説明

フッ素化カルボン酸及びその塩の調製方法

フッ素化カルボン酸及びその塩を調製するための方法であって、一般式(A)のフッ素化アルコール:
A−CH−OH
を、少なくとも1種類の第1の酸化剤及び少なくとも1種類の第2の酸化剤に曝露することにより、一般式(B)の高度にフッ素化されたカルボン酸:
A−COO
[式中、Mはカチオンを表し、式(A)及び(B)中のAは同じであり、Aは残基:
Rf−[O]−CX”Y”−[O]−CX’Y’−[O]−CXY−
を表す(式中、Rfは、1個以上のカテナリー酸素原子を含んでも含まずともよいフッ素化アルキル残基を表し、p、m及びnは、互いに独立して1又は0であり、X、X’、X”、Y、Y’及びY”は、互いに独立してH、F、CF又はCであり、ただし、X、X’、X”、Y、Y’及びY”のすべてがHではない)か、あるいは
Aは残基:
R−CFX−
を表す(式中、X及びRは、水素、ハロゲン、又は、1個以上のフッ素原子を含んでも含まずともよく、かつ1個以上のカテナリー酸素原子を含んでも含まずともよいアルキル、アルケニル、シクロアルキル若しくはアリール残基であり;少なくとも1種類の第1の酸化剤は、第2の酸化剤の作用によって、フッ素化アルコールを酸化することが可能な反応種に変換されうる化合物である)]、又はその塩を生成する工程を含む方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、いずれも2009年10月23日出願の、その全容を本願に援用する米国特許仮出願第61/254229号及び英国特許出願第0918616.4号に基づく優先権を主張するものである。
【0002】
(発明の分野)
本開示は、フッ素化カルボン酸及びその塩を調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
フッ素化カルボン酸は、工業用及び特殊用途の化学物質の調製における合成中間体として、また、ポリマーの調製(例えば、フッ素化モノマーの重合)における乳化剤又は分散剤として使用されてきた。過去においては、一般式CF3−(CF2)n−COO−M+(式中、M+はカチオン、nは4〜8の整数を表す)の過フッ素化された低分子量のカルボン酸がフッ素化モノマーの重合に使用されてきた。しかしながら、これに代わるフッ素化乳化剤が様々な理由から関心を集めるようになってきた。フッ素化ポリエーテルカルボン酸及び部分フッ素化カルボン酸が、代替的な乳化剤として提唱されている。詳細には、米国特許出願公開第2007/0015865号(ヒンツァー(Hintzer)ら)及び米国特許第7,671,112号(ヒンツァー(Hintzer)ら)に述べられるフッ素化カルボン酸である。例えば、一般式[Rf−O−L−COO−](式中、Lは、直鎖状の部分的又は完全にフッ素化されたアルキレン基又は脂肪族炭化水素基を表し、Rfは、直鎖状の部分的又は完全にフッ素化された、1個以上の酸素原子が割り込んだ脂肪族基を表し、Xは、価数iを有するカチオンを表し、iは1、2又は3である)の高度にフッ素化されたフルオロアルコキシカルボン酸(米国特許第7,671,112号に述べられる)が有用な代替物であることが見出されている。
【0004】
フッ素化カルボン酸を調製するための異なる方法がこれまでに述べられている。例えば、モリタ(Morita)らに付与された米国特許第7,589,234号は、カルボン酸に変換される酸フッ化物を生成するためのテトラフルオロオキセタンの開環反応に基づいたプロセスについて述べている。しかしながら、このプロセスは煩雑であり、異なる反応工程を含むものである。更なる方法として、対応するフッ素化アルコールからフッ素化カルボン酸を調製することについて述べたものがある。こうした方法には、ヒンツァー(Hintzer)らに付与された米国特許第7,671,112号に開示されるような強力な酸化剤の使用が含まれ、例えば、過マンガン酸カリウム(Dmowskiら、J.Fluor.Chem.,1990,v.48,77〜84)、二クロム酸カリウム/硫酸(Hudlickyら、J.Fluor.Chem.,1992,v.59,9〜14)、二クロム酸ピリジニウム、酸化クロム(VI)と硫酸、RuO4又はOsO、及び硝酸、並びに、塩素ガスの存在下での照射などの幾つかのそれほど一般的に知られていない方法が含まれる。これらの反応は、良好な収率で工業的規模で行われる場合もあるが、これらの方法は、とりわけ重金属の処理、低収率、高温、及び高価な試薬の使用といった問題のために大規模で行うには望ましくない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、フッ素化カルボン酸を製造するための代替的なプロセスが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
特定の実施形態では、安価で効率的であり、入手が容易な開始物質を有することで工業的規模で行うのに有用な、フッ素化カルボン酸を調製するための代替的な酸化プロセスが与えられることが望ましい。
【0007】
一態様では、フッ素化カルボン酸及びその塩を調製するための方法であって、一般式(A)のフッ素化アルコール:
A−CH−OH
を、少なくとも1種類の第1の酸化剤及び少なくとも1種類の第2の酸化剤に曝露することにより、一般式(B)の高度にフッ素化されたカルボン酸:
A−COO
[式中、Mはカチオンを表し、式(A)及び(B)中のAは同じであり、Aは残基:
Rf−[O]−CX”Y”−[O]−CX’Y’−[O]−CXY−
を表す(式中、Rfは、1個以上のカテナリー酸素原子を含んでも含まずともよいフッ素化アルキル残基を表し、p、m及びnは、互いに独立して1又は0であり、X、X’、X”、Y、Y’及びY”は、互いに独立してH、F、CF又はCであり、ただし、X、X’、X”、Y、Y’及びY”のすべてがHではない)か、あるいは
Aは残基:
R−CFX−
を表す(式中、X及びRは、水素、ハロゲン、又は、1個以上のフッ素原子を含んでも含まずともよく、かつ1個以上のカテナリー酸素原子を含んでも含まずともよいアルキル、アルケニル、シクロアルキル若しくはアリール残基であり;少なくとも1種類の第1の酸化剤は、第2の酸化剤の作用によって、フッ素化アルコールを酸化することが可能な反応種に変換されうる化合物である)]、又はその塩を生成する工程を含む方法が提供される。
【0008】
一実施形態では、フッ素化アルコール、少なくとも1種類の第1の酸化剤、及び少なくとも1種類の第2の酸化剤は、有機溶媒を実質上含まない混合物中で反応させられる。
【0009】
一実施形態では、フッ素化アルコールの少なくとも60%が、フッ素化カルボン酸又はその塩に変換される。
【0010】
別の態様では、フッ素化カルボン酸及びその塩を調製するための方法であって、一般式(A)のフッ素化アルコール:
A−CH−OH
を、電気化学セル内で電流に曝露することにより、一般式(B)の高度にフッ素化されたカルボン酸:
A−COO
[式中、Mはカチオンを表し、式(A)及び(B)中のAは同じであり、残基:
Rf−[O]−CX”Y”−[O]−CX’Y’−[O]−CXY−
を表す(式中、Rfは、1個以上のカテナリー酸素原子を含んでも含まずともよいフッ素化アルキル残基を表し、p、m及びnは、互いに独立して1又は0であり、X、X’、X”、Y、Y’及びY”は、互いに独立してH、F、CF又はCであり、ただし、X、X’、X”、Y、Y’及びY”のすべてがHではない)]、又はその塩を生成する工程を含む方法が提供される。
【0011】
上記の概要は、各実施形態を説明することを目的とするものではない。本発明の1以上の実施形態の詳細を以下の説明文においても記載する。他の特徴、目的、及び利点は、説明文及び「特許請求の範囲」から明らかとなるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の実施形態を詳細に説明するのに先立ち、本開示はその用途において以下の説明文に記載される構成の細部及び要素の配列に限定されない点は理解されるべきである。本発明には他の実施形態が可能であり、本発明は様々な方法で実施又は実行することが可能である。また、本明細書で使用する表現及び専門用語は、説明を目的としたものであって、限定的なものとして見なされるべきものではないことは理解されるべきである。「からなる」の使用と異なり、「含む」、「含有する」、「備える」、又は「有する」及びその変化形の使用は、これらの語の後に列記される要素及びその均等物以外に更なる要素を包含することを意味するものである。「a」、又は「an」の使用は、「1以上」を包含することを意味するものである。本明細書において記載されるすべての数値範囲は、その範囲の下限値から上限値までのすべての値を含むものとする。例えば、1%〜50%の濃度範囲は省略された表記であり、例えば、2%、40%、10%、30%、1.5%、3.9%などといったように1%と50%との間の値を明確に開示するものとする。「及び/又は」の使用は、列記される要素の1つ若しくはすべて、又は列記される要素の任意の2つ以上の組み合わせを意味するものである。
【0013】
本明細書では以下の用語を使用する。
【0014】
「過フッ素化」とは、それぞれの残基のすべての水素原子がフッ素原子によって置換されていることを意味する。例えば、「過フッ素化メチル」なる用語は、FC−基を意味する。
【0015】
「部分的にフッ素化された」とは、それぞれの残基の、すべてではないが、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子によって置換されていることを意味する。例えば、−CFH基、又は−CFH基は、部分的にフッ素化されたメチル残基の例である。
【0016】
「N−オキシル基」は、酸素ラジカルが窒素原子に結合した基である。N−オキシル基の窒素原子は通常、有機残基の1個又は2個の原子に結合している。
【0017】
「P−オキシル基」は、酸素ラジカルがリン原子(phosphor atom)に結合した基である。P−オキシル基のリン原子は通常、有機残基の1個又は2個の原子に結合している。
【0018】
「オキソアンモニウム基」は、酸素原子が窒素原子に結合し、その窒素原子が有機残基の1個又は2個の原子に結合することによって窒素が正に帯電した基である。
【0019】
「オキソホスホニウム基」は、酸素原子がリン原子に結合し、そのリン原子が有機残基の1個又は2個の原子に結合することによってリンが正に帯電した基である。
【0020】
「有機」とは、その化合物が炭素及び水素原子の両方を含むことを意味する。
【0021】
「無機」とは、その化合物が酸素及び水素の両方は含まないが、その化合物が炭素又は水素原子のいずれかを含みうることを意味する。
【0022】
本開示は、一級のフッ素化アルコールを対応するフッ素化カルボン酸又はその塩に酸化することに関する。
【0023】
フッ素化アルコール
本明細書において提供される酸化反応に適したフッ素化アルコールは、一般式(A)のもののような一級アルコールである。
【0024】
A−CH−OH (A)
式中、Aは残基:
Rf−[O]−CX”Y”−[O]−CX’Y’−[O]−CXY− (A1)、又は、
R−CFX− (A2)
を表す。
【0025】
式Aにおいて、Rfは、1個以上のカテナリー酸素原子を含んでも含まずともよい直鎖状若しくは分枝状のフッ素化又は過フッ素化アルキル残基を表し、p、m及びnは、互いに独立して1又は0であり、X、X’、X”、Y、Y’及びY”は、互いに独立してH、F、CF又はCであり、ただし、X、X’、X”、Y、Y’及びY”のすべてがHではない。好ましくは、p、m及びnの少なくとも1つは1である。
【0026】
Rfの例としては、これらに限定されるものではないが、直鎖状、環状、又は分枝状であってよい過フッ素化アルキル、過フッ素化アルコキシ、過フッ素化オキソアルキル、過フッ素化ポリオキシアルキル、過フッ素化ポリオキシアルコキシ、部分フッ素化アルキル、部分フッ素化アルコキシ、部分フッ素化オキソアルキル、部分フッ素化ポリオキシアルキル、又は部分フッ素化ポリオキシアルコキシ残基が挙げられる。通常、Rfは、1〜14個の炭素原子を含んでよい。Rfの具体的な例としては、これらに限定されるものではないが、FC−、FCO−、FCFHC−、F−、FCOFC−、FCOFCO−、F−、F−、F11−、FHC−が挙げられる。好ましくはX及びYの少なくとも一方は、F、CF又はCであり、より好ましくは、例えばX及びYがいずれもFである、又はXがFでありYがCFである、といったように、X及びYの両方が、互いに独立してF、CF、又はCから選択される。特定の実施形態では、X、X’、X”、Y、Y’及びY”は、これらのいずれもHでないか、1個又は2個よりも多くがHであり、好ましくはX及びYの少なくとも一方がHではなく、より好ましくはX及びYの両方がHではなく、最も好ましくはX及びYがFであるように選択される。
【0027】
式A及びA1に基づく適当なアルコールの例としては、−CHOH残基の水素以外の水素原子を一切含まないアルコールである過フッ素化アルコールが含まれ、あるいは、こうしたアルコールは、−CHOH基の水素原子に加えて水素原子、好ましくは2個以下、又は1個以下の水素原子を含む部分フッ素化アルコールであってもよい。
【0028】
上記式A2の式中、X及びRは、水素、ハロゲン、又は1個以上のフッ素原子を含んでも含まずともよく、かつ1個以上のカテナリー酸素原子を含んでも含まずともよいアルキル、アルケニル、シクロアルキル若しくはアリール残基から独立して選択される。
【0029】
式A2の一実施形態では、Xは、水素又はハロゲン(例えば、フッ素、塩素、又は臭素)などの原子であってよい。別の実施形態では、Xは、アルキル、シクロアルキル、又はアリール残基などの残基であってよい。これらの残基は、少なくとも1、2、3、4、5、6、8、又は更には10個の炭素原子、最大で4、6、8、10、14、16、18、又は更には20個の炭素原子を含んでもよい。これらの残基はフッ素原子を含んでも含まずともよく、高度にフッ素化されていてもよい(すなわち、炭素に結合した水素の少なくとも80%、90%、95%、又は更には100%がフッ素で置換される)。これらの残基は、1個以上のカテナリー酸素原子(すなわち、エーテル結合)を含んでも含まずともよく、直鎖状又は分枝状、飽和又は不飽和であってよい。これらの残基は、これらの官能基が不要に酸化されず、酸化反応の立体障害とならない限り、他の官能基(例えば、アミン、スルフィド、エステルなど)によって置換されても、またされなくてもよい。
【0030】
式A2の一実施形態では、Rは、水素又はハロゲン(例えば、フッ素、塩素、又は臭素)などの原子であってよい。別の実施形態では、Rは、アルキル、シクロアルキル、又はアリール残基などの残基であってよい。これらの残基は、少なくとも1、2、3、4、5、6、8、又は更には10個の炭素原子、最大で20、18、16、14、10、8、6、又は更には4個の炭素原子を含んでもよい。これらの残基は、フッ素原子を含んでも含まずともよい。一実施形態では、Rは、フッ素化されないか、部分的にフッ素化されるか、又は完全にフッ素化される。一実施形態では、Rは高度にフッ素化されてもよい(すなわち、炭素に結合した水素の少なくとも80%、90%、95%、又は更には100%がフッ素によって置換される)。これらの残基は、1個以上のカテナリー酸素原子(すなわち、エーテル結合)を含んでも含まずともよい。これらの残基は、直鎖状又は分枝状、飽和又は不飽和であってよく、これらの官能基が酸化されず、酸化反応の立体障害とならない限り、他の官能基(例えば、アミン、スルフィド、エステルなど)によって置換されても、またされなくてもよい。
【0031】
式A2のRの例としては、直鎖状、環状、又は分枝状であってよい過フッ素化、部分フッ素化、又は非フッ素化アルキル、アリール、アルコキシ、オキソアルキル、ポリオキシアルキル、又はポリオキシアルコキシ残基が挙げられる。Rの具体的な例としては、HC−、H−、FC−、FCO−、CHF(CF−、CHF(CF−、FCFHC−、F−、FCOFC−、CFCFOCFCFO−、CFCFCHOCFCHO−、CF(CF(OCFCFO−、CFO(CFO−、CFO(CFOFHC−、FCOFCO−、F−、F−、F11−、F13−、及びFHC−が挙げられる。
【0032】
