説明

フッ素ガス発生方法およびその装置

【課題】 メンテナンス終了後から通常の動作を再開するまでの時間を短縮する。
【解決手段】 メンテナンスが終了したら、陽極室3内に残留しているN2ガスを排出する。次に、F2ガスタンク31内の圧縮F2ガスを陽極室3内に供給する。次に、加熱により固化状態のKF・2HF8を液状とする。次に、陽極6と陰極7との間に電解電圧を印加し、通常の動作を再開する。この場合、メンテナンス終了後に、F2ガスタンク31内の圧縮F2ガスを陽極室3内に供給しているので、陽極6と陰極7との間に電解電圧を印加すると、直ちに通常の動作を再開することができ、したがってメンテナンス終了後から通常の動作を再開するまでの時間を短縮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はフッ素ガス発生方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のフッ素ガス発生装置には、いわゆる中温法により、フッ素ガスを発生させるようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。このフッ素ガス発生装置では、電解槽内に、電解槽内を陽極室と陰極室とに分離するための隔壁が設けられ、陽極室内に陽極が設けられ、陰極室内に陰極が設けられている。
【0003】
そして、陽極と陰極との間に電解電圧が印加されると、電解槽内に収容され、且つ、90℃程度に加熱されることにより液状とされた混合溶融塩(KF・2HF)のうちのHFが電気分解し、陽極室内にF2ガスが発生し、陰極室内にH2ガスが発生する。このうち、F2ガスは工業的に使用され、H2ガスは大気中に放出される。
【0004】
【特許文献1】特開平11−106979号公報(図12)
【0005】
ところで、上記のようなフッ素ガス発生装置では、陽極、陰極、その他のパッキン等の部品の交換等のために、定期的にメンテナンスを行なっている。このような場合には、まず、稼働中の装置に対する電圧印加および加熱を停止する。次に、陽極室内にN2ガス等の不活性ガスを供給し、この供給された不活性ガスで残留しているF2ガスを排出させ、F2ガスとの置換を行なう。そして、この状態において、メンテナンスを行なう。メンテナンスが終了したら、停止中の装置に対して加熱および電圧印加を再開する。そして、この再開により陽極室内に発生したF2ガスで残留している不活性ガスを排出させ、不活性ガスとの置換を行なう。以下、通常の稼働状態となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のメンテナンス方法では、メンテナンス終了後に、再開により陽極室内に発生したF2ガスと残留している不活性ガスとの置換に数十時間とかなりの時間がかかるので、メンテナンス終了後から通常の動作を再開するまでにかなりの時間がかかってしまうという問題があった。また、再開により陽極室内に発生した初期のF2ガスはそのF2濃度が低くて使用できないため、この初期発生のF2ガスを廃棄せざるを得ず、原料のHFがある程度無駄になってしまうという問題もあった。
【0007】
そこで、この発明は、メンテナンス終了後から通常の動作を再開するまでの時間を短縮することができ、また原料のHFを有効に使用することができるフッ素ガス発生方法およびその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明に係るフッ素ガス発生方法は、陽極室内および陰極室内を有し混合溶融塩が収容された電解槽内の陽極と陰極との間に電解電圧を印加すると共に前記電解槽内の前記混合溶融塩を加熱してフッ素ガス発生装置を稼動して、前記電解槽内に収容された混合溶融塩を電気分解し、これにより前記陽極室内にフッ素ガスを、前記陰極室内に水素ガスを発生するフッ素ガス発生方法において、前記電解槽の稼動を停止した後、前記電解槽内のフッ素ガスを排気してから、前記電解層内に不活性ガスを導入して前記電解槽内の雰囲気を不活性ガスに置換する工程と、前記電解槽内のメンテナンスを行った後、不活性ガスを排気してから、予め貯蔵しておいたフッ素ガスを導入して前記電解槽内の雰囲気をフッ素ガスに置換する工程と、フッ素ガスに置換後、前記電解槽