説明

フッ素ガス生成装置

【課題】フッ素ガス生成装置の起動時において電解槽の液面レベルの変動を抑制すること。
【解決手段】電解槽1の第1気室11aに接続されフッ素ガスを外部装置4へと供給するための第1メイン通路15と、第1気室11aからフッ素ガスを導出して搬送する第1搬送機器17と、第1搬送機器17の上流側の圧力を検出する第1圧力検出器13と、第1搬送機器17から吐出されたフッ素ガスを第1搬送機器17の吸込側へと戻すための第1圧力調整弁19と、第1圧力検出器13の検出圧力が第1設定値となるように第1圧力調整弁19の開度を制御する制御装置10と、圧力検出器13の上流側に設けられる起動弁70と、閉弁状態での起動弁70の前後差圧を検出する差圧検出器71とを備え、フッ素ガス生成装置の起動時には、制御装置10は、起動弁70の前後差圧が設定範囲内となるように設定値を変更し、前後差圧が設定範囲内となった場合に起動弁70を開弁する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素ガス生成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のフッ素ガス生成装置として、電解槽を使用し、電気分解によってフッ素ガスを生成する装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、陽極側の第1気相部分にフッ素ガスを主成分とするプロダクトガスを発生させると共に、陰極側の第2気相部分に水素ガスを主成分とする副生ガスを発生させる電解槽と、第1及び第2気相部分の圧力を測定するための第1及び第2圧力計と、プロダクトガス及び副生ガスを導出するための第1及び第2配管と、第1及び第2配管に配設された第1及び第2流量制御弁と、第1及び第2流量制御弁よりも下流で、第1及び第2配管を吸引する第1及び第2吸引手段とを備えるフッ素ガス生成装置が開示されている。
【0004】
フッ素ガスは、反応性が高いため、電解槽の液面レベルが大きく変動すると、フッ素ガスと水素ガスとが混触して反応するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−43885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のフッ素ガス生成装置では、フッ素ガス生成装置の起動時に吸引手段を起動する際には、吸引手段の吸込圧力によって電解槽の液面が急激に変動するおそれがある。その場合、フッ素ガスと水素ガスとが混触するおそれがある。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、フッ素ガス生成装置の起動時において、電解槽の液面レベルの変動を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、溶融塩中のフッ化水素を電気分解することによって、フッ素ガスを生成するフッ素ガス生成装置であって、溶融塩が貯留され、溶融塩に浸漬された陽極にて生成されたフッ素ガスを主成分とする主生ガスが導かれる第1気室と、溶融塩に浸漬された陰極にて生成された水素ガスを主成分とする副生ガスが導かれる第2気室とが溶融塩液面上に分離して区画された電解槽と、前記第1気室に接続され、前記電解槽の前記陽極にて生成された主生ガスを外部装置へと供給するためのメイン通路と、前記メイン通路に設けられ、前記第1気室から主生ガスを導出して搬送する搬送機器と、前記メイン通路における前記搬送機器の上流側の圧力を検出する圧力検出器と、前記搬送機器の吐出側と吸込側を接続する還流通路と、前記還流通路に設けられ、前記搬送機器から吐出された主生ガスを当該搬送機器の吸込側へと戻すための圧力調整弁と、前記圧力検出器によって検出された圧力が予め定められた設定値となるように、前記圧力調整弁の開度を制御する制御装置と、前記メイン通路における前記圧力検出器の上流側に設けられ、フッ素ガス生成装置の起動時に開弁して前記陽極にて生成された主生ガスの流通を許容する起動弁と、閉弁状態での前記起動弁の前後の圧力差を検出する差圧検出器と、を備え、フッ素ガス生成装置の起動時には、前記制御装置は、前記差圧検出器によって検出された圧力差が予め定められた設定範囲内となるように前記設定値を変更し、当該圧力差が前記設定範囲内となった場合に前記起動弁を開弁することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フッ素ガス生成装置の起動時には、制御装置は、差圧検出器によって検出された圧力差が予め定められた設定範囲内となるように設定値を変更し、圧力差が設定範囲内となった場合に起動弁を開弁するため、上流と下流の圧力差が小さい状態で起動弁が開弁して第1気室と搬送機器との接続が行われる。したがって、フッ素ガス生成装置の起動時において、電解槽の液面レベルの変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態に係るフッ素ガス生成装置を示す系統図である。
【図2】電解槽の起動手順を示すフローチャートである。
【図3】フッ素ガスの供給準備手順を示すフローチャートである。
【図4】フッ素ガスの供給手順を示すフローチャートである。
【図5】フッ素ガスの供給停止手順を示すフローチャートである。
【図6】電解槽の停止手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
図1を参照して、本発明の実施の形態に係るフッ素ガス生成装置100について説明する。
【0013】
フッ素ガス生成装置100は、電気分解によってフッ素ガスを生成し、生成されたフッ素ガスを外部装置4へと供給するものである。外部装置4は、例えば半導体製造装置である。その場合、フッ素ガスは、例えば半導体の製造工程においてクリーニングガスとして使用される。
【0014】
フッ素ガス生成装置100は、電気分解によってフッ素ガスを生成する電解槽1と、電解槽1から生成したフッ素ガスを外部装置4へと供給するフッ素ガス供給系統2と、フッ素ガスの生成に伴って生成された副生ガスを処理する副生ガス処理系統3とを備える。また、フッ素ガス生成装置100は、各計器から出力される検出結果に基づいて各機器及び各弁の動作を制御する制御装置としてのコントローラ10も備える。コントローラ10は、CPU、ROM、及びRAMを備えるマイコンにて構成される。
