説明

フッ素化合物の精製方法

【課題】不純物としての酸素化合物を含むフッ素化合物から少なくとも酸素を除去することにより、高純度のフッ素化合物を得ることが可能なフッ素化合物の精製方法を提供する。
【解決手段】本発明にかかるフッ素化合物の精製方法は、酸素化合物を不純物として含むフッ素化合物に、該フッ素化合物中の酸素原子に対して0.1倍当量以上100倍当量以下のフッ化カルボニルを接触させることにより、少なくとも酸素の除去を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素化合物に含まれる酸素化合物の不純物を簡便に除去し、フッ素化合物を高純度に精製することが可能なフッ素化合物の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フッ素化合物中に存在する不純物としての酸素化合物を除去して、これを精製する方法としては、フッ素化合物に無水フッ化水素溶液を加えて、晶析・固液分離・乾燥の工程を数回繰り返す方法が挙げられる(例えば、特許文献1及び2参照)。しかし、前記方法で使用する無水フッ化水素溶液は非常に危険であり、細心の注意と経験を要するため、取扱い性に劣る。更に、この方法では、製造コストと工程数の増加という問題がある。
【0003】
また、フッ素化合物中に存在する酸素成分や炭素成分をフッ素ガスにより低減する方法が挙げられる(例えば、特許文献3参照)。しかし、この方法で使用するフッ素ガスは非常に危険であり、取扱いには細心の注意と経験を要する。更に、この方法では、フッ素化合物が粉体である場合に限定されること、室温以上での実施に限定されることなどの点で問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開平05−4801号公報
【特許文献2】特開平09−268005号公報
【特許文献3】特開2002−241196号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、不純物としての酸素化合物を含むフッ素化合物から少なくとも酸素を除去することにより、高純度のフッ素化合物を得ることが可能なフッ素化合物の精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者等は、前記従来の問題点を解決すべく、フッ素化合物の精製方法について検討した。その結果、フッ化カルボニルがフッ素化合物中の酸素化合物に対し高い反応性を示して二酸化炭素を生成し、フッ素化合物中から酸素の除去が可能となることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明に係るフッ素化合物の精製方法は、前記の課題を解決する為に、酸素化合物を不純物として含むフッ素化合物に、該フッ素化合物中の酸素原子に対して0.1倍当量以上100倍当量以下のフッ化カルボニルを接触させることにより、少なくとも酸素の除去を行うことを特徴とする。
【0008】
フッ化カルボニルは酸素化合物に対し高い反応性を示す。従って、不純物として酸素化合物を含有するフッ素化合物に対し、フッ化カルボニルを接触させることにより、フッ化カルボニルと酸素化合物とが反応して、二酸化炭素を少なくとも生成させることができる。これにより、フッ素化合物中の酸素化合物を二酸化炭素としてフッ素化合物から容易に分離させることができ、高純度のフッ素化合物を生成させることができる。尚、フッ化カルボニルの使用量がフッ素化合物中の酸素原子に対し0.1倍当量未満であると、酸素化合物との反応が不十分となり、酸素原子の除去効率が低下する。その一方、100倍当量を超えると、精製装置が大型化すると共に、製造コストも増大するので好ましくない。
【0009】
前記フッ素化合物とフッ化カルボニルとの接触を−50℃〜500℃の温度範囲内で行うことが好ましい。−50℃未満であると、フッ化カルボニルと酸素化合物との反応速度が遅くなり、酸素原子の除去効率が低下するとともに、副生する二酸化炭素の蒸気圧も低下し分離が困難になる。更に、反応容器の保冷又は低温の発生装置も必要になるなど設備コストの上昇により経済的不利が生じる。その一方、500℃を超えると、反応速度が速くなり効率的であるが、反応容器の保温又は高温の発生装置が必要になるなど設備コストの上昇により経済的不利が生じる。
【0010】
前記フッ素化合物は、フッ化水素、希土類のフッ化物、フッ化物塩、及びフッ化物錯塩からなる群より選択される少なくとも何れか1種であることが好ましい。