式(A)に基づく代表的なフッ素化アルコールとしては、CCHFCHOH、CFCFOCFCFOCFCHOH、CHF(CFCHOH、CF(CFCHOH、CHCHFCHOH、CFO(CFOCF(CF)CHOH、CFCFCHOCFCHOCFCHOH、CFO(CFOCHFCFCHOH、CFO(CFOCFCHOH、CF(CF(CHCFCFCFCFCHOH、CF(CFCH(CFCHOH、CF(CFCHOH、CF(CF(OCF(CF)CF)OCF(CF)CHOH、CF(CF(OCFCFOCF(CF)CHOH、CFCFO(CFCFO)CFCHOH、並びにR−O−CHF−CHOH、R−O−CHF−CFCHOH、R−O−CF−CFH−CHOH、R−O−CF−CHF−CF−CHOH、R−O−CF−CF−CHOH、R−O−CF−CF−CF−CHOH、R−(O)−CHF−CF−O−CF−CHOH、R−CHF−CF−O−CF−CHOH、R−O−(CF)n−CHOH、R−(CF)n−CHOH、R−(O−CF)n−O−(CF)m−CHOH、R−(O−CF−CF)n−O−(CF)m−CHOH、R−(O−CF(CF)−CF)n−O−(CF)m−CHOH、及びR−(O−CF−CF(CF))n−O−(CF)m−CHOH(ただし、Rは、1個以上のカテナリー酸素原子を含んでも含まずともよい直鎖状又は分枝鎖状のフッ素化又は過フッ素化アルキル残基であり、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10を表し、mは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10を表す)が挙げられる。
【0033】
フッ素化カルボン酸及びその塩
フッ素化アルコールは、−CHOH残基を−COO残基に酸化することにより、対応するフッ素化カルボン酸に変換することができ、これにより一般式(B)に基づくカルボン酸又はその塩が得られる。
【0034】
A−COO (B)
式中、Mは、例えば、水素、金属カチオン、又は有機カチオンなどのカチオンを表す。代表的な金属カチオンとしては、Na及びKが挙げられる。代表的な有機カチオンとしては、アンモニウム(NH)、アルキルアンモニウム、アルキルホスホニウムなどが挙げられる。式Bの残基Aは、酸化による影響を受けないため、その好ましい実施形態を含めて式(A)のAと同じ意味を有する。
【0035】
本明細書において開示するところの「カルボン酸」なる用語は、カルボン酸及びカルボン酸塩を含む。代表的なフッ素化カルボン酸としては、過フッ素化カルボン酸又は部分フッ素化カルボン酸が挙げられる。過フッ素化カルボン酸は、−COOH残基の水素以外に水素原子を一切含まない式(B)に基づくカルボン酸である。部分フッ素化カルボン酸は、−COOH残基の水素以外に少なくとも1個のフッ素原子及び1個の水素原子を含む式(B)に基づくカルボン酸である。
【0036】
式(B)に基づく代表的なフッ素化カルボン酸としては、CCHFCOOH、CFCFOCFCFOCFCOOH、CHF(CFCOOH、CF(CFCOOH、CHCHFCOOH、CFO(CFOCF(CF)COOH、CFCFCHOCFCHOCFCOOH、CFO(CFOCHFCFCOOH、CFO(CFOCFCOOH、CF(CF(CHCFCFCFCFCOOH、CF(CFCH(CFCOOH、CF(CFCOOH、CF(CF(OCF(CF)CF)OCF(CF)COOH、CF(CF(OCFCFOCF(CF)COOH、CFCFO(CFCFO)CFCOOH、及びこれらの塩、並びにR−O−CHF−COO、R−O−CHF−CFCOO、R−O−CF−CFHCOO、R−O−CF−CHF−CF−COO、R−O−CF−CF−COO、R−O−CF−CF−CF−COO、R−(O)−CHF−CF−O−CF−COO、R−CHF−CF−O−CF−COO、R−O−(CF)n−COO、R−(CF)n−COO、R−(O−CF)n−O−(CF)m−COO、R−(O−CF−CF)n−O−(CF)m−COO、R−(O−CF(CF)−CF)n−O−(CF)m−COO、及びR−(O−CF−CF(CF))n−O−(CF)m−COO、(ただし、Rは、1個以上のカテナリー酸素原子を含んでも含まずともよい直鎖状又は分枝鎖状のフッ素化又は過フッ素化アルキル残基であり、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10を表し、mは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10を表し、Mは、H又は上記に定義したようなカチオンである)が挙げられる。
【0037】
調製法
本開示では、一級のフッ素化アルコールから式(B)に基づくもののようなフッ素化カルボン酸を調製するための2つのスキームについて述べる。第1のスキームは第1及び第2の酸化剤を使用するのに対して、第2のスキームはニトロキシドラジカル基及び酸化剤を使用するものである。
【0038】
第1のスキーム
第1のスキームでは、式A1のA残基を含む高度にフッ素化されたアルコールを、少なくとも1種類の第1の酸化剤及び少なくとも1種類の第2の酸化剤に曝露することで、式(B)を含む高度にフッ素化されたカルボン酸を生成することによって高度にフッ素化されたカルボン酸及びその塩を調製する。その場合、少なくとも1種類の第1の酸化剤は、第2の酸化剤の作用によって、フッ素化アルコールを酸化することが可能な反応種に変換されうる化合物である。
【0039】
上記及び下記において用いられる意味での第1の酸化剤は、1種類以上の第2の酸化剤によって反応性の形態に酸化されうる化合物である。第1の酸化剤の反応性の形態は、アルコールを、対応するカルボン酸に酸化することが可能なものである。
【0040】
第1の酸化剤は、有機化合物、すなわち、水素及び炭素原子の両方を含む化合物であってよい。第1の酸化剤は重金属を含まないことが好ましい。実際、第1の酸化剤は金属を一切含まなくともよい。
【0041】
第1の酸化剤は、少なくとも1個のN−オキシル基又は少なくとも1個のP−オキシル基を含みうる。N−オキシル又はP−オキシル基は、反応種として酸化によりオキソアンモニウム又はオキソホスホニウム基に変換されうる。したがって、典型的な第1の酸化剤は、オキソアンモニウム又はオキソホスホニウム化合物に変換されうる化合物である。好ましい化合物は、N−オキシル又はP−オキシル基の活性「オニウム」形態への変換が、N−オキシル又はP−オキシル基が再生されうるという意味で可逆的なものである。したがって、第1の酸化剤は、酸化反応の全体を通じて再生されうるために少量で使用することができる。
【0042】
第1の酸化剤は、環式、非環式、又は多環式であってよい。好ましい第1の酸化剤としては、N−オキシル及び/又はP−オキシル基を含む化合物が挙げられる。より好ましくは、化合物は環式である。最も好ましくは、N−オキシル、P−オキシル基のN又はP原子は環構造の一部である。適当な第1の酸化剤の典型的な例としては、少なくとも1個のピペリジン部分を含むものが挙げられ、ピペリジンN−オキシルを含みうる。ピペリジンN−オキシルの典型的な例は、一般式(C)に相当するものである。
【0043】
【化1】

式中、R、R、R及びRのそれぞれは同じか又は異なってよく、互いに独立して、残基を含む飽和及び/又は芳香族炭化水素基、又はこれらの組み合わせを表し、R及びRは、同じか又は異なってよく、水素、水酸基、残基を含む飽和及び/又は芳香族炭化水素基を表す。R、R、R及びRの飽和脂肪族又は芳香族基は、例えば、これらに限定されるものではないが、アルコキシ基、ハロゲン、ハロゲンアルキル基、アミン、アミノアルキル、アルキルカルボニルオキシ、アルキルカルボニルアミノ、水酸基、ヒドロキシアルキル、酸素、窒素、及びこれらの組み合わせなどの酸化プロセスを妨げない基によって置換されてもよい。残基は最大で12個の炭素原子、又は最大で8個の炭素原子を含みうる。アルキル残基の具体的な例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、ペンチル、n−ヘキシルなどが挙げられる。アルコキシ残基の例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、イソブチルオキシなどが挙げられる。
【0044】
及びRの残基を含む飽和脂肪族及び/又は芳香族炭化水素基は、酸化プロセスを妨げない基又は残基によって置換されてもよい。このような基又は残基としては、これらに限定されるものではないが、水酸基、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシアルキル、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルキルカルボニルオキシ、及びアルキルカルボニルアミノ基又は残基、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。残基は最大で12個の炭素原子、又は最大で8個の炭素原子を含みうる。適当な残基の例としては、これらに限定されるものではないが、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシアルキル、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルキルカルボニルオキシ、アルキルカルボニルアミノ残基が挙げられる。アルキル残基の具体的な例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、ペンチル、n−ヘキシルなどが挙げられる。アルコキシ残基の例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、イソブチルオキシなどが挙げられる。
【0045】
ピペリジンN−オキシルの典型的な例としては、これらに限定されるものではないが、2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル(TEMPO)、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル、及び4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシルが挙げられる。
【0046】
適当な第1の酸化剤の他の例としては、少なくとも1個のカルボニル基を含む化合物(式2)、特に少なくとも1個のα−ハロカルボニル基を含む化合物(式1)、少なくとも1個のイミン基を含む化合物(式3)、少なくとも1個のイミニウム基を含む化合物(式4)、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0047】
カルボニル基は、第2の酸化剤によってその反応性の形態としてのジオキシラン(式II)に変換されうる。α−ハロカルボニル基は、その反応性の形態としての過酸化水素化物(式I)に酸化されうる。イミンはその反応性の形態としてのオキサジリジン(式III)に酸化され、イミニウム塩はオキサジリジニウム塩(式IV)に酸化されうる。したがって、適当な第1の酸化剤としては、過酸化水素化物、ジオキシラン、オキサジリジン、及びオキサジリジニウム塩に酸化されうる式1〜4によって表されるような化合物(例えば、式I〜IVで表されるもの)が挙げられる。
【0048】
【化2】

【0049】
式1〜4及びI〜IVのそれぞれにおいて、R、R、R及びRのそれぞれは同じか又は異なる残基を表すか、あるいは例えば環式又は多環式残基の場合のように同じ残基の一部でありうる。Xは、同じか又は異なってよい2個のハロゲン(Br、I、Cl、F)、好ましくはCl及び/又はFを表す。R、R、R及びRの典型的な例としては、互いに独立してCl、F、CCl、CClH、ClF、CF、C2n+1(n=1〜20)、アリール、アリールアルキル、アルキル(C2n+1;n=1〜20)が挙げられる。式IV及び4の典型的な対イオンとしては、これらに限定されるものではないが、-OSOCF、BF-、BPh-、NO-、ClO-、PF-が挙げられる。
【0050】
これらの第1の酸化剤は、純粋な物質として、又は混合物として使用することができる。これらの第1の酸化剤は、溶液又は分散液として使用することができる。これらの第1の酸化剤は、例えばシリカ及びアルミノケイ酸塩材料などの担体物質若しくは固体支持体、又はこれらに限定されるものではないが、例えばポリスチレン若しくはポリエチレングリコールなどの有機ポリマー上に固定することによって固体として使用することもできる。第1の酸化剤は、ポリマー又はポリマー性物質であってもよい。例えば第1の酸化剤をポリマーと結合又は架橋するか、あるいは適当な酸化還元活性基を含むモノマー又はその前駆体をポリマーの調製に使用することができる。
【0051】
アルコールの酸化は、少なくとも1種類の第2の酸化剤の存在下で行われる。第2の酸化剤は、第1の酸化剤をその反応性の形態に変換することが可能なものである。これは、例えば分析化学において用いられる方法によって分光学的に観測することができる。例えば、N−オキシル又はP−オキシル基の酸化の後に、電子スピン共鳴法(ESR)を使用するか、又はサイクリック・ボルタンメトリーを行うことができる。代替的な方法として、赤外分光光度法又は核磁気共鳴測定法がある。例えば、カルボン酸が生成した後に、19F−NMR分光法を行うことができる。第1の酸化剤のその反応性形態への変換は、通常はインサイチューで、すなわちアルコールの存在下で行われる。
【0052】
第2の酸化剤は、重金属原子又はイオンを含まないことが好ましい。重金属には、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Sc、Y及びTiを除くすべての金属が含まれる。
【0053】
第1の酸化剤の反応性形態は、アルコールを酸化することにより還元型に変換されるものと考えられる。この還元型は、例えば1種類以上の第2の酸化剤によって再び酸化されうる。高収率のカルボン酸を得るうえで、少量の第1の酸化剤のみを必要とする場合もある。したがって特定の実施形態では、第1の酸化剤は第2の酸化剤よりも少ない量で使用される。通常、第1の酸化剤は、第2の酸化剤の例えば最大で約10%(モル比)の量で使用することができる。
【0054】
第2の酸化剤は通常、酸化しようとするアルコールに対して少なくとも等モル量で使用される。通常、第2の酸化剤(個々に、又は例えば組み合わせが使用される場合には合計量で)は、アルコールの量に対してモル過剰量で、例えば、2モル、3モル、3.5モル、又は10モルの過剰量で使用することが好ましい。最適な反応条件は使用される酸化剤に応じて変わりうるが、通常の実験によって決定することができる。
【0055】
第2の酸化剤は、有機、無機、液体、ガス状、又は固体でありうる。少なくとも1種類の第2の酸化剤は、少なくとも1個の酸素原子、又は少なくとも1個の酸素原子及び少なくとも1個のハロゲン原子を含む無機化合物であってよい。典型的な例としては、例えば、それらの酸及び塩を含む、過ヨウ素酸塩、過臭素酸塩、過塩素酸塩、次亜塩素酸塩、次亜ヨウ素酸塩、次亜臭素酸塩、並びにこれらの組み合わせなどのハロゲン酸化物が挙げられる。他の典型的な例としては、例えば、過酸化水素、例えば過硫酸アンモニウム又は過硫酸カリウムなどの過硫酸塩、ペルオキシ安息香酸、ペルオキシ酢酸、過酸化カルバミド、過ホウ酸塩、ペルオキシカーボネート、過酸化ベンゾイル、過酸化アセトン、過酸化メチルエチルケトン、tert−ブチルヒドロペルオキシド、及びこれらの組み合わせなどの有機及び無機過酸化物が挙げられる。無機又は有機過酸化物が用いられる場合、例えば鉄ポルフィリン又はマンガンポルフィリンなどの有機金属錯体を加えることによって更に反応を促進することができる。
【0056】
ガス状の第2の酸化剤の例としては、塩素、酸素、オゾンが挙げられる。純粋なガスの代わりに、これらのガスを含む混合物を使用することもできる。第2の酸化剤として酸素が用いられる場合、酸素を用いた酸化反応を触媒するために一般的に使用されるものなどの触媒を加えることによって反応を促進することができる。典型的な例としては、金属又は金属塩が挙げられる。適当な触媒としては、これらに限定されるものではないが、金属亜硝酸塩(例えば、NaNO)、金属硝酸塩(例えば、Co(NO、Mn(NO)、及びこれらの組み合わせが挙げられる。ガス状の酸化剤は、通常、大気圧よりも高い圧力、例えば、1.5atm(152kPa)、2atm(203kPa)、3atm(304kPa)、又は5atm(507kPa)のような1atm(101kPa)よりも高い圧力で存在するか、あるいはガス流として存在してもよい。