【0015】
まず、電解槽1について説明する。
【0016】
電解槽1には、フッ化水素(HF)を含む溶融塩が貯留される。本実施の形態では、溶融塩として、フッ化水素とフッ化カリウム(KF)の混合物(KF・2HF)が用いられる。
【0017】
電解槽1の内部は、溶融塩中に浸漬された区画壁6によって陽極室11と陰極室12とに区画される。陽極室11及び陰極室12の溶融塩中には、それぞれ陽極7及び陰極8が浸漬される。陽極7と陰極8の間に電源9から電流が供給されることによって、陽極7ではフッ素ガス(F2)を主成分とする主生ガスが生成され、陰極8では水素ガス(H2)を主成分とする副生ガスが生成される。陽極7には炭素電極が用いられ、陰極8には軟鉄、モネル、又はニッケルが用いられる。
【0018】
電解槽1内の溶融塩液面上には、陽極7にて生成されたフッ素ガスが導かれる第1気室11aと、陰極8にて生成された水素ガスが導かれる第2気室12aとが互いのガスが行き来不能に区画壁6によって区画される。このように、第1気室11aと第2気室12aは、フッ素ガスと水素ガスとの混触による反応を防ぐため、区画壁6によって完全に分離される。これに対して、陽極室11と陰極室12の溶融塩は、区画壁6によって分離されず区画壁6の下方を通じて連通している。
【0019】
電解槽1内の溶融塩の温度は、温度調節装置65によってKF・2HFの融点である71.7℃以上、具体的には85〜95℃に調節される。電解槽1には、溶融塩の温度を検出する温度検出器としての温度計69が設けられる。温度計69の検出結果はコントローラ10に出力される。
【0020】
温度調節装置65は、電解槽1の外壁に設けられたジャケット66と、電解槽1の内部に設けられたチューブ(図示せず)と、ジャケット66及びチューブに蒸気又は冷却水を循環させる加熱冷却装置67とを備える。溶融塩の温度を上げる場合には、加熱冷却装置67からジャケット66及びチューブに蒸気を流通させ、溶融塩の温度を下げる場合には、加熱冷却装置67からジャケット66及びチューブに冷却水を流通させて温度調節を行う。なお、ジャケット66及びチューブのいずれか一方を設けるようにしてもよい。また、ジャケット66及びチューブに蒸気又は冷却水を循環させる代わりに、シリコンオイル等の温冷媒を循環させるようにしてもよい。さらに、電解槽1の外壁にヒータやコンデンサ等の熱交換機を設けて溶融塩の温度を調節するようにしてもよい。
【0021】
電解槽1の陽極7及び陰極8から生成したフッ素ガス及び水素ガスのそれぞれには、溶融塩からフッ化水素が蒸気圧分だけ気化して混入する。このように、陽極7にて生成され第1気室11aに導かれるフッ素ガス及び陰極8にて生成され第2気室12aに導かれる水素ガスのそれぞれには、フッ化水素ガスが含まれている。
【0022】
電解槽1には、貯留された溶融塩の液面レベルを検出する液面レベル検出器としての液面計14が設けられる。液面計14は、電解槽1内に挿入された挿入管14aを通じて一定流量の窒素ガスを溶融塩中にパージした際の背圧を検知し、その背圧と溶融塩の液比重とから液面レベルを検出する背圧式液面計である。液面計14の検出結果はコントローラ10に出力される。
【0023】
また、電解槽1には、第1気室11aと第2気室12aとの圧力差を検出する差圧検出器としての第1差圧計20が設けられる。第1差圧計20の検出結果はコントローラ10に出力される。
【0024】
次に、フッ素ガス供給系統2について説明する。
【0025】
第1気室11aには、フッ素ガスを外部装置4へと供給するための第1メイン通路15が接続される。
【0026】
第1メイン通路15には、第1気室11aからフッ素ガスを導出して搬送する搬送機器としての第1ポンプ17が設けられる。第1ポンプ17には、ベローズポンプやダイアフラムポンプ等の容積型ポンプが用いられる。第1メイン通路15には、第1ポンプ17の吐出側と吸込側を接続する第1還流通路18が接続される。第1還流通路18には、第1ポンプ17から吐出されたフッ素ガスを第1ポンプ17の吸込側へと戻すための第1圧力調整弁19が設けられる。
【0027】
第1メイン通路15における第1ポンプ17の上流には、第1メイン通路15の圧力を検出する圧力検出器としての第1圧力計13が設けられる。第1圧力計13の検出結果はコントローラ10に出力される。
【0028】
第1圧力調整弁19は、コントローラ10から出力される信号に基づいて開度が制御される。具体的には、コントローラ10は、第1圧力計13によって検出された圧力がROMに記憶され予め定められた第1設定値となるように、第1圧力調整弁19の開度を制御する。
【0029】
第1メイン通路15における第1圧力計13の上流には、フッ素ガス生成装置100の起動時に開弁して陽極7にて生成されたフッ素ガスの流通を許容する起動弁70が設けられる。起動弁70は、フッ素ガス生成装置100の通常運転時には常時開状態となる。第1メイン通路15には、閉弁状態での起動弁70の前後の圧力差を検出する差圧検出器としての第2差圧計71が設けられる。第2差圧計71の検出結果はコントローラ10に出力される。コントローラ10は、フッ素ガス生成装置100の起動時に、第2差圧計71によって検出された差圧がROMに記憶され予め定められた設定範囲内である場合には、起動弁70を開弁するように制御する。詳しい制御については後述する。
【0030】
第1メイン通路15における起動弁70の上流には分岐通路72が接続され、分岐通路72の下流端には除害部73が設けられる。分岐通路72には、フッ素ガスの流通と遮断を切り換える第1遮断弁74が設けられる。起動弁70が閉弁状態でかつ第1遮断弁74が開弁状態では、陽極7にて生成されたフッ素ガスは分岐通路72を通じて排出され除害部73にて無害化されて放出される。
【0031】
第1メイン通路15における第1ポンプ17の上流には、フッ素ガスに混入したフッ化水素ガスを捕集してフッ素ガスを精製する精製装置16が設けられる。精製装置16は、並列に設けられた第1精製装置16aと第2精製装置16bの2つの系統からなる。第1精製装置16a及び第2精製装置16bは、フッ素ガスが通過するガス通過部50と、フッ素ガスに混入したフッ化水素ガスが凝固する一方、フッ素ガスはガス通過部50を通過するように、フッ素の沸点以上かつフッ化水素の融点以下の温度でガス通過部50を冷却する冷却装置51とを備える。第1精製装置16a及び第2精製装置16bの上流にはそれぞれ入口弁22a,22bが設けられ、下流にはそれぞれ出口弁23a,23bが設けられる。入口弁22a,22b及び出口弁23a,23bは、陽極7から生成されたフッ素ガスが第1精製装置16a及び第2精製装置16bのいずれか一方のみを通過するように開閉が切り換えられる。つまり、第1精製装置16a及び第2精製装置16bのうち一方が運転状態である場合には、他方は停止又は待機状態となる。
