説明

フッ化物ガスの製造方法

【課題】BF3、SiF4、GeF4、PF5又はAsF5等のフッ化物ガスを、簡便かつ製造コストを低減して製造することが可能なフッ化物ガスの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のフッ化物ガスの製造方法は、フッ素原子との多原子イオンの形成が可能な原子を含む化合物を、フッ化水素溶液に添加することにより、当該多原子イオンをフッ化水素溶液中に生成させて、前記フッ素原子と、当該フッ素原子との多原子イオンの形成が可能な前記原子とで構成されるフッ化物ガスを発生させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ化物ガスの製造方法に関し、より具体的には、シリコンウエハのドーピング剤や、各種フッ素化合物製造の原料として、半導体業界、化学業界、医薬品業界で有用な物質である三フッ化ホウ素(BF)、四フッ化ケイ素(SiF)、四フッ化ゲルマニウム(GeF)、五フッ化リン(PF)、五フッ化ヒ素(AsF)等のフッ化物ガスを簡便に低コストで製造可能なフッ化物ガスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化物ガスの一種であるBFガスの製造方法としては、例えば、ホウ素酸化物とフッ化水素酸とを反応させてフッ化ホウ素水溶液を合成し、当該水溶液に硫酸又は発煙硫酸の少なくとも何れかを添加することにより、硫酸等の脱水作用を生じさせて、BFガスを発生させる方法が知られている。
【0003】
また、SiFの製造方法としては、(1)ケイフッ化バリウムなどの金属ケイフッ化物を熱分解して得る方法、(2)酸化ケイ素と弗硫酸との反応により製造する方法、(3)酸化ケイ素と蛍石の混合物に硫酸を反応させて製造する方法などがある。
【0004】
更に、GeFの製造方法としては、(4)六フッ化ゲルマニウム酸バリウムなどの金属フッ化ゲルマニウム化合物を熱分解して得る方法、(5)四塩化ゲルマニウムにフッ素化剤、例えばフッ化亜鉛や、三フッ化アンチモンと五塩化アンチモンの混合物を加えて反応させる方法がある。また、(6)特許文献1には金属ゲルマニウムとフッ素ガスまたは三フッ化窒素との反応により得る方法が開示されている。
【0005】
PF又はAsFの製造方法としては、(7)六フッ化リン酸リチウム等の金属フッ化リン化合物又は六フッ化ヒ酸リチウム等の金属フッ化ヒ素化合物の熱分解により得る方法、(8)五ハロゲン化リン又は五ハロゲン化ヒ素とフッ化水素との反応が知られている。また、(9)特許文献2には三ハロゲン化リン又は三ハロゲン化ヒ素と塩素、臭素、ヨウ素といったハロゲンガスとフッ化水素とを反応させる製造方法が開示されている。
【0006】
前記BFの製造方法では、ホウ素を含有した硫酸廃液が大量に発生し、その処理に設備やコストが掛かる。また、得られるBFにSO等の硫黄成分が不純物として混入する。
【0007】
前記SiFの製造方法(1)および(3)では、反応系を高温にする必要があり、加熱に要するコストが高くなる。また方法(2)ではフッ酸を含む硫酸廃液、方法(3)では石膏が副生物として発生し、その処理コストが必要となる。
【0008】
前記GeFの製造方法(4)では加熱に要するコストが高いという問題がある。方法(5)では、得られるGeF中に塩素化合物やアンチモン化合物が混入し高純度のGeFが得難いこと、方法(6)では反応により得られたGeFと原料である金属ゲルマニウムが反応して固体の二フッ化ゲルマニウム(GeF)を副生し、装置や配管を閉塞することによって連続的な運転ができなくなる場合があるという問題がある。
【0009】
前記、PF又はAsFの製造方法(7)では熱分解のために投入するエネルギーが非常に大きいこと、方法(8)では得られるPF又はAsFに副生物であるハロゲン化水素ガスが、方法(9)では副生成物であるハロゲン化水素のみならず原料であるハロゲンガスがPF又はAsFに混入するため、高純度のPF又はAsFが得難い等の問題がある。
【0010】
【特許文献1】特許第3258413号