【0057】
第2の酸化剤は、0.2Vよりも高い、好ましくは0.3Vよりも高い標準電位を有することが好ましい(標準電極としてH/H、1モル溶液、25℃)。標準電位については科学文献に述べられており、例えば、「Inorganic Chemistry」、D.F Shriver、P.W.Atkins、C.H.Langford、Oxford Press、第2版、1994、付録2)を参照されたい。
【0058】
第2の酸化剤は、例えば電解槽中で発生する電流のような電流であってもよい。標準的な電気化学セルをこの目的で使用することができる。電気化学的酸化の一般的な組み合わせを実施例13に述べる。例えば、Ni、Ti、Ru、Pb、Pt、Sn−酸化物/水酸化物又はホウ素をドープしたダイヤモンド電極を使用することができる。後者が好ましい。
【0059】
アルコールのカルボン酸への酸化は、例えば第2の酸化剤が電流である場合のように、第2の酸化剤が単独で使用される場合には特定の状況でただでさえ起こりうるものであるが、更に第1の酸化剤を使用することで反応を促進し、かつ/又は高い収率を得ることができる。
【0060】
アルコールのカルボン酸への酸化は、カルボン酸又はその塩が、24時間以内、好ましくは12時間以内に少なくとも50%の収率で得られるように、第1の酸化剤及び第2の酸化剤の組み合わせを使用して通常行われる。アルコール及び酸化剤は、カルボン酸又はその塩を24時間以内に少なくとも50%の収率で得るうえで、効果的な量で使用されることが好ましい。
【0061】
第2の酸化剤を使用することにより、24時間以内に少なくとも50%のカルボン酸の収率を得るために必要な第1の酸化剤の量は、酸化しようとするアルコールのモル量に対して約0.01モル%〜約10モル%、又は約2.5モル%〜約4モル%程度に低くすることができる。
【0062】
第1の酸化剤及び第2の酸化剤の好ましい組み合わせとしては、これらに限定されるものではないが、第1の酸化剤としてのN−オキシル又はP−オキシル含有化合物と、第2の酸化剤としての、例えばこれらに限定されないが、NaOCl、NaOBr、NaOCl、NaOBr、酸素、塩素などのハロゲン、ハロゲン酸化物、又は電気化学セルの電流とが挙げられる。第1の酸化剤及び第2の酸化剤の更なる好ましい組み合わせとしては、これらに限定されるものではないが、過酸化水素化物、ジオキシラン、オキサジリジン、及びオキサジリジニウム塩に酸化されうる化合物(例えば、第1の酸化剤としての式I〜IVに基づくもの)と、第2の酸化剤としてのH、KHSO、APS(過硫酸アンモニウム)、例えば(m−クロロペルオキシ安息香酸)などのペルオキシ安息香酸とが挙げられる。この組み合わせの典型的な第1の酸化剤としては、カルボニル、αハロカルボニル、イミン及びイミニウム塩(式1〜4に基づくものを含む)が挙げられる。
【0063】
この反応は、液体のフッ素化アルコールを単独で使用するか、かつ/又は溶媒を使用して液体媒質中で行うことができる。反応混合物が異なる有機相及び水相を含んでいる場合には、相間移動触媒を使用することで反応を促進することができる。典型的な例としては、テトラアルキルアンモニウム塩が挙げられる。また、水と、例えばアセトニトリル、DMSOなどの水混和性溶媒との溶媒混合物を使用してもよい。水混和性溶媒に対する水の比(例えば、HO:アセトニトリル)は、体積基準で1:2〜1:4であれば適当であることが見出されている。反応は、超臨界媒質(例えば、液体CO)又はイオン性液体を使用して行うこともできる。
【0064】
通常、反応は、例えば約4〜7、又は7〜約12のpHのように酸性、中性、又は塩基性のpHで行われる。最適なpHは、使用される酸化剤の種類によって決まる。例えば、中性〜塩基性のpHでは、第2の酸化剤を含む非ガス状の酸素及びハロゲンが好ましく用いられる。収率を高めるために、反応の間にpHを調節することが望ましい場合もある。pHの調節は、例えば緩衝剤を用いて行うことができる。緩衝剤又は緩衝成分の典型的な例としては、これらに限定されるものではないが、NaHCO、KHCO、KCO、NaCO、NaHPO、NaHPO、NaAc、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0065】
反応は、室温で、又は例えばこれらに限定されるものではないが、約30℃〜約80℃の範囲の温度のように高い温度で行うことができる。反応時間は通常4〜24時間である。
【0066】
第2のスキーム
式A2の残基Aを含むもののような一級フッ素化アルコールを、ニトロキシドラジカル基を含む化合物及び1種類以上の酸化剤で処理することにより、フッ素化アルコールの、対応したフッ素化カルボン酸又はその塩への酸化に直接結びつくことが見出されている。Pozziら、Tetrahedron Letters,2002,v.43,6141〜6143に開示されるように、一般構造Rf−(CH−CHOH(Rfはフッ素化残基を表し、nは2〜4の整数である)を有するフッ素化アルコールを、ニトロキシドラジカルで処理することにより、アルデヒド又はアルデヒド水和物が生ずることが見出されている。フッ素化カルボン酸は生成されないか、あるいは副生成物として低収率で生成されたのみであった。
【0067】
本明細書で開示する第2のスキームの酸化反応は、従来の製造法と比較して穏和な反応条件を有し、フッ素化カルボン酸の生成に対する高い選択性を有し、重金属を使用せず、最小の副反応を生じることにより、副生成物による夾雑が最小に抑えられた反応混合物が得られる。これらの特徴は、本明細書で開示する第2のスキームの酸化反応を、工業的規模でコスト効率の高い、有用なものとするものである。
【0068】
式A2の残基を含むフッ素化アルコールを酸化するためには、式(D)に基づくもののようなニトロキシドラジカル基を含む化合物を使用する。
【0069】
【化3】

式中、R1〜R6のそれぞれは同じか又は異なってよく、互いに独立して飽和脂肪族若しくは芳香族残基、又はこれらの組み合わせを表す。脂肪族又は芳香族残基は、少なくとも1、2、3、4、又は更には5個の炭素原子、最大で4、6、7、又は更には8個の炭素原子を含みうる。脂肪族又は芳香族残基は、ハロゲン及び/又は酸素原子により置換されなくても又はされてもよい。場合により、R3及びR4が結合することで、環原子の1個がニトロキシドラジカルの窒素原子である5又は6員環のような脂肪族環構造を形成する。
【0070】
安定的なニトロキシドラジカルを含む適当な化合物としては、例えば一般式(E)に基づくものが挙げられる。
【0071】
【化4】

式中、R7、R8、R9及びR10のそれぞれは同じか又は異なってよく、互いに独立して飽和脂肪族若しくは芳香族残基、又はこれらの組み合わせを表す。脂肪族又は芳香族残基は、少なくとも1、2、3、4、又は更には5個の炭素原子、最大で4、6、7、又は更には8個の炭素原子を含みうる。脂肪族又は芳香族残基は、ハロゲン及び/又は酸素原子により置換されなくても又はされてもよい。
【0072】
R11及びR12は同じか又は異なってよく、−H、−OH、−NH、−SCN、−OPO、−NHCOCH、−OCOC、−COH、−COCH、−CN、−OSO−CH、−N(CH、−CHNH、−NHCH、−NCHCOCH、−N(CHCHCHOH、又は炭素原子を含む残基を表す。炭素原子を含む残基は、飽和した直鎖状若しくは分枝状、環状脂肪族、又は芳香族残基、又はこれらの組み合わせであってよい。一実施形態では、炭素原子を含む残基は、少なくとも2、3、4、5、又は6個の炭素原子、最大で6、8、10又は更には12個の炭素原子を含む。適当な炭素原子を含む残基の例としては、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシアルキル、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルキルカルボニルオキシ、アルキルカルボニルアミノ残基が挙げられる。アルキル残基の具体的な例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、ペンチル、n−ヘキシル及びこれらの組み合わせが挙げられる。アルコキシ残基の具体的な例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、イソブチルオキシ、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0073】
ニトロキシドラジカル基を含む代表的な化合物としては、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO);4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル;4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル;及び4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル;2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジン−4−オン−1−オキシルオキシム(TEMPOXIME);RAC−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル−4,4−(5−スピロヒダントイン);2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル−4−アミノ−4−カルボン酸;及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0074】
ニトロキシドラジカルを含む化合物は、純粋な物質として、又は溶液若しくは分散液中で使用することができる。ニトロキシドラジカルを含む化合物は、シリカ及びアルミノケイ酸塩材料に支持されたもの、又は例えばポリスチレン若しくはポリエチレングリコールなどの有機ポリマーに支持されたものなどの担体又は固体支持体上の材料として使用することもできる。ニトロキシドラジカルを含む化合物は、例えばポリマーが1個以上のニトロキシドラジカルを含む部分を含むようにポリマーと架橋されたポリマー材料であってもよい。
【0075】
一実施形態では、ニトロキシドラジカル基を含む化合物の触媒量を使用する。フッ素化アルコールをフッ素化カルボン酸に酸化するために必要とされる、ニトロキシドラジカル基を含む化合物の量は低量である。酸化しようとするフッ素化アルコールのモル量に対して少なくとも約0.01、0.1、0.5、又は更には1モル%、酸化しようとするフッ素化アルコールのモル量に対して最大で約2、5、8、10、又は更には15モル%の量を使用することができる。
【0076】
ニトロキシドラジカル基を含む化合物のニトロキシドラジカル基は、酸化によって(例えば、酸化剤を使用することにより)オキソアンモニウム基に変換することができる。これはインサイチュー、すなわちフッ素化アルコールの存在下で行うことができる。理論によって束縛されずに言うならば、フッ素化アルコールをフッ素化カルボン酸に酸化するのはオキソアンモニウム塩であり、同時にオキソアンモニウム塩はヒドロキシルアミン(N−OH基)に還元されるものと考えられる。このヒドロキシルアミン誘導体は、再びニトロキシドラジカルに、次いでオキソアンモニウム塩に酸化することが可能であり、これによりオキソアンモニウム塩が酸化触媒として作用するために、ニトロキシドラジカルを有する化合物は少量のみでよい。
【0077】
適当な酸化剤としては、ニトロキシドラジカル基を酸化する化合物が挙げられる。代表的な酸化剤としては、トリクロロイソシアヌール酸、次亜臭素酸塩、亜塩素酸塩、ヨードシルベンゼン、ヨードベンゼンジクロリド、塩素、酸素/空気、オゾン、亜硝酸塩、及びこれらの組み合わせが挙げられる。特に有用な酸化剤は次亜塩素酸塩である。次亜塩素酸イオンは、インサイチューで(例えば塩素及び塩基、トリクロロイソシアヌール酸など)生成するか、あるいは5〜14重量%の濃度範囲で水溶液として市販されているものを用いることができる。
【0078】
通常、フッ素化アルコールをフッ素化カルボン酸に完全に変換するためには、フッ素化アルコールに対するモル過剰量の酸化剤を使用する。フッ素化アルコールに対して少なくとも約2、4、又は更には6当量、フッ素化アルコールに対して最大で約6、8、10、又は更には15当量の量を使用することができる。
【0079】
本明細書で開示するように、有機溶媒は酸化反応に使用してもしなくてもよい。当該技術分野では周知であるように、有機溶媒は、反応物質が近接して化学反応を起こすように反応物質を可溶化するために使用される。
【0080】
一実施形態では、フッ素化アルコール、ニトロキシドラジカル基を含む化合物、及び酸化剤を有機溶媒の存在下で反応させる。代表的な有機溶媒としては、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、メチルt−ブチルエーテル、ジメトキシエタン、2−メトキシエチルエーテル(ジグリム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグリム)、トルエン、ベンゼン、ヘキサン、ペンタン、ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0081】
一実施形態では、フッ素化アルコール、ニトロキシドラジカル基を含む化合物、及び酸化剤を水、及び例えばアセトニトリル又はジメチルスルホキシドなどの水混和性有機溶媒の存在下で反応させる。水混和性有機溶媒に対する水の比としては、体積基準で1:0.5、1:1、1:2、1:3、1:4、1:6、又は更には1:10を用いることができる。
【0082】
本開示では、フッ素化アルコール、ニトロキシドラジカル基を含む化合物、及び酸化剤を、有機溶媒を実質上含まない混合物中で反応させることが可能であり、それでも酸化反応が完結することが発見された。有機溶媒を実質上含まない、とは、酸化しようとするフッ素化アルコールのモル量に対する有機溶媒のモル量の比が、10%未満、5%未満、1%未満、又は更には0.5%未満であることを意味する。酸化反応中に有機溶媒が存在しないか、又は実質上存在しないことが特に有用でありうる。例えば、有機溶媒を購入し、あるいは使用後に処分する必要がないことから、反応混合物の有機溶媒による夾雑が防止され、製造プロセスのコストが低減され、製造プロセスがより環境に優しいものとなりうる。有機溶媒が存在しないことにより、更に反応容器の体積効率がより高くなる(すなわち、溶媒が使用されないために反応物質のために利用可能な空間が大きくなる)。
【0083】
本開示では、フッ素化アルコールの酸化の間にアルカリ性条件を維持することが有用でありうることが見出されている。アルカリ性条件下では、酸化反応の速度を高め、かつ/又は高い収率を得ることができる。酸性条件下では、フッ素化アルコールとフッ素化カルボン酸とが反応してエステルを形成する場合がある。フッ素化アルコールが、既に生成されているフッ素化カルボン酸とエステルを形成することから、フッ素化アルコールのすべてがフッ素化カルボン酸に変換されるわけではなく、反応収率が低くなりうる。更に、蒸留時にエステルがフッ素化カルボン酸と一緒に留出し、フッ素化カルボン酸の精製が困難となる。塩基性条件を用いることにより、エステルが鹸化(又は加水分解)してフッ素化カルボン酸とフッ素化アルコールが生成されるため、フッ素化アルコールのフッ素化カルボン酸への酸化が継続される。これによりフッ素化アルコールの変換率が高くなり、したがってフッ素化カルボン酸の収率が高くなる。
【0084】
反応のpHは、約7.5、8、9、10、又は更には12よりも高くてよい。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、又はこれらの組み合わせなどの塩基を加えることで、アルカリ性条件とすることができる。リン酸緩衝液、炭酸塩緩衝液、重炭酸塩緩衝液、又はpHを約7.5〜14、又は更には10〜14に維持するうえで充分な任意のこうした緩衝剤などの各種の緩衝剤を使用して、混合物のpHを維持することができる。代表的な緩衝剤としては、NaHPO、KHPO、NaHPO、KHPO、LiHCO、NaHCO、KHCO、LiCO、KCO、NaCO、NaOOCCH、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0085】
