説明

フッ素化アルケンの製造法

【課題】 フッ素化アルケンの製造方法を提供する。
【解決手段】 含ハロゲンフッ素化オレフィンを酸の存在下に、亜鉛及び/又はマグネシウムに、0℃以下の温度で接触させることにより、ハロゲン原子を還元させてフッ素化アルケンに変換することができる。また、反応後に金属残渣を除去した反応液に、親ジエン化合物を添加させて含フッ素ブタジエン化合物を環化反応させることにより、目的物であるフッ素化アルケンの精製が容易になり、収率が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造分野において有用なエッチング、CVD等のプラズマ反応用ガス、含フッ素ポリマーの原料であるモノマー、あるいは、含フッ素医薬中間体、ハイドロフルオロカーボン系溶剤の原料として有用なフッ素化アルケンの製造方法に関する。
高純度化されたフッ素化アルケンは、特に、プラズマ反応を用いた半導体装置の製造分野において、プラズマエッチングガス、化学気相成長法(CVD)用ガス等に好適である。
【背景技術】
【0002】
下記構造式(2)で示されるフッ素化アルケンの製造方法としては以下の製造方法が開示されている。
【0003】
【化1】

【0004】
(ただし、Y及びZは水素、あるいはフッ素原子で、同一であっても異なっていても良い。)
非特許文献1においては、エタノールを触媒量のラジカル開始剤存在下にテトラフルオロエチレンに付加させて、3,3,4,4−テトラフルオロ−2−ブタノールを合成し、アルコール部分をアセチル化した後、530〜540℃の高温下に脱酢酸させて、3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテンを得ている(収率不明)。
非特許文献2においては、1,1,2,2−テトラフルオロヨードエタンをエチレンに付加させて1−ヨード−3,3,4,4−テトラフルオロブタンを得て、これを水酸化カリウムで脱ヨウ化水素させることで、3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテンを得ている(収率不明)。
非特許文献3においては、3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテンの合成を意図したものではないが、1,4−ジヨード−1,1,2,2−テトラフルオロブタンをイソプロピルアルコール中、水酸化カリウムで処理したところ、予期しない反応が偶発し、わずかに3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテンが生成したとの記載がなされている。
また、特許文献1においては、パーフルオロアルキルハライドを、酸存在下で亜鉛と反応させることにより、1H−パーフルオロアルキルを製造することが提案されている。この時、亜鉛との反応温度は、室温〜60℃の温度条件であるのが好ましいと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−320078号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Organic Chemistry,42,2618(1977)
【非特許文献2】Oraganic Mass Spectrometry,7,123(1973)
【非特許文献3】Journal of Organic Chemistry,42,1985(1977)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記非特許文献1においては、アルコールのアセチル化体を530〜540℃という非常に高温下にさらさなければならず、このような高温な反応場を工業的規模で作り出すのは非常に困難であり、工業的製造法として採用するのは非常に厳しい。
また、非特許文献2においては、原料となる1,1,2,2−テトラフルオロヨードエタンをテトラフルオロエチレンに腐食性の非常に大きいヨウ化水素を付加させて製造しなくてはならず、工業的に入手するのは容易でない。
発明者は、上記状況を鑑み、構造式(2)で表されるフッ素化アルケンを温和な条件で製造を可能にする方法の開発を余儀なくされた。そして、特許文献1を参考に、下記構造式(1)で表される含ハロゲンオレフィン化合物を酸の存在下に、亜鉛又はマグネシウムに、室温で接触させてみたところ、脱ハロゲン化(−XF)反応が進行し、共役ジエン化合物(ブタジエン骨格を有するフッ素化合物)が生成するため、収率良く目的とする化合物の得られないことを確認した。
【0008】
【化2】