【0032】
第1メイン通路15には、精製装置16の前後の圧力差を検出する差圧検出器としての第3差圧計53が設けられる。第3差圧計53の検出結果はコントローラ10に出力される。コントローラ10は、第3差圧計53によって検出された差圧がROMに記憶され予め定められた設定値に達した場合には、ガス通過部50内で凝固したフッ化水素の蓄積量が所定量に達したと判断して、入口弁22a,22b及び出口弁23a,23bの開閉を制御して、精製装置16の運転を切り換える。
【0033】
第1メイン通路15における第1ポンプ17の下流には、第1ポンプ17によって搬送されたフッ素ガスを貯留するためのバッファタンク21が設けられる。バッファタンク21に貯留されたフッ素ガスは外部装置4へと供給される。バッファタンク21には、内部圧力を検出する圧力検出器としての第2圧力計24が設けられる。第2圧力計24の検出結果はコントローラ10に出力される。
【0034】
第1メイン通路15におけるバッファタンク21の下流には、バッファタンク21から外部装置4へと供給されるフッ素ガスの流量を検出する流量検出器としての流量計26が設けられる。流量計26の検出結果はコントローラ10に出力される。
【0035】
第1メイン通路15における流量計26の下流には、外部装置4へと供給されるフッ素ガスの流量を調整する流量制御弁27が設けられる。流量制御弁27はコントローラ10から出力される信号に基づいて開度が制御される。具体的には、コントローラ10は、流量計26によって検出されたフッ素ガスの流量がROMに記憶され予め定められた目標流量となるように、流量制御弁27の開度を制御する。コントローラ10のROMには複数の目標流量が記憶されている。目標流量は、外部装置4が必要とするフッ素ガスの流量であり、フッ素ガス生成装置100を操作するオペレータによって変更される。
【0036】
コントローラ10は、フッ素ガスの目標流量に基づいて、電源9から陽極7と陰極8の間に供給される電流を制御する。具体的には、目標流量に相当する電流値を演算し、その電流値が陽極7と陰極8の間に通電されるように電源9を制御する。このように、陽極7におけるフッ素ガスの生成量は、バッファタンク21から外部装置4へと供給されたフッ素ガスを補充するように制御される。
【0037】
さらに、コントローラ10は、フッ素ガスの目標流量に基づいて演算された電流値を第2圧力計24の検出結果に基づいて補正する。具体的には、第2圧力計24によって検出されたバッファタンク21の圧力が、ROMに記憶され予め定められた設定範囲よりも大きい場合には演算された電流値が小さくなるように補正し、また、設定範囲よりも小さい場合には演算された電流値が大きくなるように補正する。つまり、フッ素ガスの目標流量に基づいて演算された電流値は、バッファタンク21の圧力が設定範囲内(基準圧力)に保たれるように補正される。バッファタンク21の圧力の設定範囲は大気圧よりも高い圧力に設定される。
【0038】
このように、外部装置4へと供給されたフッ素ガスは補充されるように制御され、バッファタンク21の内部圧力は大気圧よりも高い圧力に制御される。これに対して、フッ素ガスが使用される外部装置4側は大気圧であるため、外部装置4に設けられるバルブを開弁すれば、バッファタンク21と外部装置4との間の圧力差によって、バッファタンク21から外部装置4へとフッ素ガスが供給されることになる。
【0039】
第1メイン通路15における流量制御弁27の下流には、外部装置4へのフッ素ガスの供給と遮断を切り換える第2遮断弁28が設けられる。また、第1メイン通路15には第2遮断弁28の上流に分岐通路55が接続され、分岐通路55の下流端には除害部56が設けられる。分岐通路55には、フッ素ガスの流通と遮断を切り換える第3遮断弁57が設けられる。第2遮断弁28が閉弁状態でかつ第3遮断弁57が開弁状態では、第1メイン通路15のフッ素ガスは分岐通路55を通じて排出され除害部56にて無害化されて放出される。
【0040】
次に、副生ガス処理系統3について説明する。
【0041】
第2気室12aには、水素ガスを外部へと排出するための第2メイン通路30が接続される。
【0042】
第2メイン通路30には、第2気室12aから水素ガスを導出して搬送する搬送機器としての第2ポンプ31が設けられる。また、第2メイン通路30には、第2ポンプ31の吐出側と吸込側を接続する第2還流通路32が接続される。第2還流通路32には、第2ポンプ31から吐出された水素ガスを第2ポンプ31の吸込側へと戻すための第2圧力調整弁33が設けられる。
【0043】
第2メイン通路30における第2ポンプ31の上流には、第2メイン通路30の圧力を検出する圧力検出器としての第3圧力計35が設けられる。第3圧力計35の検出結果はコントローラ10に出力される。
【0044】
第2圧力調整弁33は、コントローラ10から出力される信号に基づいて開度が制御される。具体的には、コントローラ10は、第3圧力計35によって検出された圧力がROMに記憶され予め定められた第2設定値となるように、第2圧力調整弁33の開度を制御する。
【0045】
第2メイン通路30における第2ポンプ31の下流には除害部34が設けられ、第2ポンプ31にて搬送された水素ガスは除害部34にて無害化されて放出される。
【0046】
フッ素ガス生成装置100は、電解槽1の溶融塩中にフッ素ガスの原料であるフッ化水素を供給する原料供給系統5も備える。以下では、原料供給系統5について説明する。
【0047】
電解槽1は、電解槽1に補充するためのフッ化水素が貯留されたフッ化水素供給源40と原料供給通路41を介して接続される。フッ化水素供給源40に貯留されたフッ化水素は、原料供給通路41を通じて電解槽1の溶融塩中に供給される。
【0048】