【特許文献2】特許第4005174号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、BF、SiF、GeF、PF又はAsF等のフッ化物ガスを、簡便かつ製造コストを低減して製造することが可能なフッ化物ガスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者等は、前記従来の問題点を解決すべく、フッ化物ガスの製造方法について検討した。その結果、下記方法を採用することにより前記目的を達成できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0013】
即ち、本発明に係るフッ化物ガスの製造方法は、前記の課題を解決する為に、フッ素原子との多原子イオンの形成が可能な原子を含む化合物を、フッ化水素溶液に添加することにより、当該多原子イオンをフッ化水素溶液中に生成させて、前記フッ素原子と、当該フッ素原子との多原子イオンの形成が可能な前記原子とで構成されるフッ化物ガスを発生させることを特徴とする。
【0014】
前記の方法によれば、フッ素原子との多原子イオンの形成が可能な原子を含む化合物を、フッ化水素溶液に添加することにより、まず多原子イオンをフッ化水素溶液中に生成させる。この多原子イオンがフッ化水素溶液中で生成すると、詳細は不明であるが、フッ素原子と、当該フッ素原子との多原子イオンの形成が可能な前記原子とで構成されるフッ化物ガスを生成させることが可能になる。
【0015】
前記方法においては、前記多原子イオンが溶解したフッ化水素溶液に、キャリアガスを接触させることにより、キャリアガス中にフッ化物ガスを抽出させることが可能である。
【0016】
また、前記方法に於いては、前記キャリアガスとしてフッ化水素ガスを使用することが好ましい。
【0017】
更に、前記の方法に於いては、前記多原子イオンが溶解したフッ化水素溶液からフッ化水素を蒸発させることにより、フッ化物ガスを発生させることが可能である。
【0018】
前記多原子イオンは、BFイオン、SiF2−イオン、GeF2−イオン、PFイオン及びAsFイオンからなる群より選択される少なくとも何れか1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、フッ素原子との多原子イオンの形成が可能な原子を含む化合物を、フッ化水素溶液に添加することにより、フッ化物ガスの製造を容易に行うことができる。即ち、例えばフッ化水素溶液を高温にする必要がなく常温付近でのフッ化物ガスの生成が可能であるため、製造コストの低減が図れる。また、不要な副生物の生成も抑制できるので、副生物を除去するための工程の追加や、それに伴う製造コストの削減が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のフッ化物ガスの製造方法は、フッ素原子との多原子イオンの形成が可能な原子を含む化合物を、フッ化水素溶液に添加することにより、まず多原子イオンをフッ化水素溶液中に生成させる。フッ化水素溶液中に添加する際の前記化合物の状態としては、固体状、液体状、気体状を問わない。
【0021】
前記フッ化水素溶液としては、無水フッ化水素を水、有機溶媒又は水と有機溶媒の混合溶媒に溶解させたものを用いることができる。より具体的には、例えば、市販の工業用グレード、一般グレード、半導体グレード等のフッ酸をそのままで、又は適宜濃度調整をして使用することができる。これらの内、不純物量の抑制という観点からは半導体グレードの使用が好ましく、製造コストの観点からは工業用グレード、一般グレードが好ましい。
【0022】
尚、前記化合物とフッ化水素との反応により、気体状の副生物を生成する場合は、予め別工程でフッ化水素と反応させることにより当該副生物を発生させた後に、これを除去する前処理を行うのが好ましい。その後、フッ化水素溶液中に処理後の前記化合物を添加する。これにより、フッ化物ガス中に副生物が混入するのを防止し、純度の高いフッ化物ガスを製造することができる。ただし、気体状の副生物が除去し易いものである場合や、フッ化物ガスを発生させる工程の後に、当該フッ化物ガスを精製する精製工程を設ける場合は、必ずしも前処理工程を行わなくてもよい。
【0023】
前記化合物とフッ化水素との反応により気体状の副生物を生成するものとしては、例えば、五塩化ヒ素等のフッ化物以外のハロゲン化物が例示できる。また、その副生物としては、塩化水素等のフッ化水素以外のハロゲン化水素が例示できる。更に、当該副生物の除去方法としては特に限定されず、例えば、五塩化ヒ素とフッ化水素との反応により生成した六フッ化ヒ酸(HAsF)がフッ化水素酸中で比較的安定に存在できる水和形態、HAsF・xHOを取りうるに必要な水を、予め反応に用いるフッ化水素に添加しておき、副生する塩化水素はガスとして、HAsF・xHOを溶解したフッ化水素酸と分離する等の方法を採用することができる。