【0009】
(ただし、Xは塩素、臭素、ヨウ素から選択されるハロゲン原子であり、Y及びZは水素、あるいはフッ素原子で、同一であっても異なっていても良い。)
そこで更に検討した結果、接触温度を0℃以下という低温条件で反応を行うことにより、脱ハロゲン化反応の進行が抑止され、構造式(2)で表される化合物が得られることを見出し、第一の本発明を完成するに至った。
【0010】
ただし、0℃以下で反応させても、僅かながら進行する脱ハロゲン化(−XF)反応の結果、生成物中には、ブタジエン骨格を有する含フッ素ブタジエン化合物がどうしても混在する。
そしてこのブタジエン骨格を有するフッ素化合物は目的物である構造式(2)で示される含フッ素オレフィン化合物と沸点差がさほど大きくなく(例えば、3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテン:26〜27℃、1,1,2−トリフルオロ−1,3−ブタジエン:8℃)、高純度な目的物を得るためには、蒸留で分離するには比較的理論段数の大きな蒸留塔を必要とすること、また、含フッ素ブタジエン化合物はその反応性からオリゴマーを副生し易く、分離が容易でないことが分かった。
また、これら含フッ素ブタジエン化合物は低温下で保存しておいても重合する性質を持っており、構造式(2)で表される化合物との混合状態ではポリマー化が起こってしまい、純度を大きく低下させる要因にもなることも分かった。
これらの知見から、本発明者は更に、上述した本発明の製造方法において副生する含フッ素ブタジエン化合物を、親ジエン化合物と反応させることにより、比較的容易に、構造式(2)で表される化合物を精製できることをも見出した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かくして本発明によれば、下記構造式(1)で示される含ハロゲンフッ素化オレフィンを酸の存在下、亜鉛又はマグネシウムに、0℃以下の温度で接触させて、構造式(2)で示されるフッ素化アルケンを製造する方法が提供される。
【0012】
【化3】

【0013】
(ただし、Xは塩素、臭素、ヨウ素から選択されるハロゲン原子であり、Y及びZは水素、あるいはフッ素原子で、同一であっても異なっていても良い。)
【0014】
【化4】