原料供給通路41には、フッ化水素の供給流量を制御する流量制御弁42が設けられる。流量制御弁42は、コントローラ10から出力される信号に基づいて開度が制御される。具体的には、コントローラ10は、液面計14によって検出された溶融塩の液面レベルがROMに記憶され予め定められた所定レベルとなるように、フッ化水素の供給流量を制御する。つまり、流量制御弁42は、溶融塩中で電気分解されたフッ化水素を補給するように、フッ化水素の供給流量を制御する。
【0049】
また、原料供給通路41には、キャリアガス供給源45から供給されるキャリアガスを原料供給通路41内に導くキャリアガス供給通路46が接続される。キャリアガス供給通路46には、キャリアガスの供給と遮断を切り換える遮断弁47が設けられる。キャリアガスは、フッ化水素を溶融塩中に導くためのガスであり、不活性ガスである窒素ガスが用いられる。フッ素ガス生成装置100の運転時には遮断弁47は原則開状態であり、窒素ガスは陰極室12の溶融塩中に供給される。窒素ガスは、溶融塩中にほとんど溶けず、第2気室12aから副生ガス処理系統3を通じて排出される。なお、キャリアガスとして、他の不活性ガス、例えばアルゴンガスやヘリウムガスを用いるようにしてもよい。
【0050】
電解槽1の溶融塩中には微量の水分が含まれている。この水分は、原料供給通路41を通じて供給されるフッ化水素と共に電解槽1内に持ち込まれたり、キャリアガス供給通路46を通じて原料供給通路41に供給される窒素ガスと共に電解槽1内に持ち込まれたり、液面計14を通じてパージされる窒素ガスと共に電解槽1内に持ち込まれたりするものである。また、溶融塩中に含まれる水分には、電解中に持ち込まれる水分の他、当初から溶融塩中に混入している水分もある。電解槽1の溶融塩中の水分濃度が高い状態で電解を実施すると、溶融塩中の水分と炭素電極とが反応することによって陽極7の表面が酸化され、陽極効果が発生するおそれある。陽極効果とは、電気分解の継続が不可能になるまで電解電圧が上昇する現象のことをいう。そこで、電解槽1には、サンプリング通路58を通じて溶融塩をサンプリングし、溶融塩中の水分濃度を測定する水分濃度測定装置59が設けられる。水分濃度測定装置59による水分濃度の測定は、カールフィッシャー法が用いられる。
【0051】
また、第1メイン通路15には、サンプリング通路60を通じてフッ素ガスをサンプリングし、フッ素と溶融塩中の水分とが反応して生成されるOF2等の反応生成物の濃度を測定するガス濃度測定装置61が設けられる。ガス濃度測定装置61には赤外分光光度計が用いられる。
【0052】
なお、水分濃度測定装置59及びガス濃度測定装置61のいずれか一方のみを設けるようにしてもよい。
【0053】
次に、図2〜図6を参照して、コントローラ10によって実行されるフッ素ガス生成装置100の自動運転制御について説明する。
【0054】
フッ素ガス生成装置100の停止状態においては、第1遮断弁74が開弁状態であり、それ以外の起動弁70、入口弁22a,22b、出口弁23a,23b、第2遮断弁28、及び第3遮断弁57は閉弁状態である。
【0055】
まず、図1及び図2を参照して、電解槽1の起動手順について説明する。
【0056】
図2に示す電解槽1の起動フローは、オペレータが電解槽1の電源9のスイッチをONとすることによってスタートする。
【0057】
ステップ1では、温度調節装置65が起動し、加熱冷却装置67から電解槽1のジャケット66及びチューブに蒸気が供給される。これにより、溶融塩の温度が上昇する。
【0058】
ステップ2では、溶融塩の温度が所定温度に到達したか否かが判定される。所定温度に到達したと判定された場合にはステップ3に進む。所定温度は、例えば溶融塩が溶解状態となる80℃に設定される。溶融塩の温度が所定温度に到達した後は、溶融塩の温度は、温度計69の検出結果に基づいて、加熱冷却装置67によって85〜95℃に制御される。
【0059】
ステップ3では、流量制御弁42による溶融塩の液面レベル制御が開始される。具体的には、コントローラ10は、液面計14の検出結果に基づいて、溶融塩の液面レベルが所定レベルとなるように、流量制御弁42の開度を制御してフッ化水素供給源40から電解槽1に供給されるフッ化水素の流量を調整する。所定レベルは、区画壁6の下端部よりも高く、電極7,8を支持する支持体(図示せず)よりも低いレベルに設定される。
【0060】
ステップ4では、水分濃度測定装置59による溶融塩中の水分濃度の測定が行われる。
【0061】
ステップ5では、水分濃度測定装置59によって測定された溶融塩中の水分濃度がROMに記憶され予め定められた基準濃度以下か否かが判定される。基準濃度以下と判定された場合には、電解槽1の起動が完了する。一方、基準温度を超えると判定された場合にはステップ6に進む。基準濃度は、陽極効果発生の防止、つまり陽極7の保護の観点から決定され、例えば500wt.ppmに設定される。
【0062】
ステップ6では、陽極7と陰極8の間に電源9から0.5〜5A/dm2の電流が供給される。これにより、陽極7ではフッ素ガスが生成され、そのフッ素ガスは第1メイン通路15から分岐通路72を通じて排出され除害部73にて無害化されて放出される。
【0063】
ステップ7では、ステップ6と同様に、水分濃度測定装置59によって測定された溶融塩中の水分濃度が基準濃度以下か否かが判定される。基準濃度以下と判定された場合にはステップ8に進む。陽極7と陰極8の間への通電は、溶融塩中の水分濃度が基準濃度以下となるまで行われる。
【0064】
ステップ8では、陽極7と陰極8の間への通電が停止される。
【0065】
以上にて、電解槽1の起動が完了し、電解槽1は陽極7と陰極8の間への通電が可能なスタンバイ状態となる。
【0066】
なお、水分濃度測定装置59による溶融塩中の水分濃度の測定に代わり、ガス濃度測定装置61によってフッ素ガス中のOF2等の反応生成物の濃度を測定するようにしてもよい。その場合には、上記ステップ3の後、陽極7と陰極8の間に電源9から0.5〜5A/dm2の電流を供給し、陽極7から生成するフッ素ガス中の反応生成物の濃度を測定する。そして、反応生成物の濃度が基準濃度以下である場合には、陽極7と陰極8の間への通電が停止され、電解槽1はスタンバイ状態となる。一方、反応生成物の濃度が基準濃度を超える場合には、陽極7にて生成されるフッ素ガスを分岐通路72を通じて排出し、反応生成物の濃度が基準濃度以下になった場合に陽極7と陰極8の間への通電が停止される。
【0067】
次に、図1及び図3を参照して、フッ素ガスの供給準備手順について説明する。
【0068】