第2のスキームの酸化反応においては、相間移動触媒を使用してもしなくてもよい。通常、相間移動触媒は、水溶性の反応物質と有機溶媒に可溶な反応物質との反応を助ける目的で使用される。代表的な相間移動触媒としては、テトラ−n−オクチルアンモニウムハライド及びテトラメチルアンモニウムハライド、テトラブチルアンモニウムハライド、ベンジルトリフェニルホスホニウムハライド、18−クラウン−6、ポリエチレングリコール400、及びこれらの組み合わせが挙げられる。酸化反応において有機溶媒をまったく、又は実質上使用せず、更に相間移動触媒を使用しないことにより、フッ素化カルボン酸を相間移動触媒及び/又は有機溶媒から単離する必要がなくなるため、フッ素化カルボン酸エステルの製造及び回収が容易となり、製造のコスト効率がより高くなる。本開示の酸化反応は、フッ素化アルコールの変換率が高く、反応混合物、粗生成物、及び/又は精製された生成物に、開始物質としてのフッ素化アルコール又はエステルによる夾雑が実質上見られないことから、比較的速い反応となりうる。本明細書で開示するところの反応混合物とは、酸化反応より得られる生成物のことを指し、粗生成物とは、反応混合物の更なる処理(例えば、抽出、又は所望の生成物を更に単離するための何らかの他の工程)により得られる生成物のことを指し、精製された生成物とは、粗生成物の精製により得られる生成物のことを指す。
【0086】
本酸化反応は、例えば少なくともおおよそ周囲温度、25℃、30℃、35℃、40℃、又は更には45℃、最大で75℃、80℃、85℃、90℃、95℃、又は更には110℃のように室温又はわずかに高い温度で行うことができる。代表的な範囲としては、おおよそ周囲温度〜90℃、及び約30℃〜80℃が挙げられる。
【0087】
通常、酸化反応は、約30分、1時間、2時間、4時間、又は更には8時間未満、最大で約4時間、6時間、8時間、10時間、又は更には24時間で起こる。
【0088】
上記で述べたように、酸化反応の間にアルカリ性条件を維持することによりエステルの生成を防止することが可能であり、これによりフッ素化アルコールの対応するフッ素化カルボン酸への変換率が高くなる。通常、この反応ではフッ素化アルコールの少なくとも55%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、又は更には100%が、対応するフッ素化カルボン酸又はその塩に変換される。通常、収率(%)(すなわち、理論上のフッ素化カルボン酸に対する実際のフッ素化カルボン酸)は、少なくとも55%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、又は更には100%でありうる。これらの収率(%)は、反応混合物、粗生成物、又は更には精製された生成物から得ることができる。フッ素化アルコールのほぼすべてが対応するフッ素化カルボン酸に変換されるため、NMR(核磁気共鳴)により分析した場合にフッ素化アルコールは存在していない。一実施形態では、酸化反応の反応混合物はフッ素化アルコールを実質上含まない(すなわち、NMRにより分析した場合にフッ素化アルコールが1.0モル%未満、0.5モル%未満、0.1モル%未満(フッ素化カルボン酸に対して)で存在するか、又は更にはフッ素化アルコールがまったく存在しない)。
【0089】
更に、反応混合物中に認められた副生成物(すなわち、フッ素化アルコールに由来する望ましくないフッ素化カルボン酸生成物)は最小である。一実施形態では、反応混合物には、NMRにより分析した場合に最小(すなわち、1.0モル%未満、0.5モル%未満、0.1モル%未満(フッ素化カルボン酸のモル量に対して))の副生成物が認められるか、又は更には副生成物がまったく認められない。理論によって束縛されることを望むものではないが、アルカリ性条件は、副反応ではなく、フッ素化カルボン酸の生成に有利であるものと考えられる。更に、本明細書で開示する酸化反応の条件下では、第2のスキームを使用した際に対応するフッ素化アルデヒドは反応混合物中にほとんどあるいはまったく認められなかった。
【0090】
フッ素化カルボン酸の単離
フッ素化カルボン酸及びその塩を公知の方法により単離し、必要に応じて精製することができる。一実施形態では、例えば硫酸のような濃縮酸を加えることによってフッ素化カルボン酸をプロトン化し、相の1つがフッ素化カルボン酸であるような相分離を生じさせることにより、反応混合物から粗生成物を単離する。別の実施形態では、例えば硫酸のような酸を加えた後、有機溶媒で抽出することによって粗生成物を単離する。次いで、有機溶媒を除去することによりフッ素化カルボン酸を単離する。
【0091】
本開示の酸化反応は、開始物質又は反応副生成物による夾雑がほとんどなく、比較的クリーンなものであることから、粗生成物の更なる精製をしばしば必要としない。精製工程がなくなることで、プロセスの時間及びコストを削減することができる。必要に応じて、例えば蒸留によって反応混合物又は粗生成物を精製することができる。蒸留による精製においては、精製を促進するために、例えば酸の存在下でアルコール(例えばメタノール)を加えることによって、フッ素化カルボン酸をより揮発性の高いエステルに変換することができる。蒸留後、エステルを塩基で処理することで、対応するカルボン酸塩を得ることができる。
【0092】
使用法
本開示のフッ素化カルボン酸は、例えば、殺虫剤、医薬品、染料などの工業用及び特殊用途の化学物質の調製における合成中間体として有用でありうる。本開示のフッ素化カルボン酸は、重合によるポリマー、特にフルオロポリマーの製造における乳化剤として、また、米国特許第7,589,234号(モリタ(Morita)ら)に述べられるような水性フルオロポリマー分散液の調製における分散剤として有用でありうる。
【0093】
実施形態:
以下は、本開示の特定の実施形態の概要である。
【0094】
1.高度にフッ素化されたカルボン酸及びその塩を調製するための方法であって、一般式(A)の高度にフッ素化されたアルコール:
A−CH−OH
を、少なくとも1種類の第1の酸化剤及び少なくとも1種類の第2の酸化剤に曝露することにより、一般式(A1)の高度にフッ素化されたカルボン酸:
A−COO
[式中、Mはカチオンを表し、式(A)及び(A1)中のAは同じであり、残基:
Rf−[O]−CX”Y”−[O]−CX’Y’−[O]−CXY−
を表す(式中、Rfは、1個以上のカテナリー酸素原子を含んでも含まずともよいフッ素化アルキル残基を表し、p、m及びnは、互いに独立して1又は0であり、X、X’、X”、Y、Y’及びY”は、互いに独立してH、F、CF又はCであり、ただし、X、X’、X”、Y、Y’及びY”のすべてがHではなく、前記少なくとも1種類の第1の酸化剤は、第2の酸化剤の作用によって、アルコールを酸化することが可能な反応種に変換されうる化合物である)]、又はその塩を生成する工程を含む、方法。
【0095】
2.X、X’、X”、Y、Y’及びY”の1つのみがHである、実施形態1に記載の方法。
【0096】
3.X及びFがいずれもFである、実施形態1又は2に記載の方法。
【0097】
4.X、X’、X”、Y、Y’及びY”のすべてがFである、実施形態1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【0098】
5.Rfが1〜12個の炭素原子を含む、実施形態1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【0099】
6.前記カルボン酸が、
−O−CHF−COO、R−O−CHF−CFCOO、R−O−CF−CFHCOO、R−O−CF−CHF−CF−COO、R−O−CHF−CF−O−CF−COO、R−CHF−CF−O−CF−COO、R−O−(CF)n−COO、R−(CF)n−COO、R−(O−CF)n−O−(CF)m−COO、R−(O−CF−CF)n−O−(CF)m−COO、R−(O−CFCF(CF))n−O−(CF)m−COO、R−(O−CF(CF)−CF)n−O−(CF)m−COOであり、Rが、1個以上のカテナリー酸素原子を含んでも含まずともよいフッ素化アルキル残基であり、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10を表し、mは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10を表し、Mが上記に定義したものである、実施形態1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【0100】
7.前記カルボン酸又はその塩が、24時間以内に少なくとも50%の収率で得られる、実施形態1〜6のいずれか1つに記載の方法。
【0101】
8.前記第1の酸化剤が、以下の反応基、すなわち、オキソアンモニウム、オキソホスホニウム、過酸化水素化物、ジオキシラン、オキサジリジン、オキサジリジニウムの1つに変換されうる基を含む化合物である、実施形態1〜7のいずれか1つに記載の方法。
【0102】
9.前記第1の酸化剤が、N−オキシル、P−オキシル、α−ハロカルボニル、ケトン、イミン、イミニウム塩、及びこれらの組み合わせから選択される基を含む化合物である、実施形態8に記載の方法。
【0103】
10.前記第1の酸化剤が、少なくとも1個のN−オキシル基又は少なくとも1個のP−オキシル基を含む環状化合物であり、前記少なくとも1個のN−オキシル基又はP−オキシル基のN又はP原子が前記環状構造の一部である、実施形態1〜9のいずれか1つに記載の方法。
【0104】
11.前記第1の酸化剤が、ピペリジンN−オキシル部分を含む、実施形態1〜10のいずれか1つに記載の方法。
【0105】
12.前記ピペリジンN−オキシル部分が一般式(C):
【0106】
【化5】

(式中、R、R、R及びRのそれぞれは同じか又は異なってよく、互いに独立して、残基を含む飽和及び/又は芳香族炭化水素基、又はこれらの組み合わせを表し、R及びRは同じか又は異なってよく、水素、水酸基、残基を含む飽和及び/又は芳香族炭化水素基を表す)に相当する、実施形態11に記載の方法。
【0107】
13.R、R、R及びRのそれぞれが同じか又は異なってよく、非置換、又はハロゲン、水酸基、アルコキシ、及び/又は酸素原子によって置換されうる最大で8個の炭素原子を有するアルキル残基を表す、実施形態11に記載の方法。
【0108】
14.R及びRが同じか又は異なってよく、水素、水酸基、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシアルキル、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルキルカルボニルオキシ、及びアルキルカルボニルアミノ残基を表す、実施形態11、12及び13のいずれか1つに記載の方法。
【0109】
15.前記ピペリジンN−オキシルが、2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル(TEMPO)、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル、及び4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシルから選択される、実施形態11〜14のいずれか1つに記載の方法。
【0110】
16.前記第1の酸化剤が、少なくとも1個のケトン基、少なくとも1個のαハロゲンカルボニル基、少なくとも1個のイミン基、少なくとも1個のイミニウム基、又はこれらの組み合わせを含む、実施形態1〜8に記載の方法。
【0111】
17.前記第2の酸化剤が、電解槽の電流、過酸化物、ハロゲン酸化物、塩素、酸素、オゾン、又はこれらの組み合わせから選択される、実施形態1〜16のいずれか1つに記載の方法。
【0112】
18.前記第1の酸化剤が、少なくとも1個のN−オキシル基及び/又は少なくとも1個のP−オキシル基を含む化合物であり、前記第2の酸化剤が、電解槽の電流、過酸化物、ハロゲン酸化物、塩素、酸素、オゾン、又はこれらの組み合わせから選択される、実施形態1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【0113】
19.前記第2の酸化剤が、酸素、オゾン、及び/又は塩素を含み、かつ前記第2の酸化剤がガス流として、又は1.1atm(111kPa)よりも高いか若しくは1.1〜20atm(111kPa〜2.03MPa)の圧力で存在する、実施形態18に記載の方法。
【0114】
20.前記第1の酸化剤が、少なくとも1個のケトン基、少なくとも1個のαハロゲンカルボニル基、少なくとも1個のイミン基、少なくとも1個のイミニウム基、又はこれらの組み合わせを含む化合物を含み、前記第2の酸化剤が、過酸化物、好ましくは過酸化水素、過硫酸塩、ペルオキシアレニウム酸、好ましくはペルオキシ安息香酸、又はこれらの組み合わせを含む、実施形態1〜8に記載の方法。
【0115】
21.前記第2の酸化剤が、少なくとも0.2Vの標準電位を有する、実施形態1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【0116】
22.前記第2の酸化剤が、過酸化物、又は例えば次亜塩素酸塩、次亜臭素酸塩、次亜ヨウ素酸塩、過臭素酸塩、過塩素酸塩、過ヨウ素酸塩などのハロゲン酸化物、又はこれらの組み合わせである、実施形態1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【0117】
23.高度にフッ素化されたカルボン酸及びその塩を調製するための方法であって、一般式(A)の高度にフッ素化されたアルコール:
A−CH−OH
を、電気化学セル内で電流に曝露することにより、一般式(A1)の高度にフッ素化されたカルボン酸:
A−COO
[式中、Mはカチオンを表し、式(A)及び(A1)中のAは同じであり、残基:
Rf−[O]−CX”Y”−[O]−CX’Y’−[O]−CXY−
を表す(式中、Rfは、1個以上のカテナリー酸素原子を含んでも含まずともよいフッ素化アルキル残基を表し、p、m及びnは、互いに独立して1又は0であり、X、X’、X”、Y、Y’及びY”は、互いに独立してH、F、CF又はCであり、ただし、X、X’、X”、Y、Y’及びY”のすべてがHではない)]、又はその塩を生成する工程を含む、方法。
【0118】
24.フッ素化カルボン酸及びその塩を調製するための方法であって、一般式(G)のフッ素化アルコール:
R−CFX−CH−OH
を、ニトロキシドラジカル基を含む化合物及び酸化剤と反応させることによって、前記フッ素化カルボン酸又はその塩を含む反応混合物を与える工程を含み、前記フッ素化カルボン酸又はその塩が、一般式(H):
R−CFX−COO−M+
(式中、M+はカチオンを表し、式(G)及び(H)のX及びRは同じであり、X及びRは独立して、水素、ハロゲン、又は、1個以上のフッ素原子を含んでも含まずともよく、かつ1個以上のカテナリー酸素原子を含んでも含まずともよいアルキル、アルケニル、シクロアルキル、若しくはアリール残基から選択される)に相当する、方法。
【0119】
25.前記フッ素化アルコール、ニトロキシドラジカル基を含む前記化合物、及び前記酸化剤の反応が、約7.5〜約14のpHに維持される、実施形態24に記載の方法。
【0120】
26.前記フッ素化アルコール、ニトロキシドラジカル基を含む前記化合物、及び前記酸化剤が、有機溶媒を実質上含まない混合物中で反応させられる、実施形態24又は25に記載の方法。
【0121】
27.前記フッ素化アルコール、ニトロキシドラジカル基を含む前記化合物、及び前記酸化剤が、有機溶媒の存在下で反応させられる、実施形態24又は25に記載の方法。
【0122】
28.前記有機溶媒が、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、メチルt−ブチルエーテル、ジメトキシエタン、2−メトキシエチルエーテル(ジグリム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグリム)、トルエン、ベンゼン、ヘキサン、ペンタン、ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、及びこれらの組み合わせから選択される、実施形態27に記載の方法。