【0015】
(ただし、Y及びZは水素、あるいはフッ素原子で、同一であっても異なっていても良い。)
【0016】
さらには、
構造式(1)で示される含ハロゲンフッ素化オレフィンを酸の存在下、亜鉛又はマグネシウムに、0℃以下の温度で接触させて、反応生成物としての構造式(2)で示されるフッ素化アルケンと、反応副生成物としての含フッ素ブタジエン化合物とを含む反応液を得た後に、当該反応液から金属残渣を除去し、次いで、金属残渣を除去した反応液を蒸留して得られる留出液に、親ジエン化合物を添加して再度、蒸留精製を行うことを特徴とするフッ素化アルケンの製造方法、
及び
構造式(1)で示される含ハロゲンフッ素化オレフィンを酸の存在下、亜鉛又はマグネシウムに、0℃以下の温度で接触させて、反応生成物としての構造式(2)で示されるフッ素化アルケンと、反応副生成物としての含フッ素ブタジエン化合物とを含む反応液を得た後に、当該反応液から金属残渣を除去し、次いで金属残渣を除去した反応液に親ジエン化合物を添加して蒸留精製を行うことを特徴とするフッ素化アルケンの製造方法、
を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に用いられる含ハロゲンフッ素化オレフィンとしては、前記構造式(1)で示される構造のものが適用される。
このような化合物としては、4−クロロ−3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテン、4−クロロ−1,3,3,4,4−ペンタフルオロ−1−ブテン、4−クロロ−1,1,3,3,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブテンなどの塩素化物、4−ブロモ−3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテン、4−ブロモ−1,3,3,4,4−ペンタフルオロ−1−ブテン、4−ブロモ−1,1,3,3,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブテンなどの臭素化物、4−ヨード−3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテン、4−ヨード−1,3,3,4,4−ペンタフルオロ−1−ブテン、4−ヨード−1,1,3,3,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブテンなどのヨウ素化物が挙げられ、4−ブロモ−3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテン、4−ヨード−3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテン、4−ヨード−1,1,3,3,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブテンが入手容易な点でより好ましい。
【0018】
構造式(1)で示される化合物は、以下に記載の方法に従って製造することができる。例えば、Journal of Organic Chemistry,42,1985(1977)によれば、1,1,2,2−テトラフルオロジヨードエタンをエチレンに付加させて1,1,2,2−テトラフルオロ−1,4−ジヨードブタンを得て、これをトリエチルアミンで処理して、4−ヨード−3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテンを製造することができる。また、特開平1−180837号公報によれば、1,1,2,2−テトラフルオロジヨードエタンをフッ化ビニリデンに付加させて1,1,2,2,4,4−1,4−ジヨードブタンを得て、これを水酸化カリウムで処理して、4−ヨード−1,1,3,3,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブテンを合成することができる。
【0019】
構造式(2)で示される化合物の具体例としては、3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテン、1,3,3,4,4−ペンタフルオロ−1−ブテン、1,1,3,3,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブテンが挙げられる。
【0020】
本発明で上述した含ハロゲンフッ素化オレフィンに接触させる金属は、還元作用のある金属である亜鉛及び/又はマグネシウムである。金属の添加量は原料となる構造式(1)で示される含ハロゲンフッ素化オレフィンに対して、通常1〜5当量、より好ましくは1.5〜3当量である。添加量が少なすぎると反応の進行が遅く、未反応原料が多く残存し、添加量が多すぎると後処理時に廃棄物を多く出すことになり、いずれも好ましくない。
【0021】
亜鉛とマグネシウムとは、還元反応性を高める観点から、粉末状のものを使用するのが望ましい。塊状状態のものは反応が非常に遅い。また、亜鉛は前もって希塩酸等で処理して活性化させたものを使用しても良い。
【0022】
本反応は酸の存在下に行われる。酸の種類としては、塩酸、臭化水素、ヨウ化水素、硫酸などの無機酸、あるいは、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸などの有機酸を使用することができる。これらの中でも、塩酸、硫酸、酢酸を好適に使用することができる。
【0023】
これらの酸は、含ハロゲンフッ素化オレフィンと金属(Zn、Mg)との接触により進行する還元反応の水素源として寄与するため、原料となる含ハロゲンフッ素化オレフィンに対して、通常当量以上添加する。その添加量は、好ましくは1〜10当量であり、2〜5当量がより好ましい。添加量が少なすぎると反応が遅くなったり、好ましくない副生成物である含フッ素ブタジエン化合物が多く生成する。また、添加量が多すぎると後処理時の中和工程で大量のアルカリが必要となるため、処理が面倒になる。
【0024】
含ハロゲンフッ素化オレフィンと金属(Zn、Mg)との接触反応は、溶媒中で行うことができる。
反応溶媒は極性溶媒を用いることが望ましい。アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、アジポニトリルなどのニトリル系溶媒、ジイソプロピルエーテル、n−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒が挙げられ、これらの中でも、ジイソプロピルエーテル、n−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒を好適に使用することができる。
【0025】
本反応を行う際の反応温度は0℃以下の低温で行う必要がある。その温度は好ましくは0℃〜−80℃であり、より好ましくは−20℃〜−40℃である。温度が高すぎるとハロゲン原子(塩素、臭素、又はヨウ素)の還元反応よりも、脱ハロゲン化(−XF)が進行し、望ましくない副生成物である含フッ素ブタジエン化合物を多く生成してしまう。また、反応温度が低すぎると反応が非常に遅くなり、反応を完結するのに多大な時間を要す。