【0024】
フッ素原子との多原子イオンの形成が可能な原子を含む前記化合物としては特に限定されず、例えば、無機若しくは有機フッ化物錯塩、又はフッ化水素と反応して、フッ素原子と錯イオンを形成し得る化合物が挙げられる。より詳細には、例えばホウ素、珪素、ゲルマニウム、リン若しくはヒ素等の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、又はハロゲン化物などが挙げられる。
【0025】
前記多原子イオンとしては、例えばBF、SiF2−、GeF2−、PF、AsF等が挙げられる。
【0026】
本発明に於いては、フッ素原子との多原子イオンの形成が可能な原子を含む化合物を、フッ化水素溶液に添加するだけで、フッ化物ガスの製造が可能となる。そのため、例えば金属フッ化物錯塩を用いた場合に行う熱分解などの処理は、本発明では省略することができる。即ち、本発明のフッ化物ガスの製造方法であると、その反応系外から多大なエネルギーを投入する必要がなく、その結果、低コストでのフッ化物ガスの製造が可能になる。前記フッ化水素溶液に前記化合物を添加する際の温度としては、多原子イオンを含むフッ化水素溶液の融点を越え、沸点未満が好ましい。尚、前記金属フッ化物錯塩としては、例えばケイフッ化バリウムなどの金属ケイフッ化物や、六フッ化ゲルマニウム酸バリウムなどの金属フッ化ゲルマニウム化合物などが例示できる。
【0027】
前記フッ化水素溶液に前記化合物を添加する際の圧力としては特に限定されないが、大気圧付近での操作が簡便である。減圧系では真空設備が必要なため製造コストが増大するという不都合がある。その一方、圧力が高いと耐圧装置が必要となり、製造コストが増大するという不都合がある。
【0028】
前記フッ化水素溶液に前記化合物を添加する方法としては特に限定されず、フッ化水素溶液に前記化合物を添加しても良いし、前記化合物を仕込んだ後フッ化水素溶液を添加しても構わない。また両者を同時に添加してもよい。
【0029】
本発明に於いては、多原子イオンが溶解したフッ化水素溶液にキャリアガスを接触させることにより、キャリアガス中にフッ化物ガスを抽出させてもよい。
【0030】
前記キャリアガスとしては、フッ化水素溶液及びフッ化物ガスに対し不活性なものであれば特に限定されるものではない。具体的には、例えばHFガス、Nガス、Heガス、Arガス、ドライエアー、炭酸ガス等が例示できる。これらのうち、本発明に於いてはHFガスが好ましい。また、HFガスには、前記に列挙した他のガスが混合されていてもよい。
【0031】
キャリアガスは、その水分量としては1重量%以下が好ましく、100重量ppm以下がより好ましく、10重量ppm以下が特に好ましい。前記水分量が1重量%を超えると、抽出されるフッ化物ガス中の水分量も増加する。
【0032】
前記多原子イオンが溶解したフッ化水素溶液にキャリアガスを接触させる方法としては特に限定されず、通常用いられる槽型又は塔型の気液接触装置が好適に用いられる。例えば、前記多原子イオンが溶解したフッ化水素溶液にキャリアガスをバブリングさせることにより行われる。
【0033】
前記フッ化水素溶液にキャリアガスを接触させる際の温度としては、−50〜50℃が好ましく、−10〜50℃がより好ましく、0〜30℃が特に好ましい。−50℃未満であると、フッ化物ガスの蒸気圧が低くなるため抽出効率が悪くなるという不都合がある。その一方、50℃を超えると、フッ化水素溶液中の水分濃度によるが水蒸気が発生ガス側に随伴し、フッ化物ガスの加水分解が起こるという不都合がある。
【0034】
前記溶液にキャリアガスを接触させる際の圧力としては、1KPa〜5MPaが好ましく、10KPa〜1MPaがより好ましく、0.05MPa〜0.5MPaが特に好ましい。1KPa未満であると、長大な真空設備が必要なため費用が過大となるという不都合がある。その一方、5MPaを超えると、高圧装置が過大となるという不都合がある。
【0035】
また、前記多原子イオンが溶解したフッ化水素溶液を加熱することにより、発生したHFガス中にフッ化物ガスを抽出することができる。この場合、加熱温度は、前記多原子イオンが溶解したフッ化水素溶液の沸点以上であることが必要である。