【0123】
29.前記フッ素化アルコールの少なくとも60モル%が、前記フッ素化カルボン酸又はその塩に酸化される、実施形態24〜28のいずれか1つに記載の方法。
【0124】
30.前記反応混合物が、前記フッ素化アルコールを実質上含まない、実施形態24〜29のいずれか1つに記載の方法。
【0125】
31.ニトロキシドラジカル基を含む前記化合物が、一般式(D):
【0126】
【化6】

(式中、R1〜R6のそれぞれは同じか又は異なってよく、互いに独立して飽和脂肪族若しくは芳香族残基、又はこれらの組み合わせを表す)に相当する、実施形態24〜30のいずれか1つに記載の方法。
【0127】
32.ニトロキシドラジカル基を含む前記化合物が、一般式(E):
【0128】
【化7】

(式中、R7、R8、R9及びR10のそれぞれは同じか又は異なってよく、互いに独立して飽和脂肪族若しくは芳香族残基、又はこれらの組み合わせを表し、R11及びR12は同じか又は異なってよく、水素、水酸基、又は飽和した直鎖状若しくは分枝状若しくは環状脂肪族又は芳香族残基を含む炭素原子、又はこれらの組み合わせを表す)に相当する、実施形態24〜31のいずれか1つに記載の方法。
【0129】
33.R11及びR12が同じか又は異なってよく、H、OH、NH、SCN、OPO、NHCOCH、OCOC、COH、COCH、CN、OSO CH、N(CH、CHNH、NHCH、NCHCOCH、N(CHCHCHOH、及びこれらの組み合わせから選択される、実施形態32に記載の方法。
【0130】
34.ニトロキシドラジカル基を含む前記化合物が、2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル(TEMPO)、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、並びに4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジン−4−オン−1−オキシルオキシム、RAC−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル−4,4−(5−スピロヒダントイン)、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル−4−アミノ−4−カルボン酸、及びこれらの組み合わせから選択される、実施形態24〜33のいずれか1つに記載の方法。
【0131】
35.ニトロキシドラジカル基を含む前記化合物が、前記フッ素化アルコールに対して約0.5モル%〜約10モル%である、実施形態24〜34のいずれか1つに記載の方法。
【0132】
36.前記酸化剤が、次亜塩素酸塩、トリクロロイソシアヌール酸、次亜臭素酸塩、亜塩素酸塩、ヨードシルベンゼン、ヨードベンゼンジクロリド、酸素/空気、オゾン、亜硝酸塩、及びこれらの組み合わせから選択される、実施形態24〜35のいずれか1つに記載の方法。
【0133】
37.前記酸化剤が、前記フッ素化アルコールに対して2〜10当量である、実施形態24〜36のいずれか1つに記載の方法。
【0134】
38.前記フッ素化アルコール、ニトロキシドラジカル基を含む前記化合物、及び前記酸化剤が、テトラ−n−オクチルアンモニウムハライド及びテトラメチルアンモニウムハライド、テトラブチルアンモニウムハライド、ベンジルトリフェニルホスホニウムハライド、18−クラウン−6、ポリエチレングリコール400、及びこれらの組み合わせから選択される相間移動触媒の存在下で反応させられる、実施形態24〜37のいずれか1つに記載の方法。
【0135】
39.前記方法が、相間移動触媒を実質上含まない、実施形態24〜37のいずれか1つに記載の方法。
【0136】
40.前記フッ素化アルコール、ニトロキシドラジカル基を含む前記化合物、及び前記酸化剤が、おおよそ周囲温度〜約90℃に維持された温度で反応させられる、実施形態24〜39のいずれか1つに記載の方法。
【0137】
41.Rが、部分的又は完全にフッ素化される、実施形態24〜40のいずれか1つに記載の方法。
【0138】
42.前記フッ素化カルボン酸が、CCHFCOOH、CFCFOCFCFOCFCOOH、CHF(CFCOOH、CF(CFCOOH、CHCHFCOOH、CFO(CFOCF(CF)COOH、CFCFCHOCFCHOCFCOOH、CFO(CFOCHFCFCOOH、CFO(CFOCFCOOH、CF(CF(CHCFCFCFCFCOOH、CF(CFCH(CFCOOH、CF(CFCOOH、CF(CF(OCF(CF)CF)OCF(CF)COOH、CF(CF(OCFCFOCF(CF)COOH、CFCFO(CFCFO)CFCOOH、及びこれらの塩から選択される、実施形態24〜41のいずれか1つに記載の方法。
【0139】
43.前記反応の時間が2時間未満である、実施形態24〜42のいずれか1つに記載の方法。
【0140】
44.
(a)濃縮酸を添加して相分離を生じさせる工程、及び
(b)酸を添加して有機溶媒で抽出する工程、の少なくとも一方を更に含む、
実施形態24〜43のいずれか1つに記載の方法。
【0141】
45.前記フッ素化カルボン酸を単離するための蒸留工程を更に含む、実施形態24〜44のいずれか1つに記載の方法。
【実施例】
【0142】
本開示の組成物の調製について、以下の実施例で更に述べる。これらの実施例に記載される特定の材料及びその量、並びに他の条件及び詳細は、本発明を不要に限定するものとして解釈されるべきではない。材料はいずれも、例えばシグマ・アルドリッチ・ケミカル社(Sigma−Aldrich Chemical Company)(ウィスコンシン州ミルウォーキー)などから市販されているものか、あるいは特に断らない又は明らかでない限り、当業者には周知のものである。
【0143】
以下の略語を以下の実施例において使用する。すなわち、eq=当量、g=グラム、M=モル濃度、min=分、mol=モル、mmol=ミリモル、hr=時間、mL=ミリリットル、mmHg(kPa)=ミリメートル水銀、L=リットル、wt=重量、FTIR=フーリエ変換赤外分光法、NMR=核磁気共鳴、及びGC−MS=ガスクロマトグラフィー質量分析。
【0144】
特に断らない限り、得られた試料は、プロトン又はフッ素NMRによって以下のように分析した。NMRのピークを積分した。フッ素化アルコール又はその生成物に起因すると考えられるピークの面積を正規化して(すなわち、特定のピークのフッ素又はプロトンの数を考慮し)から、互いに足し合わせて正規化された全ピーク面積を得た。特定のピークの正規化面積を正規化され全ピーク面積で割ってから、100%を掛けることによって特定のピークのおおよそのモル%を得た。未特定の副生成物は、NMRにおいてフッ素化カルボン酸と同じモル吸光係数を有するものと仮定した。以下の実施例では、NMR分析により報告される比率(%)は、特に断らない限りはモル基準である。
【0145】
比較例1
1.00g(2.62mmol,1当量)の2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシプロポキシ)プロパン−1−オール(米国特許出願公開第2007/0015864号(ヒンツァー(Hintzer)ら)に述べられるようにして調製したもの、化合物11)、7.69g(5.42mmol,2.07当量)の5.25重量%次亜塩素酸ナトリウム溶液、及び0.362g(2.62mmol,1当量)の炭酸カリウムの混合物を、55℃に20時間加熱してから冷却した。混合物を氷浴により冷却し、0.817g(7.85mmol,3当量)の亜硫酸水素ナトリウムを1.00mLの水に加えた発泡状態の溶液を加えた。混合物を1時間攪拌した後、5.67mLの硫酸(濃縮、96重量%)の18M溶液(102mmol,38.9当量)を冷却しながら加えた。強い発熱が見られ、混合物が25℃を超えないようにした。2相混合物が形成されたため、下層を分離し、減圧下で濃縮して1.0gの粗生成物を得た。
【0146】
19F NMR及びH NMRにより、粗生成物が約80%の2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシプロポキシ)プロピオン酸、及び約20%の2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシプロポキシ)プロパン−1−オールを含むことが判明した。
【0147】
比較例2A
55℃に加熱した、11.3g(7.97mmol,2.9当量)の5.25重量%次亜塩素酸ナトリウム溶液及び0.493g(3.570mmol,1.3当量)の炭酸カリウムの溶液に、0.00601g(0.0384mmol,0.014当量)のTEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(アルファ・エイサー社(Alfa Aesar)(マサチューセッツ州ウォードヒル)より「TEMPO FREE RADICAL」の商品名で市販されるもの)を加えた。反応温度が55℃に達した時点で、1.00g(2.75mmol,1当量)の3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクタン−1−オールを30分かけて少量ずつ加えた後、55℃で30分間攪拌した。全体を通じて混合物は2つの液相に維持された。混合物を水浴により冷却し、0.8574g(8.239mmol,3当量)の亜硫酸水素ナトリウムを1.57mLの水に加えた溶液を加えた。この混合物を20分間攪拌し、0.915mL(11.0mmol,4当量)の塩酸(濃縮、12M,37%水溶液)を加えた。pHを測定したところ、1未満であった。混合物をメチルt−ブチルエーテルで抽出し、有機層を水で洗浄し、減圧下で濃縮して粗生成物を得た。
【0148】
H NMRにより、粗生成物は、約35%の3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクタン−1−オール、約35%の単一の未特定の生成物を含み、残りの30%は未特定の生成物の複雑な混合物(NMRで観察された化学シフトに基づき、約8%は最初のフッ素化アルコールと所望のフッ素化カルボン酸とによって形成されたエステルであるものと考えられた)であることが判明した。H NMRにより、明らかなフッ素化カルボン酸は認められなかった。
【0149】
比較例2B
混合物を55℃に30分間加熱する代わりに、65℃に4時間加熱した以外は、比較例2Aで述べたのと同様の手順に従って比較例2Bを調製した。粗生成物を回収し、H NMRによって分析したところ、得られた物質は比較例2Aにおいて認められたものと同様であることが示された。
【0150】
比較例3
15.6g(11.0mmol,4当量)の5.25重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液、0.0751g(0.137mmol,0.05当量)のテトラ−n−オクチルアンモニウムブロミド、0.491g(5.85mmol,2.13当量)の重炭酸ナトリウム、0.00601g(0.0385mmol,0.014当量)のTEMPO(混合物のpHは8.5であった)、及び0.0327g(0.275mmol,0.1当量)の臭化カリウムの混合物に、1.00g(2.75mmol,1当量)の3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクタン−1−オールを滴下した。混合物を35℃に加熱し(最初に45℃にまで発熱した)、35℃で1時間加熱した。混合物を室温にまで冷却し、pHを測定した。pHは8.5であった。0.857g(8.24mmol,3当量)の亜硫酸水素ナトリウムを1.50mLの水に加えた溶液を冷却しながら加えた。この混合物を30分間攪拌した後、1.49mL(17.9mmol,6.5当量)の塩酸(濃縮、12M,37%水溶液)を加えた。これにより、pHが1未満の濁った混合物が得られた。この混合物を約30mLのメチルt−ブチルエーテルで抽出した。有機層を分離し、濃縮して粗生成物を得た。
【0151】
H NMRにより、粗生成物は約35%の3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクタン−1−オールを含み、残りの65%は未特定の生成物の複雑な混合物であることが判明した。H NMRにより、明らかなフッ素化カルボン酸は認められなかった。
【0152】
比較例4
55℃に加熱した、28.5g(20.1mmol,2.9当量)の5.25重量%次亜塩素酸ナトリウム溶液及び1.24g(9.01mmol,1.3当量)の炭酸カリウムの溶液に、0.0151g(0.0970mmol,0.014当量)のTEMPOを加えた。反応温度が55℃に達した時点で、アルコールとして1.00g(6.93mmol,1当量)の1−ノナノールを少量ずつ加えた。反応液を55℃に30分間加熱した後、65℃に2.5時間加熱した。混合物を室温にまで冷却し、2.164g(20.80mmol,3当量)の亜硫酸水素ナトリウムを3.97mLの水に加えた溶液を発泡状態のために注意深く加えた。この混合物を30分間攪拌した後、2.31mL(27.7mmol,4当量)の塩酸(濃縮、12M,37%水溶液)を加えた。この混合物に20mLのメチルt−ブチルエーテルを加えた。混合物は相分離したため、有機層を分離し、減圧下で濃縮して0.60gの粗生成物を得た。
【0153】
H NMRにより、粗生成物は約8%の1−ノナノール、約40%のノナン酸を含み、残りの52%は未特定の副生成物の複雑な混合物であることが判明した。
【0154】
比較例5
10.0g(26.2mmol,1当量)の2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシプロポキシ)プロパン−1−オール、0.0573g(0.366mmol,0.014当量)のTEMPO、及び0.716g(1.30mmol,0.05当量)のテトラ−n−オクチルアンモニウムブロミドの混合物に、92.0g(78.5mmol,3当量)の6.35重量%次亜塩素酸ナトリウム溶液を加えた。混合物は、外部から冷却を行わずに約32℃に発熱した。添加には約30分を要し、この後、混合物を35℃に90分間加熱してから冷却した。水相を除去し、有機相を62.8mLの水酸化ナトリウム(1M水溶液)と攪拌し、25mLのメチルt−ブチルエーテル及び25mLのシクロヘキサンの混合物で洗浄した。この有機相を濃縮し、H NMR及び19F NMRにより分析したところ、有機相はフッ素化アルコールを主として含むことが判明した。除去した水相を6.98mLの塩酸(濃縮、12M,37%水溶液)で酸性化した後、メチルt−ブチルエーテルで抽出した。次いで得られた有機相を濃縮して5.0gの粗生成物を得たが、これは45%のフッ素化カルボン酸の収率であった。
【0155】
19F NMR及びH NMRにより分析したところ、粗生成物は、約90%の2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシプロポキシ)プロピオン酸、約8%の2,2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシプロポキシ)プロパン−1−オール、及び約2%のテトラ−n−オクチルアンモニウムブロミドを含んでいた。
【0156】
比較例6
9.20g(7.85mmol,3当量)の6.35重量%次亜塩素酸ナトリウム溶液、及び5.73mg(0.0366mmol,14.0当量)のTEMPOを含み、pHが約14である溶液を55℃に加熱した。次いで、1.00g(2.62mmol,1当量)の2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシプロポキシ)プロパン−1−オールを加えた。混合物を55℃に60分間加熱した。水相のpHは約7であった。0.817g(7.85mmoles,3当量)の亜硫酸水素ナトリウムを2.00mLの水に加えた溶液を加えた。混合物を20分間攪拌し、2.0mLの塩酸(濃縮、12M,37%水溶液)を加えた。混合物をメチルt−ブチルエーテルで抽出し、有機層を分離し、減圧下で濃縮して0.4gの粗生成物を得た。
【0157】
