したり、編組織として緊締力を生起し得る構造にしたりすることで実現可能である。
これに対し、伸縮性を局部的に抑制させる(延びないようにする)緊締力を生じさせるためには、例えば、エンドレス帯6に対して樹脂プリントを施すことで実現できる。
これらの方法によりエンドレス帯6に緊締力を生じさせると、フィット性を高めたり、場合によってはサポート効果やテーピング効果、ツボ刺激効果などを持たせたりすることができる。また当然に、踵側でのずり落ち防止効果を高めることにも繋がって好適である。
【0057】
前部袋体3、後部袋体5及びエンドレス帯6は、平編み、ゴム編み、パール編みのいずれを採用してもよく、これらを単一化させてもよいし部位ごとに複合化させてもよい。また、局部的又は全体的にメッシュを入れたり、その他柄を編み込んだりすることも勿論可能である。
後部袋体5に対し、踵の背側を覆うような位置付けとなる内面部分に滑止め加工を施して、一層のずり落ち防止効果を得るようにしてもよい。滑止め加工としては、例えば樹脂ドット(点状の微少な丘を成す突起)を分散配置で設けたり、シート状の適宜滑止め材を縫着や接着などによって付設したりする方法がある。
【符号の説明】
【0058】
1 フットカバー
2 口ゴム部
3 前部袋体
4 連結部
5 後部袋体
6 エンドレス帯
11 甲面覆い部
12 つま先覆い部
13 足底覆い部
17〜19 小ゴアライン
20 大ゴアライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンドレスの口ゴム部(2)と、
この口ゴム部(2)の前半周部からつま先を足甲側から足裏側へと包み込んで土踏まずを下から覆うように編成された前部袋体(3)と、
この前部袋体(3)の後部側から踵を包み込んで口ゴム部(2)の後半周部との連結部(4)を形成するように編成された後部袋体(5)とを有し、
前記前部袋体(3)は、
口ゴム部(2)の前半周部に対して編成を開始する位置でのシリンダ振り幅が180°以上となるようにして半回転往復編みを行うことにより編成された甲面覆い部(11)と、
この甲面覆い部(11)から半回転往復編みを行うことにより編成されたつま先覆い部(12)と、
このつま先覆い部(12)に続き前記甲面覆い部(11)における左右両側縁の相互間を編み繋ぐように半回転往復編みを行うことにより甲面覆い部(11)との接合間に大ゴアライン(20)を生じさせて編成された足底覆い部(13)とを有している
ことを特徴とするフットカバー。
【請求項2】
前記口ゴム部(2)の後半周部と後部袋体(5)との連結部(4)がリンキングにより縫合されている
ことを特徴とする請求項1記載のフットカバー。
【請求項3】
前記前部袋体(3)と後部袋体(5)との前後間及び後部袋体(5)と口ゴム部(2)の後半周部との上下間には、全周回転編みを行うことにより編成されたエンドレス帯(6)が設けられている
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のフットカバー。
【請求項4】
前記エンドレス帯(6)は、エンドレス形体を縮径させる方向で緊締力を生じる編生地として形成されていることを特徴とする請求項3記載のフットカバー。
【請求項5】
前記前部袋体(3)の足底覆い部(13)は、コース数の増加にしたがってシリンダ振り幅を徐々に拡大させるように半回転往復編みを行って編成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載されたフットカバー。
【請求項6】
前記前部袋体(3)には大ゴアライン(20)が唯一のゴアラインとして生じていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のフットカバー。
【請求項7】
シリンダの全周回転によりエンドレスの口ゴム部(2)を編成し、
この口ゴム部(2)の前半周部に対し振り幅が180°以上となるようにしてシリンダを半回転往復させつつつま先を足甲側から足裏側へと包み込み土踏まずへ及ぶ前部袋体(3)を編成し、
この前部袋体(3)の編成後にシリンダの半回転往復を行って踵を包み込み更に口ゴム部(2)の後半周部との連結部(4)を形成するように後部袋体(5)を編成する
ことを特徴とするフットカバーの編成方法。
【請求項8】
前記前部袋体(3)の編成後、後部袋体(5)を編成開始する前にシリンダの全周回転を行って前部袋体(3)と後部袋体(5)との前後間及び後部袋体(5)と口ゴム部(2)の後半周部との上下間にエンドレス帯(6)を編成する
ことを特徴とする請求項7記載のフットカバーの編成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−52335(P2011−52335A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200659(P2009−200659)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【出願人】(509244927)株式会社ユイ (1)
【Fターム(参考)】