【0036】
次に、本発明のフッ化物ガスの製造に使用する製造装置について、図1〜3に基づいて説明する。図1はキャリアガスとしてフッ化水素を循環使用する場合のフッ化物ガス発生装置を示す模式図である。
【0037】
槽5中のフッ化水素溶液はポンプ6により加熱器7に送られる。当該加熱器7でフッ化水素溶液は気化され、その後、キャリアガスとして放散塔2の底部に供給される。その一方、フッ素原子との多原子イオンの形成が可能な原子を含む化合物をフッ化水素溶液に添加することにより、多原子イオンが溶解したフッ化水素溶液からなる原料1を予め製造しておき、この原料1を放散塔2の塔頂部に供給する。これにより、放散塔2の塔頂部から降下する多原子イオンが溶解した原料1と、前記キャリアガスとしてのフッ化水素ガスとを向流接触させる。この向流接触の結果、キャリアガス中にフッ化物ガスを抽出させることができる。更に、向流接触後のフッ化水素溶液を缶出液8として放散塔2の底部から排出すると共に、フッ化物ガスを含むフッ化水素ガスを放散塔2の塔頂から抜き出し、冷媒を通した凝縮器3に供給する。これにより、フッ化水素ガスの大部分は凝縮され、フッ化物ガス4と分離される。凝縮したフッ化水素は槽5に送られ、その後、循環使用される。
【0038】
放散塔2の運転圧力は特に限定されないが、大気圧付近での運転が簡便である。また、放散塔2の運転温度については、多原子イオンが溶解したフッ化水素溶液の運転圧力における沸点以下であることが好ましい。また、キャリアガスとしてフッ化水素ガスを用いる場合は、フッ化水素の沸点以上の範囲であれば運転可能である。
【0039】
さらに、前記化合物をフッ化水素溶液に添加して得られる溶液において、フッ化水素濃度が高濃度である場合に、該溶液を加熱等により沸騰させてフッ化水素蒸気が発生するときには、例えば図2又は図3に示す製造装置を用いてフッ化物ガスを発生させることもできる。
【0040】
図2に示す製造装置を用いる場合、先ず、多原子イオンが溶解したフッ化水素溶液からなる原料1を予め製造しておき、この原料1を蒸留塔2に供給する。原料1は蒸留塔2の底部に設置された加熱器7により加熱され、フッ化水素の一部が気化される。これにより、蒸留塔2内を降下する多原子イオンが溶解した原料1と、前記キャリアガスとしてのフッ化水素ガスとを向流接触させる。この向流接触の結果、キャリアガス中にフッ化物ガスを抽出させることができる。更に、向流接触後のフッ化水素溶液を缶出液8として蒸留塔2の底部から排出すると共に、フッ化物ガスを含むフッ化水素ガスを蒸留塔2の塔頂から抜き出し、冷媒を通した凝縮器3に供給する。これにより、フッ化水素ガスの大部分は凝縮され、フッ化物ガス4と分離される。凝縮したフッ化水素は槽5に送られ、循環使用される。槽5中のフッ化水素溶液をポンプ6により蒸留塔2の塔頂部に送ることにより、缶出液8のフッ化水素濃度を一定に保ち、安定的にフッ化物ガスを発生させることができる。
【0041】
また、図3に示す製造装置を用いる場合、フッ化水素溶液を満たした反応槽2’に、フッ素原子との多原子イオンの形成が可能な原子を含む化合物、あるいはフッ素原子との多原子イオンの形成が可能な原子を含む化合物が溶解した溶液からなる原料1を添加する。これにより、フッ化水素溶液中に多原子イオンを生成させる。続いて、反応槽2’に設けられた加熱器7により、このフッ化水素溶液を加熱する。これにより、フッ化物ガスを含むフッ化水素ガスが発生する。このフッ化水素ガスは、冷媒を通した凝縮器3に供給される。これにより、フッ化水素ガスの大部分は凝縮され、フッ化物ガス4と分離される。凝縮したフッ化水素は反応槽2’に送られ、循環使用される。フッ化物ガス発生後のフッ化水素溶液は缶出液8として反応槽2’の底部から排出される。
【0042】
フッ化水素溶液中で多原子イオンを形成する化合物が固体である場合や、フッ化水素溶液に懸濁させたスラリー状の原料である場合、例えば、前記放散塔又は蒸留塔2の様な塔を用いると、内部で閉塞を起こし連続運転が困難となることがある。このため、前記図3に示すような製造装置を用いてフッ化物ガスの生成を行うことが好ましい。
【0043】
フッ化物ガスの生成に用いる塔としては前記放散塔又は蒸留塔2を使用することが可能であり、その様な放散塔又は蒸留塔2としては充填塔や棚段塔を使用することが可能である。また、フッ化物ガスの発生に用いる反応槽2’としては、攪拌装置や加熱装置を備えた槽などが使用できる。