【0011】
前記フッ素化合物とフッ化カルボニルとの接触は、溶媒の不存在下で直接接触により行うことが好ましい。
【0012】
前記フッ化カルボニルは気体状であり、その含有量が0.01体積%以上100体積%未満の範囲内となる様に、水分量が10ppm以下の不活性ガスで希釈されていてもよい。
【0013】
更に、前記不活性ガスは、CO、HF、N、He、Ne、Ar及び乾燥空気からなる群より選択される少なくとも何れか1種であることが好ましい。これらの不活性ガスは、フッ素化合物及びフッ化カルボニルガスに対し反応性を示さず、かつ、フッ素化合物を汚染することもない。
【0014】
また、前記方法に於いては、前記フッ素化合物とフッ化カルボニルとの接触を0.2KPa〜1MPaの圧力範囲内で行うことが好ましい。0.2KPa未満であると、長大な真空容器又は真空発生装置など高価な設備が必要になり、製造コストが上昇する。その一方、1MPaを超えると、高圧反応器又は高圧の発生装置など高価な設備が必要になり、製造コストが上昇する。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、前記に説明した手段により、以下に述べるような効果を奏する。
即ち、本発明によれば、フッ化カルボニルは酸素化合物に対し高い反応性を示すので、不純物として酸素化合物を含有するフッ素化合物に対し、当該フッ化カルボニルを接触させることにより、フッ化カルボニルと酸素化合物とが反応して、二酸化炭素を生成させることができる。即ち、本発明の方法であると、フッ素化合物中の酸素化合物を二酸化炭素として生成させ、フッ素化合物から容易に分離させることができるので、高純度のフッ素化合物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係るフッ素化合物の精製方法は、酸素化合物を不純物として含むフッ素化合物に、フッ化カルボニルを接触させることにより行う。
【0017】
即ち、酸素化合物を不純物として含有するフッ素化合物と、フッ化カルボニルとを反応器に導入し、該フッ素化合物中の酸素化合物とフッ化カルボニルとを下記化学反応式に従って反応させる。これにより、不活性な気体である二酸化炭素又は二酸化炭素とフッ化水素を少なくとも生成させることができ、フッ素化合物から当該二酸化炭素を分離することにより酸素原子を除去する。尚、下記化学反応式においては、酸素化合物としてMで表されるものを例にしている。
【0018】
【化1】

【0019】
本発明が精製の対象とする酸素化合物とは、非金属元素又は金属元素と酸素原子とが結合した化合物を意味する。非金属元素としては、H、B、C、N、Si、P、S、Se、及びTeからなる群より選択される少なくとも何れか1種が例示できる。金属元素としては、前記非金属元素、ハロゲン類、希ガス類および酸素を除く全ての元素が挙げられる。
【0020】
尚、前記化学反応式で例示した前記Mで表される酸素化合物としては、CaO、MgO、Al、NaO、KO、B、P、SiO、GeO、As、P、As、CuO、FeO等の酸化物、Ca(OH)、Mg(OH)、Al(OH)、NaOH、KOH、Cu(OH)、Fe(OH)、HBO、HPO、HPO、NHOH等の水酸化物、CaCO、MgCO、Al(CO、NaCO、KCO、CuCO、FeCO等の炭酸塩、Ca(HCO、Mg(HCO、NaHCO、KHCO、等の炭酸水素塩等が挙げられる。
【0021】
また、Mで表される酸素化合物以外のものとしては、HO、CaCl・6HO、MgSO・7HO、AlF・3HO、LiBF・HO等で表される結晶水、結合水を含んだ化合物、又はPOF、POCl、POBr、LiPOF、LiPO、LiBF(OH)、NaPOF、NaPO、NaBr(OH)、KPOF、KPO、KBF(OH)、KPOCl、KPOCl、KBCl(OH)、KPOBr、KPOBr、KBBr(OH)など、フッ化カルボニルと反応して少なくとも二酸化炭素を生成する酸素化合物などが挙げられる。
【0022】