図3に示すフッ素ガスの供給準備フローは、オペレータがガス供給準備スイッチをONとすることによってスタートする。
【0069】
ステップ11では、陽極7と陰極8の間への予備通電が開始される。電流は0A/dm2から5A/dm2までステップ状に上げられる。これにより、陽極7ではフッ素ガスが生成され、そのフッ素ガスは第1メイン通路15から分岐通路72を通じて排出され除害部73にて無害化されて放出される。
【0070】
ステップ12では、第1ポンプ17が起動すると共に、第1圧力調整弁19による第1メイン通路15の圧力制御が開始される。具体的には、コントローラ10は、第1圧力計13の検出結果に基づいて、第1メイン通路15における第1ポンプ17の上流側の圧力が第1設定値となるように、第1圧力調整弁19の開度を制御して第1圧力調整弁19を通じて還流するフッ素ガス流量を調整する。第1設定値は、例えば100.5〜102.0kPaに設定される。第1圧力計13の検出圧力が第1設定値よりも小さい場合には、第1ポンプ17の吸込側に還流するフッ素ガス流量が多くなるように、第1圧力調整弁19の開度は大きく設定される。また、第1圧力計13の検出圧力が第1設定値よりも大きい場合には、第1ポンプ17の吸込側に還流するフッ素ガス流量が少なくなるように、第1圧力調整弁19の開度は小さく設定される。ここで、第1圧力計13の検出圧力が第1設定値よりも小さい場合において、バッファタンク21にフッ素ガスが蓄圧された状態では、バッファタンク21内のフッ素ガスは第1ポンプ17側へと逆流して第1圧力調整弁19を通じて還流することになる。
【0071】
ステップ13では、精製装置16の片系統の入口弁と出口弁が開弁する。ここでは、第1精製装置16aの入口弁22aと出口弁23aが開弁し、第1精製装置16aと第1ポンプ17が接続される。
【0072】
ステップ14では、第2差圧計71によって検出された起動弁70の前後の圧力差が設定範囲内か否かが判定される。設定範囲内と判定された場合にはステップ16に進む。一方、設定範囲を超えると判定された場合にはステップ15に進む。
【0073】
ステップ16では、起動弁70が開弁すると共に第1遮断弁74が閉弁し、電解槽1の第1気室11aと第1ポンプ17の接続が行われる。これにより、陽極7にて生成されたフッ素ガスは、第1ポンプ17によって搬送されてバッファタンク21へと導かれる。
【0074】
ステップ15では、第2差圧計71によって検出された起動弁70の前後の圧力差が設定範囲内となるように第1設定値の変更が行われる。具体的には、起動弁70上流の圧力が下流の圧力よりも大きいことによって起動弁70の前後差圧が設定範囲を超えている場合には、起動弁70下流の圧力を大きくすべく第1設定値は大きい値に変更される。これにより、第1圧力調整弁19の開度は大きくなり、起動弁70の前後差圧は小さくなる。一方、起動弁70上流の圧力が下流の圧力よりも小さいことによって起動弁70の前後差圧が設定範囲を超えている場合には、起動弁70下流の圧力を小さくすべく第1設定値は小さい値に変更される。これにより、第1圧力調整弁19の開度は小さくなり、起動弁70の前後差圧は小さくなる。第1設定値の変更は、起動弁70の前後差圧が設定範囲内と判定されるまで繰り返し行われる。そして、設定範囲内と判定された場合には、ステップ16に進み、上述したように、第1気室11aと第1ポンプ17の接続が行われる。設定範囲は、電解槽1のサイズによるが、例えば500Paに設定される。
【0075】
このように、起動弁70の開弁、つまり第1気室11aと第1ポンプ17との接続は、起動弁70の前後差圧が設定範囲内である場合に行われる。したがって、起動弁70が開弁した際に、第1気室11aのフッ素ガスが急激に起動弁70の下流に流れ込むことが防止されるため、陽極室11の液面レベルの変動が抑制される。よって、第1気室11aと第1ポンプ17との接続を安定に行うことができる。
【0076】
ステップ17では、第3遮断弁57が開弁し、バッファタンク21のフッ素ガスは、第1メイン通路15から分岐通路55を通じて排出され除害部56にて無害化されて放出される。
【0077】
ステップ18では、流量制御弁27によるバッファタンク21の圧力制御が開始される。具体的には、コントローラ10は、第2圧力計24の検出結果に基づいて、バッファタンク21の圧力が設定範囲内(基準圧力)となるように、流量制御弁27の開度を制御する。設定範囲は、例えば110〜400kPaの範囲に設定される。このように、フッ素ガスの供給準備手順においては、流量制御弁27はフッ素ガスの流量制御ではなく、バッファタンク21の圧力制御を行うことになる。
【0078】
以上にて、フッ素ガスの供給準備が完了する。これにより、フッ素ガス生成装置100では、陽極7と陰極8の間に必要最小限の電流が通電され、外部装置4へのフッ素ガスの供給が可能な状態となる。
【0079】
なお、副生ガス処理系統3についても、第2気室12aと第2ポンプ31との接続を安定に行うために、フッ素ガス供給系統2と同様に、第2気室12aと第2ポンプ31との間に起動弁及び分岐通路を設け、上記ステップ12,14,15,及び16と同様の手順を行うようにしてもよい。また、副生ガス処理系統3に第2ポンプ31を設けず、陰極8にて生成された水素ガスが第2メイン通路30を通じて直接排出されるようにしてもよい。
【0080】
次に、図1及び図4を参照して、フッ素ガスの供給手順、及びフッ素ガス生成装置100の通常運転時の制御について説明する。
【0081】
図4に示すフッ素ガスの供給フロー及び通常運転制御は、オペレータがガス供給スイッチをONとすることによってスタートする。
【0082】
ステップ21では、流量制御弁27がバッファタンク21の圧力制御からフッ素ガスの流量制御に移行する。具体的には、コントローラ10は、流量計26によって検出されたフッ素ガスの流量が目標流量となるように、流量制御弁27の開度を制御する。これにより、流量計26によって検出されるフッ素ガス流量と目標流量とは、ほぼ一致することになる。
【0083】
ステップ22では、陽極7と陰極8の間の電流制御が5A/dm2一定制御から外部装置4へのフッ素ガスの供給流量に応じた制御に変更される。この制御について具体的に説明する。陽極7と陰極8の間に通電する電流値と、陽極7にて発生するフッ素ガスの流量とには、以下に示す式の関係がある。
【0084】
【数1】

【0085】