【0044】
フッ化物ガスの生成は回分式、半回分式、連続式のいずれの方法で行ってもよい。但し、効率および安定操業を考慮する場合、連続式で行うことが好ましい。
【実施例】
【0045】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0046】
(実施例1)
温度15℃、大気圧の条件下で、無水フッ酸286重量部の入った容器にケイフッ化カリウム(KSiF)42重量部を回分的に添加した。ケイフッ化カリウムは無水フッ酸に溶解するとともに、ガスの発生が見られた。発生したガスを凝縮器に導き、大部分のフッ酸を凝縮させて、非凝縮性ガスと分離した。この非凝縮性ガスをフーリエ変換赤外分光光度計(以下、「FT−IR」という。)で定性したところ、フッ化物ガスとしてのSiFガスが発生していることを確認した。
【0047】
(実施例2)
40重量%のフッ化水素酸83.32重量部の入った容器に二酸化ケイ素16.68重量部を回分的に添加し、これにより濃度40重量%のケイフッ化水素酸溶液(HSiFaq.)を作製した。 更に、ケイフッ化水素酸溶液を容器内に仕込み、窒素をバブリングさせた。窒素を含むガス成分を凝縮器に導き、凝縮成分と非凝縮成分を分離した。非凝縮性ガスをFT−IRで定性したところ、フッ化物ガスとしてのSiFガスが発生していることを確認した。さらに窒素バブリング後のケイフッ化水素酸19重量部を無水フッ酸263重量部に添加した。発生したガス成分を凝縮器に導き、凝縮成分と非凝縮成分を分離した。非凝縮性ガスをFT−IRで定性したところ、フッ化物ガスとしてのSiFガスが発生していることを確認した。
【0048】
(実施例3)
本実施例では、前記図1に示す製造装置を用いて、フッ化物ガスの製造を行った。即ち、先ず、液状の三フッ化ホウ素水和物(BF・1.5HO)を放散塔2の塔頂部から供給した。放散塔2の底部からはフッ酸蒸気を供給しストリッピングを行った。放散塔の塔頂部から取り出された蒸気を、凝縮器に導きフッ酸の大部分を凝縮させ、非凝縮性ガスと分離した。この非凝縮性ガスをFT−IRで定性したところ、フッ化物ガスとしてのBFガスが発生していることを確認した。
【0049】
(実施例4)
本実施例では、前記図2に示す製造装置を用いて、フッ化物ガスの製造を行った。即ち、先ず、無水フッ酸290重量部にホウフッ化リチウム(LiBF)45.1重量部を溶解させた液を蒸留塔へ供給した。蒸留塔の塔頂部から取り出された蒸気を、凝縮器に導きフッ酸の大部分を凝縮させ、非凝縮性ガスと分離した。この非凝縮性ガスをFT−IRで定性したところ、フッ化物ガスとしてのBFガスが発生していることを確認した。
【0050】
(実施例5)
本実施例では、前記図3に示す製造装置を用いて、フッ化物ガスの製造を行った。即ち、先ず、反応槽2’内における無水フッ酸276重量部にホウフッ化カリウム(KBF) 47重量部を添加して懸濁させ、スラリーを調整した。該スラリーを加熱・沸騰させてフッ酸の一部を蒸発させた。槽から取り出した蒸気を凝縮器に導き、フッ酸の大部分を凝縮させ非凝縮性ガスと分離した。この非凝縮性ガスをFT−IRで定性したところ、フッ化物ガスとしてのBFガスが発生していることを確認した。
【0051】
(実施例6)
本実施例では、前記図3に示す製造装置を用いて、フッ化物ガスの製造を行った。即ち、先ず、反応槽2’内における無水フッ酸266重量部にケイフッ化バリウム(BaSiF)12重量部を懸濁させ、加熱を行いフッ酸の一部を蒸発させ槽から蒸気を取り出した。取り出した蒸気を凝縮器に導き、フッ酸の大部分を凝縮させ、非凝縮性ガスと分離した。非凝縮性ガスをFT−IRで定性したところ、フッ化物ガスとしてのSiFガスが発生していることを確認した。
【0052】
(実施例7)
本実施例では、前記図1に示す製造装置を用いて、フッ化物ガスの製造を行った。即ち、先ず、酸化ゲルマニウム(GeO)12重量部と無水フッ酸244重量部を反応させて合成した六フッ化ゲルマニウム酸を、放散塔2の塔頂部へ供給した。続いて、放散塔2の底部からフッ酸蒸気を供給し、ストリッピングを行った。放散塔2の塔頂部から取り出したガスを、凝縮器3へ導き、フッ酸の大部分を凝縮させ、非凝縮性ガスと分離した。この非凝縮性ガスをFT−IRで定性したところ、フッ化物ガスとしてのGeFガスが発生していることを確認した。