前記フッ素化合物としては特に限定はないが、例えば、AlF、NHF、SbF、SbF、BaF、BiF、CdF、CaF、CsF、CrF、CrF、CoF、CoF、CuF、FeF、FeF、GaF、HfF、InF、PbF、PbF、LiF、MgF、MnF、MnF、NiF、NbF、KF、RbF、AgF、AgF、NaF、SnF、SnF、SrF、TaF、TiF、VF、VF、XeF、ZnF、ZrF等のフッ化物塩、CeF、DyF、ErF、EuF、GdF、HoF、LaF、LuF、NdF、SmF、PrF、TbF、TmF、YbF、YF等の希土類フッ化物、NH、NHBF、(NHAlF、(NHGeF、NHNbF、NHPF、(NHSiF 、NHTaF、(NHTiF、(NHZrF、BaSiF、CsAsF、Cu(BF、Fe(BF、HPF、HZrF、Pb(BF、LiSbF、LiAsF、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、KHF、KSbF、KAsF、KMnF、KPF、KAlF、KSiF、KNiF、KTiF、KZrF、KBF、KCoF、RbAsF、RbBF、AgSbF、AgAsF、AgPF、AgBF、NaHF、NaSiF、NaSbF、NaAlF、NaAsF、NaFeF、NaPF、NaTiF、NaBF、ZnSiF、等のフッ化物錯塩、AsF、AsF、BF、CF、GeF、MoF、NF、PF、PF、ReF、SeF、SiF、SF、TeF、WF等のフッ化物ガス、各種有機化合物のフッ化物錯塩若しくはフッ化物塩、例えば第4級アンモニウム又は第4級ホスホニウム等のフッ化物錯塩若しくはフッ化物塩、中でも第4級アンモニウムカチオンとしては、テトラアルキルアンモニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、トリアゾリウムカチオン、ピリダジニウムカチオン、チアゾリウムカチオン、オキサゾリウムカチオン、ピリミジニウムカチオン、ピラジニウムカチオン等が挙げられる。更に、前記第4級ホスホニウムカチオンとしては、テトラアルキルホスホニウムカチオン等が挙げられる。また、フッ化水素等も挙げられる。尚、フッ素化合物は、フッ化水素と前記に例示したフッ素化合物の少なくとも何れか1つとが溶解したフッ化水素溶液としても適用できる。
【0023】
フッ化カルボニルの使用量は、該フッ素化合物中の酸素原子に対して0.1倍当量〜100倍当量であり、好ましくは0.5倍当量〜50倍当量、より好ましくは1倍当量〜10倍当量である。使用量が0.1倍当量未満であると、酸素化合物と反応させるフッ化カルボニルの量が少なすぎるため、酸素原子の除去効率が低下し、十分な精製効果が得られない。その一方、100倍当量を超えると、フッ化カルボニルガスが過剰量となり製造コストが増大する。
【0024】
フッ素化合物とフッ化カルボニルとを接触させる際の温度としては、−50℃〜500℃が好ましく、0℃〜200℃がより好ましく、20℃〜150℃が特に好ましい。−50℃未満であると、フッ素化合物中の酸素化合物とフッ化カルボニルとの反応速度が遅くなり、酸素の除去効率が低下し、十分な精製効果が得られない。また、副生する二酸化炭素又は二酸化炭素とフッ化水素の蒸気圧が低下し、当該二酸化炭素の分離が困難になる。更に、反応容器の保冷又は低温の発生装置も必要になるなど設備コストの上昇により経済的不利が生じる。その一方、500℃を超えると、反応速度が速くなり効率的であるが、反応容器の保温又は高温の発生装置が必要になるなど設備コストの上昇により経済的不利が生じる。
【0025】
フッ素化合物とフッ化カルボニルとを接触させる際の圧力は特に限定されないが、0.2KPa〜1MPaが好ましく、1KPa〜0.5MPaがより好ましい。圧力が0.2KPa未満であると、高価で長大な真空容器又は真空発生装置など高価な設備が必要になり経済的に不利が生じる。その一方、圧力が1MPaを超えると、高圧反応器又は高圧の発生装置など高価な設備が必要になり経済的に不利が生じる。
【0026】
フッ化カルボニルが気体状の場合、当該フッ化カルボニルはそのまま用いてもよいが、含有量が0.01体積%〜100体積%となる様に不活性ガスで適宜希釈して用いてもよい。前記不活性ガスは精製対象のフッ素化合物及びフッ化カルボニルと反応せず、且つフッ素化合物を汚染しないものであれば特には限定なく使用できる。具体的には、例えばCO、HF、N、Ar、He、乾燥空気などを一種単独で、又は二種以上を混合して使用できる。尚、希釈に使用する不活性ガスにはフッ化カルボニルと反応するような不純物を含まないことが好ましい。特に、水分については10ppm以下が好ましく、1ppm以下がより好ましい。
【0027】