【0026】
反応時間は反応温度によって異なるが、通常3〜50時間、より好ましくは5〜30時間である。
【0027】
反応実施の形態としては、亜鉛及び/又はマグネシウムを酸と溶媒中で混合させた懸濁状態にし、任意の反応温度に反応器を冷却させてから原料である含ハロゲンフッ素化オレフィンを滴下する方法を採用するのが望ましい。原料は使用する溶媒に希釈した状態で滴下させても良い。
【0028】
金属残渣の除去は、いわゆる反応終了後の後処理の一つである。具体的には、以下の方法を適用することができる。反応液に希塩酸などの無機酸を添加して、反応で生成するハロゲン化亜鉛やハロゲン化マグネシウムを溶解させる。この際、未反応の亜鉛が残存することがあるが、濾過により除去して再使用することができる。濾過した後の濾液は、通常、良く冷却した後、アルカリで残存する酸を中和し、必要に応じて飽和食塩水等で洗浄、乾燥させる。
さらには、反応溶媒に水溶性の溶媒を用いた場合には、抽出溶媒としてトルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ジイソプロピルエーテル、n−ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテルなどのエーテル類、塩化メチレン、クロロホルムなどの塩素系類、n−ノナフルオロブチルメチルエーテル、ヘプタフルオロシクロペンタン、デカフルオロペンタンのフッ素系溶媒などの非水溶性溶媒を用いて抽出を行うことが望ましい。
【0029】
このようにして金属残渣を除去した溶液を蒸留することにより、目的物であるフッ素化アルケンを精製することができる。
【0030】
本反応はこれまで述べてきたように、反応を0℃以下の低温で行うが、望ましくない生成物である含フッ素ブタジエン化合物が多少なりとも副生する。その生成量が少なければ精留操作により分離することも可能であるが、分離が容易でないために、生成量が多い場合には理論段数の大きい蒸留塔を用いる必要がある。
そこで本発明においては、含フッ素ブタジエン化合物を大幅に除去する、フッ素化アルケンの精製工程を含む、フッ素化アルケンの製造方法を2つ提案する。含フッ素ブタジエン化合物を蒸留する前に大部分を除去できれば蒸留操作が容易になる。
【0031】
第一の方法は、構造式(1)で示される含ハロゲンフッ素化オレフィンを酸の存在下、亜鉛又はマグネシウムに、0℃以下の温度で接触させて、反応生成物としての構造式(2)で示されるフッ素化アルケンと、反応副生成物としての含フッ素ブタジエン化合物とを含む反応液を得た後に、当該反応液から金属残渣を除去し、次いで、金属残渣を除去した反応液を蒸留して得られる留出液に、親ジエン化合物を添加して再度、蒸留精製を行う方法である。
【0032】
第二の方法は、構造式(1)で示される含ハロゲンフッ素化オレフィンを酸の存在下、亜鉛又はマグネシウムに、0℃以下の温度で接触させて、反応生成物としての構造式(2)で示されるフッ素化アルケンと、反応副生成物としての含フッ素ブタジエン化合物とを含む反応液を得た後に、当該反応液から金属残渣を除去し、次いで金属残渣を除去した反応液に親ジエン化合物を添加して蒸留精製を行う方法である。
【0033】
いずれの方法においても、含フッ素ブタジエン化合物存在下に、親ジエン化合物を添加し、含フッ素ブタジエン化合物と環化反応を行わせることにより、目的物よりも高沸点の化合物に変換させて蒸留精製を容易にするものである。
【0034】
添加する親ジエン体は、含フッ素ブタジエン化合物と環化反応を行うものであれば特に限定されない。かかる親ジエン体としては、アクリロニトリル、テトラシアノエチレン、フマロニトリルなどの不飽和ニトリル類、アクロレイン、メタアクロレインなどのα,β−不飽和アルデヒド類、メチルビニルケトン、2−シクロヘキセン−1−オンなどのα,β−不飽和ケトン類、ベンゾキノン、ナフトキノンなどのキノン類、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチルなどのα,β−不飽和エステル類、無水マレイン酸などのα,β−不飽和酸無水物類を挙げることができる。
これらの中でも、α,β−不飽和ケトン類、α,β−不飽和エステル類、及びα,β−不飽和酸無水物類が反応性、及び経済性の観点から望ましい。
【0035】
親ジエン化合物の使用量は副生する含フッ素ブタジエン化合物に対して、通常1〜20当量、より好ましくは2〜10当量である。
【0036】
含フッ素ブタジエン化合物と上記親ジエン化合物との環化反応は、第一の精製方法においては蒸留後の留出液に直接、第二の精製方法においては、後処理後の抽出液に親ジエン化合物を添加する。第二の精製方法においては抽出液に使用する溶媒が反応溶媒として使用され、具体的には、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ジイソプロピルエーテル、n−ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテルなどのエーテル類、塩化メチレン、クロロホルムなどの塩素系類、n−ノナフルオロブチルメチルエーテル、ヘプタフルオロシクロペンタン、デカフルオロペンタンのフッ素系溶媒など環化反応に不活性な溶媒を用いることができる。
【0037】
含フッ素ブタジエン化合物と親ジエン化合物との環化反応は、通常−30〜150℃、より好ましくは、0〜100℃の温度で行われる。反応温度が低すぎると環化反応が非常に遅くなり多大な時間を要し、反応温度が高すぎると目的物であるフッ素化アルケンが重合するなど望ましくない副反応を引き起こし、収率の低下を招く。
反応時間は、通常、1〜20時間が好ましく、3〜10時間がより好ましい。反応時間が短いと含フッ素ブタジエン化合物と親ジエン化合物との環化反応が不十分となるため、含フッ素ブタジエン化合物が多く残留し、また、反応時間が長すぎると環化反応以外の好ましくない副反応を引き起こす。
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によってその範囲を限定されるものではない。なお、特に断りがない限り、「部」及び「%」は、それぞれ「重量部」及び「重量%」を表す。
【0039】
以下において採用した分析条件は下記の通りである。
・ガスクロマトグラフィー分析(GC分析)
装置:GC−2010(島津製作所社製)
カラム:ジーエルサイエンス社製 TC−1、長さ60m、内径0.25mm、膜厚1.0μm
カラム温度:40℃で10分間保持後、20℃/分で昇温し、240℃で10分間保持。
インジェクション温度:200℃
キャリヤーガス:窒素ガス
スプリット比:100/1
検出器:FID
・ガスクロマトグラフィー質量分析
GC部分:ヒューレットパッカード社製「HP−6890」
カラム:ジーエルサイエンス社製「Inert Cap−1」、長さ60m、内径0.25mm、膜厚1.5μm
カラム温度:40℃で10分間保持後、20℃/分で昇温し、240℃で10分間保持。