を稼動する工程とを含むことを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明に係るフッ素ガス発生方法は、請求項1に記載の発明において、前記電解槽内には、該電解槽内を陽極室と陰極室とに分離するための隔壁が設けられ、前記陽極室内に設けられた陽極と前記陰極室内に設けられた陰極との間に電解電圧が印加されることにより、前記電解槽内に収容され、且つ、加熱により液状とされたKF・2HFのうちのHFを電気分解し、これにより前記陽極室内にフッ素ガスが発生し、前記陰極室内に水素ガスが発生することを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明に係るフッ素ガス発生方法は、請求項1に記載の発明において、前記陽極室内に発生したフッ素ガスは、コンプレッサの駆動によりフッ素ガスタンク内に供給されることを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明に係るフッ素ガス発生方法は、請求項1に記載の発明において、前記陽極および前記陰極への電圧印加を停止し、且つ、加熱を停止し、前記液状とされたKF・2HFをその温度の自然低下により固化させ、次いで前記陽極室内に残留しているフッ素ガスを排出し、前記陽極室内に不活性ガスを供給し、この状態においてメンテナンスを行ない、メンテナンスが終了したら、前記陽極室内に残留している不活性ガスを排出し、前記フッ素ガスタンク内の圧縮フッ素ガスを前記陽極室内に供給し、次いで固化したKF・2HFを加熱により液状とし、次いで前記陽極と前記陰極との間に電解電圧を印加することを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明に係るフッ素ガス発生方法は、請求項1に記載の発明において、前記陰極室内に発生した水素ガスはHF除去部を介して大気中に放出することを特徴とするものである。
請求項6に記載の発明に係るフッ素ガス発生方法は、請求項5に記載の発明において、前記陽極室内に残留しているフッ素ガスあるいは不活性ガスの排出は前記HF除去部を介して大気中に放出することにより行なうことを特徴とするものである。
請求項7に記載の発明に係るフッ素ガス発生方法は、請求項6に記載の発明において、前記陽極室内に残留しているフッ素ガスあるいは不活性ガスの排出は前記コンプレッサの駆動により行なうことを特徴とするものである。
請求項8に記載の発明に係るフッ素ガス発生方法は、請求項7に記載の発明において、前記陽極室内に残留しているフッ素ガスあるいは不活性ガスを排出するとき、その排出と不活性ガスあるいは圧縮フッ素ガスの供給とを数回繰り返すことを特徴とするものである。
請求項9に記載の発明に係るフッ素ガス発生方法は、請求項6に記載の発明において、前記陽極室内に残留しているフッ素ガスあるいは不活性ガスの排出は真空ポンプの駆動により行なうことを特徴とするものである。
請求項10に記載の発明に係るフッ素ガス発生装置は、陽極室内および陰極室内を有し混合溶融塩が収容された電解槽内の陽極と陰極との間に電解電圧を印加すると共に前記電解槽内の前記混合溶融塩を加熱してフッ素ガス発生装置を稼動して、前記電解槽内に収容された混合溶融塩を電気分解し、これにより前記陽極室内にフッ素ガスを、前記陰極室内に水素ガスを発生するフッ素ガス発生方法において、前記電解槽の稼動を停止した後、前記電解槽内のフッ素ガスを排気してから、前記電解層内に不活性ガスを導入して前記電解槽内の雰囲気を不活性ガスに置換し、前記電解槽内のメンテナンスを行った後、不活性ガスを排気してから、予め貯蔵しておいたフッ素ガスを導入して前記電解槽内の雰囲気をフッ素ガスに置換し、フッ素ガスに置換後、前記電解槽を稼動することを特徴とするものである。
請求項11に記載の発明に係るフッ素ガス発生装置は、請求項10に記載の発明において、前記電解槽内には、該電解槽内を陽極室と陰極室とに分離するための隔壁が設けられ、前記陽極室内に設けられた陽極と前記陰極室内に設けられた陰極との間に電解電圧が印加されることにより、前記電解槽内に収容され、且つ、加熱により液状とされたKF・2HFのうちのHFを電気分解し、これにより前記陽極室内にフッ素ガスが発生し、前記陰極室内に水素ガスが発生することを特徴とするものである。