フッ素化合物とフッ化カルボニルとの接触は直接接触させてもよいが、該フッ素化合物を適当な溶媒に溶解、又は分散させた状態でフッ化カルボニルと接触させてもよい。後者の場合、フッ素化合物を溶解又は分散させた溶媒中に、フッ化カルボニルガスをバブリングする等して行うことができる。前記溶媒としては特には限定されないが、溶媒自体、又は溶媒中の不純物がフッ化カルボニル及びフッ素化合物と反応せず、かつ該フッ素化合物を汚染しないものを用いることが好ましい。前記不純物としては、例えば水分が挙げられ、当該水分の含有量は10ppm以下が好ましく、1ppm以下がより好ましい。
【0028】
前記フッ化カルボニルによる処理は、回分式、連続式又は半回分式により実施可能である。また、処理に用いる反応器についても特に限定はなく、例えば、槽型、塔型等の適宜の反応器を用いることができる。また、フッ化カルボニルが気体状であり、フッ素化合物が固体である気固反応の場合などは流動床方式を用いることにより、フッ素化合物とフッ化カルボニルとの接触を効率よく行うことができる。尚、フッ素化合物が液体状である場合、又は液体に溶解している場合などは、充填塔、段塔、スプレー塔などの気液接触装置を、交流方式、並流方式を問わず好適に使用できる。
【0029】
回分式又は半回分式による場合、フッ素化合物とフッ化カルボニルとを接触させる時間(処理時間)は特に限定されないが、処理されるフッ素化合物の量、含有する酸素化合物の濃度、反応温度、反応圧力、フッ化カルボニルの濃度などに応じて、精製の効果が十分に得られる最適な時間を設定すればよい。具体的には、1分以上24時間以下が好ましい。1分未満であると、フッ化カルボニルと酸素化合物との反応が不十分となり、十分な精製効果が得られない場合がある。その一方、24時間を超えると、処理量が低減し製造コストの増大を招来する。
【0030】
フッ素化合物中の酸素化合物の濃度は小さいほど好ましい。具体的には、酸素濃度として10重量%以下が好ましく、1重量%以下がより好ましく、1000重量ppm以下が特に好ましい。前記酸素濃度が10重量%を超えると、処理に要するフッ化カルボニルの使用量が過大となるため好ましくない。
【0031】
以上、本発明のフッ素化合物の精製方法によれば、特段の高価な装置や複雑な工程を採用せずに、不純物として酸素化合物を含有するフッ素化合物から酸素原子を除去することが可能になる。
【実施例】
【0032】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0033】
(実施例1)
先ず、不純物として水分を500ppm含んだ300gのエチルメチルイミダゾリウムBFを、吸気用および排気用コックが連結されたフッ素樹脂製ボトルに入れた。
【0034】
次に、吸気用コックを開けて、水分含有量1ppm以下のNガスで希釈した50体積%COFガスを充填した後、当該コックを閉止した。COFガスの使用量は、前記水分の酸素原子に対し5倍当量となる様にした。
【0035】
更に、フッ素樹脂製ボトルを油浴に浸漬して加熱し、内部の温度を100℃にした。その後、フッ素樹脂製ボトルを油浴から取り出し、1分間ボトルを振って撹拌した。その後、前記ボトルを油浴に戻して内部温度が100℃となるまで約5分程度浸漬し、再びボトルを油浴から取り出して1分間ボトルを振って撹拌した。この操作を30分間繰り返した。
【0036】
その後、フッ素樹脂製ボトルを油浴から取り出し、ボトル内部の残留COFガスをNガスで置換しながら室温まで冷却した。処理後のエチルメチルイミダゾリウムBF中の水分を測定したところ、30ppmであった。
【0037】
(比較例1)
先ず、不純物として水分を500ppm含んだ300gのエチルメチルイミダゾリウムBFを、吸気用および排気用コックが連結されたフッ素樹脂製ボトルに入れた。
【0038】
次に、吸気用コックを開けて、水分含有量1ppm以下のNガスを充填した後、当該コックを閉止した。
【0039】
更に、フッ素樹脂製ボトルを油浴に浸漬して加熱し、内部の温度を100℃にした。その後、フッ素樹脂製ボトルを油浴から取り出し、1分間ボトルを振って撹拌した。その後、前記ボトルを油浴に戻して内部温度が100℃となるまで約5分程度浸漬し、再びボトルを油浴から取り出して1分間ボトルを振って撹拌した。この操作を30分間繰り返した。
【0040】
その後、フッ素樹脂製ボトルを油浴から取り出し、ボトル内部にNガスを流通させながら室温まで冷却した。処理後のエチルメチルイミダゾリウムBFの水分を測定したところ、460ppmであった。
【0041】
(比較例2)
先ず、不純物として水分を500ppm含んだ300gのエチルメチルイミダゾリウムBFを、吸気用および排気用コックが連結されたフッ素樹脂製ボトルに入れた。
