説明

フッ素イオン処理装置及びフッ素イオン処理方法

【課題】廃棄物を出すことがなく、フッ素イオン濃度が低濃度の場合にもフッ素イオンの吸着、回収が可能で、かつフッ素イオンのみを選択的に吸着、回収することができ、更に連続的な処理が可能なフッ素イオン処理装置、及びフッ素イオン処理方法の提供。
【解決手段】フッ素イオンを含有する被処理溶液を供給する被処理溶液供給手段と、水酸化チタン含有層を少なくとも有し、前記被処理溶液供給手段により供給される前記被処理溶液中のフッ素イオンを吸着可能であるフッ素イオン吸着手段と、前記水酸化チタン含有層が吸着した前記フッ素イオンを脱離させる回収溶液を前記フッ素イオン吸着手段に供給し、前記フッ素イオンを回収するフッ素イオン回収手段と、を有することを特徴とするフッ素イオン処理装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水などに含まれるフッ素イオンを廃水から吸着し、更には回収も可能なフッ素イオン処理装置及びフッ素イオン処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フッ素化合物は、半導体等の製造、アルミニウム電解、過リン酸肥料、タイル、レンガ、ガラス繊維、セラミックス、練り歯磨きへの添加剤などに使用されている。そのため、フッ素化合物を使用する工場や、これら製品に係る廃棄物の処分工場などからの廃水などにより、高濃度のフッ素イオンが水中に混入する機会が増加し、フッ素イオンの人体へ及ぼす影響が懸念されている。フッ素イオンが人体へ及ぼす主な影響としては、神経障害、肝臓障害、骨格障害などが報告されている。
【0003】
このようなフッ素イオンの問題に関連し、工業排水基準の見直しが検討され、2001年7月には水質汚濁防止法の規定に基づき、環境省令が一部改正となった。それに伴い、フッ素の排水基準が強化され、フッ素の排水基準値はこれまでの15ppmから8ppmに引き下げられた。
【0004】
従来の廃水中のフッ素イオンの処理方法としては、カルシウム凝集沈殿法が知られている。カルシウム凝集沈殿法とは、炭酸カルシウムを用いて廃水中のフッ素イオンをフッ化カルシウムとして沈殿させ処理する方法である。
しかし、カルシウム凝集沈殿法によりフッ化カルシウムとして処理可能なフッ素イオン濃度の下限は、フッ化カルシウムの溶解度及び被処理液中の共存イオンの影響などにより約10ppmであると言われている。そのため、カルシウム凝集沈殿法によるフッ素イオンの処理は、前記排水基準値に対応することが困難である。
また、カルシウム凝集沈殿法は、廃水の処理後に大量のフッ化カルシウムの沈殿を生成させ、その廃棄物の処理に多大なコストが掛かるという問題がある。
また、処理したフッ素イオンは、廃棄するのではなく、半導体の製造などへ再利用できることが望ましい。そのため、フッ素イオンの処理においては、容易に再利用できるようフッ素イオンを選択的に吸着できることが求められているものの、カルシウム凝集沈澱法では、フッ素イオンの選択的な吸着が困難であるという問題がある。
【0005】
このため、カルシウム凝集沈殿法に代わる処理方法の必要性が高まっている。
カルシウム凝集沈殿法以外の処理方法としては、フッ素イオン等を含有する水をチタン、ジルコニウム、スズの含水亜鉄酸塩の1種を含有するイオン吸着剤付着三次元網目状構造体で濾過する技術(特許文献1参照)、フッ素イオンを含む廃水を、弱塩基性イオン交換樹脂を使用して吸着する技術(特許文献2参照)、亜鉛電解液中に硫酸チタニル・2水塩を添加し、アルカリpH調整剤を加えてpHを2.1〜4.2の範囲に調整して加水分解生成物を生成させてフッ素イオンを吸着除去する技術(特許文献3参照)などが提案されている。
しかし、これらの技術においても、フッ素イオン濃度が低濃度の場合に十分なフッ素イオンの除去ができないという問題がある。また、フッ素イオンのみを選択的に吸着、回収することが困難であるという問題がある。
【0006】
そこで、水酸化チタンゲルを用いたフッ素イオンの回収方法が提案されている(特許文献4参照)。この提案の技術では、低濃度のフッ素イオンを処理できる可能性がある。また、廃棄物を出すことがない。また、フッ素イオンを選択的に吸着できる可能性がある。
しかし、この提案の技術では、フッ素イオンを含有する低pHの被処理液に水酸化チタンゲルを投入し、水酸化チタンゲルにフッ素イオンを吸着させた後、被処理液のpHを高くすることで、水酸化チタンゲルからフッ素イオンを脱離させている。すなわち、この提案の技術では、水酸化チタンゲルがフッ素イオンを吸着、脱離することを確認しているのみであり、被処理液からフッ素イオンを吸着し、フッ素イオンを回収する実用的な処理方法については、検討されていない。また、バッチ式の処理のため、処理効率が十分ではないという問題がある。
【0007】
したがって、廃棄物を出すことがなく、フッ素イオン濃度が低濃度の場合にもフッ素イオンの吸着が可能で、フッ素イオンのみを選択的に吸着、回収することができ、更に連続的な処理が可能なフッ素イオン処理装置、及びフッ素イオン処理方法が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−187646号公報
【特許文献2】特開平7−232915号公報
【特許文献3】特開平6−57476号公報
【特許文献4】特開2005−118639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、廃棄物を出すことがなく、フッ素イオン濃度が低濃度の場合にもフッ素イオンの吸着、回収が可能で、かつフッ素イオンのみを選択的に吸着、回収することができ、更に連続的な処理が可能なフッ素イオン処理装置、及びフッ素イオン処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> フッ素イオンを含有する被処理溶液を供給する被処理溶液供給手段と、