19F NMRにより、粗生成物は約25%の2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシプロポキシ)プロパン−1−オール、約25%の2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシプロポキシ)プロパン酸を含み、残りの50%は未特定の副生成物の複雑な混合物であることが判明した。
【0158】
実施例1
92.8g(65.4mmol,2.5当量)の5.25重量%次亜塩素酸ナトリウム溶液、及び2.09g(52.3mmol,2当量)の水酸化ナトリウムの混合物に、10.0g(26.2mmol,1当量)の2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシプロポキシ)プロパン−1−オール、0.0573g(0.366mmol,0.014当量)のTEMPO、及び0.716g(1.30mmol,0.05当量)のテトラ−n−オクチルアンモニウムブロミドの混合物を加えた。混合物を攪拌し、40℃に約2時間加熱した。テトラ−n−オクチルアンモニウムブロミドは保存したままで、フッ素化カルボン酸を抽出するため、以下の手順を行った。反応混合物を冷却した後、メチルt−ブチルエーテル/ヘキサンの50:50混合物で洗浄した。有機相を8.0mLの12M塩酸溶液で酸性化した。混合物をメチルt−ブチルエーテルで抽出し、有機相を水で洗浄し、濾過し、濃縮して8.5gの粗生成物を得た。
【0159】
H NMR及び19F NMRにより分析したところ、粗生成物は、約96%の2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシプロポキシ)プロピオン酸、及び約4%のテトラ−n−オクチルアンモニウムブロミド(開始物質)を含み、検出可能な量の開始物質のフッ素化アルコールは認められなかった。粗生成物中のフッ素化カルボン酸の全体の収率は、収率81%であった。
【0160】
実施例2
65℃に加熱した、108g(75.9mmol,2.9当量)の5.25重量%次亜塩素酸ナトリウム溶液、及び4.70g(34.0mmol,1.3当量)の炭酸カリウムの溶液に、0.0286g(0.183mmol,0.007当量)のTEMPOを0.5gの2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシプロポキシ)プロパン−1−オールに加えた溶液を加えた。混合物を30分間加熱した。反応温度が55℃〜58℃の間に維持されるようにして、更なる2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシプロポキシ)プロパン−1−オールを少量ずつ加え(反応に加えられたフッ素化アルコールの全体量10.0g,26.2mmol,1当量に対して9.5g)、これには約40分を要した。次に反応液を55℃で30分間攪拌してから氷浴で冷却し、8.171g(78.5mmol,3当量)の亜硫酸水素ナトリウムを15.0mLの水に加えた溶液を、温度が25℃を超えないような速度で加えた。この混合物を20分間攪拌し、氷浴で冷却しながら56.7mLの18M硫酸溶液(濃縮、96重量%)を加えた。混合物は相分離したため、下相の透明な液体を回収して10.0gの粗生成物を得た。
【0161】
H NMR及び19F NMRによれば、粗生成物は検出可能な量の2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシプロポキシ)プロパン−1−オールは示さず、H NMR及び19F NMRによれば、フッ素化カルボン酸への変換は定量的であり、定量可能な副生成物は認められなかった。
【0162】
回収した下相の物質を、31mmHg(4.1kPa)、101.8〜102.4℃で蒸溜した。25℃で少量の初留分が得られ、これは捨てた。蒸留後、H NMR及び19F NMR、並びにGC−MS分析によって同定された9.05gの2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシプロポキシ)プロピオン酸を回収し、91.5%の収率を得た。
【0163】
実施例3
0.0057g(0.037mmol,0.014当量)のTEMPO及び0.0716g(0.131mmol,0.05当量)のテトラ−n−オクチルアンモニウムブロミドの混合物に、11.1g(7.85mmol,3当量)の5.25重量%次亜塩素酸ナトリウム溶液及び0.468g(5.57mmol,2.13当量)の重炭酸ナトリウムの溶液を加えてから、1.00g(2.62mmol,1当量)の2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシプロポキシ)プロパン−1−オールを加えた。この溶液のpHを測定したところ、約8.5であった。外部から冷却を行わずにこの混合物を攪拌し、長時間の誘導時間の後、混合物は発熱により33℃となった。混合物を室温にまで冷却した。この溶液のpHを測定したところ、8.5であった。0.817g(7.85mmol,3当量)の亜硫酸水素ナトリウムを5mLの水に加えた溶液を加え、混合物を30分間攪拌した。次に0.698mL(8.37mmol,3.2当量)の塩酸(濃縮、12M,37%水溶液)を加えたところ、pHが1未満の濁った混合物を生じた。この混合物を約30mLのメチルt−ブチルエーテルで抽出した。有機層を分離し、濃縮して1.17gの粗生成物を得た。
【0164】
H NMRにより分析したところ、粗生成物は約70%の2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシプロポキシ)プロピオン酸を含んでおり、これは約86重量%のフッ素化カルボン酸に相当し、フッ素化アルコールのフッ素化カルボン酸への定量的な変換を示した。H NMRによって分析したところ、粗生成物は、更に約3.5%のテトラ−n−オクチルアンモニウムブロミド及び約26%のメチルt−ブチルエーテルを含んでいた。粗生成物の19F NMRは、検出可能な量の2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシプロポキシ)プロパン−1−オールを示さなかった。
【0165】
実施例4
55℃に加熱した、12.4g(8.73mmol,2.9当量)の5.25重量%次亜塩素酸ナトリウム溶液及び0.541g(3.91mmol,1.3当量)の炭酸カリウムの溶液に、0.007g(0.0422mmol,0.014当量)のTEMPOを加えた。この混合物のpHを測定したところ、約13〜14であった。反応温度が55℃に達した時点で、1.00g(3.01mmol,1当量)の2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプタン−1−オール(ブイ・ダブリュー・アール・インターナショナル社(VWR International)(ペンシルベニア州、ウェストチェスター)より市販されるもの)を滴下した。反応液は発熱により約70℃となり、これを55℃にまで冷却し、55℃で30分間攪拌した後、水浴により冷却した。この混合物のpHを測定したところ、約10であった。次に、0.940g(9.03mmol,3当量)の亜硫酸水素ナトリウムを1.73mLの水に加えた溶液を加えた。この混合物を20分間攪拌し、1.00mL(12.0mmol,4当量)の塩酸(濃縮、12M,37%水溶液)を加えた。混合物をメチルt−ブチルエーテルで抽出し、有機層を水で洗浄し、減圧下で濃縮して1.03gの粗生成物を得た。
【0166】
H NMRによって分析したところ、粗生成物は0.95gの2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプタン酸を含んでいた。これによりフッ素化カルボン酸の91%の収率が与えられ、粗生成物の残りは主として残留したメチルt−ブチルエーテルであった。粗生成物の19F NMR及びH NMRは、約0.5%の2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプタン−1−オールを示した。
【0167】
実施例5
55℃に加熱した、10.3g(7.25mmol,2.9当量)の5.25重量%次亜塩素酸ナトリウム溶液及び0.449g(3.25mmol,1.3当量)の炭酸カリウムの溶液に、0.00547g(0.0350mmol,0.014当量)のTEMPOを加えた。この混合物のpHを測定したところ、約13〜14であった。反応温度が55℃に達した時点で、1.00g(2.50mol,1当量)の2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロオクタン−1−オール(ブイ・ダブリュー・アール・インターナショナル社(VWR International)(ペンシルベニア州、ウェストチェスター)より市販されるもの)を少量ずつ加えた。発熱は観察されなかった。混合物を55℃に30分間、次いで65℃に1時間加熱した。次いで混合物を室温にまで冷却し、pHを測定したところ約10であった。反応液を水浴で冷却し、0.780g(7.498mmol,3当量)の亜硫酸水素ナトリウムを1.43mLの水に加えた溶液を、発泡状態のために注意深く加えた。この混合物を30分間攪拌した後、0.833mL(10.0mmol,4当量)の塩酸(濃縮、12M,37%水溶液)を加え、混合物のpHを測定したところ、1未満であった。この混合物に20mLのメチルt−ブチルエーテルを加えて固形物を溶解すると、混合物は2つの液相となった。混合物は相分離したため、有機層を分離し、減圧下で濃縮して1gの粗生成物を得た。
【0168】
H NMRにより分析したところ、粗生成物は0.93gの2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロオクタン酸を含んでいた。これによりフッ素化カルボン酸の90%の収率が与えられ、粗生成物の残りは残留したメチルt−ブチルエーテルであった。粗生成物の19F NMR及びH NMRは、検出可能な量の2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロオクタン−1−オールもいずれの副生成物も示さなかった。
【0169】
実施例6
55℃に加熱した、12.4g(8.73mmol,2.9当量)の5.25重量%次亜塩素酸ナトリウム溶液及び0.541g(3.91mmol,1.3当量)の炭酸カリウムの溶液に、0.00785g(0.0422mmol,0.014当量)の4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル(アルファ・エイサー社(Alfa Aesar)(マサチューセッツ州ウォードヒル)よりMethoxy−TEMPOとして販売されるもの)を加え、混合物のpHを測定したところ、約13〜14であった。反応温度が55℃に達した時点で、1.00g(3.01mmol,1当量)の2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプタン−1−オールを滴下した。反応液は発熱により約60℃となり、これを55℃で30分間攪拌した。次いで、混合物を65℃に90分間加熱してから水浴で冷却した。混合物のpHを測定したところ約10であり、これに0.940g(9.03mmol,3当量)の亜硫酸水素ナトリウムを1.73mLの水に加えた溶液を加えた。この混合物を20分間攪拌し、1.00mL(12.0mmol,4当量)の塩酸(濃縮、12M,37%水溶液)を加えた。この混合物のpHを測定したところ、1未満であった。混合物をメチルt−ブチルエーテルで抽出し、有機層を水で洗浄し、減圧下で濃縮して1.117gの粗生成物を得た。
【0170】
H NMRによって分析したところ、粗生成物は、1.00gの2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプタン酸を含んでいた。これにより、フッ素化カルボン酸の95.9%の収率を得た。粗生成物の19F NMR及びH NMRは、約98.4%のフッ素化カルボン酸、約0.6%の2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプタン−1−オール、及びそれぞれ約0.5%の2種類の他の未特定の副生成物を示した。
【0171】
実施例7
55℃に加熱した、26.3g(18.6mmol,2.9当量)の5.25重量%次亜塩素酸ナトリウム溶液、1.15g(8.32mmol,1.3当量)の炭酸カリウム、及び0.0140g(0.0896mmol,0.014当量)の2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカルであるTEMPOの溶液に、0.500g(6.40mmol,1当量)の2−フルオロプロパン−1−オール(シンクエスト・ラボラトリーズ社(SynQuest Laboratories,Inc.)(アリゾナ州ツーソン)より販売されるもの)を加えた。反応液は発熱により約65℃となり、これを55℃にまで冷却し、55℃で60分間攪拌した後、室温にまで冷却した。混合物に、0.902g(8.67mmol,3当量)の亜硫酸水素ナトリウムを1.66mLの水に加えた溶液を加え、20分間攪拌した。次いで、1.00mL(12.0mmol,4当量)の塩酸(濃縮、12M,37%水溶液)を加えた。
【0172】
反応混合物の一部を同じ体積のDOと混合し、この溶液を19F NMR及びH NMRで分析したところ、所望のフッ素化カルボン酸を示したが、検出可能な開始物質のフッ素化アルコール及び副生成物は示されず、フッ素化アルコールのフッ素化カルボン酸への定量的な変換が示された。混合物をメチルt−ブチルエーテルで抽出し、有機層を減圧下で濃縮すると0.32gの粗生成物が得られ、これはフッ素化カルボン酸の54%の収率であった。この低い収率は、得られたフッ素化カルボン酸の高い水溶性によるものと恐らく考えられる。粗生成物のH NMR及び19F NMRは、所望のフッ素化カルボン酸の生成を示し、他の検出可能な有機化合物は認められなかった。
【0173】
実施例8
55℃に加熱した、10.8g(7.59mmol,2.9当量)の5.25重量%次亜塩素酸ナトリウム溶液、0.470g(3.40mmol,1.3当量)の炭酸カリウム、及び0.00572g(0.03664mmol,0.014当量)の2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカルであるTEMPOの溶液に、1.00g(2.62mmol,1当量)の2,3,3,3−テトラフルオロ−2−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシプロポキシ)プロパン−1−オール(米国特許第7,176,331号に述べられる、酸フッ化物のNaBHによる還元により調製されたもの)を加えた。反応は発熱せず、これを55℃で30分間攪拌し、その時点で一定分量をDOに溶解した。19F NMRは、フッ素化アルコールが完全に消費されたことを示し、定量的な変換が示された。混合物を55℃に更に2時間加熱し、室温にまで冷却した。混合物に、0.817g(7.85mmol,3当量)の亜硫酸水素ナトリウムを1.50mLの水に加えた溶液を加え、20分間攪拌した。次いで、0.872mL(10.5mmol,4当量)の塩酸(濃縮、12M,37%水溶液)を加えた。混合物をメチルt−ブチルエーテルで抽出し、有機層を減圧下で濃縮すると0.57gの粗生成物が得られ、これは57%の収率であった。
【0174】
粗生成物のH NMR及び19F NMRは、所望のフッ素化カルボン酸の生成を示し、2,3,3,3−テトラフルオロ−2−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシプロポキシ)プロパン−1−オールは認められなかった。
【0175】
上記の実施例では、H−NMRの測定は、Bruker DPX 200MHz(ブルカー社(Bruker Corp.)(マサチューセッツ州、ビレリカ))を、H NMR(トリメチルシラン)については200.13MHzで、19F NMR(CFCl)については188.31MHzで動作させて行い、以下の試薬及び化学物質を使用した。
【0176】