ここで、電流効率を95%とすると、フッ素ガスの流量は、以下に示す式にて求められる。
【0086】
流量(L/min)=電流値(A)×6.6155×10-3 ・・・ (2)
【0087】
上記(2)式はコントローラ10のROMに記憶されている。コントローラ10は、上記(2)式を用いて、フッ素ガスの目標流量に相当する電流値を演算し、この演算した電流値が陽極7と陰極8の間に供給されるように電源9を制御する。これにより、陽極7では、外部装置4へと供給されるフッ素ガス流量に相当するフッ素ガスが生成されることになる。
【0088】
ステップ23では、第2遮断弁28が開弁すると共に第3遮断弁57が閉弁する。これにより、バッファタンク21のフッ素ガスは外部装置4へと供給され、通常運転に移行する。以下では、通常運転の制御について説明する。
【0089】
ステップ24では、オペレータによるフッ素ガスの目標流量の変更があるか否かが判定される。目標流量の変更があると判定された場合にはステップ25進み、上記(2)式を用いて、変更された目標流量に相当する電流値が再演算される。再演算された電流値は電源9に出力され、電源9は陽極7と陰極8の間にその再演算された電流値を供給する。ここで、再演算された電流値が電源9の現状の電流値よりも高い場合には、陽極7と陰極8の間に供給する電流値を所定の上昇速度で再演算された電流値まで上昇させる。一方、再演算された電流値が電源9の現状の電流値よりも低い場合には、陽極7と陰極8の間に供給する電流値を再演算された電流値まで一気に低下させる。なお、陽極7と陰極8の間に供給される電流値として最低電流値が設定される。最低電流値は、例えば0.5A/dm2程度に設定される。したがって、目標流量が0L/minであっても、陽極7と陰極8の間に供給される電流値は最低電流値より低下しないように制御される。ただし、流量計26によって検出されるフッ素ガス流量が一定時間0L/minの状態が継続した場合には、後述するフッ素ガスの供給停止(図5参照)が実行される。
【0090】
なお、ステップ22及び25では、陽極7と陰極8の間に供給する電流値として、上記(2)式を用いて、フッ素ガスの目標流量に相当する電流値を演算すると説明した。しかし、陽極7と陰極8の間に供給する電流値として、上記(2)式を用いて、流量計26によって検出されたフッ素ガス流量に相当する電流値を演算するようにしてもよい。つまり、上記(2)式の流量(L/min)を、フッ素ガスの目標流量ではなく、流量計26によって検出されたフッ素ガス流量として演算するようにしてもよい。このようにして電流値を演算すれば、外部装置4へと供給されるフッ素ガス流量が連続的に変化するような場合には、それに対応して電極7にて生成されるフッ素ガスの流量を制御することが可能となる。
【0091】
ステップ25にて電流値が再演算された後、ステップ26に進む。また、ステップ24にて目標流量の変更がないと判定された場合には、電流値の再演算を行わずにステップ26に進む。ステップ22及び25にて説明したように、陽極7と陰極8の間に供給される電流値はフッ素ガスの目標流量に基づいて演算されるため、陽極7では、外部装置4へと供給されるフッ素ガス流量に相当するフッ素ガスが生成されることになる。つまり、バッファタンク21から外部装置4へと供給されるフッ素ガスは陽極7にて生成されるフッ素ガスによって補充されるため、理論的には、バッファタンク21の圧力は常に一定に保たれることになる。しかし、上記(1)式中の電流効率は85〜99%程度の範囲で変動するため、バッファタンク21から外部装置4へと供給されるフッ素ガス流量と陽極7にて生成されるフッ素ガス流量とに差が生じる可能性がある。その場合には、バッファタンク21の圧力は一定に保たれず変動する。
【0092】
そこで、ステップ26では、第2圧力計24によって検出されたバッファタンク21の圧力が設定範囲外か否かが判定される。設定範囲外と判定された場合にはステップ27に進み、陽極7と陰極8の間に供給する電流値の補正が行われる。具体的には、バッファタンク21の圧力が、設定範囲よりも大きい場合にはステップ22又はステップ25にて演算された電流値が小さくなるように補正される。例えば、演算された電流値の90%程度に補正される。一方、バッファタンク21の圧力が、設定範囲よりも小さい場合にはステップ22又はステップ25にて演算された電流値が大きくなるように補正される。例えば、演算された電流値の110%程度に補正される。このように、ステップ27では、演算された電流値が第2圧力計24の検出結果に基づいて補正される。つまり、演算された電流値は、バッファタンク21の圧力が設定範囲内(基準圧力)に保たれるように、第2圧力計24の検出結果と設定範囲(基準圧力)との比較に基づいて補正される。設定範囲は、例えば110〜400kPaの範囲に設定される。
【0093】
ステップ27にて電流値が補正された後、ステップ28に進む。また、ステップ26にてバッファタンク21の圧力が設定範囲外でないと判定された場合には、電流値の補正を行わずにステップ28に進む。第1圧力調整弁19の開度は第1圧力計13によって検出された圧力が第1設定値となるように制御され、第2圧力調整弁33の開度は第3圧力計35によって検出された圧力が第2設定値となるように制御される。第1設定値と第2設定値は、第1気室11aと第2気室12aの圧力が同等となるように、つまり、両室に圧力差が生じないような値に設定される。したがって、基本的には、第1気室11aと第2気室12aの圧力差は大きくならないように制御される。しかし、計器誤差等によって第1圧力計13及び第3圧力計35が示す圧力と実際の圧力とに差が生じた場合や、第1圧力計13,第3圧力計35から電解槽1までの圧力損失が経年変化した場合等には、第1気室11aと第2気室12aの圧力差が大きくなる可能性がある。第1気室11aと第2気室12aの圧力差は陽極室11と陰極室12の液面レベルの差に大きな影響を及ぼし、両室の液面レベルの差が大きくなると、第1気室11aのフッ素ガスと第2気室12aの水素ガスとが混触して反応するおそれがある。
【0094】