【0042】
次に、水分含有量1ppm以下のNガスをフッ素樹脂製ボトル内部へ毎分5リットルの速度で流通させながら、当該ボトルを油浴に浸漬して加熱した。このときの内部の温度を100℃に維持しながら5分ごとに1分間ボトルを振って撹拌し、エチルメチルイミダゾリウムBFとNガスとを十分に接触させた。この撹拌操作は、30分間行った。
【0043】
その後、フッ素樹脂製ボトルを油浴から取り出し、ボトル内部にNガスを流通させながら室温まで冷却した。処理後のエチルメチルイミダゾリウムBFの水分を測定したところ、400ppmであった。
【0044】
(実施例2)
濃度50重量%フッ酸を水酸化カルシウムに対し1.03倍当量となる様に、該水酸化カルシウムに加え撹拌し、フッ化カルシウム(CaF)の懸濁液を作製した。この、フッ化カルシウムの懸濁液を炉別、洗浄して45重量%の水分を含むフッ化カルシウム900gを得た。
【0045】
次に、フッ化カルシウムを温度105℃で8時間空気中で乾燥を行った。乾燥後のフッ化カルシウム中の酸素原子の含有量を測定したところ1500ppmであった。
【0046】
この乾燥フッ化カルシウムをNガス気流中、500℃で8時間焙焼した。その後、室温まで冷却し、再度酸素原子の含有量を測定したところ880ppmであった。
【0047】
焙焼後のフッ化カルシウム200gを、吸気用および排気用コックが連結されたフッ素樹脂製ボトルに入れた。次に、吸気用コックを開けて、水分含有量1ppm以下のNガスで希釈した30体積%COFガスを充填した後、当該コックを閉止した。COFガスの使用量は、前記水分の酸素原子に対し10倍当量となる様にした。
【0048】
更に、フッ素樹脂製ボトルを油浴に浸漬して加熱し、内部の温度を130℃にした。その後、フッ素樹脂製ボトルを油浴から取り出し、1分間ボトルを振って撹拌した。その後、前記ボトルを油浴に戻して内部温度が130℃となるまで約5分程度浸漬し、再びボトルを油浴から取り出して1分間ボトルを振って撹拌した。この操作を2時間繰り返した。
【0049】
その後、フッ素樹脂製ボトルを油浴から取り出し、ボトル内部の残留COFガスをNガスで置換しながら室温まで冷却した。処理後のフッ化カルシウム中の水分を測定したところ、160ppmであった。
【0050】
(実施例3)
濃度50重量%フッ酸を水酸化カルシウムに対し1.03倍当量となる様に、該水酸化カルシウムに加え撹拌し、フッ化カルシウム(CaF)の懸濁液を作製した。このフッ化カルシウムの懸濁液を炉別、洗浄して45重量%の水分を含むフッ化カルシウム900gを得た。
【0051】
次に、フッ化カルシウムを温度105℃で8時間空気中で乾燥を行った。乾燥後のフッ化カルシウム中の酸素原子の含有量を測定したところ1500ppmであった。
【0052】
この乾燥フッ化カルシウムをNガス気流中、500℃で8時間焙焼した。その後、室温まで冷却し、再度酸素原子の含有量を測定したところ880ppmであった。
【0053】
焙焼後のフッ化カルシウム200gを、吸気用および排気用コックが連結されたフッ素樹脂製ボトルに入れた。次に、吸気用コックを開けて、水分含有量5ppm以下のHFガスで希釈した40体積%COFガスを充填した後、当該コックを閉止した。COFガスの使用量は、前記水分の酸素原子に対し10倍当量となる様にした。
【0054】
更に、フッ素樹脂製ボトルを油浴に浸漬して加熱し、内部の温度を130℃にした。その後、フッ素樹脂製ボトルを油浴から取り出し、1分間ボトルを振って撹拌した。その後、前記ボトルを油浴に戻して内部温度が130℃となるまで約5分程度浸漬し、再びボトルを油浴から取り出して1分間ボトルを振って撹拌した。この操作を2時間繰り返した。
【0055】
その後、フッ素樹脂製ボトルを油浴から取り出し、ボトル内部のHFガス及びCOFガスをNガスで置換しながら室温まで冷却した。処理後のフッ化カルシウム中の水分を測定したところ、90ppmであった。
【0056】
(実施例4)
濃度50重量%フッ酸を炭酸カルシウムに対し1.03倍当量となる様に、該炭酸カルシウムに加え、撹拌した。これにより、フッ化カルシウム(CaF)の懸濁液を作製し、これを炉別、洗浄して10重量%の水分を含むフッ化カルシウム450gを得た。
【0057】
次に、フッ化カルシウムを温度105℃で8時間空気中で乾燥を行った。乾燥後のフッ化カルシウム中の酸素原子及び炭素原子の含有量をそれぞれ測定したところ2600ppm、600ppmであった。
【0058】