ポリスチレン固定TEMPO(装填量2.5mmol/g;フルカ社(Fluka)、カタログ番号72601);別名:(TEMPO−4−オキシメチル)ポリスチレン
TEMPO,2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル,(メルク社(Merck)、カタログ番号8146810025)
4−メトキシTEMPO(アルファ・エイサー社(Alfa Aesar)、カタログ番号15915)
4−ヒドロキシTEMPO(メルク社(Merck),カタログ番号840130)
ABNO,9−アザ−ビシクロ[3.3.1]ノナンN−オキシル(J.Org.Chem.,74,2009,4619に従って調製したもの)
AZADO,2−アザアダマンタンN−オキシル(アルドリッチ社(Aldrich)、カタログ番号701718)
2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−プロパン−1−オール(ダイネオン社(Dyneon GmbH),ドイツ)
2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−ペンタン−1−オール(アクロス・オーガニクス社(Acros Organics)98%、カタログ番号312310250)
MA31{1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−トリフルオロメトキシ−3−トリフルオロビニルオキシ−プロパン}(ダイネオン社(Dyneon GmbH),ドイツ)
2,2,3,4,4−ペンタフルオロ−4−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−ブタン−1−オール(Zh.Vses.Khim.O−va,1979,p.656に従い、MA31へのメタノールのラジカル付加によって調製されたもの);
Acid 131(ジフルオロ−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−酢酸,(ダイネオン社(Dyneon GmbH),ドイツ)
2,2−ジフルオロ−2−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−エタノール(J.Fluorine Chem.,19(1),1981,35〜42に従ってacid 131のLiAlHによる還元によって調製されたもの)
HFA,ヘキサフルオロアセトン,(Ganeshpure,P.A.;Adam,W.Synthesis 1996,179に従ってHFA−水和物から予め生成されたもの)
HFAセスキハイドレート(エー・ビー・シー・アール社(ABCR)、カタログ番号AB 103692)
トリフルオロエタノール(メルク社(Merck)、カタログ番号8082590100)
メトキシカリウム(アルファ・エイサー社(Alfa Aesar)、カタログ番号014261)
14%次亜塩素酸ナトリウム(ブイ・ダブリュー・アール社(VWR)、カタログ番号27900296)
亜硝酸ナトリウム(フルカ社(Fluka)、カタログ番号71760)
硝酸マンガン四水和物(アクロス・オーガニクス社(Acros Organics)、カタログ番号193462500)
硝酸コバルト六水和物(アクロス・オーガニクス社(Acros Organics)、カタログ番号213091000)
酢酸ナトリウム(リーデル・デ・ヘーン社(Riedel de Haen)、カタログ番号32319)
酢酸(ブイ・ダブリュー・アール社(VWR)、カタログ番号20104334)
アセトニトリル(リーデル・デ・ヘーン社(Riedel de Haen),カタログ番号33019)
臭化カリウム(メルク社(Merck)、カタログ番号1049050500)
硫酸95〜97%(フルカ社(Fluka)、カタログ番号84720)
実施例9:2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−プロピオン酸(CF−O−FC−FC−FC−O−FC−FC−COOH)(1)
滴下漏斗及びスターラーを備えた5Lガラスフラスコの中に、275mLの水、1000mLのアセトニトリル、18.3gのKBr、15.9gのポリスチレン固定TEMPO(装填量2.5mmol/g)、及び500g(1.37mol)の2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−プロパン−1−オールを入れた。室温での2日間の攪拌の間に、pH 8〜9に緩衝した15%(重量)次亜塩素酸ナトリウム水溶液(2400mL)を、滴下漏斗より3つの部分に分けて加えた。触媒を濾去し、濃硫酸、次いで水を加えて反応混合物を酸性とした。有機相を回収し、ロータリーエバポレーターを使用して蒸発させて無色液体を得た(615.44g)。この液体を水ポンプ(15mmHg(2kPa),92℃)を使用して蒸留して、471.33gの酸を得た。収率:91% H NMR(CDCl):6.2(dm,J=54.61Hz,1H);9.1(s,1H);19F NMR(CDCl):−56.3(t,J=ca.9Hz,3F);−85.2(ABシステム,J=142Hz,1F);−86.98(m,2F);−87.8(ABシステム,J=142Hz,1F);−123.6(m,2F);−130.4(m,2F);−146.5(dm,J=54Hz,1F)。
【0177】
実施例10:2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−プロピオン酸(1)
実施例9の装置を使用した。5.5mLの水、20mLのアセトニトリル、0.36gのKBr、0.12gのTEMPO(0.00077mol)及び10g2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−プロパン−1−オールをフラスコに入れた。室温での18時間の攪拌の間に、pH 8〜9に緩衝した15%(重量)次亜塩素酸ナトリウム水溶液(48mL)を、滴下漏斗より3つの部分に分けて加えた。次いで、濃硫酸(1〜2mL、95%)を加えて反応混合物を酸性とした。ジエチルエーテルにより抽出した後、有機相を回収し、硫酸マグネシウム上で乾燥した。溶媒を蒸発させて無色液体(12.24g)を得て、これを水ポンプ(15mmHg(2kPa),92℃)を使用して蒸留して8.54gの純粋な酸を得た。収率:82%。
【0178】
比較例7:
TEMPOを使用しなかった以外は、実施例10を繰り返した。反応後に19FNMRを行った。室温での18時間の攪拌後、アルコールの10%のみがカルボン酸に変換された。
【0179】
実施例11:2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−ペンタン酸(CF−CF−CF−CF−COOH,(2))
5.2mLの水、19mLのアセトニトリル、0.34gのKBr、TEMPO(0.12g)、及び6gの2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−ペンタン−1−オールを、滴下漏斗及びスターラーを備えた100mLガラスフラスコに入れた。室温で攪拌しながら、pH 8〜9に緩衝した45mLの15%(重量)次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、滴下漏斗より3つの部分に分けて2日間にわたって加えた。次いで、濃硫酸を加えて反応混合物を酸性とした(pH 1〜2)。反応混合物をジエチルエーテルで3回抽出し、合わせた有機相を硫酸マグネシウム上で乾燥した。溶媒を蒸発させて無色液体(8.98g)を得て、これを水ポンプ(15mmHg(2kPa),73℃)を使用して蒸留して5.13gの酸を得た。収率:80% H NMR(CDCl):6.08(tt,J=52Hz,J=5.3Hz,1H);8.6(s,1H);19F NMR(CDCl):−120.6(t,J=9.2Hz,2F);−125.81(m,2F);−130.61(m,2F);−138.4(dm,J=52Hz,2F)。
【0180】
実施例12:2,2,3,4,4−ペンタフルオロ−4−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−酪酸(CF−O−CFCFCF−O−CFCFHCFCOOH(3))
2.4mLの水、8mLのアセトニトリル、0.16gのKBr、TEMPO(0.06g)、及び5gの2,2,3,4,4−ペンタフルオロ−4−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−ブタン−1−オール(Zh.Vses.Khim.Ova,1979,p 656に従って調製したもの)を、滴下漏斗及びスターラーを備えた50mLガラスフラスコに入れた。室温で攪拌しながら、pH 8〜9に緩衝した24mLの15%(重量)次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、滴下漏斗より3つの部分に分けて2日間にわたって加えた。次いで、濃硫酸及び水を加えて反応混合物を酸性とした(pH 1〜2)。反応混合物をジエチルエーテルで3回抽出し、合わせたエーテル相を硫酸マグネシウム上で乾燥した。溶媒を蒸発させて無色液体を得て、これを水ポンプ(15mmHg(2kPa),75℃)を使用して蒸留して4.17gの酸を得た。収率:81% H NMR(CDCl):5.2(dm,J=43Hz,1H);10.2(s,1H);19F NMR(CDCl):−56.3(t,J=8.3Hz,3F);−78.5(m,2F);−84.7(m,2F);−86.87(m,2F);−130.45(m,2F);−117.9(ABシステム,J=277Hz,1F);−121.6(ABシステム,J=277Hz,1F);−130.5(m,2F);−214.1(dm,J=43Hz,J=ca.11Hz,1F)。
【0181】
実施例13:ジフルオロ−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−酢酸(CF−O−CFCFCF−O−CF−COOH(4))
5.5mLの水、16mLのアセトニトリル、0.32gのKBr、TEMPO(0.11g)、及び8gの2,2−ジフルオロ−2−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−エタノールを、滴下漏斗及びスターラーを備えた100mLガラスフラスコに入れた。室温で攪拌しながら、pH 8〜9に緩衝した43mLの15%(重量)次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、滴下漏斗より3つの部分に分けて2日間にわたって加えた。濃硫酸及び水を加えてpHを約1〜2とした。反応混合物をジエチルエーテルで3回抽出し、合わせたエーテル相を硫酸マグネシウム上で乾燥した。溶媒を蒸発させて無色液体を得て、これを水ポンプ(15mmHg(2kPa),70℃)を使用して蒸留して7.25gの酸を得た。収率:87% H NMR(CDCl):9.39(s,1H);19F NMR(CDCl):−56.28(t,J=8.7Hz,3F);−79.19(t,J=11.9Hz,2F);−84.58(m,2F);−86.86(m,2F);−130.45(m,2F)。
【0182】
実施例14:トリフルオロ酢酸のカリウム塩(CF3−COOK(5))
20mLの水、73mLのアセトニトリル、1.33gのKBr、TEMPO(0.46g)、及び10gのトリフルオロエタノールを、滴下漏斗及びスターラーを備えた500mLガラスフラスコに入れた。室温で攪拌しながら、pH 8〜9に緩衝した175mLの15%(重量)次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、滴下漏斗より3つの部分に分けて2日間にわたって加えた。濃硫酸及び水を加えて反応混合物を酸性とした(pH 1〜2)。反応混合物をジエチルエーテルで3回抽出した。合わせたエーテル相を硫酸マグネシウム上で乾燥させてから、大気圧で蒸留した。メタノール(60mL)及びメトキシカリウム(7g)を蒸留物に加え、混合物を室温で1時間攪拌し、濾過し、蒸発させて無色固体(13.13g)を得た。収率:86%。19F NMR(DO):−76.82(s,3F)。
【0183】
実施例15:2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−プロピオン酸(1)
5.5mLの水、20mLのアセトニトリル、0.36gのKBr、4−MeOTEMPO(0.15g)、及び10gの2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−プロパン−1−オールを、滴下漏斗及びスターラーを備えた50mLガラスフラスコに入れた。室温で攪拌しながら、pH 8〜9に緩衝した36mLの15%(重量)次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、滴下漏斗より3つの部分に分けて2日間にわたって加えた。濃硫酸及び水を加えて反応混合物を酸性とした(pH 1〜2)。反応混合物をジエチルエーテルで3回抽出した。合わせたエーテル相を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、溶媒をロータリーエバポレーターにより除去した。残渣を蒸留して8.4gの酸を得た(b.p.58C,1.6mmHg(0.21kPa))。収率:81%。
【0184】
実施例15a:
0.27mLの水、1mLのアセトニトリル、0.016gのKBr、0.0062gの2−アザアダマンタンN−オキシル(AZADO)、及び0.5gの2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−プロパン−1−オールを、滴下漏斗及びスターラーを備えた50mLガラスフラスコに入れた。室温で攪拌しながら、pH 8〜9に緩衝した1.6mLの14%(重量)次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、滴下漏斗より3つの部分に分けて2時間にわたって加えた。この変換の後に19F−NMRを行った。濃硫酸及び水を加えて反応混合物を酸性とした(pH 1〜2)。反応混合物をジエチルエーテルで3回抽出した。合わせたエーテル相を硫酸マグネシウム上で乾燥した。溶媒を蒸発させて無色液体を得た(0.37g)。収率:72%。
【0185】
実施例15b:
0.27mLの水、1mLのアセトニトリル、0.16gのKBr、0.0056gのABNO(9−アザ−ビシクロ[3.3.1]ノナンN−オキシル)、及び0.5gの2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−プロパン−1−オールを、滴下漏斗及びスターラーを備えた10mLガラスフラスコに入れた。室温で攪拌しながら、pH 8〜9に緩衝した1.6mLの14%(重量)次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、滴下漏斗より3つの部分に分けて3.5時間にわたって加えた。濃硫酸及び水を加えて反応混合物を酸性とした(pH 1〜2)。反応混合物をジエチルエーテルで3回抽出した。合わせたエーテル相を硫酸マグネシウム上で乾燥した。溶媒を蒸発させて無色液体を得た(0.4g)。収率:77%。
【0186】
実施例16:2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−プロピオン酸(1)
150mLの酢酸、0.91gの亜硝酸ナトリウム、TEMPO(0.68g)、CHCONa(3.78g)及び20gの2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−プロパン−1−オールを、環流冷却器、スターラー、及び酸素が充填されたバルーンを備えた500mLガラスフラスコに入れた。酸素は、反応が酸素雰囲気中で行われるように、バルブを開くことによりフラスク内に放出した。混合物を60℃で16時間攪拌した。次に混合物を酸性化し、ジエチルエーテルで抽出した(3回)。合わせた有機相を水で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥した。ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、残渣を蒸留して14.15gの酸を得た(1.6mmHg(0.21kPa),58℃)。収率:68%。