そこで、ステップ28では、第1差圧計20によって検出された第1気室11aと第2気室12aとの圧力差が設定範囲外か否かが判定される。設定範囲外と判定された場合にはステップ29に進み、第1差圧計20によって検出された第1気室11aと第2気室12aとの圧力差がROMに記憶され予め定められた設定範囲となるように第1設定値又は第2設定値の変更が行われる。具体的には、第1気室11aの圧力が第2気室12aの圧力よりも大きいことによって両室の差圧が設定範囲を超えている場合には、第1気室11aの圧力を小さくすべく第1設定値が小さい値に変更されるか、又は第2気室12aの圧力を大きくすべく第2設定値が大きい値に変更される。これにより、第1圧力調整弁19の開度が小さくなるか、又は第2圧力調整弁33の開度が大きくなり、第1気室11aと第2気室12aとの圧力差は小さくなる。一方、第1気室11aの圧力が第2気室12aの圧力よりも小さいことによって両室の差圧が設定範囲を超えている場合には、第1気室11aの圧力を大きくすべく第1設定値が大きい値に変更されるか、又は第2気室12aの圧力を小さくすべく第2設定値が小さい値に変更される。これにより、第1圧力調整弁19の開度が大きくなるか、又は第2圧力調整弁33の開度が小さくなり、第1気室11aと第2気室12aとの圧力差は小さくなる。なお、第1設定値及び第2設定値の双方を同時に変更するようにしてもよい。つまり、ステップ28では、第1設定値及び第2設定値の少なくとも一方の変更が行われる。第1設定値及び第2設定値の変更は、両室の差圧が設定範囲内と判定されるまで繰り返し行われる。そして、設定範囲内と判定された場合にはステップ30に進む。設定範囲は、電解槽1のサイズによるが、例えば500Paに設定される。
【0095】
このように、第1気室11aと第2気室12aとの圧力差は第1設定値及び第2設定値を変更することによって設定範囲内となるように制御されるため、計器誤差等によって第1圧力計13及び第3圧力計35が示す圧力と実際の圧力とに差が生じた場合や、第1圧力計13,第3圧力計35から電解槽1までの圧力損失が経年変化した場合でも、陽極室11と陰極室12との液面レベルに差が生じることが抑制され、電解槽1の液面レベル制御を安定して行うことができる。
【0096】
なお、以上のステップ28では、第1設定値及び第2設定値の少なくとも一方を変更する場合について説明したが、第1設定値のみを変更することによって、第1気室11aと第2気室12aとの圧力差が設定範囲内となるように制御するようにしてもよい。
【0097】
また、第1圧力計13は、第1メイン通路15に設けられ、第1メイン通路15における第1ポンプ17の上流側の圧力を検出するものであり、第1気室11aの圧力を直接検出するものではない。また、同様に、第3圧力計35は、第2メイン通路30に設けられ、第2メイン通路30における第2ポンプ31の上流側の圧力を検出するものであり、第2気室12aの圧力を直接検出するものではない。そこで、第1圧力計13,第3圧力計35から電解槽1までの圧力損失の経年変化が及ぼす影響を無くすため、電解槽1の陽極室11及び陰極室12のそれぞれに第1気室11a及び第2気室12aの圧力を直接検出する圧力計を設け、この圧力計の検出結果が第1設定値及び第2設定値となるように第1圧力調整弁19及び第2圧力調整弁33の開度を制御するようにしてもよい。ただし、この場合も、計器誤差等によって圧力計が示す圧力と実際の気室の圧力とに差が生じる場合が起こり得るため、ステップ29のように、第1気室11aと第2気室12aとの圧力差が設定範囲となるように第1設定値及び第2設定値の変更を行うことは有効である。
【0098】
ステップ30では、第3差圧計53によって検出された精製装置16の前後差圧が設定値に達したか否かが判定される。設定値に達していないと判定された場合にはステップ24に戻る。一方、設定値に達したと判定された場合にはステップ31に進む。
【0099】
ステップ31では、第1精製装置16aのガス通過部50内で凝固したフッ化水素の蓄積量が所定量に達したと判断して、第1精製装置16aから第2精製装置16bへの運転切り替えが行われる。具体的には、停止中の第2精製装置16bの入口弁22bと出口弁23bを開弁した後、運転中の第1精製装置16aの入口弁22aと出口弁23aを閉弁して運転切り替えが行われる。精製装置16の運転切り替え完了後、ステップ24に戻る。
【0100】
通常運転の間、ステップ24〜ステップ31が繰り返される。
【0101】
次に、図1及び図5を参照して、フッ素ガスの供給停止手順について説明する。
【0102】
図5に示すフッ素ガスの供給停止フローは、オペレータがガス供給スイッチをOFFとすることによってスタートする。また、上記ステップ24にて説明したように、流量計26によって検出されるフッ素ガス流量が一定時間0L/minの状態が継続した場合、つまり外部装置4へのフッ素ガス供給流量が一定時間0L/minの状態が継続した場合にも、図5に示すフッ素ガスの供給停止フローがスタートする。
【0103】
ステップ41では、第3遮断弁57が開弁すると共に第2遮断弁28が閉弁する。これにより、外部装置へのフッ素ガスの供給が停止され、バッファタンク21のフッ素ガスは分岐通路55を通じて排出され除害部56にて無害化されて放出される。
【0104】
ステップ42では、流量制御弁27がフッ素ガスの流量制御からバッファタンク21の圧力制御に移行する。具体的には、コントローラ10は、第2圧力計24の検出結果に基づいて、バッファタンク21の圧力が設定範囲内となるように、流量制御弁27の開度を制御する。
【0105】
ステップ43では、陽極7と陰極8の間に供給される電流値が5A/dm2まで低下する。なお、流量計26によって検出されるフッ素ガス流量が一定時間0L/minの状態が継続した結果、本供給停止フローが進行した場合には、このステップ43はスキップされる。
【0106】
ステップ44では、第1遮断弁74が開弁すると共に起動弁70が閉弁する。これにより、陽極7にて生成されたフッ素ガスは分岐通路72を通じて排出され除害部73にて無害化されて放出される。
【0107】
ステップ45では、陽極7と陰極8の間の通電が停止される。
【0108】
ステップ46では、運転中の第2精製装置16bの入口弁22bと出口弁23bが閉弁され、精製装置16が停止する。
【0109】
ステップ47では、第1ポンプ17が停止し、第1圧力調整弁19による第1メイン通路15の圧力制御が停止する。
【0110】
ステップ48では、第3遮断弁57が閉弁し、流量制御弁27によるバッファタンク21の圧力制御が停止する。
【0111】
以上にて、フッ素ガスの供給停止が完了し、電解槽1はスタンバイ状態となる。
【0112】