請求項12に記載の発明に係るフッ素ガス発生装置は、請求項10に記載の発明において、前記陽極室内に発生したフッ素ガスは、コンプレッサの駆動によりフッ素ガスタンク内に供給されることを特徴とするものである。
請求項13に記載の発明に係るフッ素ガス発生装置は、請求項10に記載の発明において、前記陽極および前記陰極への電圧印加を停止し、且つ、加熱を停止し、前記液状とされたKF・2HFをその温度の自然低下により固化させ、次いで前記陽極室内に残留しているフッ素ガスを排出し、前記陽極室内に不活性ガスを供給し、この状態においてメンテナンスを行ない、メンテナンスが終了したら、前記陽極室内に残留している不活性ガスを排出し、前記フッ素ガスタンク内の圧縮フッ素ガスを前記陽極室内に供給し、次いで固化したKF・2HFを加熱により液状とし、次いで前記陽極と前記陰極との間に電解電圧を印加することを特徴とするものである。
請求項14に記載の発明に係るフッ素ガス発生装置は、請求項13に記載の発明において、前記陰極室内に発生した水素ガスはHF除去部を介して大気中に放出することを特徴とするものである。
請求項15に記載の発明に係るフッ素ガス発生装置は、請求項14に記載の発明において、前記陽極室内に残留しているフッ素ガスあるいは不活性ガスの排出は前記HF除去部を介して大気中に放出することにより行なうことを特徴とするものである。
請求項16に記載の発明に係るフッ素ガス発生装置は、請求項15に記載の発明において、前記陽極室内に残留しているフッ素ガスあるいは不活性ガスの排出は前記コンプレッサの駆動により行なうことを特徴とするものである。
請求項17に記載の発明に係るフッ素ガス発生装置は、請求項16に記載の発明において、前記陽極室内に残留しているフッ素ガスあるいは不活性ガスを排出するとき、その排出と不活性ガスあるいは圧縮フッ素ガスの供給とを数回繰り返すことを特徴とするものである。
請求項18に記載の発明に係るフッ素ガス発生装置は、請求項15に記載の発明において、前記陽極室内に残留しているフッ素ガスあるいは不活性ガスの排出は真空ポンプの駆動により行なうことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、電解槽内のメンテナンスを行った後、不活性ガスを排気してから、予め貯蔵しておいたフッ素ガスを導入して電解槽内の雰囲気をフッ素ガスに置換し、フッ素ガスに置換後、電解槽を稼動するようにしているので、電解槽内のメンテナンスを行った後、直ちに通常の動作を再開することができ、したがってメンテナンス終了後から通常の動作を再開するまでの時間を短縮することができ、また原料のHFを有効に使用することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(第1実施形態)
図1はこの発明の第1実施形態としてのフッ素ガス発生装置の概略構成図を示す。このフッ素ガス発生装置は電解槽1を備えている。電解槽1の上側には蓋2が設けられている。電解槽1内の中央部において下部を除く部分には、電解槽1内を陽極室3と陰極室4とに分離するための隔壁5が設けられている。陽極室3内には陽極6が設けられ、陰極室4内には陰極7が設けられている。陽極6および陰極7の各上部は蓋2を貫通して蓋2の上側に突出されている。
【0011】
電解槽1内の上部を除く下側には混合溶融塩のKF・2HF8が収容されている。電解槽1の外周部にはヒータ等の加熱手段(図示せず)が設けられている。そして、加熱手段による加熱により、電解槽1内の温度がKF・2HF8の融点71.7℃よりも高い90℃程度になると、KF・2HF8が液状となり、加熱手段による加熱が停止されると、液状のKF・2HFがその温度の自然低下により固化するようになっている。この場合、KF・2HF8が液状であっても固化した状態のいずれであっても、陽極室3および陰極室4の上部は空間となっている。
【0012】
陰極室4上における蓋2の所定の箇所にはHFガス供給配管11が挿通されている。HFガス供給配管11の一端部は、電解槽1内に収容されたKF・2HF8中に位置させられている。HFガス供給配管11の途中にはHFガス供給用電磁弁12が設けられている。HFガス供給配管11の他端部にはHFガス供給源13が接続されている。