この乾燥フッ化カルシウムをNガス気流中、500℃で8時間焙焼した。その後、室温まで冷却し、再度酸素原子及び炭素原子の含有量を測定したところ、それぞれ2400ppm、560ppmであった。
【0059】
焙焼後のフッ化カルシウム200gを、吸気用および排気用コックが連結されたフッ素樹脂製ボトルに入れた。次に、吸気用コックを開けて、水分含有量1ppm以下のNガスで希釈した35体積%COFガスを充填した後、当該コックを閉止した。COFガスの使用量は、前記水分の酸素原子に対し10倍当量となる様にした。
【0060】
更に、フッ素樹脂製ボトルを油浴に浸漬して加熱し、内部の温度を130℃にした。その後、フッ素樹脂製ボトルを油浴から取り出し、1分間ボトルを振って撹拌した。その後、前記ボトルを油浴に戻して内部温度が130℃となるまで約5分程度浸漬し、再びボトルを油浴から取り出して1分間ボトルを振って撹拌した。この操作を2時間繰り返した。
【0061】
その後、フッ素樹脂製ボトルを油浴から取り出し、ボトル内部の残留COFガスをNガスで置換しながら室温まで冷却した。処理後のフッ化カルシウム中の酸素原子及び炭素原子の含有量をそれぞれ測定したところ、400ppm、100ppmであった。
【0062】
(実施例5)
バルブ及び圧力計が連結されている1リットルのステンレス製容器に、1200ppmの水分を不純物として含む無水フッ酸液500mLを入れ氷浴で5℃に冷却した。
【0063】
次に、Nガスで50体積%に希釈したCOFガスをステンレス製容器に導入した。当該Nガス及びCOFガスの導入は、圧力計が0.5MPaとなるまで行い、その後、バルブを閉止して1時間放置した。
【0064】
その後、ステンレス製容器から無水フッ酸液をサンプリングし、その水分濃度を測定したところ3ppmであった。
【0065】
(実施例6)
先ず、不純物としてホウ酸(HBO)300ppm、水分200ppmを含んだホウフッ化リチウム(LiBF)200gを、吸気用および排気用コックが連結されたフッ素樹脂製ボトルに入れた。
【0066】
次に、吸気用コックを開けて、水分含有量10ppm以下のNガスで希釈した75体積%COFガスを充填した後、当該コックを閉止した。COFガスの使用量は、前記ホウ酸及び水分を合わせた酸素原子に対し5倍当量となる様にした。
【0067】
更に、フッ素樹脂製ボトルを油浴に浸漬して加熱し、内部の温度を130℃にした。その後、フッ素樹脂製ボトルを油浴から取り出し、1分間ボトルを振って撹拌した。その後、前記ボトルを油浴に戻して内部温度が130℃となるまで約5分程度浸漬し、再びボトルを油浴から取り出して1分間ボトルを振って撹拌した。この操作を1時間繰り返した。
【0068】
その後、フッ素樹脂製ボトルを油浴から取り出し、ボトル内部の残留COFガスをNガスで置換しながら室温まで冷却した。処理後のホウフッ化リチウム中のホウ酸濃度及び水分を測定したところ、それぞれ50ppm、30ppmであった。
【0069】
(比較例3)
先ず、不純物としてホウ酸(HBO)300ppm、水分200ppmを含んだホウフッ化リチウム(LiBF)200gを、吸気用および排気用コックが連結されたフッ素樹脂製ボトルに入れた。
【0070】
次に、水分含有量1ppm以下のNガスを、毎分5リットルの通気速度で吸気用コックから導入すると共に、排気用コックから排気して流通させた。更に、前記Nガスを流通させながら、当該ボトルを油浴に浸漬して加熱した。このときの内部の温度を130℃に維持しながら5分ごとに1分間ボトルを振って撹拌し、ホウフッ化リチウムとNガスとを十分に接触させた。この撹拌操作は、1時間行った。
【0071】
その後、フッ素樹脂製ボトルを油浴から取り出し、ボトル内部にNガスを流通させながら室温まで冷却した。処理後のホウフッ化リチウムのホウ酸濃度及び水分を測定したところ、それぞれ300ppm、150ppmであった。
【0072】
(実施例7)
先ず、不純物としてトリエチルメチルPOを500ppm含んだ700gのトリエチルメチルPF6を、吸気用および排気用コックが連結されたフッ素樹脂製ボトルに入れた。
【0073】
次に、吸気用コックを開けて、水分含有量1ppm以下のNガスで希釈した45体積%COFガスを充填した後、当該コックを閉止した。COFガスの使用量は、前記トリエチルメチルPOの酸素原子に対し10倍当量となる様にした。
【0074】