次に、図1及び図6を参照して、電解槽1の停止手順について説明する。電解槽1の停止は、フッ素ガス生成装置100を長期間停止させる場合に行われる。
【0113】
図6に示す電解槽1の停止フローは、オペレータが電解槽1の電源9のスイッチをOFFとすることによってスタートする。
【0114】
ステップ51では、温度調節装置65が停止し、溶融塩の温度制御が停止する。
【0115】
ステップ52では、流量制御弁42が閉弁し、フッ化水素供給源40から電解槽1へのフッ化水素の供給が停止される。これにより、溶融塩の液面レベル制御が停止する。
【0116】
ステップ53では、水分濃度測定装置59による溶融塩中の水分濃度測定が停止する。なお、水分濃度測定装置59に代わりガス濃度測定装置61を用いる場合には、ガス濃度測定装置61によるフッ素ガス中の反応生成物の濃度測定が停止する。
【0117】
以上にて、電解槽1の停止が完了する。これにより、フッ素ガス生成装置100の停止が完了する。
【0118】
以上の実施の形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0119】
電源9から陽極7と陰極8の間に供給される電流値はバッファタンク21から外部装置4へと供給されるフッ素ガス流量に基づいて演算され、その演算された電流値はバッファタンク21の圧力に基づいて補正されるため、フッ素ガスを外部装置4へと安定して自動供給することができる。
【0120】
また、フッ素ガス生成装置100の起動時には、コントローラ10は、第2差圧計71によって検出された圧力差が予め定められた設定範囲内となるように第1設定値を変更し、圧力差が設定範囲内となった場合に起動弁70を開弁する。このように、上流と下流の圧力差が小さい状態で起動弁70の開弁が行われ、第1気室11aと第1ポンプ17との接続が行われる。したがって、フッ素ガス生成装置100の起動時において、電解槽1の液面レベルの変動を抑制することができる。
【0121】
また、フッ素ガス生成装置100の通常運転時には、コントローラ10は、第1圧力計13によって検出された圧力が予め定められた第1設定値となるように第1圧力調整弁19の開度を制御すると共に、第1差圧計20によって検出された第1気室11aと第2気室12aとの圧力差が予め定められた設定範囲内となるように第1設定値又は第2設定値を変更する。したがって、第1気室11aと第2気室12aとの圧力差が大きくなることが防止され、電解槽1の液面レベル制御を安定して行うことができる。
【0122】
このように、フッ素ガス生成装置100では、起動時及び通常運転時における電解槽1の液面レベル変動を最小限に抑えるために、第1メイン通路15、第1気室11a、及び第2気室12aの圧力が高精度に制御される。
【0123】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0124】
例えば、図1では、機器や弁毎にコントローラ10を図示したが、各計器の検出結果を1つのコントローラに出力し、その1つのコントローラにて各機器及び各弁の動作を制御するようにしてもよい。
【0125】
また、上記実施の形態では、精製装置16がフッ素とフッ化水素との沸点の違いを利用して、フッ素ガスからフッ化水素ガスを分離して取り除く深冷精製装置である場合について説明した。精製装置16として、深冷精製装置に代わり、フッ素ガス中のフッ化水素ガスをフッ化ナトリウム(NaF)等の吸着剤に吸着させてフッ素ガスからフッ化水素ガスを分離して取り除く装置を用いるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明は、フッ素ガスを生成する装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0127】
100 フッ素ガス生成装置
1 電解槽
2 フッ素ガス供給系統
3 副生ガス処理系統
4 外部装置
7 陽極
8 陰極
9 電源
10 コントローラ
11a 第1気室
12a 第2気室
13 第1圧力計
15 第1メイン通路
17 第1ポンプ
19 第1圧力調整弁
20 第1差圧計
21 バッファタンク
24 第2圧力計
26 流量計
27 流量制御弁
30 第2メイン通路
40 フッ化水素供給源
70 起動弁
71 第2差圧計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融塩中のフッ化水素を電気分解することによって、フッ素ガスを生成するフッ素ガス生成装置であって、
溶融塩が貯留され、溶融塩に浸漬された陽極にて生成されたフッ素ガスを主成分とする主生ガスが導かれる第1気室と、溶融塩に浸漬された陰極にて生成された水素ガスを主成分とする副生ガスが導かれる第2気室とが溶融塩液面上に分離して区画された電解槽と、
前記第1気室に接続され、前記電解槽の前記陽極にて生成された主生ガスを外部装置へと供給するためのメイン通路と、
前記メイン通路に設けられ、前記第1気室から主生ガスを導出して搬送する搬送機器と、
前記メイン通路における前記搬送機器の上流側の圧力を検出する圧力検出器と、
前記搬送機器の吐出側と吸込側を接続する還流通路と、
前記還流通路に設けられ、前記搬送機器から吐出された主生ガスを当該搬送機器の吸込側へと戻すための圧力調整弁と、
前記圧力検出器によって検出された圧力が予め定められた設定値となるように、前記圧力調整弁の開度を制御する制御装置と、
前記メイン通路における前記圧力検出器の上流側に設けられ、フッ素ガス生成装置の起動時に開弁して前記陽極にて生成された主生ガスの流通を許容する起動弁と、
閉弁状態での前記起動弁の前後の圧力差を検出する差圧検出器と、を備え、
フッ素ガス生成装置の起動時には、前記制御装置は、前記差圧検出器によって検出された圧力差が予め定められた設定範囲内となるように前記設定値を変更し、当該圧力差が前記設定範囲内となった場合に前記起動弁を開弁することを特徴とするフッ素ガス生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−225922(P2011−225922A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95219(P2010−95219)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】