【0013】
陰極室4上における蓋2の他の所定の箇所にはH2ガス排出配管14が挿通されている。H2ガス排出配管14の一端部は陰極室4の上部空間に連通されている。H2ガス排出配管14の途中にはH2ガス排出用電磁弁15が設けられている。H2ガス排出配管14の他端部にはHFガス除去筒16の一端部が接続されている。HFガス除去筒16内にはNaF等からなるHF吸着剤が収容されている。HFガス除去筒16の他端部は大気中に開放されている。
【0014】
陽極室3上における蓋2の所定の箇所にはN2ガス供給配管21が挿通されている。N2ガス供給配管21の一端部は陽極室3の上部空間に連通されている。N2ガス供給配管21の途中にはN2ガス供給用電磁弁22が設けられている。N2ガス供給配管21の他端部にはN2ガス供給源23が接続されている。
【0015】
陽極室3上における蓋2の他の所定の箇所には共通配管24が挿通されている。共通配管24の一端部は陽極室3の上部空間に連通されている。共通配管24の途中にはコンプレッサ25が設けられている。共通配管24の他端部には第1、第2の配管26、27の各一端部が接続されている。
【0016】
第1の配管26の途中には第1の電磁弁28が設けられている。第1の配管26の他端部にはHFガス除去筒29の一端部が接続されている。HFガス除去筒29内にはNaF等からなるHF吸着剤が収容されている。HFガス除去筒29の他端部には配管30を介してF2ガスタンク31の一端部に接続されている。
【0017】
2ガスタンク31の他端部にはF2ガス供給配管32の一端部が接続されている。F2ガス供給配管32の途中にはF2ガス供給用電磁弁33が設けられている。F2ガス供給配管32の他端部は、図示していないが、F2ガスタンク31から圧縮F2ガスの供給を受けて、F2ガスを工業的に使用する装置に接続されている。
【0018】
第2の配管27の途中には第2の電磁弁34が設けられている。第2の配管27の他端部は、H2ガス排出用電磁弁15とHFガス除去筒16との間におけるH2ガス排出配管14の所定の箇所に接続されている。
【0019】
次に、上記構成のフッ素ガス発生装置の通常の動作について説明する。今、H2ガス排出用電磁弁15および第1の電磁弁28は開弁状態にあり、HFガス供給用電磁弁12、N2ガス供給用電磁弁22、第2の電磁弁34およびF2ガス供給用電磁弁33は閉弁状態にあるとする。また、コンプレッサ25は駆動状態にあるとする。
【0020】
さて、電解槽1内の温度を加熱手段による加熱によりKF・2HF8の融点71.7℃よりも高い90℃程度に維持すると、KF・2HF8が液状となる。この状態において、陽極6と陰極7との間に電解電圧が印加されると、液状のKF・2HF8のうちのHFが電気分解し、陽極室3内にF2ガスとHFガスとの混合ガスが発生し、陰極室4内にH2ガスとHFガスとの混合ガスが発生する。
【0021】
陽極室3内に発生したF2ガスとHFガスとの混合ガスは、コンプレッサ25の駆動により、共通配管24、コンプレッサ25、第1の配管26および開弁状態の第1の電磁弁28を介してHFガス除去筒29に供給される。HFガス除去筒29では、供給されたF2ガスとHFガスとの混合ガスからHFガスを除去し、F2ガスのみを配管30を介してF2ガスタンク31に供給する。これにより、F2ガスタンク31内にはコンプレッサ25の駆動により圧縮されたF2ガスが一時的に貯蔵される。
【0022】
そして、閉弁状態にあるF2ガス供給用電磁弁33が開弁状態になると、F2ガスタンク31内に一時的に貯蔵された圧縮F2ガスがF2ガス供給用配管33を介して所定の装置に供給され、工業的に使用される。
【0023】
一方、陰極室4内に発生したH2ガスとHFガスとの混合ガスは、H2ガス排出配管14および開弁状態のH2ガス排出用電磁弁15を介してHFガス除去筒16に供給される。HFガス除去筒16では、供給されたH2ガスとHFガスとの混合ガスからHFガスを除去し、H2ガスのみを大気中に放出する。
【0024】