水酸化チタン含有層を少なくとも有し、前記被処理溶液供給手段により供給される前記被処理溶液中のフッ素イオンを吸着可能であるフッ素イオン吸着手段と、
前記水酸化チタン含有層が吸着した前記フッ素イオンを脱離させる回収溶液を前記フッ素イオン吸着手段に供給し、前記フッ素イオンを回収するフッ素イオン回収手段と、を有することを特徴とするフッ素イオン処理装置である。
<2> 被処理溶液供給手段が、被処理溶液を収容可能な被処理溶液貯液部を有し、
フッ素イオン回収手段が、回収溶液を収容可能な回収溶液貯液部を有する前記<1>に記載のフッ素イオン処理装置である。
<3> 水酸化チタン含有層の平均厚みが、0.75mm〜1.5mmである前記<1>から<2>のいずれかに記載のフッ素イオン処理装置である。
<4> 水酸化チタン含有層が含有する水酸化チタンが、乾燥状態においてフレーク状であり、該フレーク状の水酸化チタンの大きさが、10μm〜750μmである前記<1>から<3>のいずれかに記載のフッ素イオン処理装置である。
<5> 水酸化チタン含有層が含有する水酸化チタンの粒度分布が1μm〜20μmであり、平均粒径が1μm〜10μmである前記<1>から<4>のいずれかに記載のフッ素イオン処理装置である。
<6> 水酸化チタン含有層における水酸化チタンの含有量が、0.01mg/cm〜0.5mg/cmである前記<1>から<5>のいずれかに記載のフッ素イオン処理装置である。
<7> フッ素イオン吸着手段が、陰イオン交換膜を有する前記<1>から<6>のいずれかに記載のフッ素イオン処理装置である。
<8> フッ素イオン吸着手段が、少なくとも2つの陰イオン交換膜により水酸化チタン含有層を挟持した構造である前記<7>に記載のフッ素イオン処理装置である。
<9> 被処理溶液貯液部が、被処理溶液を、前記被処理溶液貯液部へ流入させる流入口と、前記被処理溶液貯液部から流出させる流出口とを有し、
回収溶液貯液部が、回収溶液を、前記回収溶液貯液部へ流入させる流入口と、前記回収溶液貯液部から流出させる流出口とを有する前記<2>から<8>のいずれかに記載のフッ素イオン処理装置である。
<10> 前記<1>から<9>のいずれかに記載のフッ素イオン処理装置を用いて行い、
被処理溶液供給手段によりフッ素イオンを含有する被処理溶液を供給する被処理溶液供給工程と、
前記被処理溶液供給工程により供給される前記被処理溶液中のフッ素イオンをフッ素イオン吸着手段により水酸化チタン含有層に吸着させるフッ素イオン吸着工程と、
前記フッ素イオン吸着工程により前記水酸化チタン含有層が吸着した前記フッ素イオンを、フッ素イオン回収手段により回収溶液に脱離させるフッ素イオン回収工程と、
を含むことを特徴とするフッ素イオン処理方法である。
<11> 被処理溶液のpHが、2〜5であり、回収溶液のpHが、8〜11である前記<10>に記載のフッ素イオン処理方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、廃棄物を出すことがなく、フッ素イオン濃度が低濃度の場合にもフッ素イオンの吸着、回収が可能で、かつフッ素イオンのみを選択的に吸着、回収することができ、更に連続的な処理が可能なフッ素イオン処理装置、及びフッ素イオン処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明のフッ素イオン処理装置の一例を示す図である。
【図2】図2は、図1のフッ素イオン処理装置本体の内部が見えるように展開した図である。
【図3】図3は、図1のフッ素イオン処理装置を用いたフッ素イオン処理方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(フッ素イオン処理装置)
本発明のフッ素イオン処理装置は、被処理溶液供給手段と、フッ素イオン吸着手段と、フッ素イオン回収手段とを少なくとも有し、更に必要に応じて、その他の手段を有する。
本発明のフッ素イオン処理方法は、前記フッ素イオン処理装置を用いて行い、被処理溶液供給工程と、フッ素イオン吸着工程と、フッ素イオン回収工程とを少なくとも含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
本発明のフッ素処理方法は、本発明のフッ素イオン処理装置を用いて好適に行うことができる。すなわち、前記被処理溶液供給工程は、前記被処理溶液供給手段により好適に実施でき、前記フッ素イオン吸着工程は、前記フッ素イオン吸着手段により好適に実施でき、前記フッ素イオン回収工程は、前記フッ素イオン回収手段により好適に実施でき、前記その他の工程は、前記その他の手段により好適に実施できる。
【0014】
前記被処理溶液供給手段により供給されたフッ素イオンを含有する被処理溶液中のフッ素イオンは、水酸化チタン含有層が有する水酸化チタンのフッ素イオンの吸着能力、脱離能力により、前記フッ素イオン吸着手段を通過して、前記フッ素イオン回収手段により回収溶液に回収される。このことにより、前記フッ素イオンを含有する被処理溶液からフッ素イオンが吸着、除去され、前記回収溶液にはフッ素イオンが回収される。
前記水酸化チタンは、フッ素イオンを選択的に吸着するため、前記フッ素イオンの吸着、除去、回収においては、フッ素イオンが選択的に、吸着、除去、回収される。
【0015】
<被処理溶液供給手段>