【0187】
実施例17:2,2,3,4,4−ペンタフルオロ−4−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−酪酸(3)
80mLの酢酸、0.32gの亜硝酸ナトリウム、TEMPO(0.24g)、CHCONa(1.13g)、及び8gの2,2,3,4,4−ペンタフルオロ−4−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−ブタン−1−オールを、分子状酸素が入ったバルーン、環流冷却器及びスターラーを備えた200mLガラスフラスコに入れた。バルーンを開いて、穏やかな酸素の流れを発生させた。混合物を60℃で16時間攪拌し、その時点で混合物をpH 1〜2に酸性化し、ジエチルエーテルで抽出した(3回)。合わせた有機相を水で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥した。ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、残渣を蒸留して5.89gの酸を得た(1.6mmHg(0.21kPa),65℃)。収率:71%。
【0188】
実施例18:2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−ペンタン酸(2)
60mLの酢酸、0.46gの亜硝酸ナトリウム、TEMPO(0.35g)、CHCONa(6.88g)、及び6.5gの2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−ペンタン−1−オールを、酸素が入ったバルーン、環流冷却器及びスターラーを備えた100mLガラスフラスコに入れた。混合物を60℃で16時間攪拌し、その時点で混合物を実施例17で述べたように酸性化し、ジエチルエーテルで抽出した(3回)。合わせた有機相を水で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥した。ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、残渣を蒸留して3.82gの酸を得た(20mmHg(2.7kPa),65℃)。収率:55%。
【0189】
実施例19:ジフルオロ−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−酢酸(4)
70mLの酢酸、0.24gの亜硝酸ナトリウム、TEMPO(0.18g)、CHCONa(3.69g)、及び5gの2,2−ジフルオロ−2−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−エタノールを実施例17で述べた反応容器に入れた。実施例9で述べたように反応を行い、後処理を行った。残渣を蒸留して4.05gの酸を得た(20mmHg(2.7kPa),65℃)。収率:78%。
【0190】
実施例20:2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−プロピオン酸(1)
200mLの容器の代わりに100mLの容器を使用した以外は実施例17で述べたのと同様にして、50mLの酢酸、0.137gの硝酸マンガン四水和物、0.159gの硝酸コバルト六水和物、TEMPO(0.42g)、CHCONa(2.24g)、及び10gの2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−プロパン−1−オールを反応容器に入れた。実施例9で述べたように反応を行い、後処理を行った。蒸留により7.29gの酸を得た(1.6mmHg(0.21kPa),58℃)。収率:70%。
【0191】
実施例21:2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−プロピオン酸(1)(CF−O−FC−FC−FC−O−FHC−FC−COOH)(1)
2.3mL(22mmol)の30% Hを20mLのクロロホルムに加えた溶液に、13.28g(80mmol)のヘキサフルオロアセトン(HFA−ハイドレートから予め生成したもの)を加え、次いで2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−プロパン−1−オール(3.64g,10mmol)を加えた。混合物を室温で2日間撹拌した。相分離及び溶媒の蒸発の後、残渣を19F NMR分光法により調べた。未処理生成物の収率は52%であった。
【0192】
理論上の実施例22:
ビーカー型の分割されていないセルに、2,2,3−トリフルオロ−3−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロ−3−トリフルオロメトキシ−プロポキシ)−プロパン−1−オール(0.36g,0.001mol)、装填量0.3mmol/500mg(488mg)のTEMPO固定シリカゲル、及びアセトン2mLを入れる。混合物を3分間攪拌した後、溶媒を減圧下で蒸発させる。残渣固体にNaBr(20重量%,6mL)を含んだ飽和NaHCO水溶液を加える。この懸濁液中に、2個の白金電極(1.5×1.0cm3)を浸漬する。反応混合物を、激しく攪拌しながら0℃で定電流(30mA,2.5F/mol)により電気分解する。電気分解の終了後、混合物を濾過する。固体をアセトン(20mL)で洗う。洗浄液を合わせ、アセトンを蒸発させる。
【0193】
本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく本発明に予測可能な改変及び変更を行いうることは当業者には明らかであろう。本発明は、説明を目的として本出願に記載される各実施形態に限定されるべきものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素化カルボン酸及びその塩を調製するための方法であって、一般式(A)のフッ素化アルコール:
A−CH−OH
を、少なくとも1種類の第1の酸化剤及び少なくとも1種類の第2の酸化剤に曝露することにより、一般式(B)の高度にフッ素化されたカルボン酸:
A−COO
[式中、Mはカチオンを表し、式(A)及び(B)中のAは同じであり、Aは残基:
Rf−[O]−CX”Y”−[O]−CX’Y’−[O]−CXY−
を表す(式中、Rfは、1個以上のカテナリー酸素原子を含んでも含まずともよいフッ素化アルキル残基を表し、p、m及びnは、互いに独立して1又は0であり、X、X’、X”、Y、Y’及びY”は、互いに独立してH、F、CF又はCであり、ただし、X、X’、X”、Y、Y’及びY”のすべてがHではない)か、あるいは
Aは残基:
R−CFX−
を表す(式中、X及びRは、水素、ハロゲン、又は、1個以上のフッ素原子を含んでも含まずともよく、かつ1個以上のカテナリー酸素原子を含んでも含まずともよいアルキル、アルケニル、シクロアルキル若しくはアリール残基であり;前記少なくとも1種類の第1の酸化剤は、前記第2の酸化剤の作用によって、前記フッ素化アルコールを酸化することが可能な反応種に変換されうる化合物である)]、又はその塩を生成する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記フッ素化アルコール、前記少なくとも1種類の第1の酸化剤、及び前記少なくとも1種類の第2の酸化剤の前記反応が、約7.5〜約14のpHに維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フッ素化アルコール、前記少なくとも1種類の第1の酸化剤、及び前記少なくとも1種類の第2の酸化剤が、有機溶媒を実質上含まない混合物中で反応させられる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記フッ素化アルコール、前記少なくとも1種類の第1の酸化剤、及び前記少なくとも1種類の第2の酸化剤が、有機溶媒の存在下で反応させられる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記フッ素化アルコールの少なくとも60モル%が、前記フッ素化カルボン酸又はその塩に酸化される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記反応混合物が、前記フッ素化アルコールを実質上含まない、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の酸化剤が、以下の反応基、すなわち、オキソアンモニウム、オキソホスホニウム、過酸化水素化物、ジオキシラン、オキサジリジン、オキサジリジニウムの1つに変換されうる基を含む化合物である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の酸化剤が、N−オキシル、P−オキシル、α−ハロカルボニル、ケトン、イミン、イミニウム塩、及びこれらの組み合わせから選択される基を含む化合物である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
N−オキシルを含む前記化合物が、一般式:
【化1】

(式中、R1〜R6のそれぞれは同じか又は異なってよく、互いに独立して飽和脂肪族若しくは芳香族残基、又はこれらの組み合わせを表す)を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
N−オキシルを含む前記化合物が、一般式:
【化2】

(式中、R7、R8、R9及びR10のそれぞれは同じか又は異なってよく、互いに独立して飽和脂肪族若しくは芳香族炭化水素残基、又はこれらの組み合わせを表し、R11及びR12は同じか又は異なってよく、水素、水酸基、又は飽和した直鎖状若しくは分枝状若しくは環状脂肪族又は芳香族残基を含む炭素原子、又はこれらの組み合わせを表す)を有する、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
R11及びR12が同じか又は異なってよく、H、OH、NH、SCN、OPO、NHCOCH、OCOC、COH、COCH、CN、OSOCH、N(CH、CHNH、NHCH、NCHCOCH、N(CHCHCHOH、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
N−オキシルを含む前記化合物が、2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル(TEMPO)、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、並びに4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジン−4−オン−1−オキシルオキシム、RAC−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル−4,4−(5−スピロヒダントイン)、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル−4−アミノ−4−カルボン酸、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項8〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記第2の酸化剤が、電解槽の電流、過酸化物、ハロゲン酸化物、塩素、酸素、オゾン、亜硝酸塩、又はこれらの組み合わせから選択される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記第2の酸化剤が、過酸化物、又は例えば次亜塩素酸塩、次亜臭素酸塩、次亜ヨウ素酸塩、過臭素酸塩、過塩素酸塩、過ヨウ素酸塩などのハロゲン酸化物、又はこれらの組み合わせである、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記第2の酸化剤が、酸素、オゾン、及び/又は塩素を含み、かつ前記第2の酸化剤がガス流として、又は1.1atm(111kPa)よりも高いか若しくは1.1〜20atm(111kPa〜2.03MPa)の圧力で存在する、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の酸化剤が、少なくとも1個のケトン基、少なくとも1個のαハロゲンカルボニル基、少なくとも1個のイミン基、少なくとも1個のイミニウム基、又はこれらの組み合わせを含む化合物を含み、前記第2の酸化剤が、過酸化物、好ましくは過酸化水素、過硫酸塩、ペルオキシアレニウム酸、好ましくはペルオキシ安息香酸、又はこれらの組み合わせを含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1に記載のRf残基のX、X’、X”、Y、Y’及びY”の1つのみがHである、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
請求項1に記載のRf残基が、1〜12個の炭素原子を含む、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記フッ素化カルボン酸が、CCHFCOOH、CFCFOCFCFOCFCOOH、CHF(CFCOOH、CF(CFCOOH、CHCHFCOOH、CFO(CFOCF(CF)COOH、CFCFCHOCFCHOCFCOOH、CFO(CFOCHFCFCOOH、CFO(CFOCFCOOH、CF(CF(CHCFCFCFCFCOOH、CF(CFCH(CFCOOH、CF(CFCOOH、CF(CF(OCF(CF)CF)OCF(CF)COOH、CF(CF(OCFCFOCF(CF)COOH、CFCFO(CFCFO)CFCOOH、R−O−CHF−COOH、R−O−CHF−CFCOOH、R−O−CF−CFHCOOH、Rf−O−CF−CHF−CF−COOH、R−O−CHF−CF−O−CF−COOH、R−CHF−CF−O−CF−COOH、R−O−(CF)n−COOH、R−(CF)n−COOH、R−(O−CF)n−O−(CF)m−COOH、R−(O−CF−CF)n−O−(CF)m−COOH、R−(O−CFCF(CF))n−O−(CF)m−COOH、R−(O−CF(CF)−CF)n−O−(CF)m−COOH、及びこれらの塩から選択され、Rが、1個以上のカテナリー酸素原子を含んでも含まずともよいフッ素化アルキル残基であり、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10を表し、mは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10を表す、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
フッ素化カルボン酸及びその塩を調製するための方法であって、一般式(A)のフッ素化アルコール:
A−CH−OH
を、電気化学セル内で電流に曝露することにより、一般式(B)の高度にフッ素化されたカルボン酸:
A−COO
[式中、Mはカチオンを表し、式(A)及び(B)中のAは同じであり、残基:
Rf−[O]−CX”Y”−[O]−CX’Y’−[O]−CXY−
を表す(式中、Rfは、1個以上のカテナリー酸素原子を含んでも含まずともよいフッ素化アルキル残基を表し、p、m及びnは、互いに独立して1又は0であり、X、X’、X”、Y、Y’及びY”は、互いに独立してH、F、CF又はCであり、ただし、X、X’、X”、Y、Y’及びY”のすべてがHではない)]、又はその塩を生成する工程を含む、方法。

【公表番号】特表2013−508394(P2013−508394A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535356(P2012−535356)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際出願番号】PCT/US2010/053480
【国際公開番号】WO2011/050131
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】