更に、フッ素樹脂製ボトルを油浴に浸漬して加熱し、内部の温度を130℃にした。その後、フッ素樹脂製ボトルを油浴から取り出し、1分間ボトルを振って撹拌した。その後、前記ボトルを油浴に戻して内部温度が130℃となるまで約5分程度浸漬し、再びボトルを油浴から取り出して1分間ボトルを振って撹拌した。この操作を1時間繰り返した。
に接触させた。この撹拌操作は、1時間行った。
【0075】
その後、フッ素樹脂製ボトルを油浴から取り出し、ボトル内部の残留COFガスをNガスで置換しながら室温まで冷却した。処理後のトリエチルメチル中のトリエチルメチルPO濃度を測定したところ、50ppmであった。
【0076】
(実施例8)
濃度50重量%フッ酸を塩化カルシウムに対し0.97倍当量となる様に、該塩化カルシウムに加え、撹拌した。これにより、フッ化カルシウム(CaF)の懸濁液を作製し、これを炉別、洗浄して50重量%の水分を含むフッ化カルシウム500gを得た。
【0077】
次に、フッ化カルシウムを温度105℃で8時間空気中で乾燥を行った。乾燥後のフッ化カルシウム中の酸素原子及び塩素原子の含有量をそれぞれ測定したところ2600ppm、1700ppmであった。塩化カルシウムn水和物(4≦n≦6)と付着水が混合した状態で乾燥フッ化カルシウム中に存在しているものと推察された。
【0078】
乾燥後のフッ化カルシウム200gを、吸気用および排気用コックが連結されたフッ素樹脂製ボトルに入れた。次に、水分含有量1ppm以下のHFガスで希釈した30体積%COFガスを、毎分200ミリリットルの通気速度で吸気用コックから導入すると共に、排気用コックから排気して流通させた。更に、前記COFガスを流通させながら、当該ボトルを油浴に浸漬して加熱した。このときの内部の温度を105℃にした。その後、フッ素樹脂製ボトルを油浴から取り出し、1分間ボトルを振って撹拌した。その後、前記ボトルを油浴に戻して内部温度が105℃となるまで約5分程度浸漬し、再びボトルを油浴から取り出して1分間ボトルを振って撹拌した。この操作を3時間繰り返した。
【0079】
その後、フッ素樹脂製ボトルを油浴から取り出し、ボトル内部にCOFガスを流通させながら室温まで冷却した。処理後のフッ化カルシウムの水分及び塩素原子含有量を測定したところ、それぞれ450ppm、270ppmであった。
【0080】
(実施例9)
不純物として水分を500ppm含んだ200gのテトラエチルアンモニウムBFを氷浴にて2℃に維持し、このテトラエチルアンモニウムBFを同量の無水フッ酸に溶解させた。
【0081】
次に、吸気用コックを開けて、水分含有量1ppm以下のNガスで希釈した45体積%COFガスを充填した後、当該コックを閉止した。COFガスの使用量は、前記テトラエチルアンモニウムBF中の水分の酸素原子に対し10倍当量となる様にした。更に、フッ素樹脂製ボトルを2℃で2時間撹拌した。
【0082】
反応の終了後、水分含有量10ppm以下のNガスをフッ素樹脂製ボトル内部へ毎分 1リットルの速度で流通させながら、当該ボトルを油浴に浸漬して105℃に加熱し、無水フッ酸を蒸発させた。更に、ボトル内部の温度を105℃に維持し、5分ごとに1分間ボトルを振って撹拌しながら、前記Nガスを2時間流通させた。これにより、HFガスを完全にパージし、その後フッ素樹脂製ボトルを油浴から取り出し室温まで冷却した。処理後のテトラエチルアンモニウムBFの水分を測定したところ、30ppmであった。
【0083】
(比較例4)
不純物として水分を500ppm含んだ200gのテトラエチルアンモニウムBFを氷浴にて2℃に維持し、このテトラエチルアンモニウムBFを同量の無水フッ酸に溶解させた。
【0084】
次に、吸気用コックを開けて、水分含有量1ppm以下のNガスを充填した後、当該コックを閉止した。Nガスの使用量は、2Lとした。更に、フッ素樹脂製ボトルを2℃で2時間撹拌した。
【0085】
反応の終了後、水分含有量10ppm以下のNガスをフッ素樹脂製ボトル内部へ毎分1リットルの速度で流通させながら、当該ボトルを油浴に浸漬して105℃に加熱し、無水フッ酸を蒸発させた。更に、ボトル内部の温度を105℃に維持し、5分ごとに1分間ボトルを振って撹拌しながら、前記Nガスを2時間流通させた。これにより、HFガスを完全にパージし、その後フッ素樹脂製ボトルを油浴から取り出し室温まで冷却した。処理後のテトラエチルアンモニウムBFの水分を測定したところ、400ppmであった。
【0086】
(実施例10)
先ず、不純物として水分を500ppm含んだ250gのテトラエチルアンモニウムBFをフッ素樹脂製ボトルに入れ、封止用のコックを有する吸気・排気チューブの付いた蓋でフッ素樹脂製ボトルを閉じた。