前記被処理溶液供給手段としては、前記フッ素イオンを含有する被処理溶液を供給する手段であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記フッ素イオンを含有する被処理溶液を収容可能な被処理溶液貯液部を有することが好ましい。
【0016】
−被処理溶液貯液部−
前記被処理溶液貯液部は、フッ素イオンを含有する被処理溶液を収容可能な部であれば、その形状、大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0017】
前記被処理溶液貯液部としては、例えば、ゴム、プラスチック、金属などから作製された容器により形成された部などが挙げられる。前記容器には、隣接する前記フッ素イオン吸着手段へフッ素イオンが移動可能なように開口が設けられている。
【0018】
前記被処理溶液貯液部は、前記フッ素イオンを含有する被処理溶液を、前記被処理溶液貯液部へ流入させる流入口と、前記被処理溶液貯液部から流出させる流出口とを有することが好ましい。
前記被処理溶液貯液部が、前記フッ素イオンを含有する被処理溶液を、前記被処理溶液貯液部へ流入させる流入口と、前記被処理溶液貯液部から流出させる流出口とを有することにより、前記フッ素イオンを含有する被処理溶液を前記被処理溶液貯液部へ通液させることが可能となり、前記フッ素イオンを含有する被処理溶液からフッ素イオンを除去する処理を連続的に行うことが可能となる。また、前記流出口から流出した前記フッ素イオンを含有する被処理溶液を前記流入口へ送液することにより、前記フッ素イオンを含有する被処理溶液を循環させることが可能となることから、前記被処理溶液貯液部の容積が小さい場合でも、多量の前記フッ素イオンを含有する被処理溶液を効率よく処理することが可能になる。
【0019】
−フッ素イオンを含有する被処理溶液−
前記フッ素イオンを含有する被処理溶液としては、フッ素イオンを含有する溶液であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、工場廃水、上水道水、下水道水、河川の水などが挙げられる。
【0020】
前記フッ素イオンを含有する被処理溶液のpHとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記水酸化チタン含有層が有する水酸化チタンがフッ素イオンを吸着しやすいように、1〜7が好ましく、2〜5がより好ましく、2〜3が特に好ましい。前記pHが、1未満であると、被処理溶液貯液部、流路などが酸により腐食するのを防止するために、構成材料の選択肢が少なくなることがあり、7を超えると、前記水酸化チタンのフッ素イオンの吸着能力が低下することがある。前記特に好ましい範囲内であると、前記水酸化チタンがフッ素イオンの吸着能力に優れる点で利点がある。
前記pHにする方法としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の酸を、前記フッ素イオンを含有する被処理溶液に添加する方法などが挙げられる。
前記フッ素イオンを含有する被処理溶液を前記pHに調整するのは、前記フッ素イオン処理装置に供する直前であってもよく、事前であってもよい。
【0021】
<フッ素イオン吸着手段>
前記フッ素イオン吸着手段は、前記水酸化チタン含有層を少なくとも有し、陰イオン交換膜、更に必要に応じて、その他の部材を有する。
前記フッ素イオン吸着手段は、前記被処理溶液供給手段により供給される前記被処理溶液中のフッ素イオンを吸着可能である。
前記フッ素イオン吸着手段は、例えば、前記被処理溶液供給手段の有する前記被処理溶液貯液部と前記フッ素イオン回収手段の有する回収溶液貯液部の間に配設されており、前記フッ素イオン吸着手段が有する前記水酸化チタンのフッ素イオンの吸着、脱離による前記被処理溶液貯液部から前記回収溶液貯液部へのフッ素イオンの移動を可能にする。
また前記フッ素イオン吸着手段は、前記被処理溶液貯液部と前記回収溶液貯液部との液体(特に水)の移動を遮る。
【0022】
前記フッ素イオン吸着手段の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、単層構造、積層構造が挙げられる。
前記単層構造としては、例えば、前記水酸化チタン含有層のみの構造が挙げられる。
前記積層構造としては、前記水酸化チタン含有層と前記陰イオン交換膜とを有する構造、少なくとも2つの前記陰イオン交換膜により水酸化チタン含有層を挟持した構造などが挙げられる。
これらの中でも、少なくとも前記2つの陰イオン交換膜により水酸化チタン含有層を挟持した構造が、水酸化チタン含有層の固定と、フッ素イオンの透過を両立しやすい点で好ましい。
【0023】
−水酸化チタン含有層−
前記水酸化チタン含有層は、水酸化チタンを少なくとも有し、層状化剤、更に必要に応じて、その他の成分を有する。
前記水酸化チタン含有層の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記水酸化チタンのみの構造、前記水酸化チタンを前記層状化剤により層状にした構造などが挙げられる。
【0024】
前記水酸化チタン含有層を前記フッ素イオン処理装置に配設する際には、形状を保持する保持枠によりその形状が保持されていてもよい。前記水酸化チタン含有層が、前記水酸化チタンのみからなる場合には、前記水酸化チタンは通常ゲル状であり形状を保持することが困難である。そのため、例えば、貫通孔が設けられた保持枠としてのシリコーンゴム製のシートの貫通孔に前記水酸化チタンを充填することにより、前記水酸化チタン含有層の形状を保持することができる。
【0025】