MS部分:ヒューレットパッカード社製「5973 NETWORK」
検出器:EI型(加速電圧:70eV)
・NMR分析
H、19F−NMR測定装置:日本電子社製「JNM−ECA−500」
【0040】
[実施例1]
滴下ロートを付したガラス製反応器に、粉末状亜鉛26部、酢酸36部、及びジエチレングリコールジメチルエーテル150部を仕込み、窒素雰囲気下に置いた。反応器を−30℃に冷却し、滴下ロートから4−ブロモ−3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテン(東京化成工業社製)41部を30分間かけて滴下し、内容物を−30〜−25℃の温度範囲でさらに10時間攪拌した。その後、反応器を0℃まで昇温し、5%希塩酸を加えて白色の亜鉛化合物を加水分解させた。その液を濾過して未反応の亜鉛を濾別した。濾液にジイソプロピルエーテル50部を添加し、3回抽出を行った。
抽出液を水洗後、氷を添加して冷却し、飽和重曹水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥させた。内容物をガスクロマトグラフィー(GC)分析した結果、3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテン及び、1,1,2−トリフルオロ−1,3−ブタジエンがGC面積で、72:28の割合で生成していた。3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテン及び、1,1,2−トリフルオロ−1,3−ブタジエンはガスクロマトグラフィー質量分析にて同定した。
【0041】
[実施例2]
実施例1において、亜鉛をマグネシウム10部に変更し、溶媒としてジエチレングリコールジメチルエーテルをテトラヒドロフラン120部に変更したこと以外は実施例1と同様に反応、及び後処理を行った。抽出液を水洗後、氷を添加して冷却し、飽和重曹水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥させた。内容物をガスクロマトグラフィー分析した結果、3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテン及び、1,1,2−トリフルオロ−1,3−ブタジエンがGC面積で、85:15の割合で生成していた。
【0042】
[実施例3]
実施例1と同様に反応、後処理を行い、3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテン及び、1,1,2−トリフルオロ−1,3−ブタジエンをGC面積で、72:28の割合で含むジイソプロピルエーテル溶液を得た。この溶液を蒸留釜に入れ、さらに無水マレイン酸11部を添加して温度70℃で5時間攪拌を継続した。
その後、その溶液を理論段数30段の精留塔(東科精機社製)を用いて精留を行った。1時間還流を継続し、還流比30(オープン/クローズ=4/120sec)で抜出しを行い、塔頂温度が26〜27℃である留分を捕集したところ、目的物である3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテンが13部(収率45%)得られた。この留分には、不純物として、1,1,2−トリフルオロ−1,3−ブタジエンがGC面積%で0.3%含まれていた。
【0043】
3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテンのスペクトルデータ
GC−MS(EI−MS):m/z 128、109、77、51
H−NMR(CDCl,TMS):δ5.82(m、1H)、5.92(m、1H,)、5.98−6.02(m、2H)
19F−NMR(CDCl、CFCl):δ−138.9(m、2F)、−127.0(m、2F)
【0044】
[実施例4]
実施例1と同様に反応を行い、反応液を直接、単蒸留した。得られた留分を蒸留釜に仕込み、無水マレイン酸15部を添加して、温度70℃で7時間攪拌した。その後、その溶液を理論段数30段の精留塔(東科精機社製)を用いて精留を行った。1時間還流を継続し、還流比30(オープン/クローズ=4/120sec)で抜出しを行い、塔頂温度が26〜27℃である留分を捕集したところ、目的物である3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテンが13部(収率51%)得られた。この留分には、不純物として、1,1,2−トリフルオロ−1,3−ブタジエンがGC面積%で0.1%含まれていた。
【0045】
実施例3、及び4の結果から、1,1,2−トリフルオロ−1,3−ブタジエンの大半が無水マレイン酸と反応して含有率が下がったので、蒸留が容易になり、収率が向上したことが分かる。
【0046】
[比較例1]
実施例1と同様に反応、後処理を行い、その溶液を理論段数30段の精留塔(東科精機社製)を用いて精留を行った。1時間還流を継続したところ、塔頂温度は8.5℃まで下がった。還流比30(オープン/クローズ=4/120sec)で抜出しを行い、塔頂温度が26〜27℃である留分を捕集したところ、目的物である3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテンが8部(収率31%)得られた。この留分には、不純物として、1,1,2−トリフルオロ−1,3−ブタジエンがGC面積%で5%含まれていた。
【0047】
[比較例2]
4−ブロモ−3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテンを滴下する反応器の温度を−30℃に冷却する工程を省略し、また、4−ブロモ−3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテンを滴下している間の内容物の温度範囲を20〜35℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして、4−ブロモ−3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテンと亜鉛とを接触させた。その結果、3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテン及び、1,1,2−トリフルオロ−1,3−ブタジエンがGC面積で、31:69の割合で生成していた。
【0048】
このようにして、含ハロゲンフッ素化オレフィンを酸の存在下に、亜鉛及び/又はマグネシウムと0℃以下の温度で接触させることにより、フッ素化アルケンを製造することができ、さらには、副生する含フッ素ブタジエン化合物を親ジエン化合物と環化反応させることにより、大部分の含フッ素ブタジエン化合物を除去することができるので、フッ素化アルケンの精製を容易にすることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)で示される含ハロゲンフッ素化オレフィンを酸の存在下、亜鉛又はマグネシウムに、0℃以下の温度で接触させて、構造式(2)で示されるフッ素化アルケンを製造する方法。
【化1】