【0053】
(実施例8)
本実施例では、前記図1に示す製造装置を用いて、フッ化物ガスの製造を行った。即ち、先ず、五酸化二リン(P)17重量部と無水フッ酸285重量部を反応させて合成した六フッ化リン酸(HPF)のフッ化水素溶液を、放散塔2の塔頂部へ供給した。放散塔2の底部からフッ酸蒸気を供給しストリッピングを行った。続いて、放散塔2の塔頂部から取り出したガスを、凝縮器3へ導き、フッ酸の大部分を凝縮させ、非凝縮性ガスと分離した。この非凝縮性ガスをFT−IRで定性したところ、フッ化物ガスとしてのPFガスが発生していることを確認した。
【0054】
(実施例9)
本実施例では、前記図1に示す製造装置を用いて、フッ化物ガスの製造を行った。即ち、先ず、75重量%リン酸(HPOaq.)20重量部と無水フッ酸366重量部を反応させて合成した六フッ化リン酸(HPF)のフッ化水素溶液を、放散塔2の塔頂部へ供給した。放散塔2の底部からフッ酸蒸気を供給しストリッピングを行った。続いて、放散塔2の塔頂部から取り出したガスを、凝縮器3へ導き、フッ酸の大部分を凝縮させ、非凝縮性ガスと分離した。この非凝縮性ガスをFT−IRで定性したところ、フッ化物ガスとしてのPFガスが発生していることを確認した。
【0055】
(実施例10)
本実施例では、前記図1に示す製造装置を用いて、フッ化物ガスの製造を行った。即ち、先ず、五酸化ヒ素(As)24重量部と無水フッ酸211重量部を反応させて合成した六フッ化ヒ酸(HAsF)のフッ化水素溶液を、放散塔2の塔頂部へ供給した。放散塔2の底部からフッ酸蒸気を供給しストリッピングを行った。続いて、放散塔2の塔頂部から取り出したガスを、凝縮器3へ導き、フッ酸の大部分を凝縮させ、非凝縮性ガスと分離した。この非凝縮性ガスをFT−IRで定性したところ、フッ化物ガスとしてのAsFガスが発生していることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の一形態に係るフッ化物ガスの製造装置を概略的に示す模式図である。
【図2】本発明の他の実施の形態に係るフッ化物ガスの製造装置を概略的に示す模式図である。
【図3】本発明の更に他の実施の形態に係るフッ化物ガスの製造装置を概略的に示す模式図である。
【符号の説明】
【0057】
1 原料
2 放散塔又は蒸留塔
2’ 反応槽
3 凝縮器
4 フッ化物ガス
5 槽
6 ポンプ
7 加熱器
8 缶出液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素原子との多原子イオンの形成が可能な原子を含む化合物を、フッ化水素溶液に添加することにより、当該多原子イオンをフッ化水素溶液中に生成させて、
前記フッ素原子と、当該フッ素原子との多原子イオンの形成が可能な前記原子とで構成されるフッ化物ガスを発生させることを特徴とするフッ化物ガスの製造方法。
【請求項2】
前記多原子イオンが溶解したフッ化水素溶液に、キャリアガスを接触させることにより、キャリアガス中にフッ化物ガスを抽出させることを特徴とする請求項1に記載のフッ化物ガスの製造方法。
【請求項3】
前記キャリアガスとしてフッ化水素ガスを使用することを特徴とする請求項1又は2に記載のフッ化物ガスの製造方法。
【請求項4】
前記多原子イオンが溶解したフッ化水素溶液からフッ化水素を蒸発させることにより、フッ化物ガスを発生させることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のフッ化物ガスの製造方法。
【請求項5】
前記多原子イオンがBFイオン、SiF2−イオン、GeF2−イオン、PFイオン及びAsFイオンからなる群より選択される少なくとも何れか1種であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のフッ化物ガスの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−42939(P2010−42939A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205991(P2008−205991)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000162847)ステラケミファ株式会社 (81)
【Fターム(参考)】