上記のような通常の動作時において、電解槽1内の液状のKF・2HF8のHF濃度がある程度低下した場合には、閉弁状態にあるHFガス供給用電磁弁12を開弁状態にすると、HFガス供給源13からHFガスがHFガス供給配管11および開弁状態にあるHFガス供給用電磁弁12を介して電解槽1内の液状のKF・2HF8中に供給される。これにより、上記のような通常の動作が継続される。
【0025】
次に、上記のような通常の動作を停止してメンテナンスを行なう場合について説明する。この場合には、まず、陽極6および陰極7への電圧印加を停止すると、F2ガスおよびH2ガスの発生が停止される。また、加熱手段による加熱を停止すると、液状のKF・2HFがその温度の自然低下により固化する。また、開弁状態にある第1の電磁弁28を閉弁状態とし、閉弁状態にある第2の電磁弁34を開弁状態とする。また、開弁状態にあるH2ガス排出用電磁弁15を閉弁状態とする。
【0026】
ここで、コンプレッサ25は一旦停止させて再駆動してもよく、また通常の動作時の駆動をそのまま継続してもよい。いずれにしても、コンプレッサ25の駆動により、陽極室3内に残留しているF2ガスとHFガスとの混合ガスは、共通配管24、コンプレッサ25、第2の配管27、開弁状態にある第2の電磁弁34およびH2ガス排出配管14を介してHFガス除去筒16に供給される。HFガス除去筒16では、供給されたF2ガスとHFガスとの混合ガスからHFガスを除去し、F2ガスのみを大気中に放出する。
【0027】
次に、コンプレッサ25の駆動を停止する。次に、閉弁状態にあるN2ガス供給用電磁弁22を開弁状態とする。すると、N2ガス供給源23からN2ガス(不活性ガス)がN2ガス供給配管21および開弁状態にあるN2ガス供給用電磁弁22を介して陽極室3内に供給され、陽極室3内にN2ガスが大気圧の状態で充満される。次に、開弁状態にあるN2ガス供給用電磁弁22を閉弁状態とする。そして、この状態においてメンテナンスを行なう。
【0028】
メンテナンスが終了したら、次に、コンプレッサ25を駆動させる。すると、陽極室3内に残留しているN2ガスは、共通配管24、コンプレッサ25、第2の配管27、開弁状態にある第2の電磁弁34、H2ガス排出配管14およびHFガス除去筒16を介して大気中に放出される。次に、コンプレッサ25の駆動を停止する。
【0029】
次に、開弁状態にある第2の電磁弁34を閉弁状態とし、閉弁状態にある第1の電磁弁28を開弁状態とする。すると、F2ガスタンク31内の圧縮F2ガスは、配管30、HFガス除去筒29、第1の配管26、開弁状態にある第1の電磁弁28、停止状態のコンプレッサ25および共通配管24を介して陽極室3内に供給され、陽極室3内にF2ガスが大気圧の状態で充満される。
【0030】
次に、電解槽1内の温度を加熱手段による加熱によりKF・2HF8の融点71.7℃よりも高い90℃程度に維持すると、固化したKF・2HF8が液状となる。次に、閉弁状態にあるH2ガス排出用電磁弁15を開弁状態とする。次に、陽極6と陰極7との間に電解電圧を印加すると、上記通常の動作が再開される。
【0031】
以上のように、このフッ素ガス発生装置では、メンテナンス終了後に、F2ガスタンク31内の圧縮F2ガスを陽極室3内に供給しているので、陽極6と陰極7との間に電解電圧を印加すると、直ちに上記通常の動作を再開することができ、したがってメンテナンス終了後から通常の動作を再開するまでの時間を短縮することができる。また、上記通常の動作の再開時にF2ガスを無駄に廃棄することがなく、原料のHFを有効に使用することができる。
【0032】
ところで、コンプレッサ25では、性能上、高真空の排気を行なうことができず、陽極室3内から排出すべきガス濃度を十分に下げることができない。そこで、陽極室3内に残留しているF2ガスとHFガスとの混合ガスあるいはN2ガスを排出するとき、その排出とN2ガスあるいは圧縮F2ガスの供給とを数回繰り返すと、陽極室3内から排出すべきガス濃度を十分に下げることができる。しかしながら、このような方法では、ガス排出とガス供給とを数回繰り返すので、時間がある程度かかってしまう。そこで、次に、より一層の時間短縮を図ることができる実施形態について説明する。
【0033】
(第2実施形態)