【0087】
次に、フッ素樹脂製ボトルと蓋の隙間からガスが漏れないことをNガスで確認した後、50体積%COFガスを充填し、コックを閉じて封止した。COFガスの使用量は、前記水分の酸素原子に対し3倍当量となる様にした。
【0088】
更に、フッ素樹脂製ボトルを油浴に浸漬して加熱し、内部の温度を50℃にした。その後、フッ素樹脂製ボトルを油浴から取り出し、1分間ボトルを振って撹拌した。その後、前記ボトルを油浴に戻して内部温度が50℃となるまで約5分程度浸漬し、再びボトルを油浴から取り出して1分間ボトルを振って撹拌した。この操作を1時間繰り返した。
【0089】
その後、フッ素樹脂製ボトルを油浴から取り出し、ボトル内部の残留COFガスをNガスで置換しながら室温まで冷却した。処理後のテトラエチルアンモニウムBF中の水分(BFと反応し、HBOとして存在する。)を測定したところ、200ppmであった。
【0090】
(比較例5)
先ず、不純物として水分を500ppm含んだ250gのテトラエチルアンモニウムBFをフッ素樹脂製ボトルに入れ、封止用のコックを有する吸気・排気チューブの付いた蓋でフッ素樹脂製ボトルを閉じた。
【0091】
次に、フッ素樹脂製ボトルと蓋の隙間からガスが漏れないことをNガスで確認した後、50体積%COFガスを充填し、コックを閉じて封止した。COFガスの使用量は、前記水分の酸素原子に対し0.05倍当量となる様にした。
【0092】
更に、フッ素樹脂製ボトルを油浴に浸漬して加熱し、内部の温度を100℃にした。その後、フッ素樹脂製ボトルを油浴から取り出し、1分間ボトルを振って撹拌した。その後、前記ボトルを油浴に戻して内部温度が50℃となるまで約5分程度浸漬し、再びボトルを油浴から取り出して1分間ボトルを振って撹拌した。この操作を1時間繰り返した。
【0093】
その後、フッ素樹脂製ボトルを油浴から取り出し、ボトル内部の残留COFガスをNガスで置換しながら室温まで冷却した。処理後のテトラエチルアンモニウムBF中の水分(BFと反応し、HBOとして存在する。)を測定したところ、500ppmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素化合物を不純物として含むフッ素化合物に、該フッ素化合物中の酸素原子に対して0.1倍当量以上100倍当量以下のフッ化カルボニルを接触させることにより、少なくとも酸素の除去を行うことを特徴とするフッ素化合物の精製方法。
【請求項2】
前記フッ素化合物とフッ化カルボニルとの接触を−50℃〜500℃の温度範囲内で行うことを特徴とする請求項1記載のフッ素化合物の精製方法。
【請求項3】
前記フッ素化合物は、フッ化水素、希土類のフッ化物、フッ化物塩、及びフッ化物錯塩からなる群より選択される少なくとも何れか1種であることを特徴とする請求項1又は2記載のフッ素化合物の精製方法。
【請求項4】
前記フッ素化合物とフッ化カルボニルとの接触は、溶媒の不存在下で直接接触により行うことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項記載のフッ素化合物の精製方法。
【請求項5】
前記フッ化カルボニルは気体状であり、その含有量が0.01体積%以上100体積%未満の範囲内となる様に、水分量が10ppm以下の不活性ガスで希釈されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項記載のフッ素化合物の精製方法。
【請求項6】
前記不活性ガスは、CO、HF、N、He、Ne、Ar及び乾燥空気からなる群より選択される少なくとも何れか1種であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項記載のフッ素化合物の精製方法。
【請求項7】
前記フッ素化合物とフッ化カルボニルとの接触を0.2KPa〜1MPaの圧力範囲内で行うことを特徴とする、請求項1〜6の何れか1項記載のフッ素化合物の精製方法。

【公開番号】特開2009−57248(P2009−57248A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−226285(P2007−226285)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000162847)ステラケミファ株式会社 (81)
【Fターム(参考)】