(ただし、Xは塩素、臭素、ヨウ素から選択されるハロゲン原子であり、Y及びZは水素、あるいはフッ素原子で、同一であっても異なっていても良い。)
【化2】

(ただし、Y及びZは水素、あるいはフッ素原子で、同一であっても異なっていても良い。)
【請求項2】
構造式(1)で示される含ハロゲンフッ素化オレフィンを酸の存在下、亜鉛又はマグネシウムに、0℃以下の温度で接触させて、反応生成物としての構造式(2)で示されるフッ素化アルケンと、反応副生成物としての含フッ素ブタジエン化合物とを含む反応液を得た後に、当該反応液から金属残渣を除去し、次いで、金属残渣を除去した反応液を蒸留して得られる留出液に、親ジエン化合物を添加して再度、蒸留精製を行うことを特徴とするフッ素化アルケンの製造方法。
【化3】

(ただし、Xは塩素、臭素、ヨウ素から選択されるハロゲン原子であり、Y及びZは水素、あるいはフッ素原子で、同一であっても異なっていても良い。)
【化4】

(ただし、Y及びZは水素、あるいはフッ素原子で、同一であっても異なっていても良い。)
【請求項3】
構造式(1)で示される含ハロゲンフッ素化オレフィンを酸の存在下、亜鉛又はマグネシウムに、0℃以下の温度で接触させて、反応生成物としての構造式(2)で示されるフッ素化アルケンと、反応副生成物としての含フッ素ブタジエン化合物とを含む反応液を得た後に、当該反応液から金属残渣を除去し、次いで金属残渣を除去した反応液に親ジエン化合物を添加して蒸留精製を行うことを特徴とするフッ素化アルケンの製造方法。
【化5】

(ただし、Xは塩素、臭素、ヨウ素から選択されるハロゲン原子であり、Y及びZは水素、あるいはフッ素原子で、同一であっても異なっていても良い。)
【化6】

(ただし、Y及びZは水素、あるいはフッ素原子で、同一であっても異なっていても良い。)

【公開番号】特開2012−131731(P2012−131731A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284558(P2010−284558)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】