図2はこの発明の第2実施形態としてのフッ素ガス発生装置の概略構成図を示す。このフッ素ガス発生装置において、図1に示すフッ素ガス発生装置と異なる点は、第2の電磁弁34とHFガス除去筒16との間における第2の配管27の途中に真空ポンプ35を設けた点である。そして、真空ポンプ35の駆動により、陽極室3内に残留しているF2ガスとHFガスとの混合ガスあるいはN2ガスの排出を行なう。真空ポンプ35は比較的短時間で高真空の排気を行なうことができるので、より一層の時間短縮を図ることができる。
【0034】
(第3実施形態)
図3はこの発明の第3実施形態としてのフッ素ガス発生装置の概略構成図を示す。このフッ素ガス発生装置において、図2に示すフッ素ガス発生装置と異なる点は、コンプレッサ25を、共通配管24と第1の電磁弁28との間における第1の配管26の途中に設けた点である。このようにした場合には、真空ポンプ35の駆動時に、コンプレッサ25が邪魔にならないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明の第1実施形態としてのフッ素ガス発生装置の概略構成図。
【図2】この発明の第2実施形態としてのフッ素ガス発生装置の概略構成図。
【図3】この発明の第3実施形態としてのフッ素ガス発生装置の概略構成図。
【符号の説明】
【0036】
1 電解槽
2 蓋
3 陽極室
4 陰極室
5 隔壁
6 陽極
7 陰極
8 KF・2HF
11 HFガス供給配管
12 HFガス供給用電磁弁
13 HFガス供給源
14 H2ガス排出配管
15 H2ガス排出用電磁弁
16 HFガス除去筒
21 N2ガス供給配管
22 N2ガス供給用電磁弁
23 N2ガス供給源
24 共通配管
25 コンプレッサ
26 第1の配管
27 第2の配管
28 第1の電磁弁
29 HFガス除去筒
30 配管
31 F2ガスタンク
32 F2ガス供給配管
33 F2ガス供給用電磁弁
34 第2の電磁弁
35 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極室内および陰極室内を有し混合溶融塩が収容された電解槽内の陽極と陰極との間に電解電圧を印加すると共に前記電解槽内の前記混合溶融塩を加熱してフッ素ガス発生装置を稼動して、前記電解槽内に収容された混合溶融塩を電気分解し、これにより前記陽極室内にフッ素ガスを、前記陰極室内に水素ガスを発生するフッ素ガス発生方法において、前記電解槽の稼動を停止した後、前記電解槽内のフッ素ガスを排気してから、前記電解層内に不活性ガスを導入して前記電解槽内の雰囲気を不活性ガスに置換する工程と、前記電解槽内のメンテナンスを行った後、不活性ガスを排気してから、予め貯蔵しておいたフッ素ガスを導入して前記電解槽内の雰囲気をフッ素ガスに置換する工程と、フッ素ガスに置換後、前記電解槽を稼動する工程とを含むことを特徴とするフッ素ガス発生方法。
【請求項2】
請求項1に記載の発明において、前記電解槽内には、該電解槽内を陽極室と陰極室とに分離するための隔壁が設けられ、前記陽極室内に設けられた陽極と前記陰極室内に設けられた陰極との間に電解電圧が印加されることにより、前記電解槽内に収容され、且つ、加熱により液状とされたKF・2HFのうちのHFを電気分解し、これにより前記陽極室内にフッ素ガスが発生し、前記陰極室内に水素ガスが発生することを特徴とするフッ素ガス発生方法。
【請求項3】
請求項1に記載の発明において、前記陽極室内に発生したフッ素ガスは、コンプレッサの駆動によりフッ素ガスタンク内に供給されることを特徴とするフッ素ガス発生方法。
【請求項4】
請求項1に記載の発明において、前記陽極および前記陰極への電圧印加を停止し、且つ、加熱を停止し、前記液状とされたKF・2HFをその温度の自然低下により固化させ、次いで前記陽極室内に残留しているフッ素ガスを排出し、前記陽極室内に不活性ガスを供給し、この状態においてメンテナンスを行ない、メンテナンスが終了したら、前記陽極室内に残留している不活性ガスを排出し、前記フッ素ガスタンク内の圧縮フッ素ガスを前記陽極室内に供給し、次いで固化したKF・2HFを加熱により液状とし、次いで前記陽極と前記陰極との間に電解電圧を印加することを特徴とするフッ素ガス発生方法。
【請求項5】
請求項1に記載の発明において、前記陰極室内に発生した水素ガスはHF除去部を介して大気中に放出することを特徴とするフッ素ガス発生方法。
【請求項6】