前記水酸化チタン含有層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1mm〜5mmが好ましく、0.5mm〜3mmがより好ましく、0.75mm〜1.5mmが特に好ましい。前記平均厚みが、0.1mm未満であると、フッ素イオン以外のイオンも移動してしまい選択的な吸着が困難になることがあり、5mmを超えると、フッ素イオン吸着手段中のフッ素イオンの移動が困難となることがある。前記特に好ましい範囲内であると、フッ素イオンの選択的な吸着が可能で、かつフッ素イオンの十分な移動が可能となる点で有利である。
前記水酸化チタン含有層の厚みとは、言い換えれば、前記被処理溶液供給手段から前記フッ素イオン回収手段へ移動するフッ素イオンの移動方向の厚みをいう。
【0026】
−−水酸化チタン−−
前記水酸化チタンの形状、構造、大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0027】
前記水酸化チタンの形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、乾燥状態においてフレーク状であることが比表面積を増大する点で好ましい。
前記フレーク状の水酸化チタンの大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10μm〜750μmが好ましい。
【0028】
前記水酸化チタンの粒度分布としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm〜20μmの範囲内であることが好ましく、1μm〜15μmの範囲内であることがより好ましく、2μm〜10μmの範囲内であることが特に好ましい。
ここで、粒度分布は、例えば、レーザー回折散乱式粒度分布測定計(日機装社製、MICROTRAC9320−X100)により測定される。
【0029】
前記水酸化チタンの平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm〜10μmが好ましく、1μm〜8μmがより好ましく、2μm〜6μmが特に好ましい。
ここで、平均粒径は、例えば、レーザー回折散乱式粒度分布測定計(日機装社製、MICROTRAC9320−X100)により測定される50%体積平均粒径である。
【0030】
前記水酸化チタン含有層における前記水酸化チタンの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01mg/cm〜0.5mg/cmであることが好ましい。
【0031】
前記水酸化チタンの合成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化チタン(IV)又は硫酸チタン(IV)から合成する方法、オキシ硫酸チタン(TiOSO・xHO)(xは通常2)から合成する方法などが挙げられる。オキシ硫酸チタン(TiOSO・xHO)から合成する方法としては、例えば、オキシ硫酸チタンと水とを混合、撹拌して透明な溶液を得た後に、前記溶液とアンモニア水などのアルカリ溶液とを混合して水酸化チタンを合成する方法が挙げられる。この方法においては、透明な溶液を得た後に、前記溶液にアルカリ溶液を緩やかに添加することで、溶液に浮遊する羽衣状の生成物を得、更に、20℃〜30℃の液温で1時間〜10時間放置することで、水酸化チタンを得ることができる。得られた水酸化チタンは、ゲル状態であることから、水酸化チタンゲルとも呼ばれる。
【0032】
−−層状化剤−−
前記層状化剤としては、前記水酸化チタンと混合して、前記水酸化チタン含有層を形成できるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記水酸化チタンは、熱により酸化チタンなどに変化しやすいことから、低温での混合が可能な点で、寒天、ゼラチン、ポリビニルアルコールが好ましい。これらの中でも物理的強度が大きい点で、寒天、ポリビニルアルコールがより好ましい。
前記寒天と前記水酸化チタンとを混合する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記水酸化チタンが酸化チタンなどに変化しにくく、かつ寒天が固まって混合が困難になることを防ぐ点から、寒天溶液の温度が30℃〜60℃の範囲で前記寒天と前記水酸化チタンとを混合することが好ましい。
前記ポリビニルアルコールと前記水酸化チタンを混合する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリビニルアルコール水溶液と前記水酸化チタンを混合し混合液を得た後に、前記混合液とグルタルアルデヒドなどの架橋剤とを混合する方法などが挙げられる。
【0033】
−陰イオン交換膜−
前記陰イオン交換膜としては、陰イオンを伝導させることができる膜であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記フッ素イオン吸着手段が前記陰イオン交換膜を有することで、前記被処理溶液及び前記回収溶液に含まれる種々の陽イオンが前記被処理溶液と前記回収溶液とを相互に移動することを高度に防止しつつ、前記フッ素イオンを含有する被処理溶液からフッ素イオンを吸着し、回収することを可能にする。
前記陰イオン交換膜の材質としては、例えば、四級アンモニウム基、ピリジニウム基等の陰イオン交換基を有するポリマーなどが挙げられる。前記ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スチレン/ジビニルベンゼン共重合体、フッ素樹脂などが挙げられる。
前記陰イオン交換膜の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5mm〜1.0mmが好ましい。前記平均厚みが、0.5mm未満であると、フッ素イオン吸着手段の強度が弱く、破れることがあり、1.0mmを超えると、フッ素イオン吸着手段中のフッ素イオンの移動が困難となることがある。前記特に好ましい範囲であると、強度、及びフッ素イオンの十分な移動を両立できる点で有利である。
【0034】
<フッ素イオン回収手段>
前記フッ素イオン回収手段としては、前記水酸化チタン含有層が吸着した前記フッ素イオンを脱離させる回収溶液を前記フッ素イオン吸着手段に供給し、前記フッ素イオンを回収することができる手段であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記回収溶液を収容可能な回収溶液貯液部を有することが好ましい。
【0035】
−回収溶液貯液部−
前記回収溶液貯液部は、前記回収溶液を収容可能な部であれば、その形状、大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0036】
前記回収溶液貯液部としては、例えば、ゴム、プラスチック、金属などから作製された容器により形成された部などが挙げられる。前記容器には、隣接する前記フッ素イオン吸着手段から前記回収溶液貯液部へフッ素イオンが移動可能なように開口が設けられている。
【0037】
前記回収溶液貯液部は、前記回収溶液を、前記回収溶液貯液部へ流入させる流入口と、前記回収溶液貯液部から流出させる流出口とを有することが好ましい。
前記回収溶液貯液部は、前記回収溶液を、前記回収溶液貯液部へ流入させる流入口と、前記回収溶液貯液部から流出させる流出口とを有することにより、前記回収溶液を前記回収溶液貯液部へ通液させることが可能となり、前記回収溶液へフッ素イオンを溶解させる処理を連続的に行うことが可能となる。また、前記流出口から流出した前記回収溶液を前記流入口へ送液することにより、前記回収溶液を循環させることが可能となることから、前記回収溶液貯液部の容積が小さい場合でも、多量の前記回収溶液を用いてフッ素イオンを回収することが可能になる。
【0038】
−回収溶液−
前記回収溶液としては、前記水酸化チタン含有層からフッ素イオンを脱離して回収できる溶液であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、蒸留水、脱イオン水等のpHを調整したものなどが挙げられる。
【0039】
前記回収溶液のpHとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記水酸化チタン含有層が有する水酸化チタンがフッ素イオンを脱離しやすいように、8〜11が好ましく、9〜10がより好ましい。前記pHの範囲外では、前記水酸化チタンのフッ素イオンの脱離能力が低下することがある。
前記pHにする方法としては、例えば、アンモニア等のアルカリを、前記回収溶液に添加する方法などが挙げられる。
前記回収溶液を前記pHに調整するのは、前記フッ素イオン処理装置に供する直前であってもよく、事前であってもよい。
【0040】
<その他の手段>
前記その他の手段としては、例えば、フッ素イオン測定手段、pH測定手段などが挙げられる。
【0041】
−フッ素イオン測定手段−
前記フッ素イオン測定手段としては、前記フッ素イオンを含有する被処理溶液、及び前記回収溶液のフッ素イオンを測定可能な手段であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イオンクロマト法、吸光光度法、イオン電極法、誘導結合プラズマ質量分析法などを用いた分析装置が挙げられる。
吸光光度法を用いた分析装置の市販品としては、例えば、オートアナライザー SWAAT−FCN(ビーエルテック株式会社製)が挙げられる。
【0042】
−pH測定手段−
前記pH測定手段としては、前記フッ素イオンを含有する被処理溶液、及び前記回収溶液のpHを測定可能な手段であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、pH測定器が挙げられる。前記pH測定器としては、例えば、投げ込み型、潜漬型、流通型などのpH測定器が挙げられる。また、薬液洗浄方式、超音波洗浄方式、ジェット洗浄方式、ブラシ洗浄方式などの洗浄機能付きpH測定器が挙げられる。
【0043】
(フッ素イオン処理方法)
本発明のフッ素イオン処理方法は、前記フッ素イオン処理装置を用いて行い、被処理溶液供給工程と、フッ素イオン吸着工程と、フッ素イオン回収工程とを少なくとも含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
【0044】
<被処理溶液供給工程>
前記被処理溶液供給工程は、フッ素イオンを含有する被処理溶液を供給する工程であり、前記被処理溶液供給手段により好適に行うことができる。
前記被処理溶液供給工程においては、例えば、ポンプなどの送液手段を用いて、前記被処理溶液貯液部の前記流入口から前記フッ素イオンを含有する被処理溶液を前記被処理溶液貯液部に供給することができる。
前記被処理溶液供給工程においては、例えば、前記被処理溶液貯液部の前記流入口から前記フッ素イオンを含有する被処理溶液を前記被処理溶液貯液部に供給するとともに、前記被処理溶液貯液部の前記流出口から流出した前記フッ素イオンを含有する被処理溶液を前記被処理溶液貯液部の前記流入口へ送液することにより、前記フッ素イオンを含有する被処理溶液を循環させることが、前記被処理溶液貯液部の容積が小さい場合でも、多量の前記フッ素イオンを含有する被処理溶液を効率よく処理することが可能になる点で好ましい。
【0045】
前記フッ素イオン処理方法において、前記被処理溶液のフッ素イオン濃度と、前記被処理溶液貯液部へ供給される前記フッ素イオンを含有する被処理溶液の単位時間当たりの供給量との積が大きければ大きいほどフッ素イオンの処理能力が高くなるわけではなく、最適範囲があり、それを超えても、フッ素イオンの処理能力は高くならない。それは、前記フッ素イオン吸着手段におけるフッ素イオンの拡散が、フッ素イオン処理において律速となることがあるためである。
【0046】
<フッ素イオン吸着工程>
前記フッ素イオン吸着工程は、前記被処理溶液供給工程により供給される前記被処理溶液中のフッ素イオンを水酸化チタン含有層に吸着させる工程であり、前記フッ素イオン吸着手段を用いて好適に行うことができる。
前記フッ素イオン吸着工程は、前記フッ素イオンを含有する被処理溶液のpHを調整することで、効率よく行うことができる。前記フッ素イオンを含有する被処理溶液のpHは、1〜7が好ましく、2〜5がより好ましく、2〜3が特に好ましい。前記pHが、1未満であると、被処理溶液貯液部、流路などが酸により腐食するのを防止するために、構成材料の選択肢が少なくなることがあり、7を超えると、前記水酸化チタンのフッ素イオンの吸着能力が低下することがある。
【0047】
<フッ素イオン回収工程>
前記フッ素イオン回収工程は、前記フッ素イオン吸着工程により前記水酸化チタン含有層が吸着した前記フッ素イオンを、回収溶液に脱離させる工程であり、前記フッ素イオン回収手段により好適に行うことができる。
前記フッ素イオン回収工程においては、例えば、ポンプなどの送液手段を用いて、前記回収溶液貯留部の前記流入口から前記回収溶液を前記回収溶液貯液部に供給することができる。
前記フッ素イオン回収工程においては、前記回収溶液貯留部の前記流入口から前記回収溶液を前記回収溶液貯液部に供給するとともに、前記回収溶液貯留部の前記流出口から流出した前記回収溶液を前記回収溶液貯留部の前記流入口へ送液することにより、前記回収溶液を循環させることが、前記回収溶液貯液部の容積が小さい場合でも、多量の前記回収溶液へ、効率よくフッ素イオンを回収できる点で好ましい。
【0048】
前記フッ素イオン回収工程は、前記回収溶液のpHを調整することで、効率よく行うことができる。前記回収溶液のpHは、8〜11が好ましく、9〜10がより好ましい。前記pHの範囲外では、前記水酸化チタンのフッ素イオンの脱離能力が低下することがある。
【0049】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、例えば、フッ素イオン測定工程、pH測定工程などが挙げられる。
【0050】
−フッ素イオン測定工程−
前記フッ素イオン測定工程としては、前記フッ素イオンを含有する被処理溶液、及び前記回収溶液のフッ素イオンを測定可能な工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記フッ素イオン測定手段を用いて測定する工程が挙げられる。
【0051】
−pH測定工程−
前記pH測定工程としては、前記フッ素イオンを含有する被処理溶液、及び前記回収溶液のpHを測定する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記pH測定手段を用いて測定する工程が挙げられる。
【0052】
ここで、図を用いて本発明のフッ素イオン処理装置の一態様、及び本発明のフッ素イオン処理装置の一態様を説明する。
図1は、本発明のフッ素イオン処理装置の一態様を示す概略図である。フッ素イオン処理装置本体1は、被処理溶液貯液部2を形成するためのアクリル樹脂製プレート2a及び合成ゴム製シート2bと、回収溶液貯液部3を形成するためのアクリル樹脂製プレート3a及び合成ゴム製シート3bと、フッ素イオン吸着手段4とを有している。被処理溶液貯液部2は、合成製ゴムシート2b内に形成された貫通孔(図示せず)により形成されている。回収溶液貯液部3は、合成ゴム製シート3b内に形成された貫通孔(図示せず)により形成されている。フッ素イオン吸着手段4は、合成ゴム製シート2bと、合成ゴム製シート3bとの間に配設されている。
図2は、図1のフッ素イオン処理装置本体1の内部が見えるように展開した図である。図2のフッ素イオン処理装置本体1は、被処理溶液貯液部2を形成するための前記アクリル樹脂製プレート2a及び合成ゴム製シート2bと、回収溶液貯液部3を形成するためのアクリル樹脂製プレート3a及び合成ゴム製シート3bと、フッ素イオン吸着手段4とを有している。合成ゴム製シート2bには貫通孔が形成されており、該貫通孔の上部はアクリル樹脂製プレート2aにより蓋がされ、該貫通孔が被処理溶液貯液部2となっている。また、ゴムシート2bには、流入口8及び流出口(図示せず)が設けられている。合成ゴム製シート3bには貫通孔が形成されており、該貫通孔の下部はアクリル樹脂製プレート3aにより蓋がされ、該貫通孔が回収溶液貯液部3となっている。また、合成ゴム製シート3bには、流入口9及び流出口(図示せず)が設けられている。フッ素イオン吸着手段4は、合成ゴム製シート2bと、合成ゴム製シート3bとの間に配設されている。フッ素イオン吸着手段4は、水酸化チタン含有層5と、陰イオン交換樹脂6と、シリコーンゴム製の保持枠7とを有している。フッ素イオン吸着手段4は、水酸化チタン含有層5が、保持枠7により保持されつつ、2つの陰イオン交換膜6により挟持された構造となっている。
【0053】
本発明のフッ素イオン処理方法の一態様を、図3を用いて説明する。図3のフッ素イオン処理装置は、フッ素イオン処理装置本体1と、ポンプ10a、10bと、pH測定器11と、プラスチック製の流路12a、12bと、容器13a、13bとを有している。フッ素イオン処理装置本体1のアクリル樹脂製プレートは透明であり、被処理溶液貯液部2が視認できる。フッ素イオン処理装置本体1は、図1で示したフッ素イオン処理装置本体1と同じ構成である。フッ素イオン処理装置本体1は、流路12aと接続している。流路12aは、容器13a、ポンプ10aに接続し、更にフッ素イオンを含有する被処理溶液が、被処理溶液貯液部2と容器13aを循環するように配設されている。フッ素イオン処理装置本体11は、流路12bと接続している。流路12bは、容器13b、ポンプ10bに接続し、更に回収溶液が、回収溶液貯液部(図示せず)と容器13bを循環するように配設されている。pH測定器11の測定端子は、容器13a内に収容されたフッ素イオンを含有する被処理溶液に浸っている。
本発明のフッ素イオン処理方法の一態様においては、ポンプ10aを作動させ、容器13aに収容されていたフッ素イオンを含有する被処理溶液を、フッ素イオン処理装置本体1の被処理溶液貯液部2へ供給する。また、ポンプ10bを作動させ、容器13bに収容されていた回収溶液を、フッ素イオン処理装置本体1の回収溶液貯液部へ供給する。フッ素イオンを含有する被処理溶液と回収溶液は、それぞれpHが調整されている。被処理溶液貯液部2に供給されたフッ素イオンを含有する被処理溶液のフッ素イオンは、フッ素イオン処理装置本体1のフッ素イオン吸着手段(図示せず)に配設された水酸化チタンに吸着する。そして、水酸化チタンに吸着したフッ素イオンは、フッ素イオン吸着手段中を、被処理溶液貯液部2側から回収溶液貯液部側へ移動し、水酸化チタンから脱離して、回収溶液により回収される。ポンプ10aを作動させている間、フッ素イオンを含有する被処理溶液は、被処理溶液貯液部2と容器13aを循環しており、ポンプ10bを作動させている間、回収溶液は、回収溶液貯液部と容器13bを循環している。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるもの
ではない。
【0055】
(調製例1)
<水酸化チタンの調製>
ビーカーにオキシ硫酸チタン(オキシ硫酸チタン(IV)、ナカライテスク社製、TiOSO・xHO)2.0gと水10.0mLを加え、オキシ硫酸チタンが溶解するまで2時間撹拌した。溶解後、アンモニア水(アンモニア28質量%)15.0mLをゆっくりと加え、4時間静置した。静置後、ビーカー内の上澄み液を除去し、水酸化チタンを得た。
【0056】
(調製例2)
<層状化剤を用いた水酸化チタン含有層の調製>
寒天0.6gを蒸留水40mLに加え加熱溶解させ寒天溶液を得た。前記寒天溶液の温度が55℃に低下してから、前記寒天溶液に調製例1で得た水酸化チタンを加え、均一になるように混ぜ合わせてプラスチック製の容器に移した。この時点で前記寒天溶液の温度は30℃であり、その後まもなく固化し、平均厚み1mmの水酸化チタン含有層を得た。
得られた水酸化チタン含有層における水酸化チタンの含有量は、0.26mg/cmであった。
【0057】
(参考例1)
<水酸化チタンの選択的吸着性の確認>
−排煙ガス洗浄水のフッ素イオン吸着−
25℃に保った排煙ガス洗浄水10gに調製例1で得た水酸化チタンを加えた後、前記排煙ガス洗浄水のpHをpH測定器(ガラス電極式水素イオン濃度計、D53、堀場製作所社製)により測定しながら、ビュレットを用い前記排煙ガス洗浄水に10%濃硝酸を加えた。このとき、濃硝酸を加え始めた時点を実験開始とし、pH3に安定するまで濃硝酸を加えた。濃硝酸を加えてから4時間撹拌し十分な平衡状態とした後、ひだ折りろ紙(Advantec社製、4A)を用いて水酸化チタンを吸着した。
【0058】
−分析−
上記吸着処理前後の排煙ガス洗浄水中の各イオン種の濃度をICP−AES(セイコーインスツル社製、SPS3000)で測定した。測定結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

処理前の排煙ガス洗浄水には、4,000mg/Lのフッ素イオンが含まれていたが、処理後には、38mg/Lとなっており、フッ素イオンの吸着率は99%であった。他のイオンの濃度変化は表1の通りであり、フッ素イオンの吸着率が非常に高く、水酸化チタンはフッ素イオンを選択的に吸着することが確認できた。
【0060】
(実施例1)
図1〜図3に示すフッ素イオン処理装置を用い、フッ素イオンを含有する被処理溶液からのフッ素イオンの吸着を行った。各種条件は以下の通りである。
<フッ素イオン処理装置、及びフッ素イオン処理方法の条件>
−フッ素イオンを含有する被処理溶液の調製−
処理前のフッ素イオンを含有する被処理溶液を調製した。処理前のフッ素イオンを含有する被処理溶液中のフッ素イオン含有量は4,000mg/L、pHは3.2であった。フッ素イオン含有量は、イオンクロマトグラフィーで測定した。pHは、pHメーターで測定した。
−回収溶液の調製−
処理前の回収溶液として、水酸化ナトリウムによりpH9.0に調整した水酸化ナトリウム水溶液を用いた。pHは、pHメーターで測定した。
−フッ素イオン吸着手段−
・フッ素イオン吸着手段は、2枚の下記陰イオン交換膜で下記水酸化チタン含有層を挟持する構造にした。
・水酸化チタン含有層:調製例1で得た水酸化チタンを用いた平均厚み10mmの層(体積は2.8×10mm
・陰イオン交換膜:セレミオン(登録商標)、旭硝子社製、平均厚み0.5mm、
・被処理溶液貯液部に接するフッ素イオン吸着手段の面積C:28.3cm2
−被処理溶液貯液部−
・被処理溶液貯液部の容積:1×10−3
・被処理溶液貯液部へ供給されるフッ素イオンを含有する被処理溶液の単位時間当たりの供給量B:1m/時間〜3m/時間
・フッ素イオンを含有する被処理溶液の使用量:1L
−回収溶液貯液部−
・回収溶液貯液部の容積:1×10−3
・回収溶液貯液部に接するフッ素イオン吸着手段の面積:28.3cm2
・回収溶液貯液部へ供給される回収溶液の単位時間当たりの供給量:1m/時間〜3m/時間
・回収溶液の使用量:1L
−処理時間−
24時間
【0061】
<フッ素イオンの吸着>
上記条件にて、図1〜図3に示すフッ素イオン処理装置を用い、フッ素イオン処理を行った。なお、被処理溶液貯液部、及び回収溶液貯液部は、フッ素イオンを含有する被処理溶液、及び回収溶液がそれぞれ充填される(空隙がない)ようにした。処理後のフッ素イオン含有量は、イオンクロマトグラフィーで測定した。
処理後の、被処理溶液中のフッ素イオン含有量は、38mg/Lであり、フッ素イオンの減少が確認できた。また、処理後の回収溶液中のフッ素イオン含有量には、処理における被処理溶液のフッ素イオン含有量の減少量に相当する量の増加が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のフッ素イオン処理装置及びフッ素イオン処理方法は、廃棄物を出すことがなく、フッ素イオン濃度が低濃度の場合にもフッ素イオンの吸着、回収が可能で、かつフッ素イオンのみを選択的に吸着、回収することができ、更に連続的な処理が可能なため、工場廃水などのフッ素イオンの吸着、回収に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0063】
1 フッ素イオン処理装置本体
2 被処理溶液貯液部
2a アクリル樹脂製プレート
2b 合成ゴム製シート
3 回収溶液貯液部
3a アクリル樹脂製プレート
3b 合成ゴム製シート
4 フッ素イオン吸着手段
5 水酸化チタン
6 陰イオン交換膜
7 保持枠
8 流入口
9 流入口
10a、10b ポンプ
11 pH測定器
12a、12b 流路
13a、13b 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素イオンを含有する被処理溶液を供給する被処理溶液供給手段と、
水酸化チタン含有層を少なくとも有し、前記被処理溶液供給手段により供給される前記被処理溶液中のフッ素イオンを吸着可能であるフッ素イオン吸着手段と、
前記水酸化チタン含有層が吸着した前記フッ素イオンを脱離させる回収溶液を前記フッ素イオン吸着手段に供給し、前記フッ素イオンを回収するフッ素イオン回収手段と、を有することを特徴とするフッ素イオン処理装置。
【請求項2】
被処理溶液供給手段が、被処理溶液を収容可能な被処理溶液貯液部を有し、
フッ素イオン回収手段が、回収溶液を収容可能な回収溶液貯液部を有する請求項1に記載のフッ素イオン処理装置。
【請求項3】
水酸化チタン含有層の平均厚みが、0.75mm〜1.5mmである請求項1から2のいずれかに記載のフッ素イオン処理装置。
【請求項4】
水酸化チタン含有層が含有する水酸化チタンが、乾燥状態においてフレーク状であり、該フレーク状の水酸化チタンの大きさが、10μm〜750μmである請求項1から3のいずれかに記載のフッ素イオン処理装置。
【請求項5】
水酸化チタン含有層が含有する水酸化チタンの粒度分布が1μm〜20μmであり、平均粒径が1μm〜10μmである請求項1から4のいずれかに記載のフッ素イオン処理装置。
【請求項6】
水酸化チタン含有層における水酸化チタンの含有量が、0.01mg/cm〜0.5mg/cmである請求項1から5のいずれかに記載のフッ素イオン処理装置。
【請求項7】
フッ素イオン吸着手段が、陰イオン交換膜を有する請求項1から6のいずれかに記載のフッ素イオン処理装置。
【請求項8】
フッ素イオン吸着手段が、少なくとも2つの陰イオン交換膜により水酸化チタン含有層を挟持した構造である請求項7に記載のフッ素イオン処理装置。
【請求項9】
被処理溶液貯液部が、被処理溶液を、前記被処理溶液貯液部へ流入させる流入口と、前記被処理溶液貯液部から流出させる流出口とを有し、
回収溶液貯液部が、回収溶液を、前記回収溶液貯液部へ流入させる流入口と、前記回収溶液貯液部から流出させる流出口とを有する請求項2から8のいずれかに記載のフッ素イオン処理装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載のフッ素イオン処理装置を用いて行い、
被処理溶液供給手段によりフッ素イオンを含有する被処理溶液を供給する被処理溶液供給工程と、
前記被処理溶液供給工程により供給される前記被処理溶液中のフッ素イオンをフッ素イオン吸着手段により水酸化チタン含有層に吸着させるフッ素イオン吸着工程と、
前記フッ素イオン吸着工程により前記水酸化チタン含有層が吸着した前記フッ素イオンを、フッ素イオン回収手段により回収溶液に脱離させるフッ素イオン回収工程と、
を含むことを特徴とするフッ素イオン処理方法。
【請求項11】
被処理溶液のpHが、2〜5であり、回収溶液のpHが、8〜11である請求項10に記載のフッ素イオン処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−213694(P2012−213694A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79813(P2011−79813)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(506347517)DOWAエコシステム株式会社 (83)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【Fターム(参考)】