請求項5に記載の発明において、前記陽極室内に残留しているフッ素ガスあるいは不活性ガスの排出は前記HF除去部を介して大気中に放出することにより行なうことを特徴とするフッ素ガス発生方法。
【請求項7】
請求項6に記載の発明において、前記陽極室内に残留しているフッ素ガスあるいは不活性ガスの排出は前記コンプレッサの駆動により行なうことを特徴とするフッ素ガス発生方法。
【請求項8】
請求項7に記載の発明において、前記陽極室内に残留しているフッ素ガスあるいは不活性ガスを排出するとき、その排出と不活性ガスあるいは圧縮フッ素ガスの供給とを数回繰り返すことを特徴とするフッ素ガス発生方法。
【請求項9】
請求項6に記載の発明において、前記陽極室内に残留しているフッ素ガスあるいは不活性ガスの排出は真空ポンプの駆動により行なうことを特徴とするフッ素ガス発生方法。
【請求項10】
陽極室内および陰極室内を有し混合溶融塩が収容された電解槽内の陽極と陰極との間に電解電圧を印加すると共に前記電解槽内の前記混合溶融塩を加熱してフッ素ガス発生装置を稼動して、前記電解槽内に収容された混合溶融塩を電気分解し、これにより前記陽極室内にフッ素ガスを、前記陰極室内に水素ガスを発生するフッ素ガス発生方法において、前記電解槽の稼動を停止した後、前記電解槽内のフッ素ガスを排気してから、前記電解層内に不活性ガスを導入して前記電解槽内の雰囲気を不活性ガスに置換し、前記電解槽内のメンテナンスを行った後、不活性ガスを排気してから、予め貯蔵しておいたフッ素ガスを導入して前記電解槽内の雰囲気をフッ素ガスに置換し、フッ素ガスに置換後、前記電解槽を稼動することを特徴とするフッ素ガス発生装置。
【請求項11】
請求項10に記載の発明において、前記電解槽内には、該電解槽内を陽極室と陰極室とに分離するための隔壁が設けられ、前記陽極室内に設けられた陽極と前記陰極室内に設けられた陰極との間に電解電圧が印加されることにより、前記電解槽内に収容され、且つ、加熱により液状とされたKF・2HFのうちのHFを電気分解し、これにより前記陽極室内にフッ素ガスが発生し、前記陰極室内に水素ガスが発生することを特徴とするフッ素ガス発生装置。
【請求項12】
請求項10に記載の発明において、前記陽極室内に発生したフッ素ガスは、コンプレッサの駆動によりフッ素ガスタンク内に供給されることを特徴とするフッ素ガス発生装置。
【請求項13】
請求項10に記載の発明において、前記陽極および前記陰極への電圧印加を停止し、且つ、加熱を停止し、前記液状とされたKF・2HFをその温度の自然低下により固化させ、次いで前記陽極室内に残留しているフッ素ガスを排出し、前記陽極室内に不活性ガスを供給し、この状態においてメンテナンスを行ない、メンテナンスが終了したら、前記陽極室内に残留している不活性ガスを排出し、前記フッ素ガスタンク内の圧縮フッ素ガスを前記陽極室内に供給し、次いで固化したKF・2HFを加熱により液状とし、次いで前記陽極と前記陰極との間に電解電圧を印加することを特徴とするフッ素ガス発生装置。
【請求項14】
請求項13に記載の発明において、前記陰極室内に発生した水素ガスはHF除去部を介して大気中に放出することを特徴とするフッ素ガス発生装置。
【請求項15】
請求項14に記載の発明において、前記陽極室内に残留しているフッ素ガスあるいは不活性ガスの排出は前記HF除去部を介して大気中に放出することにより行なうことを特徴とするフッ素ガス発生装置。
【請求項16】
請求項15に記載の発明において、前記陽極室内に残留しているフッ素ガスあるいは不活性ガスの排出は前記コンプレッサの駆動により行なうことを特徴とするフッ素ガス発生装置。
【請求項17】
請求項16に記載の発明において、前記陽極室内に残留しているフッ素ガスあるいは不活性ガスを排出するとき、その排出と不活性ガスあるいは圧縮フッ素ガスの供給とを数回繰り返すことを特徴とするフッ素ガス発生装置。
【請求項18】
請求項15に記載の発明において、前記陽極室内に残留しているフッ素ガスあるいは不活性ガスの排出は真空ポンプの駆動により行なうことを特徴とするフッ